説明

液面センサ、液面レベル検出方法

【課題】 液体水素の液面レベルを検出することのできる液面センサを提供すること、様々な形態での設置を許容する液面センサを提供すること、外部からの振動等、ノイズ成分が含まれていても、精度良く液面レベルを検出することのできる液面レベル検出方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 液面センサ10の線材20を、MgB2を用いて形成することで、液体水素の液面検出が可能となる。また、シース30を、線材20よりも熱伝導率の低い材料で形成するのが良い。さらに、シース30は、その一部を金属材料で形成し、工作性の向上、変形性の確保を行うのが良い。これにより、液面センサ10の設置形態の自由度を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体水素等の液化ガスの液面レベルを検出するための液面センサ等に関する。
【背景技術】
【0002】
極低温流体である液化ガスの液面レベルを検出するため、超伝導材を用いた液面センサが従来より種々提案されている。
このような超伝導材を用いた液面センサとしては、液化ガス中に挿入した超伝導線材に電流を流したときの抵抗変化を電圧変化として検出することで、液面レベルを検出できるものが代表的である(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−202175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来、超伝導材を用いた液面レベル検出は、液化ヘリウム(沸点4K)を対象としたものしか実用化されてこなかった。
近年、石油燃料の代替エネルギーとして液体水素(沸点20.3K)の利用が注目されているが、液体水素の液面レベルを、超伝導材を用いて検出する技術は未だ見出されていないのが現状である。
【0005】
従来の液体水素用の液面センサとしては、静電容量により液面を検出する静電容量式があるが、この方式は、非常に高価であるという問題がある。
他の方式の液面センサとして、容器壁面に複数の温度センサを間隔を隔てて設置し、個々の温度センサにおいて、検出した温度から容器内が液体状態かガス状態かを判定し、それに基づき液面レベルを検出するというものもある。このような方式は簡易である反面、上記のような静電容量式に比較すると、その検出精度に劣るという問題がある。
他に、液体の静水圧を測定する方式もあるが、密度の小さい液体水素を対象とする場合には、感度が悪いと言う問題がある。
【0006】
ところで、線状の超伝導材(以下、これを線材と称する)は、Ag、Cu等からなるシースで被覆されることがある。実験レベルではなく、製品レベルとして液面センサの耐久性を得るには、シースは不可欠の構成であると言える。
液面センサを用途とする場合、シースを熱伝導率の大きなAgやCuで形成すると、検出精度が低下してしまうという問題が生じる。すなわち、熱伝導率の高いAgやCuでシースを形成すると、液化ガスの温度がシースを伝播しやすいため、実際の液面レベルより上方のレベルの位置までシースが液化ガスと略同じ温度となり、その結果、超伝導材からなる線材では、シースの温度の影響により、実際の液面より上方のレベルを、液面レベルとして検出してしまうことがあるのである。
【0007】
また、超伝導材を用いた液面センサは、超伝導材からなる線材を直線状に設けて使用するのが通常である。このため、例えば、ドーナツ型のクライオスタット(低温容器)等において、超伝導材からなる線材を直線状に設けることが困難な場合には、超伝導材を用いた液面センサを採用するのが難しいケースもあった。特に液体水素の液面センサとしての利用を想定した場合、車両等の各部の限られたスペースに液体水素タンクが設けられる可能性があるため、液面センサとして、設置形態に大きな制限があるのは好ましくない。
【0008】
ところで、液体水素を代替エネルギーとする用途の場合、液体水素は言うまでもなく自動車等の移動体に搭載される。また、ロケットの燃料としても、液体水素が搭載される。これらの場合、液体水素は、移動体やロケットの移動に伴ってその液面レベルが激しく揺れ動く。そこで、液面レベルに振動等のノイズが生じても、精度良く液面レベルの検出を行うことのできる技術の開発が望まれている。
【0009】
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、液体水素等の液面レベルを高精度で検出することのできる液面センサを提供することを目的とする。
また、他の目的は、様々な形態での設置を許容する液面センサを提供することにある。
