説明

液晶分子、液晶表示素子及び液晶光空間変調素子

【課題】チルト角が大きく、充分な光学変調が得られる液晶分子の提供。
【解決手段】例えば、下式に示す構造である液晶分子、及び該液晶分子を用いた液晶表示素子並びに液晶光空間変調素子。


(R11はC4〜16のアルコキシ基;R13はF,Cl,Br,CN,CH3,CF3又はOCH3;Z1及びZ2はF,Cl,Br,OH,NO2,CN又はCF3;Z3及びZ4はH,F,Cl,Br,OH,NO2,CN又はCF3;Z7及びZ8はH,F,Cl,Br,OH,NO2,CN又はCF3;但し、Z7及びZ8がいずれもHである場合は除く。n=1〜6の整数、m=1〜5の整数であり、*はカイラル中心を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶分子、及び該液晶分子を用いた液晶表示素子並びに液晶光空間変調素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、TFT(Thin Film Transistor)などのアクティブマトリックス駆動の液晶表示素子(LCD)が、小型のモバイル用途から大型テレビまで幅広く用いられるようになってきている。
LCDでは、インパルス駆動などの手法が取り入れられ高速応答化が為されてきている。しかしながら、LCDは、プラズマディスプレイ(PDP)や電界放出型ディスプレイ(FED)等と比較して、液晶材料自体の応答速度の遅さに起因する動画ボケ等で、動画における表示品位に劣っているのが実情である。
【0003】
また、現状の60Hzフレームレート駆動を120Hzまたは240Hzと高速化し(ハイフレームレート駆動)、動画表示を高品位化する試みも行われている。LCDにおける動画表示品位は、TFTを含めた駆動系に依る部分はあるものの、液晶材料自体の応答特性にほとんど依存する。つまり、液晶材料が高速応答するものとならない限りは根本的な解決にはならず、ハイフレームレート駆動を実現できない。
【0004】
以上のように、ハイフレーム駆動にも対応でき、高い動画表示品位を実現できる高速応答可能な液晶材料が強く求められている状況である。
【0005】
高速応答を実現できる液晶として、ネマチック液晶におけるフレクソエレクトリック効果、強誘電性液晶、反強誘電性液晶などが知られているが、本発明者はスメクチックA相におけるエレクトロクリニック効果(または電傾効果)に着目した。
【0006】
エレクトロクリニック効果は、スメクチックA相において一軸配列している液晶分子が印加した電界強度に応じて、その光軸(液晶分子長軸)が傾く現象である(非特許文献1参照。)。このセルを直交偏光板間に配置することで、偏光板の光軸と液晶の光軸の成す角(チルト角)に応じた透過光量が得られ(下記(A)式参照。)、チルト角が±45°で最大透過率となる。
【0007】
T/T=sin2(2θ)×sin2(πΔnd/λ)・・・(A)
(ここで、T:透過光量、T0:入射光量、θ:偏光板の光軸と液晶の光軸の成す角(チルト角)、Δn:液晶の複屈折、d:液晶層の厚さ、λ:透過光の波長である。)
【0008】
最大透過率となるリターデーション(=Δnd)の場合の透過率のチルト角に対する依存性を上記(A)式で計算した結果を図5に示す。
【0009】
エレクトロクリニック効果における応答時間は、数μs〜数10μsと非常に高速である。また、小さな電界強度においては光軸の傾き角(チルト角)が比例する(つまり、透過光の電圧変調が可能)であることが利点として挙げられる。即ち、アクティブマトリックス駆動に非常に適した表示モードである、と言うことができる。
しかしながら、これまでの液晶材料で発現したエレクトロクリニック効果におけるチルト角はあまり大きくなく、充分な光学変調が得られていない。
【0010】
大きなチルト角を示す液晶材料として、非カイラル末端にシロキサンを付加した材料系が知られている。これはシロキサンのような、通常のアルキル鎖よりも大きな体積を持ち、フレキシブルな官能基を末端基に付加することにより、光学変調の元となるコア部を電界により動きやすくなるためと考えられている。非特許文献2によると、非カイラル末端にシロキサンを付加した構造を持つ液晶分子の場合、最大チルト角26°が得られている。しかしながら、上記(A)式より、透過率はせいぜい60%程度であり、かつ、分極基としてニトロ基を導入しているため分極も大きく、表示素子などの実用化を考えれば未だに不充分である。
【0011】
さらに特許文献1では、不斉炭素を持ち、この不斉炭素を挟み正対する位置に末端フェニル基を有するコア部と、オルガノシロキサンを持つ構造の液晶分子が開示されている。しかしながら、この液晶分子は末端が官能基を有しないアルコキシ置換フェニル基であるため、チルト角が小さいと言う点で充分に満足できるものではなく、さらなるチルト角の増大が望まれている。
【0012】
【非特許文献1】Garoffら、Physical Review Letters、vol.38、1977年、p848
【非特許文献2】Naciri, et al. Chem. Mater. 1995, 7, 1397-1402
【特許文献1】特開2008−150334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであり、エレクトロクリニック効果におけるチルト角が大きく、充分な光学変調が得られる液晶分子を提供することを目的とする。
また本発明は、エレクトロクリニック効果におけるチルト角が大きく、充分な光学変調が得られる液晶分子を用いた液晶表示素子及び液晶光空間変調素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、不斉炭素を有するカイラル末端の一方にオルガノシランもしくはオルガノシロキサン構造を付加し、他方に官能基を有する末端フェニル基を配置した構造を有する化合物により、チルト角をさらに増大できることを見出し、この知見に基づき鋭意検討を行い、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、前記課題を解決するために提供する本発明は、下記一般式(1)に示す構造である液晶分子である。
【0016】
【化1】

【0017】
但し、前記一般式(1)中、X1は下記式(2)で表され、且つ、R1との結合手は任意であり、
【化2】

【0018】
前記一般式(1)中、X2は下記式(3)から選択される基であり、
【化3】

【0019】
前記一般式(1)中、X3は下記式(4)で表される。
【化4】

【0020】
(式(1)〜(4)中、R1は炭素数4〜16の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基またはアルコキシ基を表し、R2はSi数1〜6の分岐しても良いオルガノシロキサンまたはオルガノシランを表す。また、R3及びR4は、H,F,Cl,Br,CN,CH3,CF3またはOCH3を表し、互いに異なる。
1及びY2は、−,-COO-,-CH2-,-CH2O-,-C22-,-C2-または-CF2O-を表す。
1及びZ2はF,Cl,Br,OH,NO2,CNまたはCF3を表し、Z3及びZ4はH,F,Cl,Br,OH,NO2,CNまたはCF3を表す。また、Z5及びZ6は、H,F,Cl,Br,OH,NO2,CNまたはCF3を表す。さらに、Z7及びZ8は、H,F,Cl,Br,OH,NO2,CNまたはCF3を表す。但し、Z7及びZ8がいずれもHである場合は除く。
また、n=1〜6の整数であり、*はカイラル中心を表し、−は連結基を意味する。)
【0021】
また、前記課題を解決するために提供する本発明は、下記一般式(5)に示す構造である液晶分子である。
【0022】
【化5】

【0023】
(式(5)中、R11は炭素数4〜16の直鎖もしくは分岐鎖のアルコキシ基を表し、R13は、F,Cl,Br,CN,CH3,CF3またはOCH3を表す。
1及びZ2はF,Cl,Br,OH,NO2,CNまたはCF3を表し、Z3及びZ4はH,F,Cl,Br,OH,NO2,CNまたはCF3を表す。また、Z7及びZ8は、H,F,Cl,Br,OH,NO2,CNまたはCF3を表す。但し、Z7及びZ8がいずれもHである場合は除く。
また、n=1〜6の整数、m=1〜5の整数であり、*はカイラル中心を表す。)
【0024】
そして、前記課題を解決するために提供する本発明は、透明な一対の基板と、該一対の基板の間に設けられ、一軸配列を為すスメクチックA相を呈する本発明に係る液晶分子が充填された液晶層と、前記基板に設けられた電極と、を備え、前記電極から前記液晶層に対して電界を印加して前記液晶分子の長軸を傾け、当該液晶層の透過率を調整する液晶表示素子である。
【0025】
そしてまた、前記課題を解決するために提供する本発明は、透明な一対の基板と、該一対の基板と間に設けられ、一軸配列を為すスメクチックA相を呈する本発明に係る液晶分子が充填された液晶層と、前記基板に設けられた電極と、を備え、前記電極から前記液晶層に対して電界を印加して、当該液晶層を透過する光について空間変調を行う液晶光空間変調素子である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の液晶分子によれば、液晶分子として使用温度域でスメクチックA相を呈し、エレクトロクリニック効果におけるチルト角が大きく、液晶表示素子や液晶光空間変調素子に用いるのに充分な光学変調が得られる。
また本発明の液晶表示素子によれば、動画表示品位に優れ、明るく、階調性とコントラストが高い表示素子を提供することができる。例えば、直視型LCDやプロジェクション・ディスプレイ用マイクロ液晶デバイス(LCoS(Liquid Crystal on Silicon)、高温ポリシリコンTFT−LCD)に適用できる。また特に、色順次バックライト照明を用いたフィールドシーケンシャル駆動によるカラー表示素子を実現できる。
さらに本発明の液晶光空間変調素子によれば、三次元表示などが可能となる高速光空間変調素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
<液晶分子>
以下に、本発明に係る液晶分子の実施の形態について説明する。
まず本発明に係る液晶分子は、下記一般式(1)に示す構造である。
【0028】
【化6】

【0029】
但し、前記一般式(1)中、X1は下記式(2)で表され、且つ、R1との結合手は任意であり、
【0030】
【化7】

【0031】
前記一般式(1)中、X2は下記式(3)から選択される基であり、
【化8】

【0032】
前記一般式(1)中、X3は下記式(4)で表される。
【化9】

【0033】
式(1)〜(4)中、R1は炭素数4〜16の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基またはアルコキシ基を表し、R2はSi数1〜6の分岐しても良いオルガノシロキサンまたはオルガノシランを表す。また、R3及びR4は、H,F,Cl,Br,CN,CH3,CF3またはOCH3を表し、互いに異なる。
1及びY2は、−,-COO-,-CH2-,-CH2O-,-C22-,-C2-または-CF2O-を表す。
1及びZ2はF,Cl,Br,OH,NO2,CNまたはCF3を表し、Z3及びZ4はH,F,Cl,Br,OH,NO2,CNまたはCF3を表す。また、Z5及びZ6は、H,F,Cl,Br,OH,NO2,CNまたはCF3を表す。さらに、Z7及びZ8は、H,F,Cl,Br,OH,NO2,CNまたはCF3を表す。但し、Z7及びZ8がいずれもHである場合は除く。
また、n=1〜6の整数であり、*はカイラル中心を表し、−は連結基を意味する。
【0034】
また、本発明に係る液晶分子は、下記一般式(5)に示される構造であることがより好ましい。
【0035】
【化10】

