説明

液体組成物及びこれを使用した冷凍サイクル装置

【課題】ヒドロフルオロオレフィンの化学的性質を安定させ、実機への適用を可能とした液体組成物及びこれを使用した冷凍サイクル装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る液体組成物は、冷媒としてのテトラフルオロプロペンと、炭素及び水素を含む潤滑油もしくは炭素、水素及び酸素を含む潤滑油と、ラジカル反応を抑制するラジカル反応抑制剤と、を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍サイクルを循環する液体組成物及びこれを使用した冷凍サイクル装置に関するものであり、特に液体組成物を構成する冷媒にテトラフルオロプロペンを使用した液体組成物及びこれを使用した冷凍サイクル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気調和装置や冷凍装置、ヒートポンプシステム等の冷凍サイクル装置に使用する冷媒には、オゾン層保護の観点から、塩素を含む冷凍空調機用冷媒、たとえばCFC(Chloro fluoro carbon)−12やHCFC(Hydro Chloro fluoro carbon)22等に代えて、主に炭素、水素及びフッ素のみで構成されるHFC(Hydro fluoro carbon)系冷媒(たとえば、HFC134aや、R410A、R407c等)が用いられるようになっている。しかしながら、近年の地球環境問題に対するさらなる関心の高まりから地球温暖化係数の大きなHFC系冷媒の使用も避けられつつあり、HFC系冷媒から地球温暖化係数の小さな冷媒への代替化が検討されている。
【0003】
そのようなものとして、ヒドロフルオロオレフィン(フルオロアルケンとも称される)が、代替冷媒の有力候補となっている(たとえば、特許文献1参照)。このヒドロフルオロオレフィンは、HFC系冷媒と比較して化学的安定性が低いことから地球温暖化係数が小さいという特性を有している。HFC系冷媒の1つであるR410Aの地球温暖化係数は、二酸化炭素の地球温暖化係数と比較して2000倍程度であるのに対し、ヒドロフルオロオレフィンの地球温暖化係数は、二酸化炭素の地球温暖化係数と比較して4倍程度である。また、ヒドロフルオロオレフィンは、圧力も従来のHFC系冷媒並みであるという特性も有している。なお、地球温暖化係数とは、二酸化炭素の温室効果を基準にした温室効果の度合いを示す値である。
【0004】
【特許文献1】特表2007−510039号公報(実施例3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に係る発明の実施例3では、厚肉ガラス管にアルミニウム、銅及び鋼を、冷媒及び冷凍機油とともに封入し、所定の温度と時間で加熱をし、加熱後の冷凍機油等の変色により安定性を評価するようにしており、このような条件ではヒドロフルオロオレフィンの化学的安定性については問題がないと評価されている。
【0006】
しかしながら、ヒドロフルオロオレフィンを冷媒として実機における運転を考慮した場合、以下の点で、特許文献1に係る発明の実施例3に記載されている条件では想定できなかった問題が生ずる。
すなわち、下記(1)及び(2)の問題が生ずるのである。
(1)実機においては、圧縮機に摺動部が存在し、その部分においては金属同士が常に擦れ合っているため、金属表面に存在する不活性な酸化物が除去されている。
(2)実機においては、製造工程や据付工事に際し、水や空気、加工油等が混入する可能性がある。
【0007】
特許文献1に係る発明の実施の形態3では、(1)の条件が考慮されておらず、活性金属面の化学反応を模擬することができない。つまり、ヒドロフルオロオレフィンは、実機に存在する活性金属面において、活性金属から放出される電子によってラジカル化し、様々な劣化反応を引き起こすと想定されるが、特許文献1に係る発明の実施の形態3では、この点を考慮せずにヒドロフルオロオレフィンの安定性を評価している。
【0008】
