説明

液晶ポリエステルの製造方法

【課題】固相重合に用いる粉砕物の嵩密度を制御することにより、生産性を向上させることが可能な液晶ポリエステルの製造方法を提供する。
【解決手段】溶融重縮合によって液晶ポリエステルのプレポリマーを調製する工程と、プレポリマーを冷却し、厚さ1.6mm以上2mm以下の部分が80質量%以上を占めるシート状に固化する工程と、シート状に固化したプレポリマーを粉砕する工程と、粉砕したプレポリマーを加熱し、固相重合によってプレポリマーよりも高重合度の液晶ポリエステルを調整する工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融時に液晶性を発現する液晶ポリエステルは、耐熱性及び加工性に優れることから、各種用途分野で使用されている。
【0003】
液晶ポリエステルは、例えば、対応するモノマーである芳香族ヒドロキシカルボン酸またはエステル化合物等を重縮合させることで得られる。得られる液晶ポリエステルを高分子量化すると、機械的強度の向上を図ることができ、種々の使用用途において好適に用いることができる。
【0004】
しかし一方で、所望の分子量にまで高分子量化させると、得られるポリマーが高粘度であるために反応容器から排出し難く、連続生産が困難となるという課題がある。また、高分子量化のため、重合体を長時間にわたって高温環境下に曝すこととなるため、熱劣化が進行しやすいという課題がある。
【0005】
この課題に対し、例えば特許文献1のような重合方法が知られている。特許文献1に記載された方法では、まず、短時間のうちに反応容器内で重縮合を行い、反応容器からの排出を容易に行うことが可能なうちに重合体を溶融状態で回収して固化させ、次いで、固相反応で所望の分子量にまで重合させて高分子量化する。これにより、液晶ポリエステルの高分子量化と生産性の向上とを実現している。
【0006】
さらに、固相重合に先だって、回収して固化した重合体を粉砕することで、熱伝達の効率を上げ、固相重合による重合度の制御や重合時間の短縮を容易にする検討がなされている。例えば、重合体をシート状に冷却固化させることにより、重合体の粉砕を容易にする検討がなされている(例えば、特許文献2〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−72750号公報
【特許文献2】特開平06−256485号公報
【特許文献3】特開平02−86412号公報
【特許文献4】特開2002−179779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、液晶ポリエステルの製造時間(重合時間)を短くし、生産性を向上させるという観点からは、上記方法にはまだ改善の余地がある。例えば、粉砕して得られる重合体の粉砕物の嵩密度(みかけ密度)が小さすぎると、固相重合の単位時間当たりの処理量が低下し、処理能力が低下するおそれがあるが、上述の方法では、粉砕物の粒度に着目した課題は想定されず、検討は成されていない。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、固相重合に用いる粉砕物の嵩密度を制御することにより、生産性を向上させることが可能な液晶ポリエステルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、上記の課題を解決するため、本発明の液晶ポリエステルの製造方法は、溶融重縮合によって液晶ポリエステルのプレポリマーを調製する工程と、前記プレポリマーを冷却し、厚さ1.6mm以上2mm以下の部分が80質量%以上を占めるシート状に固化する工程と、シート状に固化した前記プレポリマーを粉砕する工程と、粉砕した前記プレポリマーを加熱し、固相重合によって前記プレポリマーよりも高重合度の液晶ポリエステルを調整する工程と、を有する。
【0012】
本発明においては、前記プレポリマーは、下記一般式(1’)、(2’)及び(3’)で表されるモノマーを重合させて調整され、2,6−ナフチレン基を含むモノマーの含有量が、用いる全モノマーの合計量に対して、10モル%以上であることが望ましい。
(1’)G−O−Ar−CO−G
(2’)G−CO−Ar−CO−G
(3’)G−O−Ar−O−G
(式中、Arは、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立に、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基であり;Gはそれぞれ独立に水素原子又はアルキルカルボニル基であり;Gはそれぞれ独立にヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基又はハロゲン原子であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0013】
本発明においては、前記2,6−ナフチレン基を含むモノマーの含有量が、用いる全モノマーの合計量に対して、40モル%以上であることが望ましい。
【0014】
本発明においては、前記プレポリマーを調製する工程に先だって、下記一般式(A)で表されるモノマーと、下記一般式(B)で表されるモノマーと、のいずれか一方または両方をアシル化する工程を有することが望ましい。
(A)HO−Ar−CO−G
(B)HO−Ar−O−G
(式中、Arは、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基であり;Arは、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基であり;Gは水素原子又はアルキルカルボニル基であり;Gはヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基又はハロゲン原子であり;前記Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生産性を向上させることが可能な液晶ポリエステルの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】液晶ポリエステルの重合方法に用いる製造装置の例を示す模式図である。
【図2】冷却装置固化されたプレポリマーを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1、2を参照しながら、本発明の実施形態に係る液晶ポリエステルの重合方法について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0018】
