説明

液圧制御装置

【課題】ソレノイドの吸引力により、比例制御弁を電気的に制御できる液圧制御装置を提供する。
【解決手段】マスタシリンダから後輪ブレーキに供給される制動液圧を制御することによって車両の前輪制動力と後輪制動力との比率を車両重量信号に基ずくソレノイドの吸引力によって調整する後輪ブレーキの液圧制御装置であって、ソレノイドの吸引力特性をアーマチャとマグネットコア間のストローク(エアーギャップ)に対してフラット及び又は比例的に増加する領域を使用することによって、液圧制御弁を電気的に制御可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の荷重の変化に対応して後輪ブレーキの液圧を制御する液圧制御装置に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来の後輪ブレーキの液圧を制御する液圧制御装置として、後輪の先ロックを防止し車両の走行安定性を確保する為に、後輪のブレーキ液圧を前輪のブレーキ液圧より下げる為の比例制御弁(プロポーショニングバルブ)と呼ばれる液圧制御弁が使用されている。
【0003】
この比例制御弁を使用すると、後輪のブレーキ液圧は所定の圧力(折点圧力、以下折点と略称する)までは、印加したブレーキ液圧(入力圧)が加わるが、入力圧が折点以上になると、入力圧に対して所定の割合の勾配を持った出力圧が得られる。また、車両の荷重変化に対して折点を制御して適切なブレーキ力を出力することができるLSPV(ロードセンシングプロポーショナルバルブ)も使用されている。
【0004】
前記圧力比例制御弁としては、例えば特許文献1に示すように一点の折点で所定の勾配を発生させるものや、特許文献2に示す様に車両の荷重変化をセンサースプリングで受けて折点を機械的に制御するもの、そして特許文献3に示すように、ソレノイドにより自動車の荷重の変化に対応して後輪ブレーキの液圧を電気的に制御されるものが知られている。
【0005】
特許文献3の電気的に制御する比例制御弁は、ソレノイドを小型化する為に、付勢手段(例えばバネ)により付勢された弁体とソレノイドの作動により移動する可動子を分離して、必要なソレノイドの移動量(エアーギャップ)を減らしソレノイドを小型化するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許0811714号公報
【特許文献2】実開昭63−11266号公報
【特許文献3】特開平10−148273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の比例制御弁の構造を図13に示す。このソレノイドのアーマチャ(可動子)12とマグネットコア(固定子)4は、平面対向タイプであり、ソレノイドの吸引力特性は図10に示した様にストローク(エアーギャップ)に対して、2乗に反比例する特性である。大きな吸引力が得られ小型化可能であるが、図10に示した様に、液圧により弁体(ピストン14)が押されてピストン14に作用した液圧と慣性力によりソレノイドの力を上回り押されると吸引力は2乗に反比例して急激に低下して弁体を押し戻すことができず、図11に示した様にストローク上限まで押されて折点以降の液圧勾配は弁体が閉じたままとなり液圧勾配が発生しないという問題があり、ソレノイドではこの種の比例制御弁を制御することが困難であった。
【0008】
また、現在の液圧制御装置は、特許文献2に開示されている様に後輪の車軸の車高の変化をセンサースプリングでセンシングして、比例制御弁の付勢力を調整して折点を制御するシステムであり、搭載位置が後輪の車軸の外部に露出した形で設置される。その為、飛び石の噛み込みにより、センサースプリングの付勢力が変化して折点が狂うとか、振動によりセンサースプリングが共振して、性能が変化する等の問題点もあった。
【0009】
また、この種の比例制御弁は、フロントブレーキの失陥時のフェールセーフの為、図14に示す様にフロントからフェールセーフの為のブレーキの配管24を接続している。フロントブレーキ失陥時はフロントブレーキ液圧が加わる室の液圧が0になり、比例制御弁のピストン14が右側に移動してリア液圧入口ポート7とリア液圧出力ポート8が連通状態(図13の状態)となり液圧勾配が発生せず、リアのブレーキ力が最大活用可能なシステムになっている。この為、フロントからフェールセーフの為のブレーキ配管24を液圧制御装置2が設置されている後輪の車軸まで接続する必要があり、その分の重量増及びコスト増となっている。
【0010】
