説明

清澄な、又は澱の発生しないDNA含有飲料または液状食品の製造方法

【課題】清澄なDNA含有飲料または液体食品を提供すること。
【解決手段】DNAの溶解安定剤として機能する塩基性化合物を併用して、DNAを清澄な飲料または液体食品に添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAの摂取のための清澄な、又は澱の発生しないDNA含有飲料または液状食品の製造方法、この製造方法により得られた清澄なDNA含有飲料または液状食品、並びにこの製造方法に用いるDNA添加用の添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAは遺伝子そのものであり、その基本物質は、デオキシリボヌクレオチドである。当該デオキシリボヌクレオチドはリン酸、デオキシリボース及び核酸塩基との三成分から成る。デオキシリボースに核酸塩基(アデニン、グアニン、チミン及びシトシン)が結合しており、そのデオキシリボースがホスホジエステル結合により直鎖状に結合し、鎖状高分子が構成されている。4つの核酸塩基の配列により、遺伝子情報の保持と、RNA(リボ核酸)を介した遺伝情報の伝達が行われる。このようなDNAの構造や遺伝子を解読する研究については盛んに行われているが、このDNAの生理効果については、これまであまり研究されておらず、解明されていない。
【0003】
生体に必要なヌクレオチド(デオキシリボヌクレオチド、およびRNAの基本物質であるリボヌクレオチド)は体内合成されることから、食品中の核酸(DNAやリボ核酸(RNA))は、栄養的価値はないものと思われてきた。このため、核酸の生理効果の研究については、あまり実施されてこなかった。
【0004】
ところが、近年の研究によって、食物中の核酸は、ヌクレオチドやヌクレオシドまで分解された後に吸収され、体内の核酸合成に再利用されることが多いことが判明し、下記のような多くの生理効果のあることも判ってきた。このため核酸は、第七の準栄養素として摂取することが重要であるとされるようになった。
【0005】
即ち、核酸の構成成分であるヌクレオチド、ヌクレオシドには、次のような生理効果があると考えられている。
(1)コレステロール代謝への影響、離乳期の成長促進、脂肪代謝改善などの栄養改善効果がある。
(2)病気や癌に対する抵抗力増強、細胞活性の低下(老化防止)、リンパ系胸腺の発達促進などの免疫能改善効果がある。
(3)肝の再生、蛋白質の分解抑制、肝虚血時のエネルギー代謝の改善、肝障害に対する修復などの肝エネルギー代謝の賦活及び肝の再生効果がある。
(4)小腸粘膜の保護、下痢後の腸の回復などの腸管の保全効果がある。
(5)保湿効果、UV吸収の阻害、皮膚賦活などの皮膚に対する保護作用効果がある。
(6)老化に伴う脳機能の低下を抑制する効果がある。
【0006】
一方、従来より、さけ、ます、にしん、たら、いか、ほたて貝等の魚介類精巣は、一般に白子と称され、その一部が食用やミール原料として利用されているが、その殆どは廃棄処分にされていて、未利用資源であった。しかしながら、魚介類の精巣は精子核の主構成成分であるヌクレオプロテイン(核蛋白、DNAと塩基性蛋白であるプロタミンやヒストン等の複合体)に富むことから、DNAの原料資源として極めて有望と考えられる。
【0007】
本出願人は、従来より魚介類精巣(白子)成分の生理効果に着目して、当該魚介類精巣よりヌクレオプロテインを抽出、精製し、これを利用して、耐久力及び生殖能力増強用の栄養補助食品(特公平6−22467号公報:特許文献1)や、耐久力増強用栄養補助食品(特許第1901558号明細書:特許文献2、特許第2567231号公報:特許文献3)を研究開発した。
【0008】
このように本発明者は、魚介類精巣を有効に活用することを目的に研究開発を進めた。その結果、白子成分から精製したDNA又はヌクレオプロテインには、脳機能低下抑制作用のあることを新たに見出して、脳機能低下抑制剤または脳機能低下抑制食品を研究開発し(特開2004−143110号公報:特許文献4)、またDNAには耐久力増強作用があることを見出して、耐久力増強剤を研究開発した(特開2003−235504号公報:特許文献5)。
【0009】
DNAが示すこれらの作用をヒトや動物の体内で発揮させるために、容易にDNAを摂取可能とする方法として、DNAを摂取の容易な形態を有する食品等に含有させる方法がある。例えば、水、清涼飲料水やドリンク等の飲料、あるいは水を含有する液状食品にDNAを溶解した状態で含有させてこれを摂取する方法が考えられる。
【0010】
