説明

液晶配向剤および液晶表示素子

【課題】横電解型液晶表示素子において、優れた残像特性を有し、電界無印加時の暗状態における光線透過率が低減された液晶配向膜を与える液晶配向剤を提供する。
【解決手段】液晶配向剤は、ポリアミック酸およびポリイミドよりなる群から選択され、ジアミン成分として少なくとも2種の特定構造ジアミン化合物をともに有する1種の重合体を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶配向剤および液晶表示素子に関する。さらに詳しくは、特に横電界表示型の液晶表示素子に適用した場合に電界無印化時の暗状態表示に優れる液晶表示素子を与える液晶配向剤、およびかかる液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
対向配置された一対の基板の片側のみに電極を形成し、基板と平行方向に電界を発生する横電界表示型、例えばIPS(In−Plane Switching)モード、FFS(Fringe Field Switching)モード、の液晶表示素子は、両基板に電極を形成して基板と垂直方向に電界を発生する旧来の縦電界方式の液晶表示素子と比べて、広い視野角特性を有し、また高品位な表示が可能であることが知られている。かかる横電界表示モード液晶表示素子は、例えば特許文献1および2ならびに非特許文献1に記載されている。横電界方式の液晶表示素子は、液晶分子が基板と平行な方向にのみ電界応答するため、液晶分子の長軸方向の屈折率変化が問題とならず、視角を変えた場合でも、観察者に視認されるコントラストおよび表示色の濃淡の変化が少なく、従って視角によらず高品位な表示が可能となる。
この横電解型液晶表示素子では、さらなる表示性能の向上およびバックライトの利用効率を高めることによる消費電力の低減化を目的として、素子の電界無印加―印加のスイッチング時における暗状態―明状態の透過率の比(コントラスト)が大きい液晶表示素子が求められている。
ここで、クロスニコル配置した二枚の偏光板の間に、アンチパラレル配向状態の液晶層を有する横電解型液晶表示素子では、電界無印加時の暗状態において、液晶の配向軸が一枚目の偏光板の偏光軸と一致したときに液晶層を通過する直線偏光が、自身の位相を乱すことなく液晶層を通過し、該通過光が、一枚目の偏光板と直行配置した二枚目の偏光板に遮断されることにより、黒表示を確保することができる。このとき、液晶の配向が偏光板の偏光軸と一致せずに乱された場合には、液晶層を透過した直線偏光は円偏光(または楕円偏光)となってその一部が二枚目の偏光板を透過することとなり、光漏れを生じることとなる。
【0003】
従って、液晶の一軸配向を高度に達成する液晶配向膜の開発が急務となっている。過去の研究では、芳香族テトラカルボン酸二酸無水物と芳香族ジアミンとから合成されるポリイミドを用いることにより、液晶分子の一軸配向性を向上する試みがなされている(非特許文献2)。しかしながらこの技術によっては、電界無印加時の暗状態の改善について満足な結果は得られていない。
さらに、横電界型液晶表示素子においては、残像、焼き付きが問題となることがあり、その改良が望まれている。この点、特許文献6において、芳香族構造を大きな割合で含む重合体からなる液晶配向膜を用いることにより、残像特性、焼き付き特性を改善する方法が提案されている。しかし、芳香族構造を大きな割合で含む液晶配向膜を用いると、不可避的にプレチルト角が増大することとなり、横電界型の表示素子における上記の如き有利な効果が減殺されることとなる。
横電界型液晶表示素子において、上記の有利な効果を十分に発現することができ、しかも改善された残像特性、焼き付き特性を示す液晶配向膜を与える液晶表示素子は、未だ知られておらず、かかる液晶配向剤の提供が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5928733号明細書
【特許文献2】特開昭56−91277号公報
【特許文献3】特開平6−222366号公報
【特許文献4】特開平6−281937号公報
【特許文献5】特開平5−107544号公報
【特許文献6】特開2008−15497号公報
【特許文献7】特開2010−97188号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“Liq. Cryst.”, vol. 22, p379(1996)
【非特許文献2】「機能材料」, vol. 27, p69(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、横電解型液晶表示素子の有利な効果を有効に発揮するとともに、電界無印加時の暗状態における光線透過率が低減され、さらに優れた残像特性を有する液晶配向膜を与える液晶配向剤、およびコントラストの大きい液晶表示素子を提供することにある。
本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、本発明の上記目的は、第一に、
ポリアミック酸およびポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体、ただし前記重合体はその分子内の少なくとも一部に下記式(1)および(2)のそれぞれで表される構造をともに有する、を含有することを特徴とする、液晶配向剤によって達成される。
【0008】
【化6】

【0009】
(式(1)中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基であり、Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基またはカルボキシル基であり、nは1〜10の整数であり、aは、それぞれ独立に、0〜4の整数であり、「*」は結合手であることを示し;
式(2)中、Rは炭素数1〜6のアルキル基であり、Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基またはカルボキシル基であり、bは0〜5の整数であり、cは0〜4の整数であり、dは0〜3の整数であり、「*」は結合手であることを示す。)
本発明の上記目的は、第二に、
上記の液晶配向剤から形成された液晶配向膜を具備する液晶表示素子によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液晶配向剤は、横電解型液晶表示素子の有利な効果を有効に発揮するとともに、電界無印加時の暗状態における光線透過率が低減され、さらに優れた残像特性を有する液晶配向膜を形成することができる。かかる本発明の液晶配向剤から形成された液晶配向膜を具備する本発明の液晶表示素子は、コントラストが大きく、残像特性に優れるものである。
本発明の液晶配向剤は、従って、横電解型液晶表示素子の液晶配向膜を形成するために好適に用いられるが、TN型、STN型、VA型などのその他各種の液晶表示素子にも好適である。
かかる本発明の液晶表示素子は、種々の装置に有効に適用することができ、例えば時計、携帯型ゲーム、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話、各種モニター、液晶テレビなどの表示装置に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例および比較例における残像特性の評価用に製造した液晶表示素子の有する2系統の透明導電膜パターンの構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の液晶配向剤は、ポリアミック酸およびポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体、ただし前記重合体はその分子内の少なくとも一部に上記式(1)および(2)のそれぞれで表される構造をともに有する、を含有する。このような重合体を、本明細書において、以下、「特定重合体」という。該特定重合体において、上記式(1)で表される構造は、重合体の主鎖中に存在していてもよく、重合体の側鎖中に存在していてもよく、あるいは重合体の主鎖および側鎖の双方に存在してもよく;
上記式(2)で表される構造は、重合体の主鎖中に存在していてもよく、重合体の側鎖中に存在していてもよく、あるいは重合体の主鎖および側鎖の双方に存在してもよい。
上記式(1)におけるRとしては、炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、特にメチル基であることが好ましい。Rの炭素数1〜6のアルキル基としては、それぞれ、炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、特にメチル基であることが好ましい。aは、それぞれ、0であることが好ましい。nは1〜4であることが好ましく、2〜4であることがより好ましい。
上記式(2)におけるRとしては、炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、特にメチル基であることが好ましい。Rの炭素数1〜6のアルキル基としては、それぞれ、炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、特にメチル基であることが好ましい。bは1〜5の整数であることが好ましく、3であることがより好ましく、特にbが3であり、3つの基Rの置換位置がインダン環の1,3,3−位にあることが好ましい。cおよびdは、それぞれ、0であることが好ましい。(任意的に基Rを有する)フェニレン基は、インダン環の1位に結合していることが好ましい。
【0013】
本発明における特定重合体は、上記式(1)で表される構造を、0.001〜0.002モル/gの範囲で含有することが好ましく;
上記式(2)で表される構造を、0.0002〜0.001モル/gの範囲で含有することが好ましい。
分子内の少なくとも一部に上記の如き上記式(1)および(2)のそれぞれで表される構造をともに有するポリアミック酸は、例えば
上記式(1)で表される構造および2つのカルボン酸無水物基を有する化合物ならびに上記式(2)で表される構造および2つのカルボン酸無水物基を有する化合物の双方を含むテトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを反応させるか、あるいは
テトラカルボン酸二無水物と、上記式(1)で表される構造および2つのアミノ基を有する化合物ならびに上記式(2)で表される構造および2つのアミノ基を有する化合物の双方を含むジアミンとを反応させることにより得ることができ、
分子内の少なくとも一部に上記式(1)および(2)のそれぞれで表される構造をともに有するポリイミドは、例えば上記の如くして得られたポリアミック酸を脱水閉環することにより得ることができる。
本発明の液晶配向剤に含有される特定重合体としては、テトラカルボン酸二無水物と、上記式(1)で表される構造および2つのアミノ基を有する化合物ならびに上記式(2)で表される構造および2つのアミノ基を有する化合物の双方を含むジアミンと、を反応させて得られるポリアミック酸および該ポリアミック酸を脱水閉環してなるポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体であることが好ましい。
【0014】
<ポリアミック酸>
上記のとおり、本発明における好ましいポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物と、上記式(1)で表される構造および2つのアミノ基を有する化合物ならびに上記式(2)で表される構造および2つのアミノ基を有する化合物の双方を含むジアミンとを反応させて得られるものである。
[テトラカルボン酸二無水物]
本発明におけるポリアミック酸を合成するために使用されるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂肪族ジカルボン酸無水物構造を有するテトラカルボン酸二無水物、脂環族ジカルボン酸無水物構造を有するテトラカルボン酸二無水物、脂肪族ジカルボン酸無水物構造および芳香族ジカルボン酸無水物構造の双方を有するテトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。ここで、脂肪族ジカルボン酸無水物構造を有するテトラカルボン酸二無水物としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物などを;
脂環式ジカルボン酸無水物構造を有するテトラカルボン酸二無水物としては、脂環式テトラカルボン酸二無水物などを、それぞれ挙げることができる。
上記芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えばピロメリット酸二無水物、下記式(T−1)
【0015】
【化2】

【0016】
(式(T−1)中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基または水酸基であり、eは、それぞれ独立に、0〜3の整数である。)
で表される化合物などを挙げることができる。上記式(T−1)におけるRの炭素数1〜6のアルキル基としては、それぞれ、炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、特にメチル基であることが好ましい。eは、それぞれ、0であることが好ましい。上記式(T−1)で表される化合物の具体例としては、例えば3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。
【0017】
上記脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えばブタンテトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。上記脂肪族ジカルボン酸無水物構造および芳香族ジカルボン酸無水物構造の双方を有するテトラカルボン酸二無水物としては、例えば下記式(T−2)
【0018】
【化3】

【0019】
(式(T−2)中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基または水酸基であり、fは0〜8の整数であり、gは0または1である。)
で表される化合物などを挙げることができる。上記式(T−2)におけるRおよびRの炭素数1〜6のアルキル基としては、それぞれ、炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、特にメチル基であることが好ましい。fおよびgは、それぞれ、0であることが好ましい。上記式(T−2)で表される化合物の具体例としては、例えば1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオンなどを挙げることができる。
【0020】
上記脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、例えば1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシメチルノルボルナン−2:3,5:6−二無水物、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物、4,9−ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン−3,5,8,10−テトラオンなどを、それぞれ挙げることができる。上記のほか、本発明におけるポリアミック酸を合成するためのテトラカルボン酸二無水物として特許文献7(特開2010−97188号公報)に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。
ここで、脂環族ジカルボン酸無水物構造を有するテトラカルボン酸二無水物のうちの好ましいものとしては、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物および2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物を挙げることができる。
【0021】
本発明におけるポリアミック酸を合成するために使用されるテトラカルボン酸二無水物としては、
