説明

減酸素ユニット、減酸素制御システム及び冷蔵庫

【課題】 所定の酸素濃度になるよう動作する減酸素ユニット、減酸素システムおよび減酸素ユニットを備えた冷蔵庫を提供することを目的とする。
【解決手段】 実施形態にかかる減酸素ユニットは、アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードに挟持された電解質膜と、を有する減酸素素子と、前記減酸素素子へ電圧を印加する電圧印加手段と、前記減酸素素子の電流を計測する電流計測手段と、前記電流計測手段で得られた第一の電流値と、予め定められた時間経過後に前記電流計測手段で得られた第二の電流値と、前記予め定められた時間とから算出される電流変化速度、に基づき前記電圧印加手段が減酸素素子へ印加する電圧量を制御する制御部と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
減酸素ユニット、減酸素制御システム及び冷蔵庫に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素濃度を低減することで食品の保存性を高める方法として、固体高分子膜を使った減酸素装置が提案されている。この手法は固体高分子膜にアノードとカソードを設け、アノードから発生した水素とカソード側空間に存在する酸素とを前記カソードにて触媒燃焼し、カソード側空間の酸素濃度を低減させることを特徴とする。ここで、カソード側空間の酸素濃度を制御するため、酸素濃度を計測する酸素濃度センサを備えたものが知られている。酸素センサは比較的高価であるため、コストの増加が懸念されている。
【0003】
また、酸素センサが不要な形態も知られているが、これは電流の積算値を元に酸素濃度を見積もっているのであって、庫内の容積量(絶対値)や酸素濃度の初期条件の変化に対応して動作することができない。つまり、電極での反応の変化を測定し、庫内の条件や装置などに変化が生じても所定の酸素濃度になるよう動作する減酸素装置やシステムは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−243103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実施形態は、所定の酸素濃度になるよう動作する減酸素ユニット、減酸素制御システムおよび減酸素ユニットを備えた冷蔵庫を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態にかかる減酸素ユニットは、アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードに挟持された電解質膜と、を有する減酸素素子と、前記減酸素素子へ電圧を印加する電圧印加手段と、前記減酸素素子の電流を計測する電流計測手段と、前記電流計測手段で得られた第一の電流値に対し、予め定められた時間経過後に前記電流計測手段で得られた第二の電流値とから算出される電流変化速度、に基づき、前記電圧印加手段が減酸素素子へ印加する電圧量を制御する制御部と、を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施形態の減酸素ユニットの概念図である。
【図2】実施形態の減酸素ユニットを有する冷蔵庫の概念図である。
【図3】実施形態の制御アルゴリズムのチャート図である。
【図4】実施形態の減酸素ユニットを動作させた時の時間と酸素濃度の関係を示すグラフである。
【図5】実施形態の減酸素ユニットを動作させた時の時間と電流値の関係を示すグラフである。
【図6】実施形態の減酸素ユニットを動作させた時の電流変化速度と酸素濃度の関係を示すグラフである。
【図7】実施形態の正常な減酸素ユニット(A)と劣化した減酸素ユニット(B)を動作させた時の時間と酸素濃度の関係を示すグラフである。
【図8】実施形態の制御アルゴリズムのチャート図である。
【図9】実施形態の制御アルゴリズムのチャート図である。
【図10】実施形態の制御アルゴリズムのチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、必要に応じて図面を参照しながら、この発明の一実施の形態に係る減酸素ユニットを説明する。
【0009】
