説明

測位装置及び電子機器

【課題】測位装置が測位に要する時間を外部に通知することにより、測位終了を待っている利用者の心理的な負荷を軽減する衛星測位システムの測位装置を提供する。
【解決手段】測位装置は、衛星から受信した測位信号に基づいて測位を行う測位装置であって、測位信号をサーチする範囲を計算する第一計算手段10と、測位信号をサーチするステップを計算する第二計算手段11と、測位信号を積算する時間を計算する第三計算手段12と、第一計算手段10と第二計算手段11と第三計算手段12と、を使って測位計算が完了するまでの予測所要時間を計算する第四計算手段13と、第四計算手段13で計算される予測所要時間を初期値として時間管理を開始するタイマー手段14と、タイマー手段14で管理される予測所要時間を通知する通知手段15と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばGPS(Global Positioning System)等の衛星からの測位信号を受信して測位を行う測位装置及び電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GPS等の衛星測位システムの衛星からの信号を受信して測位演算を実行し、位置情報を提供することができる機器がある。具体的な例としては、携帯電話やデジタルカメラやPND(Portable Navigation Device)がある。
【0003】
GPS測位装置の初期条件や信号受信環境などに依存して、GPS測位に要する時間が変化する。GPS測位装置の初期条件とは、例えば、初期位置の精度やその信頼度、GPS測位装置クロックの誤差情報の精度やその信頼度、衛星の有効な航法データを保持しているか否か、などである。信号受信環境には、オープンスカイ環境・屋内環境・マルチパス環境などがある。
【0004】
初期条件が不利な場合や、電波の受信感度が低い場所で測位を行う場合、測位が完了するまでに要する時間が長くなる。このような場合、利用者の利便性を損なわないため工夫が必要である。
【0005】
例えば、特許文献1では捕捉した衛星数を基にGPS測位を途中で中止することによって、GPS測位が完了するまで必要以上に利用者を待たせない方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−249723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では利用者の意思に反してGPS測位が一方的に中止されてしまうケースがある。基地局利用測位による位置精度とGPS測位による位置精度を比べると、一般的には後者の方が優れている。GPS測位装置の利用目的によっては、多少時間がかかっても、できるだけ正確な位置を取得したいことがある。このような場合、GPS測位が一方的に中止されてしまうと、かえって利用者にとって不都合が生じる。
【0008】
本発明は、測位が完了するまでの正確な待ち時間を利用者に提供することによって、待たされるという心理的な負荷の軽減を図ることを目的としている。利用者は正確な待ち時間が取得できれば、測位の完了まで待ち続けた方がよいのか、それとも測位を中止した方がよいのか、という選択を自由に行うことができる。また、利用者は正確な待ち時間が分かれば、待たされているという感覚が軽減するというメリットもある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0010】
[適用例1]本適用例に係る衛星から受信した測位信号に基づいて測位を行う測位装置は、前記測位信号をサーチする範囲を計算する第一計算手段と、前記測位信号をサーチするステップを計算する第二計算手段と、前記測位信号を積算する時間を計算する第三計算手段と、前記第一計算手段と前記第二計算手段と前記第三計算手段と、を使って測位計算が完了するまでの予測所要時間を計算する第四計算手段と、前記第四計算手段で計算される前記予測所要時間を初期値として時間管理を開始するタイマー手段と、前記タイマー手段で管理される前記予測所要時間を通知する通知手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本適用例によれば、測位装置の利用者は第四計算手段で計算した時間を通知手段を使って取得できるため、測位が完了するまでにあと何秒待てばよいのかを測位実行中に知ることができるようになり、これによって、待たされているという心理的な負荷の軽減を図るとともに、利用者の意思で測位を継続するのかそれとも中止するのかを決定することが可能となる。
