説明

液晶装置の製造方法および液晶装置

【課題】無機配向膜の配向規制力を損なうことなく、表面絶縁膜の凹部の底部を絶縁膜で覆うことのできる液晶装置の製造方法、および液晶装置を提供すること。
【解決手段】液晶装置100を製造するにあたって、無機配向膜形成工程において斜方蒸着により無機配向膜16、26を形成した後、表面絶縁膜形成工程では、無機配向膜16、26の表面側に、飽和溶液からの析出を利用した液相析出法により、表面絶縁膜17、27を形成する。かかる液相析出法によれば、無機配向膜16、26の凸部16a、26aの表面、および凸部16a、26aの間に発生している凹部16b、26bの底部に略一定の膜厚で表面絶縁膜17、27が形成される。このため、表面絶縁膜17、27を形成した後も、無機配向膜16、26の凹凸形状が残るため、配向規制力を損なうことがない。また、凹部16b、26bの底部で画素電極9aや共通電極21が露出することもない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向膜が形成された一対の基板間に液晶層が保持された液晶装置の製造方法、および液晶装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶装置は、一方面側に画素電極および配向膜が形成された素子基板と、共通電極および配向膜が形成された対向基板との間に液晶材料が保持された構造を有している。かかる液晶装置においては、画素電極および共通電極から液晶に電荷が放出されると、表示画像にフリッカーの発生や焼き付きが発生することが指摘されている(特許文献1参照)。また、画素電極と共通電極が、異なる導電膜からなる材料からなる場合に極性反転を行うと、液晶層に印加される電界の非対称性が原因で残像や焼き付きが発生することが指摘されている(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−334113号公報
【特許文献2】特開2003−57674号公報
【特許文献3】特開2006−330527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液晶装置においては、信頼性の向上等を目的に、配向膜として、斜方蒸着により形成した無機配向膜を用いることが提案されているが、かかる無機配向膜を用いると、特許文献1、2、3で指摘されている問題が顕著となる。具体的には、配向膜として、塗布法等により形成したポリイミド膜を用いた場合、画素電極や共通電極の表面が配向膜で完全に覆われるため、画素電極や共通電極からの電荷の放出や、画素電極と共通電極とにおいて材質が相違していることが問題となりにくい。これに対して、斜方蒸着により形成した無機配向膜は、図8(a)に示すように、複数の凸部16aを有する、いわゆるカラム構造を有しているため、無機配向膜16において凸部16aの間に発生している凹部16bの底部では、画素電極9aが露出した状態になりやすい。かかる状態は、対向基板の側でも同様に発生し、共通電極が露出した状態になりやすい。従って、斜方蒸着により形成した無機配向膜16を用いると、画素電極9aや共通電極等からの電荷の放出や、画素電極9aと共通電極とにおいて材質が相違していることが問題化しやすい。
【0005】
そこで、図8(b)に示すように、無機配向膜16の表面にCVD法や蒸着法等の気相堆積法により表面絶縁膜17sを形成することが考えられるが、気相堆積法では、無機配向膜16の凸部16aの影になる部分に表面絶縁膜17sが形成されず、画素電極9aが露出した状態になりやすい。このため、画素電極9a等からの電荷の放出や、画素電極9aと共通電極との材質の相違に起因する問題を解消することができない。
【0006】
一方、図8(c)に示すように、塗布法により無機配向膜16の表面に表面絶縁膜17tを形成することが考えられるが、塗布法では、無機配向膜16の表面が平坦化してしまい、無機配向膜16の配向規制力が損なわれてしまうという問題点がある。
【0007】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、無機配向膜の配向規制力を損なうことなく、表面絶縁膜の凹部の底部を絶縁膜で覆うことのできる液晶装置の製造方法、および液晶装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る液晶装置の製造方法は、画素電極が形成された素子基板、および共通電極が形成された対向基板のうちの少なくとも一方の基板に斜方蒸着により無機配向膜を形成する無機配向膜形成工程と、前記無機配向膜の表面側に液相析出法により表面絶縁膜を形成する表面絶縁膜形成工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明では、無機配向膜形成工程において無機配向膜を形成した後、表面絶縁膜形成工程においては、無機配向膜の表面側に液相析出法により表面絶縁膜を形成する。かかる液相析出法では、飽和溶液からの析出を利用するため、無機配向膜の凸部の表面、および凸部の間の底部の双方に略一定の膜厚で表面絶縁膜が形成される。このため、表面絶縁膜を形成した後も、無機配向膜の凹凸形状が残るため、配向規制力を損なうことがない。また、無機配向膜の凸部の間の底部に表面絶縁膜が積層されるため、かかる底部で画素電極や共通電極が露出しない。それ故、画素電極や共通電極からの電荷の放出や、画素電極と共通電極との材質の相違に起因する問題が発生しにくい。
【0010】
また、本発明に係る液晶装置は、画素電極が形成された素子基板と、共通電極が形成された対向基板と、前記素子基板および前記対向基板のうちの少なくとも一方の基板に設けられ、他方の基板に向けて斜めに突出した複数の凸部を備えた無機配向膜と、前記凸部の表面、および前記凸部の間の底部に略同一の厚さで形成された表面絶縁膜と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明では、無機配向膜の凸部の表面、および凸部の間の底部に略一定の膜厚で表面絶縁膜が形成されるため、表面絶縁膜を形成した後も、無機配向膜の凹凸形状が残る。従って、配向規制力を損なうことがない。また、無機配向膜の凸部の間の底部に表面絶縁膜が積層されるため、かかる底部で画素電極や共通電極が露出しない。それ故、画素電極や共通電極からの電荷の放出や、画素電極と共通電極との材質の相違に起因する問題が発生しにくい。
【0012】
本発明に係る液晶装置の製造方法において、前記表面絶縁膜形成工程では、前記素子基板および前記対向基板の双方に対して前記無機配向膜および前記表面絶縁膜を形成することが好ましい。かかる構成によれば、前記素子基板および前記対向基板の双方に対して前記無機配向膜および前記表面絶縁膜が形成された液晶装置が実現される。
【0013】
本発明において、前記画素電極の前記対向基板側に位置する面と、前記共通電極の前記素子基板側に位置する面とは、同一の導電膜からなることが好ましい。かかる構成によれば、画素電極の表面と共通電極の表面とは同一の導電膜からなるため、液晶層を極性反転駆動した際でも、液晶層に印加される電界が非対称になることを防止することができる。それ故、液晶層に印加される電界の非対称性が原因で残像や焼き付きが発生することを防止することができる。
