説明

液晶表示素子および液晶表示素子の製造方法

【課題】本発明は、強誘電性液晶を用いた液晶表示素子において、ジグザグ欠陥、へアピン欠陥やダブルドメイン等の配向欠陥が形成されることなく強誘電性液晶のモノドメイン配向を得ることができ、相転移点以上に昇温してもその配向を維持することができる配向安定性に優れた液晶表示素子を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、2枚の基板間に強誘電性液晶と重合性モノマーの重合物とを含む液晶層が狭持され、上記基板の対向面上にそれぞれ電極と光配向膜とが順次形成された液晶表示素子であって、上記光配向膜の構成材料が、光異性化反応を生じることにより上記光配向膜に異方性を付与する光異性化反応性化合物を含む光異性化型の材料であり、かつ、上記光配向膜の構成材料が、上記液晶層を挟んで互いに異なる組成であることを特徴とする液晶表示素子を提供することにより上記目的を達成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電性液晶を用いた液晶表示素子に関するものであり、より詳しくは光配向膜を用いて強誘電性液晶の配向を制御した液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は薄型で低消費電力などといった特徴から、大型ディスプレイから携帯情報端末までその用途を広げており、その開発が活発に行われている。これまで液晶表示素子は、TN方式、STNのマルチプレックス駆動、TNに薄層トランジスタ(TFT)を用いたアクティブマトリックス駆動等が開発され実用化されているが、これらはネマチック液晶を用いているために、液晶材料の応答速度が数ms〜数十msと遅く動画表示に充分対応しているとはいえない。
【0003】
強誘電性液晶(FLC)は、応答速度がμsオーダーと極めて短く、高速デバイスに適した液晶である。強誘電性液晶はクラークおよびラガーウォルにより提唱された電圧非印加時に安定状態を二つ有する双安定性のものが広く知られているが(図3)、明、暗の2状態でのスイッチングに限られ、メモリー性を有するものの、階調表示ができないという問題を抱えている。
【0004】
近年、電圧非印加時の液晶層の状態がひとつの状態で安定化している(以下、これを「単安定」と称する。)強誘電性液晶が、電圧変化により液晶のダイレクタ(分子軸の傾き)を連続的に変化させ透過光度をアナログ変調することで階調表示を可能とするものとして注目されている(非特許文献1、図3)。このような単安定性を示す液晶としては、通常、コレステリック相(Ch)−カイラルスメクチックC相(SmC)と相変化し、スメクチックA相(SmA)を経由しない強誘電性液晶が用いられる。このように強誘電性液晶が単安定性を示す場合にはメモリー性を持たず、画素ごとにトランジスタやダイオードなどの能動素子を付加したアクティブマトリックス方式により駆動させることが望ましい。中でも、能動素子としてTFT素子を用いたアクティブマトリックス方式を採用すると、目的の画素を確実に点灯、消灯できるため高品質なディスプレイが可能となる。
【0005】
一方、強誘電性液晶は、ネマチック液晶に比べて分子の秩序性が高いために配向が難しく、ジグザグ欠陥やヘアピン欠陥と呼ばれる欠陥が発生しやすく、このような欠陥は、光漏れによるコントラスト低下の原因になる。特に、SmA相を経由しない強誘電性液晶は、層法線方向の異なる二つの領域(以下、これを「ダブルドメイン」と称する。)が発生する(図4)。このようなダブルドメインは、駆動時に白黒反転した表示になり、大きな問題となる(図5)。ダブルドメインを無くす方法として、液晶セルをCh相以上の温度に加熱し、直流電圧を印加したまま徐々に冷却する電界印加徐冷法が知られているが(非特許文献2)、この方法では、再度相転移点以上に温度が上がると配向乱れが生じてしまい、また、画素電極の間の電界が作用しない部分で配向乱れが発生する等の問題がある。
【0006】
液晶の配向処理技術としては、配向膜を用いるものがあり、その方法としてはラビング法と光配向法とがある。ラビング法は、ポリイミド膜をコートした基板をラビング処理してポリイミド高分子鎖をラビング方向に配向させることによりその膜上の液晶分子を配向させるものである。ラビング法は、ネマチック液晶の配向制御に優れており、一般に工業的にも用いられている技術である。しかしながら、この方法では静電気や塵の発生、ラビング条件の違いによる配向規制力やチルト角の不均一、大面積処理時のムラなどの問題があり、配向欠陥の生じやすい強誘電性液晶の配向処理法には適していない。また、ラビング法ではダブルドメインを改善することはできない。
【0007】
上記ラビング法に代わる非接触配向法として光配向法がある。光配向法は、高分子膜または単分子膜をコートした基板に偏光を制御した光を照射し、光励起反応(分解、異性化、二量化)を生じさせて高分子膜または単分子膜に異方性を付与することによりその膜上の液晶分子を配向させるものである。この方法は、ラビング法の問題点である静電気や塵の発生がなく、定量的な配向処理の制御ができる点で有用である。しかしながら、この方法を用いてもダブルドメインの発生を抑制することは困難であり、モノドメイン配向を得ることは難しい。
【0008】
モノドメイン化の方法として、特許文献1には、上下の配向膜の一方にラビング処理を施し、他方に光配向処理を施すことにより、強誘電性液晶を配向させる方法が記載されている。しかしながら、この方法では一方にラビング処理を施すため、前述したような静電気や塵の発生、大面積処理時のムラなどの問題が残る。
【0009】
一方、近年、カラー液晶表示素子の開発が活発に行われている。カラー表示を実現する方法としては、一般にカラーフィルター方式とフィールドシーケンシャルカラー方式がある。カラーフィルター方式は、バックライトとして白色光源を用い、R・G・Bのマイクロカラーフィルターを各画素に付随させることによりカラー表示を実現させるものである。これに対し、フィールドシーケンシャルカラー方式は、バックライトをR・G・B・R・G・B…と時間的に切り替え、それに同期させて強誘電性液晶の白黒シャッターを開閉し、網膜の残像効果により色を時間的に混合させ、これによりカラー表示を実現させるものである。このフィールドシーケンシャルカラー方式は、1画素でカラー表示ができ、透過率の低いカラーフィルターを用いなくてすむので、明るく高精細なカラー表示が可能となり、低消費電力かつ低コストを実現することができる点で有用である。しかしながら、フィールドシーケンシャルカラー方式は1画素を時間分割するものであるので、良好な動画表示特性を得るためには白黒シャッターとしての液晶が高速応答性を有していることが必要である。強誘電性液晶を用いればこの課題は解決しうるが、上述したように強誘電性液晶は配向欠陥が生じやすいという問題があり、実用化には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−5223号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】NONAKA, T., LI, J., OGAWA, A., HORNUNG, B., SCHMIDT, W., WINGEN, R., and DUBAL, H., 1999, Liq. Cryst., 26, 1599.