【0012】
[適用例2]上記適用例に記載の測位装置において、前記第四計算手段は、前記測位装置のクロック誤差情報と、該測位装置の初期位置情報と、該測位装置の時刻誤差情報と、前記衛星の位置計算に利用するために前記測位装置が保持する少なくとも1つ以上の前記衛星の軌道データと、の少なくとも1つが更新されたときに、前記予測所要時間を計算し、前記タイマー手段は、前記第四計算手段によって前記予測所要時間が更新されたときに、該予測所要時間を初期値として時間管理を開始することを特徴とする。
【0013】
本適用例によれば、測位計算が完了するまでの時間に対して影響を与える、測位装置のクロック誤差情報、測位装置の初期位置情報、測位装置の時刻誤差情報、衛星の位置計算に利用するための衛星の軌道データ、の少なくとも1つが更新されたときに予測所要時間を計算するため、測位装置が衛星信号を捕捉する処理の状態遷移の発生に同期して予測所要時間が更新されることになり、これによって、利用者に通知する測位完了までの予測所要時間の信頼度を高い状態で維持することが可能になる。
【0014】
[適用例3]上記適用例に記載の測位装置において、前記第四計算手段は、少なくとも1つの前記衛星に関する全サーチ範囲のサーチが完了したときに、前記予測所要時間を計算し、前記タイマー手段は、前記第四計算手段によって前記予測所要時間が更新されたときに、該予測所要時間を初期値として時間管理を開始することを特徴とする。
【0015】
サーチ範囲をすべてサーチしたにも関わらず衛星信号が捕捉できなかった場合は、測位計算が完了するまでの時間に対して影響を与えるサーチ範囲及び積算時間の少なくとも1つの見直しが実施されるため、予測所要時間が長くなる可能性が高くなる。
【0016】
本適用例によれば、このような場合に予測所要時間を計算するため、サーチ範囲や積算時間の更新に同期して予測所要時間が更新されることとなり、これによって、利用者に通知する測位完了までの予測所要時間の信頼度を高い状態で維持することが可能になる。
【0017】
[適用例4]上記適用例に記載の測位装置において、前記第四計算手段は、前記測位信号の受信感度と、該測位信号の受信安定度と、捕捉した前記衛星の数と、の少なくとも1つを使って、前記予測所要時間をフィルター処理することを特徴とする。
【0018】
屋内環境のような測位信号の受信感度が低い環境では、測位信号が捕捉できたとしても直ちに測位結果を利用者に通知しないことがある。受信感度が低い環境での測位結果は、真位置から大きくずれることが多いので、例えば、数秒分の測位結果を蓄えてそれらの位置が大体同じような位置であったら利用者に通知するとか、捕捉できた衛星の数が十分集まるまで待つような様々な工夫をして、測位した位置精度を高める。
【0019】
本適用例によれば、測位環境に応じた、特に屋内環境での位置精度確保のための処理時間を考慮するため、測位環境を反映した予測所要時間が計算できることとなり、これによって、利用者に通知する測位完了までの予測所要時間の信頼度を高い状態で維持することが可能になる。
【0020】
[適用例5]上記適用例に記載の測位装置において、前記通知手段は、文字情報と、音声情報と、グラフィカルユーザーインタフェイス情報と、の少なくとも1つで通知することを特徴とする。
【0021】
本適用例によれば、利用者は文字情報及び音声情報及びグラフィカルユーザーインタフェイス情報のいずれか1つ又は2つ以上の組合せで予測所要時間を取得できるため、測位装置の細かな仕様に対して柔軟な対応が可能となり、これによって、測位装置の使い易さを向上させることが可能となる。
【0022】
[適用例6]本適用例に関わる電子機器は、上記のいずれか一項に記載の測位装置を含むことを特徴とする。
【0023】
本適用例によれば、待たされているという心理的な負荷の軽減を図るとともに、利用者の意思で測位を継続するのかそれとも中止するのかを決定することが可能となる測位装置を有する電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態に係るGPS測位装置の構成図。
