説明

液体組成物、記録方法、及び記録物

【課題】酸性の液体組成物により処理された記録媒体の表面にインクを付着させると、インクに含まれる着色剤が記録媒体上で凝集して堆積する。この堆積された層は耐擦性が弱いため、乾燥後の記録物に接触することで、ユーザーの手や印刷物の裏面等をインクで汚したりする問題が生じる。
【解決手段】液体組成物は、水溶性有機酸とこの水溶性有機酸に含まれる酸基1モルに対し0.9モル以上の水溶性アミンとを有する。この液体組成物の付着した記録媒体101にインクを付着させると、記録媒体の内部の液体組成物の付着部102でインクに含まれる水分散性着色剤104と液体組成物に含まれる塩とが接触し、上記の水分散性着色剤が凝集する。これにより、水分散性着色剤が記録媒体の内部の浅い位置で定着するので、フェザリングやカラーブリードの発生を防ぐことができると共に、定着性の高い記録物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体組成物、該液体組成物を用いた記録方法、及び該記録方法により記録された記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カラーの画像を安価に記録する要請に伴い、普通紙等の塗工層を持たない記録用の媒体(以下、記録媒体という)に、色の異なる複数のインクを付与して画像を記録するインクジェット記録方法が用いられている。この場合、塗工層を持たない記録媒体にインクを付与するため、インクが記録媒体の基材である紙に直接に吸収され、滲みによって記録された記録媒体(以下、記録物という)の品質の低下が発生し易い。
【0003】
そこで、浸透性の低いインクを用いて記録を行い、このインクの記録媒体への浸透を抑制して、記録物における記録媒体とインクとの境界の滲み(以下、フェザリングという)を防ぐことが考えられる。ところが、この場合、インクが記録媒体の表面に留まり易くなるため記録物の乾燥性が低下する。記録物の乾燥性が低下すると、乾燥前のインクに指等が接触して画像の汚れが発生したり、カラーの画像が記録される場合に乾燥前のインクの上に色の異なるインクが付着して、これらのインクの境界で滲み(以下、カラーブリードと言う)が発生したりする。一方、カラーブリードの発生を防ぐため浸透性の高いインクを用いる場合には、上記のフェザリングが発生して記録物の品質が低下する問題がある。
【0004】
そこで、これらの問題を同時に解決するために、インクと、このインクを記録媒体に定着させる液体組成物と、を用いた記録方法が提案されている。例えば、インクと、所定のポリマー微粒子を含んでなる液体組成物と、を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット記録方法が提案されている(特許文献1参照)。この提案によると、液体組成物とインクとが接触すると液体組成物中のポリアリルアミンがインク中の着色剤の分散状態を破壊し、それを凝集させるので滲みの少ない印字を実現するとしている。ところが、ポリマー微粒子を用いたこの提案は液体組成物の安定性の点で問題を有する。即ち、ポリマー微粒子によりインクを定着させるには多量のポリマー微粒子を必要とする。しかしながら、多量のポリマー微粒子を含む液体組成物は、粘度が上昇し易く、粘度の上昇に伴い液体組成物の吐出安定性や保存安定性が低下する問題がある。
【0005】
液体組成物に微粒子を用いない記録方法としては、所定の有機酸と所定の有機アミン化合物とを含む液体組成物と、インクとを用いた記録方法が提案されている(特許文献2参照)。この提案によると、液体組成物及とインクとが混合されたときに、酸性側でpH(Potential Hydrogen)が維持され、インクの色材を効果的に凝集させることができるとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、酸性の液体組成物を用いたこの方法は、インクの定着性の点で問題を有する。即ち、酸性の液体組成物により処理された記録媒体の表面にインクを付着させると、インクに含まれる着色剤が記録媒体上で速やかに凝集して堆積する。この堆積された層は擦過に対する耐性(耐擦性)が弱いため、乾燥後の記録物に接触することで、ユーザーの手や印刷物の裏面等をインクで汚したりする問題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、(1)式で示される水溶性有機酸と、前記水溶性有機酸に含まれる酸基1モルに対し0.9モル以上の(2)式で示される水溶性アミンと、水溶性有機溶剤と、水と、を含有することを特徴とする液体組成物である。
【0008】
【化1】

[(1)式中、Rは水酸基、メチル基、又は水素原子を示し、Rは水酸基、又はメチル基を示す。]
【0009】
【化2】

[(2)式中、Rはヒドロキシメチル基を示し、R4はメチル基、エチル基、又はヒドロキシメチル基を示し、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はヒドロキシメチル基を示す。]
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の液体組成物を記録媒体に付着させる液体組成物付着工程と、前記液体組成物が付着した記録媒体に、水分散性着色剤、水溶性有機溶剤、界面活性剤、浸透剤及び水を含有するインクを付着させて画像を記録する工程と、を有することを特徴とする記録方法である。
請求項8に係る発明は、請求項5又は6に記載の記録方法により画像が記録されたことを特徴とする記録物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、液体組成物は、水溶性有機酸とこの水溶性有機酸に含まれる酸基1モルに対し0.9モル以上の水溶性アミンとを有する。これにより、水分散性着色剤が記録媒体の内部の浅い位置で定着するので、フェザリングやカラーブリードの発生を防ぐことができると共に、耐擦性の高い記録物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態の記録物の記録部の状態を説明するための模式的断面図である。
【図2】本実施形態の記録方法に用いられる装置の一例を示す側面断面図である。
【図3】本実施形態の記録方法に用いられる装置の他の一例を示すの側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<<液体組成物>>
以下に好ましい実施の形態を挙げて、本実施形態の液体組成物を更に詳細に説明する。本実施形態の液体組成物は、所定の水溶性有機酸と、所定の水溶性アミンと、水溶性有機溶剤と、水とを含有し、この有機酸に含まれる酸基1モルに対し0.9モル以上のアミンを含有する。本実施形態の液体組成物を用いたインクの定着のメカニズムを、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態の記録物の記録部の状態を説明するための模式的断面図である。本実施形態の液体組成物は、水に溶解された有機酸が水に溶解されたアミンにより中和されて形成された塩を有する。この液体組成物が紙体からなる記録媒体101に付着させると、記録媒体に液体組成物の付着部102が形成される。付着部102では、液体組成物の水溶性有機溶剤が水を保持するので上記の塩の一部は水に溶解されたまま保持される。この付着部102にインクを付着させる場合、付着部102に含まれる有機酸の多くが中和されて中性化されているため、インクのpHが急激に変化しない。これにより、インクが記録媒体に付着した後に急激に水分散性着色剤が凝集(酸析)して、水分散性着色剤の多くが記録媒体上に堆積することが防げられるので、記録物の耐擦性が向上する。また、インクに含まれる水分散性着色剤によって記録媒体の表面に形成されるドットの面積が大きくなることから記録された画像(画像には、文字や記号等も含まれるものとする)の濃度が向上する。次に、インクが記録媒体101の液体組成物の付着部102に浸透すると、インクに含まれる水分散性着色剤は、液体組成物に含まれる塩と接触し、この塩の作用によって分散性を失い凝集(塩析)する。このようにして水分散性着色剤104が記録媒体の内部の浅い位置で定着することによりフェザリングやカラーブリードの発生が低減される。
【0013】
本実施形態の液体組成物は、記録媒体に付与された後、極力速やかに記録媒体に吸収され、見かけ上は乾燥された状態になることが望ましい。この目的を達成するためには、液体組成物の測定温度25℃における表面張力は、30mN/m以下であることが好ましく、28mNm以下であることがより好ましい。尚、液体組成物は、記録媒体に浸透した後、見かけ上乾燥した状態になれば良く、水等の液体が気化し液体状態を保てなくなる(本実施形態では、この状態を「固化」という)必要はない。この液体組成物が記録媒体に浸透し見かけ上は乾燥している状態になっていれば、液体組成物が固化していない状態であっても、インクを定着させることができ、記録される画像の品質を向上させることができる。次に本実施形態の液体組成物に含まれる各成分について説明する。
【0014】
<水溶性有機酸>
本実施形態の液体組成物に用いられる水溶性有機酸としては、アミンと塩を形成し易く、インクを穏やかに凝集させる効果が得られる等の理由により(1)式で示される水溶性有機酸が用いられる。ここで、水溶性とは水に溶解する性質を意味する。即ち、固体、液体、又は気体の(1)式で示される有機酸は、本実施形態の液体組成物中で溶媒である水に溶けて溶液が形成される。この有機酸の炭素数は、特に限定されないが、水への溶解性の点から1分子あたり6個以下であることが好ましい。(1)式で表される水溶性有機酸としては、例えば、乳酸(pKa:3.83)が挙げられる。水溶性有機酸の添加量としては、液体組成物の全体の1〜40質量%であることが好ましく、3〜30質量%であることがより好ましい。添加量が40質量%よりも多いとこの有機酸に含まれる酸基1モルに対し0.9モル以上のアミンを入れられなくなる可能性があり、1質量%よりも少ないと画像の品質を向上させる効果が小さくなる可能性がある。
【0015】
【化3】

尚、(1)式中Rは水酸基、メチル基、又は水素原子を示し、Rは水酸基、又はメチル基を示す。
【0016】
<水溶性アミン>
本実施形態の液体組成物に用いられる水溶性アミンとしては、水溶性有機酸と塩を形成し易く、インクを穏やかに凝集させる効果が得られる等の理由により(2)式で示される水溶性アミンが用いられる。(2)式で示されるアミンは固体、液体、又は気体のいずれであっても良く、本実施形態の液体組成物中で溶媒である水に溶けて溶液が形成される。なお、本実施形態において4級アミンとは、窒素原子に4つのアルキル基が置換した化合物を意味する。(2)式で表されるアミンとしては、例えば、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等が挙げられる。これらの中でも、記録媒体への浸透性が高い点で2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオールが特に好ましい。
【0017】
【化4】