本実施形態の液晶ポリエステルの製造方法は、(i)溶融重縮合によって液晶ポリエステルのプレポリマーを調製する工程と、(ii)前記プレポリマーを冷却し、厚さ1.6mm以上2mm以下の部分が80質量%以上を占めるシート状に固化する工程と、(iii)シート状に固化した前記プレポリマーを粉砕する工程と、(iv)粉砕した前記プレポリマーを加熱し、固相重合によって前記プレポリマーよりも高重合度の液晶ポリエステルを調整する工程と、を有している。
【0019】
なお、本明細書の説明においては、モノマーを溶融重縮合させる工程で得られる重合体を「プレポリマー」と称し、プレポリマーを固相状態のまま熱処理する固相重合で得られる重合体を、目的とする「液晶ポリエステル」と称する。
【0020】
以下、まず液晶ポリエステルの製造方法を実施する製造装置について参照しながら、液晶ポリエステルの製造方法について説明する。
【0021】
図1は、本実施形態の液晶ポリエステルの製造方法を実施する液晶ポリエステルの製造装置の一例を示す概略図であり、装置構成全体のうち一部の構成を示す図である。
【0022】
図1に示す製造装置1は、プレポリマーPを重合する重合装置10と、重合装置10から排出されたプレポリマーPを冷却しながら水平方向に移送する冷却装置20と、冷却されたプレポリマーPを粉砕する粉砕装置30と、を有している。粉砕装置30で粉砕されたプレポリマーPは、不図示の固相重合設備に送られて固相重合される。すなわち、重合装置10では、上記(i)の工程を行い、冷却装置20では、上記(ii)の工程を行い、粉砕装置30では、上記(iii)の工程を行い、不図示の固相重合設備では、上記(iv)の工程を行う。
【0023】
[プレポリマーを調整する工程]
本発明においては、まず溶融重縮合によって液晶ポリエステルのプレポリマーを調製する。溶融重縮合させるモノマーの種類によって、液晶ポリエステルの組成が決定される。
【0024】
本発明の製造方法で製造される液晶ポリエステルの典型的な例としては、
(I)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジオールと、からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合(重縮合)させてなるもの、
(II)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、
(III)芳香族ジカルボン酸および芳香族ジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合させてなるもの、
(IV)ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、を重合させてなるもの、
が挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオールは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0025】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。
【0026】
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオールのようなヒドロキシル基(フェノール性水酸基)を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、フェノール性水酸基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0027】
図1に示す重合装置10は、重合槽(反応容器)11と、重合槽11内に設けられ内容物を攪拌する攪拌機12と、重合槽11の下部に設けられ内容物の排出量を制御するバルブ13と、を有している。また、重合槽11の上部には、重縮合中に生じる副生成物Bを含む物質を留去して回収する回収装置14が設けられている。回収装置14は、一端が重合槽11に接続された配管141と、配管141の他端が接続されたタンク142とを有し、配管141中には、重合槽11側から蒸発する副生成物Bを冷却する第1冷却器143,第2冷却器144が設けられている。
【0028】
重合装置10では、重合槽11内で液晶ポリエステルのモノマーを加熱攪拌し、溶融状態で重縮合(溶融重縮合)させることにより、プレポリマーPを調整する。
【0029】
(モノマー)
溶融重縮合の反応においては、下記一般式(1’)で表されるモノマー(以下、「モノマー(1’)」ということがある。)を重合させて、前記液晶ポリエステルのプレポリマーを調製することが好ましく、モノマー(1’)と、下記一般式(2’)で表されるモノマー(以下、「モノマー(2’)」ということがある。)と、下記一般式(3’)で表されるモノマー(以下、「モノマー(3’)」ということがある。)と、を重合させて、前記液晶ポリエステルのプレポリマーを調製することがより好ましい。
(1’)G−O−Ar−CO−G
(2’)G−CO−Ar−CO−G
(3’)G−O−Ar−O−G
(式中、Arは、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立に、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基であり;Gはそれぞれ独立に水素原子又はアルキルカルボニル基であり;Gはそれぞれ独立にヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基又はハロゲン原子であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0030】
Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子が置換される前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0031】
Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子が置換される前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、1〜10であることが好ましい。
【0032】
Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子が置換される前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、6〜20であることが好ましい。
