説明

液圧緩衝器

【課題】コストの削減およびメンテナンスの容易化が可能な液圧緩衝器を提供する。
【解決手段】ピストンロッド3の伸縮に連動してスライド部材15が移動し、該スライド部材15の移動距離が規定値以上となった場合に、スライド部材15の操作により錘11が落下し、ワイヤ13を介して外部スイッチ10が操作される。これにより、シャットオフ弁9が開弁して、油圧緩衝器1の減衰力が低い側の設定から高い側の設定へ切替えられるので、電磁弁ならびに加速度センサ等の電力の供給を必要とする部品を使用することなく、油圧緩衝器1を構成することができる。これにより、免震システムに使用される油圧緩衝器1の製造コストを大幅に削減することができる。また、電力の供給を必要とする部品を使用していないので、従来の油圧緩衝器と比較して定期的なメンテナンスに関わるコストダウンが容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
建物等の免震システムに使用される油圧緩衝器(液圧緩衝器)は、例えば、特許文献1に開示されている。この種の油圧緩衝器では、振動を検出する複数個の加速度センサと該加速度センサの検出結果に基づき減衰力を段階的に切替える複数個の電磁弁とを要することから、コストの増大を招くと共に定期的なメンテナンスが必要になる。
【特許文献1】特開2006−283839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、コストの削減およびメンテナンスの容易化が可能な液圧緩衝器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明に係る液圧緩衝器は、作動液が充填されるシリンダと、該シリンダ内に挿入されて前記シリンダ内を2つの圧力室に画分するピストンと、該ピストンに連結されるピストンロッドと、前記シリンダの端部に設けられて前記ピストンロッドを軸方向へ案内するロッドガイドと、前記作動液が充填される補助タンクと、該補助タンクと前記圧力室との間で前記作動液を流通させる液通路と、該液通路を流通する前記作動液に減衰力を発生させる減衰力発生手段と、該減衰力発生手段の減衰力を切替える減衰力切替え手段と、を有する液圧緩衝器であって、前記減衰力切替え手段は、弁の開閉により前記減衰力発生手段の減衰力が低い側と高い側とに切替えられる減衰力切替え弁と、外部からの操作により前記減衰力切替え弁を開閉させる外部スイッチと、前記シリンダの外部に設けられる錘と、前記ピストンロッドの伸縮に連動して軸方向へ移動可能なスライド機構と、一端が前記錘に接続されて他端が前記外部スイッチの操作部に接続される連結部材と、を有し、前記スライド機構の移動距離が規定値以上となった場合に、前記スライド機構により前記錘が落下し、これにより、前記連結部材を介して前記外部スイッチの操作部が操作されて、前記減衰力切替え弁の弁が開閉されることにより、前記減衰力発生手段の減衰力が切替えられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、コストの削減およびメンテナンスの容易化が可能な液圧緩衝器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の一実施形態を図1−図7に基づいて説明する。ここでは、建物の免震システムに使用する油圧緩衝器1(液圧緩衝器)を説明する。
図1に示されるように、油圧緩衝器1は、アウタケース2の基端部に設けられる取付けアイ5と、ピストンロッド3の先端部に設けられる取付けアイ6と、を有する。油圧緩衝器1は、取付けアイ5が建物あるいは基礎の一方に固定された継手7に接続され、取付けアイ6が建物あるいは基礎の他方に固定された継手8に接続される。これにより、油圧緩衝器1は、建物と基礎との間に取付けられる。
【0007】
