説明

混合酸化物の触媒

【課題】VOCのCO2への選択酸化およびCO2およびH2Oへの完全酸化、同様に亜硝酸エステル(nitorogen protoxide)の窒素および酸素への分解、および燃料電池のアノードから排出されたガスのCO、H2ならびにCH4の燃焼に適し、高温でのエージング後であっても高い熱安定性と高い活性を与え、かつ工業的な製造において、硝酸ランタン溶液での含浸後に1工程以上の含浸を要求されない混合酸化物の触媒を提供することを課題とする。
【解決手段】マンガンおよび銅の酸化物ならびに酸化ランタンおよび酸化ネオジウムから選択される希土類金属の酸化物を、MnO、CuO、La23および/またはNd23として、それぞれ35〜56重量%、19〜31重量%および20〜37重量%の組成重量百分率で含有する混合酸化物の触媒により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に揮発性有機化合物(VOC)のCO2およびH2Oへの完全酸化、亜硝酸エステル(nitorogen protoxide)の窒素および酸素への分解および燃料電池のアノードから排出されたガスのCO、H2およびCH4の燃焼に有用な、マンガン、銅および希土類金属の酸化物を含有する混合酸化物の触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第5,260,248号明細書(特許文献1)は、MnO、CuOおよびLa23として60〜75重量%のMnO、15〜23重量%のCuOおよび10〜18重量%のLa23で表される組成を有する、マンガン、銅およびランタンの酸化物を含有する触媒を開示している。その触媒の熱安定性は700℃より高くなく、いずれにしても約650℃であるペロブスカイト型触媒より高い。
典型的なペロブスカイト酸化触媒は、式LaMn0.5Cu0.53を有する(米国特許第3,914,389号明細書:特許文献2)。
米国特許第5,260,248号明細書の触媒は、アルミナにMn、CuおよびLaの硝酸塩の水溶液を含浸させ、次いで乾燥し、400〜700℃でか焼することにより調製される。
【0003】
欧州特許出願公開第1197259A1号明細書(特許文献3)は、MnO、CuOおよび希土類金属の酸化物として、最低原子価状態で14〜88重量%のMnO、10〜66重量%のCuOおよび2〜20重量%のLa23で表される組成を有する、Mn、Cuおよび希土類金属の酸化物を含有する混合酸化物の触媒を記載する。好ましい組成は、44〜55重量%のMnO、33〜43重量%のCuOおよび10〜13重量%のLa23である。
欧州特許出願公開第1197259A1号明細書の触媒の調製は、工業規模の製造において、担体に担持させるとき、第1の硝酸ランタンの含浸の後に2つの含浸工程を必要とし、そのそれぞれについて乾燥後に600℃でのか焼が行われる。
上記の多段階操作は、労働集約的になりコストが掛かる。
【0004】
米国特許出願公開第2004/0151647A1号明細書(特許文献4)は、15〜30%Cu、55〜77%Mn、およびPrまたは0.2〜5重量%のLaで置換可能な7.5〜10%のCeで表される組成の混合酸化物の触媒を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,260,248号明細書
【特許文献2】米国特許第3,914,389号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第1197259A1号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2004/0151647A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、VOCのCO2への選択酸化、同様に亜硝酸エステルの窒素および酸素への分解、および燃料電池のアノードから排出されたガスのCO、H2およびCH4の燃焼に適し、高温でのエージング後であっても高い熱安定性と高い活性を与え、かつ工業的な製造において、硝酸ランタン溶液での含浸後に1工程以上の含浸を要求されない混合酸化物の触媒を提供することを課題とする。
上記および他の課題は、次の本発明の記載から明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かくして、本発明によれば、マンガンおよび銅の酸化物ならびに酸化ランタンおよび酸化ネオジウムから選択される希土類金属の酸化物を、MnO、CuO、La23および/またはNd23として、それぞれ35〜56重量%、19〜31重量%および20〜37重量%の組成重量百分率で含有する混合酸化物の触媒が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の混合酸化物の触媒は、MnO、CuO、ならびにランタンとネオジウムの酸化物およびそれらの混合物から選択される希土類金属の酸化物として、35〜56重量%のMnO、19〜31重量%のCuOならびに20〜37重量%のLa23および/またはNd23で表される組成を有するMn、Cuおよび多原子価を取り得る希土類金属の混合酸化物を含有する。
【0009】
好ましい組成は、40〜48重量%のMnO、26〜30重量%のCuOおよび26〜30重量%のLa23である。
また、Ce酸化物との混合物における酸化ランタンは、混合物のCeのグラム原子含量(g-atom content)がLaのグラム原子含量に対して50%未満であるものが好ましい。
【0010】
驚くべきことに、本発明の触媒は、高温でのエージング後にあっても、欧州特許出願公開第1197259A1号明細書の触媒よりも活性であり、その結果、より長い寿命を与えられ、工業的規模の工程において、硝酸ランタン溶液でされる含浸後の2段階の含浸を必要としない、より簡単な製造方法で前記触媒を提供する。
【0011】
本発明の触媒は、欧州特許出願公開第1197259A1号明細書に記載された触媒と共に、VOCのCO2のみへの選択酸化の能力を有する。その上、本発明の触媒は、亜硝酸エステルの窒素および酸素への分解および燃料電池のアノードから排出されたガスのCO、H2およびCH4の燃焼において、欧州特許出願公開第1197259A1号明細書の触媒よりも活性である。
【0012】
本発明の触媒の活性成分を構成する混合酸化物は、p型半導体である特性を有する(これらの半導体では、導電率はアレニウス則により温度と共に指数関数的に増加し、そのチャージベクトルは電子空孔である)。これらの酸化物では、ガス状の酸素は、その表面に化学吸着され、その格子酸素と共に酸化反応に関与する。
【0013】
酸化物は、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、二酸化チタン粒子、酸化マグネシウムのような多孔質無機担体に担持されて用いられるのが好ましい。γ−アルミナは、30〜80ミクロンの平均直径を有する微球状粒子の形で、流動床反応に用いる触媒用として好ましい担体である。固定床反応用には、中空円筒形状の1つもしくは3つの突出した断面円筒形状の顆粒であって、突出部に互いに等距離の貫通孔を有するような、一定の幾何学的形状を有する担体の使用が優先的に与えられる。3つの突出した顆粒の寸法は、一般に高さ3〜10mmであり、それらの外接している円周の直径は5〜10mmであり、顆粒の幾何学的な面積と固体部分の容積との間の比率は1.3mm-1より大きい。酸化物は一般に5〜50重量%、好ましくは15〜25重量%の量で担持される。
【0014】
触媒は、まずランタンもしくはセリウムまたは他の希土類金属の塩の溶液を担体に含浸させ、担体を乾燥させ、次いで600℃の周辺温度でか焼することにより製造される。次に、担体は、銅およびマンガンの塩の溶液を含浸され、続いて120〜200℃で乾燥され、450℃以下でか焼される。
【0015】
可溶性の塩はいずれも用いることができる。
塩の例は、硝酸塩、ギ酸塩および酢酸塩である。ランタンは、硝酸ランタンLa(NO3)3として用いられるのが好ましく、銅およびマンガンは、硝酸塩、それぞれCu(NO3)2およびMn(NO3)3として用いられるのが好ましい。好ましい含浸法は、担体の孔の容積に等しいか、または少ない量の溶液を用いる乾式含浸である。
【0016】
既に示したように、本発明の触媒は、VOCを二酸化炭酸に選択的に酸化させる。これは、酸化反応に必要とされる化学量論量に対して不足した酸素で、限られた時間で作用させるときでさえ起こる。
【0017】
貴金属類ベースの触媒に対して、本発明の触媒は、より大きな熱安定性によって特徴付けられる。
例えば、乾燥空気中、1000℃で処理した後で、本発明の触媒では、完全な変換温度がわずかに上昇するが、貴金属類ベースの触媒では、担体上に存在する金属粒子の焼結によって起こる表面領域の再溶融のために、変換温度がかなり上昇する。
【0018】
本発明の触媒は、亜硝酸エステルの主な工業的な発生源を構成する、特に硝酸およびアジピン酸の生産用プラントからのガス排出物の処理に;タイヤ製造、アスファルト吹き込み、廃水処理およびオフセット印刷に用いられる。興味深い他の応用は、芳香族ポリエステル樹脂、例えばポリエチレンテレフタレート(不純物は主としてエチレングリコールによって構成される)の固体重縮合用の反応器から排出されるガスの精製であり、存在している不純物のメタン等量に対して化学量論量の酸素を用いるときであっても、本発明の触媒は、二酸化炭素の生成を伴い不純物を完全酸化させることができる。実施例1で与えられた組成を有する触媒の固定床に1600ppmのエチレングリコールを含む窒素気流を連続的に供給することによって行われた試験では、エチレングリコールが310℃において10000時間-1の空間速度で動作しながら化学量論量の酸素(グリコールのモルあたり5/2モル)を用いることによって定量的に除去されることが見出された。二酸化炭素の選択性は完全である。
【0019】
亜硝酸エステルの分解を促進するために用いられるとき、触媒の能力は、欧州特許出願公開第1197259A1号明細書に記載された触媒に対して改善される。
【0020】
触媒の別の応用は、発電用の火力発電所におけるメタンの触媒燃焼である。この応用では、触媒は、NOを発生させない低い温度で操作できる、公知のタイプの触媒の燃焼に対して、公知のタイプの触媒で要求される、酸化物除去のための後処理を必要としないという利点がある。
【0021】
さらなる応用は、燃料電池、特に溶融炭酸型燃料電池(MCFC)のアノードから排出されたガスのCO、H2およびCH4の除去である(ここで、触媒燃焼器は、MCFCセルの中における再循環系のために有益な熱を産出する二酸化炭素回収し、一般に周辺環境への排出の低減のために、アノードテールガスの燃焼に用いられる)。
