説明

温度の測定方法及び温度計

【課題】温度の変化を伴う流動する流体の中で、常に流体の温度変化に追随した流体の温度を高精度で測定し、かつ流体の温度と流速を同時に測定可能な、温度の測定方法及び該温度の測定方法に利用される温度計を提供することを課題とする。
【解決手段】測定方法1は、センサを加熱するセンサ加熱工程S2と、加熱されたセンサのセンサ温度を測定するセンサ温度測定工程S3と、測定時間帯に加えられたセンサに対する加熱量、及び測定時間帯前後の測定ポイントにおけるセンサ温度に基づいて、測定時間帯のセンサの放熱量を算出する放熱量算出工程S4と、算出された少なくとも二つ以上の測定時間帯に対する放熱量に基づいて、流体の温度を算出する温度算出工程S5と、流体の流速を算出する流速算出工程S6とを主に具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度の測定方法及び温度計に関するものであり、特に温度の変化を伴う液体や気体等の流れの中で、常に流体の温度の変化に追随した流体の温度の測定を行うための、温度の測定方法及び該温度の測定方法を利用した温度計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体や気体等の流体の温度を正確に測定する試みが行われている。しかしながら、これらの流体は、多くの場合、不規則的な流速で流れるものであり、流速及び/若しくは流体の温度は常に一定であることはなく、時々刻々変化している。そのため、温度計の熱容量と流体の流速に基づいて定まる温度計の時定数よりも短いタイムスケール(時間間隔)でこれらの流体の温度が変化する場合、該温度計から出力される温度の測定値は測定対象となる流体の温度変化に十分に追随することができず、流体の温度の正確な測定が困難となっている。そこで、これらの問題を解消するものとして、種々の温度の測定方法または温度計や温度測定装置等が開発されている。
【0003】
ここで、一例を挙げると、温度計から出力される値に対し、該温度計の熱容量に起因する高周波成分の減衰を、増幅器を利用して増幅する処理を行い、測定対象の流体の温度を補正し、復元することが行われている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、所定の流体の流れの中においた定温度型熱線流速計の先端の細い金属線(熱線)を利用し、予め定めた時間間隔で、該熱線が高低二種類の熱線温度(熱線動作温度)を交互に実現するよう、印加する電流を自動的に調節して、熱線が目標とする温度に安定して達した時の熱線の発熱量を測定し、これに基づいて流体の速度(流速)と流体の温度とをそれぞれ測定するものもある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、熱線流速計の熱線の加熱量を階段状に変化させ、その時の温度変化(過度応答)が所謂「一時遅れ応答」になること、換言すると、指数関数的な変化を示す特性を利用し、流体の温度を測定する方法も知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平5−119053号公報
【非特許文献1】蒔田 秀治、外2名,「温度流速計の高精度化」,日本機械学会論文集,1992,第58巻,第545号,p.90−97
【非特許文献2】高野 亮二、外2名,「パルス加熱式熱線風速計の流速・温度同時測定」,日本機械学会東海支部第54期総会講演会講演論文集,2005,No.053−1,p.291−292
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した温度測定方法または温度計等は、下記に掲げるような問題を生じることがあった。すなわち、非特許文献1のように、増幅器によって高周波成分の信号の減衰を増幅処理し、復元するものにおいては、高周波成分の補正を行う際に、センサの熱容量と流体の流速によって定まるセンサの時定数が必要であるため、センサの時定数を得るために流速を測定する必要がある。しかし、流速の測定は流体の温度の測定とは別個のセンサで行う必要があるので、流体の温度センサと同一の位置での流速、そして流体の温度センサの時定数を得ることはできず、正確な周波数特性の補正を行うことができなかった。また、増幅処理を行う際に、求める高周波成分の増幅と一緒に、信号に含まれる不要なノイズを増幅させてしまう結果となった。そのため、増幅されたノイズの影響により、真に必要となる高周波成分がノイズに埋没したり、高周波成分とノイズとの境界が不明確となり、復元後の温度の値の精度が低下するおそれがあった。これらの原因により、係る温度の測定方法は、高い精度で温度が必要とされる分野での使用には適していなかった。
【0008】
さらに、定温度型熱線流速計を利用し、熱線の動作温度を切替えながら、流速を測定するものは、使用する熱線の温度が定常状態に到達させる必要があった。ところが、高低二種類の動作温度になるように、かつ非常に短い時間で目標温度に正確に到達させるよう、熱線に印加する電流を制御することは、極めて困難であった。そのため、熱線が定常状態に到達するまでの時間が必要となり、高低二種類の動作温度になるようにそれぞれ温度を設定することは、測定時間の間隔を長くとる必要があった。このため、短い時間間隔での流体の温度の測定には向いていなかった。
【0009】
また、熱線の温度変化の様子が指数関数的であることに注目して流体の温度を測定するものは、熱線の熱容量によって規定される時定数に相当する時間が必要であった。この場合、熱線温度は、測定されたその時点における流速と流体の温度とによって影響を受けるため、熱線の過度応答中は係る流速及び流体の温度が常にほぼ一定の値を保つことが必要であった。したがって、熱線の時定数よりも短い測定間隔で流速や流体の温度が変化するような流れに対しては、該変化に追随して正確な測定を行うことが困難であった。そのため、これらに流速等が大きく変化するような流体については、得られるデータの精度に問題が残る場合があった。
【0010】
さらに、上記の従来技術は、いずれも流体の温度と流速とを同一位置若しくは同一タイミングで測定することができないものであり、流体の挙動を正確に認識するために、同一位置及び同一タイミングにおける流体の温度及び流速の同時測定が可能な温度の測定方法が求められていた。
【0011】
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、常に流体の温度の変化に追随した流体の温度の測定が可能であり、さらに流体の流速の同時測定が可能な温度の測定方法及び温度計を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる温度の測定方法は、「加熱量の調節が可能なセンサ加熱手段に接続されたセンサを利用し、該センサ加熱手段を用いて測定対象となる液体または気体からなる流体の中で前記センサへの加熱量を調節することにより、前記センサの温度を変化させることを目的とするセンサ加熱工程と、前記流体の温度の変化が無視できる程度の短い測定時間帯の前後の測定ポイントにおける、加熱された前記センサのセンサ温度をそれぞれ測定するセンサ温度測定工程と、前記センサ加熱手段によって前記測定時間帯に加えられた前記センサに対する加熱量、及び前記測定ポイントにおける前記センサ温度に基づいて、前記測定時間帯の前記センサの放熱量を下記式(A)

Qc=Qp−Cs(Tsa−Tsb) ・・・・・ (A)

(Qc:放熱量、Qp:加熱量、Cs:センサの熱容量、Tsa,Tsb:各測定ポイントのセンサ温度)を利用して算出する放熱量算出工程と、
算出された少なくとも二つ以上の前記測定時間帯に対する前記放熱量に基づいて、前記流体の温度を下記式(B)

Qc=K(Ts−Tf)Δτ ・・・・・ (B)

(Qc:放熱量、Ts:測定時間帯におけるセンサの代表温度、Tf:流体の温度、K:比例定数、Δτ:測定時間帯の時間幅)を利用して算出する温度算出工程と」を具備するものから主に構成されている。
【0013】
ここで、本発明の温度の測定方法に使用されるセンサとしては、例えば、従来の熱線流速計などの測定部(センサ)として利用される一本の加熱された金属線(白金線等の抵抗温度センサ。以下、「熱線」と称す)からなる熱線プローブを示すことができる。この熱線プローブを用いる場合、熱線に電流を印加すること(センサ加熱手段に相当)によって、該熱線を加熱することができる。このとき、熱線への加熱量は、例えば、印加する印加電流を標準抵抗の電位差から求め、この印加電流値と熱線の電位差から求めることができる。また、熱線の熱線温度(センサの温度に相当)は、従来の抵抗線温度計の原理に従って熱線の抵抗値から求めることが可能である。そのため、比較的簡易な構成及び測定方法により、上記式(A)等に代入可能な値を取得することができるため、熱線等をセンサとして用いることが特に好適と思われる。
【0014】
したがって、本発明の温度の測定方法によれば、非常に短い測定時間帯におけるセンサの放熱量を上記式(A)を利用して算出し、さらに算出された少なくとも二つ以上の測定時間帯におけるセンサの放熱量と、その時のセンサの代表温度を上記式(B)に当て嵌め、その解を求めることにより、流体の温度を正確に計算することが可能となる。
【0015】
さらに、詳しく説明すると、流動する流体の中に設置されたセンサは、その周囲を当然のことながら、液体または気体の流体に囲まれた状態となっている。係る状態でセンサから放出される放熱量Qcは、式(B)により、センサ自身の温度(センサの代表温度Ts)と、測定対象となる流体の温度Tfとの差に比例する関係が成立する。そのため、少なくとも二つ以上の測定時間帯におけるセンサの放熱量Qcの値と、それに対応するセンサの代表温度Tsの値をそれぞれ測定することができれば、式(B)に当該数値を代入することにより、流体の温度Tfが計算される。このとき、前後の測定ポイントの間の測定時間帯は、流体の流速の変化を無視できる程度の非常に短いものであり、流体の温度Tfは一定の値として示される。なお、算出される流体の温度Tfの精度をさらに高めるためには、複数の測定時間帯についての放熱量の値を求め、最小二乗法等によって計算するものであってもよい。なお、式(B)においてセンサの代表温度Tsは、例えば、測定時間帯の前後の測定ポイントで取得されたセンサ温度の平均値を用いることができる。
【0016】
さらに、本発明にかかる温度の測定方法は、上記構成に加え、「前記流体の温度を算出する際に規定された前記比例定数が前記流体の流れの速度に依存する性質に基づいて、前記流体の流速を算出する流速算出工程を」具備するものであっても構わない。
【0017】
したがって、本発明の温度の測定方法によれば、被測定物である流体の流速が、算出されたセンサ温度に基づいて求められる。このとき、上記式(B)における比例定数Kは、同一のセンサを利用し、同一の流体で、かつ熱伝導率、粘性係数等の諸性質が変化しない場合、下記式(E)

K=F(U) ・・・・・ (E)

として、流速Uの関数として表すことが可能である。
【0018】
そのため、上記式(A)及び式(B)に基づいて流体の温度を算出する際、流体の温度Tfとともに、放熱に関する比例定数Kを求めることにより、容易に流速Uが決定される。なお、係る原理は、前述した従来型の熱線流速計の原理と同様である。しかしながら、非特許文献1では、別途センサによって流れの温度を測定する必要があり、特許文献1では、温度が急激な変化をする流体には適していない。これに対して、本発明は、高速の温度変化に追随し、かつ流体の温度と流速とを同一の位置及び同一のタイミングで精度よく算出することが可能となる。
【0019】
一方、本発明にかかる温度計は、「液体または気体からなる流れの中に配されたセンサと、前記センサを加熱するセンサ加熱手段と、前記センサ加熱手段によって加熱された前記センサのセンサ温度を、前記流体の温度変化を無視できる程度の短い測定時間帯の前後の測定ポイントで測定し、温度データを取得するセンサ温度測定手段と、取得された前記測定ポイントにおける前記温度データ及び前記センサに加えられた加熱量に係る加熱量データに基づいて、前記測定時間帯における前記センサの放熱量を下記式(C)

Qc=Qp−Cs(Tsa−Tsb) ・・・・・ (C)

(Qc:放熱量、Qp:加熱量、Cs:センサの熱容量、Tsa,Tsb:各測定ポイントのセンサ温度)を利用して演算処理によって算出する放熱量算出手段と、
算出された少なくとも二つ以上の前記測定時間帯に対する前記放熱量に基づいて、前記流体の温度を下記式(D)

Qc=K(Ts−Tf)Δτ ・・・・・ (D)

