説明

混練による小さい一次粒径および狭い粒度分布のイプシロン銅フタロシアニンの製造

液体のおよび少なくとも1種の無機塩の存在下に、粒子の50質量%以上がα結晶学的形態を示す銅フタロシアニン粒子を少なくとも2つの異なる温度で混練することによる混練工程を含む、ε結晶学的形態を示す銅フタロシアニン粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に援用される、2007年11月15日出願の欧州特許出願公開第07/120738.5号明細書の優先権を主張するものである。
本発明は、小さい粒径および狭い粒度分布のイプシロン型銅フタロシアニン(ε−CuPc)粒子の製造方法と、前記方法に従って得られるイプシロン型銅フタロシアニン粒子と、液晶ディスプレイ(LCD)装置の製造用の青色フィルター顔料の製造のためのその使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
全顔料の中で、銅フタロシアニンは特に安定であり、様々な堅牢度の観点から優れている。さらに、銅フタロシアニンは多くの結晶形態を有する。これらの結晶形態のうち、既に実用されていることが知られるものには、銅フタロシアニンのアルファ、ベータおよびイプシロン型が含まれる。緑色を帯びた青色を付与するためにベータ型を、赤みを帯びた青色を付与するためにアルファ型を使用することは一般的な方法である。しかしながら、アルファ型の使用から利用可能なものよりも赤みを帯びている、青色の付与が必要とされるとき、イプシロン型が用いられる(BASF Corporation,Kirck Othmer encyclopedia)。
【0003】
イプシロン型銅フタロシアニンは、アルファ型と比較して赤みを帯びた色相、高い鮮明性および高い着色力を有する。加えて、一次結晶の結晶成長に抗するそれらの耐溶剤性は、ベータ型のそれよりも高い。さらに、ベータ型への結晶変換に抗するそれらの耐溶剤性は、他の多形銅フタロシアニンのそれよりも高い。それ故、イプシロン型銅フタロシアニンは、色相の変化ならびに着色力および鮮明性の低下に関する不安が少ない著しく優れた特性を有する、結晶形態を有する分子集合体である。また、イプシロン型の熱力学的安定性は、多形結晶の中で最も安定な結晶である、ベータ型の熱力学的安定性の次にある。
【0004】
(結晶学的に粗なまたは純粋なアルファ結晶学的相の)銅フタロシアニンは、例えば、溶剤での塩粉砕、塩の存在もしくは不存在下の乾式粉砕、その後の溶剤処理、不活性雰囲気中固体バインダーでの乾式粉砕、または乾式もしくは水性粉砕、その後の順化によって、そのベータ結晶学的形態へ容易に変換できることは繰り返し開示されてきた。
さらに、イプシロン型銅フタロシアニンの典型的な製造方法は、ソルベントソルトミリング法である。かかる方法では、イプシロン型以外の結晶を有する銅フタロシアニン粒子とイプシロン型を有する銅フタロシアニン粒子とが、長時間強い機械力を用いてビーズの存在下に有機溶剤中でミリングされる。
【0005】
韓国特許第100215919B号明細書は、新規銅フタロシアニン誘導体を使用するイプシロン型銅フタロシアニン顔料の製造方法を記載している。この方法は、アルファ、ガンマ型銅フタロシアニンまたはそれらの混合物に関連した5〜30質量%の銅フタロシアニン誘導体を加える工程と、混合物を50〜180℃で機械混練してベータ銅フタロシアニンへの結晶変換に限定し、かつ、イプシロン型銅フタロシアニンへの安定な結晶転移を誘導する工程とを含む。
特開2000−258620号公報は、有機溶剤および無機塩の存在下に、クルードε−CuPc、セミクルードε−CuPcをミリングする工程を含むε−CuPc微細顔料の製造方法を開示している。それはまた、溶剤とクルード、セミクルードまたは顔料の1質量部当たり8〜20質量部の無機塩とを使用する、イプシロン型銅フタロシアニンクルード、窒素吸収法における95〜150m2/g以下のBET比表面積を有するアルファ型銅フタロシアニンまたはイプシロン型銅フタロシアニン顔料を含有するセミクルードイプシロン型銅フタロシアニンをミリングする工程と、有機溶剤および無機塩を除去する工程とを含むイプシロン型銅フタロシアニン微細顔料の製造を開示している。
【0006】
欧州特許第1130065号明細書は、イプシロン結晶学的形態への銅フタロシアニンの変換を開示している。それはまた、銅フタロシアニン、別の多環式顔料および銅フタロシアニン誘導体の湿式および乾式粉砕による顔料組成物の製造を開示している。
特開2002−121420号公報は、イプシロン型銅フタロシアニン微細顔料の製造方法を開示している。この方法は、クルードイプシロン型銅フタロシアニンを有機溶剤と無機塩との存在下にミリングする工程を含む。かかる製造されたイプシロン型銅フタロシアニン微細顔料は、窒素吸収法における95〜150m2/gのBET比表面積を有する。さらに、それは優れた分散性および明度を示す。
