説明

測位システムおよび測位基地局群

【課題】構造が簡単で設置コストを抑えることが可能な測位システム等を提供する。
【解決手段】測位システムにおいて、開始信号W1を無線発信する第1の基地局13;開始信号と要求信号とを受信して受信時刻を測定する受信測定部と、要求信号に応えて開始信号と要求信号の受信時刻を表した受信時刻信号を発信する受信時刻発信部と、所定の応答信号を発信し発信時刻を測定する応答部と、応答信号の発信時刻を表した発信時刻信号を発信する発信時刻発信部とを備えた第2の基地局12;および開始信号を受信して要求信号を発信し、開始信号の受信時刻と要求信号の発信時刻とを測定する要求発信部と、受信時刻信号および発信時刻信号を受信する時刻受信部と、応答信号の受信時刻を測定する応答測定部と、要求発信部と応答測定部で測定された時刻と時刻受信部で受信した信号が表した各時刻とに基づいて位置を計算する位置計算部とを備えた測位端末11;を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、測位システムおよび測位基地局群に関する。
【背景技術】
【0002】
移動端末と基地局との間で無線信号のやり取りを行い、無線信号すなわち電波の伝搬時間から移動端末の位置を測定する測位システムが知られている。このような測位システムは、例えば、工場等の敷地内で移動する移動端末としての自走型ロボットが、敷地内に配置された基地局を利用して自己の位置を把握するシステムに応用されている。移動端末は基地局とやり取りする信号の伝搬時間から基地局との間の距離を取得し、複数の基地局の位置とこれらの基地局まで距離とから移動端末自身の位置を算出する。信号の伝搬時間は信号の発信時刻と受信時刻との差として得られるが、信号の発信側および受信側となる基地局および移動端末では、システムの複雑化を避けるため時刻を測定する時計が同期していないのが一般的であり、複数の基地局同士でも時計も同期が取られていない場合が一般的である。この場合には、時刻のオフセットを補償することが求められる。
【0003】
図1は、従来技術の測位システムを示す図である。
【0004】
図1に示す測位システム7は、基地局A(72)、基地局B(73)、および基地局C(74)からなる基地局群と、移動端末M(71)とを有している。移動端末M(71)は、開始信号W1を無線発信するとともに開始信号W1の発信時刻を移動端末M(71)の時計によって測定する。基地局A(72)は、開始信号W1を受信すると応答信号W2を発信し、開始信号W1の受信時刻と応答信号W2の発信時刻を基地局A(72)が有する時計(タイマ)によって測定する。また、基地局A(72)は測定した開始信号W1の受信時刻と応答信号W2の発信時刻の情報も移動端末M(71)に送信する。移動端末M(71)は、応答信号W2の受信時刻を移動端末M(71)が有する時計によって測定する。図1に示すシステムでは、信号の往復によって、複数の時計による時刻のオフセットをキャンセルして伝搬時間を算出する。例えば、まず、移動端末M(71)の時計で測定された応答信号W2の受信時刻と開始信号W1の発信時刻との差、すなわち開始信号W1の発信から応答信号W2の受信までにかかる時間を求める。この時間から、基地局A(72)の時計で測定された応答信号W2の発信時刻と開始信号W1の受信時刻との差、すなわち基地局A(72)における受信から発信までにかかる処理遅延時間を差し引くと、開始信号W1の伝搬時間と応答信号W2の伝搬時間との和が得られる。開始信号W1の伝搬時間と応答信号W2の伝搬時間は等しいので上記の和の1/2が移動端末M(71)と基地局A(72)との間の電波の伝搬時間として得られ、伝搬時間から距離Lamが得られる。移動端末M(71)は、基地局B(73)とも開始信号W3および応答信号W4のやり取りを行い、基地局B(73)との距離Lbmを取得する。2つの基地局72,73からの距離がそれぞれLam,Lbmとなる位置として、移動端末M(71)の位置が算出される。
【0005】
また、測位システムには、移動端末が発信のみを行うものも知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
図2は、移動端末が発信のみを行う従来技術の測位システムを示す図である。
【0007】
図2に示すシステム8は、移動端末M(81)、基地局A(82)、基地局B(83)、基地局C(84)、および基準局P(85)を備えている。移動端末M(81)が開始信号W1を発信すると、開始信号W1は3つの基地局82,83,84および基準局P(85)で受信され、基地局82,83,84においては、各受信時刻(例えば図2のTmar)が各々に記録される。基準局P(85)は開始信号W1を受信すると測位信号W2を発信し、各基地局82,83,84は測位信号W2の各受信時刻(例えば図2のTpar)を測定する。各基地局82,83,84での開始信号W1の受信時刻と測位信号W2の受信時刻との差から、移動端末M(81)の位置が得られる。各基地局82,83,84での開始信号W1の受信時刻情報と測位信号W2の受信時刻情報とは図示しないサーバに送信され、このサーバで位置計算が行われる。
【0008】
また、衛星を利用した測位システムも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
図3は、衛星を利用した従来技術の測位システムを示す図である。
【0010】
図3に示すシステム9は、移動無線局である移動端末91、基地局としての測距衛星92、通信衛星93および基準局としての地上局94を備えている。
【0011】
まず、測距衛星92が第1の開始信号W1を発信する。移動端末91は第1の開始信号W1を受信すると第1の応答信号W2を発信し、通信衛星93は第1の応答信号W2を受信すると第1の測定信号W3を地上局94に向けて発信する。一方、地上局は、測距衛星92が第1の開始信号W1を発信するのと同期して、第2の開始信号U1を発信する。通信衛星93は第2の開始信号U1を受信すると第2の応答信号U2を発信し、第2の応答信号U2は移動端末91で受信される。移動端末91は、第1の開始信号W1の受信時刻、および第2の応答信号U2の受信時刻、ならびに地上局94で測定した第2の開始信号U1の発信時刻と第1の測定信号W3の受信時刻との差から移動端末91自身の位置を算出する。
【特許文献1】特開2006−170891号公報
【特許文献2】特開平6−102337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、図1に示す測位システム7では全ての基地局が信号の送信および受信双方の機能を有し複雑となっている。図1に示す測位システム7で移動端末M(71)の位置を精度よく確定するためには、第3の基地局C(74)とも信号のやり取りを行うことが好ましく、さらに多くの基地局と信号のやり取りを行うことが好ましい。また、基地局は、移動端末M(71)の移動可能範囲に応じて多数配置する場合もある。しかし、図1に示す測位システム7では、基地局を多数設置するとシステム全体としての設置コストの上昇が著しい。特に、受信時刻測定を高精度にするため、信号としてUWBに代表されるインパルス波を用いた場合、信号の受信側には送信側に比べて複雑な回路構成が必要となり、基地局の複雑さが増大する。図2に示す測位システム8では、移動端末M(81)で位置の情報が算出されないため、算出された位置情報を移動端末M(81)に送信する手段が必要となる。また、各基地局と接続され計算を行うサーバコンピュータおよびネットワークが必要となるため全体構成が複雑となる。また、図3に示す測位システム9では、測距衛星92と地上局94の時計を高精度に同期させる手段が必要となり、全体構成が複雑となる。
【0013】
本件開示は、上記事情に鑑み、構造が簡単で設置コストの低減が可能な測位システムおよび測位基地局群を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本件開示の測位システムの基本形態は、
測位開始を合図する開始信号を無線発信する第1の基地局;
上記開始信号と測位用の情報を求める要求信号とを無線受信してこの開始信号およびこの要求信号それぞれの受信時刻を測定する受信測定部と、
上記要求信号に応えて上記開始信号の受信時刻と上記要求信号の受信時刻とを表した受信時刻信号を無線発信する受信時刻発信部と、
上記要求信号に応えて所定の応答信号を無線発信しこの応答信号の発信時刻を測定する応答部と、
上記応答信号の発信時刻を表した発信時刻信号を無線発信する発信時刻発信部とを備えた第2の基地局;および
上記開始信号を無線受信して上記要求信号を無線発信し、この開始信号の受信時刻とこの要求信号の発信時刻とを測定する要求発信部と、
上記受信時刻信号および上記発信時刻信号を無線受信する時刻受信部と、
上記応答信号を無線受信してこの応答信号の受信時刻を測定する応答測定部と、
上記要求発信部で測定された各時刻と上記応答測定部で測定された時刻と上記時刻受信部で受信した信号が表した各時刻とに基づいて、上記第1の基地局および上記第2の基地局に対する相対位置を計算する位置計算部とを備えた測位端末;
を備えている。
【0015】
本件開示の測位基地局群の基本形態は、
測位の開始を合図する開始信号を無線発信する第1の基地局;および、
上記開始信号と測位用の情報を求める要求信号とを無線受信してこの開始信号およびこの要求信号それぞれの受信時刻を測定する受信測定部と、
上記要求信号に応えて上記開始信号の受信時刻と上記要求信号の受信時刻とを表した受信時刻信号を無線発信する受信時刻発信部と、
上記要求信号に応えて所定の応答信号を発信しこの応答信号の発信時刻を測定する応答部と、
上記応答信号の発信時刻を表した発信時刻信号を無線発信する発信時刻発信部とを備えた第2の基地局;
を備えている。
【0016】
これら測位システムおよび測位基地局群の基本形態によれば、各測位基地局および移動端末の間で時計を同期させる必要が無く、また、複数配置される可能性が高い第1の基地局には信号発信機能があればよく構造が簡単となるのでシステム全体の製造コストが抑えられる。
【発明の効果】
【0017】
以上の本件開示の測位システムおよび測位基地局群の上記基本形態によれば構造が簡単で設置コストが抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
ここで、上記基本形態に対し、上記応答部が、上記応答信号の発信中に、この応答信号の発信時刻として無線発信の開始時刻を測定するものであり、
上記発信時刻発信部が、上記応答部による上記応答信号の発信中に、この応答信号中に上記発信時刻信号を組み込むという応用形態は好適である。
【0019】
この好適な応用形態によれば、発信時刻発信部からの信号の発信が1度で済むので、全体の通信時間が短縮する。
【0020】
以下、本件開示の測位システムおよび測位基地局群の具体的な実施形態について説明する。
【0021】
図4は、測位システムの具体的な第1実施形態を示す図である。
【0022】
図4に示す測位システム1は、移動端末と複数の基地局とを備え、基地局相互間での無線通信と基地局端末間での無線通信とを行って複数の基地局に対する移動端末の位置を測定する。より詳細には、図4に示す測位システム1は、移動端末M(11)と基地局群10とを備えている。移動端末M(11)は、具体的には工場等の敷地内で移動可能な自走型ロボットである。
【0023】
基地局群10は、基地局A(13)と基準局P(12)とを備えており、基地局A(13)および基準局P(12)の相互間での無線通信と、移動端末M(11)に対する無線通信とを行って移動端末M(11)に測位用の情報を提供する。基地局A(13)および基準局P(12)は、工場等の敷地内で移動端末M(11)と通信可能な位置に固定配置されており、共通の座標における位置が予め分かっている。この位置は、地球上の緯度経度といった絶対的な位置として表わされてもよく、また敷地内の基準となる位置に対する相対的な位置として表されてもよい。測位システム1における基地局A(13)は、移動端末M(11)の移動範囲の広さや、敷地内における電波障害物の有無に合わせて複数設置することも可能であるが、測位原理を判りやすく説明するため、まず基地局A(13)が1つの例を説明する。
【0024】
ここで、移動端末M(11)は上述した基本形態における測位端末の一例に相当し、基地局A(13)は上述した基本形態における第1の基地局の一例に相当し、基準局P(12)は上述した基本形態における第2の基地局の一例に相当する。
【0025】
図5は、図4に示す測位システムの各装置間での信号の受送信タイミングを表すタイミングチャートである。
【0026】
図4に示す測位システム1における、移動端末M(11)の測位の概要を図5も参照して説明する。
【0027】
移動端末M(11)の位置は、最終的には、基地局A(13)および基準局P(12)のそれぞれの配置位置、ならびに、基地局A(13)および基準局P(12)のそれぞれから移動端末M(11)までの距離Lam,Lpmから求められる。上記の距離Lam,Lpmは無線信号すなわち電波の伝搬時間から求められる。
【0028】
測位システム1における測位は、基地局A(13)が測位開始を合図する開始信号W1を無線発信することで開始する。以降、「無線発信」を単に「発信」とも称する。基地局A(13)による開始信号W1の発信時刻をTatとする。開始信号W1は移動端末M(11)および基準局P(12)のそれぞれで各受信時刻Tamr,Taprに無線受信される。以降、「無線受信」を単に「受信」とも称する。なお、基地局A(13)、および基準局P(12)のそれぞれが有する時計(タイマ)は互いに同期しておらず、それぞれの時計による測定で得られる時刻にはオフセットが含まれている。