(Qc:放熱量、Ts:測定時間帯におけるセンサの代表温度、Tf:流体の温度、K:比例定数、Δτ:測定時間帯の時間幅)を利用して演算処理によって算出する温度算出手段と」を具備して主に構成されている。
【0020】
したがって、本発明の温度計によれば、前述した温度の測定方法における各工程に係る処理を行うことにより、温度変化に追随して精度よく流体の温度を測定することが可能となる。なお、センサ温度測定手段、放熱量算出手段、及び温度算出手段は、センサ及びセンサを加熱するセンサ加熱手段と接続した汎用のパーソナルコンピュータを利用して構築することが可能であり、上記式(C)及び式(D)を予めプログラミングしたソフトウェアを構築し、測定されたセンサ温度等を入力することにより、演算処理の結果を出力表示可能にするものであってもよい。
【0021】
さらに、本発明にかかる温度計は、上記構成に加え、「前記流体の温度を算出する際に規定された前記比例定数に基づいて、前記流体の流速を算出する流速算出手段を」具備するものであっても構わない。
【0022】
したがって、本発明の温度計によれば、算出された流体の温度及びセンサ温度に基づいて流速の算出が上記式(E)に従って行われる。これにより、流速及び流体の温度の測定が同一位置及び同一タイミングで実施可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の効果として、上記温度の測定方法及び該温度の測定方法の原理に基づいた温度計を利用することにより、流体の温度変化を無視できる程の非常に短いタイムスケールの中での測定ポイントにおけるセンサの放熱量を算出し、これに基づいて流体の温度を算出することができる。その結果、従来は流体の温度変化に追随することのできなかった温度計または温度の測定方法に比べ、精度よく流体の温度を算出することが可能となる。さらに、算出に用いた式の比例定数が流速の関数として記述可能なことを利用し、流体の温度と同一位置において当該流体における流速を求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態である温度の測定方法1(以下、単に「測定方法1」と称す)及び該測定方法1に利用される温度計2について、図1乃至図4に基づいて説明する。ここで、図1は本実施形態の測定方法1を実施する温度計2の構成要素であるセンサプローブ3(センサに相当)の概略構成を模式的に示す説明図であり、図2は温度計2の主に温度計本体6に係る機能的構成を示すブロック図であり、図3は測定方法1の流れを示すフローチャートであり、図4はセンサ温度Ts及び加熱量Qpの時間変化を示すグラフである。
【0025】
本実施形態の測定方法1は、空気や燃焼ガスなどの気体若しくは水やその他の液体からなる流動している流体5の流体の温度Tf及び該流体5の流速Uを同時に測定するものであり、一方、本実施形態の温度計2は、流体5の中に挿入され、流体の温度Tfを検出するセンサプローブ3と、センサプローブ3へ加熱電流を供給し、またセンサプローブ3によって検出されたセンサ温度Tsに係る温度信号4を演算処理して流体の温度Tf並びに流速Uを求める温度計本体6と、演算処理の結果として算出された算出結果の値(流体の温度Tfの値)等の種々の情報を出力表示するためのモニタディスプレイ等からなる出力表示装置7とを具備して主に構成されている。
【0026】
ここで、流体の温度Tfを検出するために流体5の中に挿入されるセンサプローブ3は、図1に示すように、二本の支持導線8a,8bの先に幅数mm、直径数μmの白金線(以下、「熱線9」と称す)を取付けて構成されたものである。
【0027】
さらに、温度計2に係る温度計本体6は、図2に示すように、その機能的構成として、温度計本体6に係る各種機能を制御するためのマイクロプロセッサから構成される制御装置10と、D/A変換器11及び電流増幅器12を組合わせることによって構成され、制御装置10からの制御指示に応じて熱線加熱電流を発生させ、支持導線8a,8bを通して該熱線加熱電流を熱線9に供給可能な熱線加熱装置13と、センサプローブ3から支持導線8a,8bをによって導かれた温度信号4をデジタル信号に変換するA/D変換器14と、制御装置10から熱線加熱装置13に対して送出された加熱の制御に係る制御信号15、A/D変換器14によって変換されて取得したセンサプローブ3の温度に係るデータ(図示しない)に基づいて演算処理を行う演算装置16と、演算装置16によって算出されたセンサプローブ3の熱線温度Tsa1,Tsb1,Tsa2,Tsb2等の値を温度データ19としてそれぞれ記憶する記憶装置17と、演算処理の結果として算出された各種の値を出力表示装置7に信号制御して送出する出力制御装置18とを具備して主に構成されている。