芳香族テトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも1種と
脂肪族ジカルボン酸無水物構造を有するテトラカルボン酸二無水物、脂環式ジカルボン酸無水物構造を有するテトラカルボン酸二無水物、ならびに脂肪族ジカルボン酸無水物構造および芳香族ジカルボン酸無水物構造の双方を有するテトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも1種と
を含むものであることが好ましい。このとき、上記各テトラカルボン酸二無水物の全テトラカルボン酸二無水物に対する好ましい使用割合、より好ましい使用割合およびさらに好ましい使用割合は、それぞれ下記表の通りである。
【0022】
【表4】

【0023】
上記表のような割合のテトラカルボン酸二無水物の混合物を用いることにより、液晶配向性能がより優れる液晶配向膜を形成することが確実となり、好ましい。
【0024】
本発明におけるポリアミック酸を合成するために使用されるテトラカルボン酸二無水物としては、上記の範囲内で、芳香族テトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも1種と、
脂肪族ジカルボン酸無水物構造を有するテトラカルボン酸二無水物、脂環式ジカルボン酸無水物構造を有するテトラカルボン酸二無水物、ならびに脂肪族ジカルボン酸無水物構造および芳香族ジカルボン酸無水物構造の双方を有するテトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも1種と
からなり、その他のテトラカルボン酸二無水物を含まないものを使用することが最も好ましい。
【0025】
[ジアミン]
本発明における好ましいポリアミック酸を合成するために使用されるジアミンは、上記式(1)で表される構造および2つのアミノ基を有する化合物ならびに上記式(2)で表される構造および2つのアミノ基を有する化合物の双方を含むものである。
上記式(1)で表される構造および2つのアミノ基を有する化合物の好ましい例としては、例えば下記式(D−1)で表される化合物などを挙げることができ;
上記式(2)で表される構造および2つのアミノ基を有する化合物の好ましい例としては、例えば下記式(D−2)で表される化合物などを挙げることができる。
【0026】
【化1】

【0027】
(式(D−1)中のR、R、nおよびaは、それぞれ、上記式(1)におけるのと同義であり;
式(D−2)中のR、R、b、cおよびdは、それぞれ、上記式(2)におけるのと同義である。)
上記式(D−1)で表される化合物としては、例えば2,2−ビス−(4−アミノフェニル)−プロパン、2,2−ビス−(3−アミノフェニル)−プロパン、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスアニリンなどが挙げることができ、これらのうち、特に4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスアニリンが好ましい。
上記式(D−2)で表される化合物としては、例えば1−(4−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチル−1H−インダン−5−アミン、1−(4−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチル−1H−インダン−6−アミンなどを挙げることができる。
本発明における好ましいポリアミック酸を合成するためのジアミンとしては、上記式(D−1)で表される化合物および上記式(D−2)で表される化合物のみを使用してもよく、上記式(D−1)で表される化合物および上記式(D−2)で表される化合物とともにその他のジアミンを併用してもよい。
【0028】
ここで使用することのできるその他のジアミンとしては、例えば脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサンなどを挙げることができる。これらの具体例としては、脂肪族ジアミンとして、例えば1,1−メタキシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどを;
脂環式ジアミンとして、例えば1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどを;
芳香族ジアミンとして、例えばp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,5−ジアミノナフタレン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,7−ジアミノフルオレン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,6−ジアミノピリジン、3,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリミジン、3,6−ジアミノアクリジン、3,6−ジアミノカルバゾール、N−メチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−エチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−フェニル−3,6−ジアミノカルバゾール、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−ベンジジン、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−N,N’−ジメチルベンジジン、1,4−ビス−(4−アミノフェニル)−ピペラジン、3,5−ジアミノ安息香酸、コレスタニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5−ジアミノ安息香酸コレステニル、3,5−ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6−ビス(4−アミノフェノキシ)コレスタン、4−(4’−トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル−3,5−ジアミノベンゾエート、4−(4’−トリフルオロメチルベンゾイロキシ)シクロヘキシル−3,5−ジアミノベンゾエート、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−ブチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−ヘプチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェノキシ)メチル)フェニル)−4−ヘプチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−(4−ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキサンおよび下記式(D−3)
【0029】
【化4】

【0030】
(式(D−3)中、Xは炭素数1〜3のアルキレン基、−O−、−COO−または−OCO−(ただし、「*」を付した結合手がジアミノフェニル基と結合する。)であり、m1は0または1であり、m2は0〜2の整数であり、hは1〜20の整数である。)
で表される化合物などを;
ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば3,3’−(テトラメチルジシロキサン−1,3−ジイル)ビス(プロピルアミン)などを、それぞれ挙げることができるほか、
特許文献7(特開2010−97188号公報)に記載のジアミンを用いることができる。
【0031】
上記式(D−3)におけるXは、炭素数1〜3のアルキル基、−O−または−COO−(ただし、「*」を付した結合手がジアミノフェニル基と結合する。)であることが好ましい。基C2h+1−の具体例としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基などを挙げることができる。ジアミノフェニル基における2つのアミノ基は、他の基に対して2,4−位または3,5−位にあることが好ましい。
【0032】
上記式(D−3)で表される化合物の具体例としては、例えばドデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、テトラデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ドデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、テトラデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、下記式(D−3−1)〜(D−3−3)
【0033】
【化5】

【0034】
のそれぞれで表される化合物などを挙げることができる。上記式(D−3)で表される化合物を含むジアミンを用いて得られたポリアミック酸およびポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体を含有する液晶配向剤は、垂直配向型の液晶配向剤として好適に使用することができる。
上記式(D−3)において、m1およびm2は同時に0にはならないことが好ましい。
その他のジアミンとしては、上記のうち、p−フェニレンジアミン、3,5−ジアミノ安息香酸、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルおよび3,3’−(テトラメチルジシロキサン−1,3−ジイル)ビス(プロピルアミン)よりなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0035】
本発明におけるポリアミック酸を合成するために使用されるジアミンは、
上記式(D−1)で表される化合物を、全ジアミンに対して、50〜90モル%含むものであることが好ましく;
上記式(D−2)で表される化合物を、全ジアミンに対して、10〜50モル%含むものであることが好ましく;
上記その他のジアミンを、全ジアミンに対して40モル%以下の範囲で含むことができる。
【0036】
[ポリアミック酸の合成]
本発明におけるポリアミック酸は、上記の如きテトラカルボン酸二無水物と、上記式(D−1)で表される化合物および上記式(D−2)で表される化合物の双方を含むジアミンと、を反応させることにより得ることができる。
ポリアミック酸の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの使用割合は、ジアミンのアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2〜2当量となる割合とすることが好ましく、さらに好ましくは0.7〜1.2当量となる割合である。
ポリアミック酸の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において、好ましくは−20℃〜150℃、より好ましくは0〜100℃の温度条件下において、好ましくは1〜72時間、より好ましくは3〜48時間行われる。ここで、有機溶媒としては、生成するポリアミック酸を溶解できるものであれば特に制限はなく、例えば1−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−ヘキシルオキシ−N,N−ジメチルプロパンアミドなどのアミド化合物、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミドなどの非プロトン性化合物;
m−クレゾール、キシレノール、フェノール、ハロゲン化フェノールなどのフェノール性化合物などを、例示することができる。有機溶媒の使用量(α:後述の貧溶媒を併用する場合には、有機溶媒と該貧溶媒との合計の使用量を意味する。)は、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンの合計量(β)が、反応溶液の全量(α+β)に対して0.1〜30重量%になるような量であることが好ましい。
【0037】
上記有機溶媒には、ポリアミック酸の貧溶媒であると一般に信じられているアルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素などを、生成するポリアミック酸が析出しない範囲で併用してもよい。かかる貧溶媒の具体例としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸エチル、乳酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、ジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−i−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,4−ジクロロブタン、トリクロロエタン、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテルなどを挙げることができる。
有機溶媒と上記の如き貧溶媒とを併用する場合、該貧溶媒の使用量は生成するポリアミック酸が析出しない範囲で適宜に設定することができるが、溶媒の全量に対して30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましい。
【0038】
この反応溶液はそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、または単離したポリアミック酸を精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。ポリアミック酸を脱水閉環してポリイミドとする場合には、上記反応溶液をそのまま脱水閉環反応に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで脱水閉環反応に供してもよく、または単離したポリアミック酸を精製したうえで脱水閉環反応に供してもよい。ポリアミック酸の単離は、上記反応溶液を大量の貧溶媒中に注いで析出物を得、この析出物を減圧下乾燥する方法、あるいは、反応溶液中の有機溶媒をエバポレーターで減圧留去する方法により行うことができる。また、このポリアミック酸を再び有機溶媒に溶解し、次いで貧溶媒で析出させる方法、あるいは、ポリアミック酸を再び有機溶媒に溶解して得た溶液を洗浄した後、洗浄後の溶液に含まれる有機溶媒をエバポレーターで減圧留去する工程を1回または数回行う方法により、ポリアミック酸を精製することができる。
【0039】
<ポリイミド>
本発明の液晶配向剤に含有されることのできる特定重合体としてのポリイミドは、上記の如きポリアミック酸を脱水閉環することにより得ることができる。
上記ポリイミドの合成に用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、上述したポリアミック酸の合成に用いられるテトラカルボン酸二無水物と同じ化合物を挙げることができ、その好ましいものもポリアミック酸の合成に用いられるテトラカルボン酸二無水物の場合と同様である。
本発明の液晶配向剤に含有されるポリイミドを合成するために用いられるジアミンとしては、上記のポリアミック酸の合成に用いられるジアミンと同じジアミンを挙げることができる。
【0040】
本発明におけるポリイミドは、原料であるポリアミック酸が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存する部分イミド化物であってもよい。本発明におけるポリイミドは、イミド化率が40モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましい。イミド化率が40モル%以上のポリイミドを用いることによって、より高いコントラストを示す液晶表示素子を与える液晶配向膜を形成しうる液晶配向剤を得ることができる。
