説明

混合されている胎児−母体供給源からの胎児DNA配列の特異的な増幅

本発明は、混合されている胎児−母体供給源から胎児DNA配列を選択的に増幅する方法を提供する。当該方法は、非栄養膜/胎児DNAを高い割合で含有するDNA混合物から、栄養膜/胎児配列の選択的な増幅を可能にする差次的メチル化を利用する。本発明は、増幅した胎児DNA配列の、異数性検出のための使用方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合されている胎児−母体供給源から胎児DNA配列を選択的に増幅する方法を提供する。当該方法は、非栄養膜/胎児DNAを高い割合で含むDNA混合物から栄養膜/胎児に特異的な配列を選択的に増幅することを可能にする差次的メチル化を利用する。本発明は、増幅した胎児DNA配列の異数性検出のための使用方法も提供する。
【背景技術】
【0002】
多数の研究によって、新生児の全染色体の異数性の発生率は1から2%の間であることが示されている。Hsu,In:A.M.(ed)Genetic Disorders and the Fetus.pp179−248(1998)参照のこと。そのような染色体異常は、胎児罹患率及び胎児死亡率の主な原因であり、かつ、長期生存者における重度の発育遅延の主な原因である。一般的なトリソミーが母性年齢に依存すること及び平均母性年齢が著しく上昇していることを考慮すると、異数性をスクリーニングする重要性は次第に増大していることは明らかである。信頼ができ、安価であり、かつ、非侵襲性の、妊娠の間における異数性の検出方法が非常に必要とされている。
【0003】
異数性試験のための現在用いられている方法は不十分である。現在、絨毛膜標本採取(CVS)又は羊水穿刺による侵襲性の方法が、全ての35歳以上の女性及び異数性の既知のリスクが増大している他の女性にとっての選択肢として存在する。かくして、大半の女性は、これらのカテゴリーに属しないため、侵襲性試験を受けることが無い。大半の乳児は35歳未満の女性に生まれ、250人の35歳女性に約1人のみが羊水穿刺によって発見されるトリソミーを有するため、母性年齢はスクリーニング試験としてあまり機能しなかった。過去20年に亘って、21トリソミー(T21)のための母体血清スクリーニングの効率が大きく改善されている。超音波及び2つの妊娠期間の時点の母体血清を用いる現在の最先端のスクリーニングは、〜95%の感度でT21を検出し、5%の擬陽性を含む。例えば、Wald N.J,,et al.111:521−31(2004)参照のこと。しかしながら、このタイプの試験には3つの主な欠点が存在する。第一に、ダウン症候群の診断を提供するのではなく、むしろダウン症候群の可能性を提供すること。「陽性」の結果は、35歳女性以上に大きなダウン症候群のリスクとして定義される。かくして、陽性の結果を有する大半の女性は、ダウン症候群を実際に検出する場合は1%に満たないと解すべきである。第二に、この試験は21トリソミー及び18トリソミーに限定されている。第三の問題は、95%に過ぎない感度である。このようなスクリーニング試験における95%の感度は、公衆衛生の観点からは非常に大きな値であるが、多数の患者にとっては、5%のT21の検出に失敗する場合を許容することができない。明らかに、より高い陽性の予測値及び感度を有する、非侵襲性の試験はより患者に有用であり、現在存在するスクリーニング方法に直ぐに置き換わり、利用可能となるであろう。
【0004】
約12年前から、母体血液中における各種の系列の胎児細胞の証明は、非常に大きな興奮をもたらした。母体循環系からのその様な細胞の精製技術が開発され、多数の疾患の胎児診断の実現可能性が示された。それにもかかわらず、その様な方法は実用されていない。これは主に胎児細胞の量が少ないこと及びそれらを精製するという困難な問題による。Bianchi,D.W.,et al.,Br.J.Haematol.105:574−83(1999)を参照のこと。
【0005】
多数の最近の文献によって、妊娠初期の早期から出産まで継続して、実際にすべての妊娠において遊離の胎児DNAが母体血漿中に存在することが示されている。Bischosff,F.Z.,et al.,Hum.Reprod.Update11:59−67(2005)を参照のこと。多数の研究によって、胎児の性別が、母体血漿に由来するDNA中のY染色体に特異的な配列の増幅によって決定できることが示されており、他の報告では、胎児のRh血液型遺伝子型を同様に決定できることが示されている。母体血漿中の胎児DNAの絶対量は少なく、妊娠期間及び回収技術に依存する。定量的PCRに基づく概算では、妊娠期間及び他のパラメータに依存して、全血1mlあたり50〜200ゲノム当量の胎児DNAが存在する可能性がある。Bischoff et al.2005 Hum Reprod Update 11:59〜67を参照のこと。母体血漿に由来するDNAの起源は不明確である。母体循環と最も多く接触することから、多数の研究者が、そのDNAは栄養膜に由来するようであると推定している。これの直接的な根拠として、Y染色体異常について胎盤モザイクを同定したただ1つの文献がある。Flori E,et al.,Case report.Hum.Reprod.19:723−4(2004)を参照のこと。母体血漿中の胎児DNAの存在の実証が早期に成功していたにもかかわらず、一般的なトリソミーの存在を決定するような胎児診断には大きな問題が、母体血漿に由来するDNAの使用に伴っている。これは、母体血漿中の胎児DNAが母体DNAとの混合物として存在し、母体成分が一般的により豊富であるという事実による。母体DNAに対する胎児DNAの比は、サンプル及び方法によって、大きく変化するようである。最低で、約1%のDNA量であり、最大ではそれよりも多い。Benachi A,et al.,Clin.Chem.51:242−4(2005)を参照のこと。PCRは非常に少量のDNAを増幅するために使用することが可能であるが、胎児DNAを選択的に増幅する一般的な方法は存在しない。胎児と母体とに共通の配列を増幅する試みのみでは、母体由来の配列を増幅することに成功している。これまでは、胎児配列の選択的な増幅を達成したのは、母体成分に存在しない配列(例えば、Y染色体)に特異的なプライマーの使用によるもののみであった。物理的な分離技術は、血漿由来のDNAの胎児由来の成分の比率を向上するために使用されている。Li Y,et al.Jama 293:843−9(2005);Li Y,et al.Prenat.Diagn.24:896−8(2004a);Li Y.et al.,Clin.Chem.50:1002−11を参照のこと。それにもかかわらず、その様な技術は、これまで、日常的な胎児診断を可能にするために十分な純度の胎児DNAを生産する見込みが無い。
【0006】
妊娠女性の子宮頸部由来のサンプルは、胎児細胞を含有していることを示し、これは、非侵襲性の胎児診断のために使用し得る胎児DNAの他の潜在的な供給源であることを表わす。この話題に対する文献は、2つの課題:1)子宮頸部由来の胎児細胞の回収の信頼性及びそれを改善する方法、及び2)母体細胞という大きなバックグラウンドから胎児細胞を分離するための方法に集中している。各種の胎児診断が子宮頸部サンプル由来の胎児細胞及びDNAを用いて実施されているが、これらの双方には、この着想を日常的に用いるための大きな妨害因子が残存している。最も高い報告されている、母体子宮頸部サンプルから胎児細胞を得ることの成功率は、82%であり、これは生理食塩水点滴の半侵襲性技術を使用した際のみである。Cioni R,et al.,Prenat.Diagn.25:198−202(2005)を参照のこと。形態学的手段(Tutschek B,et al.,Prenat.Diagn.15:951−60(1995);Bussani C,et al.,Mol.Diagn.8:259−63(2004))及び免疫学的手段(Katz−Jaffe M.G.et al.,Bjog 112:595−600(2004))の双方が、母体細胞から胎児細胞を分離するために使用されており、胎児細胞の割合が豊富であることが示されている。しかしながら、これらの方法から得られたDNAは、母体DNAに非常に汚染されているようである。加えて、大きな研究又は体系的な研究は報告されていない。
【非特許文献1】Hsu,In:A.M.(ed)Genetic Disorders and the Fetus.pp179−248(1998)
【非特許文献2】N.J,,et al.111:521−31(2004)
【非特許文献3】Bianchi,D.W.,et al.,Br.J.Haematol.105:574−83(1999)
【非特許文献4】Bischosff,F.Z.,et al.,Hum.Reprod.Update11:59−67(2005)
【非特許文献5】Bischoff et al.2005 Hum Reprod Update 11:59〜67
【非特許文献6】Flori E,et al.,Case report.Hum.Reprod.19:723−4(2004)
【非特許文献7】Benachi A,et al.,Clin.Chem.51:242−4(2005)
【非特許文献8】Li Y,et al.Jama 293:843−9(2005)
【非特許文献9】Li Y,et al.Prenat.Diagn.24:896−8(2004a)
【非特許文献10】Li Y.et al.,Clin.Chem.50:1002−11
【非特許文献11】Cioni R,et al.,Prenat.Diagn.25:198−202(2005)
【非特許文献12】Tutschek B,et al.,Prenat.Diagn.15:951−60(1995);
【非特許文献13】Bussani C,et al.,Mol.Diagn.8:259−63(2004)
【非特許文献14】Katz−Jaffe M.G.et al.,Bjog 112:595−600(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
明らかに、栄養膜(及び胎児)DNAが母体DNAとの混合物である際に、栄養膜(及び胎児)DNA配列の検出及び分析を可能にする方法は非常に有用である。母体血漿又は子宮頸部のいずれかに由来するサンプルを、次いで、母体細胞又はDNAと胎児細胞又はDNAとを大規模に物理的に分離すること無く、胎児の分析のために直接的に使用することが可能であろう。代替的に、胎児DNAの物理的な濃縮方法を、栄養膜/胎児に特異的な増幅と組み合わせて、双方の利点を向上させることが可能であろう。かくして、混合sれている胎児/母体DNA供給源から得られる胎児DNAの選択的な増幅を提供し得る方法が、依然として必要とされている。本発明は、この必要性を満たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、混合されている胎児及び母体DNAサンプルから胎児サンプルを選択的に増幅するための方法であって、混合されている胎児/母体DNAサンプルからDNAを単離する工程;メチル化特異的酵素でDNAを消化する工程;消化したDNAをリンカーとライゲーションする工程;消化したDNAをリンカー媒介(linker−mediated)PCR増幅に供して、増幅したPCR産物を得る工程;増幅産物からリンカーおよびプライマーDNAを除去する工程;増幅したPCR産物を環状化する工程;環状化したPCR産物をエキソヌクレアーゼ消化に供して、全ての非環状化DNAを単独のヌクレオチドに変える工程;その産物を等温ローリングサークル増幅に供して、胎児DNAを選択的に増幅し、胎児DNA由来のメチル化感受性PCR産物(representation)を生じさせる工程を含む方法を提供する。
【0009】
任意のメチル化特異的酵素が使用されて良く、好ましい酵素は、HpyChIV−4、ClaI、AclI、及びBstBIである。好ましい実施態様では、リンカー媒介PCR増幅は、12サイクルで実施する。更に、好ましい実施態様では、エキソヌクレアーゼ消化はBal−31を用いる。
【0010】
本発明は、上述の胎児DNAの選択的増幅方法を用いて、胎児DNA及び全血DNAからメチル化感受性PCR産物を別々に調製する工程、胎児DNA及び全血DNAを標識して、標識した胎児DNAプローブ及び標識した全血DNAプローブを製造する工程;2つの同一のオリゴヌクレオチドアレイに標識したDNAプローブをハイブリダイズさせる工程であって、前記ヌクレオチドのアレイが、所定のメチル化感受性酵素について予測された制限断片に相当する工程;2つのアレイを互いに比較して、胎児DNAプローブにのみハイブリダイズするオリゴヌクレオチドの位置を決定する工程;胎児特異的な複製配列として、工程dに由来するハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドを同定する工程を含む、胎児特異的な複製配列を同定する方法も提供する。他の実施態様では、胎児DNAプローブと全血DNAプローブとを、2つの異なる標識で標識し、標識したプローブのハイブリダイゼーションを1つのアレイで実施することを可能にする。標識は、傾向色素であってよい。