【0033】
前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、それぞれ独立に2個以下であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
【0034】
はそれぞれ独立に水素原子又はアルキルカルボニル基であり、該アルキルカルボニル基としては、メチルカルボニル基(アセチル基)、エチルカルボニル基等、水素原子が置換される前記アルキル基がカルボニル基(−C(=O)−)に結合した一価の基が例示できる。
【0035】
前記一般式(3’)中の二つのGは互いに同じでも異なっていてもよい。そして、前記一般式(1’)中のGと一般式(3’)のGとは互いに同じでも異なっていてもよい。
【0036】
はそれぞれ独立にヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基又はハロゲン原子である。
【0037】
における前記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基等、水素原子が置換される前記アルキル基が酸素原子(−O−)に結合した一価の基が例示できる。
【0038】
における前記アリールオキシ基としては、フェノキシ基等、水素原子が置換される前記アリール基が酸素原子(−O−)に結合した一価の基が例示できる。
【0039】
における前記アルキルカルボニルオキシ基としては、メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基等、水素原子が置換される前記アルキル基がカルボニルオキシ基(−C(=O)−O−)の炭素原子に結合した一価の基が例示できる。
【0040】
における前記ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が例示できる。
【0041】
前記一般式(2’)中の二つのGは互いに同じでも異なっていてもよい。そして、前記一般式(1’)中のGと一般式(2’)のGとは互いに同じでも異なっていてもよい。
【0042】
(アシル化)
反応に用いる出発物質(モノマー)が、下記一般式(A)(上記一般式(1’)においてGが水素原子のもの)のようなヒドロキシカルボン酸や、下記一般式(B)(上記一般式(3’)において2つのGの少なくとも何れか一方が水素原子のもの)のような化合物(芳香族ジオールを含む)、のように、フェノール性水酸基を有する化合物である場合、反応性が低く、重縮合での転化率が上がりにくいことがある。そのため、このような化合物を出発物質とする場合には、反応性を上げるために、重縮合に先だって、これらの化合物のフェノール性水酸基と脂肪酸無水物とを反応させ、当該フェノール性水酸基をアシル化するとよい。
(A)HO−Ar−CO−G
(B)HO−Ar−O−G
(式中、Arは、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基であり;Arは、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基であり;Gは水素原子又はアルキルカルボニル基であり;Gはヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基又はハロゲン原子であり;前記Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0043】
脂肪酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水2エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水β−ブロモプロピオン酸等が挙げられるが、特に限定されるものでない。
【0044】
これらは2種類以上を混合して用いてもよい。価格と取り扱い性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸が好ましく使用され、無水酢酸がより好ましく使用される。
【0045】
アシル化に用いる脂肪酸無水物の使用量は、アシル化を行う化合物が有するフェノール性水酸基の量に対して、1.0倍当量以上1.2倍当量以下が好ましい。成形品からのアウトガスが少なく、成形品の耐ハンダブリスター性などの観点からは1.0倍当量以上1.05倍当量以下がより好ましく、1.03倍当量以上1.05倍当量以下がさらに好ましい。また、衝撃強度の観点からは1.05倍当量以上1.1倍当量以下が好ましい。
【0046】
脂肪酸無水物の使用量が、該フェノール性水酸基に対して1.0倍当量未満の場合には、アシル化反応時の平衡が脂肪酸無水物側にずれてポリエステルへの重合時に未反応の芳香族ジオールまたは芳香族ジカルボン酸が昇華し、反応系が閉塞する傾向がある。
【0047】
また、脂肪酸無水物の使用量が、該フェノール性水酸基に対して1.2倍当量を超える場合には、得られる液晶性ポリエステルの着色が著しくなる傾向がある。
【0048】
アシル化反応は、130℃以上180℃以下の温度条件下、30分間以上20時間以下反応させることが好ましく、140℃以上160℃以下の温度条件下で、1時間以上5時間以下反応させることがより好ましい。
【0049】
このような反応は、重縮合反応を行う反応容器と別の反応容器で行うこととしてもよいし、重縮合反応を行う反応容器と同一の反応容器で行い、引き続き重縮合反応を行うこととしてもよい。アシル化反応と重縮合とを同じ反応容器で行うこととすると、操作が簡便になるため好ましい。
【0050】
その際、アシル化反応を行う反応容器は、チタン、ハステロイB等の耐腐食性を有する材料の使用が可能である。また、目的とする液晶ポリエステルが高い色調(L値)を必要とする場合は、反応容器の内壁の材質がガラスであることが好ましい。反応混合物と接する反応容器の内壁がガラス製であるならば、反応容器全体がガラス製である必要はなく、例えば、グラスライニングされたSUS製等の反応槽等を使用することも可能である。例えば、大型の生産設備においては、グラスライニングされた反応槽を用いることが好ましい。
【0051】
溶融重縮合の反応における、モノマー(1’)、(2’)及び(3’)の総使用量に占めるモノマー(1’)の使用量は、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30モル%以上80モル%以下、さらに好ましくは40モル%以上70モル%以下、特に好ましくは45モル%以上65モル%以下である。