【0029】
移動端末M(11)は開始信号W1を受信すると要求信号W2を発信する。基準局P(12)は、要求信号W2を受信すると応答信号W3を発信し、応答信号W3は移動端末M(11)によって受信される。移動端末M(11)は、要求信号W2の発信時刻Tmat、および応答信号W3の受信時刻Tmamrを測定し、基準局P(12)は、要求信号W2の受信時刻Tmar、応答信号W3の発信時刻Tmatを測定する。また、基準局P(12)は、発信する応答信号W3に、開始信号W1の受信時刻Tapr、要求信号W2の受信時刻Tmar、およびこの応答信号W3の発信が開始された発信時刻Tmamtの情報を含める。これによって、移動端末M(11)には、基準局P(12)における、測定された開始信号W1の受信時刻Tapr、要求信号W2の受信時刻Tmar、および応答信号W3の発信時刻Tmamtの情報が集められる。また移動端末M(11)には、基地局A(13)および基準局P(12)それぞれの配置位置情報が記憶されており、配置位置、集められた情報の時刻、移動端末M(11)で測定された開始信号W1の受信時刻Tamr、および、要求信号W2の発信時刻Tmat、および、応答信号W3の受信時刻Tmamrから移動端末M(11)の位置を計算する。
【0030】
続いて、移動端末M(11)、基地局A(13)および基準局P(12)それぞれの内部構成を説明する。
【0031】
図6は、図4に示す基地局の構成を示すブロック図である。
【0032】
基地局A(13)は、制御部としてのMPU(micro processing unit)131と、記憶部132と、PPM(Pulse Position Modulation)変調部133、PN系列発生部134と、インパルス生成部135と、バンドパスフィルタBPF136と、パワーアンプ(PA)137とアンテナ138とを備えている。
【0033】
MPU131はプログラムを実行することによって基地局A(13)の各部を制御する。記憶部132は、例えばフラッシュメモリといった半導体メモリで構成されており、MPU131によって実行されるプログラム、および基地局を識別するIDといった各種データが記憶されている。なお、IDは測位システム内に複数の基地局が設けられた場合に基地局同士を識別するのにも用いられる。PN系列発生部134は、擬似雑音(PN)系列のタイミングパルスを出力し、PPM変調部133はタイミングパルスの供給を受け、MPU131から出力される発信データに応じてパルスの位置を変えるPPM変調を行う。インパルス生成部135はステップリカバリダイオードを有し、PPM変調部133で変調された信号に応じた、幅が非常に細いインパルス波形を生成する。インパルス波形からなる信号は広帯域の成分を有している。BPF136は、例えば3.4GHz〜4.8GHzといった所望の帯域を通過させるものであり、インパルス生成部135で生成された信号から、不要な3.4GHz未満の成分と4.8GHzより高い成分を除去する。PA137はBPF136を通過した信号の増幅を行う。PA137で増幅された信号はアンテナ138から放射される。MPU131は例えば0.1秒または1秒といった一定の間隔で、IDが含まれた発信データをPPM変調部133に供給する。発信データは、PPM変調部133、インパルス生成部135、BPF136、およびPA137を経てアンテナ138から出力される。このようにして基地局A(13)から測位開始を合図する開始信号W1が定期的に無線発信され、開始信号W1が発信されるたびに測位が実行される。
【0034】
基地局A(13)は信号の発信機能を備えておればよく、受信機能が不要であるため簡単な構成となっている。また、インパルス波形の信号発信に必要な電力は、例えば連続した正弦波状の搬送波に比べて小さいので、基地局A(13)は、例えばボタン電池といった小型の電池で駆動することも可能である。
【0035】
図7は、図4に示す基準局の構成を示すブロック図である。
【0036】
基準局P(12)は、制御部としてのMPU121と、記憶部122と、信号発信部123と、信号受信部124と、タイマ125と、発信時刻保持部126と、受信時刻保持部127とを備えている。
【0037】
MPU121はプログラムを実行することによって基準局P(12)の各部を制御する。記憶部122には、MPU131によって読み出され実行されるプログラムや基準局を識別するIDといった各種データが記憶されている。
【0038】
信号受信部124は、開始信号W1(図4参照)および要求信号W2(図4参照)を受信する。信号受信部124は、PPMデータ復調部1241と、相関器1242と、パルス検出部1243と、低雑音アンプ(LNA)1244と、BPF1245と、アンテナ1246とを備えている。BPF1245はアンテナ1246で受信された無線信号すなわち電波から不要な周波数成分を除去して所望の帯域成分を選択する。LNA1244はBPF1245から出力された信号を増幅する。パルス検出部1243は、公知のダイオードを用いた包絡線検波回路およびコンパレータを有しており入力されたインパルス波形に応じた矩形波を出力する。相関器1242は公知のデジタルマッチドフィルタを有しており、パルス検出部1243で変換された信号波形とPN系列発生部1232から出力されたPN系列のタイミングパルスとを比較して同期をとり、PPM変調された状態の受信信号を出力する。PPMデータ復調部1241はPPM変調された状態の受信信号を復調して受信信号のデータを出力する。アンテナ1246から受信される各種信号は、復号の同期をとるためのプリアンブル部と、プリアンブル部に続いた、データが含まれるデータ部とを有している。相関器1242で受信信号のうちプリアンブルが検出されると、PPMデータ復調部1241は、PN系列発生部1232から出力さらたタイミングパルスと受信信号との同期が確立されたとして復調を行い受信データを生成する。
【0039】
信号発信部123は、PPM変調部1231と、PN系列発生部1232と、インパルス生成部1233と、BPF1234と、PA1235とアンテナ1236とを備えている。信号発信部123は、上述した基地局A(13)のPPM変調部133、PN系列発生部134、インパルス生成部135、BPF136、PA137、およびアンテナ138と略同様の構成であり、個々のブロックの説明は省略する。信号発信部123は、MPU121の制御に応じて、信号受信部124が受信した要求信号W2(図4参照)に応えて応答信号W3を無線発信する。信号の発信時、MPU121は記憶部122からIDを読出して発信データに含め、信号発信部123に供給する。信号発信部123はIDが含まれた応答信号W3を発信する。また、信号発信部123は、MPU121から、信号受信部124で受信された開始信号W1の受信時刻および要求信号W2の受信時刻の情報を、発信データとして受け、信号受信部124が受信した開始信号W1の受信時刻と要求信号W2の受信時刻とを表した受信時刻信号、および応答信号W3の発信時刻を表した発信時刻信号も発信する。本実施形態の基準局P(12)では、受信時刻信号および発信時刻信号が応答信号W3に組み込まれて発信される。組み込みの詳細は後述する。