【0007】
特開2002−189119号公報、米国特許出願公開第2004/237842号明細書および欧州特許第1299479号明細書は、ε型へのCuPcの変換方法およびCuPcと別の顔料との塩混練による顔料組成物の製造を開示している。特開2007−9007号公報は、変換プロセスでのフタルイミドアルキル化フタロシアニンと高級脂肪酸との使用をさらに開示している。
特開2004−244563号公報は、顔料粒子がソルベントソルトミリング法に匹敵して微細化および整粒される、ε型銅フタロシアニン顔料の製造方法を記載している。前記方法では、平均粒子径が100nmより大きい粗製ε型銅フタロシアニン顔料が、平均粒子径が10〜100nmのプレ顔料に添加される。混合物は、少量の有機溶剤を添加して乾式粉砕にかけられる。粒径調節は、ε−CuPc顔料の平均粒子径の変化を30nm以下に抑制することによって行われる。
米国特許出願公開第2005/215780号明細書は、イプシロン型銅フタロシアニンの製造方法を記載している。かかる方法は、ルイス(Lewis)酸の存在下に80℃〜250℃の範囲の温度で溶媒中銅フタロシアニンを熱処理する工程を含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、先行技術のイプシロン型銅フタロシアニンを製造する前述の方法は、それらが結晶相変換および粒径減少のために過度に多くの時間を要するという点において問題を有する。従って、結晶相変換および粒径減少のための時間が短縮されたイプシロン型銅フタロシアニンを効果的に製造する方法を開発することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、高い結晶学的純度のイプシロン型銅フタロシアニンを得るためにより短い時間を必要とする、イプシロン型銅フタロシアニンの製造方法を提供することが本発明の第一の目的である。
本発明の別の目的は、前記方法に従って得られる小さいサイズおよび狭い粒度分布のイプシロン型銅フタロシアニン一次粒子を提供することである。
本発明のさらに別の目的は、前記イプシロン型銅フタロシアニン粒子をカラーフィルター顔料の製造におよび液晶ディスプレイ(LCD)装置の製造に使用することである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の方法に使用される塩−混練システムを示す。
【図2a】本発明の方法に従って、塩−混練の前に得られたイプシロン型銅フタロシアニン粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。
【図2b】本発明の方法に従って、塩−混練の後に得られたイプシロン型銅フタロシアニン粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。
【図3】市販の(日本の大日本インキ化学工業株式会社から購入された)イプシロン型銅フタロシアニン粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。
【図4a】実施例1で得られる混練工程後のCuPc粒子のXRDスペクトルを示す。
【図4b】比較例1で得られる混練工程後のCuPc粒子のXRDスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書で以下、本発明は詳細に記載される。
LCD用のカラーフィルターの青色顔料として有効に使用することができる、銅フタロシアニン(CuPc)を開発することが本発明の目的である。かかるフィルター(例えば、フタロシアニン)は、高度に透明、均一であり、かつ、非常に一様な厚さの層で製造することができなければならない。これらの特徴は、銅フタロシアニンの化学的純度、結晶学的純度、一次粒径および粒度分布によって決定される。この関連で、本発明は、上述の特徴を満足させる、新規なおよびより効率的な銅フタロシアニンの製造方法の開発に関する。
【0012】
本発明はそれ故、液体および少なくとも1種の無機塩の存在下に、粒子の80質量%超(好ましくは85質量%超、より好ましくは90質量%超、最も好ましくは95質量%超)がα結晶学的形態を示す銅フタロシアニン粒子と、シードとしての20質量%未満(好ましくは15質量%未満、より好ましくは10質量%未満、最も好ましくは5質量%未満)のε結晶学的形態を示す粒子とを2つ以上の異なる温度で混練する工程を含む、ε結晶学的形態を示す銅フタロシアニン粒子の製造方法に関する。
【0013】
本発明の方法は好ましくは、次の2つの工程によって特徴づけられる:1)ベータ結晶学的形態からアルファ結晶学的形態への銅フタロシアニンの結晶相変換;および2)アルファ結晶学的形態からイプシロン結晶学的形態への銅フタロシアニンの結晶相変換ならびに混練による銅フタロシアニンの粒子の一次粒径減少。
【0014】