尚、(2)式中、Rはヒドロキシメチル基を示し、Rはメチル基、エチル基、又はヒドロキシメチル基を示し、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又はヒドロキシメチル基を示す。
【0018】
このアミンの添加量としては、上記の(1)式の水溶性有機酸に含まれる酸基1molに対して0.9〜1.5molであることが好ましく、0.9〜1.2molであることがより好ましい。アミンの添加量が有機酸に含まれる酸基1molに対して0.9molよりも少ないと、有機酸が十分に中和されず、インクに含まれる水分散性着色剤を凝集(酸析)させ易くなる。これにより、水分散性着色剤によって記録物に形成されるドットが絞まり過ぎて画像に白いスジ(以下、白スジという)が発生する可能性がある。また、アミンの添加量が有機酸に含まれる酸基1molに対して1.5molよりも多いと、遊離したアミンがインクに含まれる水分散性着色剤の浸透を促進して記録された画像の濃度を低下させる可能性がある。尚、このアミンを(1)式の有機酸を中和して液体組成物を中性化することにより金属腐食性を低下させるために用いても良い。この場合、液体組成物のpHが5以上になるよう有機酸の種類に応じてアミンの添加量を調整することができる。尚、本実施形態の液体組成物のpHは、5以上9.5以下であることが好ましく、6.0以上9.0以下であることがより好ましい。上記のpHの範囲は、それらの間に5.5、6.5、7.0、7.5、8.0、及び8.5等の、特定値や部分的な範囲を含む。pHが5未満の場合には、有機酸のアミンによる中和が不充分であり、上記のように金属腐食性が高くなる場合があるだけでなく、記録物の品質を改良する効果が十分に得られない可能性がある。pHが9.5よりも大きい場合には、遊離したアミンによって記録された画像の濃度が低下する場合がある。液体組成物のpHは、例えば、pHメータHM−30R(TOA−DKK社製)を用いて、25℃で測定される。
【0019】
<水溶性有機溶剤>
本実施形態の液体組成物に用いられる水溶性有機溶剤は、液体組成物に含まれる水を保持する目的で用いられる。これにより、液体組成物が乾燥して水分の平衡状態に達した場合にも、液体組成物の粘度の増加が抑えられる。また、液体組成物を記録媒体に付着させた場合に、液体組成物の保持する水により有機酸とアミンとにより形成される塩が安定化される。このため、水溶性有機溶剤としては、平衡水分量の高い水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。ここで、平衡水分量とは、水溶性有機溶剤と水との混合物を一定温度、湿度の空気中に開放して、溶液中の水の蒸発と空気中の水のインクへの吸収が平衡状態になったときの水分量を言う。本実施形態では、平衡水分量は、塩化カリウム飽和水溶液を用いて温度を23±1℃、湿度を80±3%に保ったデシケーター内に1gの水溶性有機溶剤が秤量されたシャーレを質量変化がなくなるまでの期間保管し、次の式により求めることができる。
【0020】
【数1】

【0021】
本実施形態の液体組成物に用いられる水溶性有機溶剤としては、例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類、多価アルコールアリールエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレンが挙げられる。本実施形態で好適に用いられる水溶性有機溶剤としては、温度23℃、湿度80%環境中の平衡水分量が30wt%以上、好ましくは40wt%以上である水溶性有機溶剤(以後、水溶性有機溶剤Aと言う)が挙げられる。
【0022】
この水溶性有機溶剤Aとしては、多価アルコール類が好適に用いられ、具体例としては、1,2,3−ブタントリオール(bp(boiling point:沸点)175℃/沸点測定時の気圧(以下、常圧で測定されるものについては気圧を記載しない)33hPa、平衡水分量38wt%)、1,2,4−ブタントリオール(bp190−191℃/24hPa、平衡水分量41wt%)、グリセリン(bp290℃、平衡水分量49wt%)、ジグリセリン(bp270℃/20hPa、平衡水分量38wt%)、トリエチレングリコール(bp285℃、平衡水分量39wt%)、テトラエチレングリコール(bp324−330℃、平衡水分量37wt%)、ジエチレングリコール(bp245℃、平衡水分量43wt%)、1,3−ブタンジオール(bp203−204℃、平衡水分量35wt%)等が例示される。この中でもグリセリン、1,3−ブタンジオールは水を含んだときの粘度が低く、着色剤を凝集させずに安定に保てる理由により特に好適に用いられる。この水溶性有機溶剤Aを水溶性有機溶剤全体の50wt%以上用いた場合、液体組成物の吐出安定性を改良したり、記録装置への液体組成物の固着を防げられる点で好ましい。
【0023】
本実施形態の液体組成物は、水溶性有機溶剤Aに代えて、又は水溶性有機溶剤Aに加えて、温度23℃、湿度80%での平衡水分量が30wt%未満の水溶性有機溶剤(以後、水溶性有機溶剤Bと言う)を併用することができる。このような水溶性有機溶剤Bとしては、例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類、多価アルコールアリールエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン、その他の水溶性有機溶剤、等が挙げられる。
【0024】
水溶性有機溶剤Bの多価アルコール類の具体例としては、例えば、ジプロピレングリコール(bp232℃)、1,5−ペンタンジオール(bp242℃)、3−メチル−1,3−ブタンジオール(bp203℃)、プロピレングリコール(bp187℃)、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(bp197℃)、エチレングリコール(bp196−198℃)、トリプロピレングリコール(bp267℃)、ヘキシレングリコール(bp197℃)、ポリエチレングリコール(粘調液体〜固体)、ポリプロピレングリコール(bp187℃)、1,6−ヘキサンジオール(bp253−260℃)、1,2,6−ヘキサントリオール(bp178℃)、トリメチロールエタン(固体、mp(melting point)199−201℃)、トリメチロールプロパン(固体、mp61℃)等が挙げられる。
【0025】
上記の多価アルコールアルキルエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル(bp135℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(bp171℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(bp194℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(bp197℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(bp231℃)、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル(bp229℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(bp132℃)等が挙げられる。上記の多価アルコールアリールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテル(bp237℃)、エチレングリコールモノベンジルエーテル等が挙げられる。
【0026】
上記の含窒素複素環化合物としては、例えば、2−ピロリドン(bp250℃、mp25.5℃、平衡水分量47−48wt%)、N−メチル−2−ピロリドン(bp202℃)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(bp226℃)、ε−カプロラクタム(bp270℃)、γ−ブチロラクトン(bp204−205℃)等が挙げられる。上記のアミド類としては、例えば、ホルムアミド(bp210℃)、N−メチルホルムアミド(bp199−201℃)、N,N−ジメチルホルムアミド(bp153℃)、N,N−ジエチルホルムアミド(bp176−177℃)等が挙げられる。上記のアミン類としては、例えば、モノエタノールアミン(bp170℃)、ジエタノールアミン(bp268℃)、トリエタノールアミン(bp360℃)、N,N−ジメチルモノエタノールアミン(bp139℃)、N−メチルジエタノールアミン(bp243℃)、N−メチルエタノールアミン(bp159℃)、N−フェニルエタノールアミン(bp282−287℃)、3−アミノプロピルジエチルアミン(bp169℃)等が挙げられる。上記の含硫黄化合物類としては、例えば、ジメチルスルホキシド(bp139℃)、スルホラン(bp285℃)、チオジグリコール(bp282℃)等が挙げられる。
【0027】
更に、上記の水溶性有機溶剤とともに、固体保湿剤を用いることができる。固体保湿剤としては、糖類等が好ましい。上記の糖類の例としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類、四糖類を含む)、多糖類、等が挙げられる。具体的には、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、等が挙げられる。ここで、多糖類とは広義の糖を意味し、α−シクロデキストリン、セルロース等自然界に広く存在する物質を含む意味に用いることとする。また、これらの糖類の誘導体としては、上記の糖類の還元糖(例えば、糖アルコール(一般式:HOCH(CHOH)CHOH(ただし、nは2〜5の整数を表す)で表わされる。)、酸化糖(例えば、アルドン酸、ウロン酸等)、アミノ酸、チオ酸等が挙げられる。これらの中でも、糖アルコールが好ましく、具体例としてはマルチトール、ソルビット等が挙げられる。
【0028】
上記の水溶性有機溶剤の液体組成物中における含有量は、特に限定されないが、通常、10〜80質量%、好ましくは15〜60質量%である。80質量%より大きいと水溶性有機溶剤の種類によっては液体組成物を付着させた記録媒体の乾燥性が低下する可能性がある。水溶性有機溶剤の含有量が10質量%より小さいと、液体組成物に含まれる水が気化し易くなり、水が気化すると液体組成物の粘度が上昇し塗布工程で不具合が生じてしまう可能性がある。
【0029】
<その他成分>
続いて、本実施形態の液体組成物に添加されるその他成分について説明する。本実施形態の液体組成物は所定の有機酸と所定のアミンと水溶性有機溶剤とを含むが、その他に有機酸の金属塩化合物、無機金属塩化合物、界面活性剤、浸透剤等を含んでいても良い。
【0030】
(有機酸の金属塩化合物、無機金属塩化合物)
本実施形態の液体組成物は、塩析の作用を高め記録される画像の濃度を高める目的で金属塩化合物又は無機金属塩化合物を含有しても良い。この場合、有機酸の金属塩化合物又は無機金属塩化合物の添加量としては、液体組成物の全体の0.1〜10質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがより好ましい。10質量%より大きい場合には、有機酸の金属塩化合物又は無機金属塩化合物が十分に溶解せずに析出することがあり、0.1質量%より小さい場合には画像の濃度を向上させる効果が小さくなることがある。
【0031】
上記の有機酸の金属塩化合物としては、例えば、L−アスパラギン酸ナトリウム、L−アスパラギン酸マグネシウム、アスコルビン酸カルシウム、L−アスコルビン酸ナトリウム、琥珀酸ナトリウム、琥珀酸二ナトリウム、琥珀酸二アンモニウム、クエン酸アルミニウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸三アンモニウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸二アンモニウム、クエン酸二ナトリウム、乳酸亜鉛、乳酸アルミニウム、乳酸アンモニウム、乳酸カリウム、乳酸カルシウム、乳酸ナトリウム、乳酸マグネシウム、酒石酸カリウム、酒石酸カルシウム、DL−酒石酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムカリウム等が挙げられる。
【0032】
上記の無機金属塩化合物としては、例えば、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マンガン、硫酸ニッケル、硫酸鉄(II)、硫酸銅(II)、硫酸亜鉛、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、硝酸コバルト、硝酸ストロンチウム、硝酸銅(II)、硝酸ニッケル(II)、硝酸鉛(II)、硝酸マンガン(II)、硝酸カルシウム、塩化ニッケル(II)、塩化カルシウム、塩化スズ(II)、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、塩化マグネシウムが挙げられる。
【0033】
(界面活性剤)
本実施形態の液体組成物は、記録媒体の濡れ性を改質し、記録物の画像の濃度、彩度及び白ポチ(記録物の画像部に空白が残ることをいう)を改良するために界面活性剤を含有しても良い。この場合、界面活性剤の含有量としては、液体組成物の全体の0.001質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上2質量%以下であることがより好ましい。含有量が0.001質量%未満であると、界面活性剤を添加する効果が小さくなることがあり、5質量%より多いと添加量を増やしても効果に違いが見られないことがある。尚、液体組成物に界面活性剤を用いる場合、この界面活性剤により液体組成物の表面張力を30mN/m以下に調整することが好ましい。
【0034】
この界面活性剤としては、フッ素系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ベタイン系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤が好適に用いられ、特にフッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。これら界面活性剤は、1種を単独で用いても2種以上を混合して用いても良い。
【0035】
上記のフッ素系界面活性剤としては、フッ素により置換された炭素の数が2以上16以下であるものが好ましく、4以上16以下であるものがより好ましい。フッ素により置換された炭素の数が2未満であると、フッ素系界面活性剤を用いる効果が得られないことがあり、16を超えると保存性等の問題が生じることがある。
【0036】
このフッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物、等が挙げられる。これらの中でも、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物は起泡性が少ないため好ましく、特に(f−1)式で表わされるフッ素系界面活性剤が好ましい。
【0037】
【化5】

