説明

液滴吐出ヘッド、インクカートリッジ及び画像形成装置

【課題】測温抵抗体を用いて検出した温度に基づいて吐出圧力を制御する構成で、安定した液滴吐出特性が得ることができる液滴吐出ヘッド、この液滴吐出ヘッドを備えたインクカートリッジ及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】ノズル孔2と、インクを収容する圧力室3と、圧力室3内に圧力を発生させる圧電素子16と、測温抵抗体28を配置した位置における温度を検出する制御部60と、制御部60の検出結果に基づいて圧電素子16の出力を制御する駆動IC11とを有し、圧電素子16が圧力室3内の圧力を高めることにより圧力室3内のインクが液滴としてノズル孔2から吐出される構成であり、ノズル孔2を設けたノズル基板1と、圧力室3を形成する壁面を構成する個別液室基板12とを重ねて固定した構成の液滴吐出ヘッド50において、測温抵抗体28を個別液室基板12に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出するインクジェットヘッド等の液滴吐出ヘッド、その液滴吐出ヘッドを備えたインクカートリッジ及び画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド)を搭載したインクジェットプリンタ(画像形成装置)は、近年、高画質、低価格、高速対応性(ノズルの数を増減することにより、速いプリンタから遅いが安いプリンタまで対応ができる)が評価されて普及が進むなか、より一層の画質向上、信頼性向上、コストダウン、小型化が要求されてきている。
【0003】
インクジェットヘッドとしては、インク液滴を吐出するノズル孔と、このノズル孔が連通する吐出液室(加圧液室、圧力室、インク流路等とも称される。)と、吐出液室内のインクを加圧する圧力を発生する圧力発生手段とを備えて、圧力発生手段で発生した圧力で吐出液室内インクを加圧することによってノズル孔からインク液滴を吐出させる。
圧力発生手段としては、圧電素子などの電気機械変換素子を用いて吐出液室の壁面を形成している振動板を変形させることでインク液滴を吐出させるものが知られている。
【0004】
インクジェットヘッドに用いられるインクは一般的に温度変化により粘度が変わる性質があるために、環境温度が変化したにも係わらず、吐出圧力が一定であると、温度によってインクの吐出量が変化する。このため、記録媒体上での記録ドット径が温度とともに変化し、環境温度がある所定の温度範囲からはずれると、良好な印字結果が得られず画質が低下してしまうという問題があった。
【0005】
環境温度の変化に応じて吐出圧力を変化させる構成として、特許文献1には、周囲の温度により抵抗値が変化する材料(測温抵抗体)を、圧電素子を駆動するための信号を伝達する配線の一部に用いる構成が記載されている。例えば、周囲温度の上昇した場合、インクの粘度が低下して、ある一定の量のインクを吐出するために要する吐出圧力は減少する。特許文献1に記載の構成では、周囲温度の上昇した場合、測温抵抗体の抵抗値が増加し、これによって配線内で電圧降下が増大し、結果、圧電素子を駆動する電圧が減少する。これにより、電圧を印加された圧電素子の変形量が減少し、吐出圧力も減少する。すなわち、特許文献1に記載の構成では、インクの粘度が低下し必要な吐出圧力が減少する高温環境であるほど吐出圧力を小さくし、インクの粘度が上昇し必要な吐出圧力が増加する低温環境であるほど吐出圧力を大きくすることができる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の構成では、温度変化によってインクの粘度が変化することによる必要な吐出圧力の変化量と、温度変化によって測温抵抗体の抵抗値が変化することによる圧電素子の吐出圧力の変化量とは必ずしも一致しない。そして、温度変化による必要な吐出圧力の変化量と圧電素子の吐出圧力の変化量とをすべての環境温度領域で一致させることは非常に困難である。
【0007】
環境温度の変化に応じて吐出圧力を変化させる他の構成として、特許文献2及び3には、測温抵抗体(サーミスタ)に電圧を印加し、抵抗値の変化を測定することで測温抵抗体を配置した位置における温度を検出する温度検出手段と、この温度検出手段の検出結果に基づいて圧電素子等の圧力発生手段の出力を制御する圧力制御手段とを備えた構成が記載されている。
このような構成では、圧力制御手段が備えるデータテーブルに、測温抵抗体の抵抗値と、その抵抗値となる温度のときに適した圧力発生手段の出力値との情報が予め入力されている。そして、このデータテーブルの情報に基づいて、圧力発生手段の出力を制御する。
このような構成であれば、温度変化によって必要な吐出圧力の変化したときに、各温度における必要な吐出圧力を圧力発生手段によって出力させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2及び3に記載のインクジェットヘッドは、圧力発生手段によって圧力が付与されるインクが収容される吐出液室を形成する吐出液室形成部材とは別部材に測温抵抗体が配置されている。設置環境の温度のみを考慮するのであれば、インクジェットヘッド内の何れの箇所に測温抵抗体を配置しても温度検出には問題無いように思われる。
【0009】
しかしながら、測温抵抗体は温度によって抵抗が変化する抵抗体であり、電圧印加によってジュール熱によって発熱する。このため、経時の電圧印加によって測温抵抗体が配置された部材はインクジェットヘッドを構成する他の部材よりも温度が上昇する。そして、吐出液室とは異なる部材に測温抵抗体が配置された構成では、測温抵抗体とこれが配置された部材とは測温抵抗体の発熱によって温度上昇するが、吐出液室形成部材と吐出液室形成部材に形成された吐出液室内のインクとは測温抵抗体の発熱によって加熱され難く、測温抵抗体の温度上昇に応じた吐出液室内のインクの温度上昇は生じ難い。これにより、測温抵抗体を配置した位置の温度と、吐出液室内のインクの温度とに温度差が生じ、測温抵抗体の測定結果に基づいて圧力発生手段が出力した吐出圧力と、温度変化によって変化した必要な吐出圧力とが一致しない場合があった。このような場合、測温抵抗体を配置した位置の温度と、吐出液室内のインクの温度との温度差によって、吐出される液滴量が変化し、安定したインク液滴吐出特性が得られなくなる。
