説明

液滴吐出装置

【課題】吐出ヘッドの端子部に漏れた液体が付着して端子が腐食したり、漏電することを防止する。
【解決手段】吐出ヘッドは、ノズル基板1に形成された溝7から供給された液体をノズル9から吐出する。吐出圧を発生させるためのヒーター層4は、配線層2によってコンタクトパッド6に接続され、液滴吐出装置の本体側端子部であるピン電極13から電力を供給する。コンタクトパッド6に液体が付着するのを防ぐため、コンタクトパッド6を端子保護部材10によって覆い、ピン電極13が蓋部材12を突き破って端子保護部材10へ挿入され、コンタクトパッド6に接触するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、利用者に薬剤を投与するための吸入装置等に用いられる液滴吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、薬剤を微小液滴にして患者に吸引させ、肺から薬剤を投与する吸入装置が開発されている。多くの吸入装置では、微小液滴を作りだすために、吐出ヘッドに電気を供給する必要がある。吐出ヘッド(ヘッド)に電気を供給することによってノズルから液滴を吐出する。例えば、ヘッド内の圧電体に電圧を加えて変位させ薬液に圧力を加える方法や、吐出ヘッド内のヒーターに電流を流して加熱し薬液を沸騰させる方法が挙げられる。また吸入装置はヘッド以外にも、薬液タンク内の圧力センサーや温度センサーなどに電気を供給する必要がある。
【0003】
これらの電気は、吸入装置本体内のバッテリーから本体の制御回路部(制御部)によって供給される。また、ヘッドやタンクからの情報を電気的信号として本体内の制御回路部に送ることも必要である。
【0004】
ほとんどの場合、ヘッドやタンクはユニットとして交換することが必要であり、本体の制御回路部からの電気は、切り離しが可能な端子部を経由して送られる。本体の制御回路側からの端子部(本体側端子)と、ヘッドやタンクなど吸入装置本体から切り離されて交換される交換ユニット側からの端子部(交換ユニット側端子)が、吸入装置内の任意の部位で接触/脱離するように設計される。
【0005】
液滴吐出装置が用いられる他の技術分野、例えばプリンタなどにおいても、類似の構造が見られる。ヘッドやタンクのユニットからの交換ユニット側端子が、キャリッジ内の本体側端子と接続して、プリンタ本体の制御回路との電気的接続がなされる。
【0006】
液滴吐出装置では、常にタンクやヘッド内の溶液が外に漏れる恐れがある。吸入装置では、薬液がノズルから溢れることや、タンクと吐出ヘッドとの連通部から薬剤が漏れることによって、吸入装置内に薬液が飛散する可能性がある。また、薬液漏れは保管中、使用中、あるいは、交換ユニット単体を運搬中などいつでも生じ得る。通常、吸入装置の交換ユニット端子と本体側端子は着脱を可能にしなければならないため、その接続部は薬液漏れに対して保護カバーなどで被覆されていない。従って、薬液漏れが生じて、これらの端子同士が接触する部位に薬液が付着すると、その部位は腐食する。腐食した部位は酸化物や化合物が形成されて絶縁体となり、交換ユニット側端子と本体側端子の電気的接続が取れなくなる。また、もし使用中に薬液が漏れて端子上に飛散した場合、薬液が導電性を持つと、端子間が漏電して制御回路を破壊する恐れがある。
【0007】
また、薬液を吐出する吸入装置では、短時間でなるべく多くの薬を吸入させる必要があるため、吐出量を増大させることが必要となるが、大きな吐出量で吐出させると、吸入装置本体内で噴霧薬剤の結露が生じ易い。そのような結露した薬液が端子に降り掛かると、前述のような問題を引き起こす。
【0008】
他の技術分野のプリンタにおいても、同様にインク漏れにより端子が腐食、漏電する問題が指摘されている。そのような問題を解決するために、特許文献1では、端子を接続しない状態でユニット側端子がカバーで覆われ、ヘッドユニットをキャリッジに取り付けるときに初めてカバーが開き、電気的接続を取る技術が開示されている。また、特許文献2では、各端子が設けられている部材をそれぞれ凹と凸形状とし、端子を接続した状態でこれらを嵌め合わせて、インクが端子部へ漏れても、端子接続部までインクが届かないような構成が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特許第2686985号公報
【特許文献2】特許第2698617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1及び特許文献2に開示された構成は、いずれも、端子接続時/未接続時の両方において、漏れた液から端子部を保護することができない。さらに、いずれも端子部に可動式のカバーを設けたり、端子付近の部材の形状を凹凸にしたり、配線が形成されるフレキシブル基板を部材中に埋め込むなど、端子部の構造を複雑にしなければならない。そのために、低コスト化や端子部の小型化が難しい。
【0011】
本発明は、端子接続時及び未接続時の両方において、端子部に薬液が付着して端子が腐食したり、端子間が漏電するのを防ぐことのできる液滴吐出装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による液滴吐出装置は、液体を吐出する吐出ヘッドと、前記吐出ヘッドを制御するための制御部を有する本体と、前記本体に設けられた第1の端子部と、前記本体に対して着脱自在であり、前記第1の端子部に接続される第2の端子部及び配線部を有する交換ユニットと、を備えており、前記第1及び前記第2の端子部のうちの一方は柱状の電極を有し、他方は、導電体からなる電極面と、前記電極面を覆う端子保護部材と、を有し、前記第1の端子部の前記柱状の電極が前記第2の端子部の前記端子保護部材を貫通して前記電極面と導通することで、前記本体と前記交換ユニットとの電気的な接続がなされることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
柱状の電極と端子保護部材とを組み合わせることで、吐出ヘッドやタンク等を有する交換ユニット側の端子部と本体側の端子部との接続時及び未接続時のいずれにおいても、吐出ヘッドから漏れた液や結露した液が、端子部に付着することを防止する。
【0014】
端子部に付着した液によって端子部が腐食したり、漏電することを防ぎ、端子接続の信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1〜5は第1の実施形態を示す。図1に示すように、吐出ヘッドを制御する制御部及び第1の端子部を有する液滴吐出装置の本体に対して着脱自在な交換ユニットを構成するノズル基板1は、配線部を構成する配線層2、層間絶縁膜層3、ヒーター層4、液室部材5等を備える。ノズル基板1上には、導電体からなる電極面を有するコンタクトパッド6が設けられ、コンタクトパッド6まで配線層2が引き回されている。ノズル基板1の裏側から液体である薬液を導入するための溝7が貫通し、液室8まで連通している。液室部材5には、液室8と、薬液を液滴として吐出するためのノズル9とが形成されている。吸入装置に使用される液滴吐出装置では、ノズル9の直径は20〜0.5μmの範囲であり、薬剤の種類や用途に最適な大きさが選択される。薬剤を到達させたい人体の部位に合わせて、ノズル径によって液滴径を制御する。
【0017】
コンタクトパッド6は、パターニングされて平面上にある大きさで広がりを持った導体薄膜であり、アルミ、タングステン、銅、チタン、窒化チタンなどで構成される。これらはスパッタリングやCVD(Chemical vapor deposition)などにより成膜され、フォトリソグラフィとエッチングによりパターニングされる。コンタクトパッド6の周囲を覆うように端子保護部材10が形成されている。端子保護部材10は、壁部材11と蓋部材12とから構成される。壁部材11はコンタクトパッド6の周囲を取り囲んでおり、蓋部材12はコンタクトパッド6の上方を覆っている。端子保護部材10とコンタクトパッド6の間は中空となっている。コンタクトパッド6とこれを覆う端子保護部材10により、交換ユニット側の第1の端子部(ヘッドユニット側端子)が構成されている。この状態で薬液が端子領域に飛散しても、端子保護部材10によって薬液が到達できないので、コンタクトパッド6は保護される。
