説明

液晶パネル用水系液体洗浄剤組成物

【課題】化学構造が異なるため物性等が異なる多種類の液晶材料を効率的に除去できる液晶パネル用水系液体洗浄剤組成物を提供すること。
【解決手段】下記(D),(E),(F),(G)成分および所定量の水を含むことを特徴とする液晶パネル用水系液体洗浄剤組成物。
(D)炭素数8〜20の炭化水素化合物;5〜50質量%
(E)アニオン性界面活性剤;1〜20質量%
(F)下記一般式(4)で示される化合物;1〜40質量%
4O(BO)o5・・・(4)
(式中、R4は炭素数4〜11のアルキル基もしくはアルケニル基、またはフェニル基もしくはベンジル基を、R5は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を、BOは炭素数2〜3のオキシアルキレン基を、oは1〜6の数を示す。)
(G)ジメチルスルホキシド;1〜20質量%

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネル用水系液体洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネルは、消費電力が少ないという利点を有する上、近年高コントラスト化等の技術改良が進んだ結果、多様な画像表示が可能となり、コンピュータ端末表示部、テレビのディスプレイ、携帯電話等の小型パネルなどの幅広い分野に用いられ、その用途が拡大している。
【0003】
この液晶パネルは、10μm以下の所定間隔離して対向・保持させた2枚のガラス基板の周囲を、内部に中空部が形成されるように接着剤で貼り合わせた後、上述の中空部内に液晶を封入して製造される。
この場合、上記2枚のガラス基板内部には、透明導電膜で構成された文字、画像表示用電極が設けられ、この電極に制御用電気信号を印加することで、文字、画像が表示される構成となっている。
【0004】
近年の液晶パネルは、パソコン、携帯電話、PDA等の各種ディスプレイ用途に対応すべく、カラー化が急速に進んでおり、これに伴い、従来のパッシブパネル向けのSTN用液晶材料に加え、アクティブパネル向けのTFT用液晶材料が開発されてきている。
STN用液晶材料は、シアノ基に代表される置換基を持つ芳香族化合物等が用いられており、TFT用液晶材料は、フッ素基に代表される置換基を持つ芳香族化合物等が用いられている。
【0005】
このようにSTN用液晶材料とTFT用液晶材料とでは、化学構造および物性が異なるため、それらを洗浄するための洗浄剤も異種のものを使用する必要がある。
すなわち、STN用液晶材料は、炭化水素系溶剤や、炭化水素系溶剤とグリコールエーテルとの混合組成で知られる洗浄剤組成物により効率的に除去し得る(特許文献1:特開平10−25495公報)が、TFT用液晶材料の除去には適していないため、これを除去するには、STN用液晶材料に用いられる洗浄剤とは異なる洗浄剤を必要とする。
【0006】
液晶パネルの生産性向上が求められている現在においては、化学構造および物性の異なる多様な液晶材料に適用可能なマルチタイプの洗浄剤組成物が要求されるようになってきている。しかし、現在までのところ、複数種の液晶材料を効率的に洗浄、除去可能な、洗浄能力に優れるとともに、環境負荷および毒性が低く、引火性の小さい洗浄剤組成物は知られていない。
【0007】
【特許文献1】特開平10−25495公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、化学構造が異なるため物性等が異なる多種類の液晶材料を効率的に除去できる液晶パネル用水系液体洗浄剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、炭化水素、特定のグリコールエーテル、アニオン性界面活性剤およびジメチルスルホキシドを含有する洗浄剤組成物が、STN用やTFT用などの液晶材料の物性の違いに関わらず、これらを効率的に除去し得ることを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
1. 下記(D),(E),(F),(G)成分および所定量の水を含むことを特徴とする液晶パネル用水系液体洗浄剤組成物。
(D)炭素数8〜20の炭化水素化合物;5〜50質量%
(E)アニオン性界面活性剤;1〜20質量%
(F)下記一般式(4)で示される化合物;1〜40質量%
4O(BO)o5・・・(4)
(式中、R4は炭素数4〜11のアルキル基もしくはアルケニル基、またはフェニル基もしくはベンジル基を、R5は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を、BOは炭素数2〜3のオキシアルキレン基を、oは1〜6の数を示す。)
(G)ジメチルスルホキシド;1〜20質量%
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、STN用、TFT用液晶材料等の物性の異なる多種の液晶材料に対して良好な洗浄力を発揮する液晶パネル用水系液体洗浄剤組成物を提供することができる。しかも、この洗浄剤組成物は、環境負荷および毒性が小さく、引火性の低いものである上、炭素数12〜15のアルコールエチレンオキシド付加体等を用いていないため、PRTR法(化学物質管理促進法)に規定される届出の必要もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明の液晶パネル用水系液体洗浄剤組成物は、上述のように、組成物中に、(D)成分を5〜50質量%,(E)成分を1〜20質量%,(F)成分を1〜40質量%,(G)成分であるジメチルスルホキシドを1〜20質量%、および水を所定量含むものである。
【0013】
ここで、(D)成分の配合量が5質量%未満では、STN用液晶材料等の比較的極性の高い液晶材料の洗浄力が低下する可能性が高く、50質量%を超えると、TFT液晶材料等の比較的極性の低い液晶材料の洗浄力が低下するとともに、すすぎ性が著しく低下する可能性が高い。より好ましい(D)成分の配合量は、10〜40質量%である。(E)成分の配合量が1質量%未満では、すすぎ性が低下する可能性が高く、20質量%を超えると、液安定性の低下を招く可能性が高い。より好ましい(E)成分の配合量は、5〜20質量%である。(F)成分の配合量が1質量%未満では、液安定性およびすすぎ性が低下する可能性が高く、40質量%を超えると、曇点の低下等を招く可能性が高い。より好ましい(F)成分の配合量は、10〜35質量%である。(G)成分の配合量が、1質量%未満では、TFT用液晶材料等の比較的極性の低い液晶材料の洗浄性が低下する可能性が高く、20質量%を超えると、液安定性が低下する可能性が高い。
水の配合量は、特に限定されるものではないが、組成物に対して少なくとも10質量%以上配合して組成物の引火性の低減を図ることが望ましい。
なお、この洗浄剤組成物においては、STN液晶材料等の比較的極性の高い液晶材料の洗浄性をより一層高めるために、(D)成分の配合量は、(G)成分(ジメチルスルホキシド)の配合量以上とすることが好ましい。
【0014】
上記(D)成分は、炭素数8〜20、好ましくは炭素数10〜14の炭化水素化合物、好ましくは、パラフィンまたはオレフィン系炭化水素化合物であり、例えば、n−オクタン、n−デカン、n−ドデカン、n−テトラデカン、n−ヘキサデカン、n−オクタデカン、イソオクタン、イソドデカン、イソオクタデカン、これらに対応する不飽和化合物等を用いることができる。
【0015】
上記(E)成分のアニオン性界面活性剤としては、平均炭素数10〜20のα−オレフィンスルホン酸塩、スルホコハク酸型アニオン性界面活性剤、平均炭素数10〜20のアルキル硫酸塩、平均炭素数10〜20の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を有し、平均0.5〜8モルのエチレンオキシドを付加したアルキル(又はアルケニル)エーテル硫酸塩、平均炭素数5〜22の飽和又は不飽和脂肪酸塩等が挙げられる。
【0016】
これらのアニオン性界面活性剤の中でも、浸透力の向上に寄与し、かつ、組成物の曇点を上昇させる性能に優れているという点から、スルホコハク酸型のアニオン性界面活性剤を好適に用いることができる。スルホコハク酸型のアニオン性界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、下記一般式(5)で表されるスルホコハク酸ジアルキル(又はアルケニル)エステル型界面活性剤、下記一般式(6)で表されるスルホコハク酸アミド・エステル混合型界面活性剤および下記一般式(7)で表されるスルホコハク酸モノアミド型界面活性剤の中から選ばれる1種以上のアニオン性界面活性剤を用いることが好ましい。
【0017】
【化1】

〔式中、R6〜R10は、互いに同一または異種の炭素数3〜22のアルキル基もしくはアルケニル基を示し、Mはアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンまたはアンモニウムイオンを示す。〕
【0018】
上記式(5)〜(7)において、炭素数3〜22のアルキル基もしくはアルケニル基としては、特に限定はなく、例えば、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル、ドデシル、ヘキサデシル等が挙げられ、これらの中でも液安定性等に優れるオクチル、2−エチルヘキシルが好適である。特に、浸透力を高めるということを考慮すると、式(5)で示される化合物のR6およびR7がそれぞれ、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシルであるスルホコハク酸型ジアルキルエステル塩を用いることが好ましい。なお、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンに特に制限はなく、アンモニウムイオンとしては、種々のアミンの4級アンモニウムイオンを用いることができる。
【0019】
上記(F)成分は、下記式(4)で示される短鎖アルキル(アルケニル)または中鎖アルキル(アルケニル)−一価アルコールのアルキレンオキシド付加体、フェノールのアルキレンオキシド付加体、ベンジルアルコールのアルキレンオキシド付加体である。
【0020】
4O(BO)o5・・・(4)
(式中、R4は炭素数4〜11のアルキル基もしくはアルケニル基、またはフェニル基もしくはベンジル基を、R5は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を、BOは炭素数2〜3のオキシアルキレン基を、oは1〜6の数を示す。)
【0021】
式(4)において、炭素数4〜11のアルキル基としては、例えば、n−ブチル、イソブチル、ターシャリーブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、2−メチルデシル等が挙げられるが、これらの中でも炭素数4〜8のものが好適に用いられる。炭素数4〜11のアルケニル基としては、例えば、ブテニル、ヘキセニル、オクテニル、デセニル等が挙げられるが、これらの中でも炭素数4〜8のものが好適に用いられる。炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチル、ターシャリーブチル等が挙げられる。
【0022】
上記BOは炭素数2〜3のオキシアルキレンであり、オキシエチレン、オキシプロピレンを単独または混合して用いることができるが、オキシエチレン単独で、またはオキシエチレンおよびオキシプロピレンを混合して用いることが好ましい。
この場合、オキシアルキレンの付加モル数oは1〜6の数であり、好ましくは1〜4である。付加モル数が2未満の場合は液安定性が不安定になる虞があり、一方、6を超えると洗浄性の低下を招く虞がある。
【0023】
好適な(F)成分としては、例えば、ジエチレングルコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、フェノキシエタノール、ジエチレングリコールモノベンジルエーテルなどが挙げられる。
【0024】
以上で説明した本発明の液晶パネル用水系液体洗浄剤組成物の製造方法としては、特に限定はなく、常法に従って各成分を配合して調製すればよい。この場合、各成分の配合順序は任意でよいが、水以外の成分を充分に混合した後、水を少量ずつ添加しながら均一な液体組成物となるように調製することが好ましい。
また、本発明の液晶パネル用水系液体洗浄剤組成物の使用にあたっては、組成物原液で用いることも、さらに水で希釈して水溶液として用いることもできるが、充分な洗浄力を発揮させるという点から、洗浄剤組成物原液で使用することが好ましい。
本発明の液晶パネル用水系液体洗浄剤組成物で液晶パネルを洗浄する際には、液晶パネルに液晶を充填した後、これを本発明の洗浄剤組成物に投入し、浸漬洗浄、超音波洗浄等すればよい。
【0025】
なお、本発明の液晶パネル用水系液体洗浄剤組成物には、上記必須成分に加えて、その他の任意成分として、両性界面活性剤、洗浄ビルダー、ハイドロトロープ剤等を組成物に対して1〜30質量%配合し、曇点上昇、洗浄力および液安定性の向上等を図ることもできる。さらに、ベンゾトリアゾール、t−ブチル安息香酸塩等の防錆剤を組成物に対して0.1〜5質量%配合してもよい。
また、液安定性向上や洗浄力向上のために、PRTR法(化学物質管理促進法)の規制に触れない炭素数11以下の直鎖アルコールのアルキレンオキシド付加体を併用してもよい。
【0026】
以上述べたように、本発明の液晶パネル用水系液体洗浄剤組成物は、上述した(D),(E),(F)および(G)成分を含んでいるから、STN用液晶材料、TFT用液晶材料などの物性の異なる各種液晶材料に対して良好な洗浄力を発揮するものである上、引火性も低く、組成物の経時安定性にも優れている。
さらに、本発明では、炭素数12〜15のアルコールエチレンオキシド付加体を用いていないため、環境負荷が少なく、しかも、PRTR法(化学物質管理促進法)に規定される届出の必要もない。
【実施例】
【0027】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0028】
[実施例1〜6]
下記表1に示される成分を混合して、液晶パネル用水系液体洗浄剤組成物を調製した。この場合、水以外の成分を充分に混合した後、水を少量ずつ添加しながら均一な液体組成物となるようにした。
【0029】
【表1】