第1の実施形態の減酸素ユニットは、アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードに挟持された電解質膜と、を有する減酸素素子と、前記減酸素素子へ電圧を印加する電圧印加手段と、前記減酸素素子の電流を計測する電流計測手段と、前記電流計測手段で得られた第一の電流値に対し予め定められた時間経過後に前記電流計測手段で得られた第二の電流値とから算出される電流変化速度、に基づき、前記電圧印加手段が減酸素素子へ印加する電圧量を制御する制御部と、を有することを特徴とする。また、実施形態の減酸素制御システムは、実施形態の減酸素ユニットと同様の構成を有し、減酸素ユニットの電流計測手段で得られた第一の電流値と、予め定められた時間経過後に前記電流計測手段で得られた第二の電流値と、前記予め定められた時間とから算出される電流変化速度、に基づき電圧印加手段が減酸素素子へ印加する電圧量を制御することを特徴とする。また、実施形態の冷蔵庫は、減酸素ユニット又は減酸素制御システムを有することを特徴とする。
【0010】
実施形態の減酸素ユニットや減酸素制御システムにおいて、前記制御部は、前記電流変化速度が予め定められた値よりも小さい場合、前記電圧印加手段の前記減酸素素子への電圧の印加を停止させることを特徴とする。
【0011】
(第1の実施の形態)
まず、第1の実施形態の減酸素ユニットを備えた容器の構成について説明する。
図1は、第1の実施の形態に係る減酸素ユニット1を備えた容器の構成を示している。減酸素ユニット1は、アノード2と、カソード3と、前記アノード2とカソード3に狭まれた電解質膜4と、アノード集電板6と、カソード集電板7と、電圧印加手段9と、電流測定手段8と、アノードガスケット10と、カソードガスケット11と、制御部16からら少なくとも構成される。減酸素ユニット1は、開閉扉13を備えた減酸素庫(食品収納容器)12に備えられている。減酸素ユニット1のカソード3側が減酸素の反応を行うため、減酸素庫12の側壁の一部になるように備えられている。一方、減酸素ユニット1のアノード2側はカソード3側を逆の反応を行う。そこで、カソード3は減酸素庫12内に含まれず、減酸素庫12の側壁の一部を構成しない。
【0012】
ここで、アノード2は、例えば白金触媒、酸化ルテニウムや、酸化イリジウムを含む材料で構成され、カソード3は、例えば白金触媒を含む材料で構成される。アノード2、カソード3ともに、前記材料に他の材料を混入させても良く、例えばチタンメッシュを支持体として混入させても良いし、例示しない他の好適な材料を用いることができる。
【0013】
電解質膜4は、プロトン導電性を有する膜であり、例えばナフィオン(デュポン社、登録商標)を用いることができる。
【0014】
アノード集電板6とカソード集電板7は、例えばチタンやステンレス等を用いることができる。
【0015】
アノード集電板6は、アノード2の側面に備えられ、アノード2と接する範囲内に図示しないアノード開口部を有する。アノード集電板6はアノード2と電圧印加手段9に電気的に導通している。アノード2に水を供給するために、アノード開口部には水供給手段14が配置されていることが好ましい。水供給手段14が配置されていることで、アノード2での反応に必要な水がアノード2において不足することを防ぐことができる。水供給手段14は、スポンジなどの多孔体で吸水性に優れる材料が好ましい。
【0016】
カソード集電板7は、カソード3の側面に備えられ、カソード3と接する範囲内にカソード開口部15を有する。カソード集電板7は、カソード3と電圧印加手段9に電気的に導通している。水供給手段14を用いる場合、カソード集電板7の一部が、水供給手段14と接続される。カソード開口部15は、カソード3に空気(酸素)を供給するように開口している。また、カソード開口部15は、カソード3で生成した水がカソード3から水供給手段14に移動し易くするために、例えば、重力方向に傾斜していることが好ましい。
【0017】
水供給手段14は、一方の面がカソード集電板7の一部と接続され、他方の面がアノード2と接続されている。カソード3での反応で生成した水は水供給手段14を通してアノード2に供給される。
【0018】
電流計測手段8は、アノード2とカソード3の間を流れる電流を計測できる位置に備えられていればよい。例えば、図1の様に、電流計測手段8は、電圧印加手段9とアノード集電板6の間に備えられる。
【0019】
電圧印加手段9は、前記アノード集電板6とカソード集電板7間に、設定電圧VSETの電圧を印加する。
【0020】
