説明

温度上昇抑制舗装構造

【課題】 簡単な構造でありながら効率良く舗装材の温度上昇を抑制するとともに、施工費用を低減する。
【解決手段】 透水性を有するブロック部材10と、このブロック部材10に水を供給する給水手段とを備える。ブロック部材10は、路面部11と、この路面部11から下方へ向かって延設した少なくとも2本の脚部12とを備え、各脚部12の下端部同士が連通せずに隣接する脚部12間に開放空間部を形成する。給水手段は、上面が開放した箱状部材20からなり、この箱状部材20内に水を貯留するとともに、各脚部12の下側部分を収容して各脚部12に水を供給する。さらに、給水手段からオーバーフローした水は路床に浸透する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舗装材に水を供給し、水を蒸発させて舗装材の温度上昇を抑制するようにした温度上昇抑制舗装構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、都市部におけるヒートアイランド現象が環境問題となっている。このような環境問題に対処するため、舗装材に対して毛管現象による導水、拡散、揚水、保水等の機能を持たせ、舗装表面を湿潤させて、水が気化する際の気化熱により路面を冷却する技術が種々開発されている。
【0003】
例えば、舗装の下部に人工的な水溜まりを設け、この水溜まりに貯留した水を蒸発させて、蒸発潜熱を舗装路面の冷却に利用した保水性舗装に関する技術が開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1に記載された保水性舗装は、路床に切込砕石を敷き詰め、その上部に複数層の透水性アスファルトの層を積層して一体化したものである。そして、切込砕石の底面及び側面を防水シートで囲み、切込砕石の層と透水性アスファルトの層とを接続する不織布を配設した構造となっている。この保水性舗装では、防水シートで囲まれた部位が水溜まりとなり、降雨時や散水時に水が貯留される。そして、貯留された水が不織布の毛管現象により上昇し、その蒸発潜熱により路面を冷却することができるとしている。
【0005】
また、路面下部の全面に貯水層を設け、この貯水層からの持続的な給水によって路面の湿潤化を図るようにした湿潤性舗装構造に関する技術が開示されている(特許文献2参照)。
【0006】
この特許文献2に記載された湿潤性舗装構造は、路盤上に遮水シートを敷設し、この遮水シートの上部に砕石貯水層を設けるとともに、砕石貯水層内にその縦断面で波打つように吸水シートを敷設し、さらに波状の吸水シートの上部に水平な吸水シート、砂層、及び透水性舗装材とを配設した構造となっている。この湿潤性舗装構造では、砕石貯水層内に貯留された水が吸水シート等を介して透水性舗装材に達して路面を湿潤に保ち、その蒸発潜熱により路面を冷却することができるとしている。
【0007】
また、長期間にわたり外部から水を供給することなく舗装面を湿潤に保つようにした保水型舗装構造に関する技術が開示されている(特許文献3参照)。
【0008】
この特許文献3に記載された保水型舗装構造は、路盤上に敷設された遮水層を有し、遮水層の上部に、ブロック状の滞水性部材からなる貯水層、繊維材からなる水拡散層、及び透水性保水型の舗装材からなる保水層を敷設するとともに、貯水層と水拡散層とを接続する繊維材からなる揚水部材とを備えた構造となっている。この保水型舗装構造では、毛管現象により貯水層から舗装材に水が供給されて舗装面を湿潤に保ち、その蒸発潜熱により路面を冷却することができるとしている。
【0009】
【特許文献1】特開平8−85905号公報
【特許文献2】特開2000−45206号公報
【特許文献3】特開2003−268712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述した従来の技術では、路盤上に遮水層を有しているため、集中的な降雨があった場合には、溢れた多量の雨水が舗装表面を流れるという問題があった。また、複数層からなる複雑な舗装構造となっているため、施工が面倒であるだけではなく費用が嵩むという問題もあった。
【0011】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、簡単な構造でありながら効率良く舗装材の温度上昇を抑制することができ、さらに施工費用を低減することが可能な温度上昇抑制舗装構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の温度上昇抑制舗装構造は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。
