説明

混酸液中の硝酸の分析方法

【課題】少なくとも硝酸と燐酸とを含有し且つモリブデン及び/又はタングステンとアルミニウムとを成分として含有する混酸液中の硝酸を分析する方法であって、従来の紫外線吸光光度法を使用して正確に硝酸を定量することが出来る様に改良された混酸液中の硝酸の分析方法を提供する。
【解決手段】混酸液中の硝酸の分析方法においては、紫外線吸光光度法によって硝酸を定量するに当たり、試料の前処理として、混酸液にアルカリを添加し、pHを7以上に調節する。これにより、混酸液中に生成されている錯体類を解離させ、硝酸の吸収スペクトルのピークを取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混酸液中の硝酸の分析方法に関するものであり、詳しくは、主にウェーハや液晶パネル基板のエッチングプロセスに使用された混酸排液中の硝酸を定量分析するための分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハや液晶パネル基板のエッチングプロセスにおいては、硝酸、リン酸、酢酸などを含む混酸液が使用されるが、高品質の処理を行うため、混酸液の供給に際しては、混酸液中の各成分を定量分析している。混酸液の分析方法としては、例えば、硝酸の濃度を紫外線吸光光度法によって定量し、リン酸の濃度を混酸液のドライアップ後の中和滴定法によって定量し、合計酸当量からの硝酸当量とリン酸当量の差し引きにより酢酸の濃度を算出する様にした「金属エッチングプロセスに用いる混酸液の定量分析方法」が挙げられる。
【特許文献1】特開2002−303619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
昨今、半導体や液晶パネルの製造分野における金属エッチングプロセスでは、基板サイズの大型化や量産化によって混酸液を多量に使用する傾向にあり、コスト低減や資源の有効利用の観点から、使用済みの混酸液(混酸排液)を回収して再利用することが望まれている。しかしながら、回収された混酸排液には、アルミニウム、銀、銅、モリブデン、タングステン等の成分が混入しており、紫外線吸光光度法により硝酸成分を定量分析しようとすると、モリブデンやタングステンとリン酸によって生成された錯体類の吸収スペクトルが300nm付近にあるため、硝酸のピークスペクトルが妨害され、解析できないと言う問題がある。
【0004】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、少なくとも硝酸と燐酸とを含有し且つモリブデン及び/又はタングステンとアルミニウムとを成分として含有する混酸液中の硝酸を定量分析する分析方法であって、従来の紫外線吸光光度法を利用して正確に硝酸を定量することが出来る様に改良された混酸液中の硝酸の分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、本発明では、試料である混酸液を紫外線吸光光度法により吸収スペクトルを解析する際、前処理として、混酸液がアルカリ性となる様にアルカリを添加し、混酸液中に生成されているモリブデンやタングステンとリン酸の錯体を解離させ且つアルミニウム沈殿物の生成を防止することにより、硝酸の吸収スペクトルを顕在化させた。
【0006】
すなわち、本発明の要旨は、少なくとも硝酸と燐酸とを含有し且つモリブデン及び/又はタングステンとアルミニウムとを成分として含有する混酸液中の硝酸の分析方法であって、紫外線吸光光度法によって硝酸を定量するに当たり、試料の前処理として、混酸液にアルカリを添加し、pHを7以上に調節することを特徴とする混酸液中の硝酸の分析方法に存する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の分析方法によれば、試料としての混酸液にアルカリを添加し、混酸液中に生成されている錯体類を解離させ且つ水酸化アルミニウムの生成沈殿を防止するため、紫外線吸光光度法によって硝酸の吸収スペクトルを得ることが出来、混酸液中の硝酸を正確に定量することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る混酸液中の硝酸の分析方法(以下、「分析方法」と略記する。)の実施形態を説明する。
【0009】
混酸液は、硝酸とリン酸と酢酸とを含み且つ必要に応じて界面活性剤などの添加剤を含む水溶液であり、半導体製造や液晶パネル製造における金属エッチングプロセスで主に使用される。水を含む上記の混酸液の一般的な組成は、次の通りである。すなわち、硝酸濃度は、通常0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜12重量%、更に好ましくは3〜8重量%、リン酸濃度は、通常50〜80重量%、好ましくは70〜80重量%、酢酸濃度は、通常2〜20重量%、好ましくは2〜10重量%、水濃度1〜20重量である。また、添加剤としては、界面活性剤の他、フッ化アンモニウム、錯化剤などが挙げられ、これらの濃度は、通常0.001〜1重量%、好ましくは0.01〜1重量%、更に好ましくは0.2〜0.5重量%である。
【0010】
本発明の分析方法は、少なくとも硝酸と燐酸とを含有し且つモリブデン及び/又はタングステンとアルミニウムとを成分として含有する混酸液中の硝酸の分析方法であり、分析対象となる混酸液としては、上記の金属エッチングプロセスから回収された混酸排液が挙げられる。半導体装置基板や液晶パネル基板の製造においては、金属に対して微細な電極や金属配線をエッチングにより形成するため、上記の混酸排液には、前述の成分の他に、金属成分として、アルミニウム、銀、銅、モリブデン等が含まれる。
【0011】