尚、(f−1)式中、mは0〜10の整数を示す。nは1〜40の整数を示す。
【0038】
上記のパーフルオロアルキルスルホン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、等が挙げられる。上記のパーフルオロアルキルカルボン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、等が挙げられる。上記のパーフルオロアルキルリン酸エステル化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルリン酸エステルの塩、等が挙げられる。上記のパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物としては、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの硫酸エステル塩、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの塩、等が挙げられる。これらフッ素系界面活性剤における塩の対イオンとしては、Li、Na、K、NH、NHCHCHOH、NH(CHCHOH)、NH(CHCHOH)等が挙げられる。
【0039】
これらのフッ素系界面活性剤としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。ここで市販品としては、例えば、サーフロンS−111、S−112、S−113、S−121、S−131、S−132、S−141、S−145(いずれも、旭硝子株式会社製);フルラードFC−93、FC−95、FC−98、FC−129、FC−135、FC−170C、FC−430、FC−431(いずれも、住友スリーエム株式会社製);メガファックF−470、F−1405、F−474(いずれも、大日本インキ化学工業株式会社製);ゾニール(Zonyl)TBS、FSP、FSA、FSN−100、FSN、FSO−100、FSO、FS−300、UR(いずれも、DuPont社製);FT−110、FT−250、FT−251、FT−400S、FT−150、FT−400SW(いずれも、株式会社ネオス製)、ポリフォックスPF−136A,PF−156A、PF−151N、PF−154、PF−159(オムノバ社製)等が挙げられ、これらの中でも、良好な印字品質、特に彩度、紙に対する均染性が著しく向上する点から、DuPont社製のFS−300、株式会社ネオス製のFT−110、FT−250、FT−251、FT−400S、FT−150、FT−400SW及びオムノバ社製のポリフォックスPF−151Nが特に好ましい。
【0040】
他のフッ素系界面活性剤の具体例としては、(f−2)〜(f−10)式で表わされるものが好適に用いられる。
(1)アニオン系フッ素系界面活性剤
【0041】
【化6】

尚、(f−2)式中、Rfは式(f−2a)で表わされるフッ素含有疎水基の混合物を表わす。Aは、−SOX、−COOX、又は−POX(ただし、Xは対アニオンであり、具体的には、水素原子、Li、Na、K、NH、NHCHCHOH、NH(CHCHOH)、又はNH(CHCHOH)が挙げられる)を表わす。
【0042】
【化7】

【0043】
【化8】

尚、(f−3)式中、Rf’は(f−3a)式で表わされるフッ素含有基を表わす。Xは、(f−2)式のXと同じ意味を表わす。nは1又は2の整数、mは2−nを表わす。
【0044】
【化9】

尚、(f−3a)式中、nは3〜10の整数を表わす。
【0045】
【化10】

尚、(f−4)式中、Xは(f−2)式のXと同じ意味を表わし、Rf’は(f−3)式のRf’と同じ意味を表す。
【0046】
【化11】

尚、(f−5)式中、Xは(f−2)式のXと同じ意味を表わし、Rf’は(f−3)式のRf’と同じ意味を表す。
(2)ノニオン系フッ素系界面活性剤
【0047】
【化12】

尚、(f−6)式中、Rfは、(f−2)式のRfと同じ意味を表わす。nは5〜20の整数を表わす。
【0048】
【化13】

尚、(f−7)式中、Rf’は、(f−3)式のRf’と同じ意味を表わす。nは1〜40の整数を表わす。
(3)両性フッ素系界面活性剤
【0049】
【化14】

尚、(f−8)式中、Rfは、(f−2)式のRfと同じ意味を表わす。
(4)オリゴマー型フッ素系界面活性剤
【0050】
【化15】

尚、(f−9)式中、Rf”は、(f−9a)式で表わされるフッ素含有基を表わす。nは0〜10の整数を表わす。Xは、前記(f−2)式のXと同じ意味を表わす。
【0051】
【化16】

尚、(f−9a)式中、nは1〜4の整数を表わす。
【0052】
【化17】

尚、(f−10)式中、Rf”は、(f−9)式のRf”と同じ意味を表わす。lは0〜10の整数、mは0〜10の整数、nは0〜10の整数をそれぞれ表わす。
【0053】
上記のシリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択されるが、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。ポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤は、水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。上記のポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(si−1)式で表わされるポリアルキレンオキシド構造をジメチルポリシロキサンのSi部側鎖に導入した化合物、等が挙げられる。
【0054】
【化18】

