説明

温度ヒューズケーブル

【課題】 フラックス効果が失効した金属線やフラックスフリーの金属線においても、これらが確実に溶断されるヒューズケーブルを提供することにある。
【解決手段】 所定の温度で溶融する金属線(2)を非弾性芯材(1)の周りに横巻きしてなるコア線(6)を含む温度ヒューズケーブルにおいて、該非弾性芯材(1)を該金属線(2)の溶融温度付近で溶融する有機絶縁体とする。さらに、コア線(6)の外周をガラス編組スリーブ(3)とその外周に押出被覆されたシリコーンゴム押出体(4)とで形成された保護チューブ(7)で被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度ヒューズケーブルに関し、さらに詳しくは、各種加熱装置、特に家庭で使用される給湯器の異常加熱を検知するのに適した温度ヒューズケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
温度ヒューズケーブル(以下、“ヒューズケーブル”と略記する)として、非溶融性の非弾性芯材の周りに、所定の温度で溶融する金属線が横巻きされてなるコア線が、保護チューブ内へ挿通された構造が知られている(例えば、特許文献1参照。)。このとき用いられる非弾性芯材は、アラミド繊維(分解点>400℃)、ガラス繊維、および炭素繊維などの非溶融性繊維である。また、該金属線としては、フラックス加工された、Sn-Pb系Sn63Pbの半田線(溶融温度187℃)が示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−231866号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記のヒューズケーブルにおいても、機器に取付られた状態で長期間に亘って連続加熱された場合あるいは高温で長期間保存された場合には、フラックスの流失、変質・分解が起こり易くなる。そして、このフラックス効果が失効した金属線はその後、所定の温度に加熱されても確実に溶断しなくなり、異常加熱を惹起することが判明した。ここに、“異常加熱”とは、金属線の所定の溶融温度を越えた際、使用上許容可能な温度領域(300〜350℃)に到達する加熱状態である。
【0005】
本発明の課題は、フラックス効果が失効した金属線やフラックスフリーの金属線においても、これらが確実に溶断されるヒューズケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従来の非溶融性の非弾性芯材に替えて、金属線の所定の溶融温度付近で同様に溶融するような非弾性芯材を採用するとき、金属線が溶断して確実に切断されることを究明した。
【0007】
かくして、本発明によれば、所定の温度で溶融する金属線を非弾性芯材の周りに横巻きしてなるコア線を含む温度ヒューズケーブルにおいて、該非弾性芯材が該金属線の所定の溶融温度付近で溶融する有機絶縁体からなることを特徴とする温度ヒューズケーブルが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下(a)〜(b)で示す顕著な効果が奏される。
(a)フラックスが蒸発した後の金属線、あるいは元々フラックス加工されていない金属線においても、後述するように、該金属線の導通状態が数箇所で遮断されるので、該金属線は確実に溶断される。
(b)該有機絶縁体の種類を変更することにより、ヒューズケーブルの仕様変更に容易に対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を、上記の有機絶縁体として、ポリエステル系繊維を用いた場合を例にとり、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明のヒューズケーブルの一例を示す一部破断側面図である。
図2は、図1の横断面図である。
図3は、図1に対応するヒューズケーブルの一部破断側面写真図である。
図4は、図3のヒューズケーブルの加熱過程での、金属線および芯材の溶融状態を示す一部破断側面写真図である。
図5は、図4のトレース図である。
図6は、図3のヒューズケーブルにおいて、金属線が切断された状態を示す一部破断側面写真図である。
図7は、図6のトレース図である。
図8は、従来のヒューズケーブルの一部破断側面図である。
図9は、図8のヒューズケーブルにおいて、金属線の溶融状態を示す一部破断写真図である。
図10は、図9のトレース図である。
【0010】