さらに他の目的は、外部からの振動等、ノイズ成分が含まれていても、精度良く液面レベルを検出することのできる超伝導線材を用いた液面レベル検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的のもと、本発明の液面センサは、液体水素の液面を検出するための液面センサであって、液体水素の沸点で超伝導状態となる超伝導線材と、超伝導線材を被覆するシースと、を備えることを特徴とする。このような超伝導線材の材料としては、MgB2を用いるのが好ましい。上記条件を満足する超伝導線材の材料として、他にLSCO(La2-xSrxCuO4)を用いることができることも、本発明者らは同様に見出した。しかし、MgB2はLSCOに比較して製造価格が安く、製造も容易なため、シースの材料選定の範囲を無用に狭めないためにも、超伝導線材の材料としては、MgB2が適している。
【0011】
本発明は、検出対象液体の沸点で超伝導状態となる超伝導線材と、超伝導線材を被覆し、超伝導線材よりも熱伝導率が低い材料で形成されたシースと、を備えることを特徴とする液面センサ、とすることもできる。このような液面センサでは、シースの熱伝導率が、超伝導線材の熱伝導率よりも低いため、検出対象液体にシースが接触しても、シースの温度が検出対象液体の影響を過度に受けず、超伝導線材で液面を正確に検出することが可能となる。このような液面センサは、その検出対象液体を、液体水素に限るものではなく、液化ヘリウム、液化窒素、液化酸素等の他の液化ガスの液面検出にも適用できる。
シースには、少なくともその一部を金属材料で形成するのが好ましい。シースの端部を金属材料で形成すれば、液面センサを設置する際等に半田付け等の工作を容易に行える。
また、シースの少なくとも一部を、変形可能な材料で形成するのも好ましい。これにより、液面センサが変形を許容するものとなり、その設置形態の自由度が高まる。
検出対象液体が液体水素である場合、超伝導線材は、MgB2から形成するのが好ましく、その場合、シースは、特に、セラミックスおよび/またはステンレス鋼で形成するのが好ましい。このとき、ステンレス鋼は、前記の金属材料、変形可能な材料として機能する。
また、このような液面センサでは、検出対象液体にその一部を浸漬させた状態で、検出部にて超伝導線材に電流を印加し、そのときの電圧を検出することで、液面を検出する。このとき、検出部では、超伝導線材に所定周期で振動する電流を印加して、検出された電圧変化を、フーリエ変換等の解析手法で解析し、印加した電流の振動周波数に対応した成分を抽出することで、液面変化のノイズ成分を除去して検出対象液体の液面レベルを検出することができる。
【0012】
本発明は、液面検出対象となる液体に超伝導線材の一部を浸漬させた状態で、所定周期で振動する電流を超伝導線材に印加するステップと、電流を印加したときの超伝導線材の電圧変化を検出するステップと、検出された電圧変化をフーリエ変換し、電流の振動周波数に対応した成分を抽出するステップと、抽出された成分を逆フーリエ変換するステップと、を有することを特徴とする液面レベル検出方法、とすることもできる。
本発明の液面レベル検出方法は、液面検出対象となる液体を、液体水素に限るものではなく、液化ヘリウム、液化窒素、液化酸素等の他の液化ガスの液面検出にも適用できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液面センサによれば、液体水素等の液面レベルを高精度で検出することが可能となる。
また、本発明の液面センサによれば、液面センサが変形を許容するものとなるので、様々な形態での設置が可能となり、設置の自由度が高まり、超伝導型液面センサの用途を広げることが可能となる。
さらに、本発明の超伝導線材を用いた液面レベル検出方法によれば、外部からの振動等、ノイズ成分が含まれていても、精度良く液面レベルを検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態における液面センサ10の構成を説明するための図である。なお、本実施の形態において、液面センサ10は、液体水素の液面レベルを検出する用途とするが、他の液面検出対象物質、例えば、液化ヘリウム(沸点4K)、液化窒素(沸点77K)、液化酸素(沸点90K)等に対しても、本発明を適用することが可能である。
【0015】
この図1に示すように、液面センサ10は、線材(超伝導線材)20と、線材20の表面を被覆するシース30とから構成されている。このような液面センサ10は、液面検出対象物質、例えば液体水素が貯蔵された容器内に設けられ、所定の電流を流したときの電圧値を検出することで、液面レベルを検出できる。
線材20としては、液面センサ10における液面検出対象物質の沸点の温度で超伝導状態(抵抗セロ)となる材質が選択される。ここで、液面検出対象物質の沸点の温度で超伝導状態となる、とは、沸点の温度で超伝導状態に移行することに限定するものではなく、沸点の温度で超伝導状態にあればよい。本実施の形態において、液面センサ10では、液体水素(沸点20.3K)の液面を検出する。そこで、本実施の形態では、線材20として、MgB2(臨界温度39K)、LSCO(臨界温度20K)を用いるのが好ましい。
