説明

液滴生成器及び液滴生成方法

【課題】均一な液滴21や塞栓粒子25を安定して大量に得ることができる。
【解決手段】液滴生成器1は、ゼラチン水溶液等の分散相材2を流出する分散相流出口101aと、オイル等の連続相材3を流出する連続相流出口111a・121aと、分散相流出口101a及び連続相流出口111a・121aに連通され、分散相材2を連続相材3の液中に一定の静圧下で流動させる合流部131と、合流部131の下流側に配置され、分散相材2を凝集力により液滴化する液滴生成部132とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼラチン塞栓粒子等に用いられる液滴を得ることができる液滴生成器及び液滴生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓癌や子宮筋腫、腎癌、腎臓癌などの治療法である動脈塞栓治療法は、マイクロカテーテルを用いて抗癌剤を癌(筋腫)組織に注入し、続いて非イオン性造影剤を用いて塞栓粒子により癌(筋腫)組織に通じる血管を塞栓して、癌(筋腫)への栄養を遮断し壊死させるものである。この治療法においては、標的部位にできるだけ近い部分で血管を塞栓し、かつ、健常な部分に悪影響を与えないように、血管の大きさに応じて塞栓粒子の使い分けができることが望まれている。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1においては、疎水性溶媒中に浸かった状態で、ノズルの先端からゼラチン水溶液を疎水性溶媒中に吐出し、吐出後にノズルを疎水性溶媒から引き上げることによって、所望の粒径の液滴を生成し、この液滴を塞栓粒子とする方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、油等の連続相の流れに対して交差する向きに水等の分散相を分散相供給口から流し、分散相供給口の一部に連続相を入り込ませて連続相の剪断力により分散相の液滴を連続的に生成する方法や、分散相流出口の出口近傍に連続相同士が衝突する合流ポイントを設定し、この合流ポイントに向けて分散相流出口から分散相を流すことによって、分散相の液滴を連続的に生成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−77062号公報
【特許文献2】特許第3746766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の方法では、ノズルや分散相供給口の流路壁面がゼラチン水溶液等の分散相に対して濡れ難い性状を有していても、液滴の生成を開始してから早期の段階で、液滴径が変化し、最終的には液滴が生成されなくなるという不具合が起るため、均一な液滴を安定して大量に生成するという用途には不向きであるという問題がある。尚、このような問題は、動脈塞栓治療法等の医用分野の他、化学やバイオ、環境、農林水産、食品等の均一な液滴や粒子を用いる各種の分野においても発生している。
【0007】
本発明は、上記の問題を鑑みてされたものであり、均一な液滴や粒子を安定して大量に生成することができる液滴生成器及び液滴生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、上記の不具合が起る理由について、分散相が流路壁面に触れる機会が多いため、分散相の付着が発生し易くなり、流路壁面の親水/疎水の効果が早期に薄れてしまうことが要因であることを見出し、この要因に着目して下記の発明をなした。
【0009】
具体的には、本発明は、液滴生成器であって、凝集力を備えた液状の分散相材を流出する分散相流出口と、前記分散相材との界面に界面張力を発生させる液状の連続相材を流出する連続相流出口と、前記分散相流出口及び前記連続相流出口に連通され、前記分散相材を前記連続相材の液中に一定の静圧下で流動させる合流部と、前記合流部の下流側に配置され、前記分散相材を前記凝集力により液滴化する液滴生成部とを有する構成である。
【0010】
上記の構成によれば、分散相流出口から流出された液状の分散相材と、連続相流出口から流出された液状の連続相材とは、分散相流出口及び連続相流出口に連通された合流部において合流される。合流部は、分散相材を連続相材の液中に一定の静圧下で流動させる。従って、分散相流出口から流出した分散相材は、連続相材と合流したときに流動の乱れが抑制され、略全部が流出方向に直進することになる。この結果、分散相流出口の端面で連続相材を直交方向に衝突させて剪断力により強制的に分散相材を液滴化する場合のように、流出直後の分散相材の静圧を乱して液滴化する場合と比較して、分散相材が分散相流出口の周辺に接触する可能性が低いものになる。これにより、分散相流出口に分散相材が付着することによる不具合が起り難いものとすることができる。
【0011】
また、分散相材が連続相材の液中で流動すると、分散相流出口から棒状につながった流動形態になる。そして、分散相材の表面における自由エネルギーが棒状の表面積に比例して増大し、液滴生成部において、分散相材が流動により伸びることにより自由エネルギーが所定以上に増大したときに、凝集力により棒状となっていた形態が崩れて分断することになる。分断された分散相材は、表面の自由エネルギーを最小とするように、凝集力により液滴化して最小の表面積の球形状となる。この際、分散相材は、一定の静圧下で流動しているため、分散相材の外形の変動が小さなものになっている。従って、分断の間隔が略一定となるため、液滴の体積が略同一となる。これにより、分散相材の液滴を略同一サイズの球形状で連続的に生成することができるため、均一な液滴や、この液滴を用いた均一な粒子を安定して大量に得ることができる。
【0012】
本発明は、前記分散相材を前記分散相流出口から所定方向に流出させる分散相流出部と、前記連続相材を前記連続相流出口から前記分散相材の流出方向に対して平行に流出させる連続相流出部とを有してもよい。
【0013】
上記の構成によれば、分散相材と連続相材とが分散相流出口及び連続相流出口からそれぞれ流出されて合流部に流れ込んだときに、分散相材及び連続相材が同一方向に流動することによって、合流部における一定の静圧を容易に実現することができる。これにより、分散相材が分散相流出口から流出するときの周辺部への接触による付着を容易に防止することができると共に、分散相材の流動時における外形の変動による分断間隔の不安定化を抑制することにより略同一サイズの液滴を容易に得ることができる。
【0014】
