説明

液晶化合物、光学異方性膜、位相差板及び偏光板

【課題】高い複屈折率性と逆波長分散の急峻性を両立できる、新規な逆波長分散重合性液晶化合物、及び任意の波長分散にコントロールできる化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物。


(式中、A1及びA2は各々独立に、−O−、−NR−(Rは水素又は置換基)、−S−及び−CO−からなる群から選ばれる基を表す。Zは、第14〜16族の非金属原子からなる群から選択されるの原子を表し、式中のC−C=C−C又はC=C−C=Cと共に5又は6員環を形成する。B、R1は各々独立に置換基を表し、R2は二価の連結基を表す。mは0〜4の整数。L1及びL2は各々独立に二価の連結基を表す。Xは第14〜16族の非金属原子を表す(Xには水素又は置換基R3が結合してもよい。)。なお、重合性基を有する場合、B、R、R1、R及びR3の少なくとも1つが重合性基に置換されている。nは2〜10の整数。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆波長分散性を有する液晶化合物に関する。また、本発明は、当該液晶化合物を固定化してなる光学異方性膜に関する。また、本発明は、広帯域λ/4板のような複屈折の逆波長分散性を有する位相差板に関する。さらに本発明は、当該位相差板を用いた偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
波長板は、従来から各種表示モードのカラーTFT液晶表示装置等において広視野角での高コントラスト比と色シフトとを改善する目的で広く使用されている。この波長板は、変色を防ぐために、位相差の波長分散を制御すること、つまり波長板の特性が波長によらず一定であることが求められ、位相差の波長分散が、短波側の位相差に比べて長波側の位相差が大きい、つまり逆波長分散であることが求められている。
【0003】
逆波長分散重合性液晶化合物を配向膜上に塗布、配向させた後、固定化することで作製したフィルムにより、上記課題を解決する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。加えて、逆波長分散性がより急峻な化合物や、任意の波長分散にコントロールできる化合物や組成物は、位相差板設計において常に求められている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−289980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高い複屈折率性と逆波長分散の急峻性を両立できる、新規な逆波長分散重合性液晶化合物を提供することである。また逆波長分散性の急峻性を生かし、任意の波長分散にコントロールできる化合物や組成物を提供することにある。さらに本発明の目的は、重合膜作成時に厳密な温度コントロールを必要としない、製造工程での負荷の小さい、複屈折の逆波長分散性を有する位相差板を提供することにある。また、上記の新規な化合物を用いた液晶組成物、位相差板、偏光板(特に楕円偏光板)とこれらを用いた液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題は、下記の手段によって解決された。
[1]下記一般式(1)で表される化合物。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、A1及びA2は各々独立に、−O−、−NR−(Rは水素原子または置換基を表す。)、−S−及び−CO−からなる群から選ばれる基を表す。Zは、第14〜16族の非金属原子からなる群から選択される1つ又は2つの原子を表し、式中のC−C=C−C又はC=C−C=Cと共に5又は6員環を形成する。B、R1は各々独立に置換基を表し、R2は二価の連結基を表す。複数のB及びRは同一でも異なっていてもよい。mは0〜4の整数である。L1及びL2は各々独立に二価の連結基を表す。Xは第14〜16族の非金属原子を表す(ただし、Xには水素原子又は置換基R3が結合してもよい。)。なお、重合性基を有する場合、B、R、R1、R及びR3の少なくとも1つが重合性基を有する。nは2〜10の整数である。)
[2]前記一般式(1)で表される化合物が下記一般式(2)で表される[1]項記載の化合物。
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、A1及びA2は各々独立に、−O−、−NR−(Rは水素原子または置換基を表す。)、−S−及び−CO−からなる群から選ばれる基を表す。Zは、第14〜16族の非金属原子からなる群から選択される1つ又は2つの原子を表し、式中の2つの炭素原子と共に5又は6員環を形成する。B、R1は各々独立に置換基を表し、R2は二価の連結基を表す。複数のB及びRは同一でも異なっていてもよい。mは0〜4の整数である。L1及びL2は各々独立に二価の連結基を表す。R4及びR5は各々独立に置換基を表す。なお、重合性基を有する場合、B、R、R1、R、R4、及びR5の少なくとも1つが、重合性基に置換されている。nは2〜10の整数である。)
[3]前記重合性基が付加重合性基であることを特徴とする[1]又は[2]項に記載の化合物。
[4]前記付加重合性基が、下記の一般式P1、P2、P3又はP4のいずれかで表される重合性基であることを特徴とする[3]に記載の化合物。
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、R511、R512、R513、R521、R522、R523、R531、R532、R533、R541、R542、R543、R544及びR545はそれぞれ各々独立に水素原子またはアルキル基を表す。nは0または1を表す。)
[5][1]〜[4]のいずれか1項に記載の化合物を少なくとも一種含有することを特徴とする液晶組成物。
[6][1]〜[4]のいずれか1項に記載の化合物がネマチック相またはスメクチックA相を発現することを特徴とする[5]記載の液晶組成物。
【0013】
[7][5]又は[6]に記載の液晶組成物を用いて形成された光学異方性膜であって、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の化合物を略垂直配向させ、固定化することで形成されたことを特徴とする光学異方性膜。
[8][5]又は[6]に記載の液晶組成物を用いて形成された光学異方性膜であって、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の化合物を略水平配向させ、固定化することで形成されたことを特徴とする光学異方性膜。
[9][7]又は[8]に記載の光学異方性膜と、さらに少なくとも1層の他の光学異方性膜とを含むことを特徴とする光学異方性膜。
[10]前記の他の光学異方性膜が、正のAプレートフィルムであることを特徴とする[9]記載の光学異方性膜。
[11]前記の他の光学異方性膜が、下記数式(I)及び(II)を満足する正のAプレートフィルムであることを特徴とする[10]に記載の光学異方性膜。
数式(I) Re(450nm)/Re(550nm)<1.0
数式(II) Re(650nm)/Re(550nm)>1.0
[式中、Re(450nm)、Re(550nm)、Re(650nm)は450nm、550nm、650nmにおける、レターデーション値を表す。ただし、それぞれの測定波長は、±10nmの誤差を含む。]
【0014】
[12][9]〜[11]のいずれか1項に記載の光学異方性膜からなる位相差板。
[13][9]〜[11]のいずれか1項に記載の光学異方性膜を含む偏光板。
[14][12]記載の位相差板または[13]記載の偏光板を含む液晶表示装置。
【0015】
なお、本発明において「第14〜16族の非金属原子」とは、国際純正及び応用化学連合(IUPAC)の周期律表において第14族、第15族または第16族に属する非金属原子である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い複屈折率と逆波長分散の急峻性を両立できる、新規な逆波長分散重合性液晶化合物を提供できる。また逆波長分散性の急峻性を生かし、任意の波長分散にコントロールできる化合物や、この化合物を含んでなる液晶性組成物を提供できる。これらを用いて作製した位相差板は、重合膜作成時に厳密な温度コントロールを必要としないため、製造工程での負荷を小さくできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。以下の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0018】
[逆波長分散性を有する化合物(一般式(1)又は(2)で表される化合物)]
本発明の化合物は、逆波長分散性を有し、下記一般式(1)で表される化合物である。このうち、下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。
【0019】
【化4】

【0020】
(式中、A1及びA2は各々独立に、−O−、−NR−(Rは水素原子または置換基を表す。)、−S−及び−CO−からなる群から選ばれる基を表す。Zは、第14〜16族の非金属原子からなる群から選択される1つ又は2つの原子を表し、式中のC−C=C−C又はC=C−C=Cと共に5又は6員環を形成する。B、R1は各々独立に置換基を表し、R2は二価の連結基を表す。複数のB及びRは同一でも異なっていてもよい。mは0〜4の整数である。L1及びL2は各々独立に二価の連結基を表す。Xは第14〜16族の非金属原子を表す(ただし、Xには水素原子又は置換基R3が結合してもよい。)。なお、重合性基を有する場合、B、R、R1、R及びR3の少なくとも1つが重合性基に置換される。nは2〜10の整数である。)
【0021】
【化5】

【0022】
(式中、A1及びA2は各々独立に、−O−、−NR−(Rは水素原子または置換基を表す。)、−S−及び−CO−からなる群から選ばれる基を表す。Zは、第14〜16族の非金属原子からなる群から選択される1つ又は2つの原子を表し、式中の2つの炭素原子と共に5又は6員環を形成する。B、R1は各々独立に置換基を表し、R2は二価の連結基を表す。複数のB及びRは同一でも異なっていてもよい。mは0〜4の整数である。L1及びL2は各々独立に二価の連結基を表す。R4及びR5は各々独立に置換基を表す。なお、重合性基を有する場合、B、R、R1、R、R4、及びR5の少なくとも1つが、重合性基に置換される。nは2〜10の整数である。)
【0023】
前記一般式(1)又は(2)において、L1及びL2が表す二価の連結基としては、特に限定されるものではないが、好ましくは下記の例が挙げられる。Rは水素原子または置換基を示す。なお、結合位置に関して、前記のZとC−C=C−C又はC=C−C=Cとによって形成される5〜6員環との結合位置が下記に例示した連結基の左側にあるものとする。
【0024】
【化6】

【0025】
1及びL2は、さらに好ましくは−O−、−COO−、−OCO−である。
【0026】
前記一般式(1)又は(2)において、R2が表す二価の連結基としては、特に限定されるものではないが、好ましくは下記の例が挙げられる。複数のRは、互いに同一でも、異なっていてもよい。点線はL1又はL2と結合することを表す。
【化7】

【0027】
前記一般式(1)又は(2)において、Zは、炭素原子および第14〜16族の非金属原子からなる群から選択される1つ又は2つの原子を表し、式中記載のC−C=C−C又はC=C−C=Cと共に5又は6員環を形成する。ZとC−C=C−C又はC=C−C=Cとによって形成される5〜6員環としては、特に限定されるものではないが、下記の例が好適に挙げられる。なお、下記の例において、点線はL1又はL2と結合することを表す。
【0028】
【化8】

