温熱治療装置に用いる誘導体、温熱治療装置
【課題】温熱治療装置を複雑化・大型化させることなく、人体への負担を軽減しつつ癌組織への効率的な加熱を実現できる、温熱治療装置用の誘導体および温熱治療装置を提供する。
【解決手段】本発明の誘導体5は、人体2に含まれる加熱対象を加熱する温熱治療装置1に用いられる誘導体5であって、絶縁領域7と、非絶縁領域8と、を備え、絶縁領域7は、温熱治療装置1が照射する高周波信号を人体3に対して遮蔽し、非絶縁領域8は、温熱治療装置1が照射する高周波信号を人体2に透過し、絶縁領域7および非絶縁領域8の組み合わせは、加熱対象に、高周波信号を導入する。
【解決手段】本発明の誘導体5は、人体2に含まれる加熱対象を加熱する温熱治療装置1に用いられる誘導体5であって、絶縁領域7と、非絶縁領域8と、を備え、絶縁領域7は、温熱治療装置1が照射する高周波信号を人体3に対して遮蔽し、非絶縁領域8は、温熱治療装置1が照射する高周波信号を人体2に透過し、絶縁領域7および非絶縁領域8の組み合わせは、加熱対象に、高周波信号を導入する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌などの腫瘍を治療するための温熱治療(ハイパーサーミアともいう)を行う温熱治療装置に用いる誘導体であって、癌などの治療対象のみの温度上昇を促す誘導体およびこの誘導体を用いる温熱治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の治療においては、癌組織を切除する外科治療、抗がん剤を用いる化学治療、放射線を癌組織に照射する放射線治療、身体の免疫力を高める免疫治療などが存在する。これらの治療方法は、それぞれに長所や短所があるが、人体への負担が大きかったり、癌の進行度合いによっては適用が困難であったりなどの問題があった。
【0003】
このような状況において、癌組織の温度を上昇させて癌組織を死滅させる温熱治療が注目されている。このような温熱治療は、ハイパーサーミアとも言われ、癌組織は正常組織と異なり熱に弱いという特性を利用している。正常組織は、多数の毛細血管を有しているため、加熱される場合でも、毛細血管の拡張や血流の増加によって加熱によって受けた熱を放出することができる。一方、癌組織は、毛細血管を有していないか、有していても少なくまた血管の拡張ができないため、加熱によって受けた熱を放出することができない。このため、癌組織は、41.5℃から44℃程度の熱で死滅することが知られている。
【0004】
温熱治療は、人体の表面と裏面を電極ではさみ、一方の電極から他方の電極へ高周波信号を照射することで、人体内部にある癌組織の温度を上昇させる。このとき、高周波信号が照射されている人体表面および内部では、癌組織の周辺も含めて温度が上昇するが、正常組織は血管拡張による放熱によって温度上昇を抑制できる。一方、癌組織のみが温度上昇を抑制できず、その温度が上昇する。この結果、癌組織が死滅もしくは減少する。実際には、この温熱治療と外科治療などが併用されて、癌組織を切除できる。
【0005】
温熱治療は、人体の表面と裏面に電極を設置して、電極同士での高周波信号照射のみで行えるので、化学治療や放射線治療のような副作用もなく、外科治療における手術中におけるリスクも少ない。このため、温熱治療に対する将来性の高さが期待されている。
【0006】
この温熱治療の基本構成は、上述の通り、人体の表面と裏面に設置される電極である。この電極からの高周波信号の照射による加熱が温熱治療の仕組みであるが、(1)加熱対象となる癌組織以外の部位に対する加熱が避けられないことによる人体への負担、(2)加熱対象となる癌組織における加熱と温度上昇の不足、という2点が大きな課題であった。
【0007】
このような2つの課題を解決する温熱治療についての、いくつかの技術的提案がなされている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開1988−189149号公報
【特許文献2】特表2007−536016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1は、温熱治療を行うハイパーサーミア装置であって、熱電効果を発生させる密着型アプリケータとこの熱電効果に対する冷却機能を有する冷却装置とを有するハイパーサーミア装置を開示する。ハイパーサーミア装置は、温熱治療のために、熱電効果によって人体に含まれる癌組織の温度上昇を促す加熱を行う。特許文献1の技術は、この加熱の際に人体への加熱負担を減少させるために、冷却装置を用いている。すなわち、特許文献1は、従来技術での課題(1)を解決しようというアプローチを有している。
【0010】
しかしながら、熱電効果を生じさせる密着型アプリケータが癌組織以外の人体を加熱することには変わりがなく、冷却装置によってこれを減少させることは根本的な解決ではない。密着型アプリケータによって癌組織以外の人体部分が加熱されることを回避できるわけではなく、加熱するそばから冷却しているに過ぎないからである。また、冷却装置の設置位置や設置状態によっては、加熱そのものに悪影響を与える可能性も生じる。この場合には、癌組織そのものの加熱も不十分となってしまい、温熱治療の効果が十分に発揮されない可能性がある。すなわち、従来技術での課題(1)を根本的に解決できないだけでなく、従来技術の課題(2)も解決困難である。
【0011】
特許文献2は、癌組織に集中的に高周波信号を与える工夫を有するハイパーサーミア装置を開示する。例えば、特許文献2のハイパーサーミア装置は、高周波信号の周波数を多元的にしたり、様々な部材を組み合わせたりすることで、癌組織への高周波信号の取り込みを可能にすることを企図している。すなわち、特許文献2は、従来技術の課題(2)を解決するアプローチを有している。
【0012】
しかしながら、特許文献2のハイパーサーミア装置は、癌組織に高周波信号を集中的に与えるために、様々な装置、付属品、部材、操作手順などを必要としており、装置が大型化および複雑化する問題がある。がん治療においては、温熱治療のみが行われることが想定されているよりも、温熱治療と他の治療方法(例えば外科治療)とを組み合わせることが想定されている。
【0013】
このような組み合わせ治療において、温熱治療に用いられるハイパーサーミア装置が複雑化・大型化することは、治療全体のコストを引き上げたり、治療全体の作業を複雑化したりして、患者の治療にとってはデメリットが生じうる。
【0014】
このため、特許文献2は、治療全体へのコスト上昇をもたらす問題も有している。
【0015】
また、特許文献2は、絶縁体を用いることを開示しているが、この絶縁体は、高周波信号を発信する電極から受信する電極に伝播させるための要素である。しかしながら、絶縁体を用いるだけでは、従来技術における課題(2)にあるように、癌組織だけに加熱を集中させることが困難である。当然ながら、課題(1)に示される人体への負担軽減を実現することも困難である。
【0016】
以上のように、従来技術や特許文献1、2などによる技術においては、治療全体のコストを低下させつつ、人体への負担軽減と癌組織への効率的な加熱のバランスを確保することが困難であった。また、人体は厚み方向を有しており、加熱対象となる癌組織などは、この厚み方向での位置は様々である。この厚み方向での位置に合わせて高周波信号を加熱対象に到達させるには、電極の大きさや形状を治療の際に変更する必要があり、医師の熟練が必要となっていた。治療時間も長くなってしまい、患者への精神的な負担も大きい問題があった。
【0017】
本発明は、上記課題に鑑み、温熱治療装置を複雑化・大型化させることなく、人体への負担を軽減しつつ癌組織への効率的な加熱を実現できる、温熱治療装置用の誘導体および温熱治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題に鑑み、本発明の誘導体は、人体に含まれる加熱対象を加熱する温熱治療装置に用いられる誘導体であって、絶縁領域と、非絶縁領域と、を備え、絶縁領域は、温熱治療装置が照射する高周波信号を人体に対して遮蔽し、非絶縁領域は、温熱治療装置が照射する高周波信号を人体に透過し、絶縁領域および非絶縁領域の組み合わせは、加熱対象に、高周波信号を導入する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の誘導体は、人体に含まれる癌組織を中心に加熱するとともに、癌組織に関係のない人体への加熱の負担を減少させることができる。
【0020】
また、癌組織は人体の内部に存在していることがほとんどであるが、本発明の誘導体は、人体を二次元的に把握した場合に癌組織への加熱を集中させることも可能であり、人体を三次元的に把握した場合に癌組織への加熱を集中させることも可能である。
【0021】
更に、本発明の誘導体は、絶縁性を有する部材を用いるだけで構成できるので、コストや作業負担が少なくなり、温熱治療の治療コスト(すなわちがん治療のコスト)を低減させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態1における温熱治療装置の使用状態を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態1における誘導体の正面図である。
【図3】本発明の実施の形態1における誘導体の正面図である。
【図4】本発明の実施の形態1における人体の模式図である。
【図5】本発明の実施の形態1における誘導体の配置状態を示す模式図である。
【図6】本発明の実施の形態1における温熱治療装置の別態様を示す模式図である。
【図7】本発明の実施の形態2における温熱治療装置の模式図である。
【図8】本発明の実施の形態2における誘導部材の正面図である。
【図9】本発明の実施の形態2における誘導部材の移動を示す模式図である。
【図10】本発明の実施の形態2における温熱治療装置の模式図である。
【図11】本発明の実施の形態2における温熱治療装置の模式図である。
【図12】本発明の実施の形態2における温熱治療装置の模式図である。
【図13】本発明の実施の形態3における温熱治療の状態を示す説明図である。
【図14】実験その1における実験態様を示す模式図である。
【図15】、実験その1における位置(1)〜(5)のそれぞれの温度上昇を示す表である。
【図16】図15の表に対応するグラフである。
【図17】実験その2の態様を示す模式図である。
【図18】実験その2における位置(1)〜(5)のそれぞれの温度上昇を示す表である。
【図19】図18の表に対応するグラフである。
【図20】比較例での実験状態を示す模式図である。
【図21】比較例における結果を示す表である。
【図22】図21に対応するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第1の発明に係る誘導体は、人体に含まれる加熱対象を加熱する温熱治療装置に用いられる誘導体であって、絶縁領域と、非絶縁領域と、を備え、絶縁領域は、温熱治療装置が照射する高周波信号を人体に対して遮蔽し、非絶縁領域は、温熱治療装置が照射する高周波信号を人体に透過し、絶縁領域および非絶縁領域の組み合わせは、加熱対象に、高周波信号を導入する。
【0024】
この構成により、誘導体は、加熱対象のみに高周波信号を集中させることができる。結果として、温熱治療装置による温熱治療において、人体への負担やストレスを最小化すると共に加熱対象を集中して発熱させることができる。更に、誘導体により高周波信号の到達度の調整が可能なため、温熱治療装置の電極の交換が不要である。
【0025】
本発明の第2の発明に係る誘導体では、第1の発明に加えて、非絶縁領域は、絶縁領域に囲まれて形成される領域および絶縁領域の外側に生じる領域の少なくとも一方を含む。
【0026】
この構成により、誘導体は、部材として形成される非絶縁領域だけでなく部材の外側に生じる非絶縁領域をも用いて、高周波信号を効率的に加熱対象に誘導することができる。
【0027】
本発明の第3の発明に係る誘導体では、第1又は第2の発明に加えて、人体を、相互に直交するX軸、Y軸およびZ軸の3次元で把握する場合に、非絶縁領域は、X軸およびY軸で構成される二次元平面で、人体に含まれる加熱対象と対向し、X軸は、人体の横方向に沿っており、Y軸は、人体の身長方向に沿っており、Z軸は、人体の厚み方向に沿っている。
【0028】
この構成により、誘導体は、加熱対象に集中して高周波信号を誘導できる。
【0029】
本発明の第4の発明に係る誘導体では、第1から第3のいずれかの発明に加えて、絶縁領域は、絶縁機能を有する複数の絶縁部材を備え、複数の絶縁部材の組み合わせによって、非絶縁領域が形成される。
【0030】
この構成により、絶縁領域と非絶縁領域の組み合わせや形状を、フレキシブルに形成することができる。
【0031】
本発明の第5の発明に係る誘導体では、第4の発明に加えて、非絶縁領域は、形状、面積および位置の少なくとも一つが可変である。
【0032】
この構成により、誘導体は、加熱対象の形状、大きさ、位置に合わせて、非絶縁領域を変化させることができる。
【0033】
本発明の第6の発明に係る誘導体では、第1から第5のいずれかの発明に加えて、誘導体は、第1誘導部材および第2誘導部材を備え、第1誘導部材は、人体の表面に対向するように配置され、第2誘導部材は、人体の裏面に対向するように配置され、第1誘導部材の絶縁領域の少なくとも一部は、第2誘導部材の非絶縁領域の少なくとも一部と、人体を介して対向する。
【0034】
この構成により、誘導体は、加熱対象に対して、様々な角度から三次元的に高周波信号を誘導することができる。
【0035】
本発明の第7の発明に係る誘導体では、第6の発明に加えて、第1誘導部材の非絶縁領域は、第2誘導部材の絶縁領域と、人体を介して対向し、第1誘導部材の絶縁領域は、第2誘導部材の非絶縁領域と、人体を介して対向する。
【0036】
この構成により、誘導体は、加熱対象に対して人体の厚み方向と交差する角度をもって、高周波信号を誘導できる。
【0037】
本発明の第8の発明に係る誘導体では、第6または第7の発明に加えて、第1誘導部材および第2誘導部材の少なくとも一方は、温熱治療装置による治療中に、それぞれの非絶縁領域の位置を移動可能である。
【0038】
この構成により、誘導体は、非加熱対象である人体の表面が発熱することによる生体負担を抑え、標的とする加熱対象だけを選択的に加熱することができる。また、加熱対象への加熱は継続されるが、人体表面での加熱される部位は変化していくので、人体表面への加熱ストレスが低減できる。
【0039】
本発明の第9の発明に係る誘導体では、第8の発明に加えて、非絶縁領域の位置は、(1)温熱治療装置からの高周波信号の照射中、(2)温熱治療装置からの高周波信号の停止中、のいずれかにおいて、移動可能である、請求項8記載の誘導体。
【0040】
この構成により、治療の態様に応じて非絶縁領域を移動でき、人体への負担を軽減しつつも加熱対象の集中的な発熱を可能とする。
【0041】
本発明の第10の発明に係る誘導体では、第8又は第9の発明に加えて、第1誘導部材および第2誘導部材の少なくとも一方は、それぞれの非絶縁領域の位置を、X軸およびY軸で特定される平面に沿って、移動可能である。
【0042】
この構成により、誘導体は、加熱対象へ、様々な角度や位置から高周波信号を誘導できるとともに、非加熱対象部位における発熱を抑えることができる。
【0043】
本発明の第11の発明に係る温熱治療装置は、第1から第10のいずれかの誘導体と、誘導体を設置および移動の少なくとも一方を行う制御部と、を備える。
【0044】
この構成により、温熱治療装置は、誘導体を移動させながら治療を行える。
【0045】
本発明の第12の発明に係る温熱治療装置では、第11の発明に加えて、誘導体を介して人体に高周波信号を照射可能な電極および電極と人体との間に設けられる冷却部材の少なくとも一方を更に備える。
【0046】
この構成により、温熱治療装置は、人体への負担を軽減しつつ高周波による加熱を行うことができる。
【0047】
以下、図面を用いて、本発明の実施の形態について説明する。
【0048】
(実施の形態1)
【0049】
実施の形態1について説明する。
(全体概要)
まず、実施の形態1における誘導体の全体概要を、図1を用いて説明する。
【0050】
図1は、本発明の実施の形態1における温熱治療装置の使用状態を示す模式図である。温熱治療装置は、電極より人体に対して高周波信号を付与することで人体に含まれる癌組織を死滅させる。このような温熱治療装置は、実際の医療現場において用いられており、外科治療や化学治療などと共にがん治療に対する期待が掛けられている。
【0051】
図1では、人体2の表面と裏面のそれぞれに、電極や食塩水ボーラスが設置されている状態を示している。このため、電極、食塩水ボーラス、冷却用食塩水ボーラスなどのそれぞれの要素について、便宜上、第1、第2との名称を付している。
【0052】
温熱治療装置1は、人体2の内部に含まれる加熱対象である癌組織10を加熱して、癌組織10を死滅させることを目的としている。