【0052】
溶融重縮合の反応における、モノマー(1’)、(2’)及び(3’)の総使用量に占めるモノマー(2’)の使用量は、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10モル%以上35モル%以下、さらに好ましくは15モル%以上30モル%以下、特に好ましくは17.5モル%以上27.5モル%以下である。
【0053】
溶融重縮合の反応における、モノマー(1’)、(2’)及び(3’)の総使用量に占めるモノマー(3’)の使用量は、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10モル%以上35モル%以下、さらに好ましくは15モル%以上30モル%以下、特に好ましくは17.5モル%以上27.5モル%以下である。
【0054】
モノマー(1’)の使用量が多いほど、耐熱性や強度、剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
【0055】
溶融重縮合の反応に用いるモノマー(1’)、(2’)及びモノマー(3’)のうち、2,6−ナフチレン基を有するモノマーの合計量は、全モノマーの合計量に対して、10モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがより好ましい。
【0056】
モノマー(2’)とモノマー(3’)との使用量は、実質的に等しいことが好ましい。すなわち、 モノマー(2’)とモノマー(3’)との割合は、[モノマー(2’)の使用量]/[モノマー(3’)の使用量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0057】
溶融重縮合の反応においては、モノマー(1’)〜(3’)を、それぞれ独立に二種以上使用してもよい。また、モノマー(1’)〜(3’)以外のモノマーを使用してもよいが、その使用量は、溶融重縮合の反応におけるモノマーの総使用量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0058】
溶融重縮合は、触媒の存在下で行ってもよく、この場合の触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。例えば食品用途のように、使用用途によっては重合後に触媒成分の除去が必要な場合もあり、当該用途で用いる液晶ポリエステルの重合においては無触媒が好ましい。そのため、使用用途に応じて触媒使用の可否を選択するとよい。
【0059】
本実施形態における重縮合反応は、不活性気体、例えば窒素雰囲気下で、常圧または減圧の条件下で行うことができるが、不活性気体雰囲気下に常圧で行うことが好ましい。プロセスは回分式、連続式、またはそれ等の組み合わせを採用できる。
【0060】
本発明における重縮合反応の温度は、260℃以上350℃以下の範囲であり、好ましくは270℃以上330℃以下である。温度が260℃より低いと反応の進行が遅く、350℃を越えると分解等の副反応が起こりやすい。なお、反応槽が多段に分割、または切られている場合には、最も高い反応温度が本発明で言うところの重縮合反応温度である。
【0061】
重縮合反応の時間は反応条件等により適宜決められるべきであるが、該反応温度において0.5時間以上5時間以下が好ましい。多段階の反応温度を採用しても構わないし、場合により、反応途中で、あるいは重縮合反応温度に達したら直ぐにプレポリマーを溶融状態で抜出し、回収することとしても構わない。
【0062】
重縮合反応において、反応容器の形状は公知のものを用いることができる。用いる攪拌翼は、縦型の反応容器の場合、多段のパドル翼、タービン翼、モンテ翼、ダブルヘリカル翼が好ましく、中でも、多段のパドル翼、タービン翼がより好ましい。横型の反応容器では、1軸または2軸の攪拌軸に垂直に、種々の形状の翼、例えばレンズ翼、眼鏡翼、多円平板翼等が設置されているものが良い。また、翼にねじれを付けて、攪拌性能や送り機構を向上させたものも良い。
【0063】
反応容器の加熱は、熱媒、気体、電気ヒーターにより行うが、均一加熱という目的で、反応容器だけでなく、攪拌軸、翼、邪魔板等の反応容器内の反応物に浸漬する部材も加熱することが好ましい。
【0064】
(液晶ポリエステル(プレポリマー)の構造)
上述のモノマー(1’)〜(3’)を溶融重縮合させて得られる重合体(プレポリマー)は、下記一般式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記一般式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記一般式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0065】
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−O−Ar−O−
(Arは、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar及びArは、それぞれ独立に、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0066】
一般式(1)〜(3)における置換基としての前記ハロゲン原子、アルキル基、アリール基は、前記一般式(1’)〜(3’)における置換基としての前記ハロゲン原子、アルキル基、アリール基と同様であり、一般式(1)〜(3)におけるこれら置換基の数も前記一般式(1’)〜(3’)の場合と同様である。
【0067】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びArが2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。すなわち、モノマー(1’)としては、Arがp−フェニレン基又は2,6−ナフチレン基であるものを使用することが好ましい。
【0068】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Arがm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、及びArがジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。すなわち、モノマー(2’)としては、Arがp−フェニレン基、m−フェニレン基、2,6−ナフチレン基、又はジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるものを使用することが好ましい。