【0040】
タイマ125は一定の周波数でカウントアップするフリーランのカウンタで構成されており、出力値は基準局P(12)における現在時刻を表している。受信時刻保持部127は、相関器1242がプリアンブルを検出し、その後に続くデータ部の最初のパルスを検出したタイミングでタイマ125の値を保持することによって開始信号W1(図4参照)および要求信号W2の受信時刻を測定する。また、発信時刻保持部126は、PPMデータ変調部1231が発信信号のうちプリアンブルに続くデータ部の最初のパルスを変調するタイミングでタイマ125の値を保持することによって応答信号W3(図4参照)の発信時刻が測定される。受信時刻保持部127および発信時刻保持部126で保持された情報はMPU121に読み出され、記憶部122に記憶される。
【0041】
基準局P(12)は、受信時刻信号および発信時刻信号を応答信号W3に組み込んで発信する。より詳細に説明すると、まず、MPU121が、応答信号W3となる発信データを信号発信部123に供給開始する。発信データとして、まずIDが供給され、続いて受信時刻情報が供給される。信号発信部123が、発信データの供給開始を受けて応答信号W3の発信を開始すると、発信時刻保持部126が応答信号W3の発信時刻を保持する。MPU121は、発信データ供給が完了する前に、発信時刻保持部126から発信時刻を読み出し、供給中の発信データに発信時刻を連結して供給する。このようにして、受信時刻信号および発信時刻信号が応答信号W3に組み込まれる。
【0042】
図8は、図4に示す移動端末の構成を示すブロック図である。
【0043】
移動端末M(11)は、MPU111と、記憶部112と、信号発信部113と、信号受信部114と、タイマ115と、発信時刻保持部116と、受信時刻保持部117と、移動装置119を備えている。信号発信部113は、PPM変調部1131と、PN系列発生部1132と、インパルス生成部1133と、BPF1134と、PA1135とアンテナ1136とを備えている。また、信号受信部114は、PPMデータ復調部1141と、相関器1142と、パルス検出部1123と、LNA1144と、BPF1145と、アンテナ1146とを備えている。移動端末M(11)は、移動装置119を備える点が上述した基地局A(13)と異なり、他のハードウェア構成は基準局P(12)と共通である。また、移動端末M(11)は、MPU111の制御動作、記憶部112が記憶する情報、および各部が処理する情報が基準局P(12)と異なる。したがって、共通な部分の詳細な説明は省略し、異なる点について説明する。
【0044】
移動装置119は、自走式ロボットとしての移動端末M(11)を移動させるための装置であり、MPU111によって制御される図示しない駆動回路、車輪およびモータを有している。
【0045】
信号受信部114は開始信号W1および応答信号W3を受信する。受信時刻保持部117は、開始信号W1の受信時刻および応答信号W3の受信時刻を測定する。信号発信部113は、MPU111から発信データの供給を受けて要求信号W2(図4参照)を発信する。発信時刻保持部116は、要求信号W2の発信時刻を測定する。MPU111は、発信時刻保持部116で測定された要求信号W2の発信時刻、受信時刻保持部117で測定された、開始信号W1の受信時刻および応答信号W3の受信時刻、ならびに信号受信部114で受信された応答信号W3に含まれた各時刻とに基づいて、移動端末M(11)の位置を計算する。MPU111は、位置の計算に、基準局P(12)の位置および基地局A(13)の位置の情報を用いる。記憶部112は、基準局P(12)の位置および基地局A(13)の配置位置の情報を記憶している。位置はXY座標で表されている。基準局P(12)および基地局A(13)は互いに識別可能なIDが割り当てられている。記憶部112は、基準局P(12)および基地局A(13)の位置の情報を、これら基準局P(12)または基地局A(13)に割り当てられたIDに対応付けて記憶している。なお、本実施形態では、基準局P(12)および基地局A(13)がそれぞれ1つの場合を説明しているが、基準局および基地局の一方または双方が複数ある場合、記憶部には、全ての基準局および基地局の位置情報が、基準局および基地局を個々に識別するIDに対応付けて記憶される。
【0046】
続いて、基地局A(13)、基準局P(12)および移動端末M(11)のそれぞれの動作を説明する。
【0047】
図6に示す基地局A(13)では、MPU131が一定の間隔で、基地局IDが含まれた開始信号としての発信データをPPM変調部133に出力する。発信データはPPM変調部133、インパルス生成部135、BPF136、およびPA137を経てインパルス波形となってアンテナ138から出力される。このようにして、基地局A(13)から開始信号が定期的に発信され、測位が実行される。
【0048】
図9は、図7に示す基準局での処理を示すフローチャートであり、図10は、移動端末での処理を示すフローチャートである。
【0049】
図9および図10に示すフローチャートは、基地局A(13)から定期的に発信される開始信号のうち、図5に示す、1回分の開始信号に対応する基準局P(12)および移動端末M(11)の処理を示している。
【0050】
基準局P(12)における処理は、移動端末M(11)から発信された開始信号W1を受信することで開始する。
【0051】
基準局P(12)では、まず、信号受信部124が開始信号W1を受信し、受信時刻保持部127が開始信号W1の受信時刻Taprを測定する(ステップS1)。このステップで、MPU121が、受信時刻保持部127に保持された、開始信号W1の受信時刻Taprを読出し、記憶部122に記憶させる。
【0052】
この後、信号受信部124が移動端末M(11)から発信された要求信号W2を受信し、時刻保持部127が要求信号W2の受信時刻Tmarを測定する(ステップS2)。このステップで、MPU121は、受信時刻保持部127に保持された要求信号W2の受信時刻Tmarを読出し、記憶部122に記憶させる。
【0053】
ここで、上記ステップS1,S2の処理を実行するMPU121、信号受信部124、および受信時刻保持部127が、上述した基本形態における受信測定部の一例に相当する。
