説明

液体容器、液体消費装置および方法

【課題】液体容器内の液体の検出と、液体容器に備えられたメモリーへのアクセスとを単純な構成で実現する。
【解決手段】液体容器は、液体が収容される液体収容部と、液体を液体消費装置に供給する液体供給部と、液体消費装置に備えられた本体側発光素子から照射された照射光を受光する容器側受光素子と、前記照射光を本体側受光素子に向けて反射可能であり、液体収容部内の液体の有無に応じて前記照射光の反射状態が変化するプリズムと、前記照射光を本体側受光素子に向けて反射可能な位置に設けられたミラー素子と、メモリーと、を備える。液体容器は、容器側受光素子が受光した前記照射光に含まれる信号に応じてメモリーを動作させるとともに、メモリーから出力される信号に応じてミラー素子を駆動して前記照射光の反射状態を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体消費装置や、液体消費装置に装着される液体容器に関する。
【背景技術】
【0002】
液体消費装置の一例であるインクジェット方式の印刷装置には、一般的に、取り外し可能な液体容器であるインクカートリッジが装着される。インクカートリッジには、内部のインクの有無を検出するために、プリズムが備えられているものがある(特許文献1参照)。このようなインクカートリッジが装着される印刷装置には、発光部と受光部とが設けられており、発光部から照射した光がプリズムによって反射されるか否かを受光部によって検出することで、インクの有無を検出することができる。
【0003】
一方で、近年のインクカートリッジには、種々の情報を記録するためのメモリーが備えられているものがある(特許文献2参照)。そのため、例えば、上記のようなプリズムを備えるインクカートリッジにこのようなメモリーを取り付けると、メモリーにアクセスするための回路と、インクの有無を検出するための回路とをそれぞれ印刷装置に設ける必要がある。そのため、回路構成が複雑になり、低コスト化を妨げる要因になる。このような問題は、印刷装置やインクカートリッジに限らず、液体を消費する液体消費装置や液体消費装置に装着される液体容器一般に共通した問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−191495号公報
【特許文献2】特許第4125329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した問題を踏まえ、本発明が解決しようとする課題は、液体容器内の液体の検出と、液体容器に備えられたメモリーへのアクセスとを単純な構成で実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本体側発光素子と本体側受光素子とを備える液体消費装置に装着可能な液体容器であって、液体が収容される液体収容部と、前記液体を前記液体消費装置に供給する液体供給部と、前記本体側発光素子から照射された照射光を受光する容器側受光素子と、前記照射光を前記本体側受光素子に向けて反射可能であり、前記液体収容部内の液体の有無に応じて前記照射光の反射状態が変化するプリズムと、前記照射光を前記本体側受光素子に向けて反射可能な位置に設けられたミラー素子と、メモリーと、前記容器側受光素子が受光した前記照射光に含まれる信号に応じて前記メモリーを動作させるとともに、前記メモリーから出力される信号に応じて前記ミラー素子を駆動して前記照射光の反射状態を変化させる容器側制御部と、を備える液体容器。
【0008】
このような構成の液体容器であれば、液体消費装置は、本体側発光素子から照射した照射光がプリズムによって反射されるか否かを本体側受光素子によって検知することで、液体容器内の液体の検出を行うことができる。また、本体側発光素子から照射する照射光に信号を含ませ、これを容器側受光素子によって受光させることでメモリーを動作させることができ、更に、メモリーから出力される信号に応じて駆動されるミラー素子からの反射光を本体側受光素子によって受光することで、メモリーからデータを取得することができる。よって、液体容器内の液体の検出と、液体容器に備えられたメモリーへのアクセスとを、本体側発光素子と本体側受光素子による単純な構成で実現することが可能になる。
【0009】
[適用例2]適用例1に記載の液体容器であって、前記容器側制御部は、予め定められたタイミングで前記ミラー素子を駆動して前記照射光を一時的に前記本体側受光素子に向けて反射させないようにする、液体容器。
このような構成であれば、ミラー素子からの反射光が本体側受光素子に確実に受光されない期間が一時的に存在するため、この期間内にプリズムからの反射光の状態を検知することで、液体容器内のインクの残存状態を判断することができる。
【0010】
[適用例3]適用例1または適用例2に記載の液体容器が装着される液体消費装置であって、前記本体側発光素子と前記本体側受光素子とを制御する本体側制御部を備え、前記本体側制御部は、前記ミラー素子によって反射された前記照射光が前記本体側受光素子に入射されていない状態において、前記本体側受光素子が前記プリズムから反射された前記照射光を検知したか否かに基づき、前記液体収容部内の液体の残存状態を判断する、液体消費装置。