従って、本発明は上記の事情に鑑みて考えられたもので、制御する液圧が高圧になってもソレノイドにより比例制御弁を電気的に制御することが可能な構成を備えた液圧制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための第1発明の液圧制御装置は、マスタシリンダから後輪ブレーキに供給される制動液圧を制御することによって車両の前輪制動力と後輪制動力との比率を車両重量信号に基づくソレノイドの吸引力によって調整する後輪ブレーキの液圧制御装置であって、前記ソレノイドの吸引力がアーマチャとマグネットコアとの間のエアーギャップ増加に対して一定及び/又は比例的に増加することを特徴とする。
【0012】
第1発明によれば、制御する液圧が高圧になってもピストンの力に押し負かされ、アーマチャとマグネットコアとの間のエアーギャップが広がっても押し戻す吸引力が一定又は増加する為、ピストンを所定の位置に押し戻して折点以降の所定の勾配を発生させることが可能となる。
【0013】
第2発明の液圧制御装置は、第1発明において、前記ソレノイドのアーマチャとマグネットコアの端面のいずれか一方はリング状の淵部を有する形状とし、他方は平面形状とし、アーマチャとマグネットコアの端面が嵌合する様に構成したことを特徴とする。
【0014】
第2発明は、図5の様にマグネットコアの端面をリング状の淵部を有する形状とし、端面が平面な形状のアーマチャと対向させることにより、水平面部が対向する領域ではエアーギャップに対してフラットな吸引力特性が得られる効果があり、所定の折点と液圧勾配を発生可能である。
【0015】
第3発明の液圧制御装置は、第1発明において、前記ソレノイドのアーマチャ及びマグネットコアの両者の端面はリング状の淵部を有する形状とし、それらの端面が嵌合する様に構成したことを特徴とする。
【0016】
第3発明によれば、図6の様に端面がリング状の淵部を有するアーマチャ(可動子)とマグネットコア(固定子)をそれぞれ互いに対向する様にセットされる。これにより水平面部が対向する領域ではエアーギャップに対してフラットな吸引力特性が得られる効果がある。そしてそれぞれのエッジ部が対向する領域では、磁界のエッジ効果によりエアーギャップに対して比例的に増加する吸引力特性が得られる効果がある。このため制御する液圧が高くなることによりピストンが押されてもこの増加する吸引力でピストンを押し戻すことができ、所定の折点と液圧勾配を発生可能である。
【0017】
第4発明の液圧制御装置は、第1発明から第3発明にいずれかにおいて、ブレーキのマスタシリンダの側面へ液圧制御装置を取り付けることや、マスタシリンダと一体的に構成したことを特徴とする。
【0018】
第4発明は、この液圧制御装置をブレーキのマスタシリンダに一体的に組み込みこんでいる。この種の比例制御弁は、従来フロントブレーキの失陥時のフェールセーフの為に図13及び14に示す様にフロントからフェールセーフの為のブレーキの配管を接続する。第4発明ではフロントブレーキ失陥時はフロントブレーキ液圧が加わる室の液圧が0になり、比例制御弁のピストン14が右側に移動してリア液圧入口ポートとリア液圧出力ポートが連通状態となり液圧勾配が発生せずリア液圧入出力は同じ液圧がリアホイールシリンダに加わるシステムになっている。従って、比例制御弁がブレーキのマスタシリンダと一体化されれば、フェールセーフの為のブレーキ配管が削減でき重量及びコストを低減できる効果がある。
【0019】
第5発明の液圧制御装置は、第1発明から第3発明にいずれかにおいて、ソレノイドを電気的に制御する制御回路をソレノイドに内臓又は、ソレノイドのヨーク外壁に一体的に構成したことを特徴とする。
【0020】
第5発明は、ソレノイドの電気的制御回路を比例制御弁と一体化した液圧制御装置である。電気的制御回路を一体化することにより、電気的制御回路と液圧制御装置間を接続する電気的配線を削減でき重量低減とコスト低減できる。更には電気的配線長を削減することにより電圧降下も削減できブレーキ制御システムの信頼性が向上する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1の液圧制御装置のH配管用ブレーキ液圧制御回路を示す図である。
【図2】実施例1の液圧制御装置に使用されるレノイドの吸引力特性を示す図である。
【図3】実施例1の液圧制御装置の液圧特性を示す図である。
【図4】実施例1の液圧制御装置全体の断面図を示す図である。
【図5】実施例2の液圧制御装置に使用されるソレノイドの断面図を示す図である。