【0054】
次に、MPU121は、要求信号W2に応えて信号発信部123に応答信号W3の発信データを供給する。これによって信号発信部123は応答信号W3の発信を開始する(ステップS3)。このステップでは、発信時刻保持部126が応答信号W3の発信時刻Tmamtを測定する。MPU121は、発信時刻保持部126に保持された応答信号W3の発信時刻Tmamtを読出し、記憶部122に一時的に記憶させる。応答信号W3の発信時刻Tmamtは、より厳密には信号発信の開始時刻である。
【0055】
ここで、上記ステップS3の処理を実行するMPU121、信号発信部123、および発信時刻保持部126が、上述した基本形態における応答部の一例に相当する。
【0056】
次に、MPU121は、信号発信部123に供給中の発信データに連結して、開始信号W1の受信時刻Tapr、要求信号W2の受信時刻Tmar、および応答信号W3の発信時刻Tmamtを供給する。これによって、応答信号W3の中に、開始信号W1の受信時刻Taprと要求信号W2の受信時刻Tmarとを表した受信時刻信号、および応答信号W3の発信時刻Tmamtを表した発信時刻信号が組み込まれて信号発信部123から発信される(ステップS4)。
【0057】
ここで、上記ステップS4の処理を実行するMPU121、信号発信部123、および発信時刻保持部126が、基本形態における応答部、受信時刻発信部および発信時刻発信部のそれぞれの一例に相当する。
【0058】
上記ステップS4の処理が終了すると、基準局P(12)における一回の測位に対応する処理が完了する。基準局P(12)は、この後、次の開始信号受信を待ってステップS1からの処理を再び実行することとなる。
【0059】
続いて、図10を参照して移動端末M(11)での処理を説明する。
【0060】
移動端末M(11)における処理も、基地局A(13)から発信された開始信号W1を受信することで開始する。
【0061】
移動端末M(11)では、まず、信号受信部114が開始信号W1を受信し、受信時刻保持部117が開始信号W1の受信時刻Tamrを測定する(ステップS11)。このステップで、MPU111は、受信時刻保持部117に保持された開始信号W1の受信時刻Tamrを読出し、記憶部112に記憶させる。
【0062】
この後、MPU111は信号発信部113に要求信号W2の発信データを供給し、信号発信部113は要求信号W2を発信する(ステップS12)。このステップで、発信時刻保持部116が要求信号W2の発信時刻Tmatを測定する。MPU111は、発信時刻保持部116に保持された要求信号W2の発信時刻Tmatを読出し、記憶部112に記憶させる。
【0063】
ここで、上記ステップS11,S12の処理を実行するMPU111、信号受信部114、受信時刻保持部117、信号発信部113、および発信時刻保持部116が、基本形態における要求発信部の一例に相当する。
【0064】
次に、信号受信部114は、基準局P(12)で発信された応答信号W3を受信する。受信時刻保持部117は応答信号W3の受信時刻Tmamrを測定し、MPU111は発信時刻保持部116に保持された応答信号W3の受信時刻Tmamrを読出し、記憶部112に記憶させる(ステップS13)。また、応答信号W3には、開始信号W1の受信時刻Tapr、要求信号W2の受信時刻Tmar、および応答信号W3の発信時刻Tmamtの情報が含まれている。MPU111は、信号受信部114で受信および復号されたこれら時刻の情報を信号受信部114から受け取り、記憶部112に記憶させる。
【0065】
ここで、上記ステップS13の処理を実行するMPU111、信号受信部114、および受信時刻保持部117が、基本形態における応答測定部および時刻受信部それぞれの一例に相当する。
【0066】
次に、MPU111は、上記ステップS11で受信時刻保持部117から得られた開始信号W1の受信時刻Tamr、上記ステップS12で発信時刻保持部116から得られた要求信号W2の発信時刻Tmat、上記ステップS13で信号受信部114が受信した応答信号W3に含まれた、開始信号W1の受信時刻Tapr、要求信号W2の受信時刻Tmar、および、応答信号W3の発信時刻Tmamtに基づいて、移動端末M(11)の基地局A(13)および基準局P(12)に対する相対位置を計算する(ステップS14)。MPU111は、記憶部112に記憶された移動端末M(11)の基地局A(13)および基準局P(12)の位置情報も読み出して位置計算に用いる。このステップS14の計算によって、移動端末M(11)自身の位置が得られる。
【0067】
ここで、上記ステップS14で得られた時刻の情報から計算によって相対位置が求められることを説明する。
【0068】
図4の測位システム1において、まず、開始信号W1の基地局A(13)から基準局P(12)までの伝搬を考える。
【0069】
基地局A(13)が開始信号W1を発信する時刻であって、基準局P(12)におけるタイマ125(図7参照)で表された時刻をTatとし、基準局P(12)が開始信号W1を受信する時刻をTaprとし、基地局A(13)と基準局P(12)の距離をLap、光速をVcとすると、これらは下式(1)の関係を有する。
【0070】
Tapr = Tat + Lap/Vc (1)
次に、開始信号W1の基地局A(13)から移動端末M(11)までの伝搬を考える。基地局A(13)と移動端末M(11)の距離をLamとすると、移動端末M(11)のタイマ115(図8参照)と基準局P(12)のタイマ125(図7)は互いに時刻の同期がとられていないため、タイマ115,125が表す時刻の値にはオフセット(誤差)が含まれている。このオフセットをTmpoとすると下式(2)の関係となる。
【0071】
Tamr = Tat + Tmpo + Lam/Vc (2)
次に、要求信号W2および応答信号W3の移動端末M(11)と基準局P(12)との往復の伝搬を考える。移動端末M(11)と基準局P(12)との距離をLpmとすると、下式(3),(4)が得られる。
【0072】
Tmar + Tmpo = Tmat + Lpm/Vc (3)
Tmamr = Tmamt + Tmpo + Lpm/Vc (4)
式(1)〜(4)で未知数はLam、Lpm、Tat、Tmpoであるので、これらについて解くと下式(5),(6)となる。
【0073】
Lpm
=Vc{(Tmamr−Tmat)−(Tmamt−Tmar)}/2 (5)
Lam = Lap+Vc[(Tamr-Tapr)
−{(Tmamr−Tmamt)−(Tmar−Tmat)}/2] (6)
式(5)(6)から、基地局A(13)と移動端末M(11)との距離Lam、および基準局P(12)と移動端末M(11)との距離Lpmが求められる。
【0074】