【0010】
測温抵抗体を配置した位置の温度と、吐出液室内の液体の温度との温度差によって、安定した液滴吐出特性が得られなくなる不具合は、吐出する液体はインクに限るものではない。温度によって粘度が変化する液体を吐出するものであれば同様の問題が生じ得る。
【0011】
本発明は以上の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、測温抵抗体を用いて検出した温度に基づいて吐出圧力を制御する構成で、安定した液滴吐出特性が得ることができる液滴吐出ヘッド、この液滴吐出ヘッドを備えたインクカートリッジ及び画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、液滴を吐出するノズル孔と、該ノズル孔により外部と連通し、かつ、該液滴となる吐出液を収容する吐出液室と、該吐出液室内に圧力を発生させる圧力発生手段と、測温抵抗体を配置した位置における温度を検出する温度検出手段と、該温度検出手段の検出結果に基づいて該圧力発生手段の出力を制御する圧力制御手段とを有し、該圧力発生手段が該吐出液室内の圧力を高めることにより該吐出液室内の該吐出液が該液滴として該ノズル孔から吐出される構成であり、該ノズル孔を設けたノズル板と、該吐出液室を形成する壁面を構成する吐出液室形成部材とを重ねて固定した構成の液滴吐出ヘッドにおいて、上記測温抵抗体を上記吐出液室形成部材に配置することを特徴とするものである。
【0013】
本発明においては、測温抵抗体を吐出液室が形成された吐出液室形成部材に配置しているため、測温抵抗体とこれが配置された吐出液室形成部材は、測温抵抗体の発熱によって温度上昇する。このように、吐出液室形成部材が測温抵抗体とともに温度上昇することで、吐出液室形成部材に形成された吐出液室内のインクが加熱され易くなる。このため、測温抵抗体の温度上昇に応じた吐出液室内のインクの温度上昇が生じ易くなる。これにより、測温抵抗体を配置した位置の温度と、吐出液室内のインクの温度とに温度差が生じることを抑制し、測温抵抗体の測定結果に基づいて圧力発生手段が出力した吐出圧力と、温度変化によって変化した必要な吐出圧力とが一致し易くなる。これにより、測温抵抗体を配置した位置の温度と、吐出液室内のインクの温度との温度差に起因して吐出される液滴量が変化することを抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、吐出される液滴量が変化することを抑制できるため、安定した液滴吐出特性が得ることができるという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】インクジェットプリンタの概略斜視図。
【図2】インクジェットプリンタの概略断面図。
【図3】インクカートリッジの概略構成図。
【図4】本実施形態の液滴吐出ヘッドの上部層の斜視図。
【図5】液滴吐出ヘッドの下部層の説明図、(a)は上面図、(b)は断面図。
【図6】測温抵抗体が延在する方向に二個並べて配置された液滴吐出ヘッドの下部層の上面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用可能な画像形成装置の一実施形態として、インクジェットプリンタ(以下、プリンタ100)について説明する。
まず、プリンタ100の基本的な構成について説明する。図1は、プリンタ100の斜視図である。プリンタ100は、キャリッジ101と、記録ヘッド51と、インクカートリッジ102とを含んで構成される印字機構部103を本体内部に有している。キャリッジ101は、用紙30の搬送方向に対して直交方向である走査方向に移動可能な部材である。記録ヘッド51は、キャリッジ101に搭載した液滴吐出ヘッドの一例であるインクジェットヘッドであり、インクカートリッジ102は後述する記録ヘッド51にインク液を供給する。
【0017】
図2は、プリンタ100主走査方向の図1中の手前側から見たときのインクカートリッジ102部分における概略断面図である。図2に示すように、プリンタ100の本体内部には、印字機構部103の他に、給紙機構部104を有している。
プリンタ100は、詳細は後述するが、給紙トレイまたは手差しトレイ105から給送される用紙30を取り込み、印字機構部103によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ106に排紙する。
【0018】
印字機構部103のキャリッジ101は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブッラク(B)の各色のインク液を収容した四つのインクカートリッジ102がそれぞれ交換可能に装着されている。
【0019】
図3は四つのインクカートリッジ102のうちの一つの概略構成図である。四つのインクカートリッジ102は、収容するインク液の色が異なる以外は同様の構成である。
キャリッジ101に搭載されたインクカートリッジ102は、ノズル孔を有する記録ヘッド51と、インク液を収容し、記録ヘッド51にインクを供給するタンク部102aを有している。ここで、図1または図2では下方に向いて設置される記録ヘッド51を、図3では説明の都合上、上方に描いている。
インクカートリッジ102のタンク部102aの上方(図2中の上方)には、大気と連通する不図示の大気口が備えられている。また、図2に示すように、タンク部102aの下方には、タンク部102a内のインク液を記録ヘッド51に供給する供給口102bが設けられている。さらに、タンク部102aの内部には、内部にはインク液が充填された不図示の多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により記録ヘッド51へ供給されるインク液をわずかな負圧に維持している。
