説明

液体噴射装置

【課題】ノズルからの溶媒の気化を低減することが可能な液体噴射装置を提供すること。
【解決手段】気化状態における比重が空気よりも大きい溶媒を含む液体を被噴射媒体に対して噴射するノズル形成面を有し、前記液体の非噴射時には前記被噴射媒体が配置される領域から外れた待機位置で前記ノズル形成面を鉛直方向の下側に向けて待機状態となる液体噴射ヘッドと、前記待機状態の前記液体噴射ヘッドの前記ノズル形成面を含む一部分を少なくとも収容する凹部を有し、前記一部分を収容した状態で前記凹部の底部が前記ノズル形成面に対向するように設けられたヘッド収容部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インク滴をインクジェットヘッドのノズルから記録紙に対して噴射する液体噴射装置として、インクジェット式印刷装置(以下、「印刷装置」という。)が広く知られている。印刷装置においては、ノズル内のインクが乾燥して増粘するのを抑制するため、メンテナンスユニットに含まれるキャップを用いてノズル形成面を封止して、当該ノズル形成面上を保湿する構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−96934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、キャップ自体のガスバリア性によっては、ノズル形成面を封止しても、気化した溶媒(気化成分)がキャップを介して外部に拡散してしまう場合がある。そうなると、ノズル形成面上の保湿性が低下し、ノズルから溶媒が気化してしまう場合がある。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明は、ノズルからの溶媒の気化を低減することが可能な液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る液体噴射装置は、気化状態における比重が空気よりも大きい溶媒を含む液体を被噴射媒体に対して噴射するノズルが形成されたノズル形成面を有し、前記液体の非噴射時には前記被噴射媒体が配置される領域から外れた待機位置で前記ノズル形成面を鉛直方向の下側に向けて待機状態となる液体噴射ヘッドと、前記待機状態の前記液体噴射ヘッドの前記ノズル形成面を含む一部分を少なくとも収容する凹部を有し、前記一部分を収容した状態で前記凹部の底部が前記ノズル形成面に対向するように設けられたヘッド収容部とを備える。
【0007】
本発明によれば、気化状態の溶媒(気化成分)の比重が空気よりも大きいため、当該気化成分は鉛直方向の下側に移動する。待機状態においてはノズル形成面が凹部に収容されており、凹部の底部がノズル形成面に対向しているため、例えば待機状態にある液体噴射ヘッドの周囲で気化した気化成分は、凹部の底部に移動し、当該底部から徐々に溜まる。気化成分が凹部に溜まると、当該凹部に収容されるノズル形成面の周囲が気化成分によって満たされる。これにより、ノズルからの溶媒の気化を低減することができる。
【0008】
上記の液体噴射装置は、前記凹部に収容され、前記ノズル形成面を封止するキャップ部を更に備えることが好ましい。
本発明によれば、凹部に収容され、ノズル形成面を封止するキャップ部を更に備えるので、ノズル形成面からの溶媒の気化を低減することができる。
【0009】
上記の液体噴射装置は、前記凹部に前記溶媒の液体成分を供給する液体成分供給部を更に備えることが好ましい。
本発明によれば、液体成分供給部によって凹部に溶媒の液体成分が供給されるため、凹部内の溶媒が気化することで、液体噴射ヘッドの待機状態においてノズル形成面の周囲を溶媒の気化成分で満たすことができる。これにより、ノズル形成面からの溶媒の気化を低減することができる。
【0010】
上記の液体噴射装置において、前記液体成分供給部は、前記液体成分を貯留する貯留部と、前記貯留部と前記凹部とを接続する管部と、前記貯留部に貯留された前記液体成分を、前記管部を介して前記凹部に移動させる移動部とを有することが好ましい。
本発明によれば、液体成分供給部が、液体成分を貯留する貯留部と、貯留部と凹部とを接続する管部と、貯留部に貯留された液体成分を、管部を介して凹部に移動させる移動部とを有するので、複雑な構成を用いることなく、凹部に液体を供給することができる。
【0011】
上記の液体噴射装置は、前記液体噴射ヘッドから排出された前記液体を回収する回収部を更に備え、前記回収部は、前記液体に含まれる前記溶媒の前記液体成分を貯留する前記貯留部として用いられることが好ましい。
本発明によれば、液体噴射ヘッドから排出された液体を回収する回収部を更に備え、回収部が液体に含まれる溶媒の液体成分を貯留する貯留部として用いられることとしたので、排出された液体を再利用することができる。