【0029】
ZとC−C=C−C又はC=C−C=Cとによって形成される環は、6員環であることが好ましい。6員環とすることにより、より配向秩序度が高く配向させることが可能となる。また、同様の理由により、芳香環であることも好ましく、より好ましくは芳香環かつ6員環である。
これらの観点および合成上の観点から、ZとC−C=C−C又はC=C−C=Cとによって形成される環は、チオフェン環、ベンゼン環、ピリジン環が好ましく、ベンゼン環が最も好ましい。
【0030】
一般式(1)又は(2)において、R1は置換基であり、複数存在する場合は同じでも異なっていてもよく、環を形成しても良い。置換基の例として下記のものが挙げられる。
【0031】
ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(好ましくは炭素数1〜30の直鎖、分岐の置換もしくは無置換のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基)、シクロアルキル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換または無置換のシクロアルキル基、例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4−n−ドデシルシクロヘキシル基)、ビシクロアルキル基(好ましくは、炭素数5〜30の置換または無置換のビシクロアルキル基、つまり、炭素数5〜30のビシクロアルカンから水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[1,2,2]ヘプタン−2−イル基、ビシクロ[2,2,2]オクタン−3−イル基)、
【0032】
アルケニル基(好ましくは炭素数2〜30の置換または無置換のアルケニル基、例えば、ビニル基、アリル基)、シクロアルケニル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換または無置換のシクロアルケニル基、つまり、炭素数3〜30のシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル基)、ビシクロアルケニル基(置換または無置換のビシクロアルケニル基、好ましくは、炭素数5〜30の置換または無置換のビシクロアルケニル基、つまり二重結合を一個持つビシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−1−イル基、ビシクロ[2,2,2]オクト−2−エン−4−イル基)、アルキニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のアルキニル基、例えば、エチニル基、プロパルギル基)、
【0033】
アリール基(好ましくは炭素数6〜30の置換または無置換のアリール基、例えばフェニル基、p−トリル基、ナフチル基)、ヘテロ環基(好ましくは5又は6員の置換または無置換の、芳香族または非芳香族のヘテロ環化合物から一個の水素原子を取り除いた一価の基であり、さらに好ましくは、炭素数3〜30の5又は6員の芳香族のヘテロ環基である。例えば、2−フリル基、2−チエニル基、2−ピリミジニル基、2−ベンゾチアゾリル基)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルコキシ基、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、n−オクチルオキシ基、2−メトキシエトキシ基)、アリールオキシ基(好ましくは、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−ニトロフェノキシ基、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ基)、
【0034】
シリルオキシ基(好ましくは、炭素数3〜20のシリルオキシ基、例えば、トリメチルシリルオキシ基、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のヘテロ環オキシ基、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ基、2−テトラヒドロピラニルオキシ基)、アシルオキシ基(好ましくはホルミルオキシ基、炭素数2〜30の置換または無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールカルボニルオキシ基、例えば、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基)、カルバモイルオキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のカルバモイルオキシ基、例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ基、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ基、モルホリノカルボニルオキシ基、N,N−ジ−n−オクチルアミノカルボニルオキシ基、N−n−オクチルカルバモイルオキシ基)、アルコキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換アルコキシカルボニルオキシ基、例えばメトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、tert−ブトキシカルボニルオキシ基、n−オクチルカルボニルオキシ基)、アリールオキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換または無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基、例えば、フェノキシカルボニルオキシ基、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ基、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ基)、
【0035】
アミノ基(好ましくは、アミノ基、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルアミノ基、炭素数6〜30の置換または無置換のアニリノ基、例えば、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N−メチル−アニリノ基、ジフェニルアミノ基)、アシルアミノ基(好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールカルボニルアミノ基、例えば、ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基)、アミノカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアミノカルボニルアミノ基、例えば、カルバモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ基、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ基、モルホリノカルボニルアミノ基)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30の置換または無置換アルコキシカルボニルアミノ基、例えば、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ基、N−メチル−メトキシカルボニルアミノ基)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換または無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基、例えば、フェノキシカルボニルアミノ基、p−クロロフェノキシカルボニルアミノ基、m−n−オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノ基)、
【0036】
スルファモイルアミノ基(好ましくは、炭素数0〜30の置換または無置換のスルファモイルアミノ基、例えば、スルファモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ基、N−n−オクチルアミノスルホニルアミノ基)、アルキル又はアリールスルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルスルホニルアミノ基、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールスルホニルアミノ基、例えば、メチルスルホニルアミノ基、ブチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ基、p−メチルフェニルスルホニルアミノ基)、メルカプト基、アルキルチオ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルチオ基、例えばメチルチオ基、エチルチオ基、n−ヘキサデシルチオ基)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30の置換または無置換のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ基、p−クロロフェニルチオ基、m−メトキシフェニルチオ基)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数2〜30の置換または無置換のヘテロ環チオ基、例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ基、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ基)、
【0037】
スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜30の置換または無置換のスルファモイル基、例えば、N−エチルスルファモイル基、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−アセチルスルファモイル基、N−ベンゾイルスルファモイル基、N−(N’−フェニルカルバモイル)スルファモイル基)、スルホ基、アルキル又はアリールスルフィニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルスルフィニル基、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールスルフィニル基、例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、p−メチルフェニルスルフィニル基)、アルキル又はアリールスルホニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルスルホニル基、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールスルホニル基、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、フェニルスルホニル基、p−メチルフェニルスルホニル基)、
【0038】
アシル基(好ましくはホルミル基、炭素数2〜30の置換または無置換のアルキルカルボニル基、炭素数7〜30の置換または無置換のアリールカルボニル基、例えば、アセチル基、ピバロイルベンゾイル基)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは、炭素数7〜30の置換または無置換のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル基、o−クロロフェノキシカルボニル基、m−ニトロフェノキシカルボニル基、p−tert−ブチルフェノキシカルボニル基)、アルコキシカルボニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換アルコキシカルボニル基、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、n−オクタデシルオキシカルボニル基)、カルバモイル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のカルバモイル基、例えば、カルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル基、N−(メチルスルホニル)カルバモイル基)、
【0039】
アリール又はヘテロ環アゾ基(好ましくは炭素数6〜30の置換または無置換のアリールアゾ基、炭素数3〜30の置換または無置換のヘテロ環アゾ基、例えば、フェニルアゾ基、p−クロロフェニルアゾ基、5−エチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−2−イルアゾ基)、イミド基(好ましくは、N−スクシンイミド基、N−フタルイミド基)、ホスフィノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のホスフィノ基、例えば、ジメチルホスフィノ基、ジフェニルホスフィノ基、メチルフェノキシホスフィノ基)、ホスフィニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のホスフィニル基、例えば、ホスフィニル基、ジオクチルオキシホスフィニル基、ジエトキシホスフィニル基)、ホスフィニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のホスフィニルオキシ基、例えば、ジフェノキシホスフィニルオキシ基、ジオクチルオキシホスフィニルオキシ基)、ホスフィニルアミノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のホスフィニルアミノ基、例えば、ジメトキシホスフィニルアミノ基、ジメチルアミノホスフィニルアミノ基)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換または無置換のシリル基、例えば、トリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、フェニルジメチルシリル基)
【0040】
上記の置換基の中で水素原子を有するものは、これを取り去りさらに上記の基で置換されていてもよい。そのような官能基の例としては、アルキルカルボニルアミノスルホニル基、アリールカルボニルアミノスルホニル基、アルキルスルホニルアミノカルボニル基、アリールスルホニルアミノカルボニル基が挙げられる。その具体例としては、メチルスルホニルアミノカルボニル基、p−メチルフェニルスルホニルアミノカルボニル基、アセチルアミノスルホニル基、ベンゾイルアミノスルホニル基が挙げられる。
【0041】
1は好ましくは、ハロゲン原子、アルキル基(炭素数が好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜6)、アルケニル基(炭素数が好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜6)、アリール基(炭素数が好ましくは4〜18、さらに好ましくは6〜12)、ヘテロ環基(炭素数が好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜5)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基(炭素数が好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜6)、アリールオキシ基(炭素数が好ましくは6〜18、さらに好ましくは6〜12)、アシルオキシ基(炭素数が好ましくは1〜20、さらに好ましくは1〜10)、シアノ基またはアミノ基であり、さらに好ましくはハロゲン原子、アルキル基、シアノ基またはアルコキシ基である。
【0042】
1が複数存在し、互いに環を形成する場合、その環は5〜8員環が好ましく、5又は6員環がさらに好ましい。もっとも好ましくは6員環である。
【0043】
前記一般式(1)又は(2)において、mはR1の置換数を表し、ZとC−C=C−C又はC=C−C=Cとによって形成される環の構造によって取り得る数は変化する。mは0が最小であり、Zが二つの炭素原子を表し、かつ、ZとC−C=C−C又はC=C−C=Cとによって形成される環が芳香族性を有しない場合に最大4である。mは好ましくは0又は1であり、より好ましくは0である。
【0044】
前記一般式(1)又は(2)において、Bは各々独立に置換基を表す。例としては上記R1の例が挙げられ、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基である。また、これらにL若しくはLを介して、請求項4に記載の重合性基と連結しても良い。Bは前記一般式(1)又は(2)で表される化合物における、分子の長手方向となる。
【0045】
また、前記一般式(1)又は(2)で表される化合物は液晶性を示すことが好ましい。液晶性を発現させるための要素としては、「液晶便覧」(丸善)第3章「分子構造と液晶性」に記載されているように、コアと呼ばれる剛直部と側鎖と呼ばれる柔軟部が必要である。そのため、Bの置換基として、少なくとも1つの剛直部、つまり環状部分が存在することが好ましい。Bは、好ましくは置換もしくは無置換のフェニル基、置換もしくは無置換のシクロヘキシル基である。好ましくは置換基を有するフェニル基、置換基を有するシクロヘキシル基であり、より好ましくは4位に置換基を有するフェニル基、4位に置換基を有するシクロヘキシル基である。さらに好ましくは4位に置換基を有するベンゾイルオキシ基を4位に有するフェニル基、4位に置換基を有するシクロヘキシル基を4位に有するフェニル基、4位に置換基を有するフェニル基を4位に有するシクロヘキシル基、4位に置換基を有するシクロヘキシル基を4位に有するシクロへキシル基である。
【0046】
また、4位に置換基を有するシクロヘキシル基にはシス体およびトランス体の立体異性体が存在するが、本発明においては限定されず、両者の混合物でも良い。好ましくはトランス−シクロヘキシル基である。
【0047】
一般式(1)においてnは2〜10の整数であり、好ましくは2〜5である。
【0048】
前記一般式(1)又は(2)において、A1及びA2は各々独立に、−O−、−NR−(Rは水素原子または置換基)、−S−及び−CO−からなる群から選ばれる基を表す。好ましくは−O−、−NR−(Rは置換基を表し、例としては上記R1の例が挙げられ、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基である。また、これらにL若しくはLを介して、重合性基と連結しても良い。)または−S−である。
【0049】
前記一般式(1)において、Xは第14〜16族の非金属原子を表す。ただし、Xには水素原子又は置換基が結合してもよい。Xとしては=O、=S、=NR、=C(R)Rが好ましい(ここでR、R4、R5は各々独立に置換基を表し、例としては上記R1の例が挙げられる。)。
【0050】
前記一般式(2)において、R及びRは各々独立に置換基を表す。例としては上記R1の例があげられる。好ましくは、R及びRのうち少なくとも1つがハメットの置換基定数σp値が0より大きい電子吸引性の置換基であることが好ましく、σp値が0〜1.5の電子吸引性の置換基を有していることがさらに好ましい。このような置換基としてはトリフルオロメチル基、シアノ基、カルボニル基、ニトロ基等が挙げられる。また、RとRとが結合して環を形成してもよい。
なお、ハメットの置換基定数のσp、σmに関しては、例えば、稲本直樹著「ハメット則−構造と反応性−」(丸善)、日本化学会編「新実験化学講座14 有機化合物の合成と反応V」2605頁(丸善)、仲谷忠雄著「理論有機化学解説」217頁(東京化学同人)、「ケミカル レビュー」,91巻,165〜195頁(1991年)等の文献に詳しく解説されている。
【0051】
本発明の液晶化合物は重合性基を有することが好ましい。これにより、位相差板などに用いた場合に熱などによる位相差の変化を防ぐことができる。重合性基は、化合物の分子の末端に有することが好ましい。
前記一般式(1)においてB、R、R1、R2及びR3の少なくとも1つ、一般式(2)においてB、R、R1、R2、R3、R及びRの少なくとも1つには重合性基が置換していることが好ましい。好ましくは1つ〜6つであり、さらに好ましくは1つ〜4つ、最も好ましくは1つ〜3つ置換している。また、重合性基が好ましく置換する置換基は、Bである。
【0052】
B、R、R1、R2及びR3、またはB、R、R1、R2、R3、R及びRの少なくとも1つに置換している重合性基とは、付加重合反応または縮合重合反応が可能な基が好ましい。そのような重合性基としては、重合性エチレン性不飽和基または開環重合性基が好ましい。以下に重合性基の例を示す。
【0053】
【化9】