本発明において、硝酸の定量分析は、硝酸濃度既知の基準液により作成した検量線を使用した紫外線吸光光度法によって行う。周知の通り、吸光光度法は、紫外線特定の紫外線波長における溶液の吸光度を光電的に測定し、ベールの法則によって濃度の測定を行う分析法であり、硝酸の分析では、ピーク波長が302nmの硝酸イオンの吸光度を測定する。なお、検量線の作成に使用される基準液は、例えば硝酸カリウム等の硝酸塩の水溶液を使用して調製される。
【0012】
ところで、硝酸、燐酸、アルミニウム並びにモリブデン及び/又はタングステンを含有する混酸液において、モリブデンやタングステン、例えばモリブデンは、酸性下でリン酸がモリブデンと反応して燐モリブデン酸(リンモリブデン錯体)を生成している。そして、斯かる燐モリブデン酸の吸収波長は紫外領域にあるため、吸光度測定を行った場合には、硝酸のピーク波長のある300nm付近の吸収スペクトルが燐モリブデン酸の吸収スペクトルによって妨害される。
【0013】
上記の燐モリブデン酸は、アルカリ領域においてリン酸とモリブデン成分とに分解できる。しかしながら、アルミニウム成分を含む混酸は、例えば水酸化ナトリウムで中和してゆくと、中性付近で水酸化アルミニウムの沈殿物を生成する。従って、吸光度測定を行うには、沈殿物を生成しない様に、酸性側あるいはアルカリ性側に混酸液をpH調整する必要がある。
【0014】
そこで、本発明においては、紫外線吸光光度法によって硝酸を定量するに当たり、試料の前処理として、混酸液にアルカリを添加し、pHを7以上に調節する。これにより、吸光度測定において300nm付近にある硝酸イオンの吸収スペクトルのピークを顕在化できる。なお、混酸液中の硝酸は、例えば水酸化ナトリウムを添加した場合、硝酸ナトリウムを生成するが、硝酸イオンの吸光度は、混酸液のpHに影響を受けることがない。
【0015】
上記の前処理において添加するアルカリとしては、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等を使用できるが、通常は、中和滴定により混酸液の全酸の当量点を求める際に試薬としても使用することを考慮し、水酸化ナトリウムが使用される。そして、アルミニウム沈殿物の生成を確実に防止するためには、上記の前処理において、混酸液のpHを9以上に調節するのが好ましい。これにより、硝酸イオンの吸収スペクトルのピークをより確実に取り出すことが出来る。
【0016】
上記の様に、本発明では、試料である混酸液の紫外線吸光光度法によるスペクトル解析の際、試料の前処理として、混酸液にアルカリを添加し、そのpHを7以上、好ましくは9以上に調節する。これにより、混酸液中に生成されたモリブデンやタングステンの錯体類を解離させ且つアルミニウム沈殿物の生成を防止し、硝酸イオンの吸収スペクトルを顕在化する。換言すれば、混酸液中の燐モリブデン酸を分解し、波長300nm付近の硝酸の吸収スペクトルに対する妨害を解消する。
【0017】
その結果、本発明の分析方法によれば、紫外線吸光光度法によって硝酸の吸収スペクトルを得ることが出来、混酸液中の硝酸を正確に定量することが出来る。そして、本発明によれば、金属エッチングプロセスから回収された使用済みの混酸液の成分を従来の分析装置によって分析できるため、使用済みの混酸液を低コストで再生し、再利用することが出来る。
【実施例】
【0018】
実施例1:
金属エッチングプロセスから回収された混酸排液中の硝酸を本願発明の分析方法によって分析した。紫外線吸光光度法により硝酸濃度を定量するに当たり、予め、硝酸分が2重量%となる様に調製した水溶液を基準液とし、300nm付近の吸光度を測定し、対照液を水として基準液と吸光度との関係から検量線を作成した。また、前処理として、上記の混酸液に水酸化ナトリウムを添加し、混酸液のpHを9に調節した。そして、紫外線吸光光度法により吸収スペクトルを観察したところ、図1に実線のグラフで示す様に、302nm付近にピークを有する硝酸の吸収スペクトルが得られ、これから硝酸濃度が2重量%であることが確認された。
【0019】
比較例1:
前処理を行わなかった点を除き、実施例1と同様の混酸排液を実施例1と同様に紫外線吸光光度法により分析し、302nm付近の吸収スペクトルを観察したところ、図1に破線のグラフで示す様に、硝酸のピークを持たない吸収スペクトルが得られた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の分析方法により得られた混酸液中の硝酸の吸収スペクトル、および、従来法により得られた混酸液の硝酸に相当する波長領域の吸収スペクトルを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも硝酸と燐酸とを含有し且つモリブデン及び/又はタングステンとアルミニウムとを成分として含有する混酸液中の硝酸の分析方法であって、紫外線吸光光度法によって硝酸を定量するに当たり、試料の前処理として、混酸液にアルカリを添加し、pHを7以上に調節することを特徴とする混酸液中の硝酸の分析方法。
【請求項2】
混酸液が金属エッチングプロセスから回収された混酸排液である請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
アルカリとして水酸化ナトリウムを添加する請求項1又は2に記載の分析方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−275537(P2008−275537A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121595(P2007−121595)
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【出願人】(595111929)株式会社ダイアインスツルメンツ (8)
【Fターム(参考)】