【非特許文献2】PATEL, J., and GOODBY, J. W., 1986, J. Appl. Phys., 59, 2355.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、強誘電性液晶を用いた液晶表示素子において、ダブルドメイン等の配向欠陥が形成されることなく強誘電性液晶のモノドメイン配向を得ることができ、相転移点以上に昇温してもその配向を維持することができる配向安定性に優れた液晶表示素子を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成するために、本発明は、2枚の基板間に強誘電性液晶と重合性モノマーの重合物とを含む液晶層が狭持され、上記基板の対向面上にそれぞれ電極と光配向膜とが順次形成された液晶表示素子であって、
上記光配向膜の構成材料が、光異性化反応を生じることにより上記光配向膜に異方性を付与する光異性化反応性化合物を含む光異性化型の材料であり、かつ、上記光配向膜の構成材料が、上記液晶層を挟んで互いに異なる組成であることを特徴とする液晶表示素子を提供する。
【0014】
本発明においては、液晶層を挟持する2枚の基板の対向面上にそれぞれ光配向膜を有しており、上記光配向膜の構成材料が、光異性化反応を生じることにより上記光配向膜に異方性を付与する光異性化反応性化合物を含む光異性化型の材料であり、かつ、上記光配向膜の構成材料が、上記液晶層を挟んで互いに異なる組成であることにより、ダブルドメイン等の配向欠陥が形成されることなく強誘電性液晶を配向させることができるという効果を奏する。また、電界印加徐冷方式によらずに、光配向膜を用いて配向処理を行うものであるので、相転移点以上に昇温してもその配向を維持し、ダブルドメイン等の配向欠陥の発生を抑制することができるという利点を有する。さらに、本発明の液晶表示素子は、上記液晶層に重合性モノマーの重合物を含むことにより、強誘電性液晶の配列が高分子安定化されるため、強誘電性液晶の配列安定性をより優れたものにできる。
【0015】
本発明においては、上記光異性化反応性化合物が、偏光方向により吸収を異にする二色性を有し、かつ、光照射により光異性化反応を生じるものであることが好ましい。このような特性を有する光異性化反応性化合物の偏光方向に配向した反応部位の異性化を生じさせることにより、上記光配向膜に容易に異方性を付与することができるからである。
【0016】
本発明においては、上記光異性化反応が、シス−トランス異性化反応であることが好ましい。光照射によりシス体またはトランス体のいずれかの異性体が増加し、それにより光配向膜に異方性を付与することができるからである。
【0017】
本発明においては、上記光異性化反応性化合物が、分子内にアゾベンゼン骨格を有する化合物であることが好ましい。アゾベンゼン骨格は、光照射によりシス−トランス異性化反応を生じるので、光配向膜の構成材料として、分子内にアゾベンゼン骨格を有する化合物を含むことにより、光配向膜に容易に異方性を付与することができるからである。また、アゾベンゼン骨格を有することにより光配向膜に付与される異方性が、強誘電性液晶の配向制御に特に適しているからである。
【0018】
本発明においては、上記光異性化反応性化合物が、アゾベンゼン骨格を側鎖として有する重合性モノマーであることが好ましい。光配向膜の構成材料として、アゾベンゼン骨格を側鎖として有する重合性モノマーを含むことにより、光配向膜に容易に異方性を付与することができ、その異方性を安定化することができるからである。
【0019】
本発明においては、上記重合性モノマーの重合物を構成する重合性モノマーが紫外線硬化性液晶モノマーであることが好ましい。紫外線硬化性液晶モノマーは液晶性を示すことから、上記光配向膜の作用により配列することができる。したがって、上記紫外線硬化性液晶モノマーが配列した状態で重合することにより、強誘電性液晶の配列安定性を向上できる利点を有するからである。また、紫外線硬化性液晶モノマーは紫外線照射により重合反応を生じさせることができるため、本発明の液晶表示素子の製造方法を簡略化することができるという利点も有する。
【0020】
本発明においては、上記強誘電性液晶が、単安定性を示すものであることが好ましい。強誘電性液晶として単安定性を示すものを用いることにより、本発明の構成とすることの効果が顕著となるからである。
【0021】
本発明においては、上記強誘電性液晶が、相系列にスメクチックA相を持たないものであることが好ましい。上述したように、相系列にスメクチックA相を持たない強誘電性液晶は、ダブルドメイン等の配向欠陥を生じやすいが、上下の光配向膜の組成を、液晶層を挟んで互いに異なるものとすることにより、ダブルドメイン等の配向欠陥の発生を抑制することができ、本発明の構成とすることの効果が顕著となるからである。
【0022】
本発明の液晶表示素子は、薄膜トランジスタ(TFT)を用いたアクティブマトリックス方式により駆動させるものであることが好ましい。TFT素子を用いたアクティブマトリックス方式を採用することにより、目的の画素を確実に点灯、消灯できるため高品質なディスプレイが可能となるからである。さらに、一方の基板上にTFT素子をマトリックス状に配置してなるTFT基板と、他方の基板上の表示部全域に共通電極を形成してなる共通電極基板とを組み合わせ、上記共通電極基板の共通電極と基板との間にTFT素子のマトリックス配置させたマイクロカラーフィルターを形成し、カラー液晶表示素子として用いることもできる。
【0023】
また、本発明の上記液晶表示素子は、フィールドシーケンシャルカラー方式により駆動させるものであることが好ましい。上記液晶表示素子は、応答速度が速く、配向欠陥を生じることなく強誘電性液晶を配向させることができるので、フィールドシーケンシャルカラー方式により駆動させることにより、低消費電力かつ低コストで、視野角が広く、明るく高精細なカラー動画表示を実現することができるからである。
【0024】
本発明は、2枚の基板間に強誘電性液晶と重合性モノマーの重合物とを含む液晶層が狭持され、上記基板の対向面上にそれぞれ電極と光配向膜とが順次形成された構成を有し、上記光配向膜の構成材料が、光異性化反応を生じることにより上記光配向膜に異方性を付与する光異性化反応性化合物を含む光異性化型の材料であり、かつ、上記光配向膜の構成材料が、上記液晶層を挟んで互いに異なる組成である液晶表示素子の製造方法であって、
上記液晶層が、上記基板間に上記強誘電性液晶と上記重合性モノマーとを含む液晶層形成用組成物を封入する液晶封入工程と、
上記強誘電性液晶をカイラルスメクチックC相の状態とする液晶配向工程と、
上記強誘電性液晶がカイラルスメクチックC相の状態で上記重合性モノマーを重合する重合工程と、により形成されることを特徴とする液晶表示素子の製造方法を提供する。
【0025】
本発明によれば、上記基板間に上記強誘電性液晶と上記重合性モノマーとを含む液晶層形成用組成物を封入し、上記強誘電性液晶がカイラルスメクチックC相の状態で上記重合性モノマーを重合することによって上記液晶層を形成することにより、ジグザグ欠陥、ヘアピン欠陥やダブルドメイン等の配向欠陥の発生を抑制し、強誘電性液晶を用いて単安定性の動作モードを実現することができる液晶表示素子を製造することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の液晶表示素子は、ジグザグ欠陥、ヘアピン欠陥やダブルドメイン等の配向欠陥が形成されることなく強誘電性液晶を配向させることができ、相転移点以上に昇温しても配向の乱れが生じにくい配向安定性に優れた液晶表示素子を得ることができるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の液晶表示素子の一例を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の液晶表示素子の一例を示す概略断面図である。
【図3】強誘電性液晶の印加電圧に対する透過率の変化を示したグラフである。
【図4】強誘電性液晶の有する相系列の相違による配向欠陥の違いを示した図である。
【図5】強誘電性液晶の配向欠陥であるダブルドメインを示した写真である。
【図6】強誘電性液晶の単安定性を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の液晶表示素子および液晶表示素子の製造方法について詳細に説明する。
【0029】
A.液晶表示素子
まず、本発明の液晶表示素子について説明する。本発明の液晶表示素子は、2枚の基板間に強誘電性液晶と重合性モノマーの重合物とを含む液晶層が狭持され、上記基板の対向面上にそれぞれ電極と光配向膜とが順次形成された液晶表示素子であって、
上記光配向膜の構成材料が、光異性化反応を生じることにより上記光配向膜に異方性を付与する光異性化反応性化合物を含む光異性化型の材料であり、かつ、上記光配向膜の構成材料が、上記液晶層を挟んで互いに異なる組成であることを特徴とするものである。
【0030】