本発明は、前記連続相流出口を複数有し、これら連続相流出口が前記分散相流出口を中心として対称配置されていてもよい。
【0015】
上記の構成によれば、分散相材を連続相材で挟み込みながら平行に流動させることによって、一定の静圧をより簡単に形成することができるため、液滴の均一化を一層促進することができると共に、分散相流出口の周辺に分散相材が付着することによる不具合の発生を一層防止することができる。
【0016】
本発明における前記分散相流出口及び前記連続相流出口は、これら分散相流出口及び連続相流出口の対称配置方向の軸線に対して対称な形状に形成されていてもよい。
【0017】
上記の構成によれば、対称配置方向及び対称配置方向に対して垂直方向に均一な流出面積で分散相材及び連続相材を合流部に流出させることができるため、一定の静圧をより簡単に形成することができる。この結果、液滴の均一化を一層促進することができると共に、分散相流出口の周辺に分散相材が付着することによる不具合の発生を一層防止することができる。
【0018】
本発明における前記対称配置方向の軸線に対して垂直方向における前記分散相流出口及び前記連続相流出口の開口径は、前記分散相流出口よりも前記連続相流出口が大きくなる関係に設定されていてもよい。
【0019】
上記の構成によれば、分散相流出口周辺の広い領域に連続相流出口が開口された状態になるため、分散相流出口から流出された分散相材の全体を連続相材で包み込むようにして流動させることが容易に行える。これにより、一定の静圧をより簡単に形成することができ、結果として、液滴の均一化を一層促進することができると共に、分散相流出口の周辺に分散相材が付着することによる不具合の発生を一層防止することができる。
【0020】
本発明における前記液滴生成部は、下流側にかけて流路面積が縮小された絞り部を有していてもよい。
【0021】
上記の構成によれば、絞り部により連続相材の流動方向を分散相材方向に集中させ、分散相材に外力を付加することにより分散相材を強制的に分断して液滴化することができるため、分散相材における表面の自由エネルギーと凝集力との関係だけで分断する場合よりも合流部及び液滴生成部を短くすることができる。また、分散相材及び連続相材の滞留の発生を絞り部により防止することができるため、液滴の連続的な生成を安定して行うことが可能になる。
【0022】
本発明における前記分散相流出口と、前記分散相流出部と、前記連続相流出口と、前記連続相流出部と、前記合流部と、前記液滴生成部と、前記絞り部と、前記排出口との一部をそれぞれ構成する第1流路形成部が第1接合面に形成された第1ベース部材と、前記第1ベース部材の前記第1接合面に接合された第2接合面を有し、前記分散相流出口と、前記分散相流出部と、前記連続相流出口と、前記連続相流出部と、前記合流部と、前記液滴生成部と、前記絞り部と、前記排出口との一部をそれぞれ構成する第2流路形成部が前記第2接合面に形成された第2ベース部材とを有していてもよい。
【0023】
上記の構成によれば、第1ベース部材と第2ベース部材との二部材で所望の液滴生成器が形成される。
【0024】
本発明は、塞栓粒子の製造に用いられてもよい。上記の構成によれば、各種の粒径を備えた塞栓粒子を容易に製造することができる。
【0025】
本発明は、液滴生成方法であって、分散相材との界面に界面張力を発生させる連続相材の液中に、前記分散相材を一定の静圧下で流出及び流動させることにより該分散相材の凝集力により液滴化する方法である。
【0026】
上記の方法によれば、本発明の液滴生成器と同様に、分散相材が流出したときの周辺部への分散相材の付着が抑制されるため、分散相材の液滴を略同一サイズの球形状で連続的に生成することができるため、均一な液滴や、この液滴を用いた均一な粒子を安定して大量に得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、均一な液滴や粒子を安定して大量に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】液滴生成器を用いた塞栓粒子の製造工程を示す説明図である。
【図2】液滴生成器の平面視した場合における概略構成を示す説明図である。
【図3】図2におけるA−A線矢視断面による液滴生成器の組み立て状態を示す説明図である。
【図4】下側ガス供給機構の概略断面図である。
【図5】液滴生成器の平面視した場合における概略構成を示す説明図である。
【図6】液滴生成器の平面視した場合における概略構成を示す説明図である。
【図7】液滴の生成状態を示す説明図である。
【図8】液滴生成器を用いた塞栓粒子の製造工程を示す説明図である。
【図9】実施例1の解析結果を示す図である。
【図10】実施例1の解析結果を示す図である。
【図11】比較例1の解析結果を示す図である。
【図12】比較例1の解析結果を示す図である。
【図13】液滴生成器の平面視した場合における概略構成を示す説明図である。
【図14】液滴生成器の平面視した場合における概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
(液滴生成器1)
図1に示すように、本実施形態に係る液滴生成器1は、ゼラチン水溶液等の分散相材2を流出する分散相流出口101aと、オイル等の連続相材3を流出する連続相流出口111a・121aと、分散相流出口101a及び連続相流出口111a・121aに連通され、分散相材2を連続相材3の液中に一定の静圧下で流動させる合流部131と、合流部131の下流側に配置され、分散相材2を凝集力により液滴化する液滴生成部132とを有している。これにより、液滴生成器1は、分散相材2との界面に界面張力を発生させる連続相材3の液中に、分散相材2を一定の静圧下で流出及び流動させることにより分散相材2の凝集力により液滴化する液滴生成方法を実現している。尚、液滴生成方法は、本実施形態の液滴生成器1に限定されるものではないが、液滴生成器1により容易に実現されている。また、分散相材2及び連続相材3の詳細については後述する。
【0030】
具体的に説明すると、液滴生成器1は、長方体形状のベース体5を有している。尚、以下の説明においては、ベース体5の厚み方向を重力方向と一致させ、重力方向に対して直交する一方面及び他方面を、それぞれ上面及び下面とした水平姿勢をとった場合について説明するが、これに限定されるものではない。即ち、液滴生成器1は、水平姿勢を180度回転させた逆水平姿勢とされていてもよいし、さらには、重力を液滴21の生成に影響させるように、ベース体5の一方面及び多方面を重力方向に対して傾斜や直交させた傾斜姿勢や垂直姿勢にされていてもよい。
