説明

液相拡散接合用金属部材

【課題】液相拡散接合により接合すべき面に設けられたインサート金属表面を被覆する樹脂組成物が優れた耐擦傷性を有し、さらに同インサート金属の前記接合すべき面への接着性を有し、かつ、液相拡散接合時の高温加熱により分解し接合部に残存せず、接合後の接合部が母材と同等品質となる液相拡散接合用金属部材を提供する。
【解決手段】金属部材同士を液相拡散接合する際に用いる液相拡散接合用金属部材であって、該液相拡散接合用金属部材の液相拡散接合面に、インサート金属が固定されると共に、該インサート金属の表面が樹脂層で被覆されてなることを特徴とする液相拡散接合用金属部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂で表面を保護されたインサート金属が、固定されている液相拡散接合用金属部材に関する。
【背景技術】
【0002】
拡散接合は、接合すべき複数の被接合材を密着させ、被接合材の融点以下の温度条件で、塑性変形をできるだけ生じない程度に加圧して、被接合面間に生じる原子の拡散を利用して接合する方法であり、通常の溶融溶接が極めて困難な金属材の接合や、異種金属材の接合、高精度な面接合が必要な場合等に広範に用いられている。
拡散接合の1手法である液相拡散接合とは、接合する部材の被接合面の間に、融点降下元素を含み被接合母材よりも低融点の金属であるインサート金属を挟み、加圧した状態でインサート金属が溶融する温度に加熱保持してインサート金属を液化し、インサート金属中の融点降下元素の被接合母材への拡散と、それに伴う液相の融点上昇で等温凝固させることにより接合する接合方法である。
【0003】
液相拡散接合は、通常の溶融溶接法に比べて種々の長所を有するため、金属材の新しい工業的接合技術として広く普及しつつある。その長所とは、例えば、(1) 拡散現象により、元素の相互拡散が進行し、均質な接合継手を形成できる、(2) 通常の溶融溶接法より低い入熱量でインサート金属中の原子が容易に拡散し接合できるため、熱膨張や収縮に伴う残留応力が接合部に殆ど生じない、(3) 通常の溶融溶接法のように溶接部の余盛りが発生しないため、接合表面が平滑で、精密な接合継手を形成できる、(4) 面接合のため被接合面の面積に依存することなく接合時間が一定で、比較的短時間で接合が終了する、等が挙げられる。
【0004】
この液相拡散接合において、被接合面の合わせ部には、開先と呼ばれる溝が加工される。開先は、通常、溝断面が、I形、V形、レ形、X形、U形、K形、J形、両面J形、又はH形となるように、少なくとも一方の被接合面の形状を加工することにより形成される。液相拡散接合における開先の役割は、被接合面の位置合わせ精度を高め、加熱中に接合部に生じる金属酸化物や分解ガス等の排出路を提供することで欠陥発生を抑止し、更に、被接合面とインサート金属との接触面積を十分に確保し接合面積を大きくすることで十分な接合強度を確保すること、等である。
液相拡散接合において、複数の被接合材(母材)の被接合面の間にインサート金属を挟む方法としては、接合前に、インサート金属を少なくとも一つの被接合面に固定してからその被接合面と他の裸の被接合面を合わせるか、又は、裸の被接合面どうしを合わせて作った開先にインサート金属を挿入してから加圧する場合が殆どである。
【0005】
一方、液相拡散接合では、インサート金属の被接合面への固定に際し、幾つかの課題があり、中でも重要な課題は、以下の(A)、(B)である。
(A)接合前に、インサート金属が、被接合材(母材)の被接合面の形状に合わせて正しく載置されないと、接合不良が生じる。インサート金属の被接合面への固定方法は、既に述べたように、接合前に、インサート金属を少なくとも一つの被接合面に固定してからその被接合面と他の裸の被接合面を合わせるか、又は、裸の被接合面どうしを合わせて作った開先にインサート金属を挿入してから加圧する場合が殆どである。従って、薄箔形状の場合が多いインサート金属を、被接合材(母材)の被接合面の形状に合わせて接合前に正しく載置し、振動や接触等でずれたり脱落しないよう固定しなければならない。インサート金属が正しい載置位置からずれて、被接合面どうしを合わせた時に被接合面間に不適正な隙間が生じたり、インサート金属が開先に正しく挿入、載置されていない場合、接合中に溶融したインサート金属が開先に適正に充填されず、結果として接合不良となる。また、インサート金属が開先から脱落した状態で接合すると、インサート金属中の原子が拡散接合に寄与しないため接合不良となるだけでなく、接合そのものができないこともある。
(B)被接合面上のインサート金属が損傷、表面汚損していたり、不適正に変形していると、接合不良が生じる。インサート金属を被接合材(母材)の被接合面に固定してから被接合面どうしを合わせて加圧するまでの間、特に、インサート金属が固定された被接合材の運搬や保管の際に、インサート金属の破損、変形や傷付き、表面の汚損や異物付着等を防止しなければならない。インサート金属表面のこのような品位低下は、接合中のインサート金属の溶融不良や、接合面間への溶融金属の充填不良等を誘引し、結果として接合不良となる。
【0006】
これらの課題を補う技術が、これまでに幾つか提案されている。インサート金属を被接合材(母材)の被接合面に正しく載置、固定する方法として、例えば、接合時の加熱により分解消失する接着剤や粘着剤の塗布、スポット溶接、又は磁気吸着のいずれかの方法により、拡散接合される被接合材の被接合面にインサート金属を固定する方法が提案されている(特許文献1参照)。また、被接合面にインサート金属の箔を固定する代わりに、インサート金属成分を含む薄膜をめっきや物理蒸着等の手段で被接合面に形成する方法が提案されている(特許文献2、3参照)。更に、インサート金属を被接合面に固定し、同時にその表面を保護する方法として、接合時の加熱により分解消失する樹脂膜等で被接合面上のインサート金属を覆い、インサート金属が被接合面からずれないよう、膜に張力を加えてインサート金属を被接合面に押付けた状態で被接合材に接着剤等で固定する方法も提案されている(特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平4−75736号公報
【特許文献2】特開平6−218559号公報
【特許文献3】特開2007−245176号公報
【特許文献4】特開平11−33748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1〜3では、インサート金属の表面が保護されていないため、インサート金属を被接合面に固定してから被接合面どうしを合わせて加圧するまでの間、例えば、インサート金属を被接合面に固定した被接合材の運搬中、保管中、接合作業中に他物が接触すれば、インサート金属の破損、変形や傷付き、表面への異物付着等のような品位低下が生じ、接合品質が低下するという問題があった。特許文献2、3では、更に、インサート金属成分を含むめっき膜や物理蒸着膜の形成にコストが嵩むこと、及び、めっき膜や物理蒸着膜の厚膜化には限界があり、開先の溝幅に合うようにこれらの膜厚を調整し、インサート金属が適正に充填されない不良部位を皆無にすることが難しいという問題があった。薄い箔状のインサート金属を被接合面に固定する方法では、インサート金属を安価に被接合面に設けることができ、かつ、薄箔の重ね枚数を増やせばインサート金属の厚みを十分に確保できるが、このような金属箔を被接合面に固定する方法に比べ、特許文献2、3による方法は、コストやインサート金属厚の調整自由度の点で著しく劣っていた。
上記特許文献4では、樹脂膜等で被接合面上のインサート金属を覆い、樹脂膜に張力を加えて固定する工程が煩雑であり、しかも、たとえ厚が数十〜数百μmの比較的厚くて強靭な樹脂膜であっても、経時により樹脂膜に加わる張力が応力緩和現象により低下し、僅かな振動や衝撃により、インサート金属が正しい配置からずれる可能性が高いという欠点があった。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、液相拡散接合により接合すべき面に設けられたインサート金属表面を被覆する樹脂組成物が優れた耐擦傷性を発現し、さらに同インサート金属の前記接合すべき面への接着性を発現し、かつ、液相拡散接合時の高温加熱により分解し接合部に残存しないため、接合後の接合部が母材と同等品質となるような、液相拡散接合用金属部材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、硬質で耐擦傷性に優れ、かつ被接合面に固定できる保護膜について鋭意検討を行った。その結果、熱又は活性エネルギー線にて架橋反応しうる樹脂組成物を用いれば、インサート金属の十分な表面保護と被接合面への固定を同時に達成できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明の態様は、
