説明

液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置

【課題】多種の液体を取り扱う場合でも、確実に液体から気泡を除去し得る液滴吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】複数の流路12が形成された基板10と、前記基板の一面側に固定され、前記各流路にそれぞれ連通する複数の圧力室を備え、該各圧力室に供給された液体を液滴として吐出する液滴吐出部30と、前記基板の他面側に積層され、前記各流路にそれぞれ連通し、前記液体を収容する複数の液体貯留室22を備えた液体収容部と、を有し、前記液体貯留室の側面の少なくとも一部が気液分離材料によって形成され、前記液体収容部の内部において、前記各液体貯留室の周囲に空洞26が設けられ、前記気液分離材料が該空洞26に連通している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液滴装置は、ヘッドチップ(液滴吐出部)を備える液滴吐出ヘッド有し、この液滴吐出ヘッドを移動操作して、記録用紙や基板等に複数の液滴を着弾させる。
【0003】
このような液滴吐出装置において液滴の吐出不良が生じる原因の一つとして、ヘッドチップ内への気泡の侵入が挙げられる。また、ヘッドチップ内に気泡が侵入すると、この気泡を取り除くのは極めて困難である。
【0004】
かかる問題を解決すべく、液滴として吐出する液体を液滴吐出ヘッドに供給する前に、液体からの脱泡を行う機構を備えた液滴吐出装置(液滴付与装置)が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
ところが、特許文献1に記載の装置では、供給する液体から一括してしか脱泡をおこなうことができない。
【0006】
かかる構成を、例えば、マイクロアレイを作製する装置のように、多種少量の液体を取り扱う装置に適用しても、複数種の液体から効率よく脱泡するのが困難である。
【特許文献1】特開2000−251689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、例えば、多種の液体を取り扱う場合でも、確実に液体から気泡を除去し得る液滴吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、前記基板の一面側に固定され、前記各流路にそれぞれ連通する複数の圧力室を備え、該各圧力室に供給された液体を液滴として吐出する液滴吐出部と、前記各流路にそれぞれ連通し、前記液体を貯留する複数の液体貯留室を備え、前記基板の他面側に積層された液体収容部と、を有し、前記液体貯留室の側面の少なくとも一部が気液分離材料によって形成され、前記液体収容部の内部には前記各液体貯留室の周囲に空洞が設けられ、該液体貯留室の気体を、前記気液分離材料を介して該空洞中に放出可能であることを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、液体収容部の内部における空洞内を排気することによって、該空洞内の気圧が低下する。その結果、液体貯留室内の液体中の気泡が、気液分離材料を介して空洞内に放出される。こうして、例えば、複数種の液体が複数の液体貯留室に収容されている場合も、それぞれの液体貯留室から効率よく一度に確実に気泡を除去することができる。
【0010】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドでは、液体貯留室の側面が、気液分離チューブによって形成されていることも好ましい。ここで、気液分離チューブとは、気液分離材料によって形成された筒状体を意味する。気液分離チューブによって液体貯留室の側面を形成すれば、液滴吐出ヘッドの構成を簡単にすることが可能である。
【0011】
上記気液分離チューブは、前記液体収容部の着脱可能に取り付けられていることも好ましい。このような構成とすることにより、気液分離チューブを、例えば使い捨てにすることができるので、液体貯留室を清浄に維持することができ、生体試料等の吐出にも好適に用いられる。
【0012】
上記液体収容部には、該基板内の空洞に連通し、空洞内の気体を吸引するための吸引口が設けられていることも好ましい。このような構成によれば、吸引口に適当な吸引手段を装着し、空洞内の気体を容易に吸引することができる。
【0013】
また、本発明は、上述した本発明に係る液滴吐出ヘッドと、空洞内の気体を吸引するための吸引手段とを備える液滴吐出装置をも提供する。このような液滴吐出装置によれば、液滴吐出ヘッドの液体貯留室内の液体から、詰まりの原因となる気泡を効率よく除去しながら、吐出を繰り返すことができる。
【0014】
本発明は、各種用途の液滴吐出装置に適用し得るが、上述した特徴から、特に、複数種の液体を吐出する装置に好適に適用される。また、本発明に係る液滴吐出装置は、上述した特徴から、生物由来物質を含む液体を吐出する場合に好適に用いられる。
【0015】
また、本発明に係る液滴吐出装置は、上述した特徴から、マイクロアレイ作製装置として好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る液滴吐出ヘッド1の一実施形態を示す断面図である。図1(B)は、図1(A)のIB−IB線断面図を示す。図示されるように、液滴吐出ヘッド1は、基板10と、その下面側に固定されたヘッドチップ(液滴吐出部)30と、基板10の上面側に積層された略直方体状の液体収容部20とからなる。
【0018】
基板10には複数の流路12が形成され、ヘッドチップ30は、流路12のそれぞれに連通する複数の圧力室32とノズル孔34を備えている。一方、液体収容部20には複数の吐出する溶液を収容するセル(液体貯留室)22が形成され、セル22はその底部に形成された貫通孔によって、流路12のそれぞれに連通している。図1では、図中両端のセルに接続する流路12のみ示しているが、他のセルの貫通孔にもそれぞれ流路12が接続し、各流路12がそれぞれ圧力室32に連通している。
【0019】
ここで、まず、図1〜3を用いて液体収容部20の構成について説明する。
【0020】
図示されるように、本実施形態では、セル22の側面は後述する気液分離チューブ24によって構成されている。図2に、液滴吐出ヘッド1から気液分離チューブ24を取り外した状態を、図3に気液分離チューブ24の一例を示す。図1(A)及び(B)に示されるように、液体収容部20はその表面が全体に樹脂等の薄い板によって構成され、内部は空洞26となっている。液体収容部20の上面には、円形の貫通孔が4×6で24個行列状に並設されている。各貫通孔には、その円周に沿って、気液分離チューブ24を取り付けるための凸状部28が、図中下向きに突設されている。一方、液体収容部20の底壁部内面20b側には、凸状部28に対応する位置に、凸状部29が図中上向きに突設されている。また、円形に突設された各凸状部29の中心には、基板10の流路12に連通する貫通孔25が設けられている。
【0021】
気液分離チューブ24は、例えば、多孔質PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)チューブやAF(アモルファスフルオロポリマー)チューブ等を使用することができる。気液分離チューブ24は、凸状部28と凸状部29の先端間の距離よりもわずかに長く、その柔軟性及び伸縮性により、凸状部28及び凸状部29の外周に隙間なく密着するように取り付けることができる(図1及び図2参照)。気液分離チューブ24は、接着剤等を使用せずに凸状部28及び凸状部29に取り付けられるので、使い捨てとして使用後に凸状部28及び凸状部29から取り外し、新たなチューブを付け替えることも可能である。
【0022】
一方、液体収容部20の一側面には、吸引口31が設けられており、これによって空洞26内が外気に連通する。吸引口31から吸引することによって、空洞26内の気圧を下げることができる。
【0023】
次に、液体収容部20の図中下方に貼り合わせられる基板10の構成について説明する。基板10は、例えば、図4(A)に平面図が示される基板10a上に、同図(B)に平面図が示される基板10bを積層し、貼り合わせることによって形成することができる。基板10bには貫通孔42が24個形成されており、各貫通孔42の中心は、液体収容部20の底壁部に設けられた貫通孔25の中心とそれぞれ一致する。従って、基板10a上に液体収容部20を重ねて貼り合わせると、貫通孔42は液体収容部20の貫通孔25に連通する。
【0024】
一方、基板10aの表面には、基板中央に向かって集束する溝41が24本形成されている。各溝41の基板外側の端部は、基板10bの貫通孔25の中心に一致する。従って、基板10a上に基板10bを貼り合わせれば溝41が流路として機能するようになり、この流路が各貫通孔42に連通する。また、基板10aに形成された溝41の基板中央側の末端には、基板10bに貼り合わせられる面と反対側の面に抜ける貫通孔が形成されている。この貫通孔により、溝41によって形成される流路が、後述する液滴吐出部の加圧室32に連通する。
【0025】
このように、本実施形態では、貫通孔42、溝41、及び溝41の基板中央側端部に設けられた貫通孔が併せて流路12を構成する。
【0026】
なお、液体収容部20と基板10、または基板10aと基板10bの接合には、例えば、熱圧着や接着剤による接着等の方法を用いることができる。また、液体収容部20及び基板10の構成材料としては、それぞれ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイのような各種樹脂材料、各種ガラス材料、各種金属または金属酸化物材料等が挙げられる。
【0027】
これらの材料を用い、液体収容部20は、例えば型を用いた射出成形により作製することができる。また、溝41や貫通孔25、42等は、射出成形やドライエッチング、ウェットエッチング、ブラスト加工等の方法により形成することができる。