【0053】
温熱治療装置1は、人体2の上下に第1電極3A、第2電極3Bを設置して、第1電極3Aと第2電極3Bとの間に高周波信号を流す。第1電極3Aの下層(人体2に近い側)には、第1食塩水ボーラス4Aが設置される。第1食塩水ボーラス4Aは、第1電極3Aと人体2との直接的な接触を防止する。第1食塩水ボーラス4Aの下層(人体2に近い側)には、誘導体5が設置される。更に誘導体5の下層(人体2に近い側)には、第1冷却用食塩水ボーラス6Aが設置される。第1冷却用食塩水ボーラス6Aは、人体2を冷却し、温熱治療において癌組織10以外の部位の温度上昇での負担を軽減する。人体2に含まれる癌組織10が、加熱対象である。もちろん、加熱対象は癌組織10だけでなく、温熱治療によって治療を必要とする他の要素も含むものである。
【0054】
以上は、人体2の表面側の構成であるが、人体2の裏面も同じような要素の積層で構成される。第2電極3Bの上層(人体2に近い側)には、第2食塩水ボーラス4Bが設置される。第2食塩水ボーラス4Bは、第1食塩水ボーラス4Aと同様に、第2電極3Bと人体2との直接的な接触を防止する。更に、必要に応じて第2冷却用食塩水ボーラス6Bが設置される。第2冷却用食塩水ボーラス6Bは、人体2を冷却し、温熱治療において癌組織10以外の部位の温度上昇での負担を軽減する。なお、第2冷却用食塩水ボーラス6Bは、第2食塩水ボーラス4Bと兼用されてもよい。
【0055】
第1電極3Aから照射される高周波信号は、第1食塩水ボーラス4Aなどを通過して、誘導体5によって加熱対象である癌組織10に誘導される。誘導体5は、絶縁領域7と非絶縁領域8を有しており、この絶縁領域7と非絶縁領域8の組み合わせが、高周波信号を加熱対象に集中的に誘導しつつ、加熱対象以外への高周波信号の誘導を抑制する。この結果、誘導体5を用いた温熱治療装置1は、加熱対象のみを発熱させて、加熱対象となる癌組織10を死滅させる治療を行える。
【0056】
このような加熱対象を集中的に発熱できるのは、絶縁領域7は高周波信号を遮蔽し、非絶縁領域8は高周波信号を通過させる特徴を有しており、絶縁領域7と非絶縁領域8の組み合わせが、高周波信号を加熱対象に集中的に誘導できるからである。
【0057】
なお、符号に用いている「A」、「B」のそれぞれは、「第1」、「第2」に対応して付されており、第1、第2に対応しない場合には、同一の要素の符号は、数字だけの符号で示される。例えば、電極については、(第1電極、第2電極を特段に区別しないか、両方を包含して意味する場合)電極3として表されるものとする。
【0058】
(高周波信号の通過)
図1に基づいて、高周波信号の通過を説明する。図1に示される破線は、高周波信号の通過を示している。
【0059】
第1電極3Aから照射された高周波信号は、第1食塩水ボーラス4Aを通過して、誘導体5に到達する。誘導体5は、絶縁領域7を有しているので、高周波信号は、この絶縁領域7で遮蔽されて非絶縁領域8を通過するようになる。すなわち、破線のように、高周波信号はねじれて進む上に、非絶縁領域8に集中しやすくなる。
【0060】
非絶縁領域8に集中した高周波信号は、第1冷却用食塩水ボーラス6Aを通過して、そのまま非絶縁領域8と対向する癌組織10に集中して到達する。この高周波信号は、そのまま第2冷却用食塩水ボーラス6Bおよび第2食塩水ボーラス4Bを通過して、第2電極3Bに到達する。この高周波信号の通過は、図1の破線に示されるとおりである。すなわち、癌組織10に高周波信号が集中して通過する。
【0061】
高周波信号が癌組織10に集中することで、癌組織10は高い発熱を生じる。一方、癌組織10以外の部位においては、到達する(通過する)高周波信号が少ないため、発熱は抑えられる。これは人体2の表面でも同様である。これらの結果、人体2への負担やストレスは抑制されつつ、加熱対象のみを集中して発熱させて、癌組織10の効果的な治療が可能となる。
【0062】
このように実施の形態1における誘導体5は、患者への負担を最小限にしつつ、癌組織10を死滅させるための効率的な温熱治療を可能とする。
【0063】
誘導体5は、絶縁領域7と非絶縁領域8の組み合わせだけで、高周波信号を過熱対象に主として導入することができるので、現在使用されている温熱治療装置に容易に設置(導入)可能である。このため、温熱治療装置のコストアップや温熱治療装置を用いた温熱治療の負担増加を生じさせないで済む。
【0064】
誘導体5は、既に市販されている温熱治療装置のオプションとして流通されても良いし、温熱治療装置に組み込まれた状態で流通されても良い。いずれにしても、既存の温熱治療装置における温熱治療の効果を高めることができる。コストアップにもならないので、外科治療や化学治療などとの組み合わせも可能であり、総合的ながん治療にとっても、誘導体5は、高いプラスメリットをもたらす。
【0065】
次に、各部の詳細について説明する。
【0066】
(電極)
電極3は、誘導体5を直接的に構成する要素ではないが、温熱治療装置1の必要な要素である。
【0067】
電極3は、高周波信号を人体2(人体2に直接だけでなく、他の要素を介することも含む)に照射する。図1における第1電極3Aと第2電極3Bとの間に、高周波信号が伝播する。例えば第1電極3Aが高周波信号を出力し、第2電極3Bがこの出力された高周波信号を受信する。このため、第1電極3Aおよび第2電極3Bのそれぞれには、高周波信号となる電流を供給する電源や電源から接続される導電経路が備わっている。
【0068】
このため、電極3は、高周波信号を照射する照射部であると把握できる。
【0069】
高周波信号は、所定の範囲の周波数を有していればよく、一般的に高周波帯域に含まれる周波数であればよい。一例として、3MHz〜300MHzの高周波帯域や300MHzから数GHzのマイクロ波帯域などに含まれる周波数を、高周波信号は有していればよい。なお、本発明においては、高周波信号を加熱対象である癌組織に導入することが本質であり、いかなる周波数を有する高周波信号が用いられるかは、実際に使用される温熱治療装置1の仕様や特性に依存すれば良く、特段に特定する必要はない。
【0070】
例えば、市販されている温熱治療装置は、電極からの高周波信号の周波数として、8MHzを採用している。この周波数に特定されるものではないが、8MHz前後の周波数は、簡便な電子回路で発生させることができ、加熱と人体への負担とのバランスも高いからである。加えて、人体の加熱においては、8MHz前後の周波数が適当であるからである。もちろん、周波数を変えることで、対象とする癌組織の種類、位置、深度、大きさに対して最適な高周波信号を与えることもできる。
【0071】
なお、人体2のZ軸方向への高周波信号の到達度の調整は、電極の大きさを変えることで実現していることも多い。このため、電極3は、周波数、電極の大きさ、信号強度などが適宜組み合わされることで、人体2の加熱に適した高周波信号を出力する。
【0072】
第1電極3Aと第2電極3Bは、対となることで、高周波信号の出力と受信とが可能となるが、接地面(いわゆるアース)が受信機能を備える場合には、第1電極3Aのみで、人体2に高周波信号を照射できる。高周波信号が人体2に吸収されると、人体2の分子運動が盛んになり、分子運動の増加によって人体2の組織が発熱し、発熱部分の温度が高くなる。すなわち、高周波信号によって、人体2内部の組織が加熱されることになる。
【0073】
癌組織ではない正常な組織は、多数の毛細血管を含んでおり、この毛細血管の拡張によって(血流が盛んになり)、発熱による熱は放出される。すなわち、正常な組織の温度は余り上昇しない。これに対して、癌組織においては、毛細血管の働きが不十分となっており、毛細血管が熱を受けても拡張しない。すなわち、血流が盛んになることも無い。この結果、癌組織においては、高周波信号による発熱が放出されることが無く、癌組織は、発熱するようになる。
【0074】
このように、高周波信号が人体2に照射されることで、癌組織の温度が上昇して死滅し、正常な組織の温度はほとんど上昇せず、死滅することもない。
【0075】
以上のように、電極3(第1電極3Aと第2電極3B)は、人体2に対して高周波信号を付与し、癌組織などの加熱対象を加熱する。なお、ここでは、癌組織を加熱対象として説明しているが、加熱対象は、前立腺組織、肝組織、肺組織、腰背部軟部組織などの癌組織以外も含む。
【0076】
(食塩水ボーラス)
食塩水ボーラス4(図1においては、人体2の表面側の第1食塩水ボーラス4Aと人体2の裏面側の第2食塩水ボーラス4Bとを含む)は、電極3が人体2に直接接触しない(衛生面、人体への不快感などの防止のため)ために設置される。
【0077】
また、食塩水ボーラス4は、内部に食塩水を含んでいるので、高周波信号を透過させることができる。また、食塩水の濃度や食塩水ボーラス4の形状によって、電極3から出力される高周波信号の角度を変更でき、後述の誘導体5と相まって加熱対象へ高周波信号を集中させやすくなる。特に、食塩水を含んでいるので、人体の導電率に近くなり、高周波信号を人体に通過させやすくなる。
【0078】
また、電極3と人体2との間に空気層が存在する場合には、電極3より照射される高周波信号が人体2に到達しにくかったり、高周波信号が空気層で反射や散乱したりして、人体2に対する放射線の付与が不十分となりうる。食塩水ボーラス4は、電極3と人体2との間に空気層を生じさせない。この結果、電極3から照射される高周波信号が人体2に到達しにくい問題が解消される。
【0079】
このため、食塩水ボーラス4は、その形状に柔軟性を有していることが好ましい。例えば、ビニールや軟性樹脂の袋に、食塩水が充填されている態様を有することで、食塩水ボーラス4は、電極3と人体2との間に空気層を生じさせにくくなる。このため、食塩水ボーラス4は、ウォータークッションのような態様を有している。
【0080】
図1においては、第1電極3Aと第2電極3Bとが、人体2の表面と裏面のそれぞれに対向するように配置されるので、これに合わせて第1食塩水ボーラス4Aと第2食塩水ボーラス4Bのそれぞれが、第1電極3Aおよび第2電極3Bのそれぞれに合わせて配置される。
【0081】
なお、食塩水ボーラス4は、電極3と人体2との間の空気層を生じさせることを防止するので、電極3と一体で構成されても良いし、別体で構成されても良い。図1の温熱治療装置1では、電極3と食塩水ボーラス4は、別体で構成されているが、電極3に食塩水ボーラス4が取り付けられている構成を有していてもよい。
【0082】
(冷却用食塩水ボーラス)
後述の誘導体5と人体2との間には、冷却用食塩水ボーラス6が配置される。冷却用食塩水ボーラス6は、人体2と直接接触する要素になるので、高周波信号の照射によって人体2の表面における加熱を防止すると共に誘導体5の配置によって生じうる食塩水ボーラス4と人体2との間の空気層を防止する。
【0083】
図1における温熱治療装置1は、誘導体5を人体2と電極3との間に配置する。このため、電極3の下層(人体2側)に配置される食塩水ボーラス4は、人体2と直接的に接触できずに誘導体5に接触することになってしまう。誘導体5は、加熱対象となる癌組織10に高周波信号を誘導する役割を果たすが、食塩水ボーラス4と人体2との間に配置されるので、食塩水ボーラス4の人体2への接触を排除する。加えて、誘導体5は、絶縁領域7と非絶縁領域8を有する構造のため、柔軟性を生じさせたり、空気層の発生を防止させたりすることは難しい。
【0084】
このため、食塩水ボーラス4と同様に、その外形に柔軟性を有する冷却用食塩水ボーラス6が、誘導体5と人体2との間に配置される。冷却用食塩水ボーラス6は、柔軟性のある外形によって、最終的には電極3と人体2との間の空気層の発生を、最小化する。結果的に、電極3から照射される高周波信号が、人体2に到達する前に、反射したり散乱したりすることが低減できる。
【0085】
また、冷却用食塩水ボーラス6は、人体2と直接的に接触する。冷却用食塩水ボーラス6は、袋状の素材の内部に食塩水を充填しているので、人体2に冷感を与えることができる。この結果、冷却用食塩水ボーラス6は、人体2表面を冷却できる。高周波信号の照射での加熱によって、人体2の表面も発熱する可能性がある。このような発熱は、人体2にとっては負担となったり不快感となったりすることもある。冷却用食塩水ボーラス6は、このような負担や不快感を低減できる。
【0086】
なお、冷却用食塩水ボーラス6は「冷却用」との文言を含んでいるが、冷却の用途を必須用途とするわけではない。
【0087】
図1の温熱治療装置1に示されるように、人体2の表面および裏面のそれぞれに対向するように配置される第1電極3Aおよび第2電極3Bに合わせて、第1冷却用食塩水ボーラス6Aと第2冷却用食塩水ボーラス6Bとが配置される。
【0088】
(誘導体)
次に、誘導体5について説明する。
【0089】
誘導体5について図2、図3を用いて説明する。ここで図2、図3は、単体の誘導体5を示すと共に、後述の誘導体5を構成する第1誘導部材51A、第2誘導部材51Bを示している。すなわち、形状、構造などにおいては、単体の誘導体5と第1誘導部材51A(第2誘導部材51B)とは、特段の区別をしなければならないわけではない。図2は、本発明の実施の形態1における誘導体の正面図であり、図3は、本発明の実施の形態1における誘導体の正面図である。
【0090】
(絶縁領域と非絶縁領域)
誘導体5は、絶縁領域7と非絶縁領域8を備える。絶縁領域7は、電極3から照射される高周波信号を遮蔽し、非絶縁領域8は、高周波信号を通過させる。高周波信号は、高い周波数を有する電流であるので、絶縁体である絶縁領域7によって、遮蔽される。一方、非絶縁領域8は、絶縁性を有していないので(有していても小さい)高周波信号を通過させる。
【0091】
絶縁領域7は、樹脂や合成樹脂などの絶縁性を有する素材で形成されれば良い。一方、非絶縁領域8は、絶縁性を有しない素材で形成されても良いし、誘導体5における空隙や隙間によって形成されても良い。このため、絶縁性を有する素材によって絶縁領域7が形成され、絶縁領域7以外の部分が非絶縁領域8となればよい。
【0092】
例えば、図2に示されるように、誘導体5は、絶縁性の素材で形成される方形(方形に限らず、円形、楕円形、多角形など)の外形を有し、この方形の内部の一部に空隙が設けられる。例えば、切り抜きによって空隙が設けられる。この空隙以外の部分が絶縁領域7となり、空隙が非絶縁領域8となる。図2に示される誘導体5は、一枚の絶縁性の素材で、絶縁領域7および非絶縁領域8を構成する。誘導体5が温熱治療装置1に使用される場合には、非絶縁領域8となる空隙が、加熱対象となる癌組織10に対向する位置に誘導体5が設置される。言い換えれば、加熱対象以外の部位には、絶縁領域7が対向するように誘導体5が設置される。
【0093】
あるいは、図3に示されるように、誘導体5は、絶縁性を有する、複数の素材の組み合わせで、絶縁領域7と非絶縁領域8とを形成してもよい。図3の誘導体5は、絶縁機能を有する複数の絶縁部材71の組み合わせを有している。具体的には、4枚の絶縁部材71が井桁状に組み合わされている。このため、中央付近には、4枚の絶縁部材71のいずれもが存在しない領域が発生する。この領域が、非絶縁領域8となる。当然ながら、4枚の絶縁部材71の存在する領域が、絶縁領域7となる。
【0094】
図2に示されるような、一つの部材で絶縁領域7および非絶縁領域8が形成される誘導体5が用いられても良いし、図3に示されるような、複数の部材で絶縁領域7および非絶縁領域8が形成される誘導体5が用いられても良い。図2に示されるような一つの部材で形成される誘導体5は、その形状が固定であるので、運搬・保管・使用が容易であるメリットを有する。例えば、加熱対象となる癌組織10の一般的な大きさや位置にあわせた非絶縁領域8を有する既製品として、誘導体5は、簡便に流通・使用される。
【0095】
一方、図3に示されるように複数の部材で形成される誘導体5は、その形状(特に、非絶縁領域8の位置、大きさ、配置)が可変となるので、加熱対象となる癌組織10の位置、大きさ、種類、あるいは治療を受ける患者の体格や特性に応じて、フレキシビリティに用いられるメリットを有する。また、複数の絶縁部材71のそれぞれは、まとめて保管されておけばよいので、保管の容易性もあり、保管と使用態様のフレキシビリティのバランスも高くなる。例えば、同じ形状・大きさを有する複数の絶縁部材71が保管されており、温熱治療装置1に用いられる際には、加熱対象の位置や大きさに合わせてこれら複数の絶縁部材71が組み合わされて、必要な絶縁領域7と非絶縁領域8を有する誘導体5が使用できるようになる。
【0096】
このように、図3に示されるような複数の絶縁部材71の組み合わせによる誘導体5は、形状、面積および位置の少なくとも一つにおいて可変となる非絶縁領域8を備えることができる。もちろん、図2示される単一部材で構成された誘導体5であっても、人体2に対する設置位置を変えるだけで、非絶縁領域8の位置を可変とできる。
【0097】
