説明

渦流量計及びガス種自動判別方法

【課題】流路内を流通する被測定ガスの種類を自動的に判別することができる渦流量計を提供する。
【解決手段】ガスが流通する流路内に生じた渦により交番の流れが生成されるバイパス流路4、ガスの圧力を検出する圧力センサ39、バイパス流路4内に配置されるヒータ14、ガスの温度を検出する周囲温度センサ17で検出された温度よりもヒータ14の温度が一定温度高くなるようにヒータ14を発熱させる駆動回路5、ヒータ14に流れる電流値を検出する電流センサ6、電流値とガスの質量流量との相関関係情報をガス種毎に記憶するメモリ7、交番の流れの周波数と周囲温度センサ17及び圧力センサ39で検出された情報とに基づいてガスの質量流量を算出する質量流量算出部81、算出した質量流量と検出した電流値とメモリ7に記憶されている相関関係情報とに基づいてガス種を判別するガス種判別部82を備える渦流量計1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の流路内を流通するガス種を自動判別する機能を備えた渦流量計及び流路内を流通するガス種を自動判別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガスが流通する所定の流路が形成されたガス管に配置した渦発生体により渦列(カルマン渦)を発生させてガス振動を生成し、このガス振動の周波数に基づいて被測定ガスの流量を測定(算出)する渦流量計が提案され、実用化されている。また、現在においては、渦発生体の下流側に、被測定ガスの流通方向と直交するバイパス流路を形成し、このバイパス流路内に熱式流れセンサを配置し、この熱式流れセンサによりガス振動の周波数を検出して被測定ガスの体積流量を算出する流量計が提案され、実用化されている。さらに、この体積流量を質量流量に変換する渦流量計が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、近年においては、ガスが流れる流路内に配置された渦発生体により発生したカルマン渦の渦発生周波数成分を、渦発生体に形成されたバイパス流路内に配置したフローセンサで検出する検出器と、このフローセンサからの検出出力に基づき渦発生周波数を算出し、その渦発生周波数及びバイパス流路内の流体圧力に基づき質量流量を算出する変換器と、からなるカルマン渦流量計も紹介されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
ここで、熱式流れセンサを用いたカルマン渦流量計の動作原理について説明する。流れの方向に対して渦発生体を垂直に配置した場合、渦発生体の両側に渦が交互に発生する。この渦(カルマン渦)の周波数fは次式で表される。次式において、Stはストローハル数と呼ばれるもので渦発生体の形状によって変わる無次元数であり、vは流速であり、Dは渦発生体の幅である。
f=St ×v/D
【0005】
上式に登場するストローハル数は、レイノルズ数の関数であってガス組成によらないことが実験的に確認されており、また、レイノルズ数が所定値を超えた広い範囲でほぼ一定となり、レイノルズ数の関数ではなく固定値とすることができる。これに対し、レイノルズ数は動粘度係数の関数であり、ガス組成により異なる物理量である。従って、ストローハル数が一定となる流量は、ガス組成によって異なることとなる。このため、被測定ガスの中でストローハル数が一定となる流量が最も大きいものを選択すれば、ストローハル数は、その流量域において、ガス組成によらず(かつレイノルズ数の関数ではなく)固定値とすることができるので、上式を用いて被測定ガスの流速(ひいては流量)を算出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−93349号公報
【特許文献2】特開2004−117158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、熱式流れセンサは、高感度をその特長としており、低流量域で測定できる点で優れた特性を有していると言える。そこで、従来の熱式流れセンサを有する渦流量計においては、ストローハル数を固定せず、被測定ガスの質量流量(ガス種を固定すればレイノズル数と質量流量とは一対一対応となる)と、ストローハル数相当の比例定数と、の相関関係を直線で近似したマップをガス種毎に作成し、このマップを用いて、被測定ガスの質量流量をガス種毎に補正する技術が提案されている。かかる技術においては、渦流量計で測定した質量流量と、設定したガス種のマップと、に基づいてそのガス種特有の比例定数(補正係数)を決定し、この比例定数を用いて、測定した質量流量を補正することにより、低流量域における質量流量の測定精度を高めることが可能となる。
【0008】
このような従来の流量補正技術においては、被測定ガスの種類に合わせて使用者が渦流量計の形番(マップ)を選択していた。しかし、操作者が形番の選択を間違えたり、測定対象となるガスとは異なるガスが流通したりする場合には、流量の測定精度が低下する虞がある。このため、被測定ガスの種類を自動的に判別するための技術が待望されていた。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、流路内を流通する被測定ガスの種類を自動的に判別することができる渦流量計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するため、本発明に係る渦流量計は、被測定ガスが流通する流路内に配置される渦発生体と、被測定ガスの流通方向に対して直交する方向に延在するように形成され渦発生体で発生する渦により内部に交番の流れが生成されるバイパス流路と、被測定ガスの温度を検出する周囲温度センサと、被測定ガスの圧力を検出する圧力センサと、バイパス流路内に配置される発熱抵抗体と、周囲温度センサで検出された被測定ガスの温度よりも発熱抵抗体の温度が一定温度高くなるように発熱抵抗体に電流を与えて発熱させる駆動回路と、発熱抵抗体に流れる電流値を検出する電流センサと、発熱抵抗体に流れる電流値と被測定ガスの質量流量との相関関係情報をガス種毎に記憶する相関関係情報記憶手段と、バイパス流路内に生成される交番の流れの周波数と周囲温度センサ及び圧力センサの少なくとも一方で検出された情報とに基づいて被測定ガスの質量流量を算出する質量流量算出手段と、質量流量算出手段で算出された質量流量と電流センサで検出された電流値と相関関係情報記憶手段に記憶されている相関関係情報とに基づいて被測定ガスの種類を判別するガス種判別手段と、を備えるものである。
【0011】
かかる構成を採用すると、被測定ガスが流通する流路内で渦発生体により渦が発生し、その渦によりバイパス流路内に交番の流れが生成される環境下において、この交番の流れの周波数や被測定ガスの温度・圧力に係る情報に基づいて、被測定ガスの質量流量を質量流量算出手段で算出することができる。また、バイパス流路内の発熱抵抗体を周囲よりも一定温度高くするために必要な電流値(以下、「ヒータ電流値」という)は、被測定ガスの質量流量と特定の相関関係を有しており、この相関関係はガス種毎に異なることが実験で確認されている。このようなガス種毎の相関関係(ヒータ電流値と被測定ガスの質量流量との相関関係)を相関関係情報記憶手段に予め記録しておき、質量流量算出手段で算出された質量流量及び電流センサで検出されたヒータ電流値からなる情報(検出相関関係情報)と、相関関係情報記憶手段に記憶されているガス種毎の相関関係情報と、を照らし合わせることにより、流路内を流通する被測定ガスの種類を自動的に判別することができる。但し、質量流量算出手段で算出された質量流量は、ガス種によらずストローハル数が一定となる流量域で算出されたものとする。
【0012】
また、本発明に係る渦流量計は、ガスの種類に応じて生じるセンサ出力特性の変化を補正するための補正係数をガス種毎に記憶する補正係数記憶手段と、補正係数記憶手段に記憶されている複数の補正係数とガス種判別手段で判別されたガス種とに基づいて当該ガス種に特有の補正係数を決定する補正係数決定手段と、補正係数決定手段で決定された補正係数に基づいて質量流量算出手段で算出された質量流量を補正する質量流量補正手段と、をさらに備えることができる。
【0013】
かかる構成を採用すると、ガス種判別手段によって自動的に判別されたガス種に特有の補正係数を、補正係数記憶手段に記憶されている複数の補正係数の中から自動的に選択(決定)することができる。そして、この選択された補正係数に基づいて、質量流量算出手段で算出された質量流量を補正することにより、流路内を流通するガスの質量流量を高精度で算出(測定)することができる。また、ガスの種類が変わる度に操作者が補正係数を手作業で変更する必要がなくなるため、作業性を大幅に向上させることができる。
【0014】
また、本発明に係る渦流量計は、発熱抵抗体近傍の温度変化を検出する温度センサをさらに備えることができる。
【0015】
