説明

渦巻形ガスケット加工装置

【課題】渦巻形ガスケットの加工効率を向上することができる渦巻形ガスケット加工装置を提供する。
【解決手段】駆動ロール52の外周面には、他方の環状部材12の径方向外側端面を設置可能な設置用溝76と、一方の環状部材14の径方向外側端面を所定形状に形成する加工用溝78と、が軸方向に沿って並んで形成され、従動ロール54の外周面には、一方の環状部材14の径方向内側端面を設置可能な設置用溝80と、他方の環状部材12の径方向内側端面を所定形状に形成する加工用溝82と、が軸方向に沿って並んで形成され、駆動ロール52と従動ロール54とが、一方の環状部材14及び他方の環状部材12に所定の挟持力を与えて、一方の環状部材14の径方向外側端面及び他方の環状部材12の径方向内側端面を所定形状に加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦巻形ガスケットを加工する渦巻形ガスケット加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、外輪及び内輪付きの渦巻形ガスケットが知られている。外輪及び内輪付きの渦巻形ガスケット(以下、適宜、「ガスケット」と称する)は、主として、径方向外側に配置された外輪と、外輪に対して径方向内側に配置された内輪と、外輪と内輪との間に配置され、渦巻状に巻回されたフープ及びフィラーと、で構成されている。外輪とは、外周がフランジのボルトに内接しガスケットのセンタリングを容易にする機能と、ガスケットの補強と締付量を規制する機能などを有している。内輪は、締付時にガスケットの内径側への変形を防止することで締付力を保持する機能を有している。また、内輪は、管内径とガスケットとの間隙を少なくし、流体のかたまりやフランジ間隙部のエローション(侵食)を防止する。
【0003】
ここで、従来から行われているガスケットの内輪の加工工程を説明する。先ず、内輪を旋盤に固定治具(あるいはチャック)によって固定する。このとき、内輪の径方向外側端面には、固定治具が位置している。この状態で、内輪の径方向内側端面をバイト等により切削する。これにより、内輪の芯出しが可能になる。次に、固定治具を内輪の径方向内側端面側に移動させる。そして、内輪の径方向外側端面をバイト等により切削する。これにより、内輪の径方向外側端面に、山状部(V突起)が形成される。その後、内輪の内径側端面と外径側端面のバリをサンダーやバリ取り機を用いて除去する。なお、外輪の加工工程の詳細については省略するが、固定治具、バイト、サンダーやバリ取り機などを用いて加工され、外輪の径方向内側端面に溝状部(V溝)が形成される。
【0004】
ところが、渦巻形ガスケットの外輪又は内輪に形成されるV突起又はV溝は、上記した切削加工による加工工程を経て形成されるものであるため、切削屑分だけ材料歩留まりが悪くなっていた。また、切削工程で発生するバリを除去するバリ除去工程が必要となり、さらに、外輪及び内輪の口径の寸法精度を出すための工程が別に必要となり、全体としての工程数が多くなっていた。
【0005】
上記問題点を考慮し、ロール転造技術を用いて渦巻形ガスケットの外輪及び内輪をそれぞれ加工するための渦巻形ガスケット加工装置が知られている(特許文献3参照)。この渦巻形ガスケット加工装置によれば、歩留まりが良く、加工工程が簡便で、安全性の高い渦巻形ガスケットの加工方法を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−241772号公開公報
【特許文献2】特開平03−151132号公開公報
【特許文献3】特許第3349128号特許公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載の渦巻形ガスケット加工装置では、ロール転造技術を用いて渦巻形ガスケットの外輪及び内輪のように、渦巻形ガスケットを構成する環状部材(リング状部材)が複数存在する場合に、複数の環状部材のうち、環状部材のひとつずつ加工するものであるため、加工工程が多くなるともに、加工時間が増大し、加工効率が低下していた問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題点を解消するため、渦巻形ガスケットの加工効率を向上することができる渦巻形ガスケット加工装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、渦巻形ガスケットを構成する複数の環状部材を加工するための渦巻形ガスケット加工装置であって、