減酸素庫12は、密閉可能な容器が好ましい。開閉扉13や開閉可能な通気孔を備えることで、減酸素反応に伴う圧力低下を緩和してもよい。減酸素庫12は具体的な例として図2の概念図に示す冷蔵庫24の野菜室23が挙げられる。野菜室23を減酸素状態にすることで、庫内に保存した野菜の鮮度の低下を遅くすることができることが好ましい。実施形態には、このような野菜室24を有する冷蔵庫23も含まれる。
【0021】
次に、制御部19表示部21と操作部22の概要とその機能について説明する。
制御部16の構成は図1の概念図に示すように、例えば、電流測定手段コントローラ17、電圧印加手段コントローラ18、演算部19とメモリ(記憶装置)20を含む。制御部16や演算部19は、単一の又は複数のICを含み、ソフトウェア又はハードウェアによって演算処理をし、さらに、他の構成を制御する。必要に応じて、減酸素庫12の減酸素状態等を表示する表示部21と減酸素ユニット1の動作を制御する操作部22を制御部16に接続してもよい。なお、図1の制御部16の構成は実施形態の減酸素ユニット1の動作を説明するために便宜的に用いたものである。従って、実施形態と同様の減酸素ユニット1の動作ができるものであれば、制御部16の構成は任意のものを採用することができる。
【0022】
電流計測手段コントローラ17は、例えばメモリ20から読み込んだ測定時間間隔条件に基づき電流計測手段8を動作させる。電流計測手段8で計測して得られた電流値をメモリ20に転送する。
【0023】
電圧印加手段コントローラ18は、実施形態の制御アルゴリズムに基づいて電圧印加のオン/オフと印加電圧値を制御する。減酸素ユニット1を動作させる場合、電圧印加手段コントローラ18は、メモリ20に記憶されたVSET値を読み出して、電圧印加手段9にVSET値を設定し電圧印加手段9を制御する。演算部19による演算結果やユーザーからの操作によって、VSETは電圧上限値から電圧下限値の間で変えることができる。
【0024】
電流計測手段8、電圧印加手段9、電流計測手段コントローラ17と電圧印加手段コントローラ18は必要に応じて、ノイズフィルタ、信号増幅やA/D(アナログ/デジタル)変換又はD/A(デジタル/アナログ)変換等の機能を備えてもよいし、演算部19等の他の構成によってこれらの機能を追加してもよい。
【0025】
メモリ20は、必要に応じて、測定日時、VSET、測定時間間隔(Δt、Δt’)、電流値、電流変化速度、電流変化速度下限値、電流変化速度上限値、電流上限値、電圧上限値、VSETと減酸素庫空隙容積に対応する電流変化速度下限値テーブルを記憶することができる。また、操作部22を介しての操作や演算部19における演算結果に応じてデータを追加又は書き換えることができる。上記メモリ20に記憶されたデータは、電流計測手段コントローラ17、電圧印加手段コントローラ18、演算部19と表示部21が読み出すことができる。
【0026】
ユーザーへの報知手段としての、表示部21は、LED、LCD、有機ELなどの表示装置が挙げられる。表示部21は減酸素ユニット1の動作状態、減酸素庫12内の酸素濃度、アノード3への水供給の状態等の情報をユーザー等に表示することができる。表示部21は省略してもよい。表示部21の代わりにスピーカーによって音声を出力することによって、減酸素ユニットの状態をユーザー等に通知してもよい。報知手段は表示部21と音声による通知を併用してもよい。
【0027】
操作部22は、減酸素ユニットの動作のオン/オフ、VSET等の設定値を変更するための操作スイッチなどである。操作部22は省略してもよい。
【0028】
制御部16、表示部21や操作部22は、冷蔵庫等の装置の制御システムやネットワーク家電制御システム等の他の装置と接続したりこれらのシステムに組み込まれていたりしてもよい。
【0029】
次に、本実施の形態における減酸素ユニットの運転方法(制御システム)について説明する。
制御部16から電圧印加手段9に電圧印加の命令が出されて電圧VSETが印加されると、アノード2では式(1)の反応によって水が電気分解され、プロトンと酸素が生成する。
【0030】
【化1】

式(1)
【0031】
式(1)で生成したプロトンは、電解質膜4を通してカソード3に運ばれる。そして、カソード3にて式(2)の反応によって、プロトンは酸素を還元し、水を生成する。
【0032】
【化2】

式(2)
【0033】
よって、減酸素庫内の酸素が消費され、反応の進行とともに減酸素庫内の酸素濃度は低下する。そして、減酸素容器内の酸素濃度が低下し、酸素不足が起こった場合、カソード3では式(2)の反応は起こらず、代わりに式(3)の反応によって、水素が発生する。
【0034】
【化3】

式(3)
【0035】
そこで、本実施の形態の発明では、式(3)の水素発生が起こらない条件で酸素濃度を低減させるよう、制御部16で電圧印加を制御することを特徴とする。
図3に、第1の実施形態の制御部16の制御アルゴリズムを示す。
【0036】
ステップS01にて運転開始がなされると、制御部16内の電圧印加手段コントローラ18は、電圧印加手段9の設定電圧がV=VSETとなるよう、電圧印加信号を与える(ステップS02)。これにより、式(1)、式(2)の反応が開始される
【0037】
次に、ステップS03にて電流測定手段コントローラ17は、電流計測手段を動作させて第一の電流値Iを計測する。計測した第一の電流値Iをメモリ20に記憶する。電流値は、任意の計測時間長さの電流値の平均値あるいは計測中の任意のタイミングにおける電流値である。電流値の平均値の求め方は、メモリ20に記憶された電流値と任意の計測時間を読み出して演算部19で算出すればよい。
【0038】
ステップS03から予め定められた測定時間間隔が経過した後、ステップS04にて、第一の電流値Iと同様に第二の電流値Iを計測する。予め定められた測定時間間隔はメモリ20から読み出す。計測した第二の電流値Iをメモリ20に記憶する。第二の電流値Iは第一の電流値Iと同じ基準で定義される。
【0039】
ステップS03とS04から得られた電流値IとIと測定時間間隔:Δtをメモリ20から読み出して演算部19で式(4)を用いてdI/dt求める。
【0040】
【数1】

式(4)
【0041】
設定電圧VSET一定にて運転開始した場合の、減酸素庫12内の酸素濃度と電流値の経時変化の実測結果についてそれぞれ、図4、図5、図6のグラフに示す。
設定電圧はVSET=1.45V、密閉された減酸素庫容積11L、開始時酸素濃度21%、環境温度25℃の条件にて酸素濃度センサを用いて、実測を行った。図4より、時間の経過とともに、酸素濃度は減少するが、時間あたりの酸素減少量は経時的に減少していることが確認された。図5より、これと同時に、電流値は経時的に減少するが、単位時間あたりの電流減少量は、酸素濃度の低下とともに減少することが確認された。図6に、電流IとIの間の予め定められた時間Δtを30分に設定した時の、電流変化速度と酸素濃度の関係を示す。酸素濃度は、IとIの間の平均酸素濃度を代表した。
なお、計測時間は第一に電流地を測定する時間T1および第二の測定値を測定する時間T2における瞬時の測定値or電流I1とI2の差が得られる条件であれば1分程度の平均でも可能である。一方、計測時間間隔(Δt)は、あまり間隔が短いと誤差が大きくなるため30分程度の長い時間が好ましい。ただし、いずれも時間の定義は使用されるシステムの設計条件によって変わるため、指標されるシステムにおいて適切な条件を使用すればよい。
【0042】
図6のグラフより、電流変化速度と酸素濃度の間には、電流変化速度の減少とともに、酸素濃度が減少する関係が得られた。そこで、式(3)の水素発生反応が生じる恐れのある酸素濃度以下に減酸素庫12内の酸素濃度が達しないようにするには、電流変化速度を算出し、その値が水素発生を招く酸素濃度よりも低くならないように制御する。
一方、減酸素庫12の開閉蓋13が開放され、酸素が減酸素庫12に流入する状態で減酸素運転を行った場合、酸素流入によって酸素濃度はほぼ一定となるため、電流変化速度は概ね0になる。また、電流変化速度の測定中に酸素が減酸素庫12に流入した場合は、酸素濃度が増加するために、電流変化速度が正の値になることもある。
【0043】
なお、減酸素ユニット1の動作中に減酸素庫12内に酸素が流入すると酸素濃度が増えた分だけ図4の時間が0に近づく(戻る)。従って、減酸素ユニット1の動作初期における酸素濃度が変化しても、測定誤差などの因子を除いて電流変化速度と酸素濃度の関係には影響を与えない。つまり、初期の酸素濃度が異なっていても、減酸素ユニット1の制御アルゴリズムは変わらない。
【0044】
