温度センサ
【課題】製造時のマスクパターンの位置合わせのマージンに余裕があり、製造コストの安い薄膜形成プロセスによって製造することができるコストの低減が可能な温度センサを提供すること。
【解決手段】基板10上に配線20aと配線20bを有する熱電対配線20を形成し、交差位置20e付近で配線20aと配線20bを互いに接近するように傾斜させる。これらの配線20aと配線20bは交差位置で交差して電気的に接続され、熱電対を構成する。配線20aと配線20bの位置関係が長手方向にずれても、配線20aと配線20bの傾斜部分で交差する範囲であれば、確実に接続される。
【解決手段】基板10上に配線20aと配線20bを有する熱電対配線20を形成し、交差位置20e付近で配線20aと配線20bを互いに接近するように傾斜させる。これらの配線20aと配線20bは交差位置で交差して電気的に接続され、熱電対を構成する。配線20aと配線20bの位置関係が長手方向にずれても、配線20aと配線20bの傾斜部分で交差する範囲であれば、確実に接続される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば可撓性を有する基板上に薄膜により熱電対を形成した温度センサの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金属や半導体の基板上に異なる金属の薄膜を形成し、熱電対を構成する技術が知られている(例えば特許文献1)。また、ポリイミド等の可撓性を有する基板上に薄膜で熱電対を形成することにより、省スペース、高速応答を実現した温度センサが知られている(例えば非特許文献1及び非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−190735号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】理化工業株式会社 製品型番「ST−50/51Series」 2009年7月発行のカタログ
【非特許文献2】ジオマテック株式会社 製品型番「G−STD−N/G−STD−S」 2010年3月23日作成の取扱説明書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基板上に熱電対の配線を作成する際には、それ程、細かくないパターンであれば、メタルマスクを用いたスパッタリング等でも可能であるが、例えば50μm以下程度の微細なパターンになると、フォトマスクを用いて配線層の上に形成したレジストを感光させ、所定の部分のみ除去して配線層を選択的にエッチングするといった方法になる。しかしながら、このフォトマスクの位置合わせ精度は高いものの、製造コストも高くなってしまう。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、製造時のマスクパターンの位置合わせのマージンに余裕があり、製造コストの安い薄膜形成プロセスによって製造することができるコストの低減が可能な温度センサを提供することにある。
【0007】
さらに、本発明の目的は、1つの温度センサ内に複数の熱電対を設け、被測定物の複数の場所の温度を測定することができる温度センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するための本発明の温度センサは、可撓性を有する基板上の長手方向に沿って形成され、各々異なる金属からなり、平行に配置された一対の薄膜配線の各々の薄膜配線に、他方の薄膜配線寄りに傾斜する傾斜部を設け、各々の薄膜配線の傾斜部を交差させて電気的に接続してなる熱電対を有する温度センサにおいて、一方の薄膜配線の幅をA、薄膜配線間の距離をBとし、薄膜配線の形成時の位置合わせ誤差をXとしたときに、前記薄膜配線の傾斜部が他方の薄膜配線寄りに傾斜する傾斜角θを θ ≦ tan−1{(A+B)/2X} とした構成を有している。
【0009】
この発明によれば、薄膜配線の先端の傾斜角θをこのような範囲とすることにより、薄膜配線の形成時の位置合わせマージンを十分にとることができる。
【0010】
(2)また、本発明の温度センサは、前記薄膜配線の傾斜部の先端が他方の薄膜配線の傾斜部以外部分を延長させた領域と重なる部分まで形成されている構成を有している。
【0011】
(3)また、本発明の温度センサは、前記基板の幅方向に複数対の前記薄膜配線が形成されており、各薄膜配線の傾斜部が、基板上の長手方向に分散させて配置されている構成を有している。
【0012】
この発明によれば、測定物の面積的な変化または体積的な変化、及び、検査エリアの状況変化など種々の温度検出に用いることができる。
【0013】
(4)また、本発明の温度センサは、前記薄膜配線の傾斜部の先端の、他方の薄膜配線の傾斜部以外の部分を延長させた領域に、当該薄膜配線を延長させた延長部を設けた構成を有している。
【0014】
この発明によれば、製造時に発生するエッチングむらを防止することができるとともに、温度センサ自体の剛性も強化することができる。
【0015】
(5)また、本発明の温度センサは、前記傾斜部と前記延長部が電気的に切断されている構成を有している。
【0016】
この発明によれば、製造時に発生するエッチングむらを防止すること、及び、温度センサ自体の剛性の強化にも寄与することができるとともに、余分な配線が存在することによる電気的な影響を排除し、測定の確実性を向上させることができる。
【0017】
(6)また、本発明の温度センサは、前記薄膜配線の前記傾斜部とは逆の端に、隣り合う配線毎に千鳥状に配置した接点を有し、当該接点が形成されている領域近の基板に、位置合わせ用の孔を設けた構成を有している。
【0018】
この発明によれば、薄膜配線の交差位置とは逆の端、例えば、コネクタとの接触面積を増加させ、接続の確実性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る温度センサは、薄膜配線の形成時の位置合わせマージンを十分にとることにより、歩留まりを向上させて、コストの低減に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る温度センサの一実施形態における温度センサの構造を示す平面図である。
【図2】本発明に係る温度センサの構造を示す断面図である。
【図3】温度センサの製造工程を説明するためのイメージ図である。
【図4】温度センサの製造工程を説明するための断面図である。
【図5】位置合わせマージンを説明するためのイメージ図(その1)である。
【図6】位置合わせマージンを説明するためのイメージ図(その2)である。
【図7】位置合わせマージンを説明するためのイメージ図(その3)である。
【図8】温度センサの温度−電圧特性を示す図である。
【図9】各種熱電対の使用温度領域を示す図である。
【図10】温度センサを用いた温度測定装置の構成を示すブロック図である。
【図11】水位を測定する場合の温度センサの構成例を示す図である。
【図12】水位を測定する場合の温度センサの配置の例を示す図である。
【図13】変形例の温度センサの構成を示す図である。
【図14】変形例の温度センサの構成を示す図である。
