液滴飛翔装置
【課題】装置の大型化を招くことなく、しかも微小液滴の飛翔を必要かつ充分な状態で行わせることができる液滴飛翔装置を得る。
【解決手段】圧電材からなる超音波生成部4と超音波伝播する伝播部を兼ねたインク層3と、インク出射用の穴2の開いているインク層の液厚を規制する規制板1からなる音響放射圧による液滴飛翔装置において、超音波生成部からインク層液面までの距離dが、振動部の半径をrとし、超音波周波数はf、インクの音速をcとしたときに、
となり、そのときの音圧をP(d1)としたときに、P(d2)=P(d1)×0.8、P(d3)=P(d1)×0.8となるd2、d3に対しd2≦d≦d3を満たすように構成する。
【解決手段】圧電材からなる超音波生成部4と超音波伝播する伝播部を兼ねたインク層3と、インク出射用の穴2の開いているインク層の液厚を規制する規制板1からなる音響放射圧による液滴飛翔装置において、超音波生成部からインク層液面までの距離dが、振動部の半径をrとし、超音波周波数はf、インクの音速をcとしたときに、
となり、そのときの音圧をP(d1)としたときに、P(d2)=P(d1)×0.8、P(d3)=P(d1)×0.8となるd2、d3に対しd2≦d≦d3を満たすように構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば音響式インクジェット記録装置などにおける液滴飛翔装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば20MHz程度の低周波超音波を使用し、副走査方向はフレネルレンズで、主走査方向は位相ずらしによる電子式集束方式により超音波をインク液面に集束させ、インク滴を飛翔させる方式による装置において、インク液面の高さを中心軸上の音圧から規定するために、液厚と使用する複数の圧電素子の数で定義する方法が、従来から提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このような構成による従来装置では、主走査方向に配置されている分離された圧電素子の1滴あたりの使用個数を減らす効果がある。
【0004】
【特許文献1】特許第3466829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような従来装置にあっては、圧電素子の大きさを微小にすることはできず、また複数個の圧電素子を使って1滴を飛翔させるために、その一つの圧電素子群の大きさは小さくでも数百μm単位となる。
さらに、このような圧電素子を使い、かつ集束装置なしで飛翔させようとした場合、その液滴は圧電素子の大きさから大きく小さくなるものではない。
【0006】
仮の1/5程度の液滴が飛翔できるとしても、その大きさはΦ100μm程度となり、一般的なインクジェットプリンタで必要な液滴を実現することは不可能であった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、装置の大型化を招くことなく、しかも微小液滴の飛翔を必要かつ充分な状態で行わせることができる液滴飛翔装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的に応えるために本発明(請求項1記載の発明)に係る液滴飛翔装置は、PZT、ZnO等の圧電材からなる超音波生成部と、超音波伝播する伝播部を兼ねたインク層と、インク出射用の穴の開いているインク層の液厚を規制する規制板からなる音響放射圧による液滴飛翔装置において、超音波生成部からインク層液面までの距離dが、振動部の半径をrとし、超音波周波数はf、インクの音速をcとしたときに、
【数1】
となり、そのときの音圧をP(d1)としたときに、P(d2)=P(d1)×0.8、P(d3)=P(d1)×0.8となるd2、d3に対し、d2≦d≦d3を満たすように構成したことを特徴とする。
【0009】
本発明(請求項2記載の発明)に係る液滴飛翔装置は、請求項1において、d2の厚さの伝播部を設け、インクの厚さをd3−d2の厚さにする装置を設けたことを特徴とする。
【0010】
