説明

液体抽出ユニット

【課題】 抽出管に傷やヒビが生じるのを抑制して、カートリッジから抽出される液体が抽出管から漏れ出るのを防止することのできる液体抽出ユニットを提供する。
【解決手段】 液体抽出ユニット1の筒状カバー26は、抽出管22を、その基端22aからシール箇所22cまで覆うように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタ装置などに備えられ、インクジェットプリンタ装置とは別体のカートリッジから液体を抽出する液体抽出ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体吐出装置の一例として、ノズル孔から液体(インク)を被記録体へ吐出する液体吐出ヘッドを備えたインクジェット式のプリンタ装置が知られている。また、このようなプリンタにおいて、液体を貯留する交換式のカートリッジが装着されたときに、該カートリッジに接続されて該カートリッジから液体を抽出する液体抽出ユニットを備えるものも知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1のプリンタ装置の液体抽出ユニットは、カートリッジが装着される装着空間と、抽出管と、該抽出管の外周囲を取り囲むリング状の嵌合部とを有している。一方、カートリッジは、前記抽出管が挿通されると共に前記嵌合部に内嵌して位置決めされる供給筒部と、該供給筒部よりもカートリッジ内方にシール部材を挟んで設けられたバルブ機構とを有している。そして、装着空間にカートリッジが装着されると、抽出管は供給筒部に挿通され、シール部材を介してバルブ機構を解除する。その結果、解除されたバルブ機構と抽出管とを通じて、カートリッジ内のインクがプリンタ装置へと抽出(供給)される。なお、この特許文献1は、プリンタ装置からカートリッジを引き抜く際に、抽出管の外周面に付着したインクを装着空間の外へ導くことによって、新たに装着するカートリッジの外面がインクで汚れないようにすることを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−230039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1のプリンタ装置の場合、抽出管の外周面にシール部材が液密的に接触することで、カートリッジ内のインクが、抽出管とシール部材との接触箇所から外部へ漏れ出ないようにしている。しかしながら、抽出管においてシール部材に接触する箇所に何らかの原因で傷が付いてしまうと、カートリッジを装着したときのシールが不完全になり、傷の付いた部分からインクが漏れ出る可能性がある。
【0006】
また、抽出管において、カートリッジ装着時にカートリッジの外側に位置する部分、すなわち、抽出管の基端に近い部分に、抽出管の内外を連通するヒビが形成されてしまうと、カートリッジからプリンタ装置へ供給されるインクの一部が、このヒビ部分から漏れ出る可能性がある。
【0007】
このような抽出管の傷やヒビは、液体抽出ユニットの搬送時や洗浄時において生じる可能性がある。特に、液体抽出ユニットを構成する複数の部材が個別に製造され、それらの部材が組み合わされて液体抽出ユニットが製造される場合、抽出管が搬送され、洗浄されるときに、傷やヒビが生じやすい。
【0008】
そこで本発明は、抽出管に傷やヒビが生じるのを抑制して、カートリッジから抽出される液体が抽出管から漏れ出るのを防止することのできる液体抽出ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る液体抽出ユニットは、貯留室内の液体をシール部材を通じて外部へ供給可能なカートリッジと接続し、該カートリッジが貯留する液体を抽出する液体抽出ユニットであって、先端と、その先端とは反対側に位置する基端とを有しており、前記カートリッジとの接続時に、当該先端が前記シール部材を通じて前記カートリッジ内へ挿通され、前記貯留室に連通する抽出管と、該抽出管の周囲を取り囲む筒状のカバーとを備え、該カバーは、前記抽出管を、その基端から、前記カートリッジが接続した状態で前記シール部材と接触するシール箇所まで覆っている。
【0010】