【0011】
好ましい実施態様では、選択的増幅において使用するメチル化感受性酵素はHpyCh4−IVである。
【0012】
好ましくは、胎児DNAは妊娠初期に得られる、より好ましくは、妊娠の約56−84日に得られる。
【0013】
本発明は、上述の方法によって製造される胎児特異的複製配列のライブラリーも提供する。本発明は、胎児特異的複製配列のライブラリーを含むアレイも提供する。
【0014】
本発明は、胎児DNA及び母体DNAの混合物中の胎児DNAの所定の遺伝子座についてのコピー数が、前記所定の遺伝子座における正常なコピー数と比較して低減又は増大しているか測定するための方法も提供する。前記方法は、上述の胎児DNAの選択的な増幅を用いて、試験サンプル及び対照サンプル中の胎児DNAの所定の遺伝子座を選択的に増幅する工程を含む。対照サンプルは、胎児DNAの所定の遺伝子座における正常なコピー数を有する。次に、前記方法は、試験サンプル中の増幅されたDNAの量を対照サンプル中の増幅されたDNAの量と比較する工程;並びに増幅されたDNAの量の減少をコピー数の減少と関連付けるか、又は増幅されたDNAの量の増加をコピー数の増加と関連付ける工程を含む。
【0015】
他の実施態様では、前記比較は、試験サンプルと対照サンプルにおいて同一のコピー数で存在する対照遺伝子座から増幅されたDNAに対して、所定の遺伝子座から増幅されたDNAを標準化することを含む。
【0016】
本発明は、試験サンプルにおいて、所定の遺伝子座のコピー数が、正常なコピー数と比較して減少しているか又は増加しているかを測定するための方法であって、上述の胎児DNAの選択的増幅方法を用いて、試験サンプル中の胎児DNA及び対照サンプル中の胎児DNAを選択的に増幅する工程であって、前記対照サンプルが前記所定の遺伝子座において正常なコピー数を有する工程;工程aに由来する試験サンプル由来のDNA及び対照サンプル由来のDNAを標識で標識して、標識した試験DNAプローブ及び標識した対照DNAプローブを製造する工程;標識した試験DNA及び標識した対照DNAプローブを、上述の胎児特異的複製配列のアレイにハイブリダイズさせる工程;試験DNAプローブと対照DNAプローブとの間でハイブリダイゼーションの量を比較して、シグナル強度を測定する工程;並びにシグナル強度を、試験サンプル中の所定の遺伝子座におけるコピー数の増加又は減少のいずれかに関連付ける工程を含む方法も提供する。
【0017】
他の実施態様では、試験サンプルDNA及び対照サンプルDNAは、2つの異なるプローブで標識され、1つのアレイでハイブリダイゼーションを実施することを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、混合されている胎児−母体供給源からの胎児DNA配列の特異的な増幅のための方法を提供する。一般的には、前記方法は、混合されている胎児−母体供給源からDNAを単離する工程;単離したDNAをリンカー媒介PCRに供する工程;増幅したPCR産物を環状化する工程;エキソヌクレアーゼによる消化の工程;並びに最終的に等温ローリングサークル増幅をする工程を含む。
【0019】
DNAは、混合されている胎児−母体DNA供給源から得られてよい。
【0020】
胎児−母体DNA供給源
絨毛膜標本採取(CVS)及び羊水穿刺などの侵襲性の手法は、胎児診断に使用することが可能な純粋な胎児DNAを提供することが可能である。これらの手法は日常的に使用されているが、関連するリスクを有する。一方、胎児DNAを得るための複数の非侵襲経路(母体血漿に存在する細胞を含まないDNAの回収、及び母体子宮頸部から剥奪した胎児細胞の回収による経路)が存在する。それにもかかわらず、日常的な胎児診断に胎児DNAを使用する試みは、胎児DNAが母体DNAとの混合物中に存在するという事実によって抑制されている。
【0021】
本発明の方法は、胎児DNA及び母体DNAのDNAメチル化における差異を利用して、混合されている胎児/母体DNAサンプルから胎児特異的配列の増幅を提供し、胎児−母体DNA混合物の使用を可能にする。これらのメチル化の差異を利用することによって、本発明は、胎児DNA及び母体DNAの混合物からの胎児配列の選択的増幅方法を提供する。かくして、当該方法は、母体血漿又は子宮頸部標本に由来するDNAに対して、常染色体異常などについての胎児試験を実施する可能性を広げる。
【0022】
上述のように、本発明は、胎児DNAと母体DNAとの間のメチル化の差異に依存するものである。
【0023】
胎児DNA及び母体DNAのメチル化における差異 −栄養膜/胎児DNAの低メチル化
DNAメチル化は、遺伝子発現を変化させることによって細胞機能に影響を与えるエピジェネティックな現象であり、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)によって触媒される、CpGジヌクレオチドにおけるシトシンの5位の炭素に対するメチル基の共有結合性の付加を意味する。DNAメチル化の分析方法は、概して2つのタイプ:全体的なメチル化分析及び遺伝子特異的メチル化分析に分類することができる。哺乳動物のDNAのメチル化状態は、胎児の発生の間に劇的な変化を遂げます。妊娠時に、母性ゲノム及び父性ゲノムの双方が広範に亘ってメチル化されると解されている。最初の数回の細胞分裂の過程において、このメチル化は大部分が「消去」され、次いで、着床時に、新たにメチル化が生じ、大量のメチル化が再び現れる。Bird A,Genes.Dev.16:6−21(2002)を参照のこと。試験されている全ての成人の組織において、高い割合(85%以下)のCpGジヌクレオチドがメチル化される。Gruenbaum Y,et al.,FEBS Lett 124:67−71(1981)を参照のこと。
【0024】
配列がメチル化されているという知識は、現在では基本的なことであり、その多くは、DNAのメチル化及び非メチル化感受性消化の比較などの単純な技術に依存する1980年代に行われた研究に基づく。Bird AP(1980)Nucleic Acids Res.8:1499−504(1980)を参照のこと。遺伝子発現の制御におけるメチル化及びその機能について、現在では興味がもたれている。ゲノムDNAのメチル化についての現在存在する全ての文献は、肝臓又は全血などの胎児又は成人の供給源に由来するサンプルに基づく。今日まで、栄養膜/胎児などの胚体外組織におけるメチル化の体系的な研究は行われていない。プラダ−ウィリ症候群及び脆弱性X症候群などの疾患についての胎児診断を実施する過程において、栄養膜/胎児DNAが、血液、肝臓、又は皮膚に由来するDNAを比較して低メチル化状態である。Iida T.,Hum.Reprod.9:1471−3(1994)を参照のこと。この差異は、メチル化感受性制限酵素を利用するサザンブロットを実施する際に最も明らかである。大半の哺乳動物DNAは、メチル化感受性制限酵素を用いて4塩基の認識配列(例えば、HpaII)で消化される際に、DNAの大多数が高い分子量のままであることが顕著です。断片の平均分子量は約15kbより大きいが、予測されるHpaIIの頻度からは、更により小さい平均断片サイズであることが予測される。その様な消化(図1)を見ると、HpaII部位の少なくとも80%が切断されていないことが推定できるであろう。図において理解することはできないが、より高い割合のアガロースを有するゲルで流した場合には、一方は非常に小さく、他方は非常に大きいという2つの様式のフラグメントの分布が存在することが明らかである。これらの観察は、基本的に、1983年に報告された所謂「Hpall Tiny Fragment」又は「HTFアイランド」の発見を繰り返すものである。Cooper D.N.,et al.,Nucleic Acids Res.11:647−58(1983)を参照のこと。同じDNAをMspI(HpaIIと同じ認識配列であるが、メチル化感受性ではない)で消化する際は、断片の平均分子量はより予測されるサイズに近くなる。しかしながら、妊娠初期の栄養膜/胎児から調製したDNAを用いて同じ実験をすると、全く異なる実験結果が得られる。HpaII消化した栄養膜/胎児DNAの平均分子量における明らかな低減が存在するが、MspI消化によって得られるものとは同じものではない。これは、栄誉膜/胎児から調製したDNAは比較的低メチル化(少なくメチル化)されていることを明らかに示し、低メチル化領域は、CpG又は「HTF」アイランドよりも更に広範にゲノム全体に分布しているという重要な予測ができる。
【0025】
全血DNAに対する、栄養膜/胎児DNAにおける低メチル化の程度を正確に測定することは困難であるが、HpyChIV−4(図1のものと類似する)という酵素を用いる全血DNAに対する栄養膜/胎児DNAの消化について実施する濃度測定によって、500から1000bpの断片の範囲について、結果として得られたスメアの濃度は、栄養膜/胎児サンプルの場合に一貫して2から3倍高い値であることが示される。これは、このサイズの範囲において、HpyCh4−IVで消化した栄養膜/胎児DNAが、全血DNAよりも2から3倍の断片を含有することを示す。
【0026】
栄養膜/胎児に由来するDNAと全血に由来するDNAとの間における、妊娠期間に依存するメチル化の差異は、未だ完全には調査されていない。妊娠期間が9から20週の範囲にある、一連の10のサンプルでは、HpaIIで実施した消化とHpyCH4−IVで実施した消化には差異が検出されなかった。しかしながら、プラダーウィリ症候群及び脆弱性X症候群の遺伝子座におけるメチル化感受性サザンブロット分析を用いた実験は、妊娠中期の中ほどまでに、妊娠初期よりも多くの栄養膜/胎児DNAのメチル化が存在し得ることを示している。かくして、好ましくは、(LMPによって)10から13週の妊娠期間に、混合されているDNAサンプルを得る。
【0027】
本発明の方法は、かくして、上述の胎児DNAと母体DNAの間のメチル化の差異を利用する、混合されている胎児及び母体DNAサンプルからの胎児DNAの選択的な増幅を提供する。上述のように、一般的には、前記方法は、混合されている胎児−母体供給源からDNAを単離する工程;単離したDNAをリンカー媒介PCRに供する工程;増幅したPCR産物の環状化工程;エキソヌクレアーゼ消化工程;並びに、最後に、等温ローリングサークル増幅をする工程を含む。
【0028】
本発明の方法は、単離したDNAをリンカー媒介PCRに供する工程を含む。
【0029】
リンカー媒介PCR
一般的に、リンカー媒介PCRは、制限酵素でDNAを消化し、消化した末端に二本鎖リンカーを結合させて開始する。次いで、PCRは、リンカーに対応するプライマーで実施され、約1.5kb以下のフラグメントが増幅される。Saunders,R.D.,et al.,Nucleic Acids Res.17:9027−37(1989)及びLisitsyn,N.A.,et al.,Cold Spring Harb.Symp.Quant.Biol.59:585−7(1994)を参照のこと。この技術を使用して、単独の細胞からDNAを増幅すること及び増幅産物を使用して、比較ハイブリダイゼーションを実施することにより異数性を検出することが可能になっている。Klein,C.A.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.96:4494−9(1999)を参照のこと。他の実験では、増幅したPCR産物は、BACマイクロアレイに対するハイブリダイゼーションプローブとして使用して、単独のゲノムのコピー数変化を検出するために使用された。Guillaud−Bataille,M.,et al.,Nucleic Acid Res.32:e112(2004)を参照のこと。
【0030】
当該方法では、制限酵素の消化頻度が、生じる増幅産物の複雑性を決定する。切断する頻度が低い酵素を選択することによって、増幅したPCR産物の複雑性が出発ゲノムDNAの一部に低減し、より容易に後のハイブリダイゼーション工程を実施することを可能にする。これは、2つの複雑なゲノム供給源の間の比較ハイブリダイゼーションを実施しようとする場合に、特に有用である。特筆すべき例は、ヒトのゲノムのコピー数における変化の高い頻度を明らかにしている「ROMA」(Representational Oligonucleotide Microarray Analysis)と称される技術である。Lucito.R.,et al.,Genome Res.13:2291−305(2003);Sebat,J.,et al.,Science 305:525−8(2004);Jobanputra,V.,et al.,Genet Med 7:111−8(2005)を参照のこと。
