説明

混合器

【課題】小型で効率の高い液体混合器を提供する。
【解決手段】表面にジグザグ形状の溝11を刻設し、溝の一端に貫通孔12を穿設した部材を2つ(A、B)用意し、溝11が刻設された面同士を接合する。溝と部材に囲われた空間が流路となり、流路両端の貫通孔が流入口・流出口となり、混合器10が構成される。混合器10内に混合液を流通させると、流路が交差する点で混合液が互いに渦流れを生じさせ合う。流路の交差点を多数設けることで、混合器の混合効率を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学分析や合成などの分野において微小な量の液体を混合するための混合器に関し、例えば液体クロマトグラフにおいて溶離液を混合するための混合器として利用するのに適するものである。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフでは、カラムに流入する移動相の組成が経時的に変化するグラジエント分析法がある。例えば、図4(a)に示されるように、移動相A液を100%、移動相B液を0%という送液状態から分析を開始し、徐々に移動相A液の送液比率を減少させる一方で移動相B液の送液比率を増加させ、最終的に移動相A液を0%、移動相B液を100%に変化させることで、カラムでの試料の保持力を変化させながら分析するものである。図4(a)では、横軸は時間を示し、縦軸のA,BはそれぞれA液100%、B液100%を示している。
【0003】
グラジエント分析法のための液体クロマトグラフを図4(b)に示す。移動相1A,1Bを送液するための送液流路上にそれぞれの送液ポンプ2A,2Bが設けられている。送液ポンプ2A,2Bはモータの回転数を制御することによって送液量を調節する。送液流路は混合器Mで合流しており、混合器Mは移動相1Aと1Bを混合して分析流路に送液するようになっている。分析流路にはインジェクタ4(試料注入部)を介して分離カラム5が設けられる。カラム5はカラムオーブン6により一定温度に保たれ、その下流に検出器7が設けられている。インジェクタ4から注入された試料は、混合器Mで混合された移動相により分離カラム5に導かれて成分ごとに分離され、分離された試料成分は検出器7で検出され、制御・処理装置8でデータ処理が行なわれる。送液ポンプ2A及び2Bは制御・処理装置8によってそれぞれの送液量が制御され、所定の送液プログラムに沿って送液量が変化させられる。
【0004】
グラジエント分析法では、移動相の組成が経時的に変化するので、混合器Mにおいて安定した混合が行なわれなければ分析の精度に非常に大きな影響を与えることとなる。
【0005】
図5(a)に従来の混合器を示す。混合器30は流入口31と流出口32の間に混合部を構成している。混合部は、図5(b)に示すような円盤33が複数重ねられており、個々の円盤33には流れ方向に延びる長溝34aと、長溝の下流側に円形溝34bとが刻設されている。上流側から円盤33に流入する混合液は、破線で示した矢印のように、溝の形状に沿って流れ、円形溝34bに穿設された貫通孔35を経て次の円盤の長溝34aに流れ込む。混合液は、溝形状に沿って流れることで、渦を形成する。これにより、液体の混合が促進される。
【0006】
出願人は、他に特許文献1〜3の混合器を提案している。
【特許文献1】特許第3780917号
【特許文献2】特許第3824160号
【特許文献3】特許第3873929号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の混合器は、円形溝で形成される渦により混合を促進するものであるが、互いに混ざりにくい液を用いる場合には、混合が不十分となる。円盤の数を増やせば、溝部分の内容積が大きくなり、混合器を通過するために要する時間が長大となるので、特に微小流量(数μ/分)の分析には適さない。本発明は、混合効率が高い混合器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑みなされた本発明に係る混合器は、液体流入口から流入する液体を混合する混合部を有する混合器であって、前記混合部は、第1の部材と第2の部材が接合されてなり、前記第1の部材及び前記第2の部材には溝が刻設され、前記第1の部材と前記第2の部材の接合面で各々の溝が第1の流路及び第2の流路を形成し、前記第1の流路と第2の流路が交差することを特徴とする。
【0009】
この構成により、一方の部材の溝が刻設された部分と、他方の部材の溝が刻設されない部分とに囲まれた空間が形成され、この空間が混合液を流通する流路となり、また、一方の部材の溝が刻設された部分と、他方の部材の溝が刻設された部分とに囲まれた空間が、流路の交差点となる。
【0010】
刻設する溝はジグザグ形状とすることで、混合器内の流路に多数の交差点が形成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の混合器によれば、一方の流路と他方の流路との交差点において、一方の流路を流れる混合液の流れにより、他方の流路を流れる混合液の流れの向きと交差する方向に流れの力を与えることで渦が生じる。この渦により混合が促進され、混合器によって安定した混合が得られる。安定した混合により、高精度な分析結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る混合器について、以下、図に沿って詳細に説明する。図1は、本発明の思想に基づく混合器の構成要素の概略を図示したものである。第1の板状部材10Aには、表面に溝11Aが刻設されており、溝の一端が他の要素との接続部12Aが設けられている。溝はジグザグ形状であり、溝の一端に設けられた接続部12Aは板状部材10Aを貫通するように穿設された貫通孔である。同様に、第2の板状部材2Bも溝11Bと接続部12Bを有する。この例では、部材10Aと部材10Bは同一形状のもので、材質として、ステンレス( 例えばSUS316など)を用いることができ、溝の加工にはプレス加工やエッチング加工により形成することが可能である。
【0013】
第1の部材10Aと第2の部材10Bとを各々溝が刻設された面を接合して、混合器10が構成される。混合器10中、実線で描かれた部分は部材10Aによる部分、破線で描かれた部分は部材10Bによる部分を示している。部材10Bの外形は部材10Aの外形と一致している。
【0014】
図2は、混合器10の各部の断面と、混合器10に混合液を流通させたときの混合液の流れの向きを示している。A−A’断面は、混合器10に外部から混合液を流入する流入口の部分を図示している。部材10Aの接続部12A(貫通孔)が混合液の流入口となっている。混合液は、貫通孔に沿って混合器10に流入する。
【0015】
B−B’断面は、一端を接続部12Aと接する溝11Aを図示している。部材10Bについては、対応する部分に溝が刻設されておらず、溝11Aと、部材10Bとに囲まれた空間が流路を形成している。混合液は形成された流路に沿って流れる。
【0016】
C−C’断面は、部材10Aに刻設された溝11Aと部材10Bに刻設された溝11Bの一端とが接合する部分を図示している。混合液の流入口からみて、溝10Aと溝10Bとが接合する最初の点であり、ここで、混合器10に流入した混合液が分岐される。
【0017】
D−D’断面は、溝11Aと部材10Bとに囲まれた空間、溝11Bと部材10Aとに囲まれた空間が各々流路(説明の便宜上、それぞれ「流路A」,「流路B」と呼称する)を形成する状態を図示している。混合液は、分岐した後、それぞれの流路に沿って流れる。
【0018】
E−E’断面は、流路Aと流路Bとが交差する流路の交差点を図示しており、F−F’断面は、流路Aに沿って見た流路Bとの交差点を図示している。流路Aの流れの方向に対して、流路Bの流れの方向が交差しており、この交差点で各々の流路内を流れる液体は、双方共に渦を形成することとなる。混合器10内では、この交差点が多数存在し、混合が促進される。
【0019】
グラジエント分析法では、目的に応じて許容される混合器の容量で最適な混合効果を得る必要がある。本発明に係る混合器においては、容量は刻設される溝の幅、深さ、長さで定まるので、交差点の数を増すことで混合効率を向上させることができる。適当な大きさに納めるためには、部材の面にジグザグ形状の溝を折り返して刻設すればよい。図3(a)は、ジグザグ形状の角度を60度、ピッチを0.8mmとして、混合部を成す第1の部材を描いたものである。図3(b)は、同様にジグザグ形状の溝が刻設された混合部を成す第1の部材を描いたものである。第1の部材と第2の部材の各々溝が刻設された面を接合すると、図3(c)のように一辺が約5mmの正方形大きさで、流路の交差点を40箇所設定することができる。例えば、容量100μLの混合器について、溝幅0.1mm、溝深さ0.1mmとすると、溝の総延長が10m(5mの溝長さ×2つの部材)となるが、上述と同じ条件では作成すると、約10cm四方のサイズとすることが可能となる。ジグザグ形状の条件は一例であり、角度をさらに鋭角にすれば、より高密度に交差点を形成することができ、同等の性能を持つ小さな混合器を得ることができる。
【0020】
混合器の混合効率の比較は、定量的に行なうことが可能である。液体クロマトグラフの場合では、例えば紫外可視分光光度検出器を用いて混合効率を評価することができる。移動相の混合が不十分であると、移動相の組成が送液プログラムに沿って変化するベースラインにうねりが現われる。このうねりは、ノイズ成分よりも長周期的な変動を示すので、判別は容易である。このうねりの大きさで、混合効率の評価が可能である。
【0021】
以上、本発明に係る混合器について、部材Aと部材Bが同一形状である場合を例に説明をしてきたが、異なる形状のものでも良い。溝が刻設される面は平面でなくとも良く、円柱状の部材の側面と円筒状の部材の内面のように立体的なものでも可能である。本発明の混合器は、構造上、分岐流路を形成することとなるので、分岐後の各々の流路の流路抵抗を等しく設計し、各々の流路の流量を等しくなるようにするとよい。流路抵抗は、溝の断面積、長さ、流路の形状、流路を形成する部材表面の材質等で定まる。
【0022】
上記実施例は本発明の単に一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変更や修正することも可能である。これら変更や修正したものも本発明に包含されることは明らかである
【産業上の利用可能性】
【0023】
液体クロマトグラフでは、時間と共に移動相組成を変化させカラムに送液するグラジエント分析法の移動相混合部、カラムで分離後に試薬を反応させ誘導体化するポストカラム法の反応部として、また、微小液体を反応させるためのマイクロリアクタなど、液体を混合するものに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る混合器の一例を構成を示す図である。
【図2】本発明に係る混合器の一例をについて、各部の断面図と流路を流れる液の流れの方向を示す図である。
【図3】本発明に係る混合器の一例を構成を示す図である。
【図4】グラジエント分析法を説明するための一般的なクロマトグラフの構成を示す図である。
【図5】従来の混合器を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1A,B・・移動相
2A,B・・送液ポンプ
3・・・・・混合器
4・・・・・インジェクタ
5・・・・・カラム
6・・・・・カラムオーブン
7・・・・・検出器
8・・・・・制御・処理装置
10・・・・・混合器
10A,B・・部材
11A,B・・溝
12A,B・・接続部
30・・・・・混合器
31・・・・・流入口
32・・・・・流出口
33・・・・・円盤
34a,b・・溝
35・・・・・貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体流入口から流入する液体を混合する混合部を有する混合器であって、
前記混合部は、第1の部材と第2の部材が接合されてなり、
前記第1の部材及び前記第2の部材には溝が刻設され、
前記第1の部材と前記第2の部材の接合面で各々の溝が第1の流路及び第2の流路を形成し、
前記第1の流路と第2の流路が交差することを特徴とする混合器。
【請求項2】
前記溝は、ジグザグ形状であることを特徴とする請求項1に記載の混合器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−264640(P2008−264640A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−108819(P2007−108819)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】