このような構成とすることにより、液体抽出ユニットにカートリッジが接続されたときに、抽出管及びシール部材が接触するシール箇所と、該シール箇所よりも液体抽出ユニット側の露出部分とを、筒状のカバーによって取り囲むこととなる。そのため、これらシール箇所及び露出部分に、異物が接触したり外力が加わったりして傷やヒビが生じるのを防止でき、傷やヒビを通じて液体が漏れ出るのを防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、抽出管に傷やヒビが生じるのを抑制して、カートリッジから抽出される液体が抽出管から漏れ出るのを防止することのできる液体抽出ユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る液体抽出ユニットを備えるプリンタ装置の要部を示す模式的平面図である。
【図2】カートリッジ装着部及びカートリッジを示す斜視図である。
【図3】カートリッジ装着部及びカートリッジの断面図であって、カートリッジがカートリッジ装着部から分離した状態を示している。
【図4】カートリッジ装着部及びカートリッジの断面図であって、カートリッジが完全に装着された状態を示している。
【図5】図3及び図4に示した液体抽出ユニット及び液体供給ユニットを拡大して示す断面図であり、(a)は図3に対応して両ユニットの分離状態の拡大図を示しており、(b)は図4に対応して両ユニットの装着状態の拡大図を示している。
【図6】液体抽出ユニットの構成を示す斜視図である。
【図7】液体供給ユニットの構成を示す斜視図であって、右側の図は、全体斜視図であり、左側の図は、分解斜視図である。
【図8】カートリッジの装着過程で抽出管に対してシール部材の挿通孔を位置決めするための構造を説明するための断面図であり、(a)は液体抽出ユニット及び液体供給ユニットの分離状態、(b)は分離状態から装着状態へ至る途中の状態である中間状態、(c)は装着状態を夫々示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る液体抽出ユニットについて、インクジェット式のプリンタ装置に適用したとき場合を例にとり、図面を参照しつつ説明する。但し、本発明はプリンタ装置への適用に限定されるものではなく、液体を貯留するカートリッジが接続されて、該カートリッジから抽出した液体を必要とする他の装置が備える液体抽出ユニットに対しても適用できることを付言しておく。
【0014】
[プリンタ装置の全体構成]
図1は、プリンタ装置100の要部を示す模式的平面図である。図1に示すように、プリンタ装置100は、互いに略平行に延びる一対のガイドレール102,103を備えて
おり、これらのガイドレール102,103には、液体吐出ユニット104がガイドレール102,103の長手方向(走査方向)にスライド可能に支持されている。ガイドレール103の左右の端部付近には一対のプーリ105,106が設けられ、液体吐出ユニット104は、このプーリ105,106に巻き掛けられたタイミングベルト107に接続されている。一方のプーリ106には正逆回転駆動するモータ(図示せず)が設けられており、そのプーリ106が正逆回転駆動することでタイミングベルト107が左方向及び右方向へと往復移動可能になっている。そして、これに伴って液体吐出ユニット104が、ガイドレール102,103に沿って左右方向へ往復走査される。
【0015】
また、プリンタ装置100は、後述する液体抽出ユニット1を有するカートリッジ装着部2を備えており、そこには、4つのインクカートリッジ(以下、「カートリッジ」という)3が、交換のために挿脱可能にして装着される。そして、カートリッジ装着部2の液体抽出ユニット1には、これらのカートリッジ3から4色の有色インク(例えば、ブラック、シアン、マゼンダ、イエロー)を液体吐出ユニット104に夫々供給すべく、可撓性を有する4本のインク供給チューブ108が接続されている。液体吐出ユニット104の下部には液体吐出ヘッド109が搭載されており、その下方で走査方向と直角する方向(用紙搬送方向)に搬送される被記録体(例えば、記録用紙)に向けて液体吐出ヘッド109からインク(液体)を吐出し、この被記録体に画像を形成することができるようになっている。
【0016】
[カートリッジ装着部及びカートリッジ]
図2は、カートリッジ装着部2及びカートリッジ3を示す斜視図である。また、図3及び図4は、カートリッジ装着部2及びカートリッジ3の断面図であって、このうち図3はカートリッジ2がカートリッジ装着部2から分離した状態(以下、「分離状態」)を示し、図4はカートリッジ2が完全に装着された状態(以下、「装着状態」)を示している。
【0017】