【0069】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。すなわち、モノマー(3’)としては、Arがp−フェニレン基、又は4,4’−ビフェニリレン基であるものを使用することが好ましい。
【0070】
液晶ポリエステルは、2,6−ナフチレン基を有する繰り返し単位の合計量が、全繰り返し単位の合計量に対して、10モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがより好ましい。
【0071】
耐熱性や溶融張力が高い液晶ポリエステルの例としては;
繰り返し単位(1)として、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)を、全繰返し単位の合計量に対し、好ましくは40モル%以上74.8モル%以下、より好ましくは40モル%以上64.5モル%以下、さらに好ましくは50モル%以上58モル%以下有し;
繰り返し単位(2)として、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位、繰り返し単位(2A)と称することがある)と、Arが1,4−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位、繰り返し単位(2B)と称することがある)と、を含み;
繰り返し単位(2A)を、全繰返し単位の合計量に対し、好ましくは12.5モル%以上30モル%以下、より好ましくは17.5モル%以上30モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上25モル%以下有し;
繰り返し単位(2B)を、全繰返し単位の合計量に対し、好ましくは0.2モル%以上15モル%以下、より好ましくは0.5モル%以上12モル%以下、さらに好ましくは2モル%以上10モル%以下有し;
繰り返し単位(2)に含まれる繰り返し単位(2A)の含有量が、繰り返し単位(2A)及び繰り返し単位(2B)の合計含有量に対して、好ましくは0.5モル倍以上、より好ましくは0.6モル倍以上のものであり;
繰り返し単位(3)として、Arが1,4−フェニレン基であるもの(ヒドロキノンに由来する繰返し単位)を、全繰返し単位の合計量に対し、好ましくは12.5モル%以上30モル%以下、より好ましくは17.5モル%以上30モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上25モル%以下有する、ものが挙げられる。
【0072】
溶融重縮合工程で得られたプレポリマーは、流動開始温度が好ましくは350℃以下、より好ましくは160℃以上330℃以下、さらに好ましくは170℃以上300℃以下である。流動開始温度が上限値以下であることで、溶融重縮合終了後に反応容器から生成物を取り出す際に、反応容器内での液晶ポリエステルの固化が抑制され、液晶ポリエステルをより容易に取り出すことができる。
【0073】
本発明において、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0074】
また、溶融重縮合工程で得られたプレポリマーは、重量平均分子量が好ましくは10000以下、より好ましくは1000以上10000以下、さらに好ましくは3000以上10000以下である。重量平均分子量と流動開始温度との間には相関関係があり、重量平均分子量が上限値以下であることで、溶融重縮合終了後に反応容器から生成物を取り出す際に、反応容器内での液晶ポリエステルの固化が抑制され、液晶ポリエステルをより容易に取り出すことができる。
【0075】
前記プレポリマーの流動開始温度及び重量平均分子量は、例えば、溶融重縮合時の温度を調節することで、適宜調節できる。
以上のようにして重縮合を行い、プレポリマーを得る。
【0076】
[プレポリマーを冷却しシート状に固化する工程]
次いで、プレポリマーを冷却しシート状に固化する工程について説明する。
【0077】
まず、上記重縮合反応によって得られるプレポリマーを、反応容器から溶融状態で排出し回収する。
【0078】
プレポリマーを溶融状態で取出す場合、不活性気体雰囲気中、例えば窒素雰囲気中で実施するのが、得られる液晶ポリエステルの色調が悪化せず好ましいが、水分が少ない場合は空気中で実施してもよい。また、プレポリマーを溶融状態で取出す際、反応容器を窒素等の不活性ガスにより、好ましくはゲージ圧力で0.1kg/cmG以上2kg/cmG以下、さらに好ましくは0.2kg/cmG以上1kg/cmG以下(ただし、大気圧=1.033kg/cmAとする)で加圧して行うと好ましい。加圧して払い出しをすることで、副生物の生成が抑えられ、重縮合反応の平衡がポリマー生成側に傾かないため、プレポリマーの分子量上昇が抑制され、結果、抜出し時のポリマーの流動温度の上昇を抑えることができる。
【0079】
プレポリマーを回収するための設備としては、公知の押出機、ギヤポンプが挙げられるが、単なるバルブだけでも良い。上述の流動開始温度にまで重合が進行したプレポリマーは、取出された後しばらくすると固化するため、例えば、図1に示す冷却装置を用いて、シート状の固形物として固化させる。
【0080】
図1に示す冷却装置20は、ダブルベルト式クーラーであり、無端ベルトである上側ベルト21および下側ベルト22を上下に密接して配置し、上側ベルト21と下側ベルト22との間にプレポリマーを挟んで、移送しながら冷却する装置である。
【0081】
上側ベルト21および下側ベルト22は、耐食性を有する金属製のベルトであり、例えばスチールベルトである。上側ベルト21および下側ベルト22は、不図示の冷却用の水によって冷却される。
【0082】
上側ベルト21は、第1ローラー23、第2ローラー24の間に巻き掛けられ、これらのローラーの間に張設されている。同様に、下側ベルト22は、第1ローラー24、第2ローラー25の間に巻き掛けられ、これらのローラーの間に張設されている。
【0083】
重合装置10で重合されるプレポリマーPは、冷却装置20において下側ベルト22の上面(図中、符号Aで示す)に排出される。上側ベルト21および下側ベルト22は、各ローラーの駆動により、プレポリマーPを上側ベルト21と下側ベルト22との間に挟みながら下流側に移送する。プレポリマーPは、冷却装置20に挟まれて移動する間に冷却され固化する。上側ベルト21と下側ベルト22の長さ、およびこれらを用いたプレポリマーPの移送速度は、プレポリマーPの冷却目標温度に応じて設定される。