一方の環状部材の径方向外側端面を所定の形状に加工する駆動ロールと、前記駆動ロールとの離間距離が調整可能となるように設けられ他方の環状部材の径方向内側端面を所定の形状に加工する従動ロールと、を有し、
前記駆動ロールは、回転力が付与されて回転するように設けられ、
前記駆動ロールの外周面には、前記一方の環状部材の径方向外側端面を所定形状に形成する加工用溝と、前記他方の環状部材の径方向外側端面を設置可能な設置用溝と、が軸方向に沿って並んで形成され、
前記従動ロールは、回転可能に設けられ、
前記従動ロールの外周面には、前記一方の環状部材の径方向内側端面を設置可能な設置用溝と、前記他方の環状部材の径方向内側端面を所定形状に形成する加工用溝と、が軸方向に沿って並んで形成され、
前記駆動ロールと前記従動ロールとが、前記一方の環状部材及び前記他方の環状部材に所定の挟持力を与えて、前記一方の環状部材の前記径方向外側端面及び前記他方の環状部材の前記径方向内側端面を所定形状に加工することを特徴とする。
【0010】
前記駆動ロールによる前記一方の環状部材の前記径方向外側端面の加工と、前記従動ロールによる前記他方の環状部材の前記径方向内側端面の加工と、が同時に実行されることを特徴とする。
【0011】
さらに、前記渦巻形ガスケットは、フープ及びフィラーを有し、前記一方の環状部材は、前記フープ及びフィラーの径方向内側に配置された内輪であり、前記他方の環状部材は、前記フープ及びフィラーの径方向外側に配置された外輪であることが好ましい。
【0012】
上記発明によれば、渦巻形ガスケット加工装置は、一方の環状部材(例えば、内輪)の径方向外側端面を所定の形状に加工する駆動ロールと、駆動ロールとの離間距離が調整可能となるように設けられ他方の環状部材(例えば、外輪)の径方向内側端面を所定の形状に加工する従動ロールと、を有している。ここで、駆動ロールは、内輪の径方向内側端面が回転軸の軸回りに回転する従動ロールの外周面に嵌められた状態で、回転軸の軸回りに回転する駆動ロールの外周面と回転軸の軸回りに回転する従動ロールの外周面とから内輪の径方向外側端面に対して所定の挟持力を与えて内輪の径方向外側端面を所定の形状に加工する。従動ロールは、外輪の径方向内側端面が回転軸の軸回りに回転する従動ロールの外周面に嵌められた状態で、回転軸の軸回りに回転する駆動ロールの外周面と回転軸の軸回りに回転する従動ロールの外周面とから外輪の径方向内側端面に対して所定の挟持力を与えて外輪の径方向内側端面を所定の形状に加工する。このように、渦巻形ガスケットの加工方法において、駆動ロール及び従動ロールによるロール転造技術を用いて、外輪及び内輪を加工することにより、歩留まりが良く、加工工程が簡易でかつ加工の安全性が高くなる。また、安価で外輪及び内輪の寸法精度が優れた渦巻形ガスケットを得ることができる。
【0013】
また、駆動ロールによる一方の環状部材の径方向外側端面の加工と、従動ロールによる他方の環状部材の径方向内側端面の加工と、が同時に実行されることにより、渦巻形ガスケットの加工時間及び加工工程を削減でき、加工効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ロール転造技術を用いて、歩留まりが良く、加工工程が簡便で、安全性の高い、渦巻形ガスケットの外輪及び内輪の加工装置を提供できる。さらに、渦巻形ガスケットを構成する環状部材(リング状部材)が複数存在する場合に、複数の環状部材を同時に加工することができ、加工時間の短縮と加工工程の削減を図ることができる。この結果、渦巻形ガスケットの加工効率を格段に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の渦巻形ガスケットの説明図である。
【図2】本発明の渦巻形ガスケットを構成する外輪の加工前と加工後の断面図である。
【図3】本発明の渦巻形ガスケットを構成する内輪の加工前と加工後の断面図である。
【図4】本発明の渦巻形ガスケット加工装置の概略構成図である。
【図5】本発明の渦巻形ガスケット加工装置を構成する駆動ロールの構成図である。
【図6】本発明の渦巻形ガスケット加工装置を構成する従動ロールの構成図である。
【図7】本発明の渦巻形ガスケット加工装置によって外輪(内輪)を加工するとき工程を示した概念図である。
【図8】本発明の渦巻形ガスケット加工装置によって外輪を加工するときの説明図である。