これに類似した例としては、前述のヌクレオプロテイン(核蛋白)を用いて特開2003−325149号公報「水溶性核蛋白入り健康ドリンク」、および特開2004−16143号公報「水溶性核タンパク質分解物の製造方法」が出願されている(特許文献6、特許文献7)。これらは核蛋白中に含まれるDNAをヌクレアーゼで加水分解し、オリゴヌクレオチド/ヌクレオシドとしてからドリンクに添加するものである。
【特許文献1】特公平6−22467号公報
【特許文献2】特許第1901558号明細書
【特許文献3】特許第2567231号公報
【特許文献4】特開2004−143110号公報
【特許文献5】特開2003−235504号公報
【特許文献6】特開2003−325149号公報
【特許文献7】特開2004−16143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
清涼飲料水やドリンク等の飲料の多くは有効成分として、または酸化防止や保存等の目的で添加するアスコルビン酸(ビタミンC)やクエン酸等の有機酸類を含有するため、pHが3〜4の酸性を示すが、このpH範囲でDNAを溶解した場合、保存中に飲料中に濁りや澱が生じることが問題となる。この理由としてはDNAが酸性条件下で不安定であり、DNAを構成するデオキシリボヌクレオチドのうち塩基がプリンのもの(以下、プリンヌクレオチドと略す)が分解(脱プリン反応)されて遊離したプリン塩基が濁りや沈澱を生じるためと考えられる。またこのような現象は、飲料の一般的な殺菌法である加熱により促進される。
【0012】
なお、このようなDNAの酸性条件下での分解は、DNAを分解して生成したオリゴヌクレオチドやモノヌクレオチドでも共通して起こり得る現象と考えられるが、前述の特開2003−325149号公報および特開2004−16143号公報には、当該の現象に関する記載、ならびにその防止策については述べられていない。
【0013】
先に述べたとおり、DNA(デオキシリボ核酸)は多様な生理効果を示すことから、健康食品などとして利用されている。DNAが健康食品などとして効率よく利用されるためには、ドリンク等の飲料あるいは液状の食品に溶解させた状態で摂取できるようにすることが好ましい。更に、清澄であること、又は澱がないことが要求される飲料や液状食品の場合には、DNAを添加することによる濁りや澱が生じないことが要求される。
【0014】
そこで、本発明の目的は、DNAを清澄な酸性飲料または酸性液状食品に含有させる際にDNAの溶解安定性を維持することのできる清澄な、又は澱が発生しない酸性飲料または液状食品、及びこれらの製造方法を提供することにある。本発明の他の目的は、製造コストを抑えたDNA含有の清澄な、又は澱の発生しない酸性飲料または液状食品、及びこれらの製造方法を提供することにある。本発明の他の目的は、これらのDNA含有の清澄な、又は澱が発生しない酸性飲料または酸性液状食品の製造に利用し得るDNA添加剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
DNA(デオキシリボ核酸)は多様な生理効果を示すことから、健康食品などとして利用されている。DNAが健康食品などとして効率よく利用されるためには、ドリンク等の飲料あるいは液状の食品に溶解させた状態で摂取できる方法が求められている。そこで本発明者らはDNAを飲料および食品素材として使用し易くする方法の研究開発を目的として鋭意検討を行った。その結果、DNAにアルギニン、リジン等の塩基性化合物が、DNAの溶解安定剤としての作用を有することを新たに見出した。そして、かかる塩基性化合物をDNAと併用して、有機酸等を含む酸性の飲料もしくは液状食品に添加した後に加熱殺菌した際、濁りまたは沈澱を生ずることなく清澄な性状となることを発見した。また、DNAにアルギニンを添加し、有機酸等を含む酸性の飲料もしくは水に溶解した後に加熱殺菌した際、プリン塩基の遊離が抑制されることも見出した。本発明はこれらの本発明者らの新たな知見に基づいてなされたものである。
【0016】
本発明にかかる清澄な、又は澱の発生しないDNA含有飲料または液状食品の製造方法は、DNA、DNAの溶解安定剤としての塩基性化合物及び水を含む酸性の飲料または液状食品を調製する工程と、前記飲料または液状食品を加熱殺菌して、清澄な、又は澱の発生しないDNA含有飲料または液状食品を得る工程を含む。
【0017】
本発明にかかる清澄な、又は澱の発生しないDNA含有飲料または液状食品は、上記の製造方法により得られることを特徴とする清澄な、又は澱の発生しないDNA含有飲料または液状食品である。
【0018】
本発明にかかる水を含む清澄な、又は澱の発生しない酸性の飲料または液状食品へのDNA添加用の添加剤は、DNAの溶解安定作用を有するアルギニンと、DNAを含むことを特徴とする清澄な、又は澱の発生しない飲料または液状食品へのDNA添加用の添加剤である。
【0019】
なお、前述の特開2003−325149号公報や特開2004−16143号公報では、核酸とアルギニン(アルギニン主体の蛋白)の効果が記されている。しかしながら、これらの公開公報の技術は本発明のように沈澱や濁りを防止する目的ではないことから、本発明とは、根本的に技術的思想を異にするものと判断される。また、特開平7−258075号公報「免疫応答を改善する方法」に、術後患者の免疫改善用に免疫刺激活性のあるアルギニンを添加し、さらに「核塩基源」としてDNAやRNA、ヌクレオチド等を用いる「患者に対して手術前に投与する為の改善剤」が請求項に含まれており、DNAとアルギニンの混合に該当する内容となっている。しかしながら、特開平7−258075号公報にある「食品添加剤」の請求項には「核塩基源」の記載はなく、また同公報におけるDNAとアルギニンの組合せが本発明のように沈澱や濁りを防止することを目的としたものではないことから、これも本発明とは技術的思想の異なるものと判断される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、酸性の清澄な飲料や液状食品に、DNAをその溶解安定剤としての塩基性化合物とともに添加するので、DNAを添加したことによる濁りや澱の発生を防止することができる。また、本発明によれば、脳機能低下抑制効果や耐久力増強作用等生理機能を有するDNAを摂取しやすい食品形態にすることができる。更に、本発明によれば、サケ等の魚介類精巣に由来するDNAの飲料もしくは液状食品への有効利用を促進することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の清澄な、又は澱の発生しないDNA含有飲料または液状食品の製造方法は、DNAが添加された酸性の飲料または液状食品を製造する際に、DNAの溶解安定剤としての塩基性化合物をDNAと併用してこれらに含有させることを特徴とする。
【0022】
DNAの溶解安定剤として作用する塩基性化合物とともにDNAを飲料または液状食品に含有させておくと、DNAの添加に起因して生じる濁りや澱の発生を効果的に抑えることができる。特に、DNAの添加後の酸性の飲料または液状食品を加熱殺菌処理した場合でも、濁りや澱の発生を抑えることができ、DNA含有飲料または液体食品を清澄な状態での出荷や貯蔵が可能となる。
【0023】
DNA及び塩基性化合物の飲料または液状食品への添加は、飲料または液状食品の製造過程における適当な段階における最終の加熱殺菌処理前において、DNA及び塩基性化合物を同時に、あるいは別々に添加することにより行うことができる。飲料の場合は、飲料の各成分を同時に、あるいは所定の順序で水に添加する際の適当な段階で、DNA及び塩基性化合物を同時に、あるいは別々に添加すればよい。また、液状食品の場合についても同様である。
【0024】
なお、DNAまたは塩基性化合物の添加時における飲料または液体食品は、必要に応じて加熱殺菌処理を経たものでもよい。
【0025】
本発明で用いるDNAとしては、飲料または液状食品にDNAにより付与する機能に応じて選択したものを用いることができ、天然DNAや合成DNAが利用できる。天然DNAとしては、さけ、ます、にしん、たら、いか、ほたて貝等の魚介類精巣から得られるDNAが、種々の機能が発見されている上に、資源の有効利用を促進できる点などから好ましい。
【0026】
本発明にかかる清澄な、又は澱の発生しない飲料及び液状食品としては、清涼飲料水、果汁飲料、栄養補給飲料、乳酸飲料、水分補給飲料(スポーツドリンク)、機能性飲料、アルコール飲料、ゲル状食品、スープ、たれ、ドレッシング等などが挙げられ、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酢酸等の有機酸、又はリン酸、塩酸等の酸などを含有することで酸性、特にはpHが3〜5である水を含む飲料または液状食品を挙げることができる。
【0027】
なお、「澱の発生しない飲料」には、乳酸飲料のように不透明ではあるが、固形分が沈降して沈澱物や澱みとして認識されないものが含まれる。
【0028】
DNA溶解安定剤として使用する塩基性化合物としては、酸性条件下でのDNAの水中での溶解安定性を確保でき、かつ飲料または液状食品の成分として利用可能なものであれば制限なく利用できる。例えば、アミノ基を2つ以上有するアミノ酸やアミノ基を1つ以上有するアミノ糖(グルコサミン等)がある。好ましい塩基性化合物としては、アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン及びグルコサミンを挙げることができ、これらの少なくとも1種以上を用いることができる。アルギニン及びリジンにおいては、酸性条件におけるDNAからのプリン塩基の遊離を抑制する点が本発明者らにより見出されており、かかるプリン塩基の遊離抑制効果を有するアルギニン及びリジン以外の塩基性化合物も同様にDNA溶解安定剤として利用可能である。
【0029】
飲料または液状食品に添加する塩基性化合物とDNAとの比率は、塩基性物質がDNAの1/2量(重量基準)以上の範囲、好ましくは等量以上の範囲(塩基性物質とDNAが等量か塩基性物質が過剰である範囲)から選択することが好ましい。
【0030】
また、飲料や液状食品へのDNAの添加量は、目的とするDNA摂取量と、飲料や液状食品を清澄な、あるいは澱のない状態での維持に必要な量とを考慮して設定することができ、これらの要件を少なくとも満たすものであれば特に限定されない。DNAの添加量は、例えば、0.05重量%〜20重量%の範囲から、塩基性化合物の添加量は、0.025重量%〜40重量%の範囲から、それぞれ選択することが好ましい。
【0031】
また、飲料及び液状食品の水分含量は、所望とするDNA含有量を確保できる量に設定すればよい。
【0032】
なお、キトサン等のポリカチオンはDNAと複合体を形成して不溶化する場合があるので、このような成分を併用する場合は、併用を避けるか、その添加量を調整するとよい。
【0033】
DNAと塩基性化合物を予め所定の比率で混合した乾燥品や濃縮水溶液を添加剤として用意しておき、これを利用してDNA含有飲料または液状食品の製造を行うことができる。この添加剤におけるDNAと塩基性化合物の配合比も、先に挙げた飲料または液状食品中での配合比と同じにしておくことが好ましい。
【0034】
DNAの溶解安定剤として機能する塩基性化合物をDNAと併用することにより、DNAの清澄な、あるいは澱みのない飲料または液体食品の成分としての利用が容易となる。
【0035】
本発明にかかる飲料または液状食品は、DNAとこの溶解安定剤としての塩基性化合物とを配合することにより製造することができる。例えば、DNA及び塩基性物質は、他の配合物の前後に、または同時に添加して溶解してもよいし、予めDNAは1〜20重量%程度、塩基性物質は1〜20重量%程度の水溶液を調製して、それらを他の配合物の前後に、又は同時に添加してもよい。また、pH調整の前後に添加してもよい。すべての配合物と共に混合、溶液化した後に、加熱殺菌して商品用容器に無菌的に充填するか、あらかじめ耐熱の商品用容器に充填してから加熱殺菌する。
【実施例】
【0036】
以下に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、以下において「%」は、特に断りのない限り「重量%」を示す。
【0037】
実施例1(アルギニン、リジンの添加によるDNA飲料の清澄維持)
1%高精製DNA(株式会社ニチロ製、Na塩、プロテアーゼ処理および活性炭処理により蛋白質を除去したもの、以下同じ)の水溶液に、アルギニン塩酸塩又はリジン塩酸塩をDNAに対して10、20、40及び100%(w/w)濃度となるように添加し、1Mクエン酸によりpH3.8に調整して、90℃で10分間加熱した。放冷後に40℃で保温し、溶状の変化を観察した。また、コントロールとして、DNAのみの試験区及びDNAのみで加熱処理しない試験区を設定した。
【0038】
40℃で清澄を保持した日数を表1に示す。DNAのみの加熱試験区は8日目に、DNAのみの非加熱試験区は19日目に白濁の発生が確認された。一方、アルギニン又はリジン添加区では、白濁発生までの日数が濃度依存的に長くなり、100%添加区では98日間清澄を保つことが認められた。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例2(酸性域でDNA溶液から生じる不溶物の分析)
1%高精製DNA溶液を1Mクエン酸によりpH3.8に調整し、90℃で10分間加熱後、40℃で保温することにより生じた不溶物の成分分析を行った。不溶物には、DNAが3.4%、プリン塩基であるグアニンが82.6%、同じくプリン塩基であるアデニンが0.8%含まれており、不溶化の主な原因は酸性条件下で且つ加熱することによりDNAから遊離したグアニンが不溶物を形成するためと考えられた。
【0041】
実施例3(塩基性物質によるDNA不溶化抑制効果)
1%高精製DNA溶液に、アルギニン塩酸塩、リジン塩酸塩、ヒスチジン、オルニチン塩酸塩又はグルコサミン塩酸塩をDNA(モノマー換算)と等モル量(含量は順に0.56、0.50、0.42、0.46、0.58%(w/v))添加し、1Mクエン酸によりpH3.8に調整し、90℃で10分間加熱後、40℃で保温して溶状の変化を観察した。DNAのみの溶液は5日目に白濁するのが確認された。塩基性物質を添加した試験区はいずれも26日間清澄を維持した。
【0042】
実施例4(アルギニンによるDNAの不溶化ならびにプリン塩基生成抑制効果)
1%高精製DNA溶液、1%高精製DNA + 0.1% アルギニン塩酸塩溶液及び1%高精製DNA + 1% アルギニン塩酸塩溶液を、1Mクエン酸によりpH3.8に調整し、90℃で10分間加熱後、40℃で保温して溶状の変化を観察した。また、適宜サンプリングして、溶液中(不溶物発生サンプルは遠心分離して上清及び分析試薬で溶解した沈澱物中)のプリン塩基を定量した。
【0043】
40℃での保温の結果、DNAのみの試験区は6日目、アルギニン0.1%添加区は14日目に白濁するのが確認され、アルギニン1%添加区は28日後でも清澄を維持した。各試験区のプリン塩基含量を表2に示す。まず、アルギニンの濃度依存的にプリン塩基含量が低くなったことより、アルギニンによりDNAの脱プリン反応が抑制されていることが示された。更に、アルギニン無添加区は白濁が発生して、グアニン濃度が0.248 mg/ml(保温6日目)で白濁が発生したのに対して、アルギニン添加区はそれ以上のグアニン濃度でも白濁が発生しなかったことより、アルギニンが、脱プリン反応により生じたグアニンの不溶化を抑制することが示された。
【0044】
【表2】

【0045】
実施例5(酸種の影響)
1%高精製DNA溶液にDNAと等重量のアルギニン塩酸塩を添加し、塩酸、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、酢酸、乳酸又はアスコルビン酸によりpH3.8に調整した。90℃で10分間加熱後、40℃で保温して溶状の変化を観察した。その結果、アルギニン無添加区は5日目に濁りの発生が認められ、アスコルビン酸添加区は40日、クエン酸、リン酸及びリンゴ酸添加区は54日、乳酸、酢酸及び塩酸添加区は56日まで清澄かつ澱の無い溶液を維持した。
【0046】
以上の実施例では魚介類精巣由来のDNAを用いたが、DNAが保持する生物種固有の遺伝情報はそれぞれの生物種により異なるものの、生体高分子としてのDNAは物質として共通の性質を示すことが知られていることから、魚介類以外の生物種由来のDNAにおいても同等の効果を示すものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
清澄な、又は澱の発生しないDNA含有飲料または液状食品の製造方法において、DNA、DNAの溶解安定剤としての塩基性化合物及び水を含む酸性の飲料または液状食品を調製する工程と、前記飲料または液状食品を加熱殺菌して、清澄な、又は澱の発生しないDNA含有飲料または液状食品を得る工程を有することを特徴とする清澄な、又は澱の発生しないDNA含有飲料または液状食品の製造方法。
【請求項2】
前記塩基性化合物が、アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン及びグルコサミンの少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記塩基性化合物により得られるDNA溶解安定性が、酸性でのDNAからのプリン塩基の遊離を抑制することにより得られるものである請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記DNAが魚介類由来のDNAである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られたことを特徴とする清澄な、又は澱の発生しないDNA含有飲料または液状食品。
【請求項6】
水を含む清澄な、又は澱の発生しない酸性の飲料または液状食品へのDNA添加用の添加剤において、DNAの溶解安定作用を有する塩基性化合物とDNAを含むことを特徴とする飲料または液状食品へのDNA添加用の添加剤。
【請求項7】
前記塩基性化合物が、アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン及びグルコサミンの少なくとも1種である請求項6に記載の添加剤。
【請求項8】
前記塩基性化合物は、酸性でのDNAからのプリン塩基の遊離を抑制してDNAの溶解安定性を得るものである請求項6または7に記載の添加剤。
【請求項9】
前記DNAが魚介類由来のDNAである請求項6〜8のいずれかに記載の添加剤。

【公開番号】特開2007−135456(P2007−135456A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332688(P2005−332688)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(000233620)株式会社ニチロ (34)
【Fターム(参考)】