図2に示すように、カートリッジ装着部2は、各カートリッジ3が装着される装着ケース4を備えている。この装着ケース4は中空の略直方体形状を成しており、1つの面に開口4aが形成され、その内部に装着空間4b(図3参照)が形成されている。そして、4つの各カートリッジ3はこの開口4aを通じて装着ケース4に装着される。また、装着ケース4の開口4aと対向する奥部には、本発明に係る液体抽出ユニット1(図3参照)が設けられている。
【0018】
なお、図2に示すように、本実施の形態ではカートリッジ装着部2に対するカートリッジ3の挿脱方向を「前後方向」とし、特に、カートリッジ装着部2を基準としてカートリッジ3を引き抜く方向を「前方」、カートリッジ3を装着する方向を「後方」とする。また、この前後方向に直交する重力方向を「上下方向」とし、これら前後方向及び上下方向の何れにも直交する方向を「左右方向」として説明する。
【0019】
カートリッジ3は、インクを貯留室5a内(図3参照)に蓄える貯留タンク5と、カートリッジ装着部2に接続されるための接続ケース6とを備えている。このうち貯留タンク5は、左右方向の幅寸法が小さい扁平な直方体形状を成しており、その後端面に接続ケース6が取り付けられている。貯留タンク5には液体供給ユニット7が備えられており、該液体供給ユニット7は、接続ケース6に形成された開口を介して接続ケース6から後方に突出している。この液体供給ユニット7は、カートリッジ3がカートリッジ装着部2に装着されたときに液体抽出ユニット1に接続されるようになっている。
【0020】
図3に示すように、装着ケース4の上部における開口4a近傍には、各カートリッジ3に対応して操作レバー10が設けられている。該操作レバー10は、前後方向へ延びるクランク状を成しており、略中央付近が左右方向に延びる軸により枢支されることで、前端
の操作部10aと後端の係止部10bとが上下方向に揺動可能になっている。また、操作レバー10には、装着ケース4に一端が支持されたコイルバネ11の他端が接続されており、このコイルバネ11によって後端の係止部10bが下方へ向かうように付勢されている。そして、カートリッジ3が装着されていない状態では、操作レバー10の係止部10bは装着空間4b内の上部に突出しており、操作部10aが下方へ押圧されることで装着空間4bから退出する。
【0021】
一方、カートリッジ3(正確には、貯留タンク5)の上面の所定位置には、下方へ窪む凹部12が形成されており、該凹部12の後端には前方に面する係止壁13が立設されている。そして、カートリッジ3を、装着ケース4に装着すべく開口4aから装着空間4bへと進入させると、操作レバー10の係止部10bはカートリッジ3の接続ケース6の上面に接触して上方へ押し上げられる。図4に示すように、更にカートリッジ3を進入させて所定位置(装着状態)に到達すると、操作レバー10の係止部10bとカートリッジ3の凹部12との位置が一致し、コイルバネ11に付勢されて係止部10bは凹部12内へ突出する。その結果、係止部10bが係止壁13に当接し、カートリッジ3の前方(取り外される方向)への移動が制約される(ロックされる)ため、カートリッジ3が装着ケース4から脱落することが防止される。
【0022】
図3に示すように、カートリッジ3が備える接続ケース6は、その下部から延びる下側延設部15と上部から延びる上側延設部16とを有し、何れも後方(カートリッジ装着部2に接近する方向)へ向かって延設されている。また、装着ケース4の装着空間4b内の下部には、前後方向へ可動の射出部17が設けられており、該射出部17は図示しない付勢手段によって前方へ向けて付勢されている。射出部17は、装着されるカートリッジ3の下側延設部15の先端面に対向して位置しており、カートリッジ3を装着する際、下側延設部15の先端面によって後方へと押し動かされる(図4)。
【0023】
ここで、図4に示す装着状態にて、操作レバー10の操作部10aが押下されると、操作レバー10が揺動して係止部10bが上昇し、該係止部10bはカートリッジ3の凹部12から上方へ退出する。これにより、係止部10bによるカートリッジ3のロックが解除される。そして、後方に位置していた射出部17による前方への付勢力により、カートリッジ3は前方へ、即ち、開口4aを通じて装着ケース4の外方へと押し出される。押し出されたカートリッジ3は装着ケース4から取り出すことが可能となる。
【0024】