【0031】
実施例1は、妊娠女性の血漿から単離したDNAのリンカー媒介増幅の成功裡の使用を示す。増幅前に、CpGメチル化感受性酵素であるHpyCh4−IVを使用して、精製DNAを消化した。消化後に、リンカーをアニーリングして、消化したDNAにライゲーションさせ、最後に公開されているプロトコルに従い、リンカーペアのトップストランドを使用してPCRを実施した。実施例1及びGuillaud−Bataille,M.,et al.,Nucleic Acids Res.32:e112(2004)を参照のこと。とりわけ、母体血液の回収方法は好ましくはホルムアルデヒドを含まないべきであることを決定した。
【0032】
実施例2は、成功裡の栄養膜/胎児DNAのリンカー媒介メチル化特異的増幅を示す。栄養膜/胎児DNA並びに全血由来のDNAサンプルを、CpGメチル化感受性酵素AclIで消化した。実施例1と同様に、酵素消化後に、リンカーをアニーリングして、消化したDNAにライゲーションさせた。最終的に、実施例1に記載のものと同一のPCRプロトコルに従い、リンカーペアのトップストランドを使用して、PCRを実施した。とりわけ、栄養膜/胎児DNAは、一貫して、全血より強く且つ異なって現れるPCR産物を生じた。しかしながら、CpGメチル化感受性酵素を使用したという事実にもかかわらず、非栄養膜/胎児DNA(すなわち、全血由来のDNA)についても増幅された。したがって、本発明者は、リンカー媒介PCR増幅のみでは、栄養膜/胎児DNAを特異的に増幅するために適切なものではなかったと判断した。
【0033】
したがって、本発明のリンカー媒介PCR工程では、DNAの混合されているサンプルを得て、CpGメチル化感受性酵素で消化し、消化末端を有する消化DNAを形成する。メチル化感受性酵素は当該技術分野において既知であり、HpyChIV−4、ClaI、AclI、及びBstBIを含むが、それらに限らない。
【0034】
リンカーライゲーション前にDNAを切断するCpGメチル化感受性制限酵素を使用することによって、非メチル化部位によって規定される断片のみが増幅され得る。2つの異なる供給源に由来するDNAの混合物が存在し、他方よりも少なく一方がメチル化されている場合は、メチル化感受性酵素を用いた消化、その後のリンカー結合及び増幅が、差次的にメチル化された部位によって規定される断片の選択的な増幅を可能にする。この考えは、正常組織と癌組織との間のメチル化における差異を調べるための「PCR産物の差次的分析」と組み合わせて使用している。Ushijima,T.,et al.,Proc Natl.Acad.Sci.U S A 94:2284−9(1997)及びKaneda,A.,et al.,Acad.Sci.983:131−41(2003)を参照のこと。この手法によって達成されうる差次的増幅の程度は、存在するメチル化の差異の程度に(部分的に)依存する。例えば、所定の部位が、1つのDNAでは100%のメチル化し、他方では0%のメチル化している場合は、高い程度の差次的増幅が期待される。
【0035】
多数のゲノムの部位がメチル化している程度については、現在ほとんど知られていない。メチル化状態を測定するためのツール、すなわちサザンブロット及び亜硫酸水素塩による配列決定は、特異的な部位が完全にメチル化しているか又は完全に非メチル化であるかのいずれかであることを一般的に示し、所定の部位のメチル化が非常に厳密に制御され、維持されていることを示唆している。この考えは、ある遺伝子座の2つの対立遺伝子が、インプリンティング及び遺伝子量補償を示すゲノム領域において精密に差次的にメチル化されているという事実によってさらに裏付けられている。しかしながら、広範に亘って調べられている特定の部位の数は限られている。また、検出方法(サザンブロット及び亜硫酸水素塩による配列決定)は、メチル化の程度におけるわずかな差異を区別することができない。しかしながら、本発明の方法を使用すると、栄養膜/胎児配列の非常に特異的な差次的増幅が存在することを決定した。
【0036】
上述のように、哺乳動物ゲノムのメチル化は極めてランダムなものではない。GCリッチ領域及びCpG又は「HTF」アイランドは相対的に低メチル化であるが、ATリッチ配列は相対的によりメチル化されている。例えば、レアカットGCリッチ酵素であるNotIの部位の90%超が低メチル化であり、CpGアイランドは、単純に予測されるよりも、当該酵素による高い頻度の消化を生じさせる。Fazzari,M.J.Greally JM,Nat.Rev.Genet.5:446−55(2004)を参照のこと。本発明は、栄養膜/胎児に特異的な配列を差次的に増幅するためにメチル化の差を利用し、CpGアイランドは栄養膜/胎児及び他のDNAの双方において低メチル化のようであるため、本発明の方法は非GCリッチDNAにおけるCpGメチル化に着目している。この目的を達成するために、メチル化感受性CpGを含有するが、それ以外はATからなる制限酵素が好ましい。このカテゴリーに4つの酵素が該当する。1つは4塩基酵素であるHpyChIV−4であり、ACGTを切断する。残りの3つの酵素は6塩基酵素のClaI、AclI、及びBstBIであり、ATCGTA、AACGTT、及びTTCGAAの各々の配列を有する。
【0037】
ゲノムからランダムに選択した1000万塩基についての非公式の分析によって、これらの酵素のための部位がCpGアイランドには殆ど存在しないことが示された。NotIの制限酵素地図を、AclI、ClaI、及びBstBIと比較した。分析によって、これらのATリッチ部位はCpGアイランドで集団化されておらず、それよりもCpGアイランド内には本質的に存在しないことが示された。
【0038】
驚くべきことに、AclI、BstBI、及びClaIの認識部位も滅多に存在しない。ヒトゲノムには、ゲノム配列がA、C、T、及びGの頻度について均衡がとれていると仮定して予測される750,000ではなく、〜150,000のAClI部位のみが含まれているようである。予測されるAclI部位と比較した際の実際の数における〜80%の低減は、CpGジヌクレオチドの相対的な不足によるものである。リンカー媒介PCRは約1500bp長の断片を増幅することのみができるため、本発明者は400から1500bpの間の全ての予測AclI断片を探索し、ヒトゲノムにおける総数が〜15,000のみであることを見出した。全血DNAにおける予測されるAclIの90%以下がメチル化によってブロックされていると仮定(CpGメチル化がATリッチ配列において増大するという事実を踏まえた無難な仮定)した場合には、このサイズの範囲における予測される断片の正確な数は1000から2000であろう。概して、〜2000のこれらの断片は、全てのゲノム配列の0.1%未満を占めるであろう。栄養膜/胎児DNAについて同じ計算をすると(部位の〜80%のみがメチル化されていると仮定して)、約2000から4000の増幅可能なAclI断片が予測される。この計算によって、栄養膜/胎児DNAのメチル化感受性PCR産物中の全ての増幅断片の約半分が特異的であるか、又は同様に調製した全血PCR産物と比較して非常に濃縮されていると予測される。
【0039】
混合されているサンプルから得たDNAが上述のメチル化特異的酵素で消化された後に、次いで、DNAをリンカーにライゲーションする。好ましくは、リンカーは、後に環状化工程に必要な適合する接着末端を提供するために使用される制限酵素部位を有する。消化されて接接着末端を生じる任意の制限酵素部位を使用してよい。例えば、MluIは接着末端を提供する。リンカーをライゲーションさせた後に、結果として得られたDNAは、リンカー内の部位に結合するプライマーを使用して増幅する。次いで、PCR増幅を実施する。サイクル数は変化してよいが、好ましくは、そのサイクル数によって、消化した断片のサイズで選択されたPCR産物を作り出す。好ましい実施態様では、5から15の増幅サイクルで実施される。より好ましい実施態様では、8から14の増幅サイクルで実施される。最も好ましい実施態様では、12の増幅サイクルで実施される。
【0040】
本発明者は、胎児DNAを特異的に増幅するためにはリンカー媒介PCRは十分ではないことを見出したため、本発明の方法は、リンカー媒介PCR増幅に加えて、増幅したPCR産物の環状化;エキソヌクレアーゼ消化;並びに、最後に等温ローリングサークル増幅(下に記載する)を更に含む。実施例2は、幾つかの非胎児DNA配列が増幅されたことを示す。
【0041】
増幅されたPCR産物の環状化
増幅サイクルを実施した後に、次いで、リンカーを切断する酵素で増幅した産物を消化する。例えば、リンカーがMluI部位を有している場合には、産物をMluI酵素消化に供するであろう。リンカーの切断のための消化の後に、低分子量DNA(リンカー及びプライマーDNA)を除去する。任意の適切な低分子量DNAの除去方法が使用されて良く、例えば、アガロースゲル精製又はカラム精製が使用されてよい。好ましい実施態様では、カラム精製が使用される。
【0042】
次いで、精製したDNAを希釈して、非常に薄い溶液を製造する。このDNAを、次いで、一晩に亘ってT4DNAリガーゼで処理して、先の酵素消化によって作製された接着末端をライゲーションさせて環状化させる。非常に薄い溶液(例えば、1×結合バッファー中で0.5ml)における消化及びライゲーションによって、適合する接着末端を有する分子の分子内セルフライゲーション(環状化)が特に好ましい。(PCR増幅の間に)12回融解し、部分的に再アニールした本来の出発DNAは、非常に非効率的に消化され、環状化される。さらに、適当な末端を有しない非特異的増幅産物は、共有結合で閉じた環をほとんど形成しないようである。
【0043】
エキソヌクレアーゼ消化
DNAを沈殿(当該技術分野において一般的に知られた方法を用いて)させ、水などの適当なバッファーに再懸濁した後に、一本鎖及び二本鎖DNAの末端を攻撃するエキソヌクレアーゼ(例えば、Bal−31)で、ライゲーションした混合物を大規模に消化することによって処理する。ライゲーションさせることによって作製した環状分子は消化に耐性を有するが、大規模な消化は任意の線状分子を単独のヌクレオチドに変えるであろう。かくして、この消化を使用して、出発ゲノムDNA並びに非特異的に増幅された産物を除去する。代替的に、Bal−31などの単独のエキソヌクレアーゼの代わりに、エキソヌクレアーゼの混合物を使用し得る。例えば、1つの酵素(リョクトウエキソヌクレアーゼ)が一本鎖DNAを攻撃し、他の酵素(Lambaエキソヌクレアーゼ)が二本鎖DNAを攻撃し、ここで、いずれの酵素もエンドヌクレアーゼ活性を有さず、ニックにおいて二本鎖DNAを切断しない。
【0044】
大規模な消化という用語は、限定されないように十分な量の酵素を使用して、消化の時間が限定されないように十分な期間であることを意味する。例えば、1つの実施態様では、2単位のBal−31ヌクレアーゼを消化混合物において使用し、45分間に亘って進行させる。単位は、10分以内に40ng/μl溶液において400塩基の線状DNAを消化するために必要な酵素の量として機能的に規定される。
【0045】
等温ローリングサークル増幅
ヌクレアーゼ処理したライゲーション産物は、次いで、等温ローリングサークル増幅のための鋳型として使用する。等温ローリングサークル増幅は当該技術分野において既知であり、一般的には、エキソヌクレアーゼ耐性ランダムプライマー及び高い処理能力を有するDNAポリメラーゼを使用する環状DNAの1サイクル増幅である。任意の等温ローリングサークル増幅方法が使用されてよい。一般的なキットは、Amershamから市販されており、製造業者の指示に従って使用する。
【0046】
本発明の方法を使用して、本発明者は、混合されているDNAサンプルの栄養膜/胎児成分(つまり、胎児DNA)の特異的な増幅を実証し、胎児DNAのメチル化感受性PCR産物を製造することができた。実施例4を参照のこと。
【0047】
本発明は、胎児特異的な複製配列を同定する方法も提供する。詳細な説明は、実施例5を参照のこと。当該方法は、上述の選択的な胎児DNA増幅方法を使用して、胎児DNAのメチル化感受性PCR産物と全血DNAのメチル化感受性PCR産物とを別々に調製する工程を含む。胎児特異的複製配列とは、本明細書に記載の方法を使用して、栄養膜/胎児DNAから増幅されるが、他のDNAからは増幅されない複製配列を意味する。栄養膜/胎児DNAは、成人DNAと比較して低メチル化のDNAである。メチル化感受性の制限酵素は、低メチル化の胎児の遺伝子座を切断するが、メチル化された母体の遺伝子座を切断しない。
【0048】
