説明

液浸油、液浸油の製造方法、液浸油の保存方法、及び液浸油の保存容器

【課題】蛍光観察などの微弱光観察のために、スライドガラスやカバーガラス、液浸油を含む顕微鏡の光学要素全体の自家蛍光を少なくして、自家蛍光による背景ノイズを減らすことの可能な自家蛍光の少ない液浸油、液浸油の製造方法、さらには、そのような液浸油に備わる自家蛍光の少ない性質を長期に維持することの可能な液浸油の保存方法及び液浸油の保存容器の提供。
【解決手段】液浸油は、屈折率が1.70以上、且つ低蛍光である。好ましくは、ジヨードメタンなどのヨウ素化合物を主成分とする。好ましくは、硫黄などの高屈折率の固体を溶解又は分散させてなる。液浸油の製造方法は、精製工程を有する。精製工程では、好ましくは、吸着剤、蒸留、又は再結晶させることにより不純物を除去する。液浸油の保存方法は、吸着剤を液浸油に常時接触させる。液浸油の保存容器1は、常時液浸油4に接触する吸着剤3を内包する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来にはない高屈折率と低蛍光特性とを併せ持った液浸油であって、例えば、顕微鏡、蛍光顕微鏡、顕微鏡等と同様の光学系を使用した各種の光学機器による観察又は計測方法に使用される液浸油、その液浸油の製造方法、その液浸油の保存方法、及びその液浸油の保存容器に関する。
【背景技術】
【0002】
顕微鏡等の光学機器に各種の液浸油が用いられている。液浸油は、光学系において光学要素間、又は光学要素と標本との間の空気等が存在する空間に充填して光学特性を改良するために用いられている物質である。例えば、顕微鏡のようなレンズに近接する標本を観察する光学装置においては、対物レンズと標本と、対物レンズと標本との間に存在する液浸油の屈折率に影響を受ける。このため、対物レンズと標本との間に屈折率が大きな油を液浸油として使用することによって分解能を高めることが行われている。
【0003】
液浸油を使用した場合には、液浸油を使用しない場合と比べて、実質的に光学収差を小さくするだけではなく、対物レンズの開口数を大きくして、顕微鏡の倍率を高めることができる。
【0004】
近年、顕微鏡の分野においては、特定の波長の光で照明し、これを励起光とすることによって標本や対象物が発する蛍光を観察する蛍光観察が広く利用されている。蛍光観察によって、生体細胞、DNA、RNA等の生物学的材料の観察、分析、計測が行われたり、半導体製造工程中の微量な物質の検出、解析を行う分野などにおいて、各種の蛍光色素を利用して分子蛍光測定、蛍光色素の多色化による生体機能の同時解析などが行われており、微弱な蛍光を広い波長帯域で正確に観察又は計測できる技術に関する重要性が増してきている。特に、一分子蛍光観察と呼ばれる非常に微弱な蛍光の観察では、標本からの蛍光が非常に微弱であるため、ノイズ原因となる液浸油などの自家蛍光が観察画像の背景ノイズとして相対的に大きくなり、実質的に観察が不可能となるという問題がある。
【0005】
また、従来の顕微鏡のように試料を観察、撮像する機能を備えた装置から、試料を計測し、計測結果を定量化する装置や各種の機能を付加した光学装置が開発されており、これらの光学装置では測定時のノイズの影響を受けない正確な定量方法が必要とされる。
【0006】
また、蛍光観察又は蛍光計測では、微弱な蛍光を正確に測定できる開口数の大きく明るい光学系、例えば、NA=1.3以上、好ましくはNA=1.6以上の開口数を持った光学系が要求されており、そのような開口数をもつ光学系としては、屈折率が1.7以上、好ましくは1.75〜1.8程度と高い液浸油が必要となってくる。
【0007】
これらの高屈折率且つ低蛍光の液浸油を必要とする観察法としては、例えば、特開2005−189237号公報に記載されているようなアプリケーションで有効である。そのようなアプリケーションでは、光学系を構成するガラスと標本との間の光路にそのガラスの屈折率と同等の屈折率を有する液浸油を満たすことが必要である。
【0008】
なお、屈折率が1.8を上回る液浸油は、砒素化合物などの毒性のある物質を添加しないと成り立たない。このため、高屈折率で、現実的に使用できる液浸油の屈折率の範囲は、1.7〜1.8程度であると考えられる。