すなわち、本発明の温度上昇抑制舗装構造は、透水性を有するブロック部材と、前記ブロック部材に水を供給する給水手段とを備えた温度上昇抑制舗装構造に関するものである。前記ブロック部材は、路面部と、この路面部から下方へ向かって延設した脚部とを備えている。また、前記給水手段は、前記路面部から浸透してきた水を貯留するとともに、貯留した水を前記脚部に供給し、貯留量の限界を超えた水を路床に浸透させることを特徴としている。このような構成からなる温度上昇抑制舗装構造では、給水手段から脚部に対して水を供給する。脚部に供給された水は毛管現象により路面部へ上昇し、路面部を湿潤に保ち、その蒸発潜熱により路面を冷却する。また、降雨時には、雨水が路面部から脚部を経て給水手段に達して水が貯留される。この際、給水手段における貯留量の限界を超えてオーバーフローした水は路床に浸透する。
【0013】
また、前記ブロック部材は、少なくとも2本の脚部を備えるとともに、各脚部の下端部同士が連通せずに隣接する脚部間に開放空間部を形成し、前記給水手段は、上面が開放した箱状部材からなり、この箱状部材内に水を貯留するとともに、前記各脚部の下側部分を収容して前記各脚部に水を供給する構成とすることができる。このような構成からなる温度上昇抑制舗装構造では、箱状部材内に貯留された水が、毛管現象により脚部を経て路面部へ供給され、路面部を湿潤に保ち、その蒸発潜熱により路面を冷却する。また、降雨時には、雨水が路面部から脚部を経て箱状部材内に浸み出して貯留される。この場合、箱状部材の上面が開放されているため、余分な水は箱状部材の上面から溢れ出して地中に浸透する。
【0014】
また、前記各脚部は、その下端部に拡径部を有することが好ましい。このような構成からなる温度上昇抑制舗装構造では、拡径部が箱状部材の底面に接するため、ブロック部材の安定性を向上させることができる。また、箱状部材内に貯留された水と脚部との接触面積が増加するため、毛管現象による揚水効果を高めることができる。
【0015】
また、前記開放空間部内に加熱手段を配設することが好ましい。この加熱手段は、例えば、温水や温風を通過させるパイプ、あるいは電熱線等により構成することができる。このような構成からなる温度上昇抑制舗装構造では、加熱手段により路面を加熱することにより、冬季における路面凍結を防止することができる。
【0016】
また、前記給水手段が水を貯留しているか否かを検知するためのセンサを設けることが好ましい。このような構成からなる温度上昇抑制舗装構造では、路面への水補給が途絶えることを防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の温度上昇抑制舗装構造によれば、透水性を有するブロック部材及び給水手段を基本構成要素として、給水手段から脚部に対して水を供給して毛管現象により路面部を湿潤に保ち、その蒸発潜熱により路面を冷却することができる。したがって、簡単な構造でありながら効率良く舗装材の温度上昇を抑制することができ、さらに施工費用を低減することが可能となる。
【0018】
また、降雨時には、雨水が路面部から脚部を経て給水手段に達して、給水手段に水が貯留されるが、遮水層を有していないため、余分な水は地中に浸透する。したがって、集中的な降雨があった場合であっても、多量の雨水が舗装表面を流れるという現象を最小限に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の温度上昇抑制舗装構造の実施形態を説明する。
<第1の実施形態>
図1〜図4は本発明の第1の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造に関するもので、図1は温度上昇抑制舗装構造の正面図、図2は温度上昇抑制舗装構造の側面図、図3は温度上昇抑制舗装構造の平面図、図4は温度上昇抑制舗装構造に使用する箱状部材の斜視図である。
【0020】
本発明の第1の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造は、本発明の基本構成をなすものである。すなわち、第1の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造は、図1〜図3に示すように、ブロック部材10及び箱状部材20を一単位として、これらの部材を隣接して複数組配設することにより路床上に路面を形成している。
【0021】
ブロック部材10は、図1及び図2に示すように、路面部11と、この路面部11から下方へ向かって延設した2本の脚部12とを備えている。各脚部12は、その下端部同士が連通しておらず、隣接する脚部12間に開放空間部が形成されている。また、脚部12の下端部には、拡径部13が設けられている。このブロック部材10は、透水性を有している。ここで、ブロック部材10の透水率は、毛管現象を利用して脚部12から路面部11に対して十分に水を供給することができるとともに、路面上に降った雨水が脚部12を経て箱状部材20に効率良く到達できるという点で、1.0×10-2cm/sec以上であることが好ましい。
【0022】
箱状部材20は、脚部12に対して水を供給するための給水手段として機能する部材である。この箱状部材20は、図4に示すように、上面が開放しており、この開放部から箱状部材20の内部に脚部12の下側部分を収容するようになっている。また、箱状部材20の材質は水を貯留できればどのようなものであってもよく、例えばプラスチック等を用いることができる。なお、図1〜図3に示す第1の実施形態では、脚部12毎に箱状部材20を設けているが、複数の脚部12に共通して箱状部材20を設けてもよい。