胎児DNAのメチル化感受性PCR産物は、第一の蛍光色素で標識し、全血DNAは第一の蛍光色素とは異なる第二の蛍光色素で標識して、標識胎児DNAプローブ及び標識全血DNAプローブを生じる。標識プローブは、所定のメチル化感受性酵素について予測された制限断片に対応するオリゴヌクレオチドのアレイとハイブリダイズすることが可能である。代替的に、2つの別々の同一のアレイを使用する場合は、プローブは異なる蛍光色素で標識する必要が無い。アレイを試験して、胎児DNAプローブにのみハイブリダイズするオリゴヌクレオチドの位置を決定する。これらのオリゴヌクレオチドは、胎児特異的複製配列として同定される。
【0049】
好ましい実施態様では、胎児特異的DNA複製に使用するメチル化感受性酵素は、HpyCh4−IVである。
【0050】
好ましくは、胎児DNA及び母体DNAのメチル化における差異が妊娠初期により顕著であると予測されるため、胎児DNAは約56から84日の妊娠初期に得る。
【0051】
本発明は、上述の方法によって製造される胎児特異的複製配列も提供する。本発明は、本発明の方法を使用して同定される胎児特異的複製配列のライブラリーを含むアレイも提供する。
【0052】
本発明は、胎児DNA及び母体DNAの混合物中の胎児DNAの所定の遺伝子座のコピー数が、所定の遺伝子座における正常なコピー数と比較して、減少しているか又は増加しているかについて測定する方法も提供する。この方法は、上述の選択的な胎児DNA増幅方法を使用して試験サンプル及び対照サンプルの所定の遺伝子座を選択的に増幅する工程を含む。対照サンプルは、胎児DNAの所定の遺伝子座における正常なコピー数を有する。
【0053】
試験サンプル中の所定の遺伝子座について増幅されたDNAの相対量を、対照サンプル中の同一の遺伝子座について増幅されたDNAの相対量と比較する。増幅DNAの量の減少がコピー数の減少と相関し、DNAの量の増加がコピー数の増加と相関する。
【0054】
好ましい実施態様では、前記比較は、試験サンプル及び対照サンプルにおいて同一のコピー数で存在する対照遺伝子座から増幅されたDNAに対して、所定の遺伝子座から増幅されたDNAの標準化をする工程を含む。
【0055】
本発明は、試験サンプルにおいて、所定の遺伝子座についてのコピー数が正常なコピー数と比較して減少したか又は増加したかについて測定するための他の方法も提供する。詳細な説明については、実施例7を参照のこと。前記方法は、上述の選択的な胎児DNA増幅方法を使用して、試験サンプル及び対照サンプル中の胎児DNAを選択的に増幅する工程を含む。対照サンプルは、所定の遺伝子座において通常のコピー数を有する。
【0056】
工程aからの試験サンプル及び対照サンプルに由来するDNAを標識して、標識したプローブを提供する。標識は、ハイブリダイゼーションを検出する手段を提供するために実施する。例えば、1つのアレイを使用する場合は、試験サンプル由来のDNAが第一の蛍光色素で標識され、対照サンプル由来のDNAが第二の異なる蛍光色素で標識される。代替的に、2つの別々の同一のアレイを使用する場合は、試験DNAプローブのためのもの及び試験サンプルDNAプローブのためのものについて、2つの異なる標識が必要ではない。
【0057】
DNAプローブを標識した後に、それらを上述の本願特許請求の範囲に記載の発明に係る方法によって製造される胎児特異的複製配列のアレイにハイブリダイズさせる。試験DNAプローブと対照DNAプローブとの間でハイブリダイゼーションの量を測定して、シグナル強度を測定する。対照DNAと比較した際の試験DNA由来の強いシグナルは、コピー数の増加と相関する。対照DNAと比較した際の試験DNA由来の弱いシグナルは、コピー数の減少と相関する。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
血漿DNAから増幅するためのリンカー−アダプターPCR
リンカー媒介PCRを使用して、妊娠女性の血漿由来のDNAを増幅した。標準的なプロトコル(Johnson,K.L.,et al.,Clin.Chem.50:516−21(2004))を使用して、抗凝固全血(母体血漿)の10mlサンプルからDNAを精製した。サンプルを二回遠心分離して、細胞を除去した。結果として得られる血漿をDNA結合膜に通過させた。DNAを膜から回収して、結果として得られるDNAをHpyCh4−IV(ACGTで切断)で消化した。リンカーをアニーリングして、結合させ、公知のプロトコルに従ってリンカーペアのトップストランドを使用してPCRを実施する(Guillaud−Bataille,M.,et al.,Nucleic Acids.Res.32:e112(2004))。リンカーは僅かに修飾されて、HpyCh4−IVで消化したDNAとライゲーションする際のMluI部位を作製する。リンカーは以下のものである。
【0059】
【化1】

【0060】
図2は、その様な増幅の代表例を示し、PCR産物は容易に検出される。増幅が特異的であり、リンカーに媒介されていることを確認するために、PCR産物を標準的なTAクローニングプロトコルを使用してクローニングした。10のコロニーを不作為に選び出して、配列決定をした。10のうち9の場合において、配列が、各末端において、リンカーアダプターが確かにHypCH4−Nにライゲーションしていることを示した。この実験は、リンカー−アダプターPCRを使用して血漿に由来するDNAから増幅したことの強力な証拠を提供するものである。
【0061】
図2の下図を検討すると、このプロトコルで産生したリンカー媒介PCR産物は、母体血液を回収する間にホルムアルデヒドを使用するかどうかに依存して顕著に異なることを示す。2つの例のみを示すが、結果は、12の別々に回収したサンプルの間で一致していた。血液をホルムアルデヒドの存在下で回収する際に認められたラダー形成は、アポトーシスにおけるラダー形成を強く想起させ、ホルムアルデヒドがアポトーシス断片の増幅を起こさせることを示唆している。おそらく、タンパク質のDNAへの固定化が制限酵素で消化できないDNAを生じさせているか、又はラダー形成はPCR産物の複雑性における劇的な低減を単純に表わしている可能性がある。したがって、母体血液回収はホルムアルデヒドを含まないことが好ましい。この考え方は、ホルムアルデヒドが胎児DNAの割合を増大させるという考え方に反論する最近の文献に一致するものである。Chinnapapagari,S.K.,et al.,Clin.Chem.51:652−5(2005)を参照のこと。
【0062】
(実施例2)
栄養膜/胎児DNAのメチル化特異的増幅の実施
栄養膜/胎児DNAと全血DNAとの間の差次的メチル化を実証するために、非常に低減された複雑性をレアカッターの使用により生じるATリッチ酵素は有利である。したがって、栄養膜/胎児DNA及び全血DNAサンプルから増幅したPCR産物はAclIを使用して調製した。栄養膜/胎児DNAサンプルは、手術によって停止した妊娠期間が56から80日の間の妊娠初期に由来するものであった。全血DNAは正常な成人のボランティアから調製した。
【0063】
全ての増幅は、公知のプロトコルにしたがって実施した。Guillaud−Bataille,M.,et al.,Nucleic Acids.Res.32:e112(2004)を参照のこと。簡潔には、0.5μgのゲノムDNAを、推奨のバッファー中で過剰なAclIを使用して消化した。25ngの消化した物を使用してリンカー/アダプター対にライゲーションさせた。ライゲーションの後に、2.5ngのライゲーションさせたDNAをPCRの鋳型として使用した。14サイクルの後に、同じプライマーを使用してさらに10サイクルに亘る2回目のPCRのための鋳型として、1/10容量の産物を使用した。現時点で、産物をミニゲル上で示す(図3)。差次的メチル化の予測と一致して、栄養膜/胎児DNA由来のPCR産物は、全血DNAよりも強く、差次的に現れるPCR産物を一貫してもたらした。
【0064】
〜500から1000bpの間の断片は、ゲルから切り出して、MluIで消化し、リンカー/アダプターを除去し、MluI消化クローニングベクターにライゲーションさせた。リンカー/アダプターは、AclI突出に対するライゲーションがMluI部位を作り出すように消化した。これらのライゲーションさせたものをバクテリアに形質転換して、出発物質としての栄養膜/胎児DNA及び全血DNAに由来する増幅AclI断片のミニライブラリーを得た。クローニングの時点において、栄養膜/胎児のPCR産物が、一貫して、多数のコロニーとして少なくとも2倍は得られ、最も良好な全血ライブラリーについては約3000であったのと比較して、最も良好な栄養膜/胎児ミニライブラリーは約8000の組換え体を含んだ。
【0065】
栄養膜/胎児ライブラリーに由来する24のコロニーを無作為に選び出して、それらの挿入断片の配列決定をした。UCSC browserを用いた分析は、4つを除いた全ての配列が、1kb未満の予測AclI断片に対応し、消化、リンカー結合、及び増幅工程が全て予測されたものとして行われたことが示された。MluI部位はリンカーがAclI突出に結合している際にのみ作り出されるため、前記クローニング手法は、意図しない増幅産物に対して強い選択性があることに着目するべきである。
【0066】
PCR産物をクローニング使用とする試みにおいてTAクローニング手法を利用した際は、クローニング効率が乏しく、高い割合のクローンが非特異的増幅産物を反映するものであった。かくして、リンカー媒介増幅により生じたDNAの顕著な割合は、非特異的なものであると結論付けた。
【0067】
30対の特定のPCRプライマーの全てを、増幅したAclI 断片の亜区域を増幅するために設計した。次いで、全血及び栄養膜/胎児DNAの増幅したAclI断片を鋳型として使用してPCRを実施した。これらの実験のために、上述の「2回目の」PCR産物を1対10に希釈して、特定のプライマーセットの各々について鋳型として使用し、標準的な条件下で20サイクルに亘って増幅を実施した。
【0068】
栄養膜/胎児PCR産物から増幅され、全血PCR産物からは増幅されなかったプライマーセットを、6の栄養膜/胎児PCR産物及び6の全血PCR産物のセットから増幅することによってさらに試験した(実施例4)。言うまでも無く、6の栄養膜/胎児のPCR産物の全てが明らかに可視の産物を産生し、6の全血のPCR産物のいずれもが同じ条件下で産物を産生しなかったため、10が栄養膜/胎児「特異的」なものであることが分かった。これは、無作為に選択した増幅AclI制限断片が、出発DNAが栄養膜/胎児に由来する際にのみ存在するという10/33又は33%の可能性に相当する。そして、これは、栄養膜/胎児DNAが全体的に低メチル化されている程度の推定(上記)と合理的に一致する。
【0069】
残る20のプライマーセットのうち、10は、栄養膜/胎児PCR産物と血液PCR産物から等しく増幅し、他の10は、一貫性が無い結果を与えた。幾つかのAclI PCR産物を増幅するために使用する際に、予測される産物が増幅されたが、他の場合では増幅されていなかった。これらの結果は、1)関連するAclI部位におけるメチル化に多様な変化が存在する;2)幾つかのAclI部位が共通のSNPsによって変化している、又は3)PCR効率がSNPの存在によって影響を受けている、のいずれかを示すものである。実際に、SNPsがAclI部位を変化させている幾つかの例、及びPCR効率に影響を与えるSNPsの例を同定した。このタイプの配列変化は予測されており、高い割合の無作為に選択したAclI複製配列が相対的に栄養膜/胎児特異的であるという結論を変化させるものではない。
【0070】
特に興味深いことに、幾つかのプライマーセットは、栄養膜/胎児PCR産物から強力なバンドを増幅し、全血PCR産物からはより弱いバンドを増幅することが認められた。図4中の上から3番目の図中の弱いバンドを参照のこと。さらに、PCRサイクル数を20から30まで増大させると、ほぼ全てのプライマーセットについて可視バンドが全血PCR産物から増幅された(データ示さず)。本発明の目的は、他のDNAと混合されている栄養膜/胎児DNAの特異的な増幅であるため、非栄養膜/胎児DNAの「漏れがある」増幅は問題である。
【0071】
狭い線形範囲において、PCRの3から4サイクルが10倍の増幅に相当し、検出の閾値における3から4サイクルの差が鋳型量における対数的な倍増もの差異に相当するという予測ができる。混合物中のDNAの1%が栄養膜/胎児DNAである際に栄養膜/胎児DNAを検出するために、6から8サイクルの差次的増幅が必要であろう。10の栄養膜/胎児「特異的」プライマーセットのうち、1又は2のみが、この厳格な基準を満たした。
【0072】
