説明

液卵の加熱処理方法および加熱処理装置

【課題】加熱処理された液卵の凝集特性を未殺菌液卵に近い凝集特性とする加熱処理技術を提供する。
【解決手段】液卵の加熱処理方法は、液卵に含まれる気体を取り除く脱気工程1と、前記脱気工程において脱気処理された液卵を、ジュール加熱ユニットに形成された加熱流路内を流しながら、ジュール加熱ユニットに設けられた電極に電力を供給して液卵を殺菌温度まで加熱するジュール加熱工程3とを有している。脱気処理された液卵をシュール加熱ユニットにより殺菌温度まで加熱すると、殺菌液卵は未殺菌液卵に近い凝集特性とすることができる。殺菌温度まで加熱された液卵は保持工程4と冷却工程5とを経て製品化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液卵を搬送しながら連続的に加熱殺菌するための液卵の加熱処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
卵料理を顧客に提供する飲食業や、卵を素材とした食品を製造する食品加工業においては、工場で予め加熱殺菌されて容器に詰められた液卵が使用されている。このような調理用食品として用いられる殺菌液卵には、卵黄のみの液卵黄、卵白のみの液卵白、および卵白と卵黄とが混合された液全卵がある。調理用の液全卵を量産するには、特許文献1に記載されるように、殻付き卵を割卵機械により割卵し、ストレーナによりカラザや卵カラの破片等と液卵とをまず分離する。分離された液卵は容器に貯蔵されて冷蔵保存され、加熱殺菌する際に保存された液卵は加熱装置に搬送される。
【0003】
液卵を加熱殺菌するために、従来では、常法の60℃で3.5分加熱の他に、特許文献1に記載されるように、バッチ式殺菌タンク、プレート式熱交換装置、またはジュール加熱装置により液卵を58℃で10分間加熱する方法が提案されている。また、特許文献2に記載されるように、加熱工程を二段階に分けて第1の加熱工程では57〜60℃で1〜60秒加熱し、冷却後に第2の加熱工程では55〜58℃で3.5〜10分間加熱する方法が提案されており、それぞれの加熱工程にはプレート式熱交換器が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−248532号公報
【特許文献2】特開2002−165583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、卵スープを調理する際に、割卵して殻から取り出した未殺菌の液卵を熱湯に投入すると、卵が固まった状態となった卵スープを調理することができる。これに対し、従来の技術で殺菌処理された液卵を熱湯に投入すると、液卵が固まった状態とならないことが判明している。この現象は、卵スープを調理する場合に限らず、加熱殺菌された液卵は加熱しても凝集性に問題点があった。このように、殺菌液卵が未殺菌液卵に比して凝集性が悪くなるという現象は、特に、殺菌処理された液卵を量産するために、プレート式やチューブ式の熱交換装置を使用して液卵を連続的に流路に搬送しながら殺菌温度まで加熱処理した液卵においては、ジュール加熱装置により液卵を加熱した場合よりも顕著であった。
【0006】
液卵の殺菌を能率的に行うには、液卵が注入された容器から加熱装置に液卵を供給して加熱装置内に液卵を流しながら連続的に加熱処理を行うようにすることが好ましい。しかしながら、プレート式やチューブ式の熱交換装置を用いて加熱処理すると、加熱処理後の液卵の凝集特性を、未殺菌液卵を熱湯に投入した場合と同じ特性まで高めることができなかった。これに対し、ジュール加熱装置を用いて加熱処理すると、熱交換装置を用いて液卵を加熱する場合よりも液卵の凝集特性を高めることができるが、それでも、未殺菌液卵の凝集特性に近い特性とすることができなかった。
【0007】