このような本発明の液晶表示素子について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の液晶表示素子の一例を示す概略斜視図であり、図2は概略断面図である。図に示すように、基板4aに共通電極3aが設けられ、対向基板4b上にはx電極3b、y電極3c、画素電極3dが設けられており、これらの電極が構成する電極層の内側には光配向膜2a、2bが形成されている。上記光配向膜2a、2b間には強誘電性液晶と重合性モノマーの重合物とを含む液晶層が狭持される。なお、図1においては光配向膜2a、2bを省略している。
【0031】
上記基板4a、4bの外側には偏光板5a、5bが設けられていてもよく、これにより入射光が直線偏光となり液晶分子の配向方向に偏光した光のみを透過させることができる。上記偏光板5aと5bは、偏光方向が90°ねじれて配置されている。これにより、電圧非印加状態と印加状態における液晶分子の光軸の方向や複屈折率の大きさを制御し、強誘電性液晶分子を白黒シャッターとして用いることにより、明状態と暗状態をつくることができる。例えば、電圧非印加状態では、偏光板5aを液晶分子の配向と揃うように設置することにより、偏光板5aを透過した光は、偏光方向を90°回転することができず、偏光板5bにより遮断され、暗状態となる。これに対し、電圧印加状態では、電圧により液晶分子の方向が変化し、初期状態から角度θだけ回転することにより、光の偏光方向が直線偏光から円偏光になることから、偏光板5bを透過し、明状態となる。そして、印加電圧により透過光量を制御することにより階調表示が可能となる。
【0032】
本発明の液晶表示素子は、このように本発明においては、上下の基板の対向面上にそれぞれ光配向膜を有しており、上記光配向膜の構成材料が、光異性化反応を生じることにより上記光配向膜に異方性を付与する光異性化反応性化合物を含む光異性化型の材料であり、かつ、上記光配向膜の構成材料が、上記液晶層を挟んで互いに異なる組成であることにより、ジグザグ欠陥、ヘアピン欠陥やダブルドメイン等の配向欠陥の発生を抑制し、強誘電性液晶のモノドメイン配向を得ることができる。また、本発明は電界印加徐冷方式を用いないで強誘電性液晶を配向させるものであるので、電界印加徐冷方式の問題点である相転移点以上に昇温することによる配向乱れが生じにくく、配向安定性に優れているという利点を有している。光配向膜の構成材料として異なる組成を用いることにより良好な配向状態が得られる理由は明らかではないが、上下の光配向膜のそれぞれと強誘電性液晶との相互作用の相違によるものと考えられる。このように本発明の液晶表示素子は、強誘電性液晶を白黒シャッターとして用いるものであるので、応答速度を速くすることができるという利点を有する。
【0033】
また、本発明の液晶表示素子は、例えば図1に示すように、一方の基板を薄膜トランジスタ(TFT)7がマトリックス状に配置されたTFT基板とし、他方の基板を共通電極3aが全域に形成された共通電極基板として、この2つの基板を組み合わせたものであることが好ましい。このようなTFT素子を用いたアクティブマトリックス方式の液晶表示素子について以下に説明する。
【0034】
図1においては、一方の基板は電極が共通電極3aであり、共通電極基板となっており、一方、対向基板は電極がx電極3b、y電極3cおよび画素電極3dから構成され、TFT基板となっている。このような液晶表示素子において、x電極3bおよびy電極3cはそれぞれ縦横に配列しているものであり、これらの電極に信号を加えることによりTFT素子7を作動させ、強誘電性液晶を駆動させることができる。x電極3bおよびy電極3cが交差した部分は、図示しないが絶縁層で絶縁されており、x電極3bの信号とy電極3cの信号は独立に動作することができる。x電極3bおよびy電極3cにより囲まれた部分は、本発明の液晶表示素子を駆動する最小単位である画素であり、各画素には少なくとも1つ以上のTFT素子7および画素電極3dが形成されている。本発明の液晶表示素子では、x電極3bおよびy電極3cに順次信号電圧を加えることにより、各画素のTFT素子7を動作させることができる。
【0035】
さらに、本発明の液晶表示素子は、上記共通電極3aと基板4aとの間にTFT素子7のマトリックス状に配置させたマイクロカラーフィルターを形成し、カラー液晶表示素子として用いることもできる。このような本発明の液晶表示素子の各構成部材について以下に詳細に説明する。
【0036】
1.液晶表示素子の構成部材
(1)光配向膜
光配向膜は、後述する光配向膜の構成材料をコートした基板に偏光を制御した光を照射し、光励異性化反応を生じさせて得られた膜に異方性を付与することによりその膜上の液晶分子を配向させるものである。
【0037】
本発明に用いられる光配向膜は、光を照射して光異性化反応を生じることにより、強誘電性液晶を配向させる効果(光配列性:photoaligning)を有するものである。ここで、光異性化反応とは、光照射により単一の化合物が他の異性体に変化する現象をいう。本発明に用いられる光配向膜の構成材料としては、光異性化反応を生じることにより上記光配向膜に異方性を付与する光異性化反応性化合物を含む光異性化型の材料であれば特に限定されない。なかでも本発明においては、上記光異性化反応性化合物として、光異性化反応を生じる光の波長領域が、紫外光域の範囲内、すなわち10nm〜400nmの範囲内であることが好ましく、250nm〜380nmの範囲内である化合物を用いることが好ましい。
【0038】
また上記光異性化反応性化合物としては、偏光方向により吸収を異にする二色性を有し、かつ、光照射により光異性化反応を生じるものであることが好ましい。このような特性を有する光異性化反応性化合物の偏光方向に配向した反応部位の異性化を生じさせることにより、上記光配向膜に容易に異方性を付与することができるからである。
【0039】
上記光異性化反応性化合物において、上記光異性化反応は、シス−トランス異性化反応であることが好ましい。光照射によりシス体またはトランス体のいずれかの異性体が増加し、それにより光配向膜に異方性を付与することができるからである。
【0040】
本発明に用いられる光異性化反応性化合物としては、単分子化合物、または、光もしくは熱により重合する重合性モノマーを挙げることができる。これらは、用いられる強誘電性液晶の種類に応じて適宜選択すればよいが、光照射により光配向膜に異方性を付与した後、ポリマー化することにより、その異方性を安定化することができることから、重合性モノマーを用いることが好ましい。このような重合性モノマーのなかでも、光配向膜に異方性を付与した後、その異方性を良好な状態に維持したまま容易にポリマー化できることから、アクリレートモノマー、メタクリレートモノマーであることが好ましい。
【0041】
上記重合性モノマーは、単官能のモノマーであっても、多官能のモノマーであってもよいが、ポリマー化による光配向膜の異方性がより安定なものとなることから、2官能のモノマーであることが好ましい。
【0042】
このような光異性化反応性化合物としては、具体的には、アゾベンゼン骨格やスチルベン骨格などのシス−トランス異性化反応性骨格を有する化合物を挙げることができる。
【0043】
この場合に、分子内に含まれるシス−トランス異性化反応性骨格の数は、1つであっても2つ以上であってもよいが、強誘電性液晶の配向制御が容易となることから、2つであることが好ましい。
【0044】
上記シス−トランス異性化反応性骨格は、液晶分子との相互作用をより高めるために置換基を有していてもよい。置換基は、液晶分子との相互作用を高めることができ、かつ、シス−トランス異性化反応性骨格の配向を妨げないものであれば特に限定されるものではなく、例えば、カルボキシル基、スルホン酸ナトリウム基、水酸基などが挙げられる。これらの構造は、用いられる強誘電性液晶の種類に応じて、適宜選択することができる。
【0045】
また、光異性化反応性化合物としては、分子内にシス−トランス異性化反応性骨格以外にも、液晶分子との相互作用をより高められるように、芳香族炭化水素基などのπ電子が多く含まれる基を有していてもよく、シス−トランス異性化反応性骨格と芳香族炭化水素基は、結合基を介して結合していてもよい。結合基は、液晶分子との相互作用を高められるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、−COO−、−OCO−、−O−、−C≡C−、−CH−CH−、−CHO−、−OCH−などが挙げられる。
【0046】
なお、光異性化反応性化合物として、重合性モノマーを用いる場合には、上記シス−トランス異性化反応性骨格を、側鎖として有していることが好ましい。上記シス−トランス異性化反応性骨格を側鎖として有していることにより、光配向膜に付与される異方性の効果がより大きなものとなり、強誘電性液晶の配向制御に特に適したものとなるからである。この場合に、前述した分子内に含まれる芳香族炭化水素基や結合基は、液晶分子との相互作用が高められるように、シス−トランス異性化反応性骨格と共に、側鎖に含まれていることが好ましい。
【0047】