【0012】
上記の液体噴射装置は、前記凹部に前記溶媒の気化成分を供給する気化成分供給部を更に備えることが好ましい。
本発明によれば、凹部に溶媒の気化成分を供給する気化成分供給部を更に備えることとしたので、凹部に収容される液体噴射ヘッドのノズル形成面の周囲を直接的に気化成分で満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る印刷装置の構成を示す図。
【図2】本実施形態に係る印刷装置の一部の構成を示す図。
【図3】本実施形態に係る印刷装置の動作を示す図。
【図4】本実施形態に係る印刷装置の動作を示す図。
【図5】本実施形態に係る印刷装置の動作を示す図。
【図6】本発明の他の態様に係る印刷装置の一部の構成を示す図。
【図7】本発明の他の態様に係る印刷装置の一部の動作を示す図。
【図8】本発明の他の態様に係る印刷装置の一部の構成を示す図。
【図9】本発明の他の態様に係る印刷装置の一部の動作を示す図。
【図10】本発明の他の態様に係る印刷装置の一部の構成を示す図。
【図11】本発明の他の態様に係る印刷装置の一部の動作を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面をもとにして本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本実施形態に係る印刷装置1の構成を示す斜視図である。
図1に示すように、印刷装置(液体噴射装置)1は、例えばJIS規格のA1判やJIS規格のB1判といった比較的大型のサイズの記録用紙に記録するインクジェット方式のラージフォーマットプリンター(LFP)であり、プリンター本体2と、脚部3とを備えた構成になっている。印刷装置1は、床面FLに載置された状態となっている。
【0015】
以下、本実施形態では、XYZ直交座標系を用いて各構成要素を説明する場合がある。このXYZ直交座標系を用いる場合、床面FLに平行な平面をXY平面とし、床面FLに垂直な方向(鉛直方向)をZ方向とする。XY平面のうち、記録用紙の搬送方向をY方向とし、Y方向に直交する方向をX方向とする。
【0016】
プリンター本体2は、給紙部10、記録部20及び排紙部30を備えている。
給紙部10は、記録部20の上部に設けられており、背面側に突出するように設けられている。給紙部10には、ロール紙ホルダー11と、ロール紙カバー12とが設けられている。
【0017】
ロール紙ホルダー11は、1本のロール状の記録用紙(以下、ロール紙という)を設置する部分であり、給紙部10の内部に設けられている。このロール紙ホルダー11は、スピンドル部13と、スピンドル受部14及び15とを備えている。スピンドル部13は、ロール紙を保持する軸部材であり、図中左右方向に延在している。スピンドル部13にはロール紙押さえ部が設けられており、スピンドル部13に保持されたロール紙を両側から押さえることでロール紙の位置がずれないように固定できるようになっている。スピンドル受部14及び15は、スピンドル部13を回転可能に支持する軸受部である。
【0018】
ロール紙カバー12は、跳ね上げ式の開閉可能なカバー部材であり、給紙部10の外側に取り付けられている。このロール紙カバー12は、全体が回動可能に支持されている。ユーザーがロール紙カバー12の下部を持って持ち上げることで開状態とすることが可能であり、押し下げることにより閉状態とすることが可能になっている。図1においてはロール紙カバー12が開かれた状態になっている。ロール紙カバー12は、閉じた状態でロール紙ホルダー11を覆うようになっている。
【0019】
記録部20は、キャリッジ21と、キャリッジ移動機構22と、フレキシブルフラットケーブル(FFC)23と、インクタンク(流体供給タンク)24と、インクチューブ25と、蓋部材26と、操作パネル27と、メンテナンス部29とを有しており、この他にも例えば制御部100(図2参照)や不図示の紙送りローラー、廃液回収部などを有している。
【0020】
キャリッジ21は、記録ヘッド(噴射ヘッド)28を保持する保持部材であり、キャリッジ移動機構22によって主走査方向に移動可能になっている。記録ヘッド28は、ブラック(B)インクを吐出するブラックインク用の記録ヘッドと、例えばイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)の各色のインクを吐出する複数のカラーインク用の記録ヘッドとを有している。この記録ヘッド28は、圧力発生室と当該圧力発生室に繋がるノズル開口とを有している。圧力発生室にはインクが貯留されるようになっており、インクが貯留された状態で当該圧力発生室内を所定圧で加圧することによりノズル開口からロール紙に向けてインク滴が噴射されるようになっている。記録ヘッド28によるインクの噴射の動作は、例えば制御部100によって制御されるようになっている。