【0031】
ベース体5の内部には、分散相材2を一定の静圧下で連続相材3の液中に流出及び流動させることにより分散相材2の凝集力により液滴化する流路が形成されている。流路は、分散相材2をベース体5の外部から導入して流通させる第1流通系10と、連続相材3をベース体5の外部から導入して流通させる2系統の第2流通系11・12と、分散相材2及び連続相材3を接触状態で流通させてベース体5の外部に流出させる第3流通系13とを有している。
【0032】
(液滴生成器1:第1流通系10)
第1流通系10は、図2にも示すように、分散相材導入部102と分散相流出部101と分散相流出口101aとを有している。分散相材導入部102は、分散相材2の流動方向の最上流側に配置されるように、ベース体5における長手方向の一端側に配置されている。分散相材導入部102は、ベース体5の厚み方向に一致した貫通孔により形成されている。分散相材導入部102の上端は、ベース体5の上面に開口されている。また、分散相材導入部102の上端(開口)には、図示しない分散相材2用の供給装置が着脱可能に接続されている。尚、供給装置は、温調器や流量調整器を備えており、分散相材2を所望の温度、流量及び流速で分散相材導入部102に供給するようになっている。
【0033】
分散相材導入部102の下端(開口)は、分散相流出部101の上流端側(一端側)に連通されている。分散相流出部101は、上面視が長方形状の流通空間により形成されている。この流通空間は、分散相材2の流動方向に対して直交する縦断面が矩形状に設定されている。また、分散相流出部101は、分散相材2の流速が重力の影響で増減されないように、ベース体5の厚み方向及び幅方向の中間位置において上面に対して平行に配置されている。分散相流出部121の下流端は、分散相流出口101aとして第3流通系13の合流部131に連通されている。
【0034】
これにより、上記のように構成された第1流通系10は、分散相材導入部102に供給された分散相材2を分散相流出部101を介して水平方向に流動させ、分散相流出口101aから合流部131内に水平方向に流出させるようになっている。
【0035】
(液滴生成器1:第2流通系11・12)
上記の第1流通系10の水平方向の両側には、第2流通系11・12が対称配置されている。第2流通系11・12は、分散相流出口101aから流出された分散相材2の流出方向に対して連続相材3を平行に流出させるように構成されている。尚、第2流通系11・12は、2系統に限定されるものではなく、1系統以上存在すればよい。、
【0036】
具体的に説明すると、第2流通系11・12は、連続相材導入部112・122と連続相流出部111・121と連続相流出口111a・121aとを有している。連続相材導入部112・122は、連続相材3の流動方向の最上流側に配置されるように、ベース体5における長手方向の一端側に配置されている。連続相材導入部112・122は、ベース体5の厚み方向に一致した貫通孔により形成されている。連続相材導入部112・122の上端は、ベース体5の上面に開口されている。また、連続相材導入部112・122の上端(開口)には、図示しない連続相材3用の供給装置が着脱可能に接続されている。尚、供給装置は、温調器や流量調整器を備えており、連続相材3を所望の温度、流量及び流速で連続相材導入部112・122に供給するようになっている。
【0037】
連続相材導入部112・122の下端(開口)は、連続相流出部111・121の上流端側(一端側)に連通されている。連続相流出部111・121は、上面視がL字形状の流通空間により形成されている。連続相流出部111・121におけるL字形の上流部は、互いに離反する向きとなって、連続相材導入部112・122が互いに離隔すると共に、中心部の分散相材導入部102に対しても離隔する状態になるように設定されている。これにより、各導入部102・112・122に対して供給装置を着脱する場合における作業性が向上されている。
【0038】
また、連続相流出部111・121におけるL字形の下流側は、連続相材3の流出方向を分散相材2の流出方向に一致させるように、分散相流出部101の配置方向と同一方向に設定されている。そして、連続相流出部111・121の下流端は、分散相流出部101の下流端と同様に、連続相流出口111a・121aとして第3流通系13の合流部131に連通されている。
【0039】
これにより、分散相材2と連続相材3とが分散相流出口101a及び連続相流出口111a・121aからそれぞれ流出されて合流部131に流れ込んだときに、分散相材2及び連続相材3が同一方向に流動することによって、合流部131における一定の静圧が容易に実現されるようになっている。さらに、第2流通系11・12の連続相流出口111a・121aが第1流通系10の分散相流出口101aを中心として対称配置されているため、分散相材2が連続相材3で挟み込まれながら平行に流動されることによって、一定の静圧がより簡単に実現されている。尚、分散相流出口101aと連続相流出口111a・121aとの間に存在する壁部は、上流側から下流側の先端部にかけて縦断面積が減少されていることが好ましい。
【0040】
上記の連続相流出部111・121の流通空間は、連続相材3の流動方向に対して直交する縦断面が矩形状に設定されている。また、連続相流出部111・121の端面である連続相流出口111a・121aも矩形状に設定されている。尚、連続相流出口111a・121aは、矩形状に限定されるものではないが、分散相流出口101aを中心とした連続相流出口111a・121aの対称配置方向の軸線に対して対称な形状に形成されていることが好ましい。この理由は、対称配置方向及び対称配置方向に対して垂直方向に均一な流出面積で分散相材2及び連続相材3を合流部131に流出させることができるため、一定の静圧をより簡単に実現できるからである。
【0041】
また、連続相流出口111a・121aは、対称配置方向の軸線に対して垂直方向における開口径が、分散相流出口101aの開口径よりも大きくなる関係に設定されている。これにより、連続相流出口111a・121aは、分散相流出口101a周辺の広い領域に開口された状態になるため、分散相流出口101aから流出された分散相材2の全体を連続相材3で包み込むようにして流動させることができる。
【0042】