【0009】
従来、顕微鏡観察に用いられる液浸油としては、例えば、次の特許文献1〜3などに記載のような、液状ポリオレフィンと芳香族化合物とからなるものが知られている。
【特許文献1】特開平11−160623号公報
【特許文献2】特開平11−218685号公報
【特許文献3】特開平11−269317号公報
【0010】
また、屈折率が1.75付近の液浸油としては、ジヨードメタンに硫黄等を含有するものが提案されて、一般的に広く用いられており、例えば、Cargille社製 Series Mなどが知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記液状ポリオレフィンと芳香族化合物とからなる液浸油は、屈折率が1.51〜1.54と小さい値である等の欠点を有しており、液浸油としての役割を十分に果たせないという問題点があった。
また、ジヨードメタン系の液浸油は、ジヨードメタンの揮発、又はジヨードメタンの光による分解によってヨウ素を遊離し、使用する前に保存容器内で劣化し、透過率の低下や自家蛍光の上昇などが起こり、微弱蛍光試料の観察が出来なくなるという問題点を有している。
また、市販の高屈折率な液浸油は、蛍光測定を前提として製造されていないため、上記のような微弱蛍光観察を行うことが実質不可能であるという問題があった。蛍光観察の一つの主流は488nm励起で530から580nm付近の緑の蛍光を観察する、いわゆるB励起での観察である。つまり、このB励起での観察で低蛍光の観察を実現できれば、従来観察が不可能であった一分子蛍光などの微弱蛍光観察が可能となる。
【0012】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、蛍光観察を代表とする微弱な光を観察するために、スライドガラスやカバーガラス、液浸油を含む顕微鏡の光学要素全体の自家蛍光を少なくして、自家蛍光による背景ノイズを減らすことの可能な自家蛍光の少ない液浸油、液浸油の製造方法を提供することを目的としている。さらには、そのような液浸油に備わる自家蛍光の少ない性質を長期に維持することの可能な液浸油の保存方法及び液浸油の保存容器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明による液浸油は、屈折率が1.70以上で、且つ、低蛍光であることを特徴としている。
【0014】
または、本発明による液浸油は、屈折率が1.78以上で、且つ、低蛍光であることを特徴としている。
【0015】
また、本発明の液浸油においては、ヨウ素化合物を主成分とするのが好ましい。
【0016】
また、本発明の液浸油においては、前記ヨウ素化合物がジヨードメタンであるのが好ましい。
【0017】
また、本発明の液浸油においては、高屈折率の固体を溶解又は分散させてなるのが好ましい。
【0018】
また、本発明の液浸油においては、前記高屈折率の固体が硫黄であるのが好ましい。
【0019】
また、本発明による液浸油の製造方法は、上記本発明のいずれかの液浸油の製造方法において、精製工程を有することを特徴としている。
【0020】
また、本発明の液浸油の製造方法においては、前記精製工程が、吸着剤により不純物を除去する工程であるのが好ましい。
【0021】
また、本発明の液浸油の製造方法においては、前記精製工程が、蒸留により不純物を除去する工程であるのが好ましい。
【0022】
また、本発明の液浸油の製造方法においては、前記精製工程が、再結晶させることにより不純物を除去する工程であるのが好ましい。
【0023】
また、本発明による液浸油の保存方法は、上記本発明のいずれかの液浸油、又は上記本発明のいずれかの製造方法により製造された液浸油の保存方法において、吸着剤を液浸油に常時接触させることを特徴としている。
【0024】
また、本発明による液浸油の保存方法は、上記本発明のいずれかの液浸油、又は上記本発明のいずれかの製造方法により製造された液浸油の保存方法において、液浸油を保存容器の外部に取り出す都度、吸着剤に接触させることを特徴としている。
【0025】
また、本発明による液浸油の保存容器は、上記本発明のいずれかの液浸油、又は上記本発明のいずれかの製造方法により製造された液浸油の保存容器において、常時液浸油に接触する吸着剤を内包することを特徴としている。
【0026】
また、本発明による液浸油の保存容器は、上記本発明のいずれかの液浸油、又は上記本発明のいずれかの製造方法により製造された液浸油の保存容器において、液浸油を取り出す都度該液浸油に接触する吸着剤を内包することを特徴としている。
【0027】
また、本発明の液浸油の保存容器においては、液浸油を取り出す都度該液浸油に接触する吸着剤を内包する部分が、前記保存容器の本体に対して脱着可能であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、高屈折率で、低蛍光、すなわち、自家蛍光の発生光量が小さく、光学機器用液浸油に要求される他の諸性質にも適性があり、顕微鏡用液浸油など各種の光学系用の液浸油として有用な液浸油及び液浸油の製造方法が得られる。また、自家蛍光の少ない性質を維持して、自家蛍光による背景ノイズが少ない観察を長い期間に亘って行える液浸油の保存方法及び液浸油の保存容器が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を実施の形態により詳細に説明する。
本発明の液浸油は、屈折率は1.70以上、好ましくは1.78以上でかつ低蛍光であることを特徴とする。より詳しくは、ヨウ素化合物を主成分とし、高屈折率の固体を溶解または分散させてなる液浸油である。ヨウ素化合物としては、例えば、ジヨードメタンであるのが好ましい。
【0030】
ここで、本発明では、低蛍光を次のように定義する。
上述のような非常に微弱な蛍光観察装置では、シグナルが非常に微弱な為、そのシグナルは、微弱なノイズに簡単に埋もれてしまう。
蛍光光量の値としてのシグナル、又はノイズは、それぞれ時間変動している。ここで、その光量の変動値の平方根に比例して“ゆらぎ”を定義する。標本の観察・計測対象物からの蛍光光量の絶対値が大きい時には、シグナル又はノイズに対する“ゆらぎ”の割合は相対的に低い。一般に、シグナル又はノイズが非常に微弱な場合には、そのシグナルに対するノイズによる“ゆらぎ”の割合は高いものとなってくる。標本の観察・計測対象物からの蛍光光量の絶対値が小さい時には、ノイズの絶対値と“ゆらぎ”、又、シグナルの不要な絶対値と“ゆらぎ”が問題となる。
【0031】
蛍光顕微鏡観察においてそのノイズのほとんどは、標本の観察対象以外のノイズ、対物レンズはじめ光学素子の自家蛍光のノイズ、カバーグラスの自家蛍光ノイズ、液浸油を用いる対物レンズ、所謂、オイル対物を使う場合にはその液浸油の自家蛍光のノイズの総和によって占められている。
【0032】
本発明では、標本の観察・計測対象の蛍光以外の蛍光の光量が少ないことを低蛍光というものとする。そして、本発明では、標本の観察・計測対象の蛍光以外の蛍光のうち、液浸油の自家蛍光によるノイズを想定する。
【0033】
ここで、被観察物のシグナルと液浸油由来のノイズを含む背景ノイズの自家蛍光ノイズの値をS/N比として捉え、次のように定義する。
(S−s)/(B+b) …(1)
ここで、Sはシグナルの平均光量、Bは液浸油由来のノイズを含む背景ノイズの平均光量、sはシグナルの平均光量のゆらぎ、bは液浸油由来のノイズを含む背景ノイズの平均光量のゆらぎである。つまり、シグナルをS±s、ノイズをB±bとし、シグナル値の下現値とノイズ値の上限値の比をS/N比として定義した。
【0034】
検討の結果、落射蛍光による一分子観察など、極めてS/N比が低いアプリケーション、つまり、上記式(1)で、
(S−s)/(B+b)≦2
が成立するアプリケーションに求められる低蛍光のレベルは、
B’/B≦0.3
であることを突き止めた。
ここで、B±b、B'±b'は、それぞれ、現在、一般的に用いられているCargille社製 Series M液浸油由来のノイズを含む背景ノイズと、本発明の液浸油由来のノイズを含む背景ノイズである。このようにノイズレベルを表現したのは、ノイズレベルの絶対値で表現すると測定器によって絶対値が変わってしまうためである。
