説明

液晶性ポリエステル樹脂組成物及びその成形体

【課題】中空フィラーの破損を十分抑制し得る液晶性ポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】液晶性ポリエステルをマイカ及び中空フィラーと混合して、液晶性ポリエステル樹脂組成物とする。マイカの含有量は、液晶性ポリエステル、マイカ及び中空フィラーの合計質量に対して、1〜20質量%であるのがよく、中空フィラーの含有量は、液晶性ポリエステル、マイカ及び中空フィラーの合計質量に対して、3〜25質量%であるのがよい。液晶性ポリエステルの流動開始温度は、360℃以上であるのがよい。マイカの体積平均粒径は、40μm以下であるのがよく、マイカの比表面積は、6m2/g以下であるのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性ポリエステル及び特定の充填剤を含む液晶性ポリエステル樹脂組成物及びその成形体に関する。さらに詳しくは、光ピックアップ部材を製造するうえで好適な液晶性ポリエステル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光ピックアップは、コンパクトディスク、レーザーディスクなどに用いられ、半導体レーザーをレンズで数μm径スポットまで絞って照射し、ディスク上に記録された情報を読み取るものである。一般に光ピックアップは、光学素子などを固定する光フレームと、対物レンズ、対物レンズホルダーを光ディスクの動きに追従させるためのアクチュエーター部と、このアクチュエーター部を保持し光フレームとの光学路を形成するベースフレームとから構成されている。これらの光フレーム、アクチュエーター部及びベースフレームのような光ピックアップ部材は、その軽量化及び低コスト化などの要求から、樹脂製のものが主として検討されている。
【0003】
光ピックアップ部材製造用の樹脂材料の中でも、液晶性ポリエステルを含む樹脂組成物が特に検討されている。これは、この液晶性ポリエステルが機械的特性、成形性、寸法精度及び制振性といった特性に優れているためである。さらに、光ピックアップ部材は軽量であることが求められる点で、中空フィラーと呼ばれる中空部を有するフィラーを液晶性ポリエステルに混合した液晶性ポリエステル樹脂組成物の適用検討が散見されている。たとえば、特許文献1には特定の溶融粘度を有する液晶性ポリエステル(全芳香族ポリエステル)、無機球状中空体(中空フィラー)に加え、ガラス繊維又はタルクを配合した樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−330468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に中空フィラーを含む樹脂組成物は、当該樹脂組成物をペレット状に得る造粒あるいは当該樹脂組成物を用いた成形体の製造(成形)といった過程で破損され易いという特性がある。そのため、中空フィラーの破損をできるだけ抑制しながら、ペレット状樹脂組成物又は成形体を製造する必要がある。
【0006】
これまで提案されている液晶性ポリエステル樹脂組成物においては、溶融粘度が比較低い液晶性ポリエステルを用いるか、造粒又は成形の条件を調整することで、中空フィラーの破損を抑制しており、中空フィラー以外の充填剤により中空フィラーの破損を抑制しようとする技術については、これまでほとんど検討されていない。
【0007】
ところで、光ピックアップはその製造過程で、光ピックアップ部材を高温ハンダに接触させるという工程があり、近年の無鉛ハンダ使用の要求から、より高温のハンダの使用が必要とされている。このような高温ハンダの使用に伴い、光ピックアップ部材の高温ハンダに対する耐久性(耐ハンダ性)の要求が益々厳しくなっている。しかしながら、特許文献1で開示されている液晶性ポリエステルでは、その耐ハンダ性は十分とは言い難く、無鉛ハンダ使用という要求に応えることは困難である。高度の耐ハンダ性を求めて、高耐熱性の液晶性ポリエステルを使用した場合、このような液晶性ポリエステルは一般に溶融粘度が高くなる傾向があるため、中空フィラーの破損を助長するという問題がある。
【0008】
このような状況下、本発明の目的は、特定の充填剤を用いることにより、中空フィラーの破損を十分抑制し得る液晶性ポリエステル樹脂組成物を提供することにあり、特に、高耐熱性の液晶性ポリエステルを用いた場合であっても、中空フィラーの破損を十分抑制し得る液晶性ポリエステル樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の<1>の液晶性ポリエステル樹脂組成物を提供する。
【0010】
<1>:以下の成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含有する、液晶性ポリエステル樹脂組成物。
(A)液晶性ポリエステル。
(B)マイカ。
(C)中空フィラー。
【0011】
また、本発明は前記<1>に関する具体的な実施態様として、<1>〜<4>を提供する。
【0012】
<2>:前記成分(A)、前記成分(B)及び前記成分(C)の合計質量に対して、前記成分(B)の含有量が1〜20質量%であり、前記成分(C)の含有量が3〜25質量%である<1>の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
<3>:前記成分(A)の流動開始温度が360℃以上である<1>又は<2>の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
<4>:前記成分(B)の体積平均粒径が40μm以下である<1>〜<3>の何れかの液晶性ポリエステル樹脂組成物。
<5>:前記成分(B)の比表面積が6m2/g以下である<1>〜<4>の何れかの液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【0013】
さらに、本発明は前記何れかの液晶性ポリエステル樹脂組成物を用いる以下の<6>〜<7>を提供する。
【0014】
<6>:<1>〜<4>の何れかの液晶性ポリエステル樹脂組成物を成形してなる成形体。
<7>:ASTM D792(方法A)に基づいて求められる比重が1.15〜1.55の範囲である<5>の成形体。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、中空フィラーを含む液晶性ポリエステル樹脂組成物において、該中空フィラーの破損を十分抑制しながら、造粒又は成形を行うことができる。特に、成形体の耐ハンダ性を良好にする目的で、高耐熱性の液晶性ポリエステルを用いたとしても、該中空フィラーの破損を十分抑制することができる。
【0016】
また、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は、液晶性ポリエステルが有する優れた成形性や機械的強度を著しく損なうことはないため、このような特性が求められる光ピックアップ部材(光ピックアップレンズホルダーなど)の製造用材料として極めて有用である。さらに、今後、益々薄肉化や形状複雑化が要求される光ピックアップ部材の製造にも適用できるため、工業的な価値の大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例において薄肉流動長の測定で使用した金型を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は、成分(A):液晶性ポリエステル、成分(B):マイカ及び成分(C):中空フィラーを含有することを特徴とする(以下、これら成分(A)、成分(B)及び成分(C)を総称して「成分(A)〜(C)」ということもある)。以下、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物の各成分、液晶性ポリエステル樹脂組成物の製造方法及び液晶性ポリエステル樹脂組成物による成形体の製造に関し順次説明する。
【0019】
<成分(A):液晶性ポリエステル>
成分(A)に用いる液晶性ポリエステルは、サーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれるポリエステルであり、好適には、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ジオールを重合させて得られ、400℃以下の温度で異方性溶融体を形成するものである。
【0020】
なお、より容易に液晶性ポリエステルを製造するために、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ジオールといった原料モノマーの一部をエステル形成性誘導体にしてから重合させることもできる。このエステル形成性誘導体としては、たとえば次のようなものである。分子内にカルボキシル基を有する、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸の場合は、当該カルボキシル基を、高反応性の酸ハロゲン基や酸無水物などの基に転化したエステル形成性誘導体、該カルボキシル基を、エステル交換反応によりポリエステルを生成するようなエステルに転化したエステル形成性誘導体などを挙げることができる。また、分子内にフェノール性水酸基を有する芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールの場合は、当該フェノール性水酸基を、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、エステルに転化したエステル形成性誘導体などが挙げられる。このようなエステル形成性誘導体を用いる好適な液晶性ポリエステル製造方法については後述する。
【0021】
成分(A)に用いる液晶性ポリエステルを構成している構造単位の具体例を以下に示す。
【0022】
芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位:
【0023】
【化1】

【0024】
これらの構造単位は、芳香環にある水素原子の一部が、ハロゲン原子、アルキル基及びアリール基から選ばれる置換基で置換されていてもよい。
【0025】
芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位:
【0026】
【化2】

【0027】
これらの構造単位は、芳香環にある水素原子の一部が、ハロゲン原子、アルキル基及びアリール基から選ばれる置換基で置換されていてもよい。
【0028】
芳香族ジオールに由来する構造単位:
【0029】
【化3】

【0030】
これらの構造単位は、芳香環にある水素原子の一部が、ハロゲン原子、アルキル基及びアリール基から選ばれる置換基で置換されていてもよい。
【0031】
前記の構造単位に任意に有していてもよい置換基について簡単に説明する。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子が挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、ブチル基などの炭素数1〜4程度の低級アルキル基が挙げられる。アリール基としては典型的にはフェニル基が挙げられる。ただし、後述するように本発明に用いる成分(A)に用いる液晶性ポリエステルは流動開始温度が360℃以上であることが好ましいので、このような流動開始温度の液晶性ポリエステルを得るためには、これらの置換基を有しないことが望ましい。
【0032】
前記に例示した構造単位の好適な組み合わせについて詳述する。成分(A)に用いる液晶性ポリエステルの構造単位の組み合わせとしては、以下の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)又は(f)に示すもの(以下、「(a)〜(f)」ということがある)が好ましい。
【0033】
(a):(A1)と、(B1)及び/又は(B2)と、(C1)と、の組み合わせ。
(b):(A1)及び(A2)の組み合わせ。
(c):(a)の構造単位の組み合わせにおいて、(A1)の一部を(A2)で置き換えた組み合わせ。
(d):(a)の構造単位の組み合わせにおいて、(B1)の一部を(B3)で置き換えた組み合わせ。
(e):(a)の構造単位の組み合わせにおいて、(C1)の一部を(C3)で置き換えた組み合わせ。
(f):(b)の構造単位の組み合わせに(B1)と(C1)の構造単位を加えた組み合わせ。
【0034】
前記(a)〜(f)に示す組み合わせにおいて、パラヒドロキシ安息香酸から誘導される(A1)の構造単位は、全構造単位の合計に対して30モル%以上が好ましく、50モル%以上がさらに好ましい。(A1)のモル比率をこのようにすれば、得られる液晶性ポリエステルは耐熱性、機械的強度などの特性においてバランスの優れたものとなる。
【0035】
また、前記(a)〜(f)に示す構造単位の組み合わせにおいて、液晶性ポリエステルの分子鎖の直線性を向上させると、その流動開始温度が上がることを利用して、好適な流動開始温度、すなわち流動開始温度360℃以上の液晶性ポリエステルを製造することができる。より具体的には、前記の(B1)と(B2)において、(B1)は液晶性ポリエステル分子の直線性を向上させ、(B2)は液晶性ポリエステル分子の屈曲性を向上させる(直線性を低下させる)ので、この(B1)と(B2)の共重合比をコントロールすることにより、流動開始温度を調整することができる。
【0036】
前記の例示の中でも、成分(A)に用いる液晶性ポリエステルしては、前記(a)の液晶性ポリエステル、すなわち、パラヒドロキシ安息香酸から誘導される構造単位[(A1)]と、4,4−ジヒドロキシビフェニルから誘導される構造単位[(C1)]と、テレフタル酸から誘導される構造単位及び/又はイソフタルから誘導される構造単位[(B1)及び/又は(B2)]とを有する液晶性ポリエステルが好ましい。
【0037】
また、この場合、(C1)/(A1)のモル比率は、0.2以上1.0以下であることが好ましく、[(B1)+(B2)]/(C1)のモル比率は、0.9以上1.1以下であることが好ましく、(B2)/(B1)のモル比率は、0より大きく1以下であると好ましく、0より大きく0.3以下であるとさらに好ましい。
【0038】
上述のように、成分(A)に用いる液晶性ポリエステルは、その流動開始温度が360℃以上であることが好ましく、360〜410℃であることがより好ましく、370〜400℃であることが特に好ましい。液晶性ポリエステルの流動開始温度が、このような範囲である場合、液晶性ポリエステル自体の耐熱性が十分に発現され、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物を用いて得られる成形体の耐ハンダ性が極めて良好となり、実用的な成形温度で成形体を得ることが可能である。本発明によれば、このような高い流動開始温度の液晶性ポリエステル(高耐熱性の液晶性ポリエステル)を成分(A)に用いたとしても、造粒又は成形における中空フィラーの破損を良好に抑制することができる。なお、ここでいう流動開始温度とは、内径1mm、長さ10mmのダイスを取付けた毛細管型レオメーターを用い、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度を意味し、該流動開始温度は当分野で周知の液晶ポリエステルの分子量を表す指標である(小出直之編、「液晶性ポリマー合成・成形・応用−」、95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)。
【0039】
次に、成分(A)液晶性ポリエステルの製造方法について説明する。
成分(A)に用いる液晶性ポリエステルは、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシカルボン酸のフェノール性水酸基を脂肪酸無水物(無水酢酸など)によりアシル化してアシル化物(芳香族ジオールアシル化物及び芳香族ヒドロキシカルボン酸アシル化物)を得るアシル化工程と、得られたアシル化物のアシル基と、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ヒドロキシカルボン酸のアシル化物のカルボキシル基とが、エステル交換を起こすようにして重合して液晶性ポリエステルを得る重合工程とを有する製造方法により製造されることが好ましい。
【0040】
また、液晶性ポリエステル製造方法におけるアシル化工程及び/又は重合工程は、以下に表される複素環状有機塩基化合物の存在下に行ってもよい。
【0041】
【化4】

【0042】
(式中R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシメチル基、シアノ基、アルキル基の炭素数が1〜4であるシアノアルキル基、アルコキシ基の炭素数が1〜4であるシアノアルコキシ基、カルボキシル基、アミノ基、炭素数1〜4のアミノアルキル基、炭素数1〜4のアミノアルコキシ基、フェニル基、ベンジル基、フェニルプロピル基又はフォルミル基を表す。)
【0043】
前記式で表される該複素環状有機塩基化合物の中でも、入手が容易であることから1−メチルイミダゾール及び/又は1−エチルイミダゾールがより好ましい。
【0044】
この複素環状含有機塩基化合物の使用量は、上述の液晶性ポリエステルの原料モノマー(芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシカルボン酸)の合計100質量部に対して、0.005〜1質量部が好ましく、得られる成形体の色調、成形体の生産性の観点からは0.05〜0.5質量部であることがより好ましい。複素環状有機塩基化合物は、アシル化反応及びエステル交換反応の際の一時期に存在しておればよく、その添加時期は、アシル化反応開始の直前であっても、アシル化反応の途中であってもよく、アシル化反応とエステル交換反応の間であってもよい。このようにして得られる液晶性ポリエステルは、より優れた溶融流動性を発現するという利点がある。
【0045】
無水酢酸などの脂肪酸無水物の使用量は、芳香族ジオール及び/又は芳香族ヒドロキシカルボン酸の使用量を考慮し、これらの原料モノマーにあるフェノール性水酸基の合計モル量に対して、1.0〜1.2モル倍が好ましく、1.0〜1.15モル倍がより好ましく、1.03〜1.12モル倍がさらに好ましく、1.05〜1.1モル倍が特に好ましい。
【0046】
アシル化工程における芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシカルボン酸のアシル化反応は、130〜180℃で30分〜20時間行うことが好ましく、140〜160℃で1〜5時間行うことがより好ましい。
【0047】
次に、前記アシル化工程によって得られたアシル化物(芳香族ジオールのアシル化物及び芳香族ヒドロキシカルボン酸のアシル化物)のアシル基と、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ヒドロキシカルボン酸のアシル化物のカルボキシル基とを、エステル交換させて(エステル交換反応)重合させる重合工程について説明する。なお、この芳香族ジカルボン酸は、アシル化工程の際に、反応系中に存在させていてもよく、換言すれば、アシル化工程において、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸を同一反応系中に存在させていてもよい。これは、芳香族ジカルボン酸にあるカルボキシル基及び任意に置換されていてもよい置換基は、いずれも脂肪酸無水物によって何ら影響を受けないためである。よって、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸を同一の反応器に仕込んで、脂肪酸無水物によってアシル化する形式でもよく、先に、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応器に仕込んで、脂肪酸無水物によってこれらをアシル化した後に、芳香族ジカルボン酸を反応器に仕込む形式でもよい。操作上の簡便さから前者の形式がより好ましい。
【0048】
前記エステル交換反応による重合は、130〜400℃の範囲で0.1〜50℃/分の割合で昇温させながら反応させることが好ましく、150〜350℃の範囲で0.3〜5℃/分の割合で昇温しながら反応させることがより好ましい。
【0049】
また、前記エステル交換反応を行う際、平衡をずらすために、副生する脂肪酸(酢酸など)と未反応の脂肪酸無水物(無水酢酸など)は、蒸発させて系外へ留去させることが好ましい。また、留出する脂肪酸の一部を還流させて反応器に戻すことによって、脂肪酸と同伴して蒸発又は昇華する原料モノマーなどを凝縮又は逆昇華し、反応器に戻すこともできる。
【0050】
アシル化反応及びエステル交換反応は、回分装置を用いて行っても、連続装置を用いて行ってもよい。いずれの反応装置(反応器)を用いても、本発明に適用する液晶性ポリエステルを得ることができる。
【0051】
また、前記重合工程の後に、得られた液晶性ポリエステルを冷却して取り出し、該液晶性ポリエステルを粉砕によって粉体状としたり、粉体状にした液晶性ポリエステルを造粒してペレット状としたりして、得られる固体状(粉体状又はペレット状)の液晶性ポリエステルをさらに加熱して高分子量化することもできる。このような液晶性ポリエステルの高分子量化は、当分野で固相重合と呼ばれている。この固相重合は、液晶性ポリエステルの高分子量化に特に有効であり、この高分子量化により上述のような好適な流動開始温度を有する液晶性ポリエステルを得ることが容易になる。この固相重合の反応条件としては、固体状の液晶性ポリエステルを、不活性気体(窒素など)雰囲気下又は減圧下に、1〜20時間熱処理する方法などが採用される。この場合、熱処理に使用される装置としては、既知の乾燥機、反応機、イナートオーブン、混合機、電気炉などが挙げられる。
【0052】
<成分(B):マイカ>
成分(B)に用いるマイカとは、アルカリ金属を含有するアルミノ珪酸塩からなるものである。市場には種々の樹脂充填剤用のマイカ(市販マイカ)がある。これらの市販マイカの中でも、いわゆる白雲母から製造されたマイカが好ましい。マイカとしては、主として白雲母から製造されたものと金雲母から製造されたものが市販されているが、後者のマイカを用いると、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物の成形加工性が劣る傾向があり、薄肉部を有する成形体を得る場合、該成形体の反り発生を助長する傾向があることを本発明者等は見出している。
【0053】
成分(B)に用いるマイカは、レーザー回折式粒度分布測定により求められる体積平均粒径D50が40μm以下であるものが好ましく、25μm以下であるものがさらに好ましい。体積平均粒子径D50が40μmより大きい場合、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物の溶融流動性が低下する傾向があり、薄肉部を有する成形体を得ることが困難になる場合がある。
【0054】
また、成分(B)に用いるマイカは、BET法により測定した比表面積が6m2/g以下であることが好ましく、4m2/g以下であることがさらに好ましい。比表面積が6m2/gより大きい場合、マイカ表面に付着している付着水の量が多くなり、この付着水の影響で液晶性ポリエステルの加水分解が生じ易くなる。そして、得られる成形体の強度が低下したり、液晶性ポリエステル分解物に起因する膨れなどの外観異常が、得られる成形体に発生したりする場合がある。なお、ここでいう付着水とは、加熱乾式水分計により求められるものであり、成分(B)に用いるマイカは、付着水が0.3質量%以下であると好ましく、0.2質量%以下であると、さらに好ましい。
【0055】
以上述べたような好適な体積平均粒径D50及び比表面積を満たす市販マイカとしては、たとえば、(株)山口雲母工業所の“AB25S”を挙げることができる。
【0056】
<成分(C):中空フィラー>
成分(C)に用いる中空フィラーは、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物を用いて得られる成形体の軽量化に必要となるものであり、当該軽量化により、たとえば本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物を用いて光ピックアップレンズホルダーを得たとき、該光ピックアップレンズホルダーのフォーカシングの感度を向上させることが可能となる。
【0057】
前記中空フィラーには、シラスバルーン、ガラスバルーン、セラミックバルーン、有機樹脂バルーン、フラーレンなどが使用可能である。入手の容易さ及びより破損し難いという点で、ガラスバルーンが特に好ましい。
【0058】
前記中空フィラーの平均粒径は1〜200μmが好ましく、さらに好ましくは5〜100μmであり、より好ましくは10〜50μmであり、特に好ましくは10〜30μmである。中空フィラーの平均粒径が大き過ぎると、中空フィラーの強度が低くなる傾向にあり、中空フィラー自体が破損し易いものとなる。一方、中空フィラーの平均粒径が小さ過ぎると、その表面積が大きくなることから吸湿を起こし易くなり、造粒時に液晶性ポリエステルの加水分解が助長されるおそれがある。中空フィラーの強度は、1000kg/cm2以上であることが好ましく、1000〜1800kg/cm2であることが好ましく、1200〜1800kg/cm2であることがより好ましい。
【0059】
前記中空フィラーの体積中空率は、好ましくは40〜80%、より好ましくは60〜80%である。なお、ここでいう体積中空率とは、下記の式によって求められる概算値である。
【0060】
(体積中空率)=100×{(1−(σ1/σ2)}
【0061】
上式において、σ1は中空フィラーの真比重を表し、σ2は中空フィラーを構成する材料の比重を表す。
【0062】
このような好適な平均粒径、強度及び体積中空率を満たす中空フィラーとしては、たとえば、住友スリーエム(株)の“グラスバブルズS60HS”(強度:1260kg/cm2,平均粒径27μm,体積中空率76%)を挙げることができる。
【0063】
<その他の添加剤>
上述のように、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は、成分(A)〜(C)を必須成分として含むものであるが、該液晶性ポリエステル樹脂には、本発明の目的を損なわない範囲で、成分(A)以外の樹脂、たとえば、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂の1種又は2種以上を配合することもできる。
【0064】
また、同様に本発明の目的を損なわない範囲で、成分(B)及び成分(C)以外の充填剤や添加剤を配合することもできる。具体例を挙げると、繊維状の無機充填材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ウォラストナイト、ホウ酸アルミニウムウィスカ、チタン酸カリウムウィスカ、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維などを配合してもよい。これらは、単独でも、2種類以上を使用してもよい。球状の無機充填材としては、ガラスビーズ、シリカビーズなどが挙げられる。添加剤としては、フッ素樹脂、金属石鹸類等の離型改良剤;染料、顔料等の着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤等の当分野で通常使用されているような添加剤を配合してもよい。また、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの外部滑剤効果を有する添加剤を用いてもよい。
【0065】
<液晶性ポリエステル樹脂組成物の製造方法>
本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は、成分(A)〜(C)を含有し、必要に応じて、成分(A)以外の樹脂や成分(B)及び成分(C)以外の充填剤や添加剤を配合することができる。成分(A)〜(C)の配合割合は、得られる成形体の所望の比重などを考慮して適宜調整することが可能であるが、成分(A)〜(C)の合計質量に対して、成分(B)が1〜20質量%であると好ましく、5〜20質量%であるとさらに好ましい。一方、成分(A)〜(C)の合計質量に対して、成分(C)が3〜25質量%であると好ましく、4〜20質量%であるとさらに好ましい。成分(B)の配合割合が前記の範囲である場合、液晶性ポリエステルの分解を十分防止して、外観異常を発生しないという利点がある。また、成分(C)の配合割合が前記の範囲である場合、成分(B)の相乗効果により中空フィラー破損をより一層抑制し、該成形体を光ピックアップ部材として使用するうえで十分な低比重化が可能となる。また、成形体を得るために射出成形を実施した場合、せん断応力による液晶性ポリエステルの配向度を低下させて、得られる成形体のウェルド強度を向上できるという利点がある。
【0066】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物を得るための成分(A)〜(C)の混合は、種々公知の手段により実施することができる。例えば、成分(A)〜(C)、必要に応じて前記の添加剤、樹脂類などの各成分を、各々別々に溶融混合機に供給して混合する方法、これらの原料成分を乳鉢、ヘンシェルミキサー、ボールミル、リボンブレンダーなどを利用して予備混合してから溶融混合機に供給する方法などを挙げることができる。
【0067】
このような液晶ポリエステル樹脂組成物の製造方法の中でも、流動開始温度360℃以上の液晶ポリエステルを成分(A)として使用した場合、成分(C)中空フィラーの破損をより一層防止するためには、たとえば、溶融混合機に液晶ポリエステル(A)、成分(B)を溶融混合機中で充分溶融混合し、この混合物の溶融粘度が最も低下した時点で、成分(C)を混合するのが好ましい。したがって、押出溶融混錬機を用いた場合、上流側から成分(A)と成分(B)とを供給し、該溶融混錬機の途中(下流側)から成分(C)を供給するといった溶融混錬法が採用される。
【0068】
<液晶ポリエステル樹脂組成物の成形及び光ピックアップレンズホルダー>
かくして得られる本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形することにより、成形体を得ることができる。この成形手段としては、薄肉部を有する成形体が得られ易い点で射出成形が特に好ましい。また、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は、光ピックアップ部材、特に光ピックアップレンズホルダーの製造用材料として特に好適である。
好適な成形方法である射出成形に関し、さらに詳しく説明する。成形温度は、成分(A)である液晶性ポリエステルの流動開始温度を基準として、この流動開始温度より10〜80℃程度高い温度とすることが好ましい。成形温度がこの範囲であれば、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物が優れた溶融流動性を発現し、薄肉部を有する光ピックアップレンズホルダーや複雑な形状を有する光ピックアップレンズホルダーにおいても、良好な成形性を発現することができる。また、このような光ピックアップレンズホルダーに関しては、軽量化及び低コスト化などの要求が強くなっており、その形状は益々薄肉化が進んでいく傾向にある。本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物に拠れば、厚み0.1mm〜1.5mmの薄肉部を有する光ピックアップレンズホルダーの成形も容易である。さらに流動長が比較的短いような光ピックアップレンズホルダーを成形する場合には、厚み0.05mm〜0.15mmの薄肉部を有する光ピックアップレンズホルダーを成形しても、良好な寸法精度で成形することが可能となる。また、このようにして得られる成形体は、液晶性ポリエステルの優れた耐熱性を損なうことなく、ねじり弾性率や衝撃強度などの機械的強度にも優れる。さらに、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物により得られる成形体は、光ピックアップ部材として実用的な低比重のものとなる。たとえば、ASTM D792(方法A)に基づいて求められる比重が1.15〜1.55の範囲である低比重の成形体を得ることが可能であり、この成形体はねじり弾性率も十分なものである。したがって、この成形体は光ピックアップ部材として特に好適である。なお、成形体の比重を前記の範囲にするには、成分(A)の総質量に対する成分(B)や成分(C)の配合割合、特に成分(C)の配合割合を適宜調整すればよい。
【0069】
以上説明したように、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は光ピックアップ部材の製造用材料として、特に、今後益々、薄肉化や形状の複雑化が求められる光ピックアップレンズホルダーの製造用材料として極めて有用である。そして、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物を用いて得られる光ピックアップレンズ部材(光ピックアップレンズホルダー)は、ディジタルディスク駆動装置の信号読取装置の読み取り性能を向上させることができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。評価方法は以下のとおりである。
【0071】
(1)比重
液晶性ポリエステル樹脂組成物を、射出成形機(日精樹脂工業(株)の“PS40E1ASE”)を用いて、シリンダー温度350℃、金型温度130℃、射出速度60%の成形条件で、JIS K7113(1/2)号ダンベル試験片(厚さ0.5mm)に成形した。得られた試験片について、ASTM D792(方法A)に準拠して比重を測定した。
【0072】
(2)アイゾット衝撃強度
液晶性ポリエステル樹脂組成物を、射出成形機(日精樹脂工業(株)の“PS40E1ASE”)を用いて、シリンダー温度350℃、金型温度130℃、射出速度60%の成形条件で、長さ64mm、幅12.7mm、厚み6.4mmの試験片に成形した。得られた試験片について、ASTM D256に準拠してアイゾット衝撃強度を測定した。
【0073】
(3)ねじり弾性率
液晶性ポリエステル樹脂組成物を、射出成形機(日精樹脂工業(株)の“PS40E1ASE”)を用いて、シリンダー温度400℃、金型温度130℃、射出速度80%の成形条件でJIS K7113(1/2)号ダンベル試験片(厚さ0.5mm)に成形した。得られた試験片を5mm×35mmの短冊に切り出したものについて、レオメトリックス社の“Dynamic Analyzer RDA−II”を用いて、23℃、80Hzにおける貯蔵弾性率(ねじり弾性率)を測定した。
【0074】
(4)耐ハンダ性
液晶性ポリエステル樹脂組成物を、射出成形機(日精樹脂工業(株)の“PS40E1ASE”)を用いて、シリンダー温度350℃、金型温度130℃、射出速度60%の成形条件で、JIS K7113(1/2)号ダンベル試験片(厚さ1.2mm)に成形した。得られた試験片5本を所定の温度に加熱したハンダ浴に60秒間浸漬し、取り出し後の試験片に反りがあるか観察し、反りが発生した温度をはんだ耐熱温度とした。
【0075】
(5)薄肉流動長
液晶性ポリエステル樹脂組成物を、射出成形機(日精樹脂工業(株)の“PS10E1ASE”)を用いて、シリンダー温度390℃、400℃又は410℃、金型温度130℃、射出速度60%の成形条件で、図1に示す金型(0.3mmt)により成形した。得られた成形体5個について、キャビティー部(4箇所/個)の長さを測定し、それら(4箇所/個×5個)の平均値をもって薄肉流動長とした。
【0076】
製造例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、パラヒドロキシ安息香酸830.7g(5.0モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル465.5g(2.5モル)、テレフタル酸394.6g(2.375モル)、イソフタル酸20.8g(0.125モル)及び無水酢酸1153g(11.0モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して180分間還流させた。その後、副生酢酸や未反応の無水酢酸を留去しながら、2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られた内容物は室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から320℃まで5時間かけて昇温し、320℃で3時間保持することで、固相重合を進めた。冷却して液晶性ポリエステルを得た。得られた液晶性ポリエステルをLCP1とする。このLCP1の流動開始温度は385℃であり、LCP1の構造単位のモル比率は、(C1)/(A1)=0.5、[(B1)+(B2)]/(C1)=1、(B2)/(B1)=0.05であった。
【0077】
製造例2
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、パラヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で30分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して30分間還流させた。その後、副生酢酸や未反応の無水酢酸を留去しながら、2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られた内容物は室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、285℃で3時間保持することで、固相重合を進めた。冷却して液晶性ポリエステルを得た。得られた液晶性ポリエステルをLCP2とする。このLCP2の流動開始温度は327℃であり、LCP2の構造単位のモル比率は、(C1)/(A1)=0.3、[(B1)+(B2)]/(C1)=1、(B2)/(B1)=0.3であった。
【0078】
実施例1〜9、比較例1〜6
表1に示す配合割合で、液晶ポリエステル及び充填剤を配合した後、2軸押出機(池貝鉄工(株)の“PCM−30”)、水封式真空ポンプ(神港精機(株)の“SW−25”)を用いて、シリンダー温度390℃、真空ベントで脱気しながら造粒して、液晶性ポリエステル樹脂組成物をペレット状で得た。
【0079】
得られた液晶性ポリエステル樹脂組成物を上述した条件で成形し、それぞれ成形体を得て、比重、アイゾット衝撃強度、ねじり弾性率及び耐ハンダ性を測定した。また、実施例1〜3では薄肉流動長も測定した。その結果を表1に示す。なお、使用した充填剤は以下のとおりである。
【0080】
ガラス繊維:オーウェンスコーニング(株)の“CS03JAPX−1”。
マイカ1:(株)山口雲母工業所の“AB−25S”。
マイカ2:(株)山口雲母工業所の“A−21S”。
マイカ3:(株)山口雲母工業所の“A−41S”。
中空フィラー:住友スリーエム(株)の“グラスバブルズS60HS”。
【0081】
上記マイカの体積平均粒径D50を、レーザー回折式粒度分布測定装置(シスメックス(株)の“マスターサイザー2000”)を用いて測定した結果、マイカ1は21μm、マイカ2は19μm、マイカ3は47μmであった。また、上記マイカの比表面積を、BET比表面積測定装置((株)マウンテックの“Hmmodel−1208”)を用い、ASTM D792に基づいて測定した結果、マイカ1は4m2/g、マイカ2は11m2/g、マイカ3は3m2/gであった。また、上記マイカの付着水を、加熱乾式水分計((株)エー・アンド・デイ)を用いて測定した結果、マイカ1は0.21質量%、マイカ2は0.50質量%、マイカ3は0.20質量%であった。
【0082】
【表1】

【0083】
実施例1〜3と比較例1とは、共にLCP1を75質量%、中空フィラーを5質量%使用し、残る20質量%がマイカかガラス繊維であるかの点でのみ異なるところ、実施例1〜3は、比較例1に比べて、比重が低く、すなわち軽量性の点で優れている。また、実施例5及び6と比較例2とは、共にLCP1を75質量%、中空フィラーを15質量%使用し、残る10質量%がマイカかガラス繊維であるかの点でのみ異なるところ、実施例5及び6は、比較例2に比べて、比重が低く、すなわち軽量性の点で優れている。これらの結果は、マイカを使用した場合に、ガラス繊維を使用した場合に比べて、中空フィラーの破損が効果的に抑制されることによると考えられる。なお、比較例3〜6から、中空フィラーの不使用下では、マイカは、ガラス繊維に比べて、比重低減効果が低いことが読み取れる。
【0084】
実施例1と実施例2と実施例3とは、共にLCP1を75質量%、マイカを20質量%、中空フィラーを5質量%使用し、マイカの種類の点でのみ異なるところ、実施例1及び2は、マイカの体積平均粒径が40μm以下であることにより、マイカの体積平均粒径が40μmを超える実施例3に比べて、薄肉流動長が大きく、すなわち、溶融流動性の点で優れており、また、実施例1及び3は、マイカの比表面積が6m2/g以下であることにより、マイカの比表面積が6m2/gを超える実施例2に比べて、アイゾット衝撃強度が高い。また、実施例5と実施例6とは、共にLCP1を75質量%、マイカを10質量%、中空フィラーを15質量%使用し、マイカの種類の点でのみ異なるところ、実施例5は、マイカの比表面積が6m2/g以下であることにより、マイカの比表面積が6m2/gを超える実施例6に比べて、アイゾット衝撃強度が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含有することを特徴とする液晶性ポリエステル樹脂組成物。
(A)液晶性ポリエステル。
(B)マイカ。
(C)中空フィラー。
【請求項2】
前記成分(A)、前記成分(B)及び前記成分(C)の合計質量に対して、前記成分(B)の含有量が1〜20質量%であり、前記成分(C)の含有量が3〜25質量%である請求項1に記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分(A)の流動開始温度が360℃以上である請求項1又は2に記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分(B)の体積平均粒径が40μm以下である請求項1〜3の何れかに記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
前記成分(B)の比表面積が6m2/g以下である請求項1〜4の何れかに記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物を成形してなる成形体。
【請求項7】
ASTM D792(方法A)に基づいて求められる比重が1.15〜1.55の範囲である請求項6記載の成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2011−26541(P2011−26541A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37133(P2010−37133)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】