なお、装着ケース4内の奥には複数の光学センサが設けられている。例えば、装着ケース4の奥部の下部にはセンサ18aが配設され、奥部の上部にはセンサ18bが配設されている。このうち下側のセンサ18aは、射出部17の後方位置に対応する箇所に設けられており、カートリッジ3を装着する過程で射出部17の後退を検出する(図4参照)。また、上方のセンサ18bは、装着されたときのカートリッジ3の上側延設部16の位置に対応して設けられている。これらのセンサ18a,18bは、カートリッジ3の種類(インク貯留量の違いによる種類など)を判定するために用いるが、ここでの詳説は省略する。また、装着ケース4内の上下方向の中央付近にも光学式のセンサ18cが設けられている。これは、装着状態において、貯留タンク5の貯留室5a内に設けられたフロート19を検出することで、カートリッジ3内のインク残量が閾値以下になったことを検出するために用いられる。
【0025】
[液体抽出ユニット及び液体供給ユニット]
図3に示すように、装着ケース4の奥部の下部であって、且つ上述した射出部17の上方近傍には、液体抽出ユニット1が設けられている。一方、カートリッジ3の貯留タンク5の下部であって、且つ上述した下側延設部15の上方近傍には、液体供給ユニット7が設けられている。これらの液体抽出ユニット1及び液体供給ユニット7は、カートリッジ
3を装着ケース4内に装着することで互いに接続され、カートリッジ3の貯留タンク5内のインクをプリンタ装置100へと抽出(供給)可能になっている。
【0026】
図5は、図3及び図4に示した液体抽出ユニット1及び液体供給ユニット7を拡大して示す断面図であり、(a)は図3に対応して両ユニット1,7の分離状態の拡大図を示しており、(b)は図4に対応して両ユニット1,7の装着状態の拡大図を示している。また、図6は液体抽出ユニット1の構成を示す斜視図であり、図7は液体供給ユニット7の構成を示す斜視図であって、右側の図は、全体斜視図であり、左側の図は、分解斜視図である。はじめに、図5及び図6を参照しつつ、液体抽出ユニット1について説明する。
【0027】
図6に示すように、液体抽出ユニット1は、前方に面した主面20aを有するベースプレート20を備えている(図5も参照)。該ベースプレート20は、左右方向に長寸を成す横長の長方形状になっており、その上下方向の略中央付近には、左右方向へ延びるリブ21が形成されている。このリブ21からは、管状を成す抽出管22が前方へ向かって延設されている。即ち、抽出管22はその基端22aがリブ21に接続され、先端(前端)22bへ向かって前方へ延設されている。一方、リブ21において抽出管22の基端とは反対側の部分からは、後方へ向かって接続管23が延設されている。
【0028】
これら1組の抽出管22及び接続管23は、何れもベースプレート20の主面20aに対して直交するようにして設けられており、且つ、左右方向に合計4組設けられている。図5に示すように、各組の抽出管22及び接続管23は、その内部空間が連通してインク通路24を成している。また、接続管23には既に説明したインク供給チューブ108の一端が接続されている。すなわち、接続管23は、インク供給チューブ108内に挿入されている。なお、接続管23は、その先端(後端)から、リブ21に接続されている基端にかけて、その全体がインク供給チューブ108内に挿入されていることが好ましい。インク供給チューブ108の他端は液体吐出ユニット104に接続されている(図1参照)。また、抽出管22の先端22bには2つの切欠部25が形成されており、後述するように、この切欠部25を通じてインクがインク通路24内へ導入されるようになっている。
【0029】
図6に示すように、ベースプレート20の主面20aからは、円筒形状を成す筒状カバー26が、前方へ向かって延設されている。該筒状カバー26は、各抽出管22に対応して4つ設けられており、且つ、何れの筒状カバー26も、対応する抽出管22に対して同軸芯状に、抽出管22の周囲を取り囲むようにして設けられている。また、図5に示すように、筒状カバー26の内周面27は、後側(奥側)に位置する定径面27aと、前側に位置するテーパ面27bとを有している。定径面27aは、ベースプレート20に接続されている後端から前端にかけて、その径が一定である円筒形状である。テーパ面27bは、前方へ(開口端へ)向かうに従って筒状カバー26の口径が大きくなるように、定径面27aの前端から拡径方向へ傾斜する傾斜面となっている。
【0030】