図1〜図2において、(1)はポリエステル系繊維からなる非弾性芯材(以下、“芯材”と略記する)、(2)は該芯材の溶融温度よりも低い、所定の温度(以下、“溶融温度“と略記する。)で溶融する金属線(以下、“金属線”と略記する)、(3)はガラス編組スリーブ、そして、(4)はシリコーンゴム押出体である。ここで、芯材(1)の周りには金属線(2)が横巻きされてコア線(6)が形成され他方、ガラス編組スリーブ(3)とその外周に押出被覆されたシリコーンゴム押出体(4)とで保護チューブ(7)が形成されている。
【0011】
本発明で特徴的なことは、従来の非溶融性の非弾性芯材に替えて、金属線(2)の溶融温度付近で溶融する非弾性芯材(1)を採用したことにある。これにより、芯材(1)の周りに横巻きされた金属線(2)の溶断が確実に生じる。
【0012】
以下、本発明のヒューズケーブル(フラックス加工無しの場合)を、図8に示す従来のヒューズケーブル(フラックス加工無しの場合)と比較しながら説明する。
【0013】
図8において、(5)は、金属線の溶融温度付近で溶融しない非弾性芯材であり、その余の符号は図1の場合と同じである。このようなヒューズケーブルでは、金属線(2)は、その溶融温度以上になっても切断されることなく、非弾性芯材(5)に横巻きされた状態をそのまま維持する。したがって、このようなヒューズケーブルには依然として導通状態が維持され、さらには抵抗値の上昇が無いことから、誤作動を惹起するに至る。
【0014】
これに対して、本発明(図1)の芯材(1)は、金属線(2)の溶融温度付近で溶融する。その結果、金属線(2)が溶融するのとほぼ同時に芯材(1)も溶融する。その際、図4〜図5に示すように、金属線(2)の内面には、芯材(1)が溶融し欠落したための空洞部(8)が生じる。この空洞部(8)は、芯材(1)が溶融して縮小した結果、金属線(2)との間に形成される隙間である。その後、さらに、温度が異常加熱領域に向かって上昇すると図6〜図7に示すように、芯材(1)の溶融体から複数の球状体(9)が派生し、これが溶融状態の金属線(2)に融合し、その際、溶融状態の金属線(2)は、複数の小球状体(10)に分散し、複数箇所で確実に溶断される。このことから、芯材(1)として、その溶融温度が金属線(2)の溶融温度付近にあるようなものを採用することが、本発明の重要なポイントになる。
【0015】
この点、従来のヒューズケーブル(図8)においては、金属線(2)は、溶融温度に加熱されても、切断には至らない。このことは、図9、さらにはそのトレースである図10から分かる。すなわち、芯材(1)は熱的に多少変形するのみで、依然として細い線状のままで導通状態を維持した状態にある。このときの加熱温度は350℃である。ちなみに、金属線(2)の溶融温度は221℃である。
【0016】
本発明において、芯材(1)は、金属線(2)の溶融温度付近で溶融し且つ該金属線(2)と融合し易いような線状体、例えば、ポリエステル繊維やポリアミド繊維などの有機絶縁体で構成される。ここに、“金属線(2)の溶融温度付近“とは、「金属線(2)の溶融温度±40℃」程度の温度範囲を言う。芯材(1)の溶融温度が、「金属線(2)の溶融温度−40℃」未満では、ヒューズケーブル周囲の温度上昇が緩やかな場合に、金属線(2)が溶融温度に達する前に芯材(1)が溶融温度を越える高温に長期間さらされて分解してしまい、所望の溶断効果が得られない。他方、芯材(1)の溶融温度が、「金属線(2)の溶融温度+40℃」を超えると、金属線(2)の溶融温度(初期溶断温度)に比べて、フラックスの効果が失効した後の溶断温度が許容温度領域を越えて大幅に上昇してしまう懸念が生じる。
【0017】
芯材(1)の形態としては、線状集合体の単線、複数本の単線の引き揃え体、撚り合わせ体のいずれでもよいが、可撓性の面から撚り合わせ体が最も好ましい。芯材の外径については言えば、その下限値は引張強度を、上限値は許容される外径を考慮して、0.5mm〜2.0mmの範囲で設定すればよい。
【0018】
芯材(1)を構成する繊維は、金属線(2)の設定溶融温度との関係で適宜決定される。例えば、金属線(2)の溶融温度が230℃前後である場合、融点(以下、ポリマー融点)が220℃前後のナイロン−6、融点が260℃前後のナイロン−66、融点が225℃前後のポリブチレンテレフタレート(PBT)、融点が260℃前後のポリエチレンテレフタレート(PET)、さらには融点が267℃前後のポリエチレンナフタレート(PEN)からなる繊維が挙げられる。いずれにしても、金属線(2)の設定溶融温度が決まれば、「金属線(2)の溶融温度±40℃」程度の溶融温度を呈する繊維素材を適宜選択すればよい。