殺菌液卵の凝集特性を向上させるために種々の実験が繰り返された。その結果、プレート式等の熱交換装置により液卵を殺菌温度まで加熱する場合には、外部から熱交換装置に供給される加熱媒体により液卵を加熱するので、加熱媒体の温度を殺菌温度よりも高く設定する必要がある。このため、搬送される液卵は全体的に均一な温度とならず、部分的に過加熱されることになる。過加熱される部分が発生しないようにするには、プート相互間により設定される流路の断面積を小さくする必要があるが、狭い流路内に液卵を流すようにすると、物理的な衝撃により凝集性の低下を防ぐことができなかった。
【0008】
一方、ジュール加熱装置により液卵を加熱すると、流路内の液卵は短時間に均一の温度に加熱することができるので、過加熱部分を発生させることがないという利点があり、プレート式やチューブ式の熱交換装置を用いた場合よりも凝集特性を高めることができる。しかしながら、ジュール加熱装置を用いても、液卵の凝集特性を未殺菌液卵に近い特性にまで高めることが困難であった。そこで、ジュール加熱装置を用いて液卵を加熱処理しても殺菌液卵の凝集特性に近い状態にまで向上させることができない原因を追及したところ、ジュール加熱装置を用いた場合には、液卵の内部に含まれる気体が凝集特性を未殺菌液卵に近い状態とすることの妨げとなっているということが判明した。これは、液卵の内部に含まれる気体がジュール熱により加熱されて膨張することにより、液卵の構造が壊れたり、温度(加熱)ムラの発生による部分的な熱ダメージを受けることが凝集性の低下を起こしていると推測される。
【0009】
本発明の目的は、加熱処理された液卵の凝集特性を未殺菌液卵に近い凝集特性とする加熱処理技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の液卵の加熱処理方法は、液卵を連続的に搬送しつつ加熱殺菌する液卵の加熱処理方法であって、液卵に含まれる気体を取り除く脱気工程と、前記脱気工程において脱気処理された液卵を、ジュール加熱ユニットに形成された加熱流路内を流しながら、前記ジュール加熱ユニットに設けられた電極に電力を供給して液卵を殺菌温度まで加熱するジュール加熱工程とを有することを特徴とする。本発明の液卵の加熱処理方法は、前記ジュール加熱工程により液卵を殺菌温度に加熱する前に、液卵を殺菌温度よりも低い温度に加熱する予熱工程を有することを特徴とする。本発明の液卵の加熱処理方法は、殺菌温度まで加熱された液卵を殺菌温度で一定の保持時間にわたり保持する保持工程と、温度保持された後の液卵を殺菌温度から保存温度にまで冷却する冷却工程とを有することを特徴とする。本発明の液卵の加熱処理方法は、前記脱気工程は、液卵を容器に収容した状態のもとで前記容器に接続された真空ポンプにより前記容器内の気体を外部に排出して液卵に含まれる気体を取り除くことを特徴とする。
【0011】
本発明の液卵の加熱処理装置は、液卵を連続的に搬送しつつ加熱殺菌する液卵の加熱処理装置であって、液卵を収容する容器に接続され、前記容器を密閉した状態のもとで前記容器内の気体を外部に排出して液卵に含まれる気体を取り除く真空ポンプと、前記容器に連通する加熱流路が形成されるとともに前記加熱流路を形成する電極が設けられ、液卵を前記加熱流路内に流しながらジュール熱により発熱させて液卵を殺菌温度まで加熱するジュール加熱ユニットとを有することを特徴とする。本発明の液卵の加熱処理装置は、前記ジュール加熱ユニットにより液卵を殺菌温度に加熱する前に、液卵を殺菌温度よりも低い温度に加熱する予熱ユニットを有することを特徴とする。本発明の液卵の加熱処理装置は、前記加熱流路に連通する保温流路が形成され、加熱された液卵を流しながら殺菌温度に一定の保持時間にわたり保持する温度保持手段と、前記保温流路に連通する冷却流路が形成され、温度保持された後の液卵を前記冷却流路内に流しながら殺菌温度から保存温度にまで冷却する冷却手段とを有することを特徴とする。