説明

温度センサの製造方法

【課題】量産により製造した温度センサの中には、外部から受ける振動によって、感温部カバーの先端側内部に収納されるサーミスタ素子が、感温部カバーの内周面と接触して破損することがある。
【解決手段】シースピン105の外周面の一部に凹部108を設ける。ついで、シースピン105端面と感温部カバー104の内周面とで形成される第1収容部1の容量以上の絶縁部材107を、感温部カバー104の内側に供給する。そして、感温部カバー104に、シースピン105を嵌合させた時に、凹部108によって、第2収容部2が形成され、この第2収容部2には、第1収容部1から充溢したスラリー状の絶縁部材107が収容される。これにより、絶縁部材107の供給量のバラつきに拘わらず、第1収容部1が絶縁部材107で隈なく充填された排気温センサ100を量産することが可能となり、振動によってサーミスタ素子の損傷を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感温素子を備える温度センサの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の排気ガス浄化装置の触媒コンバータ内部や、排気管内等といった流路を流れる排気ガスの温度を、感温素子であるサーミスタ素子によって検出する、いわゆる排気温センサが知られている。
【0003】
温度によって電気的特性が変化するサーミスタ素子は、有底筒状の金属カバー内に収納される。そして、金属カバーに覆われたサーミスタ素子の感熱応答性を高めるために、金属カバー内周面とシースピンの端面とで形成される空間に熱伝導性の良好な絶縁部材が充填され、排気ガスの熱を金属カバーで受熱した後、充填された絶縁部材を介してサーミスタ素子へと熱が伝達される。温度によって電気的特性が変化する該サーミスタ素子が発する電気信号は、電極線を経て制御装置に伝えられ、温度が検出される。
【0004】
また、このような温度センサは、例えば、特開2004−317499号公報に開示されている。特に、特開2004−317499号公報に記載のものは、縮径した金属カバー先端にサーミスタ素子を収納する。これにより、金属カバー内周とサーミスタ素子との距離を縮めて応答性を高めるものである。
【0005】
また、この温度センサは、絶縁部材とシースピン端面とが接することのないように、絶縁部材とシースピン端面との間に空隙が設けられている。
【特許文献1】特開2004−317499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、絶縁部材とシースピン端面との間に設けられた空隙が存在することで、温度センサが振動した時、サーミスタ素子が金属カバーの内周面と接触し、サーミスタ素子の破損につながることが分かった。
【0007】
上述した事態を回避し、温度センサの耐振動性を十分に確保するため、具体的には、サーミスタ素子が収納される空間を絶縁部材で隈なく塞ぐことが知られている。
【0008】
しかし、温度センサの製造工程において、絶縁部材の供給量のバラつきにより、金属カバー内に空隙が発生することがあり、量産時に、耐振動性の不十分な温度センサが製造されることがある。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑み、製造工程における絶縁部材の供給量のバラつきに拘わらず、一様に、十分な耐振動性を有する温度センサを量産するための製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、先端側が閉塞した有底筒状のカバーと、前記カバーの先端側内部に収納され、温度によって電気的特性が変化する感温素子と、前記感温素子に一端が接続され、前記感温素子の電気信号を取り出す一対の電極線と、前記電極線の他端に接続されて前記電気信号を伝達する一対の導線と、前記導線を内側に絶縁保持するとともに、前記カバーの開口端から内挿して、前記カバーの基端側に、先端部分が嵌合するシース部材と、前記カバーの内周面と前記シース部材の端面とで形成される空間に供給される絶縁部材とを備える温度センサの製造方法であって、前記シース部材の先端側の端面から所定距離だけ離間した前記シース部材の外周面に、凹部を設ける第1工程と、前記絶縁部材を、前記カバーの内側に供給する第2工程と、前記凹部を覆うように、前記シース部材を前記カバーに嵌合することにより、前記凹部の外周面と前記カバーの内周面との間に隙間を設けるとともに、前記空間から充溢した前記絶縁部材を、前記隙間が収容する第3工程と、前記カバーと前記シース部材とを接合するとともに、前記凹部よりも先端側で重合する前記シース部材の外周面と前記カバーとを封着する第4工程とを備えることを特徴とする温度センサの製造方法である。
【0011】
この製造方法により、前記空間から充溢する量の絶縁部材を供給することで、たとえ量産時に、絶縁部材の供給量のバラつきが発生したとしても、前記空間に空隙が発生することはなく、前記空間を絶縁部材で隈なく充填することができる。よって、感温素子がカバーと接触することはなく、感温素子が物理的な要因で破損することが防止される。また、前記空間から充溢した絶縁部材を、前記隙間に収納することができるため、絶縁部材が前記カバーから溢れ出すことがない。
【0012】
請求項2に記載の発明は、第3工程において、前記隙間の容量を、カバー内周面とシース部材の端面とで形成される空間の容量の3〜50%と規定したものである。つまり、前記隙間の容量が前記空間の容量の3%未満であると、絶縁部材の供給量のバラつきの影響を受け、前記空間に空隙が発生したり、絶縁部材がカバーとシース部材との接合部分に干渉して接合不良となったりする。また、前記隙間の容量が前記空間の50%を超えると、シース部材の十分な剛性が保てず、低い共振振動数での振動が発生し易くなり、シース部材の強度が不足する。よって、前記隙間の容量を前記空間の容量の3〜50%とすることで、上記問題を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した排気温センサ100(温度センサ)の実施形態について、図面を参照して説明する。この排気温センサ100は、車両用エンジンから排出される排気ガスの温度を検出するセンサとして適用したものであり、例えば、自動車の排気管に取り付けられるものである。
【0014】
図1に示すように、排気温センサ100は、感温部10及びケース部20で構成されるものである。なお、図1において下方を先端側、上方を基端側として、以下、本実施形態の排気温センサ100の構造を説明する。なお、特許請求の範囲に記載した先端側も上記の定義と符合する。
【0015】
上述の感温部10は、排気ガスに曝されて排気温度を感知する。
【0016】
図1のA部の拡大図である図2に示すように、感温部10は、主として、排気温度を感知する感温素子であるサーミスタ素子101、サーミスタ素子101が発する電気信号を基端側に伝達する一対の電極線102、導線である一対のシースピン芯線103、及びサーミスタ素子101を保護する感温部カバー104から成る。電極線102の基端側は、シースピン芯線103とレーザー溶接、または抵抗溶接によって接合される。
【0017】
本実施形態においては、電極線102は白金よりなる材料を用い、シースピン芯線103にはステンレスを用いた。
【0018】
カバーに相当する感温部カバー104は、ステンレス鋼板に深絞り加工を施すことによって、有底筒状となるように成形した。更には感温部カバー104の先端側が、基端側よりも小径となる、段付き筒状をなしている。この感温部カバー104の閉塞する先端側で、相対的に小径となる部分の内側に、Cr−Mnを主成分とする半導体材料等よりなる焼結成形体であるサーミスタ素子101を収納している。感温部カバー104の小径部に、サーミスタ素子101を収納することで、排気ガスの温度を直接受熱する感温部カバー104とサーミスタ素子101とが近接するために、感温部カバー104からサーミスタ素子101までの熱伝導による熱損失が抑制される。
【0019】
また、感温部カバー104の基端側の開口部には、円筒状のシースピン105の一端が圧入により嵌合される。このシース部材に相当するシースピン105は、内側にシースピン芯線103を収容し、絶縁、保護する。なお、シースピン105の内側には、電気絶縁性を有するマグネシア等の粉末を充填した後に、シースピン105を絞り加工することで、形成された圧粉体106が内在している。この圧粉体106によって、円筒状のシースピン105の両端面は、閉口したものとなり、シースピン105の内側に異物が侵入することはない。
【0020】
感温部カバー104とシースピン105とが重合する部分におけるシースピン105の外周面には、加締めにより縮径された凹部108が設けられる。
【0021】
また、該シースピン105の凹部108よりも基端側には、感温部カバー104とシースピン105とが、レーザー溶接等により溶接される、溶接部109がある。
【0022】
感温部カバー104の内周面とシースピン105の先端側の端面とで構成される空間には、アルミナ等よりなる絶縁部材107が充填される。なお、当該空間を以下、第1収容部1とし、凹部108の外周面と感温部カバー104内周面とで形成される隙間を以下、第2収容部2とする。
【0023】
また、上述した感温部10は、シースピン105を介してケース部20を構成するリブ201に接続され、リブ201はプロテクションチューブ202に固定される。また、感温部10は、シースピン芯線103を通じてケース部20を構成するリード線203と、電気的に接続される。
【0024】
以上、説明した排気温センサ100は、サーミスタ素子101が発する排気温信号を、リード線203を介して、図示しない外部回路(例えば、ECU)へ送出し、排気ガスの温度が検出される。
【0025】
本件発明の主たる特徴部分は、感温部カバー104とシースピン105とが重合する部分に、第2収容部2を設けたことにある。以下、この特徴部分の構造及び製造方法について述べる。
【0026】
まず、本実施形態において、第1収容部1の容量をV1、第2収容部2の容量をV2としたときに、容量比V1:V2が、1:0.2となるように、シースピン105の一部を縮径した。
【0027】
本実施形態における排気温センサ100は、以下のようにして製造される。
【0028】
第1工程として、図3に示すように、加締め工具400を用いて、シースピン105の先端部分を、その外側から加締める。そして、図4、図5に示すようにして、シースピン105の外周を均一に縮径し、シースピン105に凹部108を設ける。
【0029】
その後、第2工程では、図6に示すように、有底筒状の感温部カバー104の開口部からスラリー状の絶縁部材107をディスペンサーニードル300で注入する。ここで、スラリーとは、粉末流体の意であり、本実施形態におけるスラリー状の絶縁部材107とは、アルミナに純水、および粘度を調整する分散剤を加えて略泥状にしたものである。
【0030】
また、前記ディスペンサーニードル300から注入される絶縁部材107の注入量V3は、第1収容部1の容量V1の110%とし、V1の±5%を公差として定めた。これにより、絶縁部材107の注入量のバラつきにかかわらず、常に第1収容部1は絶縁部材107で隈なく充填される。
【0031】
図7に示す第3工程は、スラリー状の絶縁部材107が注入された感温部カバー104内周に、サーミスタ素子101、電極線102、シースピン芯線103を、感温部カバー104内周に接することのないように挿入すると同時に、凹部108を有するシースピン105を感温部カバー104の開口部から、先端側に向けて圧入し、シースピン105を感温部カバー104に嵌合する。このとき、感温部カバー104の内周面とシースピン105の端面とで第1収容部1が形成されると同時に、この第1収容部1は、スラリー状の絶縁部材107で完全に満たされる。
【0032】
さらには、シースピン105に設けられた凹部108は、感温部カバー104によって完全に覆われる。これによって、第2収容部2が、凹部108の外周面と感温部カバー104の内周面との間に形成される。そして、絶縁部材107の注入量V3から第1収容部1の容量V1を減じた分の絶縁部材107は、嵌合したシースピン105の外周と感温部カバー104の内周との間の間隙110を通って、基端側にある第2収容部2に収容される。
【0033】
第4工程では、感温部カバー104に内側に注入されたスラリー状の絶縁部材107を高温で乾燥させて、絶縁部材107を粉末状にする。このとき、絶縁部材107に含まれた水分は、間隙110を通って大気中へ蒸発する。粉末状となった絶縁部材107は、スラリー状の絶縁部材107と略同等の体積となるため、第1収容部1に空隙は発生しない。
【0034】
続いて、図8に示すように、第2収容部2よりも先端側に位置する部分で、且つシースピン105と感温部カバー104とが重合する部分を、加締め工具400で圧着する。これにより、感温部カバー104に圧入されたシースピン105の外周面と感温部カバー104の内周面との間に存在する間隙110が、粉末状の絶縁部材107の粒子径に比べて十分小さいものとなる。したがって、排気温センサ100が受ける振動によって、第1収容部1に充填された粉末状の絶縁部材107の粒子が、間隙110を通って第2収容部2に移動することを防止できる。
【0035】
また、第4工程において、凹部108よりも基端側で、且つ感温部カバー104の内周面とシースピン105の外周面とが重合する部分を、レーザー溶接等により固定することが好ましい。
【0036】
最後に熱処理を施すことによって、粉末状の絶縁部材107を焼成して、感温部10を完成させた。
【0037】
以上が、本実施形態における感温部10の製造方法であるが、本実施形態のように、シースピン105の外周面を加締めることによって、シースピン105を均一に縮径するのではなく、図9に示すように、局部的に押圧することにより、ディンプル(小さな窪み)状の第2収容部2及び第3収容部3を設けても良い。しかし、この場合も、第2収容部2の容量と第3収容部3の容量の総和が、第1収容部1の容量の50%以内に収まることを妨げない。
【0038】
また、上記変形例において、シースピン105の外周面に凹部108を2ヵ所形成する場合、図10に示すように、一対のシースピン芯線103を含む平面に対して垂直な方向から加圧することが好ましい。つまり、当該方向から加圧することにより、シースピン105の変形に伴う圧粉体106の歪みが、一対のシースピン芯線103が対向する間隔に及ぼす影響は少ない。よって、シースピン芯線103同士が近接しないため、絶縁破壊が起こりにくい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】排気温センサの全体図である。
【図2】図1中のA部拡大図である。
【図3】第1工程を表す模式図である。
【図4】図3中のB−B断面図である。
【図5】図3中のC−C断面図である。
【図6】第2工程を表す模式図である。
【図7】第3工程を表す模式図である。
【図8】第4工程を表す模式図である。
【図9】図2の変形例を示す図である(図1の紙面に対して垂直方向に断面)。
【図10】図7中のD−D断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1…第1収容部
2…第2収容部
3…第3収容部
10…感温部
20…ケース部
100…排気温センサ(温度センサ)
101…サーミスタ素子(感温素子)
102…電極線
103…シースピン芯線(導線)
104…感温部カバー(カバー)
105…シースピン(シース部材)
106…圧粉体
107…絶縁部材
108…凹部
109…溶接部
110…間隙
201…リブ
202…プロテクションチューブ
203…リード線
300…ディスペンサーニードル
400…加締め工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側が閉塞した有底筒状のカバーと、
前記カバーの先端側内部に収納され、温度によって電気的特性が変化する感温素子と、
前記感温素子に一端が接続され、前記感温素子の電気信号を取り出す一対の電極線と、
前記電極線の他端に接続されて前記電気信号を伝達する一対の導線と、
前記導線を内側に絶縁保持するとともに、前記カバーの開口端から内挿して、前記カバーの基端側に、先端部分が嵌合するシース部材と、
前記カバーの内周面と前記シース部材の端面とで形成される空間に供給される絶縁部材と
を備える温度センサの製造方法であって、
前記シース部材の先端側の端面から所定距離だけ離間した前記シース部材の外周面に、凹部を設ける第1工程と、
前記カバーの内側に所定量の絶縁部材を供給する第2工程と、
前記凹部を覆うように、前記シース部材を前記カバーに嵌合することにより、前記凹部の外周面と前記カバーの内周面との間に隙間を設け、該隙間に前記空間から充溢した前記絶縁部材を収容させる第3工程と、
前記カバーと前記シース部材とを接合するとともに、前記凹部よりも先端側で重合する前記シース部材の外周面と前記カバーとを封着する第4工程と
を備えることを特徴とする温度センサの製造方法。
【請求項2】
前記第3工程において、前記隙間の容量は、前記空間の容量の3%〜50%である温度センサの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate