説明

液体経口組成物

【課題】鉄ラクトフェリンとマグネシウムとを併用した液体経口組成物において、安定性に優れる液体経口組成物を提供する。
【解決手段】(A)鉄ラクトフェリンと、(B)マグネシウムと、(C)無機酸とを含有し、pHが2.5〜3.8である液体経口組成物であって、マグネシウム/鉄で表される、マグネシウム含有量と鉄含有量とのモル比が1.0以上である液体経口組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄ラクトフェリンを含有する液体経口組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、鉄の補給、貧血の予防・治療を目的とした各種の鉄補給製剤・飲料等には、有機鉄であるヘム鉄と無機鉄であるクエン酸鉄、ピロリン酸鉄、グルコン酸鉄、硫酸鉄、塩化鉄等の鉄剤が用いられている。無機鉄は生体における利用率が低く、摂取したときに鉄剤特有の収斂味を感じる等の特有の不快な風味や、胃のむかつき等の副作用の問題がある。一方、有機鉄は生体における利用率は高いものの、動物由来独特の生臭さがあり、飲用しにくいという欠点がある。これらに対し、鉄ラクトフェリンは、ヘモグロビン回復率やヘモグロビン再効率が高いとされ、かつ収斂味がなく、胃への負担も少ないといった特徴を有する優れた鉄剤である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−239900号公報
【特許文献2】特開平7−304798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、鉄ラクトフェリンを用い、さらに日本人が不足しているミネラルであるマグネシウムを組み合わせた液体経口組成物には、経時で濁りや沈殿が生じるという問題が判明した。以上のことから、鉄ラクトフェリンとマグネシウムとを併用した液体経口組成物において、安定性に優れる液体経口組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、(A)鉄ラクトフェリンと、(B)マグネシウムと、(C)無機酸とを併用する液体経口組成物のpHを2.5〜3.8とし、マグネシウム/鉄で表される、マグネシウム含有量と鉄含有量とのモル比を1.0以上にすることにより、鉄ラクトフェリンの凝集、沈殿が抑制され、組成物の安定性が向上することを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0006】
従って、本発明は下記液体経口組成物を提供する。
[1].(A)鉄ラクトフェリンと、(B)マグネシウムと、(C)無機酸とを含有し、pHが2.5〜3.8である液体経口組成物であって、マグネシウム/鉄で表される、マグネシウム含有量と鉄含有量とのモル比が1.0以上である液体経口組成物。
[2].(C)無機酸が、塩酸又はリン酸である[1]記載の液体経口組成物。
[3].(A)鉄ラクトフェリンと、(B’)塩化マグネシウム及び/又は硫酸マグネシウムと、(C)無機酸とを配合してなる[1]又は[2]記載の液体経口組成物。
【0007】
上記[3]の場合、鉄ラクトフェリンからの鉄の遊離を抑制することができ、この場合の課題は鉄ラクトフェリンからの鉄の遊離抑制である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、安定性に優れる鉄ラクトフェリン及びマグネシウムを含有する液体経口組成物を提供することができる。また、[3]の発明によれば、鉄ラクトフェリンからの鉄の遊離を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の液体経口組成物は、(A)鉄ラクトフェリンと、(B)マグネシウムと、(C)無機酸とを含有し、pHが2.5〜3.8であり、マグネシウム/鉄で表される、マグネシウム含有量と鉄含有量とのモル比が1.0以上である液体経口組成物である。
【0010】
(A)鉄ラクトフェリン
鉄ラクトフェリンは、ヘモグロビン回復率やヘモグロビン再効率が高いとされ、かつ収斂味がなく、胃への負担も少ないといった特徴を有する優れた鉄剤である。鉄ラクトフェリンとしては、鉄とラクトフェリンが結合したものであれば特に限定されず、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。鉄ラクトフェリンとしては、例えば、鉄−ラクトフェリン結合体(特開平6−239900号公報)、炭酸又は重炭酸−鉄−ラクトフェリン結合体(特開平7−304798号公報)等が挙げられ、中でも、炭酸又は重炭酸−鉄−ラクトフェリン結合体が好ましい。
【0011】
(A)成分の含有量は、液体経口組成物中、通常10〜1000mg/100mLであり、20〜700mg/100mLが好ましく、40〜500mg/100mLがより好ましい。鉄の有効量は41.28〜265.25mg/日であることから、上記範囲が好ましく、含有量が多すぎると安定性が悪くなるおそれがある。なお、濃縮液体とする場合は、例えば、30mLの製剤を4倍に希釈して飲用に供する場合は、通常10〜1000mg/30mLであり、20〜700mg/30mLが好ましく、40〜500mg/30mLがより好ましい。
【0012】
液体経口組成物中の含有量は、鉄としては1〜30mg/100mLが好ましく、2.25〜25mg/100mLがより好ましく、2.25〜10mg/100mLがさらに好ましい。また、ラクトフェリンとしては7.4〜633.9mg/100mLが好ましく、16.7〜528.3mg/100mLがより好ましく、16.7〜250mg/100mLがさらに好ましい。
【0013】
鉄ラクトフェリンとしては市販品を用いることもでき、例えば、鉄ラクトフェリン70(雪印乳業株式会社)、鉄ラクトフェリン200(雪印乳業株式会社)等が挙げられる。鉄ラクトフェリン70は、水分5質量%以下、ラクトフェリン79.0〜90.0質量%、鉄3.77〜4.41質量%が含まれ、鉄ラクトフェリン200には、水分5質量%以下、ラクトフェリン34.0〜40.0質量%、鉄4.74〜5.45質量%が含まれている。組成物中のラクトフェリン/鉄の質量比は、3〜30が好ましく、5〜25がより好ましい。