【0084】
図2は、冷却装置20で固化されたプレポリマーを示す図である。
図2(a)に示すように、冷却装置20で固化されたプレポリマーは、シート状の固形物PSとして排出される。シート状の固形物の厚さは、上側ベルト21および下側ベルト22の間の隙間を調整することで制御することができる。
【0085】
本実施形態においては、冷却装置20から排出されるシート状の固形物PSが、厚さ1.6mm以上2mm以下の部分が80%以上を占めるように調整される。
【0086】
固形物PSの厚みが1.6mmを下回る部分では、下流の粉砕装置30で粉砕されるプレポリマーがフィブリル状(繊維状)となり、嵩密度が小さくなる他、粉砕性が著しく低下する。
【0087】
溶融状態で液晶性を示すプレポリマーは、固化する際、表面部分では配向して固化する。この配向した層はスキン層と呼ばれている。スキン層を粉砕すると、配向方向に沿って断面を形成し易く、配向方向に沿って多くの断面が形成された結果、得られる粉体はフィブリル状となる。固形物PSの厚みが1.6mmを下回る部分では、固形物PS全体に対するスキン層の割合が多くなるため、フィブリル状の粉砕物が増え、嵩密度が小さくなると考えられる。また、配向して固化したスキン層は、非晶状態の層と比べて強固であるため、粉砕しにくい。
【0088】
一方、固形物PSの厚さが2mmを超えると、冷却固化に多くの時間が必要となってしまい、生産性を低下させる。
【0089】
固形物PSの厚さは、図2(a)に示すように帯状に排出される固形物PSの、流れ方向と直交する幅方向に切断した断面について評価することにより行うこととしてもよい。
【0090】
固形物PSの厚さは、全領域について測定してもよく、図2(a)に示すように帯状に排出される固形物PSの、流れ方向と直交する幅方向に切断した断面について評価することにより行うこととしてもよい。例えば、冷却装置20から排出される固形物PSの寸法安定性が高い場合には、流れ方向の数カ所の代表位置について、流れ方向と直交する幅方向の厚さを測定し、測定結果から固形物PSの全体が、所望の厚さとなっているかを類推することとしてもよい。
【0091】
図2(b)は、図2(a)における線分A−Aの矢視断面図である。例えば、図に示すように、固形物PSの断面形状が中央部ほどふくらみ、端部ほど細くなっている場合など、固形物PSの厚さが全体として均一でない場合もあり得る。その場合、例えば、最も厚い部分の厚さ(図中、符号W1で示す厚さ)が2mmよりも厚くなっているとしても、固形物PSの幅方向の80%以上が1.6mm以上2mm以下の厚さを示している場合には、固形物PSの厚さが所定の値となっているとする。同様に、例えば、最も薄い部分の厚さ(図中、符号W2で示す厚さ)が1.6mmよりも薄くなっているとしても、固形物PSの幅方向の80%以上が1.6mm以上2mm以下の厚さを示している場合には、固形物PSの厚さが所定の値となっているとする。
【0092】
なお、重合装置10から払い出したプレポリマーPは、略均一な組成となっているため、シート状の固形物PSの場所によらず、プレポリマーPの密度は一定である。そのため、上述のように断面形状を測定し、固形物PS全体の80%以上の部分で厚さが1.6mm以上2mm以下の厚さを示している場合には、質量比で80質量%以上の部分で厚さが1.6mm以上2mm以下の厚さとなると考えることができる。
【0093】
冷却固化の方法については、公知の方法を採用することができる。例えば、図に示した冷却装置20のような二段式ベルト冷却機(ダブル・ベルトクーラー)または一段式ベルト冷却機(シングル・ベルトクーター)にて冷却固化する方法、表面に複数の溝を有するロールにより冷却固化する方法、互いに平行な回転軸を有する一対の冷却ロールおよび該一対の堰とで形成された凹部に一時的に保持させつつ、その一部を回転する該一対の冷却ロール間を通過させて冷却固化する方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの冷却手段は、空気気流下であっても、窒素気流下であってもよい。
【0094】
いずれの方法においても、ベルトまたはロールによってプレポリマーを圧延しながら冷却する方法を採用することが、固形物PSの厚さ制御を行ううえで好ましい。特に、短時間に大量に効率よく冷却するには、図に示す二段式ベルト冷却機を採用することが好ましい。
以上のようにしてプレポリマーを冷却し、厚さが1.6mm以上2mm以下の部分が80%以上となる固形物PSを得る。
【0095】
[プレポリマーを粉砕する工程]
冷却装置20で冷却され移送されるプレポリマーPは、粉砕装置30に供給される。粉砕装置30は、上流側に設けられた第1粉砕機31aと、下流側に設けられた第2粉砕機31bと、プレポリマーPの飛散防止のためのカバー33とを有している。
【0096】
第1粉砕機31aおよび第2粉砕機31bは、円筒状の芯材の軸方向および周方向に、無数の棒状、突起状または鈎状の粉砕歯が付設された回転体であり、芯材を中心軸として回転することで、シート状に固化したプレポリマーPを粉砕する。
【0097】
プレポリマーPを粉砕する装置としては、図に示す粉砕装置30のようなピンクラッシャー他に、例えば、ジョークラッシャー、ジャイレクトリークラッシャー、コーンクラッシャー、ロールクラッシャー、インパクトクラッシャー、ハンマークラッシャー、カッターミル、ロッドミル、ボールミル、ジェットミル、ファン型粉砕機等の粉砕装置を用いることができる。
【0098】
また、図1では、粉砕装置30としてピンクラッシャーのみ図示しているが、上述の粉砕装置を複数組み合わせ、多段階にプレポリマーPの粉砕を行うこととしてもよい。中でも、ピンクラッシャー、カッターミル、ファン型粉砕機にて順次粉砕する方法を採用することが好ましい。
【0099】
粉砕により得られた粒子のd50は、50μm以上1000μm以下程度であると、パウダーの取り扱い易さの観点から好ましい。ここでd50とは、篩い分け試験で得られる重量百分率の50%にあたる粒径で、有効粒径(=平均粒子径)であることを意味する。パウダーの粒径を測定する方法としては、標準篩を用いる篩い分け試験が用いられる。
【0100】
またプレポリマーを粉砕して得られた粒子の嵩密度は、固相重合する際の仕込み量を増大させ生産性を向上させる観点から、0.3g/cc以上であることが好ましく、0.3〜0.5g/cc程度であるのがより好ましい。
以上のようにして、プレポリマーの粒子を得る。
【0101】
[固相重合する工程]
粉砕されたプレポリマーPは、下流側で熱処理され固相重合により高分子量化される。
ここで、粉砕して得られるプレポリマーPの粉末の嵩密度が小さすぎると、固相重合の処理能力が低下するおそれがある。しかし、冷却装置20を介することで得られる固形物PSを、厚さが1.6mm以上2mm以下の部分が80%以上となるように調整することで、良好な嵩密度のプレポリマーPの粉末を得ることができることができる。
【0102】
固相重合を行う工程においては、不活性気体雰囲気下においてプレポリマーの粒子を固相状態で熱処理し、固相重合を行って目的とする液晶ポリエステルを得る。これにより、未反応原料を除去するとともに、分子量を上げることができ、液晶ポリエステルの物性を上げることができる。
【0103】
固相重合時の昇温速度、および最高処理温度は、生じる液晶ポリエステルの粒子を融着させないような条件とする。融着を起こすと、表面積が減少し、重縮合反応や低沸点成分の除去が遅くなり好ましくない。
【0104】
固相重合の昇温速度は、0.05℃/分以上1.00℃/分以下であることが好ましく、0.05℃/分以上0.20℃/分以下であることがより好ましい。
【0105】
固相重合の最高処理温度は、200℃以上400℃以下の範囲、より好ましくは230℃以上350℃以下の範囲に設定する。200℃未満の温度では、反応が遅く処理時間がかかるため不経済であり、350℃を越えると、粉体粒子同士が融着したり、溶融するため固相状態が保持できなかったりするため好ましくない。
【0106】
固相重合を行う装置としては、既知の乾燥機、反応機、混合機、電気炉等、粉体を加熱処理することが可能であれば種々の装置を用いることができるが、不活性気体雰囲気下で固相重合を行うために、密閉度の高いガス流通式の装置が好ましい。
【0107】
不活性気体としては、窒素、ヘリウム、アルゴン、炭酸ガスから選ばれるものが好ましく、さらに好ましくは窒素である。不活性気体の流量は、固相重合装置の容積、粉末の粒径、充填状態等を勘案して決められるが、反応容器1m当たり2m/hr以上8m/hr以下、より好ましくは3m/hr以上6m/hr以下である。不活性気体の流量が2m/hr未満では重合速度が遅く、8m/hrを越えると、粉末の飛散が起こる場合があるため好ましくない。
【0108】
固相重合の時間としては、1時間以上24時間以下が好ましい。
以上のようにして、目的とする液晶ポリエステルを得ることができる。
【0109】
なお、上述の方法で得られる液晶ポリエステルを、溶融して造粒することとしてもよい。造粒の形態は、ペレット状が好ましい。
【0110】
液晶ポリエステルの粒子を造粒してペレットを製造する方法としては、一般に使用されている一軸または二軸の押出機を用い溶融混練し、空冷または必要に応じて水冷した後、ペレタイザー(ストランドカッター)でペレットに賦形する方法が挙げられる。溶融均一化と賦形が目的のため、汎用の押出機が使用できるが、L/Dの大きい押出機を用いることが溶融均一化の観点からは好ましい。溶融混練に際しては、押出機のシリンダー設定温度(ダイヘッド温度)は200℃以上420℃以下の範囲が好ましく、より好ましくは230℃以上400℃以下、更に好ましくは240℃以上380℃以下である。
【0111】
なお、本実施形態の製造方法で製造される液晶ポリエステルには、必要に応じて無機充填剤を添加することができる。このような無機充填剤としては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ、モンモリロナイト、石膏、ガラスフレーク、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、ホウ酸アルミニウムウィスカ、チタン酸カリウム繊維等が例示される。これらの無機充填剤は、フィルムの透明性や機械強度を著しく損なわない範囲で用いることができる。
【0112】
また、本実施形態の製造方法で製造される液晶ポリエステルには、必要に応じて、さらに、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、無機もしくは有機系着色剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、またはフッ素樹脂などの離型改良剤など、各種の添加剤を製造工程中あるいはその後の加工工程において添加することができる。
【0113】
以上のような構成の液晶ポリエステルの製造方法によれば、粉砕物の嵩密度が固相重合に適したものとなる。そのため、液晶ポリエステルを生産性良く安定して製造することが可能となる。
【0114】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0115】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0116】
[液晶ポリエステルの製造]
攪拌機、窒素ガス導入装置、温度計および還流冷却器を備えた、容量200L、槽内径(直径)600mmの反応槽を有する反応器に、窒素雰囲気下で無水酢酸33.1kg(0.322kmol)を仕込んだ後、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸27.9kg(0.148kmol)、ハイドロキノン7.4kg(0.067kmol)、テレフタル酸2.2kg(0.013kmol)、2,6−ナフタレンジカルボン酸10.2kg(0.047kmol)、更にアセチル化触媒として1−メチルイミダゾール4.8gを仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で140℃まで昇温し、137℃〜140℃の温度で1時間、反応混合物を還流させた。
【0117】
次いで、反応槽内を窒素で1kg/cmに加圧しながら、反応混合物を100Lの重合缶に移送した後、重合缶にて、酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら4時間かけて305℃まで昇温し、昇温後、温度を保持して125分間反応させ、プレポリマーを得た。
【0118】
次いで、プレポリマーを二段式ベルト冷却機に移し、圧延しながら冷却固化することで、プレポリマーのシート状固形物を得た。二段式ベルト冷却機のベルト間の間隙を調整することで、得られるシート状固形物の厚さを制御した。
【0119】
