説明

液化天然ガス車両の燃料系システム

【課題】液化天然ガスを貯蔵する燃料容器と、この燃料容器から送り出される液化天然ガスを気化器を通して気化させてエンジンへ減圧弁を介して供給する燃料供給ラインと、を備える液化天然ガス車両のエンジン燃料系システムにおいて、燃料容器のLNGの保存期間を延ばすため、極低温のLNGをそのまま縦置きの燃料容器へフル状態に充填しえるようにする。
【解決手段】燃料容器10として縦長の容器を用いて車体にこれを縦置きに搭載すると共にその縦置き容器10の最下部に容器10内の液化天然ガスを気化器12へ流下させる供給口10dを配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液化天然ガス車両の燃料系システムに関する。
【背景技術】
【0002】
液化天然ガス(LNG)を燃料とするエンジンを搭載する車両(液化天然ガス車両)は、低公害型かつ圧縮天然ガス(CNG)を燃料とするエンジンを搭載する車両と較べると燃料とするガスを液体の状態で貯蔵するため、同容量の燃料容器の場合、遙かに長距離走行が可能という利点を持つ車両として注目される(特許文献1)。
【0003】
このような、液化天然ガス車両の燃料系システムは、LNGを貯蔵する燃料容器と、この燃料容器から送り出されるLNGを気化器を通して気化させてエンジンへ減圧弁を介して供給する燃料供給ラインと、を備えて構成される。
【特許文献1】特開2006−264568号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料供給ラインにおいて、減圧弁は、気化器で気化した燃料ガスを所定圧力(エンジンへの燃料供給圧)に減圧してエンジンへ供給するようになっている。このため、減圧弁上流の燃料ガス(気化じたLNG)の圧力は、減圧弁がエンジンへ所定圧力の気化した燃料ガスとして供給するのに必要な圧力に維持する必要がある。燃料容器へLNGをフル状態に充填(補給)する際は、補給完了直後のエンジン始動時においても、減圧弁上流に必要な圧力が得られるよう、燃料容器への充填燃料(LNG)の圧力を調整することが想定される。LNGは、極低温の液体であるが、必要な圧力を確保するため、その温度を上げると、LNG密度が下がり(図、参照)、ボイルオフガス(BOG)が早期に発生しやすくなり、燃料容器内の液化天然ガスの保存期間が短くなってしまう(図5の「従来の使用可能範囲」、参照)という不具合が考えられる。
【0005】
この発明は、このような不具合を改善するための有効な手段の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、液化天然ガスを貯蔵する燃料容器と、この燃料容器から送り出される液化天然ガスを気化器を通して気化させてエンジンへ減圧弁を介して供給する燃料供給ラインと、を備える液化天然ガス車両のエンジン燃料系システムにおいて、燃料容器として縦長の容器を用いて車体にこれを縦置きに搭載すると共にその縦置き容器の最下部に容器内の液化天然ガスを気化器へ流下させる供給口を配置したことを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、前記燃料供給ラインは、燃料容器の供給口とこれよりも低位の気化器との間を継ぐ配管部分にこれを開閉する電磁弁を介装したことを特徴とする。
【0008】
第3の発明は、第2の発明において、前記配管部分は、前記電磁弁から流下する液化天然ガスを貯留して前記気化器へ流下させる第1バッファタンクを備えたことを特徴とする。
【0009】
第4の発明は、第2の発明または第3の発明において、前記燃料供給ラインは、前記気化器から供給される気化した液化燃料ガスを貯留して前記減圧弁へ供給する第2バッファタンクを備えたことを特徴とする。
【0010】
第5の発明は、第4の発明において、前記燃料供給ラインは、前記気化器から減圧弁へ供給される気化した液化天然ガスの圧力を検出する手段と、その検出信号に基づいて減圧弁への気化した液化天然ガスの圧力を減圧弁がエンジンへ所定圧力の気化した液化天然ガスとして供給するのに必要な圧力に維持すべく前記電磁弁の開閉を制御する手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
