説明

減速機の出力軸のシール構造

【課題】潤滑油や粉塵が外部に漏れたり、高圧洗浄の際、オイルシールに水がかかったりすることを確実に防止することができる減速機の出力軸のシール構造を提供すること。
【解決手段】減速機10は、出力軸12が軸受14,16を介して出力軸ケース18に回転自在に支持されている。軸受14,16の軸方向外側に、出力軸ケース18内周面に固定される断面L字状の固定部20A,22Aと、固定部20A,22Aの内周側において出力軸12と摺接させられるリップ部20B,22Bとからなる環状のオイルシール20,22が設けられている。オイルシール20,22の軸方向外側には、断面V字状のシールリング24,26が設けられ、そのシールリング24,26の軸方向外側には、耐食鋼板28,29が出力軸ケース18内部を塞ぐように出力軸ケース18に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに連結される入力軸からの回転数をこれより低い回転数に減速して出力軸に伝達する減速機のシール構造に関し、特に、減速機の出力軸のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図3に示すような減速機のシール構造がある(例えば、特許文献1参照。)。
減速機110はモータ130と連結されており、減速機110の出力軸112は、減速機110によって減速されたモータ130の回転を出力する。軸受114,116は、出力軸ケース118内で出力軸112を回転可能に支持する。ここで、出力軸112の外周面112Aは、出力軸ケース118の内周面と対面しオイルシール120,122のリップ部120B,122Bが摺接するシール摺接面となっている。
【0003】
環状のオイルシール120,122は、出力軸ケース118内周面に固定される断面L字状の固定部120A,122Aと、固定部120A,122Aの内周側において出力軸112と摺接させられるリップ部120B,122Bと、リップ部120B,122を常時出力軸112側に押圧するばね120C,122Cとからなる。オイルシール120,122は、出力軸112の外周と出力軸ケース118の内周との間に設けられ、リップ部120B,122Bの内周縁部が出力軸112の外周面112Aに適度な弾力をもって常時摺接することにより、出力軸112の外周と出力軸ケース118の内周との間を閉塞し、減速機110等を潤滑するための潤滑油を出力軸ケース118内に封止する。
【0004】
モータ130が作動して回転すると、このモータ130の回転が減速機110によって減速されて出力軸112に伝わり、被動軸140が所定のトルクで回転する。そして、減速機110の作動時には、オイルシール120,122によって出力軸ケース118内に封止された潤滑油により、減速機110や各軸受114,116が潤滑される構成となっている。
【0005】
このオイルシールが外部に剥き出しに配置されている図3に示されるシール構造は、(1)高圧洗浄でオイルシールに水がかかりリップ不具合を起こした場合や、装置の振動や取付の芯出し不良でオイルシールの機能が低下した場合に、潤滑油漏れが発生する、(2)オイルシールが摩耗することにより発生した粉塵が外部に漏れる、等の問題がある。
特に、オイルシールの粉塵が外部に漏れることから、粉塵を嫌うクリーンルームや液晶製造設備では使用することができず問題となっていた。
【0006】
これに対し、オイルシールの軸方向外側に、さらにガード部材を配置したシール構造が、特許文献2,3に開示されている。
特許文献2は、オーガ式製氷機の減速機のシール構造に関するものであり、ガード部材がオイルシール全体を覆い、上方から垂れてきた水が出力軸の周囲のオイルシールに到達しないため、オイルシールのシール機能が損傷しても、ケース内に水が入るのを防止することができる。
一方、特許文献3は、自動車の減速機のシール構造に関するものであり、ダストシールドとしてのガード部材がオイルシールの軸方向外側に設けられている。
【特許文献1】特開2002−130390号公報
【特許文献2】特開平8−247155号公報
【特許文献3】特開2004−96986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これらのガード部材は、或る程度、オイルシールに水がかかることや、潤滑油漏れを防止することに効果があるものの、十分満足できるものではなかった。また、これらガード部材を設けても、オイルシールの粉塵は外部に漏れてしまうことから、粉塵を嫌うクリーンルームや液晶製造設備での使用は依然不可能であった。