その後、シート状固形物を、二段ベルト冷却機(日本ベルディング株式会社製、NR型)に付設しているピンクラッシャーを用い平均処理速度64.1kg/hrで粗割りし、次いで、フェザーミル(ホソカワミクロン株式会社製)を用い、スクリーン孔径6mm、回転数2020rpm、ローター径280mmの条件にて10kg/hrの供給量で粗粉砕を行った。次いで、バンタムミル(ホソカワミクロン株式会社製)を用い、スクリーン孔径2mm、回転数7000rpm、ローター径140mm、周速度51.3m/sの条件にて4kg/hrの供給量で微粉砕を行った。シート状固形物の厚さを異ならせた場合であっても、各粉砕装置の運転条件は一定とした。微粉砕後の粉砕物は、いずれも粉状であった。
【0120】
[測定方法]
本実施例および比較例においては、マイクロメーター((株)ミツトヨ製)を用いてプレポリマーを冷却して得られるシート状固形物の厚さを測定した。シート状固形物の厚さは、シート状固形物の幅方向において、シート両端の位置を含む等間隔の5箇所で測定し、測定値の平均値を算出することで求めた。
【0121】
本実施例および比較例においては、パウダー・テスター(細川ミクロン社製造の粉体特性総合測定装置、PT−E型)を用いて、プレポリマーの粉砕物の嵩密度を測定した。
【0122】
二段ベルト式冷却器では、得られるシート状固形物の厚さが略均一となる。そのため、複数種類の厚さのシート状固形物からそれぞれプレポリマーの粉体を得た後、適宜所定の割合でスーパーミキサーにて混合することで、厚さが異なる部分を有するシート状固形物を粉砕したときのモデルサンプルとした。
【0123】
(実施例1)
厚さ1.6mmのシートを粉砕して得られるプレポリマーの粉体(100%)は、嵩密度が0.31g/ccであった。
【0124】
(実施例2)
厚さ2.0mmのシートを粉砕して得られるプレポリマーの粉体(100%)は、嵩密度が0.41g/ccであった。
【0125】
(実施例3)
厚さ1.6mmのシートを粉砕して得られる粉体80%と、厚さ2.2mmのシートを粉砕して得られる粉体20%と、を混合して得られるプレポリマーの粉体は、嵩密度が0.30g/ccであった。
【0126】
(実施例4)
厚さ2.0mmのシートを粉砕して得られる粉体80%と、厚さ2.2mmのシートを粉砕して得られる粉体20%と、を混合して得られるプレポリマーの粉体は、嵩密度が0.41g/ccであった。
【0127】
(比較例1)
厚さ1.0mmのシートを粉砕して得られる粉体80%と、厚さ2.2mmのシートを粉砕して得られる粉体20%と、を混合して得られるプレポリマーの粉体は、嵩密度が0.16g/ccであった。
【0128】
(比較例2)
厚さ1.6mmのシートを粉砕して得られる粉体40%と、厚さ2.2mmのシートを粉砕して得られる粉体60%と、を混合して得られるプレポリマーの粉体は、嵩密度が0.20g/ccであった。
【0129】
測定の結果、厚さ1.6mm以上2mm以下の部分が80%以上であると、嵩密度が0.3g/cc以上となった。そのため、プレポリマーをこのような厚さの固形物とすると、固相重合の効率が上がり、液晶ポリエステルの製造において全体の生産性が向上することが分かった。
これらの結果から、本発明の有用性が確かめられた。
【符号の説明】
【0130】
10…重合装置、20…冷却装置、30…粉砕装置、P…プレポリマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融重縮合によって液晶ポリエステルのプレポリマーを調製する工程と、
前記プレポリマーを冷却し、厚さ1.6mm以上2mm以下の部分が80質量%以上を占めるシート状に固化する工程と、
シート状に固化した前記プレポリマーを粉砕する工程と、
粉砕した前記プレポリマーを加熱し、固相重合によって前記プレポリマーよりも高重合度の液晶ポリエステルを調整する工程と、を有する液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
前記プレポリマーは、下記一般式(1’)、(2’)及び(3’)で表されるモノマーを重合させて調整され、
2,6−ナフチレン基を含むモノマーの含有量が、用いる全モノマーの合計量に対して、10モル%以上である請求項1に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
(1’)G−O−Ar−CO−G
(2’)G−CO−Ar−CO−G
(3’)G−O−Ar−O−G
(式中、Arは、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立に、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基であり;Gはそれぞれ独立に水素原子又はアルキルカルボニル基であり;Gはそれぞれ独立にヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基又はハロゲン原子であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項3】
前記2,6−ナフチレン基を含むモノマーの含有量が、用いる全モノマーの合計量に対して、40モル%以上である請求項2に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項4】
前記プレポリマーを調製する工程に先だって、下記一般式(A)で表されるモノマーと、下記一般式(B)で表されるモノマーと、のいずれか一方または両方をアシル化する工程を有する請求項2または3に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
(A)HO−Ar−CO−G
(B)HO−Ar−O−G
(式中、Arは、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基であり;Arは、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基であり;Gは水素原子又はアルキルカルボニル基であり;Gはヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基又はハロゲン原子であり;前記Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−7004(P2013−7004A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142150(P2011−142150)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】