ここで、熱線加熱装置13が本発明におけるセンサ加熱手段に相当し、これにより、流体5の流速Uの変化が無視できる程度の短い測定時間帯で該熱線9の温度を変更することが可能となる。また、A/D変換器14及び演算装置16が本発明におけるセンサ温度測定手段に相当し、制御装置10、演算装置16、及び記憶装置17が本発明における放熱量算出手段、温度算出手段、及び流速算出手段に相当する。また、熱線加熱装置13は、流体5の流速Uの変化が無視できる程度の短い測定時間帯Δτで熱線9の温度を変更することのできる機能を有している。
【0028】
また、演算装置16は、熱線加熱電流と熱線9の電圧降下から熱線9の発熱量Qp1,Qp2を求め、これと先に記憶した複数のセンサプローブ3の温度Tsa1等に係る温度データ19に基づいて、放熱量Qc1,Qc2を求め、これらから流体の温度Tfを演算する。さらに、必要に応じ、比例定数Kを算出し、流速Uを求めることを行う。そして、算出された流体の温度Tf並びに流速Uの値が出力表示装置7から出力される。また、出力制御装置18は、算出された流体の温度Tf等に係る各種データ19等の値を表形式、またはグラフ形式などの種々の形式で出力表示するために信号制御し、前述した出力表示装置7に送出する機能を有している。
【0029】
次に、本発明の温度計2を利用し、本実施形態の測定方法1によって流体の温度Tf及び流速Uを測定する測定例について、主に図3及び図4に基づいて説明する。まず、センサプローブ3を、流動する流体5の中の流体の温度Tf及び流速Uを測定しようとする位置に設置する。次に、温度計本体6を起動する。これによって以下の動作が記憶装置17に予め内蔵されたプログラム(図示しない)若しくは外部から入力されたプログラムに従って連続的に実行される。
【0030】
まず、制御装置10によって、予め規定された熱線加熱の波形に相当する信号を発生する(信号発生工程S1)。ここで、加熱波形としては、必要に応じて、短形波、鋸歯状波、その他の多様な波形を適宜与えることができる。なお、本実施形態では、階段状の電流変化を与えた場合について例示する。
【0031】
その後、熱線加熱装置13は、上述した制御装置10からの制御信号に基づき、熱線加熱電流を発生させ、センサプローブ3に供給する(センサ加熱工程S2)。これにより、センサプローブ3の温度(熱線温度Tsに相当)は、図4に例示するように上昇下降を繰返す。
【0032】
このとき、非常に短い測定時間帯Δτ1の前後の測定ポイントτa1,τb1における熱線9の電圧降下をA/D変換器14によってデジタル信号に変換し、これと制御装置10から送出された制御信号15から熱線温度Tsa1,Tsb1(図4参照)を演算して温度データ19を取得する(センサ温度測定工程S3)。なお、温度データ19の取得と同時に、係る温度データ19は記憶装置17に記憶される。さらに、同様に、別の測定時間帯Δτ2におけるそれぞれの測定ポイントτa2,τb2における熱線温度Tsa2,Tsb2(同じく図4参照)も合わせて測定し、同様にこれに係る温度データ19を取得する。
【0033】
なお、本実施形態の測定方法1では、説明を簡略化するため、二つの測定時間帯Δτに係る合計四ヶ所の測定ポイントτa1等の熱線温度Tsa1等をそれぞれ測定するものを示したが、測定時間帯Δτの個数はこれに限られるものではない。すなわち、測定時間帯Δτの測定個数が多ければ多い程、例えば、最小二乗法等の統計手法を活用し、流体の温度Tfの算出制度を高めることができるようになる。
【0034】
そして、微小な測定時間帯Δτ1の前後の測定ポイントτa1,τb1における熱線温度Tsa1,Tsb1の温度データ19を利用し、測定時間帯Δτ1における熱線9からの放熱量Qc1を、既述した式(A)または式(C)を参照し、下記式(F)によって算出する(放熱量算出工程S4)。