【0020】
記録ヘッド51は、インク吐出口である複数のノズル孔を主走査方向と交差する方向に配列し、インク液滴吐出方向が下方となるように配置されている。
本実施形態では、記録ヘッド51とタンク部102aとが一体となったインクカートリッジ102について説明したが、タンク部102aと記録ヘッド51とを別体としても良い。また、記録ヘッド51としてここでは各色に対応したヘッド部を用いているが、各色のインク液を吐出するノズル孔を有する1個のヘッド部でもよい。
【0021】
印字機構部103はキャリッジ101を保持する保持手段として、プリンタ100本体の主走査方向の両側面に横架し、キャリッジ101の後方側(用紙搬送方向下流側)を貫通する主ガイドロッド107を有している。また、この主ガイドロッド107と一定間隔をおいて並行に延在し、キャリッジ101の前方側(用紙搬送方向上流側)が載置される従ガイドロッド108を有している。キャリッジ101は、主ガイドロッド107及び従ガイドロッド108によって主走査方向に移動可能なように摺動自在に保持されている。
【0022】
また、印字機構部103はキャリッジ101を主走査方向に移動走査するための移動手段として、タイミングベルト112と、タイミングベルト112を張架する駆動プーリ110及び従動プーリ111と、駆動プーリ110を回転駆動する主走査モータ109とを有している。図1に示すように、駆動プーリ110はプリンタ100本体の一方の側面側に配置し、従動プーリ111は、本体の他方の側面側に配置して、タイミングベルト112が主走査方向に平行に延在するようにしている。また、タイミングベルト112にはキャリッジ101が固定されている。
【0023】
主走査モータ109は、駆動プーリ110を正逆回転させる駆動源であり、駆動プーリ110が回転すると、タイミングベルト112が主走査方向に無端移動する。キャリッジ101は、タイミングベルト112に固定されているため、タイミングベルト112とともに主走査方向に移動する。このため、主走査モータ109によって駆動プーリ110を正逆回転させることで、キャリッジ101が主走査方向に往復移動される。
【0024】
給紙機構部104には、用紙30を積載した給紙トレイと、給紙ローラ113と、フリクションパッド114と、ガイド部材115と、搬送ローラ116とを備えている。給紙機構部104の給紙トレイは、複数枚の用紙30の束を積載し、プリンタ100本体に対して着脱可能に装着されている。
給紙ローラ113及びフリクションパッド114は、用紙30を、記録ヘッド51の下方に搬送するために、給紙トレイ内にセットした用紙30の束の最上段の一枚を分離給紙する。ガイド部材115は、給紙トレイから分離給紙された用紙30を搬送ローラ116によって搬送される領域に案内する。
【0025】
搬送ローラ116は、用紙30を反転させて液滴吐出ヘッドとしての記録ヘッド51と対向する位置に搬送する。また、搬送ローラ116の周囲には、用紙30を搬送ローラ116に押し付ける搬送コロ117、及び、用紙30を所定の送り出し角度で記録ヘッド51との対向する位置に送り出す先端コロ118が配置されている。搬送ローラ116は、副走査モータ130によってギヤ列を介して回転駆動が伝達され、図1中の時計周り方向に回転する。
【0026】
記録ヘッド51と対向する位置には、キャリッジ101の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ116から送り出された用紙30を記録ヘッド51の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材119が設けられている。この印写受け部材119の用紙搬送方向下流側には、用紙30を排出方向に送り出すための排出ローラ120と、排出ローラ120に対向する排出拍車121とが配置されている。さらに、送り出された用紙30を排紙トレイ106に排出する排紙ローラ123と排紙ローラ123に対向する排紙拍車124とを備えている。また、排出ローラ120と排紙ローラ123との間には、排紙経路を形成する一対のガイド部材として下ガイド部材125及び上ガイド部材126が配設されている。
【0027】
また、プリンタ100には、手差しで用紙30を給紙できるように手差しトレイ105が設けられており、プリンタ100本体に対して開倒可能に取り付けられている。この手差しトレイ105上の用紙30は、手差し給紙ローラ105aによって搬送ローラ116に搬送される。
【0028】
また、印字機構部103におけるキャリッジ101の移動方向についての一端である、図1中の右手前側端側の記録領域を外れた位置には、記録ヘッド51の吐出不良を回復するための回復装置127を配置している。回復装置127はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ101は印字待機中にはこの回復装置127側に移動されて不図示のキャッピング手段で記録ヘッド51をキャッピングされ、ノズル孔が湿潤状態に保たれることによりインク乾燥による吐出不良を防止する構成となっている。また、記録途中などに回復装置127と対向する位置にキャリッジ101を移動させ、記録とは関係しないインク液を吐出することにより、全てのノズル孔のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0029】
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段で記録ヘッド51のノズル孔を密封し、キャッピング手段に設けられた不図示のチューブを通して、吸引手段でノズル孔からインク液とともに気泡等を吸い出す。さらに、ノズル孔が開口しているヘッド面に付着したインク液やゴミ等はクリーニング手段により除去され、吐出不良が回復される。また、吸引されたインク液は、プリンタ100本体下部に設置された不図示の廃インクタンクに排出され、廃インクタンク内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0030】