かかる構成を採用すると、温度センサを用いて発熱抵抗体近傍の温度変化を検出することにより、バイパス流路内に生成される交番の流れの周波数に係る情報を得ることができる。すなわち、温度センサを流体振動の周波数を検知するセンサとして機能させることができるので、被測定ガスの体積流量を算出することができる。
【0016】
また、本発明に係る渦流量計は、相関関係情報記憶手段に予め記憶された特定のガスの相関関係情報(特定相関関係情報)と、質量流量算出手段で算出された質量流量及び電流センサで検出された電流値からなる相関関係情報(検出相関関係情報)と、を比較する相関関係比較手段を備えることができる。かかる場合には、特定相関関係情報と検出相関関係情報との比較結果に基づいて報知を行う報知手段をさらに備えることが好ましい。
【0017】
かかる構成を採用すると、相関関係情報記憶手段に予め記憶された特定相関関係情報(発熱抵抗体に流れる電流値と特定の被測定ガスの質量流量との相関関係情報)と、質量流量算出手段で算出された質量流量及び電流センサで検出された電流値からなる検出相関関係情報と、を比較した結果、例えば検出相関関係情報が特定相関関係情報と一致しない場合に、意図しないガス(特定のガスと異なるガス)が流路内を流通したと判断し、表示や音等により操作者に異常を報知することができる。この結果、操作者はガス異常を逸早く認識することができ、復旧作業等に迅速に着手することが可能となる。但し、質量流量算出手段で算出された質量流量は、ガス種によらずストローハル数が一定となる流量域で算出されたものとする。
【0018】
また、本発明に係るガス種自動判別方法は、流路内を流通する被測定ガスの種類を自動的に判別する方法であって、流路内に配置される渦発生体により流路内に渦を発生させる渦発生工程と、被測定ガスの流通方向に対して直交する方向に延在するように形成されたバイパス流路内に渦発生工程で発生させた渦により交番の流れを生成させる交番流れ生成工程と、被測定ガスの温度を検出する温度検出工程と、被測定ガスの圧力を検出する圧力検出工程と、温度検出工程で検出された温度よりもバイパス流路内に配置された発熱抵抗体の温度が一定温度高くなるように発熱抵抗体に電流を与えて発熱させる発熱工程と、発熱抵抗体に流れる電流値を検出する電流検出工程と、バイパス流路内に生成される交番の流れの周波数を検出する周波数検出工程と、温度検出工程で検出された温度及び圧力検出工程で検出された圧力の少なくとも一方と周波数検出工程で検出された周波数とに基づいて被測定ガスの質量流量を算出する質量流量算出工程と、を備え、さらに、発熱抵抗体に流れる電流値と被測定ガスの質量流量との相関関係情報をガス種毎に記憶する相関関係情報記憶工程と、質量流量算出工程で算出された質量流量及び電流検出工程で検出された電流値と相関関係情報記憶工程で記憶した相関関係情報とに基づいて被測定ガスの種類を判別するガス種判別工程と、を備えるものである。
【0019】
かかる方法を採用すると、質量流量算出工程で算出された質量流量と、電流検出工程で検出された電流値と、発熱抵抗体に流れる電流値と被測定ガスの質量流量との相関関係情報(ガス種毎の相関関係情報)と、を照らし合わせることにより、流路内を流通する被測定ガスの種類を自動的に判別することができる。但し、質量流量算出工程で算出された質量流量は、ガス種によらずストローハル数が一定となる流量域で算出されたものとする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、流路内を流通する被測定ガスの種類を自動的に判別することができる渦流量計を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る渦流量計の正面図である。
【図2】図1に示す渦流量計を図1に示す矢印II方向から見た側面図である。
【図3】図1に示す渦流量計の部分断面図である。
【図4】図2に示す渦流量計の部分断面図である。
【図5】図3に示す渦流量計の渦発生体の内部構造の説明図である。
【図6】図3に示すVI-VI線に沿った断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る渦流量計に搭載される熱式流れセンサの斜視図である。
【図8】図7に示すVIII-VIII線に沿った断面図である。
【図9】本発明の実施形態に係る渦流量計の機能的構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の実施形態に係る渦流量計の中央制御部の機能的構成を示すブロック図である。
【図11】本発明の実施形態に係る渦流量計のヒータ電流値と被測定ガスの質量流量との相関関係を規定するマップである。