【0021】
キャリッジ移動機構22は、レール22aとキャリッジベルト22bとを有している。レール22aには不図示のコロを介してキャリッジ21が吊り下げられており、当該コロを介してキャリッジ21が主走査方向に移動可能になっている。キャリッジベルト22bにはキャリッジ21が連結されており、自身が主走査方向に移動するようになっている。キャリッジベルト22bが主走査方向に移動することでキャリッジ21がレール22aに案内されて主走査方向に往復移動するようになっている。キャリッジベルト22bの移動は、例えば制御部100によって制御されるようになっている。
【0022】
FFC23は、記録ヘッド28と制御部100とを電気的に接続するケーブルであり、一方の端部が記録ヘッド28のコネクターに接続されると共に他方の端部が制御部100のコネクターに接続された構成になっている。このFFC23を介して、制御部100からの記録信号が記録ヘッド28に伝達されるようになっている。
【0023】
インクタンク24は記録部20のうち図中右端に設けられたインクタンクホルダー24a内に収容されており、それぞれ上記記録ヘッド28から噴射される各色(ブラック、イエロー、シアン、マゼンタ)に対応するインクを保持するインクタンク24B、24Y、24C、24Mを有している。
【0024】
インクチューブ25は、記録ヘッド28と上記のインクタンク24とをつなぐチューブ部材であり、上記色毎に別個に設けられている。インクチューブ25には図示しないインク加圧供給機構が接続されており、当該インク加圧供給機構によって加圧された各色のインクが各色のインクタンク24から記録ヘッド28へと送出されるようになっている。インク加圧供給機構の動作は、例えば制御部100によって制御されるようになっている。
【0025】
蓋部材26は、前蓋26aと、上蓋26bとを有している。前蓋26aは記録部20の正面に設けられており、キャリッジ21、キャリッジ移動機構22、インクチューブ25などを覆うようになっている。この前蓋26aは、ユーザーが押し下げることで開状態に、押し上げることで閉状態になるように構成されている。図1では、前蓋26aは開状態になっている。上蓋26bは記録部20の上部に設けられており、不図示の給紙ローラーなどを覆うようになっている。この上蓋26bは、ユーザーが押し上げることで開状態に、押し下げることで閉状態になるように構成されている。図1では、上蓋26bは閉状態になっている。
【0026】
操作パネル27は、ユーザーが印刷装置1を操作するための操作部であり、記録部20の上蓋26bの図中右側に設けられている。この操作パネル27は、例えば液晶装置などからなる表示画面27aと、不図示の各種ボタンとが設置されており、ユーザーが表示画面を見て確認しながらボタン操作できるようになっている。操作パネル27の表示画面27aがタッチパネルによって構成されていても良い。操作パネル27の駆動制御は、例えば制御部100によって行われるようになっている。
【0027】
メンテナンス部29は、記録ヘッド28のノズル開口近傍のインク粘度が上昇するのを防止する。排紙部30は、記録部20の下側に設けられており、排紙ローラー31aと、排紙ガイド31bとを有している。排紙ローラー31aはロール紙に当接可能に設けられており、当該排紙ローラー31aを介してロール紙が副走査方向(主走査方向の直交方向)へ送出されるようになっている。排紙ガイド31bは記録部20の正面側に突出するように設けられており、当該排紙ガイド31bを介してロール紙が副走査方向へ導かれるようになっている。
【0028】
脚部3は、移動用のコロ41を有する2本の支持柱42と、これらの支持柱42の間に掛け渡されている補強棒43とを備えている。支持柱42の上部には記録部20がネジ止め固定されている。支持柱42の間には、排紙部30から排出されてくるロール紙を受ける紙受け装置が配置されるように所定のスペースが設けられている。
【0029】
図2は、印刷装置1の断面構成を示す図である。
図2に示すように、収容部Cには、用紙支持部54と、記録ヘッド28と、メンテナンス部29と、が収容されている。用紙支持部54は、記録部20に搬送されたロール紙Rを支持する支持面54aを有している。支持面54aは、例えばXY平面に平行になるように形成されている。ロール紙Rは、支持面54aを図中+Y方向へ搬送されるようになっている。
【0030】
記録ヘッド28は、用紙支持部54の+Z側と、メンテナンス部29の+Z側とを跨ぐようにX方向に移動可能に設けられている。記録ヘッド28は、用紙支持部54の支持面54aに支持されるロール紙Rに対してインクを噴射する。このように、収容部Cの内部のうち、用紙支持部54の支持面54a上のうちロール紙Rの配置される領域が記録ヘッド28による噴射領域JTとなる。また、記録ヘッド28は、インクの非噴射時には噴射領域JTから外れた待機位置STでノズル形成面28aを鉛直方向の下側(−Z側)に向けて待機状態となる。図2では、記録ヘッド28が待機状態にある場合の構成が示されている。
【0031】
メンテナンス部29は、用紙支持部54の−X側に配置されている。このため、メンテナンス部29は、噴射領域から外れた待機位置STに設けられている。メンテナンス部29は、Z方向に昇降移動可能に設けられている。メンテナンス部29は、ヘッド収容部BXと、キャッピング部CPとを有している。
【0032】
ヘッド収容部BXは、待機位置STに設けられている。ヘッド収容部BXは、矩形の箱状に形成されており、+Z側が開口されている。このため、ヘッド収容部BXの内部に凹部BXaを有する構成となっている。ヘッド収容部BXは、当該凹部BXaにおいて待機状態にある記録ヘッド28のうちノズル形成面28aを含む一部分を少なくとも収容する。ヘッド収容部BXの凹部BXaの底部BXbは、記録ヘッド28の一部分を収容した状態でノズル形成面28aに対向するように設けられている。
【0033】
ヘッド収容部BXは、記録ヘッド28の移動経路を確保するための開閉部BXcを有している。開閉部BXcは、ヘッド収容部BXの+X側の壁部に設けられている。開閉部BXcは、当該ヘッド収容部BXの+X側の壁部の一部がY軸周りに回転するように形成されている。開閉部BXcの開閉動作は、制御部100によって制御される。
【0034】
開閉部BXcは、記録ヘッド28が噴射領域JTにおいて噴射動作を行っている場合、及び、記録ヘッド28が待機位置STにおいて待機状態にある場合には、+Z方向に立った状態となる。記録ヘッド28が噴射領域JTと待機位置STとの間を移動する際には、Y軸周りに回転して(図中一点鎖線で示す)、記録ヘッド28の移動経路を空けた状態となる。このため、記録ヘッド28が噴射領域JTと待機位置STとの間を移動する際に、記録ヘッド28とヘッド収容部BXの当該壁部とが衝突しないようになっている。
【0035】
キャッピング部CPは、ヘッド収容部BXの凹部BXaに収容されている。キャッピング部CPは、Z方向に移動可能に設けられている。キャッピング部CPは、待機位置STで待機状態にある記録ヘッド28のノズル形成面28aを覆うように形成されている。キャッピング部CPには不図示の吸引機構が取り付けられている。このため、キャッピング部CPでノズル形成面28aを覆った状態でノズルNZ内のインクを吸引できるようになっている。キャッピング部CPによる吸引動作は、例えば制御部100によって制御されるようになっている。
【0036】
本実施形態では、色素成分及び溶媒を含むインクが用いられている。溶媒としては、気化状態における比重が空気よりも大きい物質、例えば以下のような有機溶剤が用いられている。このような物質としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテルやプロピレングリコールモノメチルエーテルアセタートなどが挙げられる。
【0037】
エチレングリコールモノブチルエーテルとしては、例えば、2‐ブトキシエタノール(C6H14O2)、2‐(2‐ブトキシエトキシ)エタノール(C8H18O3)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート(C10H20O4)、酢酸2‐ブトキシエチル(C8H16O3)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(C10H22O4)、3,6,9,12‐テトラオキサヘキサデカン‐1‐オール(C12H26O5)、エチレングリコールモノブチルエーテルp‐ジメチルアミノベンゾアート(C15H23NO3)などが挙げられる。
【0038】
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタートとしては、例えばプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(C6H12O3)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート(C9H18O4)などのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセタートなどが挙げられる。
【0039】
