説明

添加物入りフォトレジストとこれを用いた構造体

【課題】基板に形成する熱分離しやすい薄膜の構造体で、画一的で所望の形状、厚み、寸法が容易に形成でき、かつ強度の大きい構造体を形成するための材料と構造体を提供する。
【解決手段】添加物として、ファイバや発泡剤を混入した添加物入りのフォトレジストを提供する。露光用光源の波長に対して透明な細く短いファイバを添加物としたフォトレジストで、パターン化した強度を高めた薄膜による構造体を提供する。また、添加物として発泡剤を混入させた材料とし、塗布や貼り付けなどで形成して露光、現像のパターン形成後に発泡処理を行い、薄膜を膨張させて膜厚を増加させて、疎な薄膜にして熱伝導率を下げると共に曲げ強度を増加させた薄膜による平面的もしくは立体的な構造体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトレジストとそれを用いた基板から熱分離しやすい薄膜の構造体に関し、フォトレジストに微細な繊維や発泡剤などを添加物として混入させて、フォトリソグラフィを用いて、所望の平面的もしくは立体的構造体を形成するためのフォトレジストの提供とこれを用いた強度が大きい微細な平面的もしくは立体的構造体を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロマシーニング技術による微細な立体的構造体は、例えば、フォトリソグラフィ技術を利用して、単結晶シリコン(Si)の異方性エッチング技術や犠牲層エッチングにより所定の形状の空洞を形成して、その上部にシリコン酸化膜、窒化シリコン膜やSOI層膜などの無機薄膜を用いた架橋構造、カンチレバやダイアフラム構造の宙に浮いた薄膜を形成していた(特許文献1)。この基板から熱分離した宙に浮いた薄膜を赤外線の受光部として用いる熱型赤外線センサ、薄膜ヒータや薄膜温度センサを形成するフローセンサなどに利用していた。しかしながら、これらの無機薄膜は、機械的なショックや熱的歪に弱く、クラックが発生したりするという問題があった。また、シリコン酸化膜や窒化シリコン膜の形成には、歪みを小さくするために、化学的気相成長法(CVD法)などで形成することが多かった。しかし、製作には高温(例えば、800℃)を要するために、犠牲層を形成するにもそれ以上の温度の融点を有する物質を選択する必要があった。さらに、その設備も高価であり、安価な宙に浮いた薄膜形成が困難であった。また、SOI層膜を利用して基板から熱分離する薄膜にするには、SOI基板を用いれば、容易であるが、普通のシリコン基板に対して、SOI基板は、10倍以上の高価であるという問題もあった。
【0003】
本発明者は、先に、空洞により基板から熱分離した宙に浮いた構造の薄膜をフォトレジスト膜で形成し、多重層化したサーモパイルを温度センサとして形成して、これを赤外線センサの受光部として利用し、薄膜ヒータも形成してフローセンサにすることを提案した(特願2011−44604)。しかしながら、一般に有機薄膜であるフォトレジスト膜は、機械的ショックによる破損などに対する耐性が大きいが、その曲げ強度が不足し、自立的な薄膜構造体には、不向きであった。
【0004】
基板から熱分離するためには、基板への熱の逃げを小さくする構造が必要であり、このために空洞の上に薄膜を形成して、熱コンダクタンスを小さくさせていた。しかし、空洞の形成には、犠牲層の材料、基板の材料、エッチャント、処理温度、薄膜の材料など多くの制限要素があり、これらをすべて満足する材料や条件の設定が困難になっていた。また、それらの薄膜の形状には、フォトリソフラフィを用いるので、工程数の少なく単純な工程で所望の微細な形状で、しかも、画一的な構造体となる基板から熱分離させる方法や構造体が求められていた。
【0005】
さらに、薄膜でありながら、薄膜の曲げ強度を大きくすると共に、その薄膜に形成した薄膜ヒータや赤外線受光部などからの熱伝導を小さくするような立体的構造体が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−184151
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたもので、基板に形成する熱分離しやすい薄膜の構造体で、画一的な所望の形状、厚み、寸法が容易に形成でき、かつ強度の大きい構造体を形成するための材料と構造体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係わる添加物入りフォトレジストは、フォトレジストに、該フォトレジストには溶解しない固体の添加物を混入したことを特徴とするものである。
【0009】
一般に、感光性樹脂であるフォトレジストには、液状になっているものとシート状になっているものがある。液状になっているものは、基板にスピンコートやスプレーコートなどで塗布して、乾燥後、所望のパターン形状に光を照射し(露光)、パターン形状のうち、未反応の領域のフォトレジストを溶出させてパターンを形成する(現像)の工程を経た後、一般には、加熱して硬化させる。また、露光時における光を照射した箇所が現像時に溶出されないで残るタイプをネガタイプのフォトレジストといい、露光時における光を照射した箇所が現像時に溶出して残存しなくなるタイプをポジタイプと呼んでいる。
【0010】
シート状のフォトレジストも初期には、液状であり、この液状のときに粉末や微細なファイバなどを混入させて、均一になるように混ぜ合わせることができる。白い粉末は、本来可視光線では、透明な物質であり、空気との屈折率の差で白く見えるものである。したがって、粉末や微細なファイバなどの間に液体が入りこめば、屈折率の差が少なくなりほぼ透明な状態になるものである。
【0011】
本発明の請求項2に係わる添加物入りフォトレジストは、添加物入りフォトレジストを基板に形成し、露光と現像の結果、パターン化された添加物入りフォトレジストの膜が前記基板に残存するようにした場合である。
【0012】
添加物入りフォトレジストが、ネガタイプでも、ポジタイプでも、液状の時には、基板にスピンコータなどで塗布し、シート状の時には、貼り付けて形成すると良い。
【0013】
本発明の請求項3に係わる添加物入りフォトレジストは、添加物をファイバとした場合である。
【0014】
添加物は、必ずしも一種類とは限らないが、少なくともその一つにファイバを添加した場合である。ファイバには、ガラスファイバ、アルミナなどのセラミックスファイバ、ナイロンファイバやカーボンナノチューブなどを短くして混入することができる。基板から熱分離した薄膜は、一般に空洞上に形成することが多い。この薄膜としてフォトレジスト膜を使用すると、その薄膜の所望の箇所に所定の形状の高精度の穴を形成することが容易にできる。しかし、一般にフォトレジスト膜は、PMMA膜やポリイミドフイルムなどの有機薄膜なので、柔らかく空洞を架橋する架橋構造の場合やダイアフラム構造の場合は、幾分形状を保持することができるが、それでも無機材の薄膜と異なり、空洞の中央部付近での弛みが無視できないことが多い。また、カンチレバ構造による基板からの熱分離構造では、膜厚を十分大きくしないと、カンチレバ構造体の形状維持が困難になる。
【0015】
本発明では、添加物としてガラスファイバなどの細くて短いファイバを液状のフォトレジストに混入しておいた添加物入りフォトレジストを、例えば、犠牲層を有する基板に塗布して、必要なフォトリソグラフィ工程で、所望の形状にパターン化して、熱硬化などさせた後、犠牲層をエッチング除去すれば、この箇所が空洞となり、基板の上に形成された空洞の上に宙に浮いた薄膜(基板から熱分離した薄膜)を、添加物としてのファイバを含む添加物入りフォトレジスト膜で構成することができる。例えば、直径1マイクロメートル(μm)で、長さ10μm程度の細くて短いガラスファイバを液状のフォトレジストに混入してアルミニウムなどの犠牲層(例えば、幅300μm、高さ20μm)を有する基板の上に2μm厚程度にスピンコート法により塗布すれば、添加物入りフォトレジストの粘度にもよるが、ガラスファイバの長さ方向は、基板や犠牲層の面に沿って配向され(スピンコートのために、その回転の遠心力方向にガラスファイバの長さ方向が向くことが多い)、添加物入りフォトレジストの厚み方向には飛び出さないで済み、ほぼ平坦な添加物入りフォトレジスト膜が形成される。各ガラスファイバは、互いに接触しながらフォトレジスト膜塗布層内で配列し、フォトレジスト膜の熱硬化によりガラスファイバ同士が結び付けられ強固な添加物入りフォトレジスト薄膜となる。