説明

液晶/高分子複合体および光学素子

【課題】光照射によりブラッグ反射波長を変化させることができ、ブルー相の状態にある液晶で構成された液晶材料を提供する。
【解決手段】 液晶性化合物と、カイラル剤と、単官能性重合性モノマーと、多官能性重合性モノマーとを含む液晶組成物を重合させて得られる液晶/高分子複合体において、前記カイラル剤は光照射によりらせん誘起力が変化するカイラル剤であり、該複合体中の前記液晶性化合物とカイラル剤との組み合せがブルー相を有する液晶/高分子複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射により、ブラッグ反射波長や駆動時の閾値電圧が変化する液晶/高分子複合体、およびそれを用いた光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
コレステリック液晶を昇温していくと、コレステリック相から等方相へ転移する直前に、液晶相の一つであるブルー相が発現することが知られている。ブルー相は、液晶が互いにねじれて配列した二重ねじれ構造と、等方相に近い状態の線状欠陥とが共存した状態と考えられており、数百nmオーダーの格子定数の体心立方格子(ブルー相I)や単純立方格子(ブルー相II)のような三次元周期構造を形成することが知られている。
【0003】
そのため、ブルー相の状態にある液晶は、立方晶としての性質とコレステリック液晶としての性質とを兼ね備えており、可視光に対して旋光性を示すほか、ブラッグ反射が観測される。また、電界や磁界等の外場環境を変化させることにより、入射光の回折角、偏光状態等をマイクロ秒オーダーの応答時間で変化させることができる。よって、ブルー相の状態にある液晶を用いた光学素子には、従来の光学素子を遥かに凌ぐ応答速度と多様な機能が期待できる。しかし、ブルー相は等方相直下の数℃(一般的には1〜3℃)の温度範囲(温度幅)でしか発現しないため、極めて精密な温度制御が必要であり、実用化が困難であった。この問題を解決しうる技術として、ブルー相を示す液晶と重合性モノマーとを含む液晶組成物を重合させることによって、ブルー相の発現温度範囲(温度幅)を改善することが報告されている(非特許文献1参照。)。
【0004】
一方、光照射によりらせん誘起力(Helical Twisting Power、以下、HTPと略記する。)が変化するカイラル剤としては、種々のカイラルフォトクロミック化合物が知られており、カイラルアゾベンゼン(非特許文献2参照。)、カイラルジアリールエテン(非特許文献3参照。)、カイラルフルギド(非特許文献4参照。)等を用いてコレステリック相の選択反射波長制御を行う例が報告されている。しかし、これらのカイラルフォトクロミック化合物を、ブルー相を示す液晶材料に応用した例はない。
【非特許文献1】「Nature Materials」、2002年、1巻、p.64
【非特許文献2】E.Sackmann、「Journal of American Chemical Society」、1971年、93巻、25号、p.7088
【非特許文献3】C.Denekamp and B.L.Feringer、「Advanced Materials」、1988年、10号、p.1080
【非特許文献4】横山泰ら、「Journal of American Chemical Society」、1996年、118巻、p.3100
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記非特許文献1に示されている液晶材料は、ある特定波長の光が入射したときにのみ選択反射が観測される。よって、ブルー相の状態にある液晶において、選択反射波長を変化させて使用する用途には適用できなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、光照射によりブラッグ反射波長を変化させることができ、実用に適した温度範囲にわたってブルー相を発現する液晶/高分子複合体および光学素子を提供する。すなわち、本発明は以下に示す<1>〜<4>の発明を提供する。
【0007】
<1>:液晶性化合物と、カイラル剤と、単官能性重合性モノマーと、多官能性重合性モノマーとを含む液晶組成物を重合させて得られる液晶/高分子複合体において、前記カイラル剤は光照射によりらせん誘起力が変化するカイラル剤であり、該複合体中の前記液晶性化合物と前記カイラル剤との組み合せがブルー相を有することを特徴とする液晶/高分子複合体。
【0008】
<2>:ブルー相の発現温度範囲が少なくとも−10〜+20℃の範囲にある<1>に記載の液晶/高分子複合体。
【0009】
<3>:<1>または<2>に記載の液晶/高分子複合体を用いることを特徴とする光学素子。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ブルー相の状態にある液晶で構成された光学素子において、光照射によりブラッグ反射波長を変化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を化合物(1)とも記す。他の化合物についても同様に記す。また、光源からの発振波長は、一点の値で記載されている場合でも、記載値±2nmの範囲を含むこととする。
【0012】
本発明における液晶組成物とは、液晶性化合物と、カイラル剤と、単官能性重合性モノマーと、多官能性重合性モノマーとを含む組成物である。
【0013】
また、本発明における液晶/高分子複合体とは、上記液晶組成物を重合させて得られる複合体であって、単官能性重合性モノマーと多官能性重合性モノマーとからなる重合体と、液晶性化合物とカイラル剤の組み合わせとの複合体を意味する。
【0014】
本発明においては、液晶性化合物とカイラル剤との組み合せを広義のコレステリック液晶として扱い、該組み合せが示す液晶相をコレステリック液晶相と記す。なお、液晶性化合物とカイラル剤との組み合せを、以下単に「液晶」ともいう。液晶性化合物とカイラル剤の組み合せ(液晶)としては、コレステリック液晶相を示す組み合せが好ましい。
【0015】
液晶性化合物とカイラル剤との組み合せ(液晶)がブルー相を安定に発現するためには、コレステリック液晶相におけるらせんピッチが500nm以下であることが好ましい。らせんピッチが500nm超であると、ブルー相が発現しないか、または発現しても不安定となる。なお、ブルー相が発現することは、偏光顕微鏡による観察および反射スペクトルの測定により確認できる。すなわち、ブルー相が発現していると、ブルー相に特徴的なplatelets(小板状組織)が偏光顕微鏡によって観察される。また、反射スペクトルを測定すると、plateletsに対応する波長近傍にピークが認められる。
【0016】
本発明における液晶性化合物としては、ネマチック性液晶性化合物、スメクチック性液晶性化合物、ディスコチック性液晶性化合物等が挙げられ、ネマチック性液晶性化合物が好ましい。ネマチック性液晶性化合物としては特に制限されず、ビフェニル系化合物、ターフェニル系化合物、ビフェニルシクロヘキシル系化合物、アゾメチン系化合物、アゾおよびアゾオキシ系化合物、スチルベン系化合物、ビシクロヘキシル系化合物、およびピリミジン系化合物等が挙げられる。
【0017】
これらの液晶性化合物は、単独で使用してもよく、二種類以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合は、混合物がネマチック液晶相を示すことが好ましい。
【0018】
本発明におけるカイラル剤は、フォトクロミズムを示す部分構造と光学活性な部分構造とを有し、光照射によりらせん誘起力が変化する化合物である。なお、本明細書では以下より該化合物を「フォトクロミックカイラル剤」といい、単に「カイラル剤」とも記す。
【0019】
フォトクロミズムを示す部分構造とは、光照射により異性化反応や開環−閉環反応が起こって構造が可逆的に変化し、該部分構造を有する化合物の、誘電率、屈折率、電子密度分布、およびスペクトル(IRスペクトル、UVスペクトル等)の変化を誘起する部分構造である。ここで、光とは、構造を可逆的に変化させることのできる光であれば特に限定されず、紫外線、可視光線、赤外線等が挙げられる。また、構造の可逆的変化は、正逆ともに光によって誘起されてもよく、一方が光によって、他方が熱によって誘起されてもよい。
【0020】
フォトクロミズムを示す部分構造としては、以下に示す、スピロピラン構造(1)、アゾベンゼン構造(2)、ジアリールエテン構造(3)、フルギド構造(4)等が挙げられるが、これらに限定されない。ただし、式中のRおよびRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、またはアルコキシ基を示し、Rはアルキル基を示す。R、R、R、およびRは、それぞれ独立にアルキル基またはアルコキシ基を示す。R、R10、およびR13はアルキル基、R11およびR12はアルキル基またはアリール基を示す。XおよびYは、それぞれ独立にイオウ原子または窒素原子であり、少なくとも一方はイオウ原子であることが好ましい。Wは酸素原子、イオウ原子、または−NH−を示し、Wは酸素原子または−NH−を示す。
【0021】
アゾベンゼン構造(2)におては、芳香環上に置換基を有していてもよく、その場合は、4位および4‘位に置換基を有することが好ましい。また、ジアリールエテン構造(3)、フルギド構造(4)における複素五員環には芳香環が縮環していてもよい。なお、以下の例では、異性体のうちの1つの構造のみを示す。



















【0022】
【化1】

【0023】
光学活性な部分構造としては、不斉炭素原子を有する構造又は軸不斉を有する構造であれば特に制限されない。
【0024】
不斉炭素原子を有する構造としては、下式(5)、(6)に示す構造が挙げられる。なお、「*」を付した炭素原子は不斉炭素原子であることを示し、以下も同様である。
【0025】
ただし、式中のR14は、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、フェニル基、トリフルオロメチル基、またはシアノ基を示し、フェニル基が好ましい。










【0026】
【化2】

【0027】
軸不斉を有する構造としては、以下に示す、アトロープ異性体(7)、アレン誘導体(8)、ヘリセン誘導体(9)、スピロ誘導体(10)等が挙げられる。
【0028】
ただし、式中の記号は1価の有機基を示し、aとb、cとd、eとf、gとh、はそれぞれ異なる基である。
【0029】
【化3】

【0030】
本発明におけるカイラル剤としては、例えば、下式(11)で表される化合物、下式(12)で表される化合物、および下式(13)で表される化合物等が使用できる。ただし、本発明においてはこれらに限定されない。

【0031】
【化4】

【0032】
これらのカイラル剤は特定波長の光を吸収して異性化することによりHTPが変化する。ここでカイラル剤のHTPは、下式(A)により定義される。
【0033】
HTP=(1/P)×C=const.・・・(A)
(P:らせんピッチ、C:カイラル剤濃度)
したがって、HTPが大きいカイラル剤は、少ない添加量で短ピッチを誘起できる。逆にHTPが小さいカイラル剤では短ピッチを誘起するには大量の添加が必要となる。
【0034】
光照射による異性化に伴うHTP変化はそれぞれのカイラル剤により異なる。たとえば前記化合物(11)は、はシス体とトランス体との間で異性化し、トランス体のHTPがシス体のHTPに比べて大きい。また、前記化合物(12)は開環−閉環反応によって異性化し、開環体のほうが大きいHTPを示す。さらに前記化合物(13)は、は開環−閉環反応によって異性化し、閉環体の方が大きいHTPを示す。
【0035】
本発明におけるカイラル剤としては液晶性化合物であっても非液晶性化合物であってもよい。カイラル剤が不斉炭素原子を有する化合物である場合、該不斉炭素原子の立体配置はRまたはSのいずれであってもよい。カイラル剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。カイラル剤を2種以上用いる場合は、誘起されるらせん方向が同一であるカイラル剤を組み合せて使用することが好ましい。
【0036】
さらに、カイラル剤は液晶性化合物との相溶性が良好であることが好ましい。相溶性が良好であると、液晶/高分子複合体とした後にカイラル剤が析出する現象を防止でき、ブルー相をより安定化できる。
【0037】
液晶組成物に含まれる液晶(液晶性化合物とカイラル剤との組み合せ)の量は、液晶組成物に対して90質量%以上が好ましく、93〜97質量%が特に好ましい。また、液晶性化合物は、液晶性化合物とカイラル剤との総量に対して、50〜90質量%含まれることが好ましく。70〜90質量%含まれることが特に好ましい。カイラル剤は、液晶性化合物とカイラル剤との総量に対して10〜50質量%含まれることが好ましく、10〜30質量%含まれることが特に好ましい。
【0038】
本発明における単官能性重合性モノマーとは、1個の重合性官能基を有する非液晶性または液晶性の化合物であり、非液晶性化合物であることが好ましい。重合性官能基としては、アクリロイル基またはメタクリロイル基が好ましく、アクリロイル基が特に好ましい。単官能性重合性モノマーとしては、アクリル酸エステル類またはメタクリル酸エステル類が好ましく、アクリル酸アルキルエステル類が特に好ましい。
【0039】
本発明における多官能性重合性モノマーとは、単官能性重合性モノマーの分子間を結合して網目状構造を形成し得る化合物であり、2個以上、好ましくは2個の重合性官能基を有する化合物である。重合性官能基としては、前記単官能性重合性モノマーにおける重合性官能基と同様の基が例示できる。多官能性重合性モノマーは液晶性化合物または非液晶性化合物のいずれであってもよく、液晶性化合物であることが好ましい。
【0040】
多官能性重合性モノマーとしては、ジアクリレート、ジメタクリレート等が挙げられ、単官能性重合性モノマーの構造、液晶/高分子複合体に要求される強度、特性等に応じ選択することが好ましい。また、両者における重合性官能基は同一であることが好ましい。多官能性重合性モノマーとしては、液晶性ジアクリレート(Merck社製、商品番号:「RM257」)等が挙げられる。
【0041】
液晶/高分子複合体においてブルー相の発現温度幅を広くするためには、単官能性重合性モノマーと多官能性重合性モノマーとが重合した高分子部分の架橋密度が重要である。架橋密度が小さいと、ブルー相が発現しないか、または、ブルー相が発現しても発現温度幅が狭くなる。よって、適切な量の単官能性重合性モノマーと多官能性重合性モノマーとを用い、連続性の高い網目構造が形成されるようにすることが必要である。そのため、単官能性重合性モノマーと多官能性重合性モノマーとの合計量は、液晶組成物に対して、1〜10質量%であることが好ましく、2〜9.7質量%であることが特に好ましい。
【0042】
単官能性重合性モノマーと多官能性重合性モノマーとの混合比は、各々の構造や、液晶性化合物およびカイラル剤の構造等によって適宜調整されうるが、単官能性重合性モノマー:多官能性重合性モノマー(モル比)が3:7〜7:3であることが好ましい。また、質量比で表すと、単官能性重合性モノマー:多官能性重合性モノマーとして15:85〜60:40であることが好ましい。
【0043】
液晶組成物を重合させて液晶/高分子複合体とした際の、該複合体中の液晶のブルー相が消失する上限温度は、液晶組成物のネマチック相−等方相転移温度(Tc)とほぼ同じであるため、液晶組成物のTcを光学素子として使用する温度よりも5℃以上高くすることが好ましく、10℃以上高くすることが特に好ましい。また、ブルー相が消失する下限温度の目安は(Tc−60)℃であり、この温度が光学素子の使用下限温度よりも10℃以上低くなるように液晶組成物のTcを設定することが好ましい。さらに、液晶組成物において低温保存時に結晶の析出が起こると、光学素子とした場合に素子の特性が劣化するおそれがあるので、低温時の保存安定性に優れていることが好ましい。
【0044】
本発明においては、前記液晶組成物を重合させて液晶/高分子複合体を得る。この液晶/高分子複合体は、前記単官能性重合性モノマーと、前記多官能性重合性モノマーとが重合してなる三次元網目構造の重合体に液晶が保持された構造の複合体であると考えられる。
【0045】
重合反応は、前記液晶組成物をセルに注入し、前記液晶組成物中に含まれる液晶性化合物とカイラル剤との組み合せがブルー相を保持した状態において行うことが好ましい(非特許文献1等を参照。)。これにより、液晶/高分子複合体中の液晶がブルー相を有する複合体を得ることができる。なお、本発明において「ブルー相を有する」とは、液晶/高分子複合体中の液晶性化合物とカイラル剤との組み合せが、少なくとも−10〜+20℃をカバーする温度範囲で、好ましくは−10℃〜液晶組成物のTcをカバーする温度範囲でブルー相を安定に発現することを意味する。
【0046】
重合反応としては、光重合反応が好ましく、紫外線による光重合反応が特に好ましい。
熱重合反応を採用した場合、ブルー相が保持される温度と重合温度(加熱温度)とが必ずしも一致しないため、ブルー相を保持した状態で重合反応を行うことが困難になるおそれがある。また、加熱によって液晶/高分子複合体の構造が変化するおそれもある。
【0047】
光重合反応においては、光重合開始剤を使用することが好ましい。光重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ベンゾイン類、ベンジル類、ミヒラーケトン類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール類、およびチオキサントン類等から適宜選択して用いることができる。具体的には2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、「イルガキュア819」(チバスペシャリティケミカルズ社製)、「DAROCURE TPO」(チバスペシャリティケミカルズ社製)等を用いることができる。光重合開始剤の量は液晶組成物に対して0.01〜1質量%が好ましく、0.05〜0.5質量%が特に好ましい。
【0048】
セルは、透明電極および配向膜を備えた一対の積層体を用いて作製することが好ましい。積層体は、たとえば以下に示す方法によって作製できる。透明ガラス製または透明樹脂製の基板にITO等の透明導電膜を積層し、必要に応じてパターニングして電極を作製する。さらに、電極が形成されている側の面に配向膜を積層する。配向膜としてポリイミド配向膜を用いる場合は、該配向膜をラビング処理することが好ましい。
【0049】
このようにして作製された積層体の一対の、少なくとも一方の積層体の、配向膜が形成されている側の面の周縁部にエポキシ樹脂等のシール剤を環状に塗布する。シール剤には、所望のセルギャップを得るためのスペーサ、電圧印加のための導電経路となる導電性微粒子等をあらかじめ混ぜることができる。ついで、配向膜の面が対向する形で、所望の間隔(セルギャップ)で一対の積層体を配置し、シール剤を硬化して空セルを形成する。セルギャップは1〜10μmが好ましい。シール剤の環状の塗布部分には、少なくとも一部、液晶組成物を注入するための注入口となる不連続部分が設けられており、該注入口から液晶組成物を注入したのち、重合反応を行う。
【0050】
以上のようにして得られた本発明の液晶/高分子複合体は、少なくとも−10〜+20℃の範囲でブルー相を発現する。実用に適した温度領域において安定にブルー相を発現し、ブルー相に由来するブラッグ反射(選択反射)を示すので、光学素子用の液晶材料として有用である。さらに、本発明の液晶/高分子複合体は、光を照射することによって選択反射波長を変化させることができる。
【0051】
一般に、コレステリック液晶相において、液晶の配列をプレナー状態からホメオトロピック状態へ転移させるために必要な駆動電圧とらせんピッチとには、下式(B)で表される関係が成り立ち、ブルー相にある液晶をホメオトロピック状態へ転移させるために必要な駆動電圧とらせんピッチとの関係も、近似的に下式(B)で表される関係が成り立つと考えられる。
【0052】
【数1】

【0053】
(Pはらせんピッチ、Kはねじれ弾性定数、εoは真空の誘電率、Δεは誘電率異方性)
また、らせんピッチとブラッグ反射波長には、下式(C)で表される関係が成り立つ。
【0054】
2P・sinθ=nλ・・・(C)
(P:らせんピッチ、θ:入射角、λ:ブラッグ反射波長、n:正の整数)
したがって、前記のようにして得られた光学素子に、該素子を構成する液晶/高分子複合体中に含まれるカイラル剤の異性化を誘起する波長の光を照射すると、カイラル剤のHTPが変化し、らせんピッチが変化する。その結果、ブラッグ反射波長がシフトする。この特性を活かし、本発明の光学素子は、波長選択フィルタ等として利用できる。
【0055】
本発明の光学素子は、電圧を印加することにより液晶性化合物の配向をブルー相の状態からホメオトロピック状態へと変化させて屈折率変調を行う。通常、ブルー相を示す液晶のらせんピッチは短いため、前記式(B)に示した関係に従って駆動電圧が高くなる。しかし、光照射によりHTPが低下するカイラル剤を用いて液晶/高分子複合体を作製すれば、電圧印加時に光照射することによって、該カイラル剤のらせんピッチが大きくなり、駆動電圧を低下させることができる。
【0056】
また、一般にブルー相を示す液晶はらせんピッチが短く、800nm以上の選択波長を示すものはいまだ知られていない。しかし、光照射によりHTPが低下するカイラル剤を用いて液晶/高分子複合体を作製すれば、前記のように光照射によってらせんピッチが大きくなる。その結果、ブラッグ反射波長がレッドシフトする。よって、本発明によれば、ブルー相を示す液晶材料であり、かつ、800nm以上のブラッグ反射波長を示す液晶材料も作製できる。ブラッグ反射波長が800nm以上になると、赤外線領域の光を利用する素子に応用することができる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。なお、以下の表中ではブルー相をBPと略記する。
【0058】
[1]カイラル剤の合成
[1−1]化合物(11)の合成例







【0059】
【化5】

【0060】
撹拌装置および還流管を備えた0.3Lのガラス製反応器に、化合物(A)(4.8g、20mmol)、水酸化カリウム(3g、53mmol)、エタノール(100mL)、および1−ブロモヘキサン(10g、80mmol)を加え、80℃で20時間反応を行った。冷却後、反応粗液を酢酸で酸性にすることによって得た析出物をろ取し、エタノールで再結晶して化合物(B)(5.1g)を得た。収率は78.3%であった。
つぎに、撹拌装置および還流管を備えた0.5Lのガラス製反応器に前記化合物(B)(4.8g、20mmol)、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(6.7g、32mmol)、ジメチルアミノピリジン(0.72g、6mmol)、L−メントール(3.1g、20mmol)、およびジクロロメタン(200mL)を加え、室温で24時間反応を行った。反応終了後、ジエチルエーテル(100mL)で抽出し、ジエチルエーテル層を濃縮した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン/ジクロロメタン=7/3、(容量比))により精製し、化合物(11)(6.6g)を得た。収率は89.2%であった。
【0061】
化合物(11)のNMRスペクトルを以下に示す。
HNMR(400MHz、CDCl) δ(ppm):0.96(3H、t、CH)、1.01〜1.06(9H、d、CH)、1.29〜1.33(6H、m、CH)、1.40(4H、m、CH)、1.61(1H、m、CH)、1.81〜1.82(3H、m、CH、CH)、2.01(1H、m、CH)、3.90(1H、m、CH)、3.94(2H、t、CH)、6.97〜8.19(8H、dd、Ar)。
13CNMR(100MHz、CDCl) δ(ppm):14.0、19.8、20.1、20.5、23.1、24.6、26.3、30.6、32.1、32.5、36.4、41.4、69.1、72.3、114.5、122.6、123.3、130.3、132.7、144.1、156.8、161.0、167.0。
【0062】
[1−2]化合物(12)の合成例








【0063】
【化6】

【0064】
撹拌装置および還流管を備えた0.3Lのガラス製反応器に化合物(C)(4.0g、1mmol)、(S)−1−フェニルエチルアミン(2.5g,2.2mmol)、および脱水エタノール(100mL)を加えて80℃で20時間反応を行った。冷却後、水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。ジエチルエーテル層を濃縮し、得られた白色結晶をヘキサンを用いて再結晶し、化合物(12)(4.9g)を得た。収率は82.3%であった。
【0065】
化合物(12)のNMRスペクトルを以下に示す
HNMR(400MHz、CDCl) δ(ppm):1.21(6H、d、CH)、2.41(6H、s、CH)、3.02(2H、m、CH)、6.78(2H、s、Ar)、7.08〜7.21(10H、m、Ar)、7.50(2H、s、CH)。
13CNMR(100MHz、CDCl) δ(ppm):8.4、23.2、58.3、120.6、122.6、124.0、125.7、126.2、127.9、128.4、133.4、134.3、136.7、140.2、163.7。
【0066】
[2]液晶組成物の調製
液晶性化合物、カイラル剤、単官能性重合性モノマー、および多官能性重合性モノマーを表1に示す割合で混合し、液晶組成物1および液晶組成物2を得た。表1において液晶組成物を構成する各々の成分の割合は、液晶組成物全体に対する質量%で表す。
【0067】
液晶性化合物としては、フッ素系ネマチック混合液晶(チッソ社製、商品番号:「JC−1041XX」)、シアノビフェニル系ネマチック液晶(Aldrich社製、商品番号:「5CB」)を用いた。カイラル剤としては[1]で得た化合物(11)、化合物(12)を用いた。単官能性重合性モノマーとしては、2−エチルヘキシルアクリレート(東京化成社製、以下、2EHAと略記する。)を用い、多官能性重合性モノマーとしては、液晶性ジアクリレート(Merck社製、商品番号:「RM257」)を用いた。重合開始剤としては、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキシド(チバスペシャリティーケミカル社製、商品名:「DAROCURE TPO」)を用いた。









【0068】
【表1】

【0069】
[3]光学素子の作製例
[3−1]セルの作製例
2枚の透明ガラス板を準備し、それぞれの片面にポリイミド溶液をスピンコータで塗布し、熱処理した後乾燥して配向膜を形成した。つぎに、配向膜表面をナイロンクロスで一定方向にラビング処理して積層体を作製した。該2枚の積層体の配向膜面が向かい合うように接着剤を用いて貼り合わせ、セルを作製した。その際、接着剤にガラスビーズを混入し、セルの間隔を5μmに調整した。
【0070】
[3−2]光学素子の作製例
液晶組成物1、2を、[3−1]で得たセルに、80℃(液晶組成物が等方相を示す状態)にてそれぞれ注入し、クロスニコル下の偏光顕微鏡で観察しながらブルー相の発現温度まで冷却した。その後、非特許文献1に記載の方法に従い、液晶がブルー相を保持していることを確認しながら、フィルタ(エドモンドオプティクス社製、商品番号:GG455)を装備したハロゲンランプ(オリンパス社製顕微鏡標準装備品)を用い、400nm以下の波長をカットした照射強度1.5mW/cmの紫外線を1時間照射することにより光重合反応を行い、液晶/高分子複合体を形成し、光学素子1、2を得た。
【0071】
表2に、光学素子1、2における、液晶の相転移温度、ブルー相の発現温度範囲、およびブラッグ反射波長を示す。











【0072】
【表2】

【0073】
表2に示すように、液晶組成物1、2は、高分子/液晶複合体とすることにより、少なくとも−10〜+20℃の範囲においてブルー相を発現することが確認された。
【0074】
[4]光学素子の評価
[4−1]光学素子1の評価例
光照射によるブラッグ反射波長の変化を調べるため、光学素子1に、高圧水銀ランプ(浜松ホトニクス社製:LC6)を用い、紫外線(365nm)を10.0mW/cmの強度で30秒間照射したところ、ブラッグ反射波長は660nmから682nmに変化した。つぎに、この光学素子1に、狭帯域干渉フィルタ(エドモンドオプティクス社製、商品番号:FILTER INT. 580)を装備したハロゲンランプ(オリンパス社製、製品名:TGHM)を用い、可視光(580nm)を10.0mW/cmの強度で2分間照射したところ、ブラッグ反射波長はもとの値(660nm)に戻った。なお、紫外線照射および可視光照射は室温で行った。また、紫外線照射前、紫外線照射後、および可視光線照射後のブルー相の状態からホメオトロピック状態に転移するために必要な駆動電圧を測定した。ブラッグ反射波長と駆動電圧とを表3に示す。
【0075】
つぎに、電圧特性を調べるため電気光学特性評価装置を用い、室温下にて、正弦波および1KHzの交流電源を用い、透過率を測定した。用いた入射光はカイラル剤が異性化しない半導体レーザー光(780nm)であり、透過光の検出は、検光子を偏光子に対して45度回転させた状態で行った。駆動電圧は電圧印加に伴い透過率が増加し一定になった状態での電圧とした(図1参照)。
【0076】
[4−2]光学素子2
光学素子2に対し、[4−1]と同様の条件で紫外線(365nm)を30分間照射すると、ブラッグ反射波長は620nmから625nmに変化した。つぎに、この光学素子2に、ハロゲンランプを用いて白色光を10分間照射すると、ブラッグ反射波長は元の値(620nm)に戻った。なお、紫外線照射および白色光の照射は室温で行ったまた、[3−1]と同様の手順にて紫外光照射前後でブルー相とホメオトロピック状態との転移に必要な電圧を測定した。ブラッグ反射波長と駆動電圧とを表3に示す。


【0077】
【表3】

【0078】
上記結果より、光照射によりらせん誘起力が変化するカイラル剤を用いることで、ブルー相の状態にある液晶で構成された光学素子のブラッグ反射長および駆動電圧を光照射により変化させることが出来ることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の液晶/高分子複合体は、光照射によりブラッグ反射波長を変化させることができ、駆動電圧を小さくすることが可能である。よって、波長選択フィルタ等の光学素子に応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の光学素子の透過光強度と印加電圧との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性化合物と、カイラル剤と、単官能性重合性モノマーと、多官能性重合性モノマーとを含む液晶組成物を重合させて得られる液晶/高分子複合体において、
前記カイラル剤は光照射によりらせん誘起力が変化するカイラル剤であり、
該複合体中の前記液晶性化合物と前記カイラル剤との組み合せがブルー相を有することを特徴とする液晶/高分子複合体。
【請求項2】
ブルー相の発現温度範囲が少なくとも−10〜+20℃の範囲にある請求項1に記載の液晶/高分子複合体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液晶/高分子複合体を用いることを特徴とする光学素子。

【図1】
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【公開番号】特開2006−348133(P2006−348133A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174920(P2005−174920)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】