【図6】実施例3の液圧制御装置に使用されるソレノイドの断面図を示す図である。
【図7】実施例4のマスタシリンダと液圧制御装置を一体化した例を示す図である。
【図8】実施例5の液圧制御装置にそれを電気的に制御する為の制御回路を一体化した例を示す図である。
【図9】実施例3の液圧制御装置に使用されるソレノイドの吸引力特性を示す図である。
【図10】従来技術例のソレノイドの吸引力特性を示す図である。
【図11】従来技術例のソレノイドにより比例制御弁を制御した時のストロークの変位を示す図である。
【図12】従来技術例のソレノイドにより比例制御弁を制御した時の液圧特性を示す図である。
【図13】従来技術例の液圧制御装置を示す図である。
【図14】従来技術例のマスタシリンダと液圧制御装置のブレーキ配管の 接続形態を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施する為の最良の形態を、図を参照しながら説明する。なお実施例の説明に使用される図面中の符号は、従来技術と異なる部分については番号に符号Aを付与している。
【実施例1】
【0023】
実施例1の液圧制御装置2Aは、図1に示す様にブレーキ液圧制御回路の後輪(RL輪、RR輪)側に配置されている。ブレーキング時に前輪側に荷重が移動して後輪側が先ロックして車両の走行安定性を損なわないように前輪(FL輪、FR輪)側のブレーキ液圧より後輪側ブレーキ液圧を下げる比例制御弁(プロポーショニングバルブ)が使用されている。
【0024】
図4に示したこの液圧制御装置の比例制御弁18Aは、ブロック19及びソレノイド10Aから構成される。ブロック19は、リア液圧入力ポート7、リア液圧出力ポート8、及びフロント液圧入力ポート9が設けられている。またブロック19は、その内部に断面積Bを有する部屋と断面積Cを有する部屋と断面積Dを有する部屋を有し、3つの異径を有するピストン14を左右に移動可能に収容されている。比例制御弁のピストン14は、スプリング17とソレノイド10Aにより右側へ付勢される。なお断面積B、断面積Cと断面積Dの部位は図4の中で楕円形にハッチングを施した部分である。
【0025】
前記ソレノイド10Aは、コイル5、ヨーク6、アーマチャ12A及びマグネットコア4Aから構成される。マグネットコア4Aは、コイル5を収容するヨーク6及びアーマチャ12Aに磁気吸引力を発生させ、アーマチャ12Aを作動させる。ソレノイド10Aは、図2のようなエアーギャップに対して吸引力がフラットな特性、またはエアーギャップに対して吸引力が比例的に増加する領域を有する特性のものが使用される。また図2の特性曲線の中で使用される範囲は、使用範囲と記載された部分である。
【0026】
次に、この比例制御弁18Aの作用及び動作を図4により説明する。折点とは、図3において折点と表示した箇所である。まず、折点の発生は、下記液圧平衡式(数式1)により説明する。フロント液圧入口ポート9及びリア液圧入口ポート7から導入されるマスタシリンダ液圧をPm、ピストン14の付勢力をF、ピストン14の3か所のシール部の断面積をB,C,Dとすると折点発生時は、ピストン14を左右に作用する付勢力が平衡する為(数式1)の関係式が成立する。このピストン14への付勢力Fを制御することにより折点の液圧を制御できる。
(数式1)Pm×C=Pm×(C−D)+F
F=Pm×D
【0027】
この付勢力Fは、スプリング17の反発力Fsとソレノイド10Aの吸引力のFdの合力である。Fdはソレノイド10Aを駆動する電流により増減でき折点を制御可能となる。
【0028】
次に折点以降の液圧勾配の発生メカニズムを図3により説明する。液圧勾配は、ミクロ的に見ると図3のX部に示す様に微小な差圧により階段状に昇圧していく為、その微小な領域での液圧平衡式から説明できる。
フロント液圧の微小差圧をΔPf(マスタシリンダの液圧の微小差圧ΔPm)、リア液圧の微小差圧をΔPrとすると、液圧平衡式は(数式2)のように表示される。(数式2)は、整理すると(数式3)のように表示することができる。
また液圧勾配をtanθとすると(数式4)のように表示される。従って、折点以降の液圧勾配は、ピストン14の断面積によって決めることができる。
(数式2)ΔPm×(B−D)=ΔPm×C+ΔPr×(B−C)
(数式3)ΔPm×(B−C−D)=ΔPr×(B−C)
(数式4)tanθ=ΔPr/ΔPm=(B−C−D)/(B−C)
【実施例2】
【0029】
実施例2の液圧制御装置は、ソレノイド10Aを図5の様にマグネットコア4Aの端面をリング状の淵部3Aを有する形状とし、端面が平面な形状のアーマチャ12Aと対向させることにより水平面部が対向する領域では図2に示すようにエアーギャップに対して吸引力がフラットになる部分が発現する。ソレノイド10Aを駆動する電流により所定の折点と液圧勾配を発生可能である。
【実施例3】
【0030】
実施例3の液圧制御装置は、図6の様にソレノイド10Aのアーマチャ12A及びマグネットコア4Aの一端はリング状の淵部3Aを有している。それらの端面が嵌合させることにより、水平面部が対向する領域ではエアーギャップに対してフラットな吸引力特性が増加する。そして、それぞれのリング状の淵部3が嵌合する領域ではエッジ効果によりエアーギャップに対して比例的に吸引力が増加する。ソレノイド10Aは、図9の様な吸引力特性を有する。そのソレノイド10Aを駆動する電流により所定の折点と液圧勾配を発生可能である。
【実施例4】
【0031】
実施例4の液圧制御装置は、図7に示した様にブレーキのマスタシリンダ1の側面に液圧制御装置2Aを一体的に取り付けることや、一つのハウジングにマスタシリンダ1と比例制御弁18Aを収容して一体化することが可能である。
【0032】
従って、比例制御弁がブレーキのマスタシリンダ1と一体化されれば、フェールセーフの為のブレーキ配管24が削減でき重量低減とコストを低減できる効果がある。
【実施例5】
【0033】
図8に示した様に、実施例5の液圧制御装置は、車両重量信号22とブレーキを踏んだという信号23を入力しソレノイド10Aを電気的に制御する制御回路21とソレノイド10A及び比例制御弁18Aで構成される。
【0034】
そこで、ソレノイド10Aを電気的に制御する制御回路21をソレノイド10Aに内蔵又は、ヨーク6の外壁に取り付けることにより一体化すれば、電気的制御回路と液圧制御装置間を接続する電気的配線を削減でき重量低減とコスト低減、更には、電気的配線長を削減することにより電圧降下も削減できブレーキ制御システムの信頼性が向上する効果がある。
【符号の説明】
【0035】
1 マスタシリンダ
2A 本発明の液圧制御装置
2 従来の液圧制御装置
3A リング状の淵部

4A 本発明のマグネットコア(固定子)
4 従来のマグネットコア(固定子)
5 コイル
6 ヨーク
7 リア液圧入力ポート
8 リア液圧出力ポート
9 フロント液圧入力ポート
10A 本発明のソレノイド
10 ソレノイド
11 プランジャ
12A 本発明のアーマチャ
12 従来のアーマチャ
13 リングバルブ
14 ピストン
15 シールリング
16 シールリング
17 スプリング
18A 本発明の比例制御弁
18 従来の比例制御弁
19 ブロック
21 制御回路
22 車両荷重信号
23 ブレーキ信号
24 フェールセーフの為のブレーキ配管
X 階段的昇圧部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダから後輪ブレーキに供給される制動液圧を制御することによって車両の前輪制動力と後輪制動力との比率を車両重量信号に基づくソレノイドの吸引力によって調整する後輪ブレーキの液圧制御装置であって、
前記ソレノイドの吸引力がアーマチャとマグネットコアとの間のエアーギャップ増加に対して一定及び/又は比例的に増加することを特徴とする液圧制御装置。
【請求項2】
前記ソレノイドのアーマチャとマグネットコアのいずれか一方の端面はリング状の淵部を有する形状とし、他方は平面形状とし、アーマチャとマグネットコアの端面が嵌合する様に構成したことを特徴とする請求項1に記載の液圧制御装置。
【請求項3】
前記ソレノイドのアーマチャ及びマグネットコアの両者の端面はリング状の淵部を有し、それらの端面が嵌合する様に構成したことを特徴とする請求項1に記載の液圧制御装置。
【請求項4】
ブレーキのマスタシリンダに取り付け又は、マスタシリンダハウジングと一体的に構成したことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の液圧制御装置。
【請求項5】
ソレノイドを電気的に制御する制御回路をソレノイドに内蔵又は、ソレノイドのヨーク外壁に一体的に構成したことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の液圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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