その後、アルミニウムなどの犠牲層をそのエッチャントである希塩酸などでエッチング除去すれば、宙に浮いた弛みの少ない基板から熱分離した添加物入りフォトレジスト薄膜の立体的な構造体が形成される。もちろん、この宙に浮いた基板から熱分離した添加物入りフォトレジスト薄膜の上に、サーモパイルなどの温度センサ及び赤外線吸収膜などを形成しておけば、熱型赤外線センサが提供できるし、薄膜ヒータと温度センサとを組み合わせて形成すれば、フローセンサなどが提供できる。このようにして、温度センサや薄膜ヒータの材料を除けば、大部分が添加物入りフォトレジストからなる立体的構造体が提供できる。
【0016】
添加物入りフォトレジストは、感光性材料であるからフォトリソグラフィにより、任意の形状のパターン化が形成できる。添加物入りフォトレジストを塗布してパターン化して、その上に薄膜温度センサ、薄膜ヒータや電極などを形成したのち、さらにこれらの工程を繰り返して添加物入りフォトレジスト膜の立体的な多層化薄膜を形成することもできる。各多重層間の電極同士を添加物入りフォトレジスト膜に形成した貫通孔を利用して金属パターンで導通させることもできる。このようにして高感度のセンサやセンサの組み合わせで高機能のセンサを実現させることができる。貫通孔を形成するときには、その直径を添加物としてのガラスファイバの長さよりも大きくする方がよい。
【0017】
薄膜で宙に浮いた立体的構造体を形成するときには、薄膜構造体の強度が重要であるからガラスファイバなどの添加物入りフォトレジスト膜が好適であるが、基板に形成されている領域は、単に絶縁膜として用いる場合など、必ずしも曲げ強度などの必要がないので、添加物入りでない普通のフォトレジスト膜が好適である場合がある。このような場合は、普通のフォトレジスト膜の領域と、添加物入りフォトレジスト膜の領域とで組み合わせた構造にすることもできる。
【0018】
本発明の請求項4に係わる添加物入りフォトレジストは、ファイバとしてフォトレジストの露光に使用する光の波長に対して透明であるような材料を選択した場合である。
【0019】
一般に、フォトレジストの露光には、紫外線が用いられる。フォトレジストの中にこの紫外線に対して不透明な固体や散乱体が存在すると、それらにより、それらの下部にあるフォトレジスト領域が未露光状態となり、ネガタイプのフォトレジストの場合は、この未露光状態の領域は、現像によりフォトレジスト成分が溶け出し、添加物入りフォトレジストが無くなってしまうことになる。したがって、露光用の紫外線に対して、透明な添加物の材料選択が重要である。また、厚みを大きくして添加物の陰の部分の露光に散乱光を利用することもできるが、透明な添加物でも表面からの反射や散乱もあるので、添加物が無いときのフォトレジストに対して露光時間を長めにする必要がある。
【0020】
本発明の請求項5に係わる添加物入りフォトレジストは、ファイバの寸法を、添加物入りフォトレジストにより形成される予定の構造体の最小厚みよりも細く、フォトレジストによる構造体の最小パターンの長さよりも短くさせた場合である。
【0021】
添加物入りフォトレジストの添加物としてファイバとした場合であり、所定のパターンを形成したときに、フォトレジスト膜の厚みよりもファイバの直径が小さくないと(細くないと)、フォトレジスト膜がファイバのために凸凹してしまう。また、例えば、フォトレジスト膜に形成する孔を露光、現像でパターン化したときに、その孔の直径よりもファイバの長さが大きいと、孔をファイバで塞いでしまうという問題が生じる。また、細長いフォトレジスト膜のパターンを基板上に残したい場合でも、そのパターンの幅よりもファイバの長さが大きいと、そのパターンからファイバが大きくはみ出し、精度のよいパターンが形成できない。しかし、ファイバの長さがパターンの幅以下であれば、パターンの幅程度の精度でパターン形成が可能である。また、基板上に犠牲層を形成して、その上に添加物入りフォトレジストを塗布し、パターン化して硬化後、犠牲層をエッチング除去して空洞を形成して、添加物入りフォトレジスト膜を構造体とした橋を形成する場合、犠牲層の厚みよりもファイバの長さが大きいと、橋の脚部において、ファイバが橋の上に飛び出す状況になる。橋の脚部の大きさは犠牲層の厚みにより決定されるので、ファイバの長さを犠牲層の厚みよりも短くなるような添加物としてのファイバの長さの調整が重要である。