【0014】
本発明において、前記表面絶縁膜は、例えば、シリコン酸化膜である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を適用した液晶装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図2】本発明を適用した液晶装置の液晶パネルの説明図である。
【図3】本発明を適用した液晶装置に用いた素子基板において隣り合う複数の画素の平面図である。
【図4】本発明を適用した液晶装置のF−F′断面図である。
【図5】本発明を適用した液晶装置の製造方法を示す説明図である。
【図6】本発明を適用した液晶装置の電流−電圧特性の評価結果を示すグラフである。
【図7】本発明を適用した液晶装置を用いた投射型表示装置の概略構成図である。
【図8】従来の液晶装置の配向膜の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の説明で参照する図においては、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材毎に縮尺を異ならしめてある。なお、電界効果型トランジスターを流れる電流の方向が反転する場合、ソースとドレインとが入れ替わるが、以下の説明では、便宜上、画素電極が接続されている側をドレインとし、データ線が接続されている側をソースとして説明する。また、素子基板に形成される層を説明する際、上層側あるいは表面側とは素子基板の基板本体が位置する側とは反対側(対向基板が位置する側)を意味し、下層側とは素子基板の基板本体が位置する側を意味する。また、対向基板に形成される層を説明する際、上層側あるいは表面側とは対向基板の基板本体が位置する側とは反対側(素子基板が位置する側)を意味し、下層側とは対向基板の基板本体が位置する側を意味する。
【0017】
(全体構成)
図1は、本発明を適用した液晶装置の電気的構成を示すブロック図である。図1において、液晶装置100はVA(Vertical Alignment)モードの液晶パネル100pを有しており、液晶パネル100pは、その中央領域に複数の画素100aがマトリクス状に配列された画像表示領域10a(画素配列領域/有効画素領域)を備えている。液晶パネル100pにおいて、後述する素子基板10(図2等を参照)では、画像表示領域10aの内側で複数本のデータ線6a(画像信号線)および複数本の走査線3aが縦横に延びており、それらの交差部分に対応する位置に画素100aが構成されている。複数の画素100aの各々には、電界効果型トランジスターからなる画素トランジスター30、および後述する画素電極9aが形成されている。画素トランジスター30のソースにはデータ線6aが電気的に接続され、画素トランジスター30のゲートには走査線3aが電気的に接続され、画素トランジスター30のドレインには、画素電極9aが電気的に接続されている。
【0018】
素子基板10において、画像表示領域10aより外周側には走査線駆動回路104やデータ線駆動回路101が設けられている。データ線駆動回路101は各データ線6aに電気的に接続しており、画像処理回路から供給される画像信号を各データ線6aに順次供給する。走査線駆動回路104は、各走査線3aに電気的に接続しており、走査信号を各走査線3aに順次供給する。
【0019】
各画素100aにおいて、画素電極9aは、後述する対向基板20(図2等を参照)に形成された共通電極と液晶層を介して対向し、液晶容量50aを構成している。また、各画素100aには、液晶容量50aで保持される画像信号の変動を防ぐために、液晶容量50aと並列に蓄積容量55が付加されている。本形態では、蓄積容量55を構成するために、素子基板10には、複数の画素100aに跨って延在する容量線5bが形成されている。本形態において、容量線5bは、共通電位Vcomが印加された定電位配線6sに導通している。
【0020】
(液晶パネル100pおよび素子基板10の構成)
図2は、本発明を適用した液晶装置100の液晶パネル100pの説明図であり、図2(a)、(b)は各々、液晶パネル100pを各構成要素と共に対向基板の側から見た平面図、およびそのH−H′断面図である。
【0021】
図2に示すように、液晶パネル100pでは、素子基板10と対向基板20とが所定の隙間を介してシール材107によって貼り合わされており、シール材107は対向基板20の外縁に沿うように枠状に設けられている。シール材107は、光硬化樹脂や熱硬化性樹脂等からなる接着剤であり、両基板間の距離を所定値とするためのグラスファイバー、あるいはガラスビーズ等のギャップ材107aが配合されている。液晶パネル100pにおいて、素子基板10と対向基板20との間のうち、シール材107によって囲まれた領域内には液晶層50が保持されている。本形態において、シール材107には、液晶注入口として利用される途切れ部分107cが形成されており、かかる途切れ部分107cは、液晶材料の注入後、封止材108によって塞がれている。
【0022】
かかる構成の液晶パネル100pにおいて、素子基板10および対向基板20はいずれも四角形であり、液晶パネル100pの略中央には、図1を参照して説明した画像表示領域10aが四角形の領域として設けられている。かかる形状に対応して、シール材107も略四角形に設けられ、画像表示領域10aの外側は、四角枠状の外周領域10cになっている。
【0023】
素子基板10において、外周領域10cでは、素子基板10の一辺に沿ってデータ線駆動回路101および複数の端子102が形成されており、この一辺に隣接する他の辺に沿って走査線駆動回路104が形成されている。なお、端子102には、フレキシブル配線基板(図示せず)が接続されており、素子基板10には、フレキシブル配線基板を介して各種電位や各種信号が入力される。
【0024】
詳しくは後述するが、素子基板10の一方面10sおよび他方面10tのうち、対向基板20と対向する一方面10sの側において、画像表示領域10aには、図1を参照して説明した画素トランジスター30、および画素トランジスター30に電気的に接続する画素電極9aがマトリクス状に形成されており、かかる画素電極9aの上層側には無機配向膜16が形成されている。
【0025】
また、素子基板10の一方面10sの側において、画像表示領域10aより外側の外周領域10cのうち、画像表示領域10aとシール材107とに挟まれた四角枠状の周辺領域10bには、画素電極9aと同時形成されたダミー画素電極9bが形成されている。ダミー画素電極9bは、隣り合うダミー画素電極9b同士が細幅の連結部(図示せず)で繋がっている。また、ダミー画素電極9bは、共通電位Vcomが印加されており、画像表示領域10aの外周側端部での液晶分子の配向の乱れを防止する。また、ダミー画素電極9bは、素子基板10において無機配向膜16が形成される面を研磨により平坦化する際、画像表示領域10aと周辺領域10bとの高さ位置の差を圧縮し、無機配向膜16が形成される面を平坦面にするのに寄与する。なお、ダミー画素電極9bに電位を印加せず、ダミー画素電極9bを電位的にフロート状態とする場合もあり、この場合でも、ダミー画素電極9bは、画像表示領域10aと周辺領域10bとの高さ位置の差を圧縮し、無機配向膜16が形成される面を平坦面にするのに寄与する。