第6の発明は、第5の発明において、前記気化器から減圧弁へ供給される気化した液化天然ガスの圧力を検出する手段は、前記第2バッファタンク内の圧力を検出する手段であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明においては、縦長の燃料容器は、車体において、縦置きに搭載されるので、横置きの場合に較べると、燃料容器内の液化天然ガス量が同一であれば、燃料容器内の最下部と液化天然ガスの液面との距離(深度)が稼げるため、その分、燃料容器の最下部に開口する供給口の送り出し圧力を高めることができる。従って、その分、燃料容器へ充填する液化天然ガスの温度が相対的に下げられ(液化天然ガスの密度が上げられ)、燃料容器内に液化天然ガスを長期間保存することができる。
【0013】
第2の発明においては、電磁弁は縦置きの燃料容器の最下部と気化器との高低差を継ぐ配管部分を開閉するので、燃料容器の供給口から送り出されて気化器へ流下する液化天然ガスの流量を調整することができる。つまり、電磁弁の開閉により、減圧弁上流の圧力(気化器で気化した液化天然ガスの圧力)を所定の圧力レベル(減圧弁の正常機能に必要な圧力範囲)に制御することができる。
【0014】
第3の発明においては、第1バッファタンクにより、電磁弁から流下する液化天然ガスを気化器へ安定的に供給することができる。
【0015】
第4の発明においては、第2バッファタンクにより、気化器で気化した液化天然ガスを減圧弁へ安定的に供給することができる。
【0016】
第5の発明においては、気化器から減圧弁へ供給される気化した液化天然ガスの圧力に基づいて電磁弁の開閉を制御することにより、減圧弁上流の圧力を所定の圧力レベル(減圧弁の正常機能に必要な圧力範囲)に制御する処理が適正に行える。
【0017】
第6の発明においては、安定した検出値(気化器から減圧弁へ供給される気化した液化天然ガスの圧力)が得られ、減圧弁上流の圧力を所定の圧力レベル(減圧弁の正常機能に必要な圧力範囲)に制御する処理が精度よく行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1において、液化天然ガス(LNG)を燃料とするエンジンを搭載する車両(液化天然ガス車両)のエンジン燃料系システムは、LNGを貯蔵する燃料容器10(タンク)と、この燃料容器10から送り出される液化天然ガスを気化させてエンジンへ供給する燃料供給ライン11と、燃料容器10へLNGを補給する燃料補給ライン(図示せず)と、が備えられる。
【0019】
燃料容器10は、外殻10aと内殻10bとの二重構造に構成され、外殻10aと内殻10bとの間に断熱用の真空層10cが設定される。この場合、燃料容器10は、縦長の容器に形成され、車体において、縦置き状態に搭載される。縦置き容器10の最下部にLNGの供給口10dが形成され、その供給口10dに燃料供給ライン11が接続される。
【0020】
燃料供給ライン11は、気化器12,減圧弁13、が介装される。気化器12は、エンジン冷却水(温水)を熱源に極低温のLNGを気化させるものであり、気化したLNGは、減圧弁13へ供給される。減圧弁13は、気化器12で気化したLNGを所定圧力に減圧してエンジンへ供給する。
【0021】
燃料供給ライン11において、燃料容器10の供給口10dとこれよりも低位の気化器12の入口との間を継ぐ配管11aにこれを開閉する電磁弁14と、電磁弁14から流下するLNGを貯留して気化器12へ流下させる第1バッファタンク15と、が介装される。エンジンにおいては、吸気系のスロットルバルブの上流または下流に燃料ガス(気化したLNG)を供給するノズルが配置され、エンジンキーに連動して開閉する低圧遮断弁と、この遮断弁から供給される所定圧力の燃料ガスの供給量をエンジン運転状態に応じて制御する装置が介装される。
【0022】
電磁弁14は、エンジン運転中において、減圧弁13上流の圧力Paを所定レベル(減圧弁13が気化したLNGを所定圧力に減圧してエンジンへ供給するのに必要な所定圧力Pa1)以上に維持すべく制御される。そのため、減圧弁13上流の圧力を検出する手段(圧力センサ)と、この検出信号に基づいて電磁弁14の開閉を制御する手段(電子制御装置)と、が備えられる。
【0023】
縦長の燃料容器10は、車体において、縦置きに搭載されるので、横置きの場合に較べると、燃料容器10内のLNG量ttが同一であれば、燃料容器10内の最下部とLNGの液面との距離(深度)が稼げるため、その分、供給口10dのLNGの送り出し圧力が高められ、エンジン運転中において、電磁弁14の開閉により、減圧弁13上流の圧力Paが所定レベル以上に維持することができる。