【図2】本実施形態に係る信号サーチ範囲計算手段の概略説明図。
【図3】本実施形態に係る信号サーチステップ計算手段の概略説明図。
【図4】本実施形態に係る信号積算時間計算手段の概略説明図。
【図5】本実施形態に係る予測所要時間通知手段の概略説明図。
【図6】本実施形態に係る予測所要時間通知手段の概略説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図面に基づいて、本実施形態に係る測位装置としてのGPS測位装置を説明する。GPS測位装置は、衛星測位システムのGPS衛星から測位信号を受信する。
【0026】
(1)GPS測位装置内部の全体構成
図1は、本実施形態に係るGPS測位装置の構成図である。本実施形態に係るGPS測位装置2は、図1に示すように、信号サーチ範囲計算手段(第一計算手段)10と、信号サーチステップ計算手段(第二計算手段)11と、信号積算時間計算手段(第三計算手段)12と、予測所要時間計算手段(第四計算手段)13と、タイマー手段14と、予測所要時間通知手段(通知手段)15と、を備えている。信号サーチ範囲計算手段10は測位信号を探す範囲を計算する。信号サーチステップ計算手段11は測位信号を探すステップを計算する。信号積算時間計算手段12は測位信号を積算する時間を計算する。
また、GPS測位装置2は通信部16を備えているGPS測位機能をもった携帯電話である。通信部16は、外部のアシストサーバーと通信して測位に必要なアシストデータを取得するためや、測位結果を外部に通知するために使われる。
【0027】
予測所要時間計算手段13は、信号サーチ範囲計算手段10と信号サーチステップ計算手段11と信号積算時間計算手段12を使って、測位が完了するまで残りどれくらいの時間がかかるかを計算する。予測所要時間計算手段13は、GPS測位装置2のクロック誤差情報と、GPS測位装置2の初期位置情報と、GPS測位装置2の時刻誤差情報と、GPS衛星の位置計算に利用するためにGPS測位装置2が保持する少なくとも1つ以上のGPS衛星の軌道データと、の少なくとも1つが更新されたときに、測位計算が完了するまでに要する時間を計算してもよい。これにより、測位計算が完了するまでの時間に対して影響を与える、GPS測位装置2のクロック誤差情報、GPS測位装置2の初期位置情報、GPS測位装置2の時刻誤差情報、GPS衛星の位置計算に利用するためのGPS衛星の軌道データ、の少なくとも1つが更新されたときに予測所要時間を計算するため、GPS測位装置2が衛星信号を捕捉する処理の状態遷移の発生に同期して予測所要時間が更新されることになり、これによって、利用者に通知する測位完了までの予測所要時間の信頼度を高い状態で維持することが可能になる。予測所要時間計算手段13は、少なくとも1つのGPS衛星に関する全サーチ範囲のサーチが完了したときに、測位計算が完了するまでに要する時間を計算してもよい。これにより、サーチ範囲をすべてサーチしたにも関わらず衛星信号が捕捉できなかった場合は、測位計算が完了するまでの時間に対して影響を与えるサーチ範囲及び積算時間の少なくとも1つの見直しが実施されるため、予測所要時間が長くなる可能性が高くなる場合に予測所要時間を計算する。これによって、利用者に通知する測位完了までの予測所要時間の信頼度を高い状態で維持することが可能になる。予測所要時間計算手段13は、測位信号の受信感度と、測位信号の受信安定度と、捕捉したGPS衛星の数と、の少なくとも1つを使って、測位計算が完了するのに要する時間をフィルター処理してもよい。これにより、測位環境に応じた、特に屋内環境での位置精度確保のための処理時間を考慮するため、測位環境を反映した予測所要時間が計算できることとなり、これによって、利用者に通知する測位完了までの予測所要時間の信頼度を高い状態で維持することが可能になる。
【0028】
タイマー手段14は、予測所要時間計算手段13が算出した時間を初期値として測位が完了するまでの時間をカウントダウンする。タイマー手段14は、予測所要時間計算手段13によって予測所要時間が更新されたときに、予測所要時間を初期値として時間管理を開始してもよい。これにより、サーチ範囲や積算時間の更新に同期して予測所要時間が更新されることとなり、これによって、利用者に通知する測位完了までの予測所要時間の信頼度を高い状態で維持することが可能になる。