【0018】
図1(a)は、本体側端子(第1の端子部)と交換ユニット側端子(第2の端子部)が電気的に接続した状態における端子接続部を示す。本体側端子は細長い柱状の電極であるピン電極13で構成されており、ピン電極13の先端部は導体で構成されている。ピン電極13が蓋部材12の一部を突き破って貫通し、コンタクトパッド6とピン電極13の先端部が接触して導通することで、本体側端子と交換ユニット側端子が電気的に接続される。
【0019】
もともと穴のない蓋部材12を、ピン電極13が破いて中空部15に貫通するため、蓋部材12の破いた穴とピン電極13の間は隙間が生じづらい。図1(b)に示すように、蓋部材12のピン電極周囲の部分は、厚さ方向に若干変形してピン電極13との隙間を塞ぐ。このように、ピン電極13が貫通する部位のみに穴が形成されることで、接続した状態でありながら、端子保護部材10はコンタクトパッド6をほぼ完全に覆うことが可能になる。
【0020】
また、ピン電極13は、先端部以外は絶縁皮膜で覆われていることが望ましい。図1(b)の状態で薬液が端子に飛散しても、蓋部材12とピン電極13の側壁に薬液が掛かるのみで、コンタクトパッド6とピン電極13の先端部には薬液が掛からない。さらに、薬液と端子接続部との間の絶縁が確保されているので、電気的に漏電を起こすこともない。このようにピン電極13を絶縁皮膜で覆うことで、端子接続時と未接続時の両方において、ピン電極13を薬液から保護することができる。
【0021】
蓋部材12と壁部材11は抵抗率の高い材料(絶縁体或いは半導体)で構成することが望ましい。蓋部材12はピン電極13が破いて貫通できる厚さと材料が望ましい。そのような蓋部材12の厚さとして10nm〜500μmが好適である。薄いほど蓋部材12を破くことが容易になるが、飛散した液滴を支える強度が弱くなるため、両者のバランスを取ることが必要である。蓋部材12のより好適な厚さは0.5〜50μmである。蓋部材12にピン電極13からの押し圧が加わっても、壁部材11は変形しないことが求められる。また、蓋部材12が前記押し圧によって撓んでも、蓋部材12にのみ押し圧が加わって破くことができるように、蓋部材12がコンタクトパッド6に接触しないことが好適である。上記の理由により、壁部材11の厚さとして100nm〜10mmが好ましい。また壁部材11は蓋部材12よりも厚いことが好適である。蓋部材12、壁部材11の材料としては有機物、より具体的には高分子重合体(ポリエチレンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリスチレンフィルムなど)が望ましい。また、無機物(SiO、Si、SiN、AlN、Al)が好適である。また、製造上のプロセス容易性からはエポキシフィルムなど感光性樹脂材料が好適である。
【0022】
もし薬液に導電性がないならば、蓋部材12と壁部材11は導体で構成してもよい。なぜならば端子間が薬液によって埋まっても、漏電しないからである。その際の蓋部材12、壁部材11の材料としてはAl、Ta、Ti、W、Nb、Cu、Au、Niが好適である。
【0023】
本体側端子のピン電極13には、導電性が良好で、対磨耗性に優れた材料が好適であり、Au、Ta、W、Zr、Hf、Nb、Pt、Ir、Cu、Ag、Al、Ti、Ni及びそれらの合金やステンレス合金が挙げられる。これらの金属を、ピン電極13の芯材料の表面にメッキ処理をしてもよい。ピン電極13はスプリングなどの弾性機構を有し、接続時に、弾性機構によって、常に接触部を押すようにすることが好適である。また、ピン電極13は、コンタクトパッド6と接触する部位以外は、ビニールなどの絶縁皮膜によって覆われていることが好適である。コンタクトパッド6と接触する部位以外は薬液が付着する可能性があり、腐食や漏電が生じないようにするためである。
【0024】