【0036】
前記一般式(5)中、R11は炭素数4〜16の直鎖もしくは分岐鎖のアルコキシ基を表し、R13は、F,Cl,Br,CN,CH3,CF3またはOCH3を表す。
1及びZ2はF,Cl,Br,OH,NO2,CNまたはCF3を表し、Z3及びZ4はH,F,Cl,Br,OH,NO2,CNまたはCF3を表す。また、Z7及びZ8は、H,F,Cl,Br,OH,NO2,CNまたはCF3を表す。但し、Z7及びZ8がいずれもHである場合は除く。
また、n=1〜6の整数、m=1〜5の整数であり、*はカイラル中心を表す。
【0037】
ここで、本発明の液晶分子は、スメクチック液晶層を形成するものであり、液晶表示素子や液晶光空間変調素子が使用される温度領域、例えば20〜50℃においてスメクチックA相を呈することが好ましい。スメクチック液晶層は、液晶分子の長軸方向を層状(スメクチック層)に配列してなる液晶層である。ここで言うスメクチックA相は、このような液晶層に関し、当該液晶層の法線方向と液晶分子の長軸方向とが一致しているものである。
【0038】
以上のような液晶分子を用いれば、エレクトロクリニック効果により25°以上のチルト角を示し、液晶層としてみるとその際の透過率が60%以上のものとなる。
【0039】
<液晶表示素子>
次に、本発明に係る液晶表示素子の構成について説明する。ここで言う液晶表示素子は、液晶材料を用いた表示素子を直接観察者が見るようないわゆる直視型表示素子のことである。
図1は、本発明に係る液晶表示素子の構成を示す断面図である。ここでは透過型の液晶表示素子の要部を示しており、その駆動方式として薄膜トランジスタ(TFT)駆動によるアクティブマトリクス駆動方式を採用したものである。
【0040】
図1に示す様に、TFTアレイ基板1として、第1基板10の一方の面上に、複数のマトリクス状に配置された画素毎にスイッチング用のTFTが形成され、これに接続されたITO膜等の透明電極膜からなる画素電極11が構成されている。或いはスイッチング用のTFTの代わりに、その他の画素選択用の回路などを用いても良い。このとき、画素電極11上に誘電膜を設けても良い。また、対向基板2として、第2基板20の一方の面上に必要に応じて不図示のカラーフィルタが形成され、それらを被覆して全面に対向電極21が形成されている。さらに、TFTアレイ基板1と対向基板2の必要な箇所に不図示の位相差板や偏光板などが形成されている。
【0041】
前記TFTアレイ基板1と対向基板2がシール材で貼り合わされ、その間隙に不図示の配向膜を介して、前述した本発明の液晶分子を含む液晶混合物(液晶材料)からなる液晶層3が封入および挟持されている。このとき、本発明の液晶分子は、一軸配列をなすスメクチックA相を呈している。
【0042】
以上のような液晶表示素子においては、背面側にLEDなどのバックライトユニットを備えている。本発明に係る液晶表示素子では、画素電極11と対向電極21との間に印加する電圧により(エレクトロクリニック効果により)、液晶分子の傾き(チルト角)を変化させ、透過率を制御することで前記バックライトユニットからの光の透過を調整している。このため、本発明に係る液晶表示素子では、階調のある画像を表示することができる。
【0043】
画像信号としては、駆動方式は例えば1H(Hは水平走査期間)反転駆動方式、或いは1F(Fはフィールド)反転駆動方式等を採用でき、これらの交流駆動では駆動電圧の高さ(振幅の大きさ)により液晶の色レベル(階調)を変化させることができる。特に、このときの駆動電圧を高めることで、表示される画像のコントラストをさらに高めることが可能である。
【0044】
本発明の液晶表示素子では、本発明の液晶分子を用いているので、動画表示品位に優れ、明るく、階調性とコントラストの高い画像を表示することが可能となる。
【0045】
<液晶光空間変調素子>
次に、本発明に係る液晶光空間変調素子の構成について説明する。
ここで言う液晶光空間変調素子とは、ある光源からの光を平面的に分割し、その個々の光束の強度、位相等を変化させる素子を言う。この液晶光空間変調素子は、例えばプロジェクタディスプレイに用いられるマイクロディスプレイ(LCoS)やライトバルブ、或いは光偏向スイッチ等の位相変調素子を含む。前記ライトバルブの具体例としては、図1の液晶表示素子を適用するものである。即ち、光源から出射される光を赤、緑、青色の光に分離し、各色光を本発明の液晶表示素子により構成されている3つのライトバルブにより変調し、変調された後の色光束を再び合成して、投射面に拡大投影する構成のものである。
【0046】
図2は、本発明の液晶光空間変調素子として、光偏向スイッチの構成例を示したものである。
図2に示すように、ガラスなどからなる一対の透明基板31a,31bが互いに主面が平行に且つ所定間隔を有して対向するように配置されており、その対抗する面には液晶分子を垂直配向させる垂直配向剤が塗布されている。また、透明基板31a,31bの一方向の両端には電極32a,32bが挟まれてなり、この電極32a,32b間には交流電界を印加する外部の駆動装置33より交流電界が印加されるようになっている。
透明基板31a,31b間には前述した本発明の液晶分子34が封入されてなり、当該液晶光空間変調素子の使用環境ではスメクチックA相を呈していると共に、前記垂直配向剤により電界を印加していない状態で透明基板31a,31bの主面に対して垂直配向している。
【0047】
液晶光空間変調素子では、入射光Lは基板31a方向から基板法線と平行に(基板に対して垂直に)入射されるが、その入射光は電極32a,32b間に印加される電界によりその電界方向と直交する方向に偏向されて出射される。例えば、電界E=0のときは入射光のシフトは発生せず、電界E>0のときはその電界方向と直交する所定方向(+方向)に偏向シフトされて出射される。また、電界E<0のときは電界E>0の場合とは逆方向(−方向)に偏向シフトされて出射される。また、そのシフト量は電界の強さにより調整可能である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明について実施例を挙げてより具体的に説明する。
(実施例1)
(1)液晶分子の合成
次の手順で本発明の液晶分子を得た。
(STEP1)
4,4’−ビフェノールのピリジン溶液に塩化ベンゾイルを滴下した後、室温で終夜攪拌し、得られた析出物をろ過、シリカゲルのカラムクロマトグラフィーにより中間生成物1を得た。
【0049】
【化11】