尚、液滴生成器1は、図4に示すように、連続相流出部111・121(連続相流出口111a・121a)に加えて、連続相流出部113(連続相流出口)が対称配置方向の軸線に対して対称配置されていもよい。また、図5に示すように、連続相流出部111(連続相流出口)が分散相流出部101(分散相流出口101a)を中心として環状に形成されていてもよい。これらの場合には、分散相材2の全体を連続相材3により一層容易に覆うことができる。
【0043】
(液滴生成器1:第3流通系13)
図1及び図2に示すように、第1流通系10及び第2流通系11・12の下流側には、第3流通系13が配置されている。第3流通系13は、合流部131と液滴生成部132と案内部133と液滴排出部134とを有している。合流部131は、分散相材2を連続相材3の液中に一定の静圧下で流動させるように形成されている。尚、連続相材3の圧力は、分散相材2の圧力よりも高いことが好ましい。この場合には、連続相材3が分散相流出口101a周辺に進入することによって、分散相材2が分散相流出口101a周辺に接触することを阻止することが可能になる。
【0044】
具体的には、合流部131は、流路断面が流動方向において変化しないように、長方体形状に形成されている。尚、合流部131は、流路断面が流路方向で一定であれば、長方体形状である必要はなく、円柱形状や楕円体形状、三角柱形状、その他の多角柱形状であってもよい。合流部131の上流側端面は、分散相流出口101aと連続相流出口111a・121aとに連通されている一方、下流側端面は、流出口131aとして開口されており、液滴生成部132に連通されている。
【0045】
上記のように構成された合流部131は、分散相流出口101aから流出された分散相材2と、連続相流出口111a・121aから流出された連続相材3とを合流させ、分散相材2を連続相材3の液中に一定の静圧下で流動させることによって、分散相材2が連続相材3と合流したときの流動の乱れを抑制させ、分散相材2の略全部を流出方向に直進させるようになっている。これにより、分散相材2が分散相流出口101aの周辺に接触する可能性を低下させることによって、分散相材2が分散相流出口101aに付着し難いものとしている。
【0046】
合流部131の下流側には、液滴生成部132が配置されている。液滴生成部132は、分散相材2を凝集力により液滴化させる部位である。これにより、合流部131及び液滴生成部132は、分散相材2を連続相材3の液中で一定の静圧下で流動させることによって、分散相材の外形の変動を小さなものにしながら、分散相流出口101aから棒状につながった流動形態にし、分散相材2を略一定の間隔で分断させ、分散相材2を略同一体積の液滴21にするようになっている。
【0047】
また、液滴生成部132は、上流側から下流側にかけて流路面積が縮小された絞り部1320を有している。尚、絞り部1320は、液滴生成部132中の一部に配置されていてもよい。これにより、液滴生成部132は、絞り部1320により連続相材3の流動方向を分散相材2に向かうように変更し、分散相材2に外力を付加することにより分散相材2を強制的に分断して液滴化するようになっている。また、液滴生成部132には、分散相材2に対してレーザー光が照射可能にされていてもよい。この場合には、分散相材2に対してレーザー光の熱エネルギーを付加したタイミングで分散相材2を分断することができる。
【0048】
液滴生成部132の下流端は、流出口132aとして開口されている。流出口132aは、分散相流出口101aに対向配置されている。流出口132aには、案内部133が連通されている。案内部133は、流動方向における流路面積が一定にされ、液滴21に対して一定の静圧を発生させるようになっている。これにより、案内部133は、分断した分散相材2が表面の自由エネルギーを最小とするように、最小の表面積となる球形状の液滴21となるときに、一定の静圧下で液滴21を流動させながら液滴21の外形の変動を抑制することによって、均一な球形状の液滴21とするようになっている。
【0049】
尚、案内部133は、分散相材2がゼラチンである場合、連続相材3をゼラチンのゲル化温度以下に冷却するように熱交換機構等が設けられていることが好ましい。連続相材3の温度をゲル化温度以下にすることで、液滴21の固化が早まり、ゲル粒子22同士の衝突や、後工程における応力や剪断力等によるゲル粒子22の変形または分離を抑制できると共に、ゲル粒子22同士の癒着や凝集を防止できるからである。
【0050】
案内部133の下流端側には、液滴排出部134が配置されている。液滴排出部134は、ベース体5の厚み方向に一致した貫通孔により形成されている。液滴排出部134の下端は、案内部133に連通されている。一方、液滴排出部134の上端は、ベース体5の上面に開口されている。液滴排出部134の上端(開口)は、冷却工程等の後工程に用いられる機構や機器に接続されている。
【0051】
(液滴生成器1:ベース体5)
上記のように構成された液滴生成器1は、図3に示すように、第1ベース部材51と第2ベース部材52とでベース体5を構成している。ベース体5は、分散相材2に対して濡れ難い性状を有した材料により形成されている。具体的には、ベース体5は、ポリプロピレンやアクリル樹脂等により形成されている。第1ベース部材51及び第2ベース部材52は、それぞれ第1接合面51a及び第2接合面52aを有している。第1ベース部材51及び第2ベース部材52は、第1接合面51aと第2接合面52aとを対向させて接合することにより一体化されている。
【0052】
第1ベース部材51の第1接合面51aには、第1流通系10と第2流通系11・12と第3流通系13との上部側の一部をそれぞれ構成する第1流路形成部が溝や平坦面により形成されている。具体的には、第1流路形成部は、分散相流出部101と、分散相流出口101aと、連続相流出部111・121と、連続相流出口111a・121aと、合流部131と、流出口131aと、液滴生成部132と、流出口132aと、案内部133とを構成するように形成されている。また、第1ベース部材51には、分散相流出部101と連続相流出部111・121と液滴排出部134とが形成されている。
【0053】
一方、第2ベース部材52の第2接合面52aには、第1流通系10と第2流通系11・12と第3流通系13との下部側の一部をそれぞれ構成する第2流路形成部が溝や平坦面により形成されている。具体的には、第2接合面52aの第2流路形成部は、分散相流出部101と、分散相流出口101aと、連続相流出部111・121と、連続相流出口111a・121aと、合流部131と、流出口131aと、液滴生成部132と、流出口132aと、案内部133とを構成するように形成されている。