【0016】
シース30は、線材20よりも熱伝導率の低い材料で形成するのが好ましい。シース30の熱伝導率が線材20の熱伝導率より高いと、液面検出対象物質の温度がシース30を介して線材20に伝播する間に、シース30自体を伝播し、液面検出精度を低下させるからである。より詳しくは、シース30が連続する方向に伝播した液面検出対象物質の熱(温度)が線材20に伝わる結果、線材20において、液面のレベルを正確に検出できなくなるからである。
線材20にMgB2を用いる場合、温度約20KにおけるMgB2の熱伝導率は、概ね60W/(m・K)である。したがって、この場合、シース30としては、温度約20Kにおける熱伝導率が60W/(m・K)以下の材料を採用するのが好ましく、特に好ましいのは、温度約20Kにおける熱伝導率が10W/(m・K)以下の材料である。また、液面検出対象物質が液体水素以外の場合、液面検出対象物質の液温領域における熱伝導率が、線材20の熱伝導率よりも小さい材料をシース30に採用するのが好ましい。
また、線材20にMgB2を用いる場合、600〜800℃で焼結を行うため、融点がこの焼結温度範囲以上である材料を採用するのが好ましい。
このような条件を満足する材料の具体例としては、線材20にMgB2を用いる場合、ステンレス鋼(温度約20Kにおける熱伝導率:概ね2W/(m・K))、セラミックス、ガラス繊維等がある。
【0017】
また、シース30は、上記条件を満足しつつ、その一部を金属材料で形成するのが好ましい。すなわち、シース30を、セラミックスを主体として形成する場合には、その一部をステンレス鋼で形成するのである。もちろん、シース30全体をステンレス鋼で形成しても良い。
シース30を金属材料で形成する箇所としては、中間部、端部等がある。
図2に示すように、液面センサ10のシース30の端部30aをステンレス鋼で形成することで、液面センサ10の設置・取り付け等を目的とした半田付け等の工作が容易に行える。
【0018】
また、図3(a)に示すように、シース30の中間部をステンレス鋼で形成することで、この部分を、変形を許容する変形部30Sとし、液面センサ10を、この変形部30Sにおいて折り曲げたり湾曲させたりすることが可能となる。さらに、図3(b)に示すように、シース30を、ステンレス鋼からなり変形を許容する変形部30Sと、セラミックス等からなり変形を許容しない非変形部30Yとを、交互に配列するようにして形成することで、液面センサ10を、全体として湾曲させて配置する等が可能となる。
【0019】
上記のように、シース30の一部を金属製として変形可能な構成とすることで、液面センサ10の設置の自由度が大幅に高まる。図4〜図6は、液面センサ10の設置形態の例を示すものである。
図4(a)に示すように、縦置きの容器40Vや、横置きの容器40Hに対し、液面センサ10を略鉛直状態となるように設置する他、図5(a)に示すように、容器40Vの壁面に沿わせて液面センサ10を設置することも可能となる。また、図5(b)に示すように、断面視円筒状(円環状を含む)の容器40Hの壁面に沿わせて液面センサ10を設置することもできる。このようにすると、液面センサ10を壁面に固定できるので、設置・固定が容易であり、また耐振動性に優れる。また、図5(a)、(b)に示す設置形態は、図4(a)、(b)に示す設置形態と比較すると、液中に没して超伝導状態となる部分の長さが倍以上に増えるため、検出感度が向上する。
さらには、図6(a)、(b)に示すように、容器40V、40Hの内壁面に沿ってらせん状に液面センサ10を設けることも可能である。このようにすれば、図5(a)、(b)の設置形態における効果がさらに顕著になり、耐振動性、感度が非常に高くなる。
【0020】
さて、上記のような液面センサ10は、前述したように、液面検出対象物質が貯蔵された容器内に設置される。そして、コントローラ(検出部)50から線材20に所定の電流を流したときの電圧値を検出することで、液面レベルを検出する。
液体水素を搭載する移動体には、燃料電池車両、水素を燃料とする水素内燃車両の他、ロケット等があり、いずれも振動対策が要求される。本実施の形態の液面センサ10は、外部から加わる振動に関わらず、容器内の液体水素の液面レベルを正確に検出するため、図7に示すような検出プロセスを採用している。
図7に示すように、液面センサ10は、検出時に、コントローラ50から所定の周波数fkで振動させた周期的な波形を有した電流Ikを、検出用電流として線材20に流す(ステップS101)。図8は、印加する電流Ikの例である。
【0021】
液面センサ10では、容器内の液面レベルに応じ、線材20が超伝導状態になる領域と、常伝導状態にある領域との長さが異なるため、線材20の電圧Vrを検出することによって電気抵抗を検出し、これに基づいて液面レベルを検知する(ステップS102)。このとき、周期的に振動する電流Ikが印加された線材20において検出される電圧Vrは、図9に示す例のようになる。この電圧Vrの変化には、容器自体の振動等のノイズ成分が含まれている。
本実施の形態の液面センサ10では、コントローラ50にて、検出された電圧Vrの変化を、フーリエ変換(FFT)する(ステップS103)。図10は、フーリエ変換によって得られた波形の例を示す。
【0022】
コントローラ50では、さらに、フーリエ変換により得られた波形から、印加した電流Ikの周波数fkに対応した成分のみを取り出し、それを逆フーリエ変換する(ステップS104、S105)。
逆フーリエ変換により検出電圧Vkを得ることができる。図11は、逆フーリエ変換した結果、得られる検出電圧Vkの波形の例を示す。このようにして得られる検出電圧Vkから、液面レベルを求めることができる(ステップS106)。上記のような処理を行うことで、図9と図11の比較からわかるように、振動等のノイズが除去され、液体水素等の液面レベルを正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施の形態における液面センサの概略構成を示す斜視図である。
【図2】シースの端部を金属材料で形成した液面センサの例を示す斜視図である。
【図3】変形可能な液面センサの例を示す斜視図である。
【図4】液面センサの設置例を示す図である。
【図5】液面センサの設置例の他の例を示す図である。
【図6】液面センサの設置例をさらに他の例を示す図である。
【図7】液面の検出プロセスの流れを示すフローチャートである。
【図8】液面検出のために印加する所定周期で振動させた電流の例である。
【図9】電流を印加したときに得られる検出電圧の例である。
【図10】図9の検出電圧波形をフーリエ変換し、印加した電流の振動周期に対応した成分を抽出する例を示す図である。
【図11】抽出した成分を逆フーリエ変換して得られた検出電圧の例である。
【符号の説明】
【0024】
10…液面センサ、20…線材(超伝導線材)、30…シース、30a…端部、30Y…非変形部、30S…変形部、40V、40H…容器、50…コントローラ(検出部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体水素の液面を検出するための液面センサであって、
液体水素の沸点で超伝導状態となる超伝導線材と、
前記超伝導線材を被覆するシースと、
を備えることを特徴とする液面センサ。
【請求項2】
前記超伝導線材は、MgB2からなることを特徴とする請求項1に記載の液面センサ。
【請求項3】
検出対象液体の沸点で超伝導状態となる超伝導線材と、
前記超伝導線材を被覆し、前記超伝導線材よりも熱伝導率が低い材料で形成されたシースと、
を備えることを特徴とする液面センサ。
【請求項4】
前記シースの少なくとも一部が金属材料で形成されていることを特徴とする請求項3に記載の液面センサ。
【請求項5】
前記シースの端部が前記金属材料で形成されていることを特徴とする請求項4に記載の液面センサ。
【請求項6】
前記シースの少なくとも一部が変形可能な材料で形成されていることを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載の液面センサ。
【請求項7】
前記シースがセラミックスおよび/またはステンレス鋼で形成されていることを特徴とする請求項3から6のいずれかに記載の液面センサ。
【請求項8】
前記超伝導線材は、MgB2からなることを特徴とする請求項3から7のいずれかに記載の液面センサ。
【請求項9】
所定周期で振動する電流を印加したときの前記超伝導線材の電圧変化を検出し、検出された前記電圧変化を解析し、前記電流の振動周波数に対応した成分を抽出することで、液面変化のノイズ成分を除去して前記検出対象液体の液面を検出する検出部、をさらに備えることを特徴とする請求項3から8のいずれかに記載の液面センサ。
【請求項10】
液面検出対象となる液体に超伝導線材の一部を浸漬させた状態で、所定周期で振動する電流を前記超伝導線材に印加するステップと、
前記電流を印加したときの前記超伝導線材の電圧変化を検出するステップと、
検出された前記電圧変化をフーリエ変換し、前記電流の振動周波数に対応した成分を抽出するステップと、
抽出された前記成分を逆フーリエ変換するステップと、
を有することを特徴とする液面レベル検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−234391(P2006−234391A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−45091(P2005−45091)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】