特許文献1に係る発明の実施例3では、厚肉ガラス管を排気してから冷媒を加えることから、(2)の条件が考慮されておらず、水や空気、加工油等の混入物がある状態での化学反応をも模擬することができない。つまり、ヒドロフルオロオレフィンは、その化学構造から水や空気、加工油等の混入物の付加反応により劣化すると想定されるが、特許文献1に係る発明の実施例3では、この点を考慮せずにヒドロフルオロオレフィンの安定性を評価している。また、特許文献1に係る発明の実施例3のような状況を実機で実現しようとすると、格段の注意及びコストを要することにもなる。
【0009】
上記の事実は、ヒドロフルオロオレフィンの化学的な性質に起因するものである。したがって、ヒドロフルオロオレフィンを冷媒とした冷凍サイクル装置を実現するには、このヒドロフルオロオレフィンの化学的性質に対する対策を講じなければならない。つまり、ヒドロフルオロオレフィンは、自然冷媒及びHFC系冷媒とは異なり、化学的安定性が低いため、冷媒として使用する場合、冷凍サイクル内での化学的な変化を考慮した対策を講じなければ冷凍サイクル装置の信頼性が低下することになってしまうのである。
【0010】
冷凍サイクル装置の信頼性が低下する原因としては、ヒドロフルオロオレフィンの化学的な変化による劣化や、ヒドロフルオロオレフィンが化学的に変化することで発生するスラッジ(沈殿物)の増加が考えられる。ヒドロフルオロオレフィンが劣化すると、冷凍サイクル内に封入された冷媒量が減少することになり、冷凍サイクル装置が所定の能力を発揮することができないことになる。また、スラッジの増加は、冷媒配管を閉塞し、冷媒の流通を妨げることになり、冷凍サイクル装置が所定の能力を発揮することができないことになる。
【0011】
ヒドロフルオロオレフィンの劣化及びスラッジの発生原因としては以下のことが考えられる。
(1)冷凍サイクル内に混入した水分がヒドロフルオロオレフィンに付加することにより、アルコールが生成する。このアルコールは、フッ素の電子吸引効果によって酸性となる。この酸性アルコールが圧縮機等の各機器を構成している金属と反応し、金属塩が生成する。この金属塩がスラッジとなる。また、ヒドロフルオロオレフィンが分解することにもなるので、ヒドロフルオロオレフィンの劣化にもなる。
【0012】
(2)二重結合を有するヒドロフルオロオレフィンが重合反応(ラジカル、カチオン、又はアニオン重合)することにより、ポリマー化する。このポリマー化により、冷凍機油への溶解性が低下したスラッジとなる。また、ポリマー化したものは、ヒドロフルオロオレフィンの化学的性質を有さないので、ヒドロフルオロオレフィンの劣化にもなる。
(3)ヒドロフルオロオレフィンは、二重結合を有し、自然冷媒及びHFC系冷媒と比べて化学的安定性が低いため、冷凍サイクル内に発生したラジカル(遊離基)と容易に反応してしまう。これにより、ヒドロフルオロオレフィンが分解し、劣化することになる。また、分解生成物がスラッジにもなる。
【0013】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、ヒドロフルオロオレフィンの化学的性質を安定させ、実機への適用を可能とした液体組成物及びこれを使用した冷凍サイクル装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る液体組成物は、冷媒としてのテトラフルオロプロペンと、炭素及び水素を含む潤滑油もしくは炭素、水素及び酸素を含む潤滑油と、ラジカル反応を抑制するラジカル反応抑制剤と、を含有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る冷凍サイクル装置は、上述した液体組成物を、圧縮機、凝縮器、絞り装置及び蒸発器を搭載し配管で順次接続した冷凍サイクルに循環させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る液体組成物によれば、ラジカル反応を抑制することができるので、テトラフルオロプロペンからなる冷媒の劣化及びスラッジの発生を防止することができる。また、テトラフルオロプロペンの劣化及びスラッジの発生を防止することができるので、テトラフルオロプロペンの化学的性質が安定し、この液体組成物を用いた冷凍サイクル装置の信頼性が向上する。
【0017】
また、本発明に係る冷凍サイクル装置によれば、上記の潤滑油組成物を循環させているので、冷媒の化学的性質が安定し、冷凍サイクル内に発生するスラッジを低減でき、信頼性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
実施の形態1.