また、その他の物質としては、エチレングリコールモノメチルエーテル(ethylene glycol monomethyl ether)、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタート(ethylene glycol monomethyl ether acetate)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(diethylene glycol monomethyl ether)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセタート(diethylene glycol monomethyl ether acetate)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(diethylene glycol monoethyl ether)、ジエチレングリコール(diethylene glycol)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセタート(propylene glycol monoethyl ether acetate)、プロピレングリコール(propylene glycol)、シクロヘキサノン(cyclohexanone)などが挙げられる。
【0040】
更には、ジエチレングリコールジエチルエーテル(C8H18O3)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(C10H22O5)、ジエチレングリコールメチルエチルエーテルなどが挙げられる。
【0041】
次に、上記のように構成された印刷装置1の動作を説明する。
まず、ロール紙Rが挿入されたスピンドル部13をスピンドル受部14及び15に取り付け、ロール紙Rの先端を下方に引き出して記録部20の搬送経路を通し、図3に示すように、排紙部30の搬送経路まで通す。
【0042】
次に、図4に示すように、ロール紙Rを巻き取り方向に回転させてロール紙Rの先端を例えば排紙ガイド46に形成されている不図示のマーカーに位置決めする。その後、印刷装置1を起動して、ロール紙Rを副走査方向に給紙しつつ記録ヘッド28を噴射領域JTにおいて主走査方向に移動させながらインク滴を吐出させ、ロール紙Rに所定の情報を記録して排紙する。
【0043】
当該印刷装置1において、印刷動作が行われない場合など、記録ヘッド28からインクを噴射しない時(非噴射時)には、制御部100は、噴射領域JTから外れた待機位置STでノズル形成面28aを鉛直方向の下側(−Z側)に向けて待機させる(待機状態)。このとき、制御部100は、記録ヘッド28のノズル形成面28aがヘッド収容部BXの凹部BXa内に位置し、かつ、ノズル形成面28aが底部BXbに対向するように、記録ヘッド28のZ方向の位置を調整する。この動作により、図5に示すように、記録ヘッド28のうち少なくともノズル形成面28aを含む一部分がヘッド収容部BXの凹部BXaに収容された状態となる。
【0044】
例えば記録ヘッド28の周囲などにおいて、インクに含まれる溶媒が気化する場合がある。本実施形態では、溶媒として気化した状態で空気よりも比重が大きい有機溶剤が用いられているため、記録ヘッド28の周囲で気化した有機溶剤(気化成分)Gは鉛直方向の下側(−Z側)に移動する。
【0045】
記録ヘッド28の待機状態においてはノズル形成面28aが凹部BXaに収容されており、凹部BXaの底部BXbがノズル形成面28aに対向した状態となっているため、例えば待機状態にある記録ヘッド28の周囲で気化した気化成分Gは、凹部BXaの底部BXbに移動し、当該底部BXbから徐々に溜まっていく。気化成分Gが凹部BXaに溜まると、図5に示すように、当該凹部BXaに収容されるノズル形成面28aの周囲が気化成分Gによって満たされる。このため、ノズルNZからの溶媒の気化が抑制されることになる。
【0046】
制御部100は、記録ヘッド28の待機状態において、キャッピング部CPを用いてノズル形成面28aを封止させるようにしても構わない。この場合、凹部BXaに気化成分Gが満たされた状態で、ノズル形成面28aを封止することができるので、キャッピング部CP自体のガスバリア性に拘わらず、ノズル形成面28aからの溶媒の気化を低減することができる。
【0047】
以上のように、本実施形態によれば、待機状態の記録ヘッド28のノズル形成面28aを含む一部分を少なくとも収容する凹部BXaを有し、当該一部分を収容した状態で凹部BXaの底部BXbがノズル形成面28aに対向するように設けられたヘッド収容部BXを備えるので、当該凹部BXaに収容されるノズル形成面28aの周囲を気化成分Gによって満たすことができる。これにより、ノズル形成面28aからの溶媒の気化を低減することができる。
