説明

深みぞ玉軸受および軸受装置

【課題】潤滑性に優れた深みぞ玉軸受のトルク損失の低減化を図ることである。
【解決手段】外輪11の軌道溝12と内輪21の軌道溝22間にボール31を組込み、そのボール31を保持器40で保持する。保持器40を内外に嵌合される第1分割保持器41と第2分割保持器42で形成し、その外径の異なる分割保持器41、42の回転によるポンプ作用によって軸受内に潤滑油を強制的に進入させて潤滑性を向上させる。第2分割保持器42の内周と内輪21の外径面間にクリアランス55を形成し、そのクリアランス55の径方向の幅寸法を内輪外径の2.0%以下として、軸受内に進入する潤滑油の進入量をコントロールしてトルク損失の低減を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、外輪と内輪間にボールを組込んだ深みぞ玉軸受およびその深みぞ玉軸受を用いた軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図10に示すように、トランスミッションのファイナルドライブギヤ1の回転をファイナルドリブンギヤ2から、そのギヤ2を支持するデフケース3に伝え、このデフケース3の回転をピニオンシャフト4に固定された一対のピニオン5からこれに噛合するサイドギヤ6a、6bに伝達して、各サイドギヤ6a、6bを支持する左右のアクスル7a、7bに伝達するようにしたディファレンシャルにおいては、前記デフケース3の両端に形成された筒部8a、8bをハウジング9に支持された一対の軸受Bによって回転自在に支持している。
【0003】
上記ディファレンシャルにおいては、デフケース3に支持されたファイナルドリブンギヤ2にヘリカルギヤが採用されているため、ファイナルドリブンギヤ2が回転すると、デフケース3にスラスト荷重が負荷されることになる。
【0004】
このため、デフケース3を支持する軸受Bには、ラジアル荷重とスラスト荷重の両方の荷重を支持することができる軸受を用いる必要がある。
【0005】
円すいころ軸受においては、負荷容量が大きく、スラスト荷重およびラジアル荷重の両方を受けることができるため、デフケース3の支持用軸受に好適である。しかし、円すいころ軸受においては、損失トルクが大きく、燃料の消費量が多くなるという問題がある。その低燃費化を図るため、損失トルクの少ない深みぞ玉軸受が使用されるケースが多くなってきている。
【0006】
ところで、深みぞ玉軸受においては、円すいころ軸受に比較して通油性(潤滑性)に劣り、上記のようなディファレンシャルやトランスミッションのような高荷重下、高速回転下での使用においては、発熱し易く、耐久性に問題がある。
【0007】
そのような問題点を解決するため、特許文献1に記載された深みぞ玉軸受においては、ボールを保持する保持器を、合成樹脂の成形品からなる第1分割保持器と、その第1分割保持器の内側に嵌合されて連結一体化される第2分割保持器とで形成し、軸受回転時に、その第1分割保持器と第2分割保持器の径差に基づく周速の相違によりポンプ作用を生じさせ、そのポンプ作用によって軸受内部に潤滑油を強制的に流動させるようにして潤滑性を向上させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−21661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記特許文献1に記載された深みぞ玉軸受においては、軸受内に対する潤滑油の供給がポンプ作用によるため、進入量が多く、軸受回転時、その潤滑油はボールにより撹拌されて大きな回転抵抗となり、トルク損失が大きく、深みぞ玉軸受の低トルク化を図る上において改善すべき点が残されている。
【0010】