また、オイルシールのリップ部のバネによって生じる接触抵抗により出力軸のトルクが数%失われ、減速機のトルク伝達が制限されるという問題があった。
【0008】
さらに、この他に、出力軸がS45C等の炭素鋼やSCM415等のクロム・モリブデン鋼からなる場合、出力軸に水がかかると錆が発生し、オイルシールのリップ部に傷がつき、潤滑油漏れが発生するという問題があった。
さらに、出力軸と被動軸は、通常、キー締結により一体化されるが、キー締結の場合、(1)作動中、出力軸と被動軸間の間で、キー溝とキーの焼き付きが起こる、(2)使用雰囲気が適切なものでなかったり、水がかかったりする場合、錆が発生し、メンテナンス時に中空出力軸と被動軸、キー溝とキーを外すことが困難になる、等の問題があった。
また、モータは、通常、冷却用のファンを有するが(例えば、特開2004−135435号公報参照。)、モータの冷却用ファンからも粉塵が発生し問題となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、出力軸が軸受を介して出力軸ケースに回転自在に支持されている、減速機の出力軸のシール構造であって、前記軸受の軸方向外側に、前記出力軸ケース内周面に固定される断面L字状の固定部と該固定部の内周側において前記出力軸と摺接させられるリップ部とを具えたオイルシールが設けられ、該オイルシールの軸方向外側に断面V字状のシールリングが設けられ、該シールリングの軸方向外側に耐食鋼板が前記出力軸ケース内部を塞ぐように前記出力軸ケースに固定されていることを特徴とする減速機の出力軸のシール構造によって、前記の課題を解決した。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、オイルシールの軸方向外側に断面V字状のシールリングを設け、このシールリングの軸方向外側に出力軸ケース内部を塞ぐように出力軸ケースに耐食鋼板を固定することで、潤滑油や粉塵が外部に漏れたり、高圧洗浄の際、オイルシールに水がかかったりすることを確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を図1に基づいて説明する。
本発明の減速機10は、従来の減速機110と同様、出力軸12が軸受14,16を介して出力軸ケース18に回転自在に支持されている。減速機10はモータ30と連結されており、モータ30が作動すると、モータ30の回転は減速機10によって減速されて出力軸12に伝わり、出力軸12に連結された被動軸40が所定のトルクで回転する。
【0012】
軸受14,16の軸方向外側に、環状のオイルシール20,22が設けられている。オイルシール20,22は、出力軸ケース18内周面に固定される断面L字状の固定部20A,22Aと、固定部20A,22Aの内周側において出力軸12と摺接させられるリップ部20B,22Bとからなる。オイルシール出力軸12の外周面12Aは、出力軸ケース18の内周面と対向し、オイルシール20,22のリップ部20B,22Bが摺接するシール摺接面となっている。
【0013】
オイルシール20,22の弾性力によって、リップ部20B,22Bの内周縁部は、出力軸12の外周面12Aに適度な弾力をもって常時摺接し、出力軸12の外周と出力軸ケース18の内周との間が閉塞され、減速機10等を潤滑するための潤滑油が出力軸ケース18内に封止される。
減速機10の作動時には、オイルシール20,22によって出力軸ケース18内に封止された潤滑油により、減速機10や各軸受14,16が潤滑される。
【0014】
さらに、オイルシール20,22の軸方向外側には、断面V字状のシールリング24,26が設けられ、そのシールリング24,26の軸方向外側には、耐食鋼板28,29が出力軸ケース18内部を塞ぐように出力軸ケース18に固定されている。なお、断面V字状のシールリングは、V字状断面の弾性反発力によって、シール効果を発揮させるようにした、公知のものである。