【0048】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
上記実施形態では、記録ヘッド28の周囲で気化した溶媒(気化成分G)をヘッド収容部BXに収容させる態様を例に挙げて説明したが、これに限られることは無い。
【0049】
例えば、図6に示すように、ヘッド収容部BXの凹部BXaに対して液状の溶媒(液体成分)Qを供給する液体成分供給部50が設けられた構成であっても構わない。当該液体成分供給部50は、液体成分Qを貯留する貯留部51と、当該貯留部51と凹部BXaとを接続する管部52と、貯留部51に貯留された液体成分Qを、管部52を介して凹部BXaに移動させる移動部53と、を有している。移動部53としては、管部52を開閉するバルブ及びポンプ機構などを用いることができる。
【0050】
図7に示すように、制御部100は、移動部53を用いて、管部52を介して貯留部51内の液体成分Qを凹部BXaに移動させる。この動作により、凹部BXaに液体成分Qが供給されると、当該液体成分Qから気化成分Gが発生する。発生した気化成分Gは、比重が空気よりも大きいため、凹部BXaの底部BXbから徐々に溜まっていく。
【0051】
したがって、この場合においても、当該凹部BXaに収容されるノズル形成面28aの周囲を気化成分Gによって満たすことができる。これにより、ノズル形成面28aからの溶媒の気化を低減することができる。
【0052】
また、例えば、図8に示すように、液体成分供給部として、記録ヘッド28から排出された廃インクDを回収する回収部60を用いる構成としても構わない。回収部60は、例えばキャッピング部CPに接続された吸引ポンプPMなどを用いて排出された廃インクDを貯留する貯留部61と、当該貯留部61と凹部BXaとを接続する管部62と、貯留部61に貯留された廃インクDを、管部62を介して凹部BXaに移動させる移動部63と、吸引ポンプPMから貯留部61へ廃インクDを流通させる第二管部64とを有している。移動部63としては、貯留部61をZ方向に移動させる昇降機構などを用いることができる。
【0053】
図9に示すように、制御部100は、移動部63によって貯留部61を+Z方向へ移動させる。管部62と凹部BXaとの接続部よりも貯留部61が+Z側に配置されると、重力によって管部62を介して貯留部61内の廃インクDが凹部BXaに移動する。この動作により、凹部BXaに廃インクDが供給されると、当該廃インクDに含まれる液体成分Qから気化成分Gが発生する。発生した気化成分Gは、比重が空気よりも大きいため、凹部BXaの底部BXbから徐々に溜まっていく。
【0054】
この場合においても、当該凹部BXaに収容されるノズル形成面28aの周囲を気化成分Gによって満たすことができる。これにより、ノズル形成面28aからの溶媒の気化を低減することができる。なお、制御部100は、廃インクDを必要量供給した後、移動部63を用いて貯留部61を元の位置に戻すようにする。
【0055】
なお、例えば貯留部61がヘッド収容部BXの凹部BXaの内部に配置された構成であっても良い。この場合、貯留部61の+Z側を開口させておく。この構成によれば、廃インクDが回収され、貯留部61に貯留される場合に、貯留された廃インクDから直接気化成分Gを発生させることができる。
【0056】
また、例えば、ヘッド収容部BXの凹部BXaに対して、記録ヘッド28からインクを噴射することにより液状の溶媒(液体成分)Qを供給しても構わない。この場合においても、当該凹部BXaに収容されるノズル形成面28aの周囲を気化成分Gによって満たすことができる。これにより、ノズル形成面28aからの溶媒の気化を低減することができる。
【0057】
また、例えば、凹部BXaに気化成分Gを直接供給する気化成分供給部が設けられた構成であっても構わない。以下、図8に示す構成において、気化成分供給部を設けた構成を例に挙げて説明するが、当該構成に限られることは無い。例えば、図6に示す構成において気化成分供給部が設けられた構成としても構わない。
【0058】
図10に示すように、気化成分供給部65は、管状に形成されている。気化成分供給部65は、一端が凹部BXaの+Z側端部に配置されており、他端が貯留部61に接続されている。気化成分供給部65は、貯留部61の内部で気化した溶媒の気化成分Gを凹部BXaに供給する。
【0059】
図11に示すように、制御部100は、移動部63によって貯留部61を+Z方向へ移動させる。管部62と凹部BXaとの接続部よりも貯留部61が+Z側に配置されると、重力によって管部62を介して貯留部61内の廃インクDが凹部BXaに移動する。同時に、重力によって貯留部61内の気化成分Gが凹部BXaに移動する。この動作により、凹部BXaに廃インクD及び気化成分Gが供給される。凹部BXaでは、当該廃インクDに含まれる液体成分Qから気化成分Gが発生すると共に、直接供給された気化成分Gが配置されることになる。この気化成分Gは、比重が空気よりも大きいため、凹部BXaの底部BXbから徐々に溜まっていく。