【0026】
対向基板20の一方面20sおよび他方面20tのうち、素子基板10と対向する一方面20sの側には共通電極21が形成されている。共通電極21は、対向基板20の略全面あるいは複数の帯状電極として複数の画素100aに跨って形成されている。本形態において、共通電極21は、対向基板20の略全面に形成されている。
【0027】
また、対向基板20の一方面20sの側には、共通電極21の下層側に遮光層29が形成され、共通電極21の表面には無機配向膜26が積層されている。本形態において、遮光層29は、画像表示領域10aの外周縁に沿って延在する額縁部分29aとして形成されている。また、本形態において、遮光層29は、隣り合う画素電極9aにより挟まれた画素間領域10fに重なるブラックマトリクス部29bとしても形成されている。ここで、額縁部分29aはダミー画素電極9bと重なる位置に形成されており、額縁部分29aの外周縁は、シール材107の内周縁との間に隙間を隔てた位置にある。従って、額縁部分29aとシール材107とは重なっていない。
【0028】
液晶パネル100pにおいて、シール材107より外側には、対向基板20の一方面20sの側の4つの角部分に基板間導通用電極部25tが形成されており、素子基板10の一方面10sの側には、対向基板20の4つの角部分(基板間導通用電極部25t)と対向する位置に基板間導通用電極部6tが形成されている。基板間導通用電極部6tは、共通電位Vcomが印加された定電位配線6sに導通しており、定電位配線6sは、端子102のうち、共通電位印加用の端子102aに導通している。基板間導通用電極部6tと基板間導通用電極部25tとの間には、導電粒子を含んだ基板間導通材109が配置されており、対向基板20の共通電極21は、基板間導通用電極部6t、基板間導通材109および基板間導通用電極部25tを介して、素子基板10側に電気的に接続されている。このため、共通電極21は、素子基板10の側から共通電位Vcomが印加されている。シール材107は、略同一の幅寸法をもって対向基板20の外周縁に沿って設けられている。このため、シール材107は、略四角形である。但し、シール材107は、対向基板20の角部分と重なる領域では基板間導通用電極部6t、25tを避けて内側を通るように設けられており、シール材107の角部分は略円弧状である。
【0029】
かかる構成の液晶装置100において、本形態では、画素電極9aおよび共通電極21がITO(Indium Tin Oxide)膜やIZO(Indium Zinc Oxide)膜等の透光性導電膜により形成されており、液晶装置100は透過型の液晶装置である。かかる透過型の液晶装置100では、対向基板20の側から入射した光が素子基板10を透過して出射される間に変調されて画像を表示する。なお、画素電極9aおよび共通電極21のうち、例えば、共通電極21を透光性導電膜により形成し、画素電極9aをアルミニウム膜等の反射性導電膜により形成する場合もあり、かかる構成によれば、反射型の液晶装置100を構成することができる。かかる反射型の液晶装置100では、素子基板10および対向基板20のうち、対向基板20の側から入射した光が素子基板10で反射して出射される間に変調されて画像を表示する。
【0030】
液晶装置100は、モバイルコンピューター、携帯電話機等といった電子機器のカラー表示装置として用いることができ、この場合、対向基板20あるいは素子基板10には、カラーフィルター(図示せず)が形成される。また、液晶装置100では、使用する液晶層50の種類や、ノーマリホワイトモード/ノーマリブラックモードの別に応じて、偏光フィルム、位相差フィルム、偏光板等が液晶パネル100pに対して所定の向きに配置される。さらに、液晶装置100は、後述する投射型表示装置(液晶プロジェクター)において、RGB用のライトバルブとして用いることができる。この場合、RGB用の各液晶装置100の各々には、RGB色分解用のダイクロイックミラーを介して分解された各色の光が投射光として各々入射されることになるので、カラーフィルターは形成されない。
【0031】
本形態において、液晶装置100が、後述する投射型表示装置においてRGB用のライトバルブとして用いられる透過型の液晶装置であって、対向基板20から入射した光が素子基板10を透過して出射される場合を中心に説明する。また、本形態において、液晶装置100は、液晶層50として、誘電異方性が負のネマチック液晶化合物を用いたVAモードの液晶パネル100pを備えている場合を中心に説明する。
【0032】
(画素の具体的構成)
図3は、本発明の実施の形態1に係る液晶装置100に用いた素子基板10において隣り合う複数の画素の平面図である。図4は、本発明の実施の形態1に係る液晶装置100のF−F′断面図である。なお、図3では、各層を以下の線
下層側の遮光層8a=細くて長い破線
半導体層1a=細くて短い点線
走査線3a=太い実線
ドレイン電極4a=細い実線
データ線6aおよび中継電極6b=細い一点鎖線
容量線5b=太い一点鎖線
上層側の遮光層7aおよび中継電極7b=細い二点鎖線
画素電極9a=太い破線
で示してある。また、図3では、互いの端部が重なり合う層については、層の形状等が分かりやすいように、端部の位置をずらしてある。
【0033】
図3に示すように、素子基板10において対向基板20と対向する一方面10sには、複数の画素100aの各々に画素電極9aが形成されており、隣り合う画素電極9aにより挟まれた画素間領域10fに沿ってデータ線6aおよび走査線3aが形成されている。本形態において、画素間領域10fは縦横に延在しており、走査線3aは画素間領域10fのうち、X方向(第1方向)に延在する第1画素間領域10gに沿って直線的に延在し、データ線6aは、Y方向(第2方向)に延在する第2画素間領域10hに沿って直線的に延在している。また、データ線6aと走査線3aとの交差に対応して画素トランジスター30が形成されており、本形態において、画素トランジスター30は、データ線6aと走査線3aとの交差領域およびその付近を利用して形成されている。素子基板10には容量線5bが形成されており、かかる容量線5bには共通電位Vcomが印加されている。本形態において、容量線5bは、走査線3aおよびデータ線6aに重なるように延在して格子状に形成されている。画素トランジスター30の上層側には遮光層7aが形成されており、かかる遮光層7aは、データ線6aに重なるように延在している。画素トランジスター30の下層側には遮光層8aが形成されており、かかる遮光層8aは、走査線3aと重なるように直線的に延びた主線部分と、データ線6aと走査線3aとの交差部分でデータ線6aに重なるように延びた副線部分とを備えている。
【0034】