【図15】変形例の温度センサの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の各実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
なお、以下に説明する実施形態は、PRT、ポリイミド等の可撓性を有する基板上に薄膜で形成した熱電対を有する温度センサに、本発明を適用した場合の実施形態である。
【0023】
<温度センサの構造>
まずは、図1〜図4の各図を用いて温度センサ1の構造について説明する。なお、図1は、温度センサ1の全体の構成を示す図であり、図2は、温度センサ1の構造を示す断面図である。また、図3は、温度センサ1の製造工程を説明するためのイメージ図であり、R2R法における、基板10の素材のロール5と、形成される各温度センサ1の配置関係を概念的に示す図である。さらに、図4は、温度センサ1の製造工程を説明するための断面図である。
【0024】
この温度センサ1は、PET、ポリイミド等の可撓性を有する素材で形成された基板10と、この基板10上に各々平行に配置された一対の薄膜配線からなる熱電対配線20、30、40とを有している。この基板は、例えば18μm以下、あるいは25μmのものを用いている。熱電対配線20は、基板10上に形成された薄膜からなる配線20aと配線20bを有している。これらの配線20a及び配線20bは50nm〜1μm程度の厚さを有し、例えば一方が銅、他方がコンスタンタンなど、熱電対を構成することが可能な異なる種類の金属で形成されている。なお、この平行とは、薄膜配線が同一平面上において交差しない物理的な平行を含む他に、各薄膜配が、基板上において、他の薄膜配線からほぼ同一の間隔を有して設けられているほぼ平行なものも含まれる。
【0025】
被測定対象物付近に配置される温度センサ1の先端[測定端]側の配線20aは、配線20b寄りに30°傾斜しており、配線20bの測定端側は、配線20a寄りに30°傾斜している。以下、配線20a,20bの傾斜している部分(及び熱電対配線30、40の対応する部分)を傾斜部という。配線20aと配線20bは、図1中のA−A’断面を図2に示すように、配線20aと配線20bが交差する部分(交差部)20eで重なり、電気的に接続されている。交差部20eで電気的に接続された配線20aと配線20bにより、熱電対配線20が熱電対として機能するようになっている。
【0026】
また、温度センサ1の測定端と逆の端(コネクタ端)側の配線20aには外部のコネクタに接続するための接点20cが形成されており、配線20bのコネクタ端側には接点20dが形成されている。
【0027】
また、熱電対配線30は、熱電対配線20と同様に、基板10上に形成された薄膜からなる配線30aと配線30bを有している。配線30aの測定端側は配線30bに対して30°傾斜しており、配線30bの測定端側は配線30aに対して30°傾斜している。これらの配線30aと配線30bとは、上述の配線20a及び配線20bと同様に、交差部30eで電気的に接続されており、熱電対を構成している。また、配線30aのコネクタ端側には外部のコネクタに接続するための接点30cが形成されており、配線30bのコネクタ端側には接点30dが形成されている。
【0028】
同様に、熱電対配線40は、基板10上に形成された薄膜からなる配線40aと配線40bを有している。配線40aの測定端側は配線40bに対して30°傾斜しており、配線40bの測定端側は配線40aに対して30°傾斜している。これらの配線40aと配線40bは交差部40eで電気的に接続されており、熱電対を構成している。配線40aのコネクタ端側には外部のコネクタに接続するための接点40cが形成されており、配線40bのコネクタ端側には接点40dが形成されている。
【0029】
各交差部20e、交差部30e、交差部40eは、温度センサ1の測定端に近い方から順に所定の距離を空けて設けられている。これにより、測定対象物の複数の場所の温度を別々に測定することができるようになっている。
【0030】
また、接点20c、30c、40cと接点20d、30d、40dとは千鳥状に配置されており、各接点の幅は各配線の幅より広くなっている。これにより、コネクタとの接触面積を増加させ、接続の確実性を向上させることができるようになっている。
【0031】
そして、温度センサ1のコネクタ端側の各接点20c、20d、30c、30d、40c、40dが形成されている領域付近(接点が形成されている領域付近であって、コネクタに相対する部分、例えば略中央)に、外部のコネクタと接続する際に位置合わせに用いる、位置合わせ孔11が設けられている。この位置合わせ孔11は、図示しないコネクタ側に設けられた突起と係合するようになっている。これにより、各接点20c、20d、30c、30d、40c、40dのサイズが小さくなっても、確実にコネクタに接続することができるようになっている。なお、この位置合わせ孔11は、接点が形成されている領域付近であって、コネクタに相対する部分であれば、接点が形成されている領域の一端(基板10の幅方向の一端)に設けてもよい。また、位置合わせ孔11は1つでなくてもよく、例えば接点が形成されている領域の両端(基板10の幅方向の両端)あるいは、当該領域の略中央と一端ないし両端に設けてもよい。また、位置合わせ孔11を設ける位置を完全な中央でなく、基板10の幅方向に左右非対称としておけば、コネクタの逆挿し防止の効果もある。
【0032】
また、各熱電対配線20、30、40の表面には、各配線を保護するための保護層12が形成されている。
【0033】
上述のような構成の温度センサ1は、例えばR2R(Roll to Roll)法で製造されている。R2R法では、薄膜形成、保護層形成等の工程全体の前後に基板10の素材のロールを配置し、ロールに巻かれた基板10の素材を順次、各工程の処理部の間で送りながら、製造するようになっている。
【0034】
また、図3に示すように、一般的に提供されている素材のロール5の幅に対し、本実施例の温度センサ1は幅が狭い(例えば5mm〜2cm程度)ため、ロール5の幅方向に複数の温度センサ1(を形成する領域)を配置して製造する。
【0035】
各工程により、例えば図4に示すように、まず、基板10上に下の層の配線20a(30a、40a)を形成し(同図(B))、次に上の層の配線20b(30b、40b)を生成し(同図(C))、さらに、保護層12を形成する(同図(D))。
【0036】
各層の配線(配線20a、30a、40aの層と配線20b、30b、40b)を形成する方法は特に制約されないが、例えば印刷、スパッタ、エッチング等の一般的な成膜技術で形成することができる。これらの成膜技術では、何らかのマスクパターンを用いて配線を形成する領域を選択するようになっている。このマスクパターンとロール5との位置合わせの精度は、マスクパターン(例えばメタルパターンによるマスク、フォトマスク)毎によって異なる。このため、一般的には、製造コストと位置合わせ精度のトレードオフで、選択するようになっている。
【0037】
<精度についての検討>