油圧緩衝器1は、図1および図7に示されるように、作動油25(作動液)が充填されたシリンダ26と、シリンダ26内に摺動可能に嵌合されたピストン27と、を有し、ピストン27には、ピストンロッド3の基端部が固定される。また、油圧緩衝器1は、作動油25が充填された補助タンク8と、ピストン27により画分されたシリンダ内の2つの圧力室28a、28bの一方と補助タンク8との間で作動油25を流通させる液通路29と、ピストン27に設けられ圧力室28bから圧力室28aへの作動油25の流れのみを許容する逆止弁30と、アウターケース2の後端側に設けられ液通路29から圧力室28bへの作動油25の流れのみを許容する吸込弁31と、アウタケース2の先端部側に設けられて液通路29を流通する作動油25に減衰力を発生させる2個以上の減衰弁32(減衰力発生手段)と、を有する。なお、液通路29は、後述するシャットオフ弁9を持たず前記減衰弁32Aのみを有するA系統と、シャットオフ弁9(減衰力切替え弁)と減衰弁32B(減衰力発生手段)を有するB系統と、の2系統がある。
【0008】
油圧緩衝器1は、減衰力が低い側の設定から高い側の設定へ切替える減衰力切替え装置(減衰力切替え手段)を有する。図3(a)および図4に示すように、減衰力切替え装置は、アウタケース2の先端部側に設けられて該アウタケース2の高さ方向(図4における上下方向)のセンタよりもやや上側に配置されるシャットオフ弁9と、該シャットオフ弁9と一体に設けられる外部スイッチ10と、円柱形に形成される錘11と、一端が錘11の上端面中央に固定されると共に他端が外部スイッチ10の操作レバー12(操作部)に固定されるワイヤ13(連結部材)と、を有する。なお、ワイヤ13は、補助タンク8の外側面に設けられたパイプ状のワイヤガイド14によりL字形に案内される。また、図4に示されるように、操作レバー12は、正面視で反時計回り方向へ傾けられた状態に設けられる。
【0009】
図3(b)に示すように、外部スイッチ10が駆動されずシャットオフ弁9が開いた状態では、減衰弁32AのみのA系列の液通路29に加えてシャットオフ弁9が設けられたB系列の液通路29の減衰弁32Bが作用し、油圧緩衝器1の減衰力が低い側に設定されている。一方、外部スイッチ10が駆動されてシャットオフ弁9が弁が閉じた状態では、A系統の液通路29の減衰弁32Aのみが作用し、油圧緩衝器1の減衰力が高い側に設定される。また、減衰力切替え装置は、アウタケース2の外側に設けられてピストンロッド3の軸方向(図1における左右方向、以下、単に軸方向という)へ移動可能なスライド部材15と、該スライド部材15をピストンロッド3の伸縮に連動して移動させるスライド機構と、を有する。
【0010】
スライド機構は、アウタケース2の外側面に設けられて鉛直に向けて配置されるベースプレート16と、該ベースプレート16の外側面に設けられてスライド部材15を軸方向へ案内するガイドレール17(スライドガイド)と、一端がピストンロッド3側の取付けアイ6の基部に設けられたブラケット18に接続され、他端がスライド部材15の基部に接続されるリンクバー19(リンク部材)と、を有する。図2に示されるように、スライド部材15は、基部に設けられて平面視で外方へ向けてV字形に開くように構成された一対の操作片20,21を有する。また、ベースプレート16には、錘11を支持する支持台22が設けられる。支持台22の上面には、錘11の下端部が嵌るだけの幅を有し、軸方向に対して垂直に延びて当該錘11を外方へ向けて案内する溝23が設けられる。また、溝23の底部には、支持台22から落下する錘11の側面を案内し、且つ落下後の錘11を収容(保持)する切欠き24が形成される。
【0011】
次に、本実施形態の作用を説明する。図1及び図4は、油圧緩衝器1(液圧緩衝器)が建物と基礎との間に取付けられた直後の状態、すなわち、錘11が落下する前の状態を示す。この状態では、油圧緩衝器1は、外部スイッチ10は駆動されずシャットオフ弁9が開いており、A系統の液通路29の減衰弁32Aに加えて、B系統の減衰弁32Bが作用する減衰力が低い側に設定されており、図2に示されるように、錘11は、下端部が支持台22の溝23に嵌って略鉛直に立ち、さらに、スライド部材15の一対の操作片20,21間に配置される。
【0012】