本発明(請求項3記載の発明)に係る液滴飛翔装置は、請求項2において、インクの厚さをd3−d2の厚さにする装置を規制板で構成し、この規制板の厚さでインクを規制するように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明に係る液滴飛翔装置によれば、音響レンズ等の集束装置を使用することなく、平面振動子から出射される超音波により、保持されたインクをインク滴化して飛翔させる際に、そのインク液面の高さを平行超音波の中心軸上の音圧が強くなる高さとしているから、液面の位置を、伝播超音波の中心軸上の音圧が安定的にピークとなり、その位置での音圧分布が中心軸を中心に山型の音圧分布をしている位置に合わせることにより、音響レンズ等の集束部材を設置することなく、微小液滴の飛翔を可能にすることができる。
【0012】
また、本発明によれば、インクと振動子の間にインクと同等の音速をもつ液剤とその液剤とインク分離するための膜をもち、液剤の厚さが伝播超音波の音圧の安定領域のピーク値の80%となる振動面からのピーク距離に対する直前距離とし、分離膜を挟んでインク規制板の表面までの距離を、伝播超音波の音圧の安定領域のピーク値の80%となる振動面からのピーク位置を過ぎた個所の距離とすることができる。したがって、このような本発明によれば、伝播部とインク層を分離し、伝播部の厚さを必要な超音波伝播距離の最少距離とし、インクの厚さを最少距離から最大距離までの厚さとしたことにより、適正なインク厚の制御を可能とすることができる。
【0013】
さらに、本発明によれば、インク規制板の厚さをインクの厚さ範囲としたことにより、適正なインク厚の制御をより容易なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1ないし図9は本発明に係る液滴飛翔装置の第1実施形態を示す。
これらの図において、図1に示す液滴飛翔装置の概要を簡単に説明すると、シリコン/ガラスを基板とし、PZTまたはZnO等の圧電薄膜を成膜し、その圧電膜は図示されていないPtやAu等の電極で挟まれており、振動部4を形成し、同様に図示されていない駆動部により駆動される。
【0015】
振動部4はSio2等のインク保護膜によりインク3から保護されており、インク3は規制板1によりインク厚を規制されており、振動部4に応じた位置に規制板1の穴2が設けられている。
【0016】
ここで、振動部4の形状は方形、円形等が考えられるが、ここでは円形として説明する。また、図2に示すように、振動部の半径をrとし、振動部から液面までの距離をdとする。超音波周波数はfとする。このときのインクの音速をcとする。
このとき、中心軸上の音圧が安定して高域となる位置は丸善(株)発行の“超音波便覧”によれば、
このとき液面までの距離dは、(膜の厚さはdに比べ非常に薄いために無視可能であり)
【数1】
を中心とした位置にあることがわかる。
【0017】
ここで、周波数fを250MHz、振動部4の半径を20μm、インク3として音速1500mの液剤の場合について、具体的に説明する。
【0018】
図3に中心軸上の音圧を計算したグラフを示す。
値は最大値を1としてその相対値を示す。
上記の式(1)によれば、音圧の高域となる位置は70μm程度になるが、図3においても同等の値を示していることがわかる。
音圧が設定値に対し80%以上あれば、安定した液滴飛翔が得られるために、図3から液面の高さdは55μm〜100μmに設定する。
【0019】
この時の液面の放射圧の分布を、図4に示す。
この図4により55〜100μmの範囲であればセンターに集中した放射圧が得られていることがわかる。
【0020】
観察と液面までの厚さを容易に設定するために、図5に示す実験装置を用い、周波数250MHz、Φ120μmの振動子を振動部4に使用し、150μmの石英ガラスを伝播材(伝播部5)としてインク飛翔の実験を行った。
【0021】
このような実験装置では、振動部4にて生成された250MHz超音波はガラス(伝潘部5)を伝播しインク3へ到達するが、Φ120μmの振動部4の場合、ガラス(伝潘部5)の伝播時には中心音圧の分布はおよそ150μmで式(1)を満たす安定音圧領域となる。
ここで、ガラス(伝潘部5)の表面に薄層のインク層3を規制板1を使用して設置している。
【0022】
そして、実験の結果、超音波照射バースト長50μsでΦ40μm程度の液滴の飛翔が確認された(図6)。
また、駆動電圧を初期値に対し80%程度まで下げても飛翔液滴に変化がないことを確認した(図7)。
【0023】
中心軸上の音圧は次式であらわされる(参考:超音波便覧)。
【数2】
ここで、P:音圧、ρ:伝播媒質の密度、C:伝播媒質の音速、V:振動速度、x:距離、r:振動半径である。
【0024】
また、図8および図9は図1に示す液滴飛翔装置によるヘッドの概略構成を示す。
このような液滴飛翔装置において、ヘッドのインク飛翔部である出射口6としては、たとえば図8に示すように、複数の丸い出射口6をもつ場合やライン状に長さをもつ出射口6をもつ場合等がある。
【0025】
このようなインク飛翔部の詳細は、図9に示す通りである。
すなわち、図中7はPZTやZnO等の圧電材からなる超音波発生材である。この超音波発生材7は図示されていない電極で上下に挟まれており、基材8にスパッタ等の成膜技術で生成されている。
【0026】
超音波発生材7は、図示されていない駆動部により高周波駆動されて超音波を出射する。出射された超音波は液材層9を伝搬し、規制板1の穴2で規制されている液面で発生する放射圧により液剤を液滴として噴射する。このとき、規制板1は、液面の電極から空気までの高さを一定にする役割りや液が垂れない役割を持っている。規制板1の穴2は、規制板1に電極の位置と同じ位置に電極から出射された超音波を塞がないような位置に設けられている。
【0027】
以上の構成によれば、音響レンズ等の集束装置を使用することなく、振動子から出射される超音波により、保持されたインクをインク滴化し飛翔させるにあたって、そのインク液面の高さを平行超音波の中心軸上の音圧が強くなる高さとすることができる。そして、液面の位置を伝播超音波の中心軸上の音圧が安定的にピークとなり、その位置での音圧分布が中心軸を中心に山型の音圧分布をしている位置に合わせることができ、これにより集束部材を設置することなく、微小液滴の飛翔を可能にすることができるものである。
【0028】
図10は本発明の第2実施形態を示す。
同図において、振動部4から出射された超音波は伝播液12を透過し、隔膜11を透過してインク3に達し、インク液滴を飛翔させる。この時、伝播液12は水等インクの音速と同等とする。また、隔膜11はインク音速に近い材料を選択し、その厚さもインク厚に比べ薄い膜とする。
【0029】
圧電材部からインク液面までの距離d1が、振動部の半径をrとし、超音波周波数はf、インクの音速をcとした時に、
【数3】
となる。
【0030】
そのときの音圧をP(d1)としたときに、d1は安定した高域のピークを示す位置である。
ここで、P(d2)=P(d1)×0.8、P(d3)=P(d1)×0.8となるd1前後に位置する位置d2、d3に対し、図11の伝播部(伝搬液12)の厚さをd2とし、インク厚d4を、d4≦d3−d2を満たすように設定する。
【0031】
また、インクの渇き、あるいは供給が困難になることから、インク厚は10μm以上あることがのぞましい。
これにより、圧電部からインクの液面までの距離dは、図3におけるd2、d3に対し必ずd2<d≦d3の範囲に入り 液面における音圧は、安定した高域の範囲内、つまりピーク値Pに対し80%以上の音圧領域を確保できる。
【0032】
f=250MHz、Φ=40μmの時、安定ピーク位置の前側の80%位置d2はおよそ55μm、後ろ側80%の位置はおよそ100μmとなる。これより伝播部の厚さd2は55μm、インク層の厚さd4は、10≦d4≦(100−55)、つまり10μm≦インク層厚≦45μmであれば、良好なインク飛翔が可能となる。
【0033】
したがって、規制板1の厚さを45μmとすればあふれない範囲でインク3が存在すれば、必ず正しい液面を確保することが可能である。
【0034】
そして、このような実施形態によれば、インク3と振動子4の間にインクと同等の音速をもつ液剤12とその液剤12とインク分離する為のためをもち、液剤12の厚さが伝播超音波の音圧の安定領域のピーク値の80%となる振動面からのピーク距離に対する直前距離とし、分離膜11を挟んでインク規制板1の表面までの距離を、伝播超音波の音圧の安定領域のピーク値の80%となる振動面からのピーク位置を過ぎた個所の距離とすることができる。
【0035】
したがって、この実施形態によれば、伝播部12とインク層3を分離し、伝播部12の厚さを必要な超音波伝播距離の最少距離とし、インク層3の厚さを最少距離から最大距離までの厚さとしたことにより、適正なインク厚の制御が可能となるものである。