図4に示すように、素子基板10は、石英基板やガラス基板等の透光性の基板本体10wの液晶層50側の基板面(対向基板20と対向する一方面10s側)に形成された画素電極9a、画素スイッチング用の画素トランジスター30、および無機配向膜16を主体として構成されている。対向基板20は、石英基板やガラス基板等の透光性の基板本体20w、その液晶層50側の表面(素子基板10と対向する一方面20s)に形成された遮光層29、共通電極21、および無機配向膜26を主体として構成されている。
【0035】
素子基板10において、基板本体10wの一方面10s側には、導電性のポリシリコン膜、金属シリサイド膜、金属膜あるいは金属化合物膜等の導電膜からなる下層側の遮光層8aが形成されている。本形態において、遮光層8aは、タングステンシリサイド(WSi)等の遮光膜からなり、液晶装置100を透過した後の光が他の部材で反射した際、かかる反射光が半導体層1aに入射して画素トランジスター30で光電流に起因する誤動作が発生することを防止する。なお、遮光層8aを走査線として構成する場合もあり、この場合、後述するゲート電極3cと遮光層8aを導通させた構成とする。
【0036】
基板本体10wの一方面10s側において、遮光層8aの上層側には、透光性の絶縁膜12が形成されており、かかる絶縁膜12の表面側に、半導体層1aを備えた画素トランジスター30が形成されている。本形態において、絶縁膜12は、NSG(ノンシリケートガラス)、PSG(リンシリケートガラス)、BSG(ボロンシリケートガラス)、BPSG (ボロンリンシリケートガラス)等のシリコン酸化膜(シリケートガラスも含む。)や、シリコン窒化膜からなる。かかる絶縁膜12は、シランガス(SiH4)、2塩化シラン(SiCl22)、TEOS(テトラエトキシシラン/テトラ・エチル・オルソ・シリケート/Si(OC254)、TEB(テトラ・エチル・ボートレート)、TMOP(テトラ・メチル・オキシ・フォスレート)等を用いた常圧CVD法、減圧CVD法、あるいはプラズマCVD法等により形成される。
【0037】
画素トランジスター30は、データ線6aの延在方向に長辺方向を向けた半導体層1aと、半導体層1aの長さ方向と直交する方向に延在して半導体層1aの長さ方向の中央部分に重なるゲート電極3cとを備えており、本形態において、ゲート電極3cは走査線3aの一部からなる。画素トランジスター30は、半導体層1aとゲート電極3cとの間に透光性のゲート絶縁層2を有している。半導体層1aは、ゲート電極3cに対してゲート絶縁層2を介して対向するチャネル領域1gを備えているとともに、チャネル領域1gの両側にソース領域1bおよびドレイン領域1cを備えている。本形態において、画素トランジスター30は、LDD構造を有している。従って、ソース領域1bおよびドレイン領域1cは各々、チャネル領域1gの両側に低濃度領域を備え、低濃度領域に対してチャネル領域1gとは反対側で隣接する領域に高濃度領域を備えている。
【0038】
半導体層1aは、ポリシリコン膜(多結晶シリコン膜)等によって構成されている。ゲート絶縁層2は、半導体層1aを熱酸化したシリコン酸化膜からなる第1ゲート絶縁層2aと、温度が700〜900℃の高温条件での減圧CVD法により形成されたシリコン酸化膜からなる第2ゲート絶縁層2bとの2層構造からなる。ゲート電極3cおよび走査線3aは、導電性のポリシリコン膜、金属シリサイド膜、金属膜あるいは金属化合物膜等の導電膜からなる。本形態において、ゲート電極3cは、導電性のポリシリコン膜とタングステンシリサイド膜との2層構造を有している。
【0039】
ゲート電極3cの上層側には、NSG、PSG、BSG、BPSG等のシリコン酸化膜等からなる透光性の層間絶縁膜41が形成され、層間絶縁膜41の上層には、ドレイン電極4aが形成されている。本形態において、層間絶縁膜41は、シリコン酸化膜からなる。ドレイン電極4aは、導電性のポリシリコン膜、金属シリサイド膜、金属膜あるいは金属化合物膜等の導電膜からなる。本形態において、ドレイン電極4aはチタン窒化膜からなる。ドレイン電極4aは、半導体層1aのドレイン領域1c(画素電極側ソースドレイン領域)と一部が重なるように形成されており、層間絶縁膜41およびゲート絶縁層2を貫通するコンタクトホール41aを介してドレイン領域1cに導通している。
【0040】
ドレイン電極4aの上層側には、シリコン酸化膜等からなる透光性のエッチングストッパー層49、および透光性の誘電体層40が形成されており、かかる誘電体層40の上層側には容量線5bが形成されている。誘電体層40としては、シリコン酸化膜やシリコン窒化膜等のシリコン化合物を用いることができる他、アルミニウム酸化膜、チタン酸化膜、タンタル酸化膜、ニオブ酸化膜、ハフニウム酸化膜、ランタン酸化膜、ジルコニウム酸化膜等の高誘電率の誘電体層を用いることができる。容量線5bは、導電性のポリシリコン膜、金属シリサイド膜、金属膜あるいは金属化合物膜等の導電膜からなる。本形態において、容量線5bは、チタン窒化膜、アルミニウム膜、およびチタン窒化膜との3層構造を有している。ここで、容量線5bは、誘電体層40を介してドレイン電極4aと重なっており、蓄積容量55を構成している。
【0041】
容量線5bの上層側には層間絶縁膜42が形成されており、かかる層間絶縁膜42の上層側には、データ線6aと中継電極6bとが同一の導電膜により形成されている。層間絶縁膜42はシリコン酸化膜からなる。データ線6aと中継電極6bは、導電性のポリシリコン膜、金属シリサイド膜、金属膜あるいは金属化合物膜等の導電膜からなる。本形態において、データ線6aおよび中継電極6bは、アルミニウム合金膜や、チタン窒化膜とアルミニウム膜との2層乃至4層の積層膜からなる。データ線6aは、層間絶縁膜42、エッチングストッパー層49、層間絶縁膜41およびゲート絶縁層2を貫通するコンタクトホール42aを介してソース領域1b(データ線側ソースドレイン領域)に導通している。中継電極6bは、層間絶縁膜42およびエッチングストッパー層49を貫通するコンタクトホール42bを介してドレイン電極4aに導通している。
【0042】
データ線6aおよび中継電極6bの上層側にはシリコン酸化膜等からなる透光性の層間絶縁膜44が形成されており、かかる層間絶縁膜44の上層側には、遮光層7aおよび中継電極7bが同一の導電膜によって形成されている。層間絶縁膜44は、例えば、テトラエトキシシランと酸素ガスとを用いたプラズマCVD法や、シランガスと亜酸化窒素ガスとを用いたプラズマCVD法等により形成したシリコン酸化膜からなり、その表面は平坦化されている。遮光層7aおよび中継電極7bは、導電性のポリシリコン膜、金属シリサイド膜、金属膜あるいは金属化合物膜等の導電膜からなる。本形態において、遮光層7aおよび中継電極7bは、アルミニウム合金膜や、チタン窒化膜とアルミニウム膜との2層乃至4層の積層膜からなる。中継電極7bは、層間絶縁膜44を貫通するコンタクトホール44aを介して中継電極6bに導通している。遮光層7aは、データ線6aと重なるように延在しており、遮光層として機能している。なお、遮光層7aを容量線5bと導通させて、シールド層として利用してもよい。
【0043】
遮光層7aおよび中継電極7bの上層側には、シリコン酸化膜等からなる透光性の層間絶縁膜45が形成されており、かかる層間絶縁膜45の上層側には、ITO膜等の透光性導電膜からなる画素電極9aが形成されている。本形態において、画素電極9aは、ITO膜からなる。層間絶縁膜45は、例えば、テトラエトキシシランと酸素ガスとを用いたプラズマCVD法や、シランガスと亜酸化窒素ガスとを用いたプラズマCVD法等により形成したシリコン酸化膜からなり、表面は平坦化されている。
【0044】
画素電極9aは、中継電極7bと部分的に重なっており、層間絶縁膜45を貫通するコンタクトホール45aを介して中継電極7bに導通している。その結果、画素電極9aは、中継電極7b、中継電極6bおよびドレイン電極4aを介してドレイン領域1cに電気的に接続している。
【0045】
画素電極9aの表面には無機配向膜16が形成されている。本形態において、無機配向膜16は、SiOX(x<2)、SiO2、TiO2、MgO、Al23、In23、Sb23、Ta25等の斜方蒸着膜(傾斜垂直配向膜)からなる。本形態では、無機配向膜16の表面側には表面絶縁膜17が形成されており、かかる表面絶縁膜17の構成については、図5を参照して後述する。
【0046】
(対向基板20の構成)
対向基板20では、石英基板やガラス基板等の透光性の基板本体20w(透光性基板)の液晶層50側の表面(素子基板10に対向する一方面20s)には、遮光層29、シリコン酸化膜等からなる絶縁膜28、およびITO膜等の透光性導電膜からなる共通電極21が形成されており、かかる共通電極21を覆うように無機配向膜26が形成されている。本形態において、共通電極21はITO膜からなる。また、無機配向膜26は、無機配向膜16と同様、SiOX(x<2)、SiO2、TiO2、MgO、Al23、In23、Sb23、Ta25等の斜方蒸着膜(傾斜垂直配向膜)である。かかる無機配向膜16、26は、液晶層50に用いた誘電異方性が負のネマチック液晶化合物を傾斜垂直配向させ、液晶パネル100pは、ノーマリブラックのVAモードとして動作する。本形態では、無機配向膜26の表面側には表面絶縁膜27が形成されており、かかる表面絶縁膜27の構成については、図5を参照して後述する。
【0047】
なお、図1および図2を参照して説明したデータ線駆動回路101および走査線駆動回路104には、nチャネル型の駆動用トランジスターとpチャネル型の駆動用トランジスターとを備えた相補型トランジスター回路等が構成されている。ここで、駆動用トランジスターは、画素トランジスター30の製造工程の一部を利用して形成されたものである。このため、素子基板10においてデータ線駆動回路101および走査線駆動回路104が形成されている領域も、図4に示す断面構成と略同様な断面構成を有している。
【0048】
(液晶装置100の製造方法)
図5は、本発明の実施の形態1に係る液晶装置100の製造方法を示す説明図である。なお、液晶装置100を製造するにあたっては、素子基板10および対向基板20を多数取りできる大型基板の状態で途中の工程までを行い、その後、単品サイズに切断する。但し、以下の説明では、素子基板10の形成に用いられる大型基板も素子基板10として説明し、対向基板20の形成に用いられる大型基板も対向基板20として説明する。
【0049】
本形態の液晶装置100の素子基板10を製造するには、周知の方法で、画素電極9a等を形成した後、図5(a)に示すように、画素電極9aの表面側に対して、斜方蒸着法により、SiOX(x<2)、SiO2、TiO2、MgO、Al23、In23、Sb23、Ta25等からなる無機配向膜16を形成する無機配向膜形成工程を行う。本形態では、斜方蒸着法により、SiOXやSiO2等のシリコン酸化膜からなる無機配向膜16(傾斜垂直配向膜)を形成する。かかる方法により形成された無機配向膜16は、素子基板10から対向基板20に向けて斜めに突出した複数の凸部16aを備えたカラム構造を有している。また、無機配向膜16において凸部16aの間には凹部16bが発生しており、かかる凹部16bの底部では、画素電極9aが露出している。
【0050】
そこで、本形態では、無機配向膜形成工程の後、図5(b)、(c)に示す表面絶縁膜形成工程において、無機配向膜16の表面側に、飽和溶液からの析出を利用した液相析出法(Liquid Phase Deposition/LPD)により表面絶縁膜17を形成する。
【0051】
液相析出法による酸化物薄膜の析出は、以下に示す析出反応系(1)と、析出駆動反応系(2)の二つの反応系より成り立っている。
【0052】
MFx(x-2n)-+nH2O=MOn+xF-+2nH+・・(1)
3BO3+4H+4F-=HBF4+3H2O・・(2)
M:シリコンまたは金属
すなわち、水溶液中での金属フルオロ錯体(MFx(x-2n)-)の加水分解平衡反応系(析出反応系(1))に、フッ化物イオンと反応して安定な化合物を生成するホウ酸(フッ化物イオン捕捉剤)を添加することにより、系中の遊離のフッ化物イオンと安定な錯イオンを形成させ(析出駆動反応系(2))、析出反応系(1)の平衡を酸化物析出側ヘシフトさせる。その結果、反応水溶液に浸漬した基板表面に酸化物薄膜が析出する。このため、基板表面の形状にかかわらず、比較的低温で均一かつ緻密に酸化物薄膜を合成することができる。
【0053】
本形態では、かかる酸化物薄膜としてシリコン酸化膜を表面絶縁膜17として形成する。従って、上記の反応系(1)(2)は下式
2SiF6+2H2O=SiO2+6HF・・(3)
3BO3+4HF=HBF4+3H2O・・(4)
として表される。より具体的には、ヘキサフルオロケイ酸(H2SiF6)の40重量%水溶液1000mlに約50gのシリカゲルを溶解してシリカゲル飽和ケイフッ化水素酸溶液を得た。このシリカゲル(SiO2・mH2O)飽和ケイフッ化水素酸溶液と、0.5mol/lのホウ酸(H3BO3)水溶液を等量混合したものをさらに純水で25倍に希釈した。かかる反応溶液中では、上記の反応系(3)、(4)が成立する。ここで、反応系(3)は平衡状態を表しているが、反応系(4)が同時に進行して反応系(3)中のフッ化水素(HF)を消費すると、反応(3)は、左辺から右辺の方向に進み、過飽和となったシリコン酸化物(SiO2)が析出する。従って、反応溶液中に素子基板10を浸漬して室温で攪拌しながら反応を進行させると、図5(b)に示すように、シリコン酸化物(SiO2)粒子が析出し、時間の経過とともに、図5(c)に示すシリコン酸化膜からなる表面絶縁膜17が得られる。本形態の条件では、シリコン酸化膜の成長速度が20nm/hrであったので、30分の処理で約15nmのシリコン酸化膜が形成される。その結果、無機配向膜16の凸部16aの表面、および凸部16aの間に発生している凹部16bの底部に略同一の厚さ(15nm)で表面絶縁膜17が形成されるので、凹部16bの底部で露出していた画素電極9aの表面は表面絶縁膜17で覆われる。
【0054】
本形態では、対向基板20の側に対しても、素子基板10と同様、無機配向膜形成工程において、シリコン酸化膜からなる無機配向膜26を斜方蒸着により形成した後、表面絶縁膜形成工程において、無機配向膜26の表面側に、液相析出法によりシリコン酸化膜からなる表面絶縁膜27を形成する。その結果、無機配向膜26の凸部26aの表面、および凸部26aの間に発生している凹部26bの底部に略同一の厚さ(15nm)で表面絶縁膜27が形成されるので、凹部26bの底部で露出していた共通電極21の表面は表面絶縁膜27で覆われる。
【0055】
しかる後には、図2等を参照して説明したように、素子基板10と対向基板20とをシール材107で貼り合わせた後、減圧雰囲気中でシール材107の途切れ部分107cから液晶を注入し、しかる後に、シール材107の途切れ部分107cを封止材108で封止する。その間、所定のタイミングで大型基板を単品サイズの素子基板10や対向基板20に切断すれば、図2等を参照して説明した単品サイズの液晶パネル100p(図2等を参照)を得ることができる。
【0056】
(電流−電圧特性の評価結果)
図6は、本発明を適用した液晶装置100の電流−電圧特性の評価結果を示すグラフであり、実線L1は、本発明を適用した液晶装置100において画素電極9aと共通電極21との間に直流電圧を印加した際の電圧と、液晶層50を流れる電流との関係を示すデータである。なお、図6には、参考例として、本発明を適用した液晶装置100において表面絶縁膜17、27の形成を省略した液晶装置において、画素電極9aと共通電極21との間に直流電圧を印加した際の電圧と、液晶層50を流れる電流との関係を示すデータを点線L2で示してある。
【0057】
図6に点線L2で示す参考例の液晶装置の電流−電圧特性では、液晶層50への電荷の注入を示す電流ピークが出現するとともに、電流レベルが高い。これに対して、図6に実線L1で示す本発明に係る液晶装置100の電流−電圧特性では、液晶層50への電荷の注入を示す電流ピークが観察されず、電流レベルが低い。それ故、本形態の液晶装置100では、画素電極9aおよび共通電極21から液晶層50への電荷の注入がほとんど発生していないことが分かる。
【0058】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態の液晶装置100およびその製造方法では、無機配向膜形成工程において斜方蒸着により無機配向膜16、26を形成した後、表面絶縁膜形成工程では、無機配向膜16、26の表面側に、飽和溶液からの析出を利用した液相析出法により、表面絶縁膜17、27を形成する。かかる液相析出法では、飽和溶液からの析出を利用するため、無機配向膜16、26の凹部16b、26bの内部において、凸部16a、26aの影に相当する部分にも表面絶縁膜17、27が形成される。従って、無機配向膜16、26の凸部16a、26aの表面、および凸部16a、26aの間に発生している凹部16b、26bの底部に略一定の膜厚で表面絶縁膜17、27が形成される。しかも、液相析出法では、成膜速度が遅いため、表面絶縁膜17、27の膜厚を精度よく制御することができる。このため、表面絶縁膜17、27を形成した後も、無機配向膜16、26の凹凸形状が残るため、配向規制力を損なうことがない。また、無機配向膜16、26の凸部16a、26aの間に発生している凹部16b、26bの底部に表面絶縁膜17、27が積層されるため、かかる凹部16b、26bの底部で画素電極9aや共通電極21が露出しない。それ故、図6を参照して説明したように、画素電極9aや共通電極21から液晶層50への電荷の放出が発生しにくい。それ故、本形態の液晶装置100では、表示画像にフリッカーの発生や焼き付きが発生しにくい。また、画素電極9aや共通電極21が露出していないので、極性反転を行った際、液晶層50に印加される電界の非対称性を原因とする残像や焼き付きが発生しにくい。
【0059】
また、本形態では、素子基板10および対向基板20の双方に対して無機配向膜16、26および表面絶縁膜17、27を形成したため、素子基板10側および対向基板20側の双方において、画素電極9aや共通電極21からの電荷の放出や、画素電極9aと共通電極21との材質の相違に起因する問題が発生しにくい。
【0060】
さらに、本形態において、画素電極9aの全体、および共通電極21の全体がITO膜であり、画素電極9aにおいて対向基板20側に位置する面、および共通電極21において素子基板10側に位置する面とは、同一の導電膜からなる。それ故、液晶層50を極性反転駆動した際でも、液晶層50に印加される電界が対称であるため、残像や焼き付きが発生することを防止することができる。
【0061】
[他の実施の形態]
上記実施の形態では、素子基板10および対向基板20の双方に対して、液相析出法による表面絶縁膜17、27を形成したが、素子基板10および対向基板20のいずれか一方のみに液相析出法による表面絶縁膜を形成してもよい。また、上記実施の形態では、画素電極9aおよび共通電極21がいずれもITO膜であったが、画素電極9aおよび共通電極21のうちの一方がITO膜で、他方がIZO膜である場合に液相析出法による表面絶縁膜を形成してもよい。さらに、上記実施の形態では、表面絶縁膜17、27としてシリコン酸化膜を形成したが、液相析出法により、チタン酸化膜等からなる表面絶縁膜17、27を形成して表面絶縁膜17、27の屈折率や膜密度の最適化を図ってもよい。
【0062】
また、上記実施の形態では、透過型の液晶装置100を例示したが、反射型の液晶装置100に本発明を適用してもよい。この場合、共通電極21をITO膜とし、画素電極9aをアルミニウム膜(下層)とITO膜(上層)との二層構造とすれば、画素電極9aにおいて対向基板20側に位置する面、および共通電極21において素子基板10側に位置する面とは、同一の導電膜からなる。それ故、液晶層50を極性反転駆動した際でも、液晶層50に印加される電界が非対称になることを防止することができるので、液晶層50に印加される電界の非対称性が原因で残像や焼き付きが発生することを防止することができる。
【0063】
[電子機器への搭載例]
上述した実施形態に係る液晶装置100を適用した電子機器について説明する。図7は、本発明を適用した液晶装置100を用いた投射型表示装置の概略構成図であり、図7(a)、(b)は各々、透過型の液晶装置100を用いた投射型表示装置の説明図、および反射型の液晶装置100を用いた投射型表示装置の説明図である。
【0064】
(投射型表示装置の第1例)
図7(a)に示す投射型表示装置110は、観察者側に設けられたスクリーン111に光を照射し、このスクリーン111で反射した光を観察する、いわゆる投影型の投射型表示装置である。投射型表示装置110は、光源112を備えた光源部130と、ダイクロイックミラー113、114と、液晶ライトバルブ115〜117(液晶装置100)と、投射光学系118と、クロスダイクロイックプリズム119と、リレー系120とを備えている。
【0065】
光源112は、赤色光、緑色光及び青色光を含む光を供給する超高圧水銀ランプで構成されている。ダイクロイックミラー113は、光源112からの赤色光を透過させると共に緑色光及び青色光を反射する構成となっている。また、ダイクロイックミラー114は、ダイクロイックミラー113で反射された緑色光及び青色光のうち青色光を透過させると共に緑色光を反射する構成となっている。このように、ダイクロイックミラー113、114は、光源112から出射した光を赤色光と緑色光と青色光とに分離する色分離光学系を構成する。
【0066】
ここで、ダイクロイックミラー113と光源112との間には、インテグレーター121及び偏光変換素子122が光源112から順に配置されている。インテグレーター121は、光源112から照射された光の照度分布を均一化する構成となっている。また、偏光変換素子122は、光源112からの光を例えばs偏光のような特定の振動方向を有する偏光にする構成となっている。
【0067】
液晶ライトバルブ115は、ダイクロイックミラー113を透過して反射ミラー123で反射した赤色光を画像信号に応じて変調する透過型の液晶装置100である。液晶ライトバルブ115は、λ/2位相差板115a、第1偏光板115b、液晶パネル115c及び第2偏光板115dを備えている。ここで、液晶ライトバルブ115に入射する赤色光は、ダイクロイックミラー113を透過しても光の偏光は変化しないことから、s偏光のままである。
【0068】
λ/2位相差板115aは、液晶ライトバルブ115に入射したs偏光をp偏光に変換する光学素子である。また、第1偏光板115bは、s偏光を遮断してp偏光を透過させる偏光板である。そして、液晶パネル115cは、p偏光を画像信号に応じた変調によってs偏光(中間調であれば円偏光又は楕円偏光)に変換する構成となっている。さらに、第2偏光板115dは、p偏光を遮断してs偏光を透過させる偏光板である。したがって、液晶ライトバルブ115は、画像信号に応じて赤色光を変調し、変調した赤色光をクロスダイクロイックプリズム119に向けて出射する構成となっている。
【0069】
なお、λ/2位相差板115a及び第1偏光板115bは、偏光を変換させない透光性のガラス板115eに接した状態で配置されており、λ/2位相差板115a及び第1偏光板115bが発熱によって歪むのを回避することができる。
【0070】
液晶ライトバルブ116は、ダイクロイックミラー113で反射した後にダイクロイックミラー114で反射した緑色光を画像信号に応じて変調する透過型の液晶装置100である。そして、液晶ライトバルブ116は、液晶ライトバルブ115と同様に、第1偏光板116b、液晶パネル116c及び第2偏光板116dを備えている。液晶ライトバルブ116に入射する緑色光は、ダイクロイックミラー113、114で反射されて入射するs偏光である。第1偏光板116bは、p偏光を遮断してs偏光を透過させる偏光板である。また、液晶パネル116cは、s偏光を画像信号に応じた変調によってp偏光(中間調であれば円偏光又は楕円偏光)に変換する構成となっている。そして、第2偏光板116dは、s偏光を遮断してp偏光を透過させる偏光板である。したがって、液晶ライトバルブ116は、画像信号に応じて緑色光を変調し、変調した緑色光をクロスダイクロイックプリズム119に向けて出射する構成となっている。
【0071】
液晶ライトバルブ117は、ダイクロイックミラー113で反射し、ダイクロイックミラー114を透過した後でリレー系120を経た青色光を画像信号に応じて変調する透過型の液晶装置100である。そして、液晶ライトバルブ117は、液晶ライトバルブ115、116と同様に、λ/2位相差板117a、第1偏光板117b、液晶パネル117c及び第2偏光板117dを備えている。ここで、液晶ライトバルブ117に入射する青色光は、ダイクロイックミラー113で反射してダイクロイックミラー114を透過した後にリレー系120の後述する2つの反射ミラー125a、125bで反射することから、s偏光となっている。
【0072】
λ/2位相差板117aは、液晶ライトバルブ117に入射したs偏光をp偏光に変換する光学素子である。また、第1偏光板117bは、s偏光を遮断してp偏光を透過させる偏光板である。そして、液晶パネル117cは、p偏光を画像信号に応じた変調によってs偏光(中間調であれば円偏光又は楕円偏光)に変換する構成となっている。さらに、第2偏光板117dは、p偏光を遮断してs偏光を透過させる偏光板である。したがって、液晶ライトバルブ117は、画像信号に応じて青色光を変調し、変調した青色光をクロスダイクロイックプリズム119に向けて出射する構成となっている。なお、λ/2位相差板117a及び第1偏光板117bは、ガラス板117eに接した状態で配置されている。
【0073】
リレー系120は、リレーレンズ124a、124bと反射ミラー125a、125bとを備えている。リレーレンズ124a、124bは、青色光の光路が長いことによる光損失を防止するために設けられている。ここで、リレーレンズ124aは、ダイクロイックミラー114と反射ミラー125aとの間に配置されている。また、リレーレンズ124bは、反射ミラー125a、125bの間に配置されている。反射ミラー125aは、ダイクロイックミラー114を透過してリレーレンズ124aから出射した青色光をリレーレンズ124bに向けて反射するように配置されている。また、反射ミラー125bは、リレーレンズ124bから出射した青色光を液晶ライトバルブ117に向けて反射するように配置されている。
【0074】
クロスダイクロイックプリズム119は、2つのダイクロイック膜119a、119bをX字型に直交配置した色合成光学系である。ダイクロイック膜119aは青色光を反射して緑色光を透過する膜であり、ダイクロイック膜119bは赤色光を反射して緑色光を透過する膜である。したがって、クロスダイクロイックプリズム119は、液晶ライトバルブ115〜117のそれぞれで変調された赤色光と緑色光と青色光とを合成し、投射光学系118に向けて出射するように構成されている。
【0075】
なお、液晶ライトバルブ115、117からクロスダイクロイックプリズム119に入射する光はs偏光であり、液晶ライトバルブ116からクロスダイクロイックプリズム119に入射する光はp偏光である。このようにクロスダイクロイックプリズム119に入射する光を異なる種類の偏光としていることで、クロスダイクロイックプリズム119において各液晶ライトバルブ115〜117から入射する光を合成できる。ここで、一般に、ダイクロイック膜119a、119bはs偏光の反射トランジスター特性に優れている。このため、ダイクロイック膜119a、119bで反射される赤色光及び青色光をs偏光とし、ダイクロイック膜119a、119bを透過する緑色光をp偏光としている。投射光学系118は、投影レンズ(図示略)を有しており、クロスダイクロイックプリズム119で合成された光をスクリーン111に投射するように構成されている。
【0076】
(投射型表示装置の第2例)
図7(b)に示す投射型表示装置1000は、光源光を発生する光源部1021と、光源部1021から出射された光源光を赤、緑、青の3色に分離する色分離導光光学系1023と、色分離導光光学系1023から出射された各色の光源光によって照明される光変調部1025とを有している。また、投射型表示装置1000は、光変調部1025から出射された各色の像光を合成するクロスダイクロイックプリズム1027(合成光学系)と、クロスダイクロイックプリズム1027を経た像光をスクリーン(不図示)に投射するための投射光学系である投射光学系1029とを備えている。
【0077】