絶縁領域7と非絶縁領域8の組み合わせが、癌組織10などの加熱対象へ、集中的に高周波信号を導入するので、非絶縁領域8(言い換えれば絶縁領域7)の形状、面積および位置の少なくとも一つが可変であることは重要である。誘導体5は、設置位置に加えて、複数の絶縁部材71の組み合わせによることで、非絶縁領域8の形状、面積および位置の少なくとも一つをフレキシブルに変更できるようになる。
【0098】
絶縁領域7は、絶縁機能を有する部材や素材で形成される。非絶縁領域8は、絶縁領域7の残部であるが、図2、図3に示されるように、空隙が非絶縁領域8となってもよいし、絶縁性のない素材によって非絶縁領域8が形成されても良い。例えば、異なる2種類の部材が組み合わされて、絶縁性を有する部材は絶縁領域7を形成し、非絶縁性を有する部材は非絶縁領域8を形成する構造でもよい。
【0099】
また、非絶縁領域8は、図2や図3のように、絶縁領域7で囲まれて形成される領域および絶縁領域7の外側の領域81の少なくとも一方を含む。すなわち、図3における非絶縁領域8のように、絶縁部材71によって囲まれたり、図2における非絶縁領域8のように一体である部材の絶縁領域7によって囲まれたりして形成される領域を含む。同様に絶縁領域7の外側の領域81(絶縁領域7によって囲まれる非絶縁領域8の有無に関係なく)は、当然ながら非絶縁領域となりえる。このため、非絶縁領域8は、この外側の領域81も含む。
【0100】
すなわち、誘導体5は、誘導体5を形成する部材そのものが備える(あるいは複数の絶縁部材71が形成する構造体が備える)非絶縁領域8を用いるだけでなく、場合によっては、これら部材や構造体の外側(部材や構造体の周囲の領域)に当然ながら生じる非絶縁領域をも用いて、高周波信号を誘導できる。これは、後述の第1誘導部材51Aや第2誘導部材51Bであっても同様である。
【0101】
(加熱対象と非絶縁領域との対向)
誘導体5は、電極3から照射される高周波信号を加熱対象に集中的に誘導する。特に、絶縁領域7と非絶縁領域8の組み合わせの、形状、位置、範囲、大きさなどの要素によって、誘導体5は、加熱対象に集中的に高周波信号を誘導して、加熱を促す。
【0102】
このとき、非絶縁領域8は、高周波信号を人体2に到達させるので、非絶縁領域8は、加熱対象と対向していることが好ましい。特に、人体2を、相互に直交するX軸、Y軸、Z軸で把握する場合に、非絶縁領域8は、X軸およびY軸で構成される二次元平面において、人体2に含まれる加熱対象と対向することが好ましい。
【0103】
図4は、本発明の実施の形態1における人体の模式図である。図4は、人体を正面から見た状態と側面から見た状態とを示している。上述のX軸、Y軸およびZ軸は、相互に直交して三次元空間を定義する軸であるが、X軸は、人体2の横方向に沿っており、Y軸は、人体2の身長方向に沿っており、Z軸は、人体2の厚み方向に沿っている。人体2をこのようなX軸、Y軸、Z軸の三次元空間で把握することで、誘導体5による加熱対象への集中的な加熱(高周波信号の誘導)が、より明確に把握できるようになる。
【0104】
図5は、本発明の実施の形態1における誘導体の配置状態を示す模式図である。図5は、人体2を上から見ており、人体2は、癌組織10などの加熱対象を有している。人体2は、図4で説明した通りに、X軸、Y軸、Z軸で把握されるので、人体2の表面は、X軸およびY軸による二次元平面で把握される。
【0105】
誘導体5の非絶縁領域8は、高周波信号を加熱対象である癌組織10に誘導することが求められるので、非絶縁領域8は、X軸およびY軸で構成される二次元平面において、癌組織10などの加熱対象と対向していることが好ましい。図5は、非絶縁領域8がX軸およびY軸で構成される二次元平面において、加熱対象である癌組織10と対向している状態を示している。
【0106】
非絶縁領域8が加熱対象である癌組織10と対向していることで、図1の破線のように、高周波信号が加熱対象に集中するようになるメリットがある。結果として、人体2への負担やストレスを抑制しつつ、加熱対象を集中的に発熱させてがん治療を行えるようになる。
【0107】
(誘導体の別態様)
誘導体5は、図1に示されるように、単体の部材として人体2の表面側(あるいは裏面側)に配置されても良いが、第1誘導部材と第2誘導部材を備える構成でも良い。図6は、本発明の実施の形態1における温熱治療装置の別態様を示す模式図である。図6では、第1誘導体51Aが人体2の表面側に配置され、第2誘導部材51Bが人体2の裏面側に配置される。ここで、第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bのそれぞれの構造や機能は、図2、図3で説明した誘導体5と同様である。すなわち、第1誘導部材51Aは、絶縁領域7Aと非絶縁領域8Aを有し、第2誘導部材51Bは、絶縁領域7Bと非絶縁領域8Bとを有する。なお、絶縁領域7A、7Bの外側の領域を非絶縁領域としてみなしても良いことは、誘導体5において説明したのと同様である。
【0108】
絶縁領域7A、7Bおよび非絶縁領域8A、8Bは、誘導体5の絶縁領域7と非絶縁領域8と同様の機能を有する。すなわち、絶縁領域7A、7Bは高周波信号を遮蔽し、非絶縁領域8A、8Bは、高周波信号を通過させる。このため、第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bのそれぞれは、絶縁領域7A、7Bと非絶縁領域8A,8Bの組み合わせによって、高周波信号を加熱対象に集中して誘導する。
【0109】
図6に示される温熱治療装置1の高周波信号の通過は、破線に示されるとおりである。すなわち、第1誘導部材51Aの絶縁領域7Aと非絶縁領域8Aの組み合わせによって、加熱対象である癌組織10に高周波信号が集中する。更に、人体2の裏面には、第2誘導部材51Bが配置されているので、第2誘導部材51Bの備える絶縁領域7Bと非絶縁領域8Bの組み合わせによって、高周波信号を更に加熱対象に集中させやすくなる。図1における破線に比較して、図6における破線は、高周波信号の出口(人体2の裏面)においても絶縁領域7Bと火絶縁領域8Bとの組み合わせによって、より加熱対象への集中が生じていることが分かる。
【0110】
このように、誘導体5が第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bを備える場合には、加熱対象への高周波信号の集中的な誘導効率が高まり、人体2への負担やストレスを抑えつつ、加熱対象のみを集中して発熱させることができる。人体2の表面および裏面において、高周波信号が通過する範囲が加熱対象に限定されやすくなるからである。
【0111】
このとき、第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bのそれぞれの非絶縁領域8A、8Bは、人体2の表面および裏面のそれぞれで、癌組織10と対向していることが好ましい。高周波信号は、第1誘導部材51Aの非絶縁領域8Aから第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bへ通過するからである。
【0112】
以上のように、誘導体5は、絶縁領域7と非絶縁領域8の組み合わせによって、電極3から照射される高周波信号を、癌組織10などの加熱対象に集中的に誘導する。結果として、加熱対象を集中的に発熱させる。別な視点でいえば、加熱対象以外に対しては高周波信号の誘導を低減し、加熱対象以外での発熱を抑制できる。特に、非絶縁領域8を加熱対象と対向させることで、誘導体5は、これ等の効果を実現できる。もちろん、誘導体5が単体で人体2の表面のみ(あるいは裏面のみ)に配置されてもよいし、図1に示されるように、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bが、人体2の表面と裏面に配置されても良い。
【0113】
このため、誘導体5は、人体への負担を最小限にしつつ、加熱対象のみを集中的に加熱でき、温熱治療装置に適用されると、がん治療などに非常に効果的である。また、誘導体5は、既存の温熱治療装置1に組み込まれるだけでよいので、温熱治療装置1のコストも抑えられる。温熱治療は、外科治療や化学治療と合わせて用いられることが好適であるので、温熱治療装置1のコストが抑えられることは、他の治療方法と組み合わせた治療を容易にできるメリットもある。
【0114】
以上のように、実施の形態1における誘導体は、加熱対象を集中的に発熱させると共に、加熱対象以外での発熱を抑えて人体への負担を抑制できる温熱治療装置および温熱治療を実現できる。
【0115】
(実施の形態2)
【0116】
次に、実施の形態2について説明する。
【0117】
実施の形態2では、誘導体5が第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bを備えており、(1)第1誘導部材51Aの絶縁領域7Aの少なくとも一部が、人体2を介して、第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bの少なくとも一部と対向する、(2)第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bの少なくとも一方が、高周波信号の照射中に移動可能である、の2つのパターンについて説明する。
【0118】
(互い違いの対向)
図7は、本発明の実施の形態2における温熱治療装置の模式図である。図7は、温熱治療装置1を側面から見た状態を示しており、図1などと同じ符号が付されている要素は、図1等を用いて説明した要素と同様の機能や構成を有する要素である。
【0119】
図7の温熱治療装置1では、誘導体5は、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bを備えている。ここで、第1誘導部材51Aは人体2の表面側に配置され、第2誘導部材51Bは、人体2の裏面側に配置される。更に、第1誘導部材51Aの絶縁領域7Aの少なくとも一部が、人体2を介して、第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bの少なくとも一部と対向する。図6においては、第1誘導部材51Aの非絶縁領域8Aと第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bとが(X軸、Y軸)の座標において一致している。すなわち、ほぼ一致するように対向している。これに対して、図7では、第1誘導部材51Aの絶縁領域7Aと第2誘導部材51Bの絶縁領域7Bとは、(X軸、Y軸)で完全に一致しているわけではなく、非絶縁領域8A,8B同士も同様である。
【0120】
すなわち、第1誘導部材51Aの絶縁領域7Aの少なくとも一部と第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bの少なくとも一部が、人体2を介して対向している。もちろん、第1誘導部材51Aの絶縁領域7Aが第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bとが、ほぼ一致した状態で対向していることもありえる。
【0121】
非絶縁領域8Aと非絶縁領域8Bとが(X軸、Y軸)で示される座標値において異なることで、第1電極3Aから照射される高周波信号は、まず第1誘導部材51Aの絶縁領域7Aを避けるようにして非絶縁領域8Aを通過する。絶縁領域7Aと非絶縁領域8Aの境界は、加熱対象である癌組織10と対向する位置にあり、絶縁領域7Aと非絶縁領域8Aとの境界を通過する高周波信号は、癌組織10の近傍を通過しやすくなる。このとき、人体2を通過した高周波信号は、第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bを通過する。第2誘導部材51Bの絶縁領域7Bで高周波信号が遮蔽されるからである。すなわち、図7に示される破線のように、高周波信号はねじれをもって、第1電極3Aから第2電極3Bに到達する。
【0122】
このねじれによって、高周波信号は、加熱対象である癌組織10に様々な角度から導入しやすくなる。
【0123】
例えば、加熱対象となる癌組織10の位置や形状によっては、図1に示されるように、略垂直に高周波信号が照射されるよりも、斜め方向から高周波信号が照射されるほうが、癌組織10が集中的に発熱しやすい場合がある。このような場合においては、図7に示されるように第1誘導部材51Aと第2誘導部材51BとをZ軸にそって互い違いに配置することも好適である。
【0124】
図7に示されるように、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bとが人体2を基準に互い違いに配置される場合には、第1誘導部材51A第2誘導部材51Bのそれぞれは、図8に示されるような形状を有していてもよい。図8は、本発明の実施の形態2における誘導部材の正面図である。
【0125】
第1誘導部材51A(もしくは第2誘導部材51B)は、一方向に偏った絶縁領域7A(もしくは絶縁領域7B)と、他方向に偏った非絶縁領域8A(もしくは非絶縁領域8B)を有している。非絶縁領域8A、8Bの周囲は部材で囲まれている。もちろん、囲まれていなくても良く、この場合には、第1誘導部材51Aや第2誘導部材51Bが絶縁領域7A,7Bのみから構成されており、この絶縁領域7A,7Bの外側が非絶縁領域となる。
【0126】
以上のように、第1誘導部材51Aの絶縁領域7Aの少なくとも一部が、人体2を介して、第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bの少なくとも一部と対向することで、高周波信号を、ねじれた角度で加熱対象に集中的に誘導できる。
【0127】
(非絶縁領域の移動・変化)
第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bの少なくとも一方は、温熱治療装置による温熱治療中に、それぞれの非絶縁領域8A、8Bを移動可能であることも好ましい。
【0128】
(その1)
例えば、図6で示されるように、第1誘導部材51Aの非絶縁領域8Aと第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bとが、癌組織10と対向している。この状態では、癌組織10に略垂直に高周波信号が誘導される。この状態から、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bを同じ方向(X軸、Y軸での平面方向)で移動させる。
【0129】
図9は、本発明の実施の形態2における誘導部材の移動を示す模式図である。図9では、人体の正面から見ているので、第1誘導部材51Aのみが示されている。しかしながら、第1誘導部材51Aと(重複して)第2誘導部材51Bが人体を介して重畳配置されている。
【0130】
図9の左側は、ある位置に第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bが配置されている状態を示している。この後、図9の右側に示されるように、第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51BがX軸およびY軸で示される二次元平面において、同一方向に移動される。この結果、非絶縁領域8Aおよび非絶縁領域8Bの位置も変化する。特に、癌組織10との対向位置に変化が生じる。この結果、癌組織10への高周波信号の誘導の経路が変化し、癌組織10を満遍なく発熱させることができる。例えば、癌組織10の周囲も含めて発熱を促す必要がある場合に好適である。
【0131】
このように、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bがその非絶縁領域8A、8Bの対向位置を合わせたまま移動することは、加熱対象を、より効果的かつフレキシブルに発熱させることができる。
【0132】
非絶縁領域がX軸、Y軸平面上で移動することは、このように加熱対象を効果的に加熱するだけでなく、人体2の表面であって、高周波信号が照射される部位を変化させることができる。この結果、人体2の表面の特定部位が高周波信号によって加熱される時間が短縮され、人体2の表面における加熱ストレスが低減できる。
【0133】
(その2)
また、図8に示されるように非絶縁領域の位置が互い違いである場合に、その非絶縁領域の位置を変更することも好適である。図10は、本発明の実施の形態2における温熱治療装置の模式図であり、図8と同じ構成を示している。図10での温熱治療装置1は、第1誘導部材51Aの非絶縁領域8Aと第2誘導部材51Bの絶縁領域7Bが人体2を介して対向している。この場合には、破線に示されるような高周波信号の経路が形成される。この経路によって、癌組織10が集中的に発熱する。
【0134】