【図9】本発明の渦巻形ガスケット加工装置によって内輪を加工するときの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の第1実施形態に係る渦巻形ガスケット、渦巻形ガスケットの加工方法及び渦巻形ガスケット加工装置について、図面を参照して説明する。
【0017】
図1に示すように、渦巻形ガスケット10は、外輪12と、外輪12に対して径方向内側に配置される内輪14と、外輪12と内輪14との間に配置されたフープ(金属)16及びフィラー(無機繊維)18と、を有している。フープ(金属)16及びフィラー(無機繊維)18は、渦巻状に巻回され、径方向外側に向かって突出すねように形成されており、径方向に沿って交互に重ね合わされるようにして配置されている。
【0018】
図2に示すように、外輪12の径方向内側端面20には、溝状部(V溝)22が形成されている。この溝状部22は、最も径方向外側に位置するフープ(金属)16及びフィラー(無機繊維)18の径方向外側の突出先端部が収容される部位である。
【0019】
図3に示すように、内輪14の径方向外側端面24には、山状部(V突起)26が形成されている。内輪14の径方向外側端面24の山状部(V突起)26は、最も径方向内側に位置するフープ(金属)16及びフィラー(無機繊維)18の凹部に収容される。
【0020】
ここで、渦巻形ガスケット加工装置について説明する。
【0021】
図4に示すように、渦巻形ガスケット加工装置50は、上記した渦巻形ガスケット10の外輪12と内輪14を加工する装置である。渦巻形ガスケット加工装置50は、主として、内輪14の径方向外側端面24を所定の形状に加工する駆動ロール52と、駆動ロール52との離間距離が調整可能となるように設けられ外輪12の径方向内側端面20を所定の形状に加工する従動ロール54と、従動ロール54を移動(昇降)させ駆動ロール52と従動ロール54との離間距離を調整するピストン58を備えたシリンダ装置56(中央側シリンダ装置57)と、外輪12又は内輪14の外周面に接触して外輪12又は内輪14を位置決めするピストン64を備えたシリンダ装置62(上方側シリンダ装置66及び下方側シリンダ装置68)と、を有している
【0022】
駆動ロール52は、モータなどの駆動源により回転力が付与されて回転軸72の軸回りに回転するように設けられている。図5に示すように、駆動ロール52の外周面には、内輪14の径方向外側端面24に山状部(V突起)26を形成する加工用溝78と、外輪12の径方向外側端面28を設置可能な設置用溝76と、が形成されている。駆動ロール52の設置用溝76と加工用溝78は、駆動ロール52の軸方向に沿って並んで形成されている。本実施形態では、駆動ロール52の設置用溝76は、図5から見て四角形状に形成されており、駆動ロール52の径方向に対して直交して延びる底面部76Aと、駆動ロール52の径方向に沿って平行して伸びる一対の垂直面76Bと、で構成されている。また、駆動ロール52の加工用溝78は、駆動ロール52の径方向を最深部側に進むに従い相互に近づいていく一対の傾斜面78Aと、一対の傾斜面78Aに接続され駆動ロール52の径方向に対して直交して延びる一対の垂直面78Bと、で構成されている。加工用溝78は、最深部において一対の傾斜面78Aの端部同士が交わっており、図5から見て鋭角に尖った最深部を有している。なお、図2及び図5に示すように、駆動ロール52の設置用溝76の形状は、外輪12の径方向外側端面28の輪郭と一致する。また、図3及び図5に示すように、駆動ロール52の加工用溝78の形状は、内輪14の径方向外側端面24の山状部(V突起)26の輪郭と一致する。
【0023】
従動ロール54は、回転軸74の軸回りに回転可能に設けられている。図6に示すように、従動ロール54の外周面には、内輪14の径方向内側端面30を設置可能な設置用溝80と、外輪12の径方向内側端面20に溝状部(V溝)22を形成する加工用溝82と、が形成されている。従動ロール54の設置用溝80と加工用溝82は、従動ロール54の軸方向に沿って並んで形成されている。従動ロール54の設置用溝80は、図6から見て四角形状に形成されており、従動ロール54の径方向に対して直交して延びる底面部80Aと、径方向に沿って平行して伸びる一対の垂直面80Bと、で構成されている。また、従動ロール54の加工用溝82は、従動ロール54の径方向外側に突出した山部84(溝の底部)と、径方向に対して直交して延びる一対の垂直面82Bと、で構成されている。加工用溝82の山部84は、底部の中央部において一対の傾斜面82Aの端部同士が交わるようにして形成されている。なお、山部84を構成する一対の傾斜面82Aは、従動ロール54の径方向外側に進むに従って相互に近づくように形成されている。なお、図3及び図6に示すように、従動ロール54の設置用溝80の形状は、内輪14の径方向内側端面30の輪郭と一致する。また、図2及び図6に示すように、従動ロール54の加工用溝82の形状は、外輪12の径方向内側端面20の溝状部(V溝)22の形状と一致する。