このように、オイルシール20,22の軸方向外側に、断面V字状のシールリング24,2624,26を設け、さらにそのシールリング24,26の軸方向外側に耐食鋼板28,29を固定することにより、高圧洗浄をした場合にもオイルシールに水がかかることを確実に防ぐことができ、装置の振動や取付の芯出し不良でオイルシールの機能が低下した場合であっても、減速機で潤滑油漏れが発生することを防ぐことができ、さらに、オイルシールが摩耗して発生する粉塵が外部に漏れることを防ぐことができる。かくして、本発明の減速機は、粉塵を嫌うクリーンルームや液晶製造設備でも使用することができる。
【0015】
また、断面V字状のシールリング24,26を設けることで、オイルシールのリップ部を押圧するばねを使用せずに、高シール性を実現することができる。そして、リップ部を押圧するばねを省略することで、リップ部と出力軸との接触抵抗が少なくなり、トルク損失が最小限に抑えられることから、高トルク伝達が可能になる。
【0016】
ここで、耐食鋼板28,29は、錆が発生しないクロム鋼やクロム−ニッケル鋼等のステンレス鋼からなることが好ましい。
また、本発明を医療機器に用いる場合、大腸菌、黄色ブドウ球菌、MRSA等の菌の発生を抑えるために、耐食鋼板28,29や出力軸ケース18等の減速機のケースやモータフレームの外面に、銀系抗菌剤が入った塗料による抗菌塗装を施すことが好ましい。
また、医療機器に用いない場合は、錆の発生を防ぎ、放熱性を向上させるために、減速機のケースやモータフレームは全て、塗装を施さないステンレス鋼で構成することが好ましい。
【0017】
また、モータのファンからの粉塵が発生しないようにするために、モータ30は、出力が0.1〜0.4Kwまでは冷却ファンを有さないことが好ましい。
さらに、出力軸12と被動軸40は、例えば、図2に示すような、外周にテーパ面が形成されたインナーリング52と、内周にテーパ面が形成された一対のアウターリング54,54と、アウターリング54,54を軸方向に締結する複数の締結用ボルト56で構成されたテーパリング式締結機構50により締結されることが好ましい。このようなテーパリング式締結機構50により出力軸12と被動軸40を締結すれば、従来のキー締結機構において発生していた焼き付きは起らず、出力軸と被動軸の取外しやメンテナンスも比較的簡便に行うことができる。
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、オイルシールの軸方向外側に断面V字状のシールリングを設け、このシールリングの軸方向外側に耐食鋼板が出力軸ケース内部を塞ぐように出力軸ケースに固定することで、潤滑油や粉塵が外部に漏れたり、高圧洗浄の際、オイルシールに水がかかったりすることを確実に防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の減速機のシール構造を示す図。
【図2】本発明の減速機の出力軸と被動軸を締結するテーパリング式締結機構を示す図。
【図3】従来の減速機のシール構造を示す図。
【符号の説明】
【0020】
10:減速機 12:出力軸
14,16:軸受
18:出力軸ケース
20,22:オイルシール
20A,22A:固定部 20B,22B:リップ部
24,26:シールリング 28,29:耐食鋼板 30:モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力軸が軸受を介して出力軸ケースに回転自在に支持されている、減速機の出力軸のシール構造であって、
前記軸受の軸方向外側に、前記出力軸ケース内周面に固定される断面L字状の固定部と該固定部の内周側において前記出力軸と摺接させられるリップ部とを具えたオイルシールが設けられ、該オイルシールの軸方向外側に断面V字状のシールリングが設けられ、該シールリングの軸方向外側に耐食鋼板が前記出力軸ケース内部を塞ぐように前記出力軸ケースに固定されていることを特徴とする、
減速機の出力軸のシール構造。
【請求項2】
前記減速機が抗菌塗装されている、請求項1のシール構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−22835(P2006−22835A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−199002(P2004−199002)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000150800)株式会社ツバキエマソン (102)
【Fターム(参考)】