【0022】
本発明の請求項6に係わる添加物入りフォトレジストは、添加物として発泡剤を用いた場合である。
【0023】
ゴム系フォトレジストを用いると、例えば、200℃程度で軟化するので、この温度で発泡する発泡剤を添加物として用いることができる。炭酸水素ナトリウムは、固体の白い粉末であり、加熱すると炭酸ガスを発生して発泡剤となる。白い粉末は、270℃で熱分解するが、水分を含むと分解温度が低下する。また、紫外線に対しても透明であり、液状のフォトレジストに充分混ぜるとほぼ透明になる。また、有機系発泡剤であるアゾジカルボンアミドは、橙色微粉末であり、助剤を併用して発泡させる。分解温度は200℃であり、亜鉛化合物との併用等により分解温度を調節も可能である。このように、発泡剤と助剤とを組み合わせて添加物とすることができる。これらの発泡剤により炭酸ガスや窒素ガスを発生させて、添加物入りフォトレジストのフォトレジスト部分を微細な泡を生じ占めて軟化したフォトレジスト膜の体積を膨張させて、例えば、疎な材料になるために断熱材料として利用することができる。
【0024】
本発明の請求項7に係わる添加物入りフォトレジストは、添加物入りフォトレジストを基板に形成して、露光、現像処理後に、発砲処理を施し、フォトレジストを膨らませるようにした場合である。
【0025】
添加物入りフォトレジストとして、ネガタイプでもポジタイプでも良いが、液状のフォトレジストに添加物として発泡剤や助剤を混入しておき、これを基板に塗布しても良いし、発泡剤や助剤を混入してある添加物入りフォトレジストがシート状であり、これを基板に貼り付け形成しても良い。これらを、露光、現像処理後に、発砲処理を施し、フォトレジストを膨らませるようにした場合である。
【0026】
発泡剤として、必ずしも加熱による分解ばかりでなく、例えば、発泡剤の吸収波長を照射して、光化学反応により発泡させるようにすることもできるし、液体薬品に浸し、混入した発泡剤と化学反応させるようにして発泡させることもできる。
【0027】
本発明の請求項8に係わるフォトレジスト構造体は、構造体の少なくとも一部に上述の添加物入りフォトレジストを用いて形成したことを特徴とするものである。
【0028】
有機系、無機系の発泡材や助剤の適当な選択により、発泡させる熱分解温度を調整することができる。もちろん、金属やセラミックスなどの構造体の一部として添加物入りフォトレジストを用いて組み合わせた平面的もしくは立体的な構造体を形成することもできる。
【0029】
また、添加物入りフォトレジストの添加物としてファイバと助剤を含む発泡剤を混入することもできる。添加物入りフォトレジストのフォトレジスト成分は、容易に露光によりパターン化できるので、所望の形状で発泡して膨らんだ添加物入りフォトレジストからなる構造体を形成することもできる。ファイバを入れてあることから、さらに強度が大きい平面的もしくは立体的構造体が提供できる。
【0030】
一般に板の曲げ強度は、その板の厚みの3乗に比例するので、例えば、厚みが2倍になると8倍の曲げ強度が得られる。このように、実効的に厚い膜になるので、断熱構造としながら、基板から熱分離する宙に浮いた薄膜の材料として用いることにより、曲げ強度の大きい宙に浮いた薄膜からなる構造体を形成することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の添加物入りフォトレジストでは、塗布と露光により所望の形状のパターン形状を、高精度に容易に形成できるフォトレジストとこれに種々の機能を有する固体の添加物を入れることができるので、所望の形状で必要な機能を具備した平面的もしくは立体的な構造体を形成できるという利点がある。
【0032】
本発明の添加物入りフォトレジストでは、添加物として、細くて短いファイバを混入し、露光用光源の波長に対して透明な材料にすると、所望のパターンの露光が達成できるので、所定の形状で、例えば、空洞の上に形成される宙に浮いた橋やカンチレバやダイアルラム型の薄膜で、曲がりや弛みの少ない薄膜を形成できるという利点がある。