次に、図5〜図7の各図を用いて本実施形態の温度センサ1において、各層(配線20a、30a、40aの層と配線20b、30b、40b)を形成する際の位置合わせのずれによる影響を検討する。なお、図5〜図7は、位置合わせマージンを説明するためのイメージ図である。
【0038】
R2R法による製造を前提とすると、一般的に、送り方向のずれの方がロール5の幅方向のずれより大きくなるため、送り方向(温度センサ1の長手方向)の位置合わせの精度による影響について検討する。
【0039】
配線20aの測定端側の配線20b側に傾斜する部分の角度を45°とし、配線20bの測定端側の配線20a側に傾斜する部分の角度を45°とすると、位置合わせが正確に行われた場合には、図5中に実線で示すような位置(P0)になる。これに対し、交差部20eで配線20aと配線20bとの十分な電気的な接続が行われている限界まで、配線20bを図上の左に移動すると配線20bの位置は図中で破線で示す位置(P1)となる。また、配線20aと配線20bとの十分な電気的な接続が行われている限界まで、配線20bを図上の右に移動すると配線20bの位置は図中で一点鎖線で示す位置(P2)となる。したがって、配線20aと配線20bの位置合わせマージンは、P0とP1の間の間隔:Y(P0とP2の間隔:−Y)となる。
【0040】
ここで、配線20a(及び配線20b)の線幅をAとし、配線間のスペースをBとし、傾斜部分の角度をθとすると、マージンYは次の(1)式で求められる。
【0041】
Y = (A+B)/tanθ ・・・(1)
【0042】
線幅AとスペースBが同じ幅(例えば1mm)だとすると、上述の図5に示す配線20a、配線20bの傾斜角が45°の場合には、(1)式からマージンYは2mmとなる。また、図6に示す配線20a、配線20bの傾斜角が30°の場合には、(1)式からマージンYは3.5mmとなり、図7に示す配線20a、配線20bの傾斜角が15°の場合には、(1)式からマージンYは7.5mm程度となる。
【0043】
このように、配線20a、配線20bの傾斜角を小さくすることにより、マージンYを大きくとることができるようになっているので、製造時の位置合わせ誤差に応じて、配線20a、配線20bの傾斜角を選択する。
【0044】
また、マージンを特定の値Yとしたい場合のθは次の(2)式で求めることができる。
【0045】
θ = tan−1{(A+B)/Y} ・・・(2)
【0046】
基板10の基材の伸び等の影響も含め、位置合わせの精度X(±X)の2倍のマージンY(±Y)とすれば、上述の(2)式は、以下の(3)式となる
【0047】
θ = tan−1{(A+B)/2X} ・・・(3)
【0048】
例えば線幅Aが0.3mm、スペースBが0.5mm、位置合わせ精度が0.5mm程度となる場合には、
θ=tan−1{(0.3+0.5)/1} = 38.6°となる。
【0049】
また、例えば線幅Aが0.5mm、スペースBが1mm、位置合わせ精度が1mm程度となる場合には、
θ=tan−1{(0.5+1)/2} = 36.8°となる。
【0050】
また、例えば線幅Aが0.5mm、スペースBが0.2mm、位置合わせ精度が0.2mm程度となる場合には、
θ=tan−1{(0.5+0.2)/0.4} = 33.7°となる。
【0051】
一般的なマスクパターンの(ロール5の送り方向の)位置合わせ精度は、概ね以下の値として知られている。
メタルマスク :±1mm
フォトマスク :安価±10μm、高精度:ステッパを用いて0.01μm程度。
シルク印刷 :安価±0.5mm 高精度:±0.01〜0.025mm
スクリーン印刷:安価±0.1mm 高精度:±10μm
【0052】
例えば最も製造コストの安いメタルマスクを用い、線幅Aを1mm、スペースBを1mmとした場合には、
θ=tan−1{(1+1)/2} = 45.0°となる。
【0053】
従って、配線20a、配線20bの先端の傾斜角を45°としておけば、製造時の位置合わせのずれを許容することができ、歩留まりの向上に寄与することができる。さらに傾斜角を30°程度とすれば、さらに許容度が向上し、さらなる歩留まりの向上が可能になる。さらに、同様な構成で、位置合わせ精度が例えば±2mmであった場合には、
θ=tan−1{(1+1)/4} = 26.6°となるため、配線20a、配線20bの先端の傾斜角を25°以下程度とする。
【0054】
また、同様にメタルマスクを用い、線幅Aを0.5mm、スペースBを0.5mmとした場合では、
θ=tan−1{(0.5+0.5)/2} = 26.6°となる。
【0055】
従って、配線20a、配線20bの先端の傾斜角を25°以下程度としておけば、製造時の位置合わせのずれを許容することができ、歩留まりの向上に寄与することができる。
【0056】
さらに、上述のように、歩留まりを向上させることができれば、位置合わせのマージンに余裕ができるため、位置合わせ精度の悪い、すなわち、製造コストの安い薄膜形成プロセスによって製造することができる。これにより、コストを低減させることができる。
【0057】
<温度特性・使用方法>
次に、図8〜図10の各図を用いて本実施形態の温度センサ1における温度特性及び使用方法について説明する。なお、図8は、温度センサ1の温度−電圧特性を示す図であり、図9は、各種熱電対の使用温度領域を示す図である。また、図10は、温度センサ1を用いた温度測定装置の構成を示すブロック図である。
【0058】
上述のように構成された温度センサ1は、例えば配線20a、20bとして銅・コンスタンタンを用いたT型(薄膜)熱電対の場合には図8中に実線で示すような特性を有する。なお、薄膜熱電対の特性は、薄膜の抵抗成分の影響で、同図中に破線で示す通常のT型熱電対の特性とは若干異なっている。
【0059】
図9に示すように、JISで規定されている熱電対は、以下のような型に分類される。
K型:クロメル−アルメル
J型:鉄−コンスタンタン
T型:銅−コンスタンタン
E型:クロメル−コンスタンタン
N型:ナイクロシル−ナイシル
R型:Pt13%Rh−Pt
S型:Pt10%Rh−Pt
B型:Pt30%Rh−Pt6%Rh
【0060】
この図9に示すように、上述のT型(薄膜)熱電対は、他の型の熱電対より温度範囲が狭い。しかしながら、このT型(薄膜)熱電対は製造上のコストが安い。このため、T型(薄膜)熱電対を用いることにより、温度センサ1の製造コストを低減させることができる。
【0061】
この温度センサ1は、例えば図10に示すような温度測定装置に接続して使用される。この温度測定装置は、温度センサ1からの信号を増幅してAD変換する信号増幅AD変換部61と、所定の時間毎にAD変換されたデータを処理して温度を求め、メモリ63に格納する計算処理部62と、メモリ63に格納された現在の温度Tnと過去の所定の時間前の温度Tn−1との変化量を求め、所定の条件を満たす場合には、音声、光等によって警告表示を行う検知部64とを備えている。
【0062】
計算処理部62は、例えば1秒毎に、信号増幅AD変換部61から供給されるAD変換された電圧のデータから温度を求め、求めた温度をメモリ63に格納する。計算処理部64は、メモリ63に格納された温度を監視しており、現在の温度と1秒前の温度を読み出し、所定の温度範囲(例えば±1℃)以上変化しているか否かを判断し、変化していなければ、さらに監視を続ける。現在の温度が1秒前の温度から±1℃以上変化している場合には、検知部64に音声、光等による警告表示を行わせる。これにより、使用者は、被測定物の温度が変化したことを容易に知ることができる。