この図10の状態から、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bとが正反対になるように第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bを移動させる。図11は、このように第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bが移動した後の状態を示している。図10とX軸方向において逆の位置に、非絶縁領域8A、8Bが位置するように変化している。すなわち、図10とはX軸上で逆の状態となった上で、第1誘導部材51Aの非絶縁領域8Aは、第2誘導部材51Bの絶縁領域7Bと人体2を介して対向し、第1誘導部材51Bの絶縁領域7Aは、第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bと対向している。図11は、本発明の実施の形態2における温熱治療装置の模式図である。
【0135】
この結果、高周波信号は、図11の破線で示されるように、図10とは異なった斜め方向から癌組織10に誘導される。この誘導される高周波信号によって、癌組織10は発熱する。癌組織10への高周波信号の誘導によって、癌組織10は発熱するが、高周波信号の進入角度が温熱治療の際に変化することで、癌組織10が満遍なく発熱できる。もちろん、図10から図11に変化する間にも、徐々に第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bとが徐々に移動(言い換えると、非絶縁領域8Aと非絶縁領域8Bとが徐々に移動)するので、癌組織10に誘導される高周波信号の進入角度が少しずつ変化する。この変化によって、癌組織10の発熱が更に高まる。分子運動を促す不均一な力によって、癌組織10での発熱が高まりやすくなるからである。
【0136】
また、高周波信号が照射される人体2の表面の部位も、非絶縁領域の移動に伴って変化する。このため、特定の部位における照射時間が短縮され、人体2の表面での加熱ストレスが低減できる。
【0137】
以上のように、温熱治療中に、第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bが移動可能であることで(言い換えると、非絶縁領域8Aと非絶縁領域8Bが移動可能である)、誘導体5は、高周波信号を加熱対象により効果的に誘導できる。結果として、温熱治療の効果が高まる。
【0138】
このとき、高周波信号が照射状態である間に、誘導体5(第1誘導部材51A、第2誘導部材51B)が移動されても良いし、高周波信号の照射が停止中に移動されても良い。後者の場合には、高周波信号の照射が停止されてから誘導体5が移動され、移動後に再び高周波信号の照射が開始される。これの繰り返しによって、加熱対象への十分な照射を可能とする。
【0139】
(制御部)
図12は、本発明の実施の形態2における温熱治療装置の模式図である。図12に示される温熱治療装置1は、制御部20を備えている。
【0140】
温熱治療装置1は、第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bの少なくとも一方の設置および移動の少なくとも一方を行う制御部20を備える。制御部20は、誘導体5(誘導体5が第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bを備える場合には、これらの誘導部材)を、人体2に合わせて設置したり移動させたりする。例えば、上述のように、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bとを、X軸方向やY軸方向に移動させて、加熱対象に対する高周波信号の誘導経路を時間とともに変化させることができる。このような高周波信号の誘導経路の変化は、加熱対象における発熱を高めることができる。
【0141】
以上のように、実施の形態2における誘導体5は、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bとを備えることで、加熱対象への高周波信号の誘導を更に高い精度で行ったり、フレキシブルに行ったりできる。結果として、様々な形状や態様を有する癌組織10の治療を可能とする。
【0142】
(実施の形態3)
次に実施の形態3について説明する。実施の形態3では、実施の形態1、2で説明された誘導体5を用いた温熱治療装置1と温熱治療装置1を用いた温熱治療方法について説明する。
【0143】
図13は、本発明の実施の形態3における温熱治療の状態を示す説明図である。図13は、癌組織などの温熱治療の対象となる疾患を有する患者200に対して、温熱治療を施す状態を示している。
【0144】
温熱治療装置1は、実施の形態1、2で説明された要素や機能を有しており、温熱治療を実現できる。患者200は、癌組織10を有しており、温熱治療装置1は、癌組織10を集中的に加熱して癌組織10を死滅させることを目的とする。温熱治療装置1は、第1電極3Aと第2電極3Bを備え、高周波信号を癌組織10に付与する。この際に、誘導体5を構成する第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bが患者200の表面と裏面に配置されている。第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bのそれぞれは、絶縁領域7A、7Bと非絶縁領域8A、8Bを備えている。高周波信号は、この絶縁領域と非絶縁領域の組み合わせによって、癌組織10のある部位に集中し、その他の部分へは余り到達しない。この結果、患者200への負担やストレスは最小限に抑えられ、加熱対象となる癌組織10を集中的に発熱させることができる。
【0145】
このとき、温熱治療装置1は、第1電極3Aから高周波信号を付与する付与ステップと、誘導体5によって高周波信号がある部位に集中する集中ステップと、集中された高周波信号によって加熱対象を発熱させる発熱ステップと、を備えて、これらの方法によって温熱治療を実行する。
【0146】
図13では、癌組織10に、第1誘導部材51Aの非絶縁領域8Aと第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bが対向しているが、実施の形態1、2で説明したように、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bが温熱治療中に移動してもよい。
【0147】
以上のように、実施の形態1,2で説明した誘導体5を用いた温熱治療装置1は、癌組織10を集中的に加熱しつつ患者への負担を軽減して、治療を行うことができる。
【0148】
(実験結果)
実施の形態1,2で説明した誘導体5を用いた温熱治療装置1を用いることでの効果を、発明者は実験を通じて確認した。
【0149】
(実験その1)
まず、実施の形態1において図6を用いて説明した態様における誘導体5の効果について実験を行った。図14は、実験その1における実験態様を示す模式図である。図14は、図6と同じように、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bを、人体を模式する寒天ファントム21の表面と裏面に設置し、第1電極3Aおよび第2電極3Bによって、高周波信号を照射した。寒天ファントム21中の位置(1)〜(5)は、その加熱状態を測定する位置である。図14では、位置(1)、位置(2)が、第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Aと8Bとが対向する加熱対象である。すなわち、他の位置(1)〜(5)よりも、位置(1)、(2)の加熱が高いことが求められる。なお、人体を模式する実験では、一般的に寒天ファントムが用いられる。
【0150】
(実験条件)
第1電極3Aおよび第2電極3Bのそれぞれは、第1食塩水ボーラス4Aと第2食塩水ボーラス4Bを装着している。更に、第1電極3Aおよび第2電極3Bのそれぞれは、30cmの直径を有しており、8MHzの高周波信号を照射する。
【0151】
更に、第1冷却用食塩水ボーラス6Aと第2冷却用食塩水ボーラス6Bを、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bに合わせて設置している。
【0152】
第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bのそれぞれは、絶縁領域7A,7Bおよび非絶縁領域8A,8Bを有している。この非絶縁領域8Aと非絶縁領域8Bとは、寒天ファントム21の位置(1)、(2)と相互に対向している。また、第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bは、温熱治療の最中には移動されることはなく、位置は固定されている。
【0153】
(実験結果)
実験その1の実験結果は、図15、図16に示される。図15は、実験その1における位置(1)〜(5)のそれぞれの温度上昇を示す表であり、図16は、図15の表に対応するグラフである。
【0154】
図15、図16の結果から明らかな通り、高周波信号の照射時間が長くなるにつれて位置(1)、(2)(非絶縁領域に対向する)の温度上昇が他の位置(3)〜(5)(絶縁領域に対向する)の温度上昇よりも大きくなっていく。最終的な30分の照射終了後には、2.7℃から4.6℃の差分が生じている。また、位置(1)、(2)では44℃以上になっており、一般的に癌組織が死滅すると考えられる温度にまで上昇している。
【0155】
このように、実施の形態1で説明した誘導体5は、その絶縁領域7と非絶縁領域8との組み合わせによって、加熱対象となる位置(実験その1では位置(1)、(2))を集中的に加熱できることが実験その1より明らかである。この加熱対象となる位置(1)、(2)に癌組織などが存在すれば、誘導体5(すなわち温熱装置1)は、この癌組織のみを集中的に加熱でき、高い治療効果をもたらすことができる。加えて、加熱対象以外の人体へのストレスが小さい。
【0156】
(実験その2)
次に、実験その2において、実施の形態2で図10、図11を用いて説明した態様での実験を行った。図17は、実験その2を示す模式図である。図17は、実施の形態2で用いた図10、図11と同様に、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bとを、移動させながら治療を行う状態を示している。人体を模式する寒天ファントム21の位置(1)が加熱対象である。
【0157】
(実験条件)
用いる要素等は、実験その1と基本的に同様である。但し、第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bの形状および設置後の移動において相違する。
【0158】
第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bのそれぞれは、絶縁領域7A、7Bと非絶縁領域8A、8Bを有している。また、第1誘導部材51Aの非絶縁領域8Aと第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bとは、寒天ファントム21を介して不一致の状態で対向している。加えて、10分間の高周波信号の照射後に、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bの位置を逆転してから(図10から図11に変化するような状態)再び高周波信号を照射することを行った。
【0159】
(実験結果)
実験その2の結果は、図18、図19に示される。図18は、本発明の実験その2の結果を示す表であり、図19は、図18の表に対応するグラフである。
【0160】
図18、図19の結果からわかる通り、加熱対象となる位置(1)での温度上昇が他の位置よりも高くなった。すなわち、加熱対象だけを集中的に加熱して、他の位置に対する加熱へのストレスや負担を軽減できることが分かる。また、加熱対象となる位置(1)の温度は、44℃くらいにまで上昇しており、癌組織が死滅するに十分な温度上昇である。
【0161】
このように、実施の形態2で説明したような、誘導体5が温熱治療中に移動されることで、加熱対象のみを集中的に加熱できることが、実験その2からも明らかになった。
【0162】
また、実験その1、実験その2に対する比較例についても実験を行った。図20は、比較例における実験状態を示す模式図である。比較例では、実験その1、実験その2と異なり実施の携帯1、2で説明した誘導体5は用いられず、食塩水ボーラス4および冷却用食塩水ボーラス6を介して、電極3から寒天ファントム21に直接高周波信号が照射されている。実験その1、実験その2に対応するように位置(1)〜(4)のそれぞれにおける温度上昇を測定した。
【0163】
図21は、比較例における結果を示す表であり、図22は、図21に対応するグラフである。図21、図22から明らかな通り、位置(1)〜(4)のそれぞれでの温度上昇は相違がほとんどなく、癌組織などの特定の加熱対象を集中的に加熱することは難しい。
【0164】
特に、加熱対象となる部位(比較例では、位置(1)、(2)のそれぞれ)における温度上昇は、実験その1、その2に比較して少なく、比較例のように誘導体5を用いない場合には、加熱対象での温度上昇が不十分である。加えて、加熱対象以外との温度上昇の差分も小さく、加熱対象以外への加熱ストレスも大きいことが分かる。
【0165】
この比較例と実験その1、実験その2を比較することでも、実施の形態1、2で説明した誘導体5の優位性が分かる。すなわち、加熱対象のみを集中的に加熱できると共に加熱対象以外への加熱ストレスを低減できることである。
【0166】
以上、実施の形態1〜3で説明された誘導体および温熱治療装置は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【符号の説明】
【0167】
1 温熱治療装置
2 人体
3 電極
3A 第1電極
3B 第2電極
4 食塩水ボーラス
4A 第1食塩水ボーラス
4B 第2食塩水ボーラス
5 誘導体
51A 第1誘導部材
51B 第2誘導部材
6 冷却用食塩水ボーラス
6A 第1冷却用食塩水ボーラス
6B 第2冷却用食塩水ボーラス
7、7A,7B 絶縁領域
71 絶縁部材
8、8A,8B 非絶縁領域
10 癌組織
20 制御部
200 患者
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌などの腫瘍を治療するための温熱治療(ハイパーサーミアともいう)を行う温熱治療装置に用いる誘導体であって、癌などの治療対象のみの温度上昇を促す誘導体およびこの誘導体を用いる温熱治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の治療においては、癌組織を切除する外科治療、抗がん剤を用いる化学治療、放射線を癌組織に照射する放射線治療、身体の免疫力を高める免疫治療などが存在する。これらの治療方法は、それぞれに長所や短所があるが、人体への負担が大きかったり、癌の進行度合いによっては適用が困難であったりなどの問題があった。
【0003】
このような状況において、癌組織の温度を上昇させて癌組織を死滅させる温熱治療が注目されている。このような温熱治療は、ハイパーサーミアとも言われ、癌組織は正常組織と異なり熱に弱いという特性を利用している。正常組織は、多数の毛細血管を有しているため、加熱される場合でも、毛細血管の拡張や血流の増加によって加熱によって受けた熱を放出することができる。一方、癌組織は、毛細血管を有していないか、有していても少なくまた血管の拡張ができないため、加熱によって受けた熱を放出することができない。このため、癌組織は、41.5℃から44℃程度の熱で死滅することが知られている。
【0004】
温熱治療は、人体の表面と裏面を電極ではさみ、一方の電極から他方の電極へ高周波信号を照射することで、人体内部にある癌組織の温度を上昇させる。このとき、高周波信号が照射されている人体表面および内部では、癌組織の周辺も含めて温度が上昇するが、正常組織は血管拡張による放熱によって温度上昇を抑制できる。一方、癌組織のみが温度上昇を抑制できず、その温度が上昇する。この結果、癌組織が死滅もしくは減少する。実際には、この温熱治療と外科治療などが併用されて、癌組織を切除できる。
【0005】
温熱治療は、人体の表面と裏面に電極を設置して、電極同士での高周波信号照射のみで行えるので、化学治療や放射線治療のような副作用もなく、外科治療における手術中におけるリスクも少ない。このため、温熱治療に対する将来性の高さが期待されている。
【0006】
この温熱治療の基本構成は、上述の通り、人体の表面と裏面に設置される電極である。この電極からの高周波信号の照射による加熱が温熱治療の仕組みであるが、(1)加熱対象となる癌組織以外の部位に対する加熱が避けられないことによる人体への負担、(2)加熱対象となる癌組織における加熱と温度上昇の不足、という2点が大きな課題であった。
【0007】
このような2つの課題を解決する温熱治療についての、いくつかの技術的提案がなされている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開1988−189149号公報