なお、本実施の形態では、上述した抽出管22及び筒状カバー26は互いに一体成形されている。但し、抽出管22及び筒状カバー26を互いに別体として成形した後、両者を組み合わせて一体としてもよい。
【0031】
次に、図5及び図7を参照しつつ、液体供給ユニット7について説明する。図7に示すように、液体供給ユニット7は、弁体30、コイルスプリング31、シリンダ32、シール部材33、及び筒状ケーシング(収容部材)34から主として構成されている。このうち弁体30は、前側の大径筒部40と後側の小径筒部41とから成る段付円筒状を成しており、小径筒部41にはインクを通流可能とするべく内外を連通する孔41aが形成されている。また、小径筒部41の外周囲には、コイルスプリング31が外嵌され、該コイルスプリング31の一端(前端)は、小径筒部41と大径筒部42との間の段差面43に当
接している。
【0032】
弁体30内には、シリンダ32の前部が収容されている。該シリンダ32は棒状を成すシリンダ本体44と、シリンダ本体44の前端に設けられたストッパ45と、シリンダ本体44の後端に設けられた当接板46とを有している。このうち、シリンダ本体44の一部とストッパ45とが弁体30内に収容され、当接板46は弁体30の外方(後方)に位置している。そして、シリンダ32はこの状態で前後方向(シリンダ32の軸芯方向)へと往復動可能である一方、ストッパ45が弁体30(小径筒部41)の後端に係止され、シリンダ32全体が弁体30から後方へ抜け出ることはないようになっている。また、当接板46は、シリンダ本体44よりも径方向寸法が大きい略円盤形状を成しており、その後面(液体抽出ユニット1に対向する側の面)は、カートリッジ3をカートリッジ装着部2に装着したときに、上述した抽出管2の先端22bとの当接面46aを成している。
【0033】
一方、シリンダ32の当接板46の前面(当接面46aとは反対側の面)46bには、上記コイルスプリング31の他端(後端)が当接されている。そして、このコイルスプリング31は、弁体30の段差面43とシリンダ32の当接板46とに挟まれた状態で自然状態よりも収縮している。従って、コイルスプリング31によって当接板46は、コイルスプリング31が伸長する方向(即ち、液体抽出ユニット1側である後方)へと付勢されている。
【0034】
図5に示すように、カートリッジ3の貯留タンク5の後部には、円筒状を成して貯留室5aに連通する供給ユニット収容部60が設けられている。この供給ユニット収容部60は、カートリッジ3の接続ケース6を貫通して後方へ延設されており、後端が開口されている。そして、この供給ユニット収容部60の内部空間に、上述した弁体30、コイルスプリング31、及びシリンダ32は収容されている。
【0035】
また、供給ユニット収容部60には、シール部材33を介して筒状ケーシング34が被せられる。より詳説すると、シール部材33は円環状を成し、その中央において、前後方向にシール部材33を貫通している挿通孔33aの内径は、上述した抽出管22の外径よりも若干小さい。一方、筒状ケーシング34の内面47は、前側に位置する大径内周面47aとその後側に位置する小径内周面47bとを有している。大径内周面47aは、上記供給ユニット収容部60の外周面と略同一径を成す円筒面であり、小径内周面47bは、大径内周面47aよりも小さい径の円筒面を成している。また、小径内周面47bの後端には、更に縮径された開口48が形成されている。
【0036】
また、筒状ケーシング34の外周面49は、定径面49aと、その後側(液体抽出ユニット1側)に位置するテーパ部49bとを有している。このうち定径面49aは少なくともその一部が円筒形状を成しており、その円筒形状を有する部分は、液体抽出ユニット1の筒状カバー26の定径面27aと略同一径を有しており、また、その径は定径面27aの後端から前端にかけて一定である。なお、本実施の形態においては、定径面49aの上面及び下面が円筒形状を成しており、また、その左右側面が上下方向に延びる平面となっている。テーパ部49bは、後方へ向かうに従って定径面49aよりも径が小さくなるようになっている。但し、テーパ部49bは連続した1つのテーパ面として形成されている必要はなく、図7に示すように、定径面49aよりも縮径された部分として形成されていればよい。また、筒状ケーシング34の前端部には、鍵爪状の係止部50が設けられており、カートリッジ3の貯留タンク5の所定位置には、この係止部50と係合する係合部61が形成されている。
【0037】