この発明の課題は、潤滑性に優れた深みぞ玉軸受のトルク損失の低減化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、この発明に係る深みぞ玉軸受においては、内径面に軌道溝が形成された外輪と、外径面に軌道溝が形成された内輪と、外輪の軌道溝と内輪の軌道溝間に組込まれたボールおよびそのボールを保持する保持器とからなり、前記保持器が、合成樹脂の成形品からなる円筒形の第1分割保持器と、その第1分割保持器の内側に挿入される合成樹脂製の円筒形の第2分割保持器からなり、前記第1分割保持器の軸方向一側面と第2分割保持器の軸方向他側面に、その両分割保持器を内外に組み合わせた状態でボール保持用の円形のポケットを形成する切欠部を周方向に間隔をおいて設け、前記第1分割保持器と第2分割保持器が円形のポケットを形成する組み合わせ状態で、その両分割保持器を軸方向に非分離とする連結手段を設けた深みぞ玉軸受において、前記第2分割保持器の内径面と内輪の外径面間に形成されるクリアランスの径方向の幅寸法を内輪外径の2.0%以下とした保持器の嵌合により係合して両保持器を軸方向に非分離とする連結手段を設けた構成を採用したのである。
【0012】
また、この発明に係る軸受装置においては、ヘリカルギヤが設けられたシャフトを油浴に一部が浸かる一対の転がり軸受で回転自在に支持した軸受装置において、前記一対の転がり軸受として、この発明に係る上記の深みぞ玉軸受を用いた構成としたのである。
【0013】
上記の構成からなる軸受装置において、シャフトが回転すると、外輪と内輪の相対回転によりボールは自転しつつ公転し、その公転により保持器も回転する。このとき、保持器は、第1分割保持器内に第2分割保持器を組み込んだ構成であって、径の相違により周速が異なるため、ポンプ作用が生じ、そのポンプ作用によって潤滑油が第2分割保持器の内径面と内輪の外径面間に形成されるクリアランスから軸受内に送り込まれることになる。
【0014】
このとき、第2分割保持器の内径面と内輪の外径面間に形成されるクリアランスの径方向の幅寸法は内輪外径の2.0%以下とされているため、上記クリアランスから軸受内に進入する潤滑油の進入量は、クリアランスによりコントロールされて必要最小限の潤滑油が軸受内に供給されることになる。このため、軸受内の潤滑油の撹拌抵抗は小さく、トルク損失も小さいため、シャフトを円滑に回転させることができ、低燃費化に効果をあげることができる。
【0015】
ここで、クリアランスは、第2分割保持器の内周に形成された円筒面と内輪の外径面間に形成されたものであってもよく、あるいは、第2分割保持器の内径面端部に設けられたフランジの内径面と内輪の外径面間に形成されたものであってもよい。さらに、第2分割保持器の内周に設けられたテーパ面の小径端と内輪の外径面間に形成されたものであってもよい。
【0016】
この発明に係る深みぞ玉軸受において、外輪軌道溝の一側の肩および内輪軌道溝の他側の肩の高さを、外輪軌道溝の他側の肩および内輪軌道溝の一側の肩の高さより高くし、上記内輪軌道溝の一側の高さの低い肩の外径面と第2分割保持器の内径面間に前記クリアランスを形成することにより、高さの高い肩へのボールの乗り上げを防止して、その高さの高い肩によって比較的大きなスラスト荷重を受けることができることになり、円すいころ軸受が必要とされていた軸受装置への組込みにきわめて有利な深みぞ玉軸受を得ることができる。
【0017】
この場合、高さの高い肩の高さが必要以上に大きくなると、ボールの組込みができなくなり、また、低くなり過ぎると、ボールの乗り上げが生じる。このため、高さの高い肩の肩高さをH、ボールの球径をdとしたとき、ボールの球径dに対する肩高さHの比率H/dを0.25〜0.50の範囲としておくのがよい。
【0018】
上記のような深みぞ玉軸受の軸受装置への組付けに際しては、内輪の高さの高い肩がヘリカルギヤ側に位置する組込みとし、上記ヘリカルギヤへのトルク伝達によってシャフトに負荷されるスラスト荷重を外輪および内輪の高さの高い肩で受けてボールの乗り上げを防止する。
【0019】
ここで、深みぞ玉軸受の組込み方向に誤りがあると、スラスト荷重を受けることができずに高さの低い肩にボールが乗り上がるおそれが生じる。そこで、第1分割保持器および第2分割保持器における少なくとも一方にスラスト荷重の受け側を示す識別表示部を設けると、誤った組込みを防止することができる。識別表示部は、第1分割保持器と第2分割保持器の色を相違させるようにしたものであってもよい。
【0020】
この発明に係る深みぞ玉軸受において、連結手段として、第1分割保持器の隣接するポケットのポケット爪間に内向きの係合爪を設け、第2分割保持器の隣接するポケットのポケット爪間に外向きの係合爪を設け、第1分割保持器の係合爪を第2分割保持器の外径面に形成された係合凹部に係合し、第2分割保持器の係合爪を第1分割保持器の内径面に形成された係合凹部に係合した構成から成るものを採用することができる。
【0021】
上記のような連結手段の採用において、係合爪と係合凹部の係合部の数を3つ以上とすることにより、第1分割保持器と第2分割保持器とをより確実に結合することができる。
【0022】
また、係合爪と係合凹部間に形成される周方向すきまをボールとポケット間に形成される周方向のポケットすきまより大きくしておくことにより、大きなモーメント荷重が負荷されてボールに遅れ進みが生じ、第1分割保持器と第2分割保持器とが相対的に回転しても、係合爪が係合凹部の周方向で対向する側面に当接することはなく、係合爪の損傷防止に効果をあげることができる。
【0023】
さらに、係合爪と係合凹部間に形成される軸方向すきまをボールとポケット間に形成される軸方向のポケットすきまより大きくしておくことにより、第1分割保持器と第2分割保持器に離反する方向の軸方向力が作用した際に、対向一対のポケット爪の内面がボールの外周面に当接して、係合爪が係合凹部の軸方向端面に当接するというようなことはなく、係合爪の損傷防止に効果をあげることができる。
【0024】
深みぞ玉軸受は、潤滑油により潤滑されるため、第1分割保持器および第2分割保持器は耐油性に優れた合成樹脂で成形するのが好ましい。そのような樹脂として、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド66(PA66)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)を挙げることができる。それらの樹脂のうち、ポリフェニレンスルファイド(PPS)は、他の樹脂に比較して耐油性が優れているため、耐油性を考慮するならば、ポリフェニレンスルファイド(PPS)を用いるのが最も好ましい。
【0025】
また、樹脂材料の価格を考慮するならば、ポリアミド66(PA66)を用いるのが好ましく、潤滑油の種類に応じて適宜に決定すればよい。
【発明の効果】
【0026】
上記のように、この発明に係る深みぞ玉軸受においては、第2分割保持器の内径面と内輪の外径面間に形成されるクリアランスの径方向の幅寸法を内輪外径の2.0%以下としたことにより、必要最小限の潤滑油を軸受内に供給することができ、軸受内の潤滑油の撹拌抵抗が小さくなり、トルク損失の低減を図ることができる。
【0027】
また、この発明に係る軸受装置においては、上記深みぞ玉軸受を用いてシャフトを支持するようにしたので、低燃費化に効果をあげることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明に係る深みぞ玉軸受の実施の形態を示す縦断正面図
【図2】図1の一部分を拡大して示す断面図
【図3】第1分割保持器と第2分割保持器の一部分を示す平面図
【図4】図3に示す第1分割保持器と第2分割保持器の結合状態を示す平面図
【図5】図4のV−V線に沿った断面図
【図6】図4のVI−VI線に沿った断面図
【図7】保持器の他の例を示す断面図
【図8】保持器のさらに他の例を示す断面図
【図9】軸受装置の実施の形態を示す概略図
【図10】ディファレンシャルを示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、この発明の実施の形態を図1乃至図9に基づいて説明する。図1および図2に示すように、深みぞ玉軸受Aは、外輪11の内径面に形成された軌道溝12と内輪21の外径面に設けられた軌道溝22間にボール31を組込み、そのボール31を保持器40で保持している。
【0030】
外輪11の軌道溝12の両側に形成された一対の肩13a、13bのうち、軌道溝12の一側方に位置する肩13aの高さは他側方に位置する肩13bの高さよりも高くなっている。一方、内輪21の軌道溝22の両側に形成された一対の肩23a、23bのうち、軌道溝22の他側方に位置する肩23bの高さは一側方に位置する肩23aの高さより高くなっている。
【0031】
ここで、高さの低い肩13bおよび23aの肩の高さは、標準型深みぞ玉軸受の肩と同じ高さとされている。
【0032】
なお、説明の都合上、高さの高い肩13a、23bをスラスト負荷側の肩13a、23bといい、高さの低い肩13b、23aをスラスト非負荷側の肩13b、23aという。
【0033】
スラスト負荷側の肩13a、23bの肩高さをHとし、ボール31の球径をdとすると、ボール31の球径dに対する肩高さHの比率H/dは、H/d=0.25〜0.50の範囲とされている。
【0034】
保持器40は、第1分割保持器41と、その第1分割保持器41の内側に嵌合された第2分割保持器42とからなる。
【0035】
図3に示すように、第1分割保持器41は、環状体43の軸方向一側面に対向一対のポケット爪44を周方向に等間隔に形成し、各対向一対のポケット爪44間に上記環状体43を刳り抜く2分の1円を超える大きさのポケット45を設けた合成樹脂の成形品からなり、上記環状体43の内径は図2に示すボール31のピッチ円径(PCD)に略等しく、外径は外輪11の高さが高い肩13aの内径と高さの低い肩13bの内径の範囲内とされて、外輪11の高さの低い肩13b側から軸受内に挿入可能とされている。
【0036】
一方、第2分割保持器42は、図3に示すように、環状体48の軸方向他側面に対向一対のポケット爪49を周方向に等間隔に形成し、各対向一対のポケット爪49間に上記環状体48を刳り抜く2分の1円を超える大きさのポケット50を設けた合成樹脂の成形品からなり、上記環状体48の外径は、図2に示すボール31のピッチ円径(PCD)に略等しく、内径は内輪21の高さの高い肩23bの外径と高さの低い肩23aの外径の範囲内とされている。この第2分割保持器42は、高さの低い肩23a側から軸受内に挿入可能とされ、かつ、第1分割保持器41の内側に嵌合可能とされている。
【0037】
図4および図5に示すように、第1分割保持器41と第2分割保持器42の相互間には、内外に嵌り合う嵌合状態において軸方向に非分離とする連結手段Xが設けられている。
【0038】
連結手段Xは、第1分割保持器41の隣接するポケット45のポケット爪44間に内向きの係合爪46を設け、かつ、環状体43の内径面に上記係合爪46と同一軸線上に溝状の係合凹部47を形成し、第2分割保持器42の隣接するポケット50のポケット爪49間に外向きの係合爪51を設け、かつ、環状体48の外径面に上記係合爪51と同一軸線上に係合凹部52を形成し、第1分割保持器41の係合爪46と第2分割保持器42の係合凹部52の係合、および、第2分割保持器42の係合爪51と第1分割保持器41の係合凹部47の係合によって、第1分割保持器41と第2分割保持器42とを軸方向に非分離とする構成とされている。
【0039】
ここで、第1分割保持器41および第2分割保持器42は、深みぞ玉軸受を潤滑する潤滑油に曝されるため、耐油性に優れた合成樹脂を用いるようにする。そのような合成樹脂として、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド66(PA66)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)を挙げることができる。これらの樹脂は、潤滑油の種類に応じて適切なものを選択して使用すればよい。
【0040】
図2に示すように、第2分割保持器42の内径面側は肉盛りされて径方向厚みが第1分割保持器41の径方向厚みより厚くなっている。53は、肉盛りされた増肉部を示し、その増肉部53の内周は円筒面54とされ、その円筒面54と内輪21の高さの低い肩23aの円筒状外径面間にクリアランス55が形成されている。
【0041】
図2のcは、クリアランス55の径方向の幅寸法を示し、その幅寸法cは、内輪21の高さの低い肩23aの外径(標準型深みぞ玉軸受の内輪の外径)Dの2.0%以下とされている。