【0050】
(STEP2)
中間生成物1を酢酸に分散し、15℃に保ちながら硝酸を滴下し、さらに水を加えて攪拌した。得られた析出物をエタノール/酢酸で再結晶し、中間生成物2を得た。
【0051】
【化12】

【0052】
(STEP3)
アルゴン置換したフラスコ中に中間生成物2、トリフェニルホスフィン、(S)−5−ヘキセン−2−オールのテトラヒドロフラン(THF)溶液を入れ、アゾジカルボン酸ジエチルのTHF溶液を滴下し、室温で終夜攪拌した。溶媒をとばした後、カラムクロマトグラフィーにより中間生成物3を得た。
【0053】
【化13】

【0054】
(STEP4)
中間生成物3のメタノール溶液に水酸化リチウム水溶液を加え、室温で終夜攪拌した。さらに溶媒をとばし、塩酸で中和した後、エチルエーテルで目的物を抽出した。次いで、硫酸マグネシウムで脱水した後、溶媒をとばし、カラムクロマトグラフィーにより中間生成物4を得た。
【0055】
【化14】

【0056】
(STEP5)
1−(3−(ジメチルアミノ)−プロピル)−3−エチルカルボジイミドメチオジンに中間生成物4、4−ドデカオキシ−2,3,5,6−テトラフルオロ安息香酸、4−ジメチルアミノピリジンのジクロロメタン溶液を加え、室温で終夜攪拌した。次いで、得られた溶液を水洗浄した後、分液し、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒をとばした後、カラムクロマトグラフィーにより中間生成物5を得た。
【0057】
【化15】

【0058】
(STEP6)
中間生成物5と1,1,3,3,3−ペンタメチルジシロキサンのTHF溶液に、触媒としてジクロロ(ジシクロペンタジエル)白金(II)を加え、アルゴン雰囲気中、60℃で24時間攪拌した。溶媒をとばした後、カラムクロマトグラフィーにより最終生成物6を得た。
【0059】
【化16】