【0030】
[比較例1〜3]
下記表2に示される成分を混合して、液晶パネル用水系液体洗浄剤組成物を調製した。この場合、水以外の成分を充分に混合した後、水を少量ずつ添加しながら均一な液体組成物となるようにした。
【0031】
【表2】

【0032】
上記実施例1〜6および比較例1〜3で得られた各液晶パネル用水系液体洗浄剤組成物について、代表的なSTNおよびTFTのモデル液晶パネルを用い、洗浄力、すすぎ性を評価するとともに、液安定性を評価した。結果を表3に示した。なお、各項目は、以下の手法により測定、評価した。
【0033】
[1]洗浄性評価
適切な大きさにカットされた空隙5μmの液晶パネルの空隙部位に、STN用液晶材料またはTFT用液晶材料を塗布し、8時間80℃で安定化させて被洗浄サンプルとする。この被洗浄サンプルを実施例1〜6および比較例1〜3で調製した各洗浄剤組成物の原液にて、超音波洗浄機(50kHz,200W、SC−20型、サン電子工業(株)製)を用いて50℃で3分間超音波洗浄を行った。次に、被洗浄パネルを取り出し、50℃のイオン交換水中で1分間、同条件で超音波すすぎを行った後、105℃の恒温乾燥機で60分間乾燥を行った。乾燥終了後、偏光顕微鏡(BX−60、オリンパス工業(株)製)を用いて空隙部分を観察し、液晶材料の残留を以下の評価基準に従って評価した。
洗浄性評価(液晶材料の残留)
◎:完全に洗浄された
○:ほとんど洗浄された
△:少し洗浄された
×:全く洗浄されない
【0034】
[2]すすぎ性評価
[1]で使用したものと同様の液晶パネルを用い、エタノール中で充分洗浄して空隙部位を完全洗浄する。実施例1〜6および比較例1〜3で調製した各洗浄剤組成物中に液晶パネルを浸漬し、超音波照射により空隙部位に洗浄剤を満たす。洗浄液の満たされたパネルを50℃のイオン交換水に3分間単純に浸漬し、静かに引き上げ、105℃で60分間乾燥する。乾燥終了後、偏光顕微鏡(BX−60、オリンパス工業(株)製)を用いて空隙部の洗浄剤残留性を以下の評価点に従って評価する。
◎:完全にすすがれて洗浄剤の残留がなかった
○:ほとんどすすがれて洗浄剤の残留がほぼなかった
△:少しすすがれて洗浄剤が多少残留した
×:全くすすがれずに洗浄剤が多量に残留した
【0035】
[3]液安定性
実施例1〜6および比較例1〜3で調製した各洗浄剤組成物原液の曇点を測定し、以下の評価に従って高温領域での液の均一保持性を評価した。
◎:50℃以上
○:40℃以上50℃未満
△:30℃以上40℃未満
×:30℃未満または白濁/分離
【0036】
【表3】

【0037】
表3に示されるように、実施例1〜6で得られた各液晶パネル用水系液体洗浄剤組成物は、比較例1〜3と比べ、STNおよびTFT両方の液晶材料の洗浄性に優るとともに、すすぎ性、液安定性に優れていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(D),(E),(F),(G)成分および所定量の水を含むことを特徴とする液晶パネル用水系液体洗浄剤組成物。
(D)炭素数8〜20の炭化水素化合物;5〜50質量%
(E)アニオン性界面活性剤;1〜20質量%
(F)下記一般式(4)で示される化合物;1〜40質量%
4O(BO)o5・・・(4)
(式中、R4は炭素数4〜11のアルキル基もしくはアルケニル基、またはフェニル基もしくはベンジル基を、R5は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を、BOは炭素数2〜3のオキシアルキレン基を、oは1〜6の数を示す。)
(G)ジメチルスルホキシド;1〜20質量%

【公開番号】特開2008−75090(P2008−75090A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302418(P2007−302418)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【分割の表示】特願2003−41390(P2003−41390)の分割
【原出願日】平成15年2月19日(2003.2.19)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】