【0029】
予測所要時間通知手段15は、タイマー手段14が管理している測位完了までの予測所要時間を利用者に通知する。予測所要時間通知手段15は、文字情報と、音声情報と、グラフィカルユーザーインタフェイス情報と、の少なくとも1つで通知してもよい。これにより、利用者は文字情報及び音声情報及びグラフィカルユーザーインタフェイス情報のいずれか1つ又は2つ以上の組合せで予測所要時間を取得できるため、GPS測位装置2の細かな仕様に対して柔軟な対応が可能となり、これによって、GPS測位装置2の使い易さを向上させることが可能となる。
【0030】
一般的なGPS測位装置では、測位計算が完了するまでに取得できる情報は、捕捉処理中又は捕捉したGPS衛星のそれぞれの受信感度(SNR)や衛星配置などに限定されるため、GPS測位装置の利用者は、測位結果が得られるまで待ち続けるしかない。特に、屋内環境などでは信号の捕捉から測位計算の完了まで1分以上を要する場合もあり、測位を待たされている利用者の心理的な負担は、決して小さいとは言えない。
【0031】
GPS測位装置の性能向上により、測位に要する時間は短縮することができる。しかし、受信感度が低ければ低い程、測位に要する時間が長くなるという関係は、同じである。これに対して、本実施形態に係るGPS測位装置2は、測位に要する時間をできるだけ利用者に正確に伝えることで、測位を待たされているという心理的な負担の軽減を図ることを特徴とする。
【0032】
(2)信号サーチ範囲の計算
図2は、本実施形態に係る信号サーチ範囲計算手段10の概略説明図である。測位に要する時間を計算するためには、まずGPS信号を探す範囲を決定しなければならない。GPS信号を探す範囲を信号サーチ範囲と呼ぶ。信号サーチ範囲は、GPS衛星ごとに異なる。例えば、図2に示すように、衛星Aの信号サーチ範囲20と衛星Bの信号サーチ範囲21とは異なる。信号サーチ範囲は、主にGPS測位装置2の初期位置信頼度やGPS測位装置2の内部クロックの誤差の大小に依存する。
【0033】
まず、信号サーチ範囲と初期位置情報の信頼度との関係について説明する。GPS衛星(図示せず)は、1575.42MHz(L1周波数)の搬送波を使って信号を送信している。GPS測位装置2から見てGPS衛星は常に移動しているため、GPS衛星とGPS測位装置2との間にはドップラー効果が発生する。ドップラー効果の影響で、GPS測位装置2で観測される搬送波の周波数は、GPS衛星が送信している1575.42MHzとは異なる。したがって、GPS信号を捕捉するためには、ドップラー効果により観測周波数が何MHzになるかを計算しなければならない。
【0034】
ドップラー効果の影響を受ける観測周波数は、GPS衛星とGPS測位装置2との相対速度に依存して決まる。相対速度を計算するためには、GPS衛星とGPS測位装置2とのそれぞれの位置及び速度が必要である。GPS衛星の位置及び速度は、GPS衛星の軌道データ(エフェメリス或いはアルマナック)から取得することができる。これに対して、GPS測位装置2の位置及び速度は信号捕捉するときには取得することができない。GPS測位装置2の正確な位置及び速度は、測位計算が完了して初めて取得することができる。
【0035】
このため、GPS測位装置2は大まかなGPS測位装置2の位置を示す初期位置情報に基づきドップラー効果を考慮して信号のサーチ範囲を計算する。正確な初期位置情報(信頼度が高い初期位置情報)であれば、正確なドップラー効果を算出できるので、サーチ範囲は狭くてよい。逆に、初期位置情報が正確でなければ、その分だけサーチ範囲を広くしなければならない。例えば、初期位置信頼度が1000km(半径1000kmの円の内側のどこかに真位置があるという意味)の場合、1800Hzの範囲をサーチする必要がある。
【0036】
次に、信号サーチ範囲とGPS測位装置2の内部クロック(マスタークロックとも呼ばれることがある)の誤差との関係について説明する。GPS測位装置2はGPS信号を捕捉するために内部クロックを使ってGPS信号のレプリカ信号を生成する。そして、受信信号とレプリカ信号との相関演算を行い、相関値がピークになるところを探す。
【0037】