【0054】
尚、ベース体5は、第1ベース部材51と第2ベース部材52とで構成されている必要はなく、1以上の部材で構成されていればよい。単数の部材で構成する方法としては、ベース体5となる樹脂をインクジェットにより噴出させながら三次元的に積み上げて形成する方法や、樹脂の集合体にレーザー光等を照射し、三次元的に形成する方法等が例示される。また、第1ベース部材51及び第2ベース部材52の溝や孔は、切削加工やレーザー加工、エッチング加工により形成する方法が例示される。
【0055】
また、ベース体5は、図6に示すように、同一の溝及び貫通孔を備えたベース部材53・53同士を接合したものであってもよい。この場合には、一種類のベース部材53を形成するだけで、ベース体5を構成することができると共に、溝深さの異なるベース部材53を組み合わせることによって、流路面積の異なるベース体5を作成することができる。尚、使用時においては、ベース体5の何れか一方のベース部材53・53に形成された分散相材導入部102と連続相流出口111a・121aと液滴排出部134とを栓部材61により閉栓する。
【0056】
さらに、ベース体5は、図13及び図14に示すように、溝及び貫通孔を備えた第1ベース部材56と、第1ベース部材56の溝の開放面を密閉可能に形成された平板状の第2ベース部材55とを接合したものであってもよい。この場合には、一方の第1ベース部材56を溝加工等すれば、他方の第2ベース部材55を平板状に切り出し加工するだけでよいため、ベース体5を容易に作成することができる。さらに、図14のように、全ての溝深さが同一にされていてもよく、この場合には、溝加工を容易に行うことができる。
【0057】
(第1〜第3流通系10・11・12・13の詳細)
上記のように構成された各流通系10・11・12・13について、より具体的に説明する。
【0058】
図1及び図2に示すように、分散相流出口101aと連続相流出口111a・121aとの位置関係及び開口面積の関係は、分散相材2を連続相材3の液中に一定の静圧下で流出及び流動させることができれば特に限定されるものではない。従って、分散相流出口101aと連続相流出口111a・121aとの位置関係は、流動方向に対して同一位置に設定されていてもよいし、分散相流出口101aが連続相流出口111a・121aよりも流動方向の下流側に位置されていてもよい。
【0059】
分散相流出口101aと連続相流出口111a・121aとの開口面積の相対的な関係(比率)は、分散相流出口101aの開口面積が“1”であるときに、連続相流出口111a・121aの開口面積が“1,0”以上、好ましくは“1,2”以上、より好ましくは“2,0”以上に設定されると共に、“20,0”以下、好ましくは“5,0”以下、より好ましくは“3,0”以下に設定される。尚、この場合における分散相材2及び連続相材3の流速は、略同一であるものとする。
【0060】
具体的には、分散相流出口101aと連続相流出口111a・121aとが矩形状の開口形状である場合において、分散相流出口101aの厚み方向のサイズ(単位:mm)は、“0,01”以上、好ましくは“0,05”以上、より好ましくは“0,1”以上に設定されると共に、“10,0”以下、好ましくは“5,0”以下、より好ましくは“1,0”以下に設定される。また、分散相流出口101aの幅方向のサイズは、“0.01”以上、好ましくは“0.05”以上、より好ましくは“0,1”以上に設定されると共に、“10,0”以下、好ましくは“5,0”以下、より好ましくは“1,0”以下に設定される。
【0061】
一方、連続相流出口111a・121aの厚み方向のサイズ(単位:mm)は、“0,01”以上、好ましくは“0,05”以上、より好ましくは“0,1”以上に設定されると共に、“50,0”以下、好ましくは“10,0”以下、より好ましくは“5,0”以下に設定される。また、連続相流出口111a・121aの幅方向のサイズは、“0,01”以上、好ましくは“0,05”以上、より好ましくは“1,0”以上に設定されると共に、“10,0”以下、好ましくは“5,0”以下、より好ましくは“1,5”以下に設定される。
【0062】
上記のように分散相流出口101aと連続相流出口111a・121aとの開口面積の相対的な関係(比率)が設定されることによって、均一な粒径の液滴21を得ることが可能になる。
【0063】
また、分散相流出口101aと液滴21の粒径との関係は、目標とする粒径を“1”としたときに、分散相流出口101aの開口面積が“0,0025”以上、好ましくは“0,01”以上、より好ましくは“0,25”以上に設定されると共に、“400”以下、好ましくは“100”以下、より好ましくは“20”以下に設定される。これにより、分散相流出口101aの開口面積の切り替え、即ち、液滴生成器1の取替えによって、液滴21の粒径を大幅に変更することができると共に、分散相材2の流速や温度、粘度により液滴21の粒径の微調整を液滴21の生成途中で行うことが可能になる。
【0064】
また、分散相流出口101aと塞栓粒子25との関係は、塞栓粒子25が40μm〜2000μmの場合、分散相流出口101aの開口面積が400〜1000000であることが好ましい。この場合には、分散相材2の流速を調整することにより液滴生成器1を取り替えることなく所望粒径の塞栓粒子25を得ることができる。
【0065】
第3流通系13の合流部131における流路長と分散相流出口101aの開口面積の相対的な関係(比率)は、分散相流出口101aの開口面積を“1”としたときに、合流部131の流路長が “0,1”以上、好ましくは“0,5”以上、より好ましくは“1”以上に設定されると共に、“20”以下、好ましくは“10”以下、より好ましくは“5”以下に設定される。これにより、合流部131において、分散相材2を一定の静圧下で流出及び流動させることができる。
【0066】
(分散相材2)
分散相材2は、凝集力を備えた液状のものであれば、特に限定されるものではない。例えば、肝臓癌や子宮筋腫、腎癌、腎臓癌などの治療法における動脈塞栓治療法で用いられる塞栓粒子25の場合には、分散相材2としてゼラチンが用いられる。ゼラチンの種類は、特に限定されない。例えば、牛骨由来、牛皮由来、豚骨由来、豚皮由来などのゼラチンを使用することができる。
【0067】