尚、(si−1)式中、m、n、a、及びbは整数を表わす。R及びR’はアルキル基、アルキレン基を表わす。
【0055】
このようなシリコーン系界面活性剤としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、ビックケミー株式会社、信越化学工業株式会社、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社、日本エマルジョン株式会社、共栄社化学等から入手できる。具体的には、例えば、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、KF−618、KF−642、KF−643(信越化学工業株式会社)、EMALEX−SS−5602、SS−1906EX(日本エマルジョン株式会社)、FZ−2105、FZ−2118、FZ−2154、FZ−2161、FZ−2162、FZ−2163、FZ−2164(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社)、BYK−33、BYK−387(ビックケミー株式会社)等が挙げられる。
【0056】
上記のアニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩、等が挙げられる。上記のノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、等が挙げられる。
【0057】
(浸透剤)
本実施形態の液体組成物は、浸透剤として炭素数8〜11の非湿潤剤性ポリオール化合物又はグリコールエーテル化合物を少なくとも1種を含有することが好ましい。この場合、浸透剤の液体組成物における含有量は、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。含有量が0.1質量%未満であると、液体組成物を浸透させる効果がなくなることがあり、5.0質量%を超えると、浸透剤の溶媒への溶解性が低い為に溶媒から分離して浸透性を向上させる効果が飽和してしまうことがある。これらは、25℃の水中において0.2〜5.0質量%の間の溶解度を有するものが好ましい。これらの中でも、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール[溶解度:4.2%(25℃)]、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール[溶解度:2.0%(25℃)]が特に好ましい。
【0058】
その他の非湿潤剤性ポリオール化合物として、例えば、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、5−ヘキセン−1,2−ジオール等の脂肪族ジオールが挙げられる。その他の併用できる浸透剤としては、液体組成物中に溶解させて所望の物性に調整できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールクロロフェニルエーテル等の多価アルコールのアルキル及びアリールエーテル類、エタノール等の低級アルコール類、等が挙げられる。
【0059】
(その他)
本実施形態の液体組成物は、必要により、一般的なインクに用いられる防腐剤、防錆剤等を含有しても良い。
【0060】
<<インク>>
続いて、本実施形態の記録方法に用いられるインクについて説明する。本実施形態の記録方法に用いられるインクは、水分散性着色剤、水溶性有機溶剤、界面活性剤、浸透剤及び水を含有する。インクの色は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択され、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック等の色が挙がられる。これらの色のインクを2種以上併用したインクセットを使用して記録を行うとカラーの画像を記録することができ、少なくとも3色のインクを併用したインクセットを使用して記録を行うと、フルカラーの画像を記録することができる。
【0061】
このインクは、いわゆるピエゾ型の記録装置(特開平2−51734号公報参照)や、いわゆるサーマル型の記録装置(特開昭61−59911号公報参照)、いわゆる静電型の記録装置(特開平6−71882号公報参照)等の記録装置を用いたインクジェット記録方法に好適に用いられる。また、このインクは、例えば、記録時又は記録前後に記録媒体及びインクを所定の温度に加熱し、記録物の定着を促進する機能を有する記録装置でも好適に用いられる。
【0062】
本実施形態のインクの物性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択され、例えば、粘度、表面張力等が以下の範囲であることが好ましい。まず、インクの25℃での粘度は5mPa・s以上20mPa・s以下であることが好ましい。インクの粘度を5mPa・s以上にすることによって、記録される画像の濃度や品質を向上させる効果が得られる。一方、インクの粘度を20mPa・s以下にすることで、良好な吐出安定性が得られる。ここで、粘度は、粘度計(例えば、RE−550L、東機産業株式会社製)を使用して25℃で測定することができる。インクの表面張力としては、25℃で20mN/m以上35mN/m以下であることが好ましく、20mN/m以上30mN/m以下であることがより好ましい。インクの表面張力が20mN/m以上35mN/m以下である場合には、インクの浸透性が高められて普通紙に記録した場合にも乾燥性が良好となり、カラーブリードが低減される。また記録媒体の液体組成物の付着部に濡れ易くなり、記録物の彩度が高くなり白ポチも改良される。表面張力が、35mN/mを超えると、記録媒体上のインクのレベリング(記録媒体の表面に瞬間的にインクが均一に濡れることを意味する)が起こり難く、乾燥時間の長時間化を招くことがある。
【0063】
<水分散性着色剤>
上記のインクは水分散性着色剤として、耐候性の面から主として顔料が用いられるが、色調を調整する目的で耐候性を劣化させない範囲内で染料を併用しても構わない。この顔料としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択され、例えば、黒色用、或いはカラー用の無機顔料や有機顔料等が用いられる。これらの顔料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。水分散性着色剤のインクにおける含有量は、固形分で2質量%以上15質量%以下であることが好ましく、3質量%以上12質量%以下であることがより好ましい。含有量が2質量%未満であると、記録物の彩度や濃度が低くなることがあり、15質量%を超えると、インクの粘度が高くなって吐出安定性が低下することがある。ここで、インクの固形分含有量は、例えば、インク中から水分散性着色剤と水分散性樹脂分のみを分離する方法により測定される。また、水分散性着色剤として顔料を用いる場合には、熱質量分析により質量減少率を評価することで着色剤と水分散性樹脂との比率が測定される。また、水分散性着色剤の分子構造が明らかな場合には、顔料や染料ではNMR(Nuclear Magnetic Resonance)を用いて着色剤の固形分量を定量することが可能であり、重金属原子、分子骨格に含まれる無機顔料、含金有機顔料、含金染料では蛍光X線分析を用いることで着色剤の固形分量を定量することが可能である。
【0064】
上記の無機顔料としては、酸化チタン及び酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローに加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
【0065】
上記の有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等が使用される。これらの顔料のうち、特に、水と親和性の良いものが好ましく用いられる。
【0066】
顔料において、より好ましく用いられる顔料の具体例としては、黒色用としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、または銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料が挙げられる。また、カラー用としては、C.I.ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、408、109、110、117、120、128、138、150、151、153、183、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22、23、31、38、48:2、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3、48:4、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、209、219、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19、23、38、C.I.ピグメントブルー1、2、15、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルー)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36等が挙げられる。
【0067】
水分散性着色剤が顔料である場合に顔料を水に分散させる形態としては、好ましくは以下の第1又は第2の形態が挙げられる。第1の形態では、ポリマー微粒子に水不溶乃至水難溶性の色材を含有させてなる分散質(樹脂により被覆された顔料ともいう)を分散媒である水に分散させてポリマーエマルジョン(色材を含有させたポリマー微粒子の水分散物)とする。第2の形態では、表面に少なくとも1種の親水基を有し、分散剤の不存在下で水分散性を示す顔料(以下、「自己分散性顔料」ともいう)を水に分散させる。
【0068】
第1の形態で用いられるポリマーエマルジョンとしては、ポリマー微粒子中に顔料を封入したもの、又はポリマー微粒子の表面に顔料を吸着させたものが挙げられる。この場合、全ての顔料が封入又は吸着されている必要はなく、本実施形態の効果が損なわれない範囲で顔料がエマルジョン中に分散にしていてもよい。ポリマーエマルジョンを形成するポリマー(ポリマー微粒子におけるポリマー)としてはビニル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、及びポリウレタン系ポリマー等が挙げられるが、特に好ましく用いられるポリマーはビニル系ポリマー及びポリエステル系ポリマーであり、特開2000−53897号公報、特開2001−139849号公報等に開示されているポリマーを使用することができる。
【0069】
第2形態の自己分散性顔料は、顔料の表面に少なくとも1種の親水基を直接もしくは他の原子団を介して結合させて表面の改質がなされたものである。この表面の改質には、顔料の表面に、所定の官能基(スルホン基やカルボキシル基等の官能基)を化学的に結合させるか、あるいは、次亜ハロゲン酸又はその塩の少なくともいずれかを用いて湿式酸化処理する等の方法が用いられる。これらの中でも、顔料の表面にカルボキシル基が結合され、水中に分散されている形態が特に好ましい。顔料の表面にカルボキシル基を結合させると、顔料の分散安定性が向上するばかりではなく、高い品質の画像が得られ、記録後の記録媒体の耐水性がより向上する。また、この第2形態の自己分散性顔料を含有するインクは乾燥後の再分散性に優れるため、長期間記録を休止し、記録装置のノズルに充填されたインクの水分が蒸発した場合も目詰まりを起こさず、簡単なクリーニング動作で容易に良好な記録が行える。このような特性を得るために、自己分散性顔料の体積平均粒径(D50)は、インク中において0.01〜0.16μmが好ましい。ここで、D50は、メジアン径とも言い、粒子をある粒径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量となる径を意味する。尚、本実施形態では、第2形態の自己分散性顔料を用いる場合、インクは耐擦性及び耐水性を向上させるために後に説明する水分散性樹脂を含有することが好ましい。
【0070】
自己分散性顔料が、自己分散性カーボンブラックである場合、イオン性を有するものが好ましく、アニオン性を有するものがより好ましい。この場合、カーボンブラックに結合されるアニオン性の官能基としては、例えば、−COOM、−SOM、−POHM、−PO、−SONH、−SONHCOR(ただし、Mは、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表わす。Rは、炭素原子数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基又は置換基を有してもよいナフチル基を表わす)等が挙げられる。これらの中でも、−COOM、−SOMが好ましい。また、上記の官能基における「M」がアルカリ金属である場合、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、等が用いられる。「M」が有機アンモニウムである場合、例えば、モノ乃至トリメチルアンモニウム、モノ乃至トリエチルアンモニウム、モノ乃至トリメタノールアンモニウムが用いられる。官能基は、他の原子団を介してカーボンブラックの表面に結合されていてもよい。他の原子団としては、例えば、炭素原子数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基又は置換基を有してもよいナフチル基が挙げられる。原子団を介してカーボンブラックの表面に結合される官能基の具体例としては、例えば、−CCOOM(ただし、Mは、アルカリ金属、又は第4級アンモニウムを表わす)、−PhSOM(ただし、Phはフェニル基を表わす。Mは、アルカリ金属、又は第4級アンモニウムを表わす)等が挙げられる。
【0071】
自己分散性顔料がカラーの顔料である場合、イオン性を有するものが好ましく、アニオン性を有するものがより好ましい。この場合、アニオン性の官能基を有するカラー顔料を得るために、例えば、カラー顔料を次亜塩素酸ソーダで酸化処理する方法、スルホン化による方法、ジアゾニウム塩を反応させる方法により上記のアニオン性官能基(例えば、−COONa)を導入することができる。
【0072】
<水溶性有機溶剤>
インクに用いられる水溶性有機溶剤としては、上記の液体組成物に用いられる水溶性有機溶剤が好適に用いられる。このインクにおける水分散性着色剤と水溶性有機溶剤との質量比は、ヘッドからのインク吐出安定性に影響を与える。例えば、水分散性着色剤の固形分が高いのに水溶性有機溶剤の配合量が少ないとノズルのインクメニスカス付近の水分蒸発が進み吐出不良をもたらすことがある。水溶性有機溶剤のインク中における含有量は、20質量%以上50質量%以下が好ましく、20質量%以上45質量%以下がより好ましい。含有量が20質量%未満であると、吐出安定性が低下したり記録装置の維持装置で廃インクが固着したりする可能性がある。また、50質量%を超えると、紙面上での乾燥性が低下したり更に記録物の品質が低下したりすることがある。
【0073】
<界面活性剤>
インクに用いられる界面活性剤としては、本実施形態の液体組成物に用いられる界面活性剤が好適に用いられる。この中でも、水分散性着色剤の種類や水溶性有機溶剤との組み合わせによって分散安定性が損なわれず、表面張力が低く、浸透性、レベリング性の高いものを選択することが好ましい。具体的には、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。これらの中でも、シリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤が特に好適に用いられる。これら界面活性剤は、1種を単独、又は2種以上を混合して用いることができる。界面活性剤のインクにおける含有量は、0.01質量%以上3.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましい。この含有量が0.01質量%未満であると、界面活性剤を添加したときに得られる効果が充分で無くなることがあり、3.0質量%を超えると、記録媒体への浸透性が必要以上に高くなり、記録された画像の濃度が低下したり裏抜け(記録媒体に付着して浸透したインクが記録面の裏面にまで達すること、又は裏面から目視又は所定の装置で認識されることをいう)が発生したりすることがある。
【0074】
<浸透剤>
インクに用いられる浸透剤としては、本実施形態の液体組成物に用いられる浸透剤が好適に用いられる。浸透剤のインクにおける含有量は、0.1質量%以上4.0質量%以下であることが好ましい。含有量が0.1質量%未満であると、乾燥性が低下して記録された画像に滲みが発生する可能性がある。また、含有量が4.0質量%を超えると、着色剤の分散安定性が損なわれ、記録装置のノズルが目詰まりしやすくなったり、記録媒体への浸透性が必要以上に高くなり、記録物の濃度が低下したり裏抜けが発生したりすることがある。
【0075】
<水分散性樹脂>
水分散性樹脂は、記録物のインクの付着した表面で造膜することにより、記録された画像の撥水性や耐水性、耐候性を高めたり、濃度や彩度を高めたりするために用いられる。この水分散性樹脂は、ホモポリマー、コポリマーからなる複合系樹脂のいずれを用いてもよく、単相構造型及びコアシェル型、パワーフィード型エマルジョンのいずれを用いても良い。また、水分散性樹脂としては、樹脂自身が親水基を持ち自己分散性を持つもの、樹脂自身は分散性を持たず界面活性剤や親水基をもつ樹脂によって分散性を付与したもののいずれも使用できる。この水分散性樹脂としては、例えば、縮合系合成樹脂、付加系合成樹脂、天然高分子化合物等が挙げられる。
【0076】
この縮合系合成樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリ(メタ)アクリル樹脂、アクリル−シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。上記の付加系合成樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルエステル系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、不飽和カルボン酸系樹脂等が挙げられる。上記の天然高分子化合物としては、例えば、セルロース類、ロジン類、天然ゴム等が挙げられる。これらの中でも、特にポリウレタン樹脂微粒子、アクリル−シリコーン樹脂微粒子及びフッ素系樹脂微粒子が好ましい。また、水分散性樹脂を2種類以上併用しても良い。
【0077】
ここで、フッ素系樹脂としては、フルオロオレフィン単位を有するフッ素系樹脂微粒子が好ましく、これらの中でも、フルオロオレフィン単位及びビニルエーテル単位から構成されるフッ素含有ビニルエーテル系樹脂微粒子が特に好ましい。フルオロオレフィン単位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば−CFCF−、−CFCF(CF)−、−CFCFCl−等が挙げられる。ビニルエーテル単位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、下記構造式で表わされる化合物等が挙げられる。
【0078】
【化19】