【0042】
実施の形態で示す深みぞ玉軸受Aは上記の構造からなり、その深みぞ玉軸受Aの組立てに際しては、外輪11の内側に内輪21を挿入し、その内輪21の軌道溝22と外輪11の軌道溝12間に所要数のボール31を組込む。
【0043】
このとき、内輪21を外輪11に対して径方向にオフセットして、内輪21の外径面の一部を外輪11の内径面の一部に当接して、その当接部位から周方向に180度ずれた位置に三日月形の空間を形成し、その空間の一側方から内部にボール31を組込むようにする。
【0044】
そのボール31の組込みに際して、外輪11のスラスト負荷側の肩13aや内輪21のスラスト負荷側の肩23bの肩高さHが必要以上に高い場合には、ボール31の組込みを阻害することになるが、実施の形態では、ボール31の球径dに対する肩高さHの比率H/dが、0.50を超えることのない高さとされているため、外輪11と内輪21間にボール31を確実に組込むことができる。
【0045】
ボール31の組込み後、内輪21の中心を外輪11の中心に一致させてボール31を周方向に等間隔に配置し、外輪11のスラスト非負荷側の肩13bの一側方から外輪11と内輪21間に第1分割保持器41を、その第1分割保持器41に形成されたポケット45内にボール31が嵌り込むようにして挿入する。
【0046】
また、内輪21のスラスト非負荷側の肩23aの一側方から外輪11と内輪21間に第2分割保持器42を、その第2分割保持器42に形成されたポケット50内にボール31が嵌り込むように挿入して、第1分割保持器41内に第2分割保持器42を嵌合する。
【0047】
上記のように、第1分割保持器41内に第2分割保持器42を嵌合することにより、図2、図4および図5に示すように、各分割保持器41、42に形成された係合爪46、51が相手方の分割保持器に設けられた係合凹部47、52に係合することになり、深みぞ玉軸受Aの組立てが完了する。
【0048】
図9は、実施の形態で示す深みぞ玉軸受Aを用いて従動側のヘリカルギヤ56を支持するシャフト57を回転自在に支持した軸受装置を示す。この場合、深みぞ玉軸受Aは、内輪21の負荷側の肩23bがヘリカルギヤ56側に位置する組付けとする。また、深みぞ玉軸受Aは、一部が油浴に浸かる組付けとする。
【0049】
上記軸受装置において、駆動側ヘリカルギヤ58から従動側ヘリカルギヤ56に回転を伝達すると、シャフト57にスラスト力が負荷され、そのスラスト力は深みぞ玉軸受Aにおける内輪21のスラスト負荷側の肩23bと外輪11のスラスト負荷側の肩13aで支持される。
【0050】
このとき、ボール31にもスラスト力が負荷され、内輪21のスラスト負荷側の肩23bと外輪11のスラスト負荷側の肩13aが必要以上に低い場合、ボール31が肩13a、23bに乗り上がり、肩13a、23bのエッジを損傷させる可能性がある。
【0051】
実施の形態では、ボール31の球径dに対する肩高さHの比率H/dを0.25以上としているため、ボール31の乗り上げを確実に阻止することができる。
【0052】
ここで、従動側ヘリカルギヤ56と共にシャフト57が回転すると、深みぞ玉軸受Aにおける内輪21が外輪11に対して相対回転し、ボール31は自転しつつ公転する。その公転により保持器40も回転する。このとき、保持器40は、第1分割保持器41内に第2分割保持器42を組み込んだ構成であって、第1分割保持器41と第2分割保持器42は外径が相違し、その径の相違により周速が異なるため、ポンプ作用が生じる。そのポンプ作用によって潤滑油が第2分割保持器42の内径面と内輪21の肩23aの外径面間に形成されるクリアランス55から軸受内に送り込まれることになる。
【0053】
このとき、クリアランス55の径方向の幅寸法cは内輪21の肩23aの外径の2.0%以下とされているため、上記クリアランス55から深みぞ玉軸受A内に進入する潤滑油の進入量は、クリアランス55によりコントロールされることになって必要最小限の潤滑油が深みぞ玉軸受A内に供給されることになる。このため、深みぞ玉軸受A内の潤滑油の撹拌抵抗は小さく、トルク損失も小さいため、シャフト57を円滑に回転させることができ、低燃費化に効果をあげることができる。