液状の分散相材2であるゼラチン水溶液の温度は、ゼラチンのゲル化温度である20℃以上であることが必要である。この理由は、ゼラチン水溶液の温度がゼラチンのゲル化温度以下になると、分散相流出口101aでゼラチン水溶液がゲル化してしまい、分散相流出口101aが詰まるという問題が生じ、ゼラチン水溶液の定量流出ができなくなると共に、ゼラチン水溶液が分散相流出口101aから離脱されないため粒径ばらつきが起きてしまうことが多いからである。
【0068】
ゼラチン水溶液の濃度は、2重量%〜20重量%が好ましく、5重量%〜15重量%が特に好ましい。2重量%未満の水溶液の場合には球形の粒子を作製することが困難であり、一方、20重量%を超えると、水溶液が高粘度となり、分散相流出部101の流動及び分散相流出口101aからの流出が困難となる。
【0069】
液滴21から塞栓粒子25に至るまでのゼラチン粒子の形状は、不定形ではなく、できる限り球形であることが好ましい。血管内に塞栓粒子25を注入して塞栓したとき、球形にすることで、より標的部位に近い部分で血管を塞栓することができ、且つ患者に与える痛みも軽減できる。また、ゼラチン粒子の粒径は、標的部位にできるだけ近い部分で血管を塞栓するという目的に加えて、健常な部分に悪影響を与えないように血管の大きさに応じて使い分けができるという目的から、40〜100μm、150〜300μm、および400〜1000μmの3種類が適している。40μm未満の小径粒子は目的とする部位以外の血管を塞栓するので好ましくない。
【0070】
(連続相材3)
連続相材3は、分散相材2との界面に界面張力を発生させる液状のものであれば、特に限定されるものではない。連続相材3が塞栓粒子25に用いられる疎水性溶媒である場合には、製薬学的に許容される物質であればよく、例えば、オリーブ油などの植物油、オレイン酸などの脂肪酸、トリカプリル酸グリセリルなどの脂肪酸エステル類、ヘキサンなどの炭化水素系溶剤などを用いることができる。特に、オリーブ油や、酸化し難い中鎖脂肪酸エステルであるトリカプリル酸グリセリルが好ましい。
【0071】
(液滴生成器1の作成)
図3に示すように、長方体形状の第1ベース部材51と第2ベース部材52とが準備される。第1ベース部材51の第1接合面51aに対して、切削加工により第1流通系10と第2流通系11・12と第3流通系13との上部側の一部をそれぞれ構成する第1流路形成部が溝や平坦面により形成される。そして、分散相流出部101と連続相流出部111・121と液滴排出部134となる貫通孔が形成される。また、第2ベース部材52の第2接合面52aに対して、第1流通系10と第2流通系11・12と第3流通系13との下部側の一部をそれぞれ構成する第2流路形成部が溝や平坦面により形成される。この後、第1ベース部材51の第1接合面51aと第2ベース部材52の第2接合面52aとが液密状態に接着剤やネジ等を用いて接合されることによって、ベース体5からなる液滴生成器1とされる。
【0072】
次に、分散相流出部101がチューブを介して分散相材2用の供給装置に接続されると共に、連続相流出部111・121がチューブを介して連続相材3用の供給装置に接続される。また、液滴排出部134がチューブを介して後工程に接続される。これにより、液滴生成工程を実行する液滴生成装置とされる。尚、後工程は、用途により処理内容が異なるが、塞栓粒子25を製造する場合は、冷却工程が後工程とされ、その後に、脱水工程、洗浄工程、及び架橋工程が行われる。
【0073】
(液滴生成器1を用いた塞栓粒子25の製造方法)
(液滴生成工程)
【0074】
上記のようにして液滴生成器1が液滴生成装置として組み立てられると、図1に示すように、先ず、分散相材2であるゼラチンが0℃程度の水中で膨潤される。次に、スターラー、攪拌翼または振とう器などが用いられ、約0.5時間〜約1.5時間攪拌されることで、約40℃〜60℃の温水にゼラチンが完全に溶解される。この後、連続相材3であるオリーブ油が液滴生成器1の第2流通系11・12に供給されると共に、ゼラチンが液滴生成器1の第1流通系10に供給されることによって、ゼラチンからなるゲル粒子22が生成される。
【0075】
詳細に説明すると、連続相材3用の供給装置から、液状のオリーブ油(連続相材3)が所定の温度及び流速で供給される。具体的には、温度が40℃、流速が0,002m/sとされる。そして、オリーブ油が第3流通系13において満たされ、液滴排出部134から安定した排出量で排出されたタイミングで、分散相材2用の供給装置から、液状のゼラチン(分散相材2)が所定の温度及び流速で供給される。具体的には、温度が40℃、流速が0,02m/sとされる。尚、分散相材2及び連続相材3の温度は、同一の温度であることが、合流部131において分散相材2の物性を変化させない点で好ましい。
【0076】
図1に示すように、ゼラチン及びオリーブ油が供給されると、ゼラチンは、分散相材導入部102及び連続相流出部111・121をそれぞれ流動する。そして、分散相流出口101aから流出されたゼラチンと、連続相流出口111a・121aから流出されたオリーブ油とは、合流部131においてオリーブ油中にゼラチンを存在させる形態で合流される。
【0077】
この際、連続相流出部111・121は、オリーブ油を連続相流出口111a・121aからゼラチンの流出方向に対して平行に流出させるように設定されている。これにより、ゼラチンとオリーブ油とが分散相流出口101a及び連続相流出口111a・121aからそれぞれ流出されて合流部131に流れ込んだときに、ゼラチン及びオリーブ油が同一方向に流動することになる。また、連続相流出口111a・121aが分散相流出口101aを中心として対称配置されていることによって、ゼラチンがオリーブ油で挟み込まれながら平行に流動する。
【0078】
さらに、分散相流出口101a及び連続相流出口111a・121aは、これら分散相流出口101a及び連続相流出口111a・121aの対称配置方向の軸線に対して対称な矩形状に形成されていることによって、対称配置方向及び対称配置方向に対して垂直方向に均一な流出面積でゼラチンオリーブ油及びオリーブ油を合流部131に流出させている。さらに、対称配置方向の軸線に対して垂直方向における分散相流出口101aの開口径よりも連続相流出口111a・121aの開口径が大きな関係に設定され、分散相流出口101a周辺の広い領域に連続相流出口111a・121aが開口された状態にされることによって、オリーブ油がゼラチンの全体を包み込んだ状態で流動している。
【0079】
これにより、合流部131において、一定の静圧がゼラチンとオリーブ油との間に容易に実現されている。この結果、分散相流出口101aからゼラチンが流出された直後に静圧を乱す場合と比較して、ゼラチンが分散相流出口101aの周辺に接触する可能性が低いものになる。これにより、分散相流出口101a周辺にゼラチンが付着することによる不具合が起り難いものとなる。
【0080】
また、ゼラチンがオリーブ油の液中で流動すると、分散相流出口101aから棒状につながった流動形態になる。そして、ゼラチンの表面における自由エネルギーが棒状の表面積に比例して増大し、液滴生成部132において、ゼラチンが流動により伸びて自由エネルギーが所定以上に増大したときに、凝集力により棒状となっていた形態が崩れて分断することになる。この際、ゼラチンは、合流部131において一定の静圧下で流動しているため、棒状のゼラチンの外形の変動が小さなものになっている。従って、分断の間隔が略一定となるため、ゼラチンからなる液滴21の体積が略同一となる。
【0081】
尚、本実施形態においては、液滴生成部132が下流側にかけて流路面積が縮小された絞り部1320を有することによって、オリーブ油の流動方向が分散相材2方向に集中されている。これにより、ゼラチンに対して外力が付加されることによって、凝集力によるゼラチンの分断が促進されている。
【0082】
分断されたゼラチンは、液滴排出部134を流動するときに、表面の自由エネルギーを最小とするように、凝集力により液滴化して最小の表面積となる球形状になる。そして、ゼラチンの液滴21が略同一サイズの球形状で連続的に生成されながら、液滴排出部134から排出されることになる。
【0083】
上記のようにして液滴生成器1から液滴21が排出されると、この液滴21の粒径が確認される。そして、分散相材2及び連続相材3の流速(単位時間当たりの流量)や温度が調整されることによって、液滴21が所望の粒径に均一化される。
【0084】
(冷却工程)
均一化された液滴21は、オリーブ油と共に、温調機構及び撹拌機構付きの容器4に貯留されたオリーブ油中に投入される。この際、容器43中のオリーブ油の温度は、0℃〜60℃の範囲、即ち、ゼラチンのゲル化温度以下に調整されている。これにより、液滴21が容器4に投入された直後から、液滴21のゲル化が開始されることによって、ゲル粒子22同士の衝突等の外力によるゲル粒子22の変形や分離が抑制されると共に、液滴21同士の癒着や凝集が防止される。尚、ゼラチン液滴生成後、ゲル化させる際の冷却工程において、オリーブ油(オイル)の凝固点以下の冷却が必要な場合には、脱水溶媒(溶媒の凝固点が低いため)を予め液滴生成時(液滴生成工程)に加えておくことが好ましい。この場合には、混合液の凝固点を下げ、乳化液の凝固を防ぐことができる。
【0085】
(脱水工程)
所定数や所定量以上のゲル粒子22が容器43内で生成されると、続いて、ゲル化温度以下の脱水溶媒が投入される共に混合される。そして、15分間以上の撹拌混合が行われることによって、液滴14中の水分が十分に脱水される。そして、ゲル粒子22の凝集が防止されると共に、後工程での均一な架橋が可能になる脱水粒子23とされる。尚、脱水溶媒としては、例えば、アセトンなどのケトン系溶剤、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤、酢酸エチルなどのエステル系溶剤、トルエン、ヘキサンなどの炭化水素系溶剤、ジクロルエタン等のハロゲン系溶剤を用いることができる。
【0086】
(洗浄工程)
また、脱水処理と同時、又は前後して洗浄処理が行われる。具体的には、ゼラチンが溶解しない貧溶媒が投入され、脱水粒子23が洗浄される。貧溶媒は、ゼラチンのゲル化温度以下で用いることが好ましい。ゼラチンが溶解しない貧溶媒として、例えば、アセトンなどのケトン系溶剤、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤、酢酸エチルなどのエステル系溶剤、トルエン、ヘキサンなどの炭化水素系溶剤、ジクロルエタンなどのハロゲン系溶剤を用いることができる。尚、洗浄処理では、約2〜15グラムのゲル粒子22に対して、約200〜300mlの溶剤を用いて15〜30分洗浄する操作を1サイクルとし、これを4〜6サイクル繰り返し行うことが好ましい。
【0087】
(乾燥工程)
【0088】
次に、容器4から脱水粒子23が取り出され、ゼラチンが溶解しない温度で乾燥される。そして、脱水粒子23に付着した洗浄溶媒が除去されると共に、ゼラチン粒子31中の水分が除去されることによって、脱水粒子23が乾燥粒子24とされる。尚、乾燥方法として、通風乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥などの種々の方法を用いることができる。例えば、5℃〜25℃で約12時間以上乾燥することが好ましく、特に、減圧雰囲気で乾燥することがより好ましい。
【0089】
(架橋工程)
次に、乾燥粒子24が温度80℃〜250℃で、0.5時間〜120時間加熱される。この加熱条件は、血管内で塞栓粒子25を完全に分解するのに要する時間、すなわち、血管内を塞栓粒子25で塞栓してから、血流を再開通させるまでに必要とされる期間に応じて決定される。また、加熱時間は加熱温度に依存する。一般に、腫瘍(癌)を壊死させるためには、2〜3日間、血管を塞栓すればよい。したがって、例えば、塞栓粒子25の分解期間を3〜7日間に設定する場合、加熱架橋の条件としては、100℃〜180℃であって、1時間以上24時間以下で加熱することが好ましい。ゼラチン粒子31の酸化等の不具合を避けるためには、減圧下または不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0090】
以上、本発明の実施形態を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、具体的構成などは、適宜設計変更可能である。また、発明の実施形態に記載された、作用および効果は、本発明から生じる最も好適な作用および効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用および効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0091】
例えば、本実施形態においては、第1流通系10から第3流通系13に至る1系統の液滴生成経路を備えた液滴生成器1を用いることによって、液滴21を1個ずつ順番に生成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、生産効率を高めるために、液滴生成経路をナンバリングアップして液滴生成経路を並列的に複数備えた液滴生成器201であってもよい。