【0024】
図4に示すように、中央側シリンダ装置57は、従動ロール54を上下移動(昇降)させて駆動ロール52と従動ロール54との離間距離を調整するものである。油圧式で駆動するピストン58がシリンダ本体59から伸びることにより駆動ロール52と従動ロール54との離間距離が小さくなり、ピストン58がシリンダ本体59に収容されることにより駆動ロール52と従動ロール54との離間距離が大きくなる。
【0025】
シリンダ装置62は、外輪12又は内輪14の外周面に接触して外輪12又は内輪14を位置決めするものであり、外輪12又は内輪14の外周面に沿って所定の間隔をあけて複数(本実施形態では4つ)設けられている。ピストン64には、外輪12又は内輪14の外周面に接触するローラ65が設けられている。ローラ65は、軸回りに回転可能に設けられており、外輪12又は内輪14の外周面に接触した状態で回転することにより、外輪12又は内輪14の位置決めを行い、また、外輪12又は内輪14の回転動作に支障が生じないように設計されている。油圧式で駆動するピストン64がシリンダ本体67から伸びたり、あるいはシリンダ本体67に収容されたりすることにより、駆動ロール52と従動ロール54との離間距離にかかわらず、外輪12又は内輪14を位置決めすることができる。なお、全てのシリンダ装置62のうち、2つのシリンダ装置62は、中央側シリンダ装置57よりも上方側(駆動ロール52の近傍)に位置した上方側シリンダ装置66であり、その他の2つのシリンダ装置62は、中央側シリンダ装置57よりも下方側(駆動ロール側と反対側)に位置した下方側シリンダ装置68である。
【0026】
また、外輪12又は内輪14の加工時には、外輪12又は内輪14の外周面に、圧縮空気や油が供給される。圧縮空気や油が外輪12又は内輪14の外周面に供給されることにより、外輪12又は内輪14の外周面に付着した異物を除去することができ、また、外輪12又は内輪14の外周面と駆動ロール52の外周面との接触によって発生する摩擦力を低減することができる。なお、外輪2又は内輪14の外周面の近傍にCCDセンサを配置して、外輪12又は内輪14の外周面の状況を把握しながら、外輪12又は内輪14の外周面に対する圧縮空気や油の供給タイミング又は供給量を調整してもよい。
【0027】
次に、渦巻形ガスケット加工装置50を用いた渦巻形ガスケットの外輪12及び内輪14の加工方法について説明する。なお、外輪12及び内輪14を加工する前段階の処理として、外輪12及び内輪14は、所定のリング形状に打抜かれ形成したり、所定の寸法で切断されたものをリング形状に曲げられ、その端部同士を溶接して接続されて形成したりする。このようにして、外輪12及び内輪14は、リング状に形成されている。
【0028】
先ず、外輪12の加工工程について説明する。
【0029】
(外輪加工工程)
図7及び図8に示すように、駆動ロール52との離間距離が大きく開けられた従動ロール54の外周面の一部に、外輪12の径方向内側端面20が設置される。このとき、外輪12の径方向内側端面20(図2参照)は、従動ロール54の外周面に形成された加工用溝82に配置される。換言すれば、外輪12の径方向内側端面20は、従動ロール54の外周面に形成された加工用溝82に嵌め込まれる。
【0030】
次に、図4に示すように、油圧力により中央側シリンダ装置57のピストン58がシリンダ本体59から伸びて従動ロール54が押され、従動ロール54が駆動ロール52側に移動する。これにより、従動ロール54と駆動ロール52との離間距離が小さくなり、外輪12の外周面(径方向外側端面28)が従動ロール54と駆動ロール52とによって挟まれた状態になる。
【0031】
次に、図4に示すように、外輪の外周面(径方向外側端面)に油が供給される。油が供給されるポイントは、駆動ロール52に対して回転方向上流側の部位が好ましい。これにより、駆動ロール52が外輪12の径方向外側端面28と油を介して接触するため、駆動ロール52の外周面と外輪12の径方向外側端面28との間に発生する摩擦力を低減することができ、外輪12の径方向外側端面28が磨耗等して品質劣化することを防止できる。また、上方側シリンダ装置66及び下方側シリンダ装置68のピストン64が伸びてローラ65が外輪12の外周面(径方向外側端面28)に接触する。これにより、外輪12が所定の位置に位置決めされる。
【0032】
次に、駆動ロール52を回転する。駆動ロール52が回転すると、外輪12は駆動力を受けて回転する。また、外輪12の回転と同時に従動ロール54も回転する。ここで、図5に示すように、外輪12の径方向外側端面28は、駆動ロール52の設置用溝76と噛み合っている。一方、図6に示すように、外輪12の径方向内側端面20は、従動ロール54の加工用溝82に嵌められているため、外輪12の径方向内側端面20が従動ロール54と駆動ロール52との間に所定の挟持力で挟まれた状態(所定の圧力を受けた状態)で外輪12が回転することにより、外輪12の径方向内側端面20が所定の形状に加工されていく。具体的には、図8に示すように、外輪12の径方向内側端面20は、所定の挟持力(圧力)と回転力を受けて、従動ロール54の加工用溝82の底部にある山部84が外輪12の径方向内側端面20にくい込んでいき、外輪12の径方向内側端面20が潰されていく(外輪12の径方向内側端面20が従動ロール54の加工用溝82の内部に隙間無く埋まる)。この結果、外輪12の径方向内側端面20に、従動ロール54の加工用溝82の山部84の輪郭に合致した形状の溝状部(V溝)22(図2参照)が形成される。このようにして、ロール転造技術を利用して、外輪12の径方向内側端面20に、溝状部(V溝)22を形成することができる。
【0033】
次に、上方側シリンダ装置66及び下方側シリンダ装置68のピストン64がシリンダ本体67に収容されて、ローラ65が外輪12の外周面(径方向外側端面28)から離間する。そして、下方側シリンダ装置68のピストン64がシリンダ本体67に収容されて、ローラ65が外輪12の外周面(径方向外側端面28)から離間する。さらに、中央側シリンダ装置57のピストン58がシリンダ本体59に収容されて、従動ロール54がピストン58と共に下降する。最後に、径方向内側端面20に溝状部(V溝)22が形成された外輪12を従動ロール54から取り外して加工工程が完了する。
【0034】
(内輪加工工程)
内輪14の加工工程について説明する。なお、加工の原理(加工工程)は、外輪の場合と同じであるため、外輪加工工程と重複する工程の説明は省略する。
【0035】
図7に示すように、駆動ロール52との離間距離が大きく開けられた従動ロール54の外周面の一部に、内輪14の径方向内側端面30が設置される。このとき、内輪14の径方向内側端面30は、従動ロール54の外周面に形成された設置用溝80に配置される(図6参照)。換言すれば、内輪14の径方向内側端面30は、従動ロール54の外周面に形成された設置用溝80に嵌め込まれる。
【0036】
次に、図4に示すように、油圧力により中央側シリンダ装置57のピストン58がシリンダ本体59から伸びて従動ロール54が押され、従動ロール54が駆動ロール52側に移動する。これにより、従動ロール54と駆動ロール52との離間距離が小さくなり、内輪14の外周面(径方向内側端面30)が従動ロール54と駆動ロール52とによって挟まれた状態になる。
【0037】
加工時には、駆動ロール52が回転する。駆動ロール52が回転すると、内輪14は駆動力を受けて回転する。また、内輪14の回転と同時に従動ロール54も回転する。ここで、図6に示すように、内輪14の径方向内側端面30は、従動ロール54の設置用溝80と噛み合っている。一方、図5に示すように、内輪14の径方向外側端面24は、駆動ロール52の加工用溝78に嵌められているため、内輪14の径方向外側端面24が従動ロール54と駆動ロール52との間に所定の挟持力で挟まれた状態(所定の圧力を受けた状態)で内輪14が回転することにより、内輪14の径方向外側端面24が所定の形状に加工されていく。具体的には、図9に示すように、内輪14の径方向外側端面24は、所定の挟持力(圧力)と回転力を受けて、駆動ロール52の加工用溝78の内部にくい込んでいき、内輪14の径方向外側端面24が潰されていく(内輪14の径方向外側端面24が駆動ロール52の加工用溝78の内部に隙間無く埋まる)。この結果、内輪14の径方向外側端面24に、駆動ロール52の加工用溝78の形状に合致した輪郭を有する山状部(V突起)26(図3参照)が形成される。このようにして、ロール転造技術を利用して、内輪14の径方向外側端面24に、山状部(V突起)26を形成することができる。
【0038】
なお、他の加工工程は、外輪12の加工工程の場合と同様であるため、説明を省略する。
【0039】
以上のように、ロール転造技術を利用した外輪12の加工工程及び内輪14の加工工程を経て、外輪12の径方向内側端面20に溝状部(V溝)22を形成し、かつ、内輪14の径方向外側端面24に山状部(V突起)26を形成することができる。
【0040】
特に、駆動ロール52の外周面に形成された設置用溝76と従動ロール54の外周面に形成された加工用溝82との間に外輪12をセットし、駆動ロール52の外周面に形成された加工用溝78と従動ロール54の外周面に形成された設置用溝80との間に内輪14をセットした状態で、駆動ロール52を回転駆動することにより、内輪加工工程と外輪加工工程とを同時に実行することが可能になる。これにより、図1のように渦巻形ガスケットを構成する環状部材(リング状部材)が複数存在する場合に、複数の環状部材(内輪14及び外輪12)を同時に加工することができ、加工時間の短縮と加工工程の削減を図ることができる。この結果、渦巻形ガスケット10の加工効率を格段に高めることができる。
【0041】
ロール転造技術を利用した外輪12の加工工程及び内輪14の加工工程を経た渦巻形ガスケット10によれば、歩留まりの向上により、材料費を低減することができる。この結果、廃棄材料の低減を図ることができる。また、加工工程が簡易になり、外輪12の径方向内側端面20への溝状部(V溝)22の形成と、内輪14の径方向外側端面24への山状部(V突起)26の形成と、芯出しを同時に行うことができる。また、安価で外輪12及び内輪14の寸法精度が優れた渦巻形ガスケット10を得ることができる。さらに、外輪12(内輪14)の幅が異なる場合でも、従動ロール54の移動量を調整することにより、本発明の渦巻形ガスケット加工装置50によって外輪12及び内輪14の加工を、本装置で実現することができる。
【符号の説明】
【0042】
10 渦巻形ガスケット
12 外輪(他方の環状部材)
14 内輪(一方の環状部材)
16 フープ
18 フィラー
50 渦巻形ガスケット加工装置
52 駆動ロール
54 従動ロール
76 設置用溝(駆動ロール側)
78 加工用溝(駆動ロール側)
80 設置用溝(従動ロール側)
82 加工用溝(従動ロール側)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
渦巻形ガスケットを構成する複数の環状部材を加工するための渦巻形ガスケット加工装置であって、
一方の環状部材の径方向外側端面を所定の形状に加工する駆動ロールと、前記駆動ロールとの離間距離が調整可能となるように設けられ他方の環状部材の径方向内側端面を所定の形状に加工する従動ロールと、を有し、
前記駆動ロールは、回転力が付与されて回転するように設けられ、
前記駆動ロールの外周面には、前記一方の環状部材の径方向外側端面を所定形状に形成する加工用溝と、前記他方の環状部材の径方向外側端面を設置可能な設置用溝と、が軸方向に沿って並んで形成され、
前記従動ロールは、回転可能に設けられ、
前記従動ロールの外周面には、前記一方の環状部材の径方向内側端面を設置可能な設置用溝と、前記他方の環状部材の径方向内側端面を所定形状に形成する加工用溝と、が軸方向に沿って並んで形成され、
前記駆動ロールと前記従動ロールとが、前記一方の環状部材及び前記他方の環状部材に所定の挟持力を与えて、前記一方の環状部材の前記径方向外側端面及び前記他方の環状部材の前記径方向内側端面を所定形状に加工することを特徴とする渦巻形ガスケット加工装置。
【請求項2】
前記駆動ロールによる前記一方の環状部材の前記径方向外側端面の加工と、前記従動ロールによる前記他方の環状部材の前記径方向内側端面の加工と、が同時に実行されることを特徴とする請求項1に記載の渦巻形ガスケット加工装置。
【請求項3】
前記渦巻形ガスケットは、フープ及びフィラーを有し、
前記一方の環状部材は、前記フープ及びフィラーの径方向内側に配置された内輪であり、
前記他方の環状部材は、前記フープ及びフィラーの径方向外側に配置された外輪であることを特徴とする請求項1又は2に記載の渦巻形ガスケット加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−202785(P2011−202785A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73110(P2010−73110)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000229564)日本バルカー工業株式会社 (145)
【Fターム(参考)】