【0060】
最終生成物6のスメクチックA相は5℃〜23℃であった。10℃におけるチルト角の印加電圧依存性を図3に示す。
なお、相転移温度及びスメクチックA相同定について、示差走査熱量測定及びホットステージによる偏光顕微鏡観察により行った。
【0061】
(2)評価セルの作製
ITO(Indium Tin Oxide)付ガラス基板にポリイミド配向膜を成膜した後、バフ材付ローラーでラビングし、2.4μm径シリカボールを分散させた紫外線硬化樹脂でセルを作製した。次いで、上述した方法で合成した液晶分子(最終生成物6)を等方相となる温度で注入し、評価セルとした。
【0062】
(3)評価セルの評価
得られた評価セルについて、最大チルト角、透過率、応答時間を評価した。
最大チルト角については、評価セルを直交偏光板間に配置し、矩形波電界を印加しながら透過光量を測定し、正負極性電界それぞれにおいて最小光量となる偏光板光軸と評価セルの光軸の間の角度の半分をチルト角とした。
また、透過率は、偏光顕微鏡の偏光板の光軸に評価セルの無電界持における光軸を一致させ、最大チルト角となる電界を印加した際の透過光量を分光光度計で測定し、平行偏光板配置を100%とすることより算出した。
また、応答時間は、透過率測定と同様の光学配置で、無電界からステップ状に最大チルト角が得られる電圧を印加した際の立ち上がり時間とした。
【0063】
(比較例1)
次の手順で本発明において比較例に相当する液晶分子を得た。
(STEP1)
アルゴン置換したフラスコ中に4−ブロモ−2−フルオロフェノール、トリフェニルホスフィン、(S)−5−ヘキセン−2−オールのテトラヒドロフラン(THF)溶液を入れ、アゾジカルボン酸ジエチルのTHF溶液を滴下し、室温で終夜攪拌した。溶媒をとばした後、カラムクロマトグラフィーにより下記中間生成物7を得た。
【0064】
【化17】

【0065】
(STEP2)
中間生成物7と1,1,3,3,3−ペンタメチルジシロキサンとのTHF溶液に、触媒としてジクロロ(ジシクロペンタジエル)白金(II)を加え、アルゴン雰囲気中、60℃で24時間攪拌した。溶媒をとばした後、カラムクロマトグラフィーにより中間生成物8を得た。
【0066】
【化18】

【0067】
(STEP3)
中間生成物8,4−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)フェノールのエチレングリコールジメチルエーテル溶液に、触媒としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)と炭酸ナトリウム水溶液を加え、窒素雰囲気中で24時間還流攪拌した。溶媒をとばした後、カラムクロマトグラフィーにより中間生成物9を得た。
【0068】
【化19】

【0069】
(STEP4)
1−(3−(ジメチルアミノ)−プロピル)−3−エチルカルボジイミドメチオジンに中間生成物9,4−ドデカオキシ安息香酸、4−ジメチルアミノピリジンのジクロロメタン溶液を加え、室温で終夜攪拌した。次いで、攪拌後の溶液を水洗浄した後、分液し、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒をとばした後、カラムクロマトグラフィーにより最終生成物10を得た。
【0070】
【化20】