Qc1=Qp1−Cs(Tsa1−Tsb1) ・・・・・・ (F)

(Qc1:熱線からの放熱量、Qp1:熱線への加熱量)
【0035】
さらに、同様に別の測定時間帯Δτ2の測定ポイントτa2,τb2における熱線温度Tsa2,Tsb2の熱線9からの放熱量Qc2は、同様に式(A)または式(C)を参照し、下記式(G)として表することができる。

Qc2=Qp2−Cs(Tsa2−Tsb2) ・・・・・・ (G)

(Qc2:熱線からの放熱量、Qp2:熱線への加熱量)
【0036】
ここで、熱線加熱装置13によって加熱された熱線温度Tsa1等は、熱線9に印加する印加電流の値と熱線9の抵抗値に基づいて求めることができる。これにより、二つの測定時間帯Δτ1,Δτ2における熱線9からの放熱量Qc1,Qc2がそれぞれ求められる。
【0037】
さらに、求められた放熱量Qc1,Qc2を利用して流体の温度Tfを求めることが行われる。具体的に説明すると、熱線9からの放熱量Qc1等は、上述した式(B)または式(D)に示すような関係が熱伝達の法則から成立することが証明されている。このとき、比例定数Kは、同一の熱線9を用い、同じ流体5を利用し、その熱伝導率、粘性係数等の各種の流体5に係る特性、性状が一定であり、かつ流速Uが等しい場合には、同一の値を示すことが知られている。そのため、上記式(F)及び式(G)によって求められた放熱量Qc1,Qc2に係る値を利用し、流体5の速度変化が無視できる程度の非常に短い測定時間帯Δτ1等における流体の温度Tfを下記式(H)及び式(I)によって求め、流体の温度Tfに係る値を取得する(流体温度算出工程S5)。ここで、比例定数Kを上述したように一定の値とすると、

Qc1=K(Ts1−Tf)Δτ1 ・・・・・ (H)
Qc2=K(Ts2−Tf)Δτ2 ・・・・・ (I)

(Ts1,Ts2:測定時間帯Δτ1,Δτ2の熱線9の代表温度)
が成立する。そして、この式(H)及び式(I)を解くことにより、流体の温度Tfが求められる。なお、本実施形態の測定方法1及び温度計2では、二つの測定時間帯Δτ1,Δτ2における放熱量Qc1,Qc2を用い、流体の温度Tfを求めているが、実際には流体の温度Tfの精度をさらに高めるために、より複数の測定時間帯Δτによる放熱量Qcを求め、前述したように、最小二乗法等の統計処理を施すことにより、正確な流体の温度Tfの値を求めることができるようになる。
【0038】
ここで、上記式(H)及び式(I)において用いられる代表温度Ts1,Ts2は、測定時間帯Δτ1及びΔτ2のそれぞれの前後の測定ポイントτa1等における熱線温度Tsa1等の平均値を示すものであり、下記式(J)及び式(K)によって簡易に求められるものである。

Ts1=(Tsa1+Tsb1)/2 ・・・・・ (J)
Ts2=(Tsa2+Tsb2)/2 ・・・・・ (K)

【0039】
なお、上述した式(F)乃至式(K)の演算処理は、温度データ19や放熱量データ(図示しない)の入力等によって、温度計本体6に予め記録された流体の温度Tfの算出に係る算出用プログラム(図示しない)を実行することによって計算されるものである。そのため、本実施形態の温度計2の一部機能を有する温度計本体6には、該算出用プログラムを記憶するための記憶領域(記憶装置17に相当)、算出用プログラムを起動し、プログラムを実行するための操作及び指示をするための操作用のデバイス(例えば、キーボード、テンキー、マウス等)、及びプログラム入力用のデバイス(フレキシブルディスクやコンパクトディスク等の記憶媒体の読込可能なディスクドライブ、あるいはRS232C、USBなどの通信ポート)の構成を有するものであるが、説明を簡略化するため、図2等での図示は省略している。また、本実施形態の温度計2において、温度計本体6を構成するものとして、制御装置10や熱線加熱装置13等の各種機能を有する機器を一体化して構成したものを例示しているが、もちろんこれに限定されるものではなく、例えば、温度計本体6に係る機能的構成を汎用のコンピュータを利用し、D/A変換機能や電流増幅機能、並びにA/D変換機能をそれぞれ有するものとして構築することも可能である。
【0040】
その後、上記演算処理の結果によって特定された比例定数Kは、前述した式(E)の関係により、流速Uの関数として表現することができる。そのため、比例定数Kの値を利用して、当該流体の温度Tfの流体5の流速Uを求める(流速算出工程S6)。なお、この流速Uの算出は、従来技術の熱線流速計の原理を応用するものであり、従来から周知の技術である。そのため、詳細な説明は省略するものとする。しかしながら、従来の熱線流速計においては、流体温度が変化する場合には、何らかの方法によって流体温度を測定し、その値を用いて得られた流速を補正する温度補償が必要であった。そのため、従来は熱線流速計とは別に、流体の温度の測定可能な温度センサ(温度計)を新たに設置する等の方法をとる必要があるので、流体の温度Tfを流速Uと同一の位置で測定することは困難であり、流体の温度が高速に変動する流体に対して正確な温度補償を行うことは困難であった。しかしながら、本実施形態の温度計2及び測定方法1によれば、流体5の温度変化が激しい場合であっても、係る流体の温度の変動に追随した温度測定を流速Uの測定と同一のセンサを用いて同一のタイミングで行うことが可能であるので、正確な温度補償が可能であり、かつ同一位置及び同一タイミングで流体5の流速Uを算出することができる点で、従来よりも優れた効果を奏すると言える。そして、算出された流体の温度Tf及びその時の流速Uが出力表示装置7を通じて出力表示される(結果表示工程S7)。
【0041】
なお、取得または算出された温度データ19、放熱量データ、流体の温度データ、及び流速データ等は、温度計本体6の記憶装置17に記憶され、事後の解析やグラフ化して表示する際などに利用可能となっている。
【0042】
以上説明したように、本実施形態の測定方法1及び温度計2によれば、微小な測定時間帯Δτ1等における熱線9(センサ)の加熱による放熱量Qc1等を求める。これにより、流体5の流体の温度Tf及び流速Uを同時に算出することができる。特に、流体5の温度変化に追随して正確な流体の温度Tfを測定することができるため、従来のような温度計よりも測定精度を著しく向上させることができる。加えて、同一位置及び同一タイミングで流速Uを併せて測定することができるため、流体5の正確な挙動を把握することができるようになる。
【0043】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0044】
すなわち、本実施形態の測定方法1及び温度計2において、センサとして熱線流速計に利用される熱線9を用いたものを示したがこれに限定されるものではなく、流体5の温度変化を無視できる程度の短い測定時間帯Δτ1等の前後の測定ポイントでセンサ温度を測定できるようなものであれば構わない。しかしながら、熱線9を用いることにより、電流の印加によって加熱量を計算し、かつ熱線9の抵抗値を用いて熱線温度Tsa1等(センサの温度)を容易に測定することができ、かつ比較的簡易な構成で高い精度の測定が可能となるため、特に好適と考えられる。
【0045】
また、流体5として気体(空気)を想定したものを示したが、これに限定されるものではなく、種々のガスを測定対象とするものであっても構わない。さらに、流体は気体に限定されるものではなく、水などの液体を測定対象とするものであってもよい。
【0046】
さらに、比例定数Kを利用して流速Uを求めるものを示したが、この場合、予め流速が既知の流体を用いて、流体路のK=F(U)に係る関数を求めておき、算出結果をこれにあてはめる較正実験をしておく必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施形態の測定方法を実施する温度計の構成要素であるセンサプローブの概略構成を模式的に示す説明図である。
【図2】温度計の機能的構成を示すブロック図である。
【図3】測定方法の流れを示すフローチャートである。
【図4】センサ温度及び加熱量の時間変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0048】
1 測定方法(温度の測定方法)
2 温度計
3 センサプローブ(センサ)
5 流体
10 制御装置(放熱量算出手段、温度算出手段、流速算出手段)
11 D/A変換器(センサ加熱手段)
12 電流増幅器(センサ加熱手段)
13 熱線加熱装置(センサ加熱手段)
14 A/D変換器(センサ温度測定手段)
16 演算装置(センサ温度測定手段、放熱量算出手段、温度算出手段、流速算出手段)
17 記憶装置(放熱量算出手段、温度算出手段、流速算出手段)
19 温度データ
K 比例定数
Qc,Qc1,Qc2 放熱量
Qp,Qp1,Qp2 発熱量
Tf 流体の温度
Ts,Ts1,Ts2 センサの代表温度
Tsa1,Tsb1,Tsa2,Tsb2 熱線温度(センサの温度)
U 流速
Δτ,Δτ1,Δτ2 測定時間帯の時間幅
τa1,τb1,τa2,τb2 測定ポイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱量の調節が可能なセンサ加熱手段に接続されたセンサを利用し、該センサ加熱手段を用いて測定対象となる液体または気体からなる流体の中で前記センサへの加熱量を調節することにより、前記センサの温度を変化させることを目的とするセンサ加熱工程と、
前記流体の温度の変化が無視できる程度の短い測定時間帯の前後の測定ポイントにおける、加熱された前記センサのセンサ温度をそれぞれ測定するセンサ温度測定工程と、
前記センサ加熱手段によって前記測定時間帯に加えられた前記センサに対する加熱量、及び前記測定ポイントにおける前記センサ温度に基づいて、前記測定時間帯の前記センサの放熱量を下記式(A)