【特許文献2】特表2007−536016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1は、温熱治療を行うハイパーサーミア装置であって、熱電効果を発生させる密着型アプリケータとこの熱電効果に対する冷却機能を有する冷却装置とを有するハイパーサーミア装置を開示する。ハイパーサーミア装置は、温熱治療のために、熱電効果によって人体に含まれる癌組織の温度上昇を促す加熱を行う。特許文献1の技術は、この加熱の際に人体への加熱負担を減少させるために、冷却装置を用いている。すなわち、特許文献1は、従来技術での課題(1)を解決しようというアプローチを有している。
【0010】
しかしながら、熱電効果を生じさせる密着型アプリケータが癌組織以外の人体を加熱することには変わりがなく、冷却装置によってこれを減少させることは根本的な解決ではない。密着型アプリケータによって癌組織以外の人体部分が加熱されることを回避できるわけではなく、加熱するそばから冷却しているに過ぎないからである。また、冷却装置の設置位置や設置状態によっては、加熱そのものに悪影響を与える可能性も生じる。この場合には、癌組織そのものの加熱も不十分となってしまい、温熱治療の効果が十分に発揮されない可能性がある。すなわち、従来技術での課題(1)を根本的に解決できないだけでなく、従来技術の課題(2)も解決困難である。
【0011】
特許文献2は、癌組織に集中的に高周波信号を与える工夫を有するハイパーサーミア装置を開示する。例えば、特許文献2のハイパーサーミア装置は、高周波信号の周波数を多元的にしたり、様々な部材を組み合わせたりすることで、癌組織への高周波信号の取り込みを可能にすることを企図している。すなわち、特許文献2は、従来技術の課題(2)を解決するアプローチを有している。
【0012】
しかしながら、特許文献2のハイパーサーミア装置は、癌組織に高周波信号を集中的に与えるために、様々な装置、付属品、部材、操作手順などを必要としており、装置が大型化および複雑化する問題がある。がん治療においては、温熱治療のみが行われることが想定されているよりも、温熱治療と他の治療方法(例えば外科治療)とを組み合わせることが想定されている。
【0013】
このような組み合わせ治療において、温熱治療に用いられるハイパーサーミア装置が複雑化・大型化することは、治療全体のコストを引き上げたり、治療全体の作業を複雑化したりして、患者の治療にとってはデメリットが生じうる。
【0014】
このため、特許文献2は、治療全体へのコスト上昇をもたらす問題も有している。
【0015】
また、特許文献2は、絶縁体を用いることを開示しているが、この絶縁体は、高周波信号を発信する電極から受信する電極に伝播させるための要素である。しかしながら、絶縁体を用いるだけでは、従来技術における課題(2)にあるように、癌組織だけに加熱を集中させることが困難である。当然ながら、課題(1)に示される人体への負担軽減を実現することも困難である。
【0016】
以上のように、従来技術や特許文献1、2などによる技術においては、治療全体のコストを低下させつつ、人体への負担軽減と癌組織への効率的な加熱のバランスを確保することが困難であった。また、人体は厚み方向を有しており、加熱対象となる癌組織などは、この厚み方向での位置は様々である。この厚み方向での位置に合わせて高周波信号を加熱対象に到達させるには、電極の大きさや形状を治療の際に変更する必要があり、医師の熟練が必要となっていた。治療時間も長くなってしまい、患者への精神的な負担も大きい問題があった。
【0017】
本発明は、上記課題に鑑み、温熱治療装置を複雑化・大型化させることなく、人体への負担を軽減しつつ癌組織への効率的な加熱を実現できる、温熱治療装置用の誘導体および温熱治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題に鑑み、本発明の誘導体は、人体に含まれる加熱対象を加熱する温熱治療装置に用いられる誘導体であって、絶縁領域と、非絶縁領域と、を備え、絶縁領域は、温熱治療装置が照射する高周波信号を人体に対して遮蔽し、非絶縁領域は、温熱治療装置が照射する高周波信号を人体に透過し、絶縁領域および非絶縁領域の組み合わせは、加熱対象に、高周波信号を導入する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の誘導体は、人体に含まれる癌組織を中心に加熱するとともに、癌組織に関係のない人体への加熱の負担を減少させることができる。
【0020】
また、癌組織は人体の内部に存在していることがほとんどであるが、本発明の誘導体は、人体を二次元的に把握した場合に癌組織への加熱を集中させることも可能であり、人体を三次元的に把握した場合に癌組織への加熱を集中させることも可能である。
【0021】
更に、本発明の誘導体は、絶縁性を有する部材を用いるだけで構成できるので、コストや作業負担が少なくなり、温熱治療の治療コスト(すなわちがん治療のコスト)を低減させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態1における温熱治療装置の使用状態を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態1における誘導体の正面図である。
【図3】本発明の実施の形態1における誘導体の正面図である。
【図4】本発明の実施の形態1における人体の模式図である。
【図5】本発明の実施の形態1における誘導体の配置状態を示す模式図である。
【図6】本発明の実施の形態1における温熱治療装置の別態様を示す模式図である。
【図7】本発明の実施の形態2における温熱治療装置の模式図である。
【図8】本発明の実施の形態2における誘導部材の正面図である。
【図9】本発明の実施の形態2における誘導部材の移動を示す模式図である。
【図10】本発明の実施の形態2における温熱治療装置の模式図である。
【図11】本発明の実施の形態2における温熱治療装置の模式図である。
【図12】本発明の実施の形態2における温熱治療装置の模式図である。
【図13】本発明の実施の形態3における温熱治療の状態を示す説明図である。
【図14】実験その1における実験態様を示す模式図である。
【図15】、実験その1における位置(1)〜(5)のそれぞれの温度上昇を示す表である。
【図16】図15の表に対応するグラフである。
【図17】実験その2の態様を示す模式図である。
【図18】実験その2における位置(1)〜(5)のそれぞれの温度上昇を示す表である。
【図19】図18の表に対応するグラフである。
【図20】比較例での実験状態を示す模式図である。
【図21】比較例における結果を示す表である。
【図22】図21に対応するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第1の発明に係る誘導体は、人体に含まれる加熱対象を加熱する温熱治療装置に用いられる誘導体であって、絶縁領域と、非絶縁領域と、を備え、絶縁領域は、温熱治療装置が照射する高周波信号を人体に対して遮蔽し、非絶縁領域は、温熱治療装置が照射する高周波信号を人体に透過し、絶縁領域および非絶縁領域の組み合わせは、加熱対象に、高周波信号を導入する。
【0024】
この構成により、誘導体は、加熱対象のみに高周波信号を集中させることができる。結果として、温熱治療装置による温熱治療において、人体への負担やストレスを最小化すると共に加熱対象を集中して発熱させることができる。更に、誘導体により高周波信号の到達度の調整が可能なため、温熱治療装置の電極の交換が不要である。
【0025】
本発明の第2の発明に係る誘導体では、第1の発明に加えて、非絶縁領域は、絶縁領域に囲まれて形成される領域および絶縁領域の外側に生じる領域の少なくとも一方を含む。
【0026】
この構成により、誘導体は、部材として形成される非絶縁領域だけでなく部材の外側に生じる非絶縁領域をも用いて、高周波信号を効率的に加熱対象に誘導することができる。
【0027】
本発明の第3の発明に係る誘導体では、第1又は第2の発明に加えて、人体を、相互に直交するX軸、Y軸およびZ軸の3次元で把握する場合に、非絶縁領域は、X軸およびY軸で構成される二次元平面で、人体に含まれる加熱対象と対向し、X軸は、人体の横方向に沿っており、Y軸は、人体の身長方向に沿っており、Z軸は、人体の厚み方向に沿っている。
【0028】
この構成により、誘導体は、加熱対象に集中して高周波信号を誘導できる。
【0029】
本発明の第4の発明に係る誘導体では、第1から第3のいずれかの発明に加えて、絶縁領域は、絶縁機能を有する複数の絶縁部材を備え、複数の絶縁部材の組み合わせによって、非絶縁領域が形成される。
【0030】
この構成により、絶縁領域と非絶縁領域の組み合わせや形状を、フレキシブルに形成することができる。
【0031】
本発明の第5の発明に係る誘導体では、第4の発明に加えて、非絶縁領域は、形状、面積および位置の少なくとも一つが可変である。
【0032】
この構成により、誘導体は、加熱対象の形状、大きさ、位置に合わせて、非絶縁領域を変化させることができる。
【0033】
本発明の第6の発明に係る誘導体では、第1から第5のいずれかの発明に加えて、誘導体は、第1誘導部材および第2誘導部材を備え、第1誘導部材は、人体の表面に対向するように配置され、第2誘導部材は、人体の裏面に対向するように配置され、第1誘導部材の絶縁領域の少なくとも一部は、第2誘導部材の非絶縁領域の少なくとも一部と、人体を介して対向する。
【0034】
この構成により、誘導体は、加熱対象に対して、様々な角度から三次元的に高周波信号を誘導することができる。
【0035】
本発明の第7の発明に係る誘導体では、第6の発明に加えて、第1誘導部材の非絶縁領域は、第2誘導部材の絶縁領域と、人体を介して対向し、第1誘導部材の絶縁領域は、第2誘導部材の非絶縁領域と、人体を介して対向する。
【0036】
この構成により、誘導体は、加熱対象に対して人体の厚み方向と交差する角度をもって、高周波信号を誘導できる。
【0037】
本発明の第8の発明に係る誘導体では、第6または第7の発明に加えて、第1誘導部材および第2誘導部材の少なくとも一方は、温熱治療装置による治療中に、それぞれの非絶縁領域の位置を移動可能である。
【0038】
この構成により、誘導体は、非加熱対象である人体の表面が発熱することによる生体負担を抑え、標的とする加熱対象だけを選択的に加熱することができる。また、加熱対象への加熱は継続されるが、人体表面での加熱される部位は変化していくので、人体表面への加熱ストレスが低減できる。
【0039】
本発明の第9の発明に係る誘導体では、第8の発明に加えて、非絶縁領域の位置は、(1)温熱治療装置からの高周波信号の照射中、(2)温熱治療装置からの高周波信号の停止中、のいずれかにおいて、移動可能である、請求項8記載の誘導体。
【0040】
この構成により、治療の態様に応じて非絶縁領域を移動でき、人体への負担を軽減しつつも加熱対象の集中的な発熱を可能とする。
【0041】
本発明の第10の発明に係る誘導体では、第8又は第9の発明に加えて、第1誘導部材および第2誘導部材の少なくとも一方は、それぞれの非絶縁領域の位置を、X軸およびY軸で特定される平面に沿って、移動可能である。
【0042】
この構成により、誘導体は、加熱対象へ、様々な角度や位置から高周波信号を誘導できるとともに、非加熱対象部位における発熱を抑えることができる。
【0043】
本発明の第11の発明に係る温熱治療装置は、第1から第10のいずれかの誘導体と、誘導体を設置および移動の少なくとも一方を行う制御部と、を備える。
【0044】
この構成により、温熱治療装置は、誘導体を移動させながら治療を行える。
【0045】
本発明の第12の発明に係る温熱治療装置では、第11の発明に加えて、誘導体を介して人体に高周波信号を照射可能な電極および電極と人体との間に設けられる冷却部材の少なくとも一方を更に備える。
【0046】
この構成により、温熱治療装置は、人体への負担を軽減しつつ高周波による加熱を行うことができる。
【0047】
以下、図面を用いて、本発明の実施の形態について説明する。
【0048】
(実施の形態1)
【0049】
実施の形態1について説明する。
(全体概要)
まず、実施の形態1における誘導体の全体概要を、図1を用いて説明する。
【0050】
図1は、本発明の実施の形態1における温熱治療装置の使用状態を示す模式図である。温熱治療装置は、電極より人体に対して高周波信号を付与することで人体に含まれる癌組織を死滅させる。このような温熱治療装置は、実際の医療現場において用いられており、外科治療や化学治療などと共にがん治療に対する期待が掛けられている。
【0051】
図1では、人体2の表面と裏面のそれぞれに、電極や食塩水ボーラスが設置されている状態を示している。このため、電極、食塩水ボーラス、冷却用食塩水ボーラスなどのそれぞれの要素について、便宜上、第1、第2との名称を付している。
【0052】
温熱治療装置1は、人体2の内部に含まれる加熱対象である癌組織10を加熱して、癌組織10を死滅させることを目的としている。
【0053】
温熱治療装置1は、人体2の上下に第1電極3A、第2電極3Bを設置して、第1電極3Aと第2電極3Bとの間に高周波信号を流す。第1電極3Aの下層(人体2に近い側)には、第1食塩水ボーラス4Aが設置される。第1食塩水ボーラス4Aは、第1電極3Aと人体2との直接的な接触を防止する。第1食塩水ボーラス4Aの下層(人体2に近い側)には、誘導体5が設置される。更に誘導体5の下層(人体2に近い側)には、第1冷却用食塩水ボーラス6Aが設置される。第1冷却用食塩水ボーラス6Aは、人体2を冷却し、温熱治療において癌組織10以外の部位の温度上昇での負担を軽減する。人体2に含まれる癌組織10が、加熱対象である。もちろん、加熱対象は癌組織10だけでなく、温熱治療によって治療を必要とする他の要素も含むものである。
【0054】
以上は、人体2の表面側の構成であるが、人体2の裏面も同じような要素の積層で構成される。第2電極3Bの上層(人体2に近い側)には、第2食塩水ボーラス4Bが設置される。第2食塩水ボーラス4Bは、第1食塩水ボーラス4Aと同様に、第2電極3Bと人体2との直接的な接触を防止する。更に、必要に応じて第2冷却用食塩水ボーラス6Bが設置される。第2冷却用食塩水ボーラス6Bは、人体2を冷却し、温熱治療において癌組織10以外の部位の温度上昇での負担を軽減する。なお、第2冷却用食塩水ボーラス6Bは、第2食塩水ボーラス4Bと兼用されてもよい。
【0055】
第1電極3Aから照射される高周波信号は、第1食塩水ボーラス4Aなどを通過して、誘導体5によって加熱対象である癌組織10に誘導される。誘導体5は、絶縁領域7と非絶縁領域8を有しており、この絶縁領域7と非絶縁領域8の組み合わせが、高周波信号を加熱対象に集中的に誘導しつつ、加熱対象以外への高周波信号の誘導を抑制する。この結果、誘導体5を用いた温熱治療装置1は、加熱対象のみを発熱させて、加熱対象となる癌組織10を死滅させる治療を行える。
【0056】
このような加熱対象を集中的に発熱できるのは、絶縁領域7は高周波信号を遮蔽し、非絶縁領域8は高周波信号を通過させる特徴を有しており、絶縁領域7と非絶縁領域8の組み合わせが、高周波信号を加熱対象に集中的に誘導できるからである。
【0057】
なお、符号に用いている「A」、「B」のそれぞれは、「第1」、「第2」に対応して付されており、第1、第2に対応しない場合には、同一の要素の符号は、数字だけの符号で示される。例えば、電極については、(第1電極、第2電極を特段に区別しないか、両方を包含して意味する場合)電極3として表されるものとする。
【0058】
(高周波信号の通過)
図1に基づいて、高周波信号の通過を説明する。図1に示される破線は、高周波信号の通過を示している。
【0059】
第1電極3Aから照射された高周波信号は、第1食塩水ボーラス4Aを通過して、誘導体5に到達する。誘導体5は、絶縁領域7を有しているので、高周波信号は、この絶縁領域7で遮蔽されて非絶縁領域8を通過するようになる。すなわち、破線のように、高周波信号はねじれて進む上に、非絶縁領域8に集中しやすくなる。
【0060】
非絶縁領域8に集中した高周波信号は、第1冷却用食塩水ボーラス6Aを通過して、そのまま非絶縁領域8と対向する癌組織10に集中して到達する。この高周波信号は、そのまま第2冷却用食塩水ボーラス6Bおよび第2食塩水ボーラス4Bを通過して、第2電極3Bに到達する。この高周波信号の通過は、図1の破線に示されるとおりである。すなわち、癌組織10に高周波信号が集中して通過する。
【0061】
高周波信号が癌組織10に集中することで、癌組織10は高い発熱を生じる。一方、癌組織10以外の部位においては、到達する(通過する)高周波信号が少ないため、発熱は抑えられる。これは人体2の表面でも同様である。これらの結果、人体2への負担やストレスは抑制されつつ、加熱対象のみを集中して発熱させて、癌組織10の効果的な治療が可能となる。
【0062】
このように実施の形態1における誘導体5は、患者への負担を最小限にしつつ、癌組織10を死滅させるための効率的な温熱治療を可能とする。