(1) 金属部材同士を液相拡散接合する際に用いる液相拡散接合用金属部材であって、該液相拡散接合用金属部材の液相拡散接合面に、インサート金属が固定されると共に、該インサート金属の表面が樹脂層で被覆されてなることを特徴とする液相拡散接合用金属部材、
(2) 前記樹脂層を構成する樹脂が、架橋反応性官能基を有する樹脂を含む樹脂組成物である(1)に記載の液相拡散接合用金属部材。
(3) 前記樹脂を構成する樹脂が、熱硬化型樹脂組成物である(1)又は(2)に記載の液相拡散接合用金属部材、
(4) 前記樹脂層を構成する樹脂が、エポキシ系樹脂と硬化剤を含む樹脂組成物である(1)〜(3)のいずれかに記載の液相拡散接合用金属部材、
(5) 前記樹脂を構成する樹脂が、ポリオール樹脂とポリイソシアネートを含む樹脂組成物である(1)〜(4)のいずれかに記載の液相拡散接合用金属部材、
(6) 前記樹脂層を構成する樹脂が、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物である(1)〜(5)のいずれかに記載の液相拡散接合用金属部材、
(7) 前記樹脂層を構成する樹脂が、下記一般式[1]又は[2]で示される燐酸エステル化合物、あるいは、エチレン性二重結合基を有する樹脂の少なくとも一方を含有するラジカル反応型活性エネルギー線硬化型樹脂組成物である(1)〜(6)のいずれかに記載の液相拡散接合用金属部材、
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、sは2〜12の整数を示し、mは0〜5の整数を示し、aは1〜3の整数を示し、bは0〜2の整数を示し、cは0〜2の整数を示し、かつ、a+b+c=3である。)
【化2】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、tは2〜4の整数を示し、nは1〜10の整数を示し、aは1〜3の整数を示し、bは0〜2の整数を示し、cは0〜2の整数を示し、かつ、a+b+c=3である。)
(8) 前記樹脂層を構成する樹脂が、オキセタン基を1個以上有する化合物とグリシジル基を1個以上有する化合物を含有するカチオン反応型活性エネルギー線硬化型樹脂組成物である(1)〜(6)のいずれかに記載の液相拡散接合用金属部材、
(9) 前記インサート金属の固定が、(2)〜(8)のいずれかに記載の樹脂組成物で接着してなることである(2)〜(8)のいずれかに記載の液相拡散接合用金属部材、
(10) 前記液相拡散接合用金属部材の材質が、鋼である(1)〜(9)のいずれかに記載の液相拡散接合用金属部材、
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、液相拡散接合すべき面に設けられた樹脂組成物被覆インサート金属が、優れた耐擦傷性と前記接合すべき面への接着性を発現し、かつ、該樹脂組成物が液相拡散接合時の高温加熱により分解し接合部に残存しないため、接合後の接合部が母材と同等品質となるような液相拡散接合用の金属部材を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の液相拡散接合用金属部材は、前記金属部材を液相拡散接合する際に接合面に挟む液相拡散接合用のインサート金属を、予め少なくとも一方の被接合面に設けた金属部材である。前記インサート金属を被覆しうる樹脂組成物は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等を溶剤、反応性希釈剤あるいは水に溶解または分散した液体を用いることができる。
【0013】
本発明の被接合面上のインサート金属を覆う膜に耐擦傷性を付与するためには、被覆用樹脂組成物に架橋反応しうる官能基を導入することが好ましい。これらの架橋反応性樹脂組成物は、主剤と硬化剤の組み合わせ、主剤の骨格の中に反応性官能基を有する自己架橋型樹脂、もしくは自己架橋型主剤と硬化剤の両方の組み合わせで使用でき、必要に応じて、反応に寄与しないイナート樹脂を併用してもよい。
【0014】
本発明の架橋反応性樹脂を硬化反応させるエネルギー源として、熱及び活性エネルギー線を使用することができる。インサート金属の被覆膜への耐擦傷性付与効果の向上、及び被覆膜の架橋反応工程の作業効率向上を考慮すると、これら架橋反応のためのエネルギー源としては、活性エネルギー線が好ましい。以下に本発明の詳細を記載する。
【0015】
<熱硬化型樹脂組成物>
熱により反応する樹脂組成物の例としては、熱硬化型樹脂組成物I;グリシジル基を有するエポキシ樹脂と硬化剤の組み合わせ、及び熱硬化型樹脂組成物II;ポリオールとポリイソシアネートとの組み合わせが挙げられる。
【0016】
<熱硬化型樹脂組成物I>
熱硬化型樹脂組成物Iにおけるグリシジル基を有するエポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、クレーゾールノボラック型等の芳香族系エポキシ樹脂、あるいはこれら水添反応したフェノールにグリシジル基を付与した水添型エポキシ樹脂、あるいは、ヘキサンジオール、トリメリロール等のポリオールにグリシジル基を導入した脂肪族エポキシ樹脂、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4エポキシシクロヘキサンカルボネート等の脂環式エポキシ樹脂、トリグシジルシアヌレート等のイソシアヌル骨格を有したエポキシ樹脂、あるいは、グリシジルメタクリレートを共重合したアクリル樹脂等の既知エポキシ樹脂、あるいは、これらエポキシ樹脂の変性物等の公知のエポキシ樹脂を使用できる。
【0017】
硬化剤としては、アミン化合物として、ジアミン等のアミン化合物、フェノール樹脂として、クレゾール型フェノール、レゾール型フェノール、またはジフェノール酸等のポリフェノール化合物、アミノ樹脂として、メラミン型またはベンゾグアナミン型のアミノ樹脂、金属化合物として、オクチル酸ジルコニウム等の金属化合物、酸無水物として、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸・スチレン共重合体やエチレングリコールビストリメリテート等の酸無水物など公知の硬化剤を使用できる。これらの化合物は、エポキシ樹脂/硬化剤の質量比が60/40〜99/1の範囲で使用できる。
【0018】
硬化剤として使用できる前記金属化合物のうち、酸素との結合力が特に強い金属(例えば、Zr、Si、Ti、Al等)の化合物の多量添加は、拡散接合後の接合部の品質劣化(接合部の強度及び靭性が母材部に比べ低下すること)をもたらす可能性があるため、これらの化合物の添加量は、金属換算で樹脂組成物の20質量%以下、好ましくは10質量%以下、更に好ましくは7質量%以下とする。なぜなら、酸素との結合力が特に強い金属又はそれらの金属を構成元素に持つ化合物が樹脂組成物に多量に存在すると、拡散接合時、接合面で生成したこれらの金属の酸化物系介在物が加圧により十分に排出されずに多く残留し、接合部の強度及び靭性が母材より低くなる可能性があるためである。
また、本発明の熱硬化型樹脂組成物Iでは、硬化剤を硬化するために必要に応じて触媒を併用することができる。
【0019】
本発明の熱硬化型樹脂組成物Iは、無溶剤、あるいは溶剤又は水で希釈して用いることができ、希釈するために用いる溶剤は公知の溶剤を使用することができる。また、溶剤の代わりに水を使用する場合には、エポキシ樹脂の一部のグリシジル基を、カルボシキル基を過剰に有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ビニル変性アルキッド樹脂、ウレタン樹脂、燐酸、多塩基酸等にて変性し、未反応のカルボキシル基を有機アミン等で使用することで水に溶解、乳化することより使用することができる。また、エポキシ樹脂に含まれる2級のヒドロキシル基に無水酸を付加し、一方の酸を有機アミンで中和することにより使用してもよい。
【0020】
<熱硬化型樹脂組成物II>
熱硬化型樹脂組成物IIにおけるポリオールの例としては、アクリル樹脂ポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリウレタンポリオール等が挙げられる。
【0021】