一般的には、内部クロックはTCXO(Temperature Compensated Crystal Oscillator:温度補償型水晶発振器)が使われることが多い。しかしながら、TCXOのクロックの精度は、GPS衛星に搭載されている原子時計の精度に比べるとはるかに劣る。内部クロックの精度は、レプリカ信号の精度に影響を与える。誤差を含んでいる内部クロックを使って生成したレプリカ信号には誤差が含まれる。そして、レプリカ信号の誤差は、観測周波数のずれとして観測される。一方で、内部クロックの誤差は、測位計算の結果として求めることができる。
【0038】
ここで重要なことは、内部クロックの誤差に起因する観測周波数のずれとドップラー効果に起因する観測周波数のずれは、一般的なGPS測位装置では区別できないことである。言い換えると、GPS測位装置2で観測したGPS信号の観測周波数には、GPS測位装置2の内部クロックの誤差とドップラー効果による影響との二つが混在している。
【0039】
内部クロックの誤差は、発振周波数とその周波数を基準に何ppmの誤差があるかという信頼度の情報との組合せで表現される。初期位置情報の信頼度と同様に、内部クロックの誤差情報の信頼度が高ければ、サーチ範囲は狭くてよい。逆に、内部クロックの誤差情報の信頼度が低ければ、サーチ範囲を広くしなければならない。
【0040】
(3)信号サーチステップの計算
GPS測位装置2は、受信信号とレプリカ信号との相関演算を行い、相関値のピークを探す。相関値のピークを探すためには、受信信号とレプリカ信号とのタイミングを少しずつずらしながら複数の点での相関値を求める必要がある。このような相関演算を行うためには、メモリーなどのハードウェアリソースが大量に必要になる。しかし、GPSチップのサイズやコストを考慮すると、大量のメモリーを確保することは困難である。
【0041】
図3は、本実施形態に係る信号サーチステップ計算手段11の概略説明図である。限られたハードウェアリソースを使って信号を捕捉するために、図3のようにサーチ範囲を細かく分割してサーチを実施する方法が一般的に使われる。分割したサーチの範囲をサーチステップと呼ぶ。サーチの目的によって、サーチステップの大きさが変わる。サーチ範囲全体のサーチをすばやく完了させたいときは、サーチステップ31を大きくすればよい。また、多少時間がかかってもよいので丁寧にサーチを行いたいときは、サーチステップ30を小さくすればよい。
【0042】
受信環境に応じて、サーチステップの大きさを変える場合もある。受信感度が高い場合は相関値が高くなるので、サーチステップが大きくても(粗いサーチ)でも信号が捕捉できる。受信感度が低い場合は相関値が低いので、サーチステップを小さくして丁寧なサーチをしないと信号の捕捉ができない。
【0043】
このように、GPS測位装置2はサーチの目的や受信環境に応じて、適切なサーチステップを計算し、サーチを行う。例えば、サーチ範囲が300Hzで、サーチステップが25Hz、1つのサーチステップの実行に2秒かかるとすると、サーチ範囲をすべてサーチするのに、(300÷25)×2=24秒かかる計算になる。
【0044】
この例において、GPS信号は300Hzの範囲のどこにいるか不明である。運がよければ、最初のサーチステップで信号が捕捉できる場合もあれば、運が悪くて、最後のサーチステップまでいって信号が捕捉できる場合もある。信号の捕捉までの時間は、前者が2秒で後者が24秒である。ただ、測位計算をするためには、少なくもと4つ以上のGPS衛星が必要なので、これら4つ以上のGPS衛星の捕捉が運よく全て2秒で完了する確率はかなり低い。逆に、少なくとも24秒以内にサーチが完了するということは利用者に対して保証できる。
【0045】
(4)信号積算時間の計算
図4は、本実施形態に係る信号積算時間計算手段12の概略説明図である。屋内環境など信号の受信感度が低い環境では、相関値のピークを見つけるために、幾つもの相関値を加算するという積算処理が行われる。屋内環境などではノイズとGPS信号の区別が困難になる。別の言い方をすると、SNR(Signal-Noise Ratio)が低いということである。ノイズは不規則(ランダム)なので、相関値の和をとると、相殺することができる。これに対して、GPS信号は規則性があるので、相関値の和をとればとるほど、値が大きくなる(ピークが現れる)。