上記イミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。このとき、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。イミド化率は、ポリイミドを適当な重水素化溶媒(例えば重水素化ジメチルスルホキシド)に溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温(例えば25℃)でH−NMRを測定した結果から、下記数式(1)により求めることができる。
イミド化率(%)=(1−A/A×α)×100 (1)
(数式(1)中、Aは化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、Aはその他のプロトン由来のピーク面積であり、αはポリイミドの前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
【0041】
ポリアミック酸の脱水閉環は、好ましくは(i)ポリアミック酸を加熱する方法により、または(ii)ポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤および脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。
上記(i)のポリアミック酸を加熱する方法における反応温度は好ましくは50〜200℃であり、より好ましくは60〜170℃である。反応時間は好ましくは1〜8時間であり、より好ましくは3〜5時間である。反応温度が50℃未満では脱水閉環反応が十分に進行せず、反応温度が200℃を超えると得られるポリイミドの分子量が低下することがある。
【0042】
一方、上記(ii)のポリアミック酸の溶液中に脱水剤および脱水閉環触媒を添加する方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、所望するイミド化率によるが、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01〜20モルとすることが好ましい。また、脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミンなどの3級アミンを用いることができる。しかし、これらに限定されるものではない。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01〜10モルとすることが好ましい。イミド化率は上記の脱水剤、脱水閉環剤の使用量が多いほど高くすることができる。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は好ましくは0〜180℃であり、より好ましくは10〜150℃である。反応時間は好ましくは1〜8時間であり、より好ましくは3〜5時間である。
方法(ii)においては、上記のようにしてポリイミドを含有する反応溶液が得られる。この反応溶液は、これをそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液から脱水剤及び脱水閉環触媒を除いたうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミドを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、または単離したポリイミドを精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。反応溶液から脱水剤及び脱水閉環触媒を除くには、例えば溶媒置換などの方法を適用することができる。ポリイミドの単離、精製は、ポリアミック酸の単離、精製方法として上記したのと同様の操作を行うことにより行うことができる。
【0043】
[末端修飾型の重合体]
本発明におけるポリアミック酸およびポリイミドは、それぞれ、分子量が調節された末端修飾型の重合体であってもよい。末端修飾型の重合体を用いることにより、本発明の効果が損なわれることなく液晶配向剤の塗布特性などをさらに改善することができる。このような末端修飾型の重合体は、ポリアミック酸を合成する際に、分子量調節剤を重合反応系に添加することにより行うことができる。分子量調節剤としては、例えば酸一無水物、モノアミン化合物、モノイソシアネート化合物などを挙げることができる。
上記酸一無水物としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸、n−デシルサクシニック酸無水物、n−ドデシルサクシニック酸無水物、n−テトラデシルサクシニック酸無水物、n−ヘキサデシルサクシニック酸無水物などを挙げることができる。上記モノアミン化合物としては、例えばアニリン、シクロヘキシルアミン、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミン、n−ノニルアミン、n−デシルアミン、n−ウンデシルアミン、n−ドデシルアミン、n−トリデシルアミン、n−テトラデシルアミン、n−ペンタデシルアミン、n−ヘキサデシルアミン、n−ヘプタデシルアミン、n−オクタデシルアミン、n−エイコシルアミンなどを挙げることができる。上記モノイソシアネート化合物としては、例えばフェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどを挙げることができる。
分子量調節剤の使用割合は、ポリアミック酸を合成する際に使用するテトラカルボン酸二無水物およびジアミンの合計100重量部に対して、好ましくは20重量以下であり、より好ましくは10重量部以下である。
【0044】
[溶液粘度]
以上のようにして得られるポリアミック酸およびポリイミドは、それぞれ、濃度10重量%の溶液としたときに、20〜800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、30〜500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。
上記重合体の溶液粘度(mPa・s)は、当該重合体の良溶媒を用いて調製した濃度10重量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0045】
<その他の添加剤>
本発明の液晶配向膜は、上記の如きポリアミック酸およびこれを脱水閉環してなるポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種である特定重合体を必須成分として含有するが、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。かかるその他の成分としては、例えばその他の重合体、接着性向上剤などを挙げることができる。
上記その他の重合体は、溶液特性および電気特性の改善のために使用することができる。かかるその他の重合体は、特定重合体以外の重合体であり、例えば
テトラカルボン酸二無水物と
上記式(D−1)で表される化合物および上記式(D−2)で表される化合物のうちの少なくともいずれか一方を含まないジアミンと
を反応させて得られるポリアミック酸(以下、「他のポリアミック酸」という。)、該ポリアミック酸を脱水閉環してなるポリイミド(以下、「他のポリイミド」という。)、ポリアミック酸エステル、ポリエステル、ポリアミド、ポリシロキサン、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン−フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。これらのうち、他のポリアミック酸または他のポリイミドが好ましく、他のポリアミック酸を使用することがより好ましい。
【0046】
その他の重合体の使用割合は、重合体の合計量(特定重合体およびその他の重合体の合計をいう。以下同じ。)に対して、好ましくは90重量%以下とすることができ、より好ましくは85重量%以下とすることができる。本発明の液晶配向剤がその他の重合体を含有する場合、その使用割合は、形成される液晶配向膜の電気特性の観点から、重合体の合計量に対して、30重量%以上とすることが好ましく、50重量%以上とすることがより好ましい。
上記接着性向上剤は、得られる液晶配向膜の基板表面に対する接着性を向上させる目的で使用することができる。かかる接着性向上剤としては、例えば分子内に少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物(以下、「エポキシ化合物」という。)、官能性シラン化合物などを挙げることができる。
【0047】
上記エポキシ化合物としては、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3,5,6−テトラグリシジル−2,4−ヘキサンジオール、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3−(N−アリル−N−グリシジル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(N,N−ジグリシジル)アミノプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
上記の如きエポキシ化合物の使用割合としては、重合体の合計量100重量部に対して好ましくは40重量部以下であり、より好ましくは0.1〜30重量部である。
【0048】
上記官能性シラン化合物としては、例えば3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N−トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10−トリメトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、10−トリエトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
上記の如き官能性シラン化合物の使用割合としては、重合体の合計量100重量部に対して好ましくは2重量部以下であり、より好ましくは0.01〜0.2重量部である。
【0049】
本発明の液晶配向剤は、上記の如きポリアミック酸およびポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種ならびに必要に応じて任意的に配合されるその他の添加剤が、好ましくは有機溶媒中に溶解含有されて構成される。
本発明の液晶配向剤に使用できる有機溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタム、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−i−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−ヘキシルオキシ−N,N−ジメチルプロパンアミドなどを挙げることができる。
【0050】
本発明の液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計重量が液晶配向剤の全重量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1〜10重量%の範囲である。すなわち、本発明の液晶配向剤は、後述するように基板表面に塗布され、好ましくは加熱されることにより液晶配向膜となる塗膜が形成されるが、固形分濃度が1重量%未満である場合には、この塗膜の膜厚が過小となって良好な液晶配向膜を得ることができず、一方固形分濃度が10重量%を超える場合には、塗膜の膜厚が過大となって良好な液晶配向膜を得ることができず、また、液晶配向剤の粘性が増大して塗布特性が劣るものとなる。
特に好ましい固形分濃度の範囲は、基板に液晶配向剤を塗布する際に用いる方法によって異なる。例えばスピンナー法による場合には固形分濃度1.5〜4.5重量%の範囲が特に好ましい。印刷法による場合には、固形分濃度を3〜9重量%の範囲とし、それにより溶液粘度を12〜50mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。インクジェット法による場合には、固形分濃度を1〜5重量%の範囲とし、それにより、溶液粘度を3〜15mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。
本発明の液晶配向剤を調製する際の温度は、好ましくは0℃〜200℃であり、より好ましくは20℃〜60℃である。
【0051】
<液晶表示素子>
本発明の液晶表示素子は、上記の如き本発明の液晶配向剤から形成された液晶配向膜を具備するものである。
本発明の液晶表示素子における好ましい動作モードは横電解型であるが、TN型、STN型またはVA型にも好適に適用することができる。
本発明の液晶表示素子は、例えば以下(1)ないし(3)の工程により製造することができる。工程(1)は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程(2)および(3)は各動作モードに共通である。
(1)先ず基板上に本発明の液晶配向剤を塗布し、次いで塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。
【0052】
(1−1)TN型、STN型またはVA型液晶表示素子を製造する場合、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板二枚を一対として、その各透明性導電膜形成面上に、本発明の液晶配向剤を、好ましくはオフセット印刷法、スピンコート法、ロールコーター法またはインクジェット印刷法によりそれぞれ塗布し、次いで、各塗布面を加熱(好ましくは予備加熱(プレベーク)および焼成(ポストベーク)からなる二段階加熱)することにより塗膜を形成する。ここに、基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)などのプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO )からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム−酸化スズ(In−SnO)からなるITO膜などを用いることができ、パターニングされた透明導電膜を得るには、例えばパターンなし透明導電膜を形成した後フォト・エッチングによりパターンを形成する方法、透明導電膜を形成する際に所望のパターンを有するマスクを用いる方法などによることができる。液晶配向剤の塗布に際しては、基板表面および透明導電膜と塗膜との接着性をさらに良好にするために、基板表面のうち塗膜を形成するべき面に、官能性シラン化合物、官能性チタン化合物などを予め塗布する前処理を施しておいてもよい。
液晶配向剤塗布後の塗布面を、次いで予備加熱(プレベーク)し、さらに焼成(ポストベーク)することにより塗膜を形成する。プレベーク条件は、例えば40〜120℃において0.1〜5分であり、ポストベーク条件は、好ましくは120〜300℃、より好ましくは150〜250℃において、好ましくは5〜200分、より好ましくは10〜100分である。形成される塗膜の膜厚は、好ましくは0.001〜1μmであり、より好ましくは0.005〜0.5μmである。
【0053】
(1−2)一方、横電解型液晶表示素子を製造する場合、櫛歯型にパターニングされた透明導電膜が設けられている基板の導電膜形成面と、導電膜が設けられていない対向基板の一面とに、本発明の液晶配向剤をそれぞれ塗布し、次いで各塗布面を加熱することにより塗膜を形成する。
このとき使用される基板および透明導電膜の材質、塗布方法、塗布後の加熱条件、透明導電膜のパターニング方法、基板の前処理ならびに形成される塗膜の好ましい膜厚については上記(1−1)と同様である。
上記(1−1)および(1−2)のいずれの場合も、本発明の液晶配向剤は塗布後に有機溶媒を除去することによって配向膜となる塗膜を形成するが、本発明の液晶配向剤に含有される重合体がポリアミック酸またはイミド環構造とアミック酸構造とを併有するポリイミドである場合には、塗膜形成後にさらに加熱することによって脱水閉環反応を進行させ、よりイミド化された塗膜としてもよい。
【0054】
(2)VA型液晶表示素子を製造する場合には、上記のようにして形成された塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができるが、次に述べるラビング処理を施してもよい。
一方、TN型、STN型または横電解型液晶表示素子を製造する場合には、
上記のようにして形成された塗膜を、例えばナイロン、レーヨン、コットンなどの繊維からなる布を巻き付けたロールで一定方向に擦るラビング処理を施す。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。
さらに、本発明の液晶配向剤により形成された液晶配向膜に対し、例えば特許文献3、特許文献4などに示されている如く、液晶配向膜の一部に紫外線を照射することによって液晶配向膜の一部の領域のプレチルト角を変化させる処理や、特許文献5に記載されているような液晶配向膜表面の一部にレジスト膜を形成したうえで先のラビング処理と異なる方向にラビング処理を行った後にレジスト膜を除去する処理を行い、液晶配向膜が領域ごとに異なる液晶配向能を持つようにすることによって得られる液晶表示素子の視界特性を改善することが可能である。
【0055】
(3)上記のようにして液晶配向膜が形成された一対の基板につき、二枚の基板の液晶配向膜のラビング方向が直交または逆平行となるように間隙(セルギャップ)を介して対向配置し、二枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面およびシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶を注入充填し、注入孔を封止して液晶セルを構成する。そして、液晶セルの外表面に、偏光板を、その偏光方向が各基板に形成された液晶配向膜のラビング方向と一致または直交するように貼り合わせることにより、液晶表示素子を得ることができる。
ここに、シール剤としては、例えば硬化剤およびスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂などを用いることができる。
【0056】
液晶としては、ネマチック型液晶およびスメクチック型液晶を挙げることができ、その中でもネマチック型液晶が好ましく、例えばシッフベース系液晶、アゾキシ系液晶、ビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、エステル系液晶、ターフェニル系液晶、ビフェニルシクロヘキサン系液晶、ピリミジン系液晶、ジオキサン系液晶、ビシクロオクタン系液晶、キュバン系液晶などを用いることができる。また、これらの液晶に、例えばコレスチルクロライド、コレステリルノナエート、コレステリルカーボネートなどのコレステリック型液晶;商品名「C−15」、「CB−15」(メルク社製)として販売されているようなカイラル剤;p−デシロキシベンジリデン−p−アミノ−2−メチルブチルシンナメートなどの強誘電性液晶などを、添加して使用してもよい。
液晶セルの外表面に貼り合わされる偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光膜を酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板またはH膜そのものからなる偏光板を挙げることができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
下記の合成例において4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスアニリンは、三井化学(株)製の市販品「ビスアニリンM」をそのまま使用した。
また、各合成例における重合体の溶液粘度は、いずれもE型粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0058】
<重合体の合成例>
合成例1〜7および比較合成例1〜3
N−メチル−2−ピロリドンに、第1表に示す量のジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物を、この順で加えて、モノマー濃度15重量%の溶液とし、室温において6時間の反応を行って、ポリアミック酸(PA−1)〜(PA−7)および(PAR−1)〜(PAR−3)を含有する溶液をそれぞれ得た。各溶液を少量分取し、N−メチル−2−ピロリドンを加えてポリアミック酸濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度を第1表に示した。
これらポリアミック酸溶液のうちの各半量を確保し、それぞれ、以降の実施例1〜6および12ならびに比較例1〜3で使用した。
上記の各ポリアミック酸のうち、(PA−1)〜(PA−5)および(PA−7)ならびに(PAR−1)について、以下のように脱水閉環反応を行い、それぞれポリイミドとした。
【0059】
上記各ポリアミック酸溶液の残りの半量にN−メチル−2−ピロリドンを加えてポリアミック酸濃度6重量%の溶液とし、ここにピリジンおよび無水酢酸を、それぞれポリアミック酸の有するアミック酸単位1モルに対して第1表に記載のモル比となるように添加した後、110℃に加熱して4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなN−メチル−2−ピロリドンで溶媒置換(本操作にて脱水閉環反応に使用したピリジンおよび無水酢酸を系外に除去した。)することにより、ポリイミド(PI−1)〜(PI−5)および(PI−7)ならびに(PIR−1)をそれぞれ15重量%含有する溶液を得た。これらポリイミド溶液に含まれる各ポリイミドのイミド化率および各溶液を少量分取し、ポリイミド濃度10重量%のN−メチル−2−ピロリドン溶液として測定した溶液粘度を、それぞれ第1表に示した。
これらポリイミド溶液は、それぞれ、以降の実施例7〜12および比較例4で使用した。
【0060】
【表1】

【0061】
なお、第1表中、ジアミンおよびテトラカルボン酸無水物の略称は、それぞれ以下の意味である。
<ジアミン>
d−1:4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスアニリン
d−2:1−(4−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチル−1H−インダン−5−アミン
d−3:p−フェニレンジアミン
d−4:4,4’−ジアミノジフェニルメタン
d−5:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
d−6:3,3’−ビス(テトラメチルジシロキサン−1,3−ジイル)−ビス(プロピルアミン)
d−7:3,5−ジアミノ安息香酸
<テトラカルボン酸二無水物>
t−1:2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物
t−2:1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
t−3:ピロメリット酸二無水物
t−4:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
【0062】
実施例1
<液晶配向剤の調製>
上記合成例1で得られたポリアミック酸(PA−1)を含有する溶液にγ−ブチロラクトン(BL)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)およびブチルセロソルブ(BC)を加え、さらに接着性向上剤としてエポキシ化合物であるN,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタンを、ポリアミック酸(PA−1)100重量部に対して10重量部加えて、溶媒比がBL:NMP:BC=40:40:20(重量比)、固形分濃度4.0重量%の溶液とした。この溶液を十分に撹拌後、孔径1μmのフィルターを用いて濾過することにより、液晶配向剤を調製した。
この液晶配向剤を用いて以下のようにして評価を行なった。
【0063】
<液晶セルの製造および評価>
[液晶セルの製造]
以下のようにして液晶配向性および暗状態の評価用の液晶セルを製造した。
片面に櫛歯状に設けられたクロム電極を有する厚さ1mmのガラス基板上に、上記で調製した液晶配向剤をスピンナーにより塗布し、80℃のホットプレート上で1分間のプレベークを行った後、230℃のホットプレート上で10分間ポストベークして、膜厚約800Åの塗膜を形成した。形成された塗膜面に対し、ナイロン製の布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンを用いて、ロールの回転数1,000rpm、ステージの移動速度25mm/秒、毛足押し込み長さ0.4mmにてラビング処理を行い、液晶配向能を付与した。さらにこの基板を超純水中で1分間超音波洗浄し、100℃クリーンオーブンで10分間乾燥することにより、櫛歯状のクロム電極を有する面上に液晶配向膜を有する基板を製造した。
これとは別に、電極を有さない厚さ1mmのガラス基板の一面に、上記と同様にして液晶配向剤の塗膜を形成し、ラビング処理を行った後、洗浄および乾燥して、片面上に液晶配向膜を有する基板を製造した。
これらの基板を一対として、基板のラビング処理された液晶配向膜を有する面の外縁に直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、各液晶配向膜におけるラビング方向が逆平行となるように2枚の基板を間隙を介して対向配置し、外縁部同士を当接して圧着して接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より一対の基板間に、ネマティック型液晶(メルク社製、MLC−2042)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止することにより、横電解型液晶セルを製造した。
【0064】
[液晶セルの評価]
(1)液晶配向性の評価
上記で製造した液晶セルにつき、偏光顕微鏡を用いて観察した。このとき、光漏れが全く認められなかったものを液晶配向性「優良」、光漏れがごくわずかしか認められなかったものを液晶配向性「良好」、光漏れが明確に認められたものを液晶配向性「不良」として評価したところ、この液晶セルの液晶配向性は「優良」であった。
(2)暗状態の評価
上記で製造した液晶セルを一対の偏光板で挟み、電圧無印加のときの暗状態の程度を調べた。
一対の偏光板を液晶配向膜のラビング方向とクロスニコル配置としたときの光透過率を0%とし、
一対の偏光板を液晶配向膜のラビング方向とパラニコル配置とし、電圧を印加したときの光透過率を100%とした場合に、
一対の偏光板を液晶配向膜のラビング方向とパラニコル配置として貼り付け、電圧無印加状態における光透過率を調べた。この光透過率が0.1%未満であった場合を暗状態「優良」、0.1%以上0.2%未満であった場合を暗状態「良好」、0.2%以上であった場合を暗状態「不良」とした。
なおこの(2)暗状態の評価は、上記(1)液晶配向性の評価において「優良」または「良好」とされ、一応好適な液晶配向性を示すものとされた液晶セルについて、さらに高い精度で厳密な評価を行うものであり、近年の高画質レベルの表示品位の指標となる評価である。
【0065】
(3)残像の評価
上記[液晶セルの製造]において、クロムからなる櫛歯状の透明導電膜パターンを2系統有するガラス基板および透明導電膜を持たないガラス基板を一対として用い、櫛歯状透明導電膜を有する基板の透明導電膜上およびもう一方の基板の片面にそれぞれ上記液晶配向剤を塗布したほかは、上記[液晶セルの製造]と同様にして実施して、液晶セルを製造した。さらにこの液晶セルの有する基板の外側の両面に偏光板を、液晶配向膜のラビング方向とパラニコル配置として貼り合わせることにより、液晶表示素子を製造した。
上記ガラス基板上の透明電極パターンの構成を示す概略図を図1に示した。
上記で製造した液晶表示素子を25℃、1気圧の環境下におき、電極Bには電圧をかけずに、電極Aに交流電圧3.5Vと直流電圧5Vの合成電圧を2時間印加した。その直後、電極Aおよび電極Bの双方に交流4Vの電圧を印加した。両電極に交流4Vの電圧を印加し始めた時点から電極Aおよび電極Bの光透過性の差がなくなるまでの時間を測定した。なお、この時間が300秒以下であったときには残像特性「優良」、300秒を超えて500秒以下であったときには残像特性「良好」と、一応評価することができるが、この時間は短ければ短いほど好ましい。
【0066】
実施例2〜12および比較例1〜4
上記実施例1において、重合体溶液として第2表に示した重合体を含有する溶液をそれぞれ使用したほかは実施例1と同様にして液晶配向剤を調製し、液晶セルを製造して評価した。なお、実施例12においては、重合体として2種類のものを混合して使用した。ここで、接着性向上剤は、重合体の合計100重量部に対して10重量部使用した。
評価結果は、第2表に示した。
【0067】
【表2】

【0068】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミック酸およびポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種の重合体、ただし前記重合体はその分子内の少なくとも一部に下記式(1)および(2)のそれぞれで表される構造をともに有する、を含有することを特徴とする、液晶配向剤。
【化6】

(式(1)中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基であり、Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基またはカルボキシル基であり、nは1〜10の整数であり、aは、それぞれ独立に、0〜4の整数であり、「*」は結合手であることを示し;
式(2)中、Rは炭素数1〜6のアルキル基であり、Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基またはカルボキシル基であり、bは0〜5の整数であり、cは0〜4の整数であり、dは0〜3の整数であり、「*」は結合手であることを示す。)
【請求項2】
前記重合体が、テトラカルボン酸二無水物と
下記式(D−1)で表される化合物および下記式(D−2)で表される化合物の双方を含むジアミンと
を反応させて得られるポリアミック酸および該ポリアミック酸を脱水閉環してなるポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種である、液晶配向剤。
【化1】

(式(D−1)中のR、R、nおよびaは、それぞれ、上記式(1)におけるのと同義であり;
式(D−2)中のR、R、b、cおよびdは、それぞれ、上記式(2)におけるのと同義である。)
【請求項3】
上記テトラカルボン酸二無水物が、
芳香族テトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも1種と
脂肪族ジカルボン酸無水物構造または脂環式ジカルボン酸無水物構造を有するテトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも1種と
を含むものである、請求項2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
上記ジアミンが、
p−フェニレンジアミン、3,5−ジアミノ安息香酸、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルおよび3,3’−(テトラメチルジシロキサン−1,3−ジイル)ビス(プロピルアミン)よりなる群から選択される少なくとも1種をさらに含むものである、請求項2または3に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の液晶配向剤から形成された液晶配向膜を具備することを特徴とする、液晶表示素子。

【図1】
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【公開番号】特開2011−138104(P2011−138104A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230507(P2010−230507)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】