【0063】
薄膜熱電対は、熱容量が小さいため、応答時間が早く、このような1秒程度の間の温度変化にも対応できる。また、±1℃程度の温度変化を検出するだけであれば、それ程高精度の熱電対は必要なく、上述の図9に示す熱電対から、被測定物の温度範囲に対して適切な測定温度領域でコストの安い熱電対を用いることも可能である。また、被測定物に応じて温度範囲を限定してもよい。例えばワインの温度管理等では、被測定物であるワインの温度範囲と製造コスト等を勘案して適切な熱電対を選択し、例えば14℃前後で、1秒間に±1℃の温度変化があった場合に、警告表示を行わせるようにしてもよい。これにより、被測定物(例えばワイン等)毎に適切な温度変化を検出することができる。従って、簡易な構成によって的確に温度を検出することができる熱電対を用いることにより、製造上のコストを低減させることができる。
【0064】
<変形例1>
次に、図11及び図12を用いて本実施形態の温度センサ1における変形例1について説明する。なお、図11は、このような用途に用いる場合の温度センサ1の構成例を示す図であり、図12は、水位を測定する場合の温度センサ1の配置の例を示す図である。また、この実施例の温度センサ1は、例えば容器内の液面の検出等にも使うことができる。
【0065】
この図では、4つの熱電対配線を設け、全体の長さが1000mmで各交差部20e、30e、40e、50eの間の間隔が50mm〜100mmである場合を想定している。各熱電対配線20、30、40、50を構成する配線等の製造方法は、上述の説明と同様である。
【0066】
この温度センサ1を用いた測定装置を検討する際には、例えば図12に示すように、対象となる容器の大きさ、液面の高さ等に応じて各熱電対配線20、30、40、50の交差部20e、30e、40e、50eの間の間隔、熱電対配線の数等を選択する。そして、液面の監視を行うには、このようなセンサを容器に取り付け、各熱電対配線20、30、40、50の電圧を監視する。各交差部20e、30e、40e、50e付近の温度は、容器内液体の水位がそこまであれば、液体の温度となり、水位がそこまでなければ、気体(周囲の雰囲気)の温度となる。したがって、各熱電対配線20、30、40、50の電圧を監視し、温度を確認することにより、容器内の大まかな水位を測定することができる。
【0067】
<変形例2>
次に、図13を用いて本実施形態の温度センサ1における変形例2について説明する。なお、図13は、温度センサ1の他の構成例を示している。
【0068】
上述の図1、図11等では、配線20a(30a、40a)と配線20b(30b、40b)の傾斜部の先に配線20a(30a、40a)あるいは配線20b(30b、40b)の配線はなかったが、特にエッチングによってこのような配線だけを残そうとすると、傾斜部の先の部分の導体をエッチングで除去する必要があり、エッチングに時間がかかる。また、エッチングむらによって、一部の配線が細くなることも生じる。
【0069】
この図13に示す温度センサ1では、配線20a(30a、40a)の傾斜部の先端の、配線20b(30b、40b)の平行部分(傾斜部以外の部分であって、配線20a(30a、40a)と配線20b(30b、40b)が平行に形成されている部分)を延長させた領域に、配線20aを延長させた延長部を設けている。さらに、この温度センサ1では、配線20b(30b、40b)の傾斜部の先端の、配線20a(30a、40a)の平行部分を延長させた領域に、配線20aを延長させた延長部を設けている。
【0070】
この温度センサ1のように、傾斜部の先端の部分の導体を配線として残しておくようにすれば、エッチングむらを防止することができるとともに、温度センサ1自体の剛性も強化することができる。
【0071】
<変形例3>
次に、図14を用いて本実施形態の温度センサ1における変形例3について説明する。なお、図14は、温度センサ1の他の構成例を示している。
【0072】
この図14に示す構成では、傾斜部の先に、残りの配線を電気的に切り離す切断部20f、30f、40fを設けたことを特徴とする。このような構成により、エッチングむらを防止することができ、温度センサ1自体の剛性の強化にも寄与することができると共に、傾斜部の先の配線を切り離すことにより、測定の確実性を向上させることができる。さらに、特に保護層12を設けない場合等において、傾斜部の先でショートしてしまった場合でも、測定に影響を与えることを防止することができる。
【0073】
<変形例4>
次に、図15を用いて本実施形態の温度センサ1における変形例3について説明する。なお、図15は、温度センサ1の他の構成例を示している。
【0074】
この図15に示す構成では、配線20a、20bの傾斜部の先端を他方の配線20b、20aの平行部分(傾斜部以外の部分であって、配線20a(30a、40a)と配線20b(30b、40b)が平行に形成されている部分)を延長した領域と重なる部分まで形成したことを特徴とする。このような構成としたことにより、配線20bが位置合わせマージンの左の限界(同図中の位置P1)までずれた場合であっても、配線20aと配線20bの接続面積を十分確保することができ、位置合わせマージンをさらに拡大することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 … 温度センサ
10 … 基板
20 … 熱電対
20a … 配線
20a … 配線
20c … 接点
20d … 接点
20e … 交差点
20f … 切断部
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば可撓性を有する基板上に薄膜により熱電対を形成した温度センサの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金属や半導体の基板上に異なる金属の薄膜を形成し、熱電対を構成する技術が知られている(例えば特許文献1)。また、ポリイミド等の可撓性を有する基板上に薄膜で熱電対を形成することにより、省スペース、高速応答を実現した温度センサが知られている(例えば非特許文献1及び非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−190735号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】理化工業株式会社 製品型番「ST−50/51Series」 2009年7月発行のカタログ