【0054】
さらに、重合性基は付加重合反応が可能な官能基であることが特に好ましい。そのような重合性基としては、重合性エチレン性不飽和基または開環重合性基が好ましい。
重合性基は、下記の一般式P1、P2、P3またはP4のいずれかで表される基であることが好ましい。
【0055】
【化10】

【0056】
(式中、R511、R512、R513、R521、R522、R523、R531、R532、R533、R541、R542、R543、R544及びR545はそれぞれ各々独立に水素原子またはアルキル基を表す。nは0または1を表す。)
【0057】
重合性基P1のR511、R512、R513は各々独立に水素原子またはアルキル基を表す。
重合性基P1が置換して成るアルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルオキシ基残基は、アルキレンオキシ基(例えばエチレンオキシ、プロピレンオキシ、ブチレンオキシ、ペンチレンオキシ、ヘキシレンオキシ、ヘプチレンオキシなどのアルキレンオキシ基、またエチレンオキシエトキシなどのエーテル結合を含む置換アルキレンオキシ基)、アルキレンオキシカルボニルオキシ基(例えばエチレンオキシカルボニルオキシ、プロピレンオキシカルボニルオキシ、ブチレンオキシカルボニルオキシ、ペンチレンオキシカルボニルオキシ、ヘキシレンオキシカルボニルオキシ、ヘプチレンオキシカルボニルオキシなどのアルキレンオキシカルボニルオキシ基、またエチレンオキシエトキシカルボニルオキシなどのエーテル結合を含む置換アルキレンオキシカルボニルオキシ基)、アルキレンオキシカルボニル基(例えばエチレンオキシカルボニル基、プロピレンオキシカルボニル基、ブチレンオキシカルボニル基、ペンチレンオキシカルボニル基、ヘキシレンオキシカルボニル基、ヘプチレンオキシカルボニル基などのアルキレンオキシカルボニル基、またはエチレンオキシエトキシカルボニル基などのエーテル結合を含む置換アルキレンオキシカルボニル基)を表す。重合性基P1が直接芳香環に結合してもよい。
【0058】
は0〜1の整数を表し、nが1であることが好ましく、nが1の時は、重合性基P1は置換又は無置換のビニルエーテル基を表す。R511及びR513は、各々独立に水素原子、アルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニルが挙げられ、メチル、エチルなどの低級アルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい。)を表し、R511がメチル基でR513が水素原子、またはR511及びR513が共に水素原子の組み合わせが好ましい。
【0059】
512は水素原子、置換または無置換のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、2−クロロエチル、3−メトキシエチル、メトキシエトキシエチルが挙げられ、メチル、エチルなどの低級アルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい。)を表し、水素原子、低級アルキル基が好ましく、さらに水素原子が好ましい。従って、重合性基P1としては、一般には重合活性の高い官能基である無置換のビニルオキシ基が好ましく用いられる。
【0060】
重合性基P2は置換または無置換のオキシラン基を表す。R521及びR522は、各々独立に水素原子、アルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニルが挙げられ、メチル、エチルなどの低級アルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい。)を表し、R521及びR522が共に水素原子が好ましい。
【0061】
523は水素原子、置換または無置換のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、2−クロロエチル、3−メトキシエチル、メトキシエトキシエチルが挙げられ、メチル、エチルなどの低級アルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい。)を表し、水素原子またはメチル、エチル、n−プロピルなどの低級アルキル基が好ましい。
【0062】
重合性基P3は置換または無置換のアクリル基を表す。置換基R531及びR533は、各々独立に水素原子、アルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニルが挙げられ、メチル、エチルなどの低級アルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい。)を表し、R531がメチルでR533が水素原子、またはR531及びR533が共に水素原子の組み合わせが好ましい。
【0063】
532は水素原子、置換または無置換のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、2−クロロエチル、3−メトキシエチル、メトキシエトキシエチルが挙げられ、メチル、エチルなどの低級アルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい。)を表し、水素原子が好ましい。従って、重合性基P3としては、一般には無置換のアクリルオキシ基、メタクリルオキシ基、クロトニルオキシなどの重合活性の高い官能基が好ましく用いられる。
【0064】
重合性基P4は置換または無置換のオキセタン基を表す。R542、R543、R544及びR545は各々独立に水素原子、アルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニルが挙げられ、メチル、エチルなどの低級アルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい。)を表し、R542、R543、R544及びR545が共に水素原子が好ましい。
【0065】
541は水素原子、置換または無置換のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、2−クロロエチル、3−メトキシエチル、メトキシエトキシエチルが挙げられ、メチル、エチルなどの低級アルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい。)を表し、水素原子またはメチル、エチル、n−プロピルなどの低級アルキル基が好ましい。
【0066】
以下に、前記一般式(1)又は(2)で表される化合物の具体例を示すが、本発明は以下の具体例によって何ら限定されることはない。下記化合物に関しては、指定のない限り括弧( )内の数字にて例示化合物(X)と示す。式中、nは2〜10の整数である。
【0067】
【化11】

【0068】
【化12】

【0069】
【化13】

【0070】
【化14】

【0071】
【化15】

【0072】
前記一般式(1)又は(2)で表される化合物の合成は、既知の方法を参照して行うことができる。例えば、例示化合物(2)は、下記スキームに従って合成することができる。
【0073】
【化16】

【0074】
本発明の液晶化合物は、正または負の複屈折性のどちらの複屈折性を有していても良いが、正の複屈折性を有することが好ましい。
正の複屈折性を有する液晶相としては、詳しくは「液晶便覧」(丸善(株)、2000年)第2章などに記載されており、例えば、ネマチック相、コレステリック相、スメクチック相(例えば、スメクチックA相、スメクチックC相)を挙げることができる。
【0075】
本発明の液晶化合物を光学異方性層に用いる場合には、均一な欠陥のない配向のために、良好なモノドメイン性を示すものが好ましい。モノドメイン性が悪い場合には、得られる構造がポリドメインとなり、ドメイン同士の境界に配向欠陥が生じ、光を散乱するようになる。これは、光学異方性層の透過率低下にもつながるので好ましくない。良好なモノドメイン性を示すために、本発明の液晶化合物は、ネマチック相(N相)もしくはスメクチックA相(SA相)を発現することが好ましい。特にネマチック相を発現することが好ましい。
【0076】
液晶化合物は、低分子液晶化合物でもよいし、高分子液晶化合物でもよいが、液晶の配向のしやすさを考慮すると、低分子液晶化合物の方が好ましい。
【0077】
(逆波長分散性を有するフィルムの作製)
本発明の前記一般式(1)又は(2)で表される重合性液晶化合物を配向膜上に塗布、配向させた後、固定化することで、逆波長分散性を有するフィルム(光学異方性膜)を作製することができる。例えば、配向膜上に本発明の液晶化合物を略水平配向させた場合(いわゆるAプレート)は、配向方向(以下、TD方向と示す)とそれに直交する方向(以下、MD方向と示す)との位相差Re(550nm)が正であり、かつ特定波長における位相差Reが以下の数式(I)及び(II)を満たすことが好ましく、数式(III)及び(IV)を満たすことがさらに好ましい。式中、Re(450nm)、Re(550nm)、Re(650nm)は450nm、550nm、650nmにおける、レターデーション値を表す。ただし、それぞれの測定波長は、±10nmの誤差を含む。
【0078】
数式(I) Re(450nm)/Re(550nm)<1.0
数式(II) Re(650nm)/Re(550nm)>1.0
【0079】
数式(III) 0.5<Re(450nm)/Re(550nm)<1.0
数式(IV) 1.05<Re(650nm)/Re(550nm)<1.5
【0080】
上記数式(I)及び(II)を満たすフィルムを作製するためには、フィルムとして、TD方向とMD方向における吸収波長と遷移モーメントの方向を上手く配置する必要がある。ここで、青(450nm)、緑(550nm)、赤(650nm)であり、視野角特性向上のためにはそれぞれの波長における最適レターデーションに合わせる必要がある。本発明では、最も重要な緑(550nm)に対して正の複屈折性を与えた場合の好適な青(450nm)、赤(650nm)の範囲が前記の数式(I)及び(II)の範囲となる。
【0081】
ReはTD方向とMD方向の位相差つまり、TD方向の屈折率からMD方向の屈折率を差し引いた値(Δn)の比例関係であるため、TD方向の屈折率の波長分散性よりも、MD方向の波長分散性が、より右肩下がり(左を短波長側、右を長波長側とおいたときのΔnの傾き)であれば、その差し引いた値は、以下の数式(V)及び(VI)を満たす。
【0082】
数式(V) 1>|Δn(450nm)/Δn(550nm)|
数式(VI) 1<|Δn(650nm)/Δn(550nm)|
【0083】
屈折率の波長分散性は、Lorentz−Lorenzの式で表されているように、物質の吸収に密接な関係にあるため、MD方向の波長分散性をより右肩下がりにするためには、TD方向に比較してMD方向の吸収遷移波長をより長波化できれば、数式(I)及び(II)を満たすフィルムを設計することができる。例えば延伸処理を行ったポリマー材料では、MD方向は分子の鎖に直交方向である。そのような高分子幅方向の吸収遷移波長を長波化することは高分子材料としては非常に困難である。
【0084】
前述のように、本発明の液晶化合物を配向させた後、固定化する方法にて、ポリマー材料を用いた場合に非常に困難なフィルム、すなわち、
1)フィルム面内方向に位相差が正であり、その分散が逆波長分散であるフィルム、
2)フィルム厚み方向に位相差が負であり、その分散が逆波長分散であるフィルム、又は
3)フィルム厚み方向に位相差が正であり、その分散が逆波長分散であるフィルム
を作製することができる。
【0085】
また、上記の光学異方性膜は、逆波長分散の急峻性が高いことを特徴とする。(Δn(450nm)/Δn(550nm))の値が0.5〜0.8であることが好ましく、0.5〜0.7であることがより好ましい。急峻な逆波長分散性を有することにより、高性能の光学機器を提供することができる。
【0086】
[液晶組成物]
本発明の液晶組成物は、本発明の前記一般式(1)又は(2)で表される重合性液晶化合物の他に、任意の添加剤を併用することができる。添加剤の例としては、前記一般式(1)又は(2)で表される化合物以外の液晶化合物や、後述する空気界面配向制御剤、ハジキ防止剤、重合開始剤、重合性モノマー等が挙げられる。
【0087】
(液晶化合物)
本発明の液晶組成物は、前記一般式(1)又は(2)で表される化合物を含む。本発明の液晶性組成物を位相差板に用いる場合には、均一な欠陥のない配向のために、良好なモノドメイン性を示すものが好ましい。モノドメイン性が悪い場合には、得られる構造がポリドメインとなり、ドメイン同士の境界に配向欠陥が生じ、光を散乱するようになる。これは、位相差板の透過率低下にもつながるので好ましくない。良好なモノドメイン性を示すために、本発明の液晶性組成物は、ネマチック相(N相)を発現することが好ましい。
【0088】
また、本発明の液晶組成物を位相差板に用いる場合に、その液晶温度範囲は、位相差板の製造適性等の面から10〜250℃の範囲内に存在することが好ましく、10〜150℃の範囲内に存在することがより好ましい。10℃未満であると液晶相を呈する温度範囲にまで温度を下げるために冷却工程等が必要となることがある。また200℃を超えると一旦液晶相を呈する温度範囲よりもさらに高温の等方性液体状態にするために高温を要し熱エネルギーの浪費、基板の変形、変質等からも不利になる。
【0089】
本発明の液晶組成物において、液晶化合物を単独又は複数使用してもよい。例えば、重合性の液晶化合物と非重合性の液晶化合物との併用が可能である。また、低分子液晶化合物と高分子液晶化合物との併用も可能である。更に、下記数式(VII)を満たす液晶化合物2種を混合しても良い。
数式(VII) Δn(450nm)/Δn(550nm)<1.0
【0090】
前記一般式(1)又は(2)で表される化合物以外の液晶化合物としては、例えば、特開2005−289980号公報等に記載された液晶化合物を用いることができる。
【0091】
本発明の上記数式(VII)を満たす液晶化合物は、Δnの波長分散が正常分散である液晶化合物と混合しても良い。ここで、波長分散が正常分散であるとは、下記数式(VIII)を満たすことを意味する。
数式(VIII) Δn(450nm)/Δn(550nm)>1.0
【0092】
本発明の上記数式(VII)を満たす液晶化合物とΔnの波長分散が正常分散である液晶化合物とを混合することで、その中間の波長分散性を有する液晶組成物を作り出すことが可能となる。具体的には、これまでの液晶化合物では、数式(IX)の実現が非常に困難な領域であった。ところが、本発明の上記数式(VII)を満たす液晶化合物とΔnの波長分散が正常分散である液晶化合物と混合すれば、容易に数式(IX)で表される領域の波長分散性を有する液晶組成物を作製できる。
数式(IX) 1.0≦Δn(450nm)/Δn(550nm)<1.1
【0093】
本発明の上記数式(VII)を満たす液晶化合物は液晶性を示すため、Δnの波長分散が正常分散である液晶化合物とは、いかなる混合比においても混合できる可能性が高い。従って、目標の波長分散性に応じて、その混合比率を変化させればよい。
【0094】
本発明の液晶組成物における前記一般式(1)又は(2)で表される液晶化合物の含有量は、その組成物が液晶性を示す限り制限はされないが、液晶組成物中、40〜100質量%が好ましく、50〜90質量%がより好ましい。
【0095】
(空気界面配向制御剤)
液晶化合物は、化合物の種類により空気界面でのチルト角(傾斜角)が異なることが知られている。この空気界面のチルト角は、位相差板の光学的な目的に応じて任意に制御する必要がある。このチルト角の制御には、例えば、電場や磁場のような外場を用いることや添加剤を用いることができるが、添加剤を用いることが好ましい。このような添加剤としては、炭素原子数が6〜40の置換または無置換脂肪族基、あるいは炭素原子数が6〜40の置換または無置換脂肪族置換オリゴシロキサノキシ基を、分子内に1本以上有する化合物が好ましく、分子内に2本以上有する化合物が更に好ましい。例えば、空気界面配向制御剤としては、特開平11−352328号公報や特開2002−20363号公報、に記載のものを用いることができる。また、特開2002−129162号公報に記載されている化合物を用いることができる。特開2004−53981号公報の段落番号[0072]〜[0075]に記載される事項も本発明に適宜適用することができる。また、これらの化合物を配合することによって塗布性が改善され、ムラまたはハジキの発生が抑制される。垂直配向剤として、特開2006−106662号公報に記載のものと併用しても良い。
【0096】
空気界面側の配向制御用添加剤の含有量としては、液晶性組成物に対して、0.001質量%〜20質量%が好ましく、0.01質量%〜10質量%が更に好ましく、0.1質量%〜5質量%が最も好ましい。
【0097】
(ハジキ防止剤)
液晶化合物とともに使用して、液晶組成物の塗布時のハジキを防止するための材料としては、一般にポリマーを好適に用いることができる。使用するポリマーとしては、液晶化合物の傾斜角変化や配向を著しく阻害しない限り、特に制限はない。ポリマーの例としては、特開平8−95030号公報に記載があり、特に好ましいポリマーの具体例としてはセルロースエステル類を挙げることができる。セルロースエステルの例としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、ヒドロキシプロピルセルロースおよびセルロースアセテートブチレートを挙げることができる。
液晶の配向を阻害しないようにハジキ防止目的で使用されるポリマーの含有量は、液晶化合物に対して一般に0.1〜10質量%の範囲にあることが好ましく、0.1〜8質量%の範囲にあることがより好ましく、0.1〜5質量%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0098】
(重合性モノマー)
液晶組成物は、重合性のモノマーを含有してもよい。液晶化合物とともに使用する重合性モノマーとしては、液晶化合物と相溶性を有し、液晶化合物の傾斜角変化や配向阻害を著しく引き起こさない限り、特に限定はない。これらの中では重合活性なエチレン性不飽和基、例えばビニル基、ビニルオキシ基、アクリロイル基およびメタクリロイル基などを有する化合物が好ましく用いられる。
上記重合性モノマーの含有量は、液晶化合物に対して一般に0.5〜50質量%の範囲にあり、1〜30質量%の範囲にあることが好ましい。また反応性官能基数が2以上のモノマーを用いると、配向膜と光学異方性層間の密着性を高める効果が期待できるため、特に好ましい。
【0099】
(重合開始剤)
本発明では、液晶化合物はモノドメイン配向、つまり実質的に均一に配向している状態で固定されていることが好ましい。したがって、本発明の重合性液晶化合物は、重合反応によってモノドメイン配向で固定されることが好ましい。
【0100】
重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応と電子線照射による重合反応が含まれるが、熱により支持体等が変形、変質するのを防ぐためにも、光重合反応と電子線照射による重合反応が好ましい。
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許4239850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号明細書記載)等が挙げられる。
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがさらに好ましい。
液晶化合物の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーは、10〜50J/cm2であることが好ましく、50〜800mJ/cm2であることがさらに好ましい。光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
また、雰囲気の酸素濃度は重合度に関与するため、空気中で所望の重合度に達しない場合には、窒素置換等の方法により酸素濃度を低下させることが好ましい。好ましい酸素濃度としては、10%以下が好ましく、7%以下がさらに好ましく、3%以下が最も好ましい。
【0101】
(カイラル剤)
本発明において、液晶組成物に少なくとも1種のカイラル剤を含有させることで、コレステリック相を発現させることができる。本発明に用いられるカイラル剤は、公知のカイラル剤(例えば、日本学術振興会第142委員会編「液晶デバイスハンドブック」,第3章4−3項,TN、STN用カイラル剤,199頁,1989年に記載)を用いることができる。
カイラル剤は、一般に不斉炭素原子を含むが、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物あるいは面性不斉化合物もカイラル剤として用いることができる。軸性不斉化合物又は面性不斉化合物の例には、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファンおよびこれらの誘導体が挙げられる。また、カイラル剤は、液晶性を有していてもよく、更に本発明の液晶化合物がカイラル剤を兼ねていてもよい。
カイラル剤の使用量は、液晶化合物の量の0.001〜200モル%であることが好ましい。カイラル剤の使用量は、より少なくした方が液晶性に影響を及ぼさないことが多いため好まれる。従って、カイラル剤は、ねじり力の強い方が好ましい。このような捻れ力の強いカイラル剤としては、例えば、特開2003−287623公報に記載のカイラル剤を用いることが可能である。
【0102】
(塗布溶剤)
液晶組成物の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、トルエン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライド、エステルおよびケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0103】
[位相差板]
本発明の位相差板は、透明支持体上に、配向膜と、上記一般式(1)又は(2)で表される化合物を含む少なくとも一層の光学異方性層(光学異方性膜)とを有する。本発明の位相差板は、上記一般式(1)又は(2)で表される化合物を含む液晶組成物をその液晶状態における配向形態を損なうことなく固定化するために、一度液晶相形成温度まで加熱し、次にその配向状態を維持したまま冷却することにより光学異方性層を形成することで得ることができる。あるいは、重合性基を有する液晶化合物に重合開始剤を添加した液晶組成物を液晶相形成温度まで加熱した後、重合させ冷却することによって得ることができる。ここで、本発明でいう「固定化した」という状態は、光学異方性層に含まれる液晶化合物の配向が保持された状態が最も典型的、且つ好ましい態様ではあるが、それだけには限定されず、具体的には、通常0℃〜50℃、より過酷な条件下では−30℃〜70℃の温度範囲において、該光学異方性層に流動性が無く、また外場や外力によって配向形態に変化を生じさせることなく、固定化された配向形態を安定に保ち続けることができる状態を指すものである。
【0104】
なお、本発明の位相差板においては、光学異方性層が最終的に形成された際に、その光学異方性が保持されていれば液晶化合物はもはや液晶性である必要はない。例えば、低分子の二軸性液晶化合物が熱、光等で反応する基を有しており、結果的に熱、光等で反応により重合または架橋し、高分子量化して、液晶性を失ってもよい。
【0105】
(光学異方性層)
光学異方性層は、上記溶媒を用いて調製した液晶組成物の塗布液を、配向膜上に塗布し、液晶化合物を配向処理することで形成する。塗布液の塗布は、公知の方法(例えば、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。
液晶組成物から形成される光学的異方性層の厚さは、0.1〜20μmであることが好ましく、0.2〜15μmであることがさらに好ましく、0.3〜10μmであることが最も好ましい。
【0106】
(液晶化合物の配向処理)
液晶化合物の配向に関しては、液晶便覧(丸善(株)、平成12年10月30日発行)第2章「液晶の配列と物性」に記載されている。
本発明における配向状態を固定化する方法としては、液晶性組成物を一度液晶相形成温度まで加熱し、次にその配向状態を維持したまま冷却することにより、その液晶状態における配向形態を損なうことなく固定化することで形成できる。また、本発明の液晶性組成物に重合開始剤を添加した組成物を液晶相形成温度まで加熱した後、重合させ冷却することによって液晶状態の配向状態を固定化することで形成できる。本発明における配向状態の固定化は、後者の重合反応により行うことが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応と電子線照射による重合反応が含まれるが、熱により支持体等が変形、変質するのを防ぐためにも、光重合反応または電子線照射による重合反応が好ましい。
【0107】
(配向膜)
配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例、ω−トリコサン酸、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で、設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。配向膜上に設けられる光学異方性層の液晶化合物に所望の配向を付与できるのであれば、配向膜としてはどのような層でもよいが、本発明においては、ラビング処理または光照射により形成される配向膜が好ましい。特にポリマーのラビング処理により形成する配向膜が好ましい。ラビング処理は、一般にはポリマー層の表面を、紙や布で一定方向に数回擦ることにより実施することができるが、特に本発明では「液晶便覧」(丸善(株)、2000年)に記載されている方法により行うことが好ましい。配向膜の厚さは、0.01〜10μmであることが好ましく、0.05〜3μmであることがさらに好ましい。
【0108】
配向膜に用いられるポリマーは、多数の文献に記載があり、多数の市販品を入手することができる。本発明の位相差板に用いられる配向膜は、ポリビニルアルコール及びその誘導体が好ましく用いられる。特に、疎水性基が結合している変性ポリビニルアルコールが好ましい。配向膜については、ディスコティック液晶に用いられている配向膜を液晶の配向膜として用いることができる。そのような配向膜としては、WO01/88574A1号パンフレットの43頁24行〜49頁8行の記載を参照することができる。
【0109】
(配向膜のラビング密度)
配向膜のラビング密度と配向膜界面での液晶化合物のチルト角との間には、ラビング密度を高くするとチルト角は小さくなり、ラビング密度を低くするとチルト角は大きくなる関係があるので、配向膜のラビング密度を変えることで、チルト角の調整をすることができる。配向膜のラビング密度を変える方法としては、「液晶便覧」(丸善(株)、2000年)に記載されている方法を用いることができる。すなわち、ラビング密度(L)は下記式(A)で定量化されている。
【0110】
式(A) L=Nl{1+((2πrn)/(60v))}
【0111】
式(A)中、Nはラビング回数、lはラビングローラーの接触長、rはローラーの半径、nはローラーの回転数(rpm)、vはステージ移動速度(秒速)である。
【0112】
式(A)によれば、ラビング密度を高くするためには、ラビング回数を増やす、ラビングローラーの接触長を長く、ローラーの半径を大きく、ローラーの回転数を大きく、ステージ移動速度を遅くすればよく、一方、ラビング密度を低くするためには、この逆にすればよい。
【0113】
(垂直配向膜)
液晶化合物を配向膜側で垂直に配向させるためには、配向膜の表面エネルギーを低下させる方法、および排除体積効果によって液晶を垂直にする方法が有効である。配向膜の表面エネルギーを低下させるためには、ポリマーに導入した官能基により配向膜の表面エネルギーを低下させる。
これには疎水性基の官能基が有効であり、具体的にはフッ素原子および炭素原子数が10以上の炭化水素基が有効である。フッ素原子または炭化水素基を配向膜の表面に存在させるために、ポリマーの主鎖よりも側鎖にフッ素原子または炭化水素基を導入することが好ましい。含フッ素ポリマーは、フッ素原子を0.05〜80質量%の割合で含むことが好ましく、0.1〜70質量%の割合で含むことがより好ましく、0.5〜65質量%の割合で含むことがさらに好ましく、1〜60質量%の割合で含むことが最も好ましい。炭化水素基は、脂肪族基、芳香族基またはそれらの組み合わせである。脂肪族基は、環状、分岐状あるいは直鎖状のいずれでもよい。脂肪族基は、アルキル基(シクロアルキル基であってもよい)またはアルケニル基(シクロアルケニル基であってもよい)であることが好ましい。炭化水素基は、ハロゲン原子のような強い親水性を示さない置換基を有していてもよい。炭化水素基の炭素原子数は、10〜100であることが好ましく、10〜60であることがより好ましく、10〜40であることがさらに好ましい。ポリマーの主鎖は、ポリイミド構造またはポリビニルアルコール構造を有することが好ましい。
【0114】
ポリイミドは、一般にテトラカルボン酸とジアミンとの縮合反応により合成する。二種類以上のテトラカルボン酸あるいは二種類以上のジアミンを用いて、コポリマーに相当するポリイミドを合成してもよい。フッ素原子または炭化水素基は、テトラカルボン酸起源の繰り返し単位に存在していても、ジアミン起源の繰り返し単位に存在していても、両方の繰り返し単位に存在していてもよい。ポリイミドに炭化水素基を導入する場合、ポリイミドの主鎖または側鎖にステロイド構造を形成することが特に好ましい。側鎖に存在するステロイド構造は、炭素原子数が10以上の炭化水素基に相当し、液晶化合物を垂直に配向させる機能を有する。本明細書においてステロイド構造とは、シクロペンタノヒドロフェナントレン環構造またはその環の結合の一部が脂肪族環の範囲(芳香族環を形成しない範囲)で二重結合となっている環構造を意味する。ステロイド構造のような剛直な置換基やアルキル鎖などは、配向させる液晶分子に対して排除体積効果を発現できるのでより好ましい。
【0115】
さらに液晶化合物を垂直に配向させる手段として、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、またはポリイミドの高分子に有機酸を混合する方法を好適に用いることができる。混合する酸としてはカルボン酸やスルホン酸、アミノ酸が好適に用いられる。後述の空気界面配向剤のうち、酸性を示すものを使用してもよい。また、4級アンモニウム塩類も好適に用いることができる。その混合量は高分子に対して、0.1質量%〜20質量%であることが好ましく、0.5質量%〜10質量%であることがさらに好ましい。上記ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は100〜5000であることが好ましい。
【0116】
配向膜を、主鎖に結合した架橋性官能基を有する側鎖を有するポリマーまたは液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖に架橋性官能基を有するポリマーを用いて形成し、その上に位相差膜を、多官能モノマーを含む組成物を用いて形成すると、配向膜中のポリマーと、その上に形成される位相差膜中の多官能モノマーとを共重合させることができる。その結果、多官能モノマー間だけではなく、配向膜ポリマー間および多官能モノマーと配向膜ポリマーとの間にも共有結合が形成され、配向膜と位相差膜とが強固に結合される。従って、架橋性官能基を有するポリマーを用いて配向膜を形成することで、光学補償シートの強度を著しく改善することができる。配向膜ポリマーの架橋性官能基は、多官能モノマーと同様に、重合性基を含むことが好ましい。具体的には、例えば特開2000−155216号公報の段落番号[0080]〜[0100]に記載のもの等が挙げられる。
【0117】
配向膜ポリマーは、上記の架橋性官能基とは別に、架橋剤を用いて架橋させることもできる。架橋剤としては、アルデヒド、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体、カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物、イソオキサゾール、またはジアルデヒド澱粉が含まれる。二種類以上の架橋剤を併用してもよい。具体的には、例えば特開2002−62426号公報の段落番号[0023]〜[0024]に記載の化合物等が挙げられる。反応活性の高いアルデヒド、特にグルタルアルデヒドが好ましい。
【0118】
架橋剤の添加量は、ポリマーに対して0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がさらに好ましい。配向膜に残存する未反応の架橋剤の量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このように調節することで、配向膜を液晶表示装置に長期使用、または高温高湿の雰囲気下に長期間放置しても、レチキュレーション発生のない充分な耐久性が得られる。
【0119】
配向膜は、基本的に、配向膜形成材料である上記ポリマーおよび架橋剤を含む組成物を透明支持体上に塗布した後、加熱乾燥し(架橋させ)、必要に応じてラビング処理することにより形成することができる。
棒状液晶化合物の垂直配向にはラビング処理は行なわないことが好ましい。架橋反応は、前記のように、透明支持体上に塗布した後、任意の時期に行なってよい。ポリビニルアルコールのような水溶性ポリマーを配向膜形成材料として用いる場合には、塗布液は消泡作用のある有機溶媒(例えば、メタノール)と水の混合溶媒とすることが好ましい。その比率は質量比で水:メタノールが0:100〜99:1が好ましく、0:100〜91:9であることがさらに好ましい。これにより、泡の発生が抑えられ、配向膜、さらには位相差層表面の欠陥が著しく減少する。
【0120】
配向膜の塗布方法は、スピンコーティング法、インクジェット法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法またはロールコーティング法が好ましい。特にロッドコーティング法又はインクジェット法が好ましい。また、乾燥後の膜厚は0.1〜10μmが好ましい。加熱乾燥は、20℃〜110℃で行なうことができる。充分な架橋を形成するためには60℃〜100℃が好ましく、80℃〜100℃がより好ましい。乾燥時間は好ましくは1分〜36時間であり、より好ましくは1分〜30分である。pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用した場合は、pH4.5〜5.5で、特に5が好ましい。
【0121】
本発明の位相差膜は、それ自体を塗布、加熱形成することによって、ガラス基板やガラス基板上に設けられたカラーフィルタ、配向膜、オーバーコート(OC)層、反射板に対して十分な密着性を有するが、目的に応じて下記の方法を用いて、密着力を調整することができる。具体的には表面活性化、表面修飾、及び位相差膜塗布液に密着力促進剤を混合させる方法である。
【0122】
表面活性化による方法には、表面を、酸やアルカリによる化学処理、機械処理、コロナ放電処理、火焔処理、UV処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、及びオゾン酸化処理を挙げることができる。ここでいうグロー放電処理とは、10-3〜20Torrの低圧ガス下でおこる低温プラズマでもよく、さらにまた大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。プラズマ励起性気体とは上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類およびそれらの混合物などがあげられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて30頁〜32頁に詳細に記載されており、本発明において好ましく用いることができる。なお、近年注目されている大気圧でのプラズマ処理は、例えば10〜1000keV下で20〜500kGyの照射エネルギーが用いられ、より好ましくは30〜500keV下で20〜300kGyの照射エネルギーが用いられる。
【0123】
表面修飾による方法には、下塗り層形成、後述のシランカップリング剤を用いたシランカップリング処理、アンカーコート層形成などである。下塗層についての詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁に記載されている。
位相差膜塗布液に密着力促進剤を混合させる方法として、好適に用いることが出来るものとしては、例えば、特開平5−11439号公報、特開平5−341532号公報、及び特開平6−43638号公報等に記載の密着促進剤が好適挙げられる。具体的には、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズオキサゾール、2−メルカプトベンズチアゾール、3−モルホリノメチル−1−フェニル−トリアゾール−2−チオン、3−モルホリノメチル−5−フェニル−オキサジアゾール−2−チオン、5−アミノ−3−モルホリノメチル−チアジアゾール−2−チオン、及び2−メルカプト−5−メチルチオ−チアジアゾール、トリアゾール、テトラゾール、ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、アミノ基含有ベンゾトリアゾール、加水分解性基またはラジカル重合性基等を有する重合性有機金属化合物、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル、シランカップリング剤、チタンカップリング剤などが挙げられる。
【0124】
前記シランカップリング剤としては、例えば、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン、γ−アミノプロピルトリブトキシシラン、γ−アミノエチルトリエトキシシラン、γ−アミノエチルトリメトキシシラン、γ−アミノエチルトリプロポキシシラン、γ−アミノエチルトリブトキシシラン、γ−アミノブチルトリエトキシシラン、γ−アミノブチルトリメトキシシラン、γ−アミノブチルトリプロポキシシラン、γ−アミノブチルトリブトキシシランなどが挙げられ、また上記チタンカップリング剤としては、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシチタン、γ−アミノプロピルトリメトキシチタン、γ−アミノプロピルトリプロポキシチタン、γ−アミノプロピルトリブトキシチタン、γ−アミノエチルトリエトキシチタン、γ−アミノエチルトリメトキシチタン、γ−アミノエチルトリプロポキシチタン、γ−アミノエチルトリブトキシチタン、γ−アミノブチルトリエトキシチタン、γ−アミノブチルトリメトキシチタン、γ−アミノブチルトリプロポキシチタン、γ−アミノブチルトリブトキシチタンなどが挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
【0125】
前記密着促進剤の含有量としては、前記位相差層の全成分に対して0.001質量%〜20質量%が好ましく、0.01〜10質量%がより好ましく、0.1質量%〜5質量%が特に好ましい。
【0126】
また、重合開始剤によっても密着性を制御することができる。重合開始剤としては、例えば、ハロゲン化炭化水素誘導体(例えば、トリアジン骨格を有するもの、オキサジアゾール骨格を有するもの等)、ヘキサアリールビイミダゾール、オキシム誘導体、有機過酸化物、チオ化合物、ケトン化合物、アシルホスフィンオキシド化合物、芳香族オニウム塩、メタロセン類などが挙げられる。これらの中でも、感度、保存性、及び密着性等の観点から、トリアジン骨格を有するハロゲン化炭化水素、オキシム誘導体、ケトン化合物、ヘキサアリールビイミダゾール系化合物が好ましい。
【0127】
(透明支持体)
本発明の位相差板の透明支持体としては、主に光学的等方性で、光透過率が80%以上であれば、特に材料の制限はないが、ポリマーフィルムが好ましい。ポリマーの具体例として、セルロースエステル類(例、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート)、ノルボルネン系ポリマー、ポリ(メタ)アクリレートエステル類のフィルムなどを挙げることができ、多くの市販のポリマーを好適に用いることが可能である。このうち、光学性能の観点からセルロースエステル類が好ましく、セルロースの低級脂肪酸エステルがさらに好ましい。低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸で、炭素原子数は、2(セルロースアセテート)、3(セルロースプロピオネート)又は4(セルロースブチレート)であることが好ましい。セルローストリアセテートが特に好ましい。セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートのような混合脂肪酸エステルを用いてもよい。また、従来知られているポリカーボネートやポリスルホンのような複屈折の発現しやすいポリマーであっても国際公開第00/26705号パンフレットに記載の分子を修飾することで該発現性を低下させたものを用いることもできる。
なお、本発明において、透明支持体および配向膜は位相差膜を形成する段階では必須であるが、位相差膜を形成した後は異なる基板に転写し、透明支持体およびまたは配向膜は剥離などによって取り除いてもかまわない。
【0128】
以下、透明支持体として好ましく使用されるセルロースエステル(特に、セルローストリアセテート)について詳述する。セルロースエステルとしては、酢化度が55.0〜62.5%であるセルロースアセテートを使用することが好ましい。特に酢化度が57.0〜62.0%であることが好ましい。酢化度とは、セルロース単位質量当たりの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験法)におけるアセチル化度の測定および計算に従う。セルロースエステルの粘度平均重合度(DP)は、250以上であることが好ましく、290以上であることがさらに好ましい。また、本発明に使用するセルロースエステルは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるMw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)の分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0〜4.0であることが好ましく、1.3〜3.5であることがさらに好ましく、1.4〜3.0であることが最も好ましい。
【0129】
セルローストリアセテートでは、セルロースの2位、3位、6位の水酸基が全体の置換度の1/3ずつに均等に分配されるわけではなく、6位水酸基の置換度が小さくなる傾向がある。セルロースの6位水酸基の置換度が、2位、3位に比べて多いほうが好ましい。全体の置換度に対して6位の水酸基がアシル基で置換されている割合が、30%以上40%以下であることが好ましく、さらには31%以上、特に32%以上であることが好ましい。6位の置換度は、0.88以上であることが好ましい。6位水酸基は、アセチル基以外に炭素原子数3以上のアシル基(例、プロピオニル、ブチリル、バレロイル、ベンゾイル、アクリロイル)で置換されていてもよい。各位置の置換度の測定は、NMRによって求めることができる。6位水酸基の置換度が高いセルロースエステルは、特開平11−5851号公報の段落番号0043〜0044に記載の合成例1、段落番号0048〜0049に記載の合成例2、段落番号0051〜0052に記載の合成例3の方法を参照して合成することができる。
【0130】
透明支持体として用いるポリマーフィルム、特にセルロースアセテートフィルムに対して、レターデーションを調整するために、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物をレターデーション上昇剤として使用することも可能である。このようなレターデーション上昇剤を使用する場合、レターデーション上昇剤は、セルロースアセテート100質量部に対して、0.01〜20質量部の範囲で使用する。レターデーション上昇剤は、セルロースアセテート100質量部に対して、0.05〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、0.1〜10質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。2種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。ここで、芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。
【0131】
レターデーション上昇剤としての芳香族化合物が有する芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。また、芳香族性ヘテロ環は、一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は、一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。芳香族環としては、ベンゼン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が好ましく、ベンゼン環および1,3,5−トリアジン環がさらに好ましい。芳香族化合物は、少なくとも一つの1,3,5−トリアジン環を有することが特に好ましい。芳香族化合物が有する芳香族環の数は、2〜20であることが好ましく、2〜12であることがより好ましく、2〜8であることがさらに好ましく、2〜6であることが最も好ましい。
【0132】
また、レターデーション上昇剤としての芳香族化合物が有する二つの芳香族環の結合関係は、(a)縮合環を形成する場合、(b)単結合で直結する場合および(c)連結基を介して結合する場合に分類できる(芳香族環のため、スピロ結合は形成できない)。結合関係は、(a)〜(c)のいずれでもよい。このようなレターデーション上昇剤についてはWO01/88574A1号パンフレット、WO00/2619A1号パンフレット、特開2000−111914号公報、同2000−275434号公報、同2002−363343号公報等に記載されている。
【0133】
透明支持体としてのセルロースアセテートは、単層または複数の層からなる。例えば、セルローストリアセテートの場合、単層のセルローストリアセテートは、特開平7−11055号等で開示されているドラム流延、あるいはバンド流延等により作成でき、後者の複数の層からなるセルローストリアセテートは、特開昭61−94725号、特公昭62−43846号等で開示されている、いわゆる共流延法により作成することができる。すなわち、原料フレークをハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン等、アルコール類(メタノール、エタノール、ブタノール等)、エステル類(蟻酸メチル、酢酸メチル等)、エーテル類(ジオキサン、ジオキソラン、ジエチルエーテル等)等の溶剤にて溶解し、これに必要に応じて可塑剤、紫外線吸収剤、劣化防止剤、滑り剤、剥離促進剤等の各種の添加剤を加えた溶液(ドープと称する)を、水平式のエンドレスの金属ベルトまたは回転するドラムからなる支持体の上に、ドープ供給手段(ダイと称する)により流延する際、単層ならば単一のドープを単層流延し、複数の層ならば高濃度のセルロースエステルドープの両側に低濃度ドープを共流延し、支持体上である程度乾燥して剛性が付与されたフィルムを支持体から剥離し、次いで各種の搬送手段により乾燥部を通過させて溶剤を除去することからなる方法である。
【0134】
上記のような、セルローストリアセテートを溶解するための溶剤としては、ジクロロメタンが代表的である。しかし地球環境や作業環境の観点から、溶剤はジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素を実質的に含まないことが好ましい。「実質的に含まない」とは、有機溶剤中のハロゲン化炭化水素の割合が5質量%未満(好ましくは2質量%未満)であることを意味する。ジクロロメタン等を実質的に含まない溶剤を用いてセルローストリアセテートのドープを調製する場合には、後述するような特殊な溶解法が必須となる。これらは冷却溶解法、高温溶解法と称される。ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素を実質的に含まないセルロースアセテートフィルムおよびその製造法については発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、以下公開技報2001−1745号と略す)に詳しく記載されている。
【0135】
セルロースアセテートの種々の物性を改良するために添加する添加剤については、公開技報2001−1745号に記載のものを好ましく使用できる。
【0136】
透明支持体がセルロースアセテートの場合、片面に粘着層を設ける等してその他の機能性層や基材に接着する際に、十分に接着させるために鹸化処理を実施することが好ましい。鹸化処理は、公知の手法、例えば、アルカリ液の中に該フィルムを適切な時間浸漬して実施される。アルカリ液に浸漬した後は、該フィルムの中にアルカリ成分が残留しないように、水で十分に水洗するか、希薄な酸に浸漬してアルカリ成分を中和することが好ましい。鹸化処理することにより、透明支持体の表面が親水化される。親水化された表面は、ポリビニルアルコールを主成分とする偏向膜との接着性を改良するのに特に有効である。また、親水化された表面は、空気中の塵埃が付着しにくくなるため、偏向膜と接着させる際に偏向膜と透明支持体との間に塵埃が入りにくく、塵埃による点欠陥を防止するのに有効である。
【0137】
鹸化処理は、透明支持体の表面の水に対する接触角が40゜以下になるように実施することが好ましい。更に好ましくは30゜以下、特に好ましくは20゜以下である。
【0138】
アルカリ鹸化処理の具体的手段としては、以下の2つから選択することができる。汎用のセルロースアセテートフィルムと同一の工程で処理できる点で下記(1)が優れているが、光学異方性層表面まで鹸化処理されるため、表面がアルカリ加水分解されて膜が劣化する点、鹸化処理液が残ると汚れになる点が問題になり得る。その場合には、特別な工程となるが、下記(2)が優れる。
(1)透明支持体上に光学異方性層を形成後に、アルカリ液中に少なくとも1回浸漬することで、該フィルムの裏面を鹸化処理する。
(2)透明支持体上に光学異方性層を形成する前または後に、アルカリ液を透明支持体の光学異方性層を形成する面とは反対側の面に塗布し、加熱、水洗および/または中和することで、該透明支持体の裏面だけを鹸化処理する。
【0139】
また、セルロースアセテートフィルムの表面エネルギーは55mN/m以上であることが好ましく、60〜75mN/mの範囲にあることがさらに好ましい。固体の表面エネルギーは、「ぬれの基礎と応用」(リアライズ社 1989.12.10発行)に記載のように接触角法、湿潤熱法、および吸着法により求めることができる。本発明のセルロースアセテートフィルムの場合、接触角法を用いることが好ましい。具体的には、表面エネルギーが既知である2種の溶液をセルロースアセテートフィルムに滴下し、液滴の表面とフィルム表面との交点において、液滴に引いた接線とフィルム表面のなす角で、液滴を含む方の角を接触角と定義し、計算によりフィルムの表面エネルギーを算出できる。
【0140】
セルロースアセテートフィルムの厚さは、通常5〜500μmの範囲が好ましく、20〜250μmの範囲が好ましく、30〜180μmの範囲がより好ましく、30〜110μmの範囲が特に好ましい。
【0141】
(波長分散)
本発明の位相差板の波長分散は、下記式(A−1)と(A−2)を満足することがより好ましい。
【0142】
式(A−1) 0.60<Re(450nm)/Re(550nm)<0.99
式(A−2) 1.01<Re(650nm)/Re(550nm)<1.35
[式中、Re(450nm)、Re(550nm)、Re(650nm)は450nm、550nm、650nmにおける、レターデーション値を表す。ただし、それぞれの測定波長は、±10nmの誤差を含む。]
【0143】
これらの範囲から外れた場合は、例えば、λ/4板として使用する場合において、400〜700nmの直線偏光をこの位相差板に入射した際、得られる偏光状態はある特定の波長では完全な円偏光が得られるものの、それ以外の波長では大きく円偏光からずれるといった問題が生じることがあるため、下記式(A−3)と(A−4)を満足することがさらに好ましい。
【0144】
式(A−3) 0.60<Re(450nm)/Re(550nm)<0.95
式(A−4) 1.04<Re(650nm)/Re(550nm)<1.35
[式中、Re(450nm)、Re(550nm)、Re(650nm)は450nm、550nm、650nmにおける、レターデーション値を表す。ただし、それぞれの測定波長は、±10nmの誤差を含む。]
【0145】
[偏光板]
本発明の位相差板は、特に偏光板保護膜用として有用である。偏光板保護膜として用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。得られたセルロースフィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光膜の両面に完全ケン化ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号公報、特開平6−118232号公報に記載されているような易接着加工を施してもよい。
保護膜処理面と偏光膜を貼り合わせるのに使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス等が挙げられる。
偏光板は偏光膜及びその両面を保護する保護膜で構成されており、更に該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成してもよい。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。又、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。
液晶表示装置には通常2枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、本発明のセルロースフィルムを適用した偏光板保護膜はどの部位に配置しても優れた表示性が得られる。特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護膜には透明ハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けられるため、該偏光板保護膜をこの部分に用いることが得に好ましい。
【0146】
また、本発明の液晶化合物を含有してなる光学フィルムを偏光板の保護膜として用いる場合は、光弾性の値が0.5×10-13〜9.0×10-13[cm2/dyn]であり、透湿度の値(但し、フィルムの厚みを80μmとして換算した値)が180〜435[g/cm2・24h]であるのが好ましい。光弾性の値は、0.5×10-13〜7.0×10-13[cm2/dyn]であるのがより好ましく、0.5×10-13〜5.0×10-13[cm2/dyn]であるのがさらに好ましい。また、透湿度の値(但し、フィルムの厚みを80μmとして換算した値)は、180〜400[g/cm2・24h]であるのがより好ましく、180〜350[g/cm2・24h]であるのがさらに好ましい。本発明のフィルムが上記特性を有すると、偏光板の保護膜として用いた場合に、湿度の影響による性能の低下を軽減することができる。
【0147】
[光学異方性膜]
本発明の液晶化合物を略垂直配向させ固定化させた光学異方性膜(光学異方性膜(A))は、輝度向上フィルム、IPS用光学補償フィルムとして用いることができる。
【0148】
本発明の光学異方性膜(A)は、偏光膜と組み合わせて楕円偏光板の用途に供することができる。さらに、透過型液晶表示装置に、偏光膜と組み合わせて適用することにより、液晶表示装置の視野角の拡大に寄与させることができる。
【0149】
本発明の光学異方性膜(A)には、粘着層を設けることもできる。粘着剤層は、液晶セルへの貼着に用いることができるほか、他の光学異方性膜(光学異方性膜(B))等の積層に用いられる。
粘着層は、異なる組成または種類等のものの重畳層として偏光板や光学フィルムの片面または両面に設けることもできる。また両面に設ける場合に、偏光板や光学フィルムの表裏において異なる組成や種類や厚さ等の粘着層とすることもできる。粘着層の厚さは、使用目的や接着力などに応じて適宜に決定でき、1〜500μmが好ましく、5〜200μmがより好ましく、10〜100μmがさらに好ましい。
【0150】
粘着層の露出面に対しては、実用に供するまでの間、その汚染防止等を目的にセパレータが仮着されてカバーされる。これにより、通例の取扱状態で粘着層に接触することを防止できる。セパレータとしては、上記厚さ条件を除き、例えば、プラスチックフィルム、ゴムシート、紙、布、不織布、ネット、発泡シートや金属箔、それらのラミネート体等の適宜な薄葉体を、必要に応じシリコーン系や長鏡アルキル系、フッ素系や硫化モリブデン等の適宜な剥離剤でコート処理したものなどの、従来に準じた適宜なものを用いうる。
【0151】
[液晶表示装置]
<一般的な液晶表示装置の構成>
本発明の液晶化合物を含有してなる光学フィルムは、液晶表示装置に適用することができる。液晶表示装置は、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光膜、および該液晶セルと該偏光膜との間に少なくとも一枚の光学補償フィルムを配置した構成を有している。
液晶セルの液晶層は、通常は、二枚の基板の間にスペーサーを挟み込んで形成した空間に液晶を封入して形成する。透明電極層は、導電性物質を含む透明な膜として基板上に形成する。液晶セルには、さらにガスバリアー層、ハードコート層あるいは(透明電極層の接着に用いる)アンダーコート層(下塗り層)を設けてもよい。これらの層は、通常、基板上に設けられる。液晶セルの基板は、好ましくは50μm〜2mmの厚さを有する。
【0152】
<液晶表示装置の種類>
本発明の液晶化合物を含有してなる光学フィルムは、様々な表示モードの液晶セルに用いることができる。具体的には、TN(Twisted Nematic)、IPS(In-Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti-ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Super Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)、ECB(Electrically Controlled Birefringence)、およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)等の表示モードが挙げられる。また、上記表示モードを配向分割した表示モードにおいても用いることができる。
【0153】
(TN型液晶表示装置)
本発明の液晶化合物を含有してなる光学フィルムを、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として用いてもよい。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置については、古くから良く知られている。TN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開平3−9325号、特開平6−148429号、特開平8−50206号、特開平9−26572号の各公報の記載に従って作製することができる。また、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36,(1997),p.143や、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36,(1997),p.1068)の記載に従って作製することができる。
【0154】
(STN型液晶表示装置)
本発明の液晶化合物を含有してなる光学フィルムを、STNモードの液晶セルを有するSTN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として用いてもよい。一般的にSTN型液晶表示装置では、液晶セル中の棒状液晶性分子が90〜360度の範囲にねじられており、棒状液晶性分子の屈折率異方性(Δn)とセルギャップ(d)との積(Δnd)が300〜1500nmの範囲にある。STN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開2000−105316号公報の記載に従って作製することができる。
【0155】
(VA型液晶表示装置)
本発明の液晶化合物を含有してなる光学フィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として特に有利に用いられる。VA型液晶表示装置に用いる光学補償シートのRe値を0〜150nmとし、Rth値を70〜400nmとすることが好ましい。VA型液晶表示装置に二枚の光学的異方性ポリマーフィルムを使用する場合、フィルムのRth値は70〜250nmであることが好ましい。VA型液晶表示装置に一枚の光学的異方性ポリマーフィルムを使用する場合、フィルムのRth値は150〜400nmであることが好ましい。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であってもよい。
【0156】
(IPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置)
本発明の液晶化合物を含有してなる光学フィルムは、IPSモードおよびECBモードの液晶セルを有するIPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置の光学補償シートの支持体、または偏光板の保護膜としても有利に用いられる。これらのモードは黒表示時に液晶材料が略平行に配向する態様であり、電圧無印加状態で液晶分子を基板面に対して平行配向させて、黒表示する。これらの態様において本発明のセルロースフィルムを用いた偏光板は色味の改善、視野角拡大、コントラストの良化に寄与する。この態様においては、液晶セルの上下の前記偏光板の保護膜のうち、液晶セルと偏光板との間に配置された保護膜(セル側の保護膜)に本発明の偏光板を少なくとも片側一方に用いることが好ましい。更に好ましくは、偏光板の保護膜と液晶セルの間に光学異方性層を配置し、配置された光学異方性層のレターデーション値を、液晶層のΔn・dの値の2倍以下に設定するのが好ましい。
【0157】
(OCB型液晶表示装置およびHAN型液晶表示装置)
本発明の液晶化合物を含有してなる光学フィルムは、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置あるいはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償シートには、レターデーション値の絶対値が最小となる方向が光学補償シートの面内にも法線方向にも存在しないことが好ましい。OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償シートの光学的性質も、光学的異方性層の光学的性質、支持体の光学的性質および光学的異方性層と支持体との配置により決定される。OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開平9−197397号公報の記載に従って作製することができる。また、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.38,(1999),p.2837)の記載に従って作製することができる。
【0158】
(反射型液晶表示装置)
本発明の液晶化合物を含有してなる光学フィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest-Host)型の反射型液晶表示装置の光学補償シートとしても有利に用いられる。これらの表示モードは古くから良く知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号公報、国際公開WO98/48320号パンフレット、特許第3022477号公報の記載に従って作製することができる。反射型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、国際公開WO00/65384号の記載に従って作製することができる。
【0159】
(その他の液晶表示装置)
本発明の液晶化合物を含有してなる光学フィルムは、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているとの特徴がある。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置については、クメ(Kume)他の論文(Kume et al.,SID 98 Digest,(1998),p.1089)の記載に従って作製することができる。
【実施例】
【0160】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0161】
実施例1
[化合物Aの合成]
【化17】

【0162】
化合物A:上記式中nが2〜5の化合物(オリゴマー)
化合物B:上記式中nが1の化合物
化合物C:上記式中nが18の化合物(ポリマー)
【0163】
化合物I(3.7g、10 mmol)と化合物II(5.1g、20 mmol)をTHF200mLに溶かし、メタノール-氷浴で-7℃に冷却した。そこにピリジン(2.4 mL、30 mmol)のTHF(20mL)溶液をゆっくり滴下した。-7℃で1時間、室温で1時間攪拌した後、4HBA(5.4 mL、40 mmol)、ピリジン(2.4 mL、30 mmol)のTHF(20mL)溶液を滴下し、室温で2時間攪拌した。反応液をエバポレーションによって1/3に濃縮し、メタノールに晶析、ろ別することで粗生成物を得た。これをカラムクロマトグラフィー精製することで化合物Aを5g、比較例化合物である化合物Bを1g得た。ポリスチレンを標準物質に用いてGPCで確認したところ、化合物Aのnは2〜5のものであった。同様の方法で、化合物Bのnは1であることを確認した。
【0164】
[化合物Cの合成]
化合物I(3.7g、10 mmol)と化合物II(2.6g, 10 mmol)をTHF50mLに溶かし、氷浴で7℃に冷却した。そこにピリジン(2.4 mL、30 mmol)のTHF(20mL)溶液をゆっくり滴下した。7℃で1時間、室温で1時間攪拌した後、4HBA(5.4 mL、40 mmol)、ピリジン(2.4 mL、30 mmol)のTHF(20mL)溶液を滴下し、室温で2時間攪拌した。反応液をエバポレーションによって1/3に濃縮し、メタノールに晶析、ろ別することで比較化合物である化合物Cを2g得た。ポリスチレンを標準物質に用いてGPCで確認したところ、化合物Cの重量平均分子量は12000であり、これはnが18に相当するものであった。
【0165】
実施例2
[化合物Aを用いた略水平配向させた重合性膜(Aプレート)の調製]
化合物A100質量部、及び重合開始剤(イルガキュア819、商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)3質量部をクロロホルム700質量部に溶解させた溶液を、ホモジニアス配向処理を施したポリイミド配向膜が形成されているガラス板にスピンコートし、薄膜を作製した。液晶化合物を基板温度180℃にて配向させると、均一に配向した。その後、任意の温度で100mW/cm2の紫外線を照射して液晶化合物を重合させ、これを冷却することによって液晶化合物の配向状態を固定化させた重合性膜を形成させた。これにより膜a(重合温度140℃、膜厚 5.21μm)、膜b(重合温度160℃、膜厚 5.85μm)、膜c(重合温度180℃、膜厚 6.07μm)を得た。
【0166】
比較例1
[化合物Bを用いた略水平配向させた重合性膜(Aプレート)の調製]
化合物B100質量部、及び重合開始剤(イルガキュア819、商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)3質量部をクロロホルム1400質量部に溶解させた溶液を、ホモジニアス配向処理を施したポリイミド配向膜が形成されているガラス板にスピンコートし、薄膜を作製した。液晶化合物を基板温度180℃にて配向させると、均一に配向した。その後、任意の温度で400mJ/cm2の紫外線を照射して液晶化合物を重合させ、これを冷却することによって液晶化合物の配向状態を固定化させた重合性膜を形成させた。これにより膜d(重合温度140℃、膜厚 2.12μm)、膜e(重合温度160℃、膜厚 2.45μm)、膜f(重合温度180℃、膜厚 2.66μm)を得た。
【0167】
比較例2
[化合物Cを用いた略水平配向させた重合性膜(Aプレート)の調製]
化合物C100質量部、及び重合開始剤(イルガキュア819、商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)3質量部をクロロホルム1400質量部に溶解させた溶液を、ホモジニアス配向処理を施したポリイミド配向膜が形成されているガラス板にスピンコートし、薄膜を作製した。液晶化合物を基板温度180℃にて配向を試みたが、相転移温度が高いためか、均一に配向させることが出来なかった。
【0168】
作製した膜a〜fの、波長に対する複屈折率をミューラーマトリックスポーラリメーター(AXOMETRICS社製)を用いて測定した結果を図1に示す。また、膜a〜fの重合温度、複屈折率、急峻性を表1に示す。
【0169】
【表1】

【0170】
図1及び表1から明らかなように、本発明の実施例の位相差膜(膜a〜c)では、波長450nmにおける複屈折率Δn(450nm)と波長550nmにおける複屈折率Δn(550nm)との比(Δn(450nm)/(Δn(550nm))が、比較例の位相差膜(膜d〜f)に比べて小さくなっていることから、実施例の位相差膜は、波長分散が急峻となっていた。また、波長550nmにおける複屈折率Δn(550nm)についても、実施例の位相差膜は、比較例の位相差膜より、高い値を示していた。これらから、本発明の化合物を用いると、位相差膜において、波長分散の急峻性の向上と波長550nmにおける複屈折率の向上との両方を達成できることが分かる。
また、比較例の位相差膜(膜d〜f)を見るとこれらの波長分散のグラフデータ(複屈折率の値)にばらつきがあったにもかからず、実施例の位相差膜(膜a〜c)はほぼ同一の波長分散のデータを示しており、重合温度に対する複屈折率の依存性が実質的に認められなかった。よって、本発明の化合物を用いると、位相差膜の重合の際に厳密な温度コントロールを必要とせず、簡易に優れた位相差膜を製造できることも分かる。
【0171】
膜d〜fと比べて、膜a〜cは波長分散(Dn(450nm)/Dn(550nm))の傾きが急峻であり、複屈折率Dnは高い値を示した。加えて、重合温度に対する複屈折率Dnの依存性は、膜a〜cではほとんど見られなかった。
【0172】
実施例3
[化合物Aと順分散性重合液晶(化合物D)との組成物を略水平配向させた重合性膜(Aプレート)の調製]
化合物Aと下記順分散性重合液晶(化合物D)を混合した組成物 100質量部、及び重合開始剤(イルガキュア819、商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)3質量部をクロロホルム700質量部に溶解させた溶液を、ホモジニアス配向処理を施したポリイミド配向膜が形成されているガラス板にスピンコートし、薄膜を作製した。液晶化合物を基板温度100℃から120℃にて配向させると、均一に配向した。その後、100℃から120℃で100mW/cm2の紫外線を照射して液晶化合物を重合させ、これを冷却することによって液晶化合物の配向状態を固定化させた重合性膜を形成させた。これにより、膜g(化合物A/化合物D=0/100(質量比、以下同様))、膜h(化合物A/化合物D=20/80)、膜i(化合物A/化合物D=40/60)、膜j(化合物A/化合物D=60/40)、膜k(化合物A/化合物D=20/80)、膜l(化合物A/化合物D=100/0)を得た。
【0173】
【化18】

【0174】
作製した膜g〜lの、波長に対する複屈折率をミューラーマトリックスポーラリメーター(AXOMETRICS社製)を用いて測定した結果を図2に示す。
化合物Aと化合物Dを任意の質量比で混合することで、波長分散(Dn(450nm)/Dn(550nm))を1.12〜0.62まで制御できることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0175】
【図1】実施例2及び比較例1で作製した位相差膜a〜fの、波長に対する複屈折率を測定した結果を示すグラフである。
【図2】実施例3で作製した位相差膜g〜lの、波長に対する複屈折率を測定した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物。
【化1】

(式中、A1及びA2は各々独立に、−O−、−NR−(Rは水素原子または置換基を表す。)、−S−及び−CO−からなる群から選ばれる基を表す。Zは、第14〜16族の非金属原子からなる群から選択される1つ又は2つの原子を表し、式中のC−C=C−C又はC=C−C=Cと共に5又は6員環を形成する。B、R1は各々独立に置換基を表し、R2は二価の置換基を表す。複数のB及びRは同一でも異なっていてもよい。mは0〜4の整数である。L1及びL2は各々独立に二価の連結基を表す。Xは第14〜16族の非金属原子を表す(ただし、Xには水素原子又は置換基R3が結合してもよい。)。なお、重合性基を有する場合、B、R、R1、R及びR3の少なくとも1つが重合性基を有する。nは2〜10の整数である。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物が下記一般式(2)で表される請求項1記載の化合物。
【化2】

(式中、A1及びA2は各々独立に、−O−、−NR−(Rは水素原子または置換基を表す。)、−S−及び−CO−からなる群から選ばれる基を表す。Zは、第14〜16族の非金属原子からなる群から選択される1つ又は2つの原子を表し、式中のC−C=C−C又はC=C−C=Cと共に5又は6員環を形成する。B、R1は各々独立に置換基を表し、R2は二価の置換基を表す。複数のB及びRは同一でも異なっていてもよい。mは0〜4の整数である。L1及びL2は各々独立に二価の連結基を表す。R4及びR5は各々独立に置換基を表す。なお、重合性基を有する場合、B、R、R1、R、R4、及びR5の少なくとも1つが、重合性基に置換されている。nは2〜10の整数である。)
【請求項3】
前記重合性基が付加重合性基であることを特徴とする請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
前記付加重合性基が、下記の一般式P1、P2、P3又はP4のいずれかで表される重合性基であることを特徴とする請求項3に記載の化合物。
【化3】

(式中、R511、R512、R513、R521、R522、R523、R531、R532、R533、R541、R542、R543、R544及びR545はそれぞれ各々独立に水素原子またはアルキル基を表す。nは0または1を表す。)
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物を少なくとも一種含有することを特徴とする液晶組成物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物がネマチック相またはスメクチックA相を発現することを特徴とする請求項5記載の液晶組成物。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の液晶組成物を用いて形成された光学異方性膜であって、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物を略垂直配向させ、固定化することで形成されたことを特徴とする光学異方性膜。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の液晶組成物を用いて形成された光学異方性膜であって、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物を略水平配向させ、固定化することで形成されたことを特徴とする光学異方性膜。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の光学異方性膜と、さらに少なくとも1層の他の光学異方性膜とを含むことを特徴とする光学異方性膜。
【請求項10】
前記の他の光学異方性膜が、正のAプレートフィルムであることを特徴とする請求項9記載の光学異方性膜。
【請求項11】
前記の他の光学異方性膜が、下記数式(I)及び(II)を満足する正のAプレートフィルムであることを特徴とする請求項10に記載の光学異方性膜。
数式(I) Re(450nm)/Re(550nm)<1.0
数式(II) Re(650nm)/Re(550nm)>1.0
[式中、Re(450nm)、Re(550nm)、Re(650nm)は450nm、550nm、650nmにおける、レターデーション値を表す。ただし、それぞれの測定波長は、±10nmの誤差を含む。]
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか1項に記載の光学異方性膜からなる位相差板。
【請求項13】
請求項7〜11のいずれか1項に記載の光学異方性膜を含む偏光板。
【請求項14】
請求項12記載の位相差板または請求項13記載の偏光板を含む液晶表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−84032(P2010−84032A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255221(P2008−255221)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】