そこで、ステップS05にて、制御部16は、電流変化速度を基準に減酸素庫12内の酸素濃度を見積もって、減酸素ユニット1の運転を継続又は運転を停止する。電流変化速度下限値(dI/dtMIN)は、カソード3から水素が発生しない条件になるように予め設定されている。得られた電流変化速度とメモリ20から読み出した電流変化速度下限値を比較する。得られた電流変化速度が電流変化速度下限値以上の場合、電圧印加手段9に対し、継続して電圧を印加する(ステップS05→ステップS01)。そして、測定時間間隔(ΔT’)後に、再度、電流変化速度を算出する。得られた電流変化速度が電流変化速度下限値よりも小さい場合、(1)酸素濃度が予め定められた下限濃度に到達したと判断するか、(2)減酸素庫12内が開けられた状態で減酸素ユニット1の運転がなされている等のエラーイベントが発生したと判断し、電圧印加手段コントローラ18により電圧印加停止対応を行う(ステップS05→ステップS06)。この時、ユーザーに終了音(警告音)や終了表示(警告表示)を出したりしてもよい。減酸素ユニット1の停止後は、操作部22からの操作、一定時間の経過又は開閉扉13の開閉などに対応して、減酸素ユニット1の動作を再開させてもよい。なお、IとIを測定する間に、開閉扉13が開かれた場合などのエラーイベントが発生した場合は、庫内の酸素濃度が増加すると電流変化速度は増加するため、ステップS05→ステップS01が自動的に継続される。
【0045】
予め定められた電流変化速度の下限値は、電圧印加手段9に印加する電圧値(VSET)と、減酸素庫12の(空隙)容積に応じて対応する電流変化速度の下限値のテーブルを予め用意しておき、そのテーブルに応じて電流変化速度の下限値を設定する。電圧値(VSET)と、減酸素庫12の体積に応じて電流変化速度の下限値のテーブルは、実験的に得ることができる。酸素濃度センサを用いて、電圧値(VSET)と減酸素庫12の(空隙)容積を種々の値とし、電流変化速度がどの値までであれば、水素化反応が起きない酸素濃度であるのかを調べることによって電流変化速度の下限値のテーブルを得た。電流変化速度の下限値のテーブルの作成時には酸素濃度センサが必要となるが、電流変化速度の下限値のテーブルが作製されれば酸素濃度計がなくても水素化反応を防いだ安全な減酸素処理をすることができる。
【0046】
上記方法によれば、減酸素ユニット1動作初期の酸素濃度に関係なく、電流変化速度の値を基準に式(3)の水素化反応を防ぐことができる。電流変化速度の値に応じて、減酸素庫12内の酸素濃度の状態が推定でき、酸素濃度センサなしで減酸素ユニット1の運転を制御することが可能となる。
【0047】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、何らかの要因により減酸素素子5の性能が低下した場合における制御アルゴリズムを提供する。制御部16で得られた電流変化速度に応じ、設定電圧VSETを変化させる。従って、性能が低下した減酸素素子5を用いていたとしても、減酸素庫12内の酸素濃度が意図した濃度になるように制御することを可能とする。
【0048】
実施形態の減酸素ユニットや前酸素制御システムにおいて、前記制御部は、前記電流変化速度が予め定められた値よりも大きい場合、前記電圧印加手段の前記減酸素素子への印加電圧量を増加させることを特徴とする。
実施形態の減酸素ユニットや前酸素制御システムにおいて、前記電流計測手段で得られた電流値に応じて前記電圧印加手段に与える電圧値を制御することを特徴とする。
【0049】
図7に示すように、設定電圧V=VSET、初期酸素濃度21%の条件にて運転を開始し、300分後には酸素濃度が5%まで低下し、電流が0.75Aとなったサンプル(A)と、減酸素素子の性能が劣化したため、設定電圧V=VSET、初期酸素濃度21%における開始電流が1.5A以下で運転を開始し、300分後には酸素濃度が10.6%まで低下し、電流が0.75Aになったサンプルを比較した場合、本方式では、サンプル(A)とサンプル(B)で電流変化速度が異なることから、両者の電流変化速度の差から酸素濃度の差を区別することが可能となる。一方、電流変化速度を酸素濃度の基準とせず、電流の絶対値で減酸素庫12内の酸素濃度を推定する方法では、電流が0.75Aと同じ条件であれば、酸素濃度の異なるサンプル(A)とサンプル(B)の酸素濃度を区別できない課題がある。
【0050】
図8に、実施形態の制御アルゴリズムのチャート図を示す。
ステップS01からステップS04までは第1の実施形態と同様である。ステップS05にて電流変化速度が電流変化速度下限値よりも小さい場合において、VSETを変更するか電圧印加を停止するステップS05からS10が第1の実施形態と異なる。
【0051】
ステップS05にて、第1の実施形態と同様に演算部19は、得られた電流変化速度とメモリ20から読み出した電流変化速度下限値(dI/dtMIN)以上か否かを判断する。ここで、電流変化速度が予め定められた下限値以上の場合、継続して電圧を印加する(ステップS05→ステップS01)。
【0052】
一方、ステップS05にて、電流変化速度が電流変化速度下限値よりも小さい場合、制御部16は電流値Iの絶対値が、メモリ20から読み出した上限電流の絶対値(IMAX)に対して大きいか否かの判断を行う(ステップS05→ステップS07)。そして、電流値Iの絶対値がIMAX以上の場合、減酸素庫12の開閉扉13が開いた状態や電極の短絡などのエラーイベントの発生であると判断し、制御部16は電圧印加手段9の電圧印加を停止させる。この時、ユーザーに終了音(警告音)や終了表示(警告表示)を出したりしてもよい(ステップS09)。
【0053】
電流値Iの絶対値がIMAXよりも小さい場合、制御部16は、設定電圧値(VSET)がメモリ20から読み出した上限電圧値(VMAX)に対して大きいか否かの判断を行う(ステップS07→ステップS08)。設定電圧値VSETが初期値の状態であれば、VSET<VMAXであるため、ステップS08を省略し、ステップS10に移行してもよい。そして、設定電圧値(VSET)が予め定められた上限電圧値(VMAX)より低い場合、設定電圧値(VSET)を現在の値からVMAXの範囲で増加させ、電圧印加運転を継続させる(ステップS10→ステップS01)。一方、設定電圧値(VSET)が予め定められた上限電圧値(VMAX)に達した場合、制御部16電圧印加手段8に電圧印加停止信号を与える(ステップS08→ステップS11)。この時、ユーザーに終了音(警告音)や終了表示(警告表示)を出したりしてもよい。
【0054】
減酸素素子5は、経時的に性能が劣化し、同一の設定電圧値(VSET)、かつ同一酸素濃度環境における電流が劣化とともに減少する課題がある。そこで、第2の実施形態では、電流変化速度の値と、電流値Iの絶対値から、減酸素素子5の劣化を判断する。そして、劣化を判断した場合には設定電圧値を更新して増加させることで、劣化に伴う電流値の減少を抑制することでき、長時間にわたって安定して運転可能な減酸素ユニット1を提供可能となる。なお、減酸素素子5が劣化しているものと判断したときには、劣化程度に対応した電流変化速度の下限値のテーブルを用いてもよい。また、新たなパラメータによって、電流変化速度の下限値のテーブル値が劣化程度を反映した値になるように演算してもよい。
【0055】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態では、電流計測手段8で計測した電流変化速度の値に基づいて、減酸素庫12内の空隙体積にかかる状態を判断し、必要に応じてユーザーにその状態を伝達する減酸素ユニット1を提供する。
【0056】
図9に、実施形態の制御アルゴリズムのチャート図を示す。
ステップS01からステップS04までは第1の実施形態と同様である。ステップS05において、得られた電流変化速度とメモリ20から読み出した電流変化速度下限値を比較し、電流変化速度が電流変化速度下限値以上の場合、ステップS12に移行することが第1の実施形態と異なる。
ステップs12において、得られた電流変化速度と電流変化速度下限値(dI/dtMIN)を比較する。電流変化速度が電流変化速度下限値(dI/dtMIN)より小さければ、減酸素庫12の開閉扉13が開閉状態になっているあるいは減酸素素子が劣化するなどして異常であると判断し、ユーザーにこれを表示などの伝達を行なう(ステップ12)。電流変化速度が電流変化速度下限値(dI/dtMIN)より大きければ、減酸素ユニット1の動作を継続する(ステップS05→ステップS01)。
【0057】
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態では、電流計測手段8で計測した電流変化速度の値に基づいて、減酸素庫12内の空隙体積にかかる状態を判断し、必要に応じてユーザーにその状態を伝達する減酸素ユニット1を提供する。
【0058】
図10に、実施形態の制御アルゴリズムのチャート図を示す。
ステップS01からステップS04までは第1の実施形態と同様である。ステップS13において、得られた電流変化速度とメモリ20から読み出した電流変化速度下限値を比較し、電流変化速度が電流変化速度下限値以上の場合、ステップS14に移行することが第1の実施形態と異なる。
【0059】