【0063】
誘導体5は、絶縁領域7と非絶縁領域8の組み合わせだけで、高周波信号を過熱対象に主として導入することができるので、現在使用されている温熱治療装置に容易に設置(導入)可能である。このため、温熱治療装置のコストアップや温熱治療装置を用いた温熱治療の負担増加を生じさせないで済む。
【0064】
誘導体5は、既に市販されている温熱治療装置のオプションとして流通されても良いし、温熱治療装置に組み込まれた状態で流通されても良い。いずれにしても、既存の温熱治療装置における温熱治療の効果を高めることができる。コストアップにもならないので、外科治療や化学治療などとの組み合わせも可能であり、総合的ながん治療にとっても、誘導体5は、高いプラスメリットをもたらす。
【0065】
次に、各部の詳細について説明する。
【0066】
(電極)
電極3は、誘導体5を直接的に構成する要素ではないが、温熱治療装置1の必要な要素である。
【0067】
電極3は、高周波信号を人体2(人体2に直接だけでなく、他の要素を介することも含む)に照射する。図1における第1電極3Aと第2電極3Bとの間に、高周波信号が伝播する。例えば第1電極3Aが高周波信号を出力し、第2電極3Bがこの出力された高周波信号を受信する。このため、第1電極3Aおよび第2電極3Bのそれぞれには、高周波信号となる電流を供給する電源や電源から接続される導電経路が備わっている。
【0068】
このため、電極3は、高周波信号を照射する照射部であると把握できる。
【0069】
高周波信号は、所定の範囲の周波数を有していればよく、一般的に高周波帯域に含まれる周波数であればよい。一例として、3MHz〜300MHzの高周波帯域や300MHzから数GHzのマイクロ波帯域などに含まれる周波数を、高周波信号は有していればよい。なお、本発明においては、高周波信号を加熱対象である癌組織に導入することが本質であり、いかなる周波数を有する高周波信号が用いられるかは、実際に使用される温熱治療装置1の仕様や特性に依存すれば良く、特段に特定する必要はない。
【0070】
例えば、市販されている温熱治療装置は、電極からの高周波信号の周波数として、8MHzを採用している。この周波数に特定されるものではないが、8MHz前後の周波数は、簡便な電子回路で発生させることができ、加熱と人体への負担とのバランスも高いからである。加えて、人体の加熱においては、8MHz前後の周波数が適当であるからである。もちろん、周波数を変えることで、対象とする癌組織の種類、位置、深度、大きさに対して最適な高周波信号を与えることもできる。
【0071】
なお、人体2のZ軸方向への高周波信号の到達度の調整は、電極の大きさを変えることで実現していることも多い。このため、電極3は、周波数、電極の大きさ、信号強度などが適宜組み合わされることで、人体2の加熱に適した高周波信号を出力する。
【0072】
第1電極3Aと第2電極3Bは、対となることで、高周波信号の出力と受信とが可能となるが、接地面(いわゆるアース)が受信機能を備える場合には、第1電極3Aのみで、人体2に高周波信号を照射できる。高周波信号が人体2に吸収されると、人体2の分子運動が盛んになり、分子運動の増加によって人体2の組織が発熱し、発熱部分の温度が高くなる。すなわち、高周波信号によって、人体2内部の組織が加熱されることになる。
【0073】
癌組織ではない正常な組織は、多数の毛細血管を含んでおり、この毛細血管の拡張によって(血流が盛んになり)、発熱による熱は放出される。すなわち、正常な組織の温度は余り上昇しない。これに対して、癌組織においては、毛細血管の働きが不十分となっており、毛細血管が熱を受けても拡張しない。すなわち、血流が盛んになることも無い。この結果、癌組織においては、高周波信号による発熱が放出されることが無く、癌組織は、発熱するようになる。
【0074】
このように、高周波信号が人体2に照射されることで、癌組織の温度が上昇して死滅し、正常な組織の温度はほとんど上昇せず、死滅することもない。
【0075】
以上のように、電極3(第1電極3Aと第2電極3B)は、人体2に対して高周波信号を付与し、癌組織などの加熱対象を加熱する。なお、ここでは、癌組織を加熱対象として説明しているが、加熱対象は、前立腺組織、肝組織、肺組織、腰背部軟部組織などの癌組織以外も含む。
【0076】
(食塩水ボーラス)
食塩水ボーラス4(図1においては、人体2の表面側の第1食塩水ボーラス4Aと人体2の裏面側の第2食塩水ボーラス4Bとを含む)は、電極3が人体2に直接接触しない(衛生面、人体への不快感などの防止のため)ために設置される。
【0077】
また、食塩水ボーラス4は、内部に食塩水を含んでいるので、高周波信号を透過させることができる。また、食塩水の濃度や食塩水ボーラス4の形状によって、電極3から出力される高周波信号の角度を変更でき、後述の誘導体5と相まって加熱対象へ高周波信号を集中させやすくなる。特に、食塩水を含んでいるので、人体の導電率に近くなり、高周波信号を人体に通過させやすくなる。
【0078】
また、電極3と人体2との間に空気層が存在する場合には、電極3より照射される高周波信号が人体2に到達しにくかったり、高周波信号が空気層で反射や散乱したりして、人体2に対する放射線の付与が不十分となりうる。食塩水ボーラス4は、電極3と人体2との間に空気層を生じさせない。この結果、電極3から照射される高周波信号が人体2に到達しにくい問題が解消される。
【0079】
このため、食塩水ボーラス4は、その形状に柔軟性を有していることが好ましい。例えば、ビニールや軟性樹脂の袋に、食塩水が充填されている態様を有することで、食塩水ボーラス4は、電極3と人体2との間に空気層を生じさせにくくなる。このため、食塩水ボーラス4は、ウォータークッションのような態様を有している。
【0080】
図1においては、第1電極3Aと第2電極3Bとが、人体2の表面と裏面のそれぞれに対向するように配置されるので、これに合わせて第1食塩水ボーラス4Aと第2食塩水ボーラス4Bのそれぞれが、第1電極3Aおよび第2電極3Bのそれぞれに合わせて配置される。
【0081】
なお、食塩水ボーラス4は、電極3と人体2との間の空気層を生じさせることを防止するので、電極3と一体で構成されても良いし、別体で構成されても良い。図1の温熱治療装置1では、電極3と食塩水ボーラス4は、別体で構成されているが、電極3に食塩水ボーラス4が取り付けられている構成を有していてもよい。
【0082】
(冷却用食塩水ボーラス)
後述の誘導体5と人体2との間には、冷却用食塩水ボーラス6が配置される。冷却用食塩水ボーラス6は、人体2と直接接触する要素になるので、高周波信号の照射によって人体2の表面における加熱を防止すると共に誘導体5の配置によって生じうる食塩水ボーラス4と人体2との間の空気層を防止する。
【0083】
図1における温熱治療装置1は、誘導体5を人体2と電極3との間に配置する。このため、電極3の下層(人体2側)に配置される食塩水ボーラス4は、人体2と直接的に接触できずに誘導体5に接触することになってしまう。誘導体5は、加熱対象となる癌組織10に高周波信号を誘導する役割を果たすが、食塩水ボーラス4と人体2との間に配置されるので、食塩水ボーラス4の人体2への接触を排除する。加えて、誘導体5は、絶縁領域7と非絶縁領域8を有する構造のため、柔軟性を生じさせたり、空気層の発生を防止させたりすることは難しい。
【0084】
このため、食塩水ボーラス4と同様に、その外形に柔軟性を有する冷却用食塩水ボーラス6が、誘導体5と人体2との間に配置される。冷却用食塩水ボーラス6は、柔軟性のある外形によって、最終的には電極3と人体2との間の空気層の発生を、最小化する。結果的に、電極3から照射される高周波信号が、人体2に到達する前に、反射したり散乱したりすることが低減できる。
【0085】
また、冷却用食塩水ボーラス6は、人体2と直接的に接触する。冷却用食塩水ボーラス6は、袋状の素材の内部に食塩水を充填しているので、人体2に冷感を与えることができる。この結果、冷却用食塩水ボーラス6は、人体2表面を冷却できる。高周波信号の照射での加熱によって、人体2の表面も発熱する可能性がある。このような発熱は、人体2にとっては負担となったり不快感となったりすることもある。冷却用食塩水ボーラス6は、このような負担や不快感を低減できる。
【0086】
なお、冷却用食塩水ボーラス6は「冷却用」との文言を含んでいるが、冷却の用途を必須用途とするわけではない。
【0087】
図1の温熱治療装置1に示されるように、人体2の表面および裏面のそれぞれに対向するように配置される第1電極3Aおよび第2電極3Bに合わせて、第1冷却用食塩水ボーラス6Aと第2冷却用食塩水ボーラス6Bとが配置される。
【0088】
(誘導体)
次に、誘導体5について説明する。
【0089】
誘導体5について図2、図3を用いて説明する。ここで図2、図3は、単体の誘導体5を示すと共に、後述の誘導体5を構成する第1誘導部材51A、第2誘導部材51Bを示している。すなわち、形状、構造などにおいては、単体の誘導体5と第1誘導部材51A(第2誘導部材51B)とは、特段の区別をしなければならないわけではない。図2は、本発明の実施の形態1における誘導体の正面図であり、図3は、本発明の実施の形態1における誘導体の正面図である。
【0090】
(絶縁領域と非絶縁領域)
誘導体5は、絶縁領域7と非絶縁領域8を備える。絶縁領域7は、電極3から照射される高周波信号を遮蔽し、非絶縁領域8は、高周波信号を通過させる。高周波信号は、高い周波数を有する電流であるので、絶縁体である絶縁領域7によって、遮蔽される。一方、非絶縁領域8は、絶縁性を有していないので(有していても小さい)高周波信号を通過させる。
【0091】
絶縁領域7は、樹脂や合成樹脂などの絶縁性を有する素材で形成されれば良い。一方、非絶縁領域8は、絶縁性を有しない素材で形成されても良いし、誘導体5における空隙や隙間によって形成されても良い。このため、絶縁性を有する素材によって絶縁領域7が形成され、絶縁領域7以外の部分が非絶縁領域8となればよい。
【0092】
例えば、図2に示されるように、誘導体5は、絶縁性の素材で形成される方形(方形に限らず、円形、楕円形、多角形など)の外形を有し、この方形の内部の一部に空隙が設けられる。例えば、切り抜きによって空隙が設けられる。この空隙以外の部分が絶縁領域7となり、空隙が非絶縁領域8となる。図2に示される誘導体5は、一枚の絶縁性の素材で、絶縁領域7および非絶縁領域8を構成する。誘導体5が温熱治療装置1に使用される場合には、非絶縁領域8となる空隙が、加熱対象となる癌組織10に対向する位置に誘導体5が設置される。言い換えれば、加熱対象以外の部位には、絶縁領域7が対向するように誘導体5が設置される。
【0093】
あるいは、図3に示されるように、誘導体5は、絶縁性を有する、複数の素材の組み合わせで、絶縁領域7と非絶縁領域8とを形成してもよい。図3の誘導体5は、絶縁機能を有する複数の絶縁部材71の組み合わせを有している。具体的には、4枚の絶縁部材71が井桁状に組み合わされている。このため、中央付近には、4枚の絶縁部材71のいずれもが存在しない領域が発生する。この領域が、非絶縁領域8となる。当然ながら、4枚の絶縁部材71の存在する領域が、絶縁領域7となる。
【0094】
図2に示されるような、一つの部材で絶縁領域7および非絶縁領域8が形成される誘導体5が用いられても良いし、図3に示されるような、複数の部材で絶縁領域7および非絶縁領域8が形成される誘導体5が用いられても良い。図2に示されるような一つの部材で形成される誘導体5は、その形状が固定であるので、運搬・保管・使用が容易であるメリットを有する。例えば、加熱対象となる癌組織10の一般的な大きさや位置にあわせた非絶縁領域8を有する既製品として、誘導体5は、簡便に流通・使用される。
【0095】
一方、図3に示されるように複数の部材で形成される誘導体5は、その形状(特に、非絶縁領域8の位置、大きさ、配置)が可変となるので、加熱対象となる癌組織10の位置、大きさ、種類、あるいは治療を受ける患者の体格や特性に応じて、フレキシビリティに用いられるメリットを有する。また、複数の絶縁部材71のそれぞれは、まとめて保管されておけばよいので、保管の容易性もあり、保管と使用態様のフレキシビリティのバランスも高くなる。例えば、同じ形状・大きさを有する複数の絶縁部材71が保管されており、温熱治療装置1に用いられる際には、加熱対象の位置や大きさに合わせてこれら複数の絶縁部材71が組み合わされて、必要な絶縁領域7と非絶縁領域8を有する誘導体5が使用できるようになる。
【0096】
このように、図3に示されるような複数の絶縁部材71の組み合わせによる誘導体5は、形状、面積および位置の少なくとも一つにおいて可変となる非絶縁領域8を備えることができる。もちろん、図2示される単一部材で構成された誘導体5であっても、人体2に対する設置位置を変えるだけで、非絶縁領域8の位置を可変とできる。
【0097】
絶縁領域7と非絶縁領域8の組み合わせが、癌組織10などの加熱対象へ、集中的に高周波信号を導入するので、非絶縁領域8(言い換えれば絶縁領域7)の形状、面積および位置の少なくとも一つが可変であることは重要である。誘導体5は、設置位置に加えて、複数の絶縁部材71の組み合わせによることで、非絶縁領域8の形状、面積および位置の少なくとも一つをフレキシブルに変更できるようになる。
【0098】
絶縁領域7は、絶縁機能を有する部材や素材で形成される。非絶縁領域8は、絶縁領域7の残部であるが、図2、図3に示されるように、空隙が非絶縁領域8となってもよいし、絶縁性のない素材によって非絶縁領域8が形成されても良い。例えば、異なる2種類の部材が組み合わされて、絶縁性を有する部材は絶縁領域7を形成し、非絶縁性を有する部材は非絶縁領域8を形成する構造でもよい。
【0099】
また、非絶縁領域8は、図2や図3のように、絶縁領域7で囲まれて形成される領域および絶縁領域7の外側の領域81の少なくとも一方を含む。すなわち、図3における非絶縁領域8のように、絶縁部材71によって囲まれたり、図2における非絶縁領域8のように一体である部材の絶縁領域7によって囲まれたりして形成される領域を含む。同様に絶縁領域7の外側の領域81(絶縁領域7によって囲まれる非絶縁領域8の有無に関係なく)は、当然ながら非絶縁領域となりえる。このため、非絶縁領域8は、この外側の領域81も含む。
【0100】
すなわち、誘導体5は、誘導体5を形成する部材そのものが備える(あるいは複数の絶縁部材71が形成する構造体が備える)非絶縁領域8を用いるだけでなく、場合によっては、これら部材や構造体の外側(部材や構造体の周囲の領域)に当然ながら生じる非絶縁領域をも用いて、高周波信号を誘導できる。これは、後述の第1誘導部材51Aや第2誘導部材51Bであっても同様である。
【0101】
(加熱対象と非絶縁領域との対向)
誘導体5は、電極3から照射される高周波信号を加熱対象に集中的に誘導する。特に、絶縁領域7と非絶縁領域8の組み合わせの、形状、位置、範囲、大きさなどの要素によって、誘導体5は、加熱対象に集中的に高周波信号を誘導して、加熱を促す。
【0102】
このとき、非絶縁領域8は、高周波信号を人体2に到達させるので、非絶縁領域8は、加熱対象と対向していることが好ましい。特に、人体2を、相互に直交するX軸、Y軸、Z軸で把握する場合に、非絶縁領域8は、X軸およびY軸で構成される二次元平面において、人体2に含まれる加熱対象と対向することが好ましい。
【0103】
図4は、本発明の実施の形態1における人体の模式図である。図4は、人体を正面から見た状態と側面から見た状態とを示している。上述のX軸、Y軸およびZ軸は、相互に直交して三次元空間を定義する軸であるが、X軸は、人体2の横方向に沿っており、Y軸は、人体2の身長方向に沿っており、Z軸は、人体2の厚み方向に沿っている。人体2をこのようなX軸、Y軸、Z軸の三次元空間で把握することで、誘導体5による加熱対象への集中的な加熱(高周波信号の誘導)が、より明確に把握できるようになる。
【0104】
図5は、本発明の実施の形態1における誘導体の配置状態を示す模式図である。図5は、人体2を上から見ており、人体2は、癌組織10などの加熱対象を有している。人体2は、図4で説明した通りに、X軸、Y軸、Z軸で把握されるので、人体2の表面は、X軸およびY軸による二次元平面で把握される。
【0105】
誘導体5の非絶縁領域8は、高周波信号を加熱対象である癌組織10に誘導することが求められるので、非絶縁領域8は、X軸およびY軸で構成される二次元平面において、癌組織10などの加熱対象と対向していることが好ましい。図5は、非絶縁領域8がX軸およびY軸で構成される二次元平面において、加熱対象である癌組織10と対向している状態を示している。
【0106】
非絶縁領域8が加熱対象である癌組織10と対向していることで、図1の破線のように、高周波信号が加熱対象に集中するようになるメリットがある。結果として、人体2への負担やストレスを抑制しつつ、加熱対象を集中的に発熱させてがん治療を行えるようになる。
【0107】
(誘導体の別態様)