【0036】
また、インク規制板1の厚さをインク層3の厚さ範囲としたことにより、適正なインク厚の制御をより容易なものとすることができるものである。
【0037】
なお、本発明は上述した実施の形態で説明した構造には限定されず、液滴飛翔装置を構成する各部の形状、構造等を適宜変形、変更し得ることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る液滴飛翔装置の第1実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1の要部構成を示す概略図である。
【図3】中心軸上の音圧を計算したグラフである。
【図4】液面の放射圧の分布を示す図である。
【図5】実験装置を示す概略構成図である。
【図6】バースト長に対する液滴の飛翔状態を示す表である。
【図7】照射エネルギに対する液滴飛翔量の割合を示す表である。
【図8】本発明に係る液滴飛翔装置のヘッドの概略構成図である。
【図9】図8のヘッドの概略分解図である。
【図10】本発明に係る液滴飛翔装置の第2実施形態を示す概略構成図である。
【図11】図10の液滴飛翔装置の説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1…インク規制板、2…規制板の穴、3…インク、4…振動部、5…伝潘部、6…出射口、7…超音波発生材、8…基材、9…液材層、11…隔膜、12…伝潘液。
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば音響式インクジェット記録装置などにおける液滴飛翔装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば20MHz程度の低周波超音波を使用し、副走査方向はフレネルレンズで、主走査方向は位相ずらしによる電子式集束方式により超音波をインク液面に集束させ、インク滴を飛翔させる方式による装置において、インク液面の高さを中心軸上の音圧から規定するために、液厚と使用する複数の圧電素子の数で定義する方法が、従来から提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このような構成による従来装置では、主走査方向に配置されている分離された圧電素子の1滴あたりの使用個数を減らす効果がある。
【0004】
【特許文献1】特許第3466829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような従来装置にあっては、圧電素子の大きさを微小にすることはできず、また複数個の圧電素子を使って1滴を飛翔させるために、その一つの圧電素子群の大きさは小さくでも数百μm単位となる。
さらに、このような圧電素子を使い、かつ集束装置なしで飛翔させようとした場合、その液滴は圧電素子の大きさから大きく小さくなるものではない。
【0006】
仮の1/5程度の液滴が飛翔できるとしても、その大きさはΦ100μm程度となり、一般的なインクジェットプリンタで必要な液滴を実現することは不可能であった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、装置の大型化を招くことなく、しかも微小液滴の飛翔を必要かつ充分な状態で行わせることができる液滴飛翔装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的に応えるために本発明(請求項1記載の発明)に係る液滴飛翔装置は、PZT、ZnO等の圧電材からなる超音波生成部と、超音波伝播する伝播部を兼ねたインク層と、インク出射用の穴の開いているインク層の液厚を規制する規制板からなる音響放射圧による液滴飛翔装置において、超音波生成部からインク層液面までの距離dが、振動部の半径をrとし、超音波周波数はf、インクの音速をcとしたときに、
【数1】
となり、そのときの音圧をP(d1)としたときに、P(d2)=P(d1)×0.8、P(d3)=P(d1)×0.8となるd2、d3に対し、d2≦d≦d3を満たすように構成したことを特徴とする。
【0009】
本発明(請求項2記載の発明)に係る液滴飛翔装置は、請求項1において、d2の厚さの伝播部を設け、インクの厚さをd3−d2の厚さにする装置を設けたことを特徴とする。
【0010】