【非特許文献2】ジオマテック株式会社 製品型番「G−STD−N/G−STD−S」 2010年3月23日作成の取扱説明書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基板上に熱電対の配線を作成する際には、それ程、細かくないパターンであれば、メタルマスクを用いたスパッタリング等でも可能であるが、例えば50μm以下程度の微細なパターンになると、フォトマスクを用いて配線層の上に形成したレジストを感光させ、所定の部分のみ除去して配線層を選択的にエッチングするといった方法になる。しかしながら、このフォトマスクの位置合わせ精度は高いものの、製造コストも高くなってしまう。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、製造時のマスクパターンの位置合わせのマージンに余裕があり、製造コストの安い薄膜形成プロセスによって製造することができるコストの低減が可能な温度センサを提供することにある。
【0007】
さらに、本発明の目的は、1つの温度センサ内に複数の熱電対を設け、被測定物の複数の場所の温度を測定することができる温度センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するための本発明の温度センサは、可撓性を有する基板上の長手方向に沿って形成され、各々異なる金属からなり、平行に配置された一対の薄膜配線の各々の薄膜配線に、他方の薄膜配線寄りに傾斜する傾斜部を設け、各々の薄膜配線の傾斜部を交差させて電気的に接続してなる熱電対を有する温度センサにおいて、一方の薄膜配線の幅をA、薄膜配線間の距離をBとし、薄膜配線の形成時の位置合わせ誤差をXとしたときに、前記薄膜配線の傾斜部が他方の薄膜配線寄りに傾斜する傾斜角θを θ ≦ tan−1{(A+B)/2X} とした構成を有している。
【0009】
この発明によれば、薄膜配線の先端の傾斜角θをこのような範囲とすることにより、薄膜配線の形成時の位置合わせマージンを十分にとることができる。
【0010】
(2)また、本発明の温度センサは、前記薄膜配線の傾斜部の先端が他方の薄膜配線の傾斜部以外部分を延長させた領域と重なる部分まで形成されている構成を有している。
【0011】
(3)また、本発明の温度センサは、前記基板の幅方向に複数対の前記薄膜配線が形成されており、各薄膜配線の傾斜部が、基板上の長手方向に分散させて配置されている構成を有している。
【0012】
この発明によれば、測定物の面積的な変化または体積的な変化、及び、検査エリアの状況変化など種々の温度検出に用いることができる。
【0013】
(4)また、本発明の温度センサは、前記薄膜配線の傾斜部の先端の、他方の薄膜配線の傾斜部以外の部分を延長させた領域に、当該薄膜配線を延長させた延長部を設けた構成を有している。
【0014】
この発明によれば、製造時に発生するエッチングむらを防止することができるとともに、温度センサ自体の剛性も強化することができる。
【0015】
(5)また、本発明の温度センサは、前記傾斜部と前記延長部が電気的に切断されている構成を有している。
【0016】
この発明によれば、製造時に発生するエッチングむらを防止すること、及び、温度センサ自体の剛性の強化にも寄与することができるとともに、余分な配線が存在することによる電気的な影響を排除し、測定の確実性を向上させることができる。
【0017】
(6)また、本発明の温度センサは、前記薄膜配線の前記傾斜部とは逆の端に、隣り合う配線毎に千鳥状に配置した接点を有し、当該接点が形成されている領域近の基板に、位置合わせ用の孔を設けた構成を有している。
【0018】
この発明によれば、薄膜配線の交差位置とは逆の端、例えば、コネクタとの接触面積を増加させ、接続の確実性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る温度センサは、薄膜配線の形成時の位置合わせマージンを十分にとることにより、歩留まりを向上させて、コストの低減に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る温度センサの一実施形態における温度センサの構造を示す平面図である。
【図2】本発明に係る温度センサの構造を示す断面図である。
【図3】温度センサの製造工程を説明するためのイメージ図である。
【図4】温度センサの製造工程を説明するための断面図である。
【図5】位置合わせマージンを説明するためのイメージ図(その1)である。
【図6】位置合わせマージンを説明するためのイメージ図(その2)である。
【図7】位置合わせマージンを説明するためのイメージ図(その3)である。
【図8】温度センサの温度−電圧特性を示す図である。
【図9】各種熱電対の使用温度領域を示す図である。
【図10】温度センサを用いた温度測定装置の構成を示すブロック図である。
【図11】水位を測定する場合の温度センサの構成例を示す図である。
【図12】水位を測定する場合の温度センサの配置の例を示す図である。
【図13】変形例の温度センサの構成を示す図である。
【図14】変形例の温度センサの構成を示す図である。
【図15】変形例の温度センサの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の各実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
なお、以下に説明する実施形態は、PRT、ポリイミド等の可撓性を有する基板上に薄膜で形成した熱電対を有する温度センサに、本発明を適用した場合の実施形態である。
【0023】
<温度センサの構造>
まずは、図1〜図4の各図を用いて温度センサ1の構造について説明する。なお、図1は、温度センサ1の全体の構成を示す図であり、図2は、温度センサ1の構造を示す断面図である。また、図3は、温度センサ1の製造工程を説明するためのイメージ図であり、R2R法における、基板10の素材のロール5と、形成される各温度センサ1の配置関係を概念的に示す図である。さらに、図4は、温度センサ1の製造工程を説明するための断面図である。
【0024】
この温度センサ1は、PET、ポリイミド等の可撓性を有する素材で形成された基板10と、この基板10上に各々平行に配置された一対の薄膜配線からなる熱電対配線20、30、40とを有している。この基板は、例えば18μm以下、あるいは25μmのものを用いている。熱電対配線20は、基板10上に形成された薄膜からなる配線20aと配線20bを有している。これらの配線20a及び配線20bは50nm〜1μm程度の厚さを有し、例えば一方が銅、他方がコンスタンタンなど、熱電対を構成することが可能な異なる種類の金属で形成されている。なお、この平行とは、薄膜配線が同一平面上において交差しない物理的な平行を含む他に、各薄膜配が、基板上において、他の薄膜配線からほぼ同一の間隔を有して設けられているほぼ平行なものも含まれる。
【0025】
被測定対象物付近に配置される温度センサ1の先端[測定端]側の配線20aは、配線20b寄りに30°傾斜しており、配線20bの測定端側は、配線20a寄りに30°傾斜している。以下、配線20a,20bの傾斜している部分(及び熱電対配線30、40の対応する部分)を傾斜部という。配線20aと配線20bは、図1中のA−A’断面を図2に示すように、配線20aと配線20bが交差する部分(交差部)20eで重なり、電気的に接続されている。交差部20eで電気的に接続された配線20aと配線20bにより、熱電対配線20が熱電対として機能するようになっている。
【0026】