誘導体5は、図1に示されるように、単体の部材として人体2の表面側(あるいは裏面側)に配置されても良いが、第1誘導部材と第2誘導部材を備える構成でも良い。図6は、本発明の実施の形態1における温熱治療装置の別態様を示す模式図である。図6では、第1誘導体51Aが人体2の表面側に配置され、第2誘導部材51Bが人体2の裏面側に配置される。ここで、第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bのそれぞれの構造や機能は、図2、図3で説明した誘導体5と同様である。すなわち、第1誘導部材51Aは、絶縁領域7Aと非絶縁領域8Aを有し、第2誘導部材51Bは、絶縁領域7Bと非絶縁領域8Bとを有する。なお、絶縁領域7A、7Bの外側の領域を非絶縁領域としてみなしても良いことは、誘導体5において説明したのと同様である。
【0108】
絶縁領域7A、7Bおよび非絶縁領域8A、8Bは、誘導体5の絶縁領域7と非絶縁領域8と同様の機能を有する。すなわち、絶縁領域7A、7Bは高周波信号を遮蔽し、非絶縁領域8A、8Bは、高周波信号を通過させる。このため、第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bのそれぞれは、絶縁領域7A、7Bと非絶縁領域8A,8Bの組み合わせによって、高周波信号を加熱対象に集中して誘導する。
【0109】
図6に示される温熱治療装置1の高周波信号の通過は、破線に示されるとおりである。すなわち、第1誘導部材51Aの絶縁領域7Aと非絶縁領域8Aの組み合わせによって、加熱対象である癌組織10に高周波信号が集中する。更に、人体2の裏面には、第2誘導部材51Bが配置されているので、第2誘導部材51Bの備える絶縁領域7Bと非絶縁領域8Bの組み合わせによって、高周波信号を更に加熱対象に集中させやすくなる。図1における破線に比較して、図6における破線は、高周波信号の出口(人体2の裏面)においても絶縁領域7Bと火絶縁領域8Bとの組み合わせによって、より加熱対象への集中が生じていることが分かる。
【0110】
このように、誘導体5が第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bを備える場合には、加熱対象への高周波信号の集中的な誘導効率が高まり、人体2への負担やストレスを抑えつつ、加熱対象のみを集中して発熱させることができる。人体2の表面および裏面において、高周波信号が通過する範囲が加熱対象に限定されやすくなるからである。
【0111】
このとき、第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bのそれぞれの非絶縁領域8A、8Bは、人体2の表面および裏面のそれぞれで、癌組織10と対向していることが好ましい。高周波信号は、第1誘導部材51Aの非絶縁領域8Aから第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bへ通過するからである。
【0112】
以上のように、誘導体5は、絶縁領域7と非絶縁領域8の組み合わせによって、電極3から照射される高周波信号を、癌組織10などの加熱対象に集中的に誘導する。結果として、加熱対象を集中的に発熱させる。別な視点でいえば、加熱対象以外に対しては高周波信号の誘導を低減し、加熱対象以外での発熱を抑制できる。特に、非絶縁領域8を加熱対象と対向させることで、誘導体5は、これ等の効果を実現できる。もちろん、誘導体5が単体で人体2の表面のみ(あるいは裏面のみ)に配置されてもよいし、図1に示されるように、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bが、人体2の表面と裏面に配置されても良い。
【0113】
このため、誘導体5は、人体への負担を最小限にしつつ、加熱対象のみを集中的に加熱でき、温熱治療装置に適用されると、がん治療などに非常に効果的である。また、誘導体5は、既存の温熱治療装置1に組み込まれるだけでよいので、温熱治療装置1のコストも抑えられる。温熱治療は、外科治療や化学治療と合わせて用いられることが好適であるので、温熱治療装置1のコストが抑えられることは、他の治療方法と組み合わせた治療を容易にできるメリットもある。
【0114】
以上のように、実施の形態1における誘導体は、加熱対象を集中的に発熱させると共に、加熱対象以外での発熱を抑えて人体への負担を抑制できる温熱治療装置および温熱治療を実現できる。
【0115】
(実施の形態2)
【0116】
次に、実施の形態2について説明する。
【0117】
実施の形態2では、誘導体5が第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bを備えており、(1)第1誘導部材51Aの絶縁領域7Aの少なくとも一部が、人体2を介して、第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bの少なくとも一部と対向する、(2)第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bの少なくとも一方が、高周波信号の照射中に移動可能である、の2つのパターンについて説明する。
【0118】
(互い違いの対向)
図7は、本発明の実施の形態2における温熱治療装置の模式図である。図7は、温熱治療装置1を側面から見た状態を示しており、図1などと同じ符号が付されている要素は、図1等を用いて説明した要素と同様の機能や構成を有する要素である。
【0119】
図7の温熱治療装置1では、誘導体5は、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bを備えている。ここで、第1誘導部材51Aは人体2の表面側に配置され、第2誘導部材51Bは、人体2の裏面側に配置される。更に、第1誘導部材51Aの絶縁領域7Aの少なくとも一部が、人体2を介して、第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bの少なくとも一部と対向する。図6においては、第1誘導部材51Aの非絶縁領域8Aと第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bとが(X軸、Y軸)の座標において一致している。すなわち、ほぼ一致するように対向している。これに対して、図7では、第1誘導部材51Aの絶縁領域7Aと第2誘導部材51Bの絶縁領域7Bとは、(X軸、Y軸)で完全に一致しているわけではなく、非絶縁領域8A,8B同士も同様である。
【0120】
すなわち、第1誘導部材51Aの絶縁領域7Aの少なくとも一部と第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bの少なくとも一部が、人体2を介して対向している。もちろん、第1誘導部材51Aの絶縁領域7Aが第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bとが、ほぼ一致した状態で対向していることもありえる。
【0121】
非絶縁領域8Aと非絶縁領域8Bとが(X軸、Y軸)で示される座標値において異なることで、第1電極3Aから照射される高周波信号は、まず第1誘導部材51Aの絶縁領域7Aを避けるようにして非絶縁領域8Aを通過する。絶縁領域7Aと非絶縁領域8Aの境界は、加熱対象である癌組織10と対向する位置にあり、絶縁領域7Aと非絶縁領域8Aとの境界を通過する高周波信号は、癌組織10の近傍を通過しやすくなる。このとき、人体2を通過した高周波信号は、第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bを通過する。第2誘導部材51Bの絶縁領域7Bで高周波信号が遮蔽されるからである。すなわち、図7に示される破線のように、高周波信号はねじれをもって、第1電極3Aから第2電極3Bに到達する。
【0122】
このねじれによって、高周波信号は、加熱対象である癌組織10に様々な角度から導入しやすくなる。
【0123】
例えば、加熱対象となる癌組織10の位置や形状によっては、図1に示されるように、略垂直に高周波信号が照射されるよりも、斜め方向から高周波信号が照射されるほうが、癌組織10が集中的に発熱しやすい場合がある。このような場合においては、図7に示されるように第1誘導部材51Aと第2誘導部材51BとをZ軸にそって互い違いに配置することも好適である。
【0124】
図7に示されるように、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bとが人体2を基準に互い違いに配置される場合には、第1誘導部材51A第2誘導部材51Bのそれぞれは、図8に示されるような形状を有していてもよい。図8は、本発明の実施の形態2における誘導部材の正面図である。
【0125】
第1誘導部材51A(もしくは第2誘導部材51B)は、一方向に偏った絶縁領域7A(もしくは絶縁領域7B)と、他方向に偏った非絶縁領域8A(もしくは非絶縁領域8B)を有している。非絶縁領域8A、8Bの周囲は部材で囲まれている。もちろん、囲まれていなくても良く、この場合には、第1誘導部材51Aや第2誘導部材51Bが絶縁領域7A,7Bのみから構成されており、この絶縁領域7A,7Bの外側が非絶縁領域となる。
【0126】
以上のように、第1誘導部材51Aの絶縁領域7Aの少なくとも一部が、人体2を介して、第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bの少なくとも一部と対向することで、高周波信号を、ねじれた角度で加熱対象に集中的に誘導できる。
【0127】
(非絶縁領域の移動・変化)
第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bの少なくとも一方は、温熱治療装置による温熱治療中に、それぞれの非絶縁領域8A、8Bを移動可能であることも好ましい。
【0128】
(その1)
例えば、図6で示されるように、第1誘導部材51Aの非絶縁領域8Aと第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bとが、癌組織10と対向している。この状態では、癌組織10に略垂直に高周波信号が誘導される。この状態から、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bを同じ方向(X軸、Y軸での平面方向)で移動させる。
【0129】
図9は、本発明の実施の形態2における誘導部材の移動を示す模式図である。図9では、人体の正面から見ているので、第1誘導部材51Aのみが示されている。しかしながら、第1誘導部材51Aと(重複して)第2誘導部材51Bが人体を介して重畳配置されている。
【0130】
図9の左側は、ある位置に第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bが配置されている状態を示している。この後、図9の右側に示されるように、第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51BがX軸およびY軸で示される二次元平面において、同一方向に移動される。この結果、非絶縁領域8Aおよび非絶縁領域8Bの位置も変化する。特に、癌組織10との対向位置に変化が生じる。この結果、癌組織10への高周波信号の誘導の経路が変化し、癌組織10を満遍なく発熱させることができる。例えば、癌組織10の周囲も含めて発熱を促す必要がある場合に好適である。
【0131】
このように、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bがその非絶縁領域8A、8Bの対向位置を合わせたまま移動することは、加熱対象を、より効果的かつフレキシブルに発熱させることができる。
【0132】
非絶縁領域がX軸、Y軸平面上で移動することは、このように加熱対象を効果的に加熱するだけでなく、人体2の表面であって、高周波信号が照射される部位を変化させることができる。この結果、人体2の表面の特定部位が高周波信号によって加熱される時間が短縮され、人体2の表面における加熱ストレスが低減できる。
【0133】
(その2)
また、図8に示されるように非絶縁領域の位置が互い違いである場合に、その非絶縁領域の位置を変更することも好適である。図10は、本発明の実施の形態2における温熱治療装置の模式図であり、図8と同じ構成を示している。図10での温熱治療装置1は、第1誘導部材51Aの非絶縁領域8Aと第2誘導部材51Bの絶縁領域7Bが人体2を介して対向している。この場合には、破線に示されるような高周波信号の経路が形成される。この経路によって、癌組織10が集中的に発熱する。
【0134】
この図10の状態から、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bとが正反対になるように第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bを移動させる。図11は、このように第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bが移動した後の状態を示している。図10とX軸方向において逆の位置に、非絶縁領域8A、8Bが位置するように変化している。すなわち、図10とはX軸上で逆の状態となった上で、第1誘導部材51Aの非絶縁領域8Aは、第2誘導部材51Bの絶縁領域7Bと人体2を介して対向し、第1誘導部材51Bの絶縁領域7Aは、第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bと対向している。図11は、本発明の実施の形態2における温熱治療装置の模式図である。
【0135】
この結果、高周波信号は、図11の破線で示されるように、図10とは異なった斜め方向から癌組織10に誘導される。この誘導される高周波信号によって、癌組織10は発熱する。癌組織10への高周波信号の誘導によって、癌組織10は発熱するが、高周波信号の進入角度が温熱治療の際に変化することで、癌組織10が満遍なく発熱できる。もちろん、図10から図11に変化する間にも、徐々に第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bとが徐々に移動(言い換えると、非絶縁領域8Aと非絶縁領域8Bとが徐々に移動)するので、癌組織10に誘導される高周波信号の進入角度が少しずつ変化する。この変化によって、癌組織10の発熱が更に高まる。分子運動を促す不均一な力によって、癌組織10での発熱が高まりやすくなるからである。
【0136】
また、高周波信号が照射される人体2の表面の部位も、非絶縁領域の移動に伴って変化する。このため、特定の部位における照射時間が短縮され、人体2の表面での加熱ストレスが低減できる。
【0137】
以上のように、温熱治療中に、第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bが移動可能であることで(言い換えると、非絶縁領域8Aと非絶縁領域8Bが移動可能である)、誘導体5は、高周波信号を加熱対象により効果的に誘導できる。結果として、温熱治療の効果が高まる。
【0138】
このとき、高周波信号が照射状態である間に、誘導体5(第1誘導部材51A、第2誘導部材51B)が移動されても良いし、高周波信号の照射が停止中に移動されても良い。後者の場合には、高周波信号の照射が停止されてから誘導体5が移動され、移動後に再び高周波信号の照射が開始される。これの繰り返しによって、加熱対象への十分な照射を可能とする。
【0139】
(制御部)
図12は、本発明の実施の形態2における温熱治療装置の模式図である。図12に示される温熱治療装置1は、制御部20を備えている。
【0140】
温熱治療装置1は、第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bの少なくとも一方の設置および移動の少なくとも一方を行う制御部20を備える。制御部20は、誘導体5(誘導体5が第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bを備える場合には、これらの誘導部材)を、人体2に合わせて設置したり移動させたりする。例えば、上述のように、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bとを、X軸方向やY軸方向に移動させて、加熱対象に対する高周波信号の誘導経路を時間とともに変化させることができる。このような高周波信号の誘導経路の変化は、加熱対象における発熱を高めることができる。
【0141】
以上のように、実施の形態2における誘導体5は、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bとを備えることで、加熱対象への高周波信号の誘導を更に高い精度で行ったり、フレキシブルに行ったりできる。結果として、様々な形状や態様を有する癌組織10の治療を可能とする。
【0142】
(実施の形態3)