本発明の実施の形態1では、ヒドロフルオロオレフィン(フルオロアルケン)のうちの1種類である2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの化学的性質及び2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを冷凍サイクル装置の冷媒として用いた場合の検討について説明する。この2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの化学式は、CF3 CF=CH2 で表される。また、冷凍サイクル装置とは、空気調和装置や冷凍装置、ヒートポンプシステム、ヒートポンプ給湯機、冷蔵庫、自動販売機等の冷媒を循環する冷凍サイクル(冷媒回路)を使用した装置である。
【0019】
実用化に向け、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを冷凍サイクル装置の冷媒として用いた場合を検討した結果、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンは、冷凍サイクル装置を構成する各機器の表面、たとえば圧縮機の摺動面のように不活性な酸化膜が無い場合、その活性な金属面から放出される電子を取り込み、ラジカルを生成することが確認された。このラジカルは、更に別の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとラジカル重合反応することによって、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを分解してしまうとともに、フッ素系高分子化合物を形成する。このフッ素系高分子化合物は、高分子量化により冷媒及び冷凍機油に不溶化(スラッジ化)する。不溶化した高分子化合物は、冷凍サイクル内に析出する。
【0020】
析出する場所としては、毛細管(キャピラリ)や膨張弁の弁座、膨張弁の駆動部等のような絞り部であることが多いが、圧縮機内の摺動部等であることもある。フッ素系高分子化合物が毛細管に析出すると、冷媒の流れが阻害され、冷凍サイクル装置の能力が発揮できず、たとえば不冷となってしまう。フッ素系高分子化合物が膨張弁の弁座に析出すると、毛細管に析出した場合と同様に冷媒の流れが阻害される。また、フッ素系高分子化合物が膨張弁の駆動部に析出すると、駆動部が固着し、動作不良となることにもなる。いずれにしろ、冷凍サイクル装置の能力が発揮できず、たとえば不冷となってしまう。フッ素系高分子化合物が圧縮機の摺動部に析出すると、冷凍機油の流れが阻害されることになり、良好な潤滑状態が阻害され、焼き付きなどの原因となる。
【0021】
上記検討の結果、ラジカル反応の抑制にはラジカル反応抑制剤が有効であることを見い出した。ラジカル反応抑制剤としては、安定ラジカルでもよく、冷媒の劣化で発生したラジカルと反応することで安定ラジカルを生成するものでもよい。安定ラジカルには、たとえば、フェノール系化合物や、ジフェニルピクリルヒドラジル、ガルビノキシル、フェルダジル等がある。安定ラジカルを生成するものとしては、たとえば、p−ベンゾキノンや、ベンゾキノン誘導体、ニトロ化合物等がある。その他、破壊的連鎖移動反応を起こしやすいような化合物として、たとえば、ジフェニルピクリルヒドラジンや、ジフェニルアミン、第三カテコールアミン等も用いることができる。
【0022】
ここで、実施の形態1について詳細に説明する。
この実施の形態では、冷凍機油(潤滑油)として市販のヒンダードエステル系冷凍機油に、ラジカル反応抑制剤としてフェノール系化合物又はベンゾキノン系化合物を1〜10%添加して作成したものを使用している。この冷凍機油とフルオロオレフィン系化合物とを10対3の重量比で混合し、使用する冷凍サイクル装置と同じ材料からなる摺動部を持つ摩耗試験機にて175℃で72時間運転し、発生するスラッジ量を計量した。なお、実験時には、実験装置内の空気を予め除去している。また、潤滑油としては、エステルや、エーテル、アルキルベンゼン、鉱油等を基油として使用することができる。
【0023】
このような条件では、摩耗試験機の摺動部において、試験開始時には存在していた摺動材表面の不活性な酸化膜が摩耗により除去されることになり、活性な金属表面が露出することになる。この活性な金属表面の自由電子が、冷凍機油やフルオロオレフィン系化合物をラジカル化する。そして、ラジカル化したフルオロオレフィン系化合物は、ラジカル重合反応することによって、ラジカル化していないフルオロオレフィン系化合物と重合し、高分子化合物となる。
【0024】
本実験により生成したスラッジ発生量とラジカル反応抑制剤添加量との関係を図1に示す。この図1では、横軸がラジカル反応抑制剤の濃度(%)を、縦軸がラジカル反応抑制剤が未添加のときに発生したスラッジ量を規格化した値を、それぞれ示している。また、図1に示す線(ア)がフェノール系化合物をラジカル反応抑制剤とした場合を、図1に示す線(イ)がベンゾキノン系化合物をラジカル反応抑制剤とした場合を、それぞれ表している。
【0025】
図1に示すように、ラジカル反応抑制剤としてベンゾキノン系化合物を添加した場合、ベンゾキノン系化合物の添加量が1%以下では、ほとんどスラッジの低減効果は見られない。その後、ベンゾキノン系化合物の添加量に応じてスラッジ量は減少し、約5%以上の添加量でほぼ一定値となる。本実験のような条件では、ラジカル反応抑制剤が効果を奏してもスラッジ量はゼロにはならないことが確認できた。つまり、スラッジは、ラジカル重合で発生するものだけに限られない。したがって、ベンゾキノン系化合物をラジカル反応抑制剤として添加する場合では、スラッジ抑制の観点から、3%以上の添加量があればよい。
【0026】
また、ラジカル反応抑制剤としてフェノール系化合物を添加した場合、フェノール系化合物の添加量が1%以下では、ほとんどスラッジの低減効果は見られない。このフェノール系化合物の場合は、5%の添加量でスラッジ量が極小値を示し、その後はスラッジ量が増加した。フェノール系化合物を10%添加した時に生成したスラッジを分析した結果、このスラッジの主成分は、エステル油の加水分解で発生した脂肪酸と摺動剤である鉄との化学反応物である脂肪酸塩であることが分かった。フェノール系化合物は、酸性を呈するために、添加量が多い場合には、エステル系冷凍機油の加水分解劣化を促進し、スラッジ量が増大したのである。ところで、プロトン系化合物をラジカル反応抑制剤とする場合も同様に、スラッジ抑制の観点から濃度に有効な上限値を持つものと考えられる。
【0027】
よって、非プロトン系化合物をラジカル反応抑制剤として用いた場合や、エステル系以外のポリエーテルのような加水分解を起こさない冷凍機油を潤滑油として用いた場合は、スラッジ抑制の観点から、添加量の濃度に上限値は存在しない。しかしながら、ラジカル反応抑制剤は、その性状が固体もしくは低粘度の液体であり、大量に混合した場合には、冷凍機油の粘度特性に影響を及ぼし、潤滑性に著しい低下を引き起こすことになる。このため、このような添加剤は、1%以上、8%以下の範囲内の濃度で使用しなければならないという制約がある。
【0028】
フェノール系化合物をラジカル反応抑制剤として使用した場合と比較して、非プロトン系化合物をラジカル反応抑制剤として使用した場合は、限定的であり使用する上で濃度の管理がより厳密となるが、使用ができないというわけではない。つまり、ラジカル反応抑制剤の添加量は、その効果だけから決めることができないのである。このため、プロトン系ラジカル抑制剤を用いた場合も、最大添加量は、冷凍機油の特性で決定されることになる。すなわち、冷凍機油が良好な潤滑性を保つには、5〜70cSt(センチストークス)の粘度(つまり、ISO(International organization for standardization)粘度グレードでVG=5〜100の範囲内)が必要であり、ラジカル反応抑制剤を添加した状態で、このような粘度を示す場合に冷凍サイクル装置に使用することができるのである。
【0029】
以上より、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを冷媒として使用した場合、これとともに封入される冷凍機油(炭素及び水素含む潤滑油もしくは炭素、水素及び酸素を含む潤滑油、たとえばヒンダードエステル系冷凍機油)及びラジカル反応抑制剤(たとえば、フロオロオレフィン系化合物)は、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの化学的性質を安定させ、冷媒としての機能を低下させないようにし、冷凍サイクル装置の能力を発揮できるようにしているのである。つまり、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを冷媒として使用した場合には、化学的に安定している従来の冷媒(自然冷媒及びHFC系冷媒)では、考慮する必要のなかった冷媒自体の劣化を考慮しなければならず、この点を十分に考慮して上記のような液体組成物を作成しているのである。
【0030】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2でも、実施の形態1と同様に、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの化学的性質及び2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを冷凍サイクル装置の冷媒として用いた場合の検討について説明する。実施の形態1では、ラジカル反応抑制剤を添加することにより2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの化学的性質を安定させる場合について説明したが、実施の形態2では、冷凍サイクル内に発生する酸を補足することによって、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの化学的性質を安定させる場合について説明する。
【0031】
2,3,3,3−テトラフルオロプロペンは、強い電子吸引性を有するフッ素により、分子全体としてはアルデヒド類と同様の化学反応性を示す。たとえば、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンは、水と反応してアルコールを生ずると考えられる(下記の式[1]参照)。つまり、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンが劣化してしまうのである。このアルコールも強い電子吸引性を有するフッ素によって、酸性を呈することになる。
【数1】

【0032】
そして、冷凍回路内に発生した酸性アルコールは、圧縮機の摺動材等を構成している金属と反応して塩(金属塩)を生成する。この塩は、冷凍機油及び冷媒との相溶性が乏しく、スラッジとなってしまう。発生した酸性アルコールを捕捉しなければ、冷媒の劣化が進行することになるとともに、スラッジが析出することになる。2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの劣化防止及び冷凍サイクル装置の能力維持のために、発生した酸性アルコールを補足する必要がある。酸性アルコールを捕捉するには、エポキシを添加することが好適である。エポキシと酸性アルコールの反応式を下記の式[2]に示す。
【数2】

【0033】
上記式[1]及び式[2]からエポキシの最低必要量は、水分量と等モルであることが分かる。この飽和水分量と冷凍サイクル装置1台あたりの冷凍機油量から、冷凍機油によって冷凍回路内に持ち込まれる水分量m1 が求まる。同様に、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの飽和水分量と冷凍サイクル装置1台あたりの冷媒量から、冷媒によって冷凍回路内に持ち込まれる水分量m2 が求まる。よって、m=m1 +m2 が持ち込まれる水分量となる。水分量mは、冷凍機油や冷媒の水分管理状況によって、さらに小さな値とすることができる。また、配管等を接続する場合は、それらにより冷媒回路に持ち込まれる水分量m3 を加えることもできる。
【0034】
この場合のエポキシの必要量は、エポキシの分子量をMとした場合、下記の式[3]で表すことができる。
【数3】

この量のエポキシを冷凍機油に予め添加してもよいし、冷媒に予め添加してもよいし、配管等から冷凍サイクル装置の組み立て後に添加してもよい。
【0035】
エポキシの添加量が上記式[3]で決定した量よりも多いことは、冷媒とアルコールとの反応で発生した酸を捕捉する観点からは好ましいといえる。ただし、エポキシは、自己重合によりスラッジ化するため、この観点から過度な添加量は避けた方がよい。エポキシの最大添加量は、スラッジ発生量を計測しながら決定すべきではあるが、実施の形態1で決定される冷凍機油(絶縁油)の粘度に影響する量を避けるべく、10%を上限とすることが望ましい。
【0036】
上述したように、エポキシは、自己重合により高分子化合物に変化し、スラッジとなり得る。そのために、自己重合により高分子化をし難いエポキシを用いることが要求される。エポキシ1分子あたり2個以上のエポキシ基を有する場合は、重合反応により高分子化が起こりやすく、エポキシ1分子あたり1個のエポキシ基を有するものが添加剤として好適である。そのようなものとしては、たとえば、1,2−エポキシブタンや、1,2−エポキシシロキサン、1,2−エポキシー3−フェノキシプロパン、1,2−エポキシオクタン等がある。
【0037】
以上より、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、冷凍機油によって冷媒回路に持ち込まれる水分、冷媒によって冷媒回路に持ち込まれる水分、及び、配管等を接続する際に冷媒回路に持ち込まれる水分と、によって生じた酸性アルコールを、エポキシを添加することで補足し、スラッジの発生を抑制するようにして、冷凍サイクル装置の能力を発揮できるようにしているのである。つまり、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを冷媒として使用した場合には、化学的に安定している従来の冷媒(自然冷媒及びHFC系冷媒)では、考慮する必要のなかった水分との反応を考慮しなければならず、この点を十分に考慮して上記のような液体組成物を作成しているのである。なお、実施の形態2の内容を実施の形態1の内容に組み合わせるようにしてもよい。
【0038】
実施の形態3.
図2は、本発明の実施の形態3に係る冷凍サイクル装置100の概略構成を示す概略構成図である。図2に基づいて、冷凍サイクル装置100の構成及び動作について説明する。この冷凍サイクル装置100は、上記実施の形態に係る液体組成物を冷凍サイクルに使用したものである。この冷凍サイクル装置100は、冷凍サイクル(冷媒回路)を使用した装置であればよく、たとえば、空気調和装置や冷凍装置、ヒートポンプシステム、ヒートポンプ給湯機、冷蔵庫、自動販売機等であるものとする。
【0039】
この冷凍サイクル装置100は、圧縮機101と、凝縮器102と、ドライヤー105と、絞り装置103と、蒸発器104とを冷媒配管110で順次接続して構成されている。ドライヤー106には、内部に冷凍サイクル内に持ち込まれた水分を吸着するための吸着剤(たとえば、シリカゲルやゼオライト、メソポーラス無機材料等)が収容されている。なお、図2では、冷媒配管110によってドライヤー105が各機器と直列に接続されている場合を例に示しているが、冷媒配管110の一部を分岐させたドライヤー回路を設けて、このドライヤー回路にドライヤー105を設置するようにしてもよい。
【0040】
圧縮機101は、冷媒配管110を流れる冷媒を吸入し、その冷媒を圧縮して高温・高圧の状態とするものである。凝縮器102は、冷媒配管110を導通する冷媒と流体(空気や水、冷媒等)との間で熱交換を行ない、冷媒を凝縮・液化するものである。絞り装置103は、冷媒配管110を導通する冷媒を減圧して膨張させるものである。この絞り装置3は、たとえば毛細管や電磁弁等で構成するとよい。蒸発器104は、冷媒配管110を導通する冷媒と流体との間で熱交換を行ない、その冷媒を蒸発・ガス化するものである。ドライヤー106は、冷媒配管110内を冷媒及び冷凍機油とともに導通する水分を吸着することで補足し、冷媒の劣化を防止するものである。
【0041】
ここで、冷凍サイクル装置100の動作について簡単に説明する。
圧縮機101で圧縮されて高温・高圧となった冷媒は、凝縮器102に流入する。この凝縮器102では、冷媒が流体と熱交換して凝縮し、低温・高圧の液冷媒又は気液二相冷媒となる。凝縮器102から流出した冷媒は、ドライヤー105に流入する。このドライヤー105では、冷媒とともに流入してきた水分が補足される。ドライヤー105から流出した冷媒は、絞り装置103で減圧され、低温・低圧の液冷媒又は気液二相冷媒となって蒸発器104に流入する。蒸発器104では、冷媒が流体と熱交換して蒸発し、高温・低圧の冷媒ガスとなり、圧縮機101に再度吸入される。
【0042】
実施の形態2で説明したように、冷凍サイクル装置100に使用する2,3,3,3−テトラフルオロプロペンは、水分があると反応し、酸性アルコールを生じてしまう。そこで、冷凍サイクル内にドライヤー105を設けることによって、冷凍サイクル内に取り込まれてしまった水分を補足でき、冷凍サイクル内から水分を取り除くことができる。したがって、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの劣化防止及び冷凍サイクル装置100の能力維持を図ることができる。
【0043】
上記実施の形態1〜3で説明したように、地球温暖化係数が小さく、圧力も従来のHFC系冷媒並みであるという特性を有する冷媒を、化学的に安定させて使用することができるので、冷媒の有する能力を十分発揮させることができる。また、このような冷媒を、冷凍サイクル装置に使用しているので、冷凍サイクル装置も環境に配慮したものとすることができる。さらに、冷凍サイクル内に混入した水分を効果的に除去することで、更に冷媒の化学的安定性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】スラッジ発生量とラジカル反応抑制剤添加量との関係を示すグラフである。
【図2】実施の形態3に係る冷凍サイクル装置の概略構成を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0045】
100 冷凍サイクル装置、101 圧縮機、102 凝縮器、103 絞り装置、104 蒸発器、105 ドライヤー、110 冷媒配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒としてのテトラフルオロプロペンと、
炭素及び水素を含む潤滑油もしくは炭素、水素及び酸素を含む潤滑油と、
ラジカル反応を抑制するラジカル反応抑制剤と、を含有する
ことを特徴とする液体組成物。
【請求項2】
前記潤滑油と前記ラジカル反応抑制剤とを混合させた混合物の粘度を、
ISO粘度グレードでVG=5〜100の範囲内にする
ことを特徴とする請求項1に記載の液体組成物。
【請求項3】
所定量のエポキシを添加する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の液体組成物。
【請求項4】
前記エポキシは、
エポキシ1分子あたり1個のエポキシ基を有し、
前記潤滑油の混入水分量をm1 と、
前記冷媒の混入水分量をm2 と、
前記冷媒配管の混入水分量をm3 と、
エポキシの分子量をMとしたとき、
前記エポキシの添加量を、
(m1 +m2 +m3 )/18×Mで表される量よりも多くする
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項5】
前記エポキシの添加量を、
(m1 +m2 +m3 )/18×Mよりも多く、10%よりも少ない範囲内としている
ことを特徴とする請求項4に記載の液体組成物。
【請求項6】
前記請求項1〜5のいずれか一項に記載の液体組成物を、
圧縮機、凝縮器、絞り装置及び蒸発器を冷媒配管で順次接続した冷凍サイクルに循環させる
ことを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項7】
前記冷媒配管内に混入した水分を補足するドライヤーを設けた
ことを特徴とする請求項6に記載の冷凍サイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−298918(P2009−298918A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−154928(P2008−154928)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】