ポリイソシネートの例としては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートやヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネートなどの脂肪族あるいは脂環族ジイソシアネート等が挙げられ、より優れた耐擦傷性を付与するためには3官能のイソシアネート化合物が好ましい。これらポリイソシアネートはMEKオキシム、ラクトン等のブロック化合物を適宜使用して良い。これらはポリオールのヒドロキシル基/ポリイソシアネートのNCOの比が0.8〜1.5の範囲で使用でき、必要に応じてアミン等の触媒を用いて良い。
【0022】
本発明の熱硬化型樹脂組成物IIを希釈するために用いる溶剤は、公知の溶剤を使用することができる。また、溶剤の代わりに水を使用する場合、ポリオールは、樹脂の一部にアニオン性官能基を導入し有機アミンもしくは無機塩で中和する、あるいはノニオン性の官能基を導入することで水性樹脂組成物として使用することができる。ポリイソシアネートは、市販の水性分散ポリイソシネート(例えば、大日本インキ株式会社製 バーノックDNW5000等)を使用することができる。
【0023】
<活性エネルギー線硬化型樹脂組成物>
活性エネルギー線樹脂組成物としては、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物I;ラジカル反応型の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物、あるいは活性エネルギー線硬化型樹脂組成物II;カチオン型反応型の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物が挙げられる。
【0024】
<活性エネルギー線硬化型樹脂組成物I>
活性エネルギー線硬化型樹脂組成物Iにおけるラジカル反応型の活性エネルギー線硬化型樹脂としては、ウレタンアクリレート樹脂、アクリル樹脂のカルボキシル基にグリシジルメタクレートを導入したアクリルアクリレート、ビスフェノール型、クレーゾールノボラック型等の芳香族系エポキシ樹脂、これら水添反応したフェノールにグリシジル基を付与した水添型エポキシ樹脂、あるいはヘキサンジオール、トリメリロール等のポリオールにグリシジル基に(メタ)アクリレートを導入した脂肪族エポキシ樹脂に(メタ)アクリレートを導入したエポキシアクリレート、マレイミド樹脂等の公知の樹脂を使用することができる。
【0025】
本発明において更に好ましいラジカル反応型の活性エネルギー線硬化型樹脂としては、金属に対するより優れた接着性を付与しうる、下記一般式[1]又は[2]で示されるエチレン性二重結合基を有する燐酸エステル化合物(A)が挙げられる。
【0026】
【化3】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、sは2〜12の整数を示し、mは0〜5の整数を示し、aは1〜3の整数を示し、bは0〜2の整数を示し、cは0〜2の整数を示し、かつa+b+c=3である。)
【0027】
【化4】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、tは2〜4の整数を示し、nは1〜10の整数を示し、aは1〜3の整数を示し、bは0〜2の整数を示し、cは0〜2の整数を示し、かつa+b+c=3である。)
【0028】
本発明の塗料組成物中、燐酸エステル化合物(A)の配合量は、当該塗料組成物の総固形分に対して、1〜30質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましい。上記範囲内であると、特に金属基材への密着性が向上する。
【0029】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物Iは、本発明の効果を損なわない範囲で、上記燐酸エステル化合物(A)以外の、一分子中に1つ以上のエチレン性不飽和二重結合を有する燐酸エステル化合物(A’)を含有してもよい。
燐酸エステル化合物(A’)としては、例えば、一般式[1]で表される化合物中の燐酸モノエステル化合物又は燐酸ジエステル化合物と、アルキルモノグリシジルエーテル類、アルキルグリシジルエステル乃至はポリエポキシ化合物との反応物;グリシジルメタクリレート等のエポキシ基と不飽和二重結合とを併せ有する化合物と、燐酸、燐酸モノエステル化合物又は燐酸ジエステル化合物等との反応物等を挙げることができる。
エチレン性二重結合基を有する樹脂(B)の例としては、ウレタンプレポリマーとヒドロキシ(メタ)アクリレートと反応させたウレタンアクリレート、アクリル樹脂のカルボキシル基にグリシジルメタクレートを導入したアクリルアクリレート、ビスフェノール型、クレーゾールノボラック型等の芳香族系エポキシ樹脂、これら水添反応したフェノールにグリシジル基を付与した水添型エポキシ樹脂、あるいはヘキサンジオール、トリメリロール等のポリオールにグリシジル基を導入した脂肪族エポキシ樹脂に(メタ)アクリレートを導入したエポキシアクリレート等の公知の多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0030】
これらの活性エネルギー線硬化型樹脂組成物Iは、反応性希釈剤として、ヘキサメチレンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリントリアクリレート、ジトリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエルスリトールトリアクリレート、ペンタエルスリトールテトラアクリレート、ジペンタエルスリトールヘキサアクリレート等のモノマー及び/又はオリゴマー、又は、これらのモノマー及び/又はオリゴマーのエチレンオキシド(EO)及び/又はプロピレンオキシド(PO)、前記の多官能アクリレートのモノヒドロキシ基含有物とのポリイソシアネート反応物(ウレタンアクリレート)等を使用してもよい。
【0031】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物I(ラジカル反応型活性エネルギー線硬化性樹脂組成物)は無溶剤で使用することができ、適宜、溶剤あるいは水で希釈することが可能である。希釈するために用いる溶剤は公知の溶剤を使用することができる。また、溶剤の代わりに水を使用する場合、燐酸エステル化合物(A)は、塩基性化合物で中和されていることが好ましい。これにより、燐酸エステル化合物(A)が水に溶解又は均一に分散し、白濁、沈殿等のない保存安定性の良い活性エネルギー硬化型塗料組成物が得られる。エチレン性二重結合基を有する樹脂(B)は、樹脂の一部にアニオン性官能基を導入し有機アミンもしくは無機塩で中和する、あるいはノニオン性の官能基を導入することで水性樹脂組成物として使用することができる。また、アニオン基あるいはノニオン基を有したアクリル樹脂、あるいは、界面活性剤にて、ジペンタエリストールヘキサアクリレート、3個以上のエチレン性不飽和結合を有したウレタンアクレート等の多官能モノマー及びオリゴマーを分散した乳化溶液を使用することができる。
【0032】
これらの活性エネルギー線硬化型樹脂組成物Iを硬化させる活性エネルギー線で紫外線を用いる場合、光重合開始剤を配合することが好ましい。光重合開始剤の種類は公知の材料から任意に選ぶことができる。光重合開始剤の添加量も任意に選ぶことができ、例えば、該塗料組成物の総固形分に対し、0.2〜20質量%の範囲であることが好ましく、0.5〜10質量%がより好ましい。また、より好ましい耐擦傷性を有する被覆膜を得るためには、窒素等の不活性ガスの雰囲気下で紫外線硬化することが好ましい。
【0033】
<活性エネルギー線硬化型樹脂組成物II>
活性エネルギー線硬化型樹脂組成物IIのカチオン反応型の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は、少なくともオキセタン基を1個以上有する化合物(C)とグリシジル基を1個以上有する化合物(D)を含む無溶剤あるいは溶剤型活性エネルギー線硬化型樹脂組成物である。
【0034】