ステップS13において、得られた電流変化速度と電流変化速度上限値(dI/dtMAX)を比較する。電流変化速度が電流変化速度上限値(dI/dtMAX)より大きければ、減酸素庫12内が過剰充填状態であると判断し、ユーザーにこれを表示し又は減酸素ユニット1の動作を停止する(ステップS14)。電流変化速度が電流変化速度上限値(dI/dtMAX)より小さければ、減酸素ユニット1の動作を継続する(ステップS13→ステップS01)。減酸素庫12内に収納物の充填を増やした場合、減酸素庫内の酸素量(容積)が減少するため、減酸素速度は増加する。よって、電流変化速度の上限値を予め制御部16のメモリ20に記憶しておき、その上限値と比較することで、減酸素12庫内への収納物が過剰に積載されたかどうかの判断が可能となる。減酸素庫12内へ収納物を過剰に積載することは、減酸素庫12の冷却能力低下につながるため、それを防止するために、ユーザーに過剰充填状態であることを伝えることも可能である。
【0060】
なお、この場合、電流変化速度から見積もった空隙容積を第1の実施形態のテーブルに反映させることも可能である。たとえば、電流変化速度の値がテーブルに記録された上限値よりも大きい場合、過剰積載状態と判断する。
【0061】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
1…減酸素ユニット
2…アノード
3…カソード
4…電解質膜
5…減酸素素子
6…アノード集電体
7…カソード集電体
8…電流計測手段
9…電圧印加手段
10…アノードガスケット
11…カソードガスケット
12…減酸素庫
13…開閉扉
14…水供給手段
15…カソード開口部
16…制御部
17…電流計測手段コントローラ
18…電圧印加手段コントローラ
19…演算部
20…記憶装置(メモリ)
21…表示部
22…操作部
23…野菜室
24…冷蔵庫

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードに挟持された電解質膜と、を有する減酸素素子と、
前記減酸素素子へ電圧を印加する電圧印加手段と、
前記減酸素素子の電流を計測する電流計測手段と、
前記電流計測手段で得られた第一の電流値に対し、予め定められた時間経過後に前記電流計測手段で得られた第二の電流値とから算出される電流変化速度、に基づき、前記電圧印加手段が減酸素素子へ印加する電圧量を制御する制御部と、
を有することを特徴とする減酸素ユニット。
【請求項2】
請求項1記載の減酸素ユニットにおいて、前記制御部は、前記電流変化速度が予め定められた値よりも小さい場合、前記電圧印加手段の前記減酸素素子への電圧の印加を停止させることを特徴とする減酸素ユニット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の減酸素ユニットにおいて、前記制御部は、前記電流変化速度が予め定められた値よりも小さい場合、前記電圧印加手段の前記減酸素素子への印加電圧量を増加させることを特徴とする減酸素ユニット。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の減酸素ユニットにおいて、前記制御部は、前記電圧量の制御に対応して、ユーザーに知らせる報知手段を有することを特徴とする減酸素ユニット。
【請求項5】
アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードに挟持された電解質膜と、を有する減酸素素子と、
前記減酸素素子へ電圧を印加する電圧印加手段と、
前記減酸素素子の電流を計測する電流計測手段と、
前記電流計測手段で得られた第一の電流値と、予め定められた時間経過後に前記電流計測手段で得られた第二の電流値と、前記予め定められた時間とから算出される電流変化速度、に基づき前記電圧印加手段が減酸素素子へ印加する電圧量を制御することを特徴とする減酸素制御システム。
【請求項6】
請求項5記載の減酸素制御システムは、さらに前記電流計測手段で得られた電流値に応じて前記電圧印加手段に与える電圧値を制御することを特徴とする。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の減酸素ユニット又は減酸素制御システムを有することを特徴とする冷蔵庫。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−66453(P2013−66453A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209323(P2011−209323)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(503376518)東芝ホームアプライアンス株式会社 (2,436)
【Fターム(参考)】