【0035】
また、今後トレンドとなっていく蛍光観察・計測で且つタイムラプスのような低染色濃度標本や微弱な励起光での観察・計測などのアプリケーション、つまり上記式(1)で、
(S−s)/(B+b)≦3
が成立するアプリケーションに求められる低蛍光のレベルは、
B’/B≦0.5
であることを突き止めた。
【0036】
さらに、通常の蛍光観察におけるアプリケーション、つまり、上記式(1)で、
(S−s)/(B+b)≦5
が成立するアプリケーションに求められる低蛍光のレベルは、
B’/B≦0.7
であることを突き止めた。
【0037】
すなわち、(S−s)/(B+b)≦2、もしくは3、もしくは5が成立するそれぞれのアプリケーションの場合において、本願発明以前のCargille社製液浸油を使用し、標本が存在しない場合での蛍光光量の平均値をB、本願発明に係る液浸油を使用し、標本が存在しない場合での蛍光光量の平均値をB'としたときに、B’/Bがそれぞれ0.3、0.5、0.7以下のノイズレベルであることが必要であり、かつ、本願発明に係る液浸油によって初めてこのノイズレベルが達成できたことが確認された。
【0038】
この液浸油は精製工程を有する製造方法で得ることができる。精製工程は、主成分および高屈折率固体に対してそれぞれ独立して実施することができ、又は、主成分に高屈折率固体を溶解または分散させた後に実施することもできる。
精製工程としては、例えば、吸着剤による不純物除去法、蒸留による不純物除去法、再結晶による不純物除去法、昇華による不純物除去法、などを用いることができ、これらの不純物除去法を2種類以上組み合わせることもできる。
【0039】
吸着剤による不純物除去の場合、吸着剤としては、例えば、シリカゲル、活性炭、アルミナ、粘土、などを用いることができる。好ましくはシリカゲル、活性炭を用いるのがよい。
吸着剤の使用形態としては、例えば、吸着剤を筒状に備え、その内側を不純物を含んだ物質を流通させる、又は、不純物を含んだ物質に吸着剤を懸濁し、別途、ろ過手段を用いてろ過する、又は、粒子サイズの差などにより液体が自由に通り抜けかつ吸着剤が漏れ出さないように構成された容器に吸着剤を入れて不純物を含んだ物質に浸漬する、などの形態を用いることができる。
吸着剤の使用量は、不純物を含んだ物質10mlに対し、0.01g〜5gが好ましく、0.05g〜3gがより好ましい。0.01gより少ないと不純物除去効果が小さく、5gより多いと回収率が低下する、あるいは、溶解させた物質が析出することがある。
【0040】
蒸溜による不純物除去の場合、蒸溜は常圧でも減圧でも実施することができる。なお、蒸溜中の分解を抑えるために、窒素、アルゴンに代表される不活性ガス雰囲気で実施するのが好ましい。
【0041】
再結晶による不純物除去の場合、不純物を含んだ物資との反応性が無ければいずれの溶媒も用いることができるが、特にトルエン酢酸エチルを用いるのが好ましい。
【0042】
本発明の液浸油を精製する実施形態としては、吸着剤もしくは蒸溜により不純物を除去したジヨードメタンに、再結晶により不純物を除去した硫黄を溶解させる形態をとるのが好ましい。このようにすれば、屈折率の制御が容易になり、また、硫黄の析出を防ぐことができる。
【0043】
本発明の保存方法は、上述した本発明の液浸油を保存する方法であり、吸着剤を常時液浸油に接触させることを特徴とする。また、本発明の保存容器は、上述した本発明の液浸油を保存する容器であり、常時液浸油に接触する吸着剤を内包することを特徴とする。
吸着剤としては、上述のように、シリカゲル、活性炭、アルミナ、粘土、などを用いることができる。好ましくはシリカゲル、活性炭を用いるのがよい。
吸着剤を内包する形態としては、液浸油を使用する際に吸着剤が混入しない形態であれば特に限定されないが、例えば、図1に示すように、液浸油が自由に通り抜け、かつ吸着剤3が漏れ出さないメッシュの不織物の袋の中に内包して、保存容器本体1の内部に備えた形態が好ましい。図1中、2はノズル部である。
【0044】
また、本発明の他の保存方法は、上述した本発明の液浸油を保存する方法であり、液浸油を保存容器の外部に取り出す都度、吸着剤に接触させることを特徴とする。また、本発明の他の保存容器は、上述した本発明の液浸油を保存する容器であり、液浸油を取り出す都度接触する吸着剤を内包することを特徴とする。
吸着剤としては、上述のように、シリカゲル、活性炭、アルミナ、粘土、などを用いることができる。好ましくはシリカゲル、活性炭を用いるのがよい。
吸着剤を内包する形態としては、液浸油を使用する際に吸着剤が混入しない形態であれば特に限定されないが、例えば、図2に示すように、液浸油容器のノズル部2に吸着剤3を内包させ液浸油4を取り出す都度、液浸油4が吸着剤3と接触する形態が好ましい。より好ましくは、吸着剤3を内包したノズル部2を保存容器本体1に対して脱着式にして、このノズル部2を使用の都度取り替えることにより、液浸油4が常に新しい吸着剤3と接触する形態がよい。
【0045】
本発明の液浸油の保存容器によれば、例えば、液浸油に含まれるジヨードメタンの揮発や光分解によってヨウ素を遊離しても、吸着剤でその遊離したヨウ素を吸着できる。このため、使用する液浸油の経時劣化を抑えることができる。
【0046】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例1
実施例1の液浸油は、次の精製工程を経て製造したものである。
市販のジヨードメタン(Cargille社製 Series M 1.7800±.0005ロットナンバー 0805)を窒素雰囲気下で常圧蒸溜した(bp.180-183℃)。また、市販の硫黄10gをトルエン100mlに80℃に加熱して溶解し、室温に冷却して得られた固体を濾集して再結晶した。この再結晶した硫黄2gを粉砕して、上記の常圧蒸溜したジヨードメタン10mlに懸濁して室温で17時間攪拌し、攪拌後濾過した。
【0048】
実施例2
実施例2の液浸油は、次の精製工程を経て製造したものである。
市販のジヨードメタン20mlに市販の硫黄4g粉砕したものを懸濁して室温で17時間攪拌し、攪拌後濾過した。この濾液10mlをシリカゲル(ナカライテスク製シリカゲル60、球状、中性)2g(見かけ体積4ml)を詰めたシリカゲルカラムクロマトグラフィを通し精製した。
【0049】
実施例3
実施例3の液浸油は、次の精製工程を経て製造したものである。
市販品の屈折率が1.78のジヨードメタンと硫黄とを主成分とする液浸油10mlを、シリカゲル(ナカライテスク製シリカゲル60、球状、中性)2g(見かけ体積4ml)を詰めたシリカゲルカラムクロマトグラフィを通し精製した。
【0050】
実施例4
実施例4の液浸油は、次の精製工程を経て製造したものである。
市販のジヨードメタン20mlに市販の硫黄4g粉砕したものを懸濁して室温で17時間攪拌し、攪拌後濾過した。この濾液10mlに活性炭(ナカライテスク製)1gを懸濁して室温で17時間攪拌し、攪拌後濾過した。
【0051】
実施例5
実施例5の液浸油は、次の精製工程を経て製造したものである。
市販品の屈折率が1.78のジヨードメタンと硫黄とを主成分とする液浸油10mlに活性炭(ナカライテスク製)1gを懸濁して室温で17時間攪拌し、攪拌後濾過した。
【0052】
実施例6
実施例6の液浸油は、次の精製工程を経て製造したものである。
市販のジヨードメタンを窒素雰囲気下で常圧蒸溜した(bp.180-183℃)。蒸溜したジヨードメタン市販のジヨードメタン10mlに市販の硫黄2g粉砕して懸濁して室温で17時間攪拌し、攪拌後濾過した。
【0053】
実施例7
実施例7の液浸油は、次の精製工程を経て製造したものである。
市販の硫黄10gをトルエン100mlに80℃に加熱して溶解し、室温に冷却して得られた固体を濾集して再結晶した。再結晶した硫黄2gを粉砕して市販のジヨードメタン10mlに懸濁して室温で17時間攪拌し、攪拌後濾過した。
【0054】
実施例8
実施例8の液浸油は、次の保存容器に保存しておいたものである。
実施例1の製造方法で製造した液浸油20mlを、図1に示す形態と基本構成がほぼ同様の、シリカゲル0.4g(見かけ体積8ml)を内包した不織布袋が保存容器本体1に入った褐色瓶の中で室温で6ヶ月放置した。
【0055】
実施例9
実施例9の液浸油は、次の保存容器に保存しておいたものである。
実施例1の製造方法で製造した液浸油20mlを、図2に示す形態と基本構成がほぼ同様の、吸着剤3としてシリカゲル0.5g(見かけ体積4ml)を内包した脱着可能なノズル部2が保存容器本体1に装着された褐色瓶の中に入れ、液浸油とシリカゲルとは非接触状態にして室温で6ヶ月放置した。その後ノズル部2を通過させて1mlを取り出した。
【0056】
実施例10
実施例10の液浸油は、次の保存容器に保存しておいたものである。
実施例1の製造方法で製造した液浸油20mlを、図2に示す形態と基本構成がほぼ同様の、吸着剤3としてシリカゲル0.5g(見かけ体積4ml)を内包した脱着可能なノズル部2が保存容器本体1に装着された褐色瓶の中に入れた。次いで、ノズル部2を通過させて15mlを取り出し、ノズル部2を新しいシリカゲルを内包したノズル部2に取り替えた直後に、ノズル部2を通過させて1mlを取り出した。
【0057】
比較例1
比較例1の液浸油は、屈折率が1.78のジヨードメタンと硫黄を主成分とする、市販品の液浸油である。
【0058】
比較例2
比較例2の液浸油は、市販のジヨードメタン10mlに、市販の硫黄2gを粉砕したものを懸濁して、室温で17時間攪拌し、攪拌後濾過したものである。
【0059】
比較例3
比較例3の液浸油は、実施例1製造方法で製造した液浸油を、シリカゲル等の吸着剤が内包されていない褐色瓶の中に入れて、室温で6ヶ月放置したものである。
【0060】
比較例4
比較例4の液浸油は、実施例1の製造方法で製造した液浸油20mlを、図2に示す形態と基本構成がほぼ同様の、シリカゲル0.5g(見かけ体積4ml)を内包した脱着可能なノズル部2を装着した褐色瓶に入れて、室温で6ヶ月放置し、その後ノズル部2を通過させて15mlを取り出した後、ノズル部2を取り替えずにそのノズル部2を通過させて1mlを取り出したものである。
【0061】
実施例1〜7における製造直後の1mlの液浸油、実施例8における褐色瓶から取り出した1mlの液浸油、実施例9,10において褐色瓶から取り出した1mlの液浸油、比較例1,2の1mlの液浸油、比較例3の褐色瓶から取り出した1mlの液浸油、及び比較例4の保存容器から取り出した1mlの液浸油に対し、それぞれ488nmの励起光を照射し、そのときに発する自家蛍光を測定し、比較例1の液浸油の自家蛍光を1としたときの自家蛍光の比率を求めた。その自家蛍光の比率を次の表1に示す。
なお、分光蛍光光度計は、株式会社日立製作所(登録商標)製の分光蛍光光度計F4500を用いた。そして、上記各実施例及び各比較例のそれぞれ1mlの液浸油を、測定毎に分光蛍光光度計のセルに入れて488nm励起で測定し、比較例1の液浸油を測定したときの自家蛍光を基準として比率を求めた。なお、液浸油の自家蛍光の測定に際し、分光蛍光光度計のセルなどには自家蛍光を含んでいるが、それらはオフセットとしてキャンセルして測定した。
表1

【0062】
表1に示したように、上記各実施例の液浸油は、比較例の液浸油とは異なり、488nm励起での自家蛍光が、極めて小さい。このため、上記各実施例の液浸油によれば、従来、観察が困難又は不可能であった、例えば、一分子蛍光などの微弱蛍光観察が可能となる。
また、上記実施例8〜実施例10の液浸油の保存容器によれば、比較例3,4の液浸油の保存容器と比べて、液浸油の経時劣化を抑えて、上記実施例1の液浸油と同様に488nm励起での自家蛍光を、極めて小さく抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の液浸油、液浸油の製造方法、液浸油の保存方法、及び液浸油の保存容器は、例えば、一分子蛍光観察(又は計測)など微弱な蛍光観察(又は計測)をする生物学、医学の分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施形態にかかる液浸油の保存容器の概略構成を示す概念図である。
【図2】本発明の他の実施形態にかかる液浸油の保存容器の概略構成を示す概念図である。
【符号の説明】
【0065】
1 保存容器本体
2 ノズル部
3 不純物除去物質(吸着物質)
4 液浸油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率が1.70以上で、且つ、低蛍光であることを特徴とする液浸油。
【請求項2】
ヨウ素化合物を主成分とすることを特徴とする請求項1に記載の液浸油。
【請求項3】
前記ヨウ素化合物がジヨードメタンであることを特徴とする請求項2に記載の液浸油。
【請求項4】
高屈折率の固体を溶解又は分散させてなることを特徴とする請求項3に記載の液浸油。
【請求項5】
前記高屈折率の固体が硫黄であることを特徴とする請求項4に記載の液浸油。
【請求項6】
屈折率が1.78以上で、且つ、低蛍光であることを特徴とする液浸油。
【請求項7】
ヨウ素化合物を主成分とすることを特徴とする請求項6に記載の液浸油。
【請求項8】
前記ヨウ素化合物がジヨードメタンであることを特徴とする請求項7に記載の液浸油。
【請求項9】
高屈折率の固体を溶解又は分散させてなることを特徴とする請求項8に記載の液浸油。
【請求項10】
前記高屈折率の固体が硫黄であることを特徴とする請求項9に記載の液浸油。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに記載の液浸油の製造方法において、
精製工程を有することを特徴とする液浸油の製造方法。
【請求項12】
前記精製工程が、吸着剤により不純物を除去する工程であることを特徴とする請求項11に記載の液浸油の製造方法。
【請求項13】
前記精製工程が、蒸留により不純物を除去する工程であることを特徴とする請求項11に記載の液浸油の製造方法。
【請求項14】
前記精製工程が、再結晶させることにより不純物を除去する工程であることを特徴とする請求項11に記載の液浸油の製造方法。
【請求項15】
請求項6〜10のいずれかに記載の液浸油の製造方法において、
精製工程を有することを特徴とする液浸油の製造方法。
【請求項16】
前記精製工程が、吸着剤により不純物を除去する工程であることを特徴とする請求項15に記載の液浸油の製造方法。
【請求項17】
前記精製工程が、蒸留により不純物を除去する工程であることを特徴とする請求項15に記載の液浸油の製造方法。
【請求項18】
前記精製工程が、再結晶させることにより不純物を除去する工程であることを特徴とする請求項15に記載の液浸油の製造方法。
【請求項19】
請求項1〜10のいずれかに記載の液浸油、又は請求項11〜18のいずれかに記載の製造方法により製造された液浸油の保存方法において、
吸着剤を液浸油に常時接触させることを特徴とする液浸油の保存方法。
【請求項20】
請求項1〜10のいずれかに記載の液浸油、又は請求項11〜18のいずれかに記載の製造方法により製造された液浸油の保存方法において、
液浸油を保存容器の外部に取り出す都度、吸着剤に接触させることを特徴とする液浸油の保存方法。
【請求項21】
請求項1〜10のいずれかに記載の液浸油、又は請求項11〜18のいずれかに記載の製造方法により製造された液浸油の保存容器において、
常時液浸油に接触する吸着剤を内包することを特徴とする液浸油の保存容器。
【請求項22】
請求項1〜10のいずれかに記載の液浸油、又は請求項11〜18のいずれかに記載の製造方法により製造された液浸油の保存容器において、
液浸油を取り出す都度該液浸油に接触する吸着剤を内包することを特徴とする液浸油の保存容器。
【請求項23】
液浸油を取り出す都度該液浸油に接触する吸着剤を内包する部分が、前記保存容器の本体に対して脱着可能であることを特徴とする請求項22に記載の液浸油の保存容器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−134517(P2008−134517A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321473(P2006−321473)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】