【0046】
GPS測位装置2が測位開始前に測位環境について知ることは一般的にはできない。したがって、図4のように、例えば最初は1秒の積算40を行い、それで信号が捕捉できなければ次は2秒の積算41を実施し、それでも捕捉できなければ4秒の積算42を行う、というように徐々に積算時間を長くしていく。
【0047】
(5)予測所要時間の通知方法
図5及び6は、本実施形態に係る予測所要時間通知手段15の概略説明図である。GPS測位装置2の利用者に対して、あとどれくらいで測位が完了するかを通知する方法には、様々なバリエーションがある。携帯電話、PND、デジタルカメラなど、表示装置がある機器では、その表示装置を有効に使った方法を採用すればよい。文字情報だけで通知してもよいし、例えば、図5に示すように、縦にサーチ範囲、横にサーチ経過時間を示すプログレスバーのようなGUIを使ってもよい。また、図6(A)に示すように、文字情報とGUIとを組み合わせてもよい。スピーカー装置がある機器では、図6(B)に示すように、音声を使って通知してもよい。さらに、文字情報とGUIと音声とを組み合わせて通知してもよい。
【0048】
次に、予測所要時間の更新について述べる。測位が完了するまでの予測所要時間は、主に信号サーチ範囲、信号サーチステップ、信号サーチ時間に依存して決定することができる。そして、これらは、GPS測位装置2のクロック誤差情報、GPS測位装置2の初期位置情報、GPS測位装置2の時刻誤差情報、GPS測位装置2が保持するGPS衛星の軌道データに依存している。
【0049】
GPS測位装置2のクロック誤差情報などは、測位中に更新されることが多い。予測所要時間に影響を与えるこれらの情報が更新されたならば、利用者に通知する予測所要時間の信頼度を高く維持するために、予測所要時間の更新が必要になる。
【0050】
(1)GPS測位装置2のクロック誤差情報の更新
GPS測位装置2は、クロック誤差情報の精度をあげるための方法を幾つかもっている。この方法は、2つある。1つは、外部の正確なクロックを基準にしてGPS測位装置内部のクロック誤差を計算する或いは補正する方法である。もう1つは、GPS衛星の信号を捕捉し、その信号を基準にしてGPS測位装置2内部のクロック誤差を計算する或いは補正する方法である。
【0051】
外部の正確なクロックを基準にしてGPS測位装置2内部のクロック誤差を計算する場合の例としては、携帯電話の基地局に同期したクロックを使うものがある。携帯電話が携帯電話の基地局と通信を行うときには、基地局のクロックと同期がとられる。基地局はGPS測位装置2と比べると非常に精度の高いクロックをもっている。したがって、基地局との同期が取れた携帯電話の内部では、基地局がもつ精度の高いクロックが利用可能である。GPS機能を内蔵した携帯電話では、基地局クロックを利用してGPS測位装置2のクロックの誤差を計算することができる。よって、この例では、携帯電話の基地局のクロックと同期できたタイミングでGPS測位装置2のクロック誤差情報の更新が行われることになる。
【0052】
次に、GPS衛星の信号を捕捉し、その信号を基準にしてGPS測位装置2内部のクロック誤差を計算する例について述べる。GPS衛星は原子時計を使って非常に正確な搬送波を送信している。ドップラー効果がなければ、GPS測位装置2で受信した信号の周波数は、GPS衛星が送信している信号の周波数に等しい。この時重要なのは、GPS測位装置2内部の誤差を含んだクロックを使ってレプリカ信号を生成しているので、受信した信号の「見かけの周波数」は、GPS衛星が送信している信号の周波数と異なることである。この周波数のずれは内部クロックの誤差に起因する。この周波数のずれを利用してGPS測位装置2内部のクロック誤差を計算することができる。
【0053】
実際には、GPS測位装置2とGPS衛星との間にはドップラー効果が存在する。しかし、GPS測位装置2の正確な初期位置(例えば、初期位置信頼度が10km程度)とエフェメリスを使って計算することができるGPS衛星の位置と速度とがあれば、ドップラー効果による受信周波数の偏移は高い精度で推定することができる。よって、ドップラー効果があっても先に述べたように受信信号を使ってGPS測位装置2内部のクロック誤差を計算することができる。
【0054】