【0054】
ここで、軸受装置の組立てに際し、深みぞ玉軸受Aの組込み方向に誤りがあると、スラスト荷重を受けることができずに高さの低い肩13b、23aにボール31が乗り上がるおそれが生じる。そこで、実施の形態では、図1に示すように、外輪11や内輪21、第1分割保持器41と第2分割保持器42の色を相違させて、その色から深みぞ玉軸受Aの組み込み方向を判別し得るようにしている。
【0055】
実施の形態で示す深みぞ玉軸受においては、第1分割保持器41のポケット45および第2分割保持器42のポケット50の開口端にボール31を抱き込む対向一対のポケット爪44、49を設け、上記第1分割保持器41に形成された対向一対のポケット爪44と第2分割保持器42に設けられた対向一対のポケット爪49を相反する方向に向く組み合わせとし、その組み合わせ状態において、係合爪46、51を係合凹部47、52に係合して、第1分割保持器41と第2分割保持器42を軸方向に非分離としているため、大きなモーメント荷重が負荷されてボール31に遅れや進みが生じても、保持器40は脱落するようなことはない。
【0056】
ここで、図4に示すように、係合爪46、51と係合凹部47、52間に形成される周方向すきま60のすきま量δをボール31とポケット45、50間に形成される周方向のポケットすきま61のすきま量δより大きくしておくことにより、大きなモーメント荷重が負荷されてボール31に遅れ進みが生じ、第1分割保持器41と第2分割保持器42とが相対的に回転しても、係合爪46、51が係合凹部47、52の周方向で対向する側面に当接することはなく、係合爪46、51の損傷防止に効果をあげることができる。
【0057】
また、図4および図5に示すように、係合爪46、51と係合凹部47、52間に形成される軸方向すきま62のすきま量δをボール31とポケット45、50間に形成される軸方向のポケットすきまのすきま量δより大きくしておくことにより、第1分割保持器41と第2分割保持器42に離反する方向の軸方向力が作用した際に、対向一対のポケット爪44、49の内面がボール31の外周面に当接して、係合爪46、51が係合凹部47、52の軸方向端面に当接するというようなことがなくなり、係合爪46、51の損傷防止に効果をあげることができる。
【0058】
図2に示す例においては、第2分割保持器42の内周に円筒面54を形成し、その円筒面54と内輪21の肩23aの外径面間にクリアランス55を形成したが、図7に示すように、第2分割保持器42の内径面端部にフランジ70を設け、そのフランジ70の内径面と内輪21の肩23aの外径面間にクリアランス55を形成してもよい。
【0059】
また、図8に示すように、第2分割保持器42の増肉部53の内周にテーパ面71を形成し、そのテーパ面71の小径端と内輪21の肩23aの外径面間にクリアランス55を形成するようにしてもよい。
【0060】
実施の形態では、外輪11の肩13a、13bおよび内輪21の肩23a、23bの高さが相違する深みぞ玉軸受を示したが、外輪11の肩13a、13bおよび内輪21の肩23a、23bの高さがそれぞれ同じ高さとされた標準型深みぞ玉軸受の外輪と内輪間に図4および図5に示す保持器40を組み込んで、内輪の外径面と第2分割保持器42間にクリアランス55を形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0061】
11 外輪
12 軌道溝
13a 肩
13b 肩
21 内輪
22 軌道溝
23a 肩
23b 肩
31 ボール
40 保持器
41 第1分割保持器
42 第2分割保持器
43 環状体
44 ポケット爪
45 ポケット
46 係合爪
47 係合凹部
48 環状体
49 ポケット爪
50 ポケット
51 係合爪
52 係合凹部
54 円筒面
55 クリアランス
56 ヘリカルギヤ
57 シャフト
60 周方向すきま
61 周方向のポケットすきま
62 軸方向すきま
70 フランジ