このような筒状ケーシング34を、シール部材33を挟んで、カートリッジ3の供給ユニット収容部60に外嵌するように被せ、係止部50と係合部61とを係合させて固定す
ることで、液体供給ユニット7は構成される。これにより、筒状ケーシング34の大径内周面47aは供給ユニット収容部60に外嵌し、供給ユニット収容部60の後端と、筒状ケーシング34の大径内周面47a及び小径内周面47bの間の段差面とにより、シール部材33の周縁部が前後方向から挟持される。また、このとき、シリンダ32の当接板46は、上述したようにコイルスプリング31に付勢されているため、当接板46の当接面46aの周縁部はシール部材33の前面に当接し、シール部材33の挿通孔33aは当接板46によって閉塞される(図5参照)。
【0038】
次に、カートリッジ3をカートリッジ装着部2へ装着したときの、液体抽出ユニット1及び液体供給ユニット7の態様について説明する。はじめに、図5(a)に示すようにカートリッジ3が「分離状態」のとき、供給ユニット収容部60内は、液体供給ユニット7におけるシール部材33よりインクカートリッジ3の内方に位置する空間も含めて、ここに連通する貯留室5aからのインクで満たされている。但し、上記のように供給ユニット収容部60の後端の開口が、シール部材33及び当接板46によって閉塞されているため、インクは供給ユニット収容部60の外部へ漏れでないようになっている。
【0039】
一方、図5(b)に示すように「装着状態」のとき、液体抽出ユニット1と液体供給ユニット7とが接続され、貯留室5a内のインクがプリンタ装置100へ供給される。より具体的には、カートリッジ3を装着していくと、液体抽出ユニット1の抽出管22が、液体供給ユニット7の筒状ケーシング34の開口48内に挿通され、更にシール部材33の挿通孔33aを拡径しつつ挿通孔33aへと挿通される。続いて抽出管22の先端22bが当接板46に当接し、これを前方(供給ユニット収容部60の奥側)へと押し込んで行く。なお、シール部材33は弾性材料によって形成されており、また、挿通孔33aの内径は、抽出管22の外径よりも若干小さいため、抽出管22が挿通孔33aへ挿通された状態において、シール部材33は弾性変形されつつ、抽出管22の外周面に接触する。よって、抽出管22の外周面とシール部材33との間がシールされ、ここからインクが漏れ出ないようになっている。
【0040】
その結果、抽出管22において、挿通孔33aより内方へ挿入された部分の周部にもインクが到達し、このインクは、抽出管22の切欠部25と当接板46との間に形成された隙間を通じて、抽出管22内のインク通路24へと抽出される。そして、このようにして抽出されたインクは、インク通路24からインク供給チューブ108を通じて液体吐出ユニット104へ供給され、更に液体吐出ヘッド109から吐出される。
【0041】
[抽出管保護に関する構造]
ところで、既に説明したように、装着状態では抽出管22とシール部材33との間はシールされ、ここからインクが漏れでないようになっている。しかしながら、装着状態のときに抽出管22にシール部材33が接触する部分(以下、「シール箇所22c」:図5参照)に傷が生じたり、該シール箇所よりも液体供給ユニット7の外部に位置している部分、すなわち、該シール箇所よりも抽出管22の基端22aに近い部分(以下、「根元部分22d」:図5参照)にヒビが生じると、この傷等を通じてインクが外部へ漏れ出る可能性がある。
【0042】
本実施の形態に係る液体抽出ユニット1では、このような傷等が抽出管22に生じにくいようになっている。具体的に説明すると、図5(a)に示すように、本実施の形態に係る液体抽出ユニット1の場合、抽出管22の基端22aから先端22b付近までの範囲が、筒状カバー26によって覆われており、シール箇所22c及び根元部分22dは、該筒状カバー26の内側に位置している。従って、液体抽出ユニット1の搬送時や洗浄時に、シール箇所22c及び根元部分22dに外力が直接加わるのを防止でき、傷等が生じるのを防止することができる。
【0043】
また、既に説明したように、本実施の形態に係る液体抽出ユニット1では、抽出管22及び筒状カバー26が互いに一体成形されている。従って、製造した時点から抽出管22が筒状カバー26により保護されることになる。即ち、抽出管22及び筒状カバー26を互いに別体に成形した場合、製造後に両者を組み合わせる必要があり、組み合わせるまでの間や、組み合わせ作業時に、抽出管22に外力が加わって傷等が生じてしまう可能性がある。これに対して両者を一体成形した場合、このような事態が生じることがなく、抽出管22を確実に保護することができる。