【0079】
フルオロオレフィン単位及びビニルエーテル単位から構成されるフッ素含有ビニルエーテル系樹脂微粒子としては、上記のフルオロオレフィン単位とビニルエーテル単位とが交互に共重合してなる交互共重合体が好ましい。このようなフッ素系樹脂微粒子としては、適宜合成されたものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。ここで、市販品としては、例えば、大日本インキ化学工業株式会社製のフルオネートFEM−500、FEM−600、ディックガードF−52S、F−90、F−90M、F−90N,アクアフランTE−5A;旭硝子株式会社製のルミフロンFE4300、FE4500、FE4400、アサヒガードAG−7105、AG−950、AG−7600、AG−7000、AG−1100等が挙げられる。
【0080】
また、水分散性樹脂として、ポリエステル樹脂やポリウレタン樹脂のアイオノマーや不飽和単量体の乳化及び懸濁重合によって得られた樹脂粒子が好適に用いられる。ここで、不飽和単量体の乳化重合を行う場合には、不飽和単量体、重合開始剤、界面活性剤、連鎖移動剤、キレート剤、及びpH調整剤等を添加した水を反応させて樹脂エマルジョンを得るため、水分散性樹脂の作製が容易である。また、この場合、樹脂を構成する成分を容易に変えられるため目的の性質の水分散性樹脂を作りやすい。この不飽和単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、単官能又は多官能の(メタ)アクリル酸エステル単量体類、(メタ)アクリル酸アミド単量体類、芳香族ビニル単量体類、ビニルシアノ化合物単量体類、ビニル単量体類、アリル化合物単量体類、オレフィン単量体類、ジエン単量体類、不飽和炭素を持つオリゴマー類等を単独及び複数組み合わせて用いることができる。これらの単量体の組み合わせることにより作製される水分散性樹脂の性質を容易に変えることができる。更に、重合開始剤としてオリゴマー型重合開始剤を用いて重合反応、グラフト反応を行うことで樹脂の特性を改質することもできる。
【0081】
不飽和単量体の不飽和カルボン酸類としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸等が挙げられる。不飽和単量体の単官能の(メタ)アクリル酸エステル単量体類としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウム塩、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−へキシルアクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、アクリロキシエチルトリメチルアンモニウム塩、等が挙げられる。不飽和単量体の多官能の(メタ)アクリル酸エステル単量体類としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2’−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2’−ビス(4−アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパントリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、等が挙げられる。不飽和単量体の(メタ)アクリル酸アミド単量体類としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。不飽和単量体の芳香族ビニル単量体類としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。不飽和単量体のビニルシアノ化合物単量体類としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。不飽和単量体のビニル単量体類としては、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、塩化ビニル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン、ビニルスルホン酸又はその塩、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。不飽和単量体のアリル化合物単量体類としては、例えば、アリルスルホン酸その塩、アリルアミン、アリルクロライド、ジアリルアミン、ジアリルジメチルアンモニウム塩等が挙げられる。不飽和単量体のオレフィン単量体類としては、例えば、エチレン、プロピレン等が挙げられる。不飽和単量体のジエン単量体類としては、例えば、ブタジエン、クロロプレン等が挙げられる。不飽和単量体の不飽和炭素を持つオリゴマー類としては、例えば、メタクリロイル基を持つスチレンオリゴマー、メタクリロイル基を持つスチレン−アクリロニトリルオリゴマー、メタクリロイル基を持つメチルメタクリレートオリゴマー、メタクリロイル基を持つジメチルシロキサンオリゴマー、アクリロイル基を持つポリエステルオリゴマー等が挙げられる。
【0082】
水分散性樹脂は、強アルカリ性、強酸性下では分散破壊や加水分解等の分子鎖の断裂が引き起こされるため、インクに調整される前のpHが4〜12であることが好ましく、特に水分散着色剤との混和性の点からpHが6〜11であることがより好ましく、7〜9であることが更に好ましい。水分散性樹脂の平均粒径(D50)は、分散液の粘度と関係しており、組成及び固形分の濃度が同じ場合には粒径が小さくなるほど粘度が大きくなる。従って、インクにした場合に粘度が高くなり過ぎないために水分散性樹脂の平均粒径(D50)は50nm以上が好ましい。また、粒径が数十μmになると記録装置のヘッドのノズルの径より大きくなる。このような粒径の大きな粒子は、インク中に存在することにより吐出安定性を悪化させる。そこで、インクの吐出安定性を確保するために水分散性樹脂の平均粒径(D50)は200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましい。また、水分散性樹脂は、水分散性着色剤を記録媒体に定着させる働きを有するため、常温で被膜化することが好ましい。このため、水分散性樹脂の最低造膜温度(MFT:Minimum Film forming Temperature)は30℃以下であることが好ましい。また、水分散性樹脂のガラス転移温度が−40℃より小さくなると樹脂皮膜の粘稠性が強くなり記録物にタック(粘着性、乾燥したインクにおけるベタツキを意味する)が生じる場合がある。このため、水分散性樹脂のガラス転移温度が−40℃以上であることが好ましく、−30℃以上であることがより好ましい。水分散性樹脂のインクにおける含有量は、固形分で1質量%以上15質量%以下であることが好ましく、2質量%以上7質量%以下であることがより好ましい。
【0083】
<その他成分>
続いて本実施形態の記録方法に用いられるインクに添加することのできるその他成分について説明する。その他成分としては、特に制限はなく、必要に応じて適宜選択することができ、例えば、pH調整剤、防腐防黴剤、キレート試薬、防錆剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、光安定化剤、等が挙げられる。
【0084】
(pH調整剤)
pH調整剤としては、調合されるインクに悪影響を及ぼさずにpHを7〜11に調整できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。インクのpHが7に満たないと又は11を超えると記録装置のヘッドやインクを供給するユニットを溶かし出して、インクを変質又は漏洩して、吐出不良等の不具合が生じることがある。本実施形態で好適に用いられるpH調整剤としては、例えば、アルコールアミン類、アルカリ金属元素の水酸化物、アンモニウムの水酸化物、ホスホニウム水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩等が挙げられる。上記のアルコールアミン類としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−エチル−1,3プロパンジオール等が挙げられる。上記のアルカリ金属元素の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。上記のアンモニウムの水酸化物としては、例えば、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物、第4級ホスホニウム水酸化物等が挙げられる。上記のアルカリ金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。
【0085】
(防腐防黴剤)
防腐防黴剤としては、例えば、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム等が好適に用いられる。
【0086】
(キレート試薬)
キレート試薬としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウム等が好適に用いられる。
【0087】
(防錆剤)
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライト等が好適に用いられる。
【0088】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、等が好適に用いられる。
【0089】
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤、等が好適に用いられる。
【0090】
<インク製法>
インクは、水分散性着色剤、水溶性有機溶剤、界面活性剤、浸透剤及び水、更に必要に応じて他の成分を水性媒体中に分散又は溶解し、更に必要に応じて攪拌混合することにより製造される。この攪拌混合は、例えば、サンドミル、ホモジナイザー、ボールミル、ペイントシェイカー、超音波分散機等により行うことができ、攪拌羽を用いた攪拌機、マグネチックスターラー、高速の分散機等で行うこともできる。
【0091】
<<記録媒体>>
本実施形態の記録方法に用いられる記録媒体としては、塗工層を持たない普通紙が好適に用いられる。特に、この記録媒体は、コピー用紙等に用いられているサイズ度が10S以上で、透気度が5S以上50S以下の普通紙であることが好ましい。
【0092】
<<記録方法>>
本実施形態の記録方法は、記録媒体に本実施形態の液体組成物を付着させる液体組成物付着工程と、液体組成物が付着した記録媒体にインクを付着させる工程とを有する。これらの各工程について説明する。
【0093】
<液体組成物付着工程>
液体組成物付着工程としては、記録媒体の表面に本実施形態の液体組成物を均一に付与して付着させる方法を用いればよく、特に制限はない。このような方法として、例えば、ブレードコート法、グラビアコート法、グラビアオフセットコート法、バーコート法、ロールコート法、ナイフコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、Uコンマコート法、AKKUコート法、スムージングコート法、マイクログラビアコート法、リバースロールコート法、4本乃至5本ロールコート法、ディップコート法、カーテンコート法、スライドコート法、ダイコート法等が挙げられる。
【0094】
液体組成物を付着させる工程における液体組成物の記録媒体へのウエット付着量(記録媒体を乾燥させる前の液体組成物の付着量を意味する)は、0.1g/m以上16.0g/m以下であることが好ましく、0.2g/m以上10.0g/m以下であることがより好ましく、0.3g/m以上3.2g/m以下であることが更に好ましい。ウエット付着量が0.1g/m未満であると記録物の画像の品質(濃度、彩度、カラーブリード、フェザリング)が向上しない場合があり、30.0g/mを超えると記録物の風合いが損なわれたり、カールが発生したりすることがある。尚、液体組成物が付着した記録媒体に対し、必要に応じて乾燥工程を設けることができる。この場合、ロールヒーター、ドラムヒーターや温風により記録媒体を乾燥させることができる。
<インクを付着させる工程>
本実施形態の記録方法におけるインクを付着させる工程は、本実施形態の液体組成物が付着した記録媒体にインクを付与して付着させることにより、この記録媒体に画像を記録する工程である。インクを付着させる方法としては、所定の装置でインクに刺激(エネルギー)を加えて吐出させることにより記録媒体にインクを付着させる方法が好適に用いられ、具体的には公知のあらゆるインクジェット記録方法が適用される。このようなインクジェット記録方法としては、ヘッドを走査する方式のインクジェット記録方法や、ライン化されたヘッドを用いることによりある枚葉の記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法が挙げられる。
