説明

混練セグメント及び混練設備

【課題】並列状態にある混練セグメントと混練セグメントとの間で混練材料の滞留が生じるのを防止して、時間の経過に伴う劣化や化学反応が生じた混練材料、即ち、不純物を発生させないものとし、正常に混練される混練材料に対する不純物の混入を防止し、もって押出物としての品質低下を防止できるようにする混練セグメントを提供する。
【解決手段】複数の翼部20が軸まわりで互いに角度を異ならせて軸方向に一体形成された混練セグメントにおいて、翼部20の先端部21には、翼先端面21aと翼面23とが連接する部分に、この翼先端面21a及び翼面23間の混練材料の流れを促す第1流し面30が形成され、翼部20の基端部22には、翼面23とこの翼部20に隣接する他の翼部20における翼側面24とが連接する部分に、この翼面23及び翼側面24間の混練材料の流れを促す第2流し面31が形成されているものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混練セグメント及びこの混練セグメントを採用した混練設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、押出機や混練機などの混練設備では、バレル内に母材となる高分子樹脂のペレットや粉体状の添加物を供給し、これら母材と添加物とを、バレル内に並列状態で挿通された複数本(多くの場合は2本で一対)の混練スクリュによって混練しつつ、バレルの下流側へと送ることにより、プラスチックコンパウンド等の複合樹脂材料を製造している。
混練設備で採用される混練スクリュには、それぞれ軸方向中途部に混練セグメントが設けられている。この混練セグメントには、ロータセグメントやニーディングディスクセグメントがある。例えば、ニーディングディスクセグメントは、特許文献1に示すように、軸方向に沿って複数の翼部を有したものである。
【0003】
ニーディングディスクセグメントの各翼部は、軸心から径方向の両外方(周方向で180°をおいた2位置)へ突出しており、軸方向と垂直な断面(両側の先端部を含めた全体的な端面形状)は略楕円形状に形成されている。また、各翼部は、軸まわりで互いに角度を異ならせて(例えば90°毎とする)設けられている。
並列状態にある混練スクリュの相互間において、各混練セグメントは軸方向の同じ位置に配置されている。従って、混練スクリュの回転時には、各混練セグメントの翼部が互いに噛み合うようになって、各翼部の先端部とバレル内壁との間、及び翼部と翼部との噛み合い間に混練材料が導かれて混練材料が混練される。
【0004】
なお、混練性を高めさせるため、翼部先端部の張り出しを大きくする等して、互いに噛み合う翼部に関し、一方の翼部の先端部と他方の翼部の基端部との対向隙間(以下「径方向クリアランス」と言う)を小さくすることがなされていた。同様に、翼部の肉厚を大きくする等して、互いに噛み合う翼部に関し、一方の翼部の翼面と他方の翼部の翼面との対向隙間(以下、「軸方向クリアランス」と言う)を小さくすることがなされていた。これらの措置は、混練性が高められるだけでなく、径方向クリアランスあるいは軸方向クリアランスをなす部分に付着する混練材料が、翼部によって掻き取られる作用(混練セグメントとしてのセルフクリーニング作用)が得られるものとなっている。
【0005】
ところで、押出機などで使用するスクリュにおいて、その外面にダイヤモンド等の膜体を形成したものが知られている(例えば、特許文献2等参照)。このようにスクリュにダイヤモンド等の膜体を形成するのは、耐摩耗性や、混練材料の付着性を改善することが目的とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−196303号公報
【特許文献2】特開平5−42569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
互いに噛み合う翼部相互間において、径方向クリアランスや軸方向クリアランスを小さくする措置は、一方で、径方向クリアランスの中にある混練材料の流動状態を悪化させる。すなわち、互いに噛み合う翼部相互間で、一部の混練材料が滞留を生じるようになる。この滞留状態となる混練材料は、時間の経過に伴って劣化や化学反応が進むため、正常に混練される混練材料にとっては、品質差を生じた不純物となる。
【0008】
万が一、このような不純物としての混練材料が、正常に混練される混練材料と混ざれば、混練設備から押し出される押出物の品質低下に繋がっていた(いわゆるコンタミを生じることになる)。