【0044】
なお、上述したように筒状カバー26は、抽出管22の基端22aから先端22b付近まで延設されているが、シール箇所22c及び根元部分22dに傷等が生じるのを防止するという観点からすれば、基端22aからシール箇所22cまでの領域を覆うだけの寸法が、筒状カバー26の前後方向寸法として最小限確保されていればよい。なぜなら、抽出管22のシール箇所22cよりも先端22b側の部分は、装着状態において、供給ユニット収容部60の内部空間に位置するので、その部分に傷やヒビが生じていたとしても、インクカートリッジ3および抽出管22の外部にインクが漏れることがないからである。しかしながら、抽出管22のシール箇所22cよりも先端22b側の部分に、バリが立つほどの大きな傷がついてしまった場合は、抽出管22が挿通孔33aに挿通される際に、そのバリがシール部材33を傷つけてしまう可能性もあるため、本実施形態のように、筒状カバー26は、抽出管22の基端22aから先端22b付近まで延設されているほうが好ましい場合もある。
【0045】
[装着途中で抽出管22の中心とシール部材33の挿通孔33aの中心とを略一致させるための構造]
本実施の形態に係る液体抽出ユニット1は、上述したような抽出管22を保護するための構造に加えて、カートリッジ3がカートリッジ装着部2へ装着される際に、抽出管22の中心とシール部材33の挿通孔33aの中心とを略一致させるべく、抽出管22に対して挿通孔33aを位置決めするための構造を備えている。図8は、装着過程で抽出管22に対してシール部材33の挿通孔33aを位置決めするための構造を説明するための断面図であり、(a)は液体抽出ユニット1及び液体供給ユニット7の分離状態、(b)は分離状態から装着状態へ至る途中の状態である中間状態、(c)は装着状態を夫々示している。
【0046】
本実施の形態に係る液体抽出ユニット1では、カートリッジ3がカートリッジ装着部2に装着される過程で、抽出管22の先端22bに液体供給ユニット7のシール部材33が接触する前に、筒状カバー26の内周面27が、液体供給ユニット7の筒状ケーシング34の外周面49に接触するように構成されている。
【0047】
図8(a)に示すように、筒状カバー26の内周面27の前端P1が、抽出管22の先端22bから後方へ離間する距離をL1とする。そして、筒状ケーシング34の外周面49の後端P2が、シール部材33における抽出管22との接触箇所P3(挿通孔33aの後端箇所)から後方へ離間する距離をL2とする。この場合に、本実施の形態ではL1<L2となるように設定されている。
【0048】
このように設定することにより、カートリッジ3をカートリッジ装着部2へと接近させていく過程で、仮に、抽出管22の中心(前後方向に延びる中心軸)と、シール部材33の挿通孔33aの中心(前後方向に延びる中心軸)とが(特に左右方向において、)ずれていたとしても、抽出管22の先端22bがシール部材33に接触する前に、筒状ケーシング34の外周面49が筒状カバー26のテーパ面27bと接触し、筒状ケーシング34が筒状カバー26の中心に向かってガイドされる。したがって、図8(b)の中間状態に
示すように、抽出管22の先端22bがシール部材33に接触する前に、抽出管22の中心と、シール部材33の挿通孔33aの中心とが略一致する。
【0049】
また、既に説明したように筒状カバー26の定径面27aの内径D1と、筒状ケーシング34の定径面49aの外径D2とは、略同一寸法となっている(図8(a)参照)。従って、図8(b)の中間状態から図8(c)の装着状態へ至る途中、抽出管22の中心とシール部材33の挿通孔33aの中心とが略一致した状態が維持されつつ、抽出管22がシール部材33に向かって移動し、挿通孔33aに挿通される。
【0050】
なお、抽出管22の中心と、シール部材33の挿通孔33aの中心とが一致せずに、抽出管22がシール部材33に向かって移動したとしても、抽出管22をシール部材33の挿通孔33aに挿通させることは可能であり、抽出管22の中心とシール部材33の挿通孔33aの中心とが一致することは必須ではない。しかしながら、抽出管22の中心と、シール部材33の挿通孔33aの中心とがずれていると、抽出管22が挿通孔33aに挿通される際に、抽出管22がシール部材33を傷つけてしまうかもしれないので、本実施形態のように、抽出管22の中心と、シール部材33の挿通孔33aの中心とが略一致するような構成を設けたほうが好ましい場合もある。
【0051】
ここで、筒状カバー26の内周面27の前端P1が抽出管22の先端22bよりも前方に位置している場合、上述した距離L1は負の値となる。距離L2は正の値であるので、当然L1<L2が成り立ち、この場合でも、上述したようにインクの外部漏出を防止することができる。
【0052】
また、筒状カバー26の定径面27aと筒状ケーシング34の定径面49aとが共に円筒面形状になっているため、装着作業の際にカートリッジ3が左右方向に多少傾けられていたとしても、筒状カバー26内に筒状ケーシング34を受け入れることができ、この点でも作業性の向上が図られている。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、抽出管に傷やヒビが生じるのを抑制して、カートリッジから抽出される液体が抽出管から漏れ出るのを防止することのできる液体抽出ユニットに適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 液体抽出ユニット
2 カートリッジ装着部
3 インクカートリッジ
4 装着ケース
5 貯留タンク
5a 貯留室
7 液体供給ユニット
22 抽出管
26 筒状カバー
27 筒状カバーの内周面
33 シール部材
34 筒状ケーシング
49 筒状ケーシングの外周面
100 プリンタ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯留室内の液体をシール部材を通じて外部へ供給可能なカートリッジと接続し、該カートリッジが貯留する液体を抽出する液体抽出ユニットであって、
先端と、その先端とは反対側に位置する基端とを有しており、前記カートリッジとの接続時に、当該先端が前記シール部材を通じて前記カートリッジ内へ挿通され、前記貯留室に連通する抽出管と、
該抽出管の周囲を取り囲む筒状のカバーとを備え、
該カバーは、前記抽出管を、その基端から、前記カートリッジが接続した状態で前記シール部材と接触するシール箇所まで覆うことを特徴とする液体抽出ユニット。
【請求項2】
前記カートリッジは前記シール部材を収容する筒状の収容部材を有しており、
前記カバーは、前記カートリッジと接続するときに、その内周面が前記収容部材の外周面に接触するよう構成されていることを特徴とする請求項1に記載の液体抽出ユニット。
【請求項3】
前記カバーの内周面は、前記カートリッジが有する前記収容部材の外周面における円筒形状面と接触し得る円筒形状面を有しており、前記収容部材の円筒形状面と前記カバーの円筒形状面とは略同一の径を有していることを特徴とする請求項2に記載の液体抽出ユニット。
【請求項4】
前記カバーは、前記カートリッジとの接続過程で前記抽出管の先端に前記シール部材が接触する前に、その内周面が前記収容部材の外周面に接触するよう構成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の液体抽出ユニット。
【請求項5】
前記抽出管は、その基端から先端にかけて第一方向に沿って延びており、
前記カートリッジは、前記第一方向とは反対方向である第二方向に沿って当該液体抽出ユニットに対して移動することにより、当該液体抽出ユニットと接続するものであって、
前記カバーの内周面の前記第一方向側の先端が、前記抽出管の先端から前記第二方向に離間する距離は、前記収容部材の外周面の前記第二方向側の先端が、前記シール部材における前記抽出管と接触する箇所の前記第二方向側の先端から前記第二方向に離間する距離よりも小さいことを特徴とする請求項4に記載の液体抽出ユニット。
【請求項6】
前記カバーは、前記抽出管における前記基端から前記先端付近までの範囲を覆うことを特徴とする請求項1に記載の液体抽出ユニット。
【請求項7】
前記抽出管と前記カバーとは一体的に成形されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の液体抽出ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−862(P2012−862A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137835(P2010−137835)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】