このような構成であれば、液体消費装置は、液体容器に備えられたプリズムからの反射光を検知したか否かに基づいて、液体容器内の液体の残存状態を判断することができる。
【0011】
[適用例4]適用例3に記載の液体消費装置であって、前記本体側制御部は、前記液体収容部に液体が残存していると判断した場合に、前記本体側発光素子を用いて前記メモリーにアクセスするための信号を送信する、液体消費装置。
このような構成において、例えば、プリズムが、液体収容部内に液体が残存していない場合に光を反射する特性を有する場合には、上記構成では、プリズムから本体側受光素子に反射光が入射されない状態でメモリーへのアクセスを行うことになる。そのため、プリズムからの反射光によってミラー素子から本体側受光素子への通信が阻害されることを抑制することが可能になる。
【0012】
[適用例5]適用例3または適用例4に記載の液体消費装置であって、前記プリズムは、前記液体収容部内に前記液体が残存する場合には、前記照射光を前記本体側受光素子に向けて反射せず、前記液体収容部内に液体が残存していない場合には、前記照射光を前記本体側受光素子に向けて反射する、液体消費装置。
このような構成であれば、プリズムからの反射光の有無を本体側受光素子によって検知することで、容易に、液体収容部内の液体の有無を判断することができる。
【0013】
この発明は上述した液体容器や液体消費装置以外にも種々の形態で実現可能であり、例えば、本体側発光素子と本体側受光素子とを備える液体消費装置とメモリーを備える液体容器とが通信する方法や、この方法または装置の機能を実現するためのコンピュータプログラム、コンピュータプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】印刷装置の概略構成を示す説明図である。
【図2】インクカートリッジの概略構成を示す断面図である。
【図3】インクカートリッジの下面の一部を示す図である。
【図4】印刷装置とインクカートリッジとの間で行われる光無線通信に係る構成を示す説明図である。
【図5】印刷装置とインクカートリッジとの間で行われる光無線通信に係る構成を示す説明図である。
【図6】装着判定処理のフローチャートである。
【図7】様々な条件下における回路基板の動作状態と反射光の有無とをまとめた一覧表である。
【図8】本体側送信回路の回路図である。
【図9】本体側送信回路の動作例を示すタイミングチャートである。
【図10】カートリッジ側受信回路の回路図である。
【図11】カートリッジ側受信回路の動作例を示すタイミングチャートである。
【図12】カートリッジ側送信回路の動作例を示すタイミングチャートである。
【図13】光無線通信の変形例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づき次の順序で説明する。
A.装置構成:
B.装着判定処理:
C.光無線通信:
D.変形例:
【0016】
A.装置構成:
図1は、本発明の実施例としての印刷装置10の概略構成を示す説明図である。液体消費装置としての印刷装置10は、シアン、マゼンタ、イエロー等のインクがそれぞれ収容された複数のインクカートリッジ50(液体容器)が装着されるキャリッジ20と、キャリッジ20を主走査方向に駆動するキャリッジモーター25と、印刷用紙PAを副走査方向に搬送する紙送りモーター30と、キャリッジ20に搭載され、インクカートリッジ50から供給されたインクを印刷用紙PAに吐出する印刷ヘッド35と、印刷装置10の動作全般を制御する制御ユニット40と、を備えている。制御ユニット40には、所定のインターフェース95を介してコンピューター90が接続されている。以下では、印刷装置10のことを、「本体」ともいう。
【0017】
制御ユニット40は、CPUやROM、RAMを備えるコンピューターとして構成されている。CPUは、ROMに記憶された制御プログラムをRAMにロードして実行することで、キャリッジモーター25や紙送りモーター30、印刷ヘッド35を制御し、コンピューター90等から受信した印刷データに基づいて、印刷を行わせる。
【0018】
制御ユニット40は、制御プログラムの実行により、更に、装着判定部42や通信制御部44として機能する。装着判定部42は、インクカートリッジ50の装着状態やインクカートリッジ50内のインクの有無を判断する機能部であり、通信制御部44は、インクカートリッジ50に備えられた回路基板60(図2参照)との通信を制御する機能部である。装着判定部42によって判断されたインクカートリッジ50の装着状態やインクの有無、あるいは、通信制御部44によって回路基板60から取得された情報は、制御ユニット40に接続された表示パネル80に表示される。
【0019】