ここで、基地局A(13)および基準局P(12)の位置は既知であり、これらの共通な座標上での位置をそれぞれ(Xa,Ya)および(Xp,Yp)とすると、未知である移動端末M(11)の座標(x,y)との関係が、下式(7)(8)で表される。
【0075】
Lpm = (Xp − x) + (Yp − y) (7)
Lam = (Xa − x) + (Ya − y) (8)
上式(5)〜(8)から未知数x,yについて解けば移動端末M(11)の位置(x,y)が求められる。
【0076】
図10に示すステップS14では、移動端末M(11)のMPU111が、移動端末M(11)で測定された開始信号W1の受信時刻Tamrおよび要求信号W2の発信時刻Tmatを用い、また、受信した応答信号W3に含まれた、開始信号W1の受信時刻Tapr、要求信号W2の受信時刻Tmar、および応答信号W3の発信時刻Tmamtを用い、さらに、記憶部112に記憶された基準局P(12)の位置および基地局A(13)の位置を用い、移動端末M(11)の位置(x,y)を計算する。
【0077】
本実施形態の測位システム1によれば、基地局A(13)は開始信号を発信する機能を有しており信号の受信機能が必要ない。したがって、基地局の構造が簡単であり、基地局が信号受信機能を有する場合に比べて測位システムの設置コストが低減する。信号としてインパルス波を用いる場合、発信側のインパルス波を生成する回路は、インパルス波の検出および相関比較を行う受信側の回路に比べ、回路構成が簡単である。したがって、基地局が移動端末の移動範囲に応じて多数配置される場合には、設定コストの低減がより著しい。また、インパルス波の発信に要する電力は小さいため、基地局は例えばボタン電池等による電池駆動が可能であり、壁等への設置が容易である。
【0078】
続いて、図4に示した、基地局および基準局がそれぞれ1つの場合の例に対し、基地局が2つ配置された第1実施形態の別の例について説明する。
【0079】
図11は、基地局が2つ配置された測位システムの例を示す図である。
【0080】
図11に示す測位システム2は、移動端末M(21)と基地局群20とを備えている。測位システム2の基地局群20は、1つの基準局P(12)と2つの基地局A(13),基地局B(24)を備えている。なお、移動端末M(21)は、図4に示す移動端末M(11)と共通である。
【0081】
図12は、図11に示す測位システム2の各装置間でやり取りされる信号のタイミングを示すタイミングチャートである。
【0082】
図11に示す測位システム2では、2つの基地局13,24から開始信号W1,W4がそれぞれ発信される。図12に示すように基地局A(13)が開始信号W1を発信する時刻Tatと、基地局B(24)が開始信号W4を発信する時刻Tbtとは異なる。基地局A(13)および基地局B(24)は、互いに基準局P(12)および移動端末M(21)との通信が重畳しないよう、交互に開始信号W1,W4を発信する。ただし、2つの基地局が、開始信号を交互に発信する代わりに、例えば、開始信号をランダムなタイミングで出力することによって大部分の通信が重畳しないようにする手法も採用可能である。
【0083】
移動端末M(21)は、基地局A(13)の開始信号W1に起因する要求信号W2および応答信号W3のやり取りで得られた時刻情報、ならびに基地局A(13)および基準局P(12)の位置の情報に基づいて移動端末M(21)の測位計算を行う。移動端末M(21)はさらに、基地局B(24)の開始信号W4に起因する要求信号W5および応答信号W6のやり取りで得られた時刻情報、ならびに基地局B(24)および基準局P(12)の位置の情報に基づいて移動端末M(21)の測位計算を行う。移動端末M(21)における上記2つの測位計算は、図12に示すように、基地局13,24や基準局P(12)からの情報が途切れたタイミングでまとめて行うが、測位計算は、例えば1つの基地局についての情報が得られるごとに行うことも可能である。
【0084】
図11に示す測位システム2は、例えば移動端末M(21)の位置によって、移動端末M(21)が2つの基地局13,24の一方と通信できない状況でも、他方と通信可能であれば測位が可能である。したがって、移動端末の移動範囲内に電波の遮蔽物が配置されていても、基地局13,24の設置位置を考慮することによって測位不可能な死角を無くすことができる。また、基地局A(13)の開始信号W1に起因して得られた情報と、基地局B(24)の開始信号W1に起因して得られた情報との双方から測位計算をすることによって、測位の精度が向上する。すなわち、基準局P(12)、基地局A(13),基地局B(24)の3箇所それぞれからの移動端末M(21)までの距離を表す3つの距離情報が得られるので、最小自乗法等の統計処理を施すことによって測位の誤差を低減することができる。また、2箇所からの距離に基づいて測位計算した場合には、計算の解が2個得られるため、正しい解を判定する必要があるが、3箇所目からの距離に基づいて測位計算することで正しい解が容易に判定可能となる。
【0085】
図11には、2つの基地局13,24を備えたシステムの例を示したが、基地局は2つに限られるものではなく、移動端末の移動範囲や測位精度に応じて多数設置してもよい。基地局は、発信機能のみを有し簡単な構成であるため、特に多数配置された場合のコストが、基地局が受信機能を有する構成に比べより顕著に低減する。
【0086】
次に、測位システムおよび測位基地局群の具体的な第2実施形態について説明する。以下の第2実施形態の説明にあたっては、これまで説明してきた実施形態における各要素と同一の要素には同一の符号を付けて示し、前述の実施形態との相違点について説明する。
【0087】
図13は、測位システムの具体的な第2実施形態を示す図である。
【0088】
図13に示す測位システム3は、移動端末31と基地局群30とを備えている。測位システム3の基地局群30は、2つの基準局P1(32)、基準局P2(35)と1つの基地局A(13)を備えている。上記第2実施形態で説明したように、基地局を複数設置した場合、測位精度の向上を図ることができるが、基準局と通信できない場合には測位が不可能となる。そこで、移動端末の移動範囲に応じて基準局を複数設置することが好ましい場合がある。図13に示す測位システム3は、2つの基準局32,35を備えている。2つの基準局32,35の内部構成については、図7に示す他の実施形態の構成と同様であり、MPU121の処理が異なるのみであるので、図7を流用して説明する。
【0089】
図14は、図13に示す基準局での処理を示すフローチャートである。
【0090】