本発明の液卵の加熱処理装置は、前記ジュール加熱ユニットは、絶縁材料からなる複数の円筒体と、相互に隣り合う前記円筒体の間に配置されて前記円筒体とともに前記加熱流路を形成する複数の環状の電極とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、液卵をジュール加熱により殺菌温度まで加熱する前に、予め液卵に含まれる気体を脱気工程により取り除いたので、ジュール熱により殺菌温度まで加熱処理しても、気体の膨張に起因した液卵の構造破壊や加熱ムラの発生が抑制されて、殺菌液卵の凝集特性を未殺菌液卵と同様の凝集特性とすることができる。処理することができる液卵としては、液卵黄、液卵白、および液全卵のいずれでも良い。
【0013】
ジュール加熱により殺菌温度に加熱する前に、予熱工程により殺菌温度よりも低い温度に液卵を加熱するようにしても良い。その予熱を熱交換装置を用いても、予熱温度は殺菌温度よりも低い温度であるので、予熱により液卵が過加熱されることがなく、ジュール加熱により液卵が殺菌温度まで加熱される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態である加熱処理方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明の一実施の形態である加熱処理装置を示す概略図である。
【図3】本発明の他の実施の形態である加熱処理装置を示す概略図である。
【図4】(A)は図2および図3に示した加熱交換式の予熱ユニットを示す断面図であり、(B)は熱交換式の予熱ユニットの変形例を示す断面図である。
【図5】図2および図3に示されたジュール加熱ユニットを示す断面図である。
【図6】本発明の液卵の加熱処理装置により加熱処理した液卵の凝集状態を示す写真である。
【図7】図6に示した場合とは脱気時間を相違させた場合における本発明の液卵の加熱処理装置により加熱処理した液卵の凝集状態を示す写真である。
【図8】比較例として脱気処理しない場合における液卵の凝集状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1に示すように、本発明の液卵の加熱処理方法は、脱気工程1を有しており、脱気工程1において液卵に含まれる気体が取り除かれる。脱気処理される液卵が冷蔵保存されたものであれば、例えば10℃程度の温度の液卵が脱気処理される。一方、割卵された液卵が後に直ちに脱気工程に搬送される場合には液卵は常温となっている。脱気された液卵は、予熱工程2において、殺菌温度よりも低い温度、例えば、40℃程度の予熱温度まで加熱された後に、ジュール加熱工程3においてジュール熱により60℃程度の殺菌温度まで発熱により加熱される。
【0016】
予熱工程2およびジュール加熱工程3においては、液卵は加熱流路内に連続的に流されながらジュール加熱装置により通電加熱される。ジュール熱により短時間で殺菌温度まで加熱された液卵は、保持工程4において殺菌温度に3.5分以上保持される。殺菌温度に保持された液卵は、冷却工程5に搬送されて例えば10℃程度の保存温度にまで冷却された後に、包装工程6において包装袋や包装容器内に注入される。予熱工程2は、ジュール加熱工程3と同様にジュール加熱装置により予熱する形態と、チューブ式やプレート式の熱交換装置を使用する形態とがあるが、チューブ式やプレート式の熱交換装置を使用しても、予熱工程2における加熱温度は、殺菌温度よりも低い温度であるので、液卵は部分的であっても殺菌温度以上に過加熱される部分が発生することはない。
【0017】
一方、殺菌温度まで加熱するジュール加熱工程3においては、予め脱気工程1において液卵に含まれる気体を取り除いた状態のもとで、ジュール加熱により液卵を発熱させて殺菌温度まで加熱することになる。これにより、ジュール加熱により殺菌温度まで加熱した液卵を用いて卵料理を調理しても、殺菌液卵の凝集特性は未殺菌液卵に近い特性となることが判明した。しかも、殺菌液卵としては、液卵黄、液卵白および液全卵のいずれを使用しても、凝集特性は未殺菌液卵に近い特性となった。
【0018】
図2は、図1に示した液卵の加熱処理方法を具体化した液卵の加熱処理装置10aを示す概略図であり、この加熱処理装置10aは液卵Eを収容する容器としてのホッパ11を有している。ホッパ11内に供給される液卵Eは、殻付き卵を割卵機械により割卵され、ストレーナによりカラザや卵カラの破片等と液卵とを分離することにより得られ、分離された液卵Eはホッパ11内に投入される。ホッパ11内に冷蔵保存された液卵Eが投入される場合には、10℃程度に冷蔵された液卵Eがホッパ11内に収容される。一方、割卵された液卵が直接ホッパ11内に投入されるときには常温に近い温度の液卵Eがホッパ11内に供給されることになる。
【0019】
ホッパ11には密閉蓋12が装着されるようになっており、密閉蓋12には真空ポンプ13が接続されている。したがって、ホッパ11内に液卵Eを所定量投入した後に、密閉蓋12をホッパ11の開口部に取り付けてホッパ11の内部を密閉した状態のもとで、真空ポンプ13を駆動してホッパ11内の気体を外部に排出すると、液卵E内に含まれる気体は取り除かれることになる。真空ポンプ13をホッパ11の上端部に接続するようにして、ホッパ11内の気体を外部に排出するようにしても良い。
【0020】
ホッパ11は配管14aにより予熱ユニット15aに接続されている。配管14aには内部の流路を開閉する開閉弁16が設けられており、開閉弁16の下流側には供給ポンプ17が設けられている。真空ポンプ13によりホッパ11内の空気を排出する際には、開閉弁16により配管14aが閉じられて、ホッパ11の内部は密閉状態となる。
【0021】
予熱ユニット15aは、配管14aに連通する加熱流路を有しており、常温あるいは10℃程度の保存温度で冷蔵保存された液卵Eは加熱流路内を流れながら、例えば40℃程度の温度まで加熱される。この予熱ユニット15aとしては、チューブ式やプレー式の熱交換装置が使用される。予熱温度まで加熱された液卵Eは、配管14bによりジュール加熱ユニット15bに搬送される。ジュール加熱ユニット15bは配管14bに連通する加熱流路を有しており、ジュール加熱ユニット15bに設けられた電極に電力を供給することによって、液卵Eは殺菌温度である60℃程度まで通電加熱される。
【0022】
ジュール加熱ユニット15bは配管14cにより温度保持手段としての温度保持ユニット18に接続されている。この温度保持ユニット18は内部に配管14cに連通する保温流路を有しており、殺菌温度である60℃程度に液卵を一定時間保持する。この保持時間としては、例えば、3.5分以上に設定される。
【0023】
温度保持ユニット18は配管14dにより冷却手段としての冷却ユニット19に接続されている。冷却ユニット19は配管14dに連通する冷却流路を有しており、冷却流路を流れる液卵は殺菌温度60℃から保存温度、例えば10℃程度まで冷却される。冷却ユニット19により冷却された液卵Eは配管14eを介して回収容器20に供給される。冷却ユニットとしては、プレート式やチューブ式の熱交換器が使用される。回収容器20内に供給された液卵Eは、図示しない包装装置に搬送されて、包装容器や樹脂製の包装袋等に注入される。
【0024】
図3は本発明の他の実施の形態である液卵の加熱処理装置を示す概略図であり、図3においては図2に示した部材と共通の部材には同一の符号が付されている。
【0025】
この液卵の加熱処理装置10bにおいては、予熱ユニット15aに配管14aにより接続されるホッパ11は脱気装置としての機能を有しておらず、ホッパ11に加えて脱気容器11aを有している。脱気容器11aには密閉蓋12が装着されるようになっており、密閉蓋12には真空ポンプ13が接続されている。したがって、脱気容器11a内に液卵Eを所定量投入した後に、密閉蓋12を脱気容器11aの開口部に取り付けて脱気容器11aの内部を密閉した状態のもとで、真空ポンプ13を駆動してホッパ11内の気体を外部に排出すると、液卵E内に含まれる気体は取り除かれることになる。脱気容器11aを用いて脱気処理された液卵Eはホッパ11内に投入されて、図2に示した加熱処理装置10aと同様にして液卵は加熱処理される。なお、脱気容器11aについても、真空ポンプ13を密閉蓋12に接続することなく、脱気容器11aに接続するようにしても良い。
【0026】
図4(A)は図2および図3に示された予熱ユニット15aを具体的に示す断面図であり、図4(B)は予熱ユニット15aの変形例を示す断面図である。
【0027】
図4(A)に示すように、この予熱ユニット15aは液卵Eを案内する内側チューブ21を有している。この内側チューブ21の一端部には配管14a内の流路に連通する流入口22aが形成され、他端部には配管14b内の流路に連通する流出口22bが形成されおり、流入口22aと流出口22bとの間は加熱流路23となっている。液卵Eは矢印24aで示されるように、内側チューブ21の加熱流路23に流入口22aから流入し、矢印24bで示すように流出口22bから流出される。内側チューブ21の外側には外側チューブ25が取り付けられており、内側チューブ21と外側チューブ25の間には加熱媒体が供給される媒体流路26となっている。媒体流路26には加熱媒体として温水が、矢印27aで示されるように、外側チューブ25の一端部に設けられた流入口28aから流入し、他端部に設けられた流出口28bから矢印27bに示すように流出するようになっている。これにより、液卵Eは加熱媒体によって40℃程度の予熱温度まで加熱される。このように、図4(A)に示す予熱ユニット15aは、内側チューブ21に形成された加熱流路23に液卵Eを流しながら、これを加熱するチューブ式の熱交換装置となっている。
【0028】
図4(B)に示す予熱ユニット15aは、図4(A)がチューブ式であるのに対して、プレート式の熱交換装置であり、複数枚のプレート29を隙間を介して組み合わせることにより形成されている。相互に隣り合うプレート29の間には、流入口22aから流出口22bに向けて液卵を案内する加熱流路23と、流入口28aから流出口28bに向けて加熱媒体を案内する媒体流路26とがそれぞれ蛇行して形成されている。液卵の流入口22aは配管14aに接続され、流出口22bは配管14bに接続され、ホッパ11から供給された液卵Eが加熱流路23内に供給される。一方、媒体流路26には外部から加熱媒体としての温水が、矢印27aで示されるように流入口28aから流入し、矢印27bで示されるように流出口28bから流出するようになっており、液卵Eは加熱媒体によって予熱温度まで加熱されることになる。
【0029】
図5は図2および図3に示したジュール加熱ユニット15bの拡大断面図である。このジュール加熱ユニット15bは液卵を案内する加熱流路23が形成された断面円形の加熱パイプつまり管状部材31を有している。管状部材31は7つのリング状の電極32とこれらの間に配置される6つの円筒体33とにより構成されている。このように、ジュール加熱ユニット15bは複数の電極32と複数の円筒体33とにより構成される管状部材31を有し、管状部材31には隣り合う電極32が対をなして設けられている。それぞれの電極32はチタンなどの導体により形成され、それぞれの円筒体33は樹脂等の絶縁体により形成されている。管状部材31の両端部には絶縁体からなる流入側と流出側のジョイント部34,35が取り付けられている。それぞれの電極32には電源ユニット36がケーブルを介して接続されており、液卵Eの流れる方向に隣り合って対をなす電極32が相互に逆極性となるように電源ユニット36から高周波電流が供給される。なお、ジュール加熱ユニット15bに設けられる電極32の数は加熱温度等に応じて任意に設定される。
【0030】
温度保持ユニット18は予熱ユニット15aおよびジュール加熱ユニット15bと同様に内部に流路が設けられており、温度保持ユニット18の外部に断熱材を設けることにより、内部の保持流路を流れる液卵は殺菌温度に保持される。ただし、温度の低下を防止するために外部に加熱媒体を流すようにしても良い。
【0031】
冷却ユニット19は、図4(A)に示した予熱ユニット15aと同様にチューブ式の熱交換装置、または図4(B)に示した予熱ユニット15a同様にプレート式の熱交換装置により形成されており、内部の冷却流路に冷媒つまり冷却媒体を流すことにより、液卵Eは保存温度まで冷却される。保存温度は常温あるいはこれよりも低い10℃程度となっている。
【0032】
上述のように、予め脱気処理した液卵をジュール加熱ユニット15bにより殺菌温度にまで加熱すると、脱気処理により液卵Eの中に含まれる気体が取り除かれるので、殺菌液卵の凝集特性を未殺菌液卵に近い凝集特性とすることができた。この理由は、ジュール加熱する際の液卵Eに気体が含まれていると、ジュール加熱時に液卵Eに含まれていた気体が加熱膨張することにより、液卵Eの構造が壊れたり、温度ムラの発生による部分的な熱ダメージにより液卵Eの凝集性が低下してしまうと考えられる。これに対して、本発明においては、予め液卵Eを脱気処理して液卵内部の気体を取り除いた状態のもとで、液卵Eをジュール加熱ユニット15bにより殺菌温度まで加熱すると、液卵の構造破壊の発生が防止され、凝集特性に優れた殺菌液卵を製造することが可能となった。
【0033】
図6および図7は、それぞれ図2に示した液卵の加熱処理装置10aにより加熱処理した液卵Eの凝集状態を示す写真であり、それぞれ冷却処理された液卵を熱湯の中に注入し、透明の包装袋に包装した状態を示す。図6はホッパ11内に液卵Eを収容した状態でホッパ11内を0.09MPaの真空度とした状態のもとで、1時間40分脱気処理した後に、図2に示す加熱処理装置10aにより加熱処理した液卵Eを示す。図7は同様の真空度で、30分脱気処理した後に図2に示す加熱処理装置10aにより加熱処理した液卵Eを示す。このように、脱気時間を1時間40分保持した方が、脱気時間を30分とした場合よりも、凝集特性が良好であった。脱気時間としては、1〜2時間程度が好ましいことが判明した。
【0034】
図8は比較例として脱気処理を行わないで、加熱処理処理した場合における液卵の凝集特性を示す写真である。このように、脱気処理しないでジュール加熱した殺菌液卵を熱湯中に注入すると、液卵は熱湯の中で全体的に濁った状態で凝集してしまった。その凝集状態は、チューブ式やプレート式の熱交換装置により殺菌温度まで加熱した場合よりも良好であったが、未殺菌液卵を熱湯中に注入した場合よりも凝集性は悪かった。これに対し、図2および図3に示したように、脱気処理した後にジュール加熱ユニット15bにより殺菌温度まで加熱した液卵Eは、図6および図7に示されるように、未殺菌液卵に近い状態に凝集することが判明した。
【0035】
図2および図3に示す液卵の加熱処理装置10a,10bにおけるホッパ11は、液卵を予熱する機能を有していないが、ホッパ11の外側に加熱媒体を循環させるジャケットを設けてホッパ11に加熱器としての機能を設けることにより、例えば40℃程度までホッパ11内で液卵をゆっくりと撹拌しながら予熱するようにしても良い。また、脱気処理の方式としては、真空ポンプ13により液卵が収容された容器を真空にすることなく、割卵された液卵を容器内に例えば1日程度冷蔵保存する形態としても良い。卵を所定時間に渡って冷蔵保存することによって、液卵の内部に取り込まれた気体を外部に排出することができ、同様に凝集特性に優れた殺菌液卵を製造することが可能である。
【0036】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。たとえば、図2および図3に示す液卵の加熱処理装置10a,10bにおいては、予熱ユニット15aを熱交換装置としているが、予熱ユニット15aをジュール加熱ユニットにより形成するようにしても良い。その場合には、2台のジュール加熱ユニットによりホッパ11から供給された液卵を2回に分けてジュール加熱することになる。また、予熱を行うことなく、1台のジュール加熱ユニット15bにより脱気処理後の液卵を一気に殺菌温度まで加熱するようにしても良い。
【符号の説明】
【0037】
10a,10b 加熱処理装置
11 ホッパ
11a 脱気容器
12 密閉蓋
13 真空ポンプ
15a 予熱ユニット
15b ジュール加熱ユニット
16 開閉弁
17 供給ポンプ
18 温度保持ユニット
19 冷却ユニット
20 回収容器
21 内側チューブ
23 加熱流路
25 外側チューブ
26 媒体流路
29 プレート
31 管状部材
32 電極
33 円筒体
36 電源ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液卵を連続的に搬送しつつ加熱殺菌する液卵の加熱処理方法であって、
液卵に含まれる気体を取り除く脱気工程と、
前記脱気工程において脱気処理された液卵を、ジュール加熱ユニットに形成された加熱流路内を流しながら、前記ジュール加熱ユニットに設けられた電極に電力を供給して液卵を殺菌温度まで加熱するジュール加熱工程とを有することを特徴とする液卵の加熱処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の液卵の加熱処理方法において、前記ジュール加熱工程により液卵を殺菌温度に加熱する前に、液卵を殺菌温度よりも低い温度に加熱する予熱工程を有することを特徴とする液卵の加熱処理方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の液卵の加熱処理方法において、殺菌温度まで加熱された液卵を殺菌温度で一定の保持時間にわたり保持する保持工程と、温度保持された後の液卵を殺菌温度から保存温度にまで冷却する冷却工程とを有することを特徴とする液卵の加熱処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の液卵の加熱処理方法において、前記脱気工程は、液卵を容器に収容した状態のもとで前記容器に接続された真空ポンプにより前記容器内の気体を外部に排出して液卵に含まれる気体を取り除くことを特徴とする液卵の加熱処理方法。
【請求項5】
液卵を連続的に搬送しつつ加熱殺菌する液卵の加熱処理装置であって、
液卵を収容する容器に接続され、前記容器を密閉した状態のもとで前記容器内の気体を外部に排出して液卵に含まれる気体を取り除く真空ポンプと、
前記容器に連通する加熱流路が形成されるとともに前記加熱流路を形成する電極が設けられ、液卵を前記加熱流路内に流しながらジュール熱により発熱させて液卵を殺菌温度まで加熱するジュール加熱ユニットとを有することを特徴とする液卵の加熱処理装置。
【請求項6】
請求項5記載の液卵の加熱処理装置において、前記ジュール加熱ユニットにより液卵を殺菌温度に加熱する前に、液卵を殺菌温度よりも低い温度に加熱する予熱ユニットを有することを特徴とする液卵の加熱処理装置。
【請求項7】
請求項5または6記載の液卵の加熱処理装置において、前記加熱流路に連通する保温流路が形成され、加熱された液卵を流しながら殺菌温度に一定の保持時間にわたり保持する温度保持手段と、前記保温流路に連通する冷却流路が形成され、温度保持された後の液卵を前記冷却流路内に流しながら殺菌温度から保存温度にまで冷却する冷却手段とを有することを特徴とする液卵の加熱処理装置。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の液卵の加熱処理装置において、前記ジュール加熱ユニットは、絶縁材料からなる複数の円筒体と、相互に隣り合う前記円筒体の間に配置されて前記円筒体とともに前記加熱流路を形成する複数の環状の電極とを有することを特徴とする液卵の加熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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