【図12】本発明の実施形態に係る渦流量計の動作を示すフローチャートである。
【図13】本発明の実施形態に係る渦流量計を用いてガス異常診断を行う場合の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る渦流量計について説明する。各図においては、説明を判り易くするため、各部材の厚さやサイズ、拡大・縮小率等は、実際のものとは一致させずに記載した。なお、以下に記載される実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施形態に限定するものではない。
【0023】
本実施形態に係る渦流量計1は、図1、図2、図6及び図9等に示すように、被測定ガスが流通する流路2aを形成する流体管2、流路2a内に配置された渦発生体3、渦発生体3の内部に形成されたバイパス流路4、バイパス流路4内に配置された熱式流れセンサ10、熱式流れセンサ10のヒータ14(発熱抵抗体)に電流を与えて発熱させる駆動回路5、ヒータ14に流れる電流値を検出する電流センサ6(具体的には、ヒータ14と直列接続された固定抵抗器の両端電圧に基づき電流値を算出する構成)、各種情報や制御プログラムを記録するメモリ7、各種物理量の演算や駆動回路5の制御等を行う中央制御部8、各種情報を表示する表示部9等を備えている。
【0024】
流体管2は、図1及び図2に示すように、短い円筒状の部材である。流体管2の両端には、図1に破線で示すように、被測定ガスを流通させる配管100が接続される。渦発生体3は、図2及び図3に示すように、流体管2の直径よりも長い柱状部材であり、流体管2の壁部に形成された貫通孔2bから流体管2内にその径方向に横断するように挿入されている。渦発生体3の外周部と流体管2の貫通孔2bとの間には流体管2の密閉性を保持するOリング21が配設されている。また、渦発生体3は、固定プレート22により流体管2に固定されている。
【0025】
バイパス流路4は、被測定ガスの流通方向(図1及び図6における矢印Aの方向)に対して直交する方向(図6における矢印Bの方向)に延在するように形成されており、その両端部は開口4aとなっている。バイパス流路4の内部には、渦発生体3で発生する渦列(カルマン渦)により交番の流れが生成される。渦発生体3の内部には、図3及び図5に示すように、バイパス流路4の途中から渦発生体3の上方に向けて、被測定ガスの流通方向(矢印A方向)及びバイパス流路4の延在方向(矢印B方向)に直交する方向に延在するように小径孔3aが形成されている。この小径孔3aの内部には、小径孔3aの内径よりも小さい外径を有するパイプ23が着脱自在に挿入されている。パイプ23の先端部23aには、熱式流れセンサ10が実装されるセンサアセンブリ24が固定されている。
【0026】
熱式流れセンサ10は、バイパス流路4内を流通する被測定ガスに接触するように配置された半導体ダイヤフラムを有する流れセンサである。熱式流れセンサ10は、図7及び図8に示すように、キャビティ12が設けられた基板11、基板11上にキャビティ12を覆うように配置された絶縁膜13、絶縁膜13に設けられたヒータ14、ヒータ14の両側に配置された第1の測温抵抗素子15及び第2の測温抵抗素子16、周囲温度センサ17等を有している。
【0027】
絶縁膜13のキャビティ12を覆う部分は、断熱性のダイヤフラムを構成している。周囲温度センサ17は、バイパス流路4内を流通する被測定ガスの温度を検出する。ヒータ14は、キャビティ12を覆う絶縁膜13の中心に配置されており、駆動回路5から与えられる電流により発熱する発熱抵抗体として機能する。本実施形態においては、駆動回路5が、周囲温度センサ17で測定された被測定ガスの温度よりもヒータ14の温度が一定温度高くなるようにヒータ14に電流を与えて発熱させる。
【0028】
第1の測温抵抗素子15は、ヒータ14の一方側の温度を検出するために用いられ、第2の測温抵抗素子16は、ヒータ14の他方側の温度を検出するために用いられ、いずれも温度センサとして機能する。これら第1及び第2の測温抵抗素子15、16によりヒータ14の両側の温度差を検出して、バイパス流路4内に生成される交番の流れの周波数に係る情報を得ることが可能となる。このような周波数に係る情報は、中央制御部8に入力され、被測定ガスの体積流量の算出等に使用される。
【0029】
なお、図7及び図8に示した基板11の材料としては、シリコン(Si)等が使用可能である。絶縁膜13の材料としては、酸化ケイ素(SiO2)等が使用可能である。キャビティ12は、異方性エッチング等により形成される。ヒータ14、第1の測温抵抗素子15、第2の測温抵抗素子16及び周囲温度センサ17の各材料には、白金(Pt)等が使用可能であり、リソグラフィ法等により形成可能である。