2つの基準局32,35は、移動端末31から発信された要求信号W2を受信(ステップS2)した後、信号発信部123(図7参照)に応答信号W3の発信データを供給する(ステップS3)前に、予め定められた遅延時間の待ちを行う(ステップS3_2)。遅延時間は、基準局32,35のそれぞれについて異なる時間が設定されている。遅延時間は、基準局32,35から無線発信される各応答信号W3,W4が時間的に非重畳となるように与えられている。より詳細には、基準局35の遅延時間は、基準局32による応答信号W3の発信時間よりも長く設定されている。一方の基準局32の遅延時間は略ゼロ、すなわち遅延無しに設定されている。なお、仮に基準局が3つ以上配備される場合には、遅延時間を異なる数種類のいずれかに設定し、隣接する基準局同士、すなわち1つの基地局および移動端末と同時に通信可能な基準局同士は、遅延時間の設定が異なる組合せで配置する。
【0091】
図15は、図13に示す測位システムの各装置間でやり取りされる信号のタイミングを示すタイミングチャートである。
【0092】
図15に示すように、2つの基準局32,35が要求信号W2を受信した後、一方の基準局P1(35)は直ちに応答信号W3を発信する。他方の基準局P2(32)は、基準局P1(35)による応答信号W3の発信が終了した後に応答信号W4を発信する。移動端末31は、2つの基準局32,35からの応答信号W3,W4を重畳無く受信する。
【0093】
測位システム3では、基地局32,35それぞれのMPU121が、応答信号W3,W4が非重畳となるように要求信号W2の受信から遅延時間を経た後で応答信号W3,W4を発信するので、応答信号W3,W4が混信しない。時間差を用いる以外に混信を避ける他の手法としては、例えば基地局32,35の発信信号周波数帯域を異ならせたり、PN系列を変えたりすることが考えられる。しかし、複数の周波数帯域または複数のPN系列を使い分けると、移動端末における周波数帯またはPN系列の判別や切替えが複雑になってしまう。本実施形態の測位システム3では、遅延時間を異ならせることによって、簡単な構成で混信を回避することができる。
【0094】
上述した第1の実施形態では、基準局P(12)で、応答信号W3に受信時刻信号および発信時刻信号が組み込まれて発信される例を説明したが、受信時刻信号および発信時刻信号は、応答信号とは別に発信されてもよい。
【0095】
次に、受信時刻信号および発信時刻信号が応答信号とは別に発信される測位システムおよび測位基地局群の具体的な第3実施形態について説明する。以下の第3実施形態の説明にあたっては、これまで説明してきた実施形態における各要素と同一の要素には同一の符号を付けて示し、前述の実施形態との相違点について説明する。
【0096】
図16は、測位システムの具体的な第3実施形態における基準局での処理を示すフローチャートである。図17は、第3実施形態の測位システムの各装置間でやり取りされる信号のタイミングを示すタイミングチャートである。
【0097】
第3実施形態の測位システムの全体構成については、図13に示す第2実施形態の測位システム3と同一であるので、図13を流用して説明する。また、基準局32,35の内部構成については、図7に示す第1実施形態の構成と同様であり、MPU121の処理が異なるのみであるので、図7を流用して説明する。
【0098】
図14に示すように、第3実施形態における2つの基準局32,35では、MPU121(図7参照)移動端末31から発信された要求信号W2を受信(ステップS2)した後、信号発信部123(図7参照)に応答信号W3の発信データを供給する(ステップS3)前に、予め定められた第1の遅延時間の待ちを行う(ステップS4_2)。第1の遅延時間は、基準局32,35のそれぞれについて異なる時間が設定されている。この後、MPU121は、要求信号W2に応えて信号発信部123に応答信号W3の発信データを供給する。信号発信部123は応答信号W3の発信を開始する(ステップS4_3)。このステップでは、発信時刻保持部126が応答信号W3の発信時刻Tmamtを測定する。
【0099】
このステップS4_3において、MPU121は、信号発信部123に応答信号W3として、時刻の情報が組み込まれない信号を発信させる。図17に示すように、時刻の情報が組み込まれていない応答信号W3は短時間で発信される。上述した第1の遅延時間は、時間情報が含まれない短い応答信号W3が時間的に非重畳となるように与えられている。より詳細には、基準局35の遅延時間は、基準局32による応答信号W3の発信時間よりも長く設定されている。一方の基準局32の遅延時間は略ゼロ、すなわち遅延無しに設定されている。
【0100】
上記ステップS4_3の処理の後、MPU121は予め定められた第2の遅延時間の待ちを行う(ステップS4_4)。第2の遅延時間も、基準局32,35のそれぞれについて異なる時間が設定されている。この後、MPU121は、要求信号W2に応えて上記開始信号の受信時刻と上記要求信号の受信時刻とを表した受信時刻信号の発信データ、および応答信号の発信時刻を表した発信時刻信号の発信データを信号発信部123に供給する。信号発信部123は受信時刻信号および発信時刻信号が結合された信号W5を発信する(ステップS4_5)。以降、この受信時刻信号および発信時刻信号が結合された信号W5を、データパケットW5と称する。上述した第2の遅延時間は、時間情報が含まれた長い受信時刻信号および発信時刻信号が時間的に非重畳となるように与えられている。より詳細には、基準局35の第2の遅延時間は、基準局32によるデータパケットW5の発信時間よりも長く設定されている。一方の基準局32の第2の遅延時間は相対的に短い応答信号W4の発信時間程度に設定されている。
【0101】
ここで、上記ステップS4_2,S4_3の処理を実行するMPU121、信号発信部123、および発信時刻保持部126が、基本形態における応答部の一例に相当する。また、データパケットが、基本形態における受信時刻信号および発信時刻信号それぞれの一例に相当する。W5。また、上記ステップS4_4,S4_5の処理を実行するMPU121、信号発信部123、および発信時刻保持部126が、基本形態における受信時刻発信部および発信時刻発信部それぞれの一例に相当する。
【0102】
第3実施形態の測位システムは、図17に示すように、応答信号W3,W4に時間情報が含まれていないので応答信号W3,W4が、要求信号W2の受信後、短時間で発信される。移動端末31のタイマと基準局32,35のタイマとは、同期がとられておらず測定される時刻にオフセットが生じるだけでなく、クロック周波数すなわちカウントアップの進み方にもずれを有している。このため、要求信号の受信後、応答信号W3,W4のそれぞれが基準局32,35から発信され移動端末31で受信されるタイミングの差が大きいほど、クロック周波数のずれによる受信時刻の誤差が蓄積し増大する。例えば、クロック周波数の差が10ppmの場合、100μSの間に1nSの誤差が発生する。これは、測位される距離で30cmの誤差に相当する。