【0071】
本比較例の最終生成物10のスメクチックA相は85℃〜95℃であった。90℃におけるチルト角の印加電圧依存性を図5に示す。
【0072】
以上の実施例1及び比較例1の評価結果(最大チルト角と温度範囲、及び応答時間の実測値)を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
比較例1の応答時間は数100μ秒オーダーであり、例えば240Hzフレーム駆動(フレーム時間4.2m秒)を駆動するのに充分高速であるとは言えない。一方、実施例1の応答時間は数10μ秒オーダーであり、例えば240Hzフレーム駆動を駆動するのに充分高速であった。
また、比較例1は最大チルト角が9°と小さく、したがって透過率も約10%と非常に小さかった。液晶表示素子(LCD)の場合、消費電力のほとんどはバックライトによるものであり、その半分未満の光量しか透過できない液晶材料では実用上大きな問題となるため、非常に小さい透過率となってしまう。一方、実施例1はチルト角が25°以上であり、対応する透過率も60%以上であった。比較例1と比べることで明らかなように、非常に効果が大きかった。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に係る液晶表示素子の構成を示す断面図である。本発明の第1の実施の形態である色変換層の製造方法の概略工程図である。
【図2】本発明に係る液晶光空間変調素子の構成を示す概略図である。
【図3】実施例1の評価セルの電圧とチルト角の関係を示す図である。
【図4】比較例1の評価セルの電圧とチルト角の関係を示す図である。
【図5】一軸配列しているスメクチックA相の液晶分子を有する液晶セルにおけるチルト角と透過率の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
1・・・TFTアレイ基板、2・・・対向基板、3・・・液晶層、10・・・第1基板、11・・・画素電極、20・・・第2基板、21・・・対向電極、31a,31b・・・透明基板、32a,32b・・・電極、33・・・駆動装置、34・・・液晶分子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)に示す構造である液晶分子。
【化1】


但し、前記一般式(1)中、X1は下記式(2)で表され、且つ、R1との結合手は任意であり、
【化2】


前記一般式(1)中、X2は下記式(3)から選択される基であり、
【化3】


前記一般式(1)中、X3は下記式(4)で表される。
【化4】


(式(1)〜(4)中、R1は炭素数4〜16の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基またはアルコキシ基を表し、R2はSi数1〜6の分岐しても良いオルガノシロキサンまたはオルガノシランを表す。また、R3及びR4は、H,F,Cl,Br,CN,CH3,CF3またはOCH3を表し、互いに異なる。
1及びY2は、−,-COO-,-CH2-,-CH2O-,-C22-,-C2-または-CF2O-を表す。
1及びZ2はF,Cl,Br,OH,NO2,CNまたはCF3を表し、Z3及びZ4はH,F,Cl,Br,OH,NO2,CNまたはCF3を表す。また、Z5及びZ6は、H,F,Cl,Br,OH,NO2,CNまたはCF3を表す。さらに、Z7及びZ8は、H,F,Cl,Br,OH,NO2,CNまたはCF3を表す。但し、Z7及びZ8がいずれもHである場合は除く。
また、n=1〜6の整数であり、*はカイラル中心を表し、−は連結基を意味する。)
【請求項2】
下記一般式(5)に示す構造である液晶分子。
【化5】


(式(5)中、R11は炭素数4〜16の直鎖もしくは分岐鎖のアルコキシ基を表し、R13は、F,Cl,Br,CN,CH3,CF3またはOCH3を表す。
1及びZ2はF,Cl,Br,OH,NO2,CNまたはCF3を表し、Z3及びZ4はH,F,Cl,Br,OH,NO2,CNまたはCF3を表す。また、Z7及びZ8は、H,F,Cl,Br,OH,NO2,CNまたはCF3を表す。但し、Z7及びZ8がいずれもHである場合は除く。
また、n=1〜6の整数、m=1〜5の整数であり、*はカイラル中心を表す。)
【請求項3】
透明な一対の基板と、
該一対の基板の間に設けられ、一軸配列を為すスメクチックA相を呈する請求項1または2に記載の液晶分子が充填された液晶層と、
前記基板に設けられた電極と、を備え、
前記電極から前記液晶層に対して電界を印加して前記液晶分子の長軸を傾け、当該液晶層の透過率を調整する液晶表示素子。
【請求項4】
透明な一対の基板と、
該一対の基板と間に設けられ、一軸配列を為すスメクチックA相を呈する請求項1または2に記載の液晶分子が充填された液晶層と、
前記基板に設けられた電極と、を備え、
前記電極から前記液晶層に対して電界を印加して、当該液晶層を透過する光について空間変調を行う液晶光空間変調素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−83784(P2010−83784A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253312(P2008−253312)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】