【0024】
エンジン運転中は、気化器12下流の気化したLNGが減圧弁13からエンジンへ供給される。電磁弁14は、減圧弁13上流の圧力Paが所定圧力Pa1を上回るときは、閉弁される。減圧弁13上流の圧力Paが所定圧力Pa1以下になると、電磁弁14が開弁され、燃料容器10内のLNGが供給口から第1バッファタンク15へ送り出され、第1バッファタンク15から気化器12へ流下して気化器12で気化されるのである。
【0025】
エンジン運転中においては、燃料容器10内の液面がエンジンへのLNGの供給に伴って低下する。そのため、燃料容器10内のLNGの送り出し圧力は、液面(LNG量tt)の低下に伴って低下するが、その一方で燃料容器10内にボイスオフガス(BOG)が発生するため、液面の低下に伴うLNGの送り出し圧力の低下分は、BOGの発生に伴う圧力上昇によって補償されるようになる。
【0026】
エンジン停止中においては、燃料容器10内の液面の低下がなく、BOGが発生するため、燃料容器10内の圧力は経時的に上昇する。このため、BOGの発生に伴う過剰な圧力上昇を防止するため、燃料容器などに安全弁が配置される。
【0027】
LNGの補給については、燃料補給ラインから燃料容器10内のBOGを回収しつつ、極低温のLNGを充填することになる。その場合、縦長の燃料容器10は、縦置き状態であり、前記の如く、燃料容器10内の最下部とLNGの液面との距離(深度)が稼げる分、燃料容器10内のLNGの送り出し圧力が高められるので、補給完了直後のエンジン始動時においても、減圧弁13上流に所定レベルの圧力Paが得られるよう、燃料容器10内の圧力Pt1(図1、参照)を高めるべく、燃料容器10への充填燃料(LNG)または燃料容器10内のLNGに熱を加える必要がなく、言い換えれば、極低温のLNGをそのまま縦置きの燃料容器10へフル状態に充填することが可能となる。
【0028】
そのため、極低温のLNGは、密度も高く、燃料容器10内のLNGの送り出し圧力が高められ、補給完了後は、燃料容器10内のLNGが極低温の状態からエンジンの運転が開始されるため、BOGの発生も遅くなり、燃料容器10内のLNGを長期間保存することができる(図4,図5、参照)。
【0029】
図5において、sは燃料容器10などに配置される安全弁の開弁設定圧であり、「従来の使用可能範囲」とあるのは、補給完了直後のエンジン始動時においても、燃料容器10内のLNGの送り出し圧力を確保するため、極低温のLNGに熱を加えて燃料容器内へ充填する場合を想定したものである。
【0030】
図2は、補給完了後からエンジンが運転され、燃料容器10内の液面(LNG量tt)が低下した状況を表すものであり、燃料容器10内のLNGは、外気の熱などによって経時的に温度が上がるため、BOGの発生に伴って燃料容器10内の圧力(気相の圧力)は、初期の圧力Pt1(図1、参照)からPt2に上昇する。
【0031】
図3は、電磁弁14の制御を説明するものであり、減圧弁13上流の圧力Paを検出する手段のほか、エンジンが運転中か否かの判定を行うため、エンジン回転数を検出する手段が備えられる。
【0032】
S1においては、エンジンキーの信号からエンジンの始動要求を判定すると、S2において、電磁弁14を開弁する。S3においては、減圧弁13上流の圧力Paが所定値Pa1を上回るか否かを判定する。S3の判定がyesのときは、S4において、エンジン回転数>0か否かを判定する。S4の判定がyes(Pa>P1かつエンジン回転数>0)のときは、電磁弁14を閉弁する。S4の判定がno(Pa>P1かつエンジン回転数>0)のときは、電磁弁14を閉弁する。
【0033】
S3の判定がnoのときは、S5において、エンジン回転数>0か否かを判定する。S5の判定がyes(Pa≦P1かつエンジン回転数>0)のときは、S2へ戻り、電磁弁14を開弁状態に保持する。S5の判定がno(Pa≦P1かつエンジン回転数=0)
のときは、電磁弁14を閉弁する。
【0034】
このような構成により、縦長の燃料容器10は、車体において、縦置きに搭載されるので、横置きの場合に較べると、燃料容器10内の液化天然ガス量が同一であれば、燃料容器10内の最下部とLNGの液面との距離(深度)が稼げるため、その分、燃料容器10の最下部の送り出し圧力を高めることができる。従って、その分、燃料容器10へ充填するLNGの温度が相対的に下げられる(LNGの密度が上げられる)から、補給完了後は、燃料容器10内のLNGが極低温の状態からエンジンの運転が開始されるため、BOGの発生も遅くなり、燃料容器10内のLNGを長期間保存することができる。燃料容器10内にLNGを長期間保存することができる。
【0035】
電磁弁14は、縦置きの燃料容器10の最下部と気化器12との高低差を継ぐ配管10aを開閉するので、燃料容器10の供給口10dから送り出されて気化器12へ流下するLNGの流量を調整する。つまり、電磁弁14の開閉により、減圧弁13上流の圧力Pa(気化器で気化したLNGの圧力)を所定レベル(減圧弁の正常機能に必要な圧力範囲)に制御することができる。また、第1バッファタンク15により、LNGを気化器12へ安定的に供給することができる。
【0036】
気化器12は、その入口と出口との間に高低差を持つ配置(縦置き)状態に図示されるが、もちろん、横置き状態に設置してもよい。
【0037】
図6は、別の実施形態を説明するものであり、気化器12下流に気化したLNGを貯留して減圧弁13へ供給する第2バッファタンク16が設定される。これにより、減圧弁13上流の圧力Paの変化が小さくなり、電磁弁14を安定的に制御することができる。減圧弁13下流の圧力Paを検出する手段は、第2バッファタンク16内の圧力を検出するように配置すると良い。図1と同一部品は、同一符合を付けて重複説明は省略する。なお、燃料容器10内の圧力(気相の圧力)は、Ptと表示する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明の実施形態に係る燃料系システムの要部構成図である。
【図2】同じく経時的な変化の説明図である。
【図3】同じく電磁弁の制御を説明する流れ図である。
【図4】同じくLNGの特性図である。
【図5】同じくLNGの特性図である。
【図6】別の実施形態に係る燃料系システムの要部構成図である。
【符号の説明】
【0039】
10 燃料容器
11 燃料供給ライン
11a 燃料供給ラインの配管
12 気化器
13 減圧弁
14 電磁弁
15 第1バッファタンク
16 第2バッファタンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化天然ガスを貯蔵する燃料容器と、この燃料容器から送り出される液化天然ガスを気化器を通して気化させてエンジンへ減圧弁を介して供給する燃料供給ラインと、を備える液化天然ガス車両のエンジン燃料系システムにおいて、燃料容器として縦長の容器を用いて車体にこれを縦置きに搭載すると共にその縦置き容器の最下部に容器内の液化天然ガスを気化器へ流下させる供給口を配置したことを特徴とする液化天然ガス車両のエンジン燃料系システム。
【請求項2】
前記燃料供給ラインは、燃料容器の供給口とこれよりも低位の気化器との間を継ぐ配管部分にこれを開閉する電磁弁を介装したことを特徴とする請求項1に係る液化天然ガス車両のエンジン燃料系システム。
【請求項3】
前記配管部分は、前記電磁弁から流下する液化天然ガスを貯留して前記気化器へ流下させる第1バッファタンクを備えたことを特徴とする請求項2に係る液化天然ガス車両のエンジン燃料系システム。
【請求項4】
前記燃料供給ラインは、前記気化器から供給される気化した液化燃料ガスを貯留して前記減圧弁へ供給する第2バッファタンクを備えたことを特徴とする請求項2または請求項3に係る液化天然ガス車両のエンジン燃料系システム。
【請求項5】
前記燃料供給ラインは、前記気化器から減圧弁へ供給される気化した液化天然ガスの圧力を検出する手段と、その検出信号に基づいて減圧弁への気化した液化天然ガスの圧力を減圧弁がエンジンへ所定圧力の気化した液化天然ガスとして供給するのに必要な圧力に維持すべく前記電磁弁の開閉を制御する手段と、を備えたことを特徴とする請求項4に係る液化天然ガス車両のエンジン燃料系システム。
【請求項6】
前記気化器から減圧弁へ供給される気化した液化天然ガスの圧力を検出する手段は、前記第2バッファタンク内の圧力を検出する手段であることを特徴とする請求項5に係る液化天然ガス車両のエンジン燃料系システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−144913(P2010−144913A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326071(P2008−326071)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】