(2)GPS測位装置2の初期位置情報の更新
GPS測位装置2にとって、初期位置情報が正確なほど、測位を有利に行うことができる。初期位置情報は、GPS測位装置2とGPS衛星との間の擬似距離の計算や、信号のサーチ範囲の計算(ドップラー効果の計算)などに使われる。いかに正確な初期位置情報を取得するかがGPS測位装置2にとって課題の一つであるが、A−GPS(Assisted-GPS)対応しているGPS測位装置2であれば、サーバーから正確な初期位置情報を取得することができる。サーバーとの通信には時間がかかるので、測位開始のタイミングと初期位置情報が取得できたタイミングに差が発生することが多い。したがって、初期位置情報の更新があったら、利用者に通知する予測所要時間の信頼度を高く維持するために、予測所要時間の更新が必要になる。
【0055】
(3)GPS測位装置2の時刻誤差情報の更新
初期位置情報と同じように、GPS測位装置2は、時刻誤差情報が正確であればあるほど、測位を有利に行うことができる。GPS測位装置2で測位を行うためには、GPS衛星の正確な位置と速度とを計算する必要がある。GPS衛星の位置と速度とはドップラー効果の計算に必要な要素である。GPS衛星の位置や速度は、エフェメリスを使って計算することができるが、計算には時刻情報を入力として与える必要がある。時刻の誤差が大きいと、GPS衛星の正しい位置と速度とが計算できず、測位に悪影響を及ぼす。
【0056】
A−GPS対応しているGPS測位装置2であれば、サーバーから正確な時刻情報を取得することができる。サーバーとの通信時間の影響があるので、この場合に取得できる時刻情報の精度は、GPS時間に対して数秒以内の精度である。また、初期位置情報と同様に、測位開始のタイミングとサーバーから時刻情報が取得できたタイミングとに差が発生することが多い。
【0057】
GPS測位装置2でGPS時間に同期した正確な時刻情報を取得したければ、航法データ(NavData)の中に含まれるZ−Count(Zカウント)をデコードすればよい。ただし、航法データがデコードできるためには、ある程度高い受信感度が必要なので、屋内環境ではZ−Countのデコードは困難である。
【0058】
このように、測位中にGPS測位装置2の時刻誤差情報が更新されることがある。時刻誤差情報の更新に伴いGPS測位装置2の内部状態が変化する。したがって、利用者に通知する予測所要時間の信頼度を高く維持するために、予測所要時間の更新が必要になる。
【0059】
(4)GPS測位装置2が保持するGPS衛星の軌道データの更新
GPS測位装置2が衛星信号をサーチしたり、測位計算をしたりするためには、GPS衛星の正確な位置や速度を求める必要がある。GPS衛星の正確な位置や速度は、GPS衛星が放送しているエフェメリスを取得して、それを使って計算することができる。GPS衛星の大まかな位置や速度は、同様にGPS衛星が放送しているアルマナックを取得して、それを使って計算することができる。また、GPS衛星の正確な位置や速度を計算するために、拡張エフェメリス(Extended Ephemeris)を使うこともできる。放送されているエフェメリスの有効期間は4時間であるが、拡張エフェメリスの有効期間は数日〜1週間と長い。
【0060】
GPS測位装置2がGPS衛星から放送されているエフェメリスやアルマナックを取得する方法は、少なくとも2つある。1つは、GPS測位装置2が自分自身でGPS信号をデコード(復号処理)して取得する方法である。もう1つは、A−GPS対応しているGPS測位装置2が、通信部16を使ってサーバーから取得する方法である。どちらの方法でも、測位中に軌道データを取得して、軌道データの更新が行われることが多い。軌道データの更新が行われると、GPS衛星の位置や速度が更新されることになる。GPS衛星の位置や速度は、GPS信号のサーチ範囲などに影響を与える。したがって、軌道データが更新されたならば、利用者に通知する予測所要時間の信頼度を高く維持するために、予測所要時間の更新が必要になる。
【0061】
GPS測位装置2は、GPS信号が捕捉できてもすぐに測位演算が実行できるとは限らない。特に、屋内環境のような受信感度が低い環境での測位の場合は、測位した位置の精度をよくするために、信号の安定度や測位結果のチェック(精査)を実施する。この精査には、数秒の時間を必要とし、また、受信感度が低いほど長い時間が必要になる。利用者に通知する予測所要時間の信頼度をより高くするためには、この時間を考慮する必要がある。