【0030】
このような熱式流れセンサ10は、図3に示すように、パイプ23の先端部23aが小径孔3aの最深部まで挿入されることにより、バイパス流路4に臨む位置に配設されることとなる。渦発生体3の小径孔3aに挿入されたパイプ23は、図3に示すように、小径孔3aの上方に形成されかつ小径孔3aより大きい内径を有する大径孔3bに挿入された固定部材25により固定されている。
【0031】
また、固定部材25の上部には、図4に示すように被測定ガスの圧力を検出する圧力センサ39が配設されている。
【0032】
固定部材25の外周面には、熱式流れセンサ10及び圧力センサ39の図示されていない信号増幅用プリント配線基板が設けられており、熱式流れセンサ10の接続線18は、パイプ23の内部空間を通ってこのプリント配線基板に接続されている。このプリント配線基板や圧力センサ39を囲む空間は、渦発生体3の外側にOリング26を介して取り付けられた円筒状のケース27により保護されている。ケース27の上方には、図1〜図4に示すようにハウジング28が取り付けられている。ハウジング28の内部には、図4に示すようにターミナル29が内蔵されており、このターミナル29には、メモリ7や中央制御部8等が設けられたプリント配線基板30が配設されている。ハウジング28の開口部28aには、カバー31が螺合されており、開口部28aの反対側には、被測定ガスの質量流量やガス異常情報等の各種情報を表示する表示部9が設けられている。
【0033】
メモリ7には、ヒータ14に流れる電流値(ヒータ電流値)と被測定ガスの質量流量との相関関係情報(ガス種毎の相関関係情報)と、ガスの種類に応じて生じるセンサ出力特性の変化を補正する補正係数(ガス種毎の補正係数)と、が予め記録されている。図11から明らかなように、ヒータ電流値は被測定ガスの質量流量と所定の相関関係を有しており、このヒータ電流値と質量流量との相関関係は、ガス種により異なることが実験により確認されている。このため、本実施形態においては、ヒータ電流値と被測定ガスの質量流量との相関関係情報を図11に示すようなガス種毎の特定のマップで規定することとしている。メモリ7は、本発明における相関関係情報記憶手段及び補正係数記憶手段として機能する。
【0034】
中央制御部8は、図10に示すように、バイパス流路4内に生成される交番の流れの周波数と、周囲温度センサ17及び圧力センサ39で検出された情報と、に基づいて、被測定ガスの質量流量を算出する質量流量算出部81を備えている。また、中央制御部8は、質量流量算出部81で算出された質量流量と、電流センサ6で検出された電流値と、メモリ7に記憶されているガス種毎の相関関係情報(図11参照)と、に基づいて、被測定ガスの種類を判別するガス種判別部82を備えている。
【0035】
また、中央制御部8は、メモリ7に記憶されているガス種毎の補正係数と、ガス種判別部82で判別されたガス種と、に基づいて、当該ガス種に特有の補正係数を決定する補正係数決定部83を備えるとともに、質量流量算出部81で算出された質量流量を補正係数決定部83で決定された補正係数で補正する質量流量補正部84を備えている。さらに、中央制御部8は、メモリ7に記憶されている特定のガスの相関関係情報と、質量流量算出部81で算出された質量流量及び電流センサ6で検出された電流値とからなる検出相関関係情報と、を比較する相関関係比較部85を備えている。すなわち、中央制御部8は、本発明における質量流量算出手段、ガス種判別手段、補正係数決定手段、質量流量補正手段及び相関関係比較手段として機能するものである。
【0036】
次に、本発明の実施形態に係る渦流量計1の具体的動作について、図12に示すフローチャートを参照して説明する。本実施形態に係る渦流量計1を用いることにより、流路2a内を流通する被測定ガスの種類を自動的に判別する「ガス種自動判別方法」を実施することができる。なお、本実施形態においては、ヒータ14に流れる電流値と被測定ガスの質量流量との相関関係情報(ガス種毎の相関関係情報)を予めメモリ7に記憶させておくこととする(相関関係情報記憶工程)。
【0037】
まず、ステップS101では、渦発生体3により被測定ガスが流通する流路2a内で渦を発生させた後、ステップS102に進み、この渦によりバイパス流路4内に交番の流れを生成させる。次に、ステップS103に進み、温度センサ(第1の測温抵抗素子15及び第2の測温抵抗素子16)を用いて、ヒータ14近傍の温度変化をヒータ14の両側で検出することにより、バイパス流路4内に生成される交番の流れを検出する。そして、この交番の流れに基づいて周波数を検出(算出)する。これらステップS101、S102、S103は、各々、本発明における渦発生工程、交番流れ生成工程、周波数検出工程に相当する。その後、ステップS104に進む。
【0038】
ステップS104では、周囲温度センサ17により被測定ガスの温度を検出し、検出された温度よりもバイパス流路4内に配置されたヒータ14の温度が一定温度高くなるように中央制御部8が駆動回路5を制御してヒータ14に電流を与えて発熱させるとともに、圧力センサ39により被測定ガスの圧力を検出した後、ステップS105に進む。ステップS105では、中央制御部8の質量流量算出部81が、ステップS103で検出した周波数に所定の係数を乗じて被測定ガスの体積流量を算出し、この体積流量と、ステップS104で検出された温度及び圧力と、に基づいて被測定ガスの質量流量に算出する。ステップS104は、本発明における温度検出工程、発熱工程、圧力検出工程に相当する。また、ステップS105は、本発明における質量流量算出工程に相当する。その後、ステップS106に進む。
【0039】
ステップS106では、ステップS105で算出した質量流量が、ガス種によらずストローハル数が一定となる流量域(特定流量域)で算出されたものであるか否かを中央制御部8が判定し、肯定的な判定が得られた(ステップS106:YES)場合は、ステップS107に進む。一方、ステップS105で算出した質量流量が特定流領域で算出されたものでないと中央制御部8が判定した(ステップS106:NO)場合は、ステップS103に戻り、各種検出を繰り返す。
【0040】
ステップS107では、電流センサ6によりヒータ14に流れる電流値を検出し、ステップS108に進む。ステップS108では、中央制御部8のガス種判別部82が、ステップS105で算出した質量流量と、ステップS107で検出した電流値と、メモリ7に記憶されているガス種毎の相関関係情報と、に基づいて、被測定ガスの種類を判別する。例えば、質量流量算出部81で算出された質量流量が150m3/h(1atm、0℃)であり、電流センサ6で検出された電流値が2.9mAの場合、図11に示すマップ(相関関係情報)から、被測定ガスは二酸化炭素(CO2)であると判別することができる。ステップS107、S108は、各々、本発明における電流検出工程、ガス種判別工程に相当する。
【0041】
次に、ステップS109に進み、ステップS108で判別されたガス種が安定した状態で流通しているか否かを判断する。具体的には、中央制御部8は、ステップS108において所定時間にわたって同一の結果(同一のガス種)が得られるか否かを判断する。所定時間にわたって同一のガス種であると判断された(ステップS109:YES)場合は、このガス種に決定し、ステップS110に進む。一方、所定時間にわたって同一のガス種が得られない(ステップS109:NO)場合は、ステップS103に戻り、各種検出を繰り返す。
【0042】
ステップS110では、中央制御部8の補正係数決定部83が、ステップS109で決定されたガス種(例えば、CO2)に特有の補正係数を、メモリ7に記憶されている複数の補正係数の中から選択(決定)する。その後、ステップS111に進む。ステップS111では、中央制御部8の質量流量補正部84が、ステップS105で算出された質量流量を、ステップS110で決定された補正係数(例えば、CO2に特有の補正係数)で補正する。この補正された質量流量は、表示部9に表示される。
【0043】
以上説明した実施形態における渦流量計1においては、被測定ガスが流通する流路2a内で渦発生体3により渦が発生し、その渦によりバイパス流路4内に交番の流れが生成される環境下において、この交番の流れの周波数や被測定ガスの温度・圧力に係る情報に基づいて、被測定ガスの質量流量を中央制御部8で算出することができる。また、バイパス流路4内のヒータ14を周囲よりも一定温度高くするために必要な電流値(ヒータ電流値)と被測定ガスの質量流量との相関関係をガス種毎にメモリ7に予め記憶させておき、中央制御部8で算出された質量流量及び電流センサ6で検出されたヒータ電流値からなる情報(検出相関関係情報)と、メモリ7に記憶されているガス種毎の相関関係情報と、を照らし合わせることにより、流路2a内を流通する被測定ガスの種類を自動的に判別することができる。
【0044】
