説明

液体噴射装置

【課題】揮発性有機化合物による環境汚染を抑制することが可能な液体噴射装置を提供す
る。
【解決手段】噴射ヘッドから出た液体より揮発性有機化合物が気化すると、供給部は、そ
の揮発性有機化合物を空気と共に燃焼部に供給する。燃焼部は、白金触媒を備えており、
供給された揮発性有機化合物を、その白金触媒を用いて、酸素と反応させ、燃焼させる。
乾燥部は、噴射ヘッドから出た液体を、燃焼部において燃焼により発生した熱で乾燥させ
る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物を含むインクなどの液体を噴射する液体噴射装置に関する

【背景技術】
【0002】
印刷媒体上にインクを噴射して画像を印刷する印刷装置が広く使用されている。この印
刷装置では、噴射ヘッドが設けられたキャリッジを用紙などの印刷媒体上で往復動させな
がら、噴射ヘッドからインクを噴射することによって画像を印刷する。
【0003】
一般に、インクには有機溶媒などの揮発性有機化合物が含まれている。そのため、印刷
媒体上に多量にインクを噴射した場合や、フラッシング処理時やクリーニング処理時など
に多量にインクが排出された場合などには、それらインクから多量に揮発性有機化合物が
気化して空気中に拡散し、環境を汚染するおそれがある。
【0004】
そこで、従来においては、そのような気化した揮発性有機化合物をフィルターで捕集す
ることによって、環境汚染を回避しようとする技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−90480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記した提案の技術においては、フィルターによって捕集できる揮発性有機化
合物の容量には限界があるので、定期的にフィルターを交換しなければならないという問
題があった。
【0007】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、
揮発性有機化合物による環境汚染を抑制することが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の液体噴射装置は次の構成を
採用した。すなわち、
噴射ヘッドから、揮発性有機化合物を含む液体を噴射する液体噴射装置であって、
前記噴射ヘッドから出た前記液体より気化した前記揮発性有機化合物を、空気と共に燃
焼部に供給する供給部と、
白金触媒を備え、該白金触媒を用いて、前記揮発性有機化合物を前記空気中の酸素と反
応させ、燃焼させる前記燃焼部と、
燃焼により発生した熱で、前記噴射ヘッドから出た前記液体を乾燥させる乾燥部と
を備えることを要旨とする。
【0009】
このように、本発明の液体噴射装置では、噴射ヘッドから出た液体より揮発性有機化合
物が気化すると、供給部は、その揮発性有機化合物を空気と共に燃焼部に供給する。燃焼
部は、白金触媒を備えており、供給された揮発性有機化合物を、その白金触媒を用いて、
酸素と反応させ、燃焼させる。乾燥部は、噴射ヘッドから出た液体を、燃焼部において燃
焼により発生した熱で乾燥させる。
【0010】
従って、本発明の液体噴射装置によれば、気化した揮発性有機化合物を、白金触媒を用
いて燃焼させ、無害なガスに変換しているので、揮発性有機化合物による環境汚染を抑制
することができる。また、燃焼により発生した熱を液体の乾燥に利用することにより、液
体の乾燥を促進させることができる。
【0011】
また、上述した本発明の液体噴射装置において、噴射ヘッドから媒体に向かって液体を
噴射するとともに、媒体を搬送する搬送部を備えるようにしてもよい。そして、噴射ヘッ
ドから噴射した液体や、媒体に付着した液体から気化した揮発性有機化合物を、空気と共
に燃焼部に供給して燃焼させる。更に、燃焼により発生した熱を、空気の流れに乗せて燃
焼部から搬送部に伝達して搬送部を加熱することにより、媒体に付着した液体を乾燥させ
るようにしてもよい。
【0012】
こうすれば、噴射ヘッドから噴射した液体または媒体に付着した液体から気化した揮発
性有機化合物による環境汚染を抑制することができると共に、媒体に付着した液体を早急
に乾燥させることができる。
【0013】
また、上述した本発明の液体噴射装置において、ファンを用いて空気の流れを発生させ
、ダクトを用いて空気の流れを燃焼部から搬送部へと導くようにしてもよい。
【0014】
こうすれば、燃焼部で発生した熱を空気に乗せて搬送部へ効率よく伝達させることがで
きる。
【0015】
また、上述した本発明の液体噴射装置においては、噴射ヘッドから吸い出された液体を
廃液として貯蔵する廃液タンクを備え、廃液タンクの内部に、廃液を吸収する廃液吸収体
を設けるようにしてもよい。このような液体噴射装置においては、廃液タンク内の廃液吸
収体に吸収された廃液から気化した揮発性有機化合物を、空気と共に燃焼部に供給して燃
焼させ、燃焼により発生した記熱を廃液タンクに伝達して廃液吸収体を加熱することによ
り、廃液吸収体に吸収された廃液を乾燥させるようにしてもよい。
【0016】
こうすれば、廃液タンク内の廃液から気化した揮発性有機化合物による環境汚染を抑制
することができると共に、廃液吸収体に吸収された廃液を短時間で乾燥させることができ
る。
【0017】
また、上述した本発明の液体噴射装置において、揮発性有機化合物を燃焼させる燃焼部
に、ヒーターを設けることとしてもよい。
【0018】
こうすれば、揮発性有機化合物の濃度が低いために、白金触媒の温度を維持するだけの
反応熱が得られず、その結果、燃焼を維持することが困難な場合でも、ヒーターで加熱す
ることによって白金触媒の温度を維持することができる。このため、揮発性有機化合物の
濃度が低い場合でも燃焼を維持することが可能となり、液体の乾燥を促進させることが可
能となる。
【0019】
さらに、上述した本発明の液体噴射装置において、補助燃料タンクからの補助燃料を前
記燃焼部へ供給するための補助燃料供給部をさらに備えるようにしてもよい。
【0020】
こうすれば、燃焼部において、揮発性有機化合物の濃度が低いために白金触媒で十分な
反応熱を発生させることが困難な場合でも、補助燃料供給部で補助燃料を燃焼部に供給す
ることにより、白金触媒で十分な反応熱を発生させて、燃焼反応を維持することができる
。このため、揮発性有機化合物の濃度が低い場合でも、液体を短時間で乾燥させることが
可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施例としてのインクジェットプリンター100における主要部を模式的に示した断面図である。
【図2】第1の実施例の変形例としてのインクジェットプリンター100'における主要部を模式的に示した断面図である。
【図3】本発明の第2の実施例としてのインクジェットプリンター200におけるキャップ部204及び廃液タンク218の近傍部分を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施
例を説明する。
A.第1の実施例:
B.第1実施例の変形例:
C.第2の実施例:
【0023】
A.第1の実施例 :
図1は、本発明の第1の実施例としてのインクジェットプリンター100における主要
部を模式的に示した断面図である。このインクジェットプリンター100は、業務用の大
型のプリンターである。
【0024】
図1に示すように、インクジェットプリンター100の中央部には、インクを下方に向
かってインクを噴射するための噴射ヘッド102が設けられている。噴射ヘッド102の
下方には、印刷媒体である用紙110を搬送するための紙搬送装置104が配置されてい
る。紙搬送装置104は、2つの回転するローラー106a,106bと、それら2つの
ローラー106a,106bの間に架けられた搬送ベルト108と、で構成されている。
インクジェットプリンター100の筐体には、用紙110を給紙するための給紙口112
と、用紙110を外部に排出するための排紙口114と、が設けられている。
【0025】
また、噴射ヘッド102の近傍には、吸気ダクト116が設けられている。吸気ダクト
116は、噴射ヘッド102に向かって吸気口118が開いており、その吸気口118に
は、吸気ファン120が取り付けられている。吸気ダクト116は、下方に伸びる配管1
22に接続されており、その配管122の他端は、燃焼部126に接続されている。燃焼
部126は、その内部に、白金触媒(図示せず)を備えている他、電熱線等で構成された
ヒーター(図示せず)を備えている。燃焼部126には、配管128が接続されており、
その配管128の他端は、排気口130として、インクジェットプリンター100の外部
に露出している。
【0026】
さらに、燃焼部126の近傍には、送風ファン132が設けられている。また、燃焼部
126には、送風ファン132の反対側に、送風ダクト134が取り付けられており、そ
の134の排気口136は、紙搬送装置104の搬送ベルト108に向かって開いている

【0027】
なお、本実施例において、吸気ダクト116,吸気ファン120及び配管122などが
、請求項における「供給部」に対応する。また、送風ファン132,送風ダクト134な
どが、請求項における「乾燥部」に対応する。用紙110は、請求項における媒体に、紙
搬送装置104は、請求項における「搬送部」に、それぞれ対応する。
【0028】
次に、本実施例におけるインクジェットプリンター100の動作について説明する。印
刷時において、印刷媒体である用紙110は、給紙口112から給紙された後、紙搬送装
置104の搬送ベルト108上に載置され、搬送ベルト108の移動と共に、矢印方向に
搬送される。そして、用紙110が噴射ヘッド102の下方を通過する際、噴射ヘッド1
02から用紙110に向かってインクが噴射され、それにより用紙110上に画像が印刷
される。印刷された用紙110は、搬送ベルト108によってさらに搬送され、その後、
排紙口114から外部に排出される。
【0029】
一般に、インクには有機溶媒などの揮発性有機化合物が含まれている。そして、そのイ
ンクが噴射ヘッド102から噴射された際や用紙110に付着した後に、そのインクから
揮発性有機化合物が気化し、空気中に拡散して、空気と渾然一体となる。従って、噴射ヘ
ッド102周辺及び用紙110周辺の空気には、多量の揮発性有機化合物が含まれること
になる。それ故、このままでは、それら揮発性有機化合物によって環境が汚染されるおそ
れがある。
【0030】
そこで、本実施例では、印刷時において、吸気ファン120を回転させ、吸気ダクト1
16の吸気口118から、それら揮発性有機化合物を含んだ空気を吸気する。吸気して集
められた空気は、吸気ダクト116から配管122を介して燃焼部126に送られる。燃
焼部126は、上述したとおり、内部に白金触媒を備えているため、揮発性有機化合物を
含んだ空気は白金触媒にさらされる。その結果、白金触媒部分において、揮発性有機化合
物は、空気中の酸素と反応して、200℃〜400℃程度の低温度で燃焼する。燃焼の結
果として発生する二酸化炭素や水蒸気等は、配管128を介して、排気口130から、イ
ンクジェットプリンター100の外部へ排出される。尚、白金触媒の温度が200℃以下
になると、燃焼を維持しておくことが困難となる。従って、白金触媒に供給される空気の
温度が極端に低いために白金触媒の温度を維持しておくことが困難な場合や、揮発性有機
化合物の濃度が低いため、燃焼によって得られる熱では白金触媒の温度を維持しておくこ
とが困難な場合は、白金触媒での燃焼を維持しておくことが困難となる。しかし、通常の
場合は、白金触媒で発生する燃焼熱によって、白金触媒の温度は200℃以上に維持され
ている。
【0031】
また、この時、送風ファン132を回転させると、燃焼部126から搬送ベルト108
に向かって、送風ダクト134内に、矢印に示すような空気の流れが発生する。これによ
り、燃焼部126において、燃焼により発生した熱は、その空気の流れに乗って移動し、
排気口136から空気と共に排出され、搬送ベルト108を加熱する。その結果、搬送ベ
ルト108によって搬送される用紙110も加熱されるため、用紙110に付着したイン
クの乾燥が促進される。
【0032】
以上説明したように、本実施例によれば、空気中に拡散した揮発性有機化合物を集めて
、白金触媒を用いて燃焼させ、二酸化炭素や水蒸気などの無害なガスに変換しているので
、揮発性有機化合物による環境汚染を抑制することができる。また、白金触媒を用いるこ
とにより、定期的に交換する必要もないため、メンテナンス負荷を軽減することができる
。また、白金触媒を用いて燃焼させているので、炎を出すことなく、200℃〜400℃
程度の低温度での燃焼が可能となるため、安全性を向上させることができる。さらに、燃
焼により発生した熱を用紙110に付着したインクの乾燥に利用することにより、インク
の乾燥を促進させることができ、その結果として、用紙110におけるインクのにじみを
防止することができる。
【0033】
なお、上述したように、燃焼部126で白金触媒を用いた燃焼反応を持続させるために
は、反応温度として200℃以上必要である。従って、揮発性有機化合物の濃度が低くな
ると、反応温度が低下して200℃を下回る場合があり、その場合に燃焼反応が停止して
しまうおそれがある。
【0034】
そこで、本実施例では、揮発性有機化合物の濃度が低いために、反応温度が低い場合に
は、燃焼部126内に設けられたヒーターを起動して、白金触媒を加熱することにより、
反応温度を200℃以上に上昇させるようにしている。これにより、揮発性有機化合物の
濃度が低い場合でも、インクの乾燥を促進させることができる。
【0035】
B.第1実施例の変形例 :
上記した第1の実施例においては、揮発性有機化合物の濃度が低い場合、燃焼反応の温
度を上げるために、ヒーターを用いるようにしたが、この変形例では、ヒーターの代わり
に、補助燃料を用いるようにしている。
【0036】
図2は、第1の実施例の変形例としてのインクジェットプリンター100'における主
要部を模式的に示した断面図である。尚、以下の変形例では、前述した第1の実施例に対
する変更点を中心に説明する。従って、特に言及しない構成については、第1の実施例と
同じであるものとする。また、これら第1の実施例と同様な構成については、第1の実施
例と同じ番号を符番することとする。
【0037】
この変形例において、図1に示した第1の実施例と異なる点は、燃焼部126'がヒー
ターを備えていない点と、その代わりに、補助燃料を貯蔵する補助燃料タンク138と、
その補助燃料タンク138に一端が接続され、他端か配管122に接続された配管140
と、を備える点である。なお、その他の構成については、第1の実施例と同じであるため
説明は省略する。また、この変形例において、配管140などが、請求項における「補助
燃料供給部」に対応する。
【0038】
このような構成において、この変形例では、揮発性有機化合物の濃度が低いために、白
金触媒の温度を維持することが困難な場合には、補助燃料タンク138から補助燃料を配
管140,122を介して、燃焼部126'に供給するようにしている。この結果、燃焼
部126'では、供給された補助燃料によって、白金触媒を利用した燃焼反応が促進され
るので、白金触媒の温度が上昇し、燃焼を維持しておくことが可能となる。これにより、
揮発性有機化合物の濃度が低い場合でも、インクの乾燥を促進させることができる。
【0039】
なお、補助燃料としては、水素,メタン,アルコール,ベンゼンなどの可燃性の気体を
用いることが好ましい。但し、硫黄化合物,ホスフィン,ハロゲン化合物イオン,アミン
,一酸化炭素などは、補助燃料として使用できない。なぜなら、これらの物質は、白金触
媒における活性点(反応が進行する場所)となっている部分に、基質より優先的に吸着さ
れるため、白金の触媒活性を大きく低下(被毒)させるからである。
【0040】
また、この変形例では、ヒーターの代わりとして、補助燃料タンク138等を用いるよ
うにしたが、ヒーター及び補助燃料タンク138等を共に用いるようにしてもよい。
【0041】
C.第2の実施例 :
図3は、本発明の第2の実施例としてのインクジェットプリンター200におけるキャ
ップ部204及び廃液タンク218の近傍部分を模式的に示した断面図である。このイン
クジェットプリンター200は、家庭用のプリンターである。尚、第2の実施例において
も、前述した第1の実施例に対する変更点を中心に説明する。従って、特に言及しない構
成については、第1の実施例と同じであるものとする。また、これら第1の実施例と同様
な構成については、第1の実施例と同じ番号を符番することとする。
【0042】
図3に示すように、インクジェットプリンター200の内部には、噴射ヘッド202の
待避位置(ホームポジション)に、キャップ部204が設けられている。このキャップ部
204は樹脂製であり、上に凹型を成している。キャップ部204の凹型の内側には、ゴ
ム製のパッキン206が設けられており、このパッキン206も上に凹型を成している。
パッキン206の凹型の内側には、スポンジ状の吸収部材208が設けられている。また
、キャップ部204には、貫通孔204a,204bがそれぞれ設けられている。それら
のうち、貫通孔204aは、一端が配管210に接続されており、他端がパッキン206
を貫いて吸収部材208に接している。配管210の他端は、図示しない大気開放弁に接
続されている。また、貫通孔204bは、一端が配管212に接続されており、他端がパ
ッキン206を貫いて吸収部材208に接している。配管212の他端は、廃液ポンプ2
14に接続されており、その廃液ポンプ214は、配管216を介して廃液タンク218
に接続されている。
【0043】
廃液タンク218内は、下部に廃液吸収体220が設けられており、上部は空間となっ
ている。廃液タンク218の上部には、上述した配管216が接続される他、配管222
及び配管226が接続されている。これらのうち、配管222は、他端が大気開放されて
おり、途中には、大気吸入弁224が取り付けられている。また、配管226は、他端が
配管228を介して送気ポンプ230に接続されている。さらに、送気ポンプ230は、
配管232を介して燃焼部234に接続されている。
【0044】
燃焼部234は、廃液タンク218の下方に、隔壁235を介して接触して配置されて
おり、その内部に白金触媒(図示せず)を備えている。燃焼部234には、配管236が
接続されており、その配管236の他端は、排気口238として、インクジェットプリン
ター200の外部に露出している。また、配管226と配管228の接合点には、配管2
40が接続されている。この配管240の他端は、補助燃料を貯蔵する補助燃料タンク(
図示せず)に接続されており、この配管240の途中には、燃料供給弁242が取り付け
られている。
【0045】
なお、本実施例において、配管226,228,送気ポンプ230及び配管232など
が、請求項における「供給部」に対応する。また、燃焼部234と廃液タンク218との
間の隔壁235が、請求項における「乾燥部」に対応する。さらに、配管240及び燃料
供給弁242などが、請求項における「補助燃料供給部」に対応する。
【0046】
次に、本実施例におけるインクジェットプリンター200の動作について説明する。待
機時においては、噴射ヘッド202は、ホームポジションに待避している。このとき、キ
ャップ部204を上方に移動させ、図3に示すように、パッキン206を噴射ヘッド20
2の底面に当接して押し付けることにより、噴射ヘッド202におけるインクの乾燥を防
止するようにしている。
【0047】
一般に、インクジェットプリンターの場合、インクが乾燥すると増粘するので、インク
メンテナンスを行う必要がある。このインクメンテナンスの代表的な処理には、フラッシ
ング処理やクリーニング処理がある。
【0048】
フラッシング処理の場合は、噴射ヘッド202をホームポジションに移動させた後、キ
ャップ部204の上方において、噴射ヘッド202を駆動して、噴射ヘッド202からキ
ャップ部204内の吸収部材208に向けてインクを噴射させる。その後、所定量噴射さ
せたら、フラッシング処理を完了する。
【0049】
一方、クリーニング処理の場合は、噴射ヘッド202をホームポジションに移動させた
後、キャップ部204を上方に移動させ、図3に示すように、パッキン206を噴射ヘッ
ド202の底面に当接して押し付ける。その状態で、大気開放弁(図示せず)を閉じたま
ま、廃液ポンプ214を駆動させる。すると、噴射ヘッド202の底面とパッキン206
との空隙は負圧となるため、噴射ヘッド202内のインクはキャップ部204内の吸収部
材208へ吸い出される。その後、所定量吸い出したら、廃液ポンプ214を駆動した状
態のまま、大気開放弁(図示せず)を開ける。すると、大気開放弁から配管210,20
4aを介して、噴射ヘッド202の底面とパッキン206との空隙に空気が吸い込まれる
ため、吸収部材208に貯まった廃インクは、貫通孔204b,廃液ポンプ214,配管
216を介して廃液タンク218へと流れて、廃液タンク218内に回収される。回収さ
れた廃インクは、廃液吸収体220に吸収される。その後、キャップ部204を下方に移
動させ、噴射ヘッド202から離脱して、一連のクリーニング処理を完了する。
【0050】
ところで、前述したように、インクには、有機溶媒などの揮発性有機化合物が含まれて
いるため、当然ながら、廃液吸収体220に吸収された廃インクにも揮発性有機化合物が
含まれている。従って、この廃インクからも揮発性有機化合物が気化し、空気中に拡散す
る。それ故、このままでは、それら揮発性有機化合物によって環境が汚染されるおそれが
ある。しかも、廃液吸収体220に大量の廃インクを吸収させた場合、室温環境下では、
廃インクから、全ての揮発性有機化合物が気化するには、相当な時間を要するため、長期
間にわたって、気化した揮発性有機化合物が排出されることになる。仮に、その揮発性有
機化合物が可燃性であった場合、発火等のリスクを長期間かかえることになる。従って、
廃液吸収体220に吸収された廃インクは、早急に、揮発性有機化合物全てを気化させて
、乾燥させる必要がある。
【0051】
そこで、本実施例では、クリーニング処理の完了後など、廃液吸収体220に廃インク
が吸収されているタイミングにおいて、大気吸入弁224を開けると共に、送気ポンプ2
30を駆動させる。大気吸入弁224が開いたことにより、大気中から配管222を介し
て廃液タンク218内に空気が流れ込み、廃液タンク218内の上部の空間において、廃
液吸収体220に吸収された廃インクから気化した揮発性有機化合物と混ざり合う。揮発
性有機化合物を含んだ空気は、その空間から、配管226,228,送気ポンプ230,
配管232を介して、燃焼部234に送られる。燃焼部234は、内部に白金触媒を備え
ているため、揮発性有機化合物を含んだ空気が、それら白金触媒にさらされると、白金触
媒部分において、揮発性有機化合物が、空気中の酸素と反応して、200℃〜400℃程
度の低温度で燃焼する。燃焼の結果として発生する二酸化炭素や水蒸気等は、配管236
を介して、排気口238から、インクジェットプリンター200の外部へ排出される。
【0052】
また、この時、燃焼部234は、廃液タンク218の下方にあって、廃液タンク218
と隔壁235を介して接しているため、燃焼部234において燃焼により発生した熱は、
隔壁235を通して廃液タンク218に伝搬し、廃液タンク218内の廃液吸収体220
を加熱する。この結果、廃液吸収体220に吸収された廃インクからの、揮発性有機化合
物の気化が進行しやすくなり、室温環境下の場合に比べて、短時間で、全ての揮発性有機
化合物を気化させることができる。これにより、廃液吸収体220に吸収された廃インク
を短時間で乾燥させることができる。
【0053】
燃焼部234における燃焼反応は、廃液吸収体220に吸収された廃インクから、全て
の揮発性有機化合物が気化されるまで持続する。揮発性有機化合物が全て気化されて、燃
焼反応が終了したら、大気吸入弁224を閉じると共に、送気ポンプ230の駆動を停止
させる。
【0054】
以上説明したように、本実施例によれば、廃液吸収体220に吸収された廃インクから
気化した揮発性有機化合物を空気と共に燃焼部234に送り、燃焼部234にて、白金触
媒を用いて燃焼させ、二酸化炭素や水蒸気などの無害なガスに変換しているので、揮発性
有機化合物による環境汚染を抑制することができる。また、白金触媒を用いることにより
、定期的に交換する必要もないため、メンテナンス負荷を軽減することができる。また、
白金触媒を用いて燃焼させているので、炎を出すことなく低温度での燃焼が可能となるた
め、安全性を向上させることができる。さらに、燃焼により発生した熱を廃インクの乾燥
に利用することにより、廃インクを短時間で乾燥させることができ、発火等のリスクを軽
減することができる。
【0055】
なお、本実施例においても、第1の実施例の場合と同様に、燃焼部234において、白
金触媒を用いた燃焼反応を持続させるためには、反応温度として200℃以上必要である
。従って、揮発性有機化合物の濃度が低くなると、白金触媒の温度が200℃を下回り、
燃焼反応が停止してしまうおそれがある。
【0056】
そこで、本実施例では、変形例1の場合と同様に、揮発性有機化合物の濃度が低いため
に白金触媒の温度を維持しておくことが困難な場合には、燃料供給弁242を開き、補助
燃料タンク(図示せず)から補助燃料を配管240,228を介して、燃焼部234に供
給するようにしている。この結果、燃焼部234では、供給された補助燃料によって、白
金触媒を利用した燃焼反応が促進されるので、白金触媒の温度を維持することができる。
これにより、揮発性有機化合物の濃度が低い場合でも、廃液吸収体220に吸収された廃
インクを早急に乾燥させることができる。
【0057】