【実施例】
【0022】
次の実施例は例証のために与えられ、本発明の範囲を限定するものではない。
【0023】
(実施例1)
酸化物の重量百分率として表される次の組成:
La23 =36.5%w/w
MnO =39.3%w/w
CuO =24.2%w/w
を有するγ−アルミナ上に担持された触媒を調製した。
【0024】
まず微球状γ−アルミナに硝酸ランタン(La(NO3)3)の水溶液を含浸させ、次いで110℃で乾燥させ、600℃でか焼することにより、調製を行った。次いで、担体に硝酸マンガン(Mn(NO3)2)と硝酸銅(Cu(NO3)2)の水溶液を含浸させた。引き続いて、これを120〜200℃で乾燥させ、450℃でか焼した。担体の孔の容積の100%に等しい溶液の量を用いることにより、担体に含浸させた。担持された酸化物の量は25重量%であった。
触媒の表面積(BET)および多孔度は、それぞれ110m2/gおよび0.40cm3/gであった。
新たな触媒および900℃でエージングさせた触媒を用いて合成ガス酸化試験を行った。得られた結果を表1に示す。
操作条件:CH40.8%、CO1.8%、H21.6%、O24%−ヘリウムのバランス
【0025】
(比較例1)
触媒が酸化物の重量百分率として表される次の組成:
La23 = 9.3%w/w
MnO =53.2%w/w
CuO =37.5%w/w
を有すること以外は、実施例1の触媒の製造を繰り返した。
新たな触媒および900℃でエージングさせた触媒を用いて合成ガス燃焼試験を行った。得られた結果を表1に示す。
操作条件は実施例1と同じであった。
【0026】
【表1】

【0027】
(実施例2)
実施例1および比較例1の触媒をN2Oの分解試験に用いた。得られた結果を表2に示す。
【0028】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガンおよび銅の酸化物ならびに酸化ランタンおよび酸化ネオジウムから選択される希土類金属の酸化物を、MnO、CuO、La23および/またはNd23として、それぞれ35〜56重量%、19〜31重量%および20〜37重量%の組成重量百分率で含有する混合酸化物の触媒。
【請求項2】
MnOとして40〜48重量%、CuOとして26〜30重量%およびLa23として26〜30重量%の組成重量百分率を有する請求項1に記載の混合酸化物の触媒。
【請求項3】
酸化ランタンが、Ceのグラム原子含量(g-atom content)がLaのグラム原子含量の50%未満である酸化セリウムを配合されてなる請求項1または2に記載の混合酸化物の触媒。
【請求項4】
混合酸化物が、不活性な多孔質無機担体に担持されてなる請求項1〜3のいずれか1つに記載の混合酸化物の触媒。
【請求項5】
担体が、0.3cm3/gより大きい多孔度および30m2/gより大きい表面積を有し、かつアルミナ、シリカおよびシリカアルミナから選択される請求項4に記載の混合酸化物の触媒。
【請求項6】
アルミナが、微球状粒子、または中空円筒形状の1つもしくは3つの突出した円筒形状で、突出部の軸に平行に突出部に貫通孔を有する顆粒のγ−アルミナである請求項5に記載の混合酸化物の触媒。
【請求項7】
担持された混合酸化物の量が、15〜25重量%である請求項5または6に記載の混合酸化物の触媒。
【請求項8】
揮発性有機化合物(VOC)の酸化における請求項1〜7のいずれか1つに記載の混合酸化物の触媒の使用。
【請求項9】
ガス状排出物中に存在するVOCの酸化における請求項8に記載の混合酸化物の触媒の使用。
【請求項10】
硝酸およびアジピン酸プラントからのガス状排出物中に存在する亜硝酸エステル(nitorogen protoxide)の窒素および酸素への分解における請求項1〜7のいずれか1つに記載の混合酸化物の触媒の使用。
【請求項11】
燃料電池のアノードから排出されたガスのCO、H2およびCH4の燃焼における請求項1〜7のいずれか1つに記載の混合酸化物の触媒の使用。
【請求項12】
芳香族ポリエステル樹脂の固体重縮合用の反応器から排出するガスの精製における請求項1〜7のいずれか1つに記載の混合酸化物の触媒の使用。
【請求項13】
精製が、不純物の二酸化炭素および水への酸化に必要な酸素の化学量論量を用いて行われる請求項12に記載の混合酸化物の触媒の使用。
【請求項14】
発電用の火力発電所の燃焼室における炭化水素の触媒燃焼における請求項1〜7のいずれか1つに記載の混合酸化物の触媒の使用。

【公開番号】特開2010−110755(P2010−110755A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247832(P2009−247832)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(505471510)サッド−チェミー カタリスツ イタリア エス.アール.エル. (8)
【氏名又は名称原語表記】SUD−CHEMIE CATALYSTS ITALIA S.R.L.
【住所又は居所原語表記】Via G. Fauser 36/B,28100 NOVARA,ITALY
【Fターム(参考)】