図2は、交換ユニット側端子の形成プロセスを示す。図2(a)に示すように、コンタクトパッド6が表面に形成されたノズル基板1に、(b)に示すように、フォトレジストなどの感光性材料20を塗布し、露光・現像して、(c)に示すように、壁部材11を形成する。感光性材料20の膜厚は、壁部材11に好適な厚さが選ばれる。塗布はスピンコート法や貼り合せ法が挙げられる。その後、図2(d)に示すように、蓋部材12を形成するドライフィルムフォトレジスト21を壁部材11の上に貼り合せ、露光・現像して蓋となる部位だけを形成して完成する。
【0025】
本発明の端子構造は、端子小型化が容易である優位点を持つ。その結果、各コンタクトパッドそれぞれに独立して防滴構造を形成できる。独立した端子保護部材とコンタクトパッドの組の集まりで端子部を形成することにより、万が一、一箇所の端子保護部材が液漏れを起こしたとしても、そこから液が広がって全部のコンタクトパッドが浸食されるような危険はない。このように、防滴に関する高い信頼を確保できる。同様に、端子間の絶縁性確保もより確実に実現できる。
【0026】
本実施形態の端子構造は、フォトリソグラフィプロセスを使用して簡便に製造できる。そして、端子小型化が有効な例として、端子構造をノズル基板上に直接形成する例を挙げた。
【0027】
図3及び図4に、本実施形態の液滴吐出装置を使用した吸入装置を示す。図3にキャップ27を開けた状態で示すように、ヘッドユニット23は、ノズル基板1とヘッド基材24からなる。本体制御回路部28及びバッテリ29を備えるハウジング(本体)30の下側からヘッドユニット23と薬剤タンク31が装填され、薬剤連通管33によってお互いが連通する。薬剤吐出面22には本体側端子25が固定されている。図4に示すように、第1の端子部である本体側端子25は、ピン電極13を有し、ノズル基板1上の第2の端子部であるヘッドユニット側端子(交換ユニット側端子)26は、前述のコンタクトパッド6及び端子保護部材10を備える。
【0028】
搬送機構32によって、図4(a)に示すように、ヘッドユニット23が本体の薬剤吐出面22に固定されている本体側端子25に向かって押されていくと、(b)に示すように、本体側端子25のピン電極13が、ヘッドユニット側端子26と接続する。図3は、この接続状態における吸入装置を示す。本体側端子25、ヘッドユニット側端子26を介して、制御部である本体制御回路部28とノズル基板1は電気的に接続される。
【0029】
このような端子の防滴構造によって、最も液が飛散し易いノズル基板1上に直接本体側端子25を接続することが可能となり、従来のプリンタで使用されているような、フレキシブル基板を介して別の部位に接続部を設ける必要がなくなる。このことにより多くの部材が不要となる。さらに、ワイヤーボンディング工程や、接着剤による防滴のための封止工程など多くの製造工程も不要となり、製造コストを大幅に下げられる利点がある。
【0030】
本実施形態の端子構造を形成する位置は、図1に示したようなノズル基板上に限定されるものではなく、ヘッドユニット23の任意の場所に形成してよい。例えば一般的なプリンタのように、ノズル基板に電気的に接続されたフレキシブル基板上や、プリント基板上に形成してもよい。その場合でも従来構造と比較して防滴に関する信頼性が大幅に向上する。
【0031】
プリント基板やフレキシブル基板上に端子を形成する場合は、端子領域が大面積であるため、より低コストな端子構造が可能である。
【0032】
図5は一変形例を示すもので、ノズル基板1に電気的に接続したフレキシブル基板34上に本実施形態の端子構造を形成したヘッドユニットの例である。図5(a)はその斜視図、(b)は、(a)のA−A’に沿った断面図である。フレキシブル基板34に形成されたコンタクトパッド6の上に、前述と同様の工程で壁部材11を形成し、端子となるべき領域全体に蓋部材12を一括して貼り合せる。
【0033】
蓋部材12としては接着性を持った有機フィルムが好適であり、感光性は不要である。蓋部材12に関して若干のパターニングが必要な場合は、裁断機などで所望の形状に加工して張り合わせればよい。蓋部材12を共通化することで、工程が削減され、コストを低減できる。また、蓋部材12と壁部材11を金型成型法などで一体として別途作製し、フレキシブル基板34上に貼り合せてもよい。