また、温度センサ1の測定端と逆の端(コネクタ端)側の配線20aには外部のコネクタに接続するための接点20cが形成されており、配線20bのコネクタ端側には接点20dが形成されている。
【0027】
また、熱電対配線30は、熱電対配線20と同様に、基板10上に形成された薄膜からなる配線30aと配線30bを有している。配線30aの測定端側は配線30bに対して30°傾斜しており、配線30bの測定端側は配線30aに対して30°傾斜している。これらの配線30aと配線30bとは、上述の配線20a及び配線20bと同様に、交差部30eで電気的に接続されており、熱電対を構成している。また、配線30aのコネクタ端側には外部のコネクタに接続するための接点30cが形成されており、配線30bのコネクタ端側には接点30dが形成されている。
【0028】
同様に、熱電対配線40は、基板10上に形成された薄膜からなる配線40aと配線40bを有している。配線40aの測定端側は配線40bに対して30°傾斜しており、配線40bの測定端側は配線40aに対して30°傾斜している。これらの配線40aと配線40bは交差部40eで電気的に接続されており、熱電対を構成している。配線40aのコネクタ端側には外部のコネクタに接続するための接点40cが形成されており、配線40bのコネクタ端側には接点40dが形成されている。
【0029】
各交差部20e、交差部30e、交差部40eは、温度センサ1の測定端に近い方から順に所定の距離を空けて設けられている。これにより、測定対象物の複数の場所の温度を別々に測定することができるようになっている。
【0030】
また、接点20c、30c、40cと接点20d、30d、40dとは千鳥状に配置されており、各接点の幅は各配線の幅より広くなっている。これにより、コネクタとの接触面積を増加させ、接続の確実性を向上させることができるようになっている。
【0031】
そして、温度センサ1のコネクタ端側の各接点20c、20d、30c、30d、40c、40dが形成されている領域付近(接点が形成されている領域付近であって、コネクタに相対する部分、例えば略中央)に、外部のコネクタと接続する際に位置合わせに用いる、位置合わせ孔11が設けられている。この位置合わせ孔11は、図示しないコネクタ側に設けられた突起と係合するようになっている。これにより、各接点20c、20d、30c、30d、40c、40dのサイズが小さくなっても、確実にコネクタに接続することができるようになっている。なお、この位置合わせ孔11は、接点が形成されている領域付近であって、コネクタに相対する部分であれば、接点が形成されている領域の一端(基板10の幅方向の一端)に設けてもよい。また、位置合わせ孔11は1つでなくてもよく、例えば接点が形成されている領域の両端(基板10の幅方向の両端)あるいは、当該領域の略中央と一端ないし両端に設けてもよい。また、位置合わせ孔11を設ける位置を完全な中央でなく、基板10の幅方向に左右非対称としておけば、コネクタの逆挿し防止の効果もある。
【0032】
また、各熱電対配線20、30、40の表面には、各配線を保護するための保護層12が形成されている。
【0033】
上述のような構成の温度センサ1は、例えばR2R(Roll to Roll)法で製造されている。R2R法では、薄膜形成、保護層形成等の工程全体の前後に基板10の素材のロールを配置し、ロールに巻かれた基板10の素材を順次、各工程の処理部の間で送りながら、製造するようになっている。
【0034】
また、図3に示すように、一般的に提供されている素材のロール5の幅に対し、本実施例の温度センサ1は幅が狭い(例えば5mm〜2cm程度)ため、ロール5の幅方向に複数の温度センサ1(を形成する領域)を配置して製造する。
【0035】
各工程により、例えば図4に示すように、まず、基板10上に下の層の配線20a(30a、40a)を形成し(同図(B))、次に上の層の配線20b(30b、40b)を生成し(同図(C))、さらに、保護層12を形成する(同図(D))。
【0036】
各層の配線(配線20a、30a、40aの層と配線20b、30b、40b)を形成する方法は特に制約されないが、例えば印刷、スパッタ、エッチング等の一般的な成膜技術で形成することができる。これらの成膜技術では、何らかのマスクパターンを用いて配線を形成する領域を選択するようになっている。このマスクパターンとロール5との位置合わせの精度は、マスクパターン(例えばメタルパターンによるマスク、フォトマスク)毎によって異なる。このため、一般的には、製造コストと位置合わせ精度のトレードオフで、選択するようになっている。
【0037】
<精度についての検討>
次に、図5〜図7の各図を用いて本実施形態の温度センサ1において、各層(配線20a、30a、40aの層と配線20b、30b、40b)を形成する際の位置合わせのずれによる影響を検討する。なお、図5〜図7は、位置合わせマージンを説明するためのイメージ図である。
【0038】
R2R法による製造を前提とすると、一般的に、送り方向のずれの方がロール5の幅方向のずれより大きくなるため、送り方向(温度センサ1の長手方向)の位置合わせの精度による影響について検討する。
【0039】
配線20aの測定端側の配線20b側に傾斜する部分の角度を45°とし、配線20bの測定端側の配線20a側に傾斜する部分の角度を45°とすると、位置合わせが正確に行われた場合には、図5中に実線で示すような位置(P0)になる。これに対し、交差部20eで配線20aと配線20bとの十分な電気的な接続が行われている限界まで、配線20bを図上の左に移動すると配線20bの位置は図中で破線で示す位置(P1)となる。また、配線20aと配線20bとの十分な電気的な接続が行われている限界まで、配線20bを図上の右に移動すると配線20bの位置は図中で一点鎖線で示す位置(P2)となる。したがって、配線20aと配線20bの位置合わせマージンは、P0とP1の間の間隔:Y(P0とP2の間隔:−Y)となる。
【0040】
ここで、配線20a(及び配線20b)の線幅をAとし、配線間のスペースをBとし、傾斜部分の角度をθとすると、マージンYは次の(1)式で求められる。
【0041】
Y = (A+B)/tanθ ・・・(1)
【0042】
線幅AとスペースBが同じ幅(例えば1mm)だとすると、上述の図5に示す配線20a、配線20bの傾斜角が45°の場合には、(1)式からマージンYは2mmとなる。また、図6に示す配線20a、配線20bの傾斜角が30°の場合には、(1)式からマージンYは3.5mmとなり、図7に示す配線20a、配線20bの傾斜角が15°の場合には、(1)式からマージンYは7.5mm程度となる。
【0043】
このように、配線20a、配線20bの傾斜角を小さくすることにより、マージンYを大きくとることができるようになっているので、製造時の位置合わせ誤差に応じて、配線20a、配線20bの傾斜角を選択する。
【0044】
また、マージンを特定の値Yとしたい場合のθは次の(2)式で求めることができる。
【0045】
θ = tan−1{(A+B)/Y} ・・・(2)
【0046】
基板10の基材の伸び等の影響も含め、位置合わせの精度X(±X)の2倍のマージンY(±Y)とすれば、上述の(2)式は、以下の(3)式となる
【0047】
θ = tan−1{(A+B)/2X} ・・・(3)
【0048】
例えば線幅Aが0.3mm、スペースBが0.5mm、位置合わせ精度が0.5mm程度となる場合には、
θ=tan−1{(0.3+0.5)/1} = 38.6°となる。
【0049】
また、例えば線幅Aが0.5mm、スペースBが1mm、位置合わせ精度が1mm程度となる場合には、
θ=tan−1{(0.5+1)/2} = 36.8°となる。
【0050】
また、例えば線幅Aが0.5mm、スペースBが0.2mm、位置合わせ精度が0.2mm程度となる場合には、
θ=tan−1{(0.5+0.2)/0.4} = 33.7°となる。
【0051】
一般的なマスクパターンの(ロール5の送り方向の)位置合わせ精度は、概ね以下の値として知られている。
メタルマスク :±1mm
フォトマスク :安価±10μm、高精度:ステッパを用いて0.01μm程度。
シルク印刷 :安価±0.5mm 高精度:±0.01〜0.025mm
スクリーン印刷:安価±0.1mm 高精度:±10μm
【0052】
例えば最も製造コストの安いメタルマスクを用い、線幅Aを1mm、スペースBを1mmとした場合には、
θ=tan−1{(1+1)/2} = 45.0°となる。
【0053】
従って、配線20a、配線20bの先端の傾斜角を45°としておけば、製造時の位置合わせのずれを許容することができ、歩留まりの向上に寄与することができる。さらに傾斜角を30°程度とすれば、さらに許容度が向上し、さらなる歩留まりの向上が可能になる。さらに、同様な構成で、位置合わせ精度が例えば±2mmであった場合には、
θ=tan−1{(1+1)/4} = 26.6°となるため、配線20a、配線20bの先端の傾斜角を25°以下程度とする。
【0054】
また、同様にメタルマスクを用い、線幅Aを0.5mm、スペースBを0.5mmとした場合では、
θ=tan−1{(0.5+0.5)/2} = 26.6°となる。
【0055】
従って、配線20a、配線20bの先端の傾斜角を25°以下程度としておけば、製造時の位置合わせのずれを許容することができ、歩留まりの向上に寄与することができる。
【0056】
さらに、上述のように、歩留まりを向上させることができれば、位置合わせのマージンに余裕ができるため、位置合わせ精度の悪い、すなわち、製造コストの安い薄膜形成プロセスによって製造することができる。これにより、コストを低減させることができる。
【0057】
<温度特性・使用方法>
次に、図8〜図10の各図を用いて本実施形態の温度センサ1における温度特性及び使用方法について説明する。なお、図8は、温度センサ1の温度−電圧特性を示す図であり、図9は、各種熱電対の使用温度領域を示す図である。また、図10は、温度センサ1を用いた温度測定装置の構成を示すブロック図である。
【0058】
上述のように構成された温度センサ1は、例えば配線20a、20bとして銅・コンスタンタンを用いたT型(薄膜)熱電対の場合には図8中に実線で示すような特性を有する。なお、薄膜熱電対の特性は、薄膜の抵抗成分の影響で、同図中に破線で示す通常のT型熱電対の特性とは若干異なっている。
【0059】
図9に示すように、JISで規定されている熱電対は、以下のような型に分類される。
K型:クロメル−アルメル
J型:鉄−コンスタンタン
T型:銅−コンスタンタン
E型:クロメル−コンスタンタン
N型:ナイクロシル−ナイシル
R型:Pt13%Rh−Pt
S型:Pt10%Rh−Pt
B型:Pt30%Rh−Pt6%Rh
【0060】
この図9に示すように、上述のT型(薄膜)熱電対は、他の型の熱電対より温度範囲が狭い。しかしながら、このT型(薄膜)熱電対は製造上のコストが安い。このため、T型(薄膜)熱電対を用いることにより、温度センサ1の製造コストを低減させることができる。
【0061】
この温度センサ1は、例えば図10に示すような温度測定装置に接続して使用される。この温度測定装置は、温度センサ1からの信号を増幅してAD変換する信号増幅AD変換部61と、所定の時間毎にAD変換されたデータを処理して温度を求め、メモリ63に格納する計算処理部62と、メモリ63に格納された現在の温度Tnと過去の所定の時間前の温度Tn−1との変化量を求め、所定の条件を満たす場合には、音声、光等によって警告表示を行う検知部64とを備えている。
【0062】
計算処理部62は、例えば1秒毎に、信号増幅AD変換部61から供給されるAD変換された電圧のデータから温度を求め、求めた温度をメモリ63に格納する。計算処理部64は、メモリ63に格納された温度を監視しており、現在の温度と1秒前の温度を読み出し、所定の温度範囲(例えば±1℃)以上変化しているか否かを判断し、変化していなければ、さらに監視を続ける。現在の温度が1秒前の温度から±1℃以上変化している場合には、検知部64に音声、光等による警告表示を行わせる。これにより、使用者は、被測定物の温度が変化したことを容易に知ることができる。
【0063】
薄膜熱電対は、熱容量が小さいため、応答時間が早く、このような1秒程度の間の温度変化にも対応できる。また、±1℃程度の温度変化を検出するだけであれば、それ程高精度の熱電対は必要なく、上述の図9に示す熱電対から、被測定物の温度範囲に対して適切な測定温度領域でコストの安い熱電対を用いることも可能である。また、被測定物に応じて温度範囲を限定してもよい。例えばワインの温度管理等では、被測定物であるワインの温度範囲と製造コスト等を勘案して適切な熱電対を選択し、例えば14℃前後で、1秒間に±1℃の温度変化があった場合に、警告表示を行わせるようにしてもよい。これにより、被測定物(例えばワイン等)毎に適切な温度変化を検出することができる。従って、簡易な構成によって的確に温度を検出することができる熱電対を用いることにより、製造上のコストを低減させることができる。
【0064】
<変形例1>
次に、図11及び図12を用いて本実施形態の温度センサ1における変形例1について説明する。なお、図11は、このような用途に用いる場合の温度センサ1の構成例を示す図であり、図12は、水位を測定する場合の温度センサ1の配置の例を示す図である。また、この実施例の温度センサ1は、例えば容器内の液面の検出等にも使うことができる。
【0065】
この図では、4つの熱電対配線を設け、全体の長さが1000mmで各交差部20e、30e、40e、50eの間の間隔が50mm〜100mmである場合を想定している。各熱電対配線20、30、40、50を構成する配線等の製造方法は、上述の説明と同様である。
【0066】
この温度センサ1を用いた測定装置を検討する際には、例えば図12に示すように、対象となる容器の大きさ、液面の高さ等に応じて各熱電対配線20、30、40、50の交差部20e、30e、40e、50eの間の間隔、熱電対配線の数等を選択する。そして、液面の監視を行うには、このようなセンサを容器に取り付け、各熱電対配線20、30、40、50の電圧を監視する。各交差部20e、30e、40e、50e付近の温度は、容器内液体の水位がそこまであれば、液体の温度となり、水位がそこまでなければ、気体(周囲の雰囲気)の温度となる。したがって、各熱電対配線20、30、40、50の電圧を監視し、温度を確認することにより、容器内の大まかな水位を測定することができる。
【0067】
<変形例2>
次に、図13を用いて本実施形態の温度センサ1における変形例2について説明する。なお、図13は、温度センサ1の他の構成例を示している。
【0068】
上述の図1、図11等では、配線20a(30a、40a)と配線20b(30b、40b)の傾斜部の先に配線20a(30a、40a)あるいは配線20b(30b、40b)の配線はなかったが、特にエッチングによってこのような配線だけを残そうとすると、傾斜部の先の部分の導体をエッチングで除去する必要があり、エッチングに時間がかかる。また、エッチングむらによって、一部の配線が細くなることも生じる。
【0069】
この図13に示す温度センサ1では、配線20a(30a、40a)の傾斜部の先端の、配線20b(30b、40b)の平行部分(傾斜部以外の部分であって、配線20a(30a、40a)と配線20b(30b、40b)が平行に形成されている部分)を延長させた領域に、配線20aを延長させた延長部を設けている。さらに、この温度センサ1では、配線20b(30b、40b)の傾斜部の先端の、配線20a(30a、40a)の平行部分を延長させた領域に、配線20aを延長させた延長部を設けている。
【0070】
この温度センサ1のように、傾斜部の先端の部分の導体を配線として残しておくようにすれば、エッチングむらを防止することができるとともに、温度センサ1自体の剛性も強化することができる。
【0071】
<変形例3>
次に、図14を用いて本実施形態の温度センサ1における変形例3について説明する。なお、図14は、温度センサ1の他の構成例を示している。
【0072】
この図14に示す構成では、傾斜部の先に、残りの配線を電気的に切り離す切断部20f、30f、40fを設けたことを特徴とする。このような構成により、エッチングむらを防止することができ、温度センサ1自体の剛性の強化にも寄与することができると共に、傾斜部の先の配線を切り離すことにより、測定の確実性を向上させることができる。さらに、特に保護層12を設けない場合等において、傾斜部の先でショートしてしまった場合でも、測定に影響を与えることを防止することができる。
【0073】
<変形例4>
次に、図15を用いて本実施形態の温度センサ1における変形例3について説明する。なお、図15は、温度センサ1の他の構成例を示している。
【0074】
この図15に示す構成では、配線20a、20bの傾斜部の先端を他方の配線20b、20aの平行部分(傾斜部以外の部分であって、配線20a(30a、40a)と配線20b(30b、40b)が平行に形成されている部分)を延長した領域と重なる部分まで形成したことを特徴とする。このような構成としたことにより、配線20bが位置合わせマージンの左の限界(同図中の位置P1)までずれた場合であっても、配線20aと配線20bの接続面積を十分確保することができ、位置合わせマージンをさらに拡大することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 … 温度センサ
10 … 基板
20 … 熱電対
20a … 配線
20a … 配線
20c … 接点
20d … 接点
20e … 交差点
20f … 切断部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する基板上の長手方向に沿って形成され、各々異なる金属からなり、平行に配置された一対の薄膜配線の各々の薄膜配線に、他方の薄膜配線寄りに傾斜する傾斜部を設け、各々の薄膜配線の傾斜部を交差させて電気的に接続してなる熱電対を有する温度センサにおいて、
一方の薄膜配線の幅をA、薄膜配線間の距離をBとし、薄膜配線の形成時の位置合わせ誤差をXとしたときに、前記薄膜配線の傾斜部が他方の薄膜配線寄りに傾斜する傾斜角θを
θ ≦ tan−1{(A+B)/2X}
としたことを特徴とする温度センサ。
【請求項2】
請求項1記載の温度センサにおいて、
前記薄膜配線の傾斜部の先端を他方の薄膜配線の傾斜部以外の部分を延長させた領域と重なる部分まで形成した、温度センサ。
【請求項3】
請求項1記載の温度センサにおいて、
前記基板の幅方向に複数対の前記薄膜配線が形成されており、各薄膜配線の傾斜部が、基板上の長手方向に分散させて配置されている、温度センサ。
【請求項4】
請求項3記載の温度センサにおいて、
前記薄膜配線の傾斜部の先端の、他方の薄膜配線の傾斜部以外の部分を延長させた領域に、当該薄膜配線を延長させた延長部を設けた、温度センサ。
【請求項5】
請求項4記載の温度センサにおいて、
前記傾斜部と前記延長部が電気的に切断されていることを特徴とする温度センサ。
【請求項6】
請求項1記載の温度センサにおいて、
前記薄膜配線の前記傾斜部とは逆の端に、隣り合う配線毎に千鳥状に配置した接点を有し、
当該接点が形成されている領域付近の基板に、位置合わせ用の孔が設けられていることを特徴とする温度センサ。
【請求項1】
可撓性を有する基板上の長手方向に沿って形成され、各々異なる金属からなり、平行に配置された一対の薄膜配線の各々の薄膜配線に、他方の薄膜配線寄りに傾斜する傾斜部を設け、各々の薄膜配線の傾斜部を交差させて電気的に接続してなる熱電対を有する温度センサにおいて、
一方の薄膜配線の幅をA、薄膜配線間の距離をBとし、薄膜配線の形成時の位置合わせ誤差をXとしたときに、前記薄膜配線の傾斜部が他方の薄膜配線寄りに傾斜する傾斜角θを
θ ≦ tan−1{(A+B)/2X}
としたことを特徴とする温度センサ。
【請求項2】
請求項1記載の温度センサにおいて、
前記薄膜配線の傾斜部の先端を他方の薄膜配線の傾斜部以外の部分を延長させた領域と重なる部分まで形成した、温度センサ。
【請求項3】
請求項1記載の温度センサにおいて、
前記基板の幅方向に複数対の前記薄膜配線が形成されており、各薄膜配線の傾斜部が、基板上の長手方向に分散させて配置されている、温度センサ。
【請求項4】
請求項3記載の温度センサにおいて、
前記薄膜配線の傾斜部の先端の、他方の薄膜配線の傾斜部以外の部分を延長させた領域に、当該薄膜配線を延長させた延長部を設けた、温度センサ。
【請求項5】
請求項4記載の温度センサにおいて、
前記傾斜部と前記延長部が電気的に切断されていることを特徴とする温度センサ。
【請求項6】
請求項1記載の温度センサにおいて、
前記薄膜配線の前記傾斜部とは逆の端に、隣り合う配線毎に千鳥状に配置した接点を有し、
当該接点が形成されている領域付近の基板に、位置合わせ用の孔が設けられていることを特徴とする温度センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−185094(P2012−185094A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49546(P2011−49546)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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