本発明のオキセタン化合物(C)はオキセタン環を分子中に少なくとも1個含有する化合物であり、具体例としては、例えば、3−エチル−3−メトキシメチルオキセタン、3−エチル−3−エトキシメチルオキセタン、3−エチル−3−ブトキシメチルオキセタン、3−エチル−3−ヘキシルオキシメチルオキセタン、3−エチル−3−アリルオキシメチルオキセタン、3−メチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(2´−ヒドロキシエチル)オキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(2´−ヒドロキシ−3´−フェノキシプロピル)オキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(2´−ヒドロキシ−3´−ブトキシプロピル)オキシメチルオキセタン、3−エチル−3−[2´−(2´´−エトキシエチル)オキシメチル]オキセタン、3−エチル−3−(2´−ブトキシエチル)オキシメチルオキセタン、3−エチル−3−ベンジルオキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(p−tert−ブチルベンジルオキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−グリシジルオキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)オキシメチルオキセタン、ビス(3−エチルオキセタニル−3−メチル)オキサイド、重合性不飽和基とオキセタン環とを有する化合物[例えば、3−エチル−3−(アクリロイルオキシエチル)オキシメチルオキセタンを一単量体成分とてラジカル共重合してなるオキセタン環を有する共重合体が挙げられる。
【0035】
本発明のグリシジル基を有する化合物〔D〕としては、種々のものが使用できる。例えば、エポキシ基を1個有するエポキシ化合物としては、フェニルグリシジルエーテル及びブチルグリシジルエーテル等があり、エポキシ基を2個以上有するエポキシ化合物としては、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル及びノボラック型エポキシ化合物等が挙げられる。特に本発明では脂環式エポキシ化合物を使用することが好ましく、代表例として、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4エポキシシクロヘキサンカルボネート物等の公知のエポキシ樹脂を使用することができる。
【0036】
この場合、エポキシ基を有する化合物の配合割合としては、上記1〜4個のオキセタン環を有する化合物とエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、5〜95質量部が好ましい。
【0037】
これら樹脂組成物にはビニルエーテル基を有する化合物を添加させることにより、組成物の硬化速度をさらに改善することができる。ビニルエーテル基を有する化合物としては、種々のものが使用できる。例えば、ビニルエーテル基を1個有する化合物としては、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、プロペニルエーテルプロピレンカーボネート及びシクロヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。ビニルエーテル基を2個以上有する化合物としては、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル及びノボラック型ジビニルエーテル等が挙げられる。この場合、ビニルエーテル基を有する化合物の配合割合としては、上記オキセタン環を有する化合物とビニルエーテル基を有する化合物の合計量100質量部に対して、5〜95質量部が好ましい。
【0038】
また、必要に応じて(メタ)アクリロイル基を有する化合物を組成物中に含有させることにより、組成物粘度の調整、組成物の耐擦傷性の改質を行うことができる。(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、種々の前述のエチレン性二重結合基を有する樹脂(B)及び反応性希釈剤を使用できる。(メタ)アクリロイル基を有する化合物の配合割合としては、オキセタン環を有する化合物と(メタ)アクリロイル基を有する化合物の合計量100質量部に対して、5〜95質量部が好ましい。必要に応じて組成物に光ラジカル重合開始剤を配合する。光ラジカル重合開始剤としては、種々のものを用いることができ、好ましいものとしては、ベンゾフェノン及びその誘導体、ベンゾインアルキルエーテル、2−メチル[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、アリキルフェニルグリオキシレート、ジエトキシアセトフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−1−ブタノン並びにアシルホスフィンオキシド等が挙げられる。これらの光ラジカル重合開始剤の含有量は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物に対して0.01〜20質量%であることが好ましい。
【0039】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物IIで使用する光カチオン重合開始剤としては、種々のものを用いることができる。これらの開始剤として好ましいものとしては、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩が挙げられる。
【0040】
<添加剤>
本発明に用いる全ての樹脂組成物は、さらに、必要に応じて、公知の添加剤、たとえば反応に寄与しないイナート樹脂、界面活性剤、可塑剤、ワックス、加水分解防止剤、乳化剤、レベリング剤、消泡剤、抗酸化剤、抗菌剤、シリカ粉末等の無機粉末、染料、顔料等の着色料、防錆顔料、防錆剤等を含有してもよい。但し、前記の無機粉末、顔料等の着色料、防錆顔料、防錆剤等に酸素との結合力が特に強い金属を含む場合は、これらの金属を含む添加物の総量を、金属換算で樹脂組成物の20質量%以下、好ましくは10質量%以下、更に好ましくは7質量%以下とする。なぜなら、酸素との結合力が特に強い金属(例えば、Si、Ti、Al等)又はそれらの金属を構成元素に持つ化合物(例えば、SiO、TiO、ZrO、Al、MgO、CaO等)を樹脂組成物に多量に添加すると、拡散接合時、接合面で生成したこれらの金属の酸化物系介在物が加圧により十分に排出されずに多く残留し、接合部の強度及び靭性が母材より低くなる可能性があるためである。
【0041】
<金属部材>
本発明にて用いる金属部材は、液相拡散接合できるものであれば制限はないが、種々の鋼材、例えば、自動車用部品用鋼、車体構造用鋼、建築構造用鋼、建築用外観意匠鋼材、圧力容器、高温用発電プラント鋼材、地上用タービン材料等に使用する、化学成分に占めるFeの割合が50質量%超である炭素鋼(C:0.01〜0.60質量%の圧延鋼材もしくは鍛造材料)、又は、化学成分に占めるNiの割合が50質量%超であるNi基合金が好適に用いられる。
【0042】
本発明において、液相拡散接合に適用する金属部材は、液相拡散接合が工業的に適用可能であって、かつ十分な接合特性、例えば引張強さ、剪断変形、耐力、圧縮耐力、捻り強さ、疲労強度等、適用しようとする金属部材あるいは合金の種類と用途に応じて選択する必要があり、換言すれば前記用途と特性を考慮することで、多くの適用金属部材種類に対応することが可能である。特に、軽量化のための中空部品の精密接合あるいは異材接合を必要とする自動車用高強度棒鋼や自動車用車体鋼材、建築用の梁、杭、土木建築用途であるトンネル用構造用鋼、施工時の支保抗、高速道路支持架橋の構造体あるいは補助材、内部に圧力流体を保持する圧力容器用鋼、エンジン用各種耐圧部品、回転動力伝達機構である機関の車軸、あるいはそれを構成する鋼構造部品、さらには高温発電プラントにおいて最も高温に曝される耐熱鋼材、ないしは発電タービンの流束−回転運動変換を担う、動翼ないしは静翼、700℃以上の超高温に曝される熱交換器鋼管、排気ガス導出管など、強度を担い、内部搬送流体の保持あるいは漏出のない搬送もしくは貯蔵、継手への応力集中が生じがたい接合構造体を構成する鋼材が考えられ、実際に適用が可能である。
【0043】
液相拡散接合を適用することによって、液相拡散接合の効果が、通常の溶融溶接や拡散接合、あるいは圧接、摩擦接合に対して優位となる接合継手を形成する金属部材への適用が可能であり、本願発明の効果を高める。
【0044】
<インサート金属>
本発明におけるインサート金属は、本発明にて用いる樹脂組成物で被接合面に固定しやすい薄箔状で、被接合面の形状、又は更に開先の溝形状に合わせ裁断、成形した箔が好ましい。例えば、2本の鋼管の突合せ接合の場合、被接合面である管端面が平面であれば、平らな環状箔を用いるのが好ましく、管端面が円錐台状に突出していれば、断面が円錐台形状の環状箔、また、管端面がV形状に突出していれば、断面がV形状の環状箔を用いるのが好ましい。
【0045】