【0060】
したがって、この場合においても、当該凹部BXaに収容されるノズル形成面28aの周囲を気化成分Gによって満たすことができる。これにより、ノズル形成面28aからの溶媒の気化を低減することができる。なお、制御部100は、廃インクD及び気化成分Gを必要量供給した後、移動部63を用いて貯留部61を元の位置に戻すようにする。
【0061】
また、上記実施形態においては、凹部BXa内に液体成分Q、気体成分G及び廃インクDを供給する構成を例に挙げて説明したが、これに限られることは無い。例えば、凹部BXa内に水分を供給する構成であっても構わない。また、凹部BXa内に窒素などの不活性ガスを供給する構成であっても構わない。
【0062】
上記実施形態では、記録方式としてインクジェット方式を採用した記録装置について記載したが、電子写真方式や熱転写方式など、任意の記録方式の記録装置に変更することもできる。また、記録装置はプリンターに限らず、FAX装置、コピー装置、あるいはこれら複数機能を備えた複合機等であってもよい。さらに、記録装置として、インク以外の他の液体の微小量の液滴を噴射したり吐出したりする液体噴射ヘッド等を備える液体噴射装置を採用してもよい。
【0063】
なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。
【0064】
ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルターの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置等であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
R…ロール紙 JT…噴射領域 ST…待機位置 NZ…ノズル CP…キャッピング部 BX…ヘッド収容部 BXa…凹部 BXb…底部 BXc…開閉部 PM…吸引ポンプ D…廃インク G…気体成分 1…印刷装置 28…記録ヘッド 28a…ノズル形成面 29…メンテナンス部 50…液体成分供給部 51…貯留部 52…管部 53…移動部 60…回収部 61…貯留部 62…管部 63…移動部 65…気化成分供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気化状態における比重が空気よりも大きい溶媒を含む液体を被噴射媒体に対して噴射するノズルが形成されたノズル形成面を有し、前記液体の非噴射時には前記被噴射媒体が配置される領域から外れた待機位置で前記ノズル形成面を鉛直方向の下側に向けて待機状態となる液体噴射ヘッドと、
前記待機状態の前記液体噴射ヘッドの前記ノズル形成面を含む一部分を少なくとも収容する凹部を有し、前記一部分を収容した状態で前記凹部の底部が前記ノズル形成面に対向するように設けられたヘッド収容部と
を備える液体噴射装置。
【請求項2】
前記凹部に収容され、前記ノズル形成面を封止するキャップ部
を更に備える請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記凹部に前記溶媒の液体成分を供給する液体成分供給部
を更に備える請求項1又は請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記液体成分供給部は、
前記液体成分を貯留する貯留部と、
前記貯留部と前記凹部とを接続する管部と、
前記貯留部に貯留された前記液体成分を、前記管部を介して前記凹部に移動させる移動部と
を有する
請求項3に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記液体噴射ヘッドから排出された前記液体を回収する回収部
を更に備え、
前記回収部は、前記液体に含まれる前記溶媒の前記液体成分を貯留する前記貯留部として用いられる
請求項4に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記凹部に前記溶媒の気化成分を供給する気化成分供給部
を更に備える請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−183741(P2012−183741A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48713(P2011−48713)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】