地震等による建物の揺れ(外力)が油圧緩衝器1に入力されると、油圧緩衝器1は、ピストンロッド3を伸縮させて当該建物の揺れを減衰させるように作用する。本実施形態では、リンクバー19(リンク部材)を含むスライド機構により、ピストンロッド3の伸縮に連動(同期)してスライド部材15が軸方向(ピストンロッド3の伸縮方向と同一)に移動する。そして、ピストンロッド3の伸縮幅、ひいてはスライド部材15の移動距離が規定値以上になると、スライド部材15の一対の操作片20,21の操作により、錘11が支持台22から落下する。
【0013】
より具体的には、例えば、ピストンロッド3の伸び量が規定値(規定距離)よりも大きかった場合、スライド部材15が図2における左方向へ移動し、操作片20の傾斜部20aにより錘11が押圧される。これにより、図5に示されるように、錘11は、下端部が案内されて外方(図2における下方向)へ押し出され、終に、支持台22から落下する。ここで、錘11は、側面が支持台22の切欠き24に案内されつつ落下するので、落下時の振れ回りを抑制することができる。さらに、図6に示されるように、錘11は、支持台22の切欠き部24に収容(保持)されるので、落下後の振れ回りも防止することができる。
【0014】
一方、上述した錘11の落下に伴い、ワイヤ13(連結部材)がワイヤガイド14内を移動して操作レバー12(操作部)が操作される(操作レバー12が操作された状態は図3(a)の仮想線を参照)。そして、操作レバー12の操作により外部スイッチ10が駆動されると、シャットオフ弁9が閉弁される。これにより、A系統の液通路29に設けられた減衰弁32Aのみが作用し、油圧緩衝器1の減衰力が、低い側の設定から高い側の設定へ切替えられる。なお、メンテナンス時に、錘11が支持台22の切欠き部24に収容(保持)されていることを確認することで、当該油圧緩衝器1の減衰力が高い側の設定に切替えられたことを知ることができる。この場合、錘11を支持台22上に戻すことで、操作レバー12および外部スイッチ10が元の位置に戻り、シャットオフ弁9が開弁されるので、油圧緩衝器1の減衰力を低い側の設定に切替えることができる。
なお、本実施例では、ピストンロッドの一端側にピストンを設け、シリンダの片側からロッドが突出する片ロッドタイプの油圧緩衝器で説明したが、シリンダの両側からピストンロッドが突出する両ロッドタイプの油圧緩衝器にも適用可能である。
なお、本実施例では、減衰弁32Aおよび減衰弁32Bは複数個設けることは可能であり、減衰弁32Bの個数に合わせてシャットオフ弁9を複数個設けて、B系統を複数もつ構成でも構わない。さらに、ストローク量の規定値を複数設定可能として、その数に合わせて錘11およびシャットオフ弁9を増設し多段式の減衰力切り替えを行ってもよい。
【0015】
本実施形態によれば、ピストンロッド3の伸縮に連動してスライド部材15が移動し、該スライド部材15の移動距離が規定値(規定距離)以上となった場合に、スライド部材15の操作により錘11が落下し、ワイヤ13(連結部材)を介して外部スイッチ10が操作される。これにより、シャットオフ弁9(減衰力切替え弁)が閉弁して、油圧緩衝器1(液圧緩衝器)の減衰力が低い側の設定から高い側の設定へ切替えられる。したがって、電磁弁ならびに加速度センサ等の電力の供給を必要とする部品を使用することなく、油圧緩衝器1を構成することができる。これにより、免震システムに使用される油圧緩衝器1の製造コストを大幅に削減することができる。また、電力の供給を必要とする部品を使用していないので、従来の油圧緩衝器と比較して設置が容易であると共に、当該メンテナンスの間隔を大幅に延長することができ、ランニングコストを削減することができる。
また、錘11は、切欠き部24に案内されつつ支持台22から落下し、さらに、落下後、切欠き部24に収容(保持)されるので、落下時および落下後に振れ回って周囲の部品を傷付けてしまったり、打撃音を生じることを防止することができる。そして、メンテナンス時には、錘11が支持台22の切欠き部24に収容(保持)されていることを確認することで、油圧緩衝器1の減衰力が低い側の設定から高い側の設定に切替えられたことを知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態の油圧緩衝器の右側面図である。