かかる投射型表示装置1000において、光源部1021は、光源1021aと、一対のフライアイ光学系1021d、1021eと、偏光変換部材1021gと、重畳レンズ1021iとを備えている。本形態においては、光源部1021は、放物面からなるリフレクタ1021fを備えており、平行光を出射する。フライアイ光学系1021d、1021eは、システム光軸と直交する面内にマトリクス状に配置された複数の要素レンズからなり、これらの要素レンズによって光源光を分割して個別に集光・発散させる。偏光変換部材1021gは、フライアイ光学系1021eから出射した光源光を、例えば図面に平行なp偏光成分のみに変換して光路下流側光学系に供給する。重畳レンズ1021iは、偏光変換部材1021gを経た光源光を全体として適宜収束させることにより、光変調部1025に設けた複数の液晶装置100を各々均一に重畳照明可能とする。
【0078】
色分離導光光学系1023は、クロスダイクロイックミラー1023aと、ダイクロイックミラー1023bと、反射ミラー1023j、1023kとを備える。色分離導光光学系1023において、光源部1021からの略白色の光源光は、クロスダイクロイックミラー1023aに入射する。クロスダイクロイックミラー1023aを構成する一方の第1ダイクロイックミラー1031aで反射された赤色(R)の光は、反射ミラー1023jで反射されダイクロイックミラー1023bを透過して、入射側偏光板1037r、p偏光を透過させ、s偏光を反射するワイヤーグリッド偏光板1032r、および光学補償板1039rを介して、p偏光のまま、赤色(R)用の液晶装置100に入射する。
【0079】
また、第1ダイクロイックミラー1031aで反射された緑色(G)の光は、反射ミラー1023jで反射され、その後、ダイクロイックミラー1023bでも反射されて、入射側偏光板1037g、p偏光を透過させ、s偏光を反射するワイヤーグリッド偏光板1032g、および光学補償板1039gを介して、p偏光のまま、緑色(G)用の液晶装置100に入射する。
【0080】
これに対して、クロスダイクロイックミラー1023aを構成する他方の第2ダイクロイックミラー1031bで反射された青色(B)の光は、反射ミラー1023kで反射されて、入射側偏光板1037b、p偏光を透過する一方でs偏光を反射するワイヤーグリッド偏光板1032b、および光学補償板1039bを介して、p偏光のまま、青色(B)用の液晶装置100に入射する。
【0081】
なお、光学補償板1039r、1039g、1039bは、液晶装置100への入射光および出射光の偏光状態を調整することで、液晶層の特性を光学的に補償している。
【0082】
このように構成した投射型表示装置1000では、光学補償板1039r、1039g、1039bを経て入射した3色の光は各々、各液晶装置100において変調される。その際、液晶装置100から出射された変調光のうち、s偏光の成分光は、ワイヤーグリッド偏光板1032r、1032g、1032bで反射し、出射側偏光板1038r、1038g、1038bを介してクロスダイクロイックプリズム1027に入射する。クロスダイクロイックプリズム1027には、X字状に交差する第1誘電体多層膜1027aおよび第2誘電体多層膜1027bが形成されており、一方の第1誘電体多層膜1027aはR光を反射し、他方の第2誘電体多層膜1027bはB光を反射する。従って、3色の光は、クロスダイクロイックプリズム1027において合成され、投射光学系1029に出射される。そして、投射光学系1029は、クロスダイクロイックプリズム1027で合成されたカラーの像光を、所望の倍率でスクリーン(図示せず。)投射する。
【0083】
(他の投射型表示装置)
なお、投射型表示装置については、光源部として、各色の光を出射するLED光源等を用い、かかるLED光源から出射された色光を各々、別の液晶装置に供給するように構成してもよい。
【0084】
(他の電子機器)
本発明を適用した液晶装置100については、上記の電子機器の他にも、携帯電話機、情報携帯端末(PDA:Personal Digital Assistants)、デジタルカメラ、液晶テレビ、カーナビゲーション装置、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた機器等の電子機器において直視型表示装置として用いてもよい。
【符号の説明】
【0085】
9a・・画素電極、10・・素子基板、10a・・画像表示領域、16、26・・無機配向膜、17、27・・表面絶縁膜、16a、26a・・凸部、16b、26b・・凹部、20・・対向基板、21・・共通電極、100・・液晶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画素電極が形成された素子基板、および共通電極が形成された対向基板のうちの少なくとも一方の基板に斜方蒸着により無機配向膜を形成する無機配向膜形成工程と、
前記無機配向膜の表面側に液相析出法により表面絶縁膜を形成する表面絶縁膜形成工程と、
を有することを特徴とする液晶装置の製造方法。
【請求項2】
前記表面絶縁膜形成工程では、前記素子基板および前記対向基板の双方に対して前記無機配向膜および前記表面絶縁膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項3】
前記画素電極の前記対向基板側に位置する面と、前記共通電極の前記素子基板側に位置する面とは、同一の導電膜からなることを特徴とする請求項2に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項4】
前記表面絶縁膜は、シリコン酸化膜であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項5】
画素電極が形成された素子基板と、
共通電極が形成された対向基板と、
前記素子基板および前記対向基板のうちの少なくとも一方の基板に設けられ、他方の基板に向けて斜めに突出した複数の凸部を備えた無機配向膜と、
前記凸部の間の底部に略同一の厚さで形成された表面絶縁膜と、
を有することを特徴とする液晶装置。
【請求項6】
前記素子基板および前記対向基板の双方に対して前記無機配向膜および前記表面絶縁膜が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の液晶装置。
【請求項7】
前記画素電極の前記対向基板側に位置する面と、前記共通電極の前記素子基板側に位置する面とは、同一の導電膜からなることを特徴とする請求項5または6に記載の液晶装置。
【請求項8】
前記表面絶縁膜は、シリコン酸化膜であることを特徴とする請求項5乃至7の何れか一項に記載の液晶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図5】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−247596(P2012−247596A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118785(P2011−118785)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】