【0034】
本実施形態では、本体側端子がピン電極であり、交換ユニット側端子がコンタクトパッドとそれらを覆う端子保護部材であったが、逆に、一方の交換ユニット側端子をピン電極とし、他方をコンタクトパッドとする構成でも構わない。吸入装置の都合に応じて、適宜最適な構成が適応される。
【0035】
本実施形態は、吐出ヘッドを有する交換ユニットであるヘッドユニットと、本体の制御部を接続する例であるが、本体の制御部と、薬剤タンクを有する交換ユニットとの電気的接続を行う端子構造でもよい。また、本体の制御部と、バッテリを有する交換ユニットとの電気的接続など、吸入装置の他の部位にも同様の端子構造を用いれば、薬液飛散に対する信頼性をより一層向上させることができる。
【0036】
図6〜8は第2の実施形態を示す。本実施形態は、図6(a)に示すように、端子保護部材10の一部に穴41が形成されている点のみが図1の装置と異なる。その他の点は第1の実施形態と同様であるから同一符号で表し、説明は省略する。蓋部材12に穴41を形成する代わりに、壁部材11に穴41を形成してもよい。
【0037】
図6(b)に示すように、ピン電極13はある程度位置決めされて、蓋部材12を破らずに穴41を貫通して、コンタクトパッド6と接触する。ピン電極13の断面積は穴41の面積(断面積)よりも小さい。ピン電極13が蓋部材12に接触しないので、端子同士がスムーズに脱着できる。蓋部材12に穴41が空いていても、液は表面張力を持つので、穴41の面積が小さければ、液は穴41の中に浸入することができない。穴41を一部に含む領域の上に乗っている液滴が、重力によって穴からコンタクト電極に落ちる力よりも、液滴の表面各部に発生する表面張力が大きくなるように、予め蓋部材12の穴の形状や蓋部材12の形状を設定すればよい。
【0038】
蓋部材12の形状としては、穴41を頂上部とした凸型が好適である。その場合、液滴は穴41の上に溜まりづらくなり、穴41の直上の液滴膜厚が減り、穴41からコンタクトパッド6に落ちようとする液滴の重量が減る。穴41の好適な形状としては、穴面積を減らして外周長を増やした形状が好適である。なぜならば、穴41の直上の液滴の重量が減り、液滴の穴41の外周部に接している部分に発生する表面張力が増えるため、液滴は穴41から落ちづらくなるためである。
【0039】
図7に示すように、穴41を液35が満たしているときに、液35が重力によってコンタクトパッド6に落ちないための最低限の条件を説明する。液35の落下を防ぐには、液35が持つ表面張力に起因した力を、液35の重力に起因した力よりも大きくすればよい。具体的には、穴41の外周長をL、蓋部材12の厚さをT、穴41の断面積をSとする。液の表面張力をσ、密度をρ、重力加速度をgとしたときに、
S×T×ρ×g ≦ σ×L (1)
の関係を満たせば、図7の液は落ちることがない。
【0040】
式(1)の左辺は液の重力、右辺は液が穴の外周部に接する部分に発生する表面張力である。
【0041】
穴形状が単純な直径Dの円とすると、式(1)は
D×T ≦ 4σ/(ρ×g) (2)
となる。蓋部材12の厚さTが薄いほど、また、穴41の直径Dが小さいほど、液35はコンタクトパッド6に落ちづらくなるため好適である。式(1)を満たす観点としては、穴形状として円以外が、同じ面積で外周長を増やせるため、より表面張力を増やせるので好適である。具体的には三角形、四角形、十字形、星形が挙げられる。
【0042】
本発明者が、精製水を使用して、蓋部材に開けられた穴形状及び蓋部材の厚さと、液滴が穴から落ちるかどうかを実験で調べたところ、実際には、式(2)で予測された条件より穴径が大きくても、液滴は穴から落ちなかった。厚さが7μmの蓋部材を使用したとき、式(2)の計算では穴径は約50μm以下にしなければならないが、実験では蓋部材に開けられた穴の穴径が4mm以下のものは、液滴が穴から落ちなかった。穴径が4mmよりも大きくなると、液滴は穴から落ちた。これは、前述のように液滴中で、穴の上にない液滴部分によって、穴の上の液滴部分が支えられているため、図7に示したように液滴が穴中に入らなかったためと考えられる。その場合は蓋部材の厚さは関係がなくなり、穴径のみに依存すると考えられる。そのとき穴の最大幅として4mm以下に設定すれば、液滴は穴から落ちないものと考えられる。さらに、式(2)の条件に設定すれば、液滴が穴の中に入ったとしても、確実に液滴が穴から落ちないようにすることができる。
【0043】
また、第1の実施形態においても、本体側端子25とヘッドユニット側端子26を複数回脱着する場合、蓋部材12にはピン電極13が開けた穴が形成される。その際、ピン電極13の断面の最大幅を4mm以下にするか、ピン電極13の断面の外周長を式(1)のL、ピン電極13の断面積を式(1)のSとして設定すれば、同様にピン電極13が開けた穴から、液がコンタクトパッド6に落ちなくなるため好適である。
【0044】
図8は、第2の実施形態による端子構造の製造方法を示す。
【0045】
図8(a)に示すように、コンタクトパッド6を有する基板36の上に、(b)に示すように、犠牲層43を形成し、(c)に示す端子保護部材10を成膜する。その後、図8(d)に示すように、その上部にフォトレジスト37を形成し、(e)に示すように、フォトレジスト37をパターニングし、(f)に示すように、エッチングによって、端子保護部材10に複数の穴41をパターニングする。穴41の形状は式(1)を満たすことが好適である。図8(g)に示すように、フォトレジスト37を酸素アッシングなどにより剥離した後、最後に、(h)に示すように、端子保護部材10の穴41を通して、ドライエッチングなどにより犠牲層43をエッチングして中空部15を形成する。
【0046】
図8のプロセスでは、端子保護部材10(壁部材と蓋部材)は感光性を有さなくてもよいため、任意の材料を使用できる利点がある。例えば、吸入装置において、感光性樹脂材料に典型的に含まれるアンチモンなどは人体に有害であるため、ノズル基板上に本発明の端子構造を形成する場合は、SiO、Al、Siなどの無機材料で端子保護部材10を形成することが望ましい。
【0047】
また、図8のプロセスでは、貼り合せプロセスを使用しなくてもよいので蓋部材を任意に薄くしやすい。犠牲層43の材料やエッチング方法は、端子保護部材10との材料の組み合わせで決定される。例えば、端子保護部材10を無機材料にする場合は、犠牲層43は感光性の有機材料が好適で、酸素プラズマによるドライエッチングで犠牲層43を除去することが好適である。反対に犠牲層43は無機材料のAl、SiO、Siであってもよい。犠牲層43のエッチング時に、端子保護部材10に対する犠牲層43のエッチング選択比が確保できるように、材料や加工方法を選択することが重要である。
【0048】
図9及び図10は、第3の実施形態を示す。これは、蓋部材や壁部材を含む端子保護部材40の最表面を絶縁層45あるいは半導体などの抵抗率の高い層とし、絶縁層45とコンタクトパッド6との間に導電層(導電性部材)44を設けて、コンタクトパッド6と導通させたものである。この構成により、コンタクトパッド6の電気的接続の信頼性をより一層向上させることができる。
【0049】
この構造の製造プロセスは、第2の実施形態と同様な工程によって形成できる。犠牲層の上に導電層44を成膜してパターニングし、さらに絶縁層45を形成してパターニングする。同じフォトマスクを使用し、露光条件を調整してパターンの現像寸法をそれぞれ変えることによって、これらのパターニングを行うことができる。
【0050】
図10(a)は、ピン電極48とコンタクトパッド6を接触させた状態を示す。ピン電極48は、導電性材料から構成される導電体円柱部46と、それらを覆う絶縁体である絶縁体円筒部47から構成される。ピン電極48の先端部は、導電体円柱部46のみが露出する構成となっている。絶縁体円筒部47と導電体円柱部46との相対位置をずらせるようにし、ピン電極48の内部にスプリングなどの弾性部材を設けて、コンタクトパッド6との接触時に適度な押し圧を発生させるようにしてもよい。
【0051】
ピン電極48は、端子保護部材40に形成された穴42を破り、コンタクトパッド6と接触する。この状態で、ピン電極48の側面は導電層44と接触している。図10(b)は、ピン電極48がコンタクトパッド6から浮いてしまった場合を示す。このとき、導電体円柱部46の側面は、導電層44と接触して導通している。従って、ピン電極48が浮いてしまっても、導電層44を介してコンタクトパッド6とピン電極48の導通が確保されている。このため、より確実にピン電極48とコンタクトパッド6の電気的接続を確保できる。導電体円柱部46の露出部分の高さは、コンタクトパッド6から端子保護部材40の蓋部材までの高さ程度に設定にすれば、導電体円柱部46の露出を必要最小限にできるので好適である。
【0052】
図11は、第3の実施形態の一変形例を示す。この構造は、図1の装置におけるコンタクトパッド6と蓋部材12との間の中空部15を、導電性接触部材49によって満たしたものである。導電性接触部材49は、導電性を持つ柔らかい部材から構成される。典型的には導電性ゴムなどの導電性高分子材料が好適である。特に、導電性レジストなどの感光性を持つ材料を使用すれば、それ自身を容易にパターニングできる。また、これらの高分子材料は、溶液が飛散しても腐食されづらいので、耐腐食性の観点からも好適である。
【0053】
図11(b)に示すように、ピン電極48と電気的に接続した状態では、ピン電極48は蓋部材12を貫通し、導電体円柱部46の先端部は導電性接触部材49の中に侵入している。導電性接触部材49は柔らかいため、ピン電極48が導電性接触部材49をある程度突き破って貫通することができる。ピン電極48は、導電性接触部材49を介して、コンタクトパッド6に導通する。さらに、ピン電極48は導電性接触部材49中を貫通しているので、確実に電気的接触を確保できる。なお、導電性接触部材49が蓋部材12とコンタクトパッド6の間を完全に満たしている構造の代わりに、完全に満たしておらず一部に中空部が形成されていてもよい。
【0054】
図12は、導電性の感光性レジスト50を導電性接触部材49に使用した端子形成プロセスを示す。図12(a)に示すように、配線層2及びコンタクトパッド6を有するノズル基板1の表面に、(b)に示すように、感光性レジスト50をスピンコーターで塗布して露光・現像し、(c)に示すように、端子保護部材10を成膜する。その後、図12(d)に示すように、フォトレジスト37を塗布し、(e)、(f)、(g)に示すように、所望の端子形状に端子保護部材10を加工するパターニングを行う。感光性レジスト50をそのまま端子内に残すので工程が簡便である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、吸入装置のみに限定されることなく、液体を扱い、液漏れが起こり得る装置であって、装置内の着脱しなけばならない端子部に防滴構造を付与する場合には、本発明の端子構造を適用できる。そのような液滴吐出装置として、プリンタ、加湿器、匂い発生装置、液滴による静電気除去装置、などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】第1の実施形態による液滴吐出装置の構成を示すもので、(a)はノズル基板を示す断面図、(b)はコンタクトパッドにピン電極を接触させた状態のノズル基板を示す断面図である。
【図2】第1の実施形態のヘッドユニット側端子の製造工程を示す工程図である。
【図3】図1のノズル基板を使用した吸入装置の構成を説明する図である。
【図4】端子構造を説明する図である。
【図5】第1の実施形態の一変形例を示すもので、(a)はヘッドユニットを示す斜視図、(b)は(a)のA−A’線に沿った断面図である。
【図6】第2の実施形態を示すもので、(a)はその端子構造を示す断面図、(b)はピン電極と接続した状態の端子構造を示す断面図である。
【図7】蓋部材に開けられた穴内を液が満たした状態を説明する図である。
【図8】第2の実施形態による端子構造の製造工程を示す工程図である。
【図9】第3の実施形態による端子構造を示すもので、(a)はその平面図、(b)は(a)の一部分を示す部分断面図である。
【図10】図9の端子構造において、(a)はコンタクトパッドとピン電極を接続した状態を示す断面図、(b)はコンタクトパッドからピン電極が浮いた状態を示す断面図である。
【図11】第3の実施形態の一変形例を示すもので、(a)はその端子構造を示す断面図、(b)はピン電極を接続した状態の端子構造を示す断面図である。
【図12】図11の端子構造の製造工程を示す工程図である。
【符号の説明】
【0057】
1 ノズル基板
2 配線層
4 ヒーター層
5 液室部材
6 コンタクトパッド
7 溝
8 液室
9 ノズル
10、40 端子保護部材
11 壁部材
12 蓋部材
13、48 ピン電極
15 中空部
22 薬剤吐出面
23 ヘッドユニット
24 ヘッド基材
25 本体側端子
26 ヘッドユニット側端子
27 キャップ
28 本体制御回路部
29 バッテリ
30 ハウジング
31 薬剤タンク
32 搬送機構
33 薬液連通管
34 フレキシブル基板
35 液
36 基板
41、42 穴
44 導電層
49 導電性接触部材
50 感光性レジスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出ヘッドと、
前記吐出ヘッドを制御するための制御部を有する本体と、
前記本体に設けられた第1の端子部と、
前記本体に対して着脱自在であり、前記第1の端子部に接続される第2の端子部及び配線部を有する交換ユニットと、を備えており、
前記第1及び前記第2の端子部のうちの一方は柱状の電極を有し、他方は、導電体からなる電極面と、前記電極面を覆う端子保護部材と、を有し、
前記第1の端子部の前記柱状の電極が前記第2の端子部の前記端子保護部材を貫通して前記電極面と導通することで、前記本体と前記交換ユニットとの電気的な接続がなされることを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記交換ユニットは、前記配線部に接続された吐出ヘッドを有することを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記柱状の電極は、前記端子保護部材の一部を破って前記電極面と導通することを特徴とする請求項1又は2に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記端子保護部材と前記電極面との間に中空部を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記端子保護部材は、前記柱状の電極を貫通させるための穴を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記穴の最大幅は4mm以下であることを特徴とする請求項5に記載の液滴吐出装置。
【請求項7】
前記穴の断面積をS、前記穴の外周長をL、前記端子保護部材の厚さをT、液体の密度をρ、液体の表面張力をσ、重力加速度をgとすると、以下の式で表される関係を満たすことを特徴とする請求項5に記載の液滴吐出装置。
S×T×ρ×g ≦ σ×L
【請求項8】
前記端子保護部材と前記電極面との間に、導電性を持つ導電性部材を有し、前記導電性部材は前記電極面と接触していることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の液滴吐出装置。
【請求項9】
前記導電性部材に前記柱状の電極の先端部が侵入することによって、前記電極面と前記柱状の電極が導通することを特徴とする請求項8に記載の液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−94201(P2010−94201A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265895(P2008−265895)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】