【図2】機構を説明するための図であり、本実施形態の油圧緩衝器の平面図のうち、ピストンロッド側を示す図である。
【図3】(a)本実施形態の油圧緩衝器における外部スイッチが一体化されたシャットオフ弁を示す図である。(b)シャットオフ弁の動作と液通路の切替状態を模式的に示す図である。
【図4】本実施形態の油圧緩衝器の正面図である。
【図5】図2において、錘が溝に案内されて外方へ移動する状態を示す図である。
【図6】本実施形態の油圧緩衝器の正面図で、特に、錘が落下した状態を示す図である。
【図7】図1に示す油圧緩衝器の断面概略図である。
【符号の説明】
【0017】
1 油圧緩衝器(液圧緩衝器)、3 ピストンロッド、8 補助タンク、9 シャットオフ弁(減衰力切替え弁)、10 外部スイッチ、11 錘、12 操作レバー(操作部)、13 ワイヤ(連結部材)、15 スライド部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動液が充填されるシリンダと、該シリンダ内に挿入されて前記シリンダ内を2つの圧力室に画分するピストンと、該ピストンに連結されるピストンロッドと、前記シリンダの端部に設けられて前記ピストンロッドを軸方向へ案内するロッドガイドと、前記作動液が充填される補助タンクと、該補助タンクと前記圧力室との間で前記作動液を流通させる液通路と、該液通路を流通する前記作動液に減衰力を発生させる減衰力発生手段と、該減衰力発生手段の減衰力を切替える減衰力切替え手段と、を有する液圧緩衝器であって、
前記減衰力切替え手段は、弁の開閉により前記減衰力発生手段の減衰力が低い側と高い側とに切替えられる減衰力切替え弁と、外部からの操作により前記減衰力切替え弁を開閉させる外部スイッチと、前記シリンダの外部に設けられる錘と、前記ピストンロッドの伸縮に連動して軸方向へ移動可能なスライド機構と、一端が前記錘に接続されて他端が前記外部スイッチの操作部に接続される連結部材と、を有し、
前記スライド機構の移動距離が規定値以上となった場合に、前記スライド機構により前記錘が落下し、これにより、前記連結部材を介して前記外部スイッチの操作部が操作されて、前記減衰力切替え弁が開閉されることにより、前記減衰力発生手段の減衰力が切替えられることを特徴とする液圧緩衝器。
【請求項2】
前記スライド機構は、前記ピストンロッドの軸方向へ移動可能なスライド部材と、前記シリンダの外部に設けられて前記スライド部材を軸方向へ案内するスライドガイドと、一端がピストンロッド側に接続されて他端が前記スライド部材に接続されるリンク部材と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の液圧緩衝器。
【請求項3】
前記スライド部材は、平面視で外方へ向けてV字形に開くように設けられた一対の操作片を有し、前記錘は、前記シリンダの外部に設けられた支持台により支持されると共に、前記スライド部材の前記一対の操作片間に配置され、前記支持台には、前記スライド部材の移動方向に対して垂直に、且つ水平に延びて、端部に切欠き部が形成された溝が形成され、該溝には、前記錘の下端部が前記溝に沿って移動可能に収容されており、
前記スライド部材が移動することにより、前記錘は、前記スライド部材の少なくとも一方の操作片と当接して前記溝に案内されて外方へ移動し、前記スライド部材の移動距離が規定値以上となった時、前記錘が前記支持台から落下した後、前記切欠き部に保持されることを特徴とする請求項1または2に記載の液圧緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−133498(P2010−133498A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310191(P2008−310191)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】