説明

液晶表示装置

【課題】配向膜なしで、またラビング工程なしで、液晶の垂直配向を実現でき、パネル設計を最適化することで、高コントラスト、高輝度、高速応答、大画面化を実現する。
【解決手段】上部基板または下部基板のいずれか一方の基板上にくし歯電極を有し、横電界により液晶を駆動する液晶表示装置において、前記液晶にデンドリマーが添加されてなり、前記くし歯電極の間隔を5−15μm、セル厚を5−8μm、デンドリマー濃度を0.1wt%以上、前記液晶の誘電異方性Δεを8以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方の基板上にくし歯電極を有し、横電界により一対の基板間に狭持された液晶を駆動するIPS方式の液晶表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、IPS方式の構造で、垂直配向膜を形成し高コントラストを得るようにした液晶表示装置がある(例えば、特許文献1ないし3参照)。
【0003】
また、本出願人等は、配向膜を形成しなくても液晶配向制御が可能な液晶表示装置を提案している(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−275682号公報
【特許文献2】特開2002−55357号公報
【特許文献3】特開2007−34151号公報
【特許文献4】特開2010−170090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献4に記載の液晶表示装置は、IPS方式の液晶表示装置の液晶にデンドリマーを添加することで配向膜なしで垂直配向を実現するものであるが、配向膜がない従来のIPSパネルの液晶にデンドリマーを注入しただけでは、パネルの明るさ、駆動電圧、応答速度が、従来のIPSより劣る。
【0006】
そこで、本発明は、上述した点に鑑みてなされたもので、従来のIPS方式の液晶表示装置と同等の性能が得られるように、パネル設計を最適化することができる液晶表示装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る液晶表示装置は、上部基板または下部基板のいずれか一方の基板上にくし歯電極を有し、横電界により液晶を駆動する液晶表示装置において、前記液晶にデンドリマーが添加されてなり、前記くし歯電極の間隔を5−15μm、セル厚を5−8μm、デンドリマー濃度を0.1wt%以上、前記液晶の誘電異方性Δεを8以上とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、配向膜なしで、またラビング工程なしで、液晶の垂直配向を実現でき、パネル設計を最適化することで、高コントラスト、高輝度、高速応答、大画面化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る液晶表示装置のパネル断面図である。
【図2】パネルの明るさ、駆動電圧、応答速度がバランスよく実現できるように、くし歯電極としての図1に示すITO電極5の間隔l、角度φなどの最適化を説明するためのITO電極の上面図である。
【図3】パネル設計値に対する駆動電圧対明るさの関係を示す図である。
【図4】くし歯電極の間隔l対駆動電圧の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、高コントラスト、高輝度、高速応答、大画面の液晶表示装置を提供するものである。すなわち、IPSモードで、配向制御層を有さず、デンドリマーを添加した液晶を有した液晶表示装置において、下記のパネル設計を行うことで、高コントラスト、高輝度、高速応答を実現する。
【0011】
(1)くし歯電極の間隔=5〜15μm
(2)くし歯電極の角度=45度
(3)セル厚=5〜8μm
(4)デンドリマー濃度≧0.1wt%
(5)液晶の(誘電異方性)Δε≧8
【0012】
くし歯電極の間隔が狭い場合は、高速応答が得られるが、開口率が狭く低輝度となる。高輝度化のために、くし歯電極間隔を広げると、液晶への印加電圧が低下し、低速応答となる。従って、高速応答と高開口率の両立には、くし歯電極の間隔に最適値が存在する。さらに、セル厚、液晶のΔεにも最適値が存在する。本発明によるパネル設計値を適用すれば、高輝度、高速応答の両立が可能となる。
【0013】
まず、液晶に添加するデンドリマーについて詳述する。本発明に係る液晶表示装置において、液晶組成物は、アルキル基又はアルコキシ基を末端に有するデンドリマーを含む。このデンドリマーは、単成分のシアノ系液晶だけでなく、2種以上の液晶成分を含む混合液晶との相溶性に優れているため、実用的な液晶材料(混合液晶)と組み合わせて液晶組成物とすることができる。また、このデンドリマーを含む液晶組成物を液晶表示装置の液晶層に使用した場合、液晶層と基板との界面にデンドリマーが主に存在することによって配向膜と同様の作用をもたらし、液晶組成物中の液晶分子を基板に対して垂直に配向させることができる。
【0014】
上記のような特徴を有するデンドリマーとしては、例えば、下記の式(I)により表すことができる。
【0015】
【化1】

【0016】
上記の式(I)中、Rは、下記の式(II)により表される。
【0017】
【化2】

【0018】
上記の式(II)中、R1は炭素数1〜12のアルキル基又はアルコキシ基を表し、Xは直接結合、−COO−基又は−N=N−基を表し、A及びBは同一でも異なっていてもよく、
【0019】
【化3】