71 テーパ面
A 深みぞ玉軸受
X 連結手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径面に軌道溝が形成された外輪と、外径面に軌道溝が形成された内輪と、外輪の軌道溝と内輪の軌道溝間に組込まれたボールおよびそのボールを保持する保持器とからなり、前記保持器が、合成樹脂の成形品からなる円筒形の第1分割保持器と、その第1分割保持器の内側に挿入される合成樹脂製の円筒形の第2分割保持器からなり、前記第1分割保持器の軸方向一側面と第2分割保持器の軸方向他側面に、その両分割保持器を内外に組み合わせた状態でボール保持用の円形のポケットを形成する切欠部を周方向に間隔をおいて設け、前記第1分割保持器と第2分割保持器が円形のポケットを形成する組み合わせ状態で、その両分割保持器を軸方向に非分離とする連結手段を設けた深みぞ玉軸受において、
前記第2分割保持器の内径面と内輪の外径面間に形成されるクリアランスの径方向の幅寸法を内輪外径の2.0%以下としたことを特徴とする深みぞ玉軸受。
【請求項2】
前記第2分割保持器の内周に円筒面を設け、その円筒面と内輪の外径面間に前記クリアランスを形成した請求項1に記載の深みぞ玉軸受。
【請求項3】
前記第2分割保持器の内径面端部にフランジを設け、そのフランジの内径面と内輪の外径面間に前記クリアランスを形成した請求項1に記載の深みぞ玉軸受。
【請求項4】
前記第2分割保持器の内周にテーパ面を設け、そのテーパ面の小径端と内輪の外径面間に前記クリアランスを形成した請求項1に記載の深みぞ玉軸受。
【請求項5】
外輪軌道溝の一側の肩および内輪軌道溝の他側の肩の高さが、外輪軌道溝の他側の肩および内輪軌道溝の一側の肩の高さより高くされ、前記内輪軌道溝の一側の高さの低い肩の外径面と前記第2分割保持器の内径面間に前記クリアランスが形成された請求項1乃至4のいずれかの項に記載の深みぞ玉軸受。
【請求項6】
前記高さの高い肩の肩高さをH、ボールの球径をdとしたとき、ボールの球径dに対する肩高さHの比率H/dを0.25〜0.50の範囲とした請求項5に記載の深みぞ玉軸受。
【請求項7】
前記第1分割保持器および第2分割保持器における少なくとも一方にスラスト荷重の受け側を示す識別表示部を設けた請求項5又は6に記載の深みぞ玉軸受。
【請求項8】
前記識別表示部が、前記第1分割保持器と第2分割保持器の色の相違による請求項7に記載の深みぞ玉軸受。
【請求項9】
前記連結手段が、前記第1分割保持器の隣接するポケットのポケット爪間に内向きの係合爪を設け、前記第2分割保持器の隣接するポケットのポケット爪間に外向きの係合爪を設け、第1分割保持器の係合爪を第2分割保持器の外径面に形成された係合凹部に係合し、第2分割保持器の係合爪を第1分割保持器の内径面に形成された係合凹部に係合した構成から成る請求項1乃至8のいずれかの項に記載の深みぞ玉軸受。
【請求項10】
前記係合爪と係合凹部の係合部の数を3つ以上とした請求項9に記載の深みぞ玉軸受。
【請求項11】
前記係合爪と係合凹部間に形成される周方向すきまをボールとポケット間に形成される周方向のポケットすきまより大きくした請求項9又は10に記載の深みぞ玉軸受。
【請求項12】
前記係合爪と係合凹部間に形成される軸方向すきまをボールとポケット間に形成される軸方向のポケットすきまより大きくした請求項9乃至11のいずれかの項に記載の深みぞ玉軸受。
【請求項13】
前記第1分割保持器および第2分割保持器が、ポリアミド46、ポリアミド66およびポリフェニレンスルファイドの一種からなる請求項1乃至12のいずれかの項に記載の深みぞ玉軸受。
【請求項14】
ヘリカルギヤが設けられたシャフトを油浴に一部が浸かる一対の転がり軸受で回転自在に支持した軸受装置において、
前記一対の転がり軸受が、請求項1乃至13のいずれかの項に記載の深みぞ玉軸受からなることを特徴とする軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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