【0095】
インクを付着させる工程において、インクを吐出させる手段である記録ヘッドの駆動方式には特に限定はない。この駆動方式としては、PZT(lead zirconate titanate:チタン酸ジルコン酸鉛、ピエゾとも言う)等を用いた圧電素子アクチュエータを利用した方式、熱エネルギーを作用させる方式、静電気力を利用したアクチュエータ等を利用したオンディマンド型のヘッドを用いる方式、連続噴射型の荷電制御タイプのヘッドで記録する方式等が挙げられる。熱エネルギーを作用させる方式においては、液滴の噴射を自在に制御することが困難とされており、記録媒体種等により記録される画像の品質のばらつきが大きくなりがちであるが、液体組成物を記録媒体に付与することでこの問題は解消され、記録媒体種によらず安定した高い品質の記録物を得ることができる。
【0096】
<記録装置>
本実施形態の液体組成物を記録媒体に付与し、この液体組成物の付着した記録媒体にインクを付与して画像を記録するための記録装置について、図2の具体例を用いて説明する。図2は、本実施形態の記録方法に用いられる装置の一例を示す側面断面図である。尚、この装置によると、液体組成物を記録媒体に付与してからインクを付与するまでの時間を短縮する(通常、1秒以下)ことができる。この場合、本実施形態の液体組成物が乾燥する前に記録媒体に対してインクを付与させても、記録物の画像の濃度を向上させる効果等が得られる。図2の記録装置は、インクジェット記録ヘッドを走査して画像を記録するタイプの記録装置である。図2の記録装置において、記録媒体6は給紙ローラ7によって送り出され、付与ローラ4とカウンタローラ5によって液体組成物1が記録媒体6に均一に薄く付与される。液体組成物1は汲み上げローラ3によって汲み上げられ、膜厚制御ローラ2によって付与ローラ4に均一に付与される。液体組成物1が付与された記録媒体6はインクジェット記録ヘッド20のある記録走査部まで送られる。液体組成物を付与する動作の終了部(図2のA部)から記録走査の開始部(図2のB部)までの用紙経路の長さは記録媒体の送り方向の長さより長く設定されているので記録媒体が記録走査の開始部に到達した時点では液体組成物の付与を完了させることができる。この場合、液体組成物の付与は、インクジェット記録ヘッド20が記録のための走査を開始し、記録媒体6が間欠的に搬送される前に実施できるため、記録媒体6の搬送速度が一定の状態で連続的に付与でき、ムラのない均一な付与が可能となる。なお図2の装置例では液体組成物を付着させる必要のある記録媒体6を下段のカセットから供給し、それ以外の記録媒体17を上段のカセットから供給するようになっているため、記録媒体の搬送経路を長く設けるのに好都合である。
【0097】
図3は本実施形態の記録装置の別の具体例である。図3の装置例も、インクジェット記録ヘッドを走査して画像を記録するタイプの記録装置であるが、図2の装置に比べ、コンパクトな構成とした例である。記録媒体17は給紙ローラ18によって送り出され付与ローラ4とカウンタローラ5によって液体組成物1が記録媒体に均一に薄く付与される。液体組成物は汲み上げローラ3によって汲み上げられ、膜厚制御ローラ2によって付与ローラ4に均一に付与される。記録媒体17は液体組成物1を付与されながらインクジェット記録ヘッド20のある記録走査部を通過し、記録媒体への液体組成物の付与が完了するまで送られ、記録媒体への液体組成物の付与が完了した時点で再び記録媒体の先端が記録走査開始位置に至るまで戻される。付与の完了は、例えば、記録装置の液体組成物を付与する手段の出口近傍に、公知の記録媒体の検知手段(図示されず)を設けることにより検出される。この検知手段は必ずしも必要が無く、あらかじめ記録媒体の長さの情報をコントローラにインプットし、モータの回転数を制御することにより、記録媒体の搬送ローラの外周の送り量を記録媒体の長さに対応させるようなシステム構成としてもよい。
【0098】
両面に記録を行う場合、液体組成物1が付与された記録媒体17は、液体組成物が乾燥して固化する前に、再び記録走査位置に搬送されてくるが、この際には、インクジエット記録ヘッド20の走査とタイミングを合わせて、間欠的に搬送される。記録媒体を戻す場合、送られてきた経路と同じ経路に戻すと記録媒体の後端が液体組成物付与装置に逆進入することになり塗りムラや汚れ、記録媒体のジャム等の不具合が起こる。このため、記録媒体を戻すときは記録媒体ガイド31で方向を切り替える。即ち、記録媒体17に液体組成物1を付与した後、記録媒体を逆送する時には、記録媒体ガイド31を図の点線の位置に、ソレノイドやモータ等の公知の手段で移動せしめる。これにより、記録媒体17は、記録媒体戻しガイド34の位置に搬送されるので、記録媒体を汚したり、ジャムが発生したりすることを防止できる。
【0099】
液体組成物を付着させる工程は連続的に、10mm/s以上1000mm/s以下の一定の線速度で行うことが好ましい。このために、この装置の例では、枚葉の記録媒体を用い、ある枚葉の記録媒体についてみると、記録媒体に液体組成物を付与する処理をその枚葉について終了した後に、インクを付着させて画像を終了する処理を始める。このような装置においては、液体組成物を付与する速度と画像を記録する速度とが殆どの場合に一致しないので、その枚葉の記録開始部と記録終了部とでは、液体組成物が付与されてから画像が記録されるまでの時間に差があることになる。この差が大きくなった場合にも、水溶性有機溶剤を含み、プリンタを使用している環境での空気中の水分と平衡する量に近い水分比率に調整されている液体組成物においては、水分の蒸発が著しく抑制されるため、枚葉の記録媒体の、記録開始部と記録終了部で生じる画像の品質の差を、少なくとも目視で観察できる水準以下にすることができる。
【0100】
この記録装置の記録媒体の搬送工程から明らかなように、液体組成物を付与した後、画像を記録するために、液体組成物の付与された記録媒体をローラ、コロ、ガイド等の記録媒体に接触する手段で記録媒体を搬送することが必要になる場合が多い。このような場合に、記録媒体に付着した液体組成物が記録媒体の搬送部材に転写してしまうと、搬送機能に障害が発生したり、汚れが蓄積したりして、画像の品質が低下する問題を生じる。この場合、記録装置のガイドを波板にしたり、コロを拍車状にしたり、ローラの表面を撥水性の材料にしたりするという手段を講じることにより、問題の発生が軽減される。
【0101】
図2、図3のような記録装置の動作を制御するためのパーソナルコンピュータ等のホストマシーンからのプリントの指令を受けると、記録装置はヘッドクリーニング作業と液体組成物塗布作業とを同時にスタートし、すべての準備が完了した時点で記録動作を開始する。この場合、画像データの転送は1走査分であっても、複数走査分であっても、又は1ページ分であってもかまわない。このヘッドクリーニングや噴射チェックの動作は必ずしも必要ではない。また、ヘッドクリーニング、噴射チェックの動作と画像データの処理、画像データの転送をシーケンシャルに行う必要はなく、液体組成物の塗布、ヘッドクリーニング、噴射チェックの動作と画像データの処理、及び画像データの転送とを同時にスタートさせる等パラレルに処理することが可能である。このように、パラレルに処理することにより、液体組成物塗布作業を行う場合にも、記録装置のスループットを殆ど落とさずに画像を記録することが可能である。
【0102】
<<実施形態の補足>>
上記実施形態における記録方法では、所定の液体組成物が付着した記録媒体に所定のインクを付着させて画像を記録した。即ち、上記の液体組成物を記録用の前処理液として用いたが、これに限るものではない。この場合、上記の液体組成物を記録用の後処理液として用い、所定のインクが付着した記録媒体に上記の液体組成物を付着させて画像を記録しても、上記の液体組成物を記録用の処理液として用い、所定のインクと上記の液体組成物とを同時に記録媒体に付着させて画像を記録しても良い。
【実施例】
【0103】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0104】
<<インクの作製>>
<作製例1:マゼンタ顔料含有ポリマー微粒子分散液の作製>
(ポリマー溶液Aの作製)
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管、及び滴下ロートを備えた1Lのフラスコ内を充分に窒素ガス置換した後、スチレン11.2g、アクリル酸2.8g、ラウリルメタクリレート12.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート4.0g、スチレンマクロマー4.0g、及びメルカプトエタノール0.4gを混合し、65℃に昇温した。次に、スチレン100.8g、アクリル酸25.2g、ラウリルメタクリレート108.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート36.0g、ヒドロキシルエチルメタクリレート60.0g、スチレンマクロマー36.0g、メルカプトエタノール3.6g、アゾビスメチルバレロニトリル2.4g、及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を2.5時間かけて、フラスコ内に滴下した。滴下後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8g及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を0.5時間かけて、フラスコ内に滴下した。65℃で1時間熟成した後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8gを添加し、更に1時間熟成した。反応終了後、フラスコ内にメチルエチルケトン364gを添加し、濃度が50質量%のポリマー溶液Aを800g得た。
【0105】
(顔料含有ポリマー微粒子分散液の作製)
ポリマー溶液Aを28gと、C.I.ピグメントレッド122を42g、1mol/Lの水酸化カリウム水溶液13.6g、メチルエチルケトン20g、及びイオン交換水13.6gを十分に攪拌した後、ロールミルを用いて混練した。得られたペーストを純水200gに投入し、充分に攪拌した後、エバポレータ用いてメチルエチルケトン及び水を留去し、更に粗大粒子を除くためにこの分散液を平均孔径5.0μmのポリビニリデンフロライドメンブランフィルターにて加圧濾過し、顔料15質量%含有、固形分20質量%のマゼンタ顔料含有ポリマー微粒子分散液を得た。得られたマゼンタ顔料含有ポリマー微粒子分散液におけるポリマー微粒子の平均粒径(D50)を測定したところ82.7nmであった。なお、平均粒径(D50)の測定は、粒度分布測定装置(日機装株式会社製、ナノトラックUPA−EX150)を用いた。
【0106】
<作製例2:シアン顔料含有ポリマー微粒子分散液の作製>
作製例1において、顔料としてのC.I.ピグメントレッド122をフタロシアニン顔料(C.I.ピグメントブルー15:3)に変更した以外は、作製例1と同様にして、シアン顔料含有ポリマー微粒子分散液を作製した。得られたシアン顔料含有ポリマー微粒子分散液におけるポリマー微粒子について、粒度分布測定装置(日機装株式会社製、ナノトラックUPA−EX150)で測定された平均粒径(D50)は110.6nmであった。
【0107】
<作製例3:イエロー顔料含有ポリマー微粒子分散液の作製>
作製例1において、顔料としてのC.I.ピグメントレッド122をモノアゾイエロー顔料(C.I.ピグメントイエロー74)に変更した以外は、作製例1と同様にして、イエロー顔料含有ポリマー微粒子分散液を作製した。得られたイエロー顔料含有ポリマー微粒子分散液におけるポリマー微粒子について、粒度分布測定装置(日機装株式会社製、ナノトラックUPA−EX150)で測定された平均粒径(D50)は105.4nmであった。
【0108】
<作製例4:ブラック顔料含有ポリマー微粒子分散液の作製>
作製例1において、顔料としてのC.I.ピグメントレッド122をカーボンブラック(デグサ社製、FW100)に変更した以外は、作製例1と同様にして、カーボンブラック顔料含有ポリマー微粒子分散液を作製した。得られたブラック顔料含有ポリマー微粒子分散液におけるポリマー微粒子について、粒度分布測定装置(日機装株式会社製、ナノトラックUPA−EX150)で測定された平均粒径(D50)は75.2nmであった。
【0109】
<インクの作製>
各インクの作製は、以下の手順で行った。まず、表1、2に示す水溶性有機溶剤、浸透剤、界面活性剤、防カビ剤、及び水を1時間攪拌して均一に混合した。また、混合液によっては水分散性樹脂を添加して1時間撹拌した。更に、顔料分散液、消泡剤、pH調整剤を添加し1時間攪拌する。この分散液を平均孔径5.0μmのポリビニリデンフロライドメンブランフィルターにて加圧濾過し、粗大粒子やごみを除去して、インク(M1、…、M4、C1、…、C4、Y1、…、Y4、K1、…、K4)を作製した。
【0110】
【表1】

【0111】
【表2】

【0112】
表1、表2中の略号等は下記の意味を表わす。
*CAB−O−JET 260:CABOT製、顔料固形分11%、マゼンタ自己分散顔料
*CAB−O−JET 250:CABOT製、顔料固形分11%、シアン自己分散顔料
*CAB−O−JET 270:CABOT製、顔料固形分11%、イエロー自己分散顔料
*CAB−O−JET 300:CABOT製、顔料固形分15%、ブラック自己分散顔料
*フッ素樹脂エマルジョン:旭硝子株式会社製、ルミフロンFE4500、固形分52質量%、平均粒径136nm、最低造膜温度(MFT)=28℃
*アクリル−シリコーン樹脂エマルジョン:昭和高分子株式会社製、ポリゾールROY6312、固形分40質量%、平均粒径171nm、最低造膜温度(MFT)=20℃
*ゾニールFS−300:ポリオキシエチレンパーフロロアルキルエーテル(Dupont社製、成分40質量%)
*KF−643:ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(信越化学工業株式会社製、成分100質量%)
*ソフタノールEP−7025:ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(日本触媒株式会社製、成分100質量%)
*Proxel GXL:1,2−benzisothiazolin−3−oneを主成分とした防カビ剤(アビシア社製、成分20質量%、ジプロピレングリコール含有)
*KM−72F:自己乳化型シリコーン消泡剤(信越シリコーン株式会社製、成分100質量%)
【0113】
次に、作製された各インクについて以下に示す評価方法にて物性を評価した。結果を表3に示す。
平均粒径(D50):粒度分布測定装置(日機装株式会社製、ナノトラックUPA−EX150)を使用して、室温で測定した。
粘度 :粘度計(RE−550L、東機産業株式会社製)を使用して、25℃で測定した。
表面張力 :全自動表面張力計(CBVP−Z、協和界面科学株式会社製)を使用して、25℃で測定した。
【0114】
【表3】

【0115】
<<液体組成物の作製>>
以下の手順で各液体組成物の作製した。まず、表4−1及び表4−2に示す材料を1時間攪拌して均一に混合した。この液体組成物を平均孔径5.0μmのポリビニリデンフロライドメンブランフィルターにて加圧濾過し粗大粒子やごみを除去して、液体組成物1〜21を作製した。
【0116】
【表4−1】