次に実施の形態3について説明する。実施の形態3では、実施の形態1、2で説明された誘導体5を用いた温熱治療装置1と温熱治療装置1を用いた温熱治療方法について説明する。
【0143】
図13は、本発明の実施の形態3における温熱治療の状態を示す説明図である。図13は、癌組織などの温熱治療の対象となる疾患を有する患者200に対して、温熱治療を施す状態を示している。
【0144】
温熱治療装置1は、実施の形態1、2で説明された要素や機能を有しており、温熱治療を実現できる。患者200は、癌組織10を有しており、温熱治療装置1は、癌組織10を集中的に加熱して癌組織10を死滅させることを目的とする。温熱治療装置1は、第1電極3Aと第2電極3Bを備え、高周波信号を癌組織10に付与する。この際に、誘導体5を構成する第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bが患者200の表面と裏面に配置されている。第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bのそれぞれは、絶縁領域7A、7Bと非絶縁領域8A、8Bを備えている。高周波信号は、この絶縁領域と非絶縁領域の組み合わせによって、癌組織10のある部位に集中し、その他の部分へは余り到達しない。この結果、患者200への負担やストレスは最小限に抑えられ、加熱対象となる癌組織10を集中的に発熱させることができる。
【0145】
このとき、温熱治療装置1は、第1電極3Aから高周波信号を付与する付与ステップと、誘導体5によって高周波信号がある部位に集中する集中ステップと、集中された高周波信号によって加熱対象を発熱させる発熱ステップと、を備えて、これらの方法によって温熱治療を実行する。
【0146】
図13では、癌組織10に、第1誘導部材51Aの非絶縁領域8Aと第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bが対向しているが、実施の形態1、2で説明したように、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bが温熱治療中に移動してもよい。
【0147】
以上のように、実施の形態1,2で説明した誘導体5を用いた温熱治療装置1は、癌組織10を集中的に加熱しつつ患者への負担を軽減して、治療を行うことができる。
【0148】
(実験結果)
実施の形態1,2で説明した誘導体5を用いた温熱治療装置1を用いることでの効果を、発明者は実験を通じて確認した。
【0149】
(実験その1)
まず、実施の形態1において図6を用いて説明した態様における誘導体5の効果について実験を行った。図14は、実験その1における実験態様を示す模式図である。図14は、図6と同じように、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bを、人体を模式する寒天ファントム21の表面と裏面に設置し、第1電極3Aおよび第2電極3Bによって、高周波信号を照射した。寒天ファントム21中の位置(1)〜(5)は、その加熱状態を測定する位置である。図14では、位置(1)、位置(2)が、第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Aと8Bとが対向する加熱対象である。すなわち、他の位置(1)〜(5)よりも、位置(1)、(2)の加熱が高いことが求められる。なお、人体を模式する実験では、一般的に寒天ファントムが用いられる。
【0150】
(実験条件)
第1電極3Aおよび第2電極3Bのそれぞれは、第1食塩水ボーラス4Aと第2食塩水ボーラス4Bを装着している。更に、第1電極3Aおよび第2電極3Bのそれぞれは、30cmの直径を有しており、8MHzの高周波信号を照射する。
【0151】
更に、第1冷却用食塩水ボーラス6Aと第2冷却用食塩水ボーラス6Bを、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bに合わせて設置している。
【0152】
第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bのそれぞれは、絶縁領域7A,7Bおよび非絶縁領域8A,8Bを有している。この非絶縁領域8Aと非絶縁領域8Bとは、寒天ファントム21の位置(1)、(2)と相互に対向している。また、第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bは、温熱治療の最中には移動されることはなく、位置は固定されている。
【0153】
(実験結果)
実験その1の実験結果は、図15、図16に示される。図15は、実験その1における位置(1)〜(5)のそれぞれの温度上昇を示す表であり、図16は、図15の表に対応するグラフである。
【0154】
図15、図16の結果から明らかな通り、高周波信号の照射時間が長くなるにつれて位置(1)、(2)(非絶縁領域に対向する)の温度上昇が他の位置(3)〜(5)(絶縁領域に対向する)の温度上昇よりも大きくなっていく。最終的な30分の照射終了後には、2.7℃から4.6℃の差分が生じている。また、位置(1)、(2)では44℃以上になっており、一般的に癌組織が死滅すると考えられる温度にまで上昇している。
【0155】
このように、実施の形態1で説明した誘導体5は、その絶縁領域7と非絶縁領域8との組み合わせによって、加熱対象となる位置(実験その1では位置(1)、(2))を集中的に加熱できることが実験その1より明らかである。この加熱対象となる位置(1)、(2)に癌組織などが存在すれば、誘導体5(すなわち温熱装置1)は、この癌組織のみを集中的に加熱でき、高い治療効果をもたらすことができる。加えて、加熱対象以外の人体へのストレスが小さい。
【0156】
(実験その2)
次に、実験その2において、実施の形態2で図10、図11を用いて説明した態様での実験を行った。図17は、実験その2を示す模式図である。図17は、実施の形態2で用いた図10、図11と同様に、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bとを、移動させながら治療を行う状態を示している。人体を模式する寒天ファントム21の位置(1)が加熱対象である。
【0157】
(実験条件)
用いる要素等は、実験その1と基本的に同様である。但し、第1誘導部材51Aおよび第2誘導部材51Bの形状および設置後の移動において相違する。
【0158】
第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bのそれぞれは、絶縁領域7A、7Bと非絶縁領域8A、8Bを有している。また、第1誘導部材51Aの非絶縁領域8Aと第2誘導部材51Bの非絶縁領域8Bとは、寒天ファントム21を介して不一致の状態で対向している。加えて、10分間の高周波信号の照射後に、第1誘導部材51Aと第2誘導部材51Bの位置を逆転してから(図10から図11に変化するような状態)再び高周波信号を照射することを行った。
【0159】
(実験結果)
実験その2の結果は、図18、図19に示される。図18は、本発明の実験その2の結果を示す表であり、図19は、図18の表に対応するグラフである。
【0160】
図18、図19の結果からわかる通り、加熱対象となる位置(1)での温度上昇が他の位置よりも高くなった。すなわち、加熱対象だけを集中的に加熱して、他の位置に対する加熱へのストレスや負担を軽減できることが分かる。また、加熱対象となる位置(1)の温度は、44℃くらいにまで上昇しており、癌組織が死滅するに十分な温度上昇である。
【0161】
このように、実施の形態2で説明したような、誘導体5が温熱治療中に移動されることで、加熱対象のみを集中的に加熱できることが、実験その2からも明らかになった。
【0162】
また、実験その1、実験その2に対する比較例についても実験を行った。図20は、比較例における実験状態を示す模式図である。比較例では、実験その1、実験その2と異なり実施の携帯1、2で説明した誘導体5は用いられず、食塩水ボーラス4および冷却用食塩水ボーラス6を介して、電極3から寒天ファントム21に直接高周波信号が照射されている。実験その1、実験その2に対応するように位置(1)〜(4)のそれぞれにおける温度上昇を測定した。
【0163】
図21は、比較例における結果を示す表であり、図22は、図21に対応するグラフである。図21、図22から明らかな通り、位置(1)〜(4)のそれぞれでの温度上昇は相違がほとんどなく、癌組織などの特定の加熱対象を集中的に加熱することは難しい。
【0164】
特に、加熱対象となる部位(比較例では、位置(1)、(2)のそれぞれ)における温度上昇は、実験その1、その2に比較して少なく、比較例のように誘導体5を用いない場合には、加熱対象での温度上昇が不十分である。加えて、加熱対象以外との温度上昇の差分も小さく、加熱対象以外への加熱ストレスも大きいことが分かる。
【0165】
この比較例と実験その1、実験その2を比較することでも、実施の形態1、2で説明した誘導体5の優位性が分かる。すなわち、加熱対象のみを集中的に加熱できると共に加熱対象以外への加熱ストレスを低減できることである。
【0166】
以上、実施の形態1〜3で説明された誘導体および温熱治療装置は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【符号の説明】
【0167】
1 温熱治療装置
2 人体
3 電極
3A 第1電極
3B 第2電極
4 食塩水ボーラス
4A 第1食塩水ボーラス
4B 第2食塩水ボーラス
5 誘導体
51A 第1誘導部材
51B 第2誘導部材
6 冷却用食塩水ボーラス
6A 第1冷却用食塩水ボーラス
6B 第2冷却用食塩水ボーラス
7、7A,7B 絶縁領域
71 絶縁部材
8、8A,8B 非絶縁領域
10 癌組織
20 制御部
200 患者
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体に含まれる加熱対象を加熱する温熱治療装置に用いられる誘導体であって、
絶縁領域と、
非絶縁領域と、を備え、
前記絶縁領域は、前記温熱治療装置が照射する高周波信号を前記人体に対して遮蔽し、前記非絶縁領域は、前記温熱治療装置が照射する高周波信号を前記人体に透過し、
前記絶縁領域および前記非絶縁領域の組み合わせは、前記加熱対象に、前記高周波信号を導入する誘導体。
【請求項2】
前記非絶縁領域は、前記絶縁領域に囲まれて形成される領域および前記絶縁領域の外側に生じる領域の少なくとも一方を含む、請求項1記載の誘導体。
【請求項3】
前記人体を、相互に直交するX軸、Y軸およびZ軸の3次元で把握する場合に、
前記非絶縁領域は、前記X軸および前記Y軸で構成される二次元平面で、前記人体に含まれる加熱対象と対向し、
前記X軸は、前記人体の横方向に沿っており、前記Y軸は、前記人体の身長方向に沿っており、前記Z軸は、前記人体の厚み方向に沿っている、請求項1又は2記載の誘導体。
【請求項4】
前記絶縁領域は、絶縁機能を有する複数の絶縁部材を備え、前記複数の絶縁部材の組み合わせによって、前記非絶縁領域が形成される、請求項1から3のいずれか記載の誘導体。
【請求項5】
前記非絶縁領域は、形状、面積および位置の少なくとも一つが可変である、請求項4記載の誘導体。
【請求項6】
前記誘導体は、第1誘導部材および第2誘導部材を備え、
前記第1誘導部材は、前記人体の表面に対向するように配置され、前記第2誘導部材は、前記人体の裏面に対向するように配置され、
前記第1誘導部材の絶縁領域の少なくとも一部は、前記第2誘導部材の非絶縁領域の少なくとも一部と、前記人体を介して対向する、請求項1から5のいずれか記載の誘導体。
【請求項7】
前記第1誘導部材の非絶縁領域は、前記第2誘導部材の絶縁領域と、前記人体を介して対向し、
前記第1誘導部材の絶縁領域は、前記第2誘導部材の非絶縁領域と、前記人体を介して対向する、請求項6記載の誘導体。
【請求項8】
前記第1誘導部材および前記第2誘導部材の少なくとも一方は、前記温熱治療装置による治療中に、それぞれの非絶縁領域の位置を移動可能である、請求項6又は7記載の誘導体。
【請求項9】
前記非絶縁領域の位置は、(1)前記温熱治療装置からの高周波信号の照射中、(2)前記温熱治療装置からの高周波信号の停止中、のいずれかにおいて、移動可能である、請求項8記載の誘導体。
【請求項10】
前記第1誘導部材および前記第2誘導部材の少なくとも一方は、それぞれの前記非絶縁領域の位置を、X軸およびY軸で特定される平面に沿って、移動可能である、請求項8又は9記載の誘導体。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか記載の誘導体と、
前記誘導体を設置および移動の少なくとも一方を行う制御部と、を備える温熱治療装置。
【請求項12】
前記誘導体を介して人体に高周波信号を照射可能な電極および前記電極と前記人体との間に設けられる冷却部材の少なくとも一方を更に備える、請求項11記載の温熱治療装置。
【請求項1】
人体に含まれる加熱対象を加熱する温熱治療装置に用いられる誘導体であって、
絶縁領域と、
非絶縁領域と、を備え、
前記絶縁領域は、前記温熱治療装置が照射する高周波信号を前記人体に対して遮蔽し、前記非絶縁領域は、前記温熱治療装置が照射する高周波信号を前記人体に透過し、
前記絶縁領域および前記非絶縁領域の組み合わせは、前記加熱対象に、前記高周波信号を導入する誘導体。
【請求項2】
前記非絶縁領域は、前記絶縁領域に囲まれて形成される領域および前記絶縁領域の外側に生じる領域の少なくとも一方を含む、請求項1記載の誘導体。
【請求項3】
前記人体を、相互に直交するX軸、Y軸およびZ軸の3次元で把握する場合に、
前記非絶縁領域は、前記X軸および前記Y軸で構成される二次元平面で、前記人体に含まれる加熱対象と対向し、
前記X軸は、前記人体の横方向に沿っており、前記Y軸は、前記人体の身長方向に沿っており、前記Z軸は、前記人体の厚み方向に沿っている、請求項1又は2記載の誘導体。
【請求項4】
前記絶縁領域は、絶縁機能を有する複数の絶縁部材を備え、前記複数の絶縁部材の組み合わせによって、前記非絶縁領域が形成される、請求項1から3のいずれか記載の誘導体。
【請求項5】
前記非絶縁領域は、形状、面積および位置の少なくとも一つが可変である、請求項4記載の誘導体。
【請求項6】
前記誘導体は、第1誘導部材および第2誘導部材を備え、
前記第1誘導部材は、前記人体の表面に対向するように配置され、前記第2誘導部材は、前記人体の裏面に対向するように配置され、
前記第1誘導部材の絶縁領域の少なくとも一部は、前記第2誘導部材の非絶縁領域の少なくとも一部と、前記人体を介して対向する、請求項1から5のいずれか記載の誘導体。
【請求項7】
前記第1誘導部材の非絶縁領域は、前記第2誘導部材の絶縁領域と、前記人体を介して対向し、
前記第1誘導部材の絶縁領域は、前記第2誘導部材の非絶縁領域と、前記人体を介して対向する、請求項6記載の誘導体。
【請求項8】
前記第1誘導部材および前記第2誘導部材の少なくとも一方は、前記温熱治療装置による治療中に、それぞれの非絶縁領域の位置を移動可能である、請求項6又は7記載の誘導体。
【請求項9】
前記非絶縁領域の位置は、(1)前記温熱治療装置からの高周波信号の照射中、(2)前記温熱治療装置からの高周波信号の停止中、のいずれかにおいて、移動可能である、請求項8記載の誘導体。
【請求項10】
前記第1誘導部材および前記第2誘導部材の少なくとも一方は、それぞれの前記非絶縁領域の位置を、X軸およびY軸で特定される平面に沿って、移動可能である、請求項8又は9記載の誘導体。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか記載の誘導体と、
前記誘導体を設置および移動の少なくとも一方を行う制御部と、を備える温熱治療装置。
【請求項12】
前記誘導体を介して人体に高周波信号を照射可能な電極および前記電極と前記人体との間に設けられる冷却部材の少なくとも一方を更に備える、請求項11記載の温熱治療装置。
【図16】
【図19】
【図22】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図20】
【図21】
【図19】
【図22】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2012−223302(P2012−223302A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92587(P2011−92587)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(506087705)学校法人産業医科大学 (24)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(506087705)学校法人産業医科大学 (24)
【Fターム(参考)】
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