【0092】
具体的には、図8に示すように、1系統の液滴生成路を備えた複数の液滴生成器1を上下方向及び左右方向に並列的に配置した液滴生成器201であってもよい。尚、上下方向及び左右方向の何れか一方向に並列配置されていてもよい。この場合には、並列配置した液滴生成器1の個数分の液滴21を同時に後工程の容器4に送り出すことができる。尚、液滴生成器1に複数の液滴生成路が並列的に備えられていてもよい。また、液滴生成器1の液滴排出部134側が中心に向かうように、複数の液滴生成器1が円環状に並列配置されていてもよい。さらには、円環状に並列配置された構成が上下方向に積層されていてもよい。
【実施例】
【0093】
(実施例1)
先ず、分散相材2と連続相材3とが平行に流動された場合における液滴21の生成し易さをVOF法(Volume Of Fluid Method)を用いて解析した。分散相材2及び連続相材3の解析条件は、分散相材流量が1ml/h、連続相材流量が1ml/h、分散相材2の粘度が0.06mPas、分散相材2の密度が998kg/m3、連続相材3の粘度が0.6mPas、連続相材3の密度が910kg/m3、界面張力が0.02N/m、接触角度(分散相材2・連続相材3)が140°であるとした。
【0094】
また、液滴生成器1の解析条件は、分散相流出口101aについて幅(横寸法)100μm×深さ(縦寸法)100μmとし、連続相流出口111a・121aについて幅50μm×深さ250μmとし、合流部131について幅300μm×深さ250μmとし、液滴生成部132(絞り部1320)について幅100μm×深さ250μmとした。解析結果を図9及び図10に示す。
【0095】
(比較例1)
次に、実施例1と同一の分散相材2及び連続相材3の解析条件で、分散相材2の流動方向に対して直交方向に連続相材3が流動された場合における液滴21の生成し易さをVOF法(Volume Of Fluid Method)を用いて解析した。この場合における液滴生成器の解析条件は、分散相流出口について幅100μm×深さ100μmとし、連続相流出口について幅100μm×深さ100μmとし、合流部について幅100μm×深さ100μmとし、液滴生成部(絞り部)について幅100μm×深さ100μmとした。解析結果を図11及び図12に示す。
【0096】
(評価)
以上の解析結果によると、分散相材2と連続相材3とを平行に流動させた実施例1は、分散相材2が分断されて液滴が生成されるのに対し、分散相材2と連続相材3とを直交させた比較例1は、分散相材2が分断されずに繋がった状態を維持することが確認された。さらに、実施例1は、分散相材2が合流部131や開口周辺に付着しないのに対し、比較例1は、壁面に付着することが確認された。
【符号の説明】
【0097】
1 液滴生成器
2 分散相材
3 連続相材
4 容器
5 ベース体
10 第1流通系
11・12 第2流通系
13 第3流通系
21 液滴
22 ゲル粒子
23 脱水粒子
24 乾燥粒子
25 塞栓粒子
51 第1ベース部材
52 第2ベース部材
101 分散相流出部
101a 分散相流出口
111・121 連続相流出部
111a・121a 連続相流出口
131 合流部
132 液滴生成部
133 案内部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝集力を備えた液状の分散相材を流出する分散相流出口と、
前記分散相材との界面に界面張力を発生させる液状の連続相材を流出する連続相流出口と、
前記分散相流出口及び前記連続相流出口に連通され、前記分散相材を前記連続相材の液中に一定の静圧下で流動させる合流部と、
前記合流部の下流側に配置され、前記分散相材を前記凝集力により液滴化する液滴生成部と
を有することを特徴とする液滴生成器。
【請求項2】
前記分散相材を前記分散相流出口から所定方向に流出させる分散相流出部と、
前記連続相材を前記連続相流出口から前記分散相材の流出方向に対して平行に流出させる連続相流出部と
を有することを特徴とする請求項1に記載の液滴生成器。
【請求項3】
前記連続相流出口を複数有し、これら連続相流出口が前記分散相流出口を中心として対称配置されていることを特徴とする請求項2に記載の液滴生成器。
【請求項4】
前記分散相流出口及び前記連続相流出口は、これら分散相流出口及び連続相流出口の対称配置方向の軸線に対して対称な形状に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の液滴生成器。
【請求項5】
前記対称配置方向の軸線に対して垂直方向における前記分散相流出口及び前記連続相流出口の開口径は、前記分散相流出口よりも前記連続相流出口が大きくなる関係に設定されていることを特徴とする請求項4に記載の液滴生成器。
【請求項6】
前記液滴生成部は、下流側にかけて流路面積が縮小された絞り部を有していることを特徴とする請求項5に記載の液滴生成器。
【請求項7】
前記分散相流出口と、前記分散相流出部と、前記連続相流出口と、前記連続相流出部と、前記合流部と、前記液滴生成部と、前記絞り部と、前記排出口との一部をそれぞれ構成する第1流路形成部が第1接合面に形成された第1ベース部材と、
前記第1ベース部材の前記第1接合面に接合された第2接合面を有し、
前記分散相流出口と、前記分散相流出部と、前記連続相流出口と、前記連続相流出部と、前記合流部と、前記液滴生成部と、前記絞り部と、前記排出口との一部をそれぞれ構成する第2流路形成部が前記第2接合面に形成された第2ベース部材とを有していることを特徴とする請求項6に記載の液滴生成器。
【請求項8】
塞栓粒子の製造に用いられることを特徴とする請求項1ないし7の何れか1項に記載の液滴生成器。
【請求項9】
分散相材との界面に界面張力を発生させる連続相材の液中に、前記分散相材を一定の静圧下で流出及び流動させることにより該分散相材の凝集力により液滴化することを特徴とする液滴生成方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−24313(P2012−24313A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165513(P2010−165513)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】