【0062】
この時間を考慮する方法としては、捕捉したGPS衛星の受信感度や受信安定度、及び捕捉した衛星数に応じて重み付け処理をするなどのフィルター処理がある。フィルターは、GPS測位装置2の設計時にその測位装置の性能特性データを取得し、その特性に適合するようなフィルターの構成とパラメーターとを決めることで実現できる。
【0063】
本実施形態によれば、GPS測位装置2の利用者は予測所要時間計算手段13で計算した時間を予測所要時間通知手段15を使って取得できるため、測位が完了するまでにあと何秒待てばよいのかを測位実行中に知ることができるようになり、これによって、待たされているという心理的な負荷の軽減を図るとともに、利用者の意思で測位を継続するのかそれとも中止するのかを決定することが可能となる。
【0064】
本発明は、携帯電話以外のGPS測位機能を有している電子機器にも適応できる。デジタルカメラ、時計、パソコン、GPSロガーなどに適用してもよい。
【符号の説明】
【0065】
2…GPS測位装置(測位装置)、10…信号サーチ範囲計算手段(第一計算手段)、11…信号サーチステップ計算手段(第二計算手段)、12…信号積算時間計算手段(第三計算手段)、13…予測所要時間計算手段(第四計算手段)、14…タイマー手段、15…予測所要時間通知手段(通知手段)、16…通信部、20,21…信号サーチ範囲、30,31…サーチステップ、40,41,42…積算。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星から受信した測位信号に基づいて測位を行う測位装置であって、
前記測位信号をサーチする範囲を計算する第一計算手段と、
前記測位信号をサーチするステップを計算する第二計算手段と、
前記測位信号を積算する時間を計算する第三計算手段と、
前記第一計算手段と前記第二計算手段と前記第三計算手段と、を使って測位計算が完了するまでの予測所要時間を計算する第四計算手段と、
前記第四計算手段で計算される前記予測所要時間を初期値として時間管理を開始するタイマー手段と、
前記タイマー手段で管理される前記予測所要時間を通知する通知手段と、
を備えることを特徴とする測位装置。
【請求項2】
前記第四計算手段は、前記測位装置のクロック誤差情報と、該測位装置の初期位置情報と、該測位装置の時刻誤差情報と、前記衛星の位置計算に利用するために前記測位装置が保持する少なくとも1つ以上の前記衛星の軌道データと、の少なくとも1つが更新されたときに、前記予測所要時間を計算し、
前記タイマー手段は、前記第四計算手段によって前記予測所要時間が更新されたときに、該予測所要時間を初期値として時間管理を開始することを特徴とする、
請求項1に記載の測位装置。
【請求項3】
前記第四計算手段は、少なくとも1つの前記衛星に関する全サーチ範囲のサーチが完了したときに、前記予測所要時間を計算し、
前記タイマー手段は、前記第四計算手段によって前記予測所要時間が更新されたときに、該予測所要時間を初期値として時間管理を開始することを特徴とする、
請求項1に記載の測位装置。
【請求項4】
前記第四計算手段は、前記測位信号の受信感度と、該測位信号の受信安定度と、捕捉した前記衛星の数と、の少なくとも1つを使って、前記予測所要時間をフィルター処理することを特徴とする、
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の測位装置。
【請求項5】
前記通知手段は、文字情報と、音声情報と、グラフィカルユーザーインタフェイス情報と、の少なくとも1つで通知することを特徴とする、
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の測位装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の測位装置を含むことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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