【0019】
本発明では、芯材(1)は、必ずしも上述の繊維状形態に限られない。例えば、非溶融性のガラス繊維、炭素繊維あるいはアラミド繊維からなる基材上に、金属線(2)の溶融温度付近で溶融する有機絶縁体の樹脂膜を押出被覆、コーティング、チューブ状のものを被覆した二層構造の芯材が考えられる。この例では、芯材の基材が硬度の耐抗張力を有するので、コアの耐抗張力特性が向上する。更には、基材そのものを棒状(ムク)あるいはチューブ状の金属線(2)の溶融温度付近で溶融する有機絶縁体としてもよい。
【0020】
このときの有機絶縁体としては、融点が金属線(2)の設定溶融温度近傍にあり且つ、金属線(2)と融合し易いようなフッ素樹脂あるいはポリオレフィン系等の耐熱性樹脂が使用できる。その中でも、加工性の面からフッ素樹脂、その中でも、取り分け、融点が310℃のPFA(パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂)あるいは融点が270℃のETFE(エチレン・テトラフルオロエチレン共重合樹脂)が特に好ましい。
【0021】
上記の有機絶縁体を基材上に被覆する手段としては、押出し、コーティング、チューブ被覆等の被覆手段があるが、その中でも押出し被覆が好ましい。この際の有機絶縁体の被覆厚さは金属線(2)と融合させるために必要となる最低量を確保するために、0.1mm〜0.3mmであることが好ましい。
【0022】
金属線(2)としては、要求される所定の温度で溶融するものであればよい。通常は、低融点合金線や半田線等が適宜採択出来るが、入手性とコスト等を勘案すると、半田線が好ましい。この半田線は、一般に150℃〜300℃程度の溶融温度を有するが、そのなかでも180℃〜230℃程度のものが実用的である。また、本発明では、必ずしも必要ではないが、金属線(2)の溶融物の移動を容易にするため、金属線(2)の表面または内部にフラックス加工を施してもよい。フラックスとしては一般に用いられている樹脂系フラックスでよい。さらに、金属線(2)の外径は、要求される特性により設定されるが、検知感度、空隙確保、加工性および設置時の取扱い易さ等を考慮すると、0.3〜2.0mm程度が好ましく、その中でも特に0.5mm〜1.2mmが特に好ましい。
【0023】
非弾性芯材(1)と金属線(2)との外径の関係に関して、加工時の作業性向上の面から、芯材径≧金属線径とするのが好ましい。また、金属線(2)の横巻き間隔は、金属線(2)と芯材(1)間の外径および検知精度との関係から適宜変更できることは言うまでもない。この横巻き間隔は、一般には、金属線(2)の外径の5〜30倍程度が好ましく、そのなかでも10〜20倍が特に好ましい。その際、作動感度を上げるため、またはヒューズケーブルの電気抵抗を下げるため、芯材(1)の周りには、図1〜図3に示すように、2本以上の金属線(2)を並行に横巻きしてもよい。
【0024】
以上に述べたコア線(6)には、これを保護するため、保護チューブ(7)等の被覆層を設けてもよい。このとき、コア線(6)と保護チューブ(7)の内周面との間には、後述するような空間が設けられる。
【0025】
保護チューブ(7)としては、ガラス編組スリーブ(3)の外周面にシリコーンゴム(4)を押出被覆したものが好ましい。これにより、保護チューブ(7)は、優れた耐熱性、柔軟性および成型性を呈するのみならず、金属線(2)が溶融した際、溶融物の飛散を防止する。さらに、曲げ半径が小さな場合においても、保護チューブ(7)は折れる懸念がなく、コア線(6)との間の空間を確保する。また、このような保護チューブ(7)にあっては、ガラス編組スリーブ(3)とシリコーンゴム(4)とが一体化しているため、熱伝導性が良く、ヒューズケーブルとしての熱応答性をも向上する。
【0026】
保護チューブ(7)の内径は、コア線(6)を容易に挿入でき、しかも金属線(2)の溶融物が流れ込めるだけの空間が確保されるように設定される。一般には、空隙の断面積が金属線(2)断面積と同等以上であればよい。ただ、配線や作業性を考慮すると、保護チューブ(7)の内径が、コア線(6)の外径の1.1〜1.5倍程度にあるのが好ましい。さらに、保護チューブ(7)の外層に該チューブ保護強化のため、柔軟性を阻害しない範囲でシリコーンワニス処理したガラス編組層を設けてもよい。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明のヒューズケーブルの具体例を、図1〜図2の場合について示す。
(1) コア線(6)の作成
融点がおよそ259℃のPETからなる、280Dtex/24fil.のポリエステルフィラメント糸を20本撚り合わせてから、1mの長さに切断して外径が0.8mmの芯材(1)を得た。次いで、この芯材(1)の外周に、金属線(2)として、外径が0.5mmで溶融温度が221℃の錫銀系半田線(JIS−Z−3282−2006)を2本用いて(図2)、10mm間隔で横巻きし、外径が1.8mmのコア線(6)を作成した。この半田線はフラックス加工なしの素材である。
(2) 保護チューブ(7)の作成
内径が2.5mmで外径が3.2mmのガラス編組スリーブ(3)の外周に、肉厚0.6mmのシリコーンゴム(4)を押出被覆し、外径が4.4mmのシリコーンゴム被覆ガラス編組保護チューブ(7)を成型した。この場合のガラス編組スリーブ(3)の内径2.5mmは、コア線(6)の外径の1.39倍に相当する。
(3) ヒューズケーブルの完成
上記の保護チューブ(7)に、(1)項で得たコア線(6)を挿入した。
【0028】
これらの、ヒューズケーブルを5本(サンプル1〜5)用意し、夫々を直線状態に保持し、その両端よりリード線を介して、検知回路(図示せず。)に接続した。次いで、該回路内にDC5V、5mAの負荷を加えた状態で、各ヒューズケーブルの中央部分を200℃から10℃上昇/1分間の割合で繰り返し加熱して、断線(溶断)温度を測定した。
【0029】
【表1】



【0030】
表1から、本発明のヒューズケーブルでは、溶断による断線温度が290℃〜308℃と、許容温度領域の下限値(300℃)前後で、しかも極めて狭い温度範囲に収束されている。したがって、本発明においては、断線温度のバラツキが少なく、安定した溶断効果が奏されていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の温度ヒューズケーブルは線状で異常過熱温度検知が可能なため、給湯器を始めとした加熱機器だけでなく、産業機器、医療機器の異常過熱検知用としても利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のヒューズケーブルの一例を示す一部破断側面図。
【図2】図2は、図1の横断面図。
【図3】図1に対応するヒューズケーブルの一部破断側面写真図。
【図4】図3のヒューズケーブルの加熱過程での、金属線および芯材の溶融状態を示す一部破断側面写真図。
【図5】図4のトレース図。
【図6】図3のヒューズケーブルにおいて、金属線が切断された状態を示す一部破断側面写真図。
【図7】図6のトレース図。
【図8】従来のヒューズケーブルの一部破断側面図。
【図9】図8のヒューズケーブルにおいて、金属線の溶融状態を示す一部破断写真図。
【図10】図9のトレース図。
【符号の説明】
【0033】
1 線状有機絶縁体からなる溶融性非弾性芯材
2 金属線
3 ガラス編組スリーブ
4 シリコーンゴム
5 非溶融性の非弾性芯材(従来)
6 コア線
7 保護チューブ
8 空洞部
9 溶融芯材の球状体
10 溶融金属線の小球状体





【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の温度で溶融する金属線を非弾性芯材の周りに横巻きしてなるコア線を含む温度ヒューズケーブルにおいて、該非弾性芯材が該金属線の溶融温度付近で溶融する有機絶縁体からなることを特徴とする温度ヒューズケーブル。
【請求項2】
該非弾性芯材が、「該所定の温度±40℃」の範囲で溶融するポリエステル系繊維またはポリアミド系繊維である請求項1に記載の温度ヒューズケーブル。
【請求項3】
該非弾性芯材が0.5mm〜2.0mmの範囲の外径を有する請求項1または2に記載の温度ヒューズケーブル。
【請求項4】
該金属線の横巻間隔が、該非弾性芯材外径の5〜30倍の範囲にある請求項1〜3のいずれかに記載の温度ヒューズケーブル。
【請求項5】
該コア線が、ガラス編組スリーブの周りにシリコーンゴムを押出被覆して形成した保護チューブ内に挿通されている請求項1〜4のいずれかに記載の温度ヒューズケーブル。


【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図8】
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