【0020】
を表し、nは3〜12を表す。
【0021】
本発明の液晶組成物に用いられるデンドリマーは、コア部分を与える多官能性アミン化合物と、末端部分を与えるアクリル酸エステル誘導体とを有機溶剤中で反応させることによって得ることができる。
【0022】
多官能性アミン化合物としては、ポリプロピレンテトラミンデンドリマー第1世代(Polypropylene tetramine Dendrimer, Generation 1.0)、ポリプロピレンオクタミンデンドリマー第2世代(Polypropylene octaamine Dendrimer, Generation 2.0)などであり、アルドリッチ社製のDAB−Am−4やDAB−Am−8などの市販品を使用することもできる。また、この多官能性アミン化合物は、エチレンジアミン及びアクリロニトリルを出発原料として合成することもできる。
【0023】
アクリル酸エステル誘導体としては、合成するデンドリマーに応じて適宜選択すればよく、例えば、上記の式(I)により表されるデンドリマーを合成する場合は、下記の式(III)で表される化合物を原料として用いることができる。
【0024】
【化4】

【0025】
上記の式(III)中、R1、X、A、B及びnは、上記で定義した通りである。
【0026】
多官能性アミン化合物とアクリル酸エステル誘導体との反応比は、多官能性アミン化合物1モルに対して、アクリル酸エステル誘導体を1.0〜3.0モル、好ましくは1.1〜1.5モルである。
【0027】
有機溶剤としては、従来公知のものを用いることができ、例えば、1,2−ジクロロエタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル系溶剤;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤;N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶剤が挙げられる。これらの有機溶剤は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0028】
また、有機溶剤の量は、多官能性アミン化合物やアクリル酸エステル誘導体の量などに応じて適宜調整すればよく、特に限定されない。
【0029】
反応温度としては、−50〜150℃、好ましくは25〜80℃である。反応温度が−50℃未満であると、反応速度が著しく低下することがある。また、反応温度が150℃を超えると、多官能性アミン化合物やアクリル酸エステル誘導体の安定性が低下することがある。
【0030】
反応時間としては、2〜200時間、好ましくは48〜100時間である。反応時間が2時間未満であると、反応が十分に進行しないことがある。反応時間が200時間を超えると、時間がかかりすぎて実用的でない。
【0031】
反応終了後は溶剤を除去することにより、目的とするデンドリマーを得ることができる。また、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ヘキサン、トルエンなどの貧溶剤を加えて加熱し、上澄みを除去することによって精製してもよい。
【0032】
本発明の液晶組成物におけるデンドリマーの含有量は、液晶層と基板との界面にデンドリマーを存在させ得るような量であればよい。すなわち、デンドリマーの含有量は、基板の面積に依存するため一義的に定義することはできないが、一般的に、0.01〜50質量%である。デンドリマーの含有量が0.01質量%未満であると、液晶層と基板との界面に存在するデンドリマーの量が少なすぎ、液晶分子の配向制御効果が十分でないことがある。一方、デンドリマーの含有量が50質量%を超えると、液晶材料の量が少なすぎてしまい、液晶表示装置としての所望の性能が得られないことがある。
【0033】
本発明の液晶組成物に用いられる液晶材料は、2種以上の液晶成分を含む混合液晶である。この混合液晶は、使用用途にあわせて所望の物性を満たすように幾つかの液晶成分を混合することによって調製されるため、一義的に定義することは難しいが、フッ素系混合液晶やシアノ系混合液晶などと一般的に称される混合液晶を用いることができる。これらの中でも、現在、液晶表示装置に一般的に使用されているフッ素系混合液晶を用いることが好ましい。ここで、本明細書におけるフッ素系混合液晶とは、1種以上のフッ素系液晶を含む混合液晶を意味し、シアノ系混合液晶とは、1種以上のシアノ系液晶を含む混合液晶を意味する。
【0034】
上記の混合液晶は、一般的に公知であると共に商業的に利用可能であり、例えば、フッ素系混合液晶は、ZLI−4792(p型)やMLC−6608(n型)という商品名でメルク株式会社によって販売されている。また、シアノ系混合液晶は、JC−5066XX(p型)という商品名でチッソ石油化学株式会社によって販売されている。
【0035】
本発明の液晶組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、所望の物性を達成するために、液晶組成物に一般的に配合されている公知の各種添加物を配合してもよい。
本発明の液晶組成物は、上記成分を用いて公知の方法、例えば、各成分を混合することによって製造することができる。
【0036】
このようにして製造される本発明の液晶組成物は、室温において液晶性を示す。また、本発明の液晶組成物は、液晶層から等方相又は別の液晶相への相転移温度が50℃以上120℃以下である。そのため、この液晶組成物を使用する液晶表示装置は実用性が高い。
【0037】