全血PCR産物からの弱い増幅について、3つの可能性がある原因が考えられる。第一には、少量の出発ゲノムDNAが増幅PCR産物に依然として存在し、弱く産物を得るために十分な鋳型を提供している可能性がある。2.5ngの出発ゲノムDNAのうち、数ピコグラムが希釈したPCR産物に存在していると算出され、20サイクルのPCRの後にバンドを弱く増幅する供給源となっていたとは考えにくい。しかしながら、これは、30サイクルの後の増幅を潜在的に説明するであろう。第二に、メチル化が多数のCpG部位において不完全である可能性がある。高度にではあるが完全にはメチル化されていない部位は、対応する制限断片が低いが検出可能なレベルで存在するPCR産物を生じさせるであろう。明らかに、この説明は、極端な場合に有効であろう。多数の部位が99%メチル化されており、他の部位は99.9%メチル化されている。全血複製配列からの弱い増幅の第三の説明は、上述のようなPCR産物形成の間の非特異的な増幅である。大量の反復配列を含む複雑なゲノムDNAを用いた変性、再アニーリング、及びプライマー伸長の実施の工程は、確実に意図しない産物を大量に作り出す。3つの可能性のどれが全血DNAからの「漏れ出した」増幅の供給源であるか決定するために、PCR産物の増幅のための代替的なスキームを考え出した。
【0073】
(実施例3)
ヌクレアーゼ消化後の環状分子の等温増幅
実施例2に記載した漏れ出した増幅の問題を克服するために、本発明者は、クローニングのような、非特異的な増幅産物ではなく真正の制限断片を厳密に選択する簡便な増幅方法を開発しようとした。
【0074】
この目的のために、ゲノムDNAをAclIで消化し、リンカーとライゲーションしたものを上述のように調製した。リンカープライマーを用いた12サイクルの増幅後に、MluI(リンカーを切り出す)を用いて増幅産物を消化し、低分子量(リンカー及びプライマー)DNAをカラム精製によって排除し、1×ライゲーションバッファー(非常に希釈した溶液を作製する)において0.5mlまで希釈し、T4 DNAリガーゼで一晩処理した。その原理は以下に示す。PCRの最初の12サイクルは、AClI断片のサイズ選択的なPCR産物並びに不要な非特異的産物を生じさせる。非常に希薄な溶液を消化及びライゲーションすることによって、適合する接着末端で分子内セルフライゲーション(環状化)が強力に生じる。12回融解されて部分的に再アニーリングされる本来の出発DNAは、非常に非効率的に消化され、環状化される。非特異的な増幅産物は、適当な末端を欠いており、共有結合によって閉じた環を形成しにくい。
【0075】
沈殿させた後、一本鎖及び二本鎖DNAの末端を攻撃するエキソヌクレアーゼであるBal−31を用いて、ライゲーション混合物を大規模に消化する。ライゲーションによって生じた環状分子は消化に対して耐性を有しているが、大規模な消化は線状分子を単独のヌクレオチドに変えるであろう。これによって、出発物質であるゲノムDNA並びに非特異的な増幅産物が除去されると予測される。ヌクレアーゼで処理したライゲーション産物を、次いで、製造業者の推奨に従って市販のキット(Amersham)を用いる等温ローリングサークル増幅のための鋳型として使用した。これによって、融解及び再アニーリングを伴わずに約〜10000倍の増幅が生じる。Dean,F.B.,et al.,Genome Res.11:1095−9(2001)参照のこと。この手法により結果として生じるDNAを希釈して、上述の栄養膜/胎児「特異的」なプライマーセットを用いるPCRのための鋳型として使用した。
【0076】
この分析は、全部で(30のうち)5のプライマーセットについて22サイクルで栄養膜/胎児PCR産物からPCR産物を明確に検出することができたが、35サイクルまでに全血PCR産物から視認できる産物は生じなかった。検出の成功及び失敗の双方の例を図5に示す。PCRによる検出の閾値における13サイクルの差は、少なくとも1000倍の出発物質である鋳型の量における差に相当し、これらの複製配列は、栄養膜/胎児成分が1%のみ存在するDNA混合物中において容易に検出されるはずである。
【0077】
本発明者は、従来のリンカー媒介増幅における非特異的な増幅産物は、「漏れやすさ」又はバックグラウンドの主な原因であり、ヌクレアーゼ/等温増幅プロトコルはこの状況を顕著に改善すると結論付けた。加えて、不完全なメチル化は、多数のゲノム部位に存在するようであり、これは強力なメチル化特異的な増幅産物の総数を低減させる。
【0078】
(実施例4)
混合した栄養膜/胎児及び全血サンプルの増幅
混合したDNAサンプルの栄養膜/胎児成分の特異的な増幅が可能であるか試験するために、BanII部位を変化する共通の一塩基多型(「SNP」)を含有する栄養膜・胎児特異的AclI複製配列を同定した。上述のように使用される6つの栄養膜/胎児試験DNA及び6つの全血試験DNAを、当該SNPについて遺伝子決定して、当該遺伝子座の異なる遺伝子型を有する全血/栄養膜/胎児ペアを検出した後、10:1及び20:1のゲノムDNA混合物を調製した。これらの混合物のDNAの絶対量は25ngであり、これは20:1の混合物における栄養膜/胎児成分は〜100pgのみ存在するため、血漿の10mlサンプルに存在する胎児成分未満であることを意味する。メチル化感受性PCR産物を上述のように調製し、次いで、PCR産物を希釈して、PCRの鋳型として使用した。その産物を制限酵素消化並びに直接的な配列決定によって分析した(図6)。アッセイの感度内で、全血成分が増幅された証拠は存在しなかった。
【0079】
DNA混合物の栄養膜/胎児成分を選択的に増幅する機能をさらに実証するために、本発明者は、単純配列反復(「SSR」)多型を使用した。50%を遥かに超えるヘテロ接合性を有するSNPよりも有益であるのに加え、SSRは、自動シークエンサーで相対的なピーク高さ又は領域を測定することによって、同じDNAサンプルにおける対立遺伝子の増幅の相対的な程度を容易に評価する機会も与える。
【0080】
潜在的に多型であるSSRを含有するAclI複製配列を検出するために、栄養膜/胎児ミニライブラリー(上記)由来のプラスミドDNAをMluIで消化し、断片の末端に新しいリンカーをライゲーションした。(CA)10からなるプライマー並びにリンカーの「ボトム」ストランドに対応するプライマーを使用するPCRを実施した。この方法によって、CA反復配列を含有するAclI断片の部分が増幅されると予測された。PCR産物をクローニングして、無作為に選んだコロニーを取り出して、配列決定した。その様な15の配列の全てが、予測された1Kb長未満のAclI断片に対応し、5つは潜在的に多型であるために十分な長さのCA反復配列を含有していた。CA反復配列に特異的なプライマーを合成して、増幅したPCR産物に対するPCRのために使用し、5つのうちの3つは栄養膜/胎児特異的であることを示した。
【0081】
12のうち10の試験DNAが、これらのうちの1つのCA長におけるヘテロ接合異形を有することを示し、異なる遺伝子型を有するDNA(栄養膜/胎児及び全血)のペアを選択して、10:1及び20:1の全血及び栄養膜/胎児DNAの各々からなる試験混合物を製造した。
【0082】
次いで、混合したゲノムDNAを使用して、メチル化感受性PCR産物を調製し、次いで、多型についてのプライマーを使用するPCRの鋳型としてこれらの希釈物を使用した。2つの出発物質としてのDNAの各々のPCR産物並びに20:1の混合物から増幅したものを図7に示す。明らかに、メチル化感受性増幅産物の増幅は、全血由来のものよりも、栄養膜/胎児DNA由来のほうが少なくとも20倍効率的である。これらの実験の結果は、本発明の方法を用いて、栄養膜/胎児DNAの好適な増幅が可能であることを証明するものである。
【0083】
(実施例5)
栄養膜/胎児特異的複製配列の大規模同定についてのマイクロアレイ分析
栄養膜/胎児特異的複製配列のライブラリーの確立が、後述のような異数性試験に対する第一の工程である。
【0084】
カスタムメイドオリゴヌクレオチドマイクロアレイに対する比較ハイブリダイゼーションは、現在では日常的に用いられる、市販されている技術であり、ゲノムのコピー数における差異を評価するために広範に使用されている。同じ技術が、栄養膜/胎児特異的複製配列の大規模同定のために最適な方法を提供する。この目的を達成するために、栄養膜/胎児及び全血DNAから別々に調製したメチル化感受性PCR産物を、異なる蛍光色素で標識し、所定のメチル化感受性酵素について予測される制限断片に対応するオリゴヌクレオチドのアレイに比較ハイブリダイゼーションした。ハイブリダイゼーションレベルにおける差異が非常に僅かであるコピー数の変化についてのアレイハイブリダイゼーションとは対照的に、血液由来のDNAの対応する制限酵素部位の0又は0に近い消化を反映して、栄養膜/胎児プローブにのみハイブリダイズするオリゴヌクレオチド(アレイアドレス)が同定される。多数の異なる栄養膜/胎児サンプルから製造されるプローブを使用するその様なマイクロアレイ分析を実施することによって、非常に異なる増幅を一貫して示す複製配列を同定し、標的染色体に位置する多数の栄養膜/胎児特異的複製配列の一覧を与える。
【0085】
制限酵素の選択
栄養膜/胎児特異的複製配列の存在を実証することを目的とする上述の試験において、非常に低減された複雑性を有する増幅されたPCR産物を生じさせるレアカッター酵素を意図的に使用する。将来的な胎児診断のために、標的染色体13、18、21、X及びYについて1つの染色体あたり数百の栄養膜/胎児特異的複製配列を得て、血漿由来DNAの低い平均分子量のために短い断片に着目する。明らかに、AclI等の酵素は、この目的には少なすぎる断片を生じさせるため、マイクロアレイ分析にはより多く切断する酵素を使用する。酵素であるHpyCh4−IVは、マイクロアレイ実験のためにPCR産物を製造するには理想的である。この酵素は、認識配列(ACGT)が中央のCpG以外の位置にA又はTのいずれかを有するという基準を満たす市販の酵素のみである。A、C、G、及びTの割合についてバランスが取れているゲノムでは、AclIよりもHpyCh4−IVに部位が16倍も多いはずであり、21番染色体に関しては、100から1500bpの間の〜2400断片が予測されるであろう。事実、21番染色体について予測される100〜1500のサイズのHpyCh4−IV断片の実際の数は17152であり、これは、ATリッチ配列に対するCpGジヌクレオチドの全体的に不均一な分布を反映している。栄養膜/胎児DNAにおける80%の部位がメチル化によってブロックされると推定すると、標的のサイズ範囲にある21番染色体についての実際の数は2000から3000であると推定することができる。15%が栄養膜/胎児特異的であれば、300〜450のその様な複製配列が推定される。
【0086】
アレイの構築
現在の技術は、1回の実験でゲノム全体における全てのHpyCh4−IV断片の半分以上の評価をするのに十分な〜380000の異なるオリゴを含有するアレイの製造を可能にする。しかしながら、10サンプルペアに対してこのタイプの分析を実施するために、最低でも20のその様なアレイが必要であり、そのため、非常に高価であろう。代替的に費用を抑えるために、各々が〜98000オリゴからなる4つの同一のアレイが提供されるアレイフォーマットを同じ「チップ」に合成する。1つのこのタイプの「チップ」は、4つのハイブリダイゼーションを可能にし、2つの、色が逆の、重複したハイブリダイゼーションを実施するのに十分である。98000オリゴは、重複して各オリゴを用いて、4つの関連する染色体(13、18、21、X)の各々に対して〜12000断片を検索するために十分なスペースを与える。12000は、21番染色体に位置する100〜1500bpの断片の大半を示すのに十分であり、1つの染色体あたり数百の栄養膜/胎児特異的複製配列を生じさせると予測される。全てのY断片は胎児特異的であるため、1000のY断片のみがアレイに表わされる。これによって、十分すぎるほどの〜200のY染色体複製配列が生じると予測される。
【0087】
オリゴヌクレオチド
100から1500bpの間の21、18、13、X、及びY染色体上の〜17000の予測HpyCh4−IV断片の全ての配列を含有するデータベースを作成する。次いで、これらのファイルをプローブ設計及びアレイ合成に使用する。血漿DNAが低分子量であるために、短い断片の可能な限り最大の数がアレイに表わされるであろう。400bp未満の断片の約50%がオリゴヌクレオチド設計に適切な配列を有しないであろうから、約2500がアレイに表わされるように残されるであろう。全てのアレイは、一連のネガティブコントロールオリゴヌクレオチドも含有する。
【0088】
栄養膜/胎児サンプル
2つの事項:1)栄養膜/胎児DNA及び他のDNAの間のメチル化における差異は妊娠初期により明確であり、2)妊娠初期診断法が望ましいことを考慮して、上述のように、妊娠初期の栄養膜/胎児DNAを使用する。同じ論理を用いて、56〜84日の妊娠女性由来の栄養膜/胎児から増幅したPCR産物を用いるマイクロアレイハイブリダイゼーションを実施する。これらのサンプルは、随意で中絶した妊娠女性から回収してよく、DNAは日常的に用いられるプロテイナーゼK消化の後にフェノール/クロロホルム抽出をすることによって調製されるであろう。
【0089】
非栄養膜/胎児サンプル
適当な個人の全血DNAサンプルを選択することを試みるよりも、10の無作為に選択した女性のサンプルを貯留した。血液由来のDNAを貯留することによって、平均的なメチル化プロフィールを有する1つのPCR産物を製造する。
【0090】
子宮頸部から得られた母体DNAに汚染されたサンプルは、頸部上皮に由来するものであり、皮膚線維芽細胞に由来するDNAと類似していると推定される。血液由来のDNAと皮膚由来のDNAにおけるメチル化を比較する系統的な研究は存在しなかったが、この点に関して差異が存在すると解する理由は無い。過去には遺伝子マッピング実験が実施されて、メチル化感受性消化を用いたサザンブロットを20を超える各種のプローブにハイブリダイズさせ、血液DNAと線維芽細胞DNAとの間に差異が存在しないことが認められた。
【0091】
プローブ合成
上述のヌクレアーゼ/ローリングサークル増幅プロトコルを使用して、栄養膜/胎児及び非栄養膜/胎児DNAのメチル化感受性PCR産物を調製する。0.5μgの各ゲノムDNAを過剰量のHpyCh4−IVを用いて消化する。25ngの当該消化物をリンカーペアにライゲーションして、1/10のライゲーション産物を用いて、12サイクルのPCRを実施する。AclI消化を用いる上述の実施例において、断片末端に対するリンカーの確実なライゲーションが、MluI部位(ACGCGT)を生じさせ、Aの後ろを切断してCGTを残すHpyCh4−IVを使用する際にも同じ結果が得られる。PCRの12サイクルの後に、結果として生じた産物はMluIを用いて消化して、上述のように環状化する。ライゲーションの後に、残存する線状DNAをヌクレアーゼであるBal−31を用いて消化する。その後、バッファーをセファデックスG50カラムで交換し、等温ローリングサークル増幅を市販のキット(Amersham Bioscience)を使用して実施する。ここで、DNAをミニゲルでチェックして、適当な産物が存在するか否かについて決定する。このプロトコルを用いて得られたDNAの収量は通常は3から5μgの間であるが、環状化PCR産物の一部のみを増幅に使用したため、容易に大量にスケールアップすることができる。ミニゲル上で蛍光定量によって定量し、流したMluI消化産物によって品質の測定をした後に、DNAをNimbleGenなどのアレイ製造機に供して、プローブ標識及びアレイハイブリダイゼーションを実施する。
【0092】
マイクロアレイデータの解釈
生データの処理が重要な第一の工程である。各アレイアドレスについて、シグナル強度(対照オリゴに対する)を評価する。信頼できないことが明らかなスポットは分析から除外する。適切なシグナルを有する各アレイアドレスについて、2つのシグナル(Cy3及びCy5)の強度の比率を測定する。対数変換した比率は、変換する前の比率よりも良好な統計的性質を有するため、全て対数変換(2を底とする)した。アレイデータは、アレイの個々の値からアレイ全体のlogの比率の中央値を差し引くことによって標準化した。各オリゴは重複して存在するため、重複して存在する標準化した比率を平均化して、これらの平均値を、対応する色が逆のもので同じ重複して存在するものの比率の平均値と平均化する。かくして、各断片の最終的な値は、4つのハイブリダイゼーション及びそれらの対応するlog平均比に基づく。この分析は、現存するソフトウェアパッケージを用いて容易に達成することができる。
【0093】
栄養膜/胎児PCR産物には存在するが、全血PCR産物には存在しないか又は殆ど存在しないこれらの複製配列の位置決定をすることは、ゲノム的に連続的なアレイアドレスにおいてハイブリダイゼーションの比率における僅かな差異を探索する典型的なゲノム比較実験とは全く異なるものである。Lucito et al.,Genome Res.13;2291−305(2003)からのデータは、どのようにデータが表われるかについての例を提供する。図8を参照のこと。これらの著者は、BgIII断片に対応する10000オリゴヌクレオチドのガラススライドアレイに対する比較ハイブリダイゼーションを実施した。1つのハイブリダイゼーションプローブは、ゲノムDNAの「完全な」BglIII PCR産物からなり、他のものは同様のPCR産物からなるが、DNAがHindIIIでも消化される場合は除かれ、内部のHindIII部位を有する全ての断片の大部分が除かれた。これによって、1つのPCR産物が他のPCR産物には本質的に無い要素を含有するという、本発明に類似する状況が作製される。図面から明らかなように、log10平均比シグナルは、0から1を超えて変化し、多数の断片の強度における10倍超の差異を反映している。本発明のアレイの結果はこれらに類似するが、プローブ増幅方法は、これらの著者が使用した方法よりもそれ程多くない非特異的増幅を生じるため、1よりも大きいlog10平均比を有する割合がより高く認められるであろう。
【0094】
10倍以上の平均比を有するものが「栄養膜/胎児特異的」であると解される。明らかに、最も高い平均比を有するものが最も望ましい。各ハイブリダイゼーションの分析によって、この基準に合致するシグナルを有するプローブアドレスが列挙され、10の計画されたハイブリダイゼーションのペアワイズ比較によって、サンプル間で一致したアドレスが最終的に列挙され、5つの関連する染色体について栄養膜/胎児特異的HpyCh4−IV複製配列の所望の一覧が提供される。
【0095】
(実施例6)
母体血漿及び頸部DNA由来の胎児特異的多型の増幅
胎児の多型の増幅も、非侵襲的な異数性試験のための可能な手段である。STR多型のQF−PCRは、従来の胎児診断における異数性の迅速な診断の高い成功率を示しており(Nicolini et al.,Hum.Reprod.Update 10:541−48(2004))、メチル化感受性PCR産物と共に使用するためにも用いられてよい。したがって、実施例5に規定するメチル化特異的な複製配列に位置する有用な多型が同定され、頸部及び血漿DNAサンプルにおけるこれらの多型の胎児の対立遺伝子が検出される。
【0096】
有用な多型の発見
遺伝子マッピングのために、SNPsは最も有用となっており、多形の最も豊富なタイプである。数百万のSNPsが公共のドメインデータベースに存在し、SNPsのためのアッセイ法が多数存在するが、異数性の検出のためのそれらの使用は、STR多型よりも大きな課題である。それらには多型が少ないだけでなく、異数性試験にそれらを使用する方法(Pont−Kingdon,G.et al.,Clin.Chem 49:1087−94(2003))は、メチル化感受性PCR産物には実在しない可能性がある対立遺伝子の同等の増幅に依存する。この点を考慮して、メチル化特異的複製配列に位置する有用なSTRが同定される。
【0097】
メチル化特異的複製配列に位置するSTRの位置を決定することの実現可能性を示すために、単純な配列の潜在的な多型を含有するHpyCh4−IV断片について21番染色体を検索した。〜17000の推定配列のうち、400近くが、多型であろうSTRを含有している。表1参照のこと。
【0098】
【表1】

【0099】
実施例5において開示したアレイは、可能な限り多数のオリゴを含有しており、かくして、メチル化特異的複製配列上で潜在的な多型の部位が発見される可能性を増大している。約15%の断片が非常にメチル化特異的であることを考慮すると、21番染色体上の60以下の潜在的な多型を有する栄養膜/胎児特異的複製配列が同定される。それらが一般的により容易に解釈されるPCR産物を生じるために、トリ及びテトラヌクレオチドの繰り返しを使用する。標的多型に隣接するプライマーペアが設計される。2つのプライマーのうちの1つは、自動化シークエンサーにおいて簡便な断片長分析のための蛍光色素で標識され、無作為で選んだ10のゲノムDNAサンプルに対してPCRを実施する。適当なヘテロ接合性を有するマーカーが当該方法で明らかにされ、有用な候補を更に試験する。
【0100】
混合したDNAサンプルに対する増幅の試験
存在する栄養膜/胎児DNAサンプル及び全血DNAサンプルは、上述の多型に対して遺伝子型を決定して、異なる遺伝子型を有する混合したサンプルペアを調製する。データは、栄養膜/胎児成分が出発DNA全体の5%である混合物において、栄養膜/胎児遺伝子型を検出することは実現可能なことであることを示している。そこで、本発明者は、20:1の混合物を初めに試験し、次に50:1及び100:1の比率での分析を試験している。
【0101】
胎児特異的増幅の試験
上述の試験において良好に機能する同定した多型を使用して、胎児対立遺伝子が母体サンプルから増幅可能であるか試験する。この目的のために、母体DNA及び胎児DNAの双方のサンプルを、母体血漿及び/又は頸部洗浄液サンプルの各々から得る。妊娠女性に由来する血漿サンプルについては、胎児DNAがCVS検体から得られ、洗浄液サンプルについては、中絶検体から得る。直接的な胎児サンプルではなく、母体血液サンプルが存在する場合については、父性サンプルを利用することで、胎児特異的対立遺伝子の同定を可能にするであろう。母体及び胎児(又は父性)サンプルは、蛍光PCRを使用して、多形について遺伝子型を決定する。5〜10の遺伝子座を有し、1つ又は2つの遺伝子座が殆ど全ての妊娠に関して有益であろう。胎児対立遺伝子の明確な同定を可能にすると予測されるサンプルを選択する。
【0102】
適切なサンプルを同定して、混合した胎児/母体サンプル(頸部又は血漿)のメチル化感受性PCR産物を上述のように調製する。血漿DNAのサイズの選択は、胎児DNAを有意に充実させるようであるため(Li et al.,Clin.Chem.50:1002−11(2004))、サイズの選択を以下のようにする。最初の消化、リンカーのライゲーション、及び12サイクルの増幅の後に、PCR産物を2%アガロースミニゲルに流す。100から400の間の断片を含有するゲル切片を切り出して、その後のMluIを使用する消化、環状化、及び等温増幅の工程に使用する。このプロトコルによって、DNAを直接的にサイズ選択するのと同じ利益が得られる。洗浄液検体から得られる全細胞ペレットに由来する(上述のプロトコルによって得られる)頸部洗浄液サンプルについては、調製されて、メチル化感受性増幅に使用される。
【0103】
増幅された産物は、有益な多型の増幅のための鋳型として使用され、断片分析によって、胎児特異的対立遺伝子が増幅され得るか否かが明らかになる。
【0104】
異数性試験
21トリソミーの疑いが高い妊娠女性からのサンプルを、それらが利用可能なものとなってから得る。メチル化感受性増幅されたPCR産物は、これらのサンプルについて上述のように調製する。上述のものと同じサイズ選択方法を使用する。(CVS又は中絶サンプル由来のDNAを使用して)栄養膜/胎児特異的21番染色体マーカーの一群について正確な胎児遺伝子型を決定した後に、増幅したPCR産物に対して同じセットのPCRを実施する。
【0105】
(実施例7)
マイクロアレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(「CGH」)のためのメチル化特異的PCR産物の使用
一般的な考察
オリグヌクレオチドアレイの比較ハイブリダイゼーションは、僅かなゲノムの欠失及び重複を検出することができる(Sebat et al.,2004;Jovanputra et al.2005;Selzer et al.2005)。細胞遺伝学的に可視の欠失及び染色体全体の異数性の検出は、当該技術を用いれば比較的単純である。歴史的には、当該技術の成功の重要な因子は、増幅されたPCR産物がプローブの複雑性を低減しており、標的オリゴヌクレオチドに対して実際に相同性を有する割合をより大きくするという事実である。さらに最近では、プローブ標識技術における改善が、直接標識された、オリゴヌクレオチドアレイ上で全ゲノムプローブを使用することを可能にしている。複数のグループが、当該技術を使用して、1コピー数の小さい変化を検出し、非常に複雑なプローブを日常的に成功させている(Brennan et al.2004;Selzer et al.2005;Hinds et al.2006)。かくして、栄養膜/胎児特異的複製配列に相当するオリゴヌクレオチドアレイに対するメチル化特異的PCR産物の比較ハイブリダイゼーションを使用して、胎児異数性を検出してよい。
【0106】
このスキームにおいて、メチル化感受性PCR産物を、上述のように妊娠女性の血漿又は頸部サンプル由来のDNAサンプルから調製する。一方は正常な対照であり、他方が未知の核型である2の異なる個体に由来する増幅したPCR産物を、次いで、実施例5に規定した栄養膜/胎児特異的オリゴヌクレオチド標的の瀬戸に対する比較ハイブリダイぜーションプローブとして使用する。2人の妊娠女性の双方が正常な核型(及び同じ性別)である場合には、同様にバランスをとれたハイブリダイゼーションシグナルが、アレイに表わされた5つの染色体全てについて予測される。2人の妊娠女性のうちの1人が全染色体において異数性を有する場合には(例えば、21トリソミー)、その染色体を表わすオリゴセットは、他の4染色体と比較して、2つの蛍光色素のシグナルについて全体として相対的にアンバランスであることが示されると予測されるであろう。胎児の性別は、性染色体プローブセットに由来するシグナルの平均比に反映されるであろう。その染色体を表わす〜100アドレス全てに由来するデータが全体として考慮されるため、アレイ中の任意の所定のアドレスについてのシグナルにおけるアンバランスの程度は大きい必要が無い。
【0107】
このスキームが成功であるか決定する主なパラメータは、栄養膜/胎児特異的複製配列がハイブリダイゼーションプローブにおいて表わされる程度である。明らかに、純粋な胎児DNAを用いて開始した場合に、当該技術を用いて異数性を検出することは普通であろう。同様に、胎児DNAと母体DNAとの等量混合物を用いて開始した場合には、栄養膜/胎児配列のメチル化感受性PCR産物は、プローブの50%を超え、異数性検出は純粋な胎児DNAを用いて開始した場合と同様に機能することが予測されるであろう。このスキームを成功させる容易性は、栄養膜/胎児DNAの割合が低減するにつれて、明らかに減少する。この点を考慮して、出発DNAが1%の栄養膜/胎児由来DNA及び99%の母体DNAである場合を考慮して、以下に議論する。
【0108】
その様な99:1の混合物に対するメチル化感受性増幅は、2つの主な意義を有するであろう。1つ目は、配列全体の複雑性が〜98%まで低減されることであり(以下参照);2つ目は、栄養膜/胎児特異的断片が存在するであろうということである。DNAの量については、栄養膜/胎児由来成分(特異的及び非特異的の双方)が、全体の約1.5から〜2%のみに留まるであろう。栄養膜/胎児DNAが低メチル化されているという点で、その増幅効率及び割合は増大するが、データは栄養膜/胎児PCR産物の断片の30%以下が栄養膜/胎児特異的である事を示すため、この効果は小さい。プローブ混合物中のDNA全体の2%を占めるハイブリダイゼーションプローブは、信頼できるシグナルを提供できるのか?これは、プローブ混合物の全体的な複雑性に依存する。本発明者のメチル化感受性手法によって製造されるプローブのおおよその複雑性を算出するために、〜49MbのDNAからなる21番染色体が、100から1500bpのサイズの〜17000のHpyCh4−IV断片を含有すると解した。メチル化は80〜90%のこれらの増幅を阻害し、増幅断片の総数を〜1700から3400にする。これらの平均サイズは〜500bpであるため、全体的な増幅された複雑性は、出発配列全体の約0.85から1.7×106又は約1.2から3%である。これは、ゲノムDNAと比較して、約97から98%の複雑性の低減に相当する。1%の栄養膜/胎児DNAを含有するDNAサンプルから製造されるハイブリダイゼーションプローブは、栄養膜/胎児成分に由来するDNAの〜2%のみを有すると予測されるが、全体的な複雑性は98%まで低減されているため、栄養膜/胎児プローブの有効濃度は、ゲノム全体のプローブにおける任意の所定の断片の濃度に類似する。したがって、少なくとも1%栄養膜/胎児に由来するDNAのメチル化特異的増幅されたPCR産物に由来するプローブが、ゲノム全体のプローブに由来するもの以上に良好なハイブリダイゼーションシグナルを提供するはずであると予測される。明らかに、出発時の栄養膜/胎児DNAのより高い割合は、比例的により強いシグナルを提供するであろう。
【0109】
実験デザイン
アレイ
実施例5は、5つの関連する染色体に由来する栄養膜/胎児特異的複製配列についてのオリゴヌクレオチドプローブについて記載している。上述のように、その様な複製配列の数は、1つの染色体あたり約200であるか又は全体で約1000であろう。任意のアレイが使用され得るであろう。例えば、従来の合成オリゴがガラススライドに固定化されたアレイを使用してよい。ガラススライド上にオリゴヌクレオチドアレイを製造するための多数の手法が開示されている(Guo et al.Nucleic Acids Res 22:5456−65(1994);Zammatteo et al.Anal Biochem 280:143−50(2000);Kimura et al.Nucleic Acids Res 32:e68(2004))。実施例5に開示した〜1000の予測された栄養膜/胎児特異的オリゴに相当するオリゴヌクレオチド配列、これらのうちの〜500(1つの染色体あたり〜100)について従来どおりに合成されるオリゴが得られる。これらのオリゴのアレイを、既存のプロトコルに従って製造する。全てのオリゴは重複してスポットし、同様の予測Tmを有する非相同のオリゴがネガティブコントロールとしてスポットされる。ポジティブハイブリダイゼーションの対照として、(実施例5に由来する)栄養膜/胎児及び末梢血液由来プローブに等しく連続的にハイブリダイズする、1つの染色体当たりに〜10の複製配列も含める。以下に記載の試験ハイブリダイゼーションで良好に機能しないオリゴはアレイから除去して、より良好に機能し得る他のものに置換する。
【0110】
アレイの評価のためのハイブリダイゼーションプローブ
最初に、信頼できる栄養膜/胎児特異的ハイブリダイゼーションシグナルが、上述の比較ハイブリダイゼーションによって得られるかどうかを決定する。これらのアレイを用いるハイブリダイゼーションにおける最初の試みは、実際の母体サンプルよりも細胞遺伝学的に正常な栄養膜/胎児DNA及び全血DNAの「人工的な」混合物を利用する。最初に、3つのその様な混合物(A、B、及びC)を、3つの別々の栄養膜/胎児/血液DNAペアから調製し、3つの全てにおいて、2つのDNAの1:1の比率を使用する。3つの各々において、全血DNAは女性由来のものであり、2つの栄養膜/胎児サンプルは男性であり、3つ目は女性である。次いで、メチル化特異的PCR産物を上述と同じプロトコルに従って調製する。平均サイズ及び濃度の線形化及び測定の後に、プローブによる標識は既存のプロトコルに従う(Ushijima et al.Proc Natl Acad Sci USA 94:2284〜9(1997);Brennan et al.Cancer Res 64:4744〜8(2004))。これらにとって重要なことは、クレノー伸長の間に標識dNTP並びに直接標識ランダムプライマーを使用することである。3つの混合物全て(A、B、及びC)をCy3及びCy5の双方で別々な反応で標識し(全部で6つのプローブ)、各混合物をそれら自体並びに互いに比較ハイブリダイズすることを可能にする。
【0111】
1:1混合物から製造したプローブは、非常に強力なハイブリダイゼーションシグナルを生じるはずであり、栄養膜/胎児DNAの割合が低減するにつれて、シグナル強度が対応して低減するであろう。3つの栄養膜/胎児/全血混合物に由来する6つの可能性があるペア(AA、AB、AC、BB、BC、及びCC)の比較ハイブリダイゼーションを使用して、前記技術の信頼性及び再現性についての重要なデータを得る。
【0112】
データ分析
実施例5のように、生のアレイデータは、ポジティブ及びネガティブなハイブリダイゼーションの対照に対するシグナル強度を決定することによって質並びに複製の一貫性について評価し、信頼性の無いスポットを除外する。各ハイブリダイゼーションについて、各アレイアドレスと関連する平均シグナル比を測定する。比はlog変換して、アレイの個々の値の各々に由来するアレイ全体の対数比の値の中央値を差し引いて標準化する。各オリゴは重複してスポットし、各ハイブリダイゼーションは色を逆にして2回実施されるため、各平均比は4つのハイブリダイゼーションに基づく。3つの常染色体は細胞遺伝学的に正常であるため、3つの常染色体についての標準化した対数比は、これらの比較のために0に中央化する。標準的な分散分析技術(ANOVA)を適用して、細胞遺伝学的に正常なサンプルで実施したハイブリダイゼーションの間で認められた分散の程度の事前の予測が得られる。性染色体由来のシグナルの比率は、この分析から明らかであるはずである。男性に対する男性、男性に対する女性、及び女性に対する女性の3つの可能性の全てを試験する。全てのその様な状況において、XXがXYに相補的にハイブリダイズする際は、一方の色において〜2:1X由来のシグナルが存在し、他の色において明らかに矛盾するYシグナルの比が存在するはずである。
【0113】
栄養膜/胎児と全血DNAの1:1の比率が信頼性できるハイブリダイゼーションを生じさせた後に、同じDNAを使用する同じセットである対照ハイブリダイゼーションであるが、全血:栄養膜/胎児の10:1の比率を使用する対照ハイブリダイゼーションを実施する。同様に、50:1混合物を使用して実施する。これは、当該技術によって成功裏に分析し得る、サンプルが含有する胎児DNAの最初の割合を決定するために重要である。ここで全血:栄養膜/胎児DNAの50:1の比率が有用である場合には、増幅PCR産物のための出発物質として、母体血漿及び/又は頸部サンプルを使用し得るはずである。
【0114】
異数性検出
上述の実験に由来するデータは、メチル化特異的増幅を使用する異数性の検出を可能にする。この目的のために、正常な全血DNA及び21トリソミーの栄養膜/胎児DNAの10:1及び50:1の比率における「人工」混合物を調製する。これらの混合物を使用して、Cy3及びCy5の双方を有するメチル化特異的ハイブリダイゼーションプローブを作製し、これらを、これら自体に並びに上述の3つの細胞遺伝学的に正常な混合物に比較ハイブリダイズさせる。21トリソミー混合物のそれ自体との比較ハイブリダイゼーションにおいて、各プローブは21番染色体の3つのコピーを有するため、21番染色体の平均比は他の2つの常染色体についての平均比と類似する。21トリソミー混合物が正常な混合物と比較してハイブリダイズされる際には、21番染色体の平均比は他の常染色体と優位に異なるものであり、これは1つのサンプルの21番染色体の3つのコピー及び他における2つのコピーを反映している。
【0115】
当該分析を形式化するために、3つの常染色体の全てに亘って平均log比を、ANOVAを用いて比較する。これによって、染色体全体の平均対数比が同一であるという帰無仮説を試験することができ、帰無仮説を却下することによって、少なくとも1つの染色体がアンバランスであることが示されるであろう。個々の染色体に由来するデータのlog平均比と他の染色体に由来するデータのlog2平均比との間でペアワイズ比較を実施することによって、いずれの染色体がアンバランスなシグナルを呈しているか決定することが可能である。3つの更なる仮説を試験するために、ボンフェローニの補正を適用する。かくして、全体的な帰無仮説を0.05レベルで試験して、却下された場合には、染色体特異的なペアワイズ仮説を0.015レベルで試験するであろう。
【0116】
1つの染色体あたり約100のアレイアドレスを使用すると、異数性を検出する非常に大きな力がある。理論的には、1.5(logスケールで0.58)の平均比に相当するコピー数の任意の増大を検出することが望ましい。しかしながら、実験は、3:2のコピー数における増大は、データにおけるノイズによる1.15(log2スケールで0.2)ほど低い比率に相当し得ることを示している。検出力分析は、所定のペアワイズ比較について、log平均シグナル比の標準偏差が0.1から0.2(標準値)の範囲であり、タイプ1誤差率が0.01であると推定した場合に、0.2(logスケール)のコピー数における増大を検出する〜99.99%より大きい力が存在することを示す。非常にノイズが大きく、かつ、質の低いハイブリダイゼーションを表わす0.4の標準偏差であったとしても、異数性の件出力は97%である。
【0117】
実際の母体サンプルの試験
既知の正常DNAと既知のトリソミーDNAとの混合物を比較する上述のハイブリダイゼーションの全てに由来するデータは、信頼できるハイブリダイゼーション及びそれによるトリソミーの測定を得るために必要な胎児DNAの割合を決定することを可能にする。上述の全ての理由のために、胎児DNAが低い割合であっても(2〜5%)成功すると解される。したがって、各々のタイプのサンプルが強みと弱みを有するため、実施例6のように、血漿及び頸部洗浄液由来DNAの双方を用いる分析を実施する。妊娠女性(母体血液サンプル)並びに随意に中絶した女性からのサンプル回収は、実施例6に記載のように実施する。同様に、増幅したPCR産物の調製は実施例6と同じである。事実、実施例6及び本実施例の双方について、同一の増幅したPCR産物を使用してよい。日常的な作業である細胞遺伝学的分析又はQF−PCRを用いて決定される正常な胎児核型を有するサンプルのペアを使用して、比較ハイブリダイゼーションを実施する。
【0118】
実際問題として、4つのその様な妊娠女性由来のサンプル並びに2つの非妊娠の対照を、血漿DNAの群並びに頸部洗浄液の群の双方において使用し、全部で12のサンプルを与える。ペアワイズ比較によって、各群について15の分析を行った。各々について逆の色素を使用して実施するため、ハイブリダイゼーションの実際の数は30である。これらのハイブリダイゼーションに由来するデータの分析は上述のように実施し、複数の重要な情報:上述の背景があるシグナルを確実に得る能力;シグナル強度において予測される正常な分散の範囲;並びに細胞遺伝学的に正常なサンプルについて適当に0に中央化した染色体の間の対数平均比の比較を提供する。
【0119】
信頼できる胎児ハイブリダイゼーションシグナルが、母体サンプルのメチル化感受性増幅されたPCR産物から得ることができ、次いで、異数性検出のために使用できる。上述のように、21トリソミーが最も関連するものであり、かつ、最も利用可能であったため、この試みは21トリソミーを用いて開始している。プローブは、実証された21トリソミー妊娠を有する患者から得られる頸部及び血漿サンプルから調製する。これらを、互いに比較ハイブリダイズさせ、正常なサンプルから調製したプローブに対してハイブリダイズさせる。統計分析は、上述の実験のように正確に実施する。信頼できるハイブリダイゼーションが得られるために、異数性の検出力は非常に高い。
【0120】
胎児診断の可能性に加えて、本発明の方法は生物学を更に理解するために使用されてよい。例えば、実施例5に記載のタイプのマイクロアレイ分析を使用して、栄養膜/胎児メチル化の妊娠期間依存性を試験してよい。事前の観察によって、妊娠が進行するにつれて、メチル化における広範な変化が存在することが示唆されているが、その様な変化が、胎盤遺伝子の発現又は機能においてどのような役割を担っているかについては理解されていない。同様に、疾患における胎盤メチル化の役割についても研究されていない。この用途において予測される実用的な目的を超えて、栄養膜/胎児と他の起源に由来する体細胞DNAの間におけるメチル化の差異を広範囲に評価するための方法の開発は、多数の興味ある生物学的用途を有するようである。例えば、子癇前症、子宮内胎児発育制限、及び奇胎妊娠などの疾患において、栄養膜/胎児メチル化における全体的な変化を探索し得る。長期間では、メチル化感受性増幅とマイクロアレイハイブリダイゼーションとの組み合わせが、早期流産、子宮内発育制限、及び子癇前症等の疾患において、胎盤のメチル化を系統的に評価することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】図1は、複数の酵素を用いて消化した血液及び栄養膜/胎児DNAの、エチジウム染色したアガロース電気泳動図を示す。「B」及び「T」は、血液及び栄養膜/胎児サンプルの各々を示す。横の白線は、約1500bpの分子量を示す。
【図2】図2は、リンカー媒介増幅の代表例を示す。上図は、母体血清の4つの異なるサンプルから精製したDNAのリンカー媒介PCRを示す。24サイクル後の産物を示す。下図は、母体血清から精製したDNAのリンカー媒介PCRを示す。20サイクル後の産物を示す。レーン1及び2はホルムアルデヒドを使用せずに回収して、レーン3及び4はホルムアルデヒドを含有するチューブに回収した。
【図3】図3は、AclI消化した栄養膜/胎児DNA及び血液DNAの増幅したPCR産物を示すゲルを示す。レーンは、1)マーカー;2)栄養膜/胎児;並びに3)血液である。レーン4及び5は、リンカーのライゲーション工程においてリガーゼが使用されなかったことを除いてレーン2及び3と同じである。白線は、クローニングのために切り出した部分を示す。
【図4】図4は、特異的なAclI複製配列のためのプライマーを使用したPCRの結果を示す。特異的なAclIのためのプライマーを使用するPCRを、栄養膜/胎児及び血液DNAの同じように調製した12のPCR産物に対して実施した。4つのプライマーセットについての結果を示す。10のその様な栄養膜/胎児「特異的」プライマーセットの全てが同定された。「T」及び「B」は。栄養膜/胎児及び血液由来の鋳型の各々を示す。
【図5】図5は、栄養膜/胎児DNA及び血液DNAの、Bal−31処理して、等温増幅したPCR産物に対する栄養膜/胎児特異的プライマーセットを用いたPCR産物を示す。各ペア(「T」及び「B」)は、栄養膜/胎児及び血液のPCR産物に対する1つのプライマーセットの結果である。上図は、6つの栄養膜/胎児の全てについての22サイクル後のPCRの可視産物を示し、血液サンプルについては不可視の産物を示す。下図は、35サイクル後に、プライマー1及び2が血液のPCR産物由来の可視産物を有することを示す。
【図6】図6は、栄養膜/胎児特異的複製配列における有用なSNPを含有するPCR産物の配列を示す。パネルAは、血液DNA由来のものである。パネルBは、栄養膜/胎児DNA由来のものである。パネルCは、2つのDNAの20:1の混合物に由来するものである。パネルDは、混合したDNAサンプルのメチル化感受性増幅したPCR産物に由来するものである。この図は、栄養膜/胎児DNAに存在するヘテロ接合型のSNPが、開始時の混合物中に5%しか存在せず、検出できないにもかかわらず、明確に増幅されることを示す。
【図7】図7は、2つの出発DNA並びに20:1の混合物から増幅されたもののPCR産物を示す。栄養膜/胎児特異的AclI複製配列上のCA反復多型を増幅するプライマーを使用して、2つのDNAの混合物に対する選択的な増幅を示した。パネルAは、198/202の遺伝子型を有する全血DNAに由来するものである。パネルBは、196/196の遺伝子型を有する栄養膜/胎児DNAである。パネルCは、198/202の遺伝子型を有する20:1の混合物である。パネルDは、20:1の混合物のメチル化感受性増幅であり、栄養膜/胎児遺伝子型が全血DNAの95%の汚染にもかかわらず得られることを示す。
【図8】図8は、Lucito et al.Genome Res 13:2291−305(2003)によって開示されたマイクロアレイからのデータを示す。各ポイントは、ガラスアレイ上にスポットされ、比較ハイブリダイズされた10000のオリゴ由来の強度のlog10平均比を表わす。内部のHindIII部位を有するBglII断片を表わす全てのアドレスは左端である。内部のHindIII部位を有する断片の平均比は、一般的には1:1(10)を遥かに超える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合されている胎児及び母体DNAサンプルから胎児DNAを選択的に増幅するための方法であって、
a)混合されている胎児/母体DNAサンプルからDNAを単離する工程;
b)メチル化特異的酵素でDNAを消化する工程;
c)消化したDNAをリンカーとライゲーションする工程;
d)消化したDNAをリンカー媒介PCR増幅に供して、増幅したPCR産物を得る工程;
e)増幅産物からリンカー及びプライマーDNAを除去する工程;
f)増幅したPCR産物を環状化する工程;
g)環状化したPCR産物をエキソヌクレアーゼ消化に供して、任意の非環状化DNAを単独のヌクレオチドに変える工程;並びに
f)工程gに由来する産物を等温ローリングサークル増幅に供して、胎児DNAを選択的に増幅し、胎児DNAからメチル化感受性PCR産物を製造する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記メチル化特異的酵素がHpyChIV−4、ClaI、AclI、又はBstBIである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リンカー媒介PCR増幅が12サイクルに亘って実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記エキソヌクレアーゼ消化がBal−31を用いるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
胎児特異的複製配列を同定する方法であって、
a)請求項1に記載の方法を用いて胎児DNA及び全血DNAからメチル化感受性PCR産物を別々に調製する工程;
b)胎児DNA及び全血DNAを標識して、標識した胎児DNAプローブ及び標識した全血DNAプローブを製造する工程;
c)オリゴヌクレオチドの2つの同一のアレイに標識したDNAプローブをハイブリダイズさせる工程であって、前記アレイのヌクレオチドが所定のメチル化感受性酵素について予測される制限断片に相当する工程;
d)2つアレイを互いに比較して、胎児DNAプローブにのみハイブリダイズするオリゴヌクレオチドの位置を決定する工程;並びに
e)胎児特異的複製配列として、工程dからハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドを同定する工程
を含む、方法。
【請求項6】
前記胎児DNAプローブ及び全血DNAプローブを2つの異なる標識で標識して、標識したプローブのハイブリダイゼーションを1つのアレイに対して実施する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程aにおいて使用する前記メチル化感受性酵素がHpyCh4−IVである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記胎児DNAを妊娠初期の妊娠から得る、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記胎児DNAを約56から84日の妊娠から得る、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項5に記載の方法によって製造される胎児特異的複製配列のライブラリー。
【請求項11】
請求項10に記載の胎児特異的複製配列のライブラリーを含むアレイ。
【請求項12】
胎児DNA及び母体DNAの混合物中の胎児DNAの所定の遺伝子座についてのコピー数が、所定の遺伝子座における正常なコピー数と比較して減少又は増加しているかを測定するための方法であって、
a)請求項1に記載の方法を使用して、試験サンプル及び対照サンプル中の胎児DNAの所定の遺伝子座を選択的に増幅する工程であって、前記対照サンプルが胎児DNAの所定の遺伝子座において正常なコピー数を有する工程;
b)試験サンプル中の増幅されたDNAの量を、対照サンプル中の増幅されたDNAの量と比較する工程;並びに
c)増幅されたDNAの量の減少をコピー数の減少と関連付けるか、又は増幅されたDNAの量の増加をコピー数の増加と関連付ける工程
を含む、方法。
【請求項13】
前記比較が、試験サンプル及び対照サンプルにおいて同じコピー数で存在する対照遺伝子座から増幅されたDNAに対して、所定の遺伝子座から増幅されたDNAを標準化することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
試験サンプルにおいて、所定の遺伝子座についてのコピー数が、正常なコピー数と比較して減少又は増加しているかを測定するための方法であって、
a)請求項1に記載の方法を使用して、試験サンプル及び対照サンプル中の胎児DNAを選択的に増幅する工程であって、前記対照サンプルが所定の遺伝子座において正常なコピー数を有する工程;
b)工程aからの試験サンプル由来のDNA及び対照サンプル由来のDNAを標識で標識して、標識した試験DNAプローブ及び標識した対照DNAプローブを製造する工程;
c)標識した試験DNAプローブ及び標識した対照DNAプローブを、実施例11に記載の胎児特異的複製配列のアレイにハイブリダイズさせる工程;
d)試験DNAプローブと対照DNAプローブとの間でハイブリダイゼーションの量を比較して、シグナル強度を測定する工程;並びに
e)シグナル強度を、試験サンプル中の所定遺伝子座におけるコピー数の増加又は減少に関連付ける工程
を含む、方法。
【請求項15】
前記試験サンプルDNA及び対照サンプルDNAが、2つの異なるプローブで標識され、ハイブリダイゼーションを1つのアレイに対して実施する、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−529330(P2009−529330A)
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558501(P2008−558501)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【国際出願番号】PCT/US2007/063366
【国際公開番号】WO2007/103910
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(306018457)ザ・トラスティーズ・オブ・コロンビア・ユニバーシティ・イン・ザ・シティ・オブ・ニューヨーク (25)
【Fターム(参考)】