次に、プリンタ100のプリント動作について説明する。
プリンタ100は、パーソナルコンピュータ等の外部装置から画像情報などの信号が送られ、プリント動作を実行する。プリント動作が実行されると、まず、手差しトレイ105から手差し給紙ローラ105aによって、または、給紙トレイから給紙ローラ113によって用紙30が給紙される。給紙トレイから給紙された用紙30は、ガイド部材115や搬送コロ117に案内されて、搬送ローラ116に搬送されつつ反転し、記録ヘッド51と対向する位置に搬送される。一方、手差しトレイ105から供給された用紙30は、搬送コロ117に案内されて、搬送ローラ116に搬送されて記録ヘッド51と対向する位置に搬送される。
【0031】
記録ヘッド51に対向する位置に搬送された用紙30が所定位置に達したら、搬送ローラ116を停止して用紙30の移動を停止する。そして、キャリッジ101が画像信号に応じて主走査方向に往復移動しながら、停止した用紙30の所定箇所に所定のインク液を吐出して一行分の画像を用紙30に形成する。ここで、一行とは、記録ヘッド51が用紙30へ記録可能な副走査方向(記録ヘッド51に対向する位置での用紙30の移動方向)の範囲を言う。
主走査方向に一行分の画像形成が終了したら、搬送ローラ116を所定時間駆動させ、用紙30を一行分、排紙トレイ106方向に移動させて停止する。そして、キャリッジ101が画像信号に応じて主走査方向に往復移動しながら一行分の画像を形成する。
【0032】
このような工程を所定回数繰り返して行い、用紙30に所望の画像をプリントする。所望の画像がプリントされた用紙30は、排出ローラ120及び排出拍車121と排紙ローラ123及び排紙拍車124とによって搬送され、排紙トレイ106に排出される。画像形成を終了したキャリッジ101は、図1中右手前側の回復装置127と対向する位置に移動して、図示しないキャッピング手段で記録ヘッド51のノズル孔をキャッピングする。
【0033】
次に、記録ヘッド51について説明する。
図4は、上述した記録ヘッド51に適用可能な本実施形態の液滴吐出ヘッド50の上部層の斜視図であり、手前側が断面図となっている。
図5は、液滴吐出ヘッド50の下部層の説明図である。図5(a)は、図4で示す上部層の下端から下部層を見たX−Y平面における上面図であり、後述する液体供給基板7の下端近傍の図示を省略した説明図である。また、図5(b)は、液滴吐出ヘッド50の下部層のX−Z平面の断面図であり、後述する液体供給基板7から下の部分を示す断面図である。
【0034】
本実施形態の液滴吐出ヘッド50は、インク液滴をノズル基板1の面部に設けたノズル孔2から吐出させるサイドシューター方式の例を示すもので図示している。インクの系統は4つに分かれており、4色のインクを1つのヘッドから吐出が可能な4色一体型ヘッドである。
液滴吐出ヘッド50は、ノズル基板1、個別液室基板12、液体供給基板7及びフレーム基板9とを重ねて構成されている。
【0035】
個別液室基板12は、図5(b)に示すように、一つの圧力室3の上部に一組の圧電素子16及び振動板17が配置されており、一つの圧力室3の下部を構成するノズル基板1には一つのノズル孔2が形成されている。
このため、図5(a)中の複数の圧電素子16のそれぞれの下方に圧力室3が形成され、さらに、その下部のそれぞれのノズル孔2が形成されている。すなわち、個別液室基板12は、複数の圧力室3をY方向に直線状に並べて配置した圧力室列が、X方向に4列配置してある。また、ノズル基板1も同様に、複数のノズル孔2をY方向に直線状に並べて配置したズル列が、X方向に4列配置してある。
圧電素子16は、共通電極13、圧電体14及び上部電極15から構成される。
【0036】
個別液室基板12は、各ノズル孔2に対応する場所に圧力室3、振動板17、圧電素子16が配置されている。圧電素子16から引き出し配線25を介して、駆動用集積回路(以下、「駆動IC11」と呼ぶ)に接続するための接続パットであるバンプ10を配置してある。
図5(b)に示すように、個別液室基板12は、ノズル基板1と接合する面(図5(b)中の下面)に圧力室3が形成され、液体供給基板7と接合する面(図5(b)中の上面)に圧電素子16、引き出し配線25、バンプ10、駆動IC11が配置してある。また、個別液室基板12の液体供給基板7と接合する面における液体供給基板7の下面が接触し、個別液室基板12と液体供給基板7とが接合する箇所の一部に測温抵抗体28が配置されている。
【0037】
また、個別液室基板12は、圧電素子16の上面を覆う絶縁体としての絶縁膜23と、測温抵抗体28などの電極を覆う絶縁体としての層間絶縁膜24とを有する。
液体供給基板7は、個別液室基板12に液体を供給する個別インク供給口6を有する。
【0038】
フレーム基板9は、第一フレーム層9a、第二フレーム層9b及び第三フレーム層9cを重ねて貼り合わせて形成している。第一フレーム層9a及び第二フレーム層9bは、層厚が厚すぎると所望の寸法制度で共通液室8を形成する穴あけ加工ができないため、本実施形態の液滴吐出ヘッド50では、別の層として加工したあとに貼り合わせる工法を取っている。また、第三フレーム層9cの一部は、駆動IC11の上面を下方に向けて付勢する弾性部材18として機能する。
フレーム基板9の最上部の第一フレーム層9aの上面は、補強板20の下面と貼り合わせており、フレーム基板9の最下部の第三フレーム層9cの下面は、液体供給基板7の上面と貼り合わせている。
【0039】
また、第三フレーム層9cの下面における液体供給基板7の上面と重なる部分が液体供給基板7の上面と貼り合わせており、第三フレーム層9cの下方に駆動IC11が配置されている部分の上面の一部が第二フレーム層9bの下面の一部と貼り合わされている。また、第三フレーム層9cの下方に駆動IC11が配置されている部分の中央は繋がっておらず、自由端となっている。このように、第三フレーム層9cの下方に駆動IC11が配置されている部分は、液体供給基板7及び第二フレーム層9bに貼り合せた部分が固定端で、中央が自由端となった片持ち梁構造となって弾性部材18を形成している。弾性部材18の片持ち梁構造の自由端が駆動IC11の上面に接触し、その弾性力によって駆動IC11を下方に向けて付勢している。これにより、部材精度や組み付け精度の精度誤差を吸収し、駆動IC11を個別液室基板12に対して固定することができる。
【0040】
共通液室8の上方はダンパーフィルム19によって塞がれている。このダンパーフィルム19は、共通液室8における圧力緩和の機能(ダンパー)を果たすフィルムである。
また、ダンパーフィルム19の上部には、共通液室8と対向する位置が開口部となるように形成された補強板20が配置されている。この補強板20はダンパーフィルム19の撓みを補強し、ダンパーフィルム19の可動域を確保する。
また、補強板20には、共通液室8へ液体を供給する共通インク供給口22を有する。
【0041】
液滴吐出ヘッド50は、駆動IC11の出力を制御する駆動電圧制御部として機能する制御部60を備える。制御部60の配置としては、液滴吐出ヘッド50の筺体に配置される構成に限らず、インクカートリッジ102内やキャリッジ101内、キャリッジ101と共には移動しない箇所のプリンタ100内に配置された構成であっても良い。
【0042】
駆動IC11は、配線部材としての引き出し配線25及びバンプ10を介して圧電素子に電圧を印加する。
駆動IC11は、制御部60から供給された電圧を、印字パターンをもとに圧電素子16に選択的に供給する機能を持つ。同時に、温度検知手段である測温抵抗体28に接続された補正回路とA/D変換回路とを形成してあり、A/D変換回路でデジタル化された温度情報が制御部60に伝送され、予め決めた温度に対応する駆動電圧を圧電素子16に供給する。
このような構成により、測温抵抗体28によって検知された温度に基づいて圧電素子16の出力を制御することができる。このため、圧電素子16や測温抵抗体28のジュール熱、環境温度の変化などによって圧力室3内のインクの温度が変化し粘性が変化しても、各温度における必要な吐出圧力を圧電素子16によって出力させることができる。
【0043】
温度を精密に計測するための補正回路としては、一般的に言われている、2/3/4導線式の温度測定回路を用いている。このような補正回路とA/D変換回路が駆動IC11に搭載されているため、A/D変換回路以降の信号伝送はデジタル信号となりいくら配線が長くなっても、温度の測定精度が損なわれることがなく、結果として吐出特性を安定化できる。このために、プリンタ100の画質向上につながる。
【0044】
また、測温抵抗体28は圧力室列に沿ってY方向に延在するように配置されている。図5(a)に示すように、圧力室列に沿う方向にアクチュエータである圧電素子16が多数配置されている。そして、印字を行う際は駆動するチャネルと駆動しないチャネルがあるため発熱に分布が生まれるので、圧力室列に沿う方向(Y方向)に温度の分布(温度のムラ)が生じる。
【0045】
このとき、Y方向に延在するように測温抵抗体28が配置された構成であれば、温度によって測温抵抗体28の抵抗値に分布が生まれることになる。この温度分布に相関する抵抗分布を持つ測温抵抗体28の抵抗値を単位長さあたりとして算出すれば、圧力室列の平均温度を求めることができる。
このように、圧力室列の平均温度を求めることで、各圧力室3毎に温度を別々に計測して平均化する構成よりも、測温抵抗体の単位長さあたりの抵抗値として温度を検出することで駆動IC11が圧電素子16に印加する駆動電圧を効率的に選択できる。
【0046】
また、図5(a)に示すように、個別液室基板12は、複数の圧力室3をY方向に配置した圧力室列が、X方向に4列配置してあり、4列の圧力室列のそれぞれに対応した4つの測温抵抗体28を備える。これにより、温度の分布に従って列ごとに駆動IC11が圧電素子16に印加する駆動電圧の値を選択することができるため、個別液室基板12のX方向に温度分布が生じていても吐出特性を安定化できる。
【0047】
図6は、測温抵抗体28が延在する方向に二個並べて配置された液滴吐出ヘッド50の下部層の上面図である。図6に示す個別液室基板12には、圧力室列に沿って延在するように配置されている測温抵抗体28は、延在する方向に2個並べて配置されている。測温抵抗体28が同一列内で分割して配置してあるために、Y方向の温度分布に従って、駆動IC11が圧電素子16に印加する駆動電圧をより細かく選択することができ、吐出特性を安定化できる。
【0048】
また、図5(b)に示すように、液滴吐出ヘッド50は、圧力室3に供給するインクなどの吐出液を収容する供給液収容部である共通液室8が形成され、個別液室基板12におけるノズル基板1が固定される面とは反対側の面に重ねて固定された液体供給基板7を備え、個別液室基板12の上面と液体供給基板7との接合部に測温抵抗体28を配置している。これのような配置であれば、測温抵抗体28を構成上必ず発生する個別液室基板12と液体供給基板7との接合部に配置しているため、測温抵抗体28を配置する特別なスペースを設ける必要がなく、液滴吐出ヘッド50の大型化を避けることができ、低コスト化を実現できる。
【0049】
<製造方法>
以下の(a)〜(l)に、本実施形態の液滴吐出ヘッド50の製造工程を示す。
(a):個別液室基板12上の振動板17を設ける位置以外の箇所にマスクとしてのシリコン窒化膜をパターニングする。その後、シリコン熱酸化膜形成方法である例えばプラズマCVD法、パイロ酸化法により、ポリシリコンとSiOとの多層積層膜である振動板17を個別液室基板12上に形成する。
(b):振動板17が形成された個別液室基板12の上面に薄膜形成方法としてのゾルゲル法またはスパッタ法により、例えばPt、Ti、LNO、SROからなる共通電極13および測温抵抗体28となる層を形成する。さらに、例えばPZTからなる圧電体14の層、及び、例えばPt、LNO、SROからなる上部電極15の層を順次形成する。
【0050】
(c):フォトリソグラフィー法により上部電極15、圧電体14、共通電極13および測温抵抗体28を順次パターニングし、圧電素子16と測温抵抗体28を形成する。
このとき形成する測温抵抗体28の形状としては、例えば図5及び図6に示すようなものがあるが、これに限るものではない。
(d):圧電素子16の放電防止のための絶縁膜23(例えば、Al)を全体に成膜したあと、振動変位の妨げにならないように上部電極15上を避けて圧電素子16の端部と共通電極13とに、例えばSiO、SiNからなる層間絶縁膜24を形成する。
(e):アルミニウムからなる引き出し配線25を所望の箇所に形成する。
【0051】
(f):別途シリコン基板にリソエッチ法で凹部26を形成してある液体供給基板7を製作しておき、個別液室基板12の圧電素子面に接着する。
(g):個別液室基板12の圧電素子形成面の反対側を所望の厚さまで研磨する。
(h):個別液室基板12の圧電素子形成面の反対側をICPドライエッチングによりエッチングし個別液室としての圧力室3、流体抵抗部4及びインク導入路5となる凹部を形成する。
別途SUSのプレス加工、研磨によるノズル孔2を形成しておいたノズル基板1を個別液室基板12の凹部形成側に接合する。
【0052】
(i):個別液室基板12の液体供給基板7側に設けたバンプ10に別途製作した駆動IC11をフリップチップ接合により実装する。
(j):プレス加工、微細切削加工により形成した第一フレーム層9a、第二フレーム層9b及び第三フレーム層9cを別途接合してフレーム基板9を製作し、接液膜を成膜したのちに液体供給基板7に接合する。
(k):ダンパーフィルム19を設けた補強板20をフレーム基板9に接合する。
(l):補強板20の上に別途製作した不図示のハウジングを接合する。
以上の(a)〜(l)の工程により、本実施形態の液滴吐出ヘッド50が完成する。
【0053】
本実施形態の液滴吐出ヘッド50は、測温抵抗体28は共通電極13と同じ材質である。そして、製造時には、上記(b)の工程のように、共通電極13および測温抵抗体28となる層を一つ層として形成し、上記(c)の工程のように、パターニングによって共通電極13と測温抵抗体28との二種の部材を形成する。
このように測温抵抗体が上部電極または共通電極と同一の材料で構成し、電極と測温抵抗体とを同時形成することで、工程を増やすことなく、また材料を特別に用意することなく測温抵抗体の形成が可能となる。これにより、測温抵抗体による温度検出によって安定した画像品質を維持しながら、コスト増を招く要因がないため、低コスト化を実現できる。
【0054】
また、圧電素子は抵抗体であるため、変形のための電圧印加によってジュール熱によって発熱することが考えられる。このため、圧電素子が配置され、吐出液室を形成する吐出液室形成部材と、測温抵抗体を配置した部材とが異なる部材であると、測温抵抗体を配置した位置の温度と、吐出液室内のインクの温度との温度差が生じ、吐出される液滴量が変化し、安定したインク液滴吐出特性が得られなくなる。
これに対して、本実施形態の液滴吐出ヘッド50は、圧電素子16が配置され、吐出液室である圧力室3を形成する吐出液室形成部材である個別液室基板12に測温抵抗体28が配置されているため、圧電素子16のジュール熱によって個別液室基板12の温度が上昇しても、その温度上昇は測温抵抗体28を配置した位置にも反映されるため、測温抵抗体28を配置した位置の温度と、圧力室3内のインクの温度との温度差が生じ難く、安定した液滴量のインクの吐出を行うことができる。
【0055】
このような液滴吐出ヘッド50を記録ヘッド51に用いることにより、本実施形態のプリンタ100は、設置環境の温度が変化しても、安定したインク液滴吐出特性が得られて、画像品質が向上する。
また、上述した実施形態においては、液滴吐出ヘッド50をインクジェットプリンタの記録ヘッド51に適用した例で説明したが、インクジェットヘッド以外の液滴吐出ヘッド50として、例えば、液体レジストを液滴として吐出する液滴吐出ヘッド、DNAの試料を液滴として吐出する液滴吐出ヘッドなどの他の液滴吐出ヘッドにも適用できる。
【0056】
以上に説明したものは一例であり、本発明は、次の態様毎に特有の効果を奏する。
〔態様A〕
ノズル孔2などの液滴を吐出するノズル孔と、ノズル孔により外部と連通し、かつ、液滴となるインクなどの吐出液を収容する圧力室3などの吐出液室と、吐出液室内に圧力を発生させる圧電素子16などの圧力発生手段と、測温抵抗体28などの測温抵抗体を配置した位置における温度を検出する制御部60などの温度検出手段と、温度検出手段の検出結果に基づいて圧力発生手段の出力を制御する駆動IC11などの圧力制御手段とを有し、圧力発生手段が吐出液室内の圧力を高めることにより吐出液室内の吐出液が該液滴としてノズル孔から吐出される構成であり、ノズル孔を設けたノズル基板1などのノズル板と、吐出液室を形成する壁面を構成する個別液室基板12などの吐出液室形成部材とを重ねて固定した構成の液滴吐出ヘッド50などの液滴吐出ヘッドにおいて、測温抵抗体28などの測温抵抗体を個別液室基板12などの吐出液室形成部材に配置する。これによれば、上記実施形態について説明したように、個別液室基板12上に測温抵抗体28を配置しているため、吐出用のインクに近接した場所の温度が正確に検知でき、それゆえ適切な電圧を圧電素子16に供給することが可能になり、吐出特性を安定化できる。
〔態様B〕
〔態様A〕において、圧力発生手段は、圧力室3などの吐出液室の壁面の一部を構成し、変形することで吐出液室の体積を変動させる振動板17などの振動板と、圧電体14などの圧電体を挟む上部電極15及び共通電極13などの二つの電極のうちの一方(共通電極13)が振動板と一体的に形成され、二つの電極の間に電圧を印加されることにより圧電体に変形が生じ、この変形を伝達することで振動板を変形させる圧電素子16等の圧電素子と、圧電素子に電圧を印加する駆動IC11などの駆動電源とを有し、振動板の変形による吐出液室の体積の変動によって吐出液室内の圧力を発生させるものであり、圧力制御手段は、駆動IC11などの駆動電源が圧電素子16などの圧電素子に印加する電圧を制御することにより、圧電体及び振動板の変形量を制御し、振動板の変形によって生じる吐出液室内の圧力の大きさを制御する。これによれば、上記実施形態について説明したように、圧力室3内のインクの温度変化に応じて、各温度における必要な吐出圧力を圧電素子16によって出力させる構成を実現することができる。
〔態様C〕
〔態様A〕または〔態様B〕において、個別液室基板12などの吐出液室形成部材は、複数の圧力室3などの吐出液室を(Y軸方向に)直線状に並べて吐出液室の列である吐出液室列を形成した構成であり、ノズル基板1などのノズル板には、吐出液室形成部材を固定した際に、吐出液室形成部材に設けた複数の吐出液室のそれぞれに対応するように、複数のノズル孔2などのノズル孔を設けてノズル列を形成し、測温抵抗体28などの測温抵抗体は吐出液室列に沿って延在するように配置されている。これによれば、上記実施形態について説明したように、圧力室3などの吐出液室列ごとに温度分布があり正確な温度を決定することが困難である場合に、測温抵抗体28などの測温抵抗体が吐出液室列に沿って並べているので、平均温度を計測し駆動電圧を効率的に選択でき、吐出特性を安定化できる。
〔態様D〕
〔態様C〕において、個別液室基板12などの吐出液室形成部材は、複数の圧力室3などの吐出液室列を複数列備え、複数の吐出液室列のそれぞれに対応した複数の測温抵抗体28などの測温抵抗体を備える。これによれば、上記実施形態について説明したように、測温抵抗体がノズル列もしくは個別液室列の各列に配置しているため、温度の分布に従って列ごとに駆動電圧を選択することができ、吐出特性を安定化できる。
〔態様E〕
〔態様C〕または〔態様D〕において、圧力室列などの吐出液室列に沿って延在するように配置されている測温抵抗体28などの測温抵抗体は、延在する方向に複数個並べて配置されている。これによれば、図6を用いて上記実施形態について説明したように、測温抵抗体が同一列内で分割して配置してあるために、温度分布に従って、より細かく駆動電圧を選択することができ、吐出特性を安定化できる。
〔態様F〕
〔態様A〕乃至〔態様E〕の何れか一つの態様において、圧力室3などの吐出液室に供給するインクなどの吐出液を収容する供給液収容部である共通液室8が形成され、個別液室基板12などの吐出液室形成部材におけるノズル基板1などのノズル板が固定される面とは反対側の面に重ねて固定された液体供給基板7などの吐出液供給部形成部材を備え、吐出液室形成部材と吐出液供給部形成部材との接合部に測温抵抗体28などの測温抵抗体を配置する。これによれば、上記実施形態について説明したように、測温抵抗体を構成上必ず発生する個別液室基板と吐出液供給部形成部材との接合部に配置しているため、測温抵抗体を配置する特別なスペースを設ける必要がなく、滴吐出ヘッドの大型化を避けることができ、低コスト化を実現できる。
〔態様G〕
〔態様B〕または、少なくとも〔態様B〕の構成を備えた〔態様C〕乃至〔態様F〕の何れか一つの態様において、制御部60などの温度検出手段は、温度を精密に計測するための補正回路を含み、駆動IC11などの圧力制御手段は、補正回路から出力された電気信号をA/D変換によりデジタル化するA/D変換回路を含み、補正回路と該A/D変換回路が駆動IC11などの駆動電源と同一の基板(個別液室基板12など)に形成されている。これによれば、上記実施形態について説明したように、補正回路とA/D変換回路が駆動IC11に搭載されているため、A/D変換回路以降の信号伝送はデジタル信号となりいくら配線が長くなっても、温度の測定精度が損なわれることがなく、結果として吐出特性を安定化できる。
〔態様H〕
インク液滴を吐出するインク吐出ヘッドと、記録ヘッド51などのインク吐出ヘッドにインクを供給するタンク部102aなどのインクタンクを一体化したインクカートリッジ102などのインクカートリッジにおいて、インク吐出ヘッドとして、〔態様A〕乃至〔態様G〕の何れか一つの態様の液滴吐出ヘッドを用いる。これによれば、上記実施形態について説明したように、液滴吐出ヘッドとタンク部102aなどのインクタンクをとを一体としてプリンタ100などの画像形成装置から交換可能となり、吐出特性を安定化できる液滴吐出ヘッドの交換性が向上する。
〔態様I〕
インク液滴を吐出する記録ヘッド51などのインクジェットヘッドを搭載したプリンタ100などのインクジェット記録装置において、インクジェットヘッドとして〔態様A〕乃至〔態様G〕の何れか一つの態様の液滴吐出ヘッドを用いる。これによれば、上記実施形態について説明したように、環境温度が変化しても吐出特性を安定化できるため、安定した画像品質を維持することができる。
〔態様J〕
インクカートリッジ102などのインクカートリッジの記録ヘッド51などのヘッド部から液滴を吐出させて用紙30などの被記録媒体に記録を行うプリンタ100などのインクジェット記録装置において、インクカートリッジとして、〔態様H〕のインクカートリッジを備える。これによれば、上記実施形態について説明したように、環境温度が変化しても吐出特性を安定化できるため、安定した画像品質を維持することができ、さらに、吐出特性を安定化できる液滴吐出ヘッドの交換性が向上する。
【符号の説明】
【0057】
1 ノズル基板
2 ノズル孔
3 圧力室
4 流体抵抗部
5 インク導入路
6 個別インク供給口
7 液体供給基板
8 共通液室
9 フレーム基板
10 バンプ
11 駆動IC
12 個別液室基板
13 共通電極
14 圧電体
15 上部電極
16 圧電素子
17 振動板
18 弾性部材
19 ダンパーフィルム
20 補強板
22 共通インク供給口
23 絶縁膜
24 層間絶縁膜
25 引き出し配線
26 凹部
28 測温抵抗体
50 液滴吐出ヘッド
51 記録ヘッド
100 プリンタ
101 キャリッジ
102 インクカートリッジ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0058】
【特許文献1】特開平10−217463号公報
【特許文献2】特許2670083号公報
【特許文献3】特開2010−155468号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するノズル孔と、
該ノズル孔により外部と連通し、かつ、該液滴となる吐出液を収容する吐出液室と、
該吐出液室内に圧力を発生させる圧力発生手段と、
測温抵抗体を配置した位置における温度を検出する温度検出手段と、
該温度検出手段の検出結果に基づいて該圧力発生手段の出力を制御する圧力制御手段とを有し、
該圧力発生手段が該吐出液室内の圧力を高めることにより該吐出液室内の該吐出液が該液滴として該ノズル孔から吐出される構成であり、
該ノズル孔を設けたノズル板と、該吐出液室を形成する壁面を構成する吐出液室形成部材とを重ねて固定した構成の液滴吐出ヘッドにおいて、
上記測温抵抗体を上記吐出液室形成部材に配置することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
請求項1の液滴吐出ヘッドにおいて、
上記圧力発生手段は、上記吐出液室の壁面の一部を構成し、変形することで該吐出液室の体積を変動させる振動板と、圧電体を挟む二つの電極のうちの一方が該振動板と一体的に形成され、該二つの電極の間に電圧を印加されることにより該圧電体に変形が生じ、この変形を伝達することで該振動板を変形させる圧電素子と、該圧電素子に電圧を印加する駆動電源とを有し、該振動板の変形による該吐出液室の体積の変動によって該吐出液室内の圧力を発生させるものであり、
上記圧力制御手段は、該駆動電源が該圧電素子に印加する電圧を制御することにより、該圧電体及び該振動板の変形量を制御し、該振動板の変形によって生じる該吐出液室内の圧力の大きさを制御することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
請求項1または2の液滴吐出ヘッドにおいて、
上記吐出液室形成部材は、複数の上記吐出液室を直線状に並べて該吐出液室の列である吐出液室列を形成した構成であり、
上記ノズル板には、該吐出液室形成部材を固定した際に、該吐出液室形成部材に設けた複数の該吐出液室のそれぞれに対応するように、複数の上記ノズル孔を設けてノズル列を形成し、
上記測温抵抗体は該吐出液室列に沿って延在するように配置されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項3の液滴吐出ヘッドにおいて、
上記吐出液室形成部材は、上記吐出液室列を複数列備え、
複数の該吐出液室列のそれぞれに対応した複数の上記測温抵抗体を備えることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項3または4の液滴吐出ヘッドにおいて、
上記吐出液室列に沿って延在するように配置されている上記測温抵抗体は、延在する方向に複数個並べて配置されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
上記吐出液室に供給する該吐出液を収容する供給液収容部が形成され、上記吐出液室形成部材における上記ノズル板が固定される面とは反対側の面に重ねて固定された吐出液供給部形成部材を備え、
該吐出液室形成部材と該吐出液供給部形成部材との接合部に上記測温抵抗体を配置することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項2、または、少なくとも請求項2に従属する請求項3乃至6のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
上記温度検出手段は、温度を精密に計測するための補正回路を含み、
上記圧力制御手段は、該補正回路から出力された電気信号をA/D変換によりデジタル化するA/D変換回路を含み、
該補正回路と該A/D変換回路が上記駆動電源と同一の基板に形成されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
インク液滴を吐出するインク吐出ヘッドと、該インク吐出ヘッドにインクを供給するインクタンクを一体化したインクカートリッジにおいて、
上記インク吐出ヘッドとして請求項1乃至7の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッドを用いることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項9】
インク液滴を吐出するインクジェットヘッドを搭載したインクジェット記録装置において、
該インクジェットヘッドとして請求項1乃至7の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッドを用いることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項10】
インクカートリッジのヘッド部から液滴を吐出させて被記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置において、
上記インクカートリッジとして、請求項8記載のインクカートリッジを備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−18279(P2013−18279A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155959(P2011−155959)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】