【0023】
第1の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造では、箱状部材20内に貯留された水が毛管現象により脚部12を経て路面部11へ上昇して路面部11を湿潤に保ち、蒸発潜熱により路面が冷却される。また、降雨時には、雨水が路面部11から脚部12を経て箱状部材20に達し、箱状部材20内に水が貯留される。また、箱状部材20の上面が開放されているため、余分な水は箱状部材20の上面から溢れ出して地中に浸透するため、集中的な降雨があった場合であっても、多量の雨水が舗装表面を流れるという現象を最小限に抑制することができる。
【0024】
また、脚部12の下端部に拡径部13を設けているため、ブロック部材10の安定性が向上するとともに、水との接触面積が増加して揚水効果を高めることができる。
【0025】
<第2の実施形態>
次に、図5を参照して、本発明の第2の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造について説明する。図5は、本発明の第2の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造の正面図である。
【0026】
本発明の第2の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造は、本発明の基本構成に加えて、路面部11を加熱するための加熱手段を設けたものである。すなわち、本発明の第2の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造は、図5に示すように、隣り合う脚部12間に設けた開放空間部内に、温水や温風を通過させるパイプ30を配設した構成となっている。
【0027】
具体的には、パイプ30内に温水や温風を流通させて路面部11を加熱する。この場合、ゴミ処理施設やコジェネレーションシステム等の排熱を利用して温水や温風を供給すれば、資源を有効利用して環境に対する負荷を軽減することができる。
なお、加熱部材は温水や温風を流通させるパイプには限られず、例えば、電熱線を用いることもできる。
【0028】
第2の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造によれば、加熱手段により路面を加熱することができるので、冬季における路面凍結を防止することができる。
【0029】
<第3の実施形態>
次に、図6を参照して、本発明の第3の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造について説明する。図6は、本発明の第3の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造の正面図である。
【0030】
本発明の第3の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造は、本発明の基本構成に加えて、給水手段が水を貯留しているか否かを検知するためのセンサを設けたものである。すなわち、本発明の第3の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造は、図6に示すように、外気温を検知する第1の温度センサ41と、箱状部材20の下部付近の温度を検知する第2の温度センサ42とを備えている。
【0031】
箱状部材20内に水が貯留されている場合には、第2の温度センサ42が水の温度を検知するため、第2の温度センサ42で検知する温度は、第1の温度センサ41で検知した外気温よりも低くなる。一方、箱状部材20内に水が貯留されていない場合には、第1の温度センサ41及び第2の温度センサ42は、ともに外気温を検知するため、両センサの検知結果はほぼ同一となる。これにより、箱状部材20内に水が貯留されているか否かを検知することができる。
【0032】
そして、箱状部材20内に水が貯留されていないことが検知された場合には、路面に散水して箱状部材20内に水を補給すればよい。
【0033】
なお、センサは上述した構成のものに限られず、例えば、箱状部材20内に配設した光学式水センサを用いることもできる。
【0034】
第3の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造によれば、路面への水補給が途絶えることを防止して、舗装構造の温度上昇を抑制することができる。
【実施例】
【0035】
次に、本発明の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造を用いた実験結果を示す。図7は、本発明の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造を用いて温度上昇抑制効果を実証した実験結果を示すグラフである。本実験では、本発明の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造の路面温度(2箇所)、何ら対策を施していない舗装構造の路面温度、及び外気温を計測した。