また、上記重合性モノマーの側鎖には、シス−トランス異性化反応性骨格が配向しやすくなるように、アルキレン基などの脂肪族炭化水素基をスペーサーとして有していてもよい。
【0048】
上述したような単分子化合物または重合性モノマーの光異性化反応性化合物のなかでも、本発明に用いられる光異性化反応性化合物としては、分子内にアゾベンゼン骨格を有する化合物であることが好ましい。アゾベンゼン骨格は、π電子を多く含むため、液晶分子との相互作用が高く、強誘電性液晶の配向制御に特に適しているからである。
【0049】
アゾベンゼン骨格は、直線偏光紫外光を照射すると、下記式(1)に示されるように、分子長軸が偏光方向に配向しているトランス体のアゾベンゼン骨格が、シス体に変化する。
【0050】
【化1】

【0051】
アゾベンゼン骨格のシス体は、トランス体に比べて化学的に不安定であるため、熱的にまたは可視光を吸収してトランス体に戻るが、このとき、上記式(1)の左のトランス体になるか右のトランス体になるかは同じ確率で起こる。そのため、紫外光を吸収し続けると、右側のトランス体の割合が増加し、アゾベンゼン骨格の平均配向方向は紫外光の偏光方向に対して垂直になる。本発明においては、この現象を利用してアゾベンゼン骨格の配向方向を揃え、光配向膜に異方性を付与し、その膜上の液晶分子の配向を制御する。
【0052】
本発明に用いられる分子内にアゾベンゼン骨格を有する化合物のうち、単分子化合物としては、例えば、下記式で表される化合物を挙げることができる。
【0053】
【化2】

【0054】
上記式中、R21は各々独立して、ヒドロキシ基を表す。R22は−(A21−B21−A21−(D21−で表される連結基を表し、R23は(D21−(A21−B21−A21−で表される連結基を表す。ここで、A21は二価の炭化水素基を表し、B21は−O−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−NHCOO−または−OCONH−を表し、mは0〜3の整数を表す。D21は、mが0のとき二価の炭化水素基を表し、mが1〜3の整数のとき−O−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−NHCOO−または−OCONH−を表し、nは0または1を表す。R24は各々独立して、ハロゲン原子、カルボキシ基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化メトキシ基、シアノ基、ニトロ基、メトキシ基またはメトキシカルボニル基を表す。ただし、カルボキシ基はアルカリ金属と塩を形成していてもよい。R25は各々独立して、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、アミノ基またはヒドロキシ基を表す。ただし、カルボキシ基またはスルホ基はアルカリ金属と塩を形成していてもよい。
【0055】
上記式で表される化合物の具体例としては、下記の化合物を挙げることができる。
【0056】
【化3】

【0057】
また、本発明に用いられるアゾベンゼン骨格を側鎖として有する重合性モノマーとしては、例えば、下記式で表される化合物を挙げることができる。
【0058】
【化4】

【0059】
上記式中、R31は各々独立して、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基、ビニルオキシ基、ビニルオキシカルボニル基、ビニルイミノカルボニル基、ビニルイミノカルボニルオキシ基、ビニル基、イソプロペニルオキシ基、イソプロペニルオキシカルボニル基、イソプロペニルイミノカルボニル基、イソプロペニルイミノカルボニルオキシ基、イソプロペニル基またはエポキシ基を表す。R32は−(A31−B31−A31−(D31−で表される連結基を表し、R33は(D31−(A31−B31−A31−で表される連結基を表す。ここで、A31は二価の炭化水素基を表し、B31は−O−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−NHCOO−または−OCONH−を表し、mは0〜3の整数を表す。D31は、mが0のとき二価の炭化水素基を表し、mが1〜3の整数のとき−O−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−NHCOO−または−OCONH−を表し、nは0または1を表す。R34は各々独立して、ハロゲン原子、カルボキシ基、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化メトキシ基、シアノ基、ニトロ基、メトキシ基またはメトキシカルボニル基を表す。ただし、カルボキシ基はアルカリ金属と塩を形成していてもよい。R35は各々独立して、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、アミノ基またはヒドロキシ基を表す。ただし、カルボキシ基またはスルホ基はアルカリ金属と塩を形成していてもよい。
【0060】
上記式で表される化合物の具体例としては、下記の化合物を挙げることができる。
【0061】
【化5】

【0062】
本発明においては、上記光異性化反応性化合物の中から、要求特性に応じて、シス−トランス異性化反応性骨格や置換基を種々選択することにより、液晶層を挟持する2枚の基板上に形成された光配向膜の組成を異なるものとすることができる。この場合に、上下の光配向膜に用いられる光異性化反応性化合物として、シス−トランス異性化反応性骨格が同一のものを用いてもよいし、異なるものを用いることもできる。また、2種類以上の光異性化反応性化合物を組み合わせて用いることもでき、組み合わせを変えたり、同一の組み合わせであっても組成比を変えたりすることにより、上下の光配向膜の組成を変化させることができる。
【0063】
本発明に用いられる光配向膜の構成材料としては、上記光異性化反応性化合物のほか、光配向膜の光配列性を妨げない範囲内で添加剤を含んでいてもよい。上記光異性化反応性化合物として重合性モノマーを用いる場合には、添加剤としては、重合開始剤、重合禁止剤などが挙げられる。
【0064】
重合開始剤または重合禁止剤は、一般に公知の化合物のなかから、光異性化反応性化合物の種類によって適宜選択して用いればよい。重合開始剤または重合禁止剤の添加量は、光異性化反応性化合物に対し、0.001質量%〜20質量%の範囲内であることが好ましく、0.1質量%〜5質量%の範囲内であることがより好ましい。重合開始剤または重合禁止剤の添加量が小さすぎると重合が開始(禁止)されない場合があり、逆に大きすぎると、反応が阻害される場合があるからである。
【0065】
上述したように、本発明においては光配向膜2aと光配向膜2bの構成材料は異なる組成である。本発明においては、上記光異性化反応性化合物の中から、要求特性に応じて、シス−トランス異性化反応性骨格や置換基を種々選択することにより、上下の光配向膜の組成を異なるものとすることができるが、上記添加剤の添加量を変えることによって、組成を変化させることもできる。
【0066】
次に、光配向処理方法について説明する。まず、電極が設けられた基板の液晶層と対向する面上に、上述した光配向膜の構成材料を有機溶剤で希釈した塗工液をコーティングし、乾燥させる。この場合に、塗工液中の光異性化反応性化合物の含有量は、0.05質量%〜10質量%の範囲内であることが好ましく、0.2質量%〜5質量%の範囲内であることがより好ましい。光異性化反応性化合物の含有量が小さすぎると、配向膜に適度な異方性を付与することが困難となり、逆に大きすぎると、塗工液の粘度が高くなるので均一な塗膜を形成しにくくなるからである。
【0067】
コーティング法としては、スピンコーティング法、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、スプレーコーティング法、エアナイフコーティング法、スロットダイコーティング法、ワイヤーバーコーティング法などを用いることができる。
【0068】
上記構成材料をコーティングすることにより得られる膜の厚みは1nm〜200nmの範囲内であることが好ましく、3nm〜100nmの範囲内であることがより好ましい。上記膜の厚みが小さすぎると十分な光配列性を得ることができない場合があり、逆に厚みがありすぎても液晶分子の配向乱れを生じる場合があり、また、コスト的に好ましくないからである。
【0069】
得られた膜は、偏光を制御した光を照射することにより、光励起反応を生じさせて異方性を付与することができる。照射する光の波長領域は、用いられる光配向膜の構成材料に応じて適宜選択すればよいが、紫外光域の範囲内、すなわち100nm〜400nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは250nm〜380nmの範囲内である。
【0070】
本発明に用いられる光異性化反応性化合物として、上述したような重合性モノマーを用いる場合には、光配向処理を行った後、加熱することにより、ポリマー化し、光配向膜に付与された異方性を安定化することができる。
【0071】
(2)液晶層
本発明に用いられる液晶層は、強誘電性液晶と重合性モノマーの重合物とを含み、上記光配向膜により狭持させることにより構成されている。
【0072】
a.強誘電性液晶
上記液晶層に用いる強誘電性液晶は、カイラルスメクチックC相(SmC)を発現するものであれば特に限定されるものではないが、強誘電性液晶の相系列が、コレステリック相(Ch)−カイラルスメクチックC相(SmC)と相変化し、スメクチックA相(SmA)を経由しない材料であることが好ましい。
【0073】
本発明の液晶表示素子は、薄膜トランジスタ(TFT)を用いたアクティブマトリックス方式により駆動させることが好ましく、さらにカラーフィルター方式またはフィールドシーケンシャルカラー方式を採用することによりカラー液晶表示素子とすることができる。このような場合において、強誘電性液晶としては、Ch相−SmA相−SmC相と相変化する材料を用いることもでき、Ch相−SmC相と相変化し、SmA相を経由しない材料を用いることもできるが、本発明の液晶表示素子を特にフィールドシーケンシャルカラー方式により駆動させる場合には、SmA相を経由しない、単安定性を示す液晶材料を用いることが好ましい。特に、正負いずれかの電圧を印加したときにのみ液晶分子が動作するハーフV字駆動するものが、白黒シャッターの開口時間を長くとることができ、明るいカラー表示を実現することができる点で好ましい。
ここで、「単安定性を示す」とは、電圧無印加時の強誘電性液晶の状態がひとつの状態で安定化している状態をいう。具体的に説明すると、図6に例示するように、強誘電性液晶Aは層法線zに対しチルト角±θだけ傾く二つの状態間をコーン上に動作することができるが、電圧無印加時に強誘電性液晶Aが上記コーン上のいずれかひとつの状態で安定化している状態をいう。
【0074】
本発明に用いる強誘電性液晶としては、例えば、AZエレクトロニックマテリアルズ社より販売されている「R2301」が挙げられる。
【0075】
b.重合性モノマーの重合物
上記液晶層に含まれる重合性モノマーの重合物は、液晶層中における上記強誘電性液晶の配列を安定化させる機能を有するものである。
【0076】
(重合性モノマー)
上記重合性モノマーの重合物に用いられる重合性モノマーとしては、重合反応により重合物を生じる化合物であれば特に限定されない。このような重合性モノマーとしては、加熱処理により重合反応を生じる熱硬化性樹脂モノマー、および活性放射線の照射により重合反応を生じる活性放射線硬化性樹脂モノマーを挙げることができる。なかでも本発明においては活性放射線硬化性樹脂モノマーを用いることが好ましい。熱硬化性樹脂モノマーは重合反応を生じさせるために加温処理をすることが必要であるため、このような加温処理により上記強誘電性液晶の規則的な配列が損なわれたり、相転移が誘起されてしまう恐れがある。一方、活性放射線硬化性樹脂モノマーではこのような恐れが無く、重合反応が生じることによって強誘電性液晶の配列が害されることが少ないからである。
【0077】
上記活性放射線硬化性樹脂モノマーとしては、電子線の照射により重合反応を生じる電子線硬化性樹脂モノマー、および光照射により重合反応を生じる光硬化性樹脂モノマーを挙げることができる。なかでも本発明においては、光硬化性樹脂モノマーを用いることが好ましい。光硬化性樹脂モノマーを用いることにより、本発明の液晶表示素子の製造方法を簡略化することができるからである。
【0078】
上記光硬化性樹脂モノマーとしては、波長が150nm〜500nmの範囲内の光を照射することにより、重合反応を生じるものであれば特に限定されない。なかでも本発明おいては、波長が250nm〜450nmの範囲内、特に300nm〜400nmの範囲内の光を照射することにより重合反応を生じる紫外線硬化性樹脂モノマーを用いることが好ましい。照射装置の容易性等の面において利点を有するからである。
【0079】
上記紫外線硬化性樹脂モノマーが有する重合性官能基は、上記波長領域の紫外線照射により、重合反応を生じるものであれば特に限定されない。本発明においては、アクリレート基を有する紫外線硬化型樹脂モノマーを用いることが好ましい。
【0080】
上記紫外線硬化性樹脂モノマーは、一分子中に一つの重合性官能基を有する単官能性モノマーであってもよく、また、一分子中に二以上の重合性官能基を有する多官能性モノマーであってもよい。なかでも本発明においては、多官能性モノマーを用いることが好ましい。多官能性モノマーを用いることにより、上記液晶層においてより強いポリマーネットワークを形成することが可能になるため、分子間力および光配向膜界面におけるポリマーネットワークを強化することができる。したがって、多官能性モノマーを用いることにより、液晶層の温度変化によって上記強誘電性液晶の配列が乱れることを抑制することができるからである。
【0081】
本発明においては、上記多官能性モノマーの中でも分子の両末端に重合性官能基を有する2官能性モノマーであることが好ましい。分子の両端に上記官能基を有することにより、ポリマー同士の間隔が広いポリマーネットワークを形成することができるため、液晶層に重合性モノマーの重合物を含むことによる強誘電性液晶の駆動電圧の低下を防止できるからである。
【0082】
本発明においては、上記紫外線硬化性樹脂モノマーのなかでも、液晶性を発現する紫外線硬化性液晶モノマーを用いることが好ましい。このような紫外線硬化性液晶モノマーが好ましい理由は次の通りである。すなわち、紫外線硬化性液晶モノマーは液晶性を示すことから、上記配向膜の配向規制力により規則的に配列することができる。したがって、紫外線硬化性液晶モノマーを規則的に配列した後に、重合反応を生じさせることにより、上記液晶層中に、規則的な配列状態を維持したまま固定化することが可能になる。このような規則的な配列状態を有する重合物が液晶層中に存在することにより、上記強誘電性液晶の配列安定性を向上することができるため、本発明の液晶表示素子を耐熱性や耐衝撃性に優れたものにできるからである。
【0083】
上記紫外線硬化性液晶モノマーが示す液晶相としては、特に限定されず、例えばネマティック相、SmA相、SmC相を挙げることができる。
【0084】
本発明に用いられる上記紫外線硬化性液晶モノマーとしては、例えば、下記式に示す化合物を挙げることができる。
【0085】
【化6】

【0086】
上記式において、A、B、D、EおよびFはベンゼン、シクロヘキサンまたはピリミジンを表し、これらはハロゲン等の置換基を有していてもよい。また、AおよびB、あるいはDおよびEは、アセチレン基、メチレン基、エステル基等の結合基を介して結合していてもよい。MおよびMは、水素原子、炭素数3〜9のアルキル基、炭素数3〜9のアルコキシカルボニル基、またはシアノ基のいずれであってもよい。さらに、分子鎖末端のアクリロイルオキシ基とAまたはDとは、炭素数3〜6のアルキレン基等のスペーサーを介して結合していてもよい。
【0087】
【化7】

【0088】
上記式において、Yは、水素、炭素数1〜20のアルキル、炭素数1〜20のアルケニル、炭素数1〜20のアルキルオキシ、炭素数1〜20のアルキルオキシカルボニル、ホルミル、炭素数1〜20のアルキルカルボニル、炭素数1〜20のアルキルカルボニルオキシ、ハロゲン、シアノまたはニトロを表す。
【0089】
上記式で示される化合物のなかでも、本発明において好適に用いられる具体的な化合物としては、下記式の化合物を例示することができる。
【0090】
【化8】

【0091】
【化9】

【0092】
【化10】

【0093】
(重合性モノマーの重合物)
本発明に用いられる重合性モノマーの重合物は、単一の重合性モノマーの重合物であっても良く、また2以上の異なる重合性モノマーの重合物であっても良い。2以上の異なる重合性モノマーの重合物とする場合は、例えば、上記紫外線硬化性液晶モノマーと他の紫外線硬化性樹脂モノマーとの重合物を例示することができる。
【0094】
重合性モノマーとして上記紫外線硬化性液晶モノマーを用いた場合、本発明に用いられる重合性モノマーの重合物としては、主鎖に液晶性を示す原子団を有することにより主鎖が液晶性を示す主鎖液晶型重合物であっても良く、また側鎖に液晶性を示す原子団を有することにより側鎖が液晶性を示す側鎖液晶型重合物であっても良い。なかでも本発明においては、側鎖液晶型重合物であることが好ましい。液晶性を示す原子団が側鎖に存在することにより当該原子団の自由度が高くなるため、液晶層において液晶性を示す原子団が配向しやすくなるからである。また、その結果として液晶層中の強誘電性液晶の配向安定性を向上することができるからである。
【0095】
上記液晶層中における重合性モノマーの重合物の存在量は、上記強誘電性液晶の配列安定性を所望の程度にできる範囲内であれば特に限定されないが、通常、液晶層中に0.5質量%〜30質量%の範囲内が好ましく、特に1質量%〜20質量%の範囲内が好ましく、中でも1質量%〜10質量%の範囲内であることが好ましい。上記範囲よりも多いと、上記強誘電性液晶の駆動電圧の増加や、応答速度の低下を生じる場合があるからである。また、上記範囲よりも少ないと上記強誘電性液晶の配列安定性が不十分となり、本発明の液晶表示素子の耐熱性や耐衝撃性を損なってしまう可能性があるからである。