【0117】
【表4−2】

【0118】
表4−1及び表4−2中の略号等は下記の意味を表わす。
*L−乳酸:東京化成工業製、純度85%以上、カルボキシル基数1
*L(+)−酒石酸:関東化学製、純度99.5%以上、カルボキシル基数2
*DL−リンゴ酸:関東化学製、純度99%以上、カルボキシル基数2
*ゾニールFS−300:ポリオキシエチレンパーフロロアルキルエーテル(Dupon
t社製、成分40質量%)
*KF−643:ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(信越化学工業株式会社製、
成分100質量%)
*フタージェント251:分岐パーフルオロアルケニル基含有フッ素系界面活性剤 (株式会社ネオス製、有効成分100質量%)
*Proxel GXL:1,2-benzisothiazolin-3-oneを主成分とした防カビ剤(アビシア社製、成分20質量%、ジプロピレングリコール含有)
【0119】
液体組成物1〜21の物性を表5に示す。尚、有機酸に対するアミン比は次式を用いて算出した。また、金属腐食性については、液体組成物1〜21中にステンレス片(規格名:SUS303)を浸漬し、室温環境下(評価環境:温度23±1℃、湿度50±10%)で2週間放置し、金属腐食性を目視で評価下記評価基準により判定した
〔評価基準〕
◎:全く腐食なし、 ○:金属光沢が僅かに減少、 △:僅かに腐食あり、 ×:明らかに腐食あり
【0120】
【数2】

【0121】
【表5】

【0122】
<<液体組成物を付着させる工程>>
各実施例及び比較例1を除く各比較例において、記録媒体(My_paper:リコー製(上質紙)坪量69.6g/m,サイズ度23.2秒,透気度21秒)に表6に記載された液体組成物を付着させた。この場合、ロールコーターを用いロールコート法により表6に記載されたウエット付着量で液体組成物1乃至21の各液体組成物を上記の記録媒体に付着させて自然乾燥した。
【0123】
<<インクを付着させる工程>>
インクを付着させる工程では、各実施例及び比較例について、表6に記載されたインクセットを搭載したインクジェット記録装置(IPSiO GX5000、株式会社リコー製)を用い、上記の液体組成物を付着させる工程により作製された表6に記載の記録媒体にインクを付与して画像を記録した。尚、比較例1については液体組成物の付着していない記録媒体(My_paper)に、インクを付与して画像を記録した。記録される画像は評価毎に異なるため、記録物の評価の項目で説明する。尚、インクを付与する際は、温度23±0.5℃、50±5%RHに調整された環境下、各インクの吐出量が均しくなるようにピエゾ素子の駆動電圧を変動させた。また、インクを付与する際の印字モードは、インクジェット記録装置に添付されたドライバで「普通紙−きれいモード、カラーマッチングoff」に設定した。
【0124】
【表6】

尚、表6中の各インクセットは下記のインクにより構成される。
*インクセット1:インクM1、インクC1、インクY1、インクK1
*インクセット2:インクM2、インクC2、インクY2、インクK2
*インクセット3:インクM3、インクC3、インクY3、インクK3
*インクセット4:インクM4、インクC4、インクY4、インクK4
【0125】
<<記録物の評価>>
実施例及び比較例の記録物について以下の評価を行った。
<濃度>
Microsoft(登録商標)Word2000にて作成された64point文字「■」が記録された記録物について、記録面の「■」部の画像の濃度をX−Rite939にて測定し、下記の評価基準により判定した。
〔評価基準〕
◎:Black : 1.45以上、
Yellow : 0.90以上、
Magenta: 1.10以上、
Cyan : 1.25以上
○:Black : 1.4以上1.45未満、
Yellow : 0.85以上0.90未満、
Magenta: 1.05以上1.10未満、
Cyan : 1.20以上1.25未満
△:Black : 1.35以上1.4未満、
Yellow : 0.80以上0.85未満、
Magenta: 1.0以上1.05未満、
Cyan : 1.15以上1.20未満
×:Black : 1.35未満、
Yellow : 0.80未満、
Magenta: 1.0未満、
Cyan : 1.15未満
【0126】
<彩度>
上記の濃度の試験のサンプルと同様に作成された記録物について、記録面の「■」部の画像の彩度をX−Rite939にて測定した。続いて、標準色(Japan color ver.2)の彩度の値(Yellow:91.34、Magenta:74.55、Cyan:62.82)に対する測定された彩度の値の比率を算出し、下記の評価基準にしたがって判定した。
〔評価基準〕
◎:0.85以上、○:0.8以上0.85未満、△:0.75以上0.8未満、×:0.75未満
【0127】
<カラーブリード>
イエローのベタ画像内にマゼンタ、シアン、ブラックの0.5mmの線画像がそれぞれ記録された記録物について、異なる色のインクが隣接する色境界の滲みの発生を目視により観察した。同様に、シアンのベタ画像内にマゼンタ、イエロー、ブラックの0.5mmの線画像がそれぞれ記録された記録物、及びマゼンタのベタ画像内にシアン、イエロー、ブラックの0.5mmの線画像がそれぞれ記録された記録物についても色境界の滲みの発生を観察した。
〔評価基準〕
◎:全く問題なし、○:僅かに発生、問題なし、×:発生、問題あり
【0128】
<フェザリング>
Microsoft(登録商標)Word2000により作成された6point黒文字「轟」の記録された記録物について、文字「轟」の部分のフェザリングの発生を目視により観察した。
〔評価基準〕
◎:全く問題なし、○:僅かに発生問題なし、△:少し発生問題あり、×:発生問題あり
【0129】
<白ポチ>
Microsoft(登録商標)Word2000により作成された64point文字「■」をイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色で記録された記録物について、文字「■」の部分を目視観察し、白ポチ(文字「■」中の空白部)の有無を評価した。
〔評価基準〕
◎:全く問題なし、 ○:僅かに有るが問題なし、 △:有るが許容範囲で問題なし、 ×:問題あり
【0130】
<耐擦性>
Microsoft(登録商標)Word2000により作成された3cm×3cmのモノ黒色ベタ画像が記録された記録物について、温度23±1℃、湿度50±10%で24時間乾燥させた。続いて、CM−1型クロックメータに両面テープで取り付けられたJIS L 0803 綿3号を記録物のモノ黒ベタ画像部に当てるように5往復させた後、インクの付着した綿布の濃度をX−Rite939にて測定し、これを綿布の地肌色の濃度で差し引いて汚れ部の濃度とした。汚れ部の濃度を下記評価基準により判定した。
〔評価基準〕
◎:0.03未満、○:0.03以上0.07未満、△:0.07以上0.1未満、×:0.1以上
<乾燥性>
Microsoft(登録商標)Word2000により作成された3cm×3cmのモノ黒色ベタ画像が記録された記録物を作製した。続いて、記録された直後(10秒後)に、CM−1型クロックメータに両面テープで取り付けられたJIS L 0803 綿3号を記録物のモノクロベタ画像部に当てるように5往復させた後、インクの付着した綿布の濃度をX−Rite939にて測定し、これを綿布の地肌色の濃度で差し引いて汚れ部の濃度とした。汚れ部の濃度を下記評価基準により判定した。尚、評価は、温度23±1℃、湿度50±10%の環境下で行われた。
〔評価基準〕
◎:0.15未満、○:0.15以上0.20未満、△:0.20以上0.25未満、×:0.25以上
【0131】
結果を表7に示すが、評価は評価基準に基づき各色ごとに評価した。そこで、各画像品質結果は、最も多い評価の判定を結果に記載した。また、同数の評価判定の場合は、良い方を結果に記載した。
【0132】
【表7】

【符号の説明】
【0133】
1 液体組成物
2 膜厚制御ローラ
3 汲み上げローラ
4 付与ローラ
5 カウンタローラ
6 記録媒体
7 給紙ローラ
8 給紙トレイ
10 用紙送りローラ
11〜16 記録媒体送りローラ
17 記録媒体
18 給紙ローラ
20 インクジェット記録ヘッド
21 インクカートリッジ
22 キャリッジ軸
23 キャリッジ
31 記録媒体ガイド
32、33 記録媒体送りローラ
34 記録媒体戻しガイド
35 用紙送りガイド
101 記録媒体
102 液体組成物の付着部
103 インクの付着部
104 水分散性着色剤
【先行技術文献】
【特許文献】
【0134】
【特許文献1】WO00/06390号公報
【特許文献2】特開2006−35689号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)式で示される水溶性有機酸と、
前記水溶性有機酸に含まれる酸基1モルに対し0.9モル以上の(2)式で示される水溶性アミンと、
水溶性有機溶剤と、
水と、を含有することを特徴とする液体組成物。
【化1】

[(1)式中、Rは水酸基、メチル基、又は水素原子を示し、Rは水酸基、又はメチル基を示す。]
【化2】

[(2)式中、Rはヒドロキシメチル基を示し、Rはメチル基、エチル基、又はヒドロキシメチル基を示し、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はヒドロキシメチル基を示す。]
【請求項2】
前記水溶性有機酸が、乳酸であることを特徴とする請求項1に記載の液体組成物。
【請求項3】
前記水溶性アミンが、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール又は2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオールであることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体組成物。
【請求項4】
表面張力が、30mN/m以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の液体組成物を記録媒体に付着させる液体組成物付着工程と、
前記液体組成物が付着した記録媒体に、
水分散性着色剤、水溶性有機溶剤、界面活性剤、浸透剤及び水を含有するインクを付着させて画像を記録する工程と、を有することを特徴とする記録方法。
【請求項6】
前記水分散性着色剤が顔料であり、
該顔料が、自己分散性顔料及び樹脂により被覆された顔料からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項5に記載の記録方法。
【請求項7】
前記液体組成物付着工程で、前記液体組成物を0.1g/m以上16.0g/m以下の付着量で前記記録媒体に付着させることを特徴とする請求項5又は6に記載の記録方法。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか一項に記載の記録方法により画像が記録されたことを特徴とする記録物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−30583(P2012−30583A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141792(P2011−141792)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】