【0033】
本発明の添加物入りフォトレジストでは、発泡剤を混入し、発泡剤の分解温度の選択により、露光、現像してパターン化させた後、当初、薄膜であるフォトレジスト膜を加熱して軟化状態にして、発泡剤の熱分解温度での微細な発泡により体積膨張させて厚膜状態の平面的もしくは立体的構造体を形成することもできる。
【0034】
本発明の添加物入りフォトレジストでは、発砲による疎な材料にすることができるので、熱伝導率が小さくなり断熱性のあるフォトレジストの平面的もしくは立体的構造体を形成できる。さらに、空洞と組み合わせて一層断熱性の宙に浮いた薄膜を形成できる。例えば、フォトレジスト膜だけでは、曲げ強度が小さいために、カンチレバ構造を形成することが困難であったが、発泡による膨張で実効的に厚みが大きくできるので、長いカンチレバ構造が形成できるという利点がある。
【0035】
本発明の添加物入りフォトレジストでは、フォトレジスト膜の多重層薄膜構造にすることにより、一層強度が大きく、さらに所望の厚膜を形成しやすいという利点がある。
【0036】
本発明の添加物入りフォトレジストでは、ファイバや発泡剤などの種々の透明な添加物の混入により、一層強度の大きい構造体を形成することができると共に、金属やセラミックスなどの他の材料による構造体と組み合わせて、さらに大きな構造体も提供できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の添加物入りフォトレジストの概念を説明するための一実施例を示す横断面概略図で、添加物としてファイバを用いて実施した場合である。(実施例1)
【図2】本発明の添加物入りフォトレジストの概念を説明するための他の一実施例を示す横断面概略図で、添加物として発泡剤を用いて実施した場合である。(実施例2)
【図3】本発明の添加物入りフォトレジストの薄膜で、図2における添加物として発泡剤を用いて実施した場合で、パターン化したのち発泡処理を施した場合の平面的構造体の横断面概略図である。(実施例2)
【図4】本発明の添加物入りフォトレジストによる立体的構造体としてカンチレバ構造を形成した場合の一実施例を示す横断面概略図である。(実施例3)
【図5】図4に示す本発明の添加物入りフォトレジストによるカンチレバ構造を形成した場合において、添加物としてファイバを用いた場合の拡大図を示す横断面概略図である。(実施例3)
【図6】本発明の添加物入りフォトレジストによる構造体であり、温度センサとしてサーモパイルを用いて、熱型赤外線センサとして実施した場合の一実施例を示す横断面概略図である。(実施例4)
【図7】本発明の添加物入りフォトレジストによる構造体として、温度センサとしてサーモパイルを用いて、熱型赤外線センサとして実施した場合の他の一実施例を示す横断面概略図である。(実施例5)
【図8】本発明の添加物入りフォトレジストによる構造体として、温度センサとしてサーモパイルを用いて、フローセンサとして実施した場合の一実施例を示す横断面概略図である。(実施例6)
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の添加物入りフォトレジスト等の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0039】
図1は、本発明の添加物入りフォトレジスト6の概念を説明するための一実施例を示す構成概略図の横断面図で、添加物3としてファイバ4を用いて実施した場合である。基板1上にフォトレジスト2にガラスファイバであるファイバ4を混入させた場合で、スピンコート前の液状の添加物入りフォトレジスト6の様子を示している。ガラスファイバとしては、例えば、2マイクロメートル(μm)程度の厚みにスピンコートする場合には、直径1μm以下のファイバにした方がよい。また、塗布した添加物入りフォトレジスト膜に露光、現像でコンタクトホールなどを形成するときには、そのコンタクトホールの直径よりもファイバ直径が、小さい方が好適である。例えば、コンタクトホールの直径が20μmの場合は、20μm以下である、例えば10μm程度の方がよい。また、基板1の上に空洞を有する橋を添加物入りフォトレジスト膜で形成する場合は、ガラスファイバの長さが橋脚の高さとなる空洞の高さと同程度か、もしくは小さくさせるとよい。