ここで、液晶層中における重合性モノマーの重合物の存在量は、液晶層中の単分子液晶を溶剤で洗い流した後、残存する重合性モノマーの重合物の重量を電子天秤で測量することによって求めた残存量と、上記液晶層の総質量とから算出することができる。
【0096】
c.他の化合物
本発明に用いられる液晶層には、本発明の目的を損なわない範囲で他の化合物を含んでも良い。このような他の化合物としては、未反応の重合性モノマー、反応開始剤、および反応禁止剤等を挙げることができる。
【0097】
d.液晶層
上記晶層の厚みは、1.2μm〜3.0μmの範囲内であるのが好ましく、より好ましくは1.3μm〜2.5μm、さらに好ましくは1.4μm〜2.0μmの範囲内である。液晶層の厚みが薄すぎるとコントラストが低下するおそれがあり、逆に液晶層の厚みが厚すぎると強誘電性液晶が配向しにくくなる可能性があるからである。
【0098】
e.液晶層の形成方法
液晶層の形成方法としては、一般に液晶セルの作製方法として用いられる方法を使用することができる。例えば、後述する「B.液晶表示素子の製造方法」の項において記載する方法により形成することができる。
【0099】
(3)基板
本発明に用いる基板は、一般に液晶表示素子の基板として用いられるものであれば特に限定されるものではなく、例えばガラス板、プラスチック板などが好ましく挙げられる。上記基板の表面粗さ(RSM値)は、10nm以下であることが好ましく、より好ましくは3nm以下、さらに好ましくは1nm以下の範囲内である。なお、本発明において上記表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM:ATOMIC FORCE MICROSCOPE)により測定することができる。
【0100】
(4)電極
本発明に用いる電極は、一般に液晶表示素子の電極として用いられているものであれば特に限定されるものではないが、少なくとも一方が透明導電体で形成されることが好ましい。透明導電体材料としては、酸化インジウム、酸化錫、酸化インジウム錫(ITO)等が好ましく挙げられる。本発明の液晶表示素子を、TFTを用いたアクティブマトリックス方式の液晶表示素子とする場合には、上下の電極のうち一方を上記透明導電体で形成される全面共通電極とし、他方をx電極とy電極をマトリックス状に配列し、x電極とy電極で囲まれた部分にTFT素子および画素電極を配置する。この場合に、画素電極、TFT素子、x電極およびy電極により形成される電極層の凹凸部の差は、0.2μm以下であることが好ましい。電極層の凹凸部の差が0.2μmを超えると、配向乱れを生じやすいからである。
【0101】
上記電極は、上記基板上にCVD法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の蒸着方法により透明導電膜を形成することができ、これをマトリックス状にパターニングすることによりx電極およびy電極を得ることができる。
【0102】
(5)偏光板
本発明に用いる偏光板は、光の波動のうち特定方向のみを透過させるものであれば特に限定されるものではなく、一般に液晶表示素子の偏光板として用いられているものを使用することができる。
【0103】
2.液晶表示素子の用途
本発明の液晶表示素子は、カラーフィルター方式またはフィールドシーケンシャルカラー方式を採用することによりカラー液晶表示素子として用いることができる。本発明の液晶表示素子を用いたカラー液晶表示素子は、ダブルドメイン等の配向欠陥を生じることなく強誘電性液晶を配向させることができるので、視野角が広く、高速応答性を有し、高精細なカラー表示を実現することができる。
【0104】
これらのなかでも、本発明の液晶表示素子は、フィールドシーケンシャルカラー方式により駆動させることが好ましい。上述したように、フィールドシーケンシャルカラー方式は、1画素を時間分割するものであり、良好な動画表示特性を得るためには高速応答性を特に必要とするからである。
【0105】
この場合に、強誘電性液晶としては、Ch相からSmA相を経由しないでSmC相を発現する、単安定性を有する液晶材料を用いることが好ましく、特に、正負いずれかの電圧を印加したときにのみ液晶分子が動作するハーフV字駆動する材料を用いることが好ましい。このようなハーフV字駆動する材料を用いることにより、暗部動作時(白黒シャッター閉口時)の光漏れを少なくすることができ、白黒シャッターとしての開口時間を十分に長くとることができる。それにより時間的に切り替えられる各色をより明るく表示することができ、明るいカラー液晶表示素子を実現することができる。
【0106】
3.液晶表示素子の製造方法
本発明の液晶表示素子は、液晶表示素子の製造方法として一般に用いられる方法により製造することができ、例えば、後述する「B.液晶表示素子の製造方法」の項に記載する方法により製造することができる。
【0107】
B.液晶表示素子の製造方法
次に、本発明の液晶表示素子の製造方法について説明する。本発明の液晶表示素子の製造方法は、2枚の基板間に強誘電性液晶と重合性モノマーの重合物とを含む液晶層が狭持され、上記基板の対向面上にそれぞれ電極と光配向膜とが順次形成された構成を有し、上記光配向膜の構成材料が、光異性化反応を生じることにより上記光配向膜に異方性を付与する光異性化反応性化合物を含む光異性化型の材料であり、かつ、上記光配向膜の構成材料が、上記液晶層を挟んで互いに異なる組成である液晶表示素子の製造方法であって、
上記液晶層が、上記基板間に上記強誘電性液晶と上記重合性モノマーとを含む液晶層形成用組成物を封入する液晶封入工程と、
上記強誘電性液晶をカイラルスメクチックC相の状態とする液晶配向工程と、
上記強誘電性液晶がカイラルスメクチックC相の状態で上記重合性モノマーを重合する重合工程と、により形成されることを特徴とするものである。
【0108】
本発明によれば、上記基板間に上記強誘電性液晶と上記重合性モノマーとを含む液晶層形成用組成物を封入し、上記強誘電性液晶がカイラルスメクチックC相の状態で上記重合性モノマーを重合することによって上記液晶層を形成することにより、ジグザグ欠陥、ヘアピン欠陥やダブルドメイン等の配向欠陥の発生を抑制し、強誘電性液晶を用いて単安定性の動作モードを実現することができる液晶表示素子を製造することができる。
【0109】
以下、本発明の液晶表示素子の製造方法について詳細に説明する。
【0110】
1.液晶封入工程
まず本発明における液晶封入工程について説明する。本発明における液晶封入工程は電極と光配向膜とが順次形成された2枚の基板間に上記強誘電性液晶と上記重合性モノマーとを含む液晶層形成用組成物を封入する工程である。
【0111】
本工程に用いられる上記2枚の基板は、通常、基板上に電極を形成し、次に上記電極上に光配向膜を形成することによって形成される。このような基板の形成方法としては、上記「A.液晶表示素子」の項に記載した方法と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0112】
本工程において、液晶層形成用組成物を封入する方法としては、特に限定されるものではない。例えば、あらかじめ上記基板を用いて作製した液晶セルに、上記液晶層形成用組成物を加温することによって上記液晶層形成用組成物中の強誘電性液晶を等方性液体とし、注入口からキャピラリー効果を利用して注入することにより封入することができる。この場合、注入口は接着剤で封鎖される。
【0113】
本工程に用いられる液晶層形成用組成物は、強誘電性液晶と重合性モノマーとを含むものである。上記液晶層形成用組成物に用いられる強誘電性液晶および重合性モノマーとしては、上記「A.液晶表示素子 1.液晶表示素子の構成」の項に記載したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0114】
上記液晶層形成用組成物中に含まれる上記重合性モノマーの量は、液晶層を形成した後に、上記強誘電性液晶の配列安定化するのに必要な量に応じて任意に決定すればよい。なかでも本発明においては、上記液晶層形成用組成物中0.5質量%〜30質量%の範囲内が好ましく、特に1質量%〜20質量%の範囲内が好ましく、なかでも1質量%〜10質量%の範囲内が好ましい。重合性モノマーの含有量が上記範囲よりも多いと、液晶層を形成した後に強誘電性液晶の駆動電圧が高くなってしまい、本発明により製造される液晶表示素子の性能を害する可能性が有るからである。また、上記範囲よりも低いと、強誘電性液晶の配列安定化が不十分となる結果、本発明により製造される液晶表示素子の耐熱性、耐衝撃性等が低下してしまう可能性があるからである。
【0115】
上記液晶層形成用組成物には、光重合開始剤が含まれていても良い。特に上記重合性モノマーとして紫外線硬化性樹脂モノマーを用いる場合には光重合開始剤が含まれていることが好ましい。
【0116】
上記液晶層形成用組成物に用いられる光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4−ビス(ジメチルアミン)ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミン)ベンゾフェノン、α−アミノ・アセトフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4−メチルジフェニルケトン、ジベンジルケトン、フルオレノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、p−tert−ブチルジクロロアセトフェノン、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、ベンジルメトキシエチルアセタール、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、アントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン、β−クロルアントラキノン、アントロン、ベンズアントロン、ジベンズスベロン、メチレンアントロン、4−アジドベンジルアセトフェノン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)シクロヘキサン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)−4−メチルシクロヘキサノン、2−フェニル−1,2−ブタジオン−2−(o−メトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1,3−ジフェニル−プロパントリオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−3−エトキシ−プロパントリオン−2−(o−ベンゾイル)オキシム、ミヒラーケトン、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン、ナフタレンスルホニルクロライド、キノリンスルホニルクロライド、n−フェニルチオアクリドン、4,4−アゾビスイソブチロニトリル、ジフェニルジスルフィド、ベンズチアゾールジスルフィド、トリフェニルホスフィン、カンファーキノン、アデカ社製N1717、四臭化炭素、トリブロモフェニルスルホン、過酸化ベンゾイン、エオシン、メチレンブルー等の光還元性色素とアスコルビン酸やトリエタノールアミンのような還元剤との組み合わせ等を例示できる。本工程においては、これらの光重合開始剤を1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0117】
さらに、上記光重合開始剤を用いる場合には、光重合開始助剤を併用することができる。このような光重合開始助剤としては、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン等の3級アミン類や、2−ジメチルアミノエチル安息香酸、4−ジメチルアミド安息香酸エチル等の安息香酸誘導体を例示することができるが、これらに限られるものではない。
【0118】
2.液晶配向工程
次に、本発明における液晶配向工程について説明する。本発明における液晶配向工程は、上記基板間に封入された液晶層形成用組成物中の強誘電性液晶をカイラルスメクチックC相の状態とする工程である。本工程において上記強誘電性液晶をカイラルスメクチックC相の状態とする方法としては特に限定されないが、通常、上記液晶封入工程前または後に強誘電性液晶をカイラルスメクチックC相からネマチック相への転移温度以上に加温し、封入された強誘電性液晶を冷却することによりカイラルスメクチックC相とする方法が用いられる。
【0119】
このような方法においては、まず強誘電性液晶をカイラルスメクチックC相からネマチック相への転移温度以上に加温する。加温温度は、カイラルスメクチックC相からネマチック相への転移温度以上であればよいが、通常、強誘電性液晶が等方相またはネマチック相の状態となるように加温される。具体的な温度としては、強誘電性液晶の種類によって異なり、適宜選択される。強誘電性液晶の加温は、上記液晶封入工程前に行われてもよく、液晶封入工程後に行われてもよい
【0120】
加温された強誘電性液晶の冷却は、通常は室温(25℃程度)になるまで徐冷される。
【0121】
3.重合工程
次に、本発明における重合工程について説明する。本発明における重合工程は、上記強誘電性液晶がカイラルスメクチックC相の状態で上記重合性モノマーを重合する工程である。本工程において上記重合性モノマーを重合する方法は、重合性モノマーの種類に応じて任意に決定すればよく、例えば、重合性モノマーとして紫外線硬化性樹脂モノマーを用いた場合は、紫外線照射により重合させることができる。
このような重合性モノマーの重合は、液晶層に電圧を印加した状態で行っても良く、電圧を印加しない状態で行っても良いが、本工程においては液晶層に電圧を印加しない状態で行うことが好ましい。
【0122】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0123】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0124】
実施例および比較例においては、配向膜の形成材料として下記式で表される化合物を用いた。
【0125】
【化11】

【0126】
(実施例1)
N−メチル−2−ピロリジノンと2−n−ブトキシエタノール(50:50w%)に溶解した1質量%の化合物1の溶液と、N−メチル−2−ピロリジノンと、2−n−ブトキシエタノール(50:50w%)に溶解した1質量%の化合物5の溶液をそれぞれITOでコーティングされた2枚のガラス基板に回転数4000rpmで30秒間スピンコーティングした。オーブンで100℃、1分間乾燥させた後、偏光紫外線を25℃で1000mJ/cm露光した。さらに、化合物5の溶液をスピンコーティングしたものについては、露光後、窒素雰囲気下150℃で1時間加熱した。片方の基板に1.5μmのスペーサーを散布し、もう片方の基板にシール材をシールディスペンサーで塗布した。その後、基板を偏光紫外線照射方向と平行の状態に組み立て、熱圧着を行った。液晶は「2301」(AZエレクトロニックマテリアルズ社製)にUCL001(大日本インキ化学工業社製)を5質量%混合した物を用い、注入口上部に液晶を付着しオーブンを用いて、ネマチック相−等方相転移温度より10℃〜20℃高い温度で注入を行い、ゆっくりと常温に戻し、非偏光紫外線を1000mJ照射したところ、配向欠陥のないモノドメイン相が得られた。
【0127】
(比較例1)
N−メチル−2−ピロリジノンと2−n−ブトキシエタノール(50:50w%)に溶解した1質量%の化合物1の溶液をITOでコーティングされた2枚のガラス基板に回転数4000rpmで30秒間スピンコーティングした。その後、実施例1と同様にして乾燥した後、露光処理した。さらに、上記に示した方法でセルを組み、液晶を注入し、露光したところモノドメイン相は得られず、ダブルドメインやジグザグ欠陥、ヘアピン欠陥などの配向欠陥が発生した。
【0128】
(比較例2)
N−メチル−2−ピロリジノンと2−n−ブトキシエタノール(50:50w%)に溶解した1質量%の化合物5の溶液をITOでコーティングされた2枚のガラス基板に回転数4000rpmで30秒間スピンコーティングした。その後、実施例1と同様にして乾燥した後、露光処理し、露光後、窒素雰囲気下150℃で1時間加熱した。さらに上記に示した方法でセルを組み、液晶を注入し、露光したところモノドメイン相は得られず、ダブルドメインやジグザグ欠陥、ヘアピン欠陥などの配向欠陥が発生した。
【0129】
(実施例2)
N−メチル−2−ピロリジノンと2−n−ブトキシエタノール(50:50w%)に溶解した1質量%の化合物2の溶液と、N−メチル−2−ピロリジノンと、2−n−ブトキシエタノール(50:50w%)に溶解した1質量%の化合物5の溶液をそれぞれITOでコーティングされた2枚のガラス基板に回転数4000rpmで30秒間スピンコーティングした。オーブンで100℃、1分間乾燥させた後、偏光紫外線を25℃で1000mJ/cm露光した。さらに、化合物5の溶液をスピンコーティングしたものについては、露光後、窒素雰囲気下150℃で1時間加熱した。片方の基板に1.5μmのスペーサーを散布し、もう片方の基板にシール材をシールディスペンサーで塗布した。その後、基板を偏光紫外線照射方向と平行の状態に組み立て、熱圧着を行った。液晶は「2301」(AZエレクトロニックマテリアルズ社製)にUCL001(大日本インキ化学工業社製) を5質量%混合した物を用い、注入口上部に液晶を付着しオーブンを用いて、ネマチック相−等方相転移温度より10℃〜20℃高い温度で注入を行い、ゆっくりと常温に戻し、非偏光紫外線を1000mJ照射したところ、配向欠陥のないモノドメイン相が得られた。
【0130】
(実施例3)