なお、補助燃料については、変形例1において説明した内容と同じであるため、それら
についての説明は省略する。
【0058】
また、本実施例では、反応温度を上げるために、補助燃料タンク等を用いるようにした
が、第1の実施例の場合と同様に、ヒーターを用いるようにしてもよい。さらに、補助燃
料タンク等とヒーターの両者を用いるようにしてもよい。
【0059】
以上、各種の実施形態を説明したが、本発明は上記すべての実施形態に限られるもので
はなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
100,100'…インクジェットプリンター、 102…噴射ヘッド、
104…紙搬送装置、 106a,b…ローラー、 108…搬送ベルト、
110…用紙、 112…給紙口、 114…排紙口、
116…吸気ダクト、 118…吸気口、 120…吸気ファン、
122…配管、 126…燃焼部、 128…配管、
130…排気口、 132…送風ファン、 134…送風ダクト、
136…排気口、 138…補助燃料タンク、 140,122…配管、
140…配管、 200…インクジェットプリンター、 202…噴射ヘッド、
204…キャップ部、 204a,b…貫通孔、 206…パッキン、
208…吸収部材、 210,212…配管、 214…廃液ポンプ、
216…配管、 218…廃液タンク、 220…廃液吸収体、
222…配管、 224…大気吸入弁、 226,228…配管、
230…送気ポンプ、 232…配管、 234…燃焼部、
235…隔壁、 236…配管、 238…排気口、
240…配管、 242…燃料供給弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射ヘッドから、揮発性有機化合物を含む液体を噴射する液体噴射装置であって、
前記噴射ヘッドから出た前記液体より気化した前記揮発性有機化合物を、空気と共に燃
焼部に供給する供給部と、
白金触媒を備え、該白金触媒を用いて、前記揮発性有機化合物を前記空気中の酸素と反
応させ、燃焼させる前記燃焼部と、
燃焼により発生した熱で、前記噴射ヘッドから出た前記液体を乾燥させる乾燥部と
を備える液体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射装置であって、
媒体を搬送する搬送部を備え、
前記噴射ヘッドは、前記液体を前記媒体に向かって噴射し、
前記供給部は、前記噴射ヘッドから噴射した前記液体または前記媒体に付着した前記液
体から気化した前記揮発性有機化合物を、空気と共に前記燃焼部に供給し、
前記乾燥部は、燃焼により発生した前記熱を空気の流れによって前記燃焼部から前記搬
送部に伝達して該搬送部を加熱することにより、前記媒体に付着した前記液体を乾燥させ
る液体噴射装置。
【請求項3】
請求項2に記載の液体噴射装置であって、
前記乾燥部は、
前記空気の流れを発生するファンと、
前記燃焼部から前記搬送部へ前記空気の流れを案内するダクトと
を備える液体噴射装置。
【請求項4】
請求項1に記載の液体噴射装置であって、
内部に廃液吸収体を有し、前記噴射ヘッドから吸い出された前記液体を廃液として前記
廃液吸収体に吸収して貯蔵する廃液タンクを備え、
前記供給部は、前記廃液タンク内において前記廃液吸収体に吸収された前記廃液から気
化した前記揮発性有機化合物を、空気と共に、前記廃液タンクから前記燃焼部に供給し、
前記乾燥部は、燃焼により発生した前記熱を前記燃焼部から前記廃液タンクに伝達して
前記廃液吸収体を加熱することにより、該廃液吸収体に吸収された前記廃液を乾燥させる
液体噴射装置。
【請求項5】
請求項1に記載の液体噴射装置であって、
前記燃焼部は、ヒーターを備える液体噴射装置。
【請求項6】
請求項1に記載の液体噴射装置であって、
補助燃料タンクからの補助燃料を前記燃焼部へ供給する補助燃料供給部を備える液体噴
射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−171098(P2012−171098A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31717(P2011−31717)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】