本発明(請求項3記載の発明)に係る液滴飛翔装置は、請求項2において、インクの厚さをd3−d2の厚さにする装置を規制板で構成し、この規制板の厚さでインクを規制するように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明に係る液滴飛翔装置によれば、音響レンズ等の集束装置を使用することなく、平面振動子から出射される超音波により、保持されたインクをインク滴化して飛翔させる際に、そのインク液面の高さを平行超音波の中心軸上の音圧が強くなる高さとしているから、液面の位置を、伝播超音波の中心軸上の音圧が安定的にピークとなり、その位置での音圧分布が中心軸を中心に山型の音圧分布をしている位置に合わせることにより、音響レンズ等の集束部材を設置することなく、微小液滴の飛翔を可能にすることができる。
【0012】
また、本発明によれば、インクと振動子の間にインクと同等の音速をもつ液剤とその液剤とインク分離するための膜をもち、液剤の厚さが伝播超音波の音圧の安定領域のピーク値の80%となる振動面からのピーク距離に対する直前距離とし、分離膜を挟んでインク規制板の表面までの距離を、伝播超音波の音圧の安定領域のピーク値の80%となる振動面からのピーク位置を過ぎた個所の距離とすることができる。したがって、このような本発明によれば、伝播部とインク層を分離し、伝播部の厚さを必要な超音波伝播距離の最少距離とし、インクの厚さを最少距離から最大距離までの厚さとしたことにより、適正なインク厚の制御を可能とすることができる。
【0013】
さらに、本発明によれば、インク規制板の厚さをインクの厚さ範囲としたことにより、適正なインク厚の制御をより容易なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1ないし図9は本発明に係る液滴飛翔装置の第1実施形態を示す。
これらの図において、図1に示す液滴飛翔装置の概要を簡単に説明すると、シリコン/ガラスを基板とし、PZTまたはZnO等の圧電薄膜を成膜し、その圧電膜は図示されていないPtやAu等の電極で挟まれており、振動部4を形成し、同様に図示されていない駆動部により駆動される。
【0015】
振動部4はSio2等のインク保護膜によりインク3から保護されており、インク3は規制板1によりインク厚を規制されており、振動部4に応じた位置に規制板1の穴2が設けられている。
【0016】
ここで、振動部4の形状は方形、円形等が考えられるが、ここでは円形として説明する。また、図2に示すように、振動部の半径をrとし、振動部から液面までの距離をdとする。超音波周波数はfとする。このときのインクの音速をcとする。
このとき、中心軸上の音圧が安定して高域となる位置は丸善(株)発行の“超音波便覧”によれば、
このとき液面までの距離dは、(膜の厚さはdに比べ非常に薄いために無視可能であり)
【数1】
を中心とした位置にあることがわかる。
【0017】
ここで、周波数fを250MHz、振動部4の半径を20μm、インク3として音速1500mの液剤の場合について、具体的に説明する。
【0018】
図3に中心軸上の音圧を計算したグラフを示す。
値は最大値を1としてその相対値を示す。
上記の式(1)によれば、音圧の高域となる位置は70μm程度になるが、図3においても同等の値を示していることがわかる。
音圧が設定値に対し80%以上あれば、安定した液滴飛翔が得られるために、図3から液面の高さdは55μm〜100μmに設定する。
【0019】
この時の液面の放射圧の分布を、図4に示す。
この図4により55〜100μmの範囲であればセンターに集中した放射圧が得られていることがわかる。
【0020】
観察と液面までの厚さを容易に設定するために、図5に示す実験装置を用い、周波数250MHz、Φ120μmの振動子を振動部4に使用し、150μmの石英ガラスを伝播材(伝播部5)としてインク飛翔の実験を行った。
【0021】
このような実験装置では、振動部4にて生成された250MHz超音波はガラス(伝潘部5)を伝播しインク3へ到達するが、Φ120μmの振動部4の場合、ガラス(伝潘部5)の伝播時には中心音圧の分布はおよそ150μmで式(1)を満たす安定音圧領域となる。
ここで、ガラス(伝潘部5)の表面に薄層のインク層3を規制板1を使用して設置している。
【0022】
そして、実験の結果、超音波照射バースト長50μsでΦ40μm程度の液滴の飛翔が確認された(図6)。
また、駆動電圧を初期値に対し80%程度まで下げても飛翔液滴に変化がないことを確認した(図7)。
【0023】
中心軸上の音圧は次式であらわされる(参考:超音波便覧)。
【数2】
ここで、P:音圧、ρ:伝播媒質の密度、C:伝播媒質の音速、V:振動速度、x:距離、r:振動半径である。
【0024】
また、図8および図9は図1に示す液滴飛翔装置によるヘッドの概略構成を示す。
このような液滴飛翔装置において、ヘッドのインク飛翔部である出射口6としては、たとえば図8に示すように、複数の丸い出射口6をもつ場合やライン状に長さをもつ出射口6をもつ場合等がある。
【0025】
このようなインク飛翔部の詳細は、図9に示す通りである。
すなわち、図中7はPZTやZnO等の圧電材からなる超音波発生材である。この超音波発生材7は図示されていない電極で上下に挟まれており、基材8にスパッタ等の成膜技術で生成されている。
【0026】
超音波発生材7は、図示されていない駆動部により高周波駆動されて超音波を出射する。出射された超音波は液材層9を伝搬し、規制板1の穴2で規制されている液面で発生する放射圧により液剤を液滴として噴射する。このとき、規制板1は、液面の電極から空気までの高さを一定にする役割りや液が垂れない役割を持っている。規制板1の穴2は、規制板1に電極の位置と同じ位置に電極から出射された超音波を塞がないような位置に設けられている。
【0027】
以上の構成によれば、音響レンズ等の集束装置を使用することなく、振動子から出射される超音波により、保持されたインクをインク滴化し飛翔させるにあたって、そのインク液面の高さを平行超音波の中心軸上の音圧が強くなる高さとすることができる。そして、液面の位置を伝播超音波の中心軸上の音圧が安定的にピークとなり、その位置での音圧分布が中心軸を中心に山型の音圧分布をしている位置に合わせることができ、これにより集束部材を設置することなく、微小液滴の飛翔を可能にすることができるものである。
【0028】
図10は本発明の第2実施形態を示す。
同図において、振動部4から出射された超音波は伝播液12を透過し、隔膜11を透過してインク3に達し、インク液滴を飛翔させる。この時、伝播液12は水等インクの音速と同等とする。また、隔膜11はインク音速に近い材料を選択し、その厚さもインク厚に比べ薄い膜とする。
【0029】
圧電材部からインク液面までの距離d1が、振動部の半径をrとし、超音波周波数はf、インクの音速をcとした時に、
【数3】
となる。
【0030】
そのときの音圧をP(d1)としたときに、d1は安定した高域のピークを示す位置である。
ここで、P(d2)=P(d1)×0.8、P(d3)=P(d1)×0.8となるd1前後に位置する位置d2、d3に対し、図11の伝播部(伝搬液12)の厚さをd2とし、インク厚d4を、d4≦d3−d2を満たすように設定する。
【0031】
また、インクの渇き、あるいは供給が困難になることから、インク厚は10μm以上あることがのぞましい。
これにより、圧電部からインクの液面までの距離dは、図3におけるd2、d3に対し必ずd2<d≦d3の範囲に入り 液面における音圧は、安定した高域の範囲内、つまりピーク値Pに対し80%以上の音圧領域を確保できる。
【0032】
f=250MHz、Φ=40μmの時、安定ピーク位置の前側の80%位置d2はおよそ55μm、後ろ側80%の位置はおよそ100μmとなる。これより伝播部の厚さd2は55μm、インク層の厚さd4は、10≦d4≦(100−55)、つまり10μm≦インク層厚≦45μmであれば、良好なインク飛翔が可能となる。
【0033】
したがって、規制板1の厚さを45μmとすればあふれない範囲でインク3が存在すれば、必ず正しい液面を確保することが可能である。
【0034】
そして、このような実施形態によれば、インク3と振動子4の間にインクと同等の音速をもつ液剤12とその液剤12とインク分離する為のためをもち、液剤12の厚さが伝播超音波の音圧の安定領域のピーク値の80%となる振動面からのピーク距離に対する直前距離とし、分離膜11を挟んでインク規制板1の表面までの距離を、伝播超音波の音圧の安定領域のピーク値の80%となる振動面からのピーク位置を過ぎた個所の距離とすることができる。
【0035】
したがって、この実施形態によれば、伝播部12とインク層3を分離し、伝播部12の厚さを必要な超音波伝播距離の最少距離とし、インク層3の厚さを最少距離から最大距離までの厚さとしたことにより、適正なインク厚の制御が可能となるものである。
【0036】
また、インク規制板1の厚さをインク層3の厚さ範囲としたことにより、適正なインク厚の制御をより容易なものとすることができるものである。
【0037】
なお、本発明は上述した実施の形態で説明した構造には限定されず、液滴飛翔装置を構成する各部の形状、構造等を適宜変形、変更し得ることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る液滴飛翔装置の第1実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1の要部構成を示す概略図である。
【図3】中心軸上の音圧を計算したグラフである。
【図4】液面の放射圧の分布を示す図である。
【図5】実験装置を示す概略構成図である。
【図6】バースト長に対する液滴の飛翔状態を示す表である。
【図7】照射エネルギに対する液滴飛翔量の割合を示す表である。
【図8】本発明に係る液滴飛翔装置のヘッドの概略構成図である。
【図9】図8のヘッドの概略分解図である。
【図10】本発明に係る液滴飛翔装置の第2実施形態を示す概略構成図である。
【図11】図10の液滴飛翔装置の説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1…インク規制板、2…規制板の穴、3…インク、4…振動部、5…伝潘部、6…出射口、7…超音波発生材、8…基材、9…液材層、11…隔膜、12…伝潘液。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材からなる超音波生成部と、超音波伝播する伝播部を兼ねたインク層と、インク出射用の穴の開いているインク層の液厚を規制する規制板からなる音響放射圧による液滴飛翔装置において、
超音波生成部からインク層液面までの距離dが、振動部の半径をrとし、超音波周波数はf、インクの音速をcとしたときに、
【数1】
となり、
そのときの音圧をP(d1)としたときに、P(d2)=P(d1)×0.8、P(d3)=P(d1)×0.8となるd2、d3に対し、d2≦d≦d3を満たすように構成したことを特徴とする液滴飛翔装置。
【請求項2】
請求項1記載の液滴飛翔装置において、
d2の厚さの伝播部を設け、
インクの厚さをd3−d2の厚さにする装置を設けたことを特徴とする液滴飛翔装置。
【請求項3】
請求項2記載の液滴飛翔装置において、
インクの厚さをd3−d2の厚さにする装置を規制板で構成し、この規制板の厚さでインクを規制するように構成したことを特徴とする液滴飛翔装置。
【請求項1】
圧電材からなる超音波生成部と、超音波伝播する伝播部を兼ねたインク層と、インク出射用の穴の開いているインク層の液厚を規制する規制板からなる音響放射圧による液滴飛翔装置において、
超音波生成部からインク層液面までの距離dが、振動部の半径をrとし、超音波周波数はf、インクの音速をcとしたときに、
【数1】
となり、
そのときの音圧をP(d1)としたときに、P(d2)=P(d1)×0.8、P(d3)=P(d1)×0.8となるd2、d3に対し、d2≦d≦d3を満たすように構成したことを特徴とする液滴飛翔装置。
【請求項2】
請求項1記載の液滴飛翔装置において、
d2の厚さの伝播部を設け、
インクの厚さをd3−d2の厚さにする装置を設けたことを特徴とする液滴飛翔装置。
【請求項3】
請求項2記載の液滴飛翔装置において、
インクの厚さをd3−d2の厚さにする装置を規制板で構成し、この規制板の厚さでインクを規制するように構成したことを特徴とする液滴飛翔装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−46857(P2010−46857A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211639(P2008−211639)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】
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