本発明にて用いるインサート金属箔の厚さには特に制限がないが、20μm〜50μmの範囲とするのが好ましい。20μm未満の薄い箔ではインサート金属の量が少ないため、液相拡散接合時に溶融したインサート金属を被接合面全体に十分に供給できず、接合不良となる恐れがある。50μmを超える場合は、箔が硬すぎて上記のような裁断や成形加工が容易にできない懸念がある。
【0046】
本発明では、インサート金属箔を固定すべき被接合面に該インサート金属箔を載置する方法について特に限定せず、また、必要に応じ、被接合面に複数枚を重ねて載置しても差し支えない。例えば、被接合面どうしを合わせる前に被接合面にインサート金属箔を載置する場合、接合すべき複数の被接合材のうち、1つの被接合材の被接合面に載置しても、一部又は全部の被接合材の被接合面にそれぞれ載置してもよい。また、被接合面に既に開先加工が施されている場合、開先面の溝形状、溝幅や接合条件により、1つの被接合面にインサート金属箔を1枚あるいは数枚重ねて載置してもよい。また、開先加工を施した被接合面どうしを合わせてできる開先面の間にインサート金属箔を挿入、載置する場合は、開先面の溝形状、溝幅や接合条件により、開先に1枚あるいは数枚重ねて挿入してもよい。
【0047】
本発明において、本発明の金属部材の被接合面に設けられ樹脂組成物で被覆されているインサート金属の「表面」とは、被接合材(母材)の被接合面に固定されたインサート金属箔の全面のうち、被接合面との合わせ面以外の部位で、かつ、被接合材(母材)で覆われたり隠されたりせず、露出していて肉眼で観察できる部位のことである。このような「表面」は、インサート金属が固定された金属部材やニッケル基合金の運搬や保管の際に、これらの梱包材、収納容器、周辺の器物や他の被接合材などと接触し、破損、変形、傷付き、異物付着などにより品位低下する可能性が高いため、本発明で用いる樹脂組成物で表面を保護する。
【0048】
本発明におけるインサート金属箔は、被接合材(母材)の融点よりも低い、900〜1200℃程度の低融点を有し、箔の体積の50%以上が非晶質である非晶質合金箔が用いられる。900〜1200℃程度の温度で加圧圧接することによって、接合部にてインサート金属箔が均一に溶融すると同時に、加熱溶融で生成した酸化物、及び被接合面やインサート金属に残留していた異物を、溶融金属と共に接合面の外に排出する効果が促進される。
【0049】
本発明における液相拡散接合用のインサート金属の組成は、NiまたはFeを基材とし、拡散原子としてB、P及びCのうちの1種または2種以上を各々0.1〜20.0原子%含有し、更に、接合の際に被接合面間において生成した酸化物を低融点化する作用を持つVを0.1〜10.0原子%含有する合金であることが好ましい。上記インサート金属中のB、P及びCは、液相拡散接合を達成するために必要な等温凝固を実現させるための拡散元素として、あるいは融点を被接合材よりも低くするために必要な元素であり、その作用を十分に得るために0.1原子%以上含有する必要があるが、過度に添加すると、結晶粒に粗大な硼化物、金属化合物、または、炭化物が生成し接合部強度が低下するため、その上限を20.0原子%とするのが好ましい。また、上記インサート金属中のVは、接合時に被接合面間で生成した酸化物あるいは残留酸化物(Fe23)と瞬時に反応し、低融点複合酸化物(V25−Fe23、融点は概ね800℃以下)に変える作用を持ち、接合時の加圧応力により低融点複合酸化物を溶融金属と共に溶融・排出し、接合部の酸化物系介在物を低減する。この作用は、特に酸素濃度0.1体積%以上の酸化雰囲気下で接合する場合に顕著に発揮され、効果を十分に得るためには、Vを0.1原子%以上添加するのが好ましい。一方、Vの添加量が10.0原子%を超えると、V系酸化物が増加するため残留酸化物の全量が却って増加し、また、インサート金属の融点を高め、液相拡散接合を困難とするため、その上限を10.0原子%とするのが好ましい。
【0050】
<開先加工による接合面の形状>
既に述べたように、開先とは、溶接作業を容易にし、又は溶接継手の性能を向上させるため、被接合面に加工される溝のことで、JIS Z 3001(溶接用語)には、「溶接する母材間に設ける溝。グルーブ(groove)ともいう。」と定義されている。開先加工を施された被接合面を合わせることによって特定形状の隙間が形成される。この開先面間の隙間により、接合時に樹脂の分解で発生するガスや樹脂組成物やインサ−ト金属中の添加物に起因する酸化物等が接合面から効率よく且つ確実に排除され、接合部の欠陥が防止される。例えば、2つの被接合材を合わせる場合、JIS Z 3001(溶接用語)に図示されているように、形成される開先面間の隙間形状には特にその断面形状により、I形、V形、レ形、X形、U形、K形、J形、両面J形、及びH形開先等があるが、本発明では、形状を特に限定しない。双方の被接合面とも平面で両平面間に一定の間隔を設けているI形(開先間の隙間断面が英字のI形状のためI形という)、一方が平面、他方の断面がV形状で、平面とV形尖端部とが突合わされるK形(開先間の隙間断面が英字のK形状のためK形という)、双方の接合面とも断面がV形状で、V形尖端部位どうしが突合わされるX形(開先間の隙間断面が英字のX形状のためX形)等が一般的であり、接合目的、被接合材の形状、接合条件等により、適宜選択すればよい。
【0051】
<塗装>
本発明に用いる樹脂組成物をインサート金属に塗布する工程は、従来公知の方法により行うことができ、例えばロールコート、浸漬塗布、スプレー塗装、刷毛塗り、筆塗り、静電塗装等の公知の方法によることができる。
本発明の樹脂組成物のインサート金属への被覆膜の付着量は特に限定しないが、乾燥後の被覆膜の付着量が0.1g/m〜50g/m、好ましくは0.2g/m〜30g/m、より好ましくは0.3g/m〜20g/mの範囲とするのがよい。乾燥後の被覆膜の付着量が0.1g/m未満の場合、インサート金属表面を保護する被覆膜が薄すぎて、インサート金属に十分な耐擦傷性を付与できない恐れがある。また、乾燥後の被覆膜の付着量が50g/mを超える場合、被覆膜が厚すぎて樹脂組成物の量が多くなり、液相拡散接合時の高温加熱によっても完全に分解しない恐れがある。
【0052】
<硬化反応>
本発明に用いる熱硬化型樹脂組成物の熱硬化工程は、風乾、熱風加熱、誘導加熱、近赤外線・遠赤外線等の熱エネルギー線照射、超音波振動加熱等の公知の方法によることができる。熱硬化型樹脂組成物は、官能基の反応性、触媒の活性度によって40〜300℃の温度で架橋反応させることができる。
【0053】
活性エネルギー線硬化型塗料組成物の被覆膜は、紫外線、可視光、電子線、X線等の活性エネルギー線を照射することによって、該被覆膜中の樹脂が架橋して硬化し、硬化被覆膜が形成される。
【0054】
活性エネルギー線としては、紫外線、可視光、電子線、X線等が挙げられ、その中でも紫外線又は電子線の使用が好ましく、紫外線発生・照射設備費やランニングコストが比較的安価であることから、紫外線の使用が特に好ましい。
【0055】
本発明の活性エネルギー線硬化型塗料組成物は、活性エネルギー線を受けることによって組成物中にラジカルまたはカチオンが生成し、連鎖的に架橋し硬化反応が進むので、例えば、被接合材(母材)の被接合面に設けられたインサート金属の表面を覆う塗料組成物や、インサート金属と被接合面の合わせ面の少なくとも一部を覆う塗料組成物の溶媒や水を揮発させ、被覆膜を形成する加熱工程、または更に、被覆膜の硬化反応を促進するための加熱工程、及び、被覆膜を高度に架橋、硬化させ耐擦傷性を高めるための活性エネルギー線の照射工程に、その他の工程を適宜組み合わせて実施することにより、インサート金属の表面や被接合面との合わせ面に被覆膜を形成できる。これらの工程の順序は、特に制限されず、適宜選択し、順序を決めればよい。
【0056】
ここで、インサート金属の「表面」とは、既に述べたように、被接合材(母材)の被接合面に固定されたインサート金属箔の全面のうち、被接合面との合わせ面以外の部位で、かつ、被接合材(母材)で覆われたり隠されたりせず、露出していて肉眼で観察できる部位のことである。被接合面に固定されたインサート金属の「表面」以外の面は露出していないため、この面を被覆する活性エネルギー線硬化型塗料組成物は、空気や不活性ガスなどの雰囲気中を直進する活性エネルギー線を直接受けることができず、活性エネルギー線によるラジカル重合またはカチオン重合が生じない。しかしながら、上記のように、活性エネルギー線の照射工程には、塗布された塗料組成物中の溶媒や水を揮発させて被覆膜を形成する加熱工程や、被覆膜の硬化反応を促進するための加熱工程を伴うため、露出していない面を被覆する活性エネルギー線硬化型塗料組成物は、脱溶媒、脱水によって粘度が著しく増大し、また加熱により樹脂の分子量や架橋度が増大し、結果として被覆膜の凝集力が高まる。その強度は、活性エネルギー線照射による硬化反応後の被覆膜には及ばないものの、殆どの場合、インサート金属と被接合面との合わせ面にて、インサート金属を被接合面に接着固定するに十分な強度である。活性エネルギー線硬化型塗料組成物の種類や、液相拡散接合の条件などにより、インサート金属を被接合面に接着固定する凝集力が不足する場合は、被覆膜の硬化反応を促進するための加熱工程にて、さらに加熱温度を上げたり、加熱時間を長くすればよい。
【0057】
ラジカルによる反応を利用する活性エネルギー線の照射は、空気等の酸素を含む雰囲気中、又は不活性ガス雰囲気中で行うことができる。活性エネルギー線が紫外線又は電子線の場合、紫外線又は電子線を、酸素を含まないか又は低酸素濃度の不活性ガス雰囲気下で前記被覆膜に照射することが好ましい。なぜなら、酸素を含まないか又は低酸素濃度の不活性ガス雰囲気下で紫外線を照射すると、紫外線や電子線の照射により生成した開始ラジカルや成長ラジカルの酸素による消費(酸素阻害)が皆無か又は僅少なため、モノマーや樹脂のラジカル重合による架橋と高分子化を促進でき、その結果被覆膜の架橋度と分子量が増大し、耐擦傷性、耐摩耗性が更に向上するからである。
【0058】
不活性ガスとしては、窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガスの少なくとも1種を含むガス等が挙げられる。これらの不活性ガス中の酸素濃度は、上記の酸素阻害を抑えるため、活性エネルギー線として紫外線を用いる場合は0〜10体積%、また電子線を用いる場合は、0〜0.5体積%と特に低くするのが好ましい。
【0059】
被覆膜に紫外線を照射して硬化させる場合は、光源として、例えばランプパワー(入力電力)が80〜320W/cmの水銀ランプ、メタルハライドランプ等を用い、照射量が20〜2000mJ/cmとなるように紫外線を照射すればよい。
【0060】
被覆膜に電子線を照射して硬化させる場合は、例えば、加速電圧20〜2000KeV、好ましくは150〜300KeVの電子線照射装置を用いて、全照射量が5〜200kGy、好ましくは10〜100kGyとなるように照射すればよい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に述べる。以下において、特に断りのない限り、部は質量部、%は質量%を表す。また、以下の文中、粘度はガードナー粘度を表す。ガードナー粘度は、一般に樹脂合成時に使用するガードナー気泡粘度計を用いて測定される値であり、基準の粘度菅と気泡が上昇する速度を比較することにより粘度を表すものである。ガードナー粘度は、アルファベットで、U−V等と表記され、U−Vの表記は“基準粘度管U”と“V”との中間の粘度を意味する。
【0062】
[ウレタンアクリレート樹脂1(活性エネルギー線硬化型ポリウレタン樹脂)の合成]
窒素導入管、冷却用コンデンサー、温度計、攪拌機を備えた4つ口丸底フラスコに、あらかじめ50℃に加温して融解しておいたメトキシポリオキシエチレン−2−プロピルアミン(分子量=1000),500部を入れ攪拌した。ついで、2−ヒドロキシエチルアクリレート 58部を、内温を45〜50℃に保ちながら約30分で投入した。その後内温を30〜40℃に保ちながら5時間攪拌した。次に、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)42部を内温30〜40℃に保ちながら約30分かけて投入した。投入後内温を30〜40℃に保ちながら1時間攪拌した。赤外分光光度計でイソシアネート基のピークが無いことを確認して、取出した。得られたジオール化合物(a)は常温では殆ど無色で、室温でワックス状に固化した。
次に、窒素導入管、冷却用コンデンサー、温度計、攪拌機を備えた4つ口丸底フラスコに、分子量1000のポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)81部、前記ジオール化合物(a)31部、トリメチロールプロパン21部、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸38部、溶剤としてメチルエチルケトン(MEK)703部、水添MDI(ジシクロヘキシルメタン−4,4’ジイソシアネート)298部を仕込み、70〜75℃において2時間反応させた後、ウレタン化触媒としてオクチル酸第一スズを0.14部加えて更に3時間反応させた。反応溶液中のヒドロキシル基が全てNCOに置き換わった後に、窒素導入管を空気導入管に替えて、アロニックスM−305(東亜合成(株)製) 206部、MEK390部、メトキシキノン0.30部及びtert−ブチルハイドロキノン0.30部を添加した。再び70〜75℃に昇温し1時間反応させた後にオクチル酸第一スズ0.22部を加え8時間反応させてポリウレタン樹脂溶液を得た。この溶液に、トリメチロールプロパントリアクリレート81部投入し、更にトリエチルアミン28部加え中和した後に、純水2211部及び無水ピペラジン28部から成る溶液を30分かけて徐々に加え、40℃で1時間攪拌混合した。サーフィノールAK02(日信化学工業(株)製)2部を加えた後50℃にてメチルエチルケトンを減圧留去して、不揮発分31.0%、固形分酸価19(KOHmg/g)、粘度19cp、ポリオール成分中のトリオール含有量27モル%、不飽和基濃度2.9当量/kg、数平均分子量6000の水性ウレタンアクリレート樹脂1を得た。
【0063】
[被覆用樹脂組成物]
前記合成例で得たウレタンアクリレート樹脂1、及び、下記の各配合成分を用い、表1に従い、配合例1〜5の架橋反応性樹脂組成物を調製した。表1中の数値のうち、%表示以外の数値の単位はすべて質量部である。
【0064】
【表1】

・ エピコート1007:ジャパンエポキシレジン(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を表す。
・ ヒタノール4110:日立化成工業(株)製、クレゾールノボラック型レゾール樹脂を表す。
・ 85%燐酸:関東化学(株)製、試薬1級を表す。
・ アクリディックA801−P:大日本インキ化学工業(株)製、固形分50%、OHV50のアクリルポリオールを表す。
・ デュラネートTRA−100:旭化成ケミカル(株)製、イソシアヌレート型イソシアネート NCO% 23質量%を表す。
・ ニューフロティアBPE4;第一工業製薬(株)製、ビスフェノールA型EO変性エポキシアクリレートを表す。
・ ラロマーTBCH;BASF(株)製、tert−ブチルシクロヘキシルアクリレートを表す。
・ カヤマーPM21:日本化薬(株)製、メタクリロイルオキシ基を有する燐酸エステル化合物[一般式[1]において、Rがメチル基であり、sが1であり、mが1又は2(平均1.5)であり、aが1又は2(平均1.5)であり、bが0であり、cが1又は2(平均1.5)であり、かつa+cが3である化合物の混合物。]を表す。
・ トリエチルアミン;関東化学(株)製、試薬1級を表す。
・ イルガキュア184:チバ・スペシャリティケミカルズ製、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(光重合開始剤)を表す。
・ アロンオキセタンOXT−221:東亞合成(株)製、2官能オキセタン化合物を表す。
・ サイラキュアUVR−6110:ダウケミカル(株)製、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4エポキシシクロヘキサンカルボネートを表す。
・ サイラキュアUVI−6990:ダウケミカル(株)製、スルホニウム系光酸発生剤を表す。
・ メチルエチルトン;関東化学(株)製、試薬1級を表す。
・ イソプロピルアルコール;関東化学(株)製、試薬1級を表す。
【0065】
配合例1は、エポキシ樹脂と硬化剤(フェノール樹脂)の組み合わせである溶剤型の熱硬化型樹脂組成物I、配合例2は、アクリルポリオールとイソシアネートの組み合わせである溶剤型の熱硬化型樹脂組成物II、配合例3は、燐酸化合物、エポキシアクリレート及び反応性希釈剤の組み合わせである無溶剤型の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物I、配合例4は、燐酸化合物、ウレタンアクリレートの組み合わせである水性の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物I、及び、配合例5は、オキセタン化合物とエポキシ化合物の組み合わせである無溶剤型の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物IIである。表1に示す配合例は、溶剤型樹脂組成物(配合例1、2)は固形分濃度が50%、水性塗料(配合例4)は固形分30%、無溶剤型(配合例3、5)は固形分100%となるよう調製した。
【0066】
[液相拡散接合用の金属部材]
(1) 金属部材、接合用インサート金属、被覆用樹脂組成物の組合せ
表2に示す化学成分の鋼材A〜D、ニッケル基合金E、鋼材F、鋼材G、(鋼材Fと鋼材Gは、それぞれ、JIS G 3444に準拠し一般構造用炭素鋼管用として広く使用されている化学成分STK400とSTK490を有する)、表3に示す合金組成の30μm厚の接合用インサート金属a〜c、及び、被覆用樹脂組成物の上記配合例1〜5とを組合せ、液相拡散接合用の金属部材を作成した。表4に、鋼材A〜D、ニッケル基合金E、鋼材F又は鋼材Gのいずれか1種、インサート金属a〜cのいずれか1種と配合例1〜5のいずれか1種とを組合せた試験例1〜17を示す。また、鋼材A、C、Dのいずれか1種と合金Eの異種金属部材の組合せで、更にインサート金属a、配合例4とを組合せた試験例18〜20を示す。比較のため、被覆用樹脂組成物をインサート金属の表面に塗布せず被接合材との合わせ面のみに塗布する試験例21も実施した。
【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
(2) 金属部材の作成
表4の1〜17、21の試験例について、それぞれ、(a) 前記鋼材A〜D、ニッケル基合金E、鋼材F、鋼材Gとそれぞれ同じ化学成分を有する50×130×厚1mmの矩形鋼板又はニッケル基合金板1枚(耐摩耗性、耐溶剤性調査用)と、(b)前記鋼材A〜D、ニッケル基合金E、鋼材F、鋼材Gとそれぞれ同じ化学成分を有する外径300mm×肉厚20mmの鋼管又はニッケル基合金管(液相拡散接合試験用)2本を用意した。インサート金属として、表3に合金組成を示す約30μm厚の接合用インサート金属箔を前記矩形鋼板又はニッケル基合金板(a)と同一の形と大きさ(50×130mm)に切出し、矩形鋼板又はニッケル基合金板(a)の表面に1枚載置し、鋼板と箔の輪郭を合わせてぴったりと重ねた。また、前記鋼管又はニッケル基合金管(b)を管軸に垂直に切断後、切断面を平滑に研磨して得た環状の端面を液相拡散接合の被接合面とし、2本の鋼管又はニッケル基合金管のうち一方の被接合面に、インサート金属として外径300mm×幅20mm×厚30μmの環状の接合用インサート金属箔1枚を載置し、鋼管又はニッケル基合金管の被接合面と箔の輪郭を合わせてぴったりと重ねた。
試験例1〜17では、前記金属部材(a)又は(b)の上に重ねたインサート金属箔の表面、インサート金属箔の端部及びその周囲の金属部材表面に、配合例1、2、3、4又は5の被覆用樹脂組成物を刷毛又は筆にて、乾燥後の被覆膜の付着量が約2g/m、10g/m又は約30g/mとなるよう塗布して被覆膜を形成した。試験例21では、前記金属部材(a)又は(b)の上に重ねたインサート金属箔の端部及びその周辺の金属部材表面に、配合例4の被覆用樹脂組成物を筆にて、被覆膜の付着量が約10g/mとなるよう塗布して被覆膜を形成したが、インサート金属箔の表面には塗布しなかった。試験例1〜17、21にて、金属部材(a)又は(b)の上に重ねたインサート金属箔の端部と、その周辺の金属部材の表面に樹脂組成物を塗布する理由は、金属部材(a)又は(b)とインサート金属箔の合わせ面が作る僅かな隙間に、毛細管現象を利用して、樹脂組成物溶液をインサート金属箔端部から進入させるためである。インサート金属箔の端部とその周囲の金属部材の表面に被覆用樹脂組成物を塗布することにより、金属部材(a)、金属部材(b)、インサート金属箔のいずれについても、合わせ面全体の少なくとも5面積%が樹脂組成物溶液で濡れることを確認した。
次に、試験例18〜20では、前記の外径300mm×肉厚20mmの鋼管又はニッケル基合金管(b)を、鋼材Aと合金E、鋼材Cと合金E、鋼材Dと合金Eのそれぞれの組合せについて1本ずつ用意した(異種金属の液相拡散接合試験用)。これらを管軸に垂直に切断後、切断面を平滑に研磨して得た環状の端面を液相拡散接合の被接合面とし、1対の異種金属部材のいずれか一方の被接合面に、インサート金属として外径300mm×幅20mm×厚30μmの環状の接合用インサート金属箔aを1枚載置し、鋼管又はニッケル基合金管の被接合面と箔の輪郭を合わせてぴったりと重ねた。金属部材(b)の上に重ねたインサート金属箔aの表面、インサート金属箔aの端部及びその周囲の金属部材表面に、配合例4の被覆用樹脂組成物を刷毛又は筆にて、乾燥後の被覆膜の付着量が約10g/mとなるよう塗布して被覆膜を形成した。
試験例1では、熱硬化型樹脂組成物を含む被覆膜を送風式乾燥機で200℃で5分間乾燥し、インサート金属箔の表面と端部、インサート金属箔端部の周囲の金属部材表面、及び金属部材(a)又は(b)とインサート金属箔の合わせ面の一部に熱硬化被覆膜が形成された金属部材を作成した。インサート金属箔の端部、及び金属部材とインサート金属箔の合わせ面の一部に熱硬化被覆膜が存在するため、インサート金属箔は金属部材の被接合部上に保持されていた。
試験例2では、熱硬化型樹脂組成物を含む被覆膜を送風式乾燥機で150℃で30分間乾燥し、インサート金属箔の表面と端部、インサート金属箔端部の周囲の金属部材表面、及び金属部材(a)又は(b)とインサート金属箔の合わせ面の一部に熱硬化被覆膜が形成された金属部材を作成した。インサート金属箔の端部、及び金属部材とインサート金属箔の合わせ面の一部に熱硬化被覆膜が存在するため、インサート金属箔は金属部材の被接合部上に保持されていた。
試験例3、5、12、13では、紫外線照射装置にて、120W/cm高圧水銀灯を用い、コンベア速度10m/分(照射量:260mJ/cm)で活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を硬化させることにより、紫外光を受光したインサート金属箔の表面と端部、インサート金属箔端部の周囲の金属部材表面に紫外線硬化被覆膜が形成された金属部材を作成した。インサート金属箔端部に紫外線硬化被覆膜が存在するため、インサート金属箔は金属部材の被接合部上に保持されていた。
試験例4、6〜11、14〜20では、送風乾燥機で80℃で20分間乾燥し水分を除いてから、窒素ガスパージ式紫外線照射装置にて、120W/cm高圧水銀灯を用い、コンベア速度10m/分(照射量:260mJ/cm)で硬化させることにより、紫外光を受光したインサート金属箔の表面と端部、インサート金属箔端部の周囲の金属部材表面に紫外線硬化被覆膜が形成された金属部材を作成した。このとき、不活性ガスとしては窒素を用い、紫外線照射装置内の酸素濃度は5〜10体積%となるように調整した。インサート金属箔端部に紫外線硬化被覆膜が存在し、かつ、金属部材とインサート金属箔の合わせ面の一部に、十分に乾燥しやや硬質化した紫外線未受光被覆膜が存在するため、インサート金属箔は金属部材の被接合部上に保持されていた。試験例21においても、試験例4、6〜11、14〜20の場合と同じ水分乾燥条件、紫外線照射条件で、インサート金属箔の端部及びその周辺に紫外線硬化被覆膜が形成された金属部材を作成し、インサート金属箔が金属部材の被接合部上に保持されていることを確認した。
【0071】
[液相拡散接合]
試験例1〜21のすべてについて、前記の2本の鋼管又はニッケル基合金管を用いて液相拡散接合を行った。鋼管又はニッケル基合金管のうち一方は、被覆膜が形成された接合用インサート金属箔を被接合面に有する鋼管又はニッケル基合金管、他方は、接合用インサート金属箔が被接合面にない鋼管又はニッケル基合金管である。これらの鋼管又はニッケル基合金管の被接合部を突き合わせ、押付応力5MPaで加圧し、大気中で高周波誘導加熱により被接合部を加熱した。加熱時の昇温速度を約5℃/秒とし、1200℃に到達後10分間保定し、その後、鋼管又はニッケル基合金管を高周波誘導炉から取出し、大気中で放冷した。
【0072】
[性能評価]
試験例1〜17、及び21について、前記矩形鋼板又はニッケル基合金板(a)から得た金属部材の被覆膜に対し、スチールウール摺動試験、耐溶剤性試験(機械ラビング試験)、及び、前記鋼管又はニッケル基合金管(b)から得た液相拡散接合後の金属部材について引張試験を以下の手順で行った。その結果を表5に示す。
なお、スチールウール摺動試験は、上記金属部材上の被覆膜の耐擦傷性と、インサート金属箔の金属部材への接着性を評価するための試験、耐溶剤性試験は被覆膜の耐溶剤性を評価するための試験、また、引張試験は、液相拡散接合後の金属部材の接合部の継手強度を評価するための試験である。
【0073】
(1) スチールウール摺動試験
試験例1〜18のすべてについて、前記矩形鋼板又はニッケル基合金板(a)から得た鋼板又はニッケル基合金板(被覆膜が形成された接合用インサート金属箔が表面に載る鋼板又はニッケル基合金板)を被験材として、ラビングテスター:I型(太平理化工業(株)製)のヘッドに、スチールウール(#0000)を取り付け、4.9N/cmの荷重をかけて5回往復摺動し(摺動距離50mm、往復速度40往復/分)、摺動部位の状態を目視観察することにより、耐擦傷性を以下の基準で判定した。
Exellent:摺動傷が殆ど無く、摺動跡が殆ど判別できない。
Good :表面に摺動による浅く微細な傷が見られるが、深い傷(インサート
金属箔表面に被覆膜がある場合は、被覆膜を貫通しインサート金属箔表面に達する傷)はない。
Fare :上記の深い傷が少なくとも1本あり、深い傷の合計は、摺動領域の
10面積%未満。
Poor :上記の深い傷の合計が摺動領域の10面積%以上。

また、インサート金属箔の矩形鋼板又はニッケル基合金板(a)への接着性は、スチールウール摺動中に生じる鋼板又はニッケル基合金板の面方向のせん断力により、インサート金属箔が剥がれるか否かで判定した。
【0074】
(2) 耐溶剤性試験(機械摺動試験)
矩形鋼板又はニッケル基合金板(a)から得た試験例1〜17の鋼板又はニッケル基合金板を被験材として、ラビングテスター:I型(太平理化工業(株)製)のヘッドに、脱脂綿0.8gを4.5×3.5cmのガーゼで包む様に取り付け、溶剤(エタノール又はMEK)を含ませ、300gの荷重をかけて10回往復摺動し、摺動部位の状態を目視観察することにより、耐溶剤性を以下の基準で判定した。
Exellent:インサート金属箔表面の露出部分が全く無く、摺動跡が殆ど判別で
きない。
Good :インサート金属箔表面の露出部分はないが、摺動跡が認められる。
Fare :インサート金属箔表面に達している痕跡がある。
Poor :被覆膜が剥がれ下地が露出している。

耐エタノール性は、上記耐溶剤試験の溶剤に試薬1級エタノールを使用した試験、また、耐MEK性は、上記耐溶剤試験の溶剤に試薬1級メチルエチルケトンを使用した試験である。
【0075】
(3) 引張試験
液相拡散接合した前記鋼管又はニッケル基合金管(b)の接合部をほぼ中央部とする円弧状引張試験片(JIS Z 2201に準拠した12号試験片)を切出し、試験片平行部の歪み増加率20%/分にてJIS Z 2241に準拠した引張試験を行い、その結果を、母材と接合継手の相対引張強度比(接合継手/母材)で示した。
【0076】
【表5】

【0077】
表5に試験結果を示す。
インサート金属の表面と端部、箔端部の周囲の金属部材表面に架橋反応性樹脂組成物を塗布した試験例1〜17の被覆インサート金属は、樹脂組成物を塗布していない試験例21のインサート金属に比べ、耐スチールウール性による耐擦傷性が優れていた。また、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物(試験例3〜5)の耐スチールウール性は、熱硬化型樹脂組成物(試験例1、2)のそれに比べ良好な結果が得られた。即ち、耐擦傷性は、インサート金属を架橋反応性樹脂組成物の硬化膜で覆うことにより付与することが可能であり、架橋反応性樹脂組成物の硬化手段を活性エネルギー線とした方がより優れた結果をもたらした。また、試験例1〜17、21のいずれの場合でも、押付力4.9N/cmのスチールウール摺動で強いせん断力を受けてもインサート金属が脱落しなかった。
耐溶剤性は、試験例1〜17とも、十分なことを確認した。
引張試験においては、試験例1〜17、21のいずれの場合も接合部でなく母材部で破断し、母材と接合継手の相対引張強度比(母材/接合継手)は1以上となった。即ち、いずれの場合も、母材成分を問わず接合部は母材同等以上の強度を有し、被覆膜の構成成分や大気中酸素による接合部の品質劣化がなく、構造部材として十分なものであることを確認した。
試験例18〜20(異種金属接合)では、前記鋼管又はニッケル基合金管(b)から得た液相拡散接合後の金属部材について、引張試験のみを前記と同じ手順で行った。その結果、いずれの場合も接合部でなく、組合せた異種金属のうち低強度側の母材部で破断し、その母材と接合継手の相対引張強度比(母材/接合継手)は1以上となった。即ち、いずれの場合も、異種金属の組合せや母材成分を問わず、接合部は低強度側の母材同等以上の強度を有し、被覆膜の構成成分や大気中酸素による接合部の品質劣化がなく、構造部材として十分なものであることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明による液相拡散接合用の金属部材は、被接合面に設けられた樹脂組成物被覆インサート金属が被接合面に接着保持されており、かつ優れた耐擦傷性を有するため、運搬、保管や接合準備作業中等に他の硬い物が前記インサート金属に接触しても、インサート金属の脱落、破損、変形や傷付き等、接合不良をもたらす品位低下を防止できる。加えて、前記金属部材の被接合部を覆う架橋反応性樹脂組成物が接合時の高温により分解、散逸し、接合部に悪影響を与えず、母材同等以上の接合部強度をもたらすため、本発明による金属部材は、強度を担い、内部搬送流体の保持あるいは漏出のない搬送もしくは貯蔵などを目的とし、継手への応力集中が生じがたい接合構造体を構成する金属部材、例えば、自動車用部品、車体構造、建築構造、建築用外観意匠材、圧力容器、高温用発電プラント、地上用タービン等への適用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材同士を液相拡散接合する際に用いる液相拡散接合用金属部材であって、該液相拡散接合用金属部材の液相拡散接合面に、インサート金属が固定されると共に、該インサート金属の表面が樹脂層で被覆されてなることを特徴とする液相拡散接合用金属部材。
【請求項2】
前記樹脂層を構成する樹脂が、架橋反応性官能基を有する樹脂を含む樹脂組成物である請求項1記載の液相拡散接合用金属部材。
【請求項3】
前記樹脂層を構成する樹脂が、熱硬化型樹脂組成物である請求項1又は2に記載の液相拡散接合用金属部材。
【請求項4】
前記樹脂層を構成する樹脂が、エポキシ系樹脂と硬化剤を含む樹脂組成物である請求項1〜3のいずれかに記載の液相拡散接合用金属部材。
【請求項5】
前記樹脂層を構成する樹脂が、ポリオール樹脂とポリイソシアネートを含む樹脂組成物である請求項1〜4のいずれかに記載の液相拡散接合用金属部材。
【請求項6】
前記樹脂層を構成する樹脂が、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物である請求項1〜5のいずれかに記載の液相拡散接合用金属部材。
【請求項7】
前記樹脂層を構成する樹脂が、下記一般式[1]又は[2]で示される燐酸エステル化合物、あるいは、エチレン性二重結合基を有する樹脂の少なくとも一方を含有するラジカル反応型活性エネルギー線硬化型樹脂組成物である請求項1〜6のいずれかに記載の液相拡散接合用金属部材。
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、sは2〜12の整数を示し、mは0〜5の整数を示し、aは1〜3の整数を示し、bは0〜2の整数を示し、cは0〜2の整数を示し、かつ、a+b+c=3である。)
【化2】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、tは2〜4の整数を示し、nは1〜10の整数を示し、aは1〜3の整数を示し、bは0〜2の整数を示し、cは0〜2の整数を示し、かつ、a+b+c=3である。)
【請求項8】
前記樹脂層を構成する樹脂が、オキセタン基を1個以上有する化合物とグリシジル基を1個以上有する化合物を含有するカチオン反応型活性エネルギー線硬化型樹脂組成物である請求項1〜6のいずれかに記載の液相拡散接合用金属部材。
【請求項9】
前記インサート金属の固定が、請求項2〜8のいずれかに記載の樹脂組成物で接着してなることである請求項2〜8のいずれかに記載の液相拡散接合用金属部材。
【請求項10】
前記液相拡散接合用金属部材の材質が、鋼である請求項1〜9のいずれかに記載の液相拡散接合用金属部材。

【公開番号】特開2009−241111(P2009−241111A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91457(P2008−91457)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】