【0028】
尚、本実施形態では、基板10と液体収容部20とが直接貼り合わせられているが、各基板10と液体収容部20は、基板10bと同様の貫通孔を有するシール材等を介して貼り合わせてもよく、かかる構成も本発明に包含される。
【0029】
次に、ヘッドチップ30の構成について説明する。図5に、ヘッドチップ30の一例として、静電駆動方式のヘッドチップの拡大断面図を示す。説明の便宜上、図5には、ヘッドチップ39とともに基板10aのみが示されている。ヘッドチップ20は、電極56が形成された電極基板51、加圧室32を形成する加圧室基板52、及びノズル孔34が形成されたノズル基板53により形成されている。加圧室32に流入した液体は、図示しない共通電極と電極56との間に電圧を加えると、振動板57が変位することによって加圧され、ノズル孔34から吐出される。尚、電極基板51には、図中下側の面から溝が形成され、その天井部に電極56が形成されているため、電極56と振動板57との間にはわずかな空隙(エアギャップ)が形成されている。電極基板51、加圧室基板52、ノズル基板53の材料は特に限定されないが、吐出される液体に生体試料が含まれる場合には、ガラス、シリコン等が適している。
【0030】
尚、以上は静電駆動方式型のヘッドチップを例に挙げて説明したが、液滴の吐出方法は、これに限定されず、例えば、圧電素子の作動により圧力室の容積を変化させる方法(インクジェット方式)、ペルチェ素子(加熱手段)の作動により圧力室内に気泡を生じさせる方法(バブルジェット方式(バブルジェットは登録商標))等、いかなる方法であってもよい。
【0031】
ヘッドチップ30を、基板10に接着することにより、電極基板及び加圧室基板に設けられた貫通孔が、基板10の貫通孔に接続し、セル22と加圧室32とが連通し、液滴吐出ヘッド1が完成する。
【0032】
次に、図6を用いて、液滴吐出ヘッド1を備える液滴吐出装置の一例であるマイクロアレイ製造装置200について説明する。
【0033】
マイクロアレイ製造装置200は、ガラス等の液体収容部202上に生体分子を含む試料溶液の液滴を複数配置して作製されるマイクロアレイを製造するためのものであり、基台220上に、複数の液体収容部202を載置可能に構成されたテーブル204と、液滴吐出ヘッド1をY方向に自在に移動させるためのY方向駆動軸216と、テーブル204をX方向に自在に移動させるためのX方向駆動軸214と、を備える。また、液滴吐出ヘッド1を固定するための固定手段212と、固定手段212をZ方向に自在に移動させるためのZ方向駆動軸218と、をも備えている。
【0034】
基台220上には、さらに、吸引装置100が設けられている。吸引装置100は、小型のチューブポンプ等からなる。また、吸引装置100は、液滴吐出ヘッド1の吸引口31に接続可能な接続用チューブ102を備えており、接続用チューブ102を吸引口31に接続し、吸引装置100を作動させることによって、液滴吐出ヘッド1の空洞26内の空気を吸引することができる。吸引が終了すれば、吸引装置100は吸引口31から取り外され、液滴吐出ヘッド1を再び吐出に供することができる。
【0035】
以上のようなマイクロアレイ製造装置200では、プローブ(生体由来物質)を含有する液体を液滴吐出ヘッド1から液滴として吐出し、液体収容部202に着弾させてマイクロアレイを作製する。
【0036】
まず、プローブを含有する液体及び基板202について説明する。
【0037】
プローブには、例えば血液、尿、唾液、髄液のような生体サンプル(検査対象物)に含まれる標的物質(ターゲット)を捕捉し得る物質を用いることができる。
【0038】
例えば、ターゲットがDNAやRNAのような核酸である場合には、プローブとしては、これらの核酸とハイブリダイゼーション(相補的に結合)する核酸やヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)等を用いることができる。このような核酸としては、例えばcDNAやPCR産物等が用いられる。
【0039】
また、これらの核酸およびオリゴヌクレオチドは、それぞれ、一部が他原子により置換されたものであってもよく、蛍光分子等の標識が導入されたものであってもよい。
【0040】
また、ターゲットが特定のタンパク質である場合には、プローブとしては、このタンパク質を特異的に捕捉(例えば、吸着、結合等)するもの等が用いられる。
【0041】
具体的には、抗原、抗体、レセプター、酵素等のタンパク質、ペプチド(オリゴペプチド)が挙げられる。
【0042】
また、これらのタンパク質およびペプチドは、それぞれ、一部が他原子により置換されたものであってもよく、蛍光分子等の標識が導入されたものであってもよい。
【0043】
なお、プローブとしてタンパク質を使用する場合、このプローブとなるタンパク質を表面に発現した細胞(生細胞)を液体に混合してもよい。
【0044】
液体の調製に用いる媒質(溶媒または分散媒)としては、プローブの種類に応じて適宜選択され、特に限定されないが、前述したようなプローブの場合には、例えば水や各種緩衝液等が好適に用いられる。
【0045】
この媒質には、粘度や表面張力等を制御する各種添加剤が添加されていてもよい。このような添加剤としては、単価アルコール、多価アルコール、界面活性剤等が挙げられる。
【0046】
液体の粘度は、1〜10cps程度であるのが好ましく、2〜5cps程度であるのがより好ましい。また、液体の表面張力は、10〜60mN/m程度であるのが好ましく、20〜40mN/m程度であるのがより好ましい。
【0047】
液体収容部202としては、特に限定されないが、例えば、ガラス、シリコン、金属(例えば金、銀、銅、アルミニユウム、白金等)、金属酸化物(例えばSrTiO3、LaAlO3、NdGaO3、ZrO2、酸化ケイ素等)、樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート)等よりなる基板を用いることができる。
【0048】
また、液体収容部202は、1種類の材料で構成されたもの(単層基板)でもよく、複数種の材料を組み合わせたもの(例えば、複数層の積層基板等)であってもよい。
【0049】
なお、液体収容部202としては、ガラス基板を用いるのが好適である。ガラス基板は、入手の容易さ、低コストであること等から好ましい。
【0050】
また、液体収容部202には、必要に応じて、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、プローブを液体収容部202の表面に確実に固定するための処理(固相化処理)等が挙げられる。
【0051】
固相化処理としては、プローブと共有結合またはイオン結合する官能基、例えばチオール基、アミノ基、イソシアネート基、クロライド基、エポキシ基等を導入する処理等が挙げられる。
【0052】
液体収容部202としてガラス基板を用いる場合には、前記官能基は、これを有するカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等)で処理することにより導入することができる。
【0053】
その他、固相化処理としては、プローブが核酸やヌクレオチドの場合、ポリ−L−リジンの被着、プラズマ重合膜の形成等の方法を用いるようにしてもよい。また、活性化エステルを液体収容部202に被着させる表面処理を行うとともに、プローブの末端(例えば、二重鎖DNA断片のセンス鎖末端)をアミノ化するようにしてもよい。これにより、活性化エステルとアミノ基の共有結合を介してプローブが液体収容部202に強固に固定される。
【0054】
一方、プローブがタンパク質やペプチドである場合、タンパク質とアミド結合を形成する活性基を、液体収容部202の表面に導入する表面処理等を行う。これにより、プローブを液体収容部202に強固に固定することができる。活性基としては、カルボニルイミダゾール基、エポキシ基等が挙げられる。
【0055】
以下、マイクロアレイ作製装置200によって、液滴吐出ヘッド1の吐出液から、気泡を除去する脱泡方法について、図7を参照しつつ説明する。
【0056】
まず、図7(A)に示すように、液滴吐出ヘッド1のセル22に液体を供給する。液体の供給方法は、特に限定されず、例えば、ピペットを用いた手法により、各セル22にそれぞれ液体を供給してもよく、分注装置を用いて複数のセル22に一括して液体を供給してもよい。尚、液体は、液面が気液分離チューブ24の上端より上にくるまで供給する。こうすることによって、空洞26を閉空間とすることができる。
【0057】
次に、液滴吐出ヘッド1を液滴吐出ヘッド保持手段に固定する。
【0058】
そして、液滴吐出ヘッド1の吸引口31に吸引装置100を接続して作動させる。これにより、空洞26内が減圧され、図7(A)及び(B)の矢印に示されるように、気液分離チューブを透過可能な気体のみが、セル22内から空洞26に放出される。
【0059】
マイクロアレイ作製装置200では、吐出液体として複数種のもの(異なる生体由来物質を含む液体)が用いられるが、かかる構成によれば、複数種の液体から一括して脱泡を行うことができるので作業性に優れ、マイクロアレイの製造時間の短縮、製造コストの削減を図ることができる。
【0060】
次に、吸引手段100を液滴吐出ヘッド1から取り外し、空洞26内を大気圧に戻す。
【0061】
そして、図示されない減圧手段のキャップを、液滴吐出ヘッド1のヘッドチップ30または流路基板10に密着させる。これにより、ヘッドチップ30の各ノズル孔がキャップで覆われ、閉空間が形成される。この状態で、吸引手段により閉空間を減圧することによって、各ノズル孔先端まで均一かつ確実に吐出液体が充填される。
【0062】
次に、減圧機構をヘッドチップから取り外し、液滴吐出ヘッド1とテーブル204とを相対的にX軸方向およびY軸方向に移動させ、液滴吐出ヘッド1から液体収容部202に液滴を吐出する。
【0063】