【0036】
図7から明らかなように、本発明の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造によれば、路面が日射に晒された場合であっても、路面温度の上昇を効果的に抑制することができる。すなわち、路面が日射に晒されると、何ら対策を施していない舗装構造では急激に路面温度が上昇するが、本発明の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造では外気温と同等あるいは若干高い温度で路面温度が推移しており、蒸発潜熱により路面が効果的に冷却されていることがわかる。
【0037】
<他の実施形態>
本発明の温度上昇抑制舗装構造は、上述した実施形態の構成に限定されるものではなく、種々の変更を施して実施することができる。
例えば、ブロック部材の透水率、路面部の形状、箱状部材の容積、各部の大きさ等は、舗装構造を施工する場所の気象条件、舗装構造の使用目的等に合わせて適宜変更して実施することができる。
【0038】
また、高吸水性高分子材を給水手段として用いることもできる。この場合、透水性を有する袋体内に高吸水性高分子材を収容し、袋体の外面を脚部に密着させることにより、高吸水性高分子材と脚部との間で水の移動が行われる。高吸水性高分子材を給水手段として用いる場合には、一般的な形状の透水性ブロックを用いることができる。すなわち、透水性を有するブロック部材として、一対の板状部を上下に並列して設け、板状部間を複数の脚部により連結した形状を有する透水性ブロックを用いるとともに、上下の板状部と隣り合う脚部との間に形成される空間部内に高吸水性高分子材を収納した袋体を挿入することにより、温度上昇抑制舗装構造を構成することができる。
【0039】
また、路面部の表面に凹凸状の模様を形成することにより、表面積が増加して効率良く路面部を冷却することができるとともに、滑り止め効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造の正面図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造の側面図。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造の平面図。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造に使用する箱状部材の斜視図。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造の正面図。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造の正面図。
【図7】本発明の実施形態に係る温度上昇抑制舗装構造を用いて温度上昇抑制効果を実証した実験結果を示すグラフ。
【符号の説明】
【0041】
10 ブロック部材
11 路面部
12 脚部
13 拡径部
20 箱状部材
30 パイプ
41 第1の温度センサ
42 第2の温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透水性を有するブロック部材と、このブロック部材に水を供給する給水手段とを備えた温度上昇抑制舗装構造であって、
前記ブロック部材は、路面部と、この路面部から下方へ向かって延設した脚部とを備え、
前記給水手段は、前記路面部から浸透してきた水を貯留するとともに、貯留した水を前記脚部に供給し、貯留量の限界を超えた水を路床に浸透させることを特徴とする温度上昇抑制舗装構造。
【請求項2】
前記ブロック部材は、少なくとも2本の脚部を備えるとともに、各脚部の下端部同士が連通せずに隣接する脚部間に開放空間部を形成し、
前記給水手段は、上面が開放した箱状部材からなり、この箱状部材内に水を貯留するとともに、前記各脚部の下側部分を収容して前記各脚部に水を供給することを特徴とする請求項1に記載の温度上昇抑制舗装構造。
【請求項3】
前記各脚部は、その下端部に拡径部を有することを特徴とする請求項2に記載の温度上昇抑制舗装構造。
【請求項4】
前記開放空間部内に加熱手段を配設したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の温度上昇抑制舗装構造。
【請求項5】
前記給水手段が水を貯留しているか否かを検知するためのセンサを設けたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の温度上昇抑制舗装構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−75400(P2008−75400A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258176(P2006−258176)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【Fターム(参考)】