【0014】
(B)マグネシウム
液体経口組成物にマグネシウムイオン状態で含有していればよく、配合する場合には、これらの塩化物、硫酸塩等が好適に用いられる。具体的には、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、リン酸三マグネシウムが挙げられる。しかしながら、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、リン酸三マグネシウムを配合すると、鉄ラクトフェリンからの鉄の遊離が生じやすい。このため、マグネシウム源としては、(B’)塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムで配合することが好ましい。この理由は不明であるが、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、リン酸三マグネシウムは塩基性が強いために、組成物のpHを2.5〜3.8に調整する際に必要な酸量が多くなることが考えられうる。
【0015】
マグネシウムの含有量は、液体経口組成物中5〜600mg/100mL程度でよく、マグネシウムの効果発揮の点から、10〜600mg/100mLが好ましく、40〜300mg/100mLがより好ましい。
【0016】
また、組成物中の鉄含有量とマグネシウム含有量との比は、安定性向上の点から、マグネシウム/鉄で表されるモル比が1.0以上であり、2.0以上が好ましく、5.5以上がより好ましく、15以上がさらに好ましく、50以上が特に好ましい。一方、有機酸を用いた場合には、上記比率が7未満であると、安定性が不十分となるが、無機酸を用いた場合は上記範囲でも組成物の安定性を保つことができる。上限は特に限定されないが、マグネシウムの適当な摂取量の点から、690以下が好ましい。なお、この場合組成物中の鉄は(A)成分の鉄ラクトフェリン由来主体であるが、ヘム鉄や無機鉄を配合した場合、これら由来の鉄も含まれる。しかしながら、有機鉄は動物由来独特の生臭さ、無機鉄は生体における利用率が低く、摂取したときに鉄剤特有の収斂味を感じる等の特有の不快な風味や、胃のむかつき等の問題があるため、組成物中1mg/100mL以下することが好ましく、無配合とすることがより好ましい。
【0017】
(C)無機酸
無機酸としては、塩酸、リン酸等が挙げられ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。中でも塩酸が好ましい。無機酸の量は、液体経口組成物のpH(20℃)が2.5〜3.8、好適には2.8〜3.8となる量とすることが好ましい。量(塩酸は塩化水素量)としては、5〜200mg/100mLとしてもよく、5〜100mg/100mLが好ましく、10〜80mg/100mLがより好ましい。特に塩酸は、塩化水素量として6〜20mg/100mLが好ましく、リン酸の場合は35〜100mg/100mLが好ましい。また、鉄遊離抑制の点からは、塩化水素量は100mg/100mL以下が好ましく、50mg/100mL以下がより好ましく、リン酸量は100mg/100mL以下が好ましく、60mg/100mL以下がより好ましい。
【0018】
なお、本発明の液体経口組成物のpH(20℃)は、安定性、鉄の吸収促進、微生物的な安定性の点から、2.5〜3.8であり、2.8〜3.8がより好ましく、3.0〜3.8がさらに好ましい。pHを2.5〜3.8にすることで、組成物の安定性を向上させることができる。また、pHが低すぎると鉄ラクトフェリンの鉄の保持能力が低下するおそれがあり、高すぎると殺菌条件が過酷となり、鉄ラクトフェリンが分解し、鉄味が出てくるおそれがある。なお、本発明において、pH(20℃)は、東亜ディーケーケー株式会社 pHMETER HM−25Rを用いて測定する。
【0019】
本発明の液体経口組成物には、上記成分の他に本発明の効果を損なわない範囲で、任意成分、例えば、生理活性成分、甘味剤、防腐剤、pH調整剤、増粘剤、安定化剤、可溶化剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁剤、酸化防止剤、着香剤・香料、清涼化剤、着色剤、緩衝剤等が挙げられる。これら任意成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量配合することができる。
【0020】
生理活性成分としては、アミノ酸、ビタミン類、ミネラル、美肌成分、タウリン、カフェイン、ローヤルゼリー等が挙げられ、それぞれ1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0021】
アミノ酸としては、バリン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、アルギニン、グルタミン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、システイン、スレオニン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン、グリシン、セリン、ギャバ(γ−アミノ酪酸)等のアミノ酸が挙げられる。
【0022】
ビタミン類としては、ビタミンB1、B2、B6、B12、C、A、D、E、K、ナイアシン、葉酸、パントテン酸、ビオチン、ユビキノン、及びこれらの各誘導体も含まれる。中でも、B1、B2、B6、B12、Cが好ましい。ビタミン類の適切な含有量は、栄養機能食品の栄養素の配合限度量に従うのが好ましい。
【0023】
ミネラルとしては、カルシウム、銅、カリウム、リン、セレン、亜鉛等が挙げられる。最適な含有量は、栄養機能食品の栄養素の配合限度量に従うのが好ましい。美肌成分としては、肌の保湿力を高め、肌の新陳代謝を向上させる成分を配合することができる。例えば、ヒアルロン酸、エラスチン、コエンザイムQ10、α−リポ酸、アロエ、セラミド、ローヤルゼリー、アスタキサンチン、グルコサミン、グルクロノラクトン、エラグ酸、補酵素等が挙げられる。
【0024】
甘味剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ショ糖、液糖、果糖、麦芽糖、黒砂糖、ブドウ糖、水アメ、乳糖、ハチミツ、エリスリトール、キシリトール、D−ソルビトール、D−ソルビトール液、マルチトール、マルチトール液、マルトース、D−マンニトール、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、アマチャ抽出物、甘草抽出物、サッカリン、サッカリンナトリウム、スクラロース、ステビア抽出物、ネオテーム、ソーマチン、グリシン、グリセリン、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸三ナトリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、甘草等が挙げられる。上記の甘味剤は1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。なお、液糖、水アメにおいては、ショ糖、果糖、ブドウ糖、麦芽糖の量、精製度及び割合は、特に限定するものではなく、どのようなものでも使用可能である。
【0025】
防腐剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、安息香酸、安息香酸ナトリウム、乾燥亜硫酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル等が挙げられる。上記の保存剤は1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。上記保存剤(防腐剤)は1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0026】
pH調整剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(C)成分の無機酸の他に有機酸が挙げられるが、有機酸の配合により安定性が悪くなるおそれがあるので、有機酸の量は、液体経口組成物中50mg/100mL以下が好ましく、10mg/100mL未満がより好ましく、有機酸無配合にしてもよい。
【0027】
増粘剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カラギーナン、キサンタンガム、ジェランガム、プルラン、アラビアゴム等の天然水溶性高分子化合物、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコール、デキストラン等の合成水溶性高分子化合物等が挙げられる。
【0028】
本発明の液体経口組成物は、例えば、上記必須成分、任意成分及び水(残部)を、公知方法に従って混合溶解し、ろ過、滅菌充填することにより得ることができる。
【0029】
本発明の液体経口組成物は、ストレートタイプでも、飲む際に適宜、例えば、2〜10倍に希釈して飲む濃縮タイプでもよいが、保存場所を取らず、持ち運びが便利である点から、濃縮タイプとすることが好ましい。
【0030】
本発明の液体経口組成物の容器としては、一般的に飲料の容器として用いられるものであれば、何ら制約を受けるものではなく、使用可能な最内装の材質としては、ガラス、紙、アルミ等の金属、PETやPE等の樹脂等が挙げられる。
【0031】
本発明の液体経口組成物は鉄を含有するため、貧血等の対象者に好適である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0033】
[実施例1〜24、比較例1〜5]
表1〜7に示す組成の液体経口組成物を調製し、下記方法で安定性を評価した。結果を表中に併記する。なお、pH(20℃)は、東亜ディーケーケー株式会社 pHMETER HM−25Rを用いて測定した。なお、表中の鉄ラクトフェリン*1は鉄ラクトフェリン200(雪印乳業株式会社)、鉄ラクトフェリン*2は鉄ラクトフェリン70(雪印乳業株式会社)を配合したもので、その配合量を鉄量、ラクトフェリン量でそれぞれ示した。その他の成分は成分純分量である。
【0034】
<安定性の評価>
褐色の100mL用ガラス瓶に、液体経口組成物100mLを充填し、50℃・2週間保存した。保存後の組成物における沈殿発生状況を目視で判断し、下記評価基準に基づいて評価した。
[評価基準]
◎:澄明
○:色調変化はあるが澄明
△:澄明だが浮遊物有
×:沈殿の発生あり
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
【表5】

【0040】
【表6】

【0041】
【表7】

【0042】
[試験例1〜5]
表7に示す組成の液体経口組成物を調製した。得られた液体経口組成物について、Fe C−テストワコー(和光純薬工業株式会社製)で鉄遊離量を測定した。結果を表中に示す。
【0043】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)鉄ラクトフェリンと、(B)マグネシウムと、(C)無機酸とを含有し、pHが2.5〜3.8である液体経口組成物であって、マグネシウム/鉄で表される、マグネシウム含有量と鉄含有量とのモル比が1.0以上である液体経口組成物。
【請求項2】
(C)無機酸が、塩酸又はリン酸である請求項1記載の液体経口組成物。
【請求項3】
(A)鉄ラクトフェリンと、(B’)塩化マグネシウム及び/又は硫酸マグネシウムと、(C)無機酸とを配合してなる請求項1又は2記載の液体経口組成物。

【公開番号】特開2011−16736(P2011−16736A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160728(P2009−160728)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】