これにより、液体収容部202上には、スポットが複数形成される。このスポットのスポット径は、10〜300μm程度であるのが好ましく、15〜150μm程度であるのがより好ましい。
【0064】
また、スポットの平面形状(液体収容部202の鉛直上方から見た形状)は、一般には円形形状とされるが、非円形形状であってもよい。この非円形形状としては、例えば、楕円形、十字型、記号、数字等が挙げられる。
【0065】
液体収容部202上には、スポットを1種類の形状で形成してもよく、2種類以上の形状を組み合わせて形成するようにしてもよい。
【0066】
非円形形状のスポットを形成する場合、このものは、マイクロアレイ上の特定位置を識別するための位置標識として用いてもよく、プローブの種類や、検査・解析の結果を示すための形状としてもよい。これにより、このマイクロアレイを用いる検査・解析が容易になる。
【0067】
次に、液体のスポットが形成された液体収容部202を、必要に応じて、インキュベート(加温)するようにしてもよい。これにより、プローブを液体収容部202上により確実に定着(固定)させることができる。
【0068】
このように、本発明によれば、液体同士が混ざり合うこと(コンタミネーション)を防止しつつ、各液体からの確実な脱泡を行うことができ、その結果、高精度での液滴吐出が可能となる。
【0069】
以上、本発明の液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0070】
例えば、本発明の液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置の各部の構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成のものを付加することもできる。
【0071】
また、前記実施形態では、本発明の液滴吐出装置をマイクロアレイ作製装置に適用した場合を代表に説明したが、本発明の液滴吐出装置は、複数種のインクを吐出するプリンタに適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の液滴吐出ヘッドの構成の一例を示す断面図である。
【図2】気液分離チューブを取り外した液滴吐出ヘッドを示す断面図である。
【図3】気液分離チューブの一例を示す斜視図である。
【図4】流路基板を構成する各基板を示す平面図である。
【図5】ヘッドチップの構成を示す断面図である。
【図6】本発明の液滴吐出装置を示す斜視図である。
【図7】本発明の液滴吐出ヘッドを用いた脱泡方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0073】
1…液滴吐出ヘッド、10…基板、20…液体収容部、22…セル、24…気液分離チューブ、26…空洞、28、29…凸状部、30…ヘッドチップ、31…吸引口、32…加圧室、34…ノズル孔、100…吸引装置、102…接続用チューブ、200…液滴吐出装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の流路が形成された基板と、
前記基板の一面側に固定され、前記各流路にそれぞれ連通する複数の圧力室を備え、該各圧力室に供給された液体を液滴として吐出する液滴吐出部と、
前記各流路にそれぞれ連通し、前記液体を貯留する複数の液体貯留室を備え、前記基板の他面側に積層された液体収容部と、を有し、
前記液体貯留室の側面の少なくとも一部が気液分離材料によって形成され、
前記液体収容部の内部には前記各液体貯留室の周囲に空洞が設けられ、該液体貯留室の気体を、前記気液分離材料を介して該空洞中に放出可能である、液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記液体貯留室の側面は、気液分離チューブによって形成されている、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記気液分離チューブは、前記液体収容部に着脱可能に取り付けられている、請求項2に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記液体収容部に、前記空洞に連通し、該空洞内の気体を吸引するための吸引口が設けられている、請求項1から3のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッドと、
前記空洞内の気体を吸引するための吸引手段と、を備える液滴吐出装置。
【請求項6】
前記液体として、生物由来物質を含む液体が用いられる、請求項5に記載の液滴吐出装置。
【請求項7】
前記液滴吐出装置は、マイクロアレイ作製装置である、請求項5または6に記載の液滴吐出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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