一方、押出機などで使用するスクリュにおいて、その外面にダイヤモンド等の膜体を形成したものでは、経年劣化などによって膜体が剥離した場合などに、本来の耐摩耗性や、混練材料の付着性を改善する作用が機能しなくなることがあった。すなわち、混練材料の付着が起こるおそれがあった。そのため、付着した混練材料において劣化や化学反応が進み、これが不純物となる。従って同様に、押出物の品質低下に繋がることになる。
【0009】
また、剥離した膜体自体が混練中の混練材料に混ざり込むことになるので、この場合にも、混練設備から押し出される押出物の品質低下に繋がることになる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、並列状態にある混練セグメントと混練セグメントとの間で混練材料の滞留が生じるのを防止して、時間の経過に伴う劣化や化学反応が生じた混練材料、即ち、不純物を発生させないものとし、正常に混練される混練材料に対する不純物の混入を防止し、もって押出物としての品質低下を防止できる(押出物の高品質を維持できる)ようにした混練セグメント及び混練設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
即ち、本発明に係る混練セグメントは、複数の翼部が軸まわりで互いに角度を異ならせて軸方向に一体形成された混練セグメントにおいて、前記翼部の先端部には、翼先端面と翼面とが連接する部分に、当該翼先端面及び翼面間の混練材料の流れを促す第1流し面が形成され、翼部の基端部には、翼面と当該翼部に隣接する他の翼部における翼側面とが連接する部分に、当該翼面及び翼側面間の混練材料の流れを促す第2流し面が形成されていることを特徴とする。
【0011】
このような構成であると、翼部の先端部に形成した第1流し面により、翼先端面と翼面とが連接する部分の混練材料に対して、翼面側へ向けた流れ促進効果を付与することができる。すなわち、翼先端面と翼面とが仮に直交状に交差していた場合であると(第1流し面が形成されていないと)、この交差部に山折れ的な境界部が発生していることになる。そのため、この交差部を混練材料が乗り越え難くなり、これが滞留の原因となる。このような不具合を、第1流し面の形成で解消することができる。
【0012】
また同時に、翼部の基端部に形成した第2流し面により、翼面と翼側面とが連接する部分の混練材料に対して、翼面側へ向けた流れ促進効果を付与することができる。すなわち、翼面と翼側面とが仮に直交状に交差(谷折れ)していた場合であると(第2流し面が形成されていないと)、この交差部に混練材料が詰まり易くなり、これが滞留の原因となる。このような不具合を、第2流し面の形成で解消することができる。
【0013】
また、並列状態にある混練セグメントと混練セグメントとの噛み合い間では、両混練セグメントの回転時に、一方の翼部の第1流し面と他方の翼部の第2流し面、並びに、一方の翼部の第2流し面と他方の翼部の第1流し面とが、互いに異方向から近接し、最も近接した後に互いに異なった方向に離反する動きを繰り返すようになる(以下、この動きを「すれ違い」と言う)。そのため、これら第1流し面と第2流し面との相乗効果として混練材料の詰まりを防止できるものである。
【0014】
このように、混練材料の滞留を防止できるため、そもそも、時間の経過に伴う劣化や化学反応が生じた混練材料そのものを発生させない。従って、混練設備から押し出される押出物として、不純物の混入のない、高品質のものが得られるものとなる。
なお、混練セグメントには、軸方向に隣接する個々の翼部が、板状のディスクとして別体形成されていて、回転中心となるスプライン軸に対して抜き差し自在とされた組立構造のものと、複数の翼部が軸方向に隣接した状態で一体形成された一体構造のものとがある。本発明は、一体構造の混練セグメントであることを前提とする。
【0015】
前記第1流し面は凸アール面からなり、前記第2流し面は凹アール面からなるものとすることができる。
この場合、前記第2流し面に形成された凹アール面の曲率半径は、前記第1流し面に形成された凸アール面の曲率半径よりも大きく形成するとよい。また、前記第2流し面に形成された凹アール面の曲率半径は、翼部の厚みの20%以上であるとすることも可能である。
【0016】
このようにすることにより、第1流し面と第2流し面とが互いに対向する部分での隙間を一層小さくできる。すなわち、第1流し面と第2流し面とを接近させることができる。そのため、万が一、第1流し面と第2流し面との対向間で混練材料の滞留が起こりかけるようなことがあったとしても、混練材料の掻き出しが可能となる。その結果、混練材料の滞留防止効果も高くなる。
【0017】
なお、第2流し面に形成された凹アール面の曲率半径が翼部の厚みの20%以上である場合に、翼面と翼側面とが連接する部分の混練材料に対する流れ促進効果を得るうえで、確実且つ十分となることが確かめられている。20%に満たない場合には、確実性の面で僅かにバラツキを生じるおそれがある。
前記第1流し面は斜面からなり、前記第2流し面は斜面からなるものとしてもよい。
【0018】
前記第1流し面は凸アール面からなり、前記第2流し面は斜面からなるものとしてもよい。
前記第1流し面は斜面からなり、前記第2流し面は凹アール面からなるものとしてもよい。
一方、本発明に係る混練設備は、平行する複数本の混練スクリュを有し、これら各混練スクリュには軸方向中途部に混練セグメントが設けられ、各混練セグメントが互いの翼部を噛み合わせて配置されており、これら混練セグメントとして、本発明の混練セグメントを採用していることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る混練設備は、平行する複数本の混練スクリュを有し、これら各混練スクリュには軸方向中途部に混練セグメントが設けられ、各混練セグメントが互いの翼部を噛み合わせて配置されており、これら混練セグメントは、前記翼部の先端部に、翼部先端から翼面に沿わせて翼部基端へ混練材料を流す凸アール面の第1流し面が形成されていると共に、翼部の基端に、翼面側の混練材料を翼部基端で隣の翼部側へ流す凹アール面の第2流し面が形成されており、前記第1流し面に形成された凸アール面の曲率半径及び第2流し面に形成された凹アール面の曲率半径は、互いに噛み合う翼部相互間のクリアランスの略2倍とされていることを特徴とするものであってもよい。
【0020】
ここにおいて、第1流し面及び第2流し面の各曲率半径を、翼部相互間のクリアランスに対する略2倍にするとは、おおよそ1.5倍以上、2.5倍未満の範囲を言うものとする。1.5倍以上、2.5倍未満の範囲である場合に、翼先端面と翼面とが連接する部分の混練材料の流れ促進効果や、翼面と翼側面とが連接する部分の混練材料の流れ促進効果が、確実且つ十分となることが確かめられている。
【0021】
換言すれば、第1流し面と第2流し面との噛み合い間での混練材料の滞留防止効果(詰まり防止や掻き出しの効果)も確実且つ十分となることが確かめられている。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る混練セグメント及び混練設備は、並列状態にある混練セグメントと混練セグメントとの間で混練材料の滞留が生じるのを防止できるので、時間の経過に伴う劣化や化学反応が生じた混練材料、即ち、不純物を発生させることがなく、正常に混練される混練材料に対する不純物の混入を防止でき、もって押出物としての品質低下を防止できる(押出物としての高品質を維持できる)ものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る混練セグメントの第1実施形態を示した斜視図である。
【図2】本発明に係る混練セグメントの第1実施形態を示した側面図である。
【図3】本発明に係る混練セグメントの第1実施形態が並列状態とされて翼部同士が噛み合った状況を示した斜視図である。
【図4】本発明に係る混練セグメントの第1実施形態が並列状態とされて翼部同士が噛み合った状況を示した平面図である。
【図5】本発明に係る混練セグメントの第1実施形態において翼部の噛み合い状況を示した要部拡大平面図であって(A)は第1流し面の凸アール面と第2流し面の凹アール面とが同一曲率半径の場合であり(B)は第2流し面の凹アール面が第1流し面の凸アール面よりも曲率半径を大きくされている場合である。
【図6】混練設備を模式的に示した側断面図である。
【図7】本発明に係る混練セグメントにおいて翼部の噛み合い状況を示した要部拡大平面図であって(A)は第2実施形態であり(B)は第3実施形態であり(C)は第4実施形態である。
【図8】本発明に係る混練セグメントの第5実施形態を示した要部(翼部の先端部)拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1乃至図5は、本発明に係る混練セグメント1の第1実施形態を示しており、図6は、この混練セグメント1を採用可能な混練設備2を模式的に示した側断面図である。
図6に示すように、混練設備2は、内部が空洞のバレル4と、このバレル4の空洞内に互いに平行な並列状態で設けられた複数本の混練スクリュ3とを有しており、この混練スクリュ3の軸方向中途部に混練セグメント1が設けられている。混練セグメント1は、各混練スクリュ3における軸方向の同じ位置に設けられており、混練設備2内(バレル4内)で横並びになる配置とされる。
【0025】
混練設備2では、混練スクリュ3がバレル4内で同方向に回転することで、連続的に混練材料を混練しつつ混練スクリュ3の軸方向に送るようになり、その送りの途中で、混練材料に対して混練セグメント1による混練を行うようになっている。
なお、以下の説明において、混練スクリュ3の回転軸に沿った方向を混練設備2を説明する際の軸方向と呼ぶ。この軸方向は図6の紙面の左右方向(スクリュの長手方向)と一致する。また、この軸方向において、図6の紙面左側を混練設備2を説明する際の上流側とし、紙面右側を下流側とする。さらに、混練スクリュ3は2本で一対とされており、混練設備2内(バレル4の空洞部)において図6の紙面に垂直な方向に並んで配置されているものとして、この並び方向を並列方向、又は左右方向と呼ぶ。
【0026】
バレル4は軸方向に沿って長い筒状に形成されている。バレル4の内部には軸方向に沿って長いめがね孔状の空洞部が形成されており、この空洞部に2本の混練スクリュ3が回転自在に挿通されている。2本の混練スクリュ3は、互いに軸方向を平行させて配置されている。
バレル4は、軸方向の上流側に材料供給口5を有しており、この材料供給口5を介して混練材料を空洞部に供給可能となっている。バレル4には電気ヒータや加熱した油などを用いた加熱装置(図示略)が必要に応じて備えられており、材料供給口5から供給された混練材料はこの加熱装置により必要に応じて加熱される。
【0027】
なお、図例では、材料供給口5に混練材料と添加剤などを供給できるホッパ6及び混練された材料から揮発するガスをバレル4外へ排出する開口部8が設けられたものとしてある。
混練スクリュ3には、軸方向に長いスプライン軸等、セグメントの回り止め機能を有する軸(図示略)が設けられており、このスプライン軸により複数のセグメント部材が串刺し状に固定されている。
【0028】
混練スクリュ3を構成するセグメント部材には様々な種類のものがあり、混練スクリュ3では複数種のセグメント部材を組み合わすことで混練材料を送る送り部10、混練材料を混練する混練部11、及び混練された混練材料を下流側に送り出す押出部12などが軸方向の所定の範囲に亘って設けられている。
送り部10は、軸方向に配備された複数のスクリュセグメント13で構成されている。スクリュセグメント13は、軸方向に螺旋状に捩れたスクリュフライト(図示略)を備えており、螺旋状に捩れたスクリュフライトが回転することで混練材料を上流側から下流側に送っている。
【0029】
押出部12も、送り部10と同様に螺旋状に捩れたスクリュフライトを備えたスクリュセグメント13を軸方向に複数有している。押出部12のスクリュセグメント13は、スクリュフライトのピッチを一定とすることもあるが、図例では、押出部12のスクリュセグメント13は、スクリュフライトのピッチが下流に位置するスクリュセグメント13ほど小さくなるように(スクリュフライトの捩れ角が大きくなるように)形成されており、下流側に行くほど混練材料の移動速度を低くして混練材料を加圧できるようになっている。
【0030】
混練部11は、ニーディングディスクセグメントと複数のロータセグメントとを有している。本実施形態では、ニーディングディスクセグメントに着目して、このニーディングディスクセグメントを「混練セグメント1」と呼ぶものとする。なお、図例の混練部11は、1個の混練セグメント1と6個のロータセグメント15とを有したものとしてある。
ロータセグメント15は、軸方向に螺旋状に捩れた混練用フライトを複数(例えば2条)有しており、この混練用フライトで混練材料を剪断しながら下流側に押し出せるようになっている。
【0031】
複数のロータセグメント15のうち、最も下流側に配置されたロータセグメント15の下流側に隣接するように混練セグメント1が設けられている。またこの混練セグメント1の下流側には、前記した押出部12のスクリュセグメント13が隣接する配置となっている。すなわち、混練セグメント1は、ロータセグメント15とスクリュセグメント13との間に挟まれるような配置となっている。
【0032】
図1及び図2に示すように、混練セグメント1は、軸方向に沿って互いに隣接する複数の翼部20を有している。各翼部20は同じ形状である。各翼部20は、軸心から径方向の両外方(周方向で180°をおいた2位置)へ突出したものとなっており、その両端に先端部21,21を有している。先端部21は、翼部20において軸心から最も離れた部位を言う。すなわち、翼部20が軸心まわりに回転するとき、両側の先端部21,21がバレル4の内周面をかすめるように移動して、バレル4の内周面に付着する混練材料を掻き取りながら混練するようになっている。
【0033】
翼部20は、両側の先端部21から軸心へ近づくにつれて徐々に幅広に形成されており、軸心まわりが最も幅広になるように形成されている。従って、翼部20は、軸方向と垂直な方向で見ると、両側の先端部21,21を含めた全体的な端面形状として、略楕円形状に形成されている。
翼部20は、軸方向で隣接する他の翼部20との間で、互いに軸まわりの角度を異ならせながら、軸方向で一体形成されている。本第1実施形態では、各翼部20が軸まわりで90°ずつ、角度を異ならせたものとしてある。各翼部20は、軸方向に一体形成されているため、各翼部20間の相対角度は不変(固定)である。
【0034】
翼部20において、先端部21を除くその他の部位は次のようになっている。すなわち、前記したように、翼部20がその端面形状を略楕円形状に形成されているものとおけば、軸心を通り、両側の先端部21,21を繋ぐ仮想線は楕円形状の長径dAに相当し、軸心を通り、この長径dAの仮想線と直交する短い仮想線は楕円形状の短径dBに相当する。
【0035】
各翼部20は、軸まわりで90°ずつ、角度を異ならせているので、軸方向で隣接する翼部20,20では、一方の翼部20の短径dBの位置で、他方の翼部20の先端部21が径方向に向けて突出量Hだけ突出していることになる。ここにおいて、前記先端部21の径方向突出量Hは、H=(dA−dB)/2の長さを有していることになる。
このような翼部20において、先端部21が隣接の翼部20から径方向に突出する根本部分(径方向突出量Hにおいて先端部21とは反対側の基点が通る部分)が、翼部20の基端部22である。この基端部22は、軸まわりに沿って円弧形に形成されている。
【0036】
また翼部20において、基端部22と先端部21との間を繋ぐ面であって軸方向に垂直な面が、翼部20の翼面23であり、翼部20の外周部で軸方向に沿って生じている面(翼部20の肉厚に相当する部分である。但し、先端部で軸方向に沿って生じている端面を除く)が、翼部20の側面24である。翼部20の先端部21で軸方向に沿って生じている面(先端部21において径方向の外端となる端面)は、以下「翼先端面21a」と言う。
【0037】
混練セグメント1は、前記したように混練設備2内(バレル4内)で横並びになる配置とされるが、このとき、混練セグメント1,1の相互間では、図3及び図4に示すように、各混練セグメント1の翼部20が噛み合わされるようになる。
すなわち、一方の混練セグメント1における翼部20の先端部21(翼先端面21a)が、他方の混練セグメント1における翼部20の基端部22(翼側面24)と、互いに異方向から近接し、最も近接した後に互いに異なった方向に離反する動き(すれ違い)をしながら回転し、また一方の混練セグメント1における翼部20の基端部22(翼側面24)が、他方の混練セグメント1における翼部20の先端部21(翼先端面21a)とすれ違いながら回転するように、両混練セグメント1,1間の相対的な回転角度が設定される。
【0038】
翼部20の先端部21には、翼先端面21aと翼面23とが連接する部分に、この翼先端面21a及び翼面23間の混練材料の流れを促す第1流し面30が形成されている。
本第1実施形態において、この第1流し面30は凸アール面からなる。この凸アール面は、翼先端面21a及び翼面23に対して連続性を維持しつつ面的な繋がりを有している。すなわち、翼先端面21a及び翼面23に対して段差的な境界部を生じていない。また、この凸アール面は、翼先端面21aと翼面23との間では単一の曲率半径でアール面を描くようにして形成されたものである。
【0039】
また、翼部20の基端部22には、翼面23とこの翼部20に隣接する他の翼部20における翼側面24とが連接する部分に、この翼面23及び翼側面24間の混練材料の流れを促す第2流し面31が形成されている。
本第1実施形態において、この第2流し面31は凹アール面からなる。この凹アール面は、翼面23及び翼側面24に対して連続性を維持しつつ面的な繋がりを有している。すなわち、翼面23及び翼側面24に対して段差的な境界部を生じていない。また、この凹アール面は、翼面23と翼側面24との間では単一の曲率半径でアール面を描くようにして形成されたものである。
【0040】
このような第1流し面30及び第2流し面31が形成されているため、並列状態にある混練セグメント1と混練セグメント1との噛み合い間では(図3及び図4参照)、両混練セグメント1,1の回転時に、一方の翼部20の第1流し面30と他方の翼部20の第2流し面31、並びに、一方の翼部20の第2流し面31と他方の翼部20の第1流し面30とが、互いにすれ違いを生じるようになる。
【0041】
なお、図5(A)に拡大して示すように、第1流し面30に形成された凸アール面の曲率半径と、第2流し面31に形成された凹アール面の曲率半径とは、同じにすればよい。ただ、曲率半径を同じにすることは限定されるものではない。
例えば、図5(B)に示すように、第2流し面31に形成された凹アール面の曲率半径を、第1流し面30に形成された凸アール面の曲率半径よりも大きく形成してもよい。このようにすることにより、第1流し面30と第2流し面31とが互いに対向する部分での隙間を一層小さくできる。すなわち、第1流し面30と第2流し面31とを接近させることができるので、それだけ混練材料の掻き出しがし易くなり、滞留防止効果が高くなる。
【0042】
更に言えば、第1流し面30に形成された凸アール面の曲率半径は、互いに噛み合う翼部20相互間(翼面23の対向間又は翼先端面21aと翼側面24との対向間)のクリアランスの略2倍(おおよそ1.5倍以上、2.5倍未満)とするとよい。
同様に、第2流し面31に形成された凹アール面の曲率半径は、互いに噛み合う翼部20相互間(翼面23の対向間又は翼先端面21aと翼側面24との対向間)のクリアランスの略2倍(おおよそ1.5倍以上、2.5倍未満)とするとよい。
【0043】
また、第2流し面31に形成された凹アール面の曲率半径は、翼部20の厚みの20%以上にした場合にも、良好な結果が得られている。
このような構成の混練セグメント1を製造するには、鍛造又は鋳造などにより形成した素材を元に、フライス加工などにより翼部20の削りだしを行うようにする。このとき、翼部20の先端部21に対し、第1流し面30を成形させるうえで必要な削り代を確保しておき、第1流し面30の加工を行うようにする。また、翼部20の基端部22と、この翼部20に隣接する翼部20の翼側面24との間(隅角部)に対し、第2流し面31を成形させるうえで必要な削り代を確保しておき、第2流し面31の加工を行うようにする。
【0044】
次に、混練設備2の動作状況を説明する。
混練設備2を作動させると、並列状態とされた各混練スクリュ3がバレル4内で同方向に回転し、材料供給口5を介してバレル4内へ供給された混練材料は、混練されつつ混練スクリュ3の軸方向に送られる。
各混練スクリュ3における軸方向の同じ位置で並列状態となっている混練セグメント1,1へと至った混練材料は、各混練セグメント1,1の翼部20,20により、これらの先端部21,21によってバレル4の内周面から掻き取られながら、翼部20,20の噛み合い間で混練される。
【0045】
ここにおいて、各翼部20の先端部21では、翼先端面21aと翼面23とが連接する部分の混練材料が、第1流し面30から流れ促進効果を受け、その殆どが翼面23側へ押し出されるように流れる。すなわち、互いに噛み合う翼部20の先端部21と翼部20の基端部22との対向隙間(径方向クリアランス)では、混練材料が滞留することがない。翼面23側へと流された混練材料は、翼面23と翼面23とが対向する間(軸方向クリアランス)を、翼面23に沿いながらそれぞれの翼部20,20における基端部22,22へ向け、円滑に流れるようになる。
【0046】
また同時に、各翼部20の基端部22では、翼面23と翼側面24とが連接する部分の混練材料が、第2流し面31から流れ促進効果を受け、その殆どが翼面23側へ押し出されるように流れる。同様に、前述の径方向クリアランスでは、混練材料が滞留することがない。翼面23側へと流された混練材料は、翼面23と翼面23とが対向する間を、翼面23に沿いながら一方の混練セグメント1の翼部20における基端部22へ向け、円滑に流れるようになる。隣接する他方の混練セグメント1の翼部20に着目すれば、混練材料の殆どが先端部21へ向けて流れるようになる。
【0047】
このようにして混練材料に付与される流れ促進効果は、これら第1流し面30と第2流し面31とによる相乗効果として作用するものであり、混練材料の滞留や詰まりは確実に防止されるものであり、混練材料の滞留は解消される。
それ故、本発明に係る混練セグメント1を採用した混練設備2では、混練部11での混練材料の滞留を防止でき、そもそも、時間の経過に伴う劣化や化学反応が生じた混練材料そのものを発生させない。そのため、混練設備2から押し出される押出物として、不純物の混入のない、高品質のものが得られるものとなる。
【0048】
図7(A)は、本発明に係る混練セグメント1の第2実施形態について、翼部20の噛み合い状況を示した要部拡大平面図である。本第2実施形態において、翼部20の先端部21で、翼先端面21aと翼面23とが連接する部分に形成した第1流し面30は、斜面からなるものとしてある。また、翼部20の基端部22で、翼面23と翼側面24とが連接する部分に形成した第2流し面31も、斜面からなるものとしてある。
【0049】
第1流し面30を形成する斜面は、翼先端面21a及び翼面23のいずれにも同じ屈曲角(内角α:135°)を有して設けられた単一の面を有したものとしてある。また、第2流し面31を形成する斜面は、翼面23及び翼側面24のいずれにも同じ屈曲角(内角β:225°)を有して設けられた単一の面を有したものとしてある。
従って、これら第1流し面30と第2流し面31とは、互いに対向する面同士間で平行(面平行)の関係とされている。なお、軸線方向と平行な方向の各斜面の幅は、第1実施形態におけるアール面の曲率半径に相当する寸法に設定すればよい。
【0050】
本発明に係る混練セグメント1は、このような第1流し面30及び第2流し面3を有した構成とすることでも、混練材料の滞留や詰まりを確実に防止できるものである。従って、この混練セグメント1を採用した混練設備2では、押出物として、不純物の混入のない、高品質のものが得られるものとなる。
図7(B)は、本発明に係る混練セグメント1の第3実施形態について、翼部20の噛み合い状況を示した要部拡大平面図である。本第3実施形態において、翼部20の先端部21で、翼先端面21aと翼面23とが連接する部分に形成した第1流し面30は、凸アール面からなるものとしてある。また、翼部20の基端部22で、翼面23と翼側面24とが連接する部分に形成した第2流し面31は、斜面からなるものとしてある。
【0051】
図7(C)は、本発明に係る混練セグメント1の第4実施形態について、翼部20の噛み合い状況を示した要部拡大平面図である。本第4実施形態において、翼部20の先端部21で、翼先端面21aと翼面23とが連接する部分に形成した第1流し面30は、斜面からなるものとしてある。また、翼部20の基端部22で、翼面23と翼側面24とが連接する部分に形成した第2流し面31は、凹アール面からなるものとしてある。
【0052】
本発明に係る混練セグメント1は、このような第1流し面30及び第2流し面3との組み合わせを有する構成とすることでも、混練材料の滞留や詰まりを確実に防止できるものである。従って、この混練セグメント1を採用した混練設備2では、押出物として、不純物の混入のない、高品質のものが得られるものとなる。
図8は、本発明に係る混練セグメント1の第5実施形態について、翼部20の先端部21を拡大して示している。本第5実施形態では、翼部20の先端部21で、翼先端面21aと翼面23とが連接する部分に形成した第1流し面30は、翼先端面21a及び翼面23のいずれにも同じ屈曲角(内角:150°)を有して設けられた二つの斜面30a,30bを有した多段斜面構造としてある。
【0053】
なお、このような多段斜面構造は、二つの斜面30a,30bの組み合わせとすることが限定されるものではなく、三つ以上の斜面の組み合わせとして形成することも可能である。また、翼先端面21aや翼面23に対する屈曲角は、互いに同じ角度とすることが限定されるものではなく、また数値的に限定されるものでもない。
このような多段斜面構造は、第2実施形態(図7(A)参照)や第4実施形態(図7(C)参照)の第1流し面30と置換可能である。また、図示は省略するが、第2実施形態(図7(A)参照)や第3実施形態(図7(B)参照)のように、第2流し面31が斜面からなるものとする場合には、この第2流し面31についても多段斜面構造を採用することができる。なお、第3実施形態、第4実施形態および第5実施形態において、凸アール面や凹アール面の曲率半径、及び軸方向と平行な方向の斜面や多段斜面の幅は、第1実施形態におけるアール面の曲率半径に相当する寸法に設定すればよい。
【0054】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせなどを適宜変更可能である。
例えば、混練設備2は、混練スクリュ3を2軸とする完全噛み合い型で同方向回転型の2軸押出機である場合の他、3軸以上備える構成としてもよい。また、混練スクリュ3が異方向に回転するものとしてもよい。混練セグメント1には、ニーディングディスクセグメントと他のセグメントとの間に配置され、ニーディングディスクと類似形状部を備えるトランジションピースを含んでもよい。
【0055】
混練セグメント1で混練材料を滞留させる時間を長くしたい場合や分配混合性を高めたい場合などには、各混練セグメント1における軸方向に隣接する翼部20の相対角度を30°以上80°未満に設定すればよい。また、場合によっては90°を超える角度に設定することも可能である。
また、混練スクリュ3における送り部10、混練部11、押出部12の配置や、それらの数は、混練材料の種類や混練の用途に応じて任意に変更することができる。
【0056】
翼部20に対して施す表面処理としては、例えば、ダイヤモンドライクカーボン、クロムメッキ、ニッケルメッキ、フッ素樹脂等の膜体を採用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 混練セグメント
2 混練設備
3 混練スクリュ
20 翼部
21 先端部
21a 翼先端面
22 基端部
23 翼面
24 翼側面
30 第1流し面
31 第2流し面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の翼部が軸まわりで互いに角度を異ならせて軸方向に一体形成された混練セグメントにおいて、
前記翼部の先端部には、翼先端面と翼面とが連接する部分に、当該翼先端面及び翼面間の混練材料の流れを促す第1流し面が形成され、
翼部の基端部には、翼面と当該翼部に隣接する他の翼部における翼側面とが連接する部分に、当該翼面及び翼側面間の混練材料の流れを促す第2流し面が形成されている
ことを特徴とする混練セグメント。
【請求項2】
前記第1流し面は凸アール面からなり、前記第2流し面は凹アール面からなることを特徴とする請求項1記載の混練セグメント。
【請求項3】
前記第2流し面に形成された凹アール面の曲率半径は、前記第1流し面に形成された凸アール面の曲率半径よりも大きく形成されていることを特徴とする請求項2記載の混練セグメント。
【請求項4】
前記第2流し面に形成された凹アール面の曲率半径は、翼部の厚みの20%以上であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の混練セグメント。
【請求項5】
前記第1流し面は斜面からなり、前記第2流し面は斜面からなることを特徴とする請求項1記載の混練セグメント。
【請求項6】
前記第1流し面は凸アール面からなり、前記第2流し面は斜面からなることを特徴とする請求項1記載の混練セグメント。
【請求項7】
前記第1流し面は斜面からなり、前記第2流し面は凹アール面からなることを特徴とする請求項1記載の混練セグメント。
【請求項8】
平行する複数本の混練スクリュを有し、これら各混練スクリュには軸方向中途部に混練セグメントが設けられ、各混練セグメントが互いの翼部を噛み合わせて配置されており、これら混練セグメントが請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の混練セグメントであることを特徴とする混練設備。
【請求項9】
平行する複数本の混練スクリュを有し、これら各混練スクリュには軸方向中途部に混練セグメントが設けられ、各混練セグメントが互いの翼部を噛み合わせて配置されており、
これら混練セグメントは、前記翼部の先端部に、翼部先端から翼面に沿わせて翼部基端へ混練材料を流す凸アール面の第1流し面が形成されていると共に、翼部の基端に、翼面側の混練材料を翼部基端で隣の翼部側へ流す凹アール面の第2流し面が形成されており、
前記第1流し面に形成された凸アール面の曲率半径及び第2流し面に形成された凹アール面の曲率半径は、互いに噛み合う翼部相互間のクリアランスの略2倍とされていることを特徴とする混練設備。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−158145(P2012−158145A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20760(P2011−20760)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】