このように、液晶にデンドリマーを添加すると、配向膜なしで垂直配向が実現できる。しかし、デンドリマーを注入しただけでは、パネルの明るさ、駆動電圧、応答速度が、従来のIPSより劣る。そこで、従来のIPSと同等の性能が得られるように、パネル設計を最適化する。
【0038】
図1は、本発明に係る液晶表示装置のパネル断面図である。図1に示すように、上部基板1と下部基板2との間に液晶3が狭持されており、この液晶3には、上述したデンドリマー4が添加されている。また、下部基板2上には、くし歯電極としてのITO電極5が設けられている。このような構成を備える液晶表示装置に、電圧を印加すると、基板界面へのデンドリマーの濃度が高くなり、基板界面に集中するデンドリマーは配向膜として機能する。
【0039】
図2は、パネルの明るさ、駆動電圧、応答速度がバランスよく実現できるように、くし歯電極である図1に示すITO電極5の間隔l、角度φなどの最適化を説明するためのITO電極の上面図である。
【0040】
ここで、くし歯電極の間隔lは、単位画素当たりの電極面積の割合を少なくするために大きくする必要があるが、間隔lを大きくすると、液晶をスイッチングするための駆動電圧が高くならざるを得なくなり、駆動電圧を考慮した値を選択する必要がある。くし歯電極の間隔lが5μm以下では、単位画素当たりの電極面積の割合が増えて液晶が動かないで黒のままの領域が増えるため暗い表示になる。他方、くし歯電極の間隔lが15μm以上では、液晶にかかる電圧が弱くなるため、駆動電圧が高くならざるを得ない。したがって、現実的には、くし歯電極の間隔は、5−15μmの範囲に最適値が存在する。
【0041】
次に、くし歯電極の角度φは、パネルの明るさに関係する。図示しない偏光板は、図2に対し紙面上十字方向に配置される。それに対し、液晶分子が45度の角度になるとき最も明るい明るさが得られる。すなわち、くし歯電極の角度φが45度の角度になるとき最も明るくなる。これは公知である。
【0042】
次に、セル厚(基板間距離)dは、薄いとプロセスをつくりにくく、駆動電圧も高くならざるを得ない。他方、厚すぎると、液晶層に電圧が有効にかからなくなり、スイッチングにくくなる。セル厚(基板間距離)dは、現実的には、5−8μmの範囲が好ましい。
【0043】
次に、デンドリマーの濃度は、薄いと、液晶垂直配向が得られなくなる。逆に、濃過ぎると、液晶に対し不純物を添加することになり、液晶層の抵抗が下がって駆動電圧が高くなる。デンドリマーの濃度としては、デンドリマー濃度≧0.1wt%が好ましい。
【0044】
次に、液晶のΔε(誘電異方性)は、例えば8以上の大きい値の場合、より少ない電圧で液晶が動き易くなり、駆動電圧は低い。逆に、8より低いと液晶が動きにくくなり、駆動電圧を高めなければならなくなる。したがって、Δε≧8とすることが好ましい。
【0045】
図3は、任意の液晶に任意のデンドリマーを添加し、デンドリマーの濃度が1wt%である場合のパネル設計値に対する駆動電圧対明るさの関係を示す図である。図3において、A,B,Cは、くし歯電極の間隔lが5,10,15μmであるときの駆動電圧対明るさの関係を示す。
【0046】
この図3では、同じセル厚dで比較した場合、くし歯電極の間隔lを大きくすると明るさが増し、くし歯電極の間隔lを一定にしてセル厚dを小さくすると駆動電圧が下がることを示している。
【0047】
また、図4は、くし歯電極の間隔l対駆動電圧の関係を示す図である。図4において、A,B,Cは、セル厚が3,5,8μmの場合である。図4に示すように、特性Aの場合は、くし歯電極の間隔lを変えても駆動電圧は高く、特性Bの場合は、全体的に駆動電圧が下がり、特性Cの場合は駆動電圧がさらに下がることが理解できる。
【0048】
従って、本発明によれば、配向膜なしで、またラビング工程なしで、液晶の垂直配向を実現でき、上述した実施の形態によるパネル設計値を適用することで、高輝度、高速応答の両立が可能となる。
【符号の説明】
【0049】
1 上部基板、2 下部基板、3 液晶、4 デンドリマー、5 くし歯電極(ITO電極)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部基板または下部基板のいずれか一方の基板上にくし歯電極を有し、横電界により液晶を駆動する液晶表示装置において、
前記液晶にデンドリマーが添加されてなり、
前記くし歯電極の間隔を5−15μm、セル厚を5−8μm、デンドリマー濃度を0.1wt%以上、前記液晶の誘電異方性Δεを8以上とする
ことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液晶表示装置において、
前記デンドリマーは、以下の式(I):
【化1】

(式中、Rは式(II):
【化2】

を表し、R1は炭素数1〜12のアルキル基又はアルコキシ基を表し、Xは直接結合、−COO−基又は−N=N−基を表し、A及びBは同一でも異なっていてもよく、
【化3】

を表し、nは3〜12を表す)により表される
ことを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−118329(P2012−118329A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268529(P2010−268529)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(501426046)エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッド (732)
【Fターム(参考)】