本発明の方法によって最終的に得られる銅フタロシアニンの平均一次粒径は、市販の製品の平均一次粒径より小さい、一般に30nm以下、好ましくは20nm以下である。より小さい粒径を有するイプシロン型銅フタロシアニンは、カラーフィルターのより良好なコントラストをもたらすので、それらはLCD装置のための青色フィルターとして有効に使用することができる。平均一次粒径は、透過電子顕微鏡(TEM)画像において集合体を形成する少なくとも50個の一次粒子を選択し、次にそれらの縦径の平均値を得ることによって測定することができる。
【0015】
本発明の方法に使用されるα結晶学的形態を示す銅フタロシアニン粒子は、任意の方法によって製造することができる。それらは、酸ペースト法を用いることによってβ結晶学的形態を示す銅フタロシアニンから製造されることが好ましい。ベータ型銅フタロシアニンは、東洋インキ(日本)、大日本インキ化学工業株式会社(日本)等々の様々な会社から商業的に入手可能である。ベータ型銅フタロシアニンは、酸ペースト化によってアルファ型への結晶相変換にかけられる。酸ペースト化は、好ましくは粗製の顔料の酸への好ましくは完全な溶解、その後の沈澱を意味する。硫酸、クロロスルホン酸およびポリリン酸などの酸を使用することが好ましい。用いられる沈澱媒体は一般に水、有機溶剤またはそれらの混合物を含む。沈澱は好ましくは乱流条件下に行われる。かかる処理は、例えばウルマンの工業化学百科事典、第5完全改訂版(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,Fifth Completely Revised Edition)、1992年、第A20巻、225−226ページに記載されている。
【0016】
工程2において、アルファ型銅フタロシアニンは、結晶相変換および粒径減少のための混練にかかられる。
【0017】
それを塩と混練する工程は液体の存在下に行われる。好ましい塩混練プロセスを達成するために、単軸混練スクリュー型および二軸混練スクリュー型を含む、当該技術分野において周知の典型的な連続混練装置を用いることが可能である。好ましい実施形態では、本発明は、図1に例示される、塩混練システムを用いる。
【0018】
混練工程は、液体および少なくとも1種の無機塩の存在下に2つ以上の異なる温度で実施される。具体的には、混練は、時間に応じた温度プロフィールが0に等しい時間に対する温度の少なくとも2つの微分係数(dT/dt)を示すような温度条件下に行われてもよい。前記「dT/dt=0である少なくとも2つの温度」は、少なくとも10℃、好ましくは少なくとも20℃、より好ましくは40℃、最も好ましくは50℃だけ異なることができる。本発明の別の実施形態では、混練工程中の温度は、絶えず変わる温度プロフィール下に連続的に、または少なくとも1回(段階的に)変えられてもよい。好ましくは、混練は、第1温度が80〜150℃(好ましくは100〜120℃)であり、第2温度が30〜80℃(好ましくは50〜60℃)である、第1温度で、次に第2温度で行われる。
【0019】
混練工程は、一般に2時間以上、好ましくは3時間以上、より好ましくは5時間以上、最も好ましくは6時間以上である継続期間実施される。かかる継続期間は、一般に36時間以下、好ましくは18時間以下、より好ましくは12時間以下、最も好ましくは8時間以下である。
【0020】
混練工程のために好適な液体には、水、N−メチル−2−ピロリドン、スルホラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジエチレングリコール、N−メチルホルムアミド、ジアセトンアルコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、2−ブトキシエタノール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ケトン、キノリン、および上記の少なくとも2種の任意の混合物が含まれてもよいが、それに限定されない。さらに、液体は好ましくはN−メチル−2−ピロリドンである。液体は、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、ギ酸などのような無機および有機酸、ならびにアンモニウムカチオンまたは金属カチオンを有するそれらの塩、好ましくは硫酸または硫酸リチウム、硫酸カリウム等々の金属カチオンを有する硫酸塩から選択される少なくとも1種を添加剤としてさらに含んでもよい。
【0021】
混練工程において、質量比による液体対イプシロン型銅フタロシアニンの割合は一般に、0.5以上、より好ましくは1以上である。かかる割合は一般に、10以下、より好ましくは7以下、さらにより好ましくは5以下、その上より好ましくは3以下、最も好ましくは1.5以下である。
【0022】
本発明による混練工程において、塩混練プロセスのために好適な無機塩には、必要に応じておよび可能ならば結晶水を含有してもよい、硫酸アルミニウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウムまたは塩化ナトリウム、好ましくは塩化ナトリウムが含まれるが、それに限定されない。質量比による塩対イプシロン型銅フタロシアニンの割合は一般に、2以上、好ましくは4以上である。かかる割合は一般に、40以下、より好ましくは20以下、より好ましくは15以下、その上より好ましくは10以下、最も好ましくは6以下である。
【0023】
無機塩は、一般に0.3μm以上である平均粒子を有する。かかる平均粒径は、粒度分析計(Particle Size Analyzer)を用いることによって測定された、一般に200μm以下、好ましくは50μm以下である。無機塩は、好ましくは少なくとも10g/100mlの水の程度まで一般に水に可溶である。
【0024】
本発明に使用される塩混練システムの回転速度は、混練される組成物が一様な割合で均一に移動されるように、(必要に応じて)冷却を考慮して、調節されるべきである。塩混練の間ずっと回転速度を30〜150rpm、より好ましくは50〜120rpmの範囲に維持することが好ましい。
【0025】
上記の混練工程によって、アルファ型銅フタロシアニンは、粒度分析計(Particle Size Analyzer)によって測定されたD10およびD90百分率から求められた、狭い粒度分布を有するイプシロン結晶学的形態へ効果的に変換することができる。
【0026】
本発明による方法は、次の工程:
a)液体および無機塩を除去することによって銅フタロシアニン粒子を回収することによる回収工程(工程3)
をさらに含んでもよい。
【0027】
回収工程は、任意の方法、例えば任意の適切なフィルターを使用する濾過、デカンテーション、遠心分離などによって実施することができる。好ましくは、濾過を、ε結晶学的形態を示す銅フタロシアニン粒子を分離するために用いることができる。
【0028】
混練工程後に、銅フタロシアニン粒子は、無機塩および液体を除去することによって回収される。この除去は任意の方法によって行うことができる。それは無機塩および液体を水、特に脱塩水で洗い流すことによって行われることが好ましい。
【0029】
本発明による方法は、回収工程の後にさらなる乾燥工程を含んでもよい。乾燥工程は、10-1Pa以上および105Pa以下の圧力に対して−20℃以上および250℃以下の温度で好ましくは行われ、約104Paの圧力に対して約80℃の温度で行われることが非常に特に好ましい。
【0030】
イプシロン結晶学的形態を示す生成銅フタロシアニン粒子の分散性を高めるために、官能基で置換された銅フタロシアニンの粒子(分散助剤)が、本発明による方法の酸ペースト化工程および/または混練工程中にさらに添加されてもよい。加えて、本発明の方法は、官能基で置換された銅フタロシアニンの粒子が回収工程c)の後にさらにブレンドされる、乾式混合の工程をさらに含んでもよい。
【0031】
本発明において分散助剤として使用される銅フタロシアニンの粒子は、−SO3M、−SO2NR12および−R3−NR45(式中、R1およびR2は互いに独立しており、水素、アルキル、アルケニル、アリールもしくはシクロアルキルであり;Mはプロトン、アンモニウムカチオンまたは金属カチオンであり;R3は単結合、アルキレン、アリーレンであり、前記アルキレンおよびアリーレンは少なくとも1種の置換基で置換されていてもよく;R4およびR5は互いに独立しており、水素、アルキル、アルケニル、アリールもしくはシクロアルキルであるか、または一緒になって−CO−、−SO2−および−N=N−の少なくとも1種を含有する縮合構造を形成する)から選択される少なくとも1種の官能基で置換されていてもよい。
【0032】
より好ましくは、銅フタロシアニンの粒子は、−SO3H、−SO2NHR1(式中、R1は水素、アルキル、アルケニル、アリール、シクロアルキルまたは
【化1】

である)の官能基で置換されていてもよい。
【0033】
好ましい実施形態では、本発明による方法は、次の工程:
1)α結晶学的形態を示す銅フタロシアニン粒子を、酸ペースト法を用いることによってβ結晶学的形態を示す銅フタロシアニン粒子から製造する工程;
2)工程1)で製造された銅フタロシアニン粒子およびε結晶学的形態を示す銅フタロシアニン粒子を少なくとも1種の無機塩および液体と混練する工程;ならびに
3)液体および無機塩を除去することによって銅フタロシアニン粒子を回収する工程
を含む。
【0034】
当該技術分野における既存の方法と比較して混練時間を減らすにもかかわらず、本発明の方法は、より小さい平均一次粒径、より狭い粒度分布およびより良好な一次粒子の形を有するイプシロン型銅フタロシアニンを得ることができる。
【0035】
平均一次粒径は、一般に30nm以下、好ましくは20nm以下である。
【0036】
粒度分布(PSD)は、粒度分析計(Particle Size Analyzer)(PSA)によって測定される。粒度分布の狭さは、PSAによって測定されるD10およびD90値から特徴づけられる。
【0037】
CuPc粒子の一次粒子の形は、それらのTEM画像によって観察されるとき、好ましくは球状である。
【0038】
本発明の一実施形態はα−結晶学的形態を示すCuPc粒子が容易にε−結晶学的形態に変換される混練工程中の温度条件の修正を提供し、さらに本方法は、結晶相変換および粒径減少のための時間を削減すると考えられる。
【0039】
本発明は、液体および少なくとも1種の無機塩の存在下に、粒子の80質量%より多くがα結晶学的形態を示し、粒子の20質量%未満がε結晶学的形態を示す銅フタロシアニン粒子を2つ以上の異なる温度で混練する工程を含む、イプシロン結晶学的形態を示す銅フタロシアニン粒子の製造方法を提供する。
【0040】
本発明の方法は、次の工程:
a)液体および無機塩を除去することによって銅フタロシアニン粒子を回収することによる回収工程
をさらに含んでもよい。
【0041】
本発明の方法では、粒子がアルファ型を示す銅フタロシアニンは、酸ペースト法を用いることによってベータ型を示す銅フタロシアニン粒子から製造することができる。
【0042】
本発明の方法に使用される液体には、水、N−メチル−2−ピロリドン、スルホラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジエチレングリコール、N−メチルホルムアミド、ジアセトンアルコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、2−ブトキシエタノール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ケトンおよびキノリンからなる群から選択される少なくとも1種の液体が含まれるが、それに限定されない。液体は、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、ギ酸などのような無機および有機酸、ならびにアンモニウムカチオンまたは金属カチオンを有するそれらの塩から選択される少なくとも1種を添加剤としてさらに含んでもよい。具体的には、硫酸または硫酸塩が本発明の幾つかの実施形態で添加される。
【0043】
−SO3M、−SO2NR12および−R3−NR45(式中、R1およびR2は互いに独立しており、水素、アルキル、アルケニル、アリールもしくはシクロアルキルであり;Mはプロトン、アンモニウムカチオンまたは金属カチオンであり;R3は単結合、アルキレン、アリーレンであり、前記アルキレンおよびアリーレンは少なくとも1種の置換基で置換されていてもよく;R4およびR5は互いに独立しており、水素、アルキル、アルケニル、アリールもしくはシクロアルキルであるか、または一緒になって−CO−、−SO2−および−N=N−の少なくとも1種を含有する縮合構造を形成する)からなる群から選択されてもよい、少なくとも1種の官能基で置換された銅フタロシアニンの粒子を加熱、酸ペースト工程または混練中にさらに添加することが好ましい。本発明の幾つかの具体的な実施形態では、その1つがフタルイミドメチル(
【化2】

)置換CuPcであり、他のものがスルホン酸置換CuPcである、2つのCuPc誘導体が、混練工程または酸ペースト工程中に順次加えられる。
【0044】
あるいはまた、本発明の方法は、−SO3M、−SO2NR12および−R3−NR45(式中、R1およびR2は互いに独立しており、水素、アルキル、アルケニル、アリールもしくはシクロアルキルであり;Mはプロトン、アンモニウムカチオンまたは金属カチオンであり;R3は単結合、アルキレン、アリーレンであり、前記アルキレンおよびアリーレンは少なくとも1種の置換基で置換されていてもよく;R4およびR5は互いに独立しており、水素、アルキル、アルケニル、アリールもしくはシクロアルキルであるか、または一緒になって−CO−、−SO2−および−N=N−の少なくとも1種を含有する縮合構造を形成する)からなる群から選択されてもよい、少なくとも1種の官能基で置換された銅フタロシアニンの粒子が回収工程c)の後に分散助剤として銅フタロシアニン粒子とさらにブレンドされる、乾式混合の工程をさらに含んでもよい。
【0045】
好ましくは、本発明において分散助剤として使用される銅フタロシアニンの粒子は、−SO3H、−SO2NHR1(式中、R1は水素、アルキル、アルケニル、アリールまたはシクロアルキル、または
【化3】

である)
の官能基で置換されていてもよい。
【0046】
本発明はまた、本発明の方法に従って得られるイプシロン形態銅フタロシアニン粒子に関する。本発明はさらに、カラーフィルター顔料の製造におけるその使用に関する。
【0047】
さらに、本発明は、本発明の方法に従って製造されるイプシロン型銅フタロシアニン粒子を含むカラーフィルター顔料に関する。また、本発明は、液晶ディスプレイ装置の製造におけるその使用に関する。
【実施例】
【0048】
本明細書で以下、本発明は、実施例および比較例に関連して詳細に説明される。しかしながら、これらの例は、本発明の範囲を限定すると決して解釈されるべきではない。さらに、単位は、特に記載しない限り質量によって表す。
【0049】
実施例1.イプシロン型銅フタロシアニンの製造
1)ベータ型からアルファ型への銅フタロシアニンの結晶相変換
80質量部の粗製銅フタロシアニンを800質量部の95質量%硫酸に加える。さらに、得られた混合物を3時間撹拌して硫酸中の懸濁液または溶液を調製する。懸濁液または溶液を8Lの水に2回注いでアルファ型銅フタロシアニンを得て、それを次に熱風下に乾燥させる。生じた固体を粉体化した後、アルファ型銅フタロシアニンを結晶学的収率の観点からほぼ定量的に得て、それをXRD研究によって確認する。
【0050】
2)アルファ結晶学的形態からイプシロン結晶学的形態への結晶相変換および粒径減少のための銅フタロシアニン粒子の混練
実験室規模混練機に、ε結晶学的形態を示す50質量部の得られた銅フタロシアニン粒子および12質量部のイプシロン型銅フタロシアニンを、80質量部のジエチレングリコールおよび400質量部の塩化ナトリウムと一緒に加える。混合物を、50rpmの回転速度で、130℃で2時間(第1段階)、次に同一の回転速度で、80℃で8時間(第2段階)混練する。混練工程中に、その1つがフタルイミドメチル置換CuPcであり、他のものがスルホン酸置換CuPcである、2つのCuPc誘導体を順次加える。混練後に、得られた粒子を濾過によって精製し、80℃の温度、104Paの圧力で乾燥させる。粒子をTEMで分析すると、得られた銅フタロシアニン粒子は、市販の銅フタロシアニン粒子(日本の大日本インキ化学工業株式会社から購入された)のそれらと比較してより小さい一次粒径およびより良好な粒子の形を有する。さらに、図4aに示されるように、アルファ結晶相に相当する、6.714に実質的なピークは全くない。従って、アルファ相のCuPc粒子は混練工程中にイプシロン相に完全に変換されたと考えられる。
【0051】
比較例1
混練を、実施例1と同一の混練時間の間ずっと一定温度(80℃)で:第1段階:80℃で;および第2段階:80℃で行う。製造された粒子は、かなり、未転化銅フタロシアニン(CuPc)粒子(すなわち、アルファ結晶型に相当する)を含有し、その存在は下のXRDスペクトル(図4aおよび4b)の6.714のピークによって確認することができる。
【0052】
様々な修正および変形が本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく行われ得ることは当業者に明らかであろう。従って、本開示は本発明の修正および変形を、それらが添付の特許請求の範囲およびそれらの均等物の範囲内に入るという条件で、包含することが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の液体のおよび少なくとも1種の無機塩の存在下に、時間に応じた温度プロフィールが0に等しい時間に対する温度の少なくとも2つの微分係数(dT/dt)を示し、0に等しいそれらの少なくとも2つの微分係数と関連する少なくとも2つの温度が少なくとも10℃だけ異なるような温度条件下に、粒子の50質量%以上がα結晶学的形態を示す銅フタロシアニン粒子を混練する工程を含む、ε結晶学的形態を示す銅フタロシアニン粒子の製造方法。
【請求項2】
前記粒子の80質量%より多くがα結晶学的形態を示し、前記粒子の20質量%未満がε結晶学的形態を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記液体および前記無機塩を除去することによって前記銅フタロシアニン粒子を回収することによる回収工程をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
混練工程が第1温度で、次に第2温度で行われ、そして前記第1温度が80〜150℃、好ましくは100〜120℃であり、前記第2温度が30〜80℃、好ましくは50〜60℃である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
混練工程が絶えず変わる温度プロフィール下に行われる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