図2は、インクカートリッジ50の概略構成を示す断面図である。インクカートリッジ50は、外部から内部に大気を導入するための大気導入口51が上面に形成された略直方体状のケース52を備えている。ケース52の内部は、鉛直方向に設けられた仕切板53によって、インク室54とフォーム室55とに区画されている。インク室54とフォーム室55とには、どちらにもインクが収容される。仕切板53の最下部には連通口56が設けられており、この連通口56を通じて、インク室54からフォーム室55にインクが流通可能になっている。フォーム室55の下部には、フォーム室55内のインクを印刷ヘッド35に供給するためのインク供給口57が設けられている。フォーム室55およびインク供給口57には、インク室54から供給されたインクを吸収して保持するためのポリエチレンフォームが充填されている。なお、本実施例のインク室54は、本願の「液体収容部」に相当するものである。
【0020】
インク室54内には、その最下部に、直角二等辺三角柱状のプリズム58が、その頂角をインク室54内に向け、その斜面をインクカートリッジ50の下方に向けるよう配置されている。本実施例では、プリズム58とケース52とは、ポリプロピレンによって透明状に一体形成されている。勿論、インクカートリッジ50の構成はこのような構成に限られず、例えば、プリズム58とケース52とは、別々の部材によって構成されていてもよい。また、本実施例では、インクカートリッジ50の内部がインク室54とフォーム室55とに区画されていることとしたが、インクカートリッジ50の構造はこれに限られない。例えば、フォーム室55および仕切板53を省いた構成としてもよい。
【0021】
インクカートリッジ50が装着される印刷装置10のキャリッジ20には、本体側発光素子74と本体側受光素子73とがプリズム58の斜面に対面する位置に設けられている。本体側発光素子74から光が照射されると、その照射光は、プリズム58の斜面のまえ半分の部分(以下、「入射面S1」という)から入射して、プリズム58の第1の直角面S21に達する。このとき、インク室54内にインクが存在すると、第1の直角面S21に達した照射光は、この第1の直角面S21を透過して、インク室54内のインクによって吸収される。これは、プリズム58の材料であるポリプロピレンの比重(約0.9)が、インク(水)の比重(約1.0)に近いため、第1の直角面S21によって反射が生じ難いからである。そのため、インク室54内にインクが存在する場合には、本体側受光素子73は、反射光を検知することができないことになる。
【0022】
これに対して、インク室54内にインクが存在しない場合には、第1の直角面S21に達した照射光は、この第1の直角面S21によって反射されるとともに、更に、第2の直角面S22によって反射され、プリズム58の斜面の後ろ半分の部分(以下、「射出面S2」という)から射出して本体側受光素子73に入射する。この結果、インク室54内にインクが存在しない場合には、本体側発光素子74から照射された照射光が、プリズム58によってその進行方向が180°曲げられて、本体側受光素子73によって検知されることになる。以上で説明したように、本実施例では、本体側受光素子73がプリズム58によって反射された光を検知した場合には、「インクなし」と判断することが可能になり、本体側受光素子73がプリズム58から反射された光を検知できない場合には、「インク有り」と判断することが可能になる。ただし、インク室54内にインクがない場合であっても、フォーム室55にはインクが残存している場合があるため、本実施例における「インクなし」とは、厳密には、インクが所定量以下になった状態(いわゆる、「インクニアエンド」)のことをいう。
【0023】
図3は、インクカートリッジ50の下面の一部を示す図である。インクカートリッジ50の下面には、図2にも示したように、プリズム58の斜面が配置されている。本実施例では、このプリズム58の入射面S1の横側に近接して回路基板60が取り付けられている。回路基板60の表面には、印刷装置10から電源の供給を受けるための電源端子61と、印刷装置10内のグランドに接続されるグランド端子62とが設けられている。キャリッジ20の内壁には、これらの端子に対応する位置に、本体側の電源端子とグランド端子とが設けられている。更に、回路基板60の表面には、印刷装置10との間で光無線通信を行うためのカートリッジ側受光素子63と、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術によって製造されたミラー素子64とが設けられている。図2に示した本体側発光素子74は、プリズム58の入射面S1とともに、カートリッジ側受光素子63とミラー素子64とに対しても光を照射可能な位置に配置されている。また、図2に示した本体側受光素子73は、ミラー素子64によって反射された光とプリズム58の射出面S2から射出された光とを入射可能な位置に配置されている。
【0024】
回路基板60の背面には、不揮発性の半導体メモリー65と、回路基板60全体の動作を制御する制御回路66とが設けられている。半導体メモリー65には、例えば、インクカートリッジ50の型番や製造年月日等が記録されている。上述したカートリッジ側受光素子63とミラー素子64と半導体メモリー65と制御回路66とは、いずれも電源端子61を通じて印刷装置10から給電された電力によって駆動する。