【実施例2】
【0040】
図2は、本発明の添加物入りフォトレジスト6の概念を説明するための他の一実施例を示す横断面概略図で、添加物3として発泡剤5を用いて実施した場合である。フォトレジスト2に発泡剤5を混入させた場合で、スピンコート前の液状の添加物入りフォトレジストを基板1上に載せた様子を示している。発泡剤5としては、例えば、炭酸水素ナトリウムや炭酸アンモニウムなどを用いることができる。炭酸水素ナトリウムは、白い粉末であり、熱分解温度は270℃程度であるが、水分を多少含むことにより200℃程度またはそれ以下に調整することもできる。炭酸水素ナトリウムの粉末をフォトレジスト2と充分均一に混ぜるとフォトレジスト2の色であるほぼ淡黄色の透明な液状の添加物入りフォトレジストになる。
【0041】
図3は、本発明の添加物入りフォトレジスト3の薄膜で、図2における添加物として発泡剤5を用いて実施した構造体11で、発砲7により膨張した添加物入りフォトレジスト12の様子を示した場合で、パターン化したのち発泡処理を施して膨張させて厚膜状態にした場合である。200℃程度に昇温させるとゴム系のフォトレジスト2は軟化させることができるので、この温度での熱分解による発泡7で膨張した厚膜は、疎なフォトレジスト2の薄膜9(実際には厚膜となっている)の構造体11となる.この疎なフォトレジスト2の薄膜9は、熱伝導度が低下し断熱性があり、基板1から熱分離した平面的な構造の薄膜として利用することもできる。なお、発泡剤5によるパターン化した薄膜9を膨張させて体積を増加させるので、その膨張による薄膜9の寸法をパターン設計の時点で考慮しておく必要がある。同図には、パターンの溶出部8がフォトレジスト膜の孔となっていることも示してある。
【0042】
上述では、炭酸水素ナトリウムの無機系の発泡剤5を利用した場合であるが、有機系発泡剤であるアゾジカルボンアミドは、橙色微粉末であり、助剤を併用して発泡させる。分解温度は200℃であり、助剤としての亜鉛化合物との併用等により分解温度を調節も可能である。このように、発泡剤と助剤とを組み合わせて添加物とすることができる。
【実施例3】
【0043】
図4は、本発明の添加物入りフォトレジスト6による構造体11としてカンチレバ構造を形成した場合の一実施例を示す横断面概略図である。シリコン単結晶などの基板1上に、アルミニウムなどで犠牲層を形成して、その上に添加物入りフォトレジスト6をスピンコートなどで塗布し、カンチレバ構造となるパターンで露光、現像によりパターン化して加熱硬化させた後、犠牲層をエッチング除去して空洞10を形成する。このようにして、カンチレバ構造の構造体11が形成できる。添加物としてファイバ4や発泡剤5を入れて、強度を増したカンチレバ構造の構造体11とすることができる。一般に、膜の曲げ強度はその厚みの3乗に比例するので、厚みの増加とともに急激に曲げ強度を増加させることができる。このように発泡剤の発泡効果による薄膜の厚みを増加させると、膜の曲げ強度の増加につながる。また、添加物3としてファイバ4と発泡剤5との両方を入れて、さらに強度を増すようにすることもできる。このカンチレバ構造の立体的な構造体11に、薄膜ヒータ35や温度センサなどを形成しておき、フローセンサや熱型赤外線センサを形成することもできる。
【0044】
また、図5には、上記図4に示す本発明の添加物入りフォトレジスト6による構造体11としてカンチレバ構造を形成した場合において、添加物3としてファイバ4を用いた場合の拡大図である。添加物入りフォトレジスト6の中に極めて細く短い(例えば、直径0.5μm、長さ10μm程度)ファイバ4を添加物3として用いており、互いにファイバ4同士がくっつき合い薄膜9の強度を高めている。
【実施例4】
【0045】
図6は、本発明の添加物入りフォトレジスト6による構造体11として、サーモパイル13を温度センサとした熱型赤外線センサとして実施した場合の一実施例を示す横断面概略図である。シリコン単結晶の(100)面に予め形成してある空洞10にエッチングしやすく、低融点の亜鉛などの犠牲物質を充填しておいた基板1に、添加物入りフォトレジスト6の膜を塗布して所望のパターンを露光、現像等により形成して、その上に更に公知の技術によりサーモパイル13や赤外線吸収膜25を形成した後、犠牲物質をエッチング除去して空洞10を形成する。このようにして、熱型赤外線センサの受光部15が基板1から熱分離した形で構造体11を形成した場合である。ここでは、サーモパイル13の接点B19(例えば、温接点)を宙に浮いた受光部15の中心部付近に形成してあり、この中心部付近に均一な温度領域を形成するためのフォトレジスト膜などによる絶縁層28を介して厚めの金属膜などの熱伝導薄膜26を形成した場合である。なお、添加物入りフォトレジスト6の添加物としてファイバ4や発泡剤5を入れて、強度を増したカンチレバ構造の構造体11とすることができる。また、添加物としてファイバ4と発泡剤5との両方を入れてさらに強度を増すようにすることもできる。発泡剤5による薄膜9の膜厚膨張で、疎な薄膜9となり熱伝導率を小さくさせることができると共に、厚みの増加により曲げ強度を大きくできる。したがって、弛みが小さい赤外線の受光部15が形成できる。
【実施例5】
【0046】
図7は、本発明の添加物入りフォトレジスト6による構造体11として、サーモパイル13を温度センサとした熱型赤外線センサとして実施した場合の他の一実施例を示す横断面概略図である。ここでは、基板1の上方に空洞10を形成した場合の例である。空洞10は、この部分に犠牲層を形成しておき、その上に添加物入りフォトレジスト6を形成して、フォトリソグラフィによりパターン化させて硬化させて、サーモパイル13や赤外線吸収膜25などを形成した後、犠牲層をエッチング除去により形成できる。基板1の上方に空洞10を形成してあるので、基板1に増幅器や演算回路、更には駆動回路などを含むシステムも含めた集積回路110を、受光部15の真下にも形成してある場合である。また、サーモパイル13は、温度差センサであるので、基板1にダイオードやトランジスタなどの絶対温度センサ34も形成してある場合である。また、サーモパイル13の接点A18(例えば、冷接点)を熱容量の大きな基板1に形成してある場合である。サーモパイル13の出力は基板1に形成した拡散領域32を通して取り出せるようになっている。
【実施例6】
【0047】
図8は、本発明の添加物入りフォトレジストによる構造体として、サーモパイルと薄膜ヒータを形成して熱伝導型センサとして気体などの流体の流れを計測する気体などのフローセンサとして実施した場合の一実施例を示す横断面概略図である。
【0048】
熱伝導型センサとして、気体の流れ計測用のガスフローセンサとして実施した場合、薄膜ヒータ35にヒータ電極65を介して電流を流し、例えば、無風状態で室温よりも例えば10℃程度温度上昇させるように電流値を定めて駆動する。この添加物入りフォトレジスト6の薄膜9をガスの流れに晒すと、加熱された薄膜9から熱が奪われて冷却し、そのときの温度差や温度変化に基づくサーモパイル13の出力変化を計測して、予め用意した校正データを利用してガスの流れの量が計測できる。このような原理によりガスフローセンサが提供できる。
【0049】
本実施例では、薄膜9にスリット36が形成されてあり、薄膜ヒータ35が形成されている架橋構造の中央付近の薄膜9に対して、気流方向の下流側の薄膜9と上流側の薄膜9が、架橋構造の中央付近で、同一の薄膜9で連結されている構造としている。この連結部分を通して、下流側の薄膜9が、薄膜ヒータ35の熱を受け取り温度上昇する。無風状態では、これらの下流側の薄膜9と上流側の薄膜9の中央付近の接点B19(温接点)の温度は、薄膜ヒータ35の中心の温度よりは数℃低いが、ほぼ同一となっている。気流が存在すると、薄膜ヒータ35の熱が下流側の薄膜9を一層熱するが、上流側の薄膜9は、周囲温度の気流により冷やされて、温度の低下を招く。この時、下流側の薄膜9と上流側の薄膜9とにそれぞれ形成しているサーモパイル13の出力差から、予め用意してある校正データを利用して、微小の気流および気流の変化を計測することができる。もちろん、それぞれのサーモパイル13の単独の出力データを利用しても、気流の大きさを計測することもできる。本実施例では、基準となる絶対温度を計測する絶対温度センサ34をシリコンの基板1に形成してある。
【0050】
本発明の添加物入りフォトレジスト6や構造体11は、本実施例に限定されることはなく、本発明の主旨、作用および効果が同一でありながら、当然、種々の変形がありうることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の添加物入りフォトレジスト6は、添加物3としてファイバ4や発泡剤5などを混入させたものであり、露光、現像してパターン化した後に、これらの添加物3も混入した状態で基板1に残存するようにしている。ガラスファイバなどのファイバ4を添加して構造体11が形成されるので、薄膜9の強度が増すので、立体的な構造体11も自立できる。また、発泡剤5の混入により膜厚が発泡により増加できるので、薄膜9の強度が増すことになり、添加物入りフォトレジスト6による平面的または立体的な構造体11も、感光性樹脂であるフォトレジスト2を用いているから、再現性があり、大量生産させても画一的な形状が得られ、所望の形状にフォトリソグラフィにより容易に形成することができる。この構造体11の中に温度センサであるサーモパイルを形成して、微小温度差を高精度で、しかも高感度に計測する必要がある赤外線放射温度計やイメージセンサ、特に耳式体温計の温度差センサとしても有望であり、また、薄膜ヒータ35や温度センサと組み合わせるなどして、水素などの可燃性ガスセンサにおける微小発熱量の計測による水素などのガス検出用センサ、熱伝導型センサとしての微流量の液体や気体のフローセンサ、薄膜ピラニ真空計、熱型湿度センサや気圧センサなどの圧力センサなど、温度差計測に最適な構造体も提供できる。もちろん、センサに限らず、微細な平面的または立体的構造体を提供することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 基板
2 フォトレジスト
3 添加物
4 ファイバ
5 発泡剤
6 添加物入りフォトレジスト
7 発泡
8 パターンのレジスト溶出部
9 薄膜
10 空洞
11 構造体
12 膨張した添加物入りフォトレジスト
13 サーモパイル
15 受光部
16 熱電導体A
17 熱電導体B
18 接点A
19 接点B
20 配線
21A、21B 電極端子A
22A、22B 電極端子B
23 電極
25 赤外線吸収膜
26 熱伝導薄膜
28 絶縁層
30 コンタクトホール
31 オーミックコンタクト
32 拡散領域
34 絶対温度センサ
35 薄膜ヒータ
36 スリット
37 エッチング孔
51 シリコン酸化膜
65 ヒータ電極
110 集積回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトレジストに、該フォトレジストには溶解しない固体の添加物を混入したことを特徴とする添加物入りフォトレジスト。
【請求項2】
添加物入りフォトレジストを基板に形成し、露光と現像の結果、パターン化された添加物入りフォトレジストの膜が前記基板に残存するようにした請求項1記載の添加物入りフォトレジスト。
【請求項3】
添加物をファイバとした請求項1もしくは2のいずれかに記載の添加物入りフォトレジスト。
【請求項4】
ファイバとしてフォトレジストの露光に使用する光の波長に対して透明であるような材料を選択した請求項3記載の添加物入りフォトレジスト。
【請求項5】
ファイバの寸法を、添加物入りフォトレジストにより形成される予定の構造体の最小厚みよりも細く、フォトレジストによる構造体の最小パターンの長さよりも短くさせた請求項3もしくは4のいずれかに記載の添加物入りフォトレジスト。
【請求項6】
添加物として発泡剤を用いた請求項1から5のいずれかに記載の添加物入りフォトレジスト。
【請求項7】
添加物入りフォトレジストを基板に形成して、露光、現像処理後に、発砲処理を施し、フォトレジストを膨らませるようにした請求項6記載の添加物入りフォトレジスト。
【請求項8】
構造体の少なくとも一部に請求項1から7のいずれかに記載した添加物入りフォトレジストを用いて形成したことを特徴とするフォトレジスト構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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