α結晶学的形態を示す前記銅フタロシアニン粒子が酸ペースト法を用いることによってβ結晶学的形態を示す銅フタロシアニン粒子から製造される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記液体が、水、N−メチル−2−ピロリドン、スルホラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジエチレングリコール、N−メチルホルムアミド、ジアセトンアルコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、2−ブトキシエタノール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ケトンおよびキノリンからなる群から選択される少なくとも1種の液体である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記液体が、無機および有機酸ならびにアンモニウムカチオンまたは金属カチオンを有するそれらの塩から選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記添加剤が硫酸または金属カチオンを有する硫酸塩を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記無機塩が、硫酸アルミニウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウムおよび塩化ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種の塩である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
−SO3M、−SO2NR12および−R3−NR45(式中、R1およびR2は互いに独立しており、水素、アルキル、アルケニル、アリールもしくはシクロアルキルであり;Mはプロトン、アンモニウムカチオンまたは金属カチオンであり;R3は単結合、アルキレン、アリーレンであり、前記アルキレンおよびアリーレンは少なくとも1種の置換基で置換されていてもよく;R4およびR5は互いに独立しており、水素、アルキル、アルケニル、アリールもしくはシクロアルキルであるか、または一緒になって−CO−、−SO2−および−N=N−の少なくとも1種を含有する縮合構造を形成する)からなる群から選択される少なくとも1種の官能基で置換された銅フタロシアニンの粒子が酸ペースト工程または混練工程中にさらに加えられる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
−SO3M、−SO2NR12および−R3−NR45(式中、R1およびR2は互いに独立しており、水素、アルキル、アルケニル、アリールもしくはシクロアルキルであり;Mはプロトン、アンモニウムカチオンまたは金属カチオンであり;R3は単結合、アルキレン、アリーレンであり、前記アルキレンおよびアリーレンは少なくとも1種の置換基で置換されていてもよく;R4およびR5は互いに独立しており、水素、アルキル、アルケニル、アリールもしくはシクロアルキルであるか、または一緒になって−CO−、−SO2−および−N=N−の少なくとも1種を含有する縮合構造を形成する)からなる群から選択される少なくとも1種の官能基で置換された銅フタロシアニンの粒子が、回収工程の後にさらに添加される乾式混合の工程をさらに含む、請求項3〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記官能基が−SO3H、−SO2NHR1または
【化1】

(式中、R1は水素、アルキル、アルケニル、アリールもしくはシクロアルキルである)である、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法に従って製造される銅フタロシアニン粒子。
【請求項15】
透過電子顕微鏡によって測定した際に、30nm以下の平均粒径を有する請求項14に記載の銅フタロシアニン粒子。
【請求項16】
請求項14または15に記載の銅フタロシアニン粒子を含むカラーフィルター顔料。
【請求項17】
カラーフィルター顔料の製造における請求項14または15に記載の銅フタロシアニン粒子の使用。
【請求項18】
液晶ディスプレイ装置の製造における請求項16に記載のカラーフィルター顔料の使用。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【公表番号】特表2011−503313(P2011−503313A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533577(P2010−533577)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際出願番号】PCT/EP2008/065448
【国際公開番号】WO2009/062995
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(591001248)ソルヴェイ(ソシエテ アノニム) (252)
【Fターム(参考)】