【0103】
第3実施形態の測位システムは、応答信号W3,W4に時間情報が含まれていないので応答信号W3,W4が、要求信号W2の受信後、短時間で発信されるので、上述したクロック周波数の差に起因する測位の誤差が低減する。
【0104】
なお、具体的な各実施形態の説明では、「課題を解決するための手段」で説明した基本形態における測位端末の一例として自走型ロボットとして構成された移動端末が示されているが、この測位端末は、自走型ロボットに限られず、位置の取得が必要とされる携帯端末装置、電気機器、および車両等であってもよい。
【0105】
また、具体的な各実施形態の説明では、「課題を解決するための手段」で説明した基本形態における各信号の一例としてインパルス波による信号の例が示されているが、これらの信号は、インパルス波によるもの以外にも例えば連続した正弦波状の搬送波であってもよい。ただし、インパルス波を用いることで受信時刻の測定精度が向上し、発信側の消費電力が低下する。
【0106】
また、具体的な第3実施形態の説明では、基本形態における受信時刻発信部および発信時刻発信部の一例として、として、受信時刻および発信時刻の双方が含まれたデータパケットW5をまとめて発信する例を説明したが、受信時刻および発信時刻は互いに別の信号として発信されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】従来技術の測位システムを示す図である。
【図2】移動端末が発信のみを行う従来技術の測位システムを示す図である。
【図3】衛星を利用した従来技術の測位システムを示す図である。
【図4】測位システムの具体的な第1実施形態を示す図である。
【図5】図4に示す測位システムの各装置間での信号の受送信タイミングを表すタイミングチャートである。
【図6】図4に示す基地局の構成を示すブロック図である。
【図7】図4に示す基準局の構成を示すブロック図である。
【図8】図4に示す移動端末の構成を示すブロック図である。
【図9】図7に示す基準局での処理を示すフローチャートである。
【図10】移動端末での処理を示すフローチャートである。
【図11】第1実施形態のうち基地局が2つ配置された例を示す図である。
【図12】図11に示す測位システムの各装置間でやり取りされる信号のタイミングを示すタイミングチャートである。
【図13】測位システムの具体的な第2実施形態を示す図である。
【図14】図13に示す基準局での処理を示すフローチャートである。
【図15】図13に示す測位システムの各装置間でやり取りされる信号のタイミングを示すタイミングチャートである。
【図16】測位システムの具体的な第3実施形態における基準局での処理を示すフローチャートである。
【図17】第3実施形態の測位システムの各装置間でやり取りされる信号のタイミングを示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0108】
1,2,3 測位システム
10,20,30 基地局群
11,21,31 移動端末(測位端末)
111 MPU(位置計算部)
112,122,132 記憶部
113 信号発信部
114 信号受信部
115 タイマ
116 発信時刻保持部
117 受信時刻保持部
119 移動装置
12 基準局(第2の基地局)
121 MPU
123 信号発信部
124 信号受信部
125 タイマ
126 発信時刻保持部
127 受信時刻保持部
13,24,32,35 基地局(第1の基地局)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位開始を合図する開始信号を無線発信する第1の基地局;
前記開始信号と測位用の情報を求める要求信号とを無線受信して該開始信号および該要求信号それぞれの受信時刻を測定する受信測定部と、
前記要求信号に応えて前記開始信号の受信時刻と前記要求信号の受信時刻とを表した受信時刻信号を無線発信する受信時刻発信部と、
前記要求信号に応えて所定の応答信号を無線発信し該応答信号の発信時刻を測定する応答部と、
前記応答信号の発信時刻を表した発信時刻信号を無線発信する発信時刻発信部とを備えた第2の基地局;および
前記開始信号を無線受信して前記要求信号を無線発信し、該開始信号の受信時刻と該要求信号の発信時刻とを測定する要求発信部と、
前記受信時刻信号および前記発信時刻信号を無線受信する時刻受信部と、
前記応答信号を無線受信して該応答信号の受信時刻を測定する応答測定部と、
前記要求発信部で測定された各時刻と前記応答測定部で測定された時刻と前記時刻受信部で受信した信号が表した各時刻とに基づいて、前記第1の基地局および前記第2の基地局に対する相対位置を計算する位置計算部とを備えた測位端末;
を備えたことを特徴とする測位システム。
【請求項2】
前記応答部が、前記応答信号の発信中に、該応答信号の発信時刻として無線発信の開始時刻を測定するものであり、
前記発信時刻発信部が、前記応答部による前記応答信号の発信中に、該応答信号中に前記発信時刻信号を組み込むものであることを特徴とする請求項1記載の測位システム。
【請求項3】
前記第2の基地局を複数備え、
複数の第2の基地局それぞれに備えられている各応答部が、各応答部から無線発信される各応答信号が時間的に非重畳となるように予め各応答部に与えられている各遅延時間を前記要求信号の無線受信から経た後で該応答信号を無線発信するものであることを特徴とする請求項1または2記載の測位システム。
【請求項4】
測位の開始を合図する開始信号を無線発信する第1の基地局;および、
前記開始信号と測位用の情報を求める要求信号とを無線受信して該開始信号および該要求信号それぞれの受信時刻を測定する受信測定部と、
前記要求信号に応えて前記開始信号の受信時刻と前記要求信号の受信時刻とを表した受信時刻信号を無線発信する受信時刻発信部と、
前記要求信号に応えて所定の応答信号を発信し該応答信号の発信時刻を測定する応答部と、
前記応答信号の発信時刻を表した発信時刻信号を無線発信する発信時刻発信部とを備えた第2の基地局;
を備えたことを特徴とする測位基地局群。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−19597(P2010−19597A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178163(P2008−178163)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト、ロボット搬送システム(サービスロボット分野)、環境情報の構造化を利用した搬送ロボットシステムの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】