Qc=Qp−Cs(Tsa−Tsb) ・・・・・ (A)

(Qc:放熱量、Qp:加熱量、Cs:センサの熱容量、Tsa,Tsb:各測定ポイントのセンサの温度)
を利用して算出する放熱量算出工程と、
算出された少なくとも二つ以上の前記測定時間帯に対する前記放熱量に基づいて、前記流体の温度を下記式(B)

Qc=K(Ts−Tf)Δτ ・・・・・ (B)

(Qc:放熱量、Ts:測定時間帯におけるセンサの代表温度、Tf:流体の温度、K:比例定数、Δτ:測定時間帯の時間幅)
を利用して算出する温度算出工程と
を具備することを特徴とする温度の測定方法。
【請求項2】
前記流体の温度を算出する際に規定された前記比例定数が前記流体の流れの速度に依存する性質に基づいて、前記流体の流速を算出する流速算出工程をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の温度の測定方法。
【請求項3】
液体または気体からなる流体の流れの中に配されたセンサと、
前記センサを加熱するセンサ加熱手段と、
前記センサ加熱手段によって加熱された前記センサの温度を、前記流体の温度の変化が無視できる程度の短い測定時間帯の前後の測定ポイントで測定し、温度データを取得するセンサ温度測定手段と、
取得された前記測定ポイントにおける前記温度データ及び前記センサに加えられた加熱量に係る加熱量データに基づいて、前記測定時間帯における前記センサの放熱量を下記式(C)

Qc=Qp−Cs(Tsa−Tsb) ・・・・・ (C)

(Qc:放熱量、Qp:加熱量、Cs:センサの熱容量、Tsa,Tsb:各測定ポイントのセンサ温度)
を利用して演算処理によって算出する放熱量算出手段と、
算出された少なくとも二つ以上の前記測定時間帯に対する前記放熱量に基づいて、前記流体の温度を下記式(D)

Qc=K(Ts−Tf)Δτ ・・・・・ (D)

(Qc:放熱量、Ts:測定時間帯におけるセンサの代表温度、Tf:流体の温度、K:比例定数、Δτ:測定時間帯の時間幅)
を利用して演算処理によって算出する温度算出手段と
を具備することを特徴とする温度計。
【請求項4】
前記流体の温度を算出する際に規定された前記比例定数が前記流体の流れの速度に依存する性質に基づいて、前記流体の流速を算出する流速算出手段をさらに具備することを特徴とする請求項3に記載の温度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−127528(P2007−127528A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−320639(P2005−320639)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(305055448)ディーテック株式会社 (1)
【Fターム(参考)】