N−メチル−2−ピロリジノンと2−n−ブトキシエタノール(50:50w%)に溶解した1質量%の化合物3の溶液と、N−メチル−2−ピロリジノンと、2−n−ブトキシエタノール(50:50w%)に溶解した1質量%の化合物5の溶液をそれぞれITOでコーティングされた2枚のガラス基板に回転数4000rpmで30秒間スピンコーティングした。オーブンで100℃、1分間乾燥させた後、偏光紫外線を25℃で1000mJ/cm露光した。さらに、露光後、窒素雰囲気下150℃で1時間加熱した。片方の基板に1.5μmのスペーサーを散布し、もう片方の基板にシール材をシールディスペンサーで塗布した。その後、基板を偏光紫外線照射方向と平行の状態に組み立て、熱圧着を行った。液晶は「2301」(AZエレクトロニックマテリアルズ社製)にUCL001(大日本インキ化学工業社製) を5質量%混合した物を用い、注入口上部に液晶を付着しオーブンを用いて、ネマチック相−等方相転移温度より10℃〜20℃高い温度で注入を行い、ゆっくりと常温に戻し、非偏光紫外線を1000mJ照射したところ、配向欠陥のないモノドメイン相が得られた。
【0131】
(実施例4)
N−メチル−2−ピロリジノンと2−n−ブトキシエタノール(50:50w%)に溶解した1質量%の化合物4の溶液と、N−メチル−2−ピロリジノンと、2−n−ブトキシエタノール(50:50w%)に溶解した1質量%の化合物5の溶液をそれぞれITOでコーティングされた2枚のガラス基板に回転数4000rpmで30秒間スピンコーティングした。オーブンで100℃、1分間乾燥させた後、偏光紫外線を25℃で1000mJ/cm露光した。さらに、露光後、窒素雰囲気下150℃で1時間加熱した。片方の基板に1.5μmのスペーサーを散布し、もう片方の基板にシール材をシールディスペンサーで塗布した。その後、基板を偏光紫外線照射方向と平行の状態に組み立て、熱圧着を行った。液晶は「2301」(AZエレクトロニックマテリアルズ社製)にUCL001(大日本インキ化学工業社製) を5質量%混合した物を用い、注入口上部に液晶を付着しオーブンを用いて、ネマチック相−等方相転移温度より10℃〜20℃高い温度で注入を行い、ゆっくりと常温に戻し、非偏光紫外線を1000mJ照射したところ、配向欠陥のないモノドメイン相が得られた。
【0132】
(実施例5)
N−メチル−2−ピロリジノンと2−n−ブトキシエタノール(50:50w%)に溶解した1質量%の化合物1の溶液と、N−メチル−2−ピロリジノンと、2−n−ブトキシエタノール(50:50w%)に溶解した1質量%の化合物5の溶液をそれぞれITOでコーティングされた2枚のガラス基板に回転数4000rpmで30秒間スピンコーティングした。オーブンで100℃、1分間乾燥させた後、偏光紫外線を25℃で1000mJ/cm露光した。さらに、化合物5の溶液をスピンコーティングしたものについては、露光後、窒素雰囲気下150℃で1時間加熱した。片方の基板に1.5μmのスペーサーを散布し、もう片方の基板にシール材をシールディスペンサーで塗布した。その後、基板を偏光紫外線照射方向と平行の状態に組み立て、熱圧着を行った。液晶は「2301」(AZエレクトロニックマテリアルズ社製)にUCL001(大日本インキ化学工業社製)を5質量%混合した物を用い、注入口上部に液晶を付着しオーブンを用いて、ネマチック相−等方相転移温度より10℃〜20℃高い温度で注入を行い、ゆっくりと常温に戻し、非偏光紫外線を1000mJ照射したところ、配向欠陥のないモノドメイン相が得られた。
【0133】
(実施例6)
N−メチル−2−ピロリジノンと2−n−ブトキシエタノール(50:50w%)に溶解した1質量%の化合物1の溶液と、N−メチル−2−ピロリジノンと、2−n−ブトキシエタノール(50:50w%)に溶解した1質量%の化合物5の溶液をそれぞれITOでコーティングされた2枚のガラス基板に回転数4000rpmで30秒間スピンコーティングした。オーブンで100℃、1分間乾燥させた後、偏光紫外線を25℃で1000mJ/cm露光した。さらに、化合物5の溶液をスピンコーティングしたものについては、露光後、窒素雰囲気下150℃で1時間加熱した。片方の基板に1.5μmのスペーサーを散布し、もう片方の基板にシール材をシールディスペンサーで塗布した。その後、基板を偏光紫外線照射方向と平行の状態に組み立て、熱圧着を行った。液晶は「2301」(AZエレクトロニックマテリアルズ社製)にUCL001(大日本インキ化学工業社製)を5質量%混合した物を用い、注入口上部に液晶を付着しオーブンを用いて、ネマチック相−等方相転移温度より10℃〜20℃高い温度で注入を行い、ゆっくりと常温に戻し、非偏光紫外線を1000mJ照射したところ、配向欠陥のないモノドメイン相が得られた。
【符号の説明】
【0134】
1 … 液晶層
2a、2b … 光配向膜
3a … 共通電極
3b … x電極
3c … y電極
3d … 画素電極
4a、4b … 基板
5a、5b … 偏光板
7 … TFT素子
A … 強誘電性液晶分子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の基板間に強誘電性液晶と重合性モノマーの重合物とを含む液晶層が狭持され、前記基板の対向面上にそれぞれ電極と光配向膜とが順次形成された液晶表示素子であって、
前記光配向膜の構成材料が、光異性化反応を生じることにより前記光配向膜に異方性を付与する光異性化反応性化合物を含む光異性化型の材料であり、かつ、前記光配向膜の構成材料が、前記液晶層を挟んで互いに異なる組成であることを特徴とする液晶表示素子。
【請求項2】
前記光異性化反応性化合物が、偏光方向により吸収を異にする二色性を有し、かつ、光照射により光異性化反応を生じるものであることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項3】
前記光異性化反応が、シス−トランス異性化反応であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液晶表示素子。
【請求項4】
前記光異性化反応性化合物が、分子内にアゾベンゼン骨格を有する化合物であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の液晶表示素子。
【請求項5】
前記光異性化反応性化合物が、アゾベンゼン骨格を側鎖として有する重合性モノマーであることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の液晶表示素子。
【請求項6】
前記重合性モノマーの重合物を構成する重合性モノマーが紫外線硬化性液晶モノマーであることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の液晶表示素子。
【請求項7】
前記強誘電性液晶が単安定性を示すものであることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の液晶表示素子。
【請求項8】
前記強誘電性液晶が相系列にスメクチックA相を持たないものであることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかの請求項に記載の液晶表示素子。
【請求項9】
薄膜トランジスタを用いたアクティブマトリックス方式により駆動させるものであることを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれかの請求項に記載の液晶表示素子。
【請求項10】
フィールドシーケンシャルカラー方式により駆動させるものであることを特徴とする請求項1から請求項9までのいずれかの請求項に記載の液晶表示素子。
【請求項11】
2枚の基板間に強誘電性液晶と重合性モノマーの重合物とを含む液晶層が狭持され、前記基板の対向面上にそれぞれ電極と光配向膜とが順次形成された構成を有し、前記光配向膜の構成材料が、光異性化反応を生じることにより前記光配向膜に異方性を付与する光異性化反応性化合物を含む光異性化型の材料であり、かつ、前記光配向膜の構成材料が、前記液晶層を挟んで互いに異なる組成である液晶表示素子の製造方法であって、
前記液晶層が、前記基板間に前記強誘電性液晶と前記重合性モノマーとを含む液晶層形成用組成物を封入する液晶封入工程と、
前記強誘電性液晶をカイラルスメクチックC相の状態とする液晶配向工程と、
前記強誘電性液晶がカイラルスメクチックC相の状態で前記重合性モノマーを重合する重合工程と、により形成されることを特徴とする液晶表示素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−150361(P2011−150361A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55490(P2011−55490)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【分割の表示】特願2005−147246(P2005−147246)の分割
【原出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】