また、以上説明した実施形態における渦流量計1においては、自動的に判別されたガス種に特有の補正係数を、メモリ7に記憶されている複数の補正係数の中から自動的に選択(決定)することができる。そして、この選択された補正係数に基づいて質量流量を補正する(センサ出力特性の変化を補う)ことにより、流路2a内を流通するガスの質量流量を高精度で算出(測定)することができる。また、ガスの種類が変わる度に操作者が補正係数を手作業で変更する(入力する)必要がなくなるため、作業性を大幅に向上させることができる。
【0045】
なお、本実施形態においては、バイパス流路4内に生じる交番の流れの周波数を検知するセンサとしての温度センサ(第1及び第2の測温抵抗素子15、16)を、ヒータ14の両側に配置した例を示したが、温度センサを必ずしもヒータ14の両側に配置しなくてもよく、温度センサをヒータ14の片側に配置し、前記周波数を検知してもよい。また、ヒータ14自体の温度変化により、バイパス流路4内に生成される交番の流れの周波数を検知してもよい。
【0046】
また、本実施形態においては、中央制御部8のガス種判別部82で被測定ガスの種類を判別した後、補正係数決定部83で補正係数を決定し、質量流量補正部84で被測定ガス質量流量を補正する場合について説明したが、これに限らず、本発明に係る渦流量計1は、被測定ガスのガス種を判別するという目的のみに使用してもよい。
【0047】
また、本実施形態に係る渦流量計1においては、前述したステップS109(図12参照)においてガス種が特定のガス(例えばCO2)と判別した後、図13のフローチャートに示す動作を行うことにより、ガス異常診断(CO2の流量測定が正常に行われているか否かの判断)を実施し、操作者に報知することもできる。
【0048】
具体的には、図12に示すステップS109においてガス種が決定した(ステップS109:YES)後、図13に示すステップS201に進み、図12に示すステップS105と同様に被測定ガス(CO2)の質量流量を算出する。次に、(ステップS201で算出した質量流量が特定流量域で算出されたものである場合に)ステップS202に進み、図12に示すステップS107と同様に、ヒータ14に流れる電流値を検出する。その後、ステップS203に進む。
【0049】
ステップS203では、中央制御部8の相関関係比較部85が、ステップS201で算出された質量流量とステップS202で検出された電流値とからなる相関関係情報(検出相関関係情報)と、メモリ7に予め記憶されているCO2の相関関係情報(特定相関関係情報)と、を比較する。検出相関関係情報(図11のマップ上にプロットした検出点P)と特定相関関係情報(図11に示すCO2マップM)とが一致している(検出点PがCO2マップM上にある)(ステップS203:YES)場合は、特定のガス(CO2)の流量測定が正常に行われているものとして処理を終了する。一方、検出相関関係情報と特定相関関係情報とが一致しない(検出点PがCO2マップM上にない)(ステップS203:NO)場合は、特定のガス(CO2)の流量測定が正常に行われていないと判定し、ステップS204に進み、表示部9にその旨を表示し、操作者に報知する。すなわち、表示部9は、本発明における報知手段として機能する。
【0050】
このような手順でガス異常診断を行うことにより、意図しないガス(特定のガスと異なるガス)が流路内を流通した場合に操作者に異常を報知することができる。この結果、操作者はガス異常を逸早く認識することができ、復旧作業等に迅速に着手することが可能となる。
【0051】
ここで、ステップS203における異常判定基準は、予め設定されている測定誤差範囲等により任意に決定することができる。例えば、特定相関関係情報としてのCO2マップMの周辺に所定の判定領域Aを設定し、検出相関関係情報としての質量流量及び電流値からなる検出点Pがこの判定領域Aの内部にある場合にCO2の流量測定が正常に行われているものと判定する一方、検出点Pがこの判定領域Aの外部にある場合にCO2の流量測定が正常に行われていないと判定することもできる。
【0052】
図13に示す動作は、例えば、特定のガスの流量測定が正常に行われているか否かを確認するためのボタンを渦流量計1に設け、この確認ボタンが押された際に行ってもよく、あるいは、通常行われている図12に示す動作に対し、図13に示す動作を所定時間毎に定期的に割り込ませて実行するようにしてもよい。また、操作者に対する報知は、例えば渦流量計1にスピーカー等の音声発生手段を接続し、音声によって行ってもよい。
【0053】