【0025】
図4および図5は、印刷装置10とインクカートリッジ50との間で行われる光無線通信に係る構成を示す説明図である。印刷装置10側には、図2に示したように、キャリッジ20の内壁に、本体側受光素子73と本体側発光素子74とが設けられている。本体側受光素子73には本体側受信回路77が接続され、本体側発光素子74には本体側送信回路78が接続されている。本体側受信回路77と本体側送信回路78とには基準クロックを出力するクロック回路71が接続されている。本体側受信回路77および本体側送信回路78は、制御ユニット40内の通信制御部44によって、その動作が制御される。
【0026】
回路基板60上の制御回路66には、カートリッジ側受光素子63とミラー素子64と半導体メモリー65とが接続されている。制御回路66は、カートリッジ側受信回路67とカートリッジ側送信回路68とを備えている。制御回路66は、カートリッジ側受光素子63によって本体側発光素子74から受信した光入力信号に含まれるデータ(コマンドを含む。以下同じ)やクロック信号を抽出し、これらを半導体メモリー65に伝送することで半導体メモリー65を動作させる。
【0027】
図4に示すように、本実施例では、本体側発光素子74から照射された光(例えば、赤外光)は、カートリッジ側受光素子63によって受光されると共に、ミラー素子64に入射する。ミラー素子64に入射した光は、ミラー素子64が駆動されていない場合には、そのまま反射されて、本体側受光素子73に入射する。これに対して、ミラー素子64が駆動されると、図5に示すように、ミラー素子64の傾きが変化し、ミラー素子64に入射した光の反射方向が変更される。そのため、ミラー素子64が駆動された場合には、本体側受光素子73には、反射光が入射されなくなる。本実施例では、制御回路66は、予め定められたタイミング(具体的には、印刷装置10からの電源供給が開始されたタイミング)で、一時的に(例えば、0.5秒間)ミラー素子64を駆動させ、本体側発光素子74から照射された光を本体側受光素子73に反射させない処理を行う。
【0028】
B.装着判定処理:
図6は、印刷装置10の装着判定部42によって実行される装着判定処理のフローチャートである。この装着判定処理は、例えば、印刷装置10の起動時に実行される。この処理の前提として、初期状態では、制御ユニット40は、本体側の電源端子(回路基板60に電源供給するための電源端子)には、電圧を印加していない状態とする。
【0029】
この処理が開始されると、まず、装着判定部42は、本体側発光素子74を発光させる(ステップS100)。そして、本体側受光素子73が光を検知したか否かを判断する(ステップS105)。このとき、本体側受光素子73が光を検知しなければ、装着判定部42は、インクカートリッジ50が装着されていないと判断する(ステップS110)。
【0030】
図7は、様々な条件下における回路基板60の動作状態と反射光の有無とをまとめた一覧表である。この一覧表には、回路基板60の動作状態と本体側受光素子73による反射光の受光の有無とを、インクカートリッジ50の装着状態、インクカートリッジ50内のインクの有無、本体側発光素子の発光状態、および、回路基板60への電源供給の有無に応じて表している。また、この一覧表には、本体側受光素子73によって反射光が受光される場合に、その反射光がミラーあるいはプリズムのどちらによって反射されているかを示している。この一覧表のケースNo.1あるいは2に示すように、インクカートリッジ50がキャリッジ20に装着されていない場合には、本体側発光素子74から光を発光しても、プリズム58によって光が反射されることはなく、また、回路基板60上のミラー素子によって光が反射されることもない。そのため、上記ステップS105では、本体側受光素子73が光を検知しなければ、装着判定部42は、インクカートリッジ50が装着されていないと判断することができる。インクカートリッジ50が装着されていないと判断すると、装着判定部42は、表示パネル80にその判断結果を表示するとともに、本体側発光素子74の発光を停止して(ステップS165)、当該装着判定処理を終了する。
【0031】
ステップS105において、本体側受光素子73によって光が検知された場合には、装着判定部42は、インクカートリッジ50が装着されたと判断する(ステップS115)。ただし、「カートリッジあり」、「本体側発光素子を発光」、「基板電源OFF」という現時点での条件下では、図7のケースNo.3,7に示すように、本体側受光素子73によって検知された光は、ミラー素子64によって反射された反射光なのか、プリズム58によって反射された反射光なのかが不明である。そのため、インクカートリッジ50内のインクの有無も不明である。そこで、まず、装着判定部42は、インクの有無を判断するため、以下に説明する処理を実行する。
【0032】
装着判定部42は、上記ステップS115において、インクカートリッジ50が装着されたと判断すると、回路基板60の電源端子61を通じて、回路基板60への電源供給を開始する(ステップS120)。そうすると、回路基板60は動作可能となり、図7に示すケースNo.4,8のいずれかの状態となる。上述したように、本実施例では、回路基板60の制御回路66は、印刷装置10本体から電源の供給を受けると、初期動作として、一時的にミラー素子64を駆動させ、本体側発光素子74から照射された光を本体側受光素子73に反射させない処理を行う。そこで、装着判定部42は、この初期動作によってミラー素子が駆動されるのを待ち(ステップS125)、その後、本体側受光素子73によって、光が検知されたか否かを再び判断する(ステップS130)。
【0033】
ステップS130において、本体側受光素子73によって光が検知された場合には、上記初期動作によってミラー素子64から光を受光することはないため、図7に示すケースNo.8の状態において、ミラー素子64ではなくプリズム58から反射光を受光していることになる。上述したように、プリズム58によって光が反射されるということは、インクカートリッジ50内(より詳しくは、インク室54内)にインクが残存しないことになるため、装着判定部42は、この場合には、「インク無し」と判断する(ステップS135)。また、回路基板60への電源供給を開始しても、何らかの原因でミラー素子64が駆動しない場合もある。そのため、このような場合にも、上記ステップS130では、本体側受光素子73によって光が検知される。よって、上記ステップS140では、「インク無し」あるいは、「回路基板60の故障」と判断されることになる。装着判定部42は、こうして「インク無し」あるいは、「回路基板60の故障」と判断すると、その判断結果を表示パネル80にエラー情報として表示する。そして、回路基板60への電源供給を停止するとともに(ステップS160)、本体側発光素子74の発光を停止し(ステップS165)、当該装着判定処理を終了する。なお、本実施例では、インクカートリッジ50のケース52はプリズム58と同様に、透明な部材で形成されている。そのため、表示パネル80に、「インク無し、あるいは、回路基板の故障」と表示されたとしても、ユーザは、このインクカートリッジ50内のインクの残量を透かして見ることで、エラーの原因が、インクの残量によるものなのか、回路基板60の故障によるものなのかを容易に判別することができる。
【0034】
一方、上記ステップS130において、本体側受光素子73によって光が検知されなければ、プリズム58からの反射光を受光していないことになる。上述したように、プリズム58によって光が反射されない場合には、インクカートリッジ50内(より詳しくは、インク室54内)にインクが存在することになるため、装着判定部42は、この場合には、「インクあり」と判断する(ステップS140)。また、このとき、同時に、回路基板60が正常に動作したと判断する。
【0035】
以上のようにして、装着判定部42によって、インクカートリッジ50内にインクが残存していると判断され、更に、回路基板60が正常に動作していると確認されると、続いて、通信制御部44による光無線通信処理が行われる(ステップS145)。この光無線通信処理では、例えば、回路基板60上の半導体メモリー65から種々のデータが読み込まれる処理が行われる。かかる処理の具体的方法については後述する。
【0036】
ステップS145において通信処理が行われると、通信制御部44は、その通信処理が成功したか否かを判断する(ステップS150)。通信処理が成功すれば、通信制御部44は、回路基板60への電源供給を停止し(ステップS160)、本体側発光素子74の発行を停止させることで(ステップS165)、当該装着判定処理を終了する。一方、通信処理が失敗すれば、通信制御部44は、通信エラーが発生したと判断し(ステップS155)、その旨を表示パネル80に表示する。そして、回路基板60への電源供給を停止し(ステップS160)、本体側発光素子74の発行を停止させることで(ステップS165)、当該装着判定処理を終了する。
【0037】
C.光無線通信:
続いて、上述した装着判定処理のステップS145で実行される光無線通信処理の具体的手法について説明する。
図8は、印刷装置10に備えられた本体側送信回路78の回路図である。また、図9は、この本体側送信回路78の動作例を示すタイミングチャートである。図8に示すように、本体側送信回路78は、エクスクルーシブオア回路によって構成されている。この本体側送信回路78によれば、クロック回路71からクロック信号が入力されるとともに、このクロック信号に同期するデータが制御ユニット40から入力される。そして、これらの排他的論理和が演算され、その演算値によって表される光出力信号が本体側発光素子74から出力される。図9には、「01101001101101」というデータと、クロック信号とに基づいて生成される光出力信号の一例を示している。図9に示すように、本実施例では、1クロック当たり1ビットのデータの送信を行う。なお、本実施例では、印刷装置10からデータを送信する場合にも、回路基板60からのデータを受信する場合にも、どちらの場合においても、クロック信号は本体側送信回路78に入力される。そのため、印刷装置10が回路基板60にデータを出力しない場合においても、本体側発光素子74は、クロック信号に同期して点滅を繰り返すことになる。
【0038】
図10は、回路基板60に備えられたカートリッジ側受信回路67の回路図である。また、図11は、このカートリッジ側受信回路67の動作例を示すタイミングチャートである。図10に示すように、カートリッジ側受信回路67は、エッジ抽出回路82と、アンド回路83と、単安定マルチバイブレーター回路84と、エクスクルーシブオア回路85と、を備えている。上述した本体側送信回路78から出力された光出力信号は、カートリッジ側受光素子63によって光入力信号として受信される。この光入力信号は、まず、エッジ抽出回路82に入力されて、立ち上がりエッジと立ち下がりエッジとが抽出される(図11参照)。抽出されたエッジ信号は、アンド回路83の一方の入力端子に入力される。アンド回路83の出力信号は、単安定マルチバイブレーター回路84に入力され、この単安定マルチバイブレーター回路84からの出力が、アンド回路83のもう一方の入力端子に入力される。単安定マルチバイブレーター回路84によって生成される立ち下がりパルスの幅W1(図11)は、図9に示したクロック信号の0.5クロック分の幅よりも長く、1クロック分の幅からエッジ信号1つ分の幅W2を差し引いた幅よりも短い幅に設定されている。このような回路構成によれば、入力した光入力信号からクロック信号が抽出されてアンド回路83から出力されることになる。こうして抽出されたクロック信号は、半導体メモリー65の基準クロックとして用いられる。クロック信号は、更に、光入力信号とともにエクスクルーシブオア回路85に入力される。そうすると、光入力信号からは、クロック信号だけでなく、データも抽出されることになる。半導体メモリー65は、こうしてカートリッジ側受信回路67によって抽出されたデータとクロック信号とに基づいて、データの書き込みや読み出しを行う。
【0039】
図12は、回路基板60に備えられたカートリッジ側送信回路68の動作例を示すタイミングチャートである。本実施例では、上述のように、回路基板60から印刷装置10側に向けてデータを送信する場合にも、クロック信号を表す光入力信号がカートリッジ側受光素子63によって受信される。そのため、図11に示したクロック信号と同様の信号が、この光入力信号からカートリッジ側受信回路67によって抽出されることになる。カートリッジ側送信回路68は、こうして抽出されたクロック信号に同期するように、ミラー素子64を、半導体メモリー65から出力されたデータに合わせて駆動する。そうすると、ミラー素子64は、本体側発光素子74から照射されたクロック信号を表す光をそのデータに合わせて反射する。すると、この反射光が、光出力信号として本体側受光素子73に送信されることになる。本体側受光素子73は、この光出力信号をクロック信号に同期して入力することで、回路基板60上の半導体メモリー65からデータの取得を行うことが可能になる。つまり、本実施例では、ミラー素子64によって、印刷装置10側から照射される光を、クロック信号に同期させて反射させたり反射させなかったりすることで、回路基板60から印刷装置10側にデータを送信することが可能になる。
【0040】
以上で説明した本実施例によれば、インクカートリッジ50にプリズム58が設けられており、このプリズム58に本体側発光素子74から光を照射することで、インクカートリッジ50内のインクの残存状態を判定することができる。また、インクカートリッジ50には、プリズム58に近接してカートリッジ側受光素子63とミラー素子64が設けられているため、プリズム58に照射する光を、これらカートリッジ側受光素子63とミラー素子64にも照射することができる。そのため、本体側発光素子74から照射する光を、インクの残存状態の確認だけではなく、インクカートリッジ50の装着の有無の確認や、インクカートリッジ50との間の光無線通信の用途に用いることが可能になる。つまり、本実施例によれば、印刷装置10に備えられた本体側受光素子73と本体側発光素子74とを制御するだけで、インクカートリッジ50の装着の有無を確認や、インクの残存状態の確認、回路基板60との通信、の全て行うことができる。この結果、装置構成を簡略化することが可能になり、印刷装置10の製造コストを低減することが可能になる。
【0041】
また、本実施例では、インクカートリッジ50内にインクが残存している場合にはプリズム58から本体側受光素子73に光が入射されることがないため、このような場合に限って印刷装置10と回路基板60との間の光無線通信処理を行う。そのため、ミラー素子64から本体側受光素子73への通信時に、プリズム58からの反射光によってその通信が阻害されてしまうことを抑制することができる。
【0042】
また、本実施例では、印刷装置10とインクカートリッジ50との間のデータの授受を、光無線通信で行うため、回路基板60上に配置する端子の数を削減することができる。そのため、印刷装置10と回路基板60の接触不良を抑制することが可能になる。
【0043】
また、本実施例では、インクカートリッジ50に光を照射するだけでインクカートリッジ50の装着の有無を判断することができるので、装着状態の判断を、回路基板60に電源を供給せずに行うことができる。そのため、例えば、インクカートリッジ50の装着不良等によって、回路基板60上のグランド端子と印刷装置10側の電源端子とが電気的に短絡してしまうことを抑制することができる。
【0044】
D.変形例:
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明はこのような実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の構成を採ることができる。例えば、ハードウェアによって実現した機能はソフトウェアによって実現することができる。そのほか、以下のような変形が可能である。
【0045】
図13は、光無線通信の変形例を示すタイミングチャートである。上記実施例では、本体側送信回路78は、クロック信号とデータのエクスクルーシブオアを算出することで、光出力信号を生成した。これに対して、図13に示した例では、本体側送信回路78は、クロック信号のパルス幅を、データが「1」の時には長くし、データが「0」の時には短くすることで、光出力信号を生成する。つまり、データに応じてクロック信号のパルス幅を変調することで光出力信号を生成している。カートリッジ側受信回路67は、この光出力信号を入力すると、入力した信号から立ち上がりエッジを抽出することでクロック信号を抽出し、さらに、抽出されたエッジから所定時間(例えば、0.5クロック)経過した後の信号のレベルを判断することで、データを抽出することができる。
【0046】
上記実施例では、回路基板60に設けられた各デバイス(カートリッジ側受光素子63、ミラー素子64、半導体メモリー65、および、制御回路66)は、すべて、印刷装置10側から電源の供給を受けて動作している。これに対して、インクカートリッジ50に電池を内蔵させ、この内蔵電池によって上記各デバイスを駆動することとしてもよい。また、印刷装置10側から電源端子61を通じて電力の給電を受けるのではなく、電磁波によって電力の供給を受けることとしてもよい。これらの構成によれば、印刷装置10とインクカートリッジ50との間で完全に非接触の通信を行うことが可能になる。
【0047】
上記実施例では、キャリッジ20に設けた本体側受光素子73と本体側発光素子74とによって、印刷装置10とインクカートリッジ50との間の通信を行うこととした。これに対して、例えば、印刷装置10内のいずれかの部位に本体側受光素子73と本体側発光素子74とを固定し、キャリッジ20によってこれらの正面に各インクカートリッジ50を順番に移動させることで、光無線通信を行うこととしてもよい。また、インクカートリッジ50の装着位置が固定されるオフキャリッジタイプの印刷装置の場合には、印刷用紙上を往復動するヘッドに本体側受光素子73と本体側発光素子74とを設け、このヘッドを、固定されたインクカートリッジ50に対面する位置に順番に移動させることで、光無線通信を行うこととしてもよい。
【0048】
上記実施例では、本発明を印刷装置とインクカートリッジとに適用した例を説明したが、本発明は、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体消費装置に用いても良く、また、そのような液体を収容した液体容器にも適用可能である。また、本発明の液体容器は、微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体消費装置に流用可能である。「液滴」とは、上記液体消費装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう「液体」とは、液体消費装置が噴射させることができるような材料であれよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであれば良く、粘性の高い又は低い液状態、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散または混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施例で説明したようなインクや、液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インクおよび油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体消費装置の具体例としては、例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む液体を噴射する液体消費装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体消費装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体消費装置であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体消費装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体消費装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体消費装置を採用してもよい。
【符号の説明】
【0049】
10…印刷装置
20…キャリッジ
25…キャリッジモーター
30…紙送りモーター
35…印刷ヘッド
40…制御ユニット
42…装着判定部
44…通信制御部
50…インクカートリッジ
51…大気導入口
52…ケース
53…仕切板
54…インク室
55…フォーム室
56…連通口
57…インク供給口
58…プリズム
60…回路基板
61…電源端子
62…グランド端子
63…カートリッジ側受光素子
64…ミラー素子
65…半導体メモリー
66…制御回路
67…カートリッジ側受信回路
68…カートリッジ側送信回路
71…クロック回路
73…本体側受光素子
74…本体側発光素子
77…本体側受信回路
78…本体側送信回路
80…表示パネル
82…エッジ抽出回路
83…アンド回路
84…単安定マルチバイブレーター回路
85…エクスクルーシブオア回路
90…コンピューター
95…インターフェース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体側発光素子と本体側受光素子とを備える液体消費装置に装着可能な液体容器であって、
液体が収容される液体収容部と、
前記液体を前記液体消費装置に供給する液体供給部と、
前記本体側発光素子から照射された照射光を受光する容器側受光素子と、
前記照射光を前記本体側受光素子に向けて反射可能であり、前記液体収容部内の液体の有無に応じて前記照射光の反射状態が変化するプリズムと、
前記照射光を前記本体側受光素子に向けて反射可能な位置に設けられたミラー素子と、
メモリーと、
前記容器側受光素子が受光した前記照射光に含まれる信号に応じて前記メモリーを動作させるとともに、前記メモリーから出力される信号に応じて前記ミラー素子を駆動して前記照射光の反射状態を変化させる容器側制御部と、
を備える液体容器。
【請求項2】
請求項1に記載の液体容器であって、
前記容器側制御部は、予め定められたタイミングで前記ミラー素子を駆動して前記照射光を一時的に前記本体側受光素子に向けて反射させないようにする、液体容器。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体容器が装着される液体消費装置であって、
前記本体側発光素子と前記本体側受光素子とを制御する本体側制御部を備え、
前記本体側制御部は、前記ミラー素子によって反射された前記照射光が前記本体側受光素子に入射されていない状態において、前記本体側受光素子が前記プリズムから反射された前記照射光を検知したか否かに基づき、前記液体収容部内の液体の残存状態を判断する、液体消費装置。
【請求項4】
請求項3に記載の液体消費装置であって、
前記本体側制御部は、前記液体収容部に液体が残存していると判断した場合に、前記本体側発光素子を用いて前記メモリーにアクセスするための信号を送信する、液体消費装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の液体消費装置であって、
前記プリズムは、前記液体収容部内に前記液体が残存する場合には、前記照射光を前記本体側受光素子に向けて反射せず、前記液体収容部内に液体が残存していない場合には、前記照射光を前記本体側受光素子に向けて反射する、液体消費装置。
【請求項6】
本体側発光素子と本体側受光素子とを備える液体消費装置と、液体が収容される液体収容部と前記液体を液体消費装置に供給する液体供給部とメモリーとを備える液体容器とが、通信する方法であって、
前記本体側発光素子から照射された照射光を前記液体容器に備えられた容器側受光素子が受光する工程と、
前記液体容器に備えられ、前記照射光を前記本体側受光素子に向けて反射可能なプリズムが、前記液体収容部内の液体の有無に応じて前記照射光の反射状態を変化させる工程と、
前記容器側受光素子が受光した前記照射光に含まれる信号に応じて前記メモリーが動作する工程と、
前記照射光を前記本体側受光素子に向けて反射可能な位置に設けられたミラー素子が、前記メモリーから出力される信号に応じて駆動して前記照射光の反射状態を変化させる工程と、
を備える方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−11745(P2012−11745A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153002(P2010−153002)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】