また、以上の実施形態においては、柱状の渦発生体3を流体管2の貫通孔2bから挿入して配置した例を示したが、流体管2に直接柱状の渦発生体3を組み込むような構成を採用することもできる。その他、本発明を、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1…渦流量計
3…渦発生体
4…バイパス流路
5…駆動回路
6…電流センサ
7…メモリ(相関関係情報記憶手段、補正係数記憶手段)
8…中央制御部(質量流量算出手段、ガス種判別手段、補正係数決定手段、質量流量補正手段、相関関係比較手段)
9…表示部(報知手段)
14…ヒータ(発熱抵抗体)
15…第1の測温抵抗素子(温度センサ)
16…第2の測温抵抗素子(温度センサ)
17…周囲温度センサ
39…圧力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガスが流通する流路内に配置される渦発生体と、
被測定ガスの流通方向に対して直交する方向に延在するように形成され前記渦発生体で発生する渦により内部に交番の流れが生成されるバイパス流路と、
被測定ガスの温度を検出する周囲温度センサと、
被測定ガスの圧力を検出する圧力センサと、
前記バイパス流路内に配置される発熱抵抗体と、
前記周囲温度センサで検出された被測定ガスの温度よりも前記発熱抵抗体の温度が一定温度高くなるように前記発熱抵抗体に電流を与えて発熱させる駆動回路と、
前記発熱抵抗体に流れる電流値を検出する電流センサと、
前記発熱抵抗体に流れる電流値と被測定ガスの質量流量との相関関係情報をガス種毎に記憶する相関関係情報記憶手段と、
前記バイパス流路内に生成される交番の流れの周波数と前記周囲温度センサ及び前記圧力センサの少なくとも一方で検出された情報とに基づいて被測定ガスの質量流量を算出する質量流量算出手段と、
前記質量流量算出手段で算出された質量流量と前記電流センサで検出された電流値と前期相関関係情報記憶手段に記憶されている相関関係情報とに基づいて被測定ガスの種類を判別するガス種判別手段と、を備える、
渦流量計。
【請求項2】
ガスの種類に応じて生じるセンサ出力特性の変化を補正するための補正係数をガス種毎に記憶する補正係数記憶手段と、
前記補正係数記憶手段に記憶されている複数の補正係数と前記ガス種判別手段で判別されたガス種とに基づいて当該ガス種に特有の補正係数を決定する補正係数決定手段と、
前記補正係数決定手段で決定された補正係数に基づいて前記質量流量算出手段で算出された質量流量を補正する質量流量補正手段と、
をさらに備える、
請求項1記載の渦流量計。
【請求項3】
前記発熱抵抗体近傍の温度変化を検出する温度センサをさらに備える、
請求項1又は2記載の渦流量計。
【請求項4】
前記相関関係情報記憶手段に予め記憶された特定のガスの相関関係情報と、前記質量流量算出手段で算出された質量流量及び前記電流センサで検出された電流値からなる検出相関関係情報と、を比較する相関関係比較手段と、
前記特定のガスの相関関係情報と前記検出相関関係情報との比較結果に基づいて報知を行う報知手段と、
をさらに備える、
請求項1から3の何れか一項に記載の渦流量計。
【請求項5】
流路内を流通する被測定ガスの種類を自動的に判別する方法であって、
前記流路内に配置される渦発生体により前記流路内に渦を発生させる渦発生工程と、
被測定ガスの流通方向に対して直交する方向に延在するように形成されたバイパス流路内に前記渦発生工程で発生させた渦により交番の流れを生成させる交番流れ生成工程と、
被測定ガスの温度を検出する温度検出工程と、
被測定ガスの圧力を検出する圧力検出工程と、
前記温度検出工程で検出された温度よりも前記バイパス流路内に配置された発熱抵抗体の温度が一定温度高くなるように前記発熱抵抗体に電流を与えて発熱させる発熱工程と、
前記発熱抵抗体に流れる電流値を検出する電流検出工程と、
前記バイパス流路内に生成される交番の流れの周波数を検出する周波数検出工程と、
前記温度検出工程で検出された温度及び前記圧力検出工程で検出された圧力の少なくとも一方と前記周波数検出工程で検出された周波数とに基づいて被測定ガスの質量流量を算出する質量流量算出工程と、
前記発熱抵抗体に流れる電流値と被測定ガスの質量流量との相関関係情報をガス種毎に記憶する相関関係情報記憶工程と、
前記質量流量算出手段で算出された質量流量及び前記電流検出工程で検出された電流値と前記相関関係情報記憶工程で記憶した相関